説明

リフレクター、光源モジュール、画像形成装置、及びリフレクターの製造方法

【課題】反射面の平坦性が高く、反射率の良いリフレクターを得る。
【解決手段】光源装置20の近傍に配置され、光源装置20から射出される光を反射して集光するリフレクターであって、シリコン基板101の異方性エッチングにより形成された斜面106と、斜面106上に形成された、斜面106の表面粗さの緩和層108と、緩和層108上に形成された光反射膜105と、斜面106で囲まれた、光源装置20を配置するための溝107を備えている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、リフレクター、光源モジュール、画像形成装置、及びリフレクターの製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
照明装置やプロジェクターでは、LED(Light Emitting Diode)光源や、レーザー光源からの出射光を所望の方向へ反射させるため、リフレクター(反射ミラー)を光源近くに配置する。
【0003】
特許文献1に記載された半導体レーザー装置では、シリコンのエッチングにより形成される結晶面を利用して、V状の溝を形成し、その表面を反射ミラーとして利用することにより、半導体レーザーから出射される光の方向を変えている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平5−315699号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、通常、シリコンのエッチングを行うと、結晶面の表面に若干の粗さを生じる。このため、結晶面上に形成される光反射膜の表面にも粗さが生じ、光の反射率が低下する場合があった。
【0006】
そこで、本発明は、反射面の平坦性が高いリフレクター、光源モジュール、画像形成装置、及びリフレクターの製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明に係るリフレクターは、光源の近傍に配置され、前記光源から射出される光を反射して集光するリフレクターであって、基板上に形成された斜面と、前記斜面上に形成された、前記斜面の表面粗さの緩和層と、前記緩和層上に形成された反射部と、前記斜面で囲まれた、前記光源を配置するための溝と、を備えている。
【0008】
本発明によれば、反射部表面の平坦性が確保され、反射率の高いリフレクターを得ることができる。これにより、光源から射出される光の利用効率をより高めることができる。
【0009】
また、前記基板はシリコン基板であり、前記斜面は、異方性エッチングにより形成されたシリコンの(111)面を含む。
これにより、シリコンのエッチングにより形成される(111)面を利用して斜面を形成できる。(111)面の傾斜は基板表面に対して54.7度であり、光の反射面として理想的な角度である60度に非常に近い傾斜が形成される。
【0010】
また、前記緩和層は、スプレーコーティング法により成膜した樹脂膜を含むものである。
また、前記緩和層は、TEOS−CVDにより成膜した酸化膜を含むものである。
これにより、容易に緩和層を形成することができる。
【0011】
また、前記緩和層は、成膜後に加熱処理を施すことにより、表面を平坦化したものであることが望ましい。
これにより、緩和層の表面の平坦性をさらに高めることができる。
【0012】
前記反射部は、金属膜を含むものとすることができる。
金属膜としては、アルミなどの波長選択性の無い材料を用いることが望ましい。
また、前記反射部は、酸化チタン等を含む誘電体多層膜を含むものとしてもよい。
【0013】
本発明に係る光源モジュールは、光源と、前記光源の近傍に配置され、前記光源から射出される光を反射して集光するリフレクターと、前記リフレクターを通った前記光を均一化するロッドインテグレータと、前記光源から発生する熱を放散させるためのヒートシンクとを備え、前記リフレクターは、基板上に形成された斜面と、前記斜面上に形成された、前記斜面の表面粗さの緩和層と、前記緩和層上に形成された反射部と、前記斜面で囲まれた、前記光源を配置するための溝と、を備えている。
【0014】
本発明によれば、反射部表面の平坦性が確保され、反射率の高いリフレクターを得ることができる。これにより、光源から射出される光の利用効率をより高めることができる。これにより、光源から光軸に対して比較的大きな角度を成す光束が射出されても、光軸に対して比較的小さな角度を成す光束に変換することができる。
【0015】
本発明に係る画像形成装置は、上記の光源モジュールと、前記光源モジュールを通った前記光を、画像情報に応じて変調する光変調部と、前記光変調部からの像光を投射する投射レンズと、を備えたものである。
本発明によれば、リフレクターの反射面の平坦性が良く反射率ガ高いため、光源光を効率よく利用することができる。
【0016】
本発明に係るリフレクターの製造方法は、基板上に斜面を形成する第1工程と、前記斜面上に、前記斜面の表面粗さを緩和するための緩和層を形成する第2工程と、前記緩和層上に反射膜を形成する第3工程と、を有する。
【0017】
本発明によれば、反射部表面の平坦性が確保され、反射率の高いリフレクターを得ることができる。また、斜面と反射部の間に緩和層を形成するだけで、斜面の表面の粗さを緩和しているため、簡易に効率よくリフレクターを製造することができる。
【0018】
また、前記第2工程では、スプレーコーティング法で樹脂膜を成膜することにより、緩和層を形成することができる。
また、前記第2工程では、TEOS−CVDで酸化膜を成膜することにより、緩和層を形成することができる。
これにより、容易に緩和層を形成することができる。
【0019】
また、前記第2工程と前記第3工程の間に、成膜した前記緩和層に加熱処理を施すことにより、前記緩和層の表面を平坦化する工程を含むことが望ましい。
これにより、緩和層の表面の平坦性をさらに高めることができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】実施の形態1による、光源モジュールを含むプロジェクターの構成を示す側面図である。
【図2】光源装置の構成を示す断面図である。
【図3】光源モジュールのリフレクター部分を拡大して示した図である。
【図4】実施の形態1による、リフレクターの製造方法を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明の実施の形態について図面を参照して説明する。
【実施例】
【0022】
図1は、実施の形態1による、光源モジュール10を含むプロジェクター(画像形成装置)90の構成を示す側面図である。
プロジェクター90は、光源モジュール10と、光源モジュール10を経た照明光によって照明される光変調部50と、光変調部50からの像光をスクリーン(不図示)に投射する投射レンズ60とを備える。
【0023】
光源モジュール10は、光源光を発生する光源装置20と、シリコン基板101、反射部102、ヒートシンク103、及びロッドインテグレータ104を備えている。本実施形態に係るリフレクターは、シリコン基板101と反射部102を含む。
【0024】
光源モジュール10は、光源装置20から射出される光源光を集光しつつ均一化し、光変調部50を均一に照明するための装置である。
【0025】
光源装置20は、ヒートシンク103の上に周囲を反射部102に囲まれるように配置されている。図2に示すように、光源装置20は、所望の波長域の光源光を発生する発光装置22を、電源配線等を備える回路基板24上に実装したものである。発光装置22は、固体発光素子であるLEDチップ31を光源として内蔵する光源パッケージであり、このLEDチップ31は、樹脂、セラミック等で形成された平坦な支持台23上にマウントされている。LEDチップ31は、その上面に矩形領域の発光部32を有しており、回路基板24からの電力供給を受けて、この発光部32から光源光を射出する。なお、発光部32から射出される光源光は、多くが光軸OAに沿った正面方向に射出されるものであるが、光軸OAに垂直な横方向にも一部射出される。
【0026】
ロッドインテグレータ104は、光軸OAのまわりに対称な、中空の筒状の外観を有し、光源装置20から光変調部50に向かって、先広がりのテーパー形状の導光空間LSを形成している。これにより、光源装置20から光軸OAに対して比較的大きな角度を成す光束が射出されても、光変調部50に入射する際には、光軸OAに対して比較的小さな角度を成す光束に変換することができる。
【0027】
シリコン基板101は、ロッドインテグレータ104の光入射口を塞ぐように固定されている。
反射部102は、図1に示すように、光源装置20の周辺に配置され、光軸OAに対して約60度傾斜している。これにより、発光装置22の側方に射出された光源光が反射部102によって光軸OA方向前方に折り曲げられて光軸OAに略沿って進む。これにより、発光装置22からの光源光を無駄なくロッドインテグレータ104内に取り込むことができる。これにより、発光装置22から射出される光源光の利用効率を高めるとともに、光変調部50を正面方向から少ない傾き成分で照明することができる。
【0028】
ヒートシンク103は、光源装置20から発生する熱を放散させるために設けられており、熱伝導率の高い金属などで形成されている。
【0029】
光変調部50は、光源モジュール10からの均一化された照明光を入射させる液晶パネル51と、液晶パネル51を挟むように配置される1組の偏光フィルタ53,54とを備える。液晶パネル51と、これを挟む一対の偏光フィルタ53,54とは、照明光を2次元的に輝度変調するための液晶ライトバルブを構成する。
【0030】
投射レンズ60は、適当なレンズ群からなる投射光学系であり、光変調部50を経た像光を適当な拡大率でスクリーン(不図示)に投射する。
【0031】
図3は、本実施形態による光源モジュール10のリフレクター部分を拡大して示した図である。図に示すように、シリコン基板101をエッチングすることにより形成された斜面106で囲まれた溝107に、光源装置20が配置されている。斜面106は、シリコンの(111)面に相当する。
【0032】
斜面106を含むシリコン基板101の表面には、緩和層108が形成されており、さらに緩和層108上に光反射膜105が形成されており、反射部102を構成している。
【0033】
本実施形態による、リフレクターの製造方法について説明する。
まず、シリコンの異方性エッチングにより、斜面106を形成する。シリコン基板に酸化膜等によるエッチングマスクを形成し、水酸化カリウム(KOH)水溶液や水酸化テトラメチルアンモニウム(TMAH)水溶液を用いてエッチングを行うことにより、(111)面を側面とする溝107が形成される。
【0034】
エッチングの条件については、例えばシリコン基板101の厚さが300μmの場合、基板片側面からのみのエッチングで、38wt%のKOH水溶液を用いて、110℃で1時間10分程度の条件で、行うことができる。なお、シリコン基板101の厚さは、光源装置20の高さよりも大きいことが望ましい。光源装置20が溝107内に収まることにより、出射光の集光の効率を高めることができる。
【0035】
しかし、図4(A)に示すように、エッチングにより形成された(111)斜面には、表面に粗さ(深さ1μm程度の凹凸形状)が生じてしまう。この上に光反射膜105を形成すると、光反射膜105の表面にも粗さが生じ、反射部102の平坦性が損なわれる。このため、反射部102における光の反射率が低下し、光の集光効率が低下してしまう。
【0036】
そこで、本実施形態では、図4(B)に示すように、エッチングにより形成された(111)斜面106と光反射膜105の間に緩和層108を設け、表面を平坦化してから光反射膜105を形成するようにした。
【0037】
緩和層108は厚さ1μm程度の層であり、例えば、レジスト(樹脂材料)をスプレーコーティング法で塗布することにより形成する。
スプレーコーティング法による成膜の条件としては、例えば、噴霧圧力0.4Mpa、シリンジ圧力0.2Mpaとし、塗布面と噴射ノズルとの距離を150mm程度として行うことが望ましい。材料となるレジストには、例えば、東京応化工業製のOMR−83の粘度60cPをシンナーで希釈したものを使用することができる。シリコン基板101の温度は40℃で行うことが望ましい。
また、スプレーコーティングの後、塗布したレジストに加熱処理(90℃程度)を施すことにより、緩和層108の表面の平坦性をさらに高めることが望ましい。
【0038】
また、TEOS(テトラエトキシシラン)−CVDを用いて成膜される酸化膜層を緩和層108としてもよい。成膜温度は400℃で行うことが望ましい。TEOS−CVDにオゾン(O)を添加することにより、カバレッジ特性の非常に良い膜が得られる。
なお、TEOS−CVDの場合にも、成膜の後、加熱処理を行うことにより、緩和層108の表面の平坦性をさらに高めることが望ましい。
【0039】
光反射膜105は、アルミなどの金属膜とすることができる。また、酸化チタン等を含む誘電体多層膜としてもよい。誘電体多層膜の構成例としては、二酸化チタン(TiO)と二酸化シリコン(SiO)の積層構造があげられる。光反射膜105の材料は限定されないが、波長選択性の無い材料を用いることが望ましい。なお、光反射膜105の形成はスパッタリングや蒸着などの方法で行うことができる。
【0040】
シリコン基板101のエッチングにより、一辺が2〜3mm程度の底面を持つ溝107が形成され、これは、光源装置20がほぼ隙間無く配置できる大きさとなる。また、エッチングにより形成される(111)斜面106の傾斜は基板表面に対して54.7度であり、光の反射面として理想的な角度である60度に非常に近い傾斜が形成される。
【0041】
以上のように、本実施形態によれば、光源モジュール10のリフレクターを、シリコンのエッチングにより形成される(111)面を利用して形成し、さらに、形成された斜面106の上に緩和層108を形成し、その上に光反射膜105を形成するようにしたので、反射部102表面の平坦性が確保され、反射率の高いリフレクターを得ることができる。また、斜面106と光反射膜105の間に緩和層108を形成するだけで、斜面106表面の粗さを緩和しているため、簡易に効率よくリフレクターを製造することができる。なお、表面粗さのある斜面106の上に、直接、平坦性の高い光反射膜105を形成することは難しい。これは、金属膜や誘電体多層膜を厚く形成することで、シリコンの表面粗さを緩和することも考えられるが、膜厚を厚くすることで、金属膜や誘電体多層膜の膜内の応力が増加し、シリコン表面からの剥がれや、膜特性の劣化の問題を生じるからである。
【0042】
また、シリコン基板101が緩和層108で覆われているため、万一シリコン基板101が破損した場合でも、シリコンの破片が樹脂などに覆われた状態で飛散するので、光反射膜105に付着した破片を容易に回収することができる。
【0043】
なお、本実施形態に係るリフレクターは、シリコン基板101のエッチングにより形成される斜面を利用したものであるが、他の材料で形成された斜面の表面粗さの緩和にも、本発明を適用することができる。
【符号の説明】
【0044】
10 光源モジュール、101 シリコン基板、102 反射部、103 ヒートシンク、104 ロッドインテグレータ、105 光反射膜、106 斜面、107 溝、108 緩和層、20 光源装置、22 発光装置、23 支持台、24 回路基板、31 LEDチップ、32 発光部、50 光変調部、51 液晶パネル、53,54 偏光フィルタ、60 投射レンズ、90 プロジェクター

【特許請求の範囲】
【請求項1】
光源の近傍に配置され、前記光源から射出される光を反射して集光するリフレクターであって、
基板上に形成された斜面と、
前記斜面上に形成された、前記斜面の表面粗さの緩和層と、
前記緩和層上に形成された反射部と、
前記斜面で囲まれた、前記光源を配置するための溝と、を備えていることを特徴とするリフレクター。
【請求項2】
前記基板はシリコン基板であり、
前記斜面は、異方性エッチングにより形成されたシリコンの(111)面を含むことを特徴とする、
請求項1に記載のリフレクター。
【請求項3】
前記緩和層は、スプレーコーティング法により成膜した樹脂膜を含むことを特徴とする、請求項1に記載のリフレクター。
【請求項4】
前記緩和層は、TEOS−CVDにより成膜した酸化膜を含むことを特徴とする、請求項1に記載のリフレクター。
【請求項5】
前記緩和層は、成膜後に加熱処理を施すことにより、表面を平坦化したものであることを特徴とする、請求項3または4に記載のリフレクター。
【請求項6】
前記反射部は、金属膜を含むことを特徴とする、
請求項1に記載のリフレクター。
【請求項7】
前記反射部は、誘電体多層膜を含むことを特徴とする、
請求項1に記載のリフレクター。
【請求項8】
光源と、
前記光源の近傍に配置され、前記光源から射出される光を反射して集光するリフレクターと、
前記リフレクターを通った前記光を均一化するロッドインテグレータと、
前記光源から発生する熱を放散させるためのヒートシンクと、を備え、
前記リフレクターは、
基板上に形成された斜面と、
前記斜面上に形成された、前記斜面の表面粗さの緩和層と、
前記緩和層上に形成された反射部と、
前記斜面で囲まれた、前記光源を配置するための溝と、を備えていることを特徴とする、光源モジュール。
【請求項9】
請求項8に記載の光源モジュールと、
前記光源モジュールを通った前記光を、画像情報に応じて変調する光変調部と、
前記光変調部からの像光を投射する投射レンズと、を備えた画像形成装置。
【請求項10】
基板上に斜面を形成する第1工程と、
前記斜面上に、前記斜面の表面粗さを緩和するための緩和層を形成する第2工程と、
前記緩和層上に反射膜を形成する第3工程と、を有するリフレクターの製造方法。
【請求項11】
前記第2工程では、スプレーコーティング法で樹脂膜を成膜することにより、緩和層を形成することを特徴とする請求項10に記載のリフレクターの製造方法。
【請求項12】
前記第2工程では、TEOS−CVDで酸化膜を成膜することにより、緩和層を形成することを特徴とする請求項10に記載のリフレクターの製造方法。
【請求項13】
前記第2工程と前記第3工程の間に、成膜した前記緩和層に加熱処理を施すことにより、前記緩和層の表面を平坦化する工程を含むことを特徴とする請求項11または請求項12に記載のリフレクターの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2010−171164(P2010−171164A)
【公開日】平成22年8月5日(2010.8.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−11677(P2009−11677)
【出願日】平成21年1月22日(2009.1.22)
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)
【Fターム(参考)】