説明

リポキシゲナーゼ活性を低減させたオオムギおよびそれらから調製した飲料

本発明により、機能的リポキシゲナーゼ(LOX)−1酵素および機能的LOX−2酵素を完全に喪失させたオオムギと、脂肪酸二原子酸素添加酵素であるLOX−1およびLOX−2の合成を欠損させたオオムギ穀粒を用いることにより製造されるモルトなど、その植物生成物とが提供される。前記酵素は、リノール酸から、それぞれ、9−ヒドロペルオキシオクタデカジエン酸および13−ヒドロペルオキシオクタデカジエン酸をもたらす二原子酸素添加反応に関して主要な活性を示す。9−ヒドロペルオキシオクタデカジエン酸は、(さらなる酵素反応または自発的反応を介して)trans−2−ノネナール(T2N)の出現をもたらし得る、LOX経路の代謝物を表す。本発明は、醸造者が、飲料を長期にわたり保存した後であっても、気の抜けたT2N特異的な異臭レベルが低いビールを生産することを可能とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本出願で引用されるすべての特許参考文献および非特許参考文献は、それらの全体において、参照により本明細書に組み込まれる。
【0002】
本発明は、植物体のバイオテクノロジーにおける進歩に関し、2つのリポキシゲナーゼ(LOX)酵素であるLOX−1およびLOX−2の合成を欠損させたオオムギ植物体およびそれらの生成物の開示を可能とする(これにより、多様に用いられる新規の原料を提供する)。前記原料は、例えば、飲料を生産するのに用いる場合、蓄積させる異臭化合物trans−2−ノネナール(T2N)レベルが顕著に低い(含有するT2Nポテンシャルレベルが低くとどめられるというさらなる利益を有する)、より示差的で風味の安定したビールを新規に製造する能力の配備を容易にする。
【背景技術】
【0003】
大部分のビールは、世界の大部分で生育している単子葉作物であるオオムギ(Hordeum vulgare, L.)に基づいて生産される。オオムギを繁殖させるのは、ビールなど、産業製品の供給源としての経済的重要性のためだけでなく、また、動物試料の供給源としての経済的重要性のためでもある。
【0004】
残念ながら、所与の遺伝子および対応するタンパク質の発現を完全に欠くトランスジェニックのオオムギ植物体を調製する方法は与えられていない。オオムギの場合一般に、アンチセンス法の適用を用いて、タンパク質の一部をやはり発現するトランスジェニック植物を生成することができる(例えば、Robbinsら、1998年;Stahlら、2004年;Hansenら、2007年を参照されたい)。また、オオムギ植物体におけるキメラRNA/DNAまたは部位指向変異誘発を用いて特異的な変異を調製するのに有効な方法も開発されていない。実際に、オオムギにおけるオリゴヌクレオチド指向の遺伝子標的化の成功例は、1つも公表されていない。IidaおよびTerada(2005年)は、トウモロコシ、タバコ、およびコメにおいて、オリゴヌクレオチド指向の遺伝子標的化が追及されている(しかし、オオムギにおいてではなく、すべての場合において、ALS遺伝子が標的とされている)ことに言及している。研究の結論の一部は、適切な改変を加えた戦略が、ALS遺伝子など、直接的に選択可能な遺伝子以外の遺伝子に適用可能であり得るかどうかは、いまだに分かっていないということであった。ジンクフィンガーヌクレアーゼを用いる標的化変異誘発は、基礎的な植物生物学を研究し、または作物植物を改変するのに将来使用し得る別のツールを表す(Duraiら、2005年;TzfiraおよびWhite、2005年;Kumarら、2006年)。この場合もまた、オオムギでは、変異誘発が追及されていないか、または有効に適用されていない。
【0005】
しかし、アジドナトリウム(NaN;図1)で処理することによるなど、化学的処理または照射を用いる無作為的な変異誘発により、オオムギの変異体を調製することができる。例は、低フィチン酸の変異体を同定するために、NaNでオオムギ穀粒を変異誘発させ、高レベルの遊離リン酸を有するものを求めたそれらのスクリーニングである(RasmussenおよびHatzack、1998年;スクリーニングされた2,000個の穀粒から、計10個の変異体が同定された)。しかし、NaN処理後における特定の変異体の同定は、有効なスクリーニング法を必要とし、常に成功することからは遠い。
【0006】
1970年に、ビールに段ボール様の風味をもたらす分子が単離され、揮発性のCアルケナールであるT2Nとして同定された(JamiesonおよびGheluwe、1970年)。ヒトにおけるT2Nの風味閾値レベルは極めて低く、既に、約0.7nMまたは0.1ppbであると同定されている(Meilgaard、1975年)ので、微小なレベルであっても、アルデヒドを伴う製品は、その異臭風味のために、劣化していると見なされる。しかし、新鮮なビールでは一般に、T2Nレベルが極めて低く(Lermusieauら、1999年)、このため、保存時において、T2N付加物から遊離T2Nが放出される可能性があると推測されている(Nyborgら、1999年)。この考えは、ウォート中におけるT2Nポテンシャルが、製品保存後におけるT2Nの形成と相関するという、その後の観察により裏付けられた(Kurodaら、2005年)。
【0007】
オオムギの穀粒は、LOX−1、LOX−2、およびLOX−3として公知である3つのLOX酵素を含有する(van Mechelenら、1999年)。LOX−1は、リノール酸からの、9−ヒドロペルオキシオクタデカジエン酸(9−HPODE;LOX経路の部分的な概要については、図2を参照されたい)(T2Nおよびトリヒドロキシオクタデカン酸(THAと略記する)の両方の前駆体)の形成を触媒する。LOX−2は、13−HPODEへのリノール酸の転換を主に触媒し、13−HPODEは、風味閾値が約0.4ppmと高いCアルデヒドであるヘキセナール(hexanal)へとさらに代謝される(Meilgaard、前出)。LOX−3の作用は、2つの理由のために:オオムギ穀粒内の対応する遺伝子の発現レベルが極めて低く、LOX−3の生成物特異性がいまだ不明であるために、本出願に関しては、おそらく関与的でない。
【0008】
まず、LOX−1により触媒されてリノール酸が9−HPODEへと転換され、次いで、9−ヒドロペルオキシドリアーゼの作用を介して9−HPODEが切断されることを伴う生化学経路を介してT2Nが生成されることに、複数の報告が言及している(例えば、Kurodaら、2003年、2005年;Noodermeerら、2001年を参照されたい)ことは、前述のデータを裏付ける。
【0009】
モルト中における全体的なLOX活性と、ウォートのノネナールポテンシャルとの間には相関が見られないと考えられている。しかし、LOX−1活性と、ウォートのT2Nポテンシャルとの間の著明な相関については推測がなされており、これは主に、ウォート中におけるT2Nポテンシャルの形成に関して、LOX−2活性がそれほど重要でないと考えられていたためである(Kurodaら、2005年)。
【0010】
上記に述べたLOX経路の一部を、図2に示すが、ここでは、リノール酸からT2Nへの生化学反応に焦点が当てられている。LOX−1酵素の主要な活性は、リノール酸が、T2Nの形成をもたらす生化学経路の上流の代謝物である9−HPODEへと転換されることに関する。これに対し、LOX−2の主要な活性は、リノール酸が、13−HPODEへと転換されることに関し、これは、前述のT2Nへの生化学経路とは別個である。LOX−1酵素およびLOX−2酵素が、基質としてリノール酸を用い得ることは注目に値するが、これに対応する経路はT2Nの形成をもたらさないので、この活性は、本出願の範囲外にある。
【0011】
LOX−1は、モルト中における主要なLOX活性に寄与すると考えられている(例えば、Kurodaら、2003年を参照されたい)。
【0012】
LOX−1活性の低下または欠如を特徴とする、複数の異なるオオムギ植物体が開発されている。例えば、Douma,A.C.らによるPCT出願第WO02/053721号では、LOX−1活性が低いオオムギ穀粒およびオオムギ植物体が開示された。そして、Breddam,K.らによるWO2005/087934では、LOX−1活性を欠損させた、2つの異なるオオムギの変異体(スプライス変異体、および未熟翻訳終止コドンを有する変異体)が注目された。これらは、図1に示す通り、変異した植物体を繁殖させ、スクリーニングした後で同定された。上述の変異体が、NaNにより変異誘発されたオオムギをスクリーニングすることにより同定されたのに対し、Hirota,N.らは、EP1609866において、オオムギ在来種のコレクションをスクリーニングすることにより同定された、LOX−1活性を示さないオオムギ植物体について記載した。
【0013】
合成するLOXレベルが低い、変異した植物体については、複数の例が公知である。しかし、複数のリポキシゲナーゼ活性を欠損させたオオムギ植物体、例えば、LOX−1およびLOX−2の両方の活性を欠損させたオオムギ植物体は、記載されていない。植物体の遺伝子操作を可能とする方法は、植物体の特定の種類に特異的であることが多く、したがって(少数のコメ植物体、ダイズ植物体、またはArabidopsis属の植物体は、含むLOXレベルが低いことが公知であるが)、このような植物体を調製する方法を、LOX活性が低いか、またはLOX活性が見られないオオムギ植物体を作製するのに用いることはできない。加えて、1つの植物種のLOX変異体は、別の植物種のLOX変異体と比較して、異なる特性を示し得る。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
ウォートは、ビールなど、モルトベースの飲料を作製するのに重要な液体の複合体である(図3は、ビールの全生産工程についての概要を示す)。LOX−1活性を欠損させたオオムギ植物体から生成されるウォートは、実際には、かなりのレベルのT2Nポテンシャルを含むことを特徴とするが、前記レベルは、野生型オオムギから調製されたウォートの場合より低い。前記ウォート中のポテンシャルは、保存後におけるビール中において形成されるT2Nと相関する(Kurodaら、2005年)ので、これにより、T2Nポテンシャルレベルが実質的に低いウォートを生成させるのに有用なオオムギ植物体が必要とされる。
【課題を解決するための手段】
【0015】
加熱処理によりLOX活性を低下させる方法が記載されている。しかし、加熱処理は一般に、モルト化時および/またはウォートの調製時においてなされ、このため、オオムギ内では、加熱処理を行うまで、LOX活性を有する生成物の蓄積が可能となる。オオムギの解析により、モルト化の前であっても、オオムギ内には、著明量のLOX活性を有する生成物が存在することが明らかとなった(WackerbauerおよびMeyna、2002年)。
【0016】
本発明は、LOX−1活性およびLOX−2活性を欠損させたオオムギ植物体を提供し、前記オオムギ植物体が、複数の重大で驚くべき利点を有することを開示する。本明細書の上記で述べた通り、Kurodaら(前出)は、モルト中におけるLOX活性と、ウォート中におけるT2Nポテンシャルとの相関の欠如について記載し、これを、LOX−2活性が存在するためであると考えた。したがって、Kurodaら(2005年)は、T2Nポテンシャルの形成に関して、LOX−2の役割は重要でないと仮定した。
【0017】
醸造研究者は、何が遊離T2NおよびT2Nポテンシャルの形成を決定付けているのかを理解することに努力してきた。したがって、本発明が実験的証拠を提供して、LOX−1活性およびLOX−2活性の両方を欠損させたオオムギ植物体を用いると、T2Nポテンシャルレベルが極めて低いウォートを生成させるのに有益な効果が得られることを開示すれば、それは予想外のことであり、おそらく当惑を招くことである。また、LOX−1活性およびLOX−2活性の両方を欠損させたオオムギ植物体から調製されたウォート中における遊離T2Nレベルも、ヌルLOX−1オオムギから調製されたウォートより低いことが判明した。
【0018】
オオムギ植物体またはその一部から調製される飲料であって、含むT2Nポテンシャルレベルが極めて低い(前記オオムギ植物体またはその一部が、機能的LOX−1酵素の完全な喪失など、LOX−1活性の機能の完全な喪失を結果としてもたらす第1の変異と、活性LOX−2酵素の完全な喪失など、LOX−2活性の機能の完全な喪失を結果としてもたらす第2の変異とを含む)飲料を提供することが、本発明の1つの目的である。
【0019】
本発明はまた、本発明の飲料を調製するのに有用なオオムギ植物体を提供することも目的とする。したがって、本発明は、機能的LOX−1酵素の完全な喪失など、LOX−1活性の機能の完全な喪失を結果としてもたらす第1の変異と、機能的LOX−2酵素の完全な喪失など、LOX−2活性の機能の完全な喪失を結果としてもたらす第2の変異とを含む、オオムギ植物体またはそれらの一部の作製について記載する。
【0020】
加えて、本発明は、機能的LOX−1酵素の完全な喪失など、LOX−1活性の機能の完全な喪失を結果としてもたらす第1の変異と、機能的LOX−2酵素の完全な喪失など、LOX−2活性の機能の完全な喪失を結果としてもたらす第2の変異とを含む、加工オオムギ植物体またはその一部を含む植物生成物も提供する。限定せずに述べると、前述の植物生成物は、例えば、モルト組成物の場合もあり、ウォート組成物の場合もあり、飲料(モルトベースの飲料、例えば、ビール、または非アルコール性のモルトベースの飲料)の場合もあり、オオムギベースの飲料の場合もあり、モルトおよびオオムギ、ならびに、場合によって、他の成分の混合物に基づく飲料でもあり得る。植物生成物はまた、オオムギシロップ、モルトシロップ、オオムギ抽出物、およびモルト抽出物でもあり得る。
【0021】
さらに、本発明はまた、T2Nポテンシャルレベルが極めて低いことを特徴とする飲料を作製する方法であって、
(i)機能的LOX−1酵素の完全な喪失など、LOX−1活性の機能の完全な喪失を結果としてもたらす第1の変異と、活性LOX−2酵素の完全な喪失など、機能的LOX−2の完全な喪失を結果としてもたらす第2の変異とを含む、オオムギ植物体またはその一部を含む組成物を調製するステップと;
(ii)(i)の組成物を飲料へと加工するステップと
を含み、これらにより、T2Nポテンシャルレベルが極めて低いことを特徴とする飲料を得る方法にも関する。
【0022】
本発明はまた、(LOX−1活性の機能の完全な喪失を結果としてもたらす第1の変異と、LOX−2活性の機能の完全な喪失を結果としてもたらす第2の変異とを含むことに加え)1または複数のさらなる有用な変異も含むオオムギ植物体にも関する。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】図1は、NaN変異誘発されたオオムギ穀粒が、どのように繁殖することができるかについての一例を示す図である。M0世代の穀粒は、M1世代の穀粒を発達させる植物体に成長する。これらの種子をまき、M2世代の新しい穀粒を生成するM1植物体に発達させることができる。次に、M2植物体が成長し、M3世代の穀粒を実らせる。 例えば、M3世代の発芽植物体の子葉鞘を解析するために、M3世代の穀粒を発芽させることができる。加えて、M3世代の植物体の穀粒に由来する花を、オオムギの系統または栽培品種との異種交配に用いて、M4世代の植物体を得ることができる。Breddam,K.らによるPCT特許出願第WO2005/087934号の図1Aと同様の図を示す。
【図2】図2は、リノール酸が、T2Nへと転換および分解される生化学経路の概略表示である。LOX−1は、9−HPODEへのリノール酸の転換を主に触媒し、9−HPODEは、cis−ノネナールへと酵素的に分解される。この化合物は、T2Nへの自発的、化学的な異性化を経る。LOX−2は、13−HPODEへのリノール酸の転換を主に触媒し、13−HPODEは、2−E−ヘキセナール(hexanal)へと転換され得る(図示しない)。
【図3】図3は、好ましいビール生成プロセスの簡略化した図による概説を示す図である。生成プロセスは、オオムギ子実をスティーピングするステップ(1)と、モルト製造するステップ(2)と、キルン乾燥するステップ(3)と、乾燥モルトを粉砕するステップ(4)と、マッシングするステップ(5)と、濾過するステップ(6)と、添加されたホップの存在下でウォートを煮沸するステップ(7)と、酵母の存在下で発酵させるステップ(8)と、ビールを成熟させるステップ(9)と、ビールを濾過するステップ(10)と、詰めるステップ、例えば、瓶、缶などに詰めるステップ(11)と、ラベルを貼るステップ(12)とを含む。個々のプロセスは、モルト生成(1−3)と、ウォート生成(4−7)と、発酵(8−9)と、完成したビールの調製(10−12)とで構成されるセクションに分類することができる。好ましい方法を例示したが、示したステップの一部を省略する他の方法を想定することができる(例えば、濾過を省略してよく、またはホップを添加しなくてよい、あるいは、補助剤、砂糖、シロップまたは炭酸の添加など付加的なステップを加えることができる)。
【図4−1】図4は、M3世代(A)、M4世代(B)、およびM5世代(C)の発芽穀粒内における総LOX活性を比較した結果を示す図である。前記活性は、二重ヌルLOX変異体A689、ヌルLOX−1変異体D112、およびヌルLOX−1育種系列Ca211901の発芽穀粒から単離した胚芽の抽出物中において測定した。同じ試料の熱不活化させた抽出物のアリコートを、実験用対照として用いた[Cでは:ヌルLOX−1原変異体D112(*)、ヌルLOX−1育種系列Ca211901(**)]。また、解析された植物体試料のLOX−1遺伝子型およびLOX−2遺伝子型も示す(wt:野生型)。
【図4−2】図4は、M3世代(A)、M4世代(B)、およびM5世代(C)の発芽穀粒内における総LOX活性を比較した結果を示す図である。前記活性は、二重ヌルLOX変異体A689、ヌルLOX−1変異体D112、およびヌルLOX−1育種系列Ca211901の発芽穀粒から単離した胚芽の抽出物中において測定した。同じ試料の熱不活化させた抽出物のアリコートを、実験用対照として用いた[Cでは:ヌルLOX−1原変異体D112(*)、ヌルLOX−1育種系列Ca211901(**)]。また、解析された植物体試料のLOX−1遺伝子型およびLOX−2遺伝子型も示す(wt:野生型)。
【図4−3】図4は、M3世代(A)、M4世代(B)、およびM5世代(C)の発芽穀粒内における総LOX活性を比較した結果を示す図である。前記活性は、二重ヌルLOX変異体A689、ヌルLOX−1変異体D112、およびヌルLOX−1育種系列Ca211901の発芽穀粒から単離した胚芽の抽出物中において測定した。同じ試料の熱不活化させた抽出物のアリコートを、実験用対照として用いた[Cでは:ヌルLOX−1原変異体D112(*)、ヌルLOX−1育種系列Ca211901(**)]。また、解析された植物体試料のLOX−1遺伝子型およびLOX−2遺伝子型も示す(wt:野生型)。
【図5】図5は、48時間にわたり発芽させたオオムギ胚芽における9−HPODEおよび13−HPODEの形成についてのアッセイに用いたHPLC解析のクロマトグラムを示す図である。234nmにおける吸光度を測定することによりHPODEを検出した(結果は相対吸光度単位(AU)で示す)。9−HPODEおよび13−HPODEに対応する溶出プロファイルのピークを、矢印で示す。(A)9−HPODEおよび13−HPODEの基準物質についてのクロマトグラムを示す図である。(B)ヌルLOX−1変異体D112の発芽胚芽から調製した抽出物中において形成されたHPODEについてのクロマトグラムを示す図である。(C)M4世代である、二重ヌルLOX変異体A689の発芽胚芽から調製した抽出物中において形成されたHPODEについてのクロマトグラムを示す図である。
【図6】図6は、72時間にわたりマイクロモルト化させた穀粒の胚芽における9−HPODEおよび13−HPODEの形成についてのアッセイに用いたHPLC解析のクロマトグラムを示す図である。234nmにおける吸光度を測定することによりHPODEを検出した(結果は相対吸光度単位(AU)で示す)。9−HPODEおよび13−HPODEに対応する溶出プロファイルのピークを、矢印で示す。(A)野生型の栽培品種Barkeにおいて形成された9−HPODEおよび13−HPODEについてのクロマトグラムを示す図である。(B)ヌルLOX−1変異体D112の胚芽の抽出物中において形成されたHPODEについてのクロマトグラムを示す図である。(C)M5世代である、二重ヌルLOX変異体A689の抽出物中において形成されたHPODEについてのクロマトグラムを示す図である。
【図7】図7は、野生型のオオムギ栽培品種Power、ヌルLOX−1変異体D112、およびM5世代である、変異体A689の3つの潜在的な二重ヌルLOX系列のマイクロモルト化試料中において形成された遊離T2Nのレベルを示す図である。また、解析されたオオムギ試料のLOX−1遺伝子型およびLOX−2遺伝子型も示す(wt:野生型)。
【図8】図8は、野生型の栽培品種Power、ヌルLOX−1変異体D112、およびM5世代である、二重ヌルLOX変異体A689のマイクロモルト化穀粒から生成された煮沸ウォート試料中において形成された遊離T2Nのレベルを示す図である。また、解析されたオオムギ試料のLOX−1遺伝子型およびLOX−2遺伝子型も示す(wt:野生型)。
【図9】図9は、野生型の栽培品種Power、ヌルLOX−1変異体D112、およびM5世代である、二重ヌルLOX変異体A689のマイクロモルト化穀粒から生成された煮沸ウォート試料中におけるT2N前駆体レベルを示す図である。
【図10】図10は、栽培品種Power、ヌルLOX−1変異体D112、および二重ヌルLOX変異体A689のモルトを用いる、200lの大規模醸造実験において作製されたビール中におけるT2N前駆体レベルを示す図である。用いられたモルトのLOX−1遺伝子型およびLOX−2遺伝子型を示す(wt:野生型)。
【図11】図11は、オオムギの醸造により、または通常のモルト化およびマッシングにより生成された、200lの大量の煮沸ウォートから採取された表示試料のアリコート中における遊離T2Nレベルの比較を示す図である。用いられた原料のLOX−1遺伝子型およびLOX−2遺伝子型を示す(wt:野生型)。
【図12】図12は、オオムギの醸造により、または通常のモルト化およびマッシングを用いることにより生成された、200lの大量の煮沸ウォートから採取された表示試料のアリコート(図11を参照されたい)中におけるT2N前駆体レベルの比較を示す図である。また、用いられた原料のLOX−1遺伝子型およびLOX−2遺伝子型も示す(wt:野生型)。
【図13−1】図13は、表示のオオムギ栽培品種およびオオムギ変異体を原料として用いる、200lの大規模醸造試験によるビール中における、T2N発生の態様を示す図である。(A)強制劣化時における遊離T2Nの発生に焦点を当てた、オオムギ醸造ビールだけについての解析を示す図である。50pptのT2Nの風味閾値レベルを、水平の点線で示す。別個の実験では、オオムギ醸造による新鮮なビールと、通常醸造による新鮮なビールとにおけるT2N前駆体レベルを比較し(B);(C)では、37℃で2週間後におけるレベル(黒色バー)と比較した、新鮮なビール中における遊離T2Nレベル(白色バー)を示す。また、用いられた原料のLOX−1遺伝子型およびLOX−2遺伝子型も示す(wt:野生型)。
【図13−2】図13は、表示のオオムギ栽培品種およびオオムギ変異体を原料として用いる、200lの大規模醸造試験によるビール中における、T2N発生の態様を示す図である。(A)強制劣化時における遊離T2Nの発生に焦点を当てた、オオムギ醸造ビールだけについての解析を示す図である。50pptのT2Nの風味閾値レベルを、水平の点線で示す。別個の実験では、オオムギ醸造による新鮮なビールと、通常醸造による新鮮なビールとにおけるT2N前駆体レベルを比較し(B);(C)では、37℃で2週間後におけるレベル(黒色バー)と比較した、新鮮なビール中における遊離T2Nレベル(白色バー)を示す。また、用いられた原料のLOX−1遺伝子型およびLOX−2遺伝子型も示す(wt:野生型)。
【図13−3】図13は、表示のオオムギ栽培品種およびオオムギ変異体を原料として用いる、200lの大規模醸造試験によるビール中における、T2N発生の態様を示す図である。(A)強制劣化時における遊離T2Nの発生に焦点を当てた、オオムギ醸造ビールだけについての解析を示す図である。50pptのT2Nの風味閾値レベルを、水平の点線で示す。別個の実験では、オオムギ醸造による新鮮なビールと、通常醸造による新鮮なビールとにおけるT2N前駆体レベルを比較し(B);(C)では、37℃で2週間後におけるレベル(黒色バー)と比較した、新鮮なビール中における遊離T2Nレベル(白色バー)を示す。また、用いられた原料のLOX−1遺伝子型およびLOX−2遺伝子型も示す(wt:野生型)。
【図14】図14は、オオムギ醸造ビール(A)と、通常モルトを用いて作製したビール(B)との両方におけるTHAレベルおよびTHA比の比較を示す図である。9,12,13−THAおよび9,10,13−THAは、それぞれ、LOX−1経路およびLOX−2経路の部分的に未知の反応により生成される。
【図15】図15は、栽培品種Power(黒色バー)、ヌルLOX−1(グレーバー)、および二重ヌルLOX(白色バー)の原料を用いる、200lスケールのオオムギ醸造ビールにおける、「紙」の異臭(A)および「劣化」異臭(B)の経時的な発生についての図示である。0(異臭なし)〜5(異臭が極めて強い)のスケールを用いて、専門家によるビール試飲パネルがビールを判定した。
【図16】図16は、オオムギ醸造ビール(A)と、モルトベースのビール(B)とにおいて、どの程度の泡が発生するかを示す図である。いずれの実験においても、栽培品種Power(細点線)、ヌルLOX−1(細実線)、および二重ヌルLOX(太実線)の原料を用いて作製されたビールとの比較で、市販のラガービール(太点線)を基準として用いた。
【図17】図17は、開始コドン(ATG)および終止コドン(TAA)に及ぶ領域に焦点を当てた、オオムギゲノムのLOX−2遺伝子の構成についての配置図である。3229bpの配列は、6つのエクソン(黒色帯)および5つのイントロン(棒線)からなることが判明した。二重ヌルLOX変異体A689のLOX−2遺伝子内で同定される変異を、垂直の矢印により示す。二重ヌルLOX変異体A689はまた、LOX−1遺伝子において、未熟翻訳終止コドンも含有することが注目に値する(米国特許第7,420,105号の図15で示される変異体D112を参照されたい)。
【図18−1】図18は、遺伝子型解析をどのように用いてヌルLOX変異体を同定するかを示す図である。焦点は、SNP支援による二重ヌルLOXオオムギ植物体の検出、すなわち、LOX−1遺伝子の3474位におけるG→A変異と、LOX−2遺伝子の2689位におけるG→A変異とを組み合わせた検出を達成する方法に関する。(A)表示のプライマー対を用いて表示の鋳型DNAから増幅された(すなわち、プライマーFL1035およびFL1039を用いることにより野生型のLOX−2遺伝子を増幅し得る一方、プライマーFL1034およびFL1039を用いることによりヌルLOX−2変異体遺伝子を増幅することができる)PCR断片によるアガロースゲル電気泳動についてのダイアグラムである。(B)プライマー対FL820およびFL823(星印により示されるヌルLOX−1特異的な変異に相補的な3’側塩基を含有する)と、プライマー対FL1034(星印により示されるヌルLOX−2変異に相補的な3’側塩基を含有する)およびFL1039とによるPCRが、前記ヌルLOX変異が存在する場合に、それぞれ、166bpおよび200bpのPCR産物をどのようにして生成させるかを示すダイアグラムである。(C)マーカーDNAについてアガロースゲル電気泳動後の結果(レーン1および4)と、ヌルLOX−1変異およびヌルLOX−2変異を検出するために、前述のプライマーの組合せを用いてPCR増幅した、二重ヌルLOX変異体A689のDNAについてのアガロースゲル電気泳動後の結果(レーン2)を示す図である。野生型のオオムギによるPCR反応は、対応するPCR産物をもたらさなかった(レーン3)。
【図18−2】図18は、遺伝子型解析をどのように用いてヌルLOX変異体を同定するかを示す図である。焦点は、SNP支援による二重ヌルLOXオオムギ植物体の検出、すなわち、LOX−1遺伝子の3474位におけるG→A変異と、LOX−2遺伝子の2689位におけるG→A変異とを組み合わせた検出を達成する方法に関する。(A)表示のプライマー対を用いて表示の鋳型から増幅された(すなわち、プライマーFL1035およびFL1039を用いることにより野生型のLOX−2遺伝子を増幅し得る一方、プライマーFL1034およびFL1039を用いることによりヌルLOX−2変異体遺伝子を増幅することができる)PCR断片によるアガロースゲル電気泳動についてのダイアグラムである。(B)プライマー対FL820およびFL823(星印により示されるヌルLOX−1特異的な変異に相補的な3’側塩基を含有する)と、プライマー対FL1034(星印により示されるヌルLOX−2変異に相補的な3’側塩基を含有する)およびFL1039とによるPCRが、前記ヌルLOX変異が存在する場合に、それぞれ、166bpおよび200bpのPCR産物をどのようにして生成させるかを示すダイアグラムである。(C)マーカーDNAについてアガロースゲル電気泳動後の結果(レーン1および4)と、ヌルLOX−1変異およびヌルLOX−2変異を検出するために、前述のプライマーの組合せを用いてPCR増幅した、二重ヌルLOX変異体A689のDNAについてのアガロースゲル電気泳動後の結果(レーン2)を示す図である。野生型のオオムギによるPCR反応は、対応するPCR産物をもたらさなかった(レーン3)。
【図19】図19は、二重ヌルLOXオオムギとの異種交配に由来する子孫植物体についての、SNP支援による解析についての例を示す図である。(A)本明細書上記の図18に対するキャプションにおいて詳述したプライマーの組合せ、すなわち、PCRベースでヌルLOX−1変異およびヌルLOX−2変異を検出するためのプライマーを用いる場合についての概略表示である。左から1番目のレーン(該レーンの下方に記される「a」のバンドパターンを示す)が、2つの変異の存在に特異的なPCR産物を含有しない[すなわち、いずれの鋳型領域も、野生型(W)配列を有した]のに対し、バンドパターン「b」を示す次のレーンは、ヌルLOX−1変異体の植物体(M)に由来するPCR産物を明示する。バンドパターン「c」を示す3番目のレーンは、ヌルLOX−2植物体に由来し、バンドパターン「d」を示す4番目のレーンの産物は、二重ヌルLOX植物体の産物である。(B)野生型、ヌルLOX−1、ヌルLOX−2、および二重ヌルLOXオオムギ遺伝子型についてのアガロースゲル電気泳動を示す図である。上記の(A)で説明したパターンによる、バンド形成パターンについての解析は、レーン2、6、10、12、18、および22が、ヌルLOX−1変異を保有する植物体に由来する増幅産物を含有する(レーン下方の「b」によりマークした)のに対し、レーン1、3、9、11、19、21、および23は、ヌルLOX−2変異を保有する植物体に由来する産物を含有する(レーン下方の「c」によりマークした)ことを明らかにした。レーン7、15、および17は、LOX−1遺伝子の変異およびLOX−2遺伝子の変異の組合せを保有する二重ヌルLOX植物体に由来するPCR産物を含有した(レーン下方の「d」によりマークした)。レーン4、5、8、13、14、16、および20は、いずれのヌルLOX対立遺伝子を保有する植物体に由来する増幅産物も含有しなかった(レーン下方の「a」によりマークした)、すなわち、該植物体は、被験配列に関して野生型であった。マーカーDNAは、「MW」によりマークして、レーン内で区別した。
【発明を実施するための形態】
【0024】
定義
以下の説明、図、および表では、多くの用語が用いられる。このような用語に所与の範囲を含め、本明細書および特許請求の範囲を記載する目的で、以下の定義を与える。
【0025】
本明細書で用いられる「ある」とは、それが用いられる文脈に応じて、1または複数を意味し得る。
【0026】
「農業形質」という用語は、その効力または経済的価値に寄与する、植物体の表現型形質または遺伝形質について説明する。このような形質には、病害耐性、虫害耐性、ウイルス耐性、線虫耐性、干ばつ忍容性、高塩分忍容性、収量、草高、成熟日数、穀粒の粒ぞろい(すなわち、穀粒サイズの画分)、穀粒の窒素含量などが含まれる。
【0027】
「アンチセンスのヌクレオチド配列」とは、そのヌクレオチド配列の通常の5’から3’へのコード方向と逆方向の配列を意図する。植物細胞内に存在する場合、アンチセンスのDNA配列は、内因性遺伝子のヌクレオチド配列の正常な発現を低下させ、対応する天然タンパク質の生成を破壊し得ることが好ましい。オオムギ植物体において、アンチセンスヌクレオチドの発現は一般に、前記天然タンパク質の発現を低下させるだけであり、その発現を阻止することはない。
【0028】
特に、ビールおよびオオムギベースの飲料の製造工程に関して、特に、モルト化工程を説明するのに用いる場合の「オオムギ」という用語は、オオムギの穀粒を意味する。別段に指定しない限り、他のすべての場合、「オオムギ」が任意の育種系統または栽培品種または品種を含めたオオムギ植物体(Hordeum vulgare, L.)を意味するのに対し、オオムギ植物体の一部とは、オオムギ植物体の任意の部分、例えば、任意の組織または細胞であり得る。
【0029】
「病害耐性」とは、植物体が、植物体−病原体間相互作用の結果である病害症状を回避することを意図する。このようにして、病原体が、植物病害、ならびに関連する病害症状を引き起こすことが予防される。代替的に、病原体により引き起こされる病害症状は、最小化または軽減されるか、またはなお予防される。
【0030】
本明細書で用いられる「二重ヌルLOX」という用語は、LOX−1活性の機能の完全な喪失およびLOX−2活性の機能の完全な喪失を指す。したがって、「二重ヌルLOX」は、機能的LOX−1酵素の完全な喪失と、機能的LOX−2酵素の完全な喪失とを特徴とし得る。したがって、「二重ヌルLOXオオムギ植物体」とは、LOX−1活性の機能の完全な喪失を結果としてもたらす第1の変異と、LOX−2活性の機能の完全な喪失を結果としてもたらす第2の変異とを含むオオムギ植物体である。したがって、「二重ヌルLOXオオムギ植物体」は、機能的LOX−1酵素の完全な喪失と、機能的LOX−2酵素の完全な喪失とを特徴とし得る。「二重ヌルLOX穀粒」とは、LOX−1活性の機能の完全な喪失を結果としてもたらす第1の変異と、LOX−2活性の機能の完全な喪失を結果としてもたらす第2の変異とを含む穀粒である、なども同様である。したがって、「二重ヌルLOX穀粒」は、機能的LOX−1酵素の完全な喪失と、機能的LOX−2酵素の完全な喪失とを特徴とし得る。
【0031】
本明細書で定義される「穀類」植物とは、主にそれらのデンプン含有種子または穀粒のために栽培される、Gramineae(Graminae)科植物のメンバーである。穀類植物には、オオムギ(Hordeum属)、コムギ(Triticum属)、コメ(Oryza属)、トウモロコシ(Zea属)、ライムギ(Secale属)、オートムギ(Avena属)、ソルガム(Sorghum属)、ならびにライムギとコムギとの交配種であるライコムギが含まれるが、これらに限定されない。
【0032】
特定の核酸との関連における「コードする」または「コードされる」とは、特定のタンパク質へと翻訳される情報を含むことを意味する。タンパク質をコードする核酸またはポリヌクレオチドは、その翻訳領域内において非翻訳配列、例えば、イントロンを含む場合もあり、例えば、cDNAにおいて、このように介在する非翻訳配列を欠く場合もある。タンパク質をコードする情報は、コドンを用いることにより指定される。
【0033】
核酸と関連して本明細書で用いられる「発現」とは、核酸断片に由来するセンスmRNAまたはアンチセンスRNAの転写および蓄積として理解されるものとする。タンパク質との関連で用いられる「発現」とは、mRNAがポリペプチドへと翻訳されることを指す。
【0034】
「遺伝子」という用語は、ポリペプチド鎖の生成に関与するDNA断片を意味し、該コード領域に先行および後続する領域(プロモーター領域およびターミネーター領域)を包含する。さらに、植物の遺伝子は一般に、イントロンを介在させるエクソンからなる。RNAへと転写されると、スプライシングによりイントロンが除去されて、成熟メッセンジャーRNA(mRNA)が生成される。エクソンとイントロンとの間の「スプライス部位」は、一次RNA転写物からのイントロンの欠失と、切除されたイントロンの両側において残存するRNA端の接合または融合とからなる、スプライシング過程のスプライスシグナルとして作用するコンセンサス配列により決定されることが典型的である。場合によって、スプライシングの代替的であるかまたは異なるパターンは、同じ単一のDNAの連なりから、異なるタンパク質を生成させ得る。天然の遺伝子を、「内因性遺伝子」と称することができる。
【0035】
核酸との関連において本明細書で用いられる「異種」とは、外来種に由来するか、または、同じ種に由来する場合、意図的で人為的な介入により、組成および/または遺伝子座が、その天然形態から実質的に改変されている核酸である。
【0036】
本明細書で用いられる「発芽」という用語は、天然で見出される通常の土壌など、各種の組成物中において、オオムギ穀粒の成長が開始または再開されることを意味する。したがって、発芽胚芽とは、発芽を経過しつつある胚芽である。発芽はまた、成長チャンバーなどの中に置いたポットの土壌中で生じる場合もあり、例えば、標準的な実験室用ペトリディッシュ内に置いて湿らせた濾紙上で生じる場合もあり、モルト化時において(例えば、モルト化工場のスティープタンクまたは発芽箱内において)生じる場合もある。発芽は一般に、穀粒の水和、穀粒の膨潤、および胚芽の成長の誘導を包含すると理解される。発芽に影響する環境因子には、水分、温度、および酸素レベルが含まれる。根および芽の発育が観察される。
【0037】
本明細書で用いられる「単離」という用語は、物質を、その元の環境から取り出すことを意味する。例えば、生体内に存在する天然のポリヌクレオチドまたはポリペプチドは単離されていないが、天然系において共存する物質の一部または全部から分離された同じポリヌクレオチドまたはポリペプチドは、単離されている。このようなポリヌクレオチドはベクターの一部の場合もあろうし、かつ/またはこのようなポリヌクレオチドもしくはポリペプチドは組成物の一部の場合もあろうが、このようなベクターまたは組成物はその天然環境の一部ではないので、これらはやはり単離されている。
【0038】
「穀粒」という用語は、また、内種子とも称する穀類の頴果、外頴、および内頴を含むものと定義される。大半のオオムギ品種では、外頴および内頴が頴果に付着し、脱穀後における穀粒の一部をなす。しかし、裸性のオオムギ品種もまた生じる。これらにおいては、頴果が、外頴および内頴から遊離しており、コムギの場合と同様に、脱穀により完全に遊離する。本明細書では、「穀粒(kernel)」および「穀粒(grain)」という用語を互換的に用いる。
【0039】
「穀粒の発生」とは、花粉細胞による卵細胞の受精で始まる期間を指す。受精の間、代謝による貯蔵物質、例えば、糖、オリゴ糖、デンプン、フェノール性物質、アミノ酸、およびタンパク質が、液胞の標的化を伴い、また、これを伴わずに、穀粒(穀粒)内の各種の組織、例えば、内胚乳、種皮、糊粉、および胚芽盤へと蓄積され、これにより穀粒(穀粒)の拡大、穀粒(穀粒)の充実がもたらされ、穀粒(穀粒)の乾燥により終わる、を指す。
【0040】
「機能の完全な喪失」という用語は、所与の酵素活性の欠如を指す。したがって、LOX−1活性およびLOX−2活性の「機能を完全に喪失」させたオオムギ植物体とは、検出可能なLOX−1活性およびLOX−2活性を示さないオオムギ植物体である。LOX−1およびLOX−2は他の活性も有し得るが、本発明の文脈におけるLOX−1活性およびLOX−2活性は、リノール酸からの9−HPODEおよび13−HPODEの形成を決定するアッセイ手順により決定される。リノール酸からの9−HPODEおよび13−HPODEの形成は、本明細書下記の実施例4で説明される通りに決定することが好ましい。活性は、発芽胚芽のタンパク質抽出物を用いて決定するものとする。本発明の文脈では、実施例4で説明されるアッセイを用い、リノール酸を基質として用いる場合に生成されるクロマトグラムピークが、図5Aに示される基準物質の9−HPODEピークの5%未満、好ましくは3%未満に対応し、かつ/またはこの場合に生成されるピークが、図5Aに示される基準物質の13−HPODEピークの5%未満、好ましくは3%未満に対応するならば、これを、検出可能なLOX−1活性およびLOX−2活性が存在しないと考える。LOX活性の機能の完全な喪失を得る分子的手法は、前記酵素の転写物の完全な不在を引き起こすか、もしくは対応するコードされた酵素の完全な不在を引き起こす変異か、またはコードされた酵素を完全に不活化する変異の発生を含む。
【0041】
「LOX−1活性」という用語は、オオムギLOX−1酵素の酵素活性を指す。「LOX−1活性」とは、リノール酸から9−HPODEをもたらし、これよりはるかに劣る程度で13−HPODEをもたらす二原子酸素添加反応を酵素により触媒することである。LOX−1酵素は、他の反応を触媒することも可能であるが、本発明によるLOX−1活性を決定する目的では、9−HPODE形成活性および13−HPODE形成活性だけを考えるべきである。図2は、リノール酸が9−HPODEへと転換される生化学経路を概観する。
【0042】
「LOX−2活性」という用語は、オオムギLOX−2酵素の酵素活性を指す。「LOX−2活性」とは、リノール酸から13−HPODEをもたらし、これよりはるかに劣る程度で9−HPODEをもたらす二原子酸素添加反応を酵素により触媒することである。LOX−2酵素は、他の反応を触媒することも可能であるが、本発明によるLOX−2活性を決定する目的では、13−HPODE形成活性および9−HPODE形成活性だけを考えるべきである。図2は、リノール酸が13−HPODEへと転換される生化学経路を概観する。
【0043】
「モルト飲料」という用語、または「モルトベースの飲料」という用語は、モルトを用いて調製される飲料、好ましくは、モルトを熱湯と共にインキュベートするステップを包含する方法により調製される飲料を指す。モルト飲料は、例えば、ビールまたはモルティナであり得る。
【0044】
「発酵モルト飲料」という用語は、発酵させたモルト飲料、すなわち、酵母と共にインキュベートしたモルト飲料を指す。
【0045】
「モルト化」とは、モルト化工場のスティープタンクおよび発芽箱を含むが、これらに限定されない、制御された環境条件下で生じる、オオムギ穀粒発芽の特殊な形態である。本発明の工程によれば、モルト化は、オオムギ穀粒がスティーピングされる間および/またはスティーピングされた後で生じ始める。モルト化工程は、例えば、キルン乾燥工程においてオオムギ穀粒を乾燥させることにより、停止させることができる。モルトがキルン乾燥されていない場合は、「グリーンモルト」と称する。LOX二重ヌルのオオムギから調製されたモルト組成物は、純粋のLOX二重ヌルのモルト、またはLOX二重ヌルのモルトを含む任意のモルトブレンドなど、LOX二重ヌルのモルトを含むものと理解される。モルトは、例えば、破砕することにより加工することができ、したがってモルトは、「破砕モルト」または「粉末モルト」と称し得る。
【0046】
「マッシング」とは、水中における破砕モルトのインキュベーションである。マッシングは、特定の温度、および特定の水量で実施することが好ましい。温度および水量は、モルトに由来する酵素活性の低下率に影響を及ぼし、このため、とりわけ、生じ得るデンプンの加水分解量に影響を及ぼすので重要であり、プロテアーゼ作用もまた重要であり得る。マッシングは、全穀粒として、または粗引き穀物もしくはデンプンなどの加工生成物としてのオオムギ(LOX二重ヌルのオオムギを含めた)、オオムギシロップ、またはトウモロコシ、またはコメなどであるがこれらに限定されない、モルト以外の任意の炭水化物供給源を含むものと理解される添加物の存在下で行い得る。前述の添加物のすべてを、抽出物のさらなる供給源として主に用いることができる(ウォート煮沸時にはシロップを投与することが典型的である)。醸造における添加物を加工するための要件は、用いられる添加物の状態および種類、ならびに、特に、デンプンのゼラチン化温度または液化温度に依存する。該ゼラチン化温度が通常のモルトの糖化のためのゼラチン化温度より高温である場合は、マッシュに添加する前に、デンプンをゼラチン化および液化させる。
【0047】
「変異」には、遺伝子のコード領域および非コード領域内における欠失、挿入、置換、トランスバージョン、および点変異が含まれる。欠失は、全遺伝子を対象とする場合もあり、遺伝子の一部だけを対象とする場合もあり、この場合、非コード領域は、プロモーター領域、またはターミネーター領域、またはイントロンであることが好ましい。点変異は、1塩基または1塩基対の変化に関する場合があり、その結果として、終止コドン、フレームシフト変異、またはアミノ酸置換をもたらし得る。体細胞変異は、植物体の特定の細胞または組織内だけにおいて生じ、次世代には遺伝しない変異である。生殖細胞系列変異は、植物体の任意の細胞内において見出すことができ、遺伝する。本明細書の図1(この図は、変異したオオムギの穀粒が、育種プログラムにおいて、どのようにして繁殖し得るかについての概要を提示する)を参照すると、M3世代の穀粒、ならびにこれらから直接的に繁殖した穀粒、またはそれらの植物体を含めた、任意の後続世代の穀粒を、「生の変異体」と称することができる。さらに、なおも本明細書の図1を参照すると、「育種系統」という用語は、栽培品種の植物体との異種交配の結果の場合もあり、別個の特異的な形質を有する別の育種系統との異種交配の結果の場合もある、M4世代の穀粒、ならびにこれらの植物体を含めた任意の後続世代を指す。
【0048】
「ヌルLOX」という用語は、LOXをコードする遺伝子に変異が存在し、コードされるLOX酵素(LOX−1またはLOX−2)の機能の完全な喪失を引き起こすことを指す。LOXをコードする遺伝子において、未熟終止(ナンセンス)コドンを発生させる変異は、それによりLOX活性の機能の完全な喪失を得ることができる1つの機構を表すに過ぎない。LOX酵素の機能の完全な喪失を得る分子的手法は、前記酵素の転写物の完全な不在をもたらす変異、またはコードされる酵素の完全な不活化を引き起こす変異の発生を含む。植物体との関連における「ヌルLOX」とは、指定されたLOX酵素の機能の完全な喪失を示す植物体を指す。
【0049】
「作動可能に連結された」とは、一方の機能が、他方により影響を受けるような、単一のポリヌクレオチド上における、2つ以上の核酸断片の会合を指すのに用いられる用語である。例えば、コード配列の発現に影響を及ぼすことが可能である場合、すなわち、コード配列がプロモーターの転写制御下にある場合、そのプロモーターは、そのコード配列と作動可能に連結されている。コード配列は、センス方向において制御配列と作動可能に連結される場合もあり、アンチセンス方向において制御配列と作動可能に連結される場合もある。
【0050】
「PCR」または「ポリメラーゼ連鎖反応」は、特定のDNA断片を増幅するのに用いられる技法として、当業者により周知である(Mullis, K.B.らによる米国特許第4,683,195号および同第4,800,159号)。
【0051】
「植物体」または「植物物質」とは、植物細胞、植物プロトプラスト、ならびに、それからオオムギ植物体が再生される植物細胞組織の培養物(植物体のカルス、および、胚芽、花粉、胚珠、花、穀粒、葉、根、根端、葯、または植物体の任意の部分もしくは生成物など植物体において完全である、または植物体の部分である植物細胞を含めた)を包含する。
【0052】
「植物生成物」という用語は、植物体または植物体の一部を加工する結果として得られる生成物を意味する。したがって、前記植物生成物は、例えば、モルト、ウォート、発酵飲料もしくは非発酵飲料、食物生成物、または飼料生成物であり得る。
【0053】
タンパク質との関連において本明細書で用いられる「組換え」とは、外来種に由来するか、または、同じ種に由来する場合、意図的で人為的な介入により、組成がその天然形態から実質的に改変されているタンパク質である。
【0054】
本出願の意味の範囲内における「専門家によるビール試飲パネル」とは、アルデヒド、紙の風味(papery taste)および古い風味に特別の焦点を当てて、ビールの風味を味わい、説明することにおいて高度に熟練した専門家によるパネルである。風味成分を評価するための分析ツールは多数存在するが、風味活性成分の相対的重要性を分析的に評価することは難しい。しかし、風味の専門家によれば、このような複雑な特性を評価することができる。彼らの持続的な訓練には、標準的なビール試料の試飲および評価が含まれる。
【0055】
「スプライス部位」という用語は、遺伝子のエクソンとイントロンとの間の境界部位を意味する。したがって、スプライス部位は、エクソンからイントロンへと移行する境界部位(「ドナー部位」と呼ばれる)の場合もあり、イントロンをエクソンから隔てる境界部位(「アクセプター部位」と呼ばれる)の場合もある。植物体におけるスプライス部位は、コンセンサス配列を含むことが典型的である。イントロンの5’端は、一般に、保存的なGTジヌクレオチド(mRNAではGU)からなり、イントロンの3’端は、通常、保存的なAGジヌクレオチドからなる。したがって、イントロンの5’側スプライス部位は、イントロンの5’端を含み、該3’側スプライス部位は、イントロンの3’端を含む。本発明の文脈の範囲内では、イントロンのスプライス部位は、(一般にGTである)該イントロンの大半の5’側ジヌクレオチドからなる、5’側スプライス部位;または(一般にAGである)該イントロンの大半の3’側ジヌクレオチドからなる、3’側スプライス部位であることが好ましい。
【0056】
別段に言及しない限り、「T2N」とは、遊離形態におけるtrans−2−ノネナール(T2N)を意味する。T2Nはまた、場合によって、2−E−ノネナールも指すことがある。
【0057】
「T2Nポテンシャル」という用語により、1または複数の反応において、T2Nを放出するか、またはT2Nへと転換される能力を有する化学物質について述べる。本明細書の文脈において、T2Nポテンシャルは、100℃、pH4.0で2時間にわたるインキュベーション中において、溶液、例えば、ウォートもしくはビール中へと放出されるT2Nの濃度として定義される。実用的に述べると、出発T2N濃度を決定し、その後、100℃、pH4.0で2時間にわたり溶液をインキュベートした後で、T2N濃度を測定する。出発T2N濃度と、終末T2N濃度との差を、T2Nポテンシャルと称する。熱処理、酸処理により、T2Nポテンシャルから、例えば、「T2N付加物」(この用語は、タンパク質(複数可)、亜硫酸塩、細胞破砕物、細胞壁などが含まれるがこれらに限定されない、1または複数の物質にコンジュゲートしたT2Nについて述べるのに用いられる)からT2Nを遊離させる。一般に、T2N付加物自体を異臭として人が感知することはない。しかし、前記T2N付加物から放出されるT2Nは、異臭を発生させ得る。
【0058】
「組織培養物」とは、種類が同じであるかもしくは異なる単離細胞、または、例えば、プロトプラスト、カルス、胚芽、花粉、葯などを含む植物体の一部へと組織化されたこのような細胞の集合を含む組成物を指す。
【0059】
「形質転換」とは、DNAが、染色体外エレメント(組込みおよび安定的な遺伝がなされない)として、または染色体への組込み体(遺伝子的に安定な遺伝)として維持されるように、DNAを生物内へと導入することを意味する。別段に言及しない限り、本明細書で用いられる、E.coliを形質転換する方法は、CaClベースの方法(SambrookおよびRussel、前出)であった。オオムギを形質転換するには、Agrobacterium属を介する形質転換(宿主として代替的な栽培品種を用い得る場合を除き、Tingayら(1997年)またはWangら(2001年)により説明される通りであることが好ましい)を実施することができる。
【0060】
「トランス遺伝子」とは、形質転換手順によりゲノム内へと導入された遺伝子である。
【0061】
本明細書で用いられる「トランスジェニック」とは、異種核酸を導入することにより改変された細胞への言及、または細胞が、このようにして改変された細胞に由来することへの言及を包含する。したがって、例えば、トランスジェニック細胞は、細胞の天然形態内では同一の形態で見出されない遺伝子を発現するか、または意図的で人為的な介入の結果として、別の異常な形で発現するか、過小発現するか、またはまったく発現しない天然遺伝子を発現する。植物体、特に、オオムギ植物体との関連において本明細書で用いられる「トランスジェニック」という用語は、従来の植物育種法による細胞の変化(例えば、NaNベースの変異誘発、または意図的で人為的な介入を伴わない天然のイベントによる)を包含しない。
【0062】
「野生オオムギ」(Hordeum vulgare ssp. spontaneum)は、現行のオオムギの栽培形態の前駆体であると考えられる。野生状態から栽培状態へのオオムギの移行は、「オオムギ在来種」への該植物体の栽培化と符合したと考えられている。これらは、野生オオムギより、新型栽培品種との遺伝子的類縁性がより密接である。
【0063】
「野生型」オオムギという用語は、従来の方法で生成されたオオムギ植物体を指す。好ましくは、該用語は、本発明のオオムギ植物体が由来するオオムギ植物体、すなわち、親植物体を指す。野生型オオムギ穀粒は、一般に、例えば、種子メーカーから、「栽培品種」または「品種」、すなわち、米国国立の植物育種機関により列挙される遺伝子的に類似の穀粒として市販されている。複数のヌルLOX−1オオムギ栽培品種(例えば、栽培品種ChamonixおよびCharmay)が入手可能であるが、本明細書では、本発明をよりよく理解する目的で、すべてのヌルLOX−1植物体、ヌルLOX−2植物体、および二重ヌルLOX植物体を変異体の植物体と考え、野生型の植物体は変異体の植物体とは考えない。本明細書では、「栽培品種」および「品種」という表記法は、互換的に用いられる。
【0064】
「ウォート」という用語は、モルト、例えば、破砕モルトもしくはグリーンモルト、または破砕グリーンモルトの液体抽出物を意味する。オオムギの醸造において、ウォートはまた、モルト化させていないオオムギの抽出物を、オオムギ成分を加水分解する酵素の混合物と共にインキュベートすることによっても調製することができる。前記モルトまたはオオムギ由来の抽出物に加えて、該液体抽出物は、モルトと、発酵性の糖へと部分的に転換されるさらなるデンプン含有物質など、さらなる成分とから調製することができる。ウォートは、一般に、マッシングにより得られるが、場合によって、「スパージング」、マッシング後において、ビール粕から、残存する糖および他の化合物を熱湯により抽出する工程をその後で実施する。スパージングは、ロイタータン、マッシュフィルター、またはビール粕から抽出される水の分離を可能とする別の装置内で実施することが典型的である。マッシング後において得られるウォートを、一般に、「一番ウォート」と称するのに対し、スパージング後において得られるウォートを、一般に、「二番ウォート」と称する。指定しない限り、ウォートという用語は、一番ウォートの場合もあり、二番ウォートの場合もあり、両者の組合せの場合もある。ビール生産時には、一般に、ウォートをホップと共に煮沸する。ホップを伴うが煮沸していないウォートをまた、「スイートウォート」とも称し得るのに対し、ホップを伴って煮沸したウォートは、「煮沸ウォート」と称し得る。
【0065】
オオムギ植物体
オオムギとは、植物の科である。「野生オオムギ(Hordeum vulgare ssp. spontaneum)」は、今日におけるオオムギの栽培形態の前駆体であると考えられる。野生状態から栽培状態へのオオムギの移行は、多数の遺伝子座における対立遺伝子の根本的な変化の頻度と符合したと考えられている。希少な対立遺伝子、および新規の変異イベントは、「オオムギ在来種」と称する栽培化された植物体集団内において新規の形質を迅速に確立した農耕民により、肯定的に選択された。これらは、野生オオムギより、新型栽培品種との遺伝子的類縁性がより密接である。19世紀後半まで、オオムギ在来種は、早期世代における無作為的な異種交配に由来する少数の植物体を含めた、近交系と交配分離種との高度にヘテロ接合型の混合体として存在した。該在来種の大半は、先進農業において、純粋系統の栽培品種により置き換えられている。中等レベルまたは高レベルの遺伝子的多様性が、残りの在来種を特徴付けている。当初、「新型オオムギ」栽培品種は、在来種からの選択を表していた。これらは後に、地理的起源が多様な純粋系統など、確立された純粋系統間における異種交配の継起的サイクルに由来した。最終的な結果は、多くの、おそらくはすべての先進農業における遺伝的基盤の顕著な狭小化であった。在来種と比較して、新型オオムギ栽培品種は、例えば、
(i)穀粒が皮裸性であること;
(ii)種子の休眠;
(iii)病害耐性;
(iv)環境忍容性(例えば、干ばつまたは土壌pHに対する耐性);
(v)リシンおよび他のアミノ酸の比率;
(vi)タンパク質含量;
(vii)窒素含量;
(viii)炭水化物組成;
(ix)ホルデイン含量および組成;
(x)(1−3,1−4)−β−グルカンおよびアラビノキシラン含量;
(xi)収量;
(xii)茎の堅さ;
(xiii)草高
などであるがこれらに限定されない1または複数の多くの特性が改善されている(Nevo、1992年;von Bothmerら、1992年)。
【0066】
本発明の範囲内において、「オオムギ植物体」という用語は、任意のオオムギ植物体を含む。したがって、本発明は、LOX−1活性の機能の完全な喪失を結果としてもたらす第1の変異と、LOX−2活性の機能の完全な喪失を結果としてもたらす第2の変異とを含む、任意のオオムギ植物体に関する。したがって、本発明は、機能的LOX−1酵素の完全な喪失を結果としてもたらす第1の変異と、機能的LOX−2酵素の完全な喪失を結果としてもたらす第2の変異とを含む、任意のオオムギ植物体に関する。
【0067】
しかし、本発明により用いるのに好ましいオオムギ植物体は、新型オオムギ栽培品種または純粋系統である。本発明により用いられるオオムギ栽培品種は、例えば、Sebastian、Celeste、Lux、Prestige、Saloon、Neruda、Harrington、Klages、Manley、Schooner、Stirling、Clipper、Franklin、Alexis、Blenheim、Ariel、Lenka、Maresi、Steffi、Gimpel、Cheri、Krona、Camargue、Chariot、Derkado、Prisma、Union、Beka、Kym、アサヒ5号、KOU A、Swan Hals、カントウナカテゴールド、ハカタ2号、キリン直1号、関東後期品種ゴールド、フジニジョウ、ニューゴールデン、サツキオニジョウ、セイジョウ17号、アカギニジョウ、アズマゴールデン、アマギニジョウ、ニシノゴールド、ミサトゴールデン、ハルナニジョウ、Scarlett、およびJersey、好ましくは、ハルナニジョウ、Sebastian、Celeste、Lux、Prestige、Saloon、Neruda、およびPowerからなる群から、好ましくは、Harrington、Klages、Manley、Schooner、Stirling、Clipper、Franklin、Alexis、Blenheim、Ariel、Lenka、Maresi、Steffi、Gimpel、Cheri、Krona、Camargue、Chariot、Derkado、Prisma、Union、Beka、Kym、アサヒ5号、KOU A、Swan Hals、カントウナカテゴールド、ハカタ2号、キリン直1号、関東後期品種ゴールド、フジニジョウ、ニューゴールデン、サツキオニジョウ、セイジョウ17号、アカギニジョウ、アズマゴールデン、アマギニジョウ、ニシノゴールド、ミサトゴールデン、ハルナニジョウ、Scarlett、およびJerseyからなる群から、好ましくは、ハルナニジョウ、Sebastian、Tangent、Lux、Prestige、Saloon、Neruda、Power、Quench、NFC Tipple、Barke、Class、およびVintageからなる群から選択することができる。
【0068】
したがって、本発明の一実施形態では、オオムギ植物体が、機能的LOX−1酵素の完全な喪失など、LOX−1活性の機能の完全な喪失を結果としてもたらす第1の変異と、機能的LOX−2酵素の完全な喪失など、LOX−2活性の機能の完全な喪失を結果としてもたらす第2の変異とを含む新型オオムギ栽培品種(好ましくは、本明細書の上記で説明したオオムギ栽培品種の群から選択される栽培品種)である。したがって、この実施形態では、オオムギ植物体が、オオムギ在来種ではないことが好ましい。
【0069】
オオムギ植物体は、任意の適切な形態であり得る。例えば、本発明によるオオムギ植物体は、生存オオムギ植物体、乾燥植物体、ホモジナイズされた植物体、または破砕オオムギ穀粒であり得る。植物体は、成熟植物体、胚芽、発芽穀粒、モルト化穀粒、破砕モルト化穀粒などであり得る。
【0070】
オオムギ植物体の一部は、穀粒、胚芽、葉、茎、根、花、またはこれらの断片など、該植物体の任意の適切な部分であり得る。断片は、例えば、穀粒、胚芽、葉、茎、根、または花の切片であり得る。オオムギ植物体の一部はまた、ホモジネートの断片、または破砕オオムギ植物体もしくは破砕穀粒の断片でもあり得る。
【0071】
本発明の一実施形態では、オオムギ植物体の一部が、前記オオムギ植物体の細胞、好ましくは、in vitroで組織培養物中で増殖させ得る生細胞であり得る。特に、一実施形態では、前記細胞が、全オオムギ植物体へと成熟することが不可能な細胞、すなわち、生殖材料ではない細胞であり得る。
【0072】
LOX活性の機能の喪失
本発明は、第1および第2の変異を有するオオムギ植物体(またはそれらの一部、またはそれらの生成物)に関し、該第1の変異が、LOX−1活性の機能の完全な喪失をもたらし、該第2の変異が、LOX−2活性の機能の完全な喪失をもたらす。したがって、例えば、第1の変異は、機能的LOX−1酵素の完全な喪失をもたらし、第2の変異は、機能的LOX−2酵素の完全な喪失をもたらす。
【0073】
LOX−1活性の機能の完全な喪失(機能的LOX−1酵素の完全な喪失など)と、LOX−2活性の機能の完全な喪失(機能的LOX−2酵素の完全な喪失など)とは、異なる機構に個別に基づき得る。例えば、LOX−1活性およびLOX−2活性の一方または両方の機能の完全な喪失は、オオムギ植物体内において機能不全のタンパク質、すなわち、検出可能な9−HPODE形成活性(例えば、実施例4で説明される通りに決定される)を示さない、変異LOX−1タンパク質、および/または検出可能な13−HPODE形成活性(例えば、実施例4で説明される通りに決定される)を示さない、変異LOX−2タンパク質など、機能不全のLOX−1タンパク質および/またはLOX−2タンパク質により引き起こされ得る。
【0074】
LOX−1活性およびLOX−2活性の一方または両方の機能の完全な喪失は、LOX−1タンパク質および/またはLOX−2タンパク質の欠如により引き起こされ得る。LOX−1タンパク質の欠如が、機能的LOX−1酵素の完全な喪失をもたらし、LOX−2タンパク質の欠如が、機能的LOX−2酵素の完全な喪失をもたらすことは明らかである。したがって、オオムギ植物体は、LOX−1タンパク質および/またはLOX−2タンパク質を含まない(またはこれらをごく少量しか含まず、より好ましくは、検出可能なLOX−1タンパク質および/またはLOX−2タンパク質を含まない)ことが好ましい。LOX−1タンパク質および/またはLOX−2タンパク質は、当業者に公知の任意の適切な手段により検出することができる。しかし、該タンパク質(複数可)は、LOX−1タンパク質が、LOX−1およびLOX−2に対するポリクローナル抗体など、LOX−1およびLOX−2に対する特異的抗体により検出される技法により検出されることが好ましい。前記技法は、例えば、ウェスタンブロット法の場合もあり、ELISA法の場合もある。前記抗体は、モノクローナル抗体の場合もあり、ポリクローナル抗体の場合もある。しかし、前記抗体は、LOX−1タンパク質およびLOX−2タンパク質それぞれの内における複数の異なるエピトープを認識するポリクローナル性質であることが好ましい。LOX−1タンパク質および/またはLOX−2タンパク質はまた、例えば、LOX−1活性を決定する方法によって、またはLOX−2活性を決定する方法によって間接的に検出することもできる。本発明の好ましい一実施形態では、LOX−1タンパク質が、国際特許出願第WO2005/087934号の実施例4で概観された方法を用いて検出される。LOX−2タンパク質は、LOX−2に結合する抗体を用いて、同様の方法で検出することができる。
【0075】
LOX−1活性およびLOX−2活性の一方または両方の機能の完全な喪失はまた、LOX−1転写物および/またはLOX−2転写物の発現が見られない結果の場合もあり、これらがごくわずかしか見られない結果の場合もあるが、これらの発現が見られない結果の場合が好ましい。当業者は、LOX−1転写物またはLOX−2転写物の不在がまた、それぞれ、翻訳されるLOX−1タンパク質またはLOX−2タンパク質の不在も結果としてもたらすことを認めるであろう。代替的に、LOX−1活性およびLOX−2活性の一方または両方の機能の完全な喪失(例えば、機能的LOX−1酵素および機能的LOX−2酵素の完全な喪失)はまた、異常なLOX−1転写物および/または異常なLOX−2転写物が発現する結果でもあり得る。異常なLOX−1転写物および/または異常なLOX−2転写物は、例えば、スプライス部位における変異に起因する、転写物のスプライシングの異常により引き起こされ得る。したがって、本発明のオオムギ植物体は、5’側スプライス部位または3’側スプライス部位、例えば、イントロンの最も5’側の2ヌクレオチドのうちの1つ、またはイントロンの最も3’側のヌクレオチドのうちの1つなど、スプライス部位内において変異を保有し得る。LOX−1転写物のスプライシングの異常を示す変異体の例は、WO2005/087934において、変異体A618として記載されている。LOX−1またはLOX−2をコードする転写物の発現は、例えば、ノーザンブロット実験により検出することもでき、RT−PCR実験により検出することもできる。
【0076】
本発明のオオムギ植物体における機能的LOX−1酵素および機能的LOX−2酵素の完全な喪失は、変異により引き起こされる。したがって、本発明のオオムギ植物体は、一般に、LOX−1遺伝子において変異を保有する。前記変異は、制御領域内、例えば、プロモーター内またはイントロン内の場合もあり、コード領域内の場合もある。同様に、本発明のオオムギ植物体は、一般に、LOX−2遺伝子において変異を保有する。前記変異は、制御領域内、例えば、プロモーター内またはイントロン内の場合もあり、コード領域内の場合もある。したがって、機能的LOX−1酵素および/または機能的LOX−2酵素の完全な喪失の原因はまた、LOX−1をコードする遺伝子内、またはLOX−2をコードする遺伝子内の変異を同定することによっても検出することができる。LOX−1をコードする遺伝子内の変異は、例えば、前記遺伝子を配列決定することにより検出することができる。変異を同定した後で、LOX−1活性および/またはLOX−2活性について調べることにより、機能の完全な喪失を確認することが好ましい。
【0077】
「LOX−1タンパク質」という用語は、WO2005/087934の配列番号3、またはWO2005/087934の配列番号7で示されるオオムギの全長LOX−1タンパク質またはその機能的相同体を対象とすることを意図する。LOX−1の活性部位は、該酵素のC末端部分に位置する。特に、アミノ酸残基520〜862の範囲の領域またはその一部が、LOX−1活性に関与すると予測される。したがって、一実施形態では、ヌルLOX−1オオムギが、LOX−1のアミノ酸520〜862のうちの一部または全部を欠く、LOX−1の変異形態をコードする遺伝子を含むことが好ましい。前記変異LOX−1はまた、野生型のLOX−1には存在する他のアミノ酸残基も欠く可能性がある。
【0078】
したがって、本発明の二重ヌルLOXオオムギは、機能的でないLOX−1の切断形態(N末端切断形態またはC末端切断形態など)を含み得る。前記切断形態は、含むWO2005/087934の配列番号3のLOX−1の連続アミノ酸が、800以下、より好ましくは750以下、なおより好ましくは700以下、さらにより好ましくは690以下、なおより好ましくは680以下、さらにより好ましくは、LOX−1の665以下、例えば、650以下など、600以下、例えば、550以下など、500以下、例えば、450以下など、425以下、例えば、399以下の連続アミノ酸など、670以下であることが好ましい。前記切断形態は、LOX−1のN末端断片だけを含むことが好ましく、含むWO2005/087934の配列番号3のN末端アミノ酸が、好ましくは最大で800、より好ましくは最大で750、なおより好ましくは最大で700、さらにより好ましくは最大で690、なおより好ましくは最大で680、さらにより好ましくは最大で670、さらにより好ましくは、WO2005/087934の配列番号3の665以下、例えば、650以下など、600以下、例えば、最大で550など、最大で500、例えば、最大で450など、最大で425、例えば、最大で399のN末端アミノ酸など、最大で665であることが好ましい。
【0079】
極めて好ましい一実施形態では、切断形態が、WO2005/087934の配列番号3のアミノ酸1〜665からなり得る。
【0080】
本発明の好ましい実施形態では、本発明のオオムギ植物体が、野生型LOX−1 mRNAの終止コドンの上流において、ナンセンスコドンまたは終止コドンを含むmRNAへと転写される、LOX−1コード遺伝子を含む。本明細書では、このようなナンセンスコドンを、未熟ナンセンスコドンと称する。前記植物体のmRNAへと転写されるすべてのLOX−1コード遺伝子は、未熟ナンセンスコドンまたは未熟終止コドンを含む。該ナンセンスコドンまたは終止コドンは、開始コドンの最大で800コドン下流に位置することが好ましく、より好ましくは最大で750コドン、なおより好ましくは最大で700コドン、さらにより好ましくは最大で690コドン、なおより好ましくは最大で680コドン、さらにより好ましくは最大で670コドン、なおより好ましくは最大で665コドン下流に位置する。LOX−1をコードする野生型ゲノムDNAの配列は、WO2005/087934の配列番号1、またはWO2005/087934の配列番号5において与えられる。
【0081】
好ましい一実施形態では、本発明のオオムギ植物体が、LOX−1をコードする遺伝子を含み、前記遺伝子から転写されるプレmRNAが、WO2005/087934の配列番号2に対応する配列を含む。
【0082】
本発明の極めて好ましい実施形態では、本発明による二重ヌルLOXオオムギ植物体の変異体LOX−1をコードする遺伝子が、ナンセンス変異を含み、前記変異が、WO2005/087934の配列番号1の3574位におけるG→A置換に対応する。
【0083】
「LOX−2タンパク質」という用語は、本公開の配列番号5で示されるオオムギの全長LOX−2タンパク質またはその機能的相同体を対象とすることを意図する。LOX−2の活性部位は、LOX−2のC末端部分に位置する。特に、アミノ酸残基515〜717の範囲の領域またはその一部が、LOX−2活性に関与すると予測される。ダイズLOX−1の結晶構造についての検討に基づくと、オオムギのLOX−2酵素の活性部位の裂け目について予測される配列の連なりは、アミノ酸残基515〜525および707〜717により表される。翻訳された、変異LOX−2タンパク質、すなわち、二重ヌルLOXオオムギの変異体A689のLOX−2のC末端切断形態が含有する残基は最大で684であり、したがって、活性部位の裂け目の第2の配列の連なりを欠く(これを不活化する)。したがって、本発明の一実施形態では、本発明の二重ヌルLOXオオムギが、LOX−2のアミノ酸515〜717のうちの一部または全部を欠く、好ましくはアミノ酸707〜717のうちの一部または全部を欠く、なおより好ましくはアミノ酸707〜717のうちの全部を欠く、LOX−2の変異形態をコードする遺伝子を含むことが好ましい。前記変異体のLOX−2はまた、野生型のLOX−2には存在する他のアミノ酸残基も欠く可能性がある。
【0084】
したがって、二重ヌルLOXオオムギは、N末端切断形態またはC末端切断形態など、機能的でないLOX−2の切断形態を含み得る。前記切断形態は、含む本公開の配列番号5のLOX−2の連続アミノ酸が、800以下、より好ましくは750以下、なおより好ましくは725以下、さらにより好ましくは700以下、なおより好ましくは690以下、さらにより好ましくは684以下であることが好ましい。前記切断形態は、LOX−2のN末端断片だけを含むことが好ましい。よって、前記切断形態は、含む本公開の配列番号5のN末端アミノ酸が、好ましくは最大で800、より好ましくは最大で750、なおより好ましくは最大で725、さらにより好ましくは最大で700、なおより好ましくは最大で690、さらにより好ましくは最大で684である。
【0085】
極めて好ましい一実施形態では、切断形態が、本公開の配列番号5のアミノ酸1〜684からなり得る。
【0086】
本発明の好ましい実施形態では、オオムギ植物体が、野生型LOX−2 mRNAの終止コドンの上流において、mRNAナンセンスコドンまたは終止コドンを含む、LOX−2のmRNAへと転写される遺伝子を含む。本明細書では、このようなナンセンスコドンを、未熟ナンセンスコドンと称する。前記植物体のLOX−2をコードするmRNAへと転写されるすべての遺伝子は、未熟ナンセンスコドンまたは未熟終止コドンを含む。該ナンセンスコドンまたは終止コドンは、開始コドンの最大で800コドン下流に位置することが好ましく、より好ましくは最大で750コドン、なおより好ましくは最大で725コドン、さらにより好ましくは最大で700コドン、なおより好ましくは最大で690コドン、さらにより好ましくは最大で684コドン下流に位置する。LOX−2をコードする野生型ゲノムDNAの配列は、本公開の配列番号1において与えられる。
【0087】
本発明の極めて好ましい実施形態では、二重ヌルLOXオオムギ植物体の変異LOX−2をコードする遺伝子が、ナンセンス変異を含み、前記変異が、配列番号1の2689位におけるG→A置換に対応する。
【0088】
本発明によるオオムギ植物体は、当業者に公知の任意の適切な方法により、好ましくは、本明細書下記の節「二重ヌルLOXオオムギの調製」で概観される方法のうちの1つにより調製することができる。
【0089】
本発明の一実施形態では、本発明による、二重ヌルLOXオオムギ植物体が、野生型オオムギと同等の、植物体生育の生理学的特徴および穀粒の発生学的特徴を有することが好ましい。よって、本明細書では、ヌルLOX−1オオムギ植物体が、草高、植物体1体当たりのひこばえ数、開花の開始、および/または1穂当たりの穀粒数に関して、野生型オオムギと同様であることが好ましい。
【0090】
また、本発明による二重ヌルLOXオオムギ植物体は、草高、開花日、病害耐性、倒伏、穂の切れ毛、成熟期、および収量に関して、野生型と同様、特に、栽培品種Barkeと同様であるであることが好ましい。本明細書の文脈において、「同様」とは、数の場合、同一±10%として理解すべきである。これらのパラメータは、本明細書下記の実施例5で説明する通りに決定することができる。
【0091】
本発明の極めて好ましい実施形態では、オオムギ植物体が、「オオムギ(Hordeum vulgare L.):A689系統」という名称で、2008年12月4日にAmerican Type Culture Collection (ATCC), Patent Depository, 10801 University Blvd., Manassas, VA 20110, United Statesにその種子が寄託(受託番号PTA−9640)されたオオムギ植物体である。したがって、本発明のオオムギ植物体は、A689系統(ATCC特許受託番号:PTA−9640)のオオムギ、またはその任意の子孫オオムギ植物体であり得る。
【0092】
オオムギ変異体の調製
本発明によるオオムギ植物体は、当業者に公知の任意の適切な方法により調製することができる。本発明のオオムギ植物体は、オオムギ植物体またはそれらの一部、例えば、オオムギ穀粒を変異させるステップの後で、機能的LOX−1酵素の完全な喪失など、LOX−1活性の機能の完全な喪失と、機能的LOX−2酵素の完全な喪失など、LOX−2活性の機能の完全な喪失とを特徴とするオオムギ植物体をスクリーニングおよび選択するステップを含む方法により調製する。好ましい一実施形態では、オオムギ植物体またはそれらの一部(例えば、オオムギ穀粒)を変異させるステップを伴う方法であって、前記オオムギ植物体が、機能的LOX−1酵素の完全な喪失を引き起こす変異を既に保有する方法によりオオムギ植物体を調製することができる。このようなオオムギ植物体は、例えば、国際特許出願第WO2005/087934号において記載されている。
【0093】
興味深い一態様では、本発明が、LOX−2活性の完全な喪失を引き起こす変異を保有するオオムギ植物体の同定を可能とする、新規で極めて有効なスクリーニング法に関する。新規で再現可能なスクリーニング法により、LOX−2活性をまったく示さないか、またはLOX−2活性が極めて低いオオムギ植物体の同定が可能となる。この新規のスクリーニング法は、出発材料として発芽胚芽を用いることを包含する。興味深いことに、最大で21,000個の成熟胚芽をスクリーニングしたところ、単一ヌルLOX−2オオムギ変異体も明らかにならなかったことに基づき、出発材料として成熟胚芽を用いることが、LOX−2活性をスクリーニングするのにあまり好ましくないことを、本発明者らは見出した。
【0094】
したがって、新規のスクリーニング法の1つの重要な特徴は、LOX−2活性を検出するための出発物質として発芽胚芽を用いることに関する。
【0095】
したがって、二重ヌルLOXオオムギ植物体を調製する方法であって、
(i)機能的LOX−1酵素の完全な喪失など、LOX−1活性の機能を完全に喪失させたオオムギ植物体またはその一部を供給するステップと;
(ii)前記オオムギ植物体、ならびに/または前記オオムギ植物体に由来するオオムギ細胞、および/もしくはオオムギ組織、および/もしくはオオムギ穀粒、および/もしくはオオムギ胚芽を変異誘発し、これにより、M0世代のオオムギを得るステップと;
(iii)前記変異誘発されたオオムギ植物体、オオムギ穀粒、および/またはオオムギ胚芽を、少なくとも2世代にわたり育種し、これにより、Mx(ここで、xは、≧2の整数である)世代のオオムギ植物体を得るステップと;
(iv)前記Mx世代のオオムギ植物体から胚芽を得るステップと;
(v)前記胚芽を発芽させるステップと;
(vi)前記発芽した胚芽またはそれらの一部の内におけるLOX−1活性およびLOX−2活性を決定するステップと;
(vii)該発芽した胚芽におけるLOX−1活性およびLOX−2活性を完全に喪失させた植物体を選択するステップと;
(viii)LOX−1遺伝子およびLOX−2遺伝子内の変異について解析するステップと;
(ix)LOX−1遺伝子内およびLOX−2遺伝子において変異を保有する植物体を選択するステップと
を含み、これらにより、LOX−1遺伝子内およびLOX−2遺伝子において変異を保有し、LOX−1活性の完全な喪失およびLOX−2活性の完全な喪失を引き起こすオオムギ植物体を得る方法を提供することが、本発明の目的である。
【0096】
LOX−1活性を完全に喪失させた前述のオオムギ植物体は、例えば、WO2005/087934において記載される、LOX−1活性を完全に喪失させたオオムギ植物体のうちのいずれかであり得、変異体D112またはその子孫植物体であることが好ましい。
【0097】
前述の列挙におけるステップ(ii)は、オオムギ植物体、オオムギ細胞、オオムギ組織、オオムギ穀粒、およびオオムギ胚芽からなる群から選択され、好ましくは、オオムギ植物体、オオムギ穀粒、およびオオムギ胚芽からなる群から選択される生存物質、より好ましくは、オオムギ穀粒を変異誘発するステップを伴い得る。
【0098】
変異誘発は、任意の適切な方法により実施することができる。一実施形態では、オオムギ植物体、またはその一部(例えば、オオムギ穀粒またはオオムギに由来する個々の細胞)を、変異誘発剤と共にインキュベートすることにより、変異誘発を実施する。前記薬剤は当業者に公知であり、例えば、アジドナトリウム(NaN)、メタンスルホン酸エチル(EMS)、アジドグリセロール(AG、3−アジド−1,2−プロパンジオール)、メチルニトロソウレア(MNU)、およびマレインヒドラジド(MH)が含まれるが、これらに限定されない。
【0099】
別の実施形態では、例えば、オオムギ植物体または穀粒などその一部を紫外線で照射することにより、変異誘発を実施する。本発明の好ましい実施形態では、本明細書下記の節「化学的変異誘発」において概観される方法のうちのいずれかにより、変異誘発を実施する。適切な変異誘発プロトコールの非限定的な例は、実施例2において与えられている。
【0100】
変異誘発は、M3世代のオオムギをスクリーニングするとき、所望の変異体の予測頻度が、穀粒10,000個当たり0.5〜5個の範囲内など、少なくとも0.5個、例えば、0.9〜2.3個の範囲内であるように実施することが好ましい。好ましい実施形態では、オオムギ穀粒を対象として変異誘発を実施する。変異原に適用される穀粒を、M0世代と称する(図1もまた参照されたい)。
【0101】
LOX活性は、発芽オオムギ胚芽に由来する試料中において、好ましくは、発芽オオムギ胚芽に由来する液体抽出物中において決定することができる。前記抽出物などの前記試料は、前記発芽胚芽の任意の適切な部分から調製することができる。一般に、前記試料の抽出物を調製し、LOX−2活性を決定する前に、任意の適切な方法を用いて、オオムギ試料をホモジナイズしなければならない。特に、発芽胚芽またはその一部からタンパク質抽出物を調製し、前記タンパク質抽出物を用いてLOX活性を決定することが好ましい。ホモジナイゼーションは、例えば、機械的な力を用いて、例えば、ガラスビーズまたは砂ビーズなど、ビーズの存在下において振とうすることによるなど、振とうまたは撹拌することにより実施することができる。
【0102】
好ましい実施形態では、発芽胚芽が、Mx(ここで、xは、≧2の整数であり;xは、好ましくは2〜10の範囲内、より好ましくは3〜8の範囲内の整数である)世代である。極めて好ましい実施形態では、LOX活性を、M3世代の発芽胚芽、またはこのような胚芽に由来する試料中において決定する。その実施形態では、変異誘発したM0世代のオオムギ穀粒を成長させてオオムギ植物体を得、これを異種交配させてM1世代の穀粒を得ることが好ましい。M3世代の穀粒が得られるまで、この手順を反復する(図1も参照されたい)。
【0103】
LOX活性の決定は、任意の適切なアッセイを用いて、好ましくは、本明細書の下記で概観する方法のうちの1つにより実施することができる。特に、アッセイは、LOX−1およびLOX−2により、リノール酸から、9−HPODEおよび13−HPODEをもたらす二原子酸素添加反応についてのデータを提供することが好ましい。したがって、一般に、アッセイするステップは、
(i)発芽したオオムギ胚芽またはその一部から調製されたタンパク質抽出物を供給するステップと;
(ii)リノール酸を供給するステップと;
(iii)前記タンパク質抽出物を、前記リノール酸と共にインキュベートするステップと;
(iv)リノール酸から9−HPODEおよび13−HPODEをもたらす二原子酸素添加反応を検出するステップと
を伴う。
【0104】
該方法のステップ(iv)は、前記発芽胚芽において、好ましくは前記発芽胚芽から調製されたタンパク質抽出物内において、9−HPODEレベルおよび13−HPODEレベルを決定するステップを含むことが好ましい。該ステップは、9−HPODEレベルおよび13−HPODEレベルを直接的または間接的に決定することを含み得る。全HPODEの総レベルを決定することができるが、この場合は、確認のために9−HPODEの特異的な測定および13−HPODEの特異的な測定を実施することが好ましい。例えば、1つの方法は、発芽胚芽からのタンパク質抽出物を、9−HPODEおよび13−HPODEを形成させるための基質としてのリノール酸と共にインキュベートする方法であり得るであろう。その場合、前記HPODEは、各種の方法により検出することができる。1つの方法は、色素など、検出可能な化合物の生成を伴い得る。例えば、該方法は、ヘモグロビンの存在下において、3−ジメチルアミノ安息香酸と、3−メチル−2−ベンゾチアゾリノンヒドラゾンとを酸化的に結合させ、形成されたHPODEによる触媒でインダミン色素を形成することであり得、これを、分光光度計を用いて、A595で測定することができる。このような方法の例を、本明細書下記の実施例1および2で説明する。このアッセイを用いると、吸光度の読取り値が、0.2A595単位未満であれば、LOX−1活性の不在およびLOX−2活性の不在を示すものとして考えられる。しかし、LOX−1活性およびLOX−2活性を決定するより正確な方法は、発芽胚芽からのタンパク質抽出物を、リノール酸と共にインキュベートし、その後、9−HPODE含量および13−HPODE含量を決定することである。9−HPODE含量および13−HPODE含量は、例えば、HPLCベースの解析を用いて決定することができる。
【0105】
リノール酸から9−HPODEおよび13−HPODEをもたらす二原子酸素添加反応は、直接的に測定することもでき、間接的に測定することもできる。任意の適切な検出法を、本発明と共に用いることができる。本発明の一実施形態では、リノール酸ヒドロペルオキシドが検出される。9−HPODEおよび13−HPODEは、例えば、実施例4で説明されるHPLCなどのクロマトグラフィー法により直接的に検出することができる。
【0106】
本発明は、発芽胚芽からタンパク質を抽出する手順の特定の側面が極めて重要であることを開示する。したがって、酸性緩衝液、好ましくはpHが2〜6の範囲内、より好ましくは3〜5の範囲内、なおより好ましくは3.5〜5の範囲内、さらにより好ましくは4〜5の範囲内にある、なおより好ましくはpHが4.5の緩衝液を用いてタンパク質を抽出することが好ましい。抽出に用いられる緩衝液は、有機酸に基づくことが好ましく、乳酸緩衝液であることがより好ましい。タンパク質抽出物は、pH4.5の100mM乳酸緩衝液を用いて調製されることが最も好ましい。
【0107】
本発明の一部の実施形態は、ヌルLOX−1およびヌルLOX−2植物体を検出する方法であって、9−HPODEおよび13−HPODEが、色素、例えば、3−メチル−2−ベンゾチアゾリノンヒドラゾンと反応することを伴う方法を開示する。前記色素、例えば、3−メチル−2−ベンゾチアゾリノンヒドラゾンは、リノール酸を添加した後で、タンパク質抽出物に添加することが好ましい。該色素は、タンパク質抽出物を、リノール酸と接触させた、好ましくは少なくとも1分後、より好ましくは少なくとも5分後、なおより好ましくは、1〜60分間の範囲内、例えば、5〜30分間の範囲内など、10〜20分間の範囲内など、少なくとも10分後に添加することが好ましい。
【0108】
本発明によるオオムギ植物体を選択するのに好ましい方法については、本明細書下記の実施例2で詳述する。
【0109】
選択手順を、マイクロ滴定プレートベースのアッセイ手順、または他の公知の反復的なハイスループットアッセイフォーマットについて調整して、多くの試料の迅速なスクリーニングを可能とすることができる。少なくとも7500個体など、少なくとも5000個体、例えば、少なくとも15,000個体など、少なくとも10,000体、例えば、少なくとも25,000個体など、少なくとも20,000個体の変異誘発したオオムギ植物体を、LOX−1活性およびLOX−2活性について解析することが好ましい。
【0110】
LOX−1をコードする遺伝子内の変異の決定は、複数の異なる方法により実施することができる。例えば、LOX−1遺伝子を完全にまたは部分的に配列決定することができ、該配列を、WO2005/087934の配列番号1またはWO2005/087934の配列番号5と比較することができる。特定の変異を検索する場合は、SNP解析を適用することができる。当業者は、LOX−1のコード配列内において未熟終止コドン(例えば、本明細書の上記で説明した未熟終止コドンのうちのいずれか)をもたらす変異など、所与の特異的な変異を検出するのに有用なプライマーをデザインすることができるであろう。LOX−1遺伝子の3474位のヌクレオチドにおけるG→A変異を検出するのに有用なプライマーによりSNP解析を実施する方法のうちの一例については、本明細書下記の実施例10で説明する。
【0111】
LOX−2をコードする遺伝子内の変異の決定は、複数の異なる方法により実施することができる。例えば、LOX−2遺伝子を完全にまたは部分的に配列決定することができ、該配列を、本公開の配列番号1と比較することができる。特定の変異を検索する場合は、SNP解析を適用することができる。当業者は、LOX−2のコード配列内において未熟終止コドン(例えば、本明細書の上記で説明した未熟終止コドンのうちのいずれか)をもたらす変異など、所与の特異的な変異を検出するのに有用なプライマーをデザインすることができるであろう。LOX−2遺伝子の2689位のヌクレオチドにおけるG→A変異を検出するのに有用なプライマーによりSNP解析を実施する方法のうちの一例については、本明細書下記の実施例10で説明する。
【0112】
本明細書の本節上記で説明した、二重ヌルLOXオオムギ植物体を調製する方法のステップ(viii)および(ix)を、ステップ(vi)および(vii)の前に実施することができ、この場合、該方法は、ステップ(i)、(ii)、(iii)、(iv)、(v)、(viii)、(ix)、(vi)、および(vii)を、この順序で含む。特に、これは、例えば、既に同定された二重ヌルLOXオオムギ植物体の子孫植物体内において特定の変異を検索する場合であり得るであろう。
【0113】
LOX−1遺伝子において特定の変異を含有し、LOX−2遺伝子において特定の変異を含有する(上述の変異のうちのいずれかなどの変異を含有する)、二重ヌルLOXオオムギ植物体を同定したら、当業者に周知の育種法など、従来の育種法により、同一の変異を示すさらなるオオムギ植物体を作製することができる。例えば、前記二重ヌルLOXオオムギ植物体は、別のオオムギ栽培品種と戻し交配することができる。
【0114】
LOX−1機能およびLOX−2機能を完全に喪失させた、有用なオオムギ植物体を選択した後で、場合によって、1または複数のさらなるスクリーニングを実施することができる。例えば、選択された変異体を、さらに繁殖させることができ、新世代の植物を、機能的LOX−1酵素および機能的LOX−2酵素の完全な喪失について調べることができる。
【0115】
有用なオオムギ植物体を選択した後で、これらを、従来の育種などの育種にかけることができる。育種法は、本明細書下記の節「植物体の育種」において説明する。
【0116】
植物生成物
本発明は、二重ヌルLOXオオムギ植物体またはそれらの一部から調製された、T2Nポテンシャルレベルの低い飲料または他の植物生成物に関する。
【0117】
したがって、本発明は、上記で説明したオオムギ植物体またはそれらの一部を含む組成物の場合もあり、前記オオムギ植物体またはそれらの一部から調製された植物生成物など、前記オオムギ植物体またはそれらの一部から調製された組成物の場合もある。前記オオムギ植物体は、LOX−1活性およびLOX−2活性を欠くため、一般に、この組成物が含むT2Nポテンシャルレベルが極めて低い。機能的LOX−1酵素の完全な喪失など、LOX−1活性の機能の完全な喪失を結果としてもたらす第1の変異と、機能的LOX−2酵素の完全な喪失など、LOX−2活性の機能の完全な喪失を結果としてもたらす第2の変異とを有するオオムギ植物体を含むか、またはこれらから調製される有用な組成物の例については、本明細書の下記で説明する。
【0118】
前記組成物は、野生型のオオムギ植物体、好ましくは栽培品種Powerから同じ方法で調製した同様の組成物と比較して、
(i)含む遊離T2Nが、60%未満、なおより好ましくは50%未満、さらにより好ましくは、30%未満、好ましくは20%未満、より好ましくは10%未満など、40%未満であり;かつ/または
(ii)含むT2Nポテンシャルが、60%未満、なおより好ましくは50%未満、さらにより好ましくは、30%未満、好ましくは25%未満など、40%未満である
ことが好ましい。T2Nの特異的な低下は、組成物の種類に応じて異なり得る。前述のT2Nの低下は、モルト、ウォート、および劣化飲料からなる群から選択される組成物に特に関与する。
【0119】
加えて、前記組成物は、WO2005/087934で記載されるオオムギの変異体D112から同じ方法で調製した同様の組成物と比較して、
(i)含む遊離T2Nが、80%未満、好ましくは70%未満、なおより好ましくは、50%未満など、60%未満であり;かつ/または
(ii)含むT2Nポテンシャルが、80%未満、好ましくは70%未満、なおより好ましくは、50%未満など、60%未満である
ことが好ましい。
【0120】
一態様では、本発明が、LOX−1活性の機能の完全な喪失(機能的LOX−1酵素の完全な喪失など)を結果としてもたらす第1の変異と、LOX−2活性の機能の完全な喪失(機能的LOX−2酵素の完全な喪失など)を結果としてもたらす第2の変異とを有するオオムギ穀粒に関する。本発明はまた、前記穀粒を含む組成物、および前記穀粒から調製される組成物の他、前記穀粒から調製される植物生成物にも関する。
【0121】
オオムギを高温処理および/または乳酸処理にかける場合がある浸漬工程により、オオムギ穀粒内のリポキシゲナーゼ活性を低下させ得ることが記載されている。このような処理は、所望の酵素活性、例えば、フィターゼ活性を低下させるなど、他の有害作用を示し得る。加えて、このような処理は、リポキシゲナーゼ活性を、加熱処理を行った時点と比べて低下させるだけであり、したがって、それ以前におけるリポキシゲナーゼ生成物の蓄積には影響を及ぼさない。
【0122】
したがって、一実施形態では、オオムギ穀粒を、少なくとも70℃の温度での浸漬にはかけない方法を用いて、本発明による植物生成物を調製する。また、オオムギ穀粒を、乳酸の存在下において、少なくとも57℃の温度での浸漬にはかけない方法を用いて、本発明による植物生成物を調製することも好ましい。
【0123】
一態様では、本発明が、モルト化により、二重ヌルLOXオオムギから調製されるモルト組成物に関する。「モルト化」という用語により、制御された環境条件下で生じる、スティーピングされたオオムギ穀粒の発芽(例えば、図3、ステップ2および3で示される)が理解されるものとする。
【0124】
前記モルト組成物は、含む遊離T2Nが、野生型のオオムギ、好ましくは栽培品種Powerから同じ方法で調製したモルト組成物と比較して、好ましくは30%未満、より好ましくは20%未満、なおより好ましくは10%未満である。前記モルト組成物は、含む遊離T2Nが、WO2005/087934で記載されるオオムギのヌルLOX−1変異体D112から同じ方法で調製したモルト組成物と比較して60%未満、より好ましくは50%未満であることがより好ましい。前記モルト組成物は、含むT2Nポテンシャルが、野生型のオオムギ、好ましくは栽培品種Powerから同じ方法で調製したモルト組成物と比較して60%未満、好ましくは50%未満、より好ましくは40%未満、なおより好ましくは30%未満、より好ましくは20%未満、なおより好ましくは10%未満であることがさらに好ましい。前記モルト組成物は、含むT2Nポテンシャルが、WO2005/087934で記載されるオオムギのヌルLOX−1変異体D112から同じ方法で調製したモルト組成物と比較して60%未満、より好ましくは50%未満であることがより好ましい。モルト化とは、オオムギ穀粒を制御された形でスティーピングし、発芽させた後で、これを乾燥させる、好ましくは、これをキルン乾燥させる工程である。乾燥させる前の、スティーピングされて発芽したオオムギ穀粒を「グリーンモルト」と称するが、これもまた、本発明による植物生成物を表し得る。このイベントの連鎖は、主に、死滅した内胚乳の細胞壁を脱重合化させ、穀粒の栄養物質を移動させ、他の解重合酵素を活性化する過程において、穀粒の改変を引き起こす多数の酵素を合成するのに重要である。その後の乾燥させる工程では、化学褐色化反応によって、風味および色が生成される。モルトは主に、飲料を生産するのに用いられるが、それはまた、例えば、製パン業における酵素供給源として、またはモルトもしくは粉末モルトなど、食物産業における芳香剤および着色剤として、あるいは間接的に、モルトシロップなどとして、他の産業工程でも用いることができる。
【0125】
一態様では、本発明が、前記モルト組成物を生成させる方法に関する。該方法は、
(i)LOX二重ヌルオオムギ穀粒を供給するステップと;
(ii)前記穀粒をスティーピングするステップと;
(iii)該スティーピングされた穀粒を、所定の条件下で発芽させるステップと;
(iv)前記発芽した穀粒を乾燥させるステップと
を含み、これらにより、LOX−1活性およびLOX−2活性が完全に喪失したモルト組成物を生成させる。例えば、モルトは、Briggsら(1981年)およびHoughら(1982年)により説明される方法のうちのいずれかにより生成させることができる。しかし、モルトを焙煎する方法などが含まれるがこれらに限定されない、特殊モルトを生成させるための方法など、モルトを生成させるのに適する他の任意の方法もまた用いることができる。非限定的な例については、実施例6および8で説明する。
【0126】
モルトは、例えば、破砕することにより、さらに加工することができる。したがって、本発明による植物生成物は、未加工モルト、または破砕モルト、もしくはその粉末など、任意の種類のモルトであり得る。破砕モルトおよびその粉末は、モルトの化学成分および再発芽する能力を欠く死滅細胞を含む。
【0127】
別の態様では、本発明による植物生成物が、オオムギシロップまたはオオムギモルトシロップなどのシロップを含み、またはさらにそれからなる。植物生成物はまた、オオムギまたはモルトの抽出物でもあり得る。
【0128】
別の態様では、本発明は、LOX二重ヌルの穀粒に由来するモルト組成物から調製されるウォート組成物である植物生成物の種類に関する。前記モルトは、LOX二重ヌルの穀粒だけから調製することもでき、他の穀粒も含む混合物から調製することもできる。本発明はまた、単独で、または他の成分と混合されたLOX二重ヌルのオオムギまたはその一部を用いて調製されるウォート組成物にも関する。
【0129】
前記ウォート組成物は、含む遊離T2Nが、野生型のオオムギ、好ましくは栽培品種Powerから同じ方法で調製したウォート組成物と比較して30%未満、より好ましくは20%未満、なおより好ましくは10%未満であることが好ましい。前記ウォート組成物は、含む遊離T2Nが、WO2005/087934で記載されるオオムギの変異体D112から同じ方法で調製したウォート組成物と比較して60%未満、より好ましくは50%未満であることがより好ましい。前記ウォート組成物は、含むT2Nポテンシャルが、野生型のオオムギ、好ましくは栽培品種Powerから同じ方法で調製したウォート組成物と比較して好ましくは40%未満、より好ましくは30%未満、なおより好ましくは25%未満であることがさらに好ましい。前記ウォート組成物は、含むT2Nポテンシャルが、WO2005/087934で記載されるオオムギの変異体D112から同じ方法で調製したウォート組成物と比較して60%未満、より好ましくは50%未満であることがより好ましい。
【0130】
前記ウォートは、一番ウォート、および/または二番ウォート、および/またはさらなるウォートであり得る。ウォート組成物は、スイートウォートの場合もあり、煮沸ウォートの場合もあり、これらの混合物の場合もある。ウォート組成物はまた、オオムギウォートの場合もある。一般に、ウォート組成物は、高レベルのアミノ窒素と、発酵性炭水化物とを含有し、後者は主にマルトースである。図3では、ステップ4〜6により、モルトからウォートを調製する一般的な方法を示す。一般に、ウォートは、モルトと水とを混合およびインキュベートすることにより、すなわち、マッシング工程において調製する。マッシング時において、モルト/液体組成物には、炭水化物に富むさらなる添加組成物、例えば、破砕したオオムギ添加物、トウモロコシ添加物、またはコメ添加物を補充することができる。モルト化させていない穀類添加物は一般に、含有する活性酵素が少量であるか、または活性酵素を含有せず、このため、モルトまたは外因性酵素を補充して、糖転換に必要な酵素を供給することが重要となる。
【0131】
一般に、ウォート生成は、水が、マッシング相にある穀粒粒子に到達し得るように、モルトを破砕するステップで開始される。前記マッシングは、基本的には、酵素により基質を脱重合化するモルト化工程の拡張である。マッシング時には、破砕モルトを、水などの液体画分と共にインキュベートする。インキュベーション温度は、一般に、一定に保つ(等温マッシング)か、または段階的に上昇させる。いずれの場合も、モルト化およびマッシングにおいて生成される可溶性物質は、前記液体画分中に放出される。その後の濾過により、ウォートと、残留する固体粒子との分離がなされ、後者をまた、「ビール粕」とも称する。前記ウォートはまた、「一番ウォート」とも称する。スパージングおよび濾過後、「二番ウォート」を得ることができる。該手順を繰り返すことにより、さらなるウォートを調製することができる。ウォートを調製するのに適する手順の非限定的な例は、Briggsら(前出)およびHoughら(前出)により説明されている。
【0132】
酵素を加熱処理することにより、リポキシゲナーゼ活性を低下させ得ることが記載されている。ウォートを加熱処理してリポキシゲナーゼ活性を低下させることができ、かつ/またはマッシングを高温で実施することが記載されている。しかし、加熱処理は、リポキシゲナーゼ活性を低下させることに加え、他の酵素活性を低下させることなど、他の有害作用を有し得る。加えて、加熱処理は、リポキシゲナーゼ活性を、それを行った時点と比べて低下させるだけであり、したがって、それ以前におけるリポキシゲナーゼ生成物の蓄積には影響を及ぼさない。
【0133】
したがって、一実施形態では、初期のマッシング温度が70℃を超えず、好ましくは69℃を超えず、したがって、例えば、初期のマッシング温度が、55℃〜69℃の範囲内、例えば、55℃〜65℃の範囲内など、50℃〜69℃の範囲内であり得る方法を用いて、本発明によるウォートを調製する。また、本発明によるウォートは、マッシング時において70℃以上の温度下に置いた時間が、25分間を超えず、好ましくは20分間を超えず、より好ましくは15分間を超えないことも好ましい。マッシング温度が高すぎると、マッシュ中における酵素活性に影響が及び、所望の酵素活性を低下させるか、またはさらに無化する可能性があり、この結果、ウォートの品質が変化する。
【0134】
一番ウォート、二番ウォート、およびさらなるウォートを混合し、その後、煮沸にかけることができる。純粋の一番ウォートであれ、混合ウォートであれ、煮沸されていないウォートをまた「スイートウォート」とも称し、煮沸後のウォートは、「煮沸ウォート」と称する。ウォートをビールの生産に用いる場合、煮沸前にホップを添加することが多い。
【0135】
ウォート組成物はまた、モルト化させていない二重ヌルLOX穀粒、特に、モルト化させていない二重ヌルLOX破砕穀粒またはそれらの一部など、二重ヌルLOXオオムギ植物体またはそれらの一部を、酵素組成物または酵素混合物による組成物、例えば、Cereflo、Ultraflo、またはOndea Pro(Novozymes社製)など、1または複数の適切な酵素と共にインキュベートすることによっても調製することができる。このようにして調製されたウォートから飲料を作製する方法はまた、「オオムギ醸造」とも称し、これによるウォート組成物を、「オオムギウォート」または「オオムギ醸造」ウォートとも称することができる。ウォート組成物はまた、モルトと、モルト化させていないオオムギ植物体またはその一部との混合物、またはモルト化させていないオオムギだけを用いて調製することもでき、場合によって、前記調製時において、1または複数の適切な酵素、特に、アミラーゼ、グルカナーゼ[好ましくは、(1−4)−グルカナーゼおよび/または(1−3,1−4)−β−グルカナーゼ]、および/もしくはキシラナーゼ(アラビノキシラナーゼなど)、および/もしくはプロテアーゼ、または前述の酵素のうちの1または複数を含む酵素混合物を添加して、例えば、酵素混合物であるOndea Pro(Novozymes社製)を添加して調製することもできる。
【0136】
本発明の特定の一実施形態では、本発明によるウォート組成物が、煮沸オオムギウォート、すなわち、モルト化させていない(かつ、好ましくは破砕した)二重ヌルLOX穀粒を、水と共にインキュベートすることにより、好ましくはマッシングおよびスパージングすることにより調製されたウォートなど、オオムギウォートである。このようなオオムギウォートは、T2NレベルおよびT2Nポテンシャルレベルが極めて低いことを特徴とする。したがって、前記オオムギウォートは、含む遊離T2Nが、野生型のオオムギ、好ましくは栽培品種Powerから同じ方法で調製したオオムギウォート組成物と比較して、好ましくは50%未満、より好ましくは40%未満、なおより好ましくは30%未満である。前記ウォート組成物は、含む遊離T2Nが、WO2005/087934で記載されるオオムギの変異体D112から同じ方法で調製したウォート組成物と比較して70%未満、より好ましくは60%未満であることがより好ましい。さらに、前記オオムギウォートは、13〜16の範囲内、好ましくは14〜15の範囲内の°p、より好ましくは14.5°pに調整される場合、含む遊離T2Nが、最大で0.15ppbであることが好ましい。前記オオムギウォートは、含むT2Nポテンシャルが、野生型のオオムギ、好ましくは栽培品種Powerから同じ方法で調製したオオムギウォート組成物と比較して50%未満、より好ましくは40%未満、なおより好ましくは30%未満であることがさらに好ましい。また、前記オオムギウォートは、含むT2N前駆体が、野生型のオオムギ、好ましくは栽培品種Powerから同じ方法で調製したオオムギウォート組成物と比較して50%未満、より好ましくは40%未満、なおより好ましくは30%未満であることも好ましい。
【0137】
本発明はまた、二重ヌルLOXオオムギ植物体またはそれらの一部を含む、食物組成物、飼料組成物、および香料の原料組成物であり得る植物生成物に関する。食物組成物は、例えば、モルト化させたオオムギ穀粒およびモルト化させていないオオムギ穀粒、オオムギ粉末、パン、ポリッジ、オオムギを含む穀類混合物、オオムギを含む飲料などの健康製品、オオムギシロップ、およびフレーク状オオムギ組成物、破砕オオムギ組成物、または押出し成形したオオムギ組成物であり得るがこれらに限定されない。飼料組成物には、例えば、オオムギ穀粒および/またはオオムギ粉末を含む組成物が含まれる。香料の原料組成物については、本明細書の下記で説明する。
【0138】
本発明はまた、本発明の組成物の混合物にも関する。例えば、一態様では本発明が、
(i)機能的LOX−1酵素の完全な喪失など、LOX−1活性の機能の完全な喪失を結果としてもたらす第1の変異と、機能的LOX−2酵素の完全な喪失など、LOX−2活性の機能の完全な喪失を結果としてもたらす第2の変異とを含むオオムギ植物体またはその一部を含む組成物と;
(ii)二重ヌルLOX穀粒から調製されるモルト組成物と
の混合物により調製される組成物に関する。
【0139】
好ましい態様では、本発明が、飲料、より好ましくはモルト飲料、なおより好ましくは、発酵モルト飲料、好ましくは、安定的な感覚刺激性の品質を有するビールなどのアルコール飲料などの発酵飲料に関し、前記飲料は、二重ヌルLOXオオムギまたはその一部を用いて調製される。したがって、本発明の好ましい一実施形態では、飲料を、二重ヌルLOXオオムギ、またはその一部、またはその抽出物を発酵させることにより、例えば、単独の、または他の成分と組み合わせた二重ヌルLOXモルトからウォートを発酵させることにより調製することが好ましい。
【0140】
しかし、本発明の他の実施形態では、飲料が、非発酵飲料、例えば、ウォート、好ましくは、LOX二重ヌルのモルトから調製したウォートである。前記飲料を、モルト化させていないオオムギ植物体、またはその一部から調製し得ることもまた、本発明の範囲内に含まれる。
【0141】
飲料は、非アルコール性ビール、またはモルティナなどの非アルコール性モルト飲料など、他の種類の非アルコール性飲料などの非アルコール性飲料であり得る。
【0142】
しかし、前記飲料は、LOX二重ヌルのオオムギ穀粒から調製されるモルト組成物から調製することが好ましい。前記飲料は、ビールであることがより好ましい。これは、当業者に公知の任意の種類のビールであり得る。一実施形態では、ビールが、例えば、ラガービールである。ビールは、発芽した二重ヌルLOXオオムギを含むモルト組成物を用いて醸造することが好ましく、前記ビールは、発芽した二重ヌルLOXオオムギだけから調製したモルト組成物を用いて醸造することがより好ましい。しかし、モルト組成物はまた、例えば、野生型オオムギ、LOX−1ヌルのオオムギ、コムギ、および/もしくはライムギ、または、シロップ組成物を含め、モルト化させた原料もしくはモルト化させていない原料に由来する糖もしくは組成物を含む、発芽させていない原料も含み得る。しかし、前記ビールを調製するのに用いられる、すべてのモルト化させたオオムギ、および/もしくはモルト化させていないオオムギ、ならびに/または発芽させたオオムギ、および/もしくは発芽させていないオオムギなど、好ましくはすべてのオオムギが、二重ヌルLOXオオムギであることが好ましい。
【0143】
好ましい実施形態では、本発明による飲料が、好ましくは、マッシング、および、場合によってスパージングすることにより、キルン処理されたモルトから調製されたウォートから作製したビールである。本明細書では、このようなビールはまた、「モルト化」されているとも称する。しかし、本発明による飲料はまた、オオムギウォートから調製されたビールでもあり得る。このようなビールはまた、「オオムギビール」とも称する。
【0144】
好ましい実施形態では、本発明による飲料は、含むT2Nポテンシャルが、野生型のオオムギ、好ましくは栽培品種Powerから同じ方法で調製した飲料のT2Nポテンシャルと比較して50%未満、好ましくは40%未満、より好ましくは、30%未満など、35%未満である。また、本発明による飲料は、含むT2Nポテンシャルが、WO2005/087934で記載されるオオムギのヌルLOX−1変異体、好ましくはオオムギの変異体D112から同じ方法で調製した飲料と比較して70%未満、好ましくは、50%未満など、60%未満であることも好ましい。また、本発明による飲料がそれに基づく、元の抽出物中における°pが、10〜12°pの範囲内、より好ましくは11°pに調整される場合、該飲料は、含むT2Nポテンシャルが、最大で2ppb、より好ましくは、最大で1ppbなど、最大で1.5ppbであることも好ましい。
【0145】
好ましい実施形態では、本発明による飲料は、含むT2N前駆体が、野生型のオオムギ、好ましくは栽培品種Powerから同じ方法で調製した飲料のT2N前駆体と比較して、50%未満、好ましくは40%未満、より好ましくは、30%未満など、35%未満である。また、本発明による飲料は、含むT2N前駆体が、WO2005/087934で記載されるオオムギの変異体D112から同じ方法で調製した飲料と比較して70%未満、好ましくは、50%未満など、60%未満であることも好ましい。また、本発明による飲料がそれに基づく、元の抽出物中における°pが、10〜12°pの範囲内、より好ましくは11°pに調整される場合、該飲料は、含むT2N前駆体が、最大で2ppb、より好ましくは、最大で1ppbなど、最大で1.5ppbであることも好ましい。
【0146】
本発明の特定の一実施形態では、飲料がオオムギビールであり、含むT2Nポテンシャルが、野生型のオオムギ、好ましくは栽培品種Powerから同じ方法で調製したオオムギビールのT2Nポテンシャルと比較して50%未満、好ましくは40%未満、より好ましくは35%未満である。この実施形態ではまた、前記オオムギビールは、含むT2N前駆体が、野生型のオオムギ、好ましくは栽培品種Powerから同じ方法で調製したオオムギビールのT2N前駆体と比較して50%未満、好ましくは40%未満、より好ましくは35%未満であることも好ましい。この実施形態ではまた、本発明によるオオムギビールは、含むT2Nポテンシャルが、最大で2ppb、より好ましくは最大で1.5ppb、なおより好ましくは最大で1.2ppbであることも好ましい。この実施形態では、本発明によるオオムギビールがそれに基づく、元の抽出物中における°pが、10〜12°pの範囲内、より好ましくは11°pに調整される場合、該飲料は、含むT2N前駆体が、最大で2ppb、より好ましくは最大で1.5ppb、なおより好ましくは最大で1.2ppbであることがさらに好ましい。
【0147】
本発明の別の特定の実施形態では、飲料がモルトから調製されるビールであって、含むT2Nポテンシャルが、野生型のオオムギ、好ましくは栽培品種Powerから同じ方法で調製したビールのT2Nポテンシャルと比較して50%未満、好ましくは40%未満、より好ましくは30%未満のビールである。この実施形態ではまた、前記ビールは、含むT2N前駆体が、野生型のオオムギ、好ましくは栽培品種Powerから同じ方法で調製したビールのT2N前駆体と比較して50%未満、好ましくは40%未満、より好ましくは30%未満であることも好ましい。この実施形態ではまた、本発明によるビールは、含むT2Nポテンシャルが、最大で2ppb、より好ましくは最大で1.5ppb、なおより好ましくは最大で1ppbであることも好ましい。この実施形態では、本発明によるビールがそれに基づく、元の抽出物中における°pが、10〜12°pの範囲内、より好ましくは11°pに調整される場合、該飲料は、含むT2N前駆体が、最大で2ppb、より好ましくは最大で1.5ppb、なおより好ましくは最大で1ppbであることがさらに好ましい。
【0148】
「感覚刺激性」とは、ヒトの嗅覚および味覚に訴える品質を意味する。例えば、熟練の専門家による試飲パネルがこれらを解析する。前記試飲パネルは、T2Nなど、アルデヒドの異臭を認識するように専門的に訓練されていることが好ましい。一般に、試飲パネルは、3〜30人の範囲内のメンバー、例えば、5〜15人の範囲内のメンバー、好ましくは8〜12人の範囲内のメンバーからなる。試飲パネルは、紙の異臭、酸化による異臭、劣化による異臭、およびパンの異臭など、各種の風味の存在について評価し得る。本発明との関連では、紙の異臭および/または劣化による異臭を特に低下させることが好ましい。飲料の「感覚刺激性」を判定する方法は、国際特許出願第WO2005/087934号の実施例6で説明されている。飲料の「感覚刺激性」を判定する別の好ましい方法については、本明細書下記の実施例8および9で説明する。好ましい実施形態では、安定的な感覚刺激性の品質が、少なくとも部分的には、T2NレベルまたはT2Nポテンシャルレベルが低いことの結果である。
【0149】
本発明による飲料は、約20℃など、15〜25℃の範囲内で少なくとも10カ月にわたる保存後における紙の風味が、LOX−1活性およびLOX−2活性を含有するオオムギ植物体から同じ方法で調製した同様の飲料と比較して弱いことを特徴とすることが好ましい。前記紙の風味は、熟練の試飲パネルによる評価で90%未満、より好ましくは、70%未満など、80%未満である。
【0150】
また、本発明による飲料は、高温での保存後における紙の風味が、野生型のオオムギから調製した同様の飲料と比較して軽減されることも好ましい。熟練の専門家による試飲パネルが、「紙の風味」の特性を判定する(上記で説明した通りであり、0を「なし」として5を「極めて強い」とする0〜5段階でスコア付けする)場合、本発明の飲料は、紙の風味についての以下のスコア:
(i)37℃で1週間にわたるインキュベーション後において、野生型のオオムギ、好ましくは栽培品種Powerから同じ方法で調製した飲料の紙の風味についてのスコアより、少なくとも0.5、好ましくは少なくとも0.7、より好ましくは少なくとも1.0低い、紙の風味についてのスコア;
(ii)37℃で2週間にわたるインキュベーション後において、野生型のオオムギ、好ましくは栽培品種Powerから同じ方法で調製した飲料の紙の風味についてのスコアより、少なくとも0.5、好ましくは少なくとも0.7、より好ましくは少なくとも1.0低い、紙の風味についてのスコア;
(iii)37℃で3週間にわたるインキュベーション後において、野生型のオオムギ、好ましくは栽培品種Powerから同じ方法で調製した飲料の紙の風味についてのスコアより、少なくとも0.5、好ましくは、少なくとも1.0など、少なくとも0.7低い、紙の風味についてのスコア;
(iv)37℃で1週間にわたるインキュベーション後において、野生型のオオムギ、好ましくは栽培品種Powerから同じ方法で調製した飲料の紙の風味についてのスコアの最大で90%、好ましくは最大で80%、より好ましくは最大で70%、なおより好ましくは最大で60%、さらにより好ましくは最大で50%である、紙の風味についてのスコア;
(v)37℃で2週間にわたるインキュベーション後において、野生型のオオムギ、好ましくは栽培品種Powerから同じ方法で調製した飲料の紙の風味についてのスコアの最大で90%、好ましくは最大で80%、より好ましくは最大で70%、なおより好ましくは最大で60%である、紙の風味についてのスコア;
(vi)37℃で3週間にわたるインキュベーション後において、野生型のオオムギ、好ましくは栽培品種Powerから同じ方法で調製した飲料の紙の風味についてのスコアの最大で90%、好ましくは最大で80%である、紙の風味についてのスコア
のうちの1または複数、好ましくは、少なくとも3つ、例えば、すべてなど、少なくとも2つを示すことが好ましい。
【0151】
飲料は、保存後においても含む遊離T2Nレベルが極めて低い場合に、「安定的な感覚刺激性の品質」を有するという。したがって、二重ヌルLOXオオムギ植物体を用いて製造された飲料(安定的な感覚刺激性の品質を示すビールなど)を提供することが、本発明の目的である。このような飲料は、(少なくとも1週間、好ましくは少なくとも2週間、より好ましくは少なくとも3週間、なおより好ましくは、1〜3カ月間の範囲内、例えば、3〜6カ月の範囲内など、6〜12カ月間の範囲内、例えば、複数年間にわたるなど、少なくとも4週間にわたる保存後において)含むT2Nポテンシャルレベルが、野生型のオオムギ、好ましくは栽培品種Powerからから同じ方法で調製した飲料と比較して極めて低い(好ましくは50%未満、好ましくは40%未満、より好ましくは30%未満、例えば、20%未満など、10%未満など、35%未満である)ことが好ましい。
【0152】
さらに、本発明による飲料は、(少なくとも1週間、好ましくは少なくとも2週間、より好ましくは少なくとも3週間、なおより好ましくは、20〜30℃の範囲内の温度で1〜3カ月間の範囲内、例えば、3〜6カ月の範囲内など、6〜12カ月間の範囲内、例えば、複数年間にわたるなど、30〜40℃の範囲内の温度、好ましくは37℃で少なくとも4週間にわたる保存後において)含む遊離T2Nレベルが、野生型のオオムギ、好ましくは栽培品種Powerからから同じ方法で調製した飲料と比較して極めて低い(好ましくは50%未満、好ましくは40%未満、より好ましくは35%未満、なおより好ましくは30%未満、例えば、25%未満である)ことが好ましい。
【0153】
特に、本発明による飲料は、(37℃で2週間にわたる保存後において)含む遊離T2Nレベルが、野生型のオオムギ、好ましくは栽培品種Powerからから同じ方法で調製した飲料と比較して極めて低い(好ましくは50%未満、好ましくは40%未満、より好ましくは35%未満である)ことが好ましい。また、本発明による飲料は、37℃で2週間にわたる保存後において含む遊離T2Nが、50ppt未満、なおより好ましくは40ppt未満、なおより好ましくは30ppt未満であることも好ましい。その存在下で前記保存が実施される亜硫酸塩レベルは、10ppmを超えず、好ましくは1〜10ppmの範囲内、より好ましくは1〜8ppmの範囲内、より好ましくは2〜6ppmの範囲内、さらにより好ましくは、4ppmなど、3〜5ppmの範囲内の亜硫酸塩レベルであることが好ましい。
【0154】
また、本発明による飲料は、(37℃で2週間にわたる保存後において)含む遊離T2Nが、ヌルLOX−1オオムギ、好ましくは、WO2005/087934で記載されるオオムギの変異体D112からから同じ方法で調製した飲料と比較して80%未満、好ましくは、60%未満など、75%未満であることも好ましい。その存在下で前記保存が実施される亜硫酸塩レベルは、10ppmを超えず、好ましくは1〜10ppmの範囲内、より好ましくは1〜8ppmの範囲内、より好ましくは2〜6ppmの範囲内、さらにより好ましくは2〜4ppmの範囲内の亜硫酸塩レベルであることが好ましい。
【0155】
また、本発明による(ビール、例えば、オオムギビールなどの)飲料は、(37℃で8週間にわたる保存後において)含む遊離T2Nレベルが、野生型のオオムギ、好ましくは栽培品種Powerからから同じ方法で調製した飲料と比較して極めて低い(好ましくは50%未満、好ましくは40%未満、より好ましくは35%未満、なおより好ましくは30%未満、さらにより好ましくは25%未満である)ことも好ましい。該飲料(ビール、例えば、オオムギビールなど)は、37℃で8週間にわたる保存後において含む遊離T2Nが、最大で50ppt、なおより好ましくは最大で40ppt、さらにより好ましくは最大で30ppt、なおより好ましくは最大で20pptであることがさらに好ましい。その存在下で前記保存が実施される亜硫酸塩レベルは、10ppmを超えず、好ましくは1〜10ppmの範囲内、より好ましくは1〜8ppmの範囲内、より好ましくは1〜6ppmの範囲内、さらにより好ましくは、3ppmなど、2〜4ppmの範囲内の亜硫酸塩レベルであることが好ましい。
【0156】
また、該飲料は、(37℃で8週間にわたる保存後において)含む遊離T2Nレベルが、ヌルLOX−1オオムギ、好ましくは、WO2005/087934で記載されるオオムギの変異体D112からから同じ方法で調製した飲料と比較して70%未満、好ましくは60%未満、なおより好ましくは55%未満であることも好ましい。その存在下で前記保存が実施される亜硫酸塩レベルは、10ppmを超えず、好ましくは1〜10ppmの範囲内、より好ましくは1〜8ppmの範囲内、より好ましくは2〜6ppmの範囲内、さらにより好ましくは2〜4ppmの範囲内の亜硫酸塩レベルであることが好ましい。
【0157】
さらに、(少なくとも1週間、好ましくは少なくとも2週間、より好ましくは少なくとも3週間、なおより好ましくは、20〜30℃の範囲内の温度で1〜3カ月間の範囲内、例えば、3〜6カ月の範囲内など、6〜12カ月間の範囲内、例えば、複数年間にわたるなど、30〜40℃の範囲内の温度、好ましくは37℃で少なくとも4週間にわたる保存後において含むT2Nおよび/またはT2Nポテンシャルが、WO2005/087934で記載されるオオムギの変異体D112からから同じ方法で調製した飲料と比較して70%未満、好ましくは、50%未満など、60%未満であり、より好ましくは、含む遊離T2Nが70%未満、好ましくは、50%未満など、60%未満であることが好ましい)二重ヌルLOXオオムギ植物体を用いて製造されるビールなどの飲料を提供することが、本発明の目的である。
【0158】
特に、本発明による(ビール、例えば、オオムギビールなどの)飲料は、37℃で8週間にわたる保存後において含む遊離T2Nレベルが、野生型のオオムギ、好ましくは栽培品種Powerからから同じ方法で調製した飲料と比較して極めて低い(好ましくは70%未満、好ましくは60%未満、より好ましくは55%未満、なおより好ましくは52%未満である)ことが好ましい。その存在下で前記保存が実施される亜硫酸塩レベルは、10ppmを超えず、好ましくは1〜10ppmの範囲内、より好ましくは1〜8ppmの範囲内、より好ましくは1〜6ppmの範囲内、さらにより好ましくは、3ppmなど、2〜4ppmの範囲内の亜硫酸塩レベルであることが好ましい。
【0159】
本発明による飲料はまた、含む亜硫酸塩が、100万分率(ppm)で1〜10の範囲内、より好ましくは2〜8ppmの範囲内、より好ましくは3〜7ppmの範囲内、さらにより好ましくは4〜6ppmの範囲内であることが好ましい。本発明の飲料は、15℃〜40℃の範囲内、好ましくは30℃〜37℃の範囲内の温度、より好ましくは37℃で、少なくとも1週間、好ましくは少なくとも2週間、より好ましくは少なくとも3週間、なおより好ましくは、1〜3カ月間の範囲内、例えば、3〜6カ月の範囲内など、6〜12カ月間の範囲内、例えば、複数年間にわたるなど、少なくとも4週間にわたる保存後において含む遊離T2Nが、10億分率(ppb)の最大で0.07、好ましくは最大で0.06、より好ましくは最大で0.05、なおより好ましくは、最大で0.03など、最大で0.04であることが好ましい。本発明の好ましい一実施形態では、本発明による飲料は、4〜6ppmの範囲内の亜硫酸塩の存在下、37℃で4週間にわたる保存後において含む遊離T2Nが、最大で0.03ppb、好ましくは最大で0.025ppb、より好ましくは最大で0.02ppb(10億分率)である。
【0160】
本発明による、安定的な感覚刺激性の品質を示す飲料は、含むT2Nポテンシャルレベルが、野生型のオオムギ、好ましくは栽培品種Powerからから同じ方法で調製した同様の飲料と比較して低く、好ましくは40%未満、より好ましくは30%未満、なおより好ましくは25%未満である。
【0161】
一実施形態では、本発明が、特定のトリヒドロキシオクタデカン酸(また、THAとも称する)レベルが低いビールなどの飲料、特に、9,12,13−THAレベルおよび9,10,13−THAレベルが低い飲料に関する。THAは、苦味の風味を特徴とし(BaurおよびGrosch、1977年;Baurら、1977年)、したがって、望ましくないと考えられる。
【0162】
したがって、9,12,13−THAレベルおよび9,10,13−THAレベルは、可能な限り低い、好ましくは、1ppmより低いなど、1.3ppmより低いことが望ましい。しかし、モルトに由来する飲料(ビールなど)中における9,12,13−THAおよび9,10,13−THAの総濃度はまた、前記特定の飲料を調製するのに用いられるモルトの量にも依存する。したがって、一般に、強いビールは、含む9,12,13−THAおよび9,10,13−THAが、より軽いビールより多く、このため、より強いビールでは、許容される9,12,13−THAおよび9,10,13−THAの総レベルがより高くなる。したがって、本発明による飲料は、含む9,12,13−THAレベルおよび9,10,13−THAレベルが、野生型のオオムギ、好ましくは栽培品種Powerからから同じ方法で調製した同様の飲料より低いことが好ましい。特に、本発明による飲料は、9,12,13 THAレベルが、野生型のオオムギ、好ましくは栽培品種Powerからから同じ方法で調製した飲料中のレベルと比較して最大で50%、好ましくは最大で40%、より好ましくは最大で30%であることが好ましい。本発明による飲料は、9,12,13 THAレベルが、野生型のオオムギ、好ましくは栽培品種Powerからから同じ方法で調製した飲料中のレベルと比較して最大で70%、好ましくは最大で60%であることがさらに好ましい。このような飲料は、二重ヌルLOXオオムギを用いることにより調製することができる。
【0163】
本発明の一実施形態では、飲料の泡の品質が改善されている。これは、飲料がビールである場合、特に重要である。したがって、泡の品質が優れたビールなどの飲料を提供することが、本発明の目的である。本発明の飲料は、60〜80分間、好ましくは80分間において生成させる泡が、野生型のオオムギ、好ましくは栽培品種Powerからから同じ方法で調製した飲料と比較して、少なくとも10%多く、好ましくは少なくとも20%多く、さらにより好ましくは少なくとも25%多いことが好ましい。前記泡の生成は、本明細書下記の実施例9で説明する通りに決定される。
【0164】
本発明はまた、前記飲料を作製する方法にも関する。該方法は、
(i)発芽した二重ヌルLOX穀粒を含むモルト組成物を供給するステップと;
(ii)前記モルト組成物を飲料へと加工するステップと
を含み、これらにより、より安定的な感覚刺激性の品質を示す飲料を得ることが好ましい。
【0165】
好ましい一実施形態では、飲料はビールである。この場合は、加工するステップが、例えば、本明細書の上記で説明した方法のうちのいずれかにより、前記モルト組成物からウォートを調製するステップと、前記ウォートを発酵させるステップとを含むことが好ましい。
【0166】
一般的に述べると、アルコール飲料(ビールなど)は、モルト化させたオオムギ穀粒および/またはモルト化させていないオオムギ穀粒から製造することができる。ホップおよび酵母に加えて、モルトが、ビールの風味および色に寄与する。さらに、モルトは、発酵性糖および酵素の供給源として機能する。ビール生産の一般的な工程についての図式的表示を図3に示すが、モルト化および醸造に適切な方法の例についての詳細な説明は、例えば、Briggsら(1981年)およびHoughら(1982年)による刊行物中において見出すことができる。オオムギ生成物、モルト生成物およびビール製品の解析については、定期的に更新される多数の方法を用いることができ、例えば、American Association of Cereal Chemists(1995年)、American Society of Brewing Chemists(1992年)、European Brewery Convention(1998年)、およびInstitute of Brewing(1997年)があるが、これらに限定されない。所与のビール醸造業者毎に、多くの特殊な手順が用いられており、その最も顕著な多様性は、各地の消費者選好に関するものであると理解される。本発明と共に、ビールを生産する任意のこのような方法を用いることができる。非限定的な例については、実施例8および実施例9で説明する。
【0167】
前述した飲料(ビール、モルト飲料、または非発酵ウォートなど)のモルト組成物は、例えば、本明細書の上記で説明した方法のうちのいずれかにより得ることができる。ウォートは、本明細書の上記で説明した前記モルト組成物から調製することができる。
【0168】
ウォートからビールを生産する最初のステップは、前記ウォートを煮沸するステップを伴うことが好ましい。煮沸時には、例えば、ビールに典型的な苦味および香ばしさの特徴をもたらすホップなど他の成分を添加することができる。ウォートの煮沸はまた、ポリフェノールと変性したタンパク質との凝集物ももたらし、これは、ウォート冷却の後続の段階において主に沈殿する。冷却後、ウォートを、酵母を含有する発酵タンクへと移送する。好ましくは、前記酵母は、ビール酵母のSaccharomyces carlsbergensisである。ウォートは、任意の適切な時間、一般には1〜100日間の範囲内で発酵させる。数日間にわたる発酵工程において、糖はアルコールおよびCOへと転換され、これと同時に一部の風味物質が生成される。
【0169】
その後、ビールはさらに加工され、例えば、冷却される。それはまた、濾過および/またはラガリング(快い芳香を生成させ、酵母風味を軽減する工程)を経る場合もある。また、添加物を添加することもできる。さらに、COを添加することもできる。最後に、ビールを殺菌および/または濾過して、詰める(例えば、ボトルまたは缶に封入する)。
【0170】
ビール生産の領域では進歩がなされているが、ビール中におけるT2NレベルおよびT2Nポテンシャルレベルを低下させることは有益であろう。したがって、完成したビールに対して、異臭の少ない形で寄与する新規の原料、特に、オオムギおよびモルトが依然として必要とされている。したがって、このようなオオムギ植物体およびモルトを提供することが、本発明の目的である。
【0171】
オオムギ植物体または植物生成物が、LOX−1およびLOX−2遺伝子における、機能的LOX−1酵素の完全な喪失および機能的LOX−2酵素の完全な喪失を引き起こす変異を保有するオオムギ植物体から調製されるかどうかを判定するには、各種の方法を用いることができる。植物生成物は、一般に、その生成に用いられる植物体に由来する少なくとも一部のゲノムDNAを含む。したがって、モルトは、大量のゲノムDNAを含有するが、ウォートなど、オオムギまたはモルトの抽出物であっても、前記オオムギまたはモルトに由来するゲノムDNAまたはその断片を含み得る。ビールなど、オオムギベースの飲料もまた、前記植物体に由来するゲノムDNAまたはその断片を含み得る。植物生成物中のDNAを解析することにより、そこから植物生成物が調製される植物体が、LOX−1およびLOX−2遺伝子における、機能的LOX−1酵素の完全な喪失および機能的LOX−2酵素の完全な喪失を引き起こす変異を保有するかどうかを確立することができる。前記変異は、例えば、本明細書上記の節「LOX活性の機能の喪失」で説明した、LOX−1およびLOX−2遺伝子内の変異のうちのいずれかであり得るであろう。ゲノムDNAは、配列決定などの任意の有用な方法により、またはPCRベースの方法を含めた増幅ベースの方法により解析することができる。LOX−1遺伝子および/またはLOX−2遺伝子における特定の変異が推定される場合は、例えば、SNP解析などの多型解析を用いることができる。このような解析は、本明細書下記の実施例10で説明する通りに実施することができる。当業者は、これらの実施例で説明される特定のSNP解析を、他の変異または他の出発物質と共に用いるのに適合させることができるであろう。
【0172】
上述の植物生成物が、LOX−1およびLOX−2遺伝子における、機能的LOX−1酵素の完全な喪失および機能的LOX−2酵素の完全な喪失を引き起こす変異を保有するオオムギ植物体だけから調製される場合は、オオムギのLOX−1 mRNAおよびLOX−2 mRNAならびに/またはLOX−1タンパク質およびLOX−2タンパク質の存在対不在もまた、前記植物生成物が、LOX二重ヌルのオオムギ植物体から調製されているかどうかを示し得る。植物生成物を、ウェスタンブロット解析または他のタンパク質解析により検討することもでき、RT−PCRにより、またはノーザンブロット解析により、または他のmRNA解析により植物生成物を検討することもできる。このような解析は、植物生成物がモルトである場合、特に有用である。
【0173】
化学的変異誘発
本発明による二重ヌルLOXオオムギ植物体(すなわち、機能的LOX−1酵素の完全な喪失を結果としてもたらす第1の変異と、機能的LOX−2酵素の完全な喪失を結果としてもたらす第2の変異とを含む植物体)を作製するには、任意の適切な変異誘発法により、例えば、オオムギ穀粒の化学的変異誘発を用いることにより、極めて多数のオオムギ変異体を調製する。この方法は、無作為的に変異を誘導することが公知である。オオムギの変異誘発は、任意の変異誘発化学物質を用いて実施することができる。しかし、オオムギの変異誘発は、穀粒をNaNで処理し、生存する穀粒を発芽させた後、子孫植物体を解析することにより実施することが好ましい。M0世代と称する、変異誘発させた穀粒から成長する植物体世代は、任意の所与の変異について、ヘテロ接合体のキメラを含有する。自己授粉後に回収された子孫植物体を、M1世代と称するが、ここでは、所与の変異が、対応するヘテロ接合体およびホモ接合体へと分離する(図1を参照されたい)。
【0174】
処理後における穀粒は、一部の非変異体細胞と、DNAの変異を有する各種の細胞とを含有するので、穀粒をNaNで処理することは、単一の細胞を処理することと等価ではない。生殖細胞系列をもたらさない細胞系統では変異が失われるので、これは、生殖組織へと生育し、M1世代の発生に寄与する少数の細胞を、変異誘発物質の標的とすることが目的である。
【0175】
全体的な変異効率を評価するため、M0世代およびM1世代において、アルビノキメラおよびアルビノ植物体をカウントすることができる。変異体の数を生存植物体数の関数として評価することにより、変異の効率についての推定値が得られる一方、変異体数を、処理した種子数の関数として評価することにより、変異の効率と、穀粒死滅との両方についての組合せが測定できる。
【0176】
細胞が、遺伝子発現のほとんどどの段階でも、変異の損傷的効果をおそらく緩和する、品質保証機構を有することは注目に値する。真核生物において十分に研究されている一例は、NMDと称し、潜在的に有害な、未熟の切断型タンパク質の合成を防止する、ナンセンス変異依存mRNA分解機構(MaquatおよびCarmichael、2001年;Wu ら、2007年)である。NMDでは、終止コドンが、下流の不安定化エレメントに対するその位置により未熟であると同定される。未熟終止(ナンセンス変異)コドン(PTC)を発生させる変異は、場合によって、原因変異をスキップし、これにより、タンパク質機能を潜在的に保全する、代替的なスプライス転写物のレベルを上昇させることがある(MendellおよびDietz、2001年)。
【0177】
植物体の育種
本発明の一実施形態では、二重ヌルLOX形質を含む、農業的に有用なオオムギ植物体を提供することが目的である。作物の育成は、新規の形質の導入と共に始まる、長期間にわたる困難な過程であることが多い。しかし、植物育種家の視点からすると、このステップは、ほとんど常に、農業形質の全体的プロファイルの所望の程度が、市販される現行の品種より劣る植物体を結果としてもたらす。
【0178】
LOX二重ヌルの形質に加えて、市販のモルト化オオムギ品種を生成させる技術分野でもまた考慮し得るさらなる因子も存在し、例えば、穀粒の収量および穀粒のサイズ、ならびにモルト化の効力または醸造の効力に関する他のパラメータがある。関与的な形質の多く(すべてではないにせよ)は、遺伝子の制御下にあることが示されているため、本発明はまた、本公開で開示される二重ヌルLOXオオムギ植物体との異種交配から調製され得る、最新で、ホモ接合型の、高収量をもたらすモルト化栽培品種も提供する。このようなオオムギ植物体の穀粒は、T2Nポテンシャルを生成させる能力が低い新規の原料を提供する、すなわち、このような穀粒から生成されるモルトは、T2Nポテンシャルが、WO2005/087934で記載される、オオムギのヌルLOX−1変異体D112から同じ方法で生成されたモルトと比較して50%未満である。オオムギ育種の当業者は、(二重ヌルLOXオオムギと異種交配させた後で、)優れた栽培品種を結果としてもたらすオオムギ植物体を、選択および育成することができるであろう。代替的に、オオムギの育種家は、本発明の植物体を用いて、さらなる変異誘発をもたらし、LOX二重ヌルのオオムギに由来する新規の栽培品種を生成させることができる。
【0179】
二重ヌルLOX形質が、後代系統において維持されることを確認する1つの方法は、LOX−1遺伝子およびLOX−2遺伝子についてのSNP解析に関する。LOX−1活性およびLOX−2活性もまた決定することが好ましい。
【0180】
本発明によるオオムギ植物体は、任意の適切な育種のスキームへと導入することができる。
【0181】
本発明の別の目的は、LOX二重ヌルの形質を含む、農業的に優良のオオムギ植物体を提供することである。したがって、本発明はまた、第1の親オオムギ植物体を、第2の親オオムギ植物体と異種交配させることにより、新規のLOX二重ヌルのオオムギ植物体を作製する方法であって、該第1および第2の植物体が、LOX二重ヌルのオオムギである方法も対象とする。加えて、第1および第2の親オオムギ植物体はいずれも、LOX二重ヌルのオオムギ品種に由来することができる。したがって、LOX二重ヌルのオオムギ品種を用いる、自家受粉、戻し交配、品種集団との異種交配などのうちのいずれかのこのような方法は、本発明の一部である。LOX二重ヌルのオオムギ品種に由来する品種から発生した植物体を含め、LOX二重ヌルのオオムギ品種を親として用いて作製されるすべての植物体は、本発明の範囲内にある。LOX二重ヌルのオオムギはまた、LOX二重ヌルの植物体または植物体組織に外因性のDNAを導入し、これを発現させる場合における遺伝子形質転換にも用いることができる。
【0182】
本発明と共に戻し交配法を用いて、変異したオオムギ植物体のLOX二重ヌル形質を、別の栽培品種、例えば、栽培品種Scarlettまたは栽培品種Jersey(これらのいずれもが、高収量をもたらす新型のモルト化オオムギ栽培品種である)など、別の栽培品種へと導入することができる。標準的な戻し交配のプロトコールでは、対象の元の品種、すなわち、反復親植物体を、形質導入される対象の変異体LOX遺伝子を保有する第2の品種(一回親植物体)と異種交配させる。この異種交配から結果として得られるLOX二重ヌルの子孫植物体を、その後、該反復親植物体へと異種交配させ、該一回親植物体の該LOX二重ヌルの形質に加えて、該反復親により指定される本質的にすべての特徴が、生成される植物体内で復帰するオオムギ植物体が得られるまで、該過程を反復する。最終的に、該戻し交配により最後に生成された植物体を自家受粉させて、純粋なLOX二重ヌルの育種用子孫植物体を得る。
【0183】
植物体の育種過程を加速化させる方法は、組織培養物法および組織再生法を適用することにより、生成された変異体を初期繁殖させることを含む。したがって、本発明の別の態様は、増殖および分化するとLOX二重ヌルの形質を有するオオムギ植物体を生成させる細胞を提供することである。例えば、育種は、従来の異種交配、葯に由来する造精植物体の調製、または小胞子培養の使用を伴い得る。
【0184】
LOX経路による生成物
各種の実施形態では、本発明は、含むT2Nポテンシャルレベルが低い、オオムギ植物体およびそれらの生成物に関する。LOX酵素は、cis−1,cis−4ペンタジエン系を伴うポリ不飽和脂肪酸の二原子酸素添加反応を触媒する。オオムギでは、C18のポリ不飽和脂肪酸であるリノール酸(18:2Δ9,12)およびα−リノール酸(18:3Δ9,12,15)が、主要なLOX基質である。脂肪酸代謝のリポキシゲナーゼ経路は、アシル鎖のC−9位(LOX−1により大半が触媒される)またはC−13位(LOX−2により大半が触媒される)において酸素分子を付加することにより開始され、対応する9−HPODEおよび13−HPODEをもたらす[基質がα−リノール酸の場合は、9−ヒドロペルオキシオクタデカトリエン酸および13−ヒドロペルオキシオクタデカトリエン酸(HPOTE)が生成物であるが、HPOTEは、T2Nの前駆体としては機能しない]。LOX経路のヒドロペルオキシドリアーゼ分枝では、9−HPODEおよび13−HPODEの両方が、短鎖のオキソ酸およびアルデヒドへと切断され得る(図2を参照されたい)。特に、9−HPODEが切断されて、T2Nへと転換されるcis−ノネナールを形成し得るのに対し、13−HPODEは、2−E−ヘキセナールの前駆体である。したがって、LOX−2により触媒されるリノール酸の二原子酸素添加反応の主要な生成物である13−HPODEが、T2Nの劣化臭を形成させる該経路内の上流の構成要素であるとは予測されていなかった。
【0185】
本発明は、LOX−1またはLOX−2により触媒される反応の直接的な生成物として生成されるわけではないが、後続の一連の反応の結果として生成される、LOX−1触媒およびLOX−2触媒による下流の代謝物の生成に影響を及ぼすことも包含することが認識される。これらには、自発性、因子誘導性、または酵素触媒性の異性体形成および転換が含まれる。したがって、これらの下流の代謝物の生成には、該経路の他の構成要素、例えば、ヒドロペルオキシドリアーゼ(HPL)の発現を調節することにより影響を及ぼし得るであろう。
T2Nポテンシャル
本発明の重要な目的は、T2Nポテンシャルを低下させるかまたは無化することである。したがって、T2N前駆体およびアルデヒド付加物の形成を低減することが本発明の目的である。ビールの劣化に関する複数の化学反応は、依然として解明されていないが、T2Nポテンシャルからの遊離T2Nの生成は、ビール製品中において劣化臭が発生する主要な原因であると認識されている(Kurodaら、前出)。したがって、T2Nポテンシャルレベルの低い飲料、ならびにT2N前駆体レベルの低い飲料を提供することが、本発明の目的である。
【0186】
T2Nポテンシャルの大半は、ウォートから完成したビールへと移り、ここで、遊離T2Nが放出され得る(Liegeoisら、2002年)が、この過程では、酸性条件および温度条件が重要な因子である。本発明との関連では、T2Nポテンシャルを、本明細書上記の定義で説明した通りに定義する。T2Nポテンシャルレベルを決定する他の方法もまた、用いることができる。混乱を避ける目的で、本文脈における「T2Nポテンシャル」の意味は、本明細書上記の定義で説明した通りである。本明細書では、T2Nを放出するか、またはT2Nへと転換される能力を有する化学物質を「T2N前駆体」と称し、T2Nポテンシャルを決定する方法以外の代替的な方法により決定または測定されるT2N前駆体を、「T2N前駆体」と称する。T2N前駆体は、まず、T2Nを放出するか、またはT2Nへと転換される能力を有するその化学物質のうちの本質的にすべて(好ましくはすべて)が、実際に、それぞれ、T2Nを放出し、かつ/またはT2Nへと転換されるように、試料を処理することにより、特に決定することができる。その後、T2Nレベルを決定する。
【0187】
本発明のオオムギ穀粒は、LOX−1活性およびLOX−2活性を含まない。興味深いことに、このようなオオムギ穀粒が含有するT2Nポテンシャルは極めて少量である。
【0188】
したがって、二重ヌルLOXオオムギ穀粒を用いて生産されるビールは、保有するT2Nレベルが極めて低いだけでなく、保有するT2Nポテンシャルレベルも極めて低い。含有するT2Nポテンシャルレベルが極めて低く、野生型のオオムギ(好ましくは栽培品種Power)からから同じ方法で生産した同様のビール製品のT2Nポテンシャルレベルの好ましくは40%未満、より好ましくは30%未満、なおより好ましくは25%未満であるビール製品をもたらす二重ヌルLOXオオムギ穀粒は、本発明の範囲内にある。したがって、前記ビール製品は、含むT2Nポテンシャルが、WO2005/087934で記載されるオオムギの変異体D112から同じ方法で生産される同様のビール製品の好ましくは60%未満、より好ましくは50%未満である。
【0189】
また、二重ヌルLOXオオムギ穀粒に由来する植物生成物は、保有するT2N前駆体レベルが極めて低いことも好ましい。二重ヌルLOXオオムギ穀粒から調製される植物生成物であって、含有するT2N前駆体レベルが、野生型のオオムギ(好ましくは栽培品種Power)からから同じ方法で生成された同様の植物生成物の40%未満、より好ましくは30%未満、なおより好ましくは25%未満である植物生成物は、本発明の範囲内にある。したがって、前記植物生成物は、含むT2N前駆体が、WO2005/087934で記載されるオオムギの変異体D112から同じ方法で生成される同様の植物生成物の、好ましくは60%未満、より好ましくは50%未満である。
【0190】
マイクロモルト化させた原料の試料中、ならびにこれに由来する製品中において測定されるT2N値は、より大きなスケールで、例えば、30kgの大規模パイロットモルト化試料により作製された原料に由来するT2N値よりも高値であることが多いことは注目に値する。しかし、大スケールでの実験と、小スケールでの実験との間の相対的な、実験によるT2N値は、一般に同様である。
【0191】
同様に、マイクロモルト化させた原料の試料中、ならびにこれに由来する製品中において測定されるT2Nポテンシャル(およびT2N前駆体)値は、より大きなスケールで、例えば、30kgの大規模パイロットモルト化試料により作製された原料に由来するT2Nポテンシャル(およびT2N前駆体)値よりも高値であることが多いことは注目に値する。しかし、大スケールでの実験と、小スケールでの実験との間の相対的な、実験によるT2Nポテンシャル値は、一般に同様である。
【実施例】
【0192】
本明細書における実施例は、本発明の好ましい実施形態を例示するものであり、本発明を限定するものとして考えるべきではない。
【0193】
別段に示さない限り、核酸および細菌を操作するには、SambrookおよびRussel(2001年)において説明される基本的な分子生物学の技法を実施した。
【0194】
(実施例1)
変異したヌルLOX−1集団のM3世代による、変異した成熟胚芽における、低LOX−2活性についてのスクリーニング
LOX−1およびLOX−2はいずれも、成熟オオムギ胚芽(LOX−1が主要な酵素である)において、また、発芽胚芽(両方の酵素レベルが同等である)においても合成した。何千個もの試料中おいてLOX活性を決定するには、オオムギ胚芽の抽出物を用いるアッセイが、最も簡便であろう。LOX−2レベルについてのアッセイでは、変異誘発したヌルLOX−1オオムギ穀粒をスクリーニングすることが高度に有利であろう(WO2005/087934を参照されたい)。
【0195】
穀粒は、ヌルLOX−1変異体D112(WO2005/087934において記載され、PTA−5487の受託番号でATCCに寄託されている)のオオムギ植物体から採取し、変異原であるNaNと共にインキュベートして、オオムギのゲノムDNA内において点変異を誘導した。実験手順は、Kleinhofsら(前出)により示される推奨に従った。
【0196】
次に、M1世代の変異した穀粒を、後続する2世代にわたり圃場試験区において繁殖させ、これにより、最終的に、スクリーニングを目的とする、M3世代のホモ接合性植物体が高比率でもたらされた(手順の概要については、図1を参照されたい)。変異したM3世代の穀粒は、穀粒10,000個当たり、0.9〜2.3個の頻度で、遺伝子の変異を含有すると予測された(Kleinhofsら、前出)。
【0197】
従来のLOX−1アッセイにより測定される通り、ヌルLOX−1変異体の成熟胚芽におけるLOX−2活性は低いことが判明した。ここでは、反応混合物の原液を、抽出物(WO2005/087934で記載される)と同時に混合した。本出願では、アッセイ感度を改善する方法であって、酵素抽出条件ならびに反応混合物原液の混合の両方を変更した方法について詳述する。
【0198】
LOX抽出物について、本発明者らは、興味深いことに、pH4.5の100mM乳酸緩衝液を用いることにより、HPODE消費活性のバックグラウンドレベルが著明に低下し、これにより、アッセイ緩衝液中におけるHPODEの蓄積が可能となることを見出した。加えて、本発明者らは、残りのアッセイ反応物質を添加する前に、形成されたHPODEの小画分に、それに結合した鉄原子のFe++→Fe+++酸化を介してLOX−2を活性化させ、最終的に青色のインダミン色素を形成することにより、アッセイをさらに改善し得ることを見出した。
【0199】
略述すると、200μlの抽出緩衝液(pH4.5の100mM乳酸)を用いて、単離された成熟胚芽からLOX−2酵素を抽出した。1.2mlずつの各ウェルが5mmの球形ガラスビーズを含有する96ウェルプレート内において、抽出を実施した。氷上で10分間にわたりプレートをインキュベートした後、MM 300実験用ミル(Retsch社製)へと移し、35秒間にわたり27秒−1の頻度で振とうするように電子的に調整した。その後、プレートを、Allegra 6R遠心分離機(Bechman−Coulter社製)内において、4℃で10分間にわたり、4,000rpmで遠心分離して不溶性物質を沈殿させ、その後、最長で2時間にわたり氷上に保持した後、さらに加工した。さらにピペッティングするために、96ウェルプレートを、Biomek 2000 Laboratory Automation Workstation(Bechman−Coulter社製)へと移した。まず、96×40μlの胚芽抽出物を、標準的な96ウェルマイクロ滴定プレート(Nunc社製)へと移した後、90μlの試薬A[12.5mMの3−(ジメチルアミノ)安息香酸、0.625mMのリノール酸](これは、134mgの遊離酸に対応する155μlのリノール酸(Sigma社製、L−1376)と、257μlのTween−20とをまず混合し;次いで、5mlの容量までHOを添加した後、600μlの1M NaOHを添加することにより作製した)を添加した。透明化した溶液を、HOにより20mlに調整した。10分間にわたり混合物をインキュベートした後で、90μlの試薬B(0.25mMの3−メチル−2−ベンゾチアゾリノンヒドラゾン、0.125mg/mlのヘモグロビン)を添加した。さらに5分間にわたるインキュベーションの後、Fluorostar Galaxy分光光度計(BMG Labtechnologies社製)を用いて、プレートの96個のウェルの各々の内においてA595を測定した(色の形成が、LOX−2により触媒される二原子酸素添加反応を介してもたらされるHPODEの存在を反映する(したがって、活性は、A595単位で与えられる))。
【0200】
上記で説明した手順を用いて、合計21,000系統のオオムギ変異体を、LOX−2活性についてアッセイし、LOX−2活性が低いことに基づき、そのうちの1,550系統を選択した。これらの系統を、圃場においてさらに繁殖させ、その後、成熟穀粒内におけるLOX−2活性を測定した。しかし、該系統のうちのいずれもが、低LOX−2の形質を次世代へと伝えないことが判明した。
【0201】
(実施例2)
発芽オオムギ胚芽における低LOX−2活性についてのスクリーニング
改良型スクリーニング材料:ヌルLOX−1系統であるCa211901(異種交配(ヌルLOX−1変異体D112×Jersey)×Sebastianにより作製した)のオオムギ植物体から採取した穀粒を、Kleinhofsら(前出)により示される詳細に従い、変異原であるNaNと共にインキュベートした。この手順は、オオムギのゲノムDNA内において点変異を誘導し、最終的に、変異誘発されたDNAによりコードされるタンパク質内におけるアミノ酸残基の置換、またはタンパク質の切断をもたらすことが公知であるので選択された。本公開の変異誘発実験では、M1世代の変異した穀粒を、後続する2世代にわたり圃場試験区において繁殖させることを選択し、これにより、最終的に、スクリーニングを目的とする、高比率のホモ接合性植物体がもたらされた(図1を参照されたい)。M2世代の穀粒は、主に、比較的高比率のヘテロ接合性点変異を含有すると予測されたため、スクリーニングしなかったのに対し、M3世代の変異体穀粒をスクリーニング材料として用い、穀粒10,000個当たり、0.9〜2.3個の変異を予測した(Kleinhofsら、前出)。
【0202】
驚くべきことに、本発明者らは、発芽胚芽の解析により、成熟胚芽の抽出物の解析(上記の実施例1で説明した)と比較して、アッセイ結果がはるかに改善されることを見出した。これにより、その胚芽盤組織を含め、発芽胚芽におけるLOX−2活性を測定する、ハイスループットのスクリーニング手順を確立した。
【0203】
35,125穂のオオムギ(ヌルLOX−1変異体D112のM4世代20,977系統、ヌルLOX−1系統であるCa21190系統のM3世代14,148系統)による成熟穀粒から胚芽2つずつを単離し、96ウェル保存プレート(ABgene社製)へと移した。各ウェルに20μlの水を添加し、湿らせたKimnettティッシュおよびプラスチック製のふたによりこれを覆った後で、胚芽の発芽を開始させた。プラスチック製のバッグ内、20℃で48時間にわたり、プレートをインキュベートした。インキュベーション後、LOX−2酵素を抽出した;まず、各ウェルに5mmのガラスビーズおよび200μlの抽出緩衝液(pH4.5の100mM乳酸溶液)を添加した後で、MM 300実験用ミル(Retsch社製)内において、35秒間にわたり27秒−1の頻度で破砕した。その後、プレートを、Allegra 6R遠心分離機(Bechman−Coulter社製)内において、4℃で10分間にわたり、4,000rpmで遠心分離し、不溶性物質を沈殿させた。LOX−2活性は、基本的に、成熟胚芽抽出物のLOX−2活性の解析(実施例1)について説明した通りに決定したが、アッセイ1回当たりに用いる抽出物が、40μlではなく、30μlに過ぎない点だけが異なる。
【0204】
潜在的な変異体の同定:上記で説明した通り、上述の35,125系統のオオムギ各々について、穀粒2つずつをLOX−2活性について解析し、前記活性が、ヌルLOX−1穀粒および野生型の穀粒と比較した場合に大きく低下する穀粒を同定することを目的とした。Ca211901系統のM3世代では、合計7個の潜在的原変異体が同定された。これらを温室内でさらに繁殖させ、収穫し、次いで、極めて低度のLOX活性に関する形質についてスクリーニングした。最終的に、変異体A689と称する(本明細書ではまた、二重ヌルLOX変異体A689とも称する)、Ca211901系統で唯一の変異体が、LOX−2活性を本質的に示さないことが示された。LOX活性がほぼLOX−2だけによりもたらされる発芽胚芽の抽出物により、総LOX活性の詳細な測定が実施されている(Schmittおよびvan Mechelen、1997年)。変異体A689のM3世代の穀粒の発芽胚芽では、総LOX活性(比色分析によるLOXアッセイ(実施例1;表1)により決定された)が、A595単位で0.163±5.5%/発芽胚芽1個であったのに対し、ヌルLOX−1母品種であるCa211901の総LOX活性は、A595単位で1.224±3.8%/発芽胚芽1個(ヌルLOX−1原変異体D112の対応する値は、A595単位で1.215±6.0%/発芽胚芽1個)であった。
【0205】
(実施例3)
オオムギの変異体A689
M4世代およびM5世代のヌルLOX−2植物体が、対応する変異体の表現型についてホモ接合性であるかどうかを確立するために、解析を実施した。この種の解析を行うと、変異が、遺伝子的に劣性であるかまたは優性であるかを判定するのに役立つであろう。加えて、M3世代の植物体が、優性変異についてヘテロ接合性であれば、後続世代の個体は、この表現型について分離するであろう。
【0206】
変異体A689のM3世代、M4世代、およびM5世代のオオムギ胚芽において、総LOX活性を測定し、活性を、母系統であるCa211901の胚芽の総LOX活性と比較するだけでなく、ヌルLOX−1変異体D112とも比較した。LOX活性の決定は、本公開の実施例1で説明した通りに行った。すべての実験において、対照試料には、母系列の発芽胚芽からの基準抽出物の他、ヌルLOX−1変異体系列であるCa211901および変異体D112の胚芽からの熱不活化された基準抽出物が含まれた。変異体A689のM4世代穀粒の胚芽では、平均総LOX活性が、A595単位で0.151±2.6%(n=24)であったのに対し、変異体A689のM5世代の発芽胚芽の平均総LOX活性は、A595単位で0.16±2.3%(n=90)であった。比較として述べると、ヌルLOX−1Ca211901系列の発芽胚芽と、変異体D112の発芽胚芽とは、それぞれ、A595単位で1.210±3.0%(n=90;M4世代)と、A595単位で1.199±4.6%(n=90;M5世代)とをもたらした。結果を、表1および図4A〜Cにまとめる。まとめると、実験データにより、変異体D112のM4世代およびM5世代の穀粒は、極めて低い総LOX活性を指定し、二重ヌルLOX表現型を反映する遺伝形質について、ホモ接合性であることが裏付けられた。
【0207】
【表1】

(実施例4)
発芽およびマイクロモルト化させたオオムギにおける、HPODEについてのHPLCベースの解析
成熟胚芽ではなく、発芽胚芽を用いる点を除き、本質的に、国際特許出願第WO2005/087934号において記載される通りに、オオムギのHPODEについての解析を実施した。実施例2で説明した通り、M4世代の穀粒を、48時間にわたり発芽させた。M5世代の穀粒を、本質的に、本明細書下記の実施例6で説明する通りに実施されるマイクロモルト化手順にかけたが、特定のHPODEレベルは、発芽の72時間後において決定し、キルニング手順は省略した。変異体A689のM4世代およびM5世代の発芽胚芽に由来する、タンパク質の粗抽出物と、対照試料とを、基質であるリノール酸と共にインキュベートさせることにより、9−HPODEレベルおよび13−HPODEレベルを決定した。HPLCにより、反応生成物を解析した。
【0208】
外科用メスを用いて、胚芽盤と内胚乳とを切り離して、オオムギ穀粒から発芽胚芽を切除した。次いで、胚芽4個分ずつの大きさの各試料を、2枚の秤量紙の間に挟み、軽くすりつぶして、均一の粉末を作製した。これを、1.5mlのマイクロ遠心管へと移し、pH4.5の200mM乳酸緩衝液600μlを添加し、該遠心管を10分間にわたり氷上に置いた後で、プラスチック製の乳棒(Kontes社製)を用いて、さらにホモジナイズした。その後、各遠心管にHOを600μlずつ添加し、試料を20,000×gで2分間にわたり遠心分離した。結果として得られる上清の100μlアリコートを15mlの遠心管(Cellstar社製;型番188271)へと移し、LOX活性に従う反応生成物の解析を準備する。260μMのリノール酸を含有する、pH6.5の100mMリン酸Na緩衝液2ml[この基質は、pH6.5の100mMリン酸Na緩衝液10mlを、24mMのリノール酸原液100μlと混合することにより調製した]。リノール酸原液は、まず、155μlのリノール酸(134mgの遊離酸に対応する;Sigma社製、L−1376)と、257μlのTween−20とを混合し、次いで、5mlの容量までHOを添加した後、1M NaOH 600μlを添加し、溶液が透明となったら、水により容量を20mlへと調整した。9−HPODEおよび13−HPODEを抽出するため、採血管回転装置上において、約30rpmで15分間にわたるインキュベーションの後、2mlの酢酸エチルを添加し、試料内容物を、5秒間にわたり強く振とうすることにより混合した。次いで、試料を800×gで10分間にわたり遠心分離し、1mlの酢酸エチルを1.5mlのマイクロ遠心管へと移し、この中において、流入する窒素ガス下で酢酸エチルを蒸発させた。その後、300μlメタノール中においてHPODEを再懸濁させ、0.45μmの膜(Millipore社製、Millex−HNフィルター)により濾過した。HPLCにより、HPODE含量についての解析を実施した。各試料に由来する合計15μlを、4.6×250mmのSymmetry C18カラム(Waters社製)を装備したHPLC装置(Hewlett Packard社製、HP 1100シリーズ)内へと注入した。用いた移動相は、水:メタノール:アセトニトリル:テトラヒドロフラン:トリフルオロ酢酸の16:12:12:10:0.5(v:v:v:v:v)混合物であった。移動相の流量は、1ml分−1であり、カラム前で測定される圧力は、140バールであった。分離は、30℃で実施した。コンジュゲートした二重結合を伴う、リノール酸ヒドロペルオキシドの検出は、234nmで実施した。
【0209】
図5に、得られたHPODEプロファイルの比較を示す。9−HPODEおよび13−HPODEの混合物を含む基準試料のクロマトグラムを、図5Aに示す。48時間にわたり発芽させた、ヌルLOX変異体D112のM4世代の穀粒から調製された抽出物のクロマトグラム(図5B)を、二重ヌルLOX変異体A689についてのクロマトグラム(図5C)と比較したところ、ヌルLOX−1変異体D112の発芽胚芽から抽出したLOXにより、13−HPODEが顕著に形成されることが明らかとなったのに対し、二重ヌルLOX変異体A689の抽出物中では、9−HPODEおよび13−HPODEは観察されないか、またはごく少量が観察されるに過ぎなかった。
【0210】
72時間にわたりマイクロモルト化させた野生型の栽培品種Barkeの胚芽(図6A)、ヌルLOX−1変異体D112の胚芽(図6B)、および二重ヌルLOX変異体A689の胚芽(図6C)を解析したところ、同様の特徴が観察された。ここでもまた、野生型の栽培品種Barkeの成熟胚芽の抽出物(図6A)中では、9−HPODEおよび13−HPODEのいずれもが、著明なレベルで形成された。ヌルLOX−1変異体D112の胚芽の抽出物による9−HPODEの形成は極めて低量であったが、13−HPODEの形成は高量であり(図6B)、これにより、LOX−1活性の欠如が検証された。ここでもまた、二重ヌルLOX変異体A689の胚芽抽出物により形成される9−HPODEおよび13−HPODEは、低レベルであり(図6C)、LOX−1活性およびLOX−2活性がいずれも完全に不在であることが裏付けられた。
【0211】
(実施例5)
二重ヌルLOXオオムギの変異体A689、そのヌルLOX−1母品種であるCa211901、およびヌルLOX−1変異体D112の特性
温室内における植物体の繁殖:二重ヌルLOX変異体A689と、その母系列であるCa211901とのM4世代およびM5世代の穀粒を、温室内で発芽させ、12℃および65%の相対湿度で毎日20時間にわたり照光下に置くサイクルにより生育させた。Ca211901系列の植物体、および二重ヌルLOX変異体A689の植物体の生育特徴は、草高、植物体1体当たりのひこばえ数、開花の開始、および1穂当たりの穀粒数に関して同等であった(これにより、変異体A689の穀粒の発生および生育の生理学的特徴が、野生型様であることが確認される)。
【0212】
圃場条件下における変異体A689の農業効力:二重ヌルLOX変異体A689の植物体、およびヌルLOX−1変異体D112の植物体、ならびにCa211901系列の植物体を、標準的な圃場試験で比較した(草高、開花日、病害耐性、倒伏、穂の切れ毛、成熟期、および収量に関して可能な差違を同定することを目的とする(表2を参照されたい))。これに従い、前述の穀粒を等量ずつ、7.88mの試験区内の1つの場所に播種した(各々が2連ずつを含んだ)。農業特性を全生育期にわたり注意深く観察したところ、ここでもまた前述の特性が確認された。被験植物体のうちのいずれについても、農業形質に関する差違は観察されなかった。
【0213】
【表2】

(実施例6)
マイクロモルトおよびそのウォートについての解析
マイクロモルト化は、オオムギの変異体A689およびD112、ならびに栽培品種BarkeおよびPowerの100gずつの試料により実施した。モルト化試験および醸造試験に十分な穀粒材料を得るため、圃場内において、複数の生育期にわたり、変異体の系列を繁殖させた。
【0214】
スティーピング:条件は、16℃のスティーピング水中において8時間にわたる浸漬;14時間にわたる乾燥;8時間にわたる浸漬;10時間にわたる乾燥;4時間にわたる浸漬であった。
【0215】
モルト化:条件は、18℃で12時間;16℃で24時間;14℃で24時間;12℃で60時間であった。キルン乾燥の条件は、60℃で12時間;68℃で3時間;74℃で4時間;80℃で3時間であった。完成モルトは、T2Nの測定にかけた。
【0216】
加えて、変異体A689およびD112のオオムギ試料およびモルト試料、ならびに栽培品種BarkeおよびPowerのオオムギ試料およびモルト試料を、標準的なEBC法による解析にかけた(表3を参照されたい)。
【0217】
ウォートの調製:変異体A689およびD112の特性を、栽培品種Powerと比較して調べるため、25〜225gのモルト試料を作製し、外部撹拌機と、規定のパターンで温度勾配をかけることが可能なサーモスタットを装備した水浴とを含む実験用マッシングシステム内で用いた。マッシングは小スケールで実施し、完成したマッシュを濾紙により分離し、スイートウォートを得た。ウォートの煮沸は、加熱マンテルと、還流式冷却装置に接続した丸底フラスコとを用い、実験室スケールで実施した。
【0218】
スイートウォートおよび煮沸ウォートの両方を、T2Nの測定にかけた(図7〜9を参照されたい)。二重ヌルLOX変異体A689のM5世代の穀粒に由来する試料では、約75%の顕著なT2Nレベル(A689変異体の3系列の平均)の低下が観察された。加えて、マイクロモルト化させた試料から生成されたウォート中における遊離T2NレベルおよびT2N前駆体レベルについても、顕著な低下が記録された(図8〜9)。
【0219】
T2Nレベルは、本質的に、Groenqvistら(1993年)により記載される通り、質量分析による検出を伴うガスクロマトグラフィー(GC−MS)の後、O−(2,3,4,5,6−ペンタフルオロベンジル)−ヒドロキシルアミンによりカルボニル基を誘導体化することにより決定した。
【0220】
【表3】

(実施例7)
二重ヌルLOX変異体A689のモルトから作製したビール中におけるTHA
ビール特異的なTHAは、リノール酸に由来する可能性が高い(Drostら、1974年)。ビール中におけるTHAの総含量は、5.7〜11.4μg/mlの範囲であることが、複数の報告により検証されている(Hamberg、1991年;ならびに同文献中の参考文献)。9,12,13−THAが、通常、ビール中におけるTHAの75〜85%を占めるのに対し、9,10,13−THAの比率は、通常、15〜25%であるに過ぎない。見出される他の異性体は、微量である。
【0221】
二重ヌルLOXオオムギの変異体A689のモルトから調製されたウォートから作製したビール(60℃の温度でのマッシングを用いたことを除き、実施例8を参照されたい)では、9,12,13−THAの濃度が、栽培品種Powerのモルトから作製した対照ビールと比較して75%低下し、ヌルLOX−1原変異体D112と比較して45%低下した(表4)。9,10,13−THA異性体についてもまた、同様の差違が観察された。これらの測定は、標準的なHPLC−質量分析による解析(Hamberg、前出)を用いて実施した。
【0222】
【表4】

(実施例8)
パイロットのモルト化およびパイロット醸造
モルト化:二重ヌルLOX変異体A689、ヌルLOX−1変異体D112、および栽培品種Powerの穀粒(すべての場合において、2007年の収穫)により、実験を実施した。30kgの大スケールでのモルト化は、モルトハウス内で、以下:
(i)16℃でのスティーピング:8時間にわたる浸漬;14時間にわたる乾燥;8時間にわたる浸漬;10時間にわたる乾燥;4時間にわたる浸漬;
(ii)モルト化:18℃で12時間;16℃で24時間;14℃で24時間;12℃で60時間;
(iii)乾燥:60℃で12時間;68℃で3時間;74℃で4時間;80℃で3時間
の通りに実施した。
【0223】
オオムギおよびモルトの特性を、表5に列挙する。結果を検討したところ、試料は、醸造において原料を用いる場合のモルト仕様を満たすことが明らかとなった。
【0224】
【表5】

モルトによるパイロット醸造:その重要な結果を図10A、Bに示す最初の200l試験は、以下のステップ:
(i)ウォートを調製するステップと;
(ii)ウォートを分離するステップと;
(iii)ウォートを煮沸するステップと;
(iv)発酵させるステップと;
(v)ラガリングするステップと;
(vi)ブライトビールを濾過するステップと;
(vii)ボトル封入するステップと
を伴った。
【0225】
野生型の栽培品種Power、ヌルLOX−1変異体D112、および二重ヌルLOXの30kgずつの大規模モルト試料を用いて、ウォートを調製した。48℃で20分間にわたるマッシングインの後、18分間にわたり加熱したが、このとき、温度を48℃から67℃へと上昇させた。67℃で30分間にわたり静置して糖化させた後、5分間にわたる72℃への加熱ステップを実施し、15分間にわたり静置した後、78℃でマッシングオフした。本明細書の上記で言及した醸造ステップ(すなわち、ウォートを煮沸および濾過し、泡沫分離し、発酵させ、ラガリングし、緑色ガラスボトル内へと封入するステップ)は、標準的な醸造慣行に応じた仕様に従った。
【0226】
実施例6で説明したのと同じ実験手順を用いて、完成したビールのT2N前駆体を決定した(図10)。この大スケールでの実験の結果により、T2N前駆体の相対レベルの傾向が、マイクロモルト化させた穀粒による煮沸ウォート中の場合と同じであることが示され(図9および10を比較されたい)、ここでもまた、栽培品種Powerと比較して、ヌルLOX−1変異体D112および二重ヌルLOX変異体A876のいずれについても、顕著に低い値が示された。より具体的に述べると、ヌルLOX−1ビール試料中および二重ヌルLOXビール試料中におけるT2N前駆体は、野生型の栽培品種Powerのモルトによるビールと比較した場合、それぞれ、約40%および約70%低下した。
【0227】
また、前述のパイロット醸造されたビール中の遊離T2Nレベルも測定したところ、ここでもまた、T2Nポテンシャルについて観察されたのと同じ傾向が示された(すなわち、ヌルLOX−1モルトおよび二重ヌルLOXモルトから作製したビールは、栽培品種Powerのモルトにより醸造されたビールより、T2Nが顕著に低量であった)。したがって、T2Nレベルに関してもまた、二重ヌルLOXモルトによるビールは、ヌルLOX−1ビールより優れていることが示された。
【0228】
別の目的は、二重ヌルLOX原料を用いて200lのスケールで作製した場合のビールが、強制劣化後における風味の品質において優れているかどうかを確立することであった。したがって、実施例9で説明される、専門家によるビール試飲パネルに、0(なし)〜5(極めて強い)のスコアを用いて、37℃で1週間にわたり強制劣化させた後における紙の異臭風味について、パイロット醸造された通常ビールを評価するように要請した。栽培品種Powerによるビールが、紙の風味のスコア1.6を示すことが判明したのに対し、ヌルLOX−1および二重ヌルLOXビールは、それぞれ1.2および0.6であった。この結果は、風味の安定的なビールを生産するのに、二重ヌルLOX原料がやはり優れていることを示した。
【0229】
(実施例9)
通常ビールとオオムギ醸造ビールとの比較
モルト化させていない、二重ヌルLOX変異体A689の穀粒、ヌルLOX−1オオムギの変異体D112の穀粒、および野生型の栽培品種Powerの穀粒を、各々、25kgずつの、モルト化させていない破砕オオムギを、200lのビールを作製するための原料として用いる、同一のオオムギ醸造工程に適用した(比較を目的として、並行して実施する実験において、30kgの破砕モルトを用いて、200lの通常ビールを作製した)。目的は、オオムギ醸造によるウォートおよびビールの特性と、モルトに由来する醸造によるウォートおよびビールの特性とを比較するだけでなく、上述の変異体が、オオムギ醸造ビールと、通常の完成したビールとの両方において、異臭特徴の改善をもたらし得るかどうかを判定することであった。200lの大規模醸造試験は、上記の実施例8で列挙したのと同じ作製ステップを含んだが、特定の詳細については、本明細書の下記で説明する。
【0230】
オオムギによるマッシングおよび醸造:本実験では、製造元により示される推奨(すなわち、HO 80l当たり、87.5gの酵素混合物)に従い、マッシングインするステップにおいて添加した酵素混合物であるOndea Pro(Novozymes社製;バッチ番号NFNG0005)の存在下において、ウォートを調製した。マッシング条件は、54℃で30分間にわたるマッシングイン;温度を64℃へと上昇させる10分間の加熱;64℃で45分間にわたるインキュベーション;78℃で13分間にわたる加熱;78℃で10分間にわたる静置であった。ウォートを煮沸および濾過し、泡沫分離し、発酵させ、ラガリングし、緑色ガラスボトル内へと封入する醸造ステップは、標準的な醸造慣行に応じた仕様に従った。
【0231】
標準的なモルト化、マッシング、および醸造:モルト化では、二重ヌルLOX変異体A689、ヌルLOX−1変異体D112、および野生型の栽培品種Power(すべて、2009年の収穫による)のオオムギ穀粒を用いた。16℃でのスティーピングインキュベーション時間は、8時間にわたる浸漬;14時間にわたる乾燥;8時間にわたる浸漬;10時間にわたる乾燥;4時間にわたる浸漬であった。モルト化条件は、18℃で12時間;16℃で24時間;14℃で24時間;12℃で60時間であった。キルン乾燥条件は、60℃で12時間;68℃で3時間;74℃で4時間;80℃で3時間であった。前述の原料のオオムギおよびモルトについての解析は、標準的なEBC法により実施した(結果を表6に列挙する)。すべてのモルトは、醸造に適すると考えられた。
【0232】
マッシング条件は、48℃で20分間にわたる最初のインキュベーション;18分間にわたる67℃への加熱;67℃で30分間にわたるインキュベーション;次いで、5分間にわたる72℃への加熱;72℃で15分間にわたるインキュベーション;6分間にわたる78℃への加熱;最後に、78℃で5分間にわたるインキュベーションであった。ウォートを煮沸および濾過し、泡沫分離し、発酵させ、ラガリングし、緑色ガラスボトル内へと封入する醸造ステップは、標準的な醸造慣行に応じた仕様に従った。
【0233】
煮沸ウォートについての解析(遊離T2N):抽出物中におけるT2Nレベルは、本質的に、Groenqvistら(1993年)により説明される通り(また、実施例5も参照されたい)、質量分析による検出を伴うガスクロマトグラフィー(GC−MS)の後、C18カラム上において固相抽出し、O−(2,3,4,5,6−ペンタフルオロベンジル)−ヒドロキシルアミンによりカルボニル基を誘導体化することにより決定した。
【0234】
栽培品種Powerによる試料およびヌルLOX−1変異体D112による試料と直接比較したところ、二重ヌルLOX変異体A689のオオムギ醸造により作製された煮沸ウォート、および二重ヌルLOX変異体A689の通常モルトから作製された煮沸ウォートのいずれにおける遊離T2Nも、顕著に低下することが観察された(図11)。ヌルLOX−1変異体D112から作製された、オオムギ醸造による煮沸ウォートと比較したところ、二重ヌルLOX変異体A689のオオムギ醸造による煮沸ウォートは、遊離T2Nレベルが約45%低下した(対応するモルト化試料では、約15%の低下であった)。
【0235】
同様に、二重ヌルLOX変異体A689によるビールにおける遊離T2Nについては、栽培品種Powerによるビールと比較して、約72%の低下が認められた(対応するモルト化試料では、約45%の低下であった)。
【0236】
煮沸ウォートについての解析(T2N前駆体):栽培品種Power、ヌルLOX−1変異体D112、および二重ヌルLOX変異体A689のオオムギ醸造による煮沸ウォート試料と、通常のウォート試料とにおけるT2N前駆体は、本質的に、Groenqvistら(前出)により記載される通り、GC−MSの後、O−(2,3,4,5,6−ペンタフルオロベンジル)−ヒドロキシルアミンによりカルボニル基を誘導体化することにより決定した。
【0237】
図12に示す通り、オオムギ醸造による煮沸ウォートと、通常のウォートとのT2N前駆体は、二重ヌルLOX変異体A689に由来する試料中で顕著に低く、野生型の栽培品種Powerと比較して約70%の低下となった(また、ヌルLOX−1変異体D112による試料との比較でも、低下が記録された)。
【0238】
オオムギ醸造ビールだけについての解析(強制劣化による遊離T2N):オオムギ醸造によるウォート試料の発酵に由来する(ならびに、同等レベルの亜硫酸塩を含む)ボトル内に封入したビールを、1カ月以内に、T2Nの生成について、経時的に解析した。
【0239】
前述のオオムギ醸造ビールを、37℃で強制劣化させ、本明細書の上記で説明する通りに、遊離T2Nの発生について追跡した。
【0240】
図13Aに示す通り、3種類のオオムギ醸造ビールは、T2N発生動態が顕著に異なる結果として、容易に識別された。オオムギの栽培品種Powerによる基準ビールが、予測通りの効力であった(37℃で8週間後において64pptのT2N)(T2Nレベルが、同様のモルトベースのビールより10〜20%高い(図示しない))のに対し、二重ヌルLOX変異体A689に由来するオオムギビールでは、T2Nの発生が予測外かつ顕著に低く(37℃で8週間後において16pptのT2N)、最終ビールの遊離T2Nが75%低下することに対応した。ヌルLOX−1変異体D112のオオムギ醸造ビールを、野生型穀粒による同種類のビールと比較したところ、8週間で遊離T2Nが52%低下した。
【0241】
強制劣化実験により、解析されたビール間における顕著な差違が確認された。既に1.5週間後において、栽培品種Powerによる基準のオオムギ醸造ビールが、約50pptの風味閾値レベルを超えたのに対し、二重ヌルLOX変異体689によるオオムギ醸造ビールは、はるかに低い約16pptのT2Nレベルであり、したがって、ヌルLOX−1変異体D112によるオオムギ醸造ビールの32pptのT2Nよりはるかに良好であった。
【0242】
オオムギ醸造ビールと通常ビールとの比較(T2N前駆体):図13Bに、いずれも200lの容量で作製された、オオムギ醸造原料による新鮮なビールと、モルト化原料による新鮮なビールとにおけるT2N前駆体レベルを特定するデータについての概要を示す。ここでもまた、二重ヌルLOX原料は、測定された特性が優れており、実際、オオムギ醸造ビール中のT2Nポテンシャル(1.2ppb)が、ヌルLOX−1モルトにより作製されたビール中(1.5ppb)より低かった。
【0243】
オオムギ醸造ビールと通常ビールとの比較(T2Nの強制発生):この場合、すなわち、37℃でビールを強制劣化させる場合においても、野生型の原料から作製されたビールと、変異体の原料から作製されたビールとでは、顕著な差違が見られた(図13C)。野生型の栽培品種Barkeの穀粒によるオオムギ醸造ビールおよび通常ビールのいずれもが、2週間後において、約50pptのT2Nを示したのに対し、ヌルLOX−1変異体D112および二重ヌルLOX変異体A876の原料では、対応する値が、それぞれ、約50%および約75%低下した。同じ傾向は、強制劣化の3週間後においても観察された。したがって、ビールの生産においてLOX酵素を欠損させた原料を用いることは、劣化時におけるT2Nの発生を大きく低下させる優れた方法を表すことが実証された。さらにこの点において、二重ヌルLOX変異体A876による原料は、ヌルLOX−1変異体D112による原料より優れている。
【0244】
オオムギ醸造ビールと通常ビールとの比較(THA):リノール酸に由来するビール特異的なTHAについては、既に、数十年も前に記載されている(Drostら、1974年)。それ以来、ビール中における総THA含量が、約5〜12ppmの範囲であることは、様々な報告により検証されている(Hamberg、1991年;ならびに同文献中の参考文献)。9,12,13−THAが、通常、ビール中におけるTHAの75〜85%を占めるのに対し、9,10,13−THAの比率は、通常、15〜25%であるに過ぎない。見出される他の異性体は、微量である。
【0245】
ヌルLOX−1変異体D112および二重ヌルLOX変異体A689の原料による200lスケールの実験による新鮮なオオムギ醸造ビールでは、LOX−1経路およびLOX−2経路に由来する9,12,13−THAおよび9,10,13−THAのレベルは、栽培品種Powerによる対照の場合と比較して、それぞれ、約60%および約80%低下することが判明した(図14A)。ヌルLOX−1変異体D112によるオオムギ醸造ビールでは、LOX経路のLOX−2分枝に由来する主要なTHA生成物である9,10,13−THAが、栽培品種Powerによるビールと比較して、驚くべき高レベル、すなわち、+47%で測定された。この結果は、二重ヌルLOX変異体A689により得られた結果(ここでもまた、栽培品種Powerと比較して、60%の低下が測定された)と対照的であった。個別の実験結果により、前述の結論が裏付けられた。この観察についての分子的基盤はなお不明であるが、一部の細胞機構(複数可)が活性化されて、9,10,13−THAの形成に関与する酵素の合成を増強することにより、変異体D112におけるLOX−1の不在を補完すると推測することができる。
【0246】
二重ヌルLOX変異体A689から作製されるオオムギ醸造ビールでは、栽培品種Powerと比較して、著明に低い9,12,13−THA:9,10,13−THA比がもたらされたのは、このためである。
【0247】
9,12,13−THAレベルおよび9,10,13−THAレベルの決定を、それらの比の決定と組み合わせることにより、ビールが二重ヌルLOX変異体A689のオオムギを用いて作製されたかどうかを示す、簡便な最初のツールが得られる。しかし、この問題についてのより確固とした評価は、本出願で説明されるさらなる検討を伴い得る。
【0248】
二重ヌルLOX変異体A689によるモルトから作製されたビールでは、LOX経路に由来する9,12,13−THAおよび9,10,13−THAが、モルト化させた栽培品種Powerによる対照ビールと比較して、それぞれ、約75%および約40%低下することが判明した(図14B)。前記ビールではまた、栽培品種Powerによるビールと比較した場合、9,12,13−THA:9,10,13−THA比も極めて低く計算され得る。すべての場合においてではないが、一般に、モルトベースのビールでは、オオムギ醸造ビールの場合より、THAレベルが若干低い(図14AおよびBを比較されたい)。
【0249】
オオムギ醸造ビールだけについての解析(風味(tasteおよびflavor)の安定性):風味の専門家パネルが、栽培品種Power、ヌルLOX−1変異体D112、および二重ヌルLOX変異体A689による、前述の、強制劣化させたオオムギ醸造ビールを評価した。
【0250】
一般に、試飲パネルは、すべての種類の新鮮なビールと、37℃で1週間にわたり強制劣化させた後のビールとについて、満足のゆく風味プロファイルを見出した。しかし、基準ビールについては、「紙の」風味スコアが、二重ヌルLOX変異体A689によるモルトを用いて作製されたビール、およびヌルLOX−1変異体D112によるモルトを用いて作製されたビールの場合より著明に高かった(図15A)、すなわち、基準ビールは、前記異臭のより強い風味を特徴とした。一般に、試飲パネルは、二重ヌルLOX変異体A689から作製されたオオムギ醸造ビールを好んだ。
【0251】
熟練の試飲パネルはまた、30℃で1カ月間および3カ月間にわたりビールを保存した後における、より一般的な「劣化」風味についても評価し、ここでもまた、栽培品種PowerによるビールおよびヌルLOX−1によるビールについての前記風味スコアが、二重ヌルLOX変異体A689の場合より著明に高いことが示された(図15B)。
【0252】
まとめると、二重ヌルLOX変異体A689によるオオムギ醸造ビールおよび通常ビールの風味安定性の改善は、顕著である(単純に、特に高温での保存後におけるT2Nレベルが低いため)。したがって、醸造手順におけるLOX−1およびLOX−2の作用は、劣化ビールにおける主要な異臭化合物であるT2Nの出現についての重要な決定因子を表す。
【0253】
オオムギ醸造ビールと通常ビールとの比較(ビールの泡):超音波浴中で20分間にわたり、オオムギ醸造ビールおよび対照ビールを脱気させた後に、150mlのビールに50mlのHOを添加した。長さ16cm、幅7cmのガラス管(底部および上端部において、それぞれ、ガラスフィルターおよびコネクターを伴う)からなる発泡タワー内へと、該混合物をゆっくりと注入した。Nガスが、400ml分−1の流速で、前記混合物全体を底部から泡立てて、ビールの泡を生成させた。これを管内に導き、秤の上に置いた沈降分級コーン内に回収した。
【0254】
オオムギ醸造ビール(図16A)およびモルト醸造ビール(図16B)のいずれについても、泡の発生が止まるまで5分間隔で泡の総重量を記録した。いずれの場合においても、二重ヌルLOX変異体A689に由来する原料によるビールが、最も多くの泡を発生させた。実際には、モルトベースのビールより、オオムギ醸造ビールにおいて、泡の発生がより良好であった。
【0255】
【表6】

(実施例10)
オオムギ変異体A689では、LOX−2遺伝子が変異している
栽培品種BarkeのLOX−2をコードするゲノムヌクレオチド配列(配列番号1)と、二重ヌルLOX変異体A689のLOX−2をコードするゲノムヌクレオチド配列(配列番号2)とは、本明細書の下記で説明する通りに得た。その後、その表現型が、発芽オオムギ穀粒内においてLOX−2活性が不在であることを特徴とする、変異体A689のヌルLOX−2遺伝子型の分子的基盤を決定するため、得られた配列を比較した。
【0256】
前記比較を目的として、植物体DNA単離キット(Roche社製)を用い、苗の若葉から、変異体A689に由来するオオムギのゲノムDNAと、野生型の栽培品種Barkeに由来するオオムギのゲノムDNAとを単離した。変異体A689のゲノムDNA内における、LOX−2のタンパク質コード領域と、栽培品種BarkeのゲノムDNA内における、LOX−2のタンパク質コード領域とを対象とする、3331bpずつの2つの配列を、プライマー5’−CGCAGCGAGCTAACTTAGAAGCGTGCCACA−3’(配列番号3)および5’−CCTCATGCCTTTGTGCTATCCTTGCTTGCT−3’(配列番号4)を用いるPCRにより増幅した(プライマー配列のベースは、LOX−2遺伝子のゲノム配列(すなわち、配列番号1)を含んだ)。
【0257】
PCR反応は、5ピコモルの各プライマーおよび3.0UのFailSafeポリメラーゼ(Epicentre社製)を含有する20μlの反応緩衝液中に再懸濁させた、100ngのゲノムDNAからなった。PCR増幅は、以下のパラメータ:98℃で30秒間の1サイクル;98℃で15秒間;65℃で30秒間;72℃で60秒間の30サイクル;72℃で10分間の1サイクルを用いて、MJサイクラー内で実施した。結果として得られるPCR産物を1%アガロースゲル上で分離し、長さにおいて単位複製配列に対応するDNA断片を、Qiaex IIゲル抽出キット(Qiagen社製)を用いて精製し、これを、プラスミドベクターであるpCR Blunt II TOPO Blunt(Invitrogen社製)内へと挿入した。コード領域を、特異的なオリゴヌクレオチドプライマーによるジデオキシヌクレオチド鎖終結反応へと適用した後、MegaBACE 1000 DNA配列決定装置(GE Biosystems社製)上において配列決定した。図17に、LOX−2をコードする領域の開始コドンおよび終止コドンにわたるゲノム配列の概略表示を示す。Lasergene配列解析ソフトウェアパッケージver.5.2(DNASTAR社製)を用いて配列比較を実施したところ、エクソン6内の配列番号2の2689位におけるG→A置換の形態で、1つの点変異が明らかとなった(図17)。
【0258】
LOX−2の野生型配列は、予測質量が96.7kDaである、864残基の長さのタンパク質をコードする(配列番号5)。変異体D112のLOX−1コード配列内の684位における変異が、未熟終止コドンの導入を引き起こしたのに対し、変異体A689のLOX−2コード遺伝子の変異は、C末端における180アミノ酸の切断を結果としてもたらし、このため76.8kDaのタンパク質をコードする(配列番号6)。
【0259】
表7は、野生型のオオムギ、ヌルLOX−1オオムギ変異体D112(WO2005/087934において記載される)、およびオオムギの変異体A689(二重ヌルLOX)のLOX−2遺伝子に関する分子的差違についての概観を示す。
【0260】
【表7】

(実施例11)
オオムギの二重ヌルLOX変異体A689の遺伝的検出
一塩基多型(SNP)アッセイは、植物体の変異を同定する簡便な方法を表す。本明細書において、SNPとは、1つの遺伝子座において少なくとも2つの異なるヌクレオチドを有する、変異点を意味する。前記アッセイは、ゲノムDNAを鋳型として用いる、2セットのPCR反応を組み合わせて用いることに基づく。いずれの反応も、遺伝子座特異的なプライマーと、2つのSNPプライマーのうちの1つ(配列の各対立遺伝子につき1つずつ)とを含有する。植物系列当たり2セットずつのPCR反応を実施する(PCR反応の結果は、SNPプライマーが、変異体の配列に結合するか、または野生型の対立遺伝子に結合するかである(図18A))。複数の方法のうちの1つにおいて、SNP解析は、PCR産物のゲル電気泳動後におけるバンド形成パターンを評価することにより、変異体系列を同定することに基づくことが可能である。
【0261】
製造元の推奨に従い、植物DNA単離キット(Roche社製)を用いて、苗の葉組織から、オオムギ育種系列に由来するオオムギのゲノムDNAと、野生型の栽培品種Quenchに由来するオオムギのゲノムDNAとを単離した。野生型のLOX−2遺伝子のSNPを増幅するのに用いられるオリゴヌクレオチドプライマーが、5’−ACCTCAAGGACGCGGCGTGG−3’(配列番号7)および5’−GAGCGAGGAGTACGCGGAG−3’(配列番号8)であったのに対し、対応する変異体の遺伝子のプライマーは、5’−ACCTCAAGGACGCGGCGTGA−3’(配列番号9)および5’−GAGCGAGGAGTACGCGGAG−3’(配列番号8)であった。これらのプライマーの組合せをPCR反応で用いて、二重ヌルLOX変異体A689および栽培品種QuenchそれぞれのLOX−2コード領域の一部を含む200bpのDNA断片を増幅した(図18A)。PCR反応は、25ピコモルのプライマーと、製造元の指示書に従って用いられる、7μlのREDTaqミックス(Sigma社製)とを含有する20μlの反応緩衝液中における、100ngのゲノムDNAからなった。29サイクルのPCR増幅を、MJサイクラー内で実施した:96℃で2分間の1サイクル;95℃で1分間;68℃で1分間;72℃で1分間;最後に、72℃で10分間の伸長。
【0262】
LOX−1変異を保有するホモ接合性のオオムギ植物体と、LOX−2変異を保有するホモ接合性の植物体との異花受粉は、4つの異なるイベントを結果としてもたらし得る。LOX−1の変異(LOX−1遺伝子の3474位におけるG→A変異)を同定するための1つのSNPプライマーセット(FL820(配列番号10)およびFL823(配列番号11))と、LOX−2遺伝子の変異[LOX−2遺伝子(配列番号1)の2689位におけるG→A変異]を同定するための1つのSNPプライマーセット(FL1034(配列番号9)およびFL1039(配列番号8))との2セットのプライマーを用いると、前述の4つの異種交配イベントのうちの1つを同定することが可能となるはずである(図18Bで概観する)。言い換えれば、1回の組合せによるPCR反応を用いて、前述のLOX−1変異およびLOX−2変異のいずれにも特異的なPCR産物を作製することができる。LOX−1遺伝子の3474位におけるG→A変異のためのSNP PCR産物を増幅するのに用いられるオリゴヌクレオチドプライマーは、5’−CAAGGTGCGGTTGCTGGTGTC−3’(配列番号10)および5’−CTCGCGCGTCTCCTTCCAT−3’(配列番号11)であり、これらにより、LOX−1のコード領域の一部を含む166bpのDNA断片が作製された。LOX−2遺伝子の2689位におけるG→A変異を検出するためのSNP PCR産物を増幅するのに用いられるオリゴヌクレオチドプライマーは、5’−ACCTCAAGGACGCGGCGTGA−3’(配列番号9)および5’−GAGCGAGGAGTACGCGGAG−3’(配列番号8)であり、これらにより、LOX−2のコード領域の一部を含む200bpのDNA断片が作製された。図18Cのレーン2は、二重ヌルLOX変異体A689が、前述の変異の両方を保有したことを詳しく示すのに対し、野生型の対照はこれらのいずれも保有しなかった(図18C、レーン3)。
【0263】
別の実験では、製造元の指示書に従い、REDExtract−N−Amp植物体PCRキット(Sigma社製)を用いて、23の育種系列の苗の葉組織から、オオムギのゲノムDNAを単離し、その後、25ピコモルのプライマーを含有する20μlの反応緩衝液中100ngのゲノムDNAからなるPCR反応においてこれを用いた。増幅は、製造元の指示書に従い、DNA Engineサイクラー(MJ Research社製)内で実施した:96℃で2分間の1サイクルと;95℃で1分間、68℃で1分間、72℃で1分間の29サイクルと;最後に、72℃で10分間の1サイクル。図19は、PCR産物の電気泳動後におけるバンド形成パターンを示す。解析により、該手順は、ヌルLOX−1変異と、ヌルLOX−2変異との所望の組合せを選択するのに有用であることが明らかとなった。
【0264】
配列表
配列番号1:栽培品種Barke由来の、LOX−2をコードする野生型ゲノムDNAの配列
配列番号2:オオムギ変異体A689の、変異体LOX−2ゲノムDNAの配列
配列番号3:LOX−2のタンパク質コード領域の増幅のためのプライマー(FL960ともいう)
配列番号4:ゲノムLOX−2 DNAのタンパク質コード領域の増幅のためのプライマー(FL961ともいう)
配列番号5:野生型オオムギ、栽培品種Barkeの全長LOX−2タンパク質の配列
配列番号6:オオムギ変異体A689由来の、LOX−2活性を欠く変異体LOX−2の配列
配列番号7:野生型LOX−2 DNAの増幅のためのプライマー(FL1035ともいう)
配列番号8:LOX−2 DNAの増幅のためのプライマー(FL1039ともいう)
配列番号9:変異体A689の変異体LOX−2 DNAの増幅のためのプライマー(FL1034ともいう)
配列番号10:変異体D112の変異体のLOX−1 DNAの増幅のためのプライマー(FL820ともいう)
配列番号11:LOX−1 DNAの増幅のためのプライマー(FL823ともいう)
【0265】
【数1】

【0266】
【数2】

【0267】
【数3】

【0268】
【数4】

【0269】
【数5】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
オオムギ植物体またはその一部から調製される飲料であって、前記飲料は、含むT2Nポテンシャルレベルが極めて低く、前記オオムギ植物体またはその一部が、機能的なリポキシゲナーゼ(LOX)−1酵素の完全な喪失を結果としてもたらす第1の変異と、機能的なLOX−2酵素の完全な喪失を結果としてもたらす第2の変異とを含む飲料。
【請求項2】
モルト飲料である、請求項1に記載の飲料。
【請求項3】
発酵モルト飲料である、請求項1および2のいずれか一項に記載の飲料。
【請求項4】
ビールである、請求項1から3のいずれか一項に記載の飲料。
【請求項5】
オオムギビールである、請求項1および4のいずれか一項に記載の飲料。
【請求項6】
非アルコールモルト飲料である、請求項1から3のいずれか一項に記載の飲料。
【請求項7】
前記飲料が、オオムギの栽培品種Powerから同じ方法で調製した飲料のT2Nポテンシャルと比較して、50%未満、好ましくは40%未満、より好ましくは35%未満のT2Nポテンシャルを含む、請求項1から6のいずれか一項に記載の飲料。
【請求項8】
前記飲料が、ヌルLOX−1オオムギ変異体から同じ方法で調製した飲料と比較して、70%未満、好ましくは60%未満のT2Nポテンシャルを含む、請求項1から7のいずれか一項に記載の飲料。
【請求項9】
37℃で8週間にわたる保存後において、オオムギの栽培品種Powerから同じ方法で調製した飲料と比較して、50%未満、好ましくは40%未満、より好ましくは35%未満、なおより好ましくは30%未満、さらにより好ましくは25%未満の遊離T2Nを含む、請求項1から8のいずれか一項に記載の飲料。
【請求項10】
2〜4ppmの範囲内の亜硫酸塩の存在下、37℃で2週間にわたる保存後において、オオムギの栽培品種Powerから同じ方法で調製した飲料と比較して、50%未満、好ましくは40%未満、より好ましくは35%未満の遊離T2Nを含む、請求項1から9のいずれか一項に記載の飲料。
【請求項11】
37℃で8週間にわたる保存後において、ヌルLOX−1オオムギから同じ方法で調製した飲料と比較して、70%未満、好ましくは60%未満、なおより好ましくは55%未満の遊離T2Nを含む、請求項1から10のいずれか一項に記載の飲料。
【請求項12】
37℃で2週間にわたる保存後において、ヌルLOX−1オオムギから同じ方法で調製した飲料と比較して、80%未満、好ましくは75%未満の遊離T2Nを含む、請求項1から11のいずれか一項に記載の飲料。
【請求項13】
37℃で2週間にわたる保存後において、熟練の試飲パネルが評価し、0を「なし」として5を「極めて強い」とする0〜5段階でスコア付けする場合の、栽培品種Powerから同じ方法で調製した飲料の紙の風味についてのスコアより、少なくとも0.5、好ましくは少なくとも0.7、より好ましくは少なくとも1.0低い紙の風味についてのスコアを有する、請求項1から12のいずれか一項に記載の飲料。
【請求項14】
前記保存が、2〜6ppmの範囲内の亜硫酸塩の存在下で実施される、請求項9から13のいずれか一項に記載の飲料。
【請求項15】
機能的LOX−1酵素の完全な喪失を結果としてもたらす第1の変異と、機能的LOX−2酵素の完全な喪失を結果としてもたらす第2の変異とを含む、オオムギ植物体またはその一部。
【請求項16】
前記植物体のLOX−1をコードする遺伝子が、未熟終止コドンを含む、請求項15に記載のオオムギ植物体またはその一部。
【請求項17】
前記植物体のLOX−1をコードする遺伝子が、開始コドンの最大で705コドン下流、好ましくは最大で665コドン下流に位置する未熟終止コドンを含む、請求項15から16のいずれか一項に記載のオオムギ植物体またはその一部。
【請求項18】
前記植物体のLOX−1をコードする遺伝子が、ナンセンスコドンを含み、前記コドンが、WO2005/087934の配列番号2の塩基番号3572〜3574に対応する、請求項16に記載のオオムギ植物体またはその一部。
【請求項19】
前記植物体のLOX−2をコードする遺伝子が、未熟終止コドンを含む、請求項15から18のいずれか一項に記載のオオムギ植物体またはその一部。
【請求項20】
前記植物体のLOX−2をコードする遺伝子が、開始コドンの最大で707コドン下流、好ましくは最大で684コドン下流に位置する未熟終止コドンを含む、請求項15から19のいずれか一項に記載のオオムギ植物体またはその一部。
【請求項21】
前記植物体のLOX−2をコードする遺伝子が、配列番号1の2689位のヌクレオチドにおいて変異を有し、終止コドンの形成をもたらす、請求項20に記載のオオムギ植物体またはその一部。
【請求項22】
「オオムギ(Hordeum vulgare L.):A689系統」と称し、PTA−9640の寄託番号でATCCへと寄託された植物体と、それらの子孫植物体とからなる群から選択される、請求項15から21のいずれか一項に記載のオオムギ植物体またはその一部。
【請求項23】
前記オオムギ植物体の前記一部が、穀粒(複数可)である、請求項15から22のいずれか一項に記載のオオムギ植物体またはその一部。
【請求項24】
(i)LOX−1活性を完全に喪失させたオオムギ植物体またはその一部を供給するステップと;
(ii)前記オオムギ植物体、ならびに/または前記オオムギ植物体に由来するオオムギ細胞、および/もしくはオオムギ組織、および/もしくはオオムギ穀粒、および/もしくはオオムギ胚芽を変異誘発し、これにより、M0世代のオオムギを得るステップと;
(iii)前記変異誘発されたオオムギ植物体、オオムギ穀粒、および/またはオオムギ胚芽を、少なくとも2世代にわたり育種し、これにより、Mx(ここで、xは、≧2の整数である)世代のオオムギ植物体を得るステップと;
(iv)前記Mx世代のオオムギ植物体から胚芽を得るステップと;
(v)前記胚芽を発芽させるステップと;
(vi)前記発芽させた胚芽またはその一部におけるLOX−1活性およびLOX−2活性を決定するステップと;
(vii)前記発芽させた胚芽におけるLOX−1活性およびLOX−2活性を完全に喪失させた植物体を選択するステップと;
(viii)LOX−1をコードする遺伝子における、およびLOX−2をコードする遺伝子における変異の存在または不在を決定するステップと;
(ix)LOX−1をコードする遺伝子における、およびLOX−2をコードする遺伝子における変異を保有する植物体を選択するステップと
を含み、これらにより、LOX−1をコードする遺伝子における、およびLOX−2をコードする遺伝子における変異を保有し、LOX−1活性の完全な喪失およびLOX−2活性の完全な喪失を引き起こすオオムギ植物体を得る方法により作製されるか、またはこの方法により作製される植物体の子孫である、請求項15から23のいずれかに記載のオオムギ植物体またはその一部。
【請求項25】
請求項15から24のいずれか一項に記載のオオムギ植物体またはその一部から調製される、請求項1から14のいずれか一項に記載の飲料。
【請求項26】
請求項15から24のいずれかに記載のオオムギ植物体またはその一部を含む組成物。
【請求項27】
請求項15から24のいずれかに記載のオオムギ植物体である加工オオムギ植物体またはその一部を含む、植物生成物。
【請求項28】
請求項15から24のいずれかに記載のオオムギ植物体である加工オオムギ植物体またはその一部を含む、モルト組成物である、請求項27に記載の植物生成物。
【請求項29】
前記オオムギ植物体の前記一部が、穀粒(複数可)である、請求項28に記載のモルト組成物。
【請求項30】
American Type Culture Collection(ATCC)の受託番号がPTA−5487であるオオムギの変異体D112から同じ方法で調製したモルト組成物と比較して、最大で60%の遊離T2Nを含む、請求項28から29のいずれかに記載のモルト組成物。
【請求項31】
栽培品種Powerから同じ方法で調製したモルト組成物と比較して30%未満、より好ましくは20%未満、なおより好ましくは10%未満の遊離T2Nを含む、請求項20から22のいずれかに記載のモルト組成物。
【請求項32】
請求項15から24のいずれかに記載のオオムギ植物体またはその一部を用いるか、あるいは前記オオムギ植物体もしくはその一部、またはこれらの混合物から調製されたモルト組成物を用いて調製されたウォート組成物である、請求項27に記載の植物生成物。
【請求項33】
前記植物体の前記一部が、穀粒(複数可)である、請求項32に記載のウォート組成物。
【請求項34】
前記ウォート組成物がオオムギのウォートである、請求項32および33のいずれか一項に記載のウォート組成物。
【請求項35】
野生型オオムギから同じ方法で調製したウォート組成物と比較して、50%未満、より好ましくは40%未満、なおより好ましくは30%未満の遊離T2Nを含む、請求項32から34のいずれか一項に記載のウォート組成物。
【請求項36】
野生型オオムギから同じ方法で調製したウォート組成物と比較して、50%未満、より好ましくは40%未満、なおより好ましくは30%未満の遊離T2Nを含む、請求項32から35のいずれか一項に記載のウォート組成物。
【請求項37】
前記モルト組成物が、請求項28から31のいずれかに記載のモルト組成物である、請求項32から36のうちのいずれか一項に記載のウォート組成物。
【請求項38】
70℃を超えない温度、好ましくは69℃を超えない温度においてマッシングするステップを用いて生成させた、請求項32から37のいずれか一項に記載のウォート組成物。
【請求項39】
マッシングするステップの間に、70℃より高温の時間が25分間を超えない方法により生成させた、請求項32から38のいずれか一項に記載のウォート組成物。
【請求項40】
(i)請求項15から24のいずれかに記載のオオムギ植物体またはその一部を含む組成物と;
(ii)請求項28から31のいずれかに記載のモルト組成物と
の混合物から調製される組成物である、請求項27に記載の植物生成物。
【請求項41】
請求項40に記載の組成物から調製したウォート組成物であるか、または飲料である、請求項27に記載の植物生成物。
【請求項42】
請求項28から31のいずれか一項に記載のモルト組成物、または請求項32から39のいずれか一項に記載のウォート組成物から調製される、請求項1から14のいずれかに記載の飲料。
【請求項43】
オオムギシロップ、モルトシロップ、オオムギ抽出物、およびモルト抽出物からなる群から選択される、請求項27に記載の植物生成物。
【請求項44】
T2Nポテンシャルレベルが極めて低い飲料を生成させる方法であって、
(i)請求項15から24のいずれかに記載のオオムギ植物体またはその一部を含む組成物を調製するステップと;
(ii)(i)の組成物を飲料へと加工するステップと
を含み、これらにより、T2Nポテンシャルレベルが極めて低い飲料を得る方法。
【請求項45】
前記極めて低レベルのT2Nポテンシャルが、オオムギの栽培品種Powerから同じ方法で調製した飲料のT2Nポテンシャルの最大で50%、好ましくは最大で40%、より好ましくは最大で35%である、請求項44に記載の方法。
【請求項46】
前記極めて低レベルのT2Nポテンシャルが、ヌルLOX−1オオムギ変異体から同じ方法で調製した飲料と比較して、70%未満、好ましくは60%未満である、請求項42または43のいずれか一項に記載の方法。
【請求項47】
ステップ(i)が、前記オオムギ植物体またはその一部の穀粒に由来するモルト組成物を調製するステップを含む、請求項44から46のいずれか一項に記載の方法。
【請求項48】
前記組成物を飲料へと加工するステップが、マッシングするステップを含み、これによりウォート組成物を生成させる、請求項44から47のいずれかに記載の方法。
【請求項49】
前記組成物を飲料へと加工するステップが、マッシングするステップおよびスパージングするステップを含み、これらによりウォート組成物を生成させる、請求項44から48のいずれかに記載の方法。
【請求項50】
前記マッシングするステップが、破砕モルトのマッシング、または破砕オオムギのマッシング、または破砕モルトおよび破砕オオムギの混合物のマッシングを伴う、請求項48および49のいずれか一項に記載の方法。
【請求項51】
前記組成物を飲料へと加工するステップが、前記ウォートの発酵を含む、請求項48から50のいずれかに記載の方法。
【請求項52】
遊離T2Nレベルが極めて低いモルト組成物を生成させる方法であって、
(i)請求項23に記載の穀粒を供給するステップと;
(ii)前記穀粒をスティーピングするステップと;
(iii)前記スティーピングされた穀粒を、所定の条件下で発芽させるステップと;
(iv)発芽した穀粒を加熱処理するステップと
を含み、これらにより、遊離T2Nレベルが極めて低いモルト組成物を生成させる方法。
【請求項53】
ATCCの受託番号がPTA−5487であるオオムギの変異体D112から同じ方法で調製したモルト組成物中における遊離T2Nと比較して、前記遊離T2Nの極めて低いレベルが、最大で50%のT2Nである、請求項52に記載の方法。
【請求項54】
機能的LOX−1酵素の完全な喪失を結果としてもたらす第1の変異と、機能的LOX−2酵素の完全な喪失を結果としてもたらす第2の変異とを含むオオムギ植物体を調製する方法であって、
(i)機能的LOX−1酵素を完全に喪失させたオオムギ植物体またはその一部を供給するステップと;
(ii)前記オオムギ植物体、ならびに/または前記オオムギ植物体に由来するオオムギ細胞、および/もしくはオオムギ組織、および/もしくはオオムギ穀粒、および/もしくはオオムギ胚芽を変異誘発し、これにより、M0世代のオオムギを得るステップと;
(iii)前記変異誘発されたオオムギ植物体、オオムギ穀粒、および/またはオオムギ胚芽を、少なくとも2世代にわたり育種し、これにより、Mx(ここで、xは、≧2の整数である)世代のオオムギ植物体を得るステップと;
(iv)前記Mx世代のオオムギ植物体から胚芽を得るステップと;
(v)前記胚芽を発芽させるステップと;
(vi)前記発芽させた胚芽またはその一部におけるLOX−1活性およびLOX−2活性を決定するステップと;
(vii)前記発芽させた胚芽におけるLOX−1活性およびLOX−2活性を完全に喪失させた植物体を選択するステップと;
(viii)LOX−1をコードする遺伝子における、およびLOX−2をコードする遺伝子における変異の存在または不在を決定するステップと;
(ix)LOX−1をコードする遺伝子における、およびLOX−2をコードする遺伝子における変異を保有する植物体を選択するステップと
を含み、これらにより、機能的LOX−1酵素の完全な喪失を結果としてもたらす第1の変異と、機能的LOX−2酵素の完全な喪失を結果としてもたらす第2の変異とを含むオオムギ植物体を得る、方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4−1】
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【図4−2】
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【図4−3】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13−1】
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【図13−2】
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【図13−3】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18−1】
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【図18−2】
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【図19A】
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【図19B】
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【公表番号】特表2012−513744(P2012−513744A)
【公表日】平成24年6月21日(2012.6.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−542680(P2011−542680)
【出願日】平成21年12月28日(2009.12.28)
【国際出願番号】PCT/DK2009/050355
【国際公開番号】WO2010/075860
【国際公開日】平成22年7月8日(2010.7.8)
【出願人】(511133794)
【出願人】(511133129)
【Fターム(参考)】