説明

リッドの取り付け構造

【課題】係止爪と係止部との係合のみによりリッドを内装パネルに取り付ける構造を採用しながらも,係止爪が係止部から不意に離脱した場合には,リッドが内装パネルから脱落することを防ぎ得るようにする。
【解決手段】内装パネルPの開口部2を閉鎖するリッドLの裏面にそれぞれ係止爪6を有する複数の支持片3を突設する一方,係止爪6が弾性係合することでリッドLの閉鎖状態を保持する複数の係止部19を内装パネルPに設けてなる,リッドの取り付け構造であって,複数の支持片3中,少なくとも一本の支持片3に,その長さを他の支持片3より長くする延長部10を形成し,この延長部10に,係止爪6の全てが対応する係止部19から離脱したとき,対応する係止部19に係合してリッドLの脱落を阻止する補助爪11を設けた。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は,車両の内装パネルに設けられる開口部を閉鎖するリッドの裏面にそれぞれ係止爪を有する複数の支持片を突設する一方,前記係止爪が弾性係合することでリッドの閉鎖状態を保持する複数の係止部を内装パネルに設けてなる,リッドの取り付け構造に関する。
【背景技術】
【0002】
従来,車両の開口部を有する内装パネルに,前記開口部を閉鎖するリッドを取り付ける構造として,リッドの下端部を内装パネルにヒンジ結合すると共に,リッドの上端部裏面に係止爪を有する支持片を突設し,その係止爪が弾性係合することでリッドの閉鎖状態を保持する係止部を内装パネルに設けたものが,例えば下記特許文献1に開示されるように知られている。
【特許文献1】実用新案登録第2500328号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
ところで,構造の簡素化を図るため,ヒンジを用いず,係止爪と係止部との係合のみによりリッドを内装パネルに取り付ける構造が考えられるが,そのような構造では,例えば運転者等が無意識にリッドに触れて係止爪を係止部から離脱させた場合には,リッドが内装パネルから脱落し,紛失してしまうことが予想される。
【0004】
本発明は,かゝる点に鑑みてなされたもので,係止爪と係止部との係合のみによりリッドを内装パネルに取り付ける構造を採用しながらも,係止爪が係止部から不意に離脱した場合には,リッドが内装パネルから脱落することを防ぎ得るようにすることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記目的を達成するために,本発明は,車両の内装パネルに設けられる開口部を閉鎖するリッドの裏面にそれぞれ係止爪を有する複数の支持片を突設する一方,前記係止爪が弾性係合することでリッドの閉鎖状態を保持する複数の係止部を内装パネルに設けてなる,リッドの取り付け構造であって,前記複数の支持片中,少なくとも一本の支持片に,その長さを他の支持片より長くする延長部を形成し,この延長部に,前記係止爪の全てが対応する前記係止部から離脱したとき,対応する前記係止部に係合してリッドの脱落を阻止する補助爪を設けたこと第1の特徴とする。
【0006】
また本発明は,第1の特徴に加えて,前記延長部を,前記支持片の先端側に直線状に連続するように形成すると共に,この延長部の補助爪を,前記支持片の係止爪と同一形状,同一向きに形成したこと第2の特徴とする。
【0007】
さらに本発明は,第1の特徴に加えて,前記補助爪の前記係止部に対する係止力を,前記係止爪の同係止部に対する係止力より大きく設定したこと第3の特徴とする。
【0008】
尚,前記内装パネルは,後述する本発明の実施例中のインストルメントパネルPに対応し,また前記支持片,係止爪及び係止部は側部支持片3,側部係止爪6及び係止孔19にそれぞれ対応する。
【発明の効果】
【0009】
本発明の第1の特徴によれば,複数の支持片中,少なくとも一本の支持片に,その長さを他の支持片より長くする延長部を形成し,この延長部に,前記係止爪の全てが対応する前記係止部から離脱したとき,対応する前記係止部に係合してリッドの脱落を阻止する補助爪を設けたので,例えば運転者等が無意識にリッドに触れて全ての係止爪を対応する係止部から離脱させても,延長部の補助爪の突起が対応する係合孔に引っ掛かることにより,リッドの内装パネルからの脱落を防ぐことができ,したがって,リッドの紛失を未然に防ぐことができると共に,リッドが外れたことを運転者等に直ちに認識させることができる。
【0010】
本発明の第2の特徴によれば,延長部を,支持片の先端側に直線状に連続するように形成すると共に,この延長部の補助爪を,支持片の係止爪と同一形状,同一向きに形成したので,延長部が開口部内のスペースの制約を受けることを回避すると共に,延長部付きの支持片の成形用金型の簡素化を図り,製造コストの低減に寄与し得る。
【0011】
本発明の第3の特徴によれば,補助爪の係止部に対する係止力を,係止爪の同係止部に対する係止力より大きく設定したことで,リッドの内装パネルからの脱落をより効果的に防ぐことができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
本発明の実施の形態を,添付図面に示す本発明の好適な実施例に基づいて以下に説明する。
【0013】
図1は本発明の実施例に係るリッドの取り付け構造を備える自動車のインストルメントパネルの正面斜視図,図2は上記リッドの取り付け構造部を示すインストルメントパネルの裏面斜視図,図3は上記リッド単体の裏面斜視図,図4は同リッド単体の側面図(図3の4矢視図),図5は図4の5矢視図,図6は図2の6−6線断面図,図7は図2の7−7線断面図,図8は図2の8−8線断面図,図9は上記リッドの脱落防止作用説明図である。
【0014】
先ず,図1及び図2において,符号Pは自動車の合成樹脂製のインストルメントパネルを示す。このインストルメントパネルPの鉛直方向の壁部Paには,ステアリングコラム貫通孔1と,その右方に隣接する略方形の開口部2とが設けられ,この開口部2に臨むようにして,例えばヒューズボックス(図示せず)がインストルメントパネルPの裏面に取り付けられる。そして,上記開口部2を閉鎖するリッドLがインストルメントパネルPに,本発明に係る次のようなリッドの取り付け構造により取り付けられる。
【0015】
図1,図3及び図4に示すように,リッドLは合成樹脂製であって,正面視で略方形をなしており,その裏面には,左右の側縁に沿って複数の側部支持片3が,また上縁に沿って複数の上部支持片4がそれぞれ一体に突設される。
【0016】
図3において,右側の側部支持片3は,図示例では,三本が上下に配列されている。各側部支持片3は,板状をなすと共にその板面を鉛直方向に向けながらリッドLの裏面から略水平方向に突設され,その際,側部支持片3には,水平方向に広がる上下一対の補強リブ5が一体に形成される。またこの側部支持片3には,上下の補強リブ5間において側部係止爪6が一体に形成される。この側部係止爪6は,図2,図3,図6に示すように,側部支持片3の先端側の一端部を基端部3aとして側部支持片3に一体に連結されると共に,他の部分を側部支持片3から切り離すように,側部支持片3及び側部係止爪6間にはコ字状のスリット7が設けられる。こうして,側部係止爪6は左右方向に弾性変形し得る弾性が付与される。この側部係止爪6の自由端,即ちリッドL側の端部の一側面には,リッドLの表裏方向に沿って起伏する山形の突起8が一体に形成され,この山形の突起8の,前記基端部6a側の斜面は勾配の緩い緩斜面8aに,それと反対側の斜面は勾配の急な急斜面8bになっている。
【0017】
特に,中間部の側部支持片3先端側には,その長さを他の上下の側部支持片3より長くする延長部10が直線状に連続するよう一体に形成され,この延長部10に,該側部支持片3の側部係止爪6と形状および向きを一にする補助爪11が一体に形成される。したがって,この補助爪11も,側部支持片3の先端側の一端部を基端部11aとして延長部10に一体に連結されると共に,他の部分を延長部10から切り離すように,延長部10及び補助爪11間にはコ字状のスリット12が設けられる。こうして,補助爪11も左右方向に弾性変形し得る弾性が付与される。この補助爪11の自由端部の一側面にも,リッドLの表裏方向に沿って起伏する山形の突起13が一体に形成され,この突起13も緩斜面13a及び急斜面13bを有する。
【0018】
図3において,左側の側部係止爪6を有する側部支持片3は,図示例では,二本が上下に配列されている。これら側部支持片3は,右側の上下二本の側部支持片3と対称的な構造を有するので,図中,左側の側部支持片3には,右側の側部支持片3と対応する部分に同一の参照符号を付して,重複する説明を省略する。
【0019】
また図3〜図5において,上部支持片4は,図示例では,三本が左右方向に配列されている。各上部支持片4は,板状をなすと共にその板面を水平方向に向けながらリッドLの裏面から略水平方向に突設され,その際,上部支持片4とリッドLの裏面との間には,左右一対の補強リブ14が一体に形成される。上部支持片4には,これら補強リブ14間において上部係止爪15が一体に形成される。この上部係止爪15は,図5に示すように,上部支持片4の先端側の一端部を基端部15aとして上部支持片4に一体に連結されると共に,他の部分を上部支持片4から切り離すように,上部支持片4及び上部係止爪15間にはコ字状のスリット16が設けられる。こうして,上部支持片4には上下方向に弾性変形し得る弾性が付与される。この上部支持片4の自由端部一側面(図示例では上面)には,リッドLの表裏方向に沿って起伏する山形の突起17が一体に形成され,この突起17の,上部係止爪15の基端部15a側の斜面は緩斜面17aに,それと反対側の斜面は急斜面17bになっている。
【0020】
図2,図6〜図8に示すように,一方,インストルメントパネルPには,リッドLの右側(リッドLの裏側から見て)の全部の側部支持片3の挿入を許容すると共に,それらが備える側部係止爪6が弾性的に係合し得る複数(図示例では三つ)の係止孔19と,リッドLの左側(リッドLの裏側から見て)の全部の側部支持片3の挿入を許容すると共に,それらが備える側部係止爪6が弾性的に係合し得る複数(図示例では二つ)の係止孔19と,リッドLの上側の全部の側部支持片3の挿入を許容すると共に,それらが備える上部係止爪15が弾性的に係合し得る複数(図示例では三つ)の係止部としても係止切欠き20とが設けられる。
【0021】
次に,この実施例の作用について説明する。
【0022】
インストルメントパネルPに,その開口部2を閉鎖するリッドLを取り付ける当たっては,リッドLの,延長部10付きの側部支持片3を含む全ての側部支持片3及び上部支持片4を,インストルメントパネルPの全ての係止孔19及び係止切欠き20にそれぞれ挿入して,リッドLの周縁部がインストルメントパネルPの前面に当接させる。その過程において,最初に全長が長い延長部10付きの側部支持片3の延長部10が,その補助爪11の突起13の緩斜面13aを対応する係止孔19の一側縁に対して滑らせながら,係止孔19内方へ容易に弾性変形して係止孔19を通過する。続いて,全ての側部係止爪6及び上部係止爪15が,それぞれの突起8,17の緩斜面8a,17aを対応する係止孔19及び係止切欠き20の一側縁に対して滑らせながら,係止孔19及び係止切欠き20の内方へ容易に弾性変形し,そして上記緩斜面8a,17aが係止孔19及び係止切欠き20を通過すると,側部係止爪6及び上部係止爪15がそれぞれの弾性復元力をもって,それぞれの突起8,13,17の急斜面8b,17bを係止孔19及び係止切欠き20の一側縁に押圧させる状態となり(図2,図6〜図8参照),これが側部係止爪6及び上部係止爪15の係止孔19及び係止切欠き20に対する弾性係合状態となる。こうして,リッドLは,開口部2側への比較的軽い押し込み力をもってインストルメントパネルPに確実に取り付けることができる。
【0023】
このようなリッドLの取り付け状態において,例えば運転者等が無意識にリッドLの下端部に触れて,それを手前に強く引いた場合には,側部係止爪6及び上部係止爪15が,それぞれの突起8,17の急斜面8b,17bを,対応する係止孔19及び係止切欠き20の一側縁に対して一斉に滑らせて,係止孔19及び係止切欠き20の内方へ弾性変形することで,係止孔19及び係止切欠き20から離脱することになる。しかしながら,全ての側部及び上部係止爪6,15が離脱しても,最後には,図9に示すように,延長部10の補助爪11の突起13が対応する係合孔19の一側縁に引っ掛かることにより,リッドLのインストルメントパネルPからの脱落を防ぐことができる。したがって,リッドLの紛失を未然に防ぐことができると共に,リッドLが外れたことを運転者等に直ちに認識させることができる。しかも,リッドLは,ヒンジを用いず,側部及び上部係止爪6,15と係止孔19及び係止切欠き20との係合のみにより取り付けられるので,リッドLの取り付け構造の簡素化,延いてはコストの低減を図ることができる。
【0024】
次に例えば,開口部2に臨んでインストルメントパネルPに取り付けられたヒューズボックスのメンテナンスのために,リッドLを開放するには,作業者は,リッドLの下端部の裏面側に指を入れて,リッドLを手前に強く引いて,先ず,側部係止爪6及び上部係止爪15を,それぞれ対応する係止孔19及び係止切欠き20から離脱させ,次いで更にリッドLを引き寄せれば,延長部10の補助爪11をも係止孔19から離脱させることができるので,リッドLをインストルメントパネルPから完全に取り付け外すことができる。
【0025】
ところで,前記延長部10は,側部支持片3の先端側に直線状に連続するように形成されると共に,この延長部10の補助爪11は,側部支持片3の側部係止爪6と同一形状,同一向きに形成されるので,延長部10が開口部2内のスペースの制約を受けることを回避すると共に,延長部10付きの側部支持片3の成形用金型の簡素化を図り,製造コストの低減に寄与し得る。
【0026】
また本発明は,別の実施例として,補助爪11の突起13の急斜面13bを,側部係止爪6の突起8急斜面8bよりも急勾配に形成したり,補助爪11の基端部の肉厚を厚くして補助爪11の曲げ弾性力を大きくすること等により,補助爪11の係止孔19に対する係止力を側部係止爪6の同係止孔19に対する係止力よりも大きく設定することもある。このようにすれば,インストルメントパネルPへのリッドLの着脱作業性を損なわずに,リッドLのインストルメントパネルPからの脱落をより効果的に防ぐことができる。
【0027】
以上,本発明の好適実施例について説明したが,本発明は,上記実施例に限定されるものではなく,その要旨を逸脱しない範囲で種々の設計変更が可能である。例えば,補助爪11を持つ延長部10は,上部支持片4に形成することもできる。また係止切欠き20は孔に置き換え可能である。各側部及び上部支持片3,4の使用本数や側部及び上部係止爪6,15の形状は,リッドLの用途や大きさに応じて任意に選定されるものであり,また延長部10付きの支持片の使用本数も一本に限らず,リッドLの用途や大きさに応じて任意に選定されるものである。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【図1】本発明の実施例に係るリッドの取り付け構造を備える自動車のインストルメントパネルの正面斜視図。
【図2】上記リッドの取り付け構造部を示すインストルメントパネルの裏面斜視図。
【図3】上記リッド単体の裏面斜視図。
【図4】同リッド単体の側面図(図3の4矢視図)。
【図5】図4の5矢視図。
【図6】図2の6−6線断面図。
【図7】図2の7−7線断面図。
【図8】図2の8−8線断面図。
【図9】上記リッドの脱落防止作用説明図。
【符号の説明】
【0029】
P・・・・内装パネル(インストルメントパネル)
2・・・・開口部
3・・・・支持片(側部支持片)
6・・・・係止爪(側部係止爪)
10・・・延長部
11・・・補助爪
19・・・係止部(係止孔)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両の内装パネル(P)に設けられる開口部(2)を閉鎖するリッド(L)の裏面にそれぞれ係止爪(6)を有する複数の支持片(3)を突設する一方,前記係止爪(6)が弾性係合することでリッド(L)の閉鎖状態を保持する複数の係止部(19)を内装パネル(P)に設けてなる,リッドの取り付け構造であって,
前記複数の支持片(3)中,少なくとも一本の支持片(3)に,その長さを他の支持片(3)より長くする延長部(10)を形成し,この延長部(10)に,前記係止爪(6)の全てが対応する前記係止部(19)から離脱したとき,対応する前記係止部(19)に係合してリッド(L)の脱落を阻止する補助爪(11)を設けたこと特徴とする,リッドの取り付け構造。
【請求項2】
請求項1記載のリッドの取り付け構造において,
前記延長部(10)を,前記支持片(3)の先端側に直線状に連続するように形成すると共に,この延長部(10)の補助爪(11)を,前記支持片(3)の係止爪(6)と同一形状,同一向きに形成したこと特徴とする,リッドの取り付け構造。
【請求項3】
請求項1記載のリッドの取り付け構造において,
前記補助爪(11)の前記係止部(19)に対する係止力を,前記係止爪(6)の同係止部(19)に対する係止力より大きく設定したこと特徴とする,リッドの取り付け構造。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2009−96295(P2009−96295A)
【公開日】平成21年5月7日(2009.5.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−269006(P2007−269006)
【出願日】平成19年10月16日(2007.10.16)
【出願人】(000005326)本田技研工業株式会社 (23,863)
【出願人】(508309887)森六テクノロジー株式会社 (11)
【Fターム(参考)】