説明

リニアガイド装置

【課題】上側保持部と下側保持部と中間保持部からなる保持器を、エンドキャップに取り付ける際に、中間保持部の撓みが矯正され、長さ方向のズレが許容できるようにする。
【解決手段】エンドキャップ22のスライダ本体21の上下の軌道面26間に対応する位置に、案内レール1側に向けて突出する突起5を形成する。保持器4の中間保持部4Cの長さ方向端部に、エンドキャップ22の突起5が嵌まる長穴7を形成する。エンドキャップ22には、上側保持部4Aの先端爪部44が嵌まる上溝8と下側保持部4Bの先端爪部44が嵌まる下溝9を形成する。保持器4の長穴7に、エンドキャップ22の突起5を嵌め、エンドキャップ22の上溝8に上側保持部4Aの先端爪部44を嵌め、下溝9に下側保持部4Bの先端爪部44を嵌める。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、リニアガイド装置に関する。
【背景技術】
【0002】
リニアガイド装置は、案内レールとスライダ(「ベアリング」とも称される。)と複数個の転動体とを備えている。案内レールおよびスライダは、互いに対向配置されて転動体の転動通路を形成する転動面(転動体が「玉」の場合には転動溝)を有する。スライダは、さらに、転動体の戻し通路と、前記戻し通路と前記転動通路とを連通させる方向転換路を有する。そして、前記転動通路、戻し通路、および方向転換路で転動体の循環経路が構成され、この循環経路内を転動体が循環することにより、案内レールおよびスライダの一方が他方に対して相対的に直線運動する。転動体は、転動通路では保持器に保持されて転動している。
【0003】
このようなリニアガイド装置のスライダにおいては、スライダ本体の直動方向両端部にエンドキャップが固定されている。スライダ本体とエンドキャップは、案内レールの幅方向両側に配置される脚部と、両脚部と直交する方向に延びて両脚部を連結する胴部とからなる。そして、エンドキャップには、両脚部のスライダ本体側の面に、転動体の方向転換路の外側溝が形成され、胴部には給油口が形成されている。また、エンドキャップには、前記給油口から前記方向転換路に向かう油路が形成されている。
【0004】
リニアガイド装置の保持器のスライダへの取り付け方法は、例えば、下記の特許文献1および2に記載されている。
特許文献1では、上側の転動通路の上方に配置される上側保持部と、下側の転動通路の下方に配置される下側保持部と、上側の転動通路の下方と下側の転動通路の上方に配置される中間保持部とが別体で形成されている。また、中間保持部の長さ方向両端には凸部を、上側保持部と下側保持部の長さ方向両端には凹部を設けている。また、スライダ本体の長手方向両端面から突出して、エンドキャップの凹部に嵌まるように形成された内周案内部構成部材に、中間保持部の凸部を嵌める凹部と、上側保持部と下側保持部の各凹部を嵌める各凸部が形成されている。
【0005】
そして、内周案内部構成部材の前記凹部に中間保持部の凸部を嵌め、内周案内部構成部材の前記各凸部に上側保持部と下側保持部の各凹部を嵌めることで、内周案内部構成部材を介して保持器の長さ方向両端がエンドキャップに取り付けられている。
特許文献2では、上側の転動通路の上方に配置される上側保持部と、下側の転動通路の下方に配置される下側保持部と、上側の転動通路の下方と下側の転動通路の上方に配置される中間保持部とが一体に形成されている。また、上側保持部と下側保持部の長さ方向両端に突出部を設け、この突出部をエンドキャップに設けた係止溝に係止し、中間保持部の長さ方向両端をエンドキャップに設けた係止爪に係止することで、保持器がエンドキャップに取り付けられている。
【特許文献1】特開2002−54633号公報
【特許文献2】特開2005−180580号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、上述した特許文献1の方法では、保持器が合成樹脂の射出成形などにより形成されるために、膨潤や収縮による変形が生じる。保持器が膨潤して径が設計値より大きくなると、保持器は撓んだ状態で取り付けられる。反対に、保持器が収縮時に収縮して径が設計値より小さくなると、保持器の取り付け後に長手方向に隙間が生じる。
特許文献2のように、保持器が一体形の場合、中間保持部は上下の保持部よりも断面積が大きく形成されるため、成形時の変形率が大きく、直動方向に沿った寸法が上下の保持部よりも長く形成される。これにより、エンドキャップを取り付けた状態で、中間保持部に撓みが生じて、スライダを案内レールから引き抜く際やスライダを案内レールに挿入する際に転動体が落下する。
【0007】
本発明の課題は、スライダと案内レールと転動体と保持器を備え、二対4列の循環経路を有し、保持器は、上側の転動体の上部を保持する上側保持部と、下側の転動体の下部を保持する下側保持部と、上側の転動体の下部と下側の転動体の上部を保持する中間保持部からなり、スライダ本体の直動方向両端部にエンドキャップが固定されているリニアガイド装置において、保持器の中間保持部に撓みが生じないようにすることである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するために、本発明は、スライダと案内レールと転動体と保持器を備え、二対4列の循環経路を有し、スライダ本体の直動方向両端部にエンドキャップが固定されているリニアガイド装置において、エンドキャップのスライダ本体の上下の軌道面間に対応する位置に、案内レール側に向けて突出する突起が形成され、保持器は、上側の転動通路の上方に配置される上側保持部と、下側の転動通路の下方に配置される下側保持部と、上側の転動通路の下方と下側の転動通路の上方に配置される中間保持部からなり、保持器の中間保持部の長さ方向端部に前記突起が嵌まる長穴を有し、エンドキャップには、上側保持部の先端が嵌まる上溝と下側保持部の先端が嵌まる下溝が、直動方向に貫通した状態に形成され、保持器の中間保持部に形成された長穴に、エンドキャップに形成された突起を嵌めるとともに、エンドキャップに形成された上溝に上側保持部の先端を嵌め、下溝に下側保持部の先端を嵌めることで、保持器がエンドキャップに取り付けられていることを特徴とするリニアガイド装置を提供する。
【0009】
このリニアガイドによれば、エンドキャップの案内レール側に向けて突出する突起を、保持器の中間保持部の長さ方向端部に設けた長穴に嵌めるとともに、エンドキャップに直動方向に貫通した状態で形成された上溝に、上側保持部の先端を嵌め、同様の状態で形成された下溝に下側保持部の先端を嵌めることで、中間保持部の撓みが矯正されるとともに、保持器がエンドキャップに容易に取り付けられる。また、中間保持部を嵌めるエンドキャップの穴を長穴とし、上側保持部と下側保持部を嵌めるエンドキャップの上溝と下溝を、直動方向に貫通した状態で形成することにより、長手方向のズレを許容できる。
【発明の効果】
【0010】
本発明のリニアガイド装置によれば、スライダと案内レールと転動体と保持器を備え、二対4列の循環経路を有し、保持器は、上側の転動通路の上方に配置される上側保持部と、下側の転動通路の下方に配置される下側保持部と、上側の転動通路の下方と下側の転動通路の上方に配置される中間保持部からなり、スライダ本体の直動方向両端部にエンドキャップが固定されているリニアガイド装置において、保持器をエンドキャップに取り付ける際に、成形時に中間保持部が上下の保持部よりも長く形成された場合でも、中間保持部の撓みが矯正されるととともに、長さ方向のズレが許容できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下、本発明の実施形態について説明する。
図1は、本発明のリニアガイド装置の実施形態を示す正面図である。
図1に示すように、このリニアガイド装置は、案内レール1と、スライダ2と、円筒ころ(転動体)3と、保持ピース31と、保持器4とからなる。スライダ2は、スライダ本体21の直動方向両端部にエンドキャップ22が固定され、エンドキャップ22には、ころ挿入口が形成されていて、図1の右半分の図では、ころ挿入口が蓋6で塞がれた状態を示している。
【0012】
図1の左半分は、スライダ本体21からエンドキャップ22を外した状態を示している。エンドキャップ22の脚部の貫通穴24は、スライダ本体21のねじ穴24aに連通する。エンドキャップ22の胴部の貫通穴25は、スライダ本体21のねじ穴25aに連通する。貫通穴25の周囲の凹部25bは、エンドキャップ22をスライダ本体21に固定する際の、取付ボルトの頭部を収めるためのものである。
図2(a)は保持器の側面図であり、図2(b)は図2(a)のA−A断面図である。図3は、保持ピースと円筒ころの配置を示す図であり、円筒ころの軸方向端面側から見た図である。図4(a)は左右対称に形成されているエンドキャップの右半分を示す図であり、図4(b)は図4(a)のA矢視図である。
【0013】
これらの図に示すように、保持器4は、上側保持部4Aと下側保持部4Bと中間保持部4Cとが一体に形成されている。上側保持部4Aは、案内レール1の上側の転動面11とスライダ本体21の上側の転動面26とにより形成される上側の転動通路27aの上方に配置される部分である。下側保持部4Bは、案内レール1の下側の転動面11とスライダ本体21の下側の転動面26とにより形成される下側の転動通路27bの下方に配置される部分である。中間保持部4Cは、上側の転動通路27aの下方と下側の転動通路27bの上方に配置される部分である。
保持器4には、円筒ころ3を入れる上側ポケット41および下側ポケット42と、保持ピース31の腕部31bを案内する案内溝43が形成されている。そして、保持器4の中間保持部4Cの長さ方向両端部に、エンドキャップ22の突起5が嵌まる長穴7が形成されている。保持器4の材質としてはPOMなどが挙げられる。
【0014】
図3に示すように、保持ピース31は、円筒ころ3の周面に接触する円弧面311を有する本体31aと、円筒ころ3の軸方向両端面に配置される腕部31bとからなる。円筒ころ3を循環経路内に入れる際には、保持ピース31と円筒ころ3を交互に入れて、隣り合う円筒ころ3の間に保持ピース31が介装されるようにする。そして、転動通路27a,27b内では、円筒ころ3は保持ピース31の円弧面311に案内されて転動通路を転動し、保持器4の案内溝43に保持ピース31の腕部31bが案内されて保持ピース31が移動する。
図4に示すように、エンドキャップ22には、スライダ本体21に形成されている上下の軌道面26の間に対応する位置に、案内レール1側に向けて突出する突起5が形成されている。なお、図4の符号15は、エンドキャップ22に形成されたタング部である。
【0015】
エンドキャップ22には、また、保持器4の上側保持部4Aの先端爪部44が嵌まる上溝8と、下側保持部4Cの先端爪部44が嵌まる下溝9が、直動方向に貫通した状態に形成されている。なお、図1および図4(a)の符号「23」は、サイドシールの位置決め用の円柱状突起である。
したがって、エンドキャップ22の突起5を保持器4の長穴7に嵌めるとともに、エンドキャップ22の上溝8に保持器4の上側保持部4Aの先端爪部44を嵌め、下溝9に保持器4の下側保持部4Bの先端爪部44を嵌めることで、中間保持部4Cの撓みが矯正されるとともに、保持器4がエンドキャップ22に容易に取り付けられる。
【0016】
また、エンドキャップ22の突起5を嵌める中間保持部4Cの穴を長穴7とし、上側保持部4Bと下側保持部4Bを嵌めるエンドキャップ22の上溝8と下溝9を、直動方向に貫通した状態で形成することにより、成形時に中間保持部4Cが上下の保持部4A,4Bよりも長く形成された場合でも、長さ方向のズレを許容できる。
なお、この実施形態では、上側保持部4Aと下側保持部4Bと中間保持部4Cとが一体に形成された保持器4を使用しているが、上側保持部4Aと下側保持部4Bと中間保持部4Cを一体化しない3つの部材からなる保持器を使用してもよい。
【0017】
図5〜7は保持器が一体化されていない場合の図であって、図5は、エンドキャップ22Aに、上側保持部4A、下側保持部4B、および中間保持部4Cをそれぞれ取り付けた正面図である。図6は、この場合のエンドキャップ22Aを示す正面図(a)とそのB矢視図(b)である。図7は、上側保持部4A、下側保持部4B、および中間保持部4Cをそれぞれ示す側面図(a)とB−B断面図(b)である。
この例では、上側保持部4A、下側保持部4B、および中間保持部4Cが個別の部材となっているため、図4とは異なり、タング15Aの正面がエンドキャップ22Aの正面と同じ面となっている。これ以外の点は、図1〜4に示した例と同じ構造となっており、同様の効果が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本発明のリニアガイド装置の実施形態を示す正面図である。
【図2】(a)は保持器の側面図であり、(b)はそのA−A断面図である。
【図3】保持ピースと円筒ころの配置を示す図であり、円筒ころの軸方向端面側から見た図である。
【図4】左右対称に形成されているエンドキャップの右半分を示す図(a)と、そのA矢視図(b)である。
【図5】保持器が一体化されていない場合の例であって、エンドキャップに各保持部が取り付けた状態を示す正面図である。
【図6】保持器が一体化されていない場合の例であって、エンドキャップを示す正面図(a)とそのB矢視図(b)である。
【図7】保持器が一体化されていない場合の例であって、上側保持部、下側保持部、および中間保持部をそれぞれ示す側面図(a)とそのB−B断面図(b)である。
【符号の説明】
【0019】
1 案内レール
11 案内レールの軌道面
2 スライダ
21 スライダ本体
22 エンドキャップ
22A エンドキャップ
24 脚部の貫通穴
24a ねじ穴
25 胴部の貫通穴
25a ねじ穴
25b 凹部
26 スライダ本体の軌道面
27a 上側の転動通路
27b 下側の転動通路
3 円筒ころ(転動体)
31 保持ピース
31a 保持ピースの本体
31b 保持ピースの腕部
311 保持ピース本体の円弧面
4 保持器
4A 上側保持部
4B 下側保持部
4C 中間保持部
41 上側ポケット
42 下側ポケット
43 案内溝
44 上側および下側保持部の先端爪部
5 突起
6 ころ挿入口の蓋
7 長穴
8 上溝
9 下溝

【特許請求の範囲】
【請求項1】
スライダと案内レールと転動体と保持器を備え、二対4列の循環経路を有し、スライダ本体の直動方向両端部にエンドキャップが固定されているリニアガイド装置において、
エンドキャップのスライダ本体の上下の軌道面間に対応する位置に、案内レール側に向けて突出する突起が形成され、
保持器は、上側の転動通路の上方に配置される上側保持部と、下側の転動通路の下方に配置される下側保持部と、上側の転動通路の下方と下側の転動通路の上方に配置される中間保持部からなり、
保持器の中間保持部の長さ方向端部に、エンドキャップの前記突起が嵌まる長穴が形成され、
エンドキャップには、上側保持部の先端が嵌まる上溝と下側保持部の先端が嵌まる下溝が、直動方向に貫通した状態に形成され、
保持器の中間保持部に形成された長穴に、エンドキャップに形成された突起を嵌めるとともに、エンドキャップに形成された上溝に上側保持部の先端を嵌め、下溝に下側保持部の先端を嵌めることで、保持器がエンドキャップに取り付けられていることを特徴とするリニアガイド装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2009−108969(P2009−108969A)
【公開日】平成21年5月21日(2009.5.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−283711(P2007−283711)
【出願日】平成19年10月31日(2007.10.31)
【出願人】(000004204)日本精工株式会社 (8,378)
【Fターム(参考)】