説明

リニアモータシステム

【課題】リニアモータの推力定数誤差(バラツキ)を簡便に自動補正し、低減できるようにする。
【解決手段】リニアモータと、そのリニアモータのコイルに電流を供給する電流アンプとを備えるリニアモータシステムにおいて、リニアモータに抵抗器28を取り付け、その抵抗器28はリニアモータの推力定数誤差に対応する抵抗値を有するものとする。電流アンプ40には抵抗器28の抵抗値を読み取る手段と、その読み取った抵抗値から推力定数誤差を演算し、その演算した推力定数誤差に基づき、電流を調整する手段(演算回路41)を設ける。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明はリニアモータと、そのリニアモータのコイルに電流を供給する電流アンプとを備えるリニアモータシステムに関する。
【背景技術】
【0002】
一般的なリニアモータは、磁界中を電流が流れると、電流が流れる導体に対して磁束の向きと電流の向きの双方に直交する方向に力が発生する「フレミングの左手の法則」を基本原理として動作する。リニアモータは磁束を発生する永久磁石と、発生した磁束の経路となるヨークと、電流を流すコイルとを基本要素として構成され、一般的に永久磁石によって発生する磁束の向きに直交する位置関係にコイルが置かれ、これらに直交する方向にコイルに流れた電流の大きさに比例した力(推力)がコイルに発生する。図3はこの様子を模式的に示したものであり、図中、11は永久磁石を示し、12はコイルを示す。
【0003】
コイルに流す電流に対して発生する力の比例係数(以下、推力定数と言う)は、永久磁石の磁束密度のバラツキや組立寸法のバラツキ、ヨークの透磁率のバラツキなどにより必ずしも同じにならず、バラツキが生じる。一般的に、このバラツキは数%程度になり、大きい場合には10%程度になる。
【0004】
このバラツキを許容すると、コイルに同一の電流を流したにも拘らず、数%〜10%程度の発生推力のバラツキが個体差によって生じることになる。従って、非常に小さな推力定数誤差が要求される場合には、リニアモータに起因するバラツキの要因を厳密に管理して推力定数誤差を抑えるか、あるいはリニアモータに電流を供給する電流アンプのゲインを、接続されるリニアモータの推力定数誤差に応じて一台ずつ調整する必要があるが、いずれも手間とコストがかかるという問題があり、また電流アンプのゲインを調整する方法は例えば電流アンプに接続されるリニアモータが変わると再調整しなければならないという問題もある。
【0005】
このような問題に対処すべく、モータユニット内にデータメモリを組み込むことが特許文献1に記載されている。特許文献1ではサーボモータとモータセンサとが一体化されてなるモータユニットと、サーボドライバとからなるサーボモータシステムにおいて、モータユニット内に組み込むデータメモリにサーボモータ及びモータセンサそれぞれの固有の誤差データ、制御に必要な各種モータパラメータを記憶させ、それら記憶させた情報をサーボドライバが読み取ってサーボモータを駆動制御するものとなっており、これによりサーボモータを非常に高い精度で、適切に駆動制御することができるものとなっている。
【特許文献1】特開平7−303390号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上述した特許文献1に記載されているようなモータシステムによれば、モータ自体の精度(バラツキ)やユニットの組立精度(組立バラツキ)等は駆動制御時に補正されるため、それらに高い精度は必要ではなくなり、その分コストを下げることができる。
【0007】
しかしながら、特許文献1に記載されている方法ではデータメモリに情報(誤差情報)を書き込むものであるため、その際、データメモリとのインタフェース回路、誤差情報入力用のコンピュータさらには、データメモリを駆動するための電源等が必要になり、データメモリ書き込み用の大掛りな装置が必要となる。
【0008】
この発明の目的はこのような状況に鑑み、リニアモータシステムにおいて大掛りな装置を用いることなく、極めて簡便にリニアモータの推力定数誤差を補正し、低減することができるようにしたシステム構成を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
請求項1の発明によれば、リニアモータと、そのリニアモータのコイルに電流を供給する電流アンプとを備えるリニアモータシステムにおいて、リニアモータに抵抗器が取り付けられ、その抵抗器はリニアモータの推力定数誤差に対応する抵抗値を有し、電流アンプに前記抵抗値を読み取る手段と、その読み取った抵抗値から推力定数誤差を演算し、その演算した推力定数誤差に基づき、前記電流を調整する手段が設けられる。
請求項2の発明では請求項1の発明において、抵抗器が可変抵抗器とされる。
【発明の効果】
【0010】
この発明によれば、大掛りな装置を用いることなく、極めて簡便にリニアモータのバラツキに起因する推力定数誤差を自動的に補正し、低減することができるものとなっており、よってリニアモータを高い精度で駆動することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
この発明の実施形態を図面を参照して実施例により説明する。
図1はこの発明によるリニアモータシステムの一実施例におけるリニアモータの構成を示したものであり、図2はリニアモータのコイルに電流を供給する電流アンプの構成を示したものである。まず、図1を参照してリニアモータの構成を説明する。
この図1に示したリニアモータは例えば半導体露光装置における制振(振動制御)等に使用されるもので、図中、21は可動子を示し、22は固定子を示す。この例では可動子21は軟磁性材によって形成されてヨークとして機能し、この可動子21に永久磁石23が取り付けられている。
【0012】
可動子21は上板21aと底板21bと一対の側板21c,21dとよりなり、これらがボルト24により互いに固定されてX方向に開口した箱状とされている。上板21a及び底板21bの内面にはそれぞれ一対の永久磁石23が図1Dに示したように取り付けられており、これら永久磁石23と可動子21の上板21a及び底板21bとによって磁気回路が図1Dに矢印を付して示したように形成されている。
【0013】
可動子21内には固定子22が位置され、この固定子22にコイル25が取り付けられている。固定子22はこの例では方形状板部22aと、そのX方向に平行な対向2辺に板部22aを挟むようにそれぞれ取り付けられた一対の挟持部22b,22cとよりなり、これらはボルト26により互いに固定されている(図1C参照)。
【0014】
コイル25は固定子22の板部22aの中央に形成された開口に位置されて固定子22に取り付けられており、このコイル25が図1Dに示したように磁気回路内に、永久磁石23と所定の空隙を介して位置される。なお、図1Dでは可動子21の上板21a及び底板21b、永久磁石23、コイル25以外の部品の図示は省略している。
【0015】
固定子22の板部22aのX方向一端側には、この例では一対の接続端子27が植設されており、さらに可変抵抗器28が図1A,Cに示したように搭載されている。一対の接続端子27には図示を省略しているが、コイル25の両端がそれぞれ接続される。一対の接続端子27にはケーブル29がそれぞれ接続され、また可変抵抗器28にも2本のケーブル29が接続され、この例ではこれら4本のケーブル29がまとめられて、それらケーブル29にコネクタ31が取り付けられている。なお、図1B,Cではケーブル29及びコネクタ31の図示は省略している。
【0016】
上記のような構成を有するリニアモータはコイル25に電流を供給することにより、その電流に応じて可動子21がX方向に移動する。図には詳細に示していないが、固定子22は筐体等に固定され、また可動子21はガイドレール等に案内支持されてX方向に移動自在とされている。
【0017】
固定子22に搭載固定されている可変抵抗器28の抵抗値は、このリニアモータを製作する際の検査等で判明する推力定数誤差に応じて、その抵抗値が予め定めておいた推力定数誤差に対応した抵抗値に調整され、リニアモータの推力定数誤差に対応した抵抗値を有するものとされる。
【0018】
可変抵抗器28の抵抗値はコネクタ31を電流アンプに接続することにより、電流アンプで読み取られる。電流アンプ40はこの例では図2に示したように演算回路41とA/D変換器42と固定抵抗器43を備えている。なお、図2中、44は基準電圧(定電圧源)を示す。
【0019】
可変抵抗器28の抵抗値は、基準電圧44が固定抵抗器43と可変抵抗器28とで分圧された電圧に変換され、A/D変換器42でデジタルコードに変換されて演算回路41に入力される。演算回路41は可変抵抗器28の抵抗値の大きさを検出し、その抵抗値の大きさから電流アンプ40に接続されたリニアモータの推力定数誤差を演算し、その演算して求めた推力定数誤差に基づき、リニアモータのコイル25に供給する電流を調整する。
【0020】
つまり、この例では電流アンプ40は電流指令値に対して、認識した推力定数誤差を考慮した電流をリニアモータに出力するものとなっており、例えば接続されたリニアモータの推力定数が5%大きいと認識した場合、出力電流を5%減じ、これにより電流アンプ40への電流指令値に対するリニアモータの発生推力の誤差を補正し、低減することができるものとなっている。
【0021】
なお、この例では従来のようなデータメモリをモータユニット内に組み込むものと異なり、可変抵抗器28をリニアモータに組み込み、その可変抵抗器28の抵抗値をリニアモータの推力定数誤差に応じて調整して誤差情報を持たせるものとなっており、よって誤差情報を持たせる際、必要となるものは可変抵抗器28の抵抗値を調整するための調整具(例えば小さなネジ回し等)と抵抗値を測定するための抵抗計とがあればよく、大掛りな装置は必要としない。
【0022】
また、リニアモータと電流アンプ40を接続するのみで、電流アンプ40は自動的に可変抵抗器28の抵抗値を読み込み、推力定数誤差を演算してリニアモータに出力する電流を推力定数誤差に応じて調整するものとなっており、よって手間がかからず、極めて簡便にリニアモータの推力定数誤差の補正・低減を図ることができる。
なお、上述した例では可変抵抗器28を固定子22の板部22aに搭載固定しているが、これに限らず、可変抵抗器28をリニアモータの他の箇所に取り付けるようにしてもよい。
【0023】
また、可変抵抗器28に替え、リニアモータの推力定数誤差に応じて設定すべき抵抗値を有する固定抵抗器をリニアモータに取り付けるようにしてもよく、この場合、各種抵抗値の固定抵抗器の準備及び選択作業が必要となるものの、可変抵抗器を用いる場合における抵抗値の調整作業や測定作業は不要となり、かつ調整具や抵抗計も不要となる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】この発明によるリニアモータシステムの一実施例におけるリニアモータの構成を示す図、Aは平面図、Bは正面図、Cは斜視図、Dは一部省略したEE断面図。
【図2】この発明によるリニアモータシステムの一実施例における電流アンプの構成を説明するための図。
【図3】リニアモータの基本構造を説明するための図。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
リニアモータと、そのリニアモータのコイルに電流を供給する電流アンプとを備えるリニアモータシステムにおいて、
前記リニアモータに抵抗器が取り付けられ、その抵抗器は前記リニアモータの推力定数誤差に対応する抵抗値を有し、
前記電流アンプに、前記抵抗値を読み取る手段と、その読み取った抵抗値から前記推力定数誤差を演算し、その演算した推力定数誤差に基づき、前記電流を調整する手段が設けられていることを特徴とするリニアモータシステム。
【請求項2】
請求項1記載のリニアモータシステムにおいて、
前記抵抗器が可変抵抗器とされていることを特徴とするリニアモータシステム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2009−177976(P2009−177976A)
【公開日】平成21年8月6日(2009.8.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−14993(P2008−14993)
【出願日】平成20年1月25日(2008.1.25)
【出願人】(000231073)日本航空電子工業株式会社 (1,081)
【Fターム(参考)】