説明

リチウム二次電池用バインダー樹脂組成物、これを用いた電極ペースト、及びリチウムイオン二次電池

【課題】活物質の膨張・収縮が大きい場合でも活物質との結着性が優れるリチウム二次電池用のバインダー、これを用いた非水系二次電池用負極及び非水系二次電池を提供する。
【解決手段】ポリイミドまたはその前駆体からなる樹脂(A)と、特定の構造を有する架橋性イミド化合物(B)とを含む、リチウム二次電池用バインダー樹脂組成物とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はリチウム二次電池用バインダー樹脂組成物、さらにこれを用いてなる二次電池用負極、及びリチウム二次電池に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、電子機器の小型化、軽量化が進み、その電源としてエネルギー密度の高い二次電池が望まれている。二次電池とは、正極活物質と負極活物質とが電解質を介して化学反応することにより生じた化学エネルギーを、電気エネルギーとして利用するものである。このような二次電池の中でも、高いエネルギー密度を有するものとして、リチウムイオン二次電池が実用化されている。リチウムイオン二次電池の正極活物質には、リチウムコバルト複合酸化物等のリチウム含有金属複合酸化物が主に用いられており、負極活物質には、炭素材料が主に用いられている。
【0003】
上記リチウムイオン二次電池、もしくはその他の二次電池において、活物質を集電体に固定するためのバインダーとして、ポリフッ化ビニリデン(以下「PVdF」と略す)が多用されている。
【0004】
近年、リチウムイオン二次電池の負極活物質として、炭素材料の理論容量を大きく超える充放電容量を有する次世代の負極活物質の開発が進められている。特に、SiやSn等を用いた負極活物質は、大きな充放電容量を有するため、実用化が期待されている。しかし、SiやSnなどはリチウムイオンの吸蔵・放出に伴う体積変化が非常に大きく、充放電サイクルに伴い、膨張、収縮を繰り返す。したがって、これらを負極活物質として用い、従来のPVdfなどをバインダーとして用いた場合、活物質粒子が微粉化したり、バインダーから脱離したりする等して、サイクル劣化生じやすいという欠点がある。また、短時間に充放電を行うと、急激なイオンの移動により発熱するため、バインダーに耐熱性が求められている。そこで、機械強度と耐熱性に優れるポリイミドやポリアミドイミドなどをバインダーに用いた電極が提案されている(例えば、特許文献1及び2)。しかしながら、これらのバインダーはSiなどの無機材料に対する接着性が低く、充放電を繰り返すと活物質が剥がれる課題があった。
【0005】
上記SiやSn等を含む活物質の微粉化や脱離を抑制するための検討が、種々行われている。例えば、Siとの親和性が高いシロキサン系モノマーを配合したポリイミドバインダーが提案されている(特許文献3及び4)。しかし、この方法では、ポリイミド分子骨格の柔軟性が高くなり、樹脂の機械的強度、特に弾性率が過度に低下してしまうため、Siが膨張収縮を繰り返した場合に、樹脂が徐々に伸長してしまい、最終的には活物質粒子を強固に保持できず、活物質粒子の脱落を十分に抑制できない、という課題がある。
【0006】
また、ポリイミドにポリアクリル酸を配合したバインダーも提案されている(特許文献5)。この技術では、負極活物質にポリアクリル酸を優先的に結合させ、負極活物質の結着性を向上させる、としている。しかしながら、この方法においても、樹脂の機械的強度が過度に低下してしまい、活物質粒子を強固に保持できず、活物質粒子の脱落を十分に抑制できない、という課題がある。
以上のことから、接着強度が高く、さらに機械的強度、特に弾性率が十分に高いことを特徴とするポリイミドバインダーはこれまでに得られていなかった。また、ポリイミド等からなるバインダー樹脂がアンカー効果を発揮することで、バインダー樹脂と活物質との結着性を高めた例はなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】国際公開第2004/004031号
【特許文献2】国際公開第2008/105036号
【特許文献3】特開2010−238562号公報
【特許文献4】特開2011−86480号公報
【特許文献5】特開2007−95670号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明はかかる背景技術に鑑みてなされたものであり、その課題は、活物質の膨張・収縮が大きい場合でも活物質とバインダー樹脂との結着性が優れるリチウム二次電池用のバインダー、これを用いた非水系二次電池用負極及び非水系二次電池を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らが鋭意検討した結果、ポリイミドまたはその前駆体からなる樹脂と、特定の架橋性イミド化合物とを、非水系二次電池の負極用バインダー樹脂組成物として用いることにより、活物質との高い結着性と硬化樹脂の高い機械強度を両立でき、得られる負極の充放電サイクル特性を改善できることを見出した。本発明はこのような知見に基づきなされたものである。
【0010】
即ち本発明の要旨は、以下の通りである。
[1]ポリイミドまたはその前駆体からなる樹脂(A)と、下記一般式(1)〜(3)のいずれかに表される構造を有する架橋性イミド化合物(B)とを含む、リチウム二次電池用バインダー樹脂組成物。
【化1】

(一般式(1)中、nは0以上の整数である。
一般式(3)中、mは0以上10以下の実数を示し、異なるmを有する化合物の混合物であってもよい。
一般式(1)〜(3)中、Xは一分子内でそれぞれ独立に同一であっても異なっていてもよく、O、SO、S、CO、CH、C(CH、C(CFまたは直結を示す。
は、一分子内でそれぞれ独立に同一であっても異なっていてもよく、水素原子、ハロゲン原子、炭化水素基を表し、それぞれベンゼン環の置換位置は相互に独立である。
Yは、それぞれ独立に同一であっても異なっていてもよく、下記一般式で表される基である。
【化2】

〜Rはそれぞれ、水素原子、ハロゲン原子または炭素数1〜3のアルキル基を表し;Rは、−O−、−S−、−CH−、−C(CH−または−CO−を表し;Rは、水素原子またはフェニル基を表す。)
【0011】
[2]前記樹脂(A)100重量部に対し、前記架橋性イミド化合物(B)を、1重量部以上150重量部以下含有する、[1]に記載のリチウム二次電池用バインダー樹脂組成物。
【0012】
[3]前記一般式(1)で表される架橋性イミド化合物(B)が、下記一般式(4)で表される化合物である、[1]または[2]に記載のリチウム二次電池用バインダー樹脂組成物。
【化3】

(一般式(4)中、nは0〜3の整数であり、X及びYは前述の一般式(1)におけるX及びYと同義である。)
[4]前記一般式(4)で表される架橋性イミド化合物(B)が、下記一般式(5)〜(10)のいずれかで表される化合物である、[3]に記載のリチウム二次電池用バインダー樹脂組成物。
【化4】

(一般式(5)〜(10)中、Yは一般式(4)におけるYと同義である。)
【0013】
[5]前記一般式(2)で表される架橋性イミド化合物(B)が、下記一般式(11)で表される化合物である、[1]または[2]に記載のリチウム二次電池用バインダー樹脂組成物。
【化5】

(一般式(11)中、Yは一般式(2)におけるYと同義である。)
[6]前記一般式(3)で表される架橋性イミド化合物(B)が、下記一般式(12)で表される化合物である、[1]または[2]に記載のリチウム二次電池用バインダー樹脂組成物。
【化6】

(一般式(12)中、mは0以上10以下の実数を示し、異なるmを有する化合物の混合物であってもよい。Yは、一般式(3)におけるYと同義である。)
【0014】
[7]前記一般式(1)〜(12)中のYが、下記一般式で表される、[1]〜[6]のいずれかに記載のリチウム二次電池用バインダー樹脂組成物。
【化7】

【0015】
[8]前記[1]〜[7]のいずれかに記載のリチウム二次電池用バインダー樹脂組成物と、ケイ素原子、スズ原子またはゲルマニウム原子を含むリチウムイオン電池負極活物質と、溶剤とを含む、電極ペースト。
【0016】
[12]リチウムイオンを吸蔵・放出可能な正極及び負極、並びに電解液を備えたリチウムイオン二次電池であって、前記負極が、[8]に記載の電極ペーストの硬化物層である、リチウムイオン二次電池。
【発明の効果】
【0017】
本発明の二次電池用バインダー樹脂組成物は、ポリイミド樹脂に、架橋性イミド化合物(B)を配合していることから、ポリイミド樹脂に熱可塑性を付与することが出来、またその後の硬化により硬化物を含む樹脂組成物は十分な機械強度を有する。そのため、この二次電池用バインダー樹脂組成物に活物質を配し、リチウム二次電池の活物質層を形成した場合、アンカー効果により高い接着強度を有し、且つ高弾性率であるために、活物質が膨張・収縮を繰り返したとしても、バインダー樹脂が伸びきってしまうことを抑えられ、活物質を十分に支持することができ、活物質が脱離することを抑制し得る。したがって、本発明によれば、活物質の脱離が生じ難い、充放電サイクル特性に優れたリチウム二次電池が提供される。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明の実施の形態について詳細に説明するが、以下に記載する構成要件の説明は、本発明の実施態様の一例(代表例)であり、これらの内容に特定はされない。
【0019】
A.二次電池用バインダー樹脂組成物及び電極ペースト
本発明の二次電池用バインダー樹脂組成物は、ポリイミドまたはその前駆体からなる樹脂(A)と、架橋性イミド化合物(B)とを含有する。
【0020】
本発明の二次電池用バインダー樹脂組成物は、活物質を配合して電極ペーストとすることができる。この電極ペーストを硬化させた活物質層における活物質の保持性が優れる。これは、樹脂(A)に架橋性イミド化合物(B)を配合することで、以下の2つのうちの少なくとも一方の効果が得られるためである。
【0021】
効果[1]:バインダーが熱可塑性の低いポリイミドを含む場合
熱可塑性が低いポリイミドを、活物質を保持するためのバインダー樹脂として用いた場合、活物質との間にアンカー効果が生じにくい。そのため、バインダー樹脂と活物質との接着強度が低く、活物質が膨張・収縮を繰り返した際にバインダー樹脂と活物質との界面が剥がれ易く、活物質がバインダー樹脂から脱離しやすい。このような熱可塑性の低いポリイミドと架橋性イミド化合物(B)とを組み合わせることで、バインダー樹脂に熱可塑性が付与され、アンカー効果が発現する。すなわち、バインダー樹脂が熱可塑性を有することで、活物質が膨張・収縮しても、バインダー樹脂が強固に接着され、活物質がバインダー樹脂から脱離し難くなる。
【0022】
熱可塑性が低いポリイミドとは、例えば、分子内に比較的多くの芳香環を含み、これらが単結合されている等、剛直な構造を有するポリイミドである。
【0023】
効果[2]:バインダーが熱可塑性の高いポリイミドを含む場合
熱可塑性が高いポリイミドのみを、活物質を保持するためのバインダー樹脂として用いた場合、活物質との間にアンカー効果は生じる。しかし、バインダー樹脂の機械的強度が低いため、活物質が膨張した際にバインダー樹脂が伸長してしまう。活物質が膨張・収縮を繰り返すうちに、バインダー樹脂は伸びきり、最終的には活物質を保持することが困難になり、活物質がバインダー樹脂から脱離しやすい。このような熱可塑性の高いポリイミドと架橋性イミド化合物(B)の硬化物とを組み合わせることで、バインダー樹脂の機械的強度が向上する(弾性率が高くなる)。バインダー樹脂が十分な機械的強度を有することで、活物質が膨張・収縮を繰り返した場合にも、バインダー樹脂がこれを強固に保持でき、活物質が脱離し難くなる。
【0024】
熱可塑性が高いポリイミドとは、例えば分子内にエーテル基、スルホン基、ケトン基等の柔軟な結合や屈曲構造を有するポリイミドである。
【0025】
1.樹脂(A)
樹脂(A)は、ポリイミドまたはその前駆体からなる。バインダー樹脂組成物に配合する樹脂(A)は、後述の架橋性イミド化合物と組合せることで、効果[1]または効果[2]のいずれかが発揮されるものであれば、特に制限されない。樹脂(A)としては、下記一般式(21)で表される構成単位を有するポリイミド、またはその前駆体が挙げられる。
【0026】
【化8】

【0027】
上記一般式(21)において、mは1以上の整数である。また一般式(21)におけるAは、下記一般式で表される2価の基から選ばれる。下記一般式におけるX〜Xは、それぞれ単結合、−O−、−S−、−CO−、−COO−、−C(CH−、−C(CF−、−SO−または−NHCO−である。複数のAに含まれるX〜Xは、相互に同一であっても異なっていてもよい。
【0028】
【化9】

【0029】
一般式(21)におけるAは、芳香族ジアミンから誘導される2価の基でありうる。芳香族ジアミンの例には、m−フェニレンジアミン、o−フェニレンジアミン、p−フェニレンジアミン、3,3’−ジアミノジフェニルエーテル、3,4’−ジアミノジフェニルエーテル、4,4’−ジアミノジフェニルエーテル、3,3’−ジアミノジフェニルスルフィド、3,4’−ジアミノジフェニルスルフィド、4,4’−ジアミノジフェニルスルフィド、3,3’−ジアミノジフェニルスルホン、3,4’−ジアミノジフェニルスルホン、4,4’−ジアミノジフェニルスルホン、3,3’−ジアミノベンゾフェノン、3,3’−ジアミノジフェニルメタン、3,4’−ジアミノジフェニルメタン、4,4’−ジアミノジフェニルメタン、2,2−ビス(3−アミノフェニル)プロパン、2,2−ビス(4−アミノフェニル)プロパン、2,2−ビス(3−アミノフェニル)−1,1,1,3,3,3−ヘキサフルオロプロパン、2,2−ビス(4−アミノフェニル)−1,1,1,3,3,3−ヘキサフルオロプロパン、3,3’−ジアミノジフェニルスルホキシド、3,4’−ジアミノジフェニルスルホキシド、4,4’−ジアミノジフェニルスルホキシド、1,3−ビス(3−アミノフェニル)ベンゼン、1,3−ビス(4−アミノフェニル)ベンゼン、1,4−ビス(3−アミノフェニル)ベンゼン、1,4−ビス(4−アミノフェニル)ベンゼン、1,3−ビス(3−アミノフェノキシ)ベンゼン、1,3−ビス(4−アミノフェノキシ)ベンゼン、1,4−ビス(3−アミノフェノキシ)ベンゼン、1,4−ビス(4−アミノフェノキシ)ベンゼン、1,3−ビス(3−アミノフェニルスルフィド)ベンゼン、1,3−ビス(4−アミノフェニルスルフィド)ベンゼン、1,4−ビス(4−アミノフェニルスルフィド)ベンゼン、1,3−ビス(3−アミノフェニルスルホン)ベンゼン、1,3−ビス(4−アミノフェニルスルホン)ベンゼン、1,4−ビス(4−アミノフェニルスルホン)ベンゼン、1,3−ビス(3−アミノベンジル)ベンゼン、1,3−ビス(4−アミノベンジル)ベンゼン、1,4−ビス(4−アミノベンジル)ベンゼン、1,3−ビス(3−アミノ−4−フェノキシベンゾイル)ベンゼン、3,3’−ビス(3−アミノフェノキシ)ビフェニル、3,3’−ビス(4−アミノフェノキシ)ビフェニル、4,4’−ビス(3−アミノフェノキシ)ビフェニル、4,4’−ビス(4−アミノフェノキシ)ビフェニル、ビス〔3−(3−アミノフェノキシ)フェニル〕エーテル、ビス〔3−(4−アミノフェノキシ)フェニル〕エーテル、ビス〔4−(3−アミノフェノキシ)フェニル〕エーテル、ビス〔4−(4−アミノフェノキシ)フェニル〕エーテル、ビス〔3−(3−アミノフェノキシ)フェニル〕ケトン、ビス〔3−(4−アミノフェノキシ)フェニル〕ケトン、ビス〔4−(3−アミノフェノキシ)フェニル〕ケトン、ビス〔4−(4−アミノフェノキシ)フェニル〕ケトン、ビス〔3−(3−アミノフェノキシ)フェニル〕スルフィド、ビス〔3−(4−アミノフェノキシ)フェニル〕スルフィド、ビス〔4−(3−アミノフェノキシ)フェニル〕スルフィド、ビス〔4−(4−アミノフェノキシ)フェニル〕スルフィド、ビス〔3−(3−アミノフェノキシ)フェニル〕スルホン、ビス〔3−(4−アミノフェノキシ)フェニル〕スルホン、ビス〔4−(3−アミノフェノキシ)フェニル〕スルホン、ビス〔4−(4−アミノフェノキシ)フェニル〕スルホン、ビス〔3−(3−アミノフェノキシ)フェニル〕メタン、ビス〔3−(4−アミノフェノキシ)フェニル〕メタン、ビス〔4−(3−アミノフェノキシ)フェニル〕メタン、ビス〔4−(4−アミノフェノキシ)フェニル〕メタン、2,2−ビス〔3−(3−アミノフェノキシ)フェニル〕プロパン、2,2−ビス〔3−(4−アミノフェノキシ)フェニル〕プロパン、2,2−ビス〔4−(3−アミノフェノキシ)フェニル〕プロパン、2,2−ビス〔4−(4−アミノフェノキシ)フェニル〕プロパン、2,2−ビス〔3−(3−アミノフェノキシ)フェニル〕−1,1,1,3,3,3−ヘキサフルオロプロパン、2,2−ビス〔3−(4−アミノフェノキシ)フェニル〕−1,1,1,3,3,3−ヘキサフルオロプロパン、2,2−ビス〔4−(3−アミノフェノキシ)フェニル〕−1,1,1,3,3,3−ヘキサフルオロプロパン、2,2−ビス〔4−(4−アミノフェノキシ)フェニル〕−1,1,1,3,3,3−ヘキサフルオロプロパン、9,9−ビス(4−アミノフェニル)フルオレン、9,9−ビス(2−メチル−4−アミノフェニル)フルオレン、9,9−ビス(3−メチル−4−アミノフェニル)フルオレン、9,9−ビス(2−エチル−4−アミノフェニル)フルオレン、9,9−ビス(3−エチル−4−アミノフェニル)フルオレン、9,9−ビス(4−アミノフェニル)−1−メチルフルオレン、9,9−ビス(4−アミノフェニル)−2−メチルフルオレン、9,9−ビス(4−アミノフェニル)−3−メチルフルオレン及び9,9−ビス(4−アミノフェニル)−4−メチルフルオレンなどが含まれる。これらは、単独で用いてもよいし、二種類以上を組み合わせて用いてもよい。
【0030】
一般式(1)におけるAには、前記芳香族ジアミン化合物から誘導される2価の基以外の、他の脂肪族ジアミンから誘導される2価の基が含まれてもよい。
【0031】
他の脂肪族ジアミンの例には、1,3−ビス(3−アミノプロピル)テトラメチルジシロキサン、1,3−ビス(4−アミノブチル)テトラメチルジシロキサン、α,ω−ビス(3−アミノプロピル)ポリジメチルシロキサン、α,ω−ビス(3−アミノブチル)ポリジメチルシロキサン、ビス(アミノメチル)エーテル、1,2−ビス(アミノメトキシ)エタン、ビス[(2−アミノメトキシ)エチル]エーテル、1,2−ビス[(2−アミノメトキシ)エトキシ]エタン、ビス(2−アミノエチル)エーテル、1,2−ビス(2−アミノエトキシ)エタン、ビス[2−(2−アミノエトキシ)エチル]エーテル、ビス[2−(2−アミノエトキシ)エトキシ]エタン、ビス(3−アミノプロピル)エーテル、エチレングリコールビス(3−アミノプロピル)エーテル、ジエチレングリコールビス(3−アミノプロピル)エーテル、トリエチレングリコールビス(3−アミノプロピル)エーテル、エチレンジアミン、1,3−ジアミノプロパン、1,4−ジアミノブタン、1,5−ジアミノペンタン、1,6−ジアミノヘキサン、1,7−ジアミノヘプタン、1,8−ジアミノオクタン、1,9−ジアミノノナン、1,10−ジアミノデカン、1,11−ジアミノウンデカン、1,12−ジアミノドデカン、1,2−ジアミノシクロヘキサン、1,3−ジアミノシクロヘキサン、1,4−ジアミノシクロヘキサン、1,4−ジアミノメチルシクロヘキサン、1,3−ジアミノメチルシクロヘキサン、1,2−ジアミノメチルシクロヘキサン、1,2−ジ(2−アミノエチル)シクロヘキサン、1,3−ジ(2−アミノエチル)シクロヘキサン、1,4−ジ(2−アミノエチル)シクロヘキサン、ビス(4−アミノシクロヘキシル)メタン、2,6−ビス(アミノメチル)ビシクロ〔2.2.1〕ヘプタン、2,5−ビス(アミノメチル)ビシクロ〔2.2.1〕ヘプタンなどが含まれる。これらは、単独で用いてもよいし、二種類以上を組み合わせて用いてもよい。
【0032】
一般式(1)におけるBは、下記一般式で表される4価の基から選ばれる。下記一般式におけるY〜Yは、それぞれ単結合、−O−、−S−、−CO−、−COO−、−C(CH−、−C(CF−、−SO−または−NHCO−である。複数のBに含まれるY〜Yは、相互に同一であっても異なっていてもよい。
【0033】
【化10】

【0034】
一般式(21)におけるBは、芳香族テトラカルボン酸二無水物から誘導される4価の基でありうる。芳香族テトラカルボン酸二無水物の例には、ピロメリット酸二無水物、メロファン酸二無水物、3,3’,4,4’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物、2,3,3’,4’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物、2,2’,3,3’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物、3,3’,4,4’−ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物、ビス(3,4−ジカルボキシフェニル)エーテル二無水物、ビス(2,3−ジカルボキシフェニル)エーテル二無水物、ビス(3,4−ジカルボキシフェニル)スルフィド二無水物、ビス(3,4−ジカルボキシフェニル)スルホン二無水物、ビス(3,4−ジカルボキシフェニル)メタン二無水物、2,2−ビス(3,4−ジカルボキシフェニル)プロパン二無水物、2,2−ビス(3,4−ジカルボキシフェニル)−1,1,1,3,3,3−ヘキサフルオロプロパン二無水物、1,3−ビス(3,4−ジカルボキシフェノキシ)ベンゼン二無水物、1,4−ビス(3,4−ジカルボキシフェノキシ)ベンゼン二無水物、1,4−ビス(3,4−ジカルボキシフェノキシ)ビフェニル二無水物、2,2−ビス〔(3,4−ジカルボキシフェノキシ)フェニル〕プロパン二無水物、オキシジフタル酸二無水物、4,4’−(4,4’−イソプロピリデンジフェノキシ)ビス(無水フタル酸)、p−フェニレンジフタル酸無水物などが含まれ、好ましくはピロメリット酸二無水物、3,3’,4,4’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物である。これらは、単独で用いてもよいし、二種類以上を組み合わせて用いてもよい。
【0035】
一般式(1)におけるBには、前記芳香族テトラカルボン酸二無水物から誘導される4価の基以外の、他のテトラカルボン酸二無水物から誘導される4価の基が含まれてもよい。
【0036】
他のテトラカルボン酸二無水物の例には、エチレンテトラカルボン酸二無水物、ブタンテトラカルボン酸二無水物、シクロペンタンテトラカルボン酸二無水物、1,1−ビス(2,3−ジカルボキシフェニル)エタン二無水物、1,1−ビス(3,4−ジカルボキシフェニル)エタン二無水物、1,2−ビス(2,3−ジカルボキシフェニル)エタン二無水物、1,2−ビス(3,4−ジカルボキシフェニル)エタン二無水物、1,2,5,6−ナフタレンテトラカルボン酸二無水物、3,4,9,10−ペリレンテトラカルボン酸二無水物、2,3,6,7−アントラセンテトラカルボン酸二無水物、1,2,7,8−フェナントレンテトラカルボン酸二無水物ビス(2,3−ジカルボキシフェニル)メタン二無水物、1,3−ビス(3,4−ジカルボキシフェニル)プロパン二無水物、1,3−ビス(3,4−ジカルボキシフェニル)プロパン二無水物、4,4’−ヘキサフルオロイソプロピリデンジフタル酸無水物、2,3,6,7−ナフタレンテトラカルボン酸二無水物、エチレンビス(トリメリット酸モノエステル酸無水物)、ビスフェノールAビス(トリメリット酸モノエステル酸無水物)、p−フェニレンビス(トリメリット酸モノエステル酸無水物)等が含まれる。これらの他のテトラカルボン酸二無水物の芳香環上の水素原子の一部または全てを、フルオロ基またはトリフルオロメチル基で置換したテトラカルボン酸二無水物を用いてもよい。これらは、単独で用いてもよいし、二種類以上を組み合わせて用いてもよい。
【0037】
上記の中でも、効果[1]が発揮されやすいポリイミドは、熱可塑性が低いポリイミドである。熱可塑性が低いポリイミドは、例えば、分子内に比較的多くの芳香環を含み、これらが単結合されている等、剛直な構造を有する。
【0038】
効果[1]が発揮されやすい、アンカー効果が発現し難いポリイミドまたはその前駆体の例としては、例えば、3,3’,4,4’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物とp-フェニレンジアミンからなるポリイミドまたはその前駆体や、ピロメリット酸二無水物と4,4’-ジアミノジフェニルエーテルからなるポリイミドまたはその前駆体等が挙げられる。
【0039】
一方、効果[2]が発揮されやすいポリイミドは、熱可塑性が高いポリイミドである。熱可塑性が高いポリイミドは、具体的には、エーテル基、スルホン基、ケトン基、スルフィド基などの柔軟な結合や、屈曲構造を有する。
【0040】
効果[2]が発揮されやすい代表的なポリイミドまたはその前駆体としては、3,3’,4,4’−ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物と1,3−ビス(3−アミノフェノキシ)ベンゼンからなるポリイミドまたはその前駆体や、ピロメリット酸二無水物と4,4’−ビス(3−アミノフェノキシ)ビフェニルからなるポリイミド等が挙げられる。
【0041】
樹脂(A)(ポリイミドまたはその前駆体)の重量平均分子量は、5.0×10〜5.0×10であることが好ましい。重量平均分子量が5.0×10未満であると、バインダー樹脂組成物を硬化して得られる層の機械強度が低下することがあり、重量平均分子量が5.0×10を超えると塗工が困難となる。ポリイミドまたはその前駆体の重量平均分子量は、ゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)で測定され得る。
【0042】
樹脂(A)と後述の架橋性イミド化合物(B)との配合比は、樹脂(A)100重量部に対して、架橋性イミド化合物(B)が1〜150重量部とすることが好ましい。樹脂(A)が上記の効果[1]が発揮されやすい熱可塑性の低い樹脂の場合には、より好ましくは1〜75重量部、さらに好ましくは1〜30重量部である。樹脂(A)が上記の効果[2]が発揮されやすい熱可塑性が高い樹脂の場合には、より好ましくは5〜120重量部、さらに好ましくは、10〜100重量部である。
【0043】
また、バインダー樹脂組成物に活物質を配合する場合には、活物質の配合量(重量)に対する、樹脂組成物(A)の配合量を、0.01重量%以上とすることが好ましく、より好ましくは0.05重量%以上、更に好ましくは0.1重量%以上である。また、活物質の配合量(重量)に対する、樹脂組成物(A)の配合量は、25重量%以下が好ましく、より好ましくは20重量%以下である。樹脂(A)の配合量が活物質の配合量に対して多すぎると、硬化物を二次電池に用いた際、リチウムイオン等の吸蔵・放出特性が低下する傾向がある。一方、少なすぎると、二次電池のサイクル特性が低下する傾向がある。
【0044】
一般式(21)で表される構成単位を有するポリイミドは、下記一般式(22)で表される構成単位を含むポリアミド酸を、加熱してイミド化することにより得られる。下記一般式(22)で表されるポリアミド酸を樹脂(A)として、バインダー樹脂組成物に配合してもよい。一般式(22)におけるA、Bおよびmは、前述の一般式(21)におけるA、Bおよびmとそれぞれ同義である。
【化11】

【0045】
一般式(22)で表されるポリアミド酸は、例えば下記一般式(22A)で表されるジアミンと、下記一般式(22B)で表されるテトラカルボン酸二無水物とを重縮合反応させて得られる。
【0046】
【化12】

【化13】

【0047】
この際、テトラカルボン酸二無水物とジアミンの仕込み比を、M1:M2=0.90〜1.10:1.00(M1:テトラカルボン酸二無水物のモル数、M2:ジアミンのモル数)を満たすようにすることが好ましい。M1:M2は、0.92〜1.08:1.00であることがより好ましく、0.95〜1.05:1.00であることがさらに好ましい。
【0048】
また、上記一般式(22A)で表されるジアミンと、上記一般式(22B)で表されるテトラカルボン酸二無水物の重縮合反応は、溶媒中で行い得る。溶媒は、特に制限されないが、非プロトン性極性溶媒であることが好ましく、非プロトン性アミド系溶媒であることがより好ましい。非プロトン性アミド系溶媒の例には、N,N-ジメチルホルムアミド、N,N-ジメチルアセトアミド、N,N-ジエチルアセトアミド、N-メチル-2-ピロリドン、および1,3-ジメチル-2-イミダゾリジノンなどが含まれる。これらの溶媒は、単独で用いてもよいし、二種類以上組み合わせてもよい。
【0049】
これらの溶媒以外にも、必要に応じて他の溶媒がさらに含まれてもよい。他の溶媒の例には、ベンゼン、トルエン、o-キシレン、m-キシレン、p-キシレン、o-クロロトルエン、m-クロロトルエン、p-クロロトルエン、o-ブロモトルエン、m-ブロモトルエン、p-ブロモトルエン、クロロベンゼン、ブロモベンゼン、メタノール、エタノール、n−プロパノール、イソプロピルアルコールおよびn−ブタノール等が含まれる。
【0050】
また、上記溶媒の使用量は、樹脂固形分濃度が1〜40重量%となる範囲が好ましく、10〜30重量%であることがより好ましい。
【0051】
また、樹脂(A)は、前記ポリイミド、ポリイミド前駆体に加えて、アミノプロピルトリメトキシシラン、グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、トリメトキシビニルシラン、トリメトキシグリシドキシシランなどのシランカップリング剤、トリアジン系化合物、フェナントロリン系化合物、トリアゾール系化合物などを、ポリイミド、ポリイミド前駆体またはポリアミドイミドの総量100重量部に対して0.1〜20重量部含有してもよい。これらを含有することにより、活物質や金属箔との接着性をさらに高めることができる。上記シランカップリング剤の中で、3−アミノプロピルトリメトキシシラン、3−グリシドキシプロピルトリメトキシシランが好ましい。
【0052】
2.架橋性イミド化合物
架橋性イミド化合物(B)は、その分子末端に不飽和結合を有しており、バインダー樹脂組成物を硬化物とした際に、架橋性イミド化合物(B)同士が架橋構造を形成する化合物である。架橋性イミド化合物(B)は、下記一般式(1)〜(3)のいずれかで表される構造を有する。
【化14】

【0053】
一般式(1)中、nは0以上の整数である。
また、一般式(3)中、mは0以上10以下の実数を示し、異なるmを有する化合物の混合物であってもよい。
また一般式(1)〜(3)において、Xはそれぞれ独立に同一であっても異なっていてもよく、O、SO、S、CO、CH、C(CH、C(CFまたは直結を示す。また、Rは、同一または相異なり、水素原子、ハロゲン原子、炭化水素基を表し、それぞれベンゼン環の置換位置は相互に独立である。
【0054】
また、Yは、それぞれ独立に同一であっても異なっていてもよく、下記一般式で表される基である。
【化15】

〜Rはそれぞれ、水素原子、ハロゲン原子または炭素数1〜3のアルキル基を表し;Rは、−O−、−S−、−CH−、−C(CH−または−CO−を表し;Rは、水素原子またはフェニル基を表す。
【0055】
Yは、具体的には下記に示される基であることが好ましい。
【化16】

【0056】
上記一般式(1)で表される化合物は、下記一般式(4)で表される化合物が好ましく、さらにnが0〜3であると好ましい。一般式(4)中、X及びYは一般式(1)におけるX及びYと同義である。
【化17】

【0057】
上記一般式(4)で表される化合物の中でも、特に下記一般式(5)〜(10)で表される化合物が好ましい。一般式(5)〜(10)中、Yは一般式(1)におけるYと同義である。
【化18】

【0058】
上記一般式(5)〜(10)で表される架橋性イミド化合物のイミド基は、ベンゼン環のいずれの炭素に結合していてもよい。ただし、架橋反応性を高めるため、一般式(5)で表される化合物は、一方のイミド基の結合位置に対して、他方がパラ位またはメタ位に結合していることが好ましい。また一般式(6)〜(10)で表される化合物については、ジフェニルエーテル、ベンゾフェノン、ジフェニルスルホンを構成する、O、SO、CO基の結合位置に対して、イミド基がパラ位、またはメタ位に結合していることが好ましい。
【0059】
また、上記一般式(2)からなる化合物は、下記一般式(11)で表される化合物であることが好ましい。一般式(11)中、Yは一般式(2)におけるYと同義である。
【化19】

【0060】
上記一般式(11)で表される化合物におけるイミド基は、ベンゼン環のいずれの炭素に結合していてもよいが、ジフェニルエーテルを構成する酸素原子の結合位置に対して、パラ位またはメタ位に結合していることが好ましい。具体的には下記式(11−1)または(11−2)で表されることが好ましい。Yは一般式(2)におけるYと同義である。
【化20】

【0061】
また、上記一般式(3)で表される化合物は、下記一般式(12)で表される化合物であることが好ましい。一般式(12)中、Yは一般式(3)におけるYと同義である。
【化21】

【0062】
一般式(12)中、mは0以上10以下の実数を示し、0より大きく6以下の実数であることが好ましい。一般式(3)で表される化合物は、通常、mが異なる化合物の混合物であるため、mが異なる化合物の混合物であることが好ましい。一般式(3)で表される化合物が混合物である場合には、混合物における、m=0の化合物の含有率は60モル%以下であることが好ましい。一般式(12)におけるm=0である化合物は、溶媒に溶けにくいことが多い。したがって、その含有量は抑制することが好ましい。
【0063】
上記の中でも特に、一般式(5)〜(7)で表される化合物は、熱可塑性の低い樹脂(A)と併用した際に、熱可塑性(アンカー効果)(効果[1])を発現しやすい。さらに、一般式(5)、(6)、(11)、および(12)で表される化合物は、前述の機械的強度が低い樹脂(A)と併用した際には、機械的強度の向上効果(効果[2])を発現しやすい。
【0064】
ここで、バインダー樹脂組成物に、後述の活物質を配合する場合には、活物質の配合量(重量)に対する、架橋性イミド化合物(B)の配合量を0.01重量%以上とすることが好ましく、より好ましくは0.05重量%以上、更に好ましくは0.1重量%以上である。また活物質の配合量(重量)に対する、架橋性イミド化合物(B)の配合量は、25重量%以下が好ましく、より好ましくは20重量%である。
【0065】
上記一般式(1)〜(3)で表される架橋性イミド化合物は、公知の方法で製造し得る。
【0066】
一般式(1)で表される架橋性イミド化合物は、下記一般式で表される化合物と、2当量のジカルボン酸無水物を反応させることで得られる。より具体的には、下記式で示されるジアミンと、ジカルボン酸無水物とを反応させて相当するアミド酸化合物を、さらに脱水閉環してイミド化合物へ変換する。下記一般式中、R及びXは、一般式(1)と同義である。
【化22】

【0067】
また上記一般式(2)で表される架橋性イミド化合物は、下記一般式で表されるトリアミンに、3当量のジカルボン酸無水物を反応させてイミド化すればよい。より具体的には、下記式で示されるトリアミンと、ジカルボン酸無水物とを反応させて相当するアミド酸化合物を、さらに脱水閉環してイミド化合物へ変換する。下記一般式中、R及びXは、一般式(2)と同義である。
【化23】

【0068】
一般式(3)で表される架橋性イミド化合物は、下記式(mは、一般式(3)におけるmと同義)で示されるアミノオリゴマーとジカルボン酸無水物を反応させて、アミノ基をイミド化すればよい。下記式で示されるアミノオリゴマーは、市場から入手し得る。下記式で示されるアミノオリゴマーは、通常、mが異なる化合物の混合物であり、混合物であることが好ましい。下記一般式中、Xは、一般式(3)と同義である。
【化24】

【0069】
上記ジアミン、トリアミンまたはアミノオリゴマーと反応させるジカルボン酸無水物としては、いずれも下記式で表される化合物である。
【化25】

上記一般式におけるDは、下記式で表される基から選ばれる。
【化26】

〜Rはそれぞれ、水素原子、ハロゲン原子または炭素数1〜3のアルキル基を表し;Rは、−O−、−S−、−CH−、−C(CH−または−CO−を表し;Rは、水素原子またはフェニル基を表す。
【0070】
上記ジアミン、トリアミンまたはアミノオリゴマーと、ジカルボン酸無水物とを反応させて上記架橋性イミド化合物(B)とするには、例えば以下の手法がある。ただし、これらに限定されるものではない。
(i)100℃以下の低温、具体的には、−20〜70℃、好ましくは0〜60℃でアミド酸化合物を合成し、ついで100〜200℃に温度を上げてイミド化する方法(熱イミド化)
(ii)上記(i)と同様にアミド酸化合物を合成後、無水酢酸などのイミド化剤を用いて化学的にイミド化を行う方法(化学イミド化)
(iii)上記(i)と同様にアミド酸化合物を合成後、触媒存在下または不存在下、共沸脱水用溶媒の存在下においてイミド化を行う方法(共沸脱水閉環法)
(iv)アミノオリゴマー、ジカルボン酸無水物を混合した後、触媒及び/または共沸脱水用溶媒の存在下または不存在下、すぐに昇温することでイミド化する方法(直接熱イミド化)
【0071】
上記ジアミン、トリアミンまたはアミノオリゴマーと、ジカルボン酸無水物との反応は、有機溶媒中にて行うことが好ましい。用いる有機溶媒は、上記アミンとジカルボン酸無水物との反応に影響しない限り制限はなく、例えば、ペンタン、ヘキサン、ヘプタン、シクロヘキサンなどの飽和炭化水素類;ベンゼン、トルエン、キシレン、エチルベンゼンなどの芳香族炭化水素類;ジクロロメタン、クロロホルム、四塩化炭素、ジクロロエタン、クロロベンゼン、ジクロロベンゼンなどのハロゲン化炭化水素類;ジエチルエーテル、ジイソプロピルエーテル、1,2−ジメトキシエタン、ビス(2−メトキシエチル)エーテル、1,2−ビス(2−メトキシエトキシ)エタン、ビス〔2−(2−メトキシエトキシ)エチル〕エーテル、テトラヒロドフラン、1,3−ジオキサン、1,4−ジオキサン、アニソールなどのエーテル類;フェノール、o−クロロフェノール、m−クロロフェノール、p−クロロフェノール、o−クレゾール、m−クレゾール、p−クレゾール、2,3−キシレノ−ル、2,4−キシレノ−ル、2,5−キシレノ−ル、2,6−キシレノ−ル、3,4−キシレノ−ル、3,5−キシレノ−ルなどのフェノール類;N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、N,N−ジエチルアセトアミド、N,N−ジメチルメトキシアセトアミド、ヘキサメチルホスホルアミドなどのアミド類;N−メチル−2−ピロリドン、N−メチルカプロラクタムなどのラクタム類;ジメチルスルホキシド、ジフェニルスルホキシド、ジメチルスルホン、ジフェニルスルホン、スルホランなどの含硫黄溶媒類、1,3−ジメチル−2−イミダゾリジノンなどを挙げることができる。これらの有機溶媒は単独でもまたは2種以上混合して用いてもよい。
【0072】
さらに、上記有機溶媒に、以下に示す溶媒を共存させてもよい。共存し得る有機溶媒としては、例えば、ベンゼン、トルエン、o-キシレン、m-キシレン、p-キシレン、o-クロロトルエン、m-クロロトルエン、p-クロロトルエン、o-ブロモトルエン、m-ブロモトルエン、p-ブロモトルエン、クロロベンゼン、ブロモベンゼンなどが挙げられる。これらは、反応溶液を脱水するための共沸溶媒として作用し得る。
【0073】
反応溶媒の使用量は、特に制限されず、添加する溶媒種や組成によって異なるが、1重量部の原料に対して、1〜1000重量部、好ましくは3〜100重量部である。
【0074】
上記反応は、有機塩基触媒または酸触媒の存在下で行ってもよい。有機塩基触媒の例には、トリエチルアミン、トリブチルアミン、トリペンチルアミン、N,N-ジメチルアニリン、N,N-ジエチルアニリン、ピリジン、α-ピコリン、β-ピコリン、γ-ピコリン、2,4-ルチジン、2,6-ルチジン、キノリン、イソキノリンなどが含まれるが、好ましくはピリジン、γ-ピコリンである。
【0075】
これら触媒の使用量は、反応速度が実質的に向上すれば特に制限はないが、原料のジアミン、トリアミンまたはアミノオリゴマーに対して、0.001〜10倍モル、好ましくは0.005モル〜5倍モル、さらに好ましくは0.01〜1倍モルである。
【0076】
反応時間は、使用する原料の種類、溶剤の種類、触媒の種類、共沸脱水用溶媒の種類や量、及び反応温度などにより異なるが、目安としては、1〜24時間であり、通常数時間である。また直接熱イミド化を行なう際は目安として、留出する水がほぼ理論量に達する(通常は全てが回収されるわけではないので、50〜90%の回収率である。)まで反応させることであり、通常数時間程度である。この場合、イミド化によって生じる水を、トルエン等の共沸剤で除去する方法が一般的で有効である。
【0077】
反応圧力は、特に制限されるものではないが、通常、大気圧とすればよい。反応雰囲気についても特に制限されるものではなく、通常、空気、窒素、ヘリウム、ネオン、アルゴン雰囲気下で反応を行い得る。好ましくは不活性気体である窒素やアルゴン雰囲気下で反応を行う。
【0078】
反応混合物から目的物である架橋性イミド化合物(B)を単離する方法は、特に限定されないが、目的物が反応溶媒から析出した場合は、濾取もしくは遠心分離によって単離すればよい。
【0079】
3.活物質
本発明のバインダー樹脂組成物に、活物質を添加することで、電極ペーストとすることができる。活物質の種類は、バインダー樹脂組成物の用途に応じて適宜選択される。すなわち、バインダー樹脂組成物を正極に用いる場合には、正極活物質を配合し、バインダー樹脂組成物を負極に用いる場合には、負極活物質を配合する。
【0080】
正極活物質としては、リチウムイオンなどのアルカリ金属カチオンを充放電時に吸蔵・放出できる金属カルコゲン化合物などが挙げられる。金属カルコゲン化合物としては、バナジウムの酸化物、モリブデンの酸化物、マンガンの酸化物、クロムの酸化物、チタンの酸化物、タングステンの酸化物などの遷移金属酸化物;バナジウムの硫化物、モリブデンの硫化物、チタンの硫化物、CuSなどの遷移金属硫化物;NiPS、FePS等の遷移金属のリン−硫黄化合物;VSe、NbSeなどの遷移金属のセレン化合物;Fe0.250.75、Na0.1CrSなどの遷移金属の複合酸化物;LiCoS、LiNiSなどの遷移金属の複合硫化物;等が挙げられる。
【0081】
これらの中でも、V、V13、VO、Cr、MnO、TiO、MoV、LiCoO、LiNiO、LiMn、TiS、V、Cr0.250.75、Cr0.50.5などが好ましく、特に好ましいのはLiCoO、LiNiO、LiMnや、これらの遷移金属の一部を他の金属で置換したリチウム遷移金属複合酸化物である。これらの正極活物質は、単独で用いても複数を混合して用いてもよい。
【0082】
また負極活物質としては、炭素材料を用いてもよいが、充放電容量の大きいケイ素原子、スズ原子またはゲルマニウム原子を含む活物質を好ましく用いることができる。これらは充放電に伴う体積変化が大きいため、本発明の効果がより発揮される。上記の中でもより好ましくはケイ素粒子及び/又はケイ素合金である。
【0083】
ケイ素原子を含む負極活物質としては、例えば、(i)シリコン微粒子、(ii)スズ、ニッケル、銅、鉄、コバルト、マンガン、亜鉛、インジウム、銀、チタン、ゲルマニウム、ビスマス、アンチモンまたはクロムと、ケイ素との合金、(iii)ホウ素、窒素、酸素または炭素とケイ素との化合物や、これらにさらに(ii)に例示した金属を有するものなどが挙げられる。ケイ素の合金あるいは化合物の一例としては、SiB、SiB、MgSi、NiSi、TiSi、MoSi、CoSi、NiSi、CaSi、CrSi、CuSi、FeSi、MnSi、NbSi、TaSi、VSi、WSi、ZnSi、SiC、Si、SiO、SiO(0<x≦2)あるいはLiSiOなどが挙げられる。
【0084】
スズ原子を含む負極活物質としては、例えば、(i)ケイ素、ニッケル、銅、鉄、コバルト、マンガン、亜鉛、インジウム、銀、チタン、ゲルマニウム、ビスマス、アンチモンまたはクロムと、スズとの合金、(ii)酸素または炭素とスズとの化合物や、これらにさらに(i)に例示した金属を有するものなどが挙げられる。スズの合金あるいは化合物の一例としては、SnO(0<w≦2)、SnSiO、LiSnOあるいはMgSnなどが挙げられる。
【0085】
ゲルマニウムを含む負極活物質としては、例えばゲルマニウムの酸化物、炭化物、窒化物、炭窒化物等が挙げられる。
【0086】
これらの負極活物質の表面は、導電性を向上する目的で、炭素や銅などの導電性を有する材料で覆われていても良い。
【0087】
上記活物質の平均粒径は0.1〜10μmが好ましい。また、上記活物質の表面は、シランカップリング剤などによって処理が施されていてもよい。
【0088】
本発明のバインダー樹脂組成物に活物質を配合する場合、バインダー樹脂組成物の固形分全量(重量)に対する、活物質の含有量(重量)を70重量%以上とすることが好ましく、より好ましくは75重量%以上、更に好ましくは80重量%である。またバインダー樹脂組成物の固形分全量(重量)に対する、活物質の含有量(重量)を99.99重量%以下とすることが好ましく、より好ましくは99.9重量%である。
【0089】
4.溶剤
バインダー樹脂組成物は、溶剤を含有し得る。溶剤の種類は、前述の樹脂(A)、架橋性イミド化合物(B)、活物質等を均一に溶解もしくは分散可能なものであれば特に制限されない。このような溶剤として、非プロトン性極性溶媒が好ましく、非プロトン性アミド系溶媒がより好ましい。非プロトン性アミド系溶媒の例には、N,N-ジメチルホルムアミド、N,N-ジメチルアセトアミド、N,N-ジエチルアセトアミド、N-メチル-2-ピロリドン、および1,3-ジメチル-2-イミダゾリジノンなどが含まれる。これらの溶媒は、単独で用いてもよいし、二種類以上組み合わせてもよい。
【0090】
これらの溶媒以外にも、必要に応じて他の溶媒を共存させてもよい。他の溶媒の例には、ベンゼン、トルエン、o-キシレン、m-キシレン、p-キシレン、メシチレン、o-クレゾール、m-クレゾール、p-クレゾール、o-クロロトルエン、m-クロロトルエン、p-クロロトルエン、o-ブロモトルエン、m-ブロモトルエン、p-ブロモトルエン、クロロベンゼン、ブロモベンゼン、メタノール、エタノール、n−プロパノール、イソプロピルアルコールおよびn−ブタノール等が含まれる。
【0091】
溶剤量はバインダー樹脂組成物の粘度等を考慮して適宜選択される。通常、バインダー樹脂組成物に含まれる固形分100重量部に対して、50〜900重量部配合することが好ましく、より好ましくは65〜250重量部である。
【0092】
5.導電助剤
本発明のバインダー樹脂組成物は、活物質とともに導電助剤を配合して、電極ペーストとすることができる。導電助剤は、バインダー樹脂組成物の硬化物の電気抵抗を低下させる目的で配合される。導電助剤としては、炭素材料を用い得る。炭素材料としては、その種類に特に制限はないが、人造黒鉛、天然黒鉛等の黒鉛(グラファイト)や、様々な熱分解条件での有機物の熱分解物が挙げられる。
【0093】
有機物の熱分解物としては、石炭系コークス;石油系コークス;石炭系ピッチの炭化物;石油系ピッチの炭化物;或いはこれらピッチを酸化処理した後の炭化物;ニードルコークス;ピッチコークス;フェノール樹脂、結晶セルロース等の炭化物;及びこれらを一部黒鉛化した炭素材;ファーネスブラック;アセチレンブラック;ピッチ系炭素繊維;等が挙げられる。中でも黒鉛が好ましく、特に種々の原料から得た易黒鉛性ピッチに高温熱処理を施すことによって製造された、人造黒鉛、精製天然黒鉛、又はこれらの黒鉛に種々の表面処理を施したものが好ましい。
これらの炭素材料は、それぞれ1種を単独で用いても良いし、2種以上を組み合わせて用いても良い。
【0094】
また、本発明のバインダー樹脂組成物には、上記炭素材料以外に、酸化錫などの金属酸化物、硫化物や窒化物、リチウム単体やリチウムアルミニウム合金等のリチウム合金などを配合してもよい。これらの炭素材料以外の材料についても、それぞれ1種を単独で用いても良いし、2種以上を組み合わせて用いても良い。また、上述の炭素材料と組み合わせて用いても良い。
【0095】
バインダー樹脂組成物中の固形分の総量(重量)に対する導電助剤の配合量(重量)は、0.01重量%以上が好ましく、より好ましくは0.05重量%以上、更に好ましくは0.1重量%である。また通常20重量%以下が好ましく、より好ましくは10重量%以下である。
【0096】
6.バインダー樹脂組成物および電極ペーストの製造方法
本発明のバインダー樹脂組成物および電極ペーストは、樹脂(A)もしくはこれを含むワニスに、架橋性イミド化合物(B)、導電助剤、活物質、溶剤等を添加し、撹拌ないし混錬して製造し得る。各原料の混合方法としては、以下の2つの方法が挙げられるが、これに限定されない。
【0097】
i)樹脂組成物(A)を含むワニスに、導電助剤を添加し;さらに、架橋性イミド化合物(B)を添加して混練する。得られた混練物に、活物質および溶媒を加えて電極ペーストとする。
ii)樹脂組成物(A)を含むワニスに、導電助剤を添加し;さらに、活物質及び架橋性イミド化合物(B)を添加して混練する。得られた混練物に溶媒を加えて撹拌して電極ペーストとする
【0098】
上記攪拌は、攪拌羽根等を用いた通常撹拌や、自転・公転ミキサー等を用いた撹拌であればよい。混練操作は、混錬機などを用いることができる。
【0099】
本発明のバインダー樹脂組成物は、二次電池の電極の活物質層のバインダーとしても用いられうる。
【0100】
B.二次電池用負極
本発明の二次電池用負極は、集電体と負極活物質層との積層物である。この活物質層は、バインダー樹脂組成物を含む電極ペーストの硬化物である。
【0101】
負極集電体の材質としては、ケイ素及び/又はケイ素合金、スズおよびその合金、ケイ素−銅合金、銅、ニッケル、ステンレス鋼、ニッケルメッキ鋼等の金属材料や、カーボンクロス、カーボンペーパー等の炭素材料が用いられる。
【0102】
負極集電体の形状としては、金属材料の場合、金属箔、金属円柱、金属コイル、金属板、金属薄膜等が、炭素材料の場合、炭素板、炭素薄膜、炭素円柱等が挙げられる。集電体の厚みは、特に制限はないが、例えば通常5μm〜30μmであり、好ましくは9〜20μmである。
【0103】
活物質層は、バインダー樹脂組成物を含有する電極ペーストを、集電体に塗布し、それを加熱硬化させて得られる。
【0104】
電極ペーストの塗布は、例えばスクリーン印刷、ロールコート、スリットコート等の方法で行い得る。この際、バインダー(硬化物)がメッシュ状となるように電極ペーストをパターン上に塗布してもよい。活物質層の厚みは特に制限なく、例えば硬化後の厚みを5μm以上とすることが好ましく、より好ましくは10μm以上である。また200μm以下とすることが好ましく、より好ましくは100μm以下、更に好ましくは75μm以下である。活物質層が薄すぎると、活物質の粒径との兼ね合いから正極または負極としての実用性に欠ける。一方厚みが厚すぎると、高密度の電流値に対する十分なLiの吸蔵・放出の機能が得られにくい場合がある。
【0105】
電極ペーストの加熱硬化は、通常、大気圧下で行うことが可能であるが、加圧下、ないしは真空下で行ってもよい。また加熱乾燥時の雰囲気は、特に制限されないが、通常、空気、窒素、ヘリウム、ネオンまたはアルゴン等の雰囲気下で行うことが好ましく、より好ましくは不活性気体である窒素またはアルゴン雰囲気下で行う。
【0106】
また、電極ペーストの加熱硬化における加熱温度は、通常200℃〜500℃で1分間〜24時間熱処理することにより、ポリイミド前駆体のポリイミドへの閉環反応と架橋性イミド化合物の硬化反応を行い、信頼性のある負極を得ることができる。好ましくは250℃〜450℃で5分間〜20時間である。
【0107】
C.リチウムイオン二次電池
本発明のリチウムイオン二次電池の基本的構成は、従来公知のリチウムイオン二次電池と同様であり、通常、リチウムイオンを吸蔵・放出可能な正極及び負極、並びに電解質を備える。上述したバインダー樹脂組成物の硬化物は、正極及び負極のいずれの活物質層としてもよく、いずれか一方のみに用いてもよい。本発明では特に、SiまたはSnを負極活物質として含む負極の活物質層として上述したバインダー樹脂組成物の硬化物を用いることが好ましい。
【0108】
本発明のリチウムイオン二次電池の形態は特に制限されない。リチウムイオン二次電池の形態の例としては、シート電極及びセパレータをスパイラル状にしたシリンダータイプ、ペレット電極及びセパレータを組み合わせたインサイドアウト構造のシリンダータイプ、ペレット電極及びセパレータを積層したコインタイプ等が挙げられる。また、これらの形態の電池を任意の外装ケースに収めることにより、コイン型、円筒型、角型等の任意の形状としてもよい。
【0109】
本発明のリチウムイオン二次電池を組み立てる手順も特に制限されず、電池の構造に応じて適切な手順で組み立てればよい。一例を挙げると、外装ケース上に負極を乗せ、その上に電解液とセパレータを設け、更に負極と対向するように正極を乗せて、ガスケット、封口板と共にかしめて電池にすることができる。
【0110】
1.正極
正極は、集電体と、正極活物質層とが積層された構造とし得る。
正極集電体の材質としては、通常、アルミニウム、ステンレス鋼、ニッケルメッキ、チタン、タンタル等の金属材料や、カーボンクロス、カーボンペーパー等の炭素材料が用いられる。中でも金属材料が好ましく、アルミニウムが特に好ましい。また、形状としては、金属材料の場合、金属箔、金属円柱、金属コイル、金属板、金属薄膜、エキスパンドメタル、パンチメタル、発泡メタル等が、炭素材料の場合、炭素板、炭素薄膜、炭素円柱等が挙げられる。中でも、金属薄膜が、現在工業化製品に使用されているため好ましい。なお、薄膜は適宜メッシュ状に形成しても良い。正極集電体として薄膜を使用する場合、その厚さは任意であるが、下限が、通常1μm、好ましくは3μm、より好ましくは5μm、上限が、通常100mm、好ましくは1mm、より好ましくは50μmの範囲である。上記範囲よりも薄いと、集電体として必要な強度が不足する虞がある一方で、上記範囲よりも厚いと、取り扱い性が損なわれる虞がある。
【0111】
正極活物質としては、前述のバインダー樹脂組成物に含みうる正極活物質と同様である。また、正極活物質層中の正極活物質の含有割合は、下限が、通常10重量%、好ましくは30重量%、更に好ましくは50重量%であり、上限が、通常99.9重量%、好ましくは99重量%である。
【0112】
正極活物質を結着するバインダー樹脂としては、上述したバインダー樹脂組成物に配合する樹脂(A)及び架橋性イミド化合物(B)の他、公知のものを任意に選択して用いることができる。このような例としては、シリケート、水ガラス等の無機化合物や、テフロン(登録商標)、不飽和結合を有さない高分子などが挙げられる。これらの高分子の重量平均分子量は、下限が、通常1万、好ましくは10万、上限が、通常300万、好ましくは100万である。
【0113】
正極活物質層を構成する全ての成分の重量に対するバインダー樹脂(重量)の割合は、下限が通常0.1重量%、好ましくは1重量%、更に好ましくは5重量%であり、上限が通常80重量%、好ましくは60重量%、更に好ましくは40重量%、特に好ましくは10重量%である。バインダー樹脂の割合が低すぎると、正極活物質を十分保持できずに正極の機械的強度が不足し、サイクル特性等の電池性能を悪化させてしまう虞がある。一方で、バインダー樹脂の割合が高すぎると、電池容量や導電性の低下につながる虞がある。
【0114】
正極活物質層中には、電極の導電性を向上させるために、導電材を含有させてもよい。導電剤としては、活物質に適量混合して導電性を付与できるものであれば特に制限はないが、通常、アセチレンブラック、カーボンブラック、黒鉛などの炭素粉末、各種の金属の繊維、粉末、箔などが挙げられる。
【0115】
正極活物質層の厚さは、通常10〜200μm程度である。
【0116】
正極は、正極活物質及び上記バインダー樹脂を含有するバインダー樹脂組成物を、集電体上に形成して得られる。正極活物質層は、通常、正極材料と結着剤と更に必要に応じて用いられる導電材及び増粘剤等を、乾式で混合してシート状にしたものを正極集電体に圧着するか、或いはこれらの材料を液体媒体中に溶解又は分散させてペースト状にして、正極集電体に塗布、乾燥することにより作成される。なお、正極集電体へのペーストの塗布、乾燥によって得られた正極活物質層は、正極活物質の充填密度を上げるために、ローラープレス等により圧密化することが好ましい。
【0117】
ペーストを形成するための液体媒体としては、正極活物質、バインダー樹脂、並びに必要に応じて使用される導電材及び増粘剤を溶解又は分散することが可能な溶媒であれば、その種類に特に制限はなく、水系溶媒と有機系溶媒のどちらを用いても良い。水系溶媒の例としては水、アルコールなどが挙げられ、有機系溶媒の例としてはN−メチルピロリドン(NMP)、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド、メチルエチルケトン、シクロヘキサノン、酢酸メチル、アクリル酸メチル、ジエチルトリアミン、N−N−ジメチルアミノプロピルアミン、エチレンオキシド、テトラヒドロフラン(THF)、トルエン、アセトン、ジメチルエーテル、ジメチルアセタミド、ヘキサメチルホスファルアミド、ジメチルスルホキシド、ベンゼン、キシレン、キノリン、ピリジン、メチルナフタレン、ヘキサン等を挙げることができる。特に水系溶媒を用いる場合、増粘剤に併せて分散剤を加え、SBR等のラテックスを用いてペースト化する。なお、これらの溶媒は、1種を単独で用いても良く、2種以上を任意の組み合わせ及び比率で併用しても良い。
【0118】
2.電解液
リチウムイオン二次電池用の電解液としては、非水系溶媒にリチウム塩を溶解させた非水系電解液や、この非水系電解液を有機高分子化合物等によりゲル状、ゴム状、固体シート状にしたものなどが用いられる。
【0119】
電解液には、例えば、リチウム塩を溶解させた非水溶媒が用いられる。リチウム塩は、公知のリチウム塩の中から、適宜選択して用いることができる。例えば、LiCl、LiBrなどのハロゲン化物;LiClO、LiBrO、LiClOなどの過ハロゲン酸塩;LiPF、LiBF、LiAsFなどの無機フッ化物塩;リチウムビス(オキサラトホウ酸塩)LiBCなどの無機リチウム塩;LiCFSO、LiCSOなどのパーフルオロアルカンスルホン酸塩;Liトリフルオロスルフォンイミド((CFSONLi)などのパーフルオロアルカンスルホン酸イミド塩;などの含フッ素有機リチウム塩などが挙げられる。リチウム塩は、単独で用いても、2種以上を混合して用いてもよい。非水系電解液中におけるリチウム塩の濃度は、通常0.5M以上、2.0M以下の範囲である。
【0120】
非水溶媒としては、例えば、エチレンカーボネート(EC)、プロピレンカーボネート(PC)、ブチレンカーボネート(BC)、ビニレンカーボネート(VC)などの環状カーボネート類、ジメチルカーボネート(DMC)、ジエチルカーボネート(DEC)、エチルメチルカーボネート(EMC)、ジプロピルカーボネート(DPC)などの鎖状カーボネート類、ギ酸メチル、酢酸メチル、プロピオン酸メチル、プロピオン酸エチルなどの脂肪族カルボン酸エステル類、γ−ブチロラクトン等のγ−ラクトン類、1,2−ジメトキシエタン(DME)、1,2−ジエトキシエタン(DEE)、エトキシメトキシエタン(EME)等の鎖状エーテル類、テトラヒドロフラン、2−メチルテトラヒドロフラン等の環状エーテル類、ジメチルスルホキシド、1,3−ジオキソラン、ホルムアミド、アセトアミド、ジメチルホルムアミド、ジオキソラン、アセトニトリル、プロピルニトリル、ニトロメタン、エチルモノグライム、リン酸トリエステル、トリメトキシメタン、ジオキソラン誘導体、スルホラン、メチルスルホラン、1,3−ジメチル−2−イミダゾリジノン、3−メチル−2−オキサゾリジノン、プロピレンカーボネート誘導体、テトラヒドロフラン誘導体、エチルエーテル、1,3−プロパンサルトン、アニソール、ジメチルスルホキシド、N−メチルピロリドン、ブチルジグライム、メチルテトラグライムなどの非プロトン性有機溶媒が挙げられ、これらを単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0121】
また、電解液中に有機高分子化合物を含ませ、ゲル状、ゴム状、或いは固体シート状とすることも可能である。このような有機高分子化合物の具体例としては、ポリエチレンオキシド、ポリプロピレンオキシド等のポリエーテル系高分子化合物;ポリエーテル系高分子化合物の架橋体高分子;ポリビニルアルコール、ポリビニルブチラールなどのビニルアルコール系高分子化合物;ビニルアルコール系高分子化合物の不溶化物;ポリエピクロルヒドリン;ポリフォスファゼン;ポリシロキサン;ポリビニルピロリドン、ポリビニリデンカーボネート、ポリアクリロニトリルなどのビニル系高分子化合物;ポリ(ω−メトキシオリゴオキシエチレンメタクリレート)、ポリ(ω−メトキシオリゴオキシエチレンメタクリレート−co−メチルメタクリレート)、ポリ(ヘキサフルオロプロピレン−フッ化ビニリデン)等のポリマー共重合体などが挙げられる。
【0122】
また電解液中には、更に被膜形成剤を含んでいても良い。被膜形成剤の具体例としては、ビニレンカーボネート、ビニルエチレンカーボネート、ビニルエチルカーボネート、メチルフェニルカーボネート、フルオロエチレンカーボネート、ジフルオロエチレンカーボネートなどのカーボネート化合物、エチレンサルファイド、プロピレンサルファイドなどのアルケンサルファイド;1,3−プロパンスルトン、1,4−ブタンスルトンなどのスルトン化合物;マレイン酸無水物、コハク酸無水物などの酸無水物などが挙げられる。
【0123】
また、被膜形成剤を用いる場合、その含有量は、電解液の構成成分全量(重量)に対して、被膜形成剤を通常10重量%以下、中でも8重量%以下、更には5重量%以下、特に2重量%以下とすることが好ましい。被膜形成剤の含有量が多過ぎると、リチウムイオン二次電池の初期不可逆容量の増加や低温特性、レート特性の低下等、他の電池特性に悪影響を及ぼす場合がある。
【0124】
3.負極
負極は、集電体と負極活物質層とが積層した構造を有し、前述の二次電池用負極とし得る。
【0125】
4.セパレータ
正極と負極との間には通常、電極間の短絡を防止するために、多孔膜や不織布などの多孔性のセパレータを介在させる。セパレータには、例えば、優れたイオン透過性を有する微多孔性フィルムが用いられる。例えば、ガラス繊維シート、不織布、織布などが用いられる。また、耐有機溶剤性と疎水性の観点から、セパレータの材料としては、ポリプロピレン、ポリエチレン、ポリフェニレンスルフイド、ポリエチレンテレフタレート、ポリアミド、ポリイミドなどが用いられる。これらを単独で用いてもよく、2種以上組み合わせて用いてもよい。また、通常は安価なポリプロピレンが用いられるが、リチウムイオン二次電池に耐リフロー性を付与する場合には、この中でも熱変形温度が230℃以上のポリプロピレンスルフィド、ポリエチレンテレフタレート、ポリアミド、ポリイミドなどを用いることが好ましい。セパレータの厚みは、例えば10〜300μmである。また、セパレータの空孔率は、電子やイオンの透過性、セパレータの素材などに応じて適宜決めればよいが、一般的に30〜80%であることが望ましい。
【実施例】
【0126】
以下において、本発明を、実施例を参照してより詳細に説明する。本発明の範囲は、これらの実施例によって限定して解釈されてはならない。本実施例および比較例で用いた略称の内容を示す。
【0127】
(1)溶媒
DMAc :N,N−ジメチルアセトアミド
NMP :N−メチル−2−ピロリドン
DMF :N,N−ジメチルホルムアミド
【0128】
(2)ポリアミド酸(A)および架橋性イミド化合物(B)の構成成分
・ジアミンまたはポリアミン
PDA :p−フェニレンジアミン
ODA :4,4’−ジアミノジフェニルエーテル
APB :1,3−ビス(3−アミノフェノキシ)ベンゼン
DABP :4,4’−ジアミノベンゾフェノン
DADS :4,4’−ジアミノジフェニルスルホン
m−BP :4,4’−ビス(3−アミノフェノキシ)ビフェニル
TrisAPB:1,3,5−トリ(3−アミノフェノキシ)ベンゼン
MDA−CR:下記一般式で表される構造を有するポリアミン
【化27】

【0129】
・酸二無水物
BPDA :3,3’,4,4’-ビフェニルテトラカルボン酸二無水物
PMDA :ピロメリット酸二無水物
BTDA :3,3’,4,4’-ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物
・酸無水物
MA :無水マレイン酸
NDA :5−ノルボルネン−2,3−無水ジカルボン酸(無水ナディック酸)
・シランカップリング剤
APTMOS:3−アミノプロピルトリメトキシシラン
GPTMOS:3−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン
【0130】
・ポリイミド前駆体溶液(ポリアミド酸ワニス(樹脂(A))の調製
【0131】
(製造例1)ポリアミド酸Aのワニスの調製
撹拌機および窒素導入管を備えた容器に、溶媒として261.0gのDMAcを加え、これに20.44gのODAと、16.12gのm−BPとをさらに加えて、20〜30℃で撹拌して溶解させた。次いで、30.84gのPMDAを加え、11.0gのDMAcでフラスコ内部に付着した原料を洗い落とし、50〜60℃に加熱し約1時間撹拌を行った。その後、0.44gのPMDAをさらに加えて、60℃に温度を保ちながら約4時間撹拌を行い、ポリアミド酸A−1のワニスを得た。
【0132】
別の撹拌機および窒素導入管を備えた容器に、溶媒として263.0gのNMPを加え、19.62gのPDAを加えて、20〜30℃で撹拌して溶解させた。その後、37.0gのBPDA、11.06gのPMDAをさらに加え、10.0gのNMPにてフラスコ内部に付着した原料を洗い落とし、50〜60℃に加熱し約4時間撹拌を行い、ポリアミド酸A−2のワニスを得た。
そして、別の撹拌機および窒素導入管を備えた容器に、前述のポリアミド酸A−1のワニスとポリアミド酸A−2のワニスとを、(A−1):(A−2)=93:7の重量比で混合し、50〜60℃に加熱して約4時間撹拌を行い、ポリアミド酸Aのワニスを得た。得られたポリアミド酸Aのワニスは、ワニス全量に対するポリアミド酸の含有量が17.5重量%であり、25℃でのE型粘度は30000mPa・s、対数粘度は0.90dl/gであった。
【0133】
(製造例2)ポリアミド酸Bのワニスの調製
撹拌機および窒素導入管を備えた容器に、20.55gのPDAと、溶媒として301gのNMPとを装入し、溶液の温度を50℃に昇温してPDAが溶解するまで撹拌した。溶液の温度を室温まで下げた後、55.34gのBPDAを約30分かけて投入し、129gのNMPをさらに加えて、20時間攪拌してポリアミド酸Bのワニスを得た。得られたワニスは、ワニス全量に対するポリアミド酸の含有量が13.7重量%であり、対数粘度は1.3dl/gであった。
【0134】
(製造例3)ポリアミド酸Cのワニスの調製
撹拌機および窒素導入管を備えた容器に、58.47gのAPBと、溶媒として300gのNMPとを装入し、APBが溶解するまで撹拌した。その後、63.80gのBTDAと67gのNMPとを加えて、20時間攪拌した。反応終了後、93gのNMPをさらに加えて希釈攪拌し、ポリアミド酸Cのワニスを得た。得られたワニスは、ワニス全量に対するポリアミド酸の含有量が19.8重量%であり、対数粘度は1.3dl/gであった。
【0135】
(製造例4)ポリアミド酸Dのワニスの調製
撹拌機および窒素導入管を備えた容器に、73.69gのm−BPと、溶媒として300gのNMP117gのNMPをさらに加えて希釈攪拌し、ポリアミド酸Dのワニスを得た。得られたワニスは、ワニス全量に対するポリアミド酸の含有量が18.8重量%であり、対数粘度は1.2dl/gであった。
【0136】
(製造例5)ポリアミド酸ワニスA−Aの調製
プラスチック製の容器に、ポリアミド酸ワニスA42.5gとAPTMOS0.227gおよびNMP8.37gを入れ混練機を用いて混ぜ合わせることにより、シランカップリング剤を含むポリアミド酸A−Aのワニスを得た。得られたワニスは、ワニス全量に対するポリアミド酸の含有量が15.0重量%であった。
【0137】
(製造例6)ポリアミド酸ワニスA−Gの調製
プラスチック製の容器に、ポリアミド酸ワニスA42.5gとGPTMOS0.299gおよびNMP8.78gを入れ混練機を用いて混ぜ合わせることにより、シランカップリング剤を含むポリアミド酸A−Gのワニスを得た。得られたワニスは、ワニス全量に対するポリアミド酸の含有量が15.0重量%であった。
【0138】
(製造例7)ポリアミド酸ワニスC−Aの調製
プラスチック製の容器に、ポリアミド酸ワニスC42.5gとAPTMOS0.156gおよびNMP14.4gを入れ混練機を用いて混ぜ合わせることにより、シランカップリング剤を含むポリアミド酸C−Aのワニスを得た。得られたワニスは、ワニス全量に対するポリアミド酸の含有量が15.0重量%であった。
【0139】
(製造例8)ポリアミド酸ワニスC−Gの調製
プラスチック製の容器に、ポリアミド酸ワニスC42.5gとGPTMOS0.205gおよびNMP14.7gを入れ混練機を用いて混ぜ合わせることにより、シランカップリング剤を含むポリアミド酸C−Gのワニスを得た。得られたワニスは、ワニス全量に対するポリアミド酸の含有量が15.0重量%であった。
【0140】
・架橋性イミド化合物(B)の合成
【0141】
(製造例9)イミド化合物1の合成
撹拌機、窒素導入管、ディーンスターク、冷却器および温度計を備えたフラスコに、14.6g(50.0mmol)のAPB、および溶媒としてDMF120.0gを装入し、窒素ガスを通じながら攪拌溶解した。この溶液に、10.8g(110mmol)のMAを加え、室温にて一晩攪拌した。その後、触媒としてp-トルエンスルホン酸一水和物(以下PTS)0.951g(5.00mmol)及び脱水共沸溶媒としてトルエン60gを装入し、共沸攪拌を6時間実施した。この際、トルエンと水との蒸発が生じ、それらの一部は冷却器にて凝縮した。ディーンスタークにトラップされた水とトルエンとを分離した後、トルエンのみ系内に還流し、一部は窒素ガスの流通により、冷却管上部から系外へ留去した。
【0142】
反応混合物を冷却後、エバポレーターにてトルエンを留去した。その後、得られた溶液を1%重曹水に投入して過剰に用いた無水マレイン酸およびPTSを除去した。得られた粗生成物をDMFに溶解し、メタノールを加えて再沈殿させ、析出物を濾取・乾燥した。この操作を3回繰り返し、下記式で示されるイミド化合物1を得た(収率70%)。
【化28】

【0143】
(製造例10)イミド化合物2の合成
撹拌機、窒素導入管、ディーンスターク、冷却器および温度計を備えたフラスコに、14.6g(50.0mmol)のAPBおよび溶媒としてDMAc180gを装入し、窒素ガスを通じながら攪拌溶解した。この溶液に18.1g(110mmol)のNDAを加え、室温にて一晩攪拌した。その後、触媒としてPTS0.951g(5.00mmol)および共沸脱水溶媒としてトルエン90.0gを装入し、共沸攪拌を6時間実施した。この際、トルエンと水との蒸発が生じ、それらの一部は冷却器にて凝縮してディーンスタークにて水とトルエンとを分離した後、トルエンのみ系内に還流し、一部は窒素ガスの流通により、冷却管上部から系外へ留去した。
【0144】
反応混合物を冷却後、エバポレーターにてトルエンを留去した。その後、得られた溶液を3%重曹水に投入し3時間攪拌後、析出物を濾取、水洗後、乾燥し粗生成物を得た。アセトンから再結晶することにより精製し、下記式で表されるイミド化合物2を得た(収率81%)。
【化29】

【0145】
(製造例11)イミド化合物3の合成
原料のジアミン化合物をAPBからODAに変更した以外は製造例9と同様の操作にて、下記式で表されるイミド化合物3を得た。
【化30】

【0146】
(製造例12)イミド化合物4の合成
原料のジアミン化合物をAPBからm−BPに変更した以外は製造例9と同様の操作にて、下記式で表されるイミド化合物4を得た。
【化31】

【0147】
(製造例13)イミド化合物5の合成
原料のジアミン化合物をAPBからDABPに変更した以外は製造例9と同様の操作にて、下記式で表されるイミド化合物5を得た。
【化32】

【0148】
(製造例14)イミド化合物6の合成
原料のジアミン化合物をAPBからDADSに変更した以外は製造例9と同様の操作にて、下記式で表されるイミド化合物6を得た。
【化33】

【0149】
(製造例15)イミド化合物7の合成
撹拌機、窒素導入管、ディーンスターク、冷却器および温度計を備えたフラスコに、TrisAPB20.0g(50.0mmol)、および溶媒としてDMFを30.0g、脱水共沸溶媒としてトルエン75.0gを装入し、窒素ガスを通じながら攪拌溶解した。この溶液に、MA16.2g(165mmol)を加え、室温にて一晩攪拌した。その後、触媒としてp-トルエンスルホン酸一水和物(以下PTS)0.951g(5.00mmol)を装入し、130℃まで加熱し8時間反応させた。この際、トルエンと水との蒸発が生じ、それらの一部は冷却器にて凝縮した。ディーンスタークにトラップされた水とトルエンとを分離した後、トルエンのみ系内に還流し、一部は窒素ガスの流通により、冷却管上部から系外へ留去した。
【0150】
得られた反応混合物を冷却後、水で抽出洗浄して過剰に用いた無水マレイン酸およびPTSを除去した。得られた有機層を濃縮・乾燥して粗生成物を得た。その後、粗生成物をDMF68.0gに溶解し、メタノール210gを加えて再沈殿させ、析出物を濾取・乾燥した。この操作を3回繰り返し、16.2gの下記式で表されるイミド化合物7を得た(収率47%)。
【化34】

【0151】
(製造例16)イミド化合物8の合成
撹拌機、窒素導入管、ディーンスターク、冷却器および温度計を備えたフラスコに、TrisAPB 12.0g(30.0mmol)および溶媒としてDMAc180gを装入し、窒素ガスを通じながら攪拌溶解した。この溶液にNDA19.2g(117mmol)を加え、室温にて一晩攪拌した。その後、触媒としてPTS1.71g(9.00mmol)および共沸脱水溶媒としてトルエン90.0gを装入し、160℃まで加熱し8時間反応させた。この際、トルエンと水との蒸発が生じ、それらの一部は冷却器にて凝縮してディーンスタークにて水とトルエンを分離した後、トルエンのみ系内に還流し、一部は窒素ガスの流通により、冷却管上部から系外へ留去した。
【0152】
反応混合物を冷却後、エバポレーターにてトルエンを留去した。その後、得られた溶液を3%重曹水に投入し3時間攪拌後、析出物を濾取、水洗後、乾燥し粗生成物を得た。メチルエチルケトンから再結晶することにより精製し、下記式で表されるイミド化合物8を得た(収率81%)。NMRより構造確認を行った。
【化35】

【0153】
(製造例17)イミド化合物9の合成
撹拌機、窒素導入管、ディーンスターク、冷却器および温度計を備えたフラスコに、下記一般式で表される構造を有するMDA−CR 10.1g(0.1mol)、および溶媒としてDMAc200gを装入し、窒素ガスを通じながら攪拌して溶解させた。この溶液に、NDA21.34(0.13mol)を加え、氷冷下、1時間、その後、室温にて12時間撹拌した。その後、触媒としてp-トルエンスルホン酸一水和物(以下PTS)1.90g(0.01mol)および共沸脱水溶媒としてトルエン100gを装入し、160℃まで加熱し8時間反応させた。この際、トルエンと水との蒸発が生じ、それらの一部は冷却器にて凝縮してディーンスタークにて水とトルエンを分離した後、トルエンのみ系内に還流し、一部は窒素ガスの流通により、冷却管上部から系外へ留去した。
【0154】
反応混合物を冷却後、エバポレーターにてトルエンを留去した。その後、得られた溶液を3%重曹水に投入し3時間攪拌後、析出物を濾取、水洗後、乾燥することにより、下記一般式で表されるイミド化合物9を得た(収率98%)。
【化36】

【0155】
(実施例1)
(1)バインダー原料溶液の調製
製造例1で調製したポリアミド酸ワニスA 100重量部と、製造例9で合成したイミド化合物1 12.5重量部とを、混練機を用いて混ぜ合わせ、バインダー原料溶液を調製した。
【0156】
(2)引張弾性率の測定
得られたバインダー原料溶液をガラス板にキャストし、窒素雰囲気下330℃で2時間焼成した。この積層板を水に浸漬してバインダー樹脂組成物からなるフィルムを剥がし、引張弾性率を測定した。引張弾性率は、島津製作所社製小型卓上引張試験機EZ−Sシリーズを用い、引張速度30mm/minで測定し、1%ひずみにおける弾性率を算出した。結果を表1または表2に示す。
【0157】
(3)負極の作製
負極活物質としてシリコン粒子(高純度化学社製、平均粒径5μm)と、上記バインダー原料溶液と、導電材として黒鉛粉末(電気化学工業社製、デンカブラックHS−100)とを、それぞれNMPを分散溶媒として均一に混合して電極ペーストを調製した。得られた電極ペーストにおけるシリコン粒子、バインダー原料溶液、黒鉛粉末の重量比は、85:10:5とした。
【0158】
この電極ペーストを、集電体としての銅箔(日本製箔社製圧延銅箔、厚さ:18μm)にアプリケータを用いて塗布し、窒素雰囲気下で330℃、30分間熱処理を行って硬化させて負極活物質層とした。この時、集電体上の負極活物質層の熱処理後の厚みはおよそ50μmになるよう電極用ペーストの濃度および塗布量を調節した。
【0159】
(4)剥離強度の測定
上記で得られた負極における負極活物質層の剥離強度を測定した。剥離強度は、ダイプラウィンテス社製SAICASを用い、切刃の刃幅2mm、負極活物質層表面からの切込み量10μm、切刃の水平速度8μm/secで測定した。
結果を表1に示す。
【0160】
(実施例2〜30)
バインダー原料溶液の組成を表1または表2に記載した種類および配合量に変更した以外は、実施例1と同様にして、弾性率の測定、負極の作製、剥離強度の測定を実施した。結果を表1または表2に示す。
【0161】
(比較例1〜4)
バインダー原料溶液を調製するにあたり、架橋性イミド化合物を添加せずに、製造例1〜4で調製したポリアミド酸A〜Dをそのまま使用したこと以外は、実施例1と同様にして弾性率の測定、負極の作製、剥離強度の測定を実施した。結果を表1または表2に示す。
【表1】

【表2】

【0162】
表1に示されるように、アンカー効果の低い構造を有するポリアミド酸Aに、架橋性イミド化合物(B)を配合したバインダー樹脂組成物の硬化物(実施例1〜3、及び6〜13)では、ポリアミド酸Aの硬化物のみをバインダー樹脂とした場合(比較例1)と比較して、剥離強度が向上した。これは、熱可塑性の低い(アンカー効果の低い)構造を有する樹脂(A)に、架橋性イミド化合物(B)を配合したことで、バインダー樹脂の熱可塑性が高まり(アンカー効果が発現し)、活物質の結着性が高まったためであると解される。
【0163】
また同様に、熱可塑性の低い(アンカー効果の低い)構造を有するポリアミド酸Bにも、架橋性イミド化合物(B)を配合したバインダー樹脂組成物の硬化物(実施例4及び5)はアンカー効果が発現し、ポリアミド酸Bの硬化物のみをバインダー樹脂とした場合(比較例2)と比較して、剥離強度が向上した。
【0164】
また、表2に示されるように、熱可塑性が比較的高いポリアミド酸Cに、架橋性イミド(B)を配合したバインダー樹脂組成物の硬化物(実施例16〜18、及び21〜28)では、ポリアミド酸Cの硬化物のみをバインダー樹脂とした場合(比較例3)と比較して、剥離強度が過度に低下することなく、機械的強度が向上(弾性率が向上)した。実施例16〜18、及び21〜28の硬化物では、架橋性イミド化合物(B)がバインダー樹脂内で架橋することで、弾性率が向上したと考えられる。実施例16〜18、及び21〜28では、剥離強度が過度に低下しておらず、さらに弾性率が高い。これにより、二次電池用負極を二次電池に用いた際、活物質が脱離し難く、サイクル特性が向上する。
【0165】
また同様に、熱可塑性が比較的高いポリアミド酸Dに、架橋性イミド化合物(B)を配合したバインダー樹脂組成物の硬化物(実施例19及び20)は、ポリアミド酸Dの硬化物のみをバインダー樹脂とした場合(比較例4)と比較して、剥離強度が過度に低下することなく、機械的強度が向上(弾性率が向上)した。実施例19及び20では、剥離強度が過度に低下しておらず、さらに弾性率が高い。これにより、二次電池用負極を二次電池に用いた際、活物質が脱離し難く、サイクル特性が向上する。
【産業上の利用可能性】
【0166】
本発明の樹脂組成物からなる非水系二次電池用バインダー樹脂組成物は、結着性に優れ、サイクル特性に優れているため、特に活物質としてSiを含む負極の非水系二次電池用バインダーとして好適に用いられる。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリイミドまたはその前駆体からなる樹脂(A)と、
下記一般式(1)〜(3)のいずれかに表される構造を有する架橋性イミド化合物(B)と
を含む、リチウム二次電池用バインダー樹脂組成物。
【化1】

(一般式(1)中、nは0以上の整数である。
一般式(3)中、mは0以上10以下の実数を示し、異なるmを有する化合物の混合物であってもよい。
一般式(1)〜(3)中、Xは一分子内でそれぞれ独立に同一であっても異なっていてもよく、O、SO、S、CO、CH、C(CH、C(CFまたは直結を示す。
は、一分子内でそれぞれ独立に同一であっても異なっていてもよく、水素原子、ハロゲン原子、炭化水素基を表し、それぞれベンゼン環の置換位置は相互に独立である。
Yは、それぞれ独立に同一であっても異なっていてもよく、下記一般式で表される基である。
【化2】

〜Rはそれぞれ、水素原子、ハロゲン原子または炭素数1〜3のアルキル基を表し;Rは、−O−、−S−、−CH−、−C(CH−または−CO−を表し;Rは、水素原子またはフェニル基を表す。)
【請求項2】
前記樹脂(A)100重量部に対し、前記架橋性イミド化合物(B)を、1重量部以上150重量部以下含有する、請求項1に記載のリチウム二次電池用バインダー樹脂組成物。
【請求項3】
前記一般式(1)で表される架橋性イミド化合物(B)が、下記一般式(4)で表される化合物である、請求項1または2に記載のリチウム二次電池用バインダー樹脂組成物。
【化3】

(一般式(4)中、nは0〜3の整数であり、X及びYは前述の一般式(1)におけるX及びYと同義である。)
【請求項4】
前記一般式(4)で表される架橋性イミド化合物(B)が、下記一般式(5)〜(10)のいずれかで表される化合物である、請求項3に記載のリチウム二次電池用バインダー樹脂組成物。
【化4】

(一般式(5)〜(10)中、Yは一般式(4)におけるYと同義である。)
【請求項5】
前記一般式(2)で表される架橋性イミド化合物(B)が、下記一般式(11)で表される化合物である、請求項1または2に記載のリチウム二次電池用バインダー樹脂組成物。
【化5】

(一般式(11)中、Yは一般式(2)におけるYと同義である。)
【請求項6】
前記一般式(3)で表される架橋性イミド化合物(B)が、下記一般式(12)で表される化合物である、請求項1または2に記載のリチウム二次電池用バインダー樹脂組成物。
【化6】

(一般式(12)中、mは0以上10以下の実数を示し、異なるmを有する化合物の混合物であってもよい。Yは、一般式(3)におけるYと同義である。)
【請求項7】
前記一般式(1)〜(12)中のYが、下記一般式で表される、請求項1〜6のいずれか一項に記載のリチウム二次電池用バインダー樹脂組成物。
【化7】

【請求項8】
請求項1〜7のいずれか一項に記載のリチウム二次電池用バインダー樹脂組成物と、ケイ素原子、スズ原子またはゲルマニウム原子を含むリチウムイオン電池負極活物質と、溶剤とを含む、電極ペースト。
【請求項9】
リチウムイオンを吸蔵・放出可能な正極及び負極、並びに電解液を備えたリチウムイオン二次電池であって、
前記負極が、請求項8に記載の電極ペーストの硬化物層である、リチウムイオン二次電池。


【公開番号】特開2013−58361(P2013−58361A)
【公開日】平成25年3月28日(2013.3.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−195425(P2011−195425)
【出願日】平成23年9月7日(2011.9.7)
【出願人】(000005887)三井化学株式会社 (2,318)
【Fターム(参考)】