説明

リパーゼ阻害剤

【課題】食品への適用が可能なリパーゼ阻害剤を提供すること。
【解決手段】本発明によれば、ラクトフェリン、アポラクトフェリン、およびカゼイン酵素分解物のような乳由来タンパク質からなるリパーゼ阻害剤が提供される。本発明のリパーゼ阻害剤は、化粧品、動物飼料、飲食品、医薬品などに適用され得る。乳由来タンパク質からなる肥満の抑制または予防に有用な物質および該物質を含む組成物もまた提供される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、リパーゼ阻害剤に関する。
【背景技術】
【0002】
経口摂取された脂質は、膵臓より分泌される消化酵素リパーゼにより加水分解され、体内へ吸収される。脂質はエネルギーが高く、近年摂取量が増加する傾向にあるため、これが肥満を引き起こす一因となっている。肥満は、高血圧、耐糖能異常、高脂血症などを合併しやすく、虚血性心疾患、脳卒中、糖尿病、動脈硬化症、脂肪肝、胆石症、腎臓障害などの発症要因であるとされている。
【0003】
そこで脂質の吸収を抑制するために、リパーゼの活性阻害機能を有するリパーゼ阻害剤が種々開発されている。例えば、抗肥満のための膵リパーゼ阻害薬として、オリルスタット(ゼニカル)が、米国などの多くの国で最近臨床的に用いられている。
【0004】
また、ナリンゲニン、ヘスペレチンジヒドロカルコン、フロレチン、レスベラトロール、ロスマリン酸またはそれらの配糖体を酸化重合させて得られるポリフェノール類の重合体(特許文献1);マテ葉、アムラ果実、カシス果実、ヨモギ葉、メリッサ葉、およびプロポリスの溶媒抽出物(特許文献2);プロトカテキュ酸およびその誘導体など(特許文献3);水溶性成分を除去したケール又はその乾燥物である前処理ケールの低級アルコール抽出物(特許文献4);レンコン溶媒抽出物(非特許文献1)などの種々のリパーゼ阻害剤が見出されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2008−253256号公報
【特許文献2】特開2008−50301号公報
【特許文献3】特開2008−74735号公報
【特許文献4】特開2006−62985号公報
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】佐賀県工業技術センター研究報告書,平成18年度,36-38頁
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、食品への適用が可能なリパーゼ阻害剤を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、乳由来タンパク質からなるリパーゼ阻害剤を提供する。
【0009】
本発明のリパーゼ阻害剤の1つの実施態様では、上記乳由来タンパク質は、ラクトフェリン、アポラクトフェリン、およびカゼイン酵素分解物からなる群から選択される。
【0010】
本発明はまた、乳由来タンパク質からなる抗肥満剤を提供する。
【0011】
本発明の抗肥満剤の1つの実施態様では、上記乳由来タンパク質は、ラクトフェリン、アポラクトフェリン、およびカゼイン酵素分解物からなる群から選択される。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、安全性の高い乳由来タンパク質からなるリパーゼ阻害剤が提供される。また、抗肥満剤として有用な乳由来タンパク質も提供される。
【発明を実施するための形態】
【0013】
リパーゼ阻害剤として、乳由来タンパク質であるラクトフェリンおよびアポラクトフェリンが有用である。
【0014】
ラクトフェリンは、約690個の鎖状アミノ酸からなり、その三次元構造には2つの鉄結合ポケットがあり、当該ポケットに鉄が1個ずつ結合している。特に、このポケットに鉄が100%結合したものは「ホロラクトフェリン」と称される。通常のウシ由来ラクトフェリンは、ポケットの15〜20%に鉄が入り込んで、粉末や溶液はピンク色をしており、鉄の結合度が高くなればなるほど赤みが増す。鉄含有量が低下するにつれて白色に近づく。
【0015】
本明細書においては、その分子中の鉄含有率が4%以下であるラクトフェリンを、特に「アポラクトフェリン」と称する。ポケットに結合した鉄含有量で、アポラクトフェリンは、ラクトフェリンから区別され得る。ここで、鉄含有率とは、アポラクトフェリンのモル数に対する鉄のモル数の割合をいう。鉄含有率は、分光分析によりアポラクトフェリンの吸光度を測定すること、あるいは原子吸光分析やICP分光分析によりアポラクトフェリン中の鉄量を直接測定することによって決定され得る。本発明においては、鉄含有率は、アポラクトフェリン粉末を純水に溶解して1w/v%溶液とし、これを470nmの吸光度で測定して求めたものをいう。通常、アポラクトフェリンは白色であり、その外観でアポラクトフェリンであることが認識され得る。
【0016】
アポラクトフェリンはさらに以下の性質を有し得る。1w/v%の濃度でアポラクトフェリンを含む水溶液を調製した場合に、該水溶液中の総陽イオン濃度が5mmol/L以下である。総陽イオン濃度の決定は、アポラクトフェリン粉末を0.1N塩酸に溶解して0.1w/v%溶液を調製し、原子吸光光度法によって各陽イオン量を測定することにより各陽イオンの濃度を求め、これらを合算する。総陽イオン濃度は、アポラクトフェリン粉末に不純物として含有される塩(イオン)に相当し得る。上記の0.1N塩酸によって、ラクトフェリンに結合しているイオンではなく、その粉末に混入している塩のみが溶け出され得るためである。総陽イオン濃度は、好ましくは、3.0mmol/L以下であり、より好ましくは、1.0mmol/L以下である。
【0017】
アポラクトフェリンは、通常、ラクトフェリンを含有する水溶液のpHを、酸性側に調節して、ラクトフェリン分子が有する2価の鉄イオンを解離させることにより、製造され得る。
【0018】
ラクトフェリンは、乳汁(例えば、牛乳)などの哺乳動物の分泌液または脱脂乳、ホエイ(乳清)などの乳汁加工物からの分離精製(例えば、カチオン交換樹脂に吸着させた後、高濃度塩類溶液で脱離させる方法、電気泳動による分離法、アフィニティークロマトグラフィーによる分離法など)を利用することによって得られたものであってもよい。さらに遺伝子組換えにより得られる種々の細胞(微生物、植物細胞、動物細胞、昆虫細胞などを含む)、植物、動物などにより産生されたものであってもよい。ラクトフェリンは、好ましくは、天然物に由来する。好ましくは、乳清由来のものである。牛乳または脱脂乳から乳製品(例えば、チーズ、カゼインなど)を製造する際に発生する副産物として得られるホエイは、ラクトフェリンの供給源として好適に用いられ得る。ラクトフェリンは、医薬品、試薬などとしても市販され得る。
【0019】
アポラクトフェリンは、好適には、例えば、ラクトフェリン含有液を限外濾過する際に該液に酸を添加し、ラクトフェリンに結合している鉄イオンを解離させることによって製造され得る。ここで用いられ得る酸としては、例えば、クエン酸、塩酸、リン酸、リンゴ酸、または(0.4M以上の)酢酸が挙げられるが、クエン酸が好ましい。あるいは、アポラクトフェリンは、例えば、カチオン交換膜とアニオン交換膜とが張り合わさった構造を有する複合イオン交換膜であるバイポーラ膜とカチオン交換膜とが交互に配列されて、これらの膜により仕切られた酸室と塩基室とを有する電気透析装置を使用することによっても、好適に製造され得る。この場合、酸としては、電気透析装置での製造工程の間に産生される塩酸が用いられる。限外濾過装置としては、例えば、マイクローザUFラボテスト機(例えば、LX−22001;旭化成ケミカルズ株式会社)に、同社製のUFモジュールであるLOV(中空糸モジュール:膜内径0.8mm、有効膜面積41m、膜素材:ポリアクリロニトリル、公称分画分子量:50,000)を組み込んだ限外濾過装置が用いられ得る。
【0020】
アポラクトフェリンの製造において、調節される酸性側のpHは、好ましくは0.5〜3.0であり、より好ましくは1.5〜2.5である。pHが中性に近い場合(例えば、5.5)では、得られるアポラクトフェリンの抗菌性が弱くなることがある。ラクトフェリンを含有する水溶液のpH調整剤としては、上記酸だけでなく、フタル酸、グリシンなども用いられ得る。これらのpH調整剤は、ラクトフェリンを含有する水溶液に、そのpHを上記の値に調節するに適切な量で添加される。
【0021】
ラクトフェリンを含有する水溶液のpHを酸性側へ調節する際の温度は、蛋白の変性を考慮すると高温でないほうが好ましい。通常5℃〜60℃、より好ましくは15℃〜35℃であり、さらにより好ましくは室温である。
【0022】
アポラクトフェリンの製造の際に、通常、アポラクトフェリンは水溶液の形態で得られ得るが、そのまま水溶液の形態で用いても、あるいは溶媒を除去して粉末化した形態で用いてもよい。
【0023】
本発明においては、アポラクトフェリンは、「ラクトフェリン」または「アポラクトフェリン」として市販されているものを上記の鉄結合度および必要に応じて総陽イオン濃度を有するように改質してもよい。
【0024】
上記の鉄結合度を満たすアポラクトフェリンとしては、例えば、タツア・ジャパン株式会社から入手できる製品が挙げられる。
【0025】
リパーゼ阻害剤としては、乳由来タンパク質であるカゼインを酵素処理して得られる分解物(以下、「カゼイン酵素分解物」という)もまた有用である。
【0026】
カゼイン酵素分解物は、種々の分子量のペプチドまたはペプチド塩を含む混合物であり得る。例えば、以下の分子量分布を示すカゼイン酵素分解物が挙げられる:20000Da以上 20〜30%;10000〜20000Da 30〜40%;5000〜10000Da 10〜20%;2000〜5000Da 10〜20%;500〜2000Da 5〜10%;500Da以下。分子量分布の測定は、以下に説明の手順によってなされ得る:被験溶液(分解物)をプレフィルター・DISMIC-03CP(アドバンテック株式会社)で処理し、HPLC(Gilson)に注入し、ゲル濾過によって分離する。カラムはTSK-GEL G3000SWXL(東ソー株式会社)を使用し、溶出液はリン酸緩衝生理食塩水(PBS)を用いる。流速は、1mL/minとし、分解物の検出は、215nmを使用したUV検出器を用いる。
【0027】
一例として、カゼインナトリウムの水溶物にプロテアーゼを用いて1時間37℃にて加水分解して得られる物質が挙げられる。カゼインは水不溶性であるので、酵素処理を容易にするため、水溶性のカゼインナトリウムが酵素分解物の出発物として用いられ得る。カゼインナトリウムは、市販により入手可能であり得る。プロテアーゼとしては、好ましくは、エンドプロテアーゼ、エキソペプチダーゼ、およびエンドペプチダーゼ(例えば、微生物由来、シグマ社製)の3種の酵素の組み合わせ(より好ましくは、等量での組み合わせ)が用いられる。上記分子量分布を満たす分解物が得られるようなプロテアーゼの種類または処理は、好ましい。
【0028】
ラクトフェリン、アポラクトフェリン、およびカゼイン酵素分解物のような乳由来タンパク質は、そのリパーゼ阻害機能に基づき、皮膚に常在する微生物の産生するリパーゼを阻害するために用いられ得る。例えば、ニキビ、皮膚炎、フケなどは、皮脂腺の肥大増殖、毛嚢孔の角化亢進などにより皮脂が溜まるにつれて増大し得る、毛袋の毛漏斗に存在する皮膚常在菌のニキビ桿菌および/または皮膚ブドウ状球菌が産生するリパーゼによって、皮脂を構成している皮質成分の内のトリグリセリドが分解されて遊離脂肪酸に変換され、この遊離脂肪酸が上皮に作用することにより生じ得る。したがって、このような皮膚に常在する微生物の産生するリパーゼの阻害は、ニキビ、皮膚炎、フケなどの抑制または予防に有用である。
【0029】
本発明のリパーゼ阻害剤は、例えば、ニキビ、皮膚炎、フケなどを抑制または予防する外用の化粧品、医薬品、医薬部外品、トイレタリー用品など(便宜上、まとめて「外用剤」という)の有効成分として用いられ得る。
【0030】
また、外用剤の形態は、特に限定されるものではなく、溶液系、可溶化系、乳化系、粉末分散系、水−油二層系、水−油−粉末三層系、軟膏、ゲルなどの任意の形態であり得、皮膚に適用可能である任意の形態をとり得る。外用剤の剤形は、例えば、ローション剤、乳剤、ゲル剤、クリーム剤、軟膏剤、粉末剤、顆粒剤、錠剤などにすることができる。
【0031】
外用剤には、ラクトフェリン、アポラクトフェリン、およびカゼイン酵素分解物のような乳由来タンパク質による当該リパーゼ阻害剤に加えて、リパーゼ阻害効果を損なわない範囲内で、通常の外用剤に当業者が通常用いる他の成分、例えば油性成分、界面活性剤、アルコール類、水、保湿剤、美白剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、各種皮膚栄養剤などを必要に応じて適宜配合することができる。
【0032】
ラクトフェリン、アポラクトフェリン、およびカゼイン酵素分解物のような乳由来タンパク質は、食用とできる。例えば、経口用の健康サプリメントのような食品、あるいは飲食品への添加物に利用できる。特に、肥満の抑制または予防用の飲食品および内服用の医薬品に利用できる。
【0033】
経口用の健康サプリメントのような食品には、ブドウ糖、果糖、ショ糖、マルトース、マルチトール、ソルビトール、乳糖、クエン酸、酒石酸、リンゴ酸、コハク酸、乳酸、カゼイン、ゼラチン、ペクチン、寒天、アミノ酸類、賦形剤、増量剤、結合剤、増粘剤、乳化剤、着色料、香料、食品添加物、調味料、保存料などを適宜配合し得る。このような食品は、用途に応じて、粉末、顆粒、カプセル剤、錠剤、シロップ剤、懸濁液などの形態に成形され得る。食品(例えば、経口用の健康サプリメント)の製造は当業者が通常用いる方法によって行われ得、配合量、配合方法、配合時期は適宜選択することができる。
【0034】
そのまま摂取、水などの溶媒に溶かすまたは懸濁させるなどして、食事の前後、または食間に経口摂取することができる。肥満の抑制または予防を目的として飲食品に添加して、飲食することもできる。
【0035】
飲食品への添加物としては、例えば、在宅用糖尿病食、流動食、病者用食品(糖尿病食調整用組み合わせ食品など)、特定保健用食品、ダイエット食品、あるいは炭水化物を主成分とする食品が挙げられるが、これらに限定されない。具体的な食品形態としては、例えば、米飯製品、麦製品、野菜製品、乳飲料、清涼飲料などが挙げられるが、これらに限定されない。食品への添加または加工は、当業者が通常用いる方法によって行われ得、配合量、配合方法、配合時期は適宜選択することができる。ヒト以外への動物、例えば家畜またはペット用の飼料への添加も可能である。
【0036】
医薬品として用いる場合は、薬学的に許容される通常の担体、結合剤、安定化剤、賦形剤、希釈剤、pH緩衝剤、崩壊剤、可溶化剤、溶解補助剤、等張剤などの各種調剤用配合成分を添加することができる。また、粉末、顆粒、カプセル剤、シロップ剤、懸濁液等の剤型で経口的に投与することができる。医薬品の製造は当業者が通常用いる方法によって行われ得、配合量、配合方法、配合時期は適宜選択することができる。また、投与量は、肥満の程度、患者の体重、投与形態等により適宜選定することができる。そのまま摂取、水などの溶媒に溶かすまたは懸濁させるなどして経口的に投与することができる。投与は1日に1回または複数回に分けて行われ得る。
【0037】
以下、実施例により本発明をより具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例により限定されるものではない。
【実施例】
【0038】
ラクトフェリンは和光純薬株式会社より入手し、そしてアポラクトフェリンはタツア・ジャパン株式会社より入手した。このアポラクトフェリンの鉄含有率は3%である。鉄含有率の決定は、アポラクトフェリン粉末を塩酸(和光純薬)および純水に、pH=1.5の8w/v%となるように溶解し、得られた溶液についてFeCテストワコー(和光純薬)を用いて測定し、鉄結合度(%)=(8w/v%溶液中の鉄モル濃度/8w/v%溶液中のアポラクトフェリンモル数)×100によって算出した。
【0039】
カゼインナトリウム(タツア・ジャパン株式会社)に水を1:10容で加えて十分に溶解し、80℃で1分間殺菌した。その後、エンドプロテアーゼ/エキソペプチダーゼ/エンドペプチダーゼ(すべて微生物由来製品であり、シグマ社より入手)の等量の組み合わせを用いて1時間37℃にて加水分解し、次いでこれらのプロテアーゼを失活させるために90℃で2分間処理し、次いで凍結乾燥した。以下、この凍結乾燥物を「カゼインナトリウム酵素分解物」という。本カゼインナトリウム酵素分解物は、以下の表1に示す種々の分子量のペプチドからなる組成物であった。分子量分布のための分子量の測定は、以下に説明の手順によって行った:被験溶液(分解物)をプレフィルター・DISMIC-03CP(アドバンテック株式会社)で処理し、HPLC(Gilson)に注入し、ゲル濾過によって分離した。カラムはTSK-GEL G3000SWXL(東ソー株式会社)を使用し、溶出液はリン酸緩衝生理食塩水(PBS)を用いた。流速は、1mL/minとし、分解物の検出は、215nmを使用したUV検出器を用いた。
【0040】
【表1】

【0041】
(実施例1:ブタ由来リパーゼ阻害試験)
測定キット(リパーゼキットS;DSファーマバイオメディカル株式会社)を用いて、添付の測定法に準拠してリパーゼ阻害試験を実施した。この方法の原理は、基質として三酪酸メルカプロール(BALB)を用い、リパーゼ活性によって三酪酸メルカプロール(BALB)を加水分解し、ジメルカプロール(BAL)を生成する。ジメルカプロール(BAL)は、5,5−ジチオビス(2−ニトロ安息香酸)(DTNB)と定量的に反応し5−チオ−2ニトロ安息香酸(TNB)を生成する。5−チオ−2ニトロ安息香酸(TNB)の吸収波長(412nm)における吸光度を測定して定量を行い、リパーゼの活性を算出する。
【0042】
試験液の組成を以下の表2に示す。リパーゼ阻害剤を含む条件(「ポジティブコントロール」)として、オリルスタット(ゼニカル)を用いた。酵素液(リパーゼ)は、ブタ由来リパーゼ(和光純薬株式会社)を用いた。
【0043】
【表2】

【0044】
表中の略語は以下を表す:
BALB=三酪酸メルカプロール、SDS=ドデシル硫酸ナトリウム、PMSF=フッ化フェニルメチルスルホニル、DTNB=5,5−ジチオビス(2−ニトロ安息香酸)。
【0045】
試験は、以下に説明するようにして行った。まず、サンプル(ラクトフェリン、アポラクトフェリン、またはカゼインナトリウム酵素分解物)またはポジティブコントロール、および緩衝液2を、96ウェルプレートのそれぞれのウェルに入れた(容量計40μL)。他方、ネガティブコントロールとして、「リパーゼ阻害剤を含まない条件」を設定し、同容量(40μL)の0.1M NaClを含む0.1M Tris-HCl(pH7.0)溶液をウェルに入れた。次いで、エステラーゼ阻害剤1μLおよび緩衝液1(壁面のエステラーゼ阻害剤を洗い流すために添加)10μLを入れ、十分に攪拌した。次いで、酵素液(リパーゼ)4μLを入れ、攪拌後、30℃で5分間予熱し、発色液50μLを入れた。次いで、遮光下で基質5μLを入れ、30℃で30分間インキュベートし、その後、反応停止液100μLを入れた。反応停止液添加後1時間以内に、波長405nmで吸光度を測定し、リパーゼ活性を求めた。
【0046】
リパーゼ阻害率を、ネガティブコントロールでのリパーゼ活性に対する割合(%)として表した。各被験物質の阻害率を以下の表3に示す。
【0047】
【表3】

【0048】
(実施例2:ヒト由来リパーゼ阻害試験)
実施例1と同様に測定キット(リパーゼキットS;DSファーマバイオメディカル株式会社)を用いて、ヒト由来リパーゼ阻害試験を実施した。試験液は、酵素液(リパーゼ)としてヒト由来リパーゼ(和光純薬株式会社)10units/mL(0.1MNaClを含む0.1MTris-HCl(pH7.4)溶液)を用い、サンプルの濃度を0〜64mg/mLとしたこと以外は、上記表2と同様である。試験の手順も実施例1と同様である。
【0049】
リカーゼ阻害率を、リパーゼの活性を50%阻害する濃度(IC50)として表した。各被験物質の阻害率を以下の表4に示す。
【0050】
【表4】

【0051】
(実施例3:ブタ由来リパーゼとの結合試験)
ラクトフェリンおよびアポラクトフェリンについて、ブタ由来リパーゼ(和光純薬株式会社)との結合性を分子間相互作用定量水晶振動子マイクロバランス測定(QCM)装置Affinix Q(株式会社イニシアム)を用いて試験した。
【0052】
100μg/mLのブタ由来リパーゼ1μLをセンサーチップに結合した後、サンプル(1mg/mLのラクトフェリンまたはアポラクトフェリン)を試料カップへ8μL×3回添加し、Kd値およびBmax値を算出した。
【0053】
ブタ由来リパーゼとラクトフェリンとの結合結果は、Kd=2.89×10-6,Bmax=1500,r=0.959であり、ブタリパーゼとアポラクトフェリンとの結合結果は、Kd=9.02×10-7,Bmax=1750,r=0.951であった。
【0054】
(実施例4:ヒト由来リパーゼとの結合試験)
ラクトフェリン、アポラクトフェリン、およびカゼインナトリウム酵素分解物について、ヒト由来リパーゼ(和光純薬株式会社)との結合性を、サンプルとして1mg/mLのカゼインナトリウム酵素分解物もまた用いたこと以外は実施例3と同様にして、分子間相互作用定量水晶振動子マイクロバランス測定(QCM)装置Affinix Q(株式会社イニシアム)を用いて試験した。
【0055】
ヒト由来リパーゼとラクトフェリンとの結合結果は、Kd=2.11×10-6,Bmax=1340,r=0.983であり、ヒト由来リパーゼとアポラクトフェリンとの結合結果は、Kd=1.15×10-6,Bmax=1630,r=0.937であり、ヒト由来リパーゼとカゼインナトリウム酵素分解物との結合結果は、Kd=3.03×10-5,Bmax=1020,r=0.999であった。
【0056】
ラクトフェリン、アポラクトフェリン、およびカゼインナトリウム酵素分解物において、ブタ由来リパーゼまたはヒト由来リパーゼとの間に結合が生じることが分かった。
【0057】
実施例1および2にリパーゼ阻害試験の結果に加え、実施例3および4に記載のリパーゼ結合試験の結果から、これらの物質が、リパーゼに対する阻害効果を発現することが理解される。
【0058】
(実施例5:減量効果治験)
<試験方法>
自由意思で参加した30歳以上のBMI25以上の健常被験者12名(男女不問;被験製品摂取群6名および対照製品摂取群6名)について二重盲験試験を実施した。なお、割り付けは、公的研究機関に属する第三者に依頼した。
【0059】
被験者は1日400mgの被験製品(アポラクトフェリン)あるいは対照製品(乳糖)を6週間、毎食後30分以内に摂取した。なお、被験製品および対照製品ともに打錠被覆コーティングを行い、外観上は見分けがつかないようにした。
【0060】
被験者は、試験開始時、および試験終了(42日目)に医師の総合診断を受けた。また、同一日に血液採取を行い、以下の試験項目について測定した。すべての試験終了後、キーオープンし被験製品摂取群と対照群を比較検討した。なお、本治験の実施にあたっては、株式会社アップウェル治験倫理委員会にて承認を得、被験者からは文書でインフォームドコンセントを頂いた。
【0061】
(評価項目)
全身状態:体重、血圧、脈拍;
血糖マーカー:HbA1C、空腹時血糖値;
血管炎症マーカー:可溶性VCAM-1(血管細胞接着分子(vascular cell adhesion molecule)-1)、MCP-1(単球走化性タンパク質(monocyte chemotactic protein)-1);
血液検査項目:赤血球、白血球、血小板、TG、HDL-CHO、LDL-CHO、尿酸値、AST(GOT)、ALT(GPT)、BUN、クレアチニン。
【0062】
<試験結果>
血糖マーカーおよび血液検査項目では、被験製品摂取群と対照製品摂取群との間で差は生じなかった。血管炎症マーカーでは、MCP-1が被験製品摂取群で明らかに減少したが、統計的に有意ではなかった。全身状態では、血圧および脈拍は両群に差はなかったが、体重は、被験製品摂取群は対照製品摂取群に比して有意(P<0.01)に減少した(表5)。
【0063】
【表5】

【産業上の利用可能性】
【0064】
本発明によれば、リパーゼ阻害活性のある乳由来タンパク質が提供される。リパーゼ阻害活性は、化粧品、食品分野を含む種々の分野において有用である。また、抗肥満作用を有する乳由来タンパク質も提供される。乳由来タンパク質は人体への安全性が高く、飲食品、動物飼料、および医薬品などに含有させることにより、肥満の抑制または予防にも有用である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
乳由来タンパク質からなるリパーゼ阻害剤。
【請求項2】
前記乳由来タンパク質が、ラクトフェリン、アポラクトフェリン、およびカゼイン酵素分解物からなる群から選択される、請求項1に記載のリパーゼ阻害剤。
【請求項3】
乳由来タンパク質からなる抗肥満剤。
【請求項4】
前記乳由来タンパク質が、ラクトフェリン、アポラクトフェリン、およびカゼイン酵素分解物からなる群から選択される、請求項3に記載の抗肥満剤。

【公開番号】特開2010−229118(P2010−229118A)
【公開日】平成22年10月14日(2010.10.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−81454(P2009−81454)
【出願日】平成21年3月30日(2009.3.30)
【出願人】(506307809)株式会社アップウェル (9)
【Fターム(参考)】