説明

リチウム抽出方法及び金属回収方法

【課題】
煩雑な工程を使用せず、かつ、比較的簡便な設備によって、リチウムイオン電池からリチウムを回収する方法を提供する。
【解決手段】
リチウムとコバルトを含むリチウムイオン電池の正極材からリチウムを抽出するリチウム抽出方法において、正極材を酸性溶液に50℃以下で浸漬して、酸性溶液中にコバルトイオンの滲出を抑えながらリチウムイオンを選択的に滲出させ、正極材のリチウムの含有量が十分なうちにリチウムイオンの滲出を止めることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電池から金属を簡便に回収する金属回収技術に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、電子機器の携帯化が進むにつれて2次電池の使用量が急激に増大している。携帯電話や携帯型音楽プレイヤーなどの比較的小電力の機器に限らず、電動工具、電動自転車、電気自動車などの高出力を要する機器へも2次電池の適用が広がるに至り、高エネルギー密度が得られるリチウムイオン電池に注目が集まっている。高出力機器への適用が増えたことにより、使用済み電池からの有価物回収の必要性が高まっており、リチウムイオン電池からの有価金属を回収するためのさまざまな技術が提案されている。
【0003】
例えば、非特許文献1には、リチウムイオン電池のリサイクル技術が特集されており、リチウムイオン電池を構成する有価金属類を回収する方法が系統的に説明されている。非特許文献1に掲載された典型的なリサイクル方法によると、例えば、使用済みリチウムイオン電池は開封・解体・粉砕などの機械的な処理の後に、酸滲出によって有価金属を滲出させ、そこから、所望成分毎の溶解特性の差を利用して、成分毎に分別して沈殿形成させる、あるいは所望成分を優先的に溶媒抽出するなどの処理によって所望成分毎に分別回収される。
【0004】
また、特許文献1には、酸滲出によって得られる有価金属を滲出した液を陰極液とし、陽イオン交換膜を隔膜とする隔膜電解法を用いてCuおよびCoを回収する技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特許第3675392号公報
【特許文献2】特許第3980526号公報
【特許文献3】特開平11−292533号公報
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】Jinqiu Xu et al.,“A review of processes and technologies for the recycling of lithium‐ion secondary batteries”,Journal of Power Sources,vol.177,pp.512‐527(2008)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
非特許文献1においては、さまざまな工夫により有価物の回収率向上と回収物の高純度化の両立を目指しているが、工程が煩雑であるうえ、多量の廃電池を処理するには莫大な設備投資が必要という点で改善の余地が大きい。
【0008】
また、特許文献1は、具体的には、陽イオン交換膜が有するイオン選択特性を利用した設備(特許文献1の図2に示す隔膜電解槽)と陰イオン選択膜の陰イオン選択性を利用した拡散透析設備(説明図なし)を用いる。より具体的に説明すると、隔膜電解によるCuの電析回収→pH調整→隔膜電解によるCoの電析回収→pH調整→Fe(OH)およびAl(OH)の沈殿回収→炭酸塩添加によるLiCO回収という一連の処理により主要有価金属を回収できる。この技術によると、Cu(2価イオン)およびCo(3価イオン)を電気化学的に還元して回収するので高純度な金属を得ることができるが、多量の廃電池を処理する場合には莫大な電気量の印加が必要という点で改善の余地がある。
【0009】
例えば、約100kgのCoを回収するためには、1アンペアの電流を約100時間流し続ける必要があるが、その前にCuの電析でもほぼ同等の電気量を印加するのであるから、隔膜電解だけで全ての金属を回収することは案外な手間を要する。さらに、多段のpH調整を経るごとに液量が増大するために一連の処理の最終段階でLiCOを回収する際にはLiの濃度が低下しており、炭酸塩を添加してもLiの回収率は必ずしも高くならないと考えられる。これは、炭酸リチウムの飽和溶解度は20℃で1.3wt%もあるので液量が多くなるほど未回収成分が増えるためである。これを避けるためには濃縮工程を追加するなどの処理が必要である。さらに、Fe(OH)やAl(OH)は弱酸性〜中性の水溶液中でゲル状化しやすい傾向があるため、上記特許文献1の技術に基づいてFe(OH)やAl(OH)を濾別回収する工程の操作は容易ではなく、一方、濾別操作を容易化するために液を希釈するとLiの回収率が低下する。また、Fe(OH)やAl(OH)のゲル状沈殿の表面はLiイオンを吸着する特性もあるので、この観点でもLi回収率を大幅に改善することは難しい。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本願において開示される発明のうち代表的なものの概要を簡単に説明すれば次のとおりである。
【0011】
本発明は、リチウムと遷移金属元素とを含む正極材からリチウムを選択的に滲出させ、コバルトに対するリチウムの滲出量の割合が大きいうちに滲出を停止させることを特徴とする。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、リチウムイオン電池からリチウムを簡便に高効率に回収する方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明の実施例に係る滲出液の組成および各組成の滲出液のLi/Co比である。
【図2】本発明に係る実施例1の有価金属を回収するための工程フロー概略である。
【図3】酸滲出処理のリチウムイオンと硫酸の濃度比の例である。
【図4】本発明に係る実施例2の有価金属を回収するための工程フロー概略である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明を実施するための形態を説明する。なお、図を用いて説明する場合には図面を構成する各部品にはそれぞれ符号を付して説明を施すが、同一機能の場合には符号や説明を省略する場合がある。また、図中に示した各部品の寸法は実際の部品寸法を反映した縮尺には必ずしも一致していない場合がある。
【実施例1】
【0015】
本実施例の有価金属回収方法の概略について図2を用いて説明する。図2は、本実施例の廃リチウム電池(以下、廃電池)から有価金属を回収するための概略の工程フローである。まず始めに廃電池を解体(S101)して得られる各構成部材を部材毎に分別(S102)し、有価金属を高濃度で含有する電極活物質のみを取り出す。こうして取り出した電極活物質をLi選択滲出液で処理(Li選択滲出;S103)してLiが滲出した溶液とする。このLi選択滲出液と非滲出分と固液分離する(S104)。Liを含むA液(S105)に炭酸塩を混合すれば炭酸リチウムLiCOとしてLiを回収することができる(S106)。遷移金属が相対的に濃縮されたB(S107)は、まだ固体なので酸溶解させた後にpH調整するだけの簡便な操作により、遷移金属が水酸化物として析出・沈降するのでこれを濾別回収(S108)する。この一連の操作により、廃電池からの有価金属類および過剰の酸をそれぞれ回収することができる。
【0016】
以下、図2に示す工程に従って有価金属回収フローをさらに詳しく説明する。
【0017】
廃電池から有価金属を回収するためには、まず電池を解体する必要があるが、解体に先立ち、電池内には電荷が残っている可能性があるので放電する。本実施例では、電解質を含有する導電性液体中に電池を浸漬することによって電池内に残っている電荷を放電させる。
【0018】
この放電操作により、電池内に分散しているLiイオンを正極活物質内部に濃縮させることができるので、Li回収量を最大化できる。また、Liが特定の結晶構造にとりこまれている状態を確保することにより滲出処理におけるLi選択性が最大となる。正極活物質がLiCoOの場合、完全充電状態ではLi0.4CoO、完全放電状態ではLiCoOと言われているので、上記放電処理を省略すると最大で6割程度のLi回収ロスとなる危険性がある。もちろん、放電により安全性が確保できる利点もある。
【0019】
本実施例においては、電解質を含有する導電性液体として硫酸/γブチロラクトン混合溶液を用いた。この混合溶液中では硫酸が電解質として作用するので硫酸濃度を調節することによって導電率(抵抗値の逆数)を調整することができる。本実施例では、放電槽の右端〜左端までの溶液の電気抵抗を実測したところ100kΩであった。溶液の抵抗値が小さすぎると放電が急速に進みすぎて危険であるし、逆に、抵抗値が大きすぎると放電に時間がかかりすぎて実用性が低下する。本実施例では、溶液抵抗が1k〜1000kΩ程度の範囲にあることが望ましく、この抵抗値範囲に入るように電解質濃度を調整すると良い。
【0020】
ここで、本実施例の廃電池としては、所定の充放電回数の限界に達して充電容量が低下してしまったいわゆる使用済み電池の他に、電池製造工程内での不具合などで発生する半製品、製品仕様変更に伴って発生する旧型式在庫整理品なども含む。
【0021】
S101にて放電処理後の廃電池を解体する。適当な方法を用いて筐体、パッキン・安全弁、回路素子類、スペーサ、集電体、セパレータ、正極および負極の電極活物質などの放電処理後の廃電池の電池構成部材をそれぞれ部材毎に解体分別する。
【0022】
なお、廃リチウムイオン電池は内部にガスが充満して加圧状態になっていることが多いので、作業安全上の配慮が必要であることは言うまでも無い。本実施例では、上記の電解質を含有する導電性液体に浸漬した状態で冷却しながら湿式粉砕した。冷却下での湿式粉砕を採用したことにより、電池内部に充満しているガスを大気中に飛散させることなく安全に破砕することができた。
【0023】
また、集電体表面に塗工・成形された正極活物質および負極活物質をそれぞれの集電体表面からの剥離を促進するために、上記電解質を含有する導電性液体の組成を調整することは差し支えない。尚、放電工程に使用する導電性液体では導電性が留意すべき特性であり、湿式粉砕工程に使用する導電性液体では粘度や誘電率が留意すべき特性である。放電工程と湿式粉砕工程では要求仕様が異なるので、工程毎に使用する導電性液体の組成を換えても良いが、その場合には2種類以上の導電性液体を準備する必要がある。本実施例では、簡便化や手間・コストの抑制の観点から、同一の組成とした。
【0024】
本実施例で使用可能な湿式粉砕法としては、例えばボールミルなどの方法があるが、かならずしもこれに限るわけではない。粉砕する前に焙焼工程なしとすると、コバルト酸リチウムとバインダーのポリフッ化ビニリデン(PVDF)が混入せず、リチウムとコバルトを純度よく回収できる。焙焼工程によりPVDFが分解し、正極材を撥水化させるフッ素含有化合物を発生させるからである。正極材が撥水化してしまうと、後述のリチウム抽出工程に影響を与えてしまう。筐体、パッキン・安全弁、回路素子類、スペーサ、集電体、セパレータ、電極活物質などの構成部材のうち、正極の電極活物質(以下正極活物質)と負極の電極活物質(負極活物質)が優先的に破砕する条件で破砕した後に、篩い分け処理を施す。これにより、正極活物質と負極活物質は篩い下、それ以外の部材は篩い上に分別回収される(S102)。
【0025】
本実施例においては篩い分けを用いたが、もともと湿式にて粉砕しているのであるから、湿式粉砕によって得られたスラリーをそのまま比較的目の粗いフィルターを用いて濾別処理にて分別することもできる。湿式粉砕〜濾別の連続処理を導入することにより、回収率が向上する可能性もある。尚、筐体、パッキン・安全弁、集電体(アルミ箔、銅箔)などは、正極活物質(典型的にはLiCoO)や負極活物質(典型的にはグラファイト)よりも延展性が大きく、従って破断強度も大きい。この特性のために、電極活物質の破砕物はそれ以外の部材から得られる破砕物よりもサイズが小さくなり、その結果として、篩い分けあるいは濾別によって容易に分別回収することができる。
【0026】
上記処理によって得られた篩い下物に滲出処理を行う(S103)。
【0027】
本実施例で用いた滲出液は、図1に例示したとおりである。本実施例で使用した廃電池の正極活物質はLiCoOを主成分とするリチウム化合物であるが、リン酸鉄やニッケル、マンガンなど他組成の正極活物質を含んでいても構わない。
【0028】
本実施例で使用できる鉱酸としては、濃硫酸(90%〜98%)に、酸化還元調節剤として過酸化水素水添加を添加したものを用いる。リチウムとの分離が困難なリチウム以外のアルカリ金属類(ナトリウム、カリウム、ルビジウム、セシウム)を含有する鉱酸は使わないものとする。リチウム化合物の種類や組成、処理量、処理時間、コストなどを考慮して、これらの中から適宜選択できる。
【0029】
酸滲出処理では、HSOとLiCoOとHとが反応することにより、LiSO、CoO、CoSOが生成すると考えられる。この反応は、2段階に分かれている。1段階目では、結晶構造を維持したまま、正極材中のリチウムイオンと溶液中のプロトンがイオン交換される。2段階目では、正極材の結晶構造からのリチウム溶出量が大きくなったために、結晶構造が崩壊し始める。このときにイオン溶出の挙動が変化し、コバルトイオンも溶出しやすくなる。よって、結晶構造が崩壊する前にリチウムを溶解させ、結晶構造が崩壊してコバルトの溶出が大きくなる前に溶解反応を停止するさせることが重要である。
【0030】
本実施例では、正極材に硫酸と過酸化水素を作用させると、反応エネルギーによる反応容易性から、まずリチウムイオンが溶液中に滲出し、その後にコバルトイオンが滲出する。リチウムイオンが滲出し、コバルトイオンが滲出する前に滲出処理を停止すれば、コバルトイオン濃度に対するリチウムイオン濃度が高いように選択酸溶解することができる。本実施例では、Li選択滲出工程の反応条件を制御することにより選択酸滲出させるのであるが、リチウムイオンの反応率は最大で80%以下(残量が20%以上)となる範囲で滲出を停止させる。実用的には誤差を考慮すると、好ましくは、70〜75%程度(残量25〜30%)の反応率でで停止させると、コバルトの溶出を抑えることができる。80%を越えるとLi選択滲出反応における選択比が劣化する危険性が高まり、70%を下回れば回収率が低下して経済性を損なう。
【0031】
また、温度は50℃以下で行う。硫酸の作用により、リチウムイオンは硫酸リチウム(LiSO)として滲出するとともに、コバルトイオンは硫酸コバルト(CoSO)として滲出する。リチウムイオンが滲出するための活性化エネルギーと、コバルトイオンが滲出するための活性化エネルギーとでは、前者の方が著しく小さいことにより、リチウムイオンが先に滲出する。この反応選択性は、低温のほうが顕著に現れる。高温の場合には、熱エネルギーが豊富であり活性化エネルギーの大小による反応選択性の影響が小さいからである。
【0032】
また、硫酸リチウムは、低温になるにつれ溶解度が大きくなり、硫酸コバルトは高温になるにつれ溶解度が大きくなるので、50℃以下の低温で処理を行うことによりリチウムの選択溶解を高めることができる。硫酸コバルトの溶解量が小さければ、それを形成するコバルトイオンの滲出量も少ないからである。また、イオンの溶解速度が遅いので、安定して溶解しやすいリチウムイオンを先に溶解させることができる。
【0033】
用いる硫酸としては、濃硫酸(90%以上)であることが望ましい。希硫酸は強酸として働くので、リチウムとコバルトとをともに速い速度で溶解させる。一方で濃硫酸は、遊離する酸の量が少なく、強酸としては働かない。そのため、濃硫酸を用いた場合(90%硫酸を用いて若干の希釈をした場合も)、希硫酸ほどの強酸としての働きがないため、金属イオンの溶解速度が遅くなり、リチウムとコバルトの溶解速度を制御しやすい。
【0034】
また、希硫酸であっても、pHの小さい溶液に対しては、硫酸イオンを有する硫酸コバルトの溶解量が小さくなり、リチウムイオンの選択溶解性が高くなる。特に、酸滲出処理中のリチウムイオンと硫酸の濃度比が7以下となるように、硫酸の濃度、量、リチウムの添加量を調整することが望ましい。この濃度比の範囲では、選択溶解性が高いからである。図3に酸浸出処理中のリチウムイオンと硫酸の濃度比の例を記す。比較例1(特許文献2)及び比較例2(特許文献3)のように酸浸出処理中のリチウムイオンと硫酸の濃度比が、本実施例と比較して桁違いに大きな値である場合には、Li/Co比は低い値をとる。
【0035】
過酸化水素は、溶解により上がった酸溶液中の電位を調整するために、酸化還元調整剤として用いる。電位が所定の範囲から外れてしまうと、選択溶解性に影響を与えてしまうからである。
【0036】
また、電池解体の焙焼工程を経ずに滲出工程を行うと、前述のようにバインダーのPVDFに起因する物質により正極材表面が撥水化して、選択溶解が起こらないという事態を回避できる。
【0037】
本実施例では使用済みデジタルカメラ用リチウムイオン電池を解体して得られた酸滲出液のLi/Co濃度比を図1に示す。処理は以下のように行った。
【0038】
まず、廃リチウムイオン電池に粉砕および篩い分け処理を施して、筐体、パッキン・安全弁、回路素子類、セパレータ、集電体などをあらかじめ除去した後に、鉱酸を用いてリチウムイオン電池を構成している有価金属類を酸滲出(溶解)する。本実施例で用いたLi選択滲出液を図1に示す。室温で、1時間攪拌した後、遠心分離機で、15000rpm、20℃、15分間、遠心分離して上澄みと残渣に分けて滲出反応を停止させ、上澄み液を回収する。
【0039】
本実施例では、コバルト酸リチウム等の正極活物質からのLi滲出反応を簡便に停止させるための固液分離処理として、遠心分離を使用した。
【0040】
滲出液に用いる酸としては硝酸、硫酸、塩酸を用いた。これらの酸に、メタノール、過酸化水素などの酸化還元電位調節剤を添加した。酸化還元電位調節剤を添加しておくことにより、酸滲出が安定し、回収量が増大する効果がある。滲出時間は、最長でも2時間以下が望ましく、さらに好ましくは、約1時間程度である。1時間を大きく下回る短時間、たとえば15分間の滲出では、回収率が少なくなりやすい。リチウムイオンが滲出除去された正極活物質の結晶構造は、強酸に対して安定ではないため、2時間を超えた長時間の滲出処理を行うと、正極活物質の結晶が崩壊して、コバルトの滲出が始まる。その結果として、酸滲出反応におけるLi選択性が低下する。また、非特許文献1に記載された非選択滲出(完全滲出)で採用されている80℃〜90℃に到達しないように滲出液の温度を十分に注意する。本実施例では、室温(15℃〜30℃)が最も好ましいが、最高でも50℃以下とする。50℃を大きく超えると滲出反応においてLi選択性が低下しやすくなる傾向があった。
【0041】
図1は、各溶解条件で、20℃(温水除く)1時間滲出反応を行った結果である。図1に示すように、正極材(LiCoO2)を完全に滲出させた場合(完全溶解)の酸滲出液のLi/Co濃度比は約0.2であった。硫酸のみの場合は、Li/Co濃度比は約1.2、硝酸のみの場合はLi/Co濃度比は約0.8となる。硫酸:過酸化水素=1:1を酸滲出液として選択滲出させたとき、Li/Co濃度比は約1.7となる。上記の選択滲出によって得られる回収液(A)には、Liの他、酸滲出の際に過剰に添加した酸も同時に回収されている。
【0042】
本実施例では、上記の滲出処理が終了した後の残渣は、負極活物質および正極活物質のうちの遷移金属成分である。酸性溶液、負極活物質、正極活物質は、比重が異なることを利用すれば容易に分離できる(図2(S104))。具体的には、滲出液を遠心分離することで分離回収できる。本実施例では、遠心分離法を採用して、15000rpmで、15分処理することにより分離回収したが、回転数はさらに高い方が上澄みの酸性溶液(回収液、Li)、負極活物質(C:カーボン)、正極活物質(Co)の分離が容易である。また、比重差の利用以外で分離回収する方法として、滲出液をろ過することで、上澄み液と残渣(負極活物質及び正極活物質)とに分離回収できる。この場合、さらに残渣を負極活物質と正極活物質とに分離する工程を行うこととなる。
【0043】
Liを含有する上澄み液は、陰イオン交換膜を用いた拡散透析処理や、圧力透析処理、イオン交換樹脂、などの処理を単独、または組み合わせて、または多段階で実施し、さらにLi、Coを分離してもよい。また、陰イオン選択透過膜を用いた透析処理や、溶媒抽出法、アシッドリターデーション法などを用いてさらにLiとCoを分離することもできる。これらの残液から、それぞれの元素毎に分離回収するにはさまざまな方法が使用できるが、隔膜電解法、中和(pH=6〜9)による水酸化物沈殿回収、あるいはこれらを組み合わせた方法を用いることができる。これらの方法を行えば、さらにLi/Coの濃度比を高くすることができる。
【0044】
上記のようにして得たLiの含有割合が大きい回収液(A)をナトリウムを含まない炭酸塩で中和処理すれば、高純度なLiが回収できる(S105)。
【0045】
具体的には、炭酸カルシウムをナトリウムを含まない炭酸塩として添加して炭酸リチウムとして沈殿回収できる。他に電気透析しながらCOガスを吹き込む、などの方法がある。本実施例では遷移金属成分(B)は上記比重差を活用した遠心分離工程によって、Li含有液(A)から分離回収できる(S106)。
【0046】
一方でCoが選択分離された酸滲出液からのCo回収には、まず、S104で分離したものから正極活性材を回収する(S107)。そして、正極材を酸性溶液に浸漬し、コバルトイオンを滲出(または溶出)させる。コバルトイオンが滲出した溶液に、pH調整によって水酸化物としてコバルトを沈殿させ回収する沈殿回収法が使用できる(S108)。遷移金属成分(B)をそれぞれの金属種類別に分別回収するためには、遷移金属成分(B)を酸溶解した後にそれぞれの金属元素の水酸化物の溶解特性差を利用する処理、基本的にはpH調整→沈殿回収の繰り返しによって遷移金属元素種類毎に分別回収できる。正極活物質がLiCoO以外のリチウム化合物を含有する場合、例えば、LiNiO、LiMnO、Li(Ni1/3Co1/3Mn1/3)O、LiCoPO、LiFePO、LiCoPOF、LiFePOF等のオリビン系正極材などの場合も液のpH調整によってCo、Ni、Mn、Feを水酸化物として分別して沈殿回収できる。
【実施例2】
【0047】
図4に、実施例2における金属回収方法のフローチャートを示す。
【0048】
S201〜S202は、実施例1のS101〜S102と同じである。S203において、実施例1と同様に正極材を酸滲出を行った後、上澄み液と残渣に分ける。上澄み液は、リチウムイオンとコバルトイオンとが滲出しLi/Coの比が高い酸性溶液であり、残渣は、負極活性材とイオンが滲出した正極活性材である。これらを遠心分離や濾過などの方法により、上澄み液と残渣に分離する。
【0049】
S204において、残渣をさらに酸性溶液に溶解させることにより、残渣中の正極活性材に含まれているコバルト及びリチウムをイオン化させて酸性溶液中に溶解させる。ここで目的となるのはコバルトとリチウムであるので、炭素からなる負極活性材は溶解前に取り除き、正極活性材のみを溶解させてもよい。こうして、Li/Coの比が低い酸性溶液が生成する。
【0050】
S205においては、S203で得られた上澄み液のリチウムイオンとコバルトイオンとを分離する。分離の方法としては、以下のものがある。
【0051】
陰イオン選択透過膜(透析膜)を用いることにより、リチウムイオンとコバルトイオンとを分離することができる。陰イオン選択透過膜は陰イオンを透過させる膜であるが、リチウムイオンは陽イオンであるにもかかわらず陰イオン選択透過膜を透過する現象が起こる。そのため、陰イオン選択透過膜の面の一方にS203にてイオンを滲出させた酸性溶液を流し、他方の面にリチウムイオンを回収するための回収液(例えば純水)を流すと、酸性溶液からリチウムイオンが透析膜を透過して回収液中に移動する。このとき、コバルトイオンは透析膜を透過せず、酸性溶液中に留まる。このようにして、リチウムイオンを回収液中に、コバルトイオンを酸性溶液中に分離することができる。
【0052】
また、イオン交換樹脂を用いることにより、リチウムイオンとコバルトイオンとを分離することができる。酸性溶液をイオン交換樹脂に通すと、先に酸の塩が溶出し、その後に遅れて酸が溶出するアシッドリターデーションが知られている。このとき、酸の塩としてリチウムイオンとコバルトイオンとを含む場合、最初にコバルトイオンが溶出し、その後にリチウムイオンが溶出し、最後に酸が溶出する。溶出する液体を時間ごとに分ければ、最初に溶出した溶液はコバルトイオン濃度が大きく、その後に溶出した溶液はリチウムイオンが大きくなり、リチウムイオンとコバルトイオンの分離をすることができる。
【0053】
このようにして、上澄み液を、Li/Coの濃度比が高いLi濃縮液と、Li/Coの濃度比が低いCo濃縮液とに分離することができる。
【0054】
S206においては、S204で得られた酸性溶液のリチウムイオンとコバルトイオンとを分離し、Li濃縮液とCo濃縮液とを得る。分離の方法としては、S205と同様の方法を適用可能である。
【0055】
S207においては、S204及びS205で得られたLi濃縮液を回収する。S208においては、S106と同様な方法で、Li濃縮液からリチウムを回収する。
【0056】
S209においては、S204及びS205で得られたCo濃縮液を回収する。S208においては、S108と同様な方法で、Li濃縮液からリチウムを回収する。
【0057】
実施例2では、このようにして、リチウム及びCoを回収する。実施例1に対して、リチウムとCoを分離する工程を加え、得られたLi濃縮液とCo濃縮液とをそれぞれ集めて回収することで、リチウム及びCoの回収率が向上する。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
リチウムとコバルトを含むリチウムイオン電池の正極材からリチウムを抽出するリチウム抽出方法において、
前記正極材を、酸性溶液に50℃以下で浸漬して前記溶液中にリチウムイオンを滲出させる工程と、
前記正極材のリチウムの含有量が前記滲出工程前の前記正極材のリチウムの含有量の30%以上のときに、前記リチウムイオンの滲出を止める工程とを含むことを特徴とするリチウム抽出方法。
【請求項2】
請求項1において、
前記酸性溶液は、硫酸を含むことを特徴とするリチウム抽出方法。
【請求項3】
請求項2において、
前記酸性溶液は、濃硫酸であることをことを特徴とするリチウム抽出方法。
【請求項4】
請求項1または請求項2において、
前記酸性溶液は、酸化還元調整剤を有していることを特徴とするリチウム抽出方法。
【請求項5】
請求項4において、
前記酸化還元調整剤は、過酸化水素であることを特徴とするリチウム抽出方法。
【請求項6】
請求項1乃至5のいずれかに記載のリチウム抽出方法で得られた前記リチウムイオンが滲出した溶液からリチウムを回収する工程と、
請求項1乃至5のいずれかに記載のリチウム抽出方法に用いた正極材からCoを回収する工程とを含む金属回収方法。
【請求項7】
請求項6において、
前記リチウムイオンが滲出した溶液を、さらにリチウムイオンの含有割合が大きい溶液とCoイオンの含有割合が大きい溶液とに分離する工程を含み、
当該分離されたリチウムイオンの含有割合が大きい溶液からリチウムを回収することを特徴とする金属回収方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2012−74247(P2012−74247A)
【公開日】平成24年4月12日(2012.4.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−218083(P2010−218083)
【出願日】平成22年9月29日(2010.9.29)
【出願人】(000005108)株式会社日立製作所 (27,607)
【Fターム(参考)】