説明

リニアアクチュエータ

【課題】回転体とそれを支持する部材との摺動抵抗を抑え、軸受等の部品の削減や部品の加工性向上などにより製造コストを抑えたリニアアクチュエータを提供すること。
【解決手段】ケース52内に、駆動源としてのモータ10と、該モータ10の回転動力を直線動力に変換し被駆動体に伝達する直動変換機構とを備えるリニアアクチュエータ1において、前記直動変換機構は、前記モータ10のロータ14によって回転されるリードスクリュー18と、該リードスクリュー18に螺合し前記被駆動体と連繋されたキャリッジ20と、該キャリッジ20の回転を阻止する回転阻止部材30、40とを有し、前記ロータ14とリードスクリュー18は、一体的に形成されるとともに前記ケース52に固定された固定軸16に回転自在に支持されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、リニアアクチュエータに関し、更に詳しくは、モータの回転動力を直線動力に変換する機構を備え、被駆動体をモータの軸線方向に進退移動させるリニアアクチュエータに関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来一般に、モータ(ステッピングモータ)の回転動力に基づき被駆動体を進退移動させるリニアアクチュエータが知られている。このようなリニアアクチュエータは、各種気体や液体などの流路を開閉する弁体の駆動装置として好適に用いられ、例えば、燃料用ガスの開閉バルブやガス流量調整バルブとして、ガス給湯器などのガス燃焼機器に多く使用されている。
【0003】
この種のリニアアクチュエータとして、例えば特許文献1には、駆動源であるモータと、このモータのロータと一体的に設けられた回転軸を有するリニアアクチュエータが記載されている。回転軸にはリードスクリューが形成され、リードスクリューには、回転方向の動きが規制されたキャリッジが螺合されている。このキャリッジは、被駆動体と連結されている。かかる構成により、モータが回転すると、回転が規制されたキャリッジとともに被駆動体が直線動作する。つまり、モータの回転動力が、直線動力に変換されて被駆動体に出力される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2005−172154号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、ロータと一体的に回転する回転軸を有し、その回転軸にリードスクリューが形成されている特許文献1の構成は、次のような問題があった。
【0006】
第一の問題点は、ロータを支持する軸が回転するものであるため、軸受を別途設けたり、ケースで回転軸を支持する構成を採用しなければならない点である。つまり、回転軸を支持する軸受が必要になるため、部品コストが増大してしまうため問題となる。また、特許文献1の構成のように、回転軸の一端がケースによって支持される構成とすれば、その箇所については別途軸受を設ける必要はないが、かかる構成は、回転軸の回転をケース(一般的にはプレス加工品であり、軸受部分の寸法精度がそれほど高くない)によって支持する構成であるから、回転軸とケースとの摺動抵抗が大きくなってしまう。このような回転体とそれを支持する部材との摺動抵抗の増大は、エネルギロスの増大、部材の激しい摩耗による装置寿命の低下といった種々の問題を招く。
【0007】
第二の問題点は、ロータの回転を支える回転軸にリードスクリューが形成されている点である。つまり、ロータの回転を支える回転軸は、十分な機械的強度を有する材料(例えばステンレスなど)で形成することが必要である。しかし、このような強度を有する材料に対するリードスクリューの形成は、加工が困難であるため、加工コストが嵩んでしまう。
【0008】
上記実情に鑑み、本発明が解決しようとする課題は、回転体とそれを支持する部材との摺動抵抗を抑え、軸受等の部品の削減や部品の加工性向上などにより製造コストを抑えたリニアアクチュエータを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本願発明者らは、上記問題点を踏まえ、次のようなリニアアクチュエータの構成を考えた。すなわち、ロータを支える軸自体は回転しない固定軸とした上で、ロータとリードスクリューを別々に構成し、これらがそれぞれ固定軸に回転自在に支持され、ロータが回転するとその回転動力がリードスクリューに伝達される構成(後述する検討例1(各比較例)にかかる構成)を考えた。このようにロータとリードスクリューが別々に固定軸に支持される構成としたのは、1)固定軸が挿通される貫通孔が容易に形成できるようにする、2)金属材料で形成されるリードスクリューの大きさをできるだけ小さくし、高価である金属材料の使用量を極力抑える、3)ロータやリードスクリューを別々に形成し、他の製品にも展開可能とする(部品の共通化)、などのためである。
【0010】
かかる構成とすれば、回転軸を支持する軸受を用いる必要はないし、回転軸をケースで支持する必要もない。また、リードスクリューの加工性が悪いという問題もない。
【0011】
ところが、かかる構成を採用した場合、アクチュエータ駆動中の騒音が大きいという新たな問題が発生した。発明者らが鋭意研究した結果、その騒音は、モータによりリードスクリューをキャリッジ(被駆動体)が引き込まれる方向(下方向に移動させる方向)に回転させ、下限いっぱい(これ以上キャリッジが下がることができない状態)までキャリッジが下がりモータが脱調状態になったとき、ロータとリードスクリューとが衝突することによって発生していることを知見した。
【0012】
本発明は、このような知見に基づいてなされたもので、ケース内に、駆動源としてのモータと、該モータの回転動力を直線動力に変換し被駆動体に伝達する直動変換機構とを備えるリニアアクチュエータにおいて、前記直動変換機構は、前記モータのロータによって回転されるリードスクリューと、該リードスクリューに螺合し前記被駆動体と連繋されたキャリッジと、該キャリッジの回転を阻止する回転阻止部材とを有し、前記ロータとリードスクリューは、一体的に形成されるとともに前記ケースに固定された固定軸に回転自在に支持されていることを要旨とするものである。
【0013】
本発明にかかるリニアアクチュエータによれば、ロータの回転を支える軸を回転することがない固定軸としたため、従来型のリニアアクチュエータのように、回転体とそれを支える部材との間の摺動抵抗によるエネルギロスの発生や装置寿命の低下といった問題はない。また、回転軸を支持する軸受を設ける必要もない。さらには、ロータの回転を支える軸にリードスクリューを形成する構成ではないため、リードスクリューを例えば真鍮のような軟らかい金属材料で形成することができ、リードスクリューの加工性が向上する。
【0014】
しかも、固定軸に回転自在に支持されたロータとリードスクリューとが一体的に形成されているため、キャリッジを下限まで引き込みモータが脱調状態となったときに発生する、ロータとリードスクリューの衝突による騒音の発生を防止することができる。
【0015】
この場合、前記ロータと前記リードスクリューとを異なる材質で形成することができる。好適な例としては、前記ロータが樹脂により形成され、前記リードスクリューが金属材料により形成された構成が挙げられる。
【0016】
ロータとリードスクリューは、インサート成形や、接着剤による固定により一体化することができる。したがって、両者を別々の材料で形成することができる。ロータを軽い樹脂材料で形成すれば、モータのエネルギロスを小さくできる。被駆動体と連繋されたキャリッジと螺合するリードスクリューは、金属材料で形成することにより、その肉厚を薄くしつつ、必要な強度を確保することができる。
【0017】
また、前記リードスクリューが前記ロータとインサート成形により一体的に形成されている場合において、前記リードスクリューは、少なくとも一部が前記ロータに埋設された支持部と、該支持部の一方側の端面から突出したスクリュー部とを有するとともに、その中央には前記固定軸が挿通される貫通孔が形成されており、前記支持部の他方側の端面における少なくとも前記貫通孔の周縁部分が、外部に露出していればよい。例えば、前記支持部が円筒状に形成されるとともに、前記支持部の他方側の端面における露出部分が円形に形成されている場合には、該露出部分の外縁から前記貫通孔の外縁までの長さは、前記支持部の外縁から前記貫通孔の外縁までの長さの1/2以上であれば好適である。
【0018】
このように、支持部の他方側の端面における貫通孔の周縁部分が露出する構成であれば、ロータとリードスクリューをインサート成形により一体化する際、上記貫通孔の周縁部分に金型が当接した状態となるため、固定軸が挿通される貫通孔への溶融樹脂の流れ込みが防止される。溶融樹脂の流れ込みを確実に防止するためには、インサート成形用の金型と支持部との当接面積を大きくするため、上記のような関係が成り立つように露出部分の大きさを設定すればよい。
【0019】
そしてこの場合、前記ロータの底面には、前記支持部の他方側の端面における露出部分が底面となる凹部が形成され、該凹部の開口周縁に前記固定軸の軸線方向に突出した摺動部が形成されていればよい。
【0020】
このように、前記露出部分が底面となるように凹部を形成、すなわち、前記支持部の他方側の端面がロータから外側に突出しないようにした上で、その凹部の開口周縁に摺動部を形成すれば、回転するロータの摺動部分(ケースとの摺動面積)が小さくなるため、摺動抵抗によるエネルギロスを小さく抑えることができる。
【発明の効果】
【0021】
本発明にかかるリニアアクチュエータによれば、ロータとリードスクリューの衝突による騒音の発生を防止した上で、回転体の回転による摺動抵抗の低減、装置を構成する部品点数の削減、リードスクリュー等の部品加工の容易化を達成できる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】本発明の一実施形態にかかるリニアアクチュエータの断面図である。
【図2】本発明の一実施形態にかかるリニアアクチュエータの分解斜視図である。
【図3】リードスクリューをインサート成形によりロータと一体化する場合のインサート成形金型の概略図である。
【図4】図1および図2に示したリニアアクチュエータを上方から見た正面図である。
【図5】各検討例にかかるリニアアクチュエータの構成を示した概略図ある。
【図6】ロータとリードスクリューとがそれぞれ別々に固定軸に支持された構成を有するリニアアクチュエータにおける騒音の発生メカニズムを説明するための概略図である。
【図7】実施例にかかるリニアアクチュエータから発生する音の可聴域における周波数特性の測定結果である。
【図8】比較例1にかかるリニアアクチュエータから発生する音の可聴域における周波数特性の測定結果である。
【図9】比較例2にかかるリニアアクチュエータから発生する音の可聴域における周波数特性の測定結果である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、本発明の実施の形態について図面を参照しつつ詳細に説明する。図1は本発明の一実施形態にかかるリニアアクチュエータ1の断面図、図2はその分解斜視図(ステータ12を除く)である。なお、以下の説明における上下方向とは、図1における上下方向をいうものとする。
【0024】
本実施形態にかかるリニアアクチュエータ1は、ガス給湯器などのガス燃焼機器が備えるガス管の流路を開閉する弁体の駆動装置として使用される。図1に示されるように、リニアアクチュエータ1は、パッキン92などを介してガス管などの密閉空間90に取り付けられる。すなわち、密閉空間90は、通過するガスが漏れないよう、リニアアクチュエータ1自体によって密閉されている。
【0025】
リニアアクチュエータ1は、ケース内(本体ケース52およびステータケース50内)に、駆動源であるモータ10と、このモータ10の回転動力を直線動力に変換し、被駆動体である弁体(図示せず)に伝達する直動変換機構とを備える。
【0026】
モータ10は、公知のステッピングモータであり、ステータ12およびロータ14を備える。ステータ12は、ステータコア121に駆動コイル122が巻回されて構成され、本体ケース52の外側に被着されるステータケース50に収納されている。ロータ14は、樹脂製のホルダ143に永久磁石142が固定されてなる。なお、本願において、ロータ14の材質とは、永久磁石142を除いたホルダ143の材質(すなわち樹脂)をいうものとする。このホルダ143の中央には、貫通穴143aが設けられ、この貫通穴143aに後述するリードスクリュー18が固定されている。
【0027】
直動変換機構は、リードスクリュー18と、このリードスクリュー18に螺合するキャリッジ20と、このキャリッジ20の回転を阻止する第一の回転阻止部材30および第二の回転阻止部材40(両者が本発明にかかる回転阻止部材に相当する)を有する。
【0028】
リードスクリュー18は、支持部181およびスクリュー部182を有し、中央には貫通孔18aが形成された部材である。中央に貫通孔18aが形成されているため、肉厚を薄くしても十分な強度を確保することができるように材質は金属であることが好ましい。加工性を考慮すれば真鍮が好適である。図2から分かるように、支持部181は、円柱形状の部分である。スクリュー部182は、支持部181の一方側(先端側)端面から垂直に立設された軸に、所定の径・ピッチの雄ねじ(スクリュー)が形成された部分である。
【0029】
本実施形態では、かかる構成を有するリードスクリュー18は、インサート成形によりロータ14と一体化されている。なお、その他の一体化方法としては、ホルダ143に形成された貫通穴143aへの圧入固定や接着剤(またはこれらの併用)による一体化などが例示できる。このように、本実施形態では、インサート成形や接着剤による固定などによりロータ14とリードスクリュー18を一体化すればよいため、両者を異なる材質で成形することができる。具体的には、肉厚を薄くしつつも十分な強度が必要なリードスクリュー18は金属材料で成形し、軽量であることが必要なロータ14のホルダ143は樹脂材料で成形するなど、アクチュエータに求められる特性に応じて適宜選択することができる。
【0030】
一体化されたロータ14とリードスクリュー18は、リードスクリュー18の貫通孔18aに挿通された固定軸16(固定軸16自体が回転することはない)に回転自在に支持されている。なお、貫通孔18aは、支持部181からスクリュー部182にかけて形成された非常に長いものであり、加工が困難(切削加工時にドリル(バイト)が折れてしまうといったおそれがある)である。そのため、本実施形態では、後述のようにロータ14(ホルダ143)内に埋設される支持部181に形成される貫通孔18aの孔径を小さく(例えば1.2mm)し、ロータ14(ホルダ143)から突出したスクリュー部182に形成される貫通孔18aの孔径を大きく(例えば1.3mm)している。このようにすることにより、2段階で貫通孔18aを形成することができ、加工が容易となる。ロータ14(ホルダ143)内に埋設される支持部181に形成される貫通孔18aの孔径を小さくするのは、当該部分における固定軸16と貫通孔18aのクリアランスを小さくして、ステータ12から発生する磁界によって回転するロータ14ががたつかないようにするためである。
【0031】
本実施形態にかかるリニアアクチュエータ1は、ロータ14とリードスクリュー18とが、それぞれ別々に固定軸16に回転自在に支持されてなるリニアアクチュエータ(後述する検討例1や各比較例に相当する)の騒音発生のメカニズムを解明した上で、ロータ14とリードスクリュー18とを一体化することにより、アクチュエータ駆動中の騒音低減を図ったものである。
【0032】
回転自在に固定軸16に支持されたロータ14(ホルダ143)の下面と、本体ケース52の間には、樹脂(ポリエチレンテレフタラート)製のスラストベアリング(ワッシャ)17が介在されている。これは、回転するロータ14と本体ケース52との間の摺動抵抗を低減するためである。
【0033】
また、ロータ14とリードスクリュー18とがインサート成形により一体化される場合、リニアアクチュエータ1は、ロータ14と本体ケース52との間の摺動抵抗を低減するための構成をさらに有する。具体的には、ロータ14(ホルダ143)の底面144には、環状に突出した摺動部15が形成されている。
【0034】
このような摺動部15がロータ14(ホルダ143)に形成される理由は次の通りである。例えば、リードスクリュー18の底面18b(支持部181におけるスクリュー部182が突出した端面とは反対(他方側)の端面)をホルダ143の底面144から突出させた構造とし、リードスクリュー18によりロータ14の回転が支持される構成とすると、本体ケース52の内底面とリードスクリュー18の底面18bの面接触により摺動ロスが大きくなり問題となる。一方、リードスクリュー18に、その底面18bから突出した突出部(摺動部15のような環状の突出部)を形成して本体ケース52の内底面と線接触するようにしてもよいが、金属製のリードスクリュー18の底面18bにこのような突出部を形成するのは加工性が低下するため問題となる。つまり、リードスクリュー18により、ロータ14の回転を支持する構成は適当ではない。
【0035】
したがって、リードスクリュー18は、その底面18bがホルダ143の外側に突出しないようにホルダ143と一体化されている。その上で、リードスクリュー18の底面18bにおける貫通孔18aの周縁部分(径方向の寸法L1の部分)は、外部に露出した状態にある(以下、この部分を単に露出部分と称することもある)。このように貫通孔18aの周縁部分が露出した状態にあるのは、インサート成形時に、リードスクリュー18の貫通孔18aに溶融樹脂が流れ込まないようにするためである。
【0036】
図3は、リードスクリュー18をロータ14と一体化するためのインサート成形金型19の概略を示したものである。図示されるように、金型19は一対の固定型191および可動型192からなり、固定型191には、封止ピン193が設けられている。封止ピン193は、相対的に小径の小径部193aと、相対的に大径の大径部193bとを有し、小径部193aがリードスクリュー18の貫通孔18aに挿通されるとともに大径部193bがホルダ143の内側に位置するリードスクリュー18の底面18bにおける貫通孔18aの周縁部分に密着させられる。これにより、成形時にゲート191aから注入される溶融樹脂が、リードスクリュー18の貫通孔18aへ流れ込むことはない。
【0037】
ただし、このような貫通孔18aへの溶融樹脂の流れ込みを確実に防止するためには、封止ピン193と密着する露出部分の十分な大きさを確保すべきである。望ましくは、露出部分の外縁から貫通孔18aの外縁までの長さ(L1)が、支持部181の外縁から貫通孔18aの外縁までの長さ(L2)の1/2以上であればよい。すなわち、(L1)≧(L2)/2の関係が成り立つ大きさであればよい。
【0038】
このように、封止ピン193の存在により、ロータ14には、その底面144側に封止ピン193が引き抜かれた跡である凹部143b(凹部143bの底面はリードスクリュー18の露出部分となる)が形成される。そして、この凹部143bの開口端縁に沿うようにして環状の摺動部15を形成し、本体ケース52(スラストベアリング17)との摺動面積を極力小さくした構造としている。これにより、ロータ14とリードスクリュー18とがインサート成形により一体化される場合であっても、上記摺動抵抗によるエネルギロスが従来と比べて大きくなってしまうことはない。なお、上記摺動部15の形状は特に限定されるものではない。例えば、凹部143bの開口端縁に沿って、周方向に点在させたような構成であってもよい。
【0039】
キャリッジ20は、本体部22と出力軸部24が一体成形された樹脂製の部材である。円柱状の本体部22の中央には、スクリュー部182に形成された雄ねじと螺合する雌ねじ部201が貫通して形成されている。出力軸部24は、本体部22の出力側端面から突出した断面略半円形状の軸であり、半円形状の直線部分(対向面241a)が対向するように二つ(二股状に)形成されている。二つの出力軸部24のそれぞれには、軸方向と直交する方向に貫通した取付穴241bが形成されている。この取付穴241bには、キャリッジ20と被駆動体である弁体とを連繋するための連繋軸(図示せず)が支持される。このような構成を有するキャリッジ20は、スクリュー部182に雌ねじ部201を螺合させることによって、リードスクリュー18に取り付けられている。
【0040】
第一の回転阻止部材30は、合成樹脂材料で一体成形された部材であり、筒状部32とフランジ部34とを有する。筒状部32の天板部には、略半円形状の二つのガイド穴321が、半円形状の直線部分が対向するように形成されている。このガイド穴321に、上述したキャリッジ20の二つの出力軸部24がそれぞれ挿通されている。かかる第一の回転阻止部材30は、本体ケース52の段差部分にフランジ部34が嵌め込まれて取り付けられている。
【0041】
このように取り付けられている第一の回転阻止部材30は、リードスクリュー18とともに回転しようとするキャリッジ20の回転を阻止する部材である。したがって、キャリッジ20とともに第一の回転阻止部材30自体が回転してしまうことのないよう、第一の回転阻止部材30の回転が、第二の回転阻止部材40によって規制されている。この第二の回転阻止部材40は、金属板のプレス加工などによって形成された板状の部材であり、本体ケース52の開口部を覆うように被着されている。このように、第二の回転阻止部材40を金属で構成するのは、図2に示すように、ガス管などによって構成される密閉空間90の密閉状態を、第二の回転阻止部材40によって維持しなければならないからである。つまり、例えば火災時などに回転阻止部材40が熱によって損傷し、密閉空間90内の可燃性ガスが漏れ、被害が拡大してしまうことを防止するため、回転阻止部材40を金属材料で構成する必要がある。
【0042】
第二の回転阻止部材40の中央には、所定の大きさの窪み部42が形成されており、この窪み部42の中央に、第一の回転阻止部材30が挿通される略矩形状(四隅の角は丸められている)の係合穴44が形成されている。この係合穴44に第一の回転阻止部材30の筒状部32が挿通されることにより、第一の回転阻止部材30の回転が規制されている。
【0043】
この点について、図1および図2に加え、図4を参照して具体的に説明する。図4は、本実施形態にかかるリニアアクチュエータ1を上方から見た平面図である。これらの図に示されるように、第一の回転阻止部材30には、その筒状部32の外周面が平面で切り欠かれたDカット部322が対向するように形成されている。さらに、このDカット部322の中央には、外側に向かって突出した突出部321aが形成されている。
【0044】
一方、図4から分かるように、第二の回転阻止部材40の係合穴44には、上方から見た形状が直線形状である直線部441が形成され、この直線部441の中央には、外側に向かって凹んだ係合凹部441aが形成されている。第一の回転阻止部材30は、Dカット部322を直線部441に当接させ、突出部321aを係合凹部441aに係合させた状態で、回転阻止部材40の係合穴44に挿通されている。
【0045】
このように、第一の回転阻止部材30は、筒状部32の外周面に形成されたDカット部322が、係合穴44の直線部441に当接された状態で配設される。加えて、Dカット部322から突出して設けられた突出部321aが、係合穴44の直線部441から外側に向かって凹んだ係合凹部441aに係合されている。このDカット部322と直線部441との係合、および突出部321aと係合凹部441aとの係合により、第一の回転阻止部材30の回転が規制されている。
【0046】
このように、第二の回転阻止部材40によって回転が規制された第一の回転阻止部材30は、出力軸部24の回り止め部材として機能する。図4に示すように、二つの出力軸部24は、断面略半円形状に形成されており、それぞれが同じく略半円形状に形成されたガイド穴321に挿通されることによって回転が規制されている。具体的には、二つの出力軸部24の互いに対向する対向面241aをガイド穴321の内側の面に当接させた状態とすることにより、出力軸部24の回転が規制されている。
【0047】
このように構成されるリニアアクチュエータ1は、次のように動作する。駆動源であるモータ10が駆動すると、ロータ14が回転する。ロータ14が回転すると、ロータ14と一体化されたリードスクリュー18も回転する。リードスクリュー18が回転すると、本体部22がリードスクリュー18のスクリュー部182に螺合するキャリッジ20もリードスクリュー18とともに回転しようとする。しかし、キャリッジ20の出力軸部24は、第二の回転阻止部材40によって回転が規制された第一の回転阻止部材30のガイド穴321に挿通されているため、キャリッジ20が回転することはない。したがって、キャリッジ20は、リードスクリュー18の回転に伴い、固定軸16の軸線方向に前進動作する。キャリッジ20が前進すると、出力軸部24の取付穴241bを利用してキャリッジ20と連結された被駆動体である弁体が前進し、ガス流路が遮断される。
【0048】
キャリッジ20を後退させる場合には、キャリッジ20を前進させた場合とは反対方向にリードスクリュー18を回転させる。これにより、第一の回転阻止部材30によって回転が規制されているキャリッジ20は、固定軸16の軸線方向に後退し、ガス流路が開放される。
【実施例】
【0049】
以下、本発明について、実施例を用いて説明する。なお、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0050】
(実施例)
上記実施形態にかかるリニアアクチュエータ1と同様の構造を有するリニアアクチュエータを実施例として作成した。本実施例は、ロータ14とリードスクリュー18とを一体的に構成した点に特徴を有する。なお、リードスクリュー18は、ロータ14(ホルダ143)とインサート成形により一体化されている。また、ロータ14と本体ケース52の間に介在されるスラストベアリング17には、樹脂製のワッシャを用いている。
【0051】
1)事前検討
まず、この実施例にかかるリニアアクチュエータを得るに至った検討について説明する。本発明の実施例にかかるリニアアクチュエータは、ロータ14(ホルダ143)とリードスクリュー18とを別々に構成し(一体化されていない)、それぞれを固定軸16に回転自在に支持(ロータ14とリードスクリュー18とは離間可能である)させた図5(a)に記載された構成(検討例1)を基礎として得られたものである。かかる構成において、リードスクリュー18は、スクリュー部182の下部に円板の一部が真っ直ぐに切り欠かれてなるDカット係合部181aを有する。ロータ14(ホルダ143)は、これと係合するDカット凹部143bを有する。つまり、Dカット係合部181aとDカット凹部143bとの係合により、ロータ14の回転がリードスクリュー18に伝達される構成である。なお、その他の構成は、上記実施形態にかかるリニアアクチュエータ1と同一である。
【0052】
この検討例1にかかるリニアアクチュエータは、アクチュエータ駆動時に騒音が大きいという問題があった。そのため、上記検討例1を変形した次の検討例2〜5にかかるリニアアクチュエータを作成し、これらのアクチュエータの静穏特性を評価することにより、その騒音原因を突き止めた。
【0053】
検討例2は、ロータ14と本体ケース52の間に介在させている摺動抵抗低減のためのスラストベアリング(ワッシャ)17に換え、弾性(クッション性)のある板状の弾性部材171を配置したものである(図5(b)参照)。なお、弾性部材171は、中央に固定軸16が挿通する貫通孔を有する円盤部171aと、この円盤部171aの外周から周方向120度毎に延設された舌片状の弾性片171bとから構成されている。
【0054】
検討例3は、ロータ14と本体ケース52との間に、比較例2に比べて弾性力が大きい弾性部材171を配置したものである。
【0055】
検討例4は、リードスクリュー18のDカット係合部181aの上面(リードスクリュー18とキャリッジ20との間)に、緩衝部材として弾性体で形成されたOリング172を配置したものである(図5(c)参照)。
【0056】
検討例5は、ロータ14とリードスクリュー18の間に緩衝部材として弾性体で形成されたOリング172を配置したものである。なお、かかるOリング172は、上記検討例4と同一のものである(図5(d)参照)。
【0057】
なお、これら検討例2〜5が有するその他の構成は、上記検討例1にかかるリニアアクチュエータと同一である。
【0058】
以上の検討例1〜5にかかるリニアアクチュエータの静穏特性(騒音の有無)ついて検討した。各検討例とも、電源電圧2V、回転速度333ppsでモータ10を駆動させ、アクチュエータ動作中の音圧(dBA)を測定した。なお、アクチュエータと集音マイクとの距離は30cmである。そして、各検討例1〜5とも、1)キャリッジ20を下げる方向にモータ10を回転させ、下限いっぱい(これ以上キャリッジ20が下がることができない状態)までキャリッジ20が下がりモータ10が脱調状態になったとき(以下、引き込み脱調状態と称する)の音圧、および2)キャリッジ20を上げる方向にモータ10を回転させ、上限いっぱい(これ以上キャリッジ20が上がることができない状態)までキャリッジ20が上がりモータ10が脱調状態になったとき(以下、押し出し脱調状態と称する)の音圧の測定を行った。表1にその測定結果を示す。
【0059】
【表1】

【0060】
まず、検討例1についての結果を見ると、押し出し脱調状態にあるときに比べ、引き込み脱調状態にあるときに音圧が大きいことが分かる。なお、製品に求められる静穏特性を考慮すると、押し出し脱調状態の音圧レベルは騒音として感じられるものではないが、引き込み脱調状態の音圧レベルは騒音として感じられる可能性がある。
【0061】
検討例2、3は、検討例1の構成に加えて、ロータ14と本体ケース52の底面との間に、スラストベアリング(ワッシャ)17の換わりに弾性部材171を配置したものであるが、検討例1との比較から、かかる弾性部材171の存在による騒音低減効果がないことが分かる。つまり、ロータ14の底面側で大きな騒音が発生している可能性が低いこと(スラストベアリング(ワッシャ)17などが騒音の主たる原因でない)ことが分かる。
【0062】
さらに、検討例4は、検討例1の構成に対して、リードスクリュー18とキャリッジ20との間にOリング172を配置した点が異なるだけであり、他の構成は同一であるが、これによる騒音低減効果もない。つまり、リードスクリュー18(Dカット係合部181a)とキャリッジ20の衝突が騒音の主たる原因でないことが分かる。
【0063】
これらの検討例2〜4に対し、ロータ14とリードスクリュー18の間に緩衝材であるOリング172を配置した検討例5は、検討例1と比較して、引き込み脱調状態にあるときにおける音圧が大きく低下した。具体的には、押し出し脱調状態にあるときにおける音圧と同程度まで低下し、製品に求められる静穏特性を十分に満たすものが得られた。
【0064】
これらの測定結果を踏まえて検討すると、検討例1にかかるリニアアクチュエータで発生する騒音は、ロータ14とリードスクリュー18の衝突により発生していることが推測される。具体的には、次のようなメカニズムで発生していると考えられる。図6(a)に示すように、キャリッジ20を押し出す方向にリードスクリュー18が回転しているとき(回転しようとしているとき)には、上方向に移動する(移動しようとする)キャリッジ20の反作用により、リードスクリュー18に下方向の力がかかる。そうすると、ロータ14は、下方向に力を受けたリードスクリュー18と本体ケース52の底面との間に挟まれた状態となるから、脱調状態であってもロータ14ががたつくことはない。一方、図6(b)に示すように、キャリッジ20を引き込む方向にリードスクリュー18が回転しているとき(回転しようとしているとき)には、下方向に移動する(移動しようとする)キャリッジ20の反作用により、リードスクリュー18に上方向の力がかかる。その結果、リードスクリュー18とロータ14との間にクリアランス生じ、脱調状態にあるロータ14が上下方向に振動して騒音が発生するものと思われる。
【0065】
このような騒音原因の特定を経て、ロータ14とリードスクリュー18を一体化した上記実施例(本発明)を得るに至った。
【0066】
2)実施例の静穏特性についての評価
上記実施例にかかるリニアアクチュエータの静穏特性(騒音の有無)を評価した。なお、全く同じ構成を有する実施例のサンプルを二つ作成(実施例Aおよび実施例B)し、それぞれについて静穏特性を評価した。なお、以下に示すように、比較例は二種類作成した。かかる比較例は、ロータ14の底面を支持するスラストベアリング17の変更により、静穏特性が変化するかどうかの検討を行ったものである。参考のため、比較例1、比較例2として二種類とも掲載する。
【0067】
比較例1は、上記検討例1と同様の構造を有するリニアアクチュエータ、すなわちロータ14とリードスクリュー18とが別々に固定軸16に支持されたリニアアクチュエータである。なお、比較例1のリニアアクチュエータでは、ロータ14の底面を支持するスラストベアリング17を金属製(リン青銅)としている点で実施例と異なる。
【0068】
比較例2は、比較例1と同様に、ロータ14とリードスクリュー18とが別々に固定軸16に支持されたリニアアクチュエータである。比較例1との違いは、スラストベアリング17を実施例と同様に樹脂(ポリエチレンテレフタラート)製のものとしている点である。なお、全く同じ構成を有する比較例2のサンプルを二つ作成(比較例2Aおよび比較例2B)し、それぞれについて静穏特性を評価した。
【0069】
静穏特性評価は、上記検討例について行った評価と同様に、電源電圧2V、回転速度333ppsでモータ10を駆動させた場合の音圧を測定することにより行った。なお、アクチュエータと集音マイクとの距離が10cmである点が、上記検討例について行った測定と条件が異なる。かかる条件の下、実施例、各比較例のそれぞれについて、1)引き込み脱調状態、2)押し込み脱調状態、3)通常状態(モータ10が脱調状態になく、キャリッジ20が進退動している状態)における音圧(dBA)を測定した。その結果を表2に示す。また、発生する音の可聴域における周波数特性を測定した。その結果を図7〜図9に示す。なお、実施例の結果を図7に、比較例1の結果を図8に、比較例2の結果を図9に示した。
【0070】
【表2】

【0071】
表2および図7〜図9より、比較例1および比較例2にかかるリニアアクチュエータは、押し出し脱調状態および通常状態では問題がないものの、引き込み脱調状態では可聴域で大きな音(騒音)が発生する。上述の検討結果より、ロータ14とリードスクリュー18の衝突により騒音が発生していると思われる。一方、実施例にかかるリニアアクチュエータでは、引き込み脱調状態においても、押し出し脱調状態および通常状態と音圧レベルがほとんど変わらず、大きな音(騒音)は発生しないことが分かる。
【0072】
なお、比較例1および比較例2の結果から分かるように、スラストベアリング17の材質の変更による静穏特性の向上はない。
【0073】
このように、本発明によれば、ロータ14とリードスクリュー18が一体化されることにより、両者の衝突による騒音の発生が防止されるため、アクチュエータ駆動時(特にモータ10が引き込み脱調状態にある時)における騒音が小さい静穏性に優れたリニアアクチュエータ1とすることができる。
【0074】
以上、本発明の実施の形態について詳細に説明したが、本発明は上記実施の形態に何ら限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲で種々の改変が可能である。
【0075】
例えば、上記実施形態では、ロータ14(ホルダ143)が樹脂材料で、リードスクリュー18が金属材料で形成されていることを説明したが、リードスクリュー部分の機械的強度が確保できるのであれば、両者を同一の樹脂材料により一体に形成することもできる。
【符号の説明】
【0076】
1 リニアアクチュエータ
10 モータ
14 ロータ
15 摺動部
16 固定軸
18 リードスクリュー
18a 貫通孔
20 キャリッジ
30 第一の回転阻止部材
40 第二の回転阻止部材

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ケース内に、駆動源としてのモータと、該モータの回転動力を直線動力に変換し被駆動体に伝達する直動変換機構とを備えるリニアアクチュエータにおいて、
前記直動変換機構は、前記モータのロータによって回転されるリードスクリューと、該リードスクリューに螺合し前記被駆動体と連繋されたキャリッジと、該キャリッジの回転を阻止する回転阻止部材とを有し、前記ロータとリードスクリューは、一体的に形成されるとともに前記ケースに固定された固定軸に回転自在に支持されていることを特徴とするリニアアクチュエータ。
【請求項2】
前記ロータと前記リードスクリューとが異なる材質で形成されていることを特徴とする請求項1に記載のリニアアクチュエータ。
【請求項3】
前記ロータが樹脂により形成され、前記リードスクリューが金属材料により形成されていることを特徴とする請求項2に記載のリニアアクチュエータ。
【請求項4】
前記リードスクリューが前記ロータとインサート成形により一体的に形成されている場合において、前記リードスクリューは、少なくとも一部が前記ロータに埋設された支持部と、該支持部の一方側の端面から突出したスクリュー部とを有するとともに、その中央には前記固定軸が挿通される貫通孔が形成されており、前記支持部の他方側の端面における少なくとも前記貫通孔の周縁部分は、外部に露出していることを特徴とする請求項3に記載のリニアアクチュエータ。
【請求項5】
前記支持部が円筒状に形成されるとともに、前記支持部の他方側の端面における露出部分が円形に形成されている場合において、該露出部分の外縁から前記貫通孔の外縁までの長さは、前記支持部の外縁から前記貫通孔の外縁までの長さの1/2以上であることを特徴とする請求項4に記載のリニアアクチュエータ。
【請求項6】
前記ロータの底面には、前記支持部の他方側の端面における露出部分が底面となる凹部が形成され、該凹部の開口周縁に前記固定軸の軸線方向に突出した摺動部が形成されていることを特徴とする請求項4または5に記載のリニアアクチュエータ。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2011−151921(P2011−151921A)
【公開日】平成23年8月4日(2011.8.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−10298(P2010−10298)
【出願日】平成22年1月20日(2010.1.20)
【出願人】(000002233)日本電産サンキョー株式会社 (1,337)
【出願人】(000115854)リンナイ株式会社 (1,534)
【Fターム(参考)】