説明

リチウム二次電池の正極活物質製造用の窯道具及びその製造方法

【課題】焼成によって正極活物質を製造する間に原料から拡散するリチウム成分に対する耐食性が高い窯道具を提供すること。
【解決手段】本発明のリチウム二次電池の正極活物質製造用の窯道具は、βスポジュメンを含むセラミック素材からなる。窯道具におけるLi2Oの含有割合は1〜12質量%であり、Al23の含有割合は15〜40質量%であり、SiO2の含有割合は55〜75質量%であることが好適である。窯道具におけるNa2Oの含有割合が1質量%以下であり、K2Oの含有割合が2質量%以下であり、かつ両者の総和が3質量%以下であることも好適である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、リチウム二次電池の正極活物質を製造するときに用いられる窯道具及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
コバルト酸リチウムやマンガン酸リチウム、ニッケル酸リチウムなどのリチウム遷移金属複合酸化物は、リチウム二次電池の正極活物質として有用な物質である。これらリチウム遷移金属複合酸化物は一般に、炭酸リチウムと、遷移金属酸化物や遷移金属水酸化物などの遷移金属化合物との混合物をセラミックス製の匣鉢等の窯道具に入れ、焼成炉内で焼成を行うことで製造される。こうした匣鉢等に用いられるセラミックス素材としては、スピネル、コーディエライト及びムライトなどが知られている。
【0003】
炭酸リチウムと遷移金属化合物との混合物を焼成してリチウム遷移金属複合酸化物を製造するときには、焼成中に、アルカリ性の強い物質であるLi2Oが窯道具のセラミックス素材と反応し、該セラミックス素材が劣化することが知られている。したがって、従来の窯道具を用いた場合、素材の劣化に伴う熱衝撃性の低下によって、繰り返し使用回数が限られていた。そこで、耐アルカリ性の高い窯道具が種々提案されている。
【0004】
例えば特許文献1には、スピネルを30質量%〜70質量%、コージライトを15質量%〜70質量%、及びムライトを0質量%〜35質量%含有する匣鉢が記載されている。特許文献2には、石英を除去又は微粉砕した可塑性粘土と、アルミナ成分と、苦土成分とを混合して成形し、1100℃〜1350℃で焼成して多孔質セラミックスの反応容器を製造することが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2009−292704号公報
【特許文献2】特開2010−013316号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、これまでに提案されてきた匣鉢等の窯道具に用いられる素材は、耐アルカリ性が十分とは言えず、窯道具の繰り返し使用回数を大幅に伸ばすまでには至っていない。したがって本発明の課題は、前述した従来技術が有する種々の欠点を解消し得るリチウム二次電池の正極活物質製造用の窯道具及びその製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
前記の課題を解決すべく本発明者は鋭意検討した結果、リチウム成分を元来含んでいるセラミックス素材を窯道具の材料として用いることで、正極活物質の原料に含まれるリチウム成分に対して高い耐食性が得られることを知見した。
【0008】
本発明は前記の知見に基づきなされたものであり、βスポジュメンを含むセラミック素材からなるリチウム二次電池の正極活物質製造用の窯道具を提供することにより、前記の課題を解決したものである。
【0009】
また本発明は、前記の窯道具の好適な製造方法として、
ペタライト及びカオリンを含む混合粉を、目的とする窯道具の形に成形し、成形体を含酸素雰囲気下に焼成する工程を有する窯道具の製造方法を提供するものである。
【発明の効果】
【0010】
本発明の窯道具は、焼成によって正極活物質を製造する間に原料から拡散するリチウム成分に対する耐食性が高く、材質の劣化速度が進みづらいものである。また素材自体の耐熱衝撃性が優れているため、繰り返し使用回数が向上する。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】図1は、実施例1で得られた窯道具の粉末X線回折図である。
【図2】図2は、マンガン酸リチウムを製造した後の実施例1の窯道具の底面部の縦断面を切り出して、該断面を光学顕微鏡観察した顕微鏡像である。
【図3】図3(a)は、マンガン酸リチウムを製造した後の実施例2の窯道具の底面部の縦断面を切り出して、該断面を走査型電子顕微鏡観察した顕微鏡像であり、図3(b)ないし(d)はそれぞれ、図3(a)におけるアルミニウム、ケイ素及びマンガンの元素マッピング像である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下本発明を、その好ましい実施形態に基づき説明する。本発明の窯道具は、リチウム二次電池の正極活物質を製造するときに、原料を収容する容器として用いられるものである。窯道具は、場合によってはトレー、さや、匣鉢、容器などと呼ばれることもあるが、実体はどれも同じであり、焼成炉の炉床に載置される矩形や円形をした底面部と、該底面部の周縁から起立する閉じた壁面部とを有し、上方が開口した形状のものを包含する。また、窯道具は、枠と板とを組み合わせることによって容器的な使い方をすることもある。
【0013】
本発明の窯道具を用いて製造されるリチウム二次電池の正極活物質は、一般にリチウム遷移金属複合酸化物やリチウム遷移金属複合リン酸塩などからなる。そのような酸化物としては、例えばLiMO2(Mは1種又は2種以上の遷移金属を表す。)で表される化合物、LiM24(Mは1種又は2種以上の遷移金属を表す。)で表される化合物、LiMPO4(Mは1種又は2種以上の遷移金属を表す。)で表される化合物などが挙げられる。具体的には、コバルト酸リチウム、マンガン酸リチウム、ニッケル酸リチウム、オリビン型リン酸鉄リチウム、リチウムマンガンスピネルなどが挙げられる。正極活物質の原料は、該活物質がリチウム遷移金属複合酸化物である場合には、含リチウム化合物及び含遷移金属化合物の混合物である。正極活物質がリチウム遷移金属複合リン酸塩である場合には、その原料は含リチウム化合物、含リン酸化合物、及び遷移金属化合物の混合物である。含リチウム化合物としては、例えば炭酸リチウム及び水酸化リチウムなどが挙げられる。遷移金属化合物としては、遷移金属酸化物、遷移金属水酸化物、遷移金属の硫酸塩、酢酸塩、ハロゲン化物などが挙げられる。含リン酸化合物としては、リン酸、リン酸一水素塩、リン酸二水素塩、などが挙げられる。
【0014】
以上のとおり、リチウム二次電池の正極活物質を製造するための原料には、含リチウム化合物が含まれていることから、該原料を焼成して正極活物質を製造するときにLi2Oなどのリチウム成分が生成する。このリチウム成分は、原料を収容する窯道具を構成するセラミックス素材と反応して、該セラミックス素材を劣化させる原因となる。これに対して、本発明においては、窯道具を構成するセラミックス素材として、意外にもリチウム成分を元来含んでいる素材を用いると、原料から生じるリチウム成分に対する耐食性が著しく向上し、素材自体が有する耐熱衝撃性の低下が少ないことを知見し、本発明の完成に至ったものである。具体的には、リチウム成分を元来含むセラミックス素材としてリチウムアルミノケイ酸塩であるβスポジュメンを用いることで、原料から生じるリチウム成分に対する耐食性が著しく向上すること、及び元来耐熱衝撃性に優れた素材であることに起因して、繰り返し使用しても耐熱衝撃性の低下が少ないことを知見した。
【0015】
スポジュメンは、LiAlSi26で表されるセラミックス素材である。スポジュメンには低温安定相であるα型と、高温安定相であるβ型があることが知られている。本発明においてはリチウム成分に対する耐食性が一層高いスポジュメンであるβスポジュメンを用いている。本発明の窯道具は、βスポジュメンのみから構成されていてもよく、あるいはβスポジュメンに加えて他のセラミックス素材が含まれているものから構成されていてもよい。他のセラミックス素材としては、例えばアルミナ、シリカ及びムライトなどが挙げられる。
【0016】
本発明の窯道具がβスポジュメン及び他のセラミックス素材を含んでいる場合、窯道具に占めるβスポジュメンの割合は、10〜60質量%、特に30〜55質量%であることが、リチウム成分に対する耐食性が一層高く、かつ正極材料の焼成温度に対して、繰り返し使用に十分な耐熱衝撃性を付与する点から好ましい。本発明の窯道具がどのようなセラミックス成分から構成されているかは、例えばX線回折によって同定することができる。また前記の割合は、例えばβ−スポジュメン中にカオリンが含まれている場合には、β−スポジュメンの第1ピークとカオリンの第1ピークの高さを比較することによって半定量的に求めることができる。
【0017】
本発明の窯道具の耐食性を一層高める観点から、窯道具に占めるLi2Oの含有割合は好ましくは1〜12質量%、更に好ましくは1.5〜10質量%、一層好ましくは1.5〜3質量%に設定する。Al23の含有割合は好ましくは15〜45質量%、更に好ましくは18〜40質量%に設定する。SiO2の含有割合は好ましくは50〜75質量%、更に好ましくは60〜72質量%に設定する。これら各酸化物の含有割合は、例えば蛍光X線元素分析法によって測定することができる。また各酸化物の含有割合は、窯道具を製造するときに用いられる原料であるペタライトなどのLi成分を含んだ原料とカオリンなどのLi成分を含まない原料の配合比を調整することでコントロールすることができる。
【0018】
本発明の窯道具の耐食性を一層高める観点から、窯道具中に含まれるアルカリ金属(ただしリチウムを除く)の量を極力少なくすることが望ましい。具体的には、窯道具に占めるNa2Oの含有割合を好ましくは1質量%以下、更に好ましくは0.7質量%以下という少量とする。またNaと同じくアルカリ金属であるKについては、窯道具に占めるK2Oの含有割合を好ましくは2質量%以下、更に好ましくは1.5質量%以下という少量とする。更に、アルカリ金属全量(ただしリチウムを除く)の含有割合も極力低くするという観点から、Na2O及びK2Oの総和を好ましくは3質量%以下、更に好ましくは2質量%以下とする。これらのアルカリ金属酸化物の含有割合は、上述したLi2OやAl23の含有割合と同様の方法で測定することができる。アルカリ金属(ただしリチウムを除く)の量を極力少なくするためには、窯道具を製造するときに用いられる原料であるペタライト及びカオリンとして、NaやKの含有量の低いものを用いればよい。
【0019】
上述したNaやK等のアルカリ金属に加えて、本発明の窯道具においては、鉄成分の量を極力少なくすることも、耐食性を一層高める点から望ましい。具体的には、窯道具に占めるFe23の含有割合を好ましくは0.5質量%以下、更に好ましくは0.3質量%以下という少量とする。鉄成分の含有割合は、上述したLi2OやAl23の含有割合と同様の方法で測定することができる。鉄成分の量を極力少なくするためには、窯道具を製造するときに用いられる原料であるペタライト及びカオリンとして、不純物であるFeの含有量の低いものを用いればよい。
【0020】
本発明の窯道具は、その嵩比重を好ましくは1.5〜2.5、更に好ましくは1.65〜2.3に設定する。また、その気孔率を好ましくは5〜40%、更に好ましくは10〜37%に設定する。嵩比重を前記の下限値以上とするか又は気孔率を前記の上限値以下とすることで、窯道具の耐熱衝撃性を高くすることができる。また嵩比重を前記の上限値以下とするか又は気孔率を前記の下限値以上とすることで、窯道具の強度を高め、割れ等の発生を効果的に防止できる。嵩比重は、例えば窯道具の質量を測定し、これを窯道具の寸法の測定から得られた体積で除すことで算出される。また気孔率は、(1−嵩比重/見掛比重)×100の計算式から算出することができる。ここで見掛比重は、窯道具の質量を、その見掛容積と同じ容積を持つ4℃の水の質量で割った値であり(JIS R2001)、アルキメデス法によって測定される。嵩比重や気孔率は、本発明の窯道具の製造工程において、焼成に付す成形体の成形方法として、適切な方法を採用することで調整できる。例えば油圧成形によって成形体を成形すると、嵩比重が高く、気孔率が低い窯道具を製造しやすい。鋳込み成形によって成形体を成形すると、嵩比重が低く、気孔率が高い窯道具を製造しやすい。
【0021】
本発明の窯道具は、JIS R2619に準じて測定された常温曲げ強度が5〜60MPa、特に10〜60MPaであることが好ましい。また1000℃において5〜70MPa、特に8〜60MPa、とりわけ8〜45MPaであることが好ましい。1000℃付近は、本発明の窯道具の典型的な使用温度、すなわち正極活物質の原料の焼成温度である。窯道具がこの範囲の曲げ強度を有することで、リチウム成分に対する耐食性が高いことと相まって、繰り返し使用回数を一層増やすことができる。この範囲の曲げ強度は、本発明の窯道具の製造工程において、焼成に付す成形体の成形方法として、適切な方法を採用することで調整できる。そのような成形方法の例は上述したとおりである。
【0022】
本発明の窯道具は、25℃〜1200℃における熱膨張係数が5×10-6/K以下、特に3.5×10-6/K以下という低い値であることが好ましい。また弾性率が25℃において5GPa以上、特に10GPa以上という値であることが好ましい。窯道具がこの範囲の熱膨張係数及び弾性率を有することで、耐熱衝撃性に優れ、かつリチウム成分に対する耐食性が高いことと相まって、窯道具の繰り返し使用回数を一層増やすことができる。この範囲の熱膨張係数及び弾性率は、窯道具を製造するときに用いられる原料であるペタライトとカオリンとの配合比を調整することでコントロールすることができる。
【0023】
本発明の窯道具は、好適にはペタライトを含む粉、更に好適にはペタライト及びカオリンを含む混合粉を、目的とする匣鉢等の窯道具に成形し、成形体を含酸素雰囲気下に焼成することで製造される。原料の一つであるペタライトはリチウムとアルミニウムを含むケイ酸塩鉱物であり、Li(AlSi410)で表される物質である。もう一つの原料であるカオリンはアルミニウムの含水珪酸塩鉱物であり、Al2Si25(OH)4で表される物質である。本製造方法においては、ペタライト及びカオリンを所定の粒径の粉末にして混合する。混合粉におけるペタライト及びカオリンの粒径D50は1〜1000μm、特に1〜100μmとすることが、製造した窯道具中での成分のバラツキが少なくなる点から好ましい。
【0024】
ペタライトとカオリンとの配合比率は、得られる窯道具におけるセラミックス素材の組成や特性に影響を及ぼす。セラミック素材におけるβスポジュメンの比率を高める観点や、Li2O、Al23及びSiO2の含有割合を所望の範囲にする観点から、ペタライトとカオリンとの配合比率は質量比でペタライト:カオリン=100:0〜20:80とすることが好ましく、70:30〜40:60とすることが更に好ましい。
【0025】
原料の混合粉は、ペタライト及びカオリンのみを含むものであってもよく、あるいはペタライト及びカオリンに加えて他の鉱物等を含んでいてもよい。また、先に述べたとおり、原料粉としてペタライトのみを用い、カオリンは用いなくてもよい場合がある。
【0026】
原料の混合粉を用いて窯道具の前駆体である成形体を得るには各種の成形方法、例えば油圧成形や鋳込み成形を用いることができる。油圧成形を用いる場合には、混合粉に対して0.5〜5質量%程度の水を添加して含水流動体となし、該含水流動体を金型のキャビティに充填して加圧成形を行う。加圧成形には、例えば二軸加圧を採用することができる。加圧力は200〜800kg/cm2程度に設定することが好ましい。加圧力の調整によって、得られる窯道具における嵩比重や気孔率、曲げ強度を調整することができる。このようにして得られた成形体を乾燥させて水分を除去し、焼成に供する。
【0027】
一方、鋳込み成形を行う場合には、混合粉に対して20〜50質量%程度の水及び0.2〜3質量%程度の分散剤を添加してスラリーとなす。分散剤としては、例えばポリカルボン酸系分散剤などを用いることができる。スラリーを石膏型に流し込み固化させる。石膏型からの脱型後、乾燥させて水分を除去した成形体を焼成に供する。
【0028】
各種の成形方法で得られた成形体を、大気などの含酸素雰囲気下に焼成することで、目的とする窯道具が得られる。焼成条件は、焼成温度を好ましくは1000〜1400℃程度とする。最高温度保持時間は、焼成温度がこの範囲内の場合には、2〜10時間程度とする。
【0029】
このようにして得られた本発明の窯道具は、リチウムを含有するセラミックス素材であるβスポジュメンを含むものであるので、正極活物質の原料に含まれるリチウム成分に起因する劣化が起こりづらく、繰り返し使用回数が格段に向上したものとなる。また、製造物である正極活物質の剥離性に優れたものになる。更に耐スポーリング性も高いものとなる。
【0030】
本発明の窯道具を用いて正極活物質を製造するには、例えば正極活物質の原料となる各種の粉末を混合し、所定量の混合粉を窯道具内に充填する。そして、混合粉が充填された窯道具を焼成炉内に設置する。焼成炉としては、ローラーハースキルン、シャトルキルン、トンネルキルン及びプッシャー炉などの公知の炉を用いることができる。焼成雰囲気は、大気を始めとする含酸素雰囲気とすることができる。焼成温度は混合粉の種類にもよるが、一般に950〜1100℃程度とすることができる。焼成時間は、一般に3〜10時間程度とすることができる。
【実施例】
【0031】
以下、実施例により本発明を更に詳細に説明する。しかしながら本発明の範囲は、かかる実施例に制限されない。特に断らない限り、「%」は「質量%」を意味する。
【0032】
〔実施例1〕
ペタライト粉40%とカオリン粉60%とを混合し、混合粉に対して水を2%添加して含水流動体を得た。ペタライト及びカオリンの定量分析結果は表1に示すとおりであった。また混合粉の平均粒径D50は50μmであった。この含水流動体を金型に充填し、二軸加圧による成形を行った。加圧力は、800kg/cm2とした。得られた成形体を、1日間自然乾燥させた後、100℃で1日間乾燥させた。乾燥後の成形体を大気雰囲気炉内で1200℃、5時間保持して焼成を行い、目的とする窯道具である匣鉢を得た。匣鉢は、底面部が300mm角の正方形であり、壁面部の高さは200mmであった。肉厚は12mmであった。得られた匣鉢について粉末X線回折測定を行った。その結果を図1に示す。同図に示す結果から明らかなように、本実施例で得られた匣鉢はβスポジュメンを含むものであることが確認された。
【0033】
〔実施例2及び3〕
原料の混合粉の組成を、以下の表2に示すものとする以外は実施例1と同様にして成形体を得た。得られた成形体を実施例1と同様に焼成して匣鉢を得た。得られた匣鉢について実施例1と同様の粉末X線回折測定を行い、匣鉢がβスポジュメンを含むものであることを確認した。
【0034】
〔実施例4及び5〕
実施例1で用いたペタライト及びカオリンとの同様のものを、以下の表2に示す組成で混合した。混合粉に対して水を35%、ポリカルボン酸アンモニウム塩(分散剤)を1%を添加してスラリーを得た。このスラリーを石膏型に流し込み、1時間放置して固化させた後、脱型した。得られた成形体を、2日間自然乾燥させた後、100℃で1日間乾燥させた。乾燥後の成形体を大気雰囲気炉内で1200℃、5時間保持して焼成を行い、実施例1と同様の形状及び寸法を有する匣鉢を得た。得られた匣鉢について実施例1と同様の粉末X線回折測定を行い、匣鉢がβスポジュメンを含むものであることを確認した。
【0035】
〔比較例1〕
スピネル60%、コージライト20%及びムライト20%を混合し、混合粉に対して水を2%添加して含水流動体を得た。この含水流動体を金型に充填し、二軸加圧による成形を行った。加圧力は、800kg/cm2とした。得られた成形体を、1日間自然乾燥させた後、100℃で1日間乾燥させた。乾燥後の成形体を大気雰囲気炉内で1350℃、5時間保持して焼成を行い、目的とする匣鉢を得た。
【0036】
〔評価〕
実施例及び比較例で得られた匣鉢について、上述した方法で各成分の組成分析を行った。また上述した方法で見掛比重、嵩比重、気孔率、熱膨張係数(25℃〜1200℃)、曲げ強度(25℃及び1000℃)並びに弾性率を測定した。更に以下の方法で耐食性を評価した。それらの結果を以下の表2に示す。実施例1については、以下に述べる耐食性評価後に、マンガン酸リチウムを製造した後の匣鉢の底面部の縦断面を切り出して、該断面を光学顕微鏡で組織観察した。その結果を図2に示す。更に実施例2については、マンガン酸リチウムを製造した後の匣鉢の底面部の縦断面を切り出して、該断面を走査型電子顕微鏡で観察するとともに、アルミニウム、ケイ素及びマンガンの元素マッピングを行った。その結果を図3に示す。
【0037】
〔耐食性の評価方法〕
炭酸リチウムと、マンガン酸化物(MnO2、Mn23)とをMn:Li=2:1のモル比となるように混合して、マンガン酸リチウムの原料粉を得た。この原料粉10kgを、実施例及び比較例で得られた匣鉢に充填した。この匣鉢をローラーハースキルン内で1000℃で5時間にわたり焼成して、マンガン酸リチウムを製造した。この工程を繰り返して行い、匣鉢に亀裂等の欠陥が生じるまでの使用回数を測定した。
【0038】
【表1】

【0039】
【表2】

【0040】
表2に示す結果から明らかなように、各実施例で得られた匣鉢は、比較例の匣鉢に比べて耐食性が高いことが判る。また図2及び図3に示す結果から明らかなように、実施例1及び2で得られた匣鉢は、マンガン酸リチウムとの界面に浸食は観察されず、マンガン酸リチウムの原料粉に由来するリチウム成分に対する耐食性が高いことが判る。なお、表に示していないが、各実施例で得られた匣鉢のX線回折測定結果から半定量したβスポジュメンの含有割合はいずれも10質量%以上であった。また、表には示していないが、各実施例においては、製造されたマンガン酸リチウムの匣鉢からの剥離性は良好であった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
βスポジュメンを含むセラミック素材からなるリチウム二次電池の正極活物質製造用の窯道具。
【請求項2】
Li2Oの含有割合が1〜12質量%であり、Al23の含有割合が15〜45質量%であり、SiO2の含有割合が55〜75質量%である請求項1に記載の窯道具。
【請求項3】
Na2Oの含有割合が1質量%以下であり、K2Oの含有割合が2質量%以下であり、かつ両者の総和が3質量%以下である請求項1又は2に記載の窯道具。
【請求項4】
嵩比重が1.5〜2.5である請求項1ないし3のいずれか一項に記載の窯道具。
【請求項5】
気孔率が5〜40%である請求項1ないし4のいずれか一項に記載の窯道具。
【請求項6】
JIS R2619に準じて測定された常温曲げ強度が5〜60MPaである請求項1ないし5のいずれか一項に記載の窯道具。
【請求項7】
25℃〜1200℃における熱膨張係数が5×10-6/K以下である請求項1ないし6のいずれか一項に記載の窯道具。
【請求項8】
弾性率が5GPa以上である請求項1ないし7のいずれか一項に記載の窯道具。
【請求項9】
Fe23の含有割合が0.5質量%以下である請求項1ないし8のいずれか一項に記載の窯道具。
【請求項10】
請求項1に記載の窯道具の製造方法であって、
ペタライト及びカオリンを含む混合粉を、目的とする窯道具の形に成形し、成形体を含酸素雰囲気下に焼成する工程を有する窯道具の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2012−224487(P2012−224487A)
【公開日】平成24年11月15日(2012.11.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−91712(P2011−91712)
【出願日】平成23年4月18日(2011.4.18)
【出願人】(000006183)三井金属鉱業株式会社 (1,121)
【Fターム(参考)】