説明

リニアアクチュエータ及びそれを備えた車両用ステアリング装置

【課題】大きな推力に効率良く対応できるリニアアクチュエータの提供を課題とする。
【解決手段】上記課題は、外周面に螺旋溝を形成したねじ軸と、ねじ軸の螺旋溝に接触して転動する複数のローラと、複数のローラを螺旋上に配列させて回転できるように支持するケージとを有し、複数のローラが、右推力用としてねじ軸の左フランク面に接触するように配置した複数のローラと、左推力用としてねじ軸の右フランク面に接触するように配置した複数のローラとを含むことにより、解決できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、回転運動を直線運動に変換するリニアアクチュエータ及びそれを備えた車両用ステアリング装置に関する。
【背景技術】
【0002】
回転運動を直線運動に変換するリニアアクチュエータは、ねじ軸に中空ねじ部材を噛み合わせた構造体であり、中空ねじ部材に左回り或いは右回りの回転動力を与えて中空ねじ部材を左回り或いは右回りに回転させ、ねじ軸を左方向或いは右方向に直線移動させることにより、与えた回転動力を直線動力に変換する動力変換機構である。この動力変換にあたっては、ねじ軸の外周表面に形成されたねじと中空ねじ部材の内周表面に形成されたねじとの間に大きな荷重が働き、ねじ軸と中空ねじ部材との間に生じる摩擦が大きくなる。このようなことから、回転運動を直線運動に変換するリニアアクチュエータでは、ねじ軸のねじと中空ねじ部材のねじとの間に多数のボール状部材を配置し、そのボール状部材を循環させてねじ軸と中空ねじ部材とを転がり接触させ、ねじ軸と中空ねじ部材との間に生じる摩擦を低減している。このようなリニアアクチュエータはボールねじ式と呼ばれ、例えば特許文献1に開示されているように、車両のステアリング装置に採用されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平7−165089号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ボールねじ式のリニアアクチュエータでは、ねじ軸のねじと中空ねじ部材のねじとの間に配置された多数のボール状部材を滑らかに循環させる必要がある。もし、ボール状部材が滑らかに循環しなくなると、ねじ軸とボール状部材との間及び中空ねじ部材とボール状部材との間にすべり摩擦が発生してボール状部材の摩擦係数が大きくなり、動力の伝達効率が低下する。さらに、ボール状部材にすべり摩擦が一旦発生すると、ボール状部材の転動面が荒れはじめ、この荒れが更なるすべり摩擦を誘発し、ボール状部材の転動面の更なる荒れ及びこれによるすべり摩擦の更なる誘発が繰り返され、動力伝達性能が低下する。
【0005】
このようなことから、ボールねじ式のリニアアクチュエータでは、ねじ軸のねじと中空ねじ部材のねじとの間に配置された多数のボール状部材を滑らかに循環させるために、ボール状部材を循環させるための手段を備えている。また、ボールねじ式のリニアアクチュエータでは、ボール状部材の循環状態を常に良好な状態を保持するために、ボール状部材の戻り経路の最適設計,ボール状部材,中空ねじ部材に形成されたねじ、及びねじ軸に形成されたねじの形状寸法の高精度化を図っている。このため、ボールねじ式のリニアアクチュエータではコストが高い。
【0006】
また、ボールねじ式のリニアアクチュエータでは、ねじ軸のねじと中空ねじ部材のねじとの間に配置されるボール状部材の数によって最大出力が決まる。従って、大きな直動力が必要な場合にはボール状部材の数を増やせばよい。しかし、その反面、ボール状部材の数が増えることによって、ボール状部材の戻り経路の更なる最適設計,ボール状部材,中空ねじ部材に形成されたねじ、及びねじ軸に形成されたねじの形状寸法の更なる高精度化が必要になり、コストが更に高くなる。このため、ボール状部材の数の上限には限度がある。
【0007】
このようなことから、ボールねじ式のリニアアクチュエータの動力伝達には実用上の上限が現われ、大きな推力が要求される機器への適用は不向きである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
代表的な本発明の一つは、大きな推力を発生させることができるリニアアクチュエータを提供する。
【0009】
また、代表的な本発明の一つは、上記リニアアクチュエータを備えた車両用ステアリング装置を提供する。
【0010】
ここに、代表的な本発明の一つは、外周面に螺旋溝を形成したねじ軸と、ねじ軸の螺旋溝に接触して転動する複数のローラと、複数のローラを螺旋上に配列させて回転できるように支持するケージとを有し、複数のローラが、右推力用としてねじ軸の左フランク面に接触するように配置した複数のローラと、左推力用としてねじ軸の右フランク面に接触するように配置した複数のローラとを含んでいることを特徴とする。
【発明の効果】
【0011】
代表的な本発明の一つによれば、大きな推力を発生させることができるリニアアクチュエータを提供できる。
【0012】
また、代表的な本発明の一つによれば、上記リニアアクチュエータを備えたステアリング装置を提供できる。
【0013】
以上のように、大きな推力を発生させることができるリニアアクチュエータを備えた車両用ステアリング装置は、大型車のステアリング装置の電動化、これによる省エネルギー化を図る上で大変有効である。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明の第1実施例であるリニアアクチュエータを搭載した車両用ステアリング装置の構成を示す構成図。
【図2】図1のリニアアクチュエータの構成を示す構成図。
【図3】図2のA−A矢視断面図。
【図4】図3のB−B矢視断面図。
【図5】図4のケージ及びローラ部組の部分を拡大した拡大図。
【図6】図2のオルダム継手の構造を示す構造図。
【図7】図2のローラ部組の部分を拡大した拡大図。
【図8】図7のローラ部組及び揺動ピンの外観を示す外観図。
【図9】図7のC−C矢視断面図であり、ローラ部組とねじ軸との接触状態を示す。
【図10】図9のローラ部組の外観を示す外観図。
【図11】図2のリニアアクチュエータの自動調心機能を説明するための説明図。
【図12】本発明の第2実施例であるリニアアクチュエータの構成を示す構成図。
【図13】図12を図4と同方向から観た矢視断面図。
【図14】図21のケージ連結部の構造を示す分解構造図。
【図15】本発明の第3実施例であるリニアアクチュエータの構成を示す構成図。
【図16】図15を図4と同方向から観た矢視断面図。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の実施例を説明する。
【0016】
以下に説明する実施例では、本発明を、自動車のステアリング装置に適用した場合を例に挙げて説明する。
【0017】
以下に説明する実施例の構成は、建設機械、例えばバケット,アーム,ブームを備えたショベルにおいて、バケット,アーム,ブームのそれぞれを回転動力によって直動させる場合に用いられるアクチュエータや、産業機械、例えば荷物を上げ下ろしする爪を備えたフォークリフトトラックにおいて、爪を回転動力によって上下に直動させる場合に用いられるアクチュエータ、さらには、製造機器、例えば射出成形機に用いられるアクチュエータにも適用できる。
【実施例1】
【0018】
本発明の第1実施例を図1乃至図11に基づいて説明する。
【0019】
まず、図1を用いて、車両用ステアリング装置の構成について説明する。
【0020】
車両用ステアリング装置1は、運転者がステアリングハンドル2を操舵して転舵車輪3を転舵する際、転舵アクチュエータ7の駆動力により運転者の操舵力をアシストする装置である。これにより、運転者は小さな力で操舵できるようになる。
【0021】
尚、図1に示す車両用ステアリング装置は、いわゆるラックアシストタイプの電動パワーステアリング装置である。
【0022】
車両用ステアリング装置1は、運転者が握り、車両を進ませたい方向に操舵を行うステアリングハンドル2と、ステアリングハンドル2に連結した操舵軸4と、ステアリングハンドル2から入力する操舵トルクを検出するトルクセンサ5と、操舵軸4の回転運動を直線運動に変換するラックアンドピニオン機構7と、運転者の操舵力をアシストし、転舵車輪3を転舵させる転舵アクチュエータ6と、ラックアンドピニオン機構7および転舵アクチュエータ6に接続され転舵車輪3の向きを変えるタイロッドおよびナックルアームからなるリンク機構8とからなる。
【0023】
トルクセンサ5は、操舵軸4のねじれ角を検出することにより操舵軸4に作用するトルクを検出するものである。
【0024】
転舵アクチュエータ6は、トルクセンサ5で検出したトルクに応じてアシスト力の大きさと力を加える方向を変化させる。これにより、運転者は小さな力でステアリングハンドル2を操舵できるようになる。
【0025】
ラックアンドピニオン機構7は、ピニオン9とラックロッド10からなり、ピニオン9は操舵軸4に接続されている。ラックロッド10の一端はリンク機構8に接続されており、他端は転舵アクチュエータ6に接続されている。ピニオン9とラックロッド10には、お互いが噛み合うように歯が形成されているため、ピニオン9が回転することによりラックロッド10が直動する。また、ラックロッド10は、図示しない直動軸受により保持され、軸方向には移動可動であるが回転しないようにしている。
【0026】
尚、トルクセンサ5とラックアンドピニオン機構7と転舵アクチュエータ6は、図示しないケースに収められている。
【0027】
次に、図2〜図11を用いて、車両用ステアリング装置1の転舵アクチュエータ6として用いられるリニアアクチュエータ20の構成について説明する。
【0028】
図2に示すように、リニアアクチュエータ20は、台形状断面の螺旋溝が外周に形成されたねじ軸21と、そのねじ軸21が貫通するケージ22と、ケージ22に装着された6個のローラ部組23a,23b,23c,23d,23e,23fと、リニアアクチュエータ20の動力源であるモータ24と、ケージ22とモータ24とを接続するオルダム継手25と、ケージ22の軸方向の移動を制限するスラスト軸受32とからなる。
【0029】
台形状断面の螺旋溝が外周に形成されたねじ軸21は、一端がラックロッド10に他端がリンク機構8に接続されている。上記のようにラックロッド10は回転しないようにしているので、ねじ軸21も軸方向に移動可能であるが、回転しない。このねじ軸21は、ラックロッド10と一体に加工しても良いし、別々に製作し接続してもよい。
【0030】
尚、図3では、ローラ部組23a,23b,23cは見えているが、ローラ部組23d,23e,23fは見えていない。しかし、図2のA−A断面を反対側から見たとき、ローラ部組23d,23e,23fは、図3に示すローラ部組23a,23b,23cと同様の状態にある。このため、本実施例では、図2のA−A断面を反対側から見たときの図面を省略し、ローラ部組23d,23e,23fのぞれぞれの符号を、図3に示すローラ部組23a,23b,23cの符号に対応させて括弧書きとした。
【0031】
図2のA−A断面の左側にあるローラ部組23a,23b,23cのローラ26の転動面26cは、ねじ軸21の左フランク面21bと接触して転動し、ねじ軸21を右方向に移動させる力が作用する。ローラ部組23a,23b,23cは、円周方向には120°の角度の間隔で、軸方向にはねじ軸21のリードの約三分の1の間隔で配置されているものとする。
【0032】
図2のA−A断面の右側にあるローラ部組23d,23e,23fのローラ26の転動面26cは、ねじ軸21の右フランク面21aと接触して転動し、ねじ軸21を左方向に移動させる力が作用する。ローラ部組23d,23e,23fも同様に、円周方向には120°の角度の間隔で、軸方向にはねじ軸21のリードの約三分の1の間隔で配置されているものとする。
【0033】
図4及び図5に示すように、ケージ22の内周部にはねじ軸21のねじ山に対向して雌ねじ部が形成してある。その雌ねじ部は、ローラ部組23a,23b,23cのローラ26の転動面26cがねじ軸21の左フランク面21bとが接触した状態で、右フランク面21aとの隙間が十分大きくなるようにしている。また、ローラ部組23d,23e,23fのローラ26の転動面26cが右フランク面21aとが接触した状態で、左フランク面21bとの隙間が十分大きくなるようにしている。
【0034】
モータ24は、モータステータ33と、モータロータ34と、モータロータ34を支持しモータロータ34が滑らかに回転するようにする図示しない軸受とからなる。モータステータ33は、図示しないケースに固定されている。モータロータ34は、中空構造になっており、ねじ軸21が接触することなく挿入されている。また、モータロータ34は、オルダム継手25と接続しており、モータロータ34のオルダム継手25側には凸部が設けられている。
【0035】
オルダム継手25は、図6に示すように、ケージ接続部35と中間接続部36とからなり、ケージ22とモータロータ34を接続する。中間接続部36はモータロータ34とケージ接続部35の間に配置され、平行な両接触面には、図6に示すように、互いに直角な凹溝37がある。この凹溝37に対応するケージ接続部35,モータロータ34には凸部があり、中間接続部36の凹溝37に嵌め合わせる。このようにすることにより、ケージ接続部35がモータロータ34の軸に直角な平面内を移動できるようになる。ケージ22とモータ24の接続をこのような構成にするのは、モータ24に対するケージ22の軸方向ずれを許容するためである。これにより、部品の寸法誤差によるローラ26とねじ軸21の接触位置ずれによるケージ22の位置ずれを許容できる。
【0036】
スラスト軸受32は、ケージ22の両端に接するように配置し、ケージ22に接触していない面を図示しないケースにねじ軸21方向に移動しないように設ける。これにより、ケージ22のねじ軸21周りの回転を円滑にし、接触抵抗を抑えることができる。
【0037】
以上のように、右推力用にローラ部組23a,23b,23c(右推力用モータ部組30)を左推力用にローラ部組23d,23e,23f(左推力用モータ部組31)を配置することにより、ねじ軸21に双方向に推力を発生することができる。従って、本実施例のリニアアクチュエータ20は、車両用ステアリング装置1のように双方向の駆動が必要な転舵アクチュエータ6として適用できる。
【0038】
次に、ねじ軸21,ケージ22,ローラ部組23の詳細な構成を、ローラ部組23dを例に挙げて説明する。以下に説明する構成は、ローラ部組23a,23b,23c,23e,23fについても同様である。
【0039】
ローラ部組23dは、図7に示すように、ローラ26と円錐ころ軸受27とローラホルダ28から構成されている。ローラ部組23dは、図8に示す2本の揺動ピン29を介してケージ22に装着されている。2本の揺動ピン29の中心軸は同軸に配置されており、この結果、ローラ部組23dはケージ22に対して2本の揺動ピン29の共通軸周りに揺動が可能である。図5に示すように、ケージ22とローラ部組23dとの間には隙間が確保されており、ローラ部組23dの揺動動作で両者が干渉するのを回避できる構成となっている。
【0040】
但し、図7に示すケージ22の2面幅寸法W1と図8に示すローラホルダ28の2面幅寸法W2はそれぞれある程度高精度に加工されており、それらの間の隙間量を小さく管理してローラ部組23dのケージ22に対する揺動軸方向の位置が大きく変化しないようにしてある。
【0041】
ローラ26の回転中心軸Dは、図9中に一点鎖線で示しており、図7におけるC−C断面内にある。図7のC−C断面は、ねじ軸21の右フランク面21aのほぼ中央部を通るリード角γの螺旋とねじ軸21の中心軸を含む紙面に垂直な平面との交点P1を含み、ねじ軸21の中心軸とγの角度で交差する直線を持つ平面である。
【0042】
図8は、ローラ部組23dと揺動ピン29のみを示している。図8中には、ねじ軸中心線とC−C断面も示す。揺動ピン29はローラホルダ28に同軸に形成された2箇所の揺動ピン穴28aに1個ずつ嵌入され、揺動ピン29の中心軸周りにローラ部組23dが揺動するようにしている。また、揺動ピン29の中心軸が、C−C断面に直交するように、ケージ22の揺動ピン穴22aを設けている。ケージ22の揺動ピン穴22aは、ローラ部組23dに2箇所を設けている。
【0043】
揺動ピン29はケージ22の揺動ピン穴22aとローラホルダ28の揺動ピン穴28aの両方にまたがって嵌入されており、ケージ22に対するローラ部組23dの揺動軸になると同時に、そこに発生するせん断応力によってケージ22とローラ部組23d間の荷重を伝達する。
【0044】
図9に図7のC−C断面によるねじ軸21とローラ部組23dの断面図を示す。上述のようにローラ26の回転中心軸Dはこの断面図内にある。台形状のねじ溝における右側の右フランク面21aとローラ26の円錐状の転動面26aは線接触している。厳密には右フランク面21a上の各点を通る螺旋のリード角は一定ではない。点P1以外の点を通る螺旋と転動面26aとの接点は、螺旋のリード角とγとの差に応じて図9の紙面上から紙面直角方向に偏位する。しかし、ここではそれらの紙面上からの偏位量は小さいとして、右フランク面21aと転動面26aは線接触しているものとする。
【0045】
図9の一点鎖線で示すローラ26の回転中心軸Dは、ねじ軸21の外周方向に向かって転動面26aと右フランク面21aが接触するように傾斜している。これにより、ローラ26の端面26bは、転動面26aが接触しているねじ山の隣のねじ山(図9においては右隣のねじ山)との干渉を避ける方向に傾斜するので、隣のねじ山を跨ぐようにしてローラ26を配置することができる。このため、右フランク面21aとの接触部である転動面26aの曲率半径を大きくすることができ、確実に線接触させることができる。また、接触部に発生するヘルツ面圧を大幅かつ確実に低減できるので、フレーキング寿命を延ばすことができる。尚、ローラ26の端面26bは、凹面に形成されており、これも隣のねじ山との干渉を避け転動面26aの曲率半径を大きくすることに寄与している。
【0046】
ねじ軸21の螺旋溝は中心に向かって溝幅の小さくなる断面の螺旋溝になっており、そのフランク面に接触して転動するローラ26の転動面26aはローラ26の回転中心軸Dに沿って内周方向に向かうにしたがって軸直角断面の円径が減少する略円錐側面形状になっている。このため、右フランク面21a上の外周側にあって転動距離の大きな螺旋上を円錐状の転動面26aの大きな径の部分が転動し、右フランク面21a上の内周側にあって転動距離の小さな螺旋上を転動面26aの小さな径の部分が転動するようにすることができる。すなわち、線接触部の全ての点において局部的なすべりも微小に抑えることができ、上記長寿命と同時に高効率も実現することができる。
【0047】
図10には、図9におけるローラ部組23dを同じ方向から見た外観図を示す。ローラホルダ28に同軸に形成された2箇所の揺動ピン穴28aの中心は、図9,図10に示す点P2である。この点P2は、図9に示すように右フランク面21aのほぼ中央部にある点P1を通り、右フランク面21aに垂直な線上に配置されている。
【0048】
図11は、右フランク面21aと転動面26aとが寸法誤差などによって平行にならず、ねじ軸21の外周側で片当たりが生じている状態を示している。この時、右フランク面21aから転動面26aに作用する接触力F1は、エッジ部における点P3から右フランク面21aの断面輪郭に垂直に描かれた矢印として表される。この接触力F1は、揺動軸である点P2から偏位した位置を通るので揺動軸点P2周りにモーメントM1を発生させるが、このモーメントM1によってローラ部組23d全体が時計回転方向に回転し、右フランク面21aと転動面26aがねじ軸21の内周側でより近接する状態に移行する。図11のように極端な片当たり状態でなくても、右フランク面21aと転動面26aとの接触力の合力が点P1よりも外周側にあればモーメントM1と同方向のモーメントが発生し、ローラ部組23dの全体が接触力の合力を内周側に移動させる方向に自動的に回転する。
【0049】
図11とは、逆にねじ軸21の内周側で片当たりが生じている場合には、ローラ部組23dの全体が接触力の合力を外周側に移動させる方向に自動的に回転する。また、右フランク面21aと転動面26aとの接触力の合力の作用位置が右フランク面21aのほぼ中央の点P1にある場合には、点P2周りのモーメントを発生させない。すなわち、ローラ部組23dの姿勢は安定しそのままの状態を維持する。以上のように、ローラ部組23dは自動的にケージ22に対して揺動して右フランク面21aと転動面26aとを最大接触面圧の小さい線接触状態にする機能を有していることが分かる。以上のように、上記では1つのローラ部組23dについて説明したが、他のローラ部組23a,23b,23c,23e,23fも同様である。
【0050】
次に、リニアアクチュエータ20の動作を説明する。
【0051】
モータ24を動作させるとモータ24の動力がオルダム継手25を介してケージ22に伝達される。そして、ケージ22がねじ軸21の周りを回転し、これに保持されているローラ部組23がねじ軸21の周りを公転する。そうすると、各ローラ部組23に収められたローラ26の転動面26aは、ねじ軸21の右フランク面21aまたは左フランク21bに接触しているため、そこから受ける力によって自転される。ケージ22はスラスト軸受32を介して図示しないケースによってねじ軸21方向の動きを制限されており、ねじ軸21はラックロッド10によって回転しないようにしているので、ケージ22のねじ軸21周りの回転により、ねじ軸21は軸方向に移動する。このようにねじ軸21に推力が作用する際、その反力がねじ軸21の軸方向に現われるが、この反力は最終的にはねじ軸の右フランク面21aまたは左フランク面21bとローラ26の転動面26aの接触箇所にかかる。
【実施例2】
【0052】
本発明の第2実施例を図12及び図13に基づいて説明する。
【0053】
図12に示すリニアアクチュエータ20は、図2に示すリニアアクチュエータ20とケージ22を2つに分割した点が異なる。リニアアクチュエータ20は、台形状断面の螺旋溝が外周に形成されたねじ軸21と、そのねじ軸21が貫通し右推力用ローラ部組30を備える右推力用ケージ38と、左推力用ローラ部組31を備える左推力用ケージ38と、右推力用ケージ38に装着された3個のローラ部組23a,23b,23cと、左推力用ケージ39に装着された3個のローラ部組23d,23e,23fと、リニアアクチュエータ20の動力源であるモータ24と、右推力用ケージ38とモータ24を接続するオルダム継手25と、右推力用ケージ38と左推力用ケージ39を接続するケージ連結部40と、ケージ22の軸方向の移動を制限するスラスト軸受32からなる。
【0054】
3個のローラ部組23a,23b,23cが設置された右推力用ケージ38は、一方をモータ24にオルダム継手25を介して接続し、他方をケージ連結部40に接続する。3個のローラ部組23d,23e,23fが設置された左推力用ケージ39は、一方をケージ連結部40に接続している。
【0055】
尚、右推力用ケージ38及び左推力用ケージ39は上記のようにそれぞれ3個のローラ部組を有しているが、ケージに設置したローラ26全てがねじ軸21に接触するためである。同一のリニアアクチュエータ20の推力に対してローラ26に作用する荷重を低減するためにはローラ26の個数を増やすのがよいが、全てのローラ26が確実に接触するのは3個だからである。
【0056】
ケージ連結部40は、図14に示すように第1連結部41と、第2連結部42と、圧縮ばね43とからなる。第1連結部41は凸部44を4個持ち、第2連結部42は凸部44が挿入される穴を設けている。第1連結部41の凸部44と第2連結部42の穴は、第1連結部41と第2連結部42がねじ軸21方向に円滑に移動するように嵌め合い寸法を設定している。また、第1連結部41と第2連結部42の間には、圧縮ばね43が挿入されており、第1連結部41と第2連結部42が互いに離れる方向に移動するようにしている。このケージ連結部40により右推力用ケージ38は左方向に、左推力用ケージ39は右方向に押し付けられるようになるので、ねじ軸21とローラ26が確実に接触するようになる。これにより部品の寸法誤差によるがたの影響をなくすことができる。
【0057】
尚、上記のように第1連結部41と第2連結部42は、第1連結部41の凸部44と第2連結部42の穴で嵌め合わされているので、回転方向のがたは抑えることができる。このようにがたを回避できるということは、車両用ステアリング装置1においては、ステアリングハンドル2を切っても操舵輪がまったく反応しないという不感帯の存在が回避できることを意味し、操舵フィーリングの改善に寄与することができる。
【0058】
また、ケージ連結部40は、同様の効果が得られれば、上記以外の構成であっても構わない。
【0059】
右推力用ケージ38と左推力用ケージ39のケージ連結部40側でない端部は、スラスト軸受32を介して図示しないケースに接触するようにしている。これにより、右推力用ケージ38と左推力用ケージ39のねじ軸21方向の移動を制限している。
【0060】
尚、上記以外の機能、構成及び動作は、第1の実施例と同様であることから、その説明を省略する。
【実施例3】
【0061】
本発明の第3実施例を図15及び図16に基づいて説明する。
【0062】
図15に示すリニアアクチュエータ20は、図2に示すリニアアクチュエータ20とはケージ22を2つに分割し、モータ24の両端にケージを設置した点が異なる。リニアアクチュエータ20は、台形状断面の螺旋溝が外周に形成されたねじ軸21と、そのねじ軸21が貫通し右推力用ローラ部組30を備える右推力用ケージ38と、左推力用ローラ部組31を備える左推力用ケージ39と、右推力用ケージ38に装着された3個のローラ部組23a,23b,23cと、左推力用ケージ39に装着された3個のローラ部組23d,23e,23fと、リニアアクチュエータ20の動力源であり、2つの出力軸を持つモータ24と、右推力用ケージ38及び左推力用ケージ39とモータ24を接続するオルダム継手25と、右推力用ケージ38と左推力用ケージ39をモータ24方向に押圧する皿ばね45と、ケージ22の軸方向の移動を制限するスラスト軸受32と、皿ばね46と右推力用ケージ38及び左推力用ケージ39の摩擦力を軽減するスラスト軸受46とからなる。
【0063】
モータ24のモータロータ34は、両端にオルダム継手25を介して右推力用ケージ38または左推力用ケージ39と接続できるように、凸部が設けられている。
【0064】
また、皿ばね45により、右推力用ケージ38は右方向に、左推力用ケージ39は左方向に押し付けられるようになるので、ねじ軸21とローラ26が確実に接触するようになる。これにより部品の寸法誤差によるがたの影響をなくすことができる。なお、皿ばね45と右推力用ケージ38,左推力用ケージ39間の摩擦力を軽減するため、右推力用ケージ38及び左推力用ケージ39には径方向の寸法が小さい位置にスラスト軸受46を介して接触するようにしている。皿ばね45は、同様の効果が得られれば圧縮ばね等であっても構わない。
【0065】
スラスト軸受32は、右推力用ケージ38及び左推力用ケージ39が所定位置以上にモータ24方向に移動しないように制限するものであり、図示しないケースに固定されている。
【0066】
尚、上記以外の機能,構成及び動作は、第1の実施例と同様であることから、その説明を省略する。
【0067】
〔変形例〕
以上説明した第1乃至第3実施例では、モータ24をケージ22に接続し、ケージ22を回転させることでねじ軸21を直動させているが、モータ24をねじ軸21に接続し、ねじ軸21を回転させることでケージ22を直動させてもよい。但し、この場合にはリニアアクチュエータ20の外径寸法が大きくなるので、装置のスペースにゆとりがある場合に適用できる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
外周面に螺旋溝を形成したねじ軸と、
前記ねじ軸の螺旋溝に接触して転動する複数のローラと、
前記複数のローラを螺旋上に配列させて回転できるように支持するケージと、を有し、
前記複数のローラは、第1方向の推力用として前記ねじ軸の一方のフランク面に接触するように配置した複数のローラと、第2方向の推力用として前記ねじ軸の他方のフランク面に接触するように配置した複数のローラと、を含んでいる、
ことを特徴とするリニアアクチュエータ。
【請求項2】
請求項1に記載のリニアアクチュエータにおいて、
前記ケージにはオルダム継手を介してモータが接続されており、
前記ケージは前記ねじ軸方向の移動を制限し、かつ前記ケージをねじ軸周りに回転することで前記ねじ軸を直動させる、
ことを特徴とするリニアアクチュエータ。
【請求項3】
請求項1に記載のリニアアクチュエータにおいて、
前記ケージは、第1方向推力用として前記ねじ軸の一方のフランク面に接触するように配置した複数のローラを備える第1方向推力ケージと、第2方向推力用として前記ねじ軸の他方のフランク面に接触するように配置した複数のローラを備える第2方向推力ケージとに分割されて形成されている、
ことを特徴とするリニアアクチュエータ。
【請求項4】
請求項3に記載のリニアアクチュエータにおいて、
前記第1方向推力ケージには第1方向に押圧を加える予圧機構が備えられ、
前記第2方向推力ケージには第2方向に押圧を加える予圧機構が備えられている、
ことを特徴とするリニアアクチュエータ。
【請求項5】
請求項4に記載のリニアアクチュエータにおいて、
前記予圧機構の押圧力は前記ケージの外径寸法が小さい位置に加えられる、
ことを特徴とするリニアアクチュエータ。
【請求項6】
ステアリングハンドルに連結した操舵軸と、
前記ステアリングハンドルから入力する操舵トルクを検出するトルクセンサと、
操舵軸の回転運動を直線運動に変換するラックアンドピニオン機構と、
運転者の操舵力をアシストし、転舵車輪を転舵させるリニアアクチュエータと、を有し、
前記リニアアクチュエータは、
前記ラックアンドピニオン機構のラックロッドに接続し外周面に螺旋溝を形成したねじ軸と、
前記ねじ軸の螺旋溝に接触して転動する複数のローラと、
前記複数のローラを螺旋上に配列させて回転できるように支持するケージと、を有しており、
前記複数のローラは、右推力用として前記ねじ軸の左フランク面に接触するように配置した複数のローラと、左推力用として前記ねじ軸の右フランク面に接触するように配置した複数のローラと、を含んでいる、
ことを特徴とした車両用ステアリング装置。
【請求項7】
請求項6に記載の車両用ステアリング装置において、
前記リニアアクチュエータの前記ケージにはオルダム継手を介してモータが接続されており、
前記ケージは前記ねじ軸方向の移動を制限し、かつ前記ケージをねじ軸周りに回転することにより、前記ねじ軸を直動させてラックロッドを直動させる、
ことを特徴とする車両用ステアリング装置。
【請求項8】
請求項6に記載の車両用ステアリング装置において、
前記ケージは、右推力用として前記ねじ軸の左フランク面に接触するように配置した複数のローラを備える右推力ケージと、左推力用として前記ねじ軸の右フランク面に接触するように配置した複数のローラを備える左推力ケージとに分割されて形成されている、
ことを特徴とする車両用ステアリング装置。
【請求項9】
請求項8に記載の車両用ステアリング装置において、
前記右推力ケージには右方向に押圧を加える予圧機構が備えられ、
前記左推力ケージには左方向に押圧を加える予圧機構が備えられている、
ことを特徴とする車両用ステアリング装置。
【請求項10】
請求項9に記載の車両用ステアリング装置において、
前記予圧機構の押圧力は前記ケージの外径寸法が小さい位置に加えられる、
ことを特徴とする車両用ステアリング装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【公開番号】特開2011−74985(P2011−74985A)
【公開日】平成23年4月14日(2011.4.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−225926(P2009−225926)
【出願日】平成21年9月30日(2009.9.30)
【出願人】(000005108)株式会社日立製作所 (27,607)
【Fターム(参考)】