説明

リポソームからの搬送目的物の放出速度調節方法

リポソームからの内包物の放出速度を調節する方法が開示されている。リポソームの膜構成成分が、少なくとも、リン脂質、ステロイド、及びリガンド結合部位を有する物質を含み、リガンドが前記リガンド結合部位に直接又はリンカーを介して結合されることによりリポソームの膜表面に直接または前記リンカーを介して結合されており、前記リガンドと該リガンドのレセプターとの相互作用によりリポソームから前記搬送目的物が放出される。この際の放出速度は、前記リガンドの密度を調節することにより調節される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
本発明は、リポソームからの搬送目的物の放出速度調節方法及びそれにより内包物の放出速度が調節されたリポソームに関する。該リポソームは、外部からの刺激なしに、自発的に搬送目的物を放出することができ、さらに、搬送目的物の放出速度をコントロールすることができるので、例えばドラッグ・デリバリー・システム、診断薬、センサー等として有用である。
【背景技術】
リポソームは、生体膜の構成成分であるリン脂質、コレステロールなどを主成分とし、生物は体内にこれらの成分を分解する系を持っている。従って、リポソームは、異物として働く可能性が低く、毒性も少ない。また、リポソームは、再構成膜であるため、構成脂質分子の種類や構成比、電荷やサイズを容易に変えることができ、目的に応じた最適条件のリポソームを得ることができる。さらに、水溶性物質をリポソーム内水相に、また脂溶性物質を膜内に含有させることができるため、このようなリポソームの性質を利用して、リポソームを用いたドラッグ・デリバリー・システムの研究が盛んになっている。
近年、薬物等の搬送目的物を、標的細胞に効率よく輸送させるため、リポソーム膜表面に、抗体、糖鎖などのリガンドを結合したリポソームが研究されている(例えば、フォーセン・イー(Forssen E)、外1名,ターゲティング機能を有するリガンド結合リポソーム(Ligand−targeted liposomes.),「アドバンスド ドラッグデリバリー レビュー(Advanced Drug Delivery Review)」,(オランダ),1998年、29巻、p249−271;丸山・ケイ(Maruyama K.)、外4名,長時間循環可能なリポソームに結合した蛋白質・ペプチド(Proteins and peptides bound to long−circulating liposomes.),「バイオシミカ バイオフィジカ アクタ(Biochimica Biophysica Acta.)」,(オランダ),1991年,1070巻,p246−252;米国特許第5366958号参照)。しかしながら、該リポソームは、搬送目的物を徐々にリポソーム膜外に放出させるか、あるいは細胞等に貪食により搬送目的物を細胞内へ移送させるものであり、積極的に搬送目的物の放出を狙ったものではなかった。
一方、局所での搬送目的物の放出を目的としたリポソームの研究も知られている(例えば、トーチリン・ブイピー(Torchilin VP)、外2名,蛍光分光器により測定した、pH感受性のホスファチジルエタノールアミン−オレイン酸−コレステロール リポソームの温度依存性凝集(Temperature−dependent aggregation of pH−sensitive phosphatidyl ethanolamine−oleic acid−cholesterol liposomes as measured by fluorescent spectroscopy.),「アナリティカル バイオケミストリー(Analytical Biochemistry)」,(米国),1992年,207巻,p109−113;ダス・シーアール(Dass CR.)、外3名,特殊なリポソームによる抗癌治療効果の向上(Enhanced anticancer therapy mediated by specialized liposomes.),「ジャーナル オブ ファーマシー アンド ファーマコロジー(J.Pharm.Pharmacol.)」,(英国),1997年,49巻,p972−975;コーン・ジー(Kong G)、外1名,高熱とリポソーム(Hyperthermia and liposomes.),「インターナショナル ジャーナル オブ ハイパーサーミア(International Journal of Hyperthermia.)」,(英国),1999年,15:巻,p345−370参照)。これらのリポソームは、温度やpHに感受性を持ち、目的とする領域における、温度やpH変化等の外部刺激に応じて、搬送目的物を放出することができる。しかしながら、局所的に温度やpHをコントロールすることは容易ではなく、利便性にも欠けるものであった。
これに対し、標的細胞への結合により、外部刺激を加えることなく、自発的に搬送目的物を放出する免疫リポソームも知られている(例えば、米国特許第4957735号参照)。該発明は、リポソーム膜が流動性を有し、リポソーム表面のリガンドが、そのリセプターと相互作用できる位置に自由度をもって移動することを利用したものである。該リポソームの主膜構成成分は、不飽和ホスファチジルエタノールアミン(99.95%)であるが、一般に、膜成分が不飽和ホスファチジルエタノールアミンのみでは、脂質2重膜を形成することはできない。同特許文献に記載されたリポソームは、抗体とパルミチン酸との複合体(pIgG)を、膜の両側(内側と外側)に加えることにより、安定な脂質2重膜を形成させたものである。該リポソームは、膜安定性を保つために、リポソーム1個に対して最低5個のpIgGが必要であり、また、9個以上のpIgGが存在するとリポソームは自己凝集する。従って、リポソーム膜上の抗体数を大きく変化させることはできず、また、搬送目的物の放出速度を自由にコントロールすることもできなかった。
【発明の開示】
本発明は、ドラッグ・デリバリー・システム、診断薬、センサー等に用いるリポソームに内包される搬送目的物を自発的に放出し、かつ、その搬送目的物の放出速度を自由にコントロールできる、リポソームからの搬送目的物の放出速度調節方法及びそれにより内包物の放出速度が調節されたリポソームの提供を目的とする。
本願発明者らは、鋭意研究の結果、リポソームの構成成分の1つとして、リガンド結合部位を有する物質を用い、該リガンド結合部位に直接又はリンカーを介して前記リガンドを結合することによりリポソームの膜表面に前記リガンドが結合されたリガンド結合リポソームと、該リガンドのレセプターとを結合させると、リポソームが破壊されて内包物が放出され、その際の放出速度が、リガンドの密度を調節することにより調節可能であることを見出し、本発明を完成した。
すなわち、本発明は、リポソームの膜構成成分が、リガンド結合部位を有する物質を含み、リガンドが前記リガンド結合部位に直接又はリンカーを介して結合されることによりリポソームの膜表面に直接または前記リンカーを介して結合されており、前記リガンドと該リガンドのレセプターとの相互作用によりリポソームから前記搬送目的物が放出される、前記搬送目的物を内包するリポソームからの搬送目的物の放出速度調節方法であって、該放出速度が、前記リガンドの密度を調節することにより調節される、リポソームからの搬送目的物の放出速度調節方法を提供する。また、本発明は、上記本発明の方法によりリポソームからの搬送目的物の放出速度が調節されたリポソームを提供する。さらに、本発明は、上記本発明のリポソームであって、搬送目的物として医薬を内包するリポソームを含有する医薬組成物を提供する。さらに本発明は、上記本発明のリポソームであって、搬送目的物として診断薬を内包するリポソームを含有する診断薬組成物を提供する。
本発明によれば、搬送目的物を特異的に標的組織あるいは細胞に輸送することができ、かつ、その標的組織あるいは細胞の近傍に搬送目的物を、調節された速度で放出することが可能となるため、安定性の低い薬物であっても効率よく搬送され、かつ、安全性の高いドラック・デリバリー・システムを提供できる。また、本発明によれば、リポソーム膜上のリガンドの種類やリガンドの密度を変化させることにより、搬送目的物の放出速度を外部からの刺激無しにコントロールできるので、即効性を要する薬物への利用から、徐放製剤まで、幅広く活用することができる。また、このようなリポソームをセンサーとして用いるならば、検出すべき物質の濃度に依存した搬送目的物の放出を見ることができる。
【図面の簡単な説明】
図1は、15aaペプチドの密度の逆数と、リポソームがコラーゲン上の活性化血小板と接触した場合のカルセインの放出速度との関係を示す図である。
図2は、RGDペプチドの密度の逆数と、リポソームがコラーゲン上の活性化血小板と接触した場合のカルセインの放出速度との関係を示す図である。
図3は、15aaペプチド又はRGDペプチドの密度と、リポソームがコラーゲン上の活性化血小板と接触した場合のカルセインの放出速度との関係を示す図である。
図4は、15aaペプチドを結合したリポソームをコラーゲン上の活性化血小板表面と接触させた場合の、内包物であるカルセインの蛍光回復率、即ち、カルセインの放出の経時変化を示す図である。ここでは、リポソーム1個の表面に固定化された15aaペプチド数を27000から0まで変化させた。
図5は、15aaペプチド又はRGDペプチドを結合したリポソームをコラーゲン上の活性化血小板表面と接触させた場合の、内包物であるカルセインの蛍光回復率、即ち、カルセインの放出の経時変化を示す図である。ここでは、リポソーム1個の表面に固定化させたペプチド数は20000である。
図6は、15aaペプチド又はRGDペプチドを結合した、脂質部分にN−(7−ニトロベンズ−2−オキサ−1,3−ジアゾ−4−イル)ホスファチジルエタノールアミン及びN−(リサミン ローダミンBスルフォニル)ホスファチジルエタノールアミンを含むリポソームをコラーゲン上の活性化血小板表面と接触させた場合の、N−(7−ニトロベンズ−2−オキサ−1,3−ジアゾ−4−イル)ホスファチジルエタノールアミンの蛍光回復率、即ち、lipid−mixingの経時変化を示す図である。ここでは、リポソーム1個の表面に固定化させたペプチド数は20000である。
図7は、RGDペプチドを結合したリポソームをHUVECと接触させた場合の、内包物であるカルセインの蛍光回復率、即ち、カルセインの放出の経時変化を示す図である。ここでは、リポソーム1個の表面に固定化させたRGDペプチド数を120000から0まで変化させた。
【発明を実施するための最良の形態】
以下、本発明を詳細に説明する。
(1)リポソーム膜構成成分
本発明のリポソーム膜構成成分は、少なくとも、リン脂質、ステロール類及びリガンド結合部位を有する物質を含むことが好ましいが、これらに限定されるものではなく、所望の膜特性を与えるために他の構成成分を付加的に含有しても良い。以下、各構成成分についてさらに詳細に説明する。
(1−1)リン脂質
リン脂質としては、例えば、ホスファチジルコリン類、ホスファチジルセリン類、ホスファチジン酸類、ホスファチジルグリセロール類、ホスファチジルイノシトール類、スフィンゴミエリン類、ジセチルホシフィート類、カルジオリピン類、及びリゾホスファチジルコリン類等が挙げられる。また、これらの脂質は、大豆油又は卵黄など天然の材料から抽出・精製したものでも、それらを水素添加して構成脂肪酸を飽和化したもの(水素添加リン脂質)でもよい。
リン脂質の構成脂肪酸としては、例えば、カプリル酸、ウンデシル酸、ラウリン酸、トリデシル酸、ミリスチン酸、ペンタデシル酸、パルミチン酸、ヘプタデシル酸、ステアリン酸、ノナデカン酸、アラキン酸、ペヘン酸、リグノセリン酸等の飽和脂肪酸、あるいは、ウンデシル酸、オレイン酸、エライジン酸、セトレイン酸、エルカ酸、ブラシジン酸、ソルビン酸、リノール酸、リノレン酸、アラキドン酸、ステアロール酸等の不飽和脂肪酸であってもよい。この中で特に、ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、オレイン酸、エライジン酸、リノール酸、リノレン酸、アラキドン酸、ステアロール酸等が好ましい。
さらに、具体的には、ジパルミトイルホスファチジルグリセロール、ジステアロイルホスファチジルコリン、ジパルミトイルホスファチジルコリン、ジオレイルホスファチジルコリン、精製卵黄レシチン、水素添加精製大豆レシチン、卵黄由来ホスファチジルコリン等を挙げることができるが、特に、ジミリスチルホスファチジルコリンが好ましい。
リポソームを構成するリン脂質は、1種類でもよいし複数種類のリン脂質を組み合わせて用いることもできる。
(1−2)ステロイド
ステロイドとしては、ステロール、例えば、コレステロール類、エルゴステロール類、シトステロール類、スチグマステロール類、フコレステロール類等を挙げることができるが、特にコレステロール類が好ましい。コレステロール類としては、下記一般式[I]で表されるものを好ましい例として挙げることができる。

ただし、式中、Rは互いに独立に、アルキル、ベンジル、アルケニル、ヒドロキシ、アミノ、カルボニル、チオール又はシロキシルを示し、好ましくは、炭素数1〜20の分岐状又は直鎖状のアルキル基若しくはアルケニル基を示す。一般式[I]で表されるコレステロール類の中でもコレステロールが最も好ましい。
(1−3)リガンド結合部位を有する物質
リガンド結合部位を有する物質としては、リガンドと結合可能な官能基である、アミノ基、カルボキシル基、チオール基、アルデヒド基、水酸基等を有する物質が挙げられるが、リガンドと共有結合あるいは静電気結合を生じうるものであれば、特にこれらに限定されるものではない。
具体的には、ホスファチジルエタノールアミン類、ホスファチジルチオエタノールアミン類、ホスファチジル−エチレングリコール類等が例示されるが、特に、ホスファチジルエタノールアミン類が好ましい。該ホスファチジルエタノールアミン類としては、ジチオピリジルプロピオニル−ホスファチジルエタノールアミン、N−カプロイルアミン−ホスファチジルエタノールアミン、N−ドデカニルアミン−ホスファチジルエタノールアミン、N−マレイミドフェニルブチル−ホスファチジルエタノールアミン、N−サクシニル−ホスファチジルエタノールアミン、N−グルタリル−ホスファチジルエタノールアミン、N−ドデカニル−ホスファチジルエタノールアミン等のように、ホスファチジルエタノールアミンのアミノ基に、リガンドとの結合が可能な官能基を有する構造が結合したものを挙げることができる。
この中でも特に、ジチオピリジルプロピオニル−ホスファチジルエタノールアミンが好ましい。
ジチオピリジルプロピオニル−ホスファチジルエタノールアミンの化学構造を以下に示す。

ただし、式中、R及びRはそれぞれ独立に構成脂肪酸残基を示す。これを、−SH基を含有するリガンド又はリンカー(例えば、システインを含むペプチド等)と反応させると、ピリジンチオンが離脱し、リガンド又はリンカーが−S−S−結合を介して結合される。ジチオピリジルプロピオニル−ホスファチジルエタノールアミンは市販されているので、市販品を用いることができる。
なお、フォスファチジルエタノールアミン類、ホスファチジルチオエタノールアミン類、ホスファチジル−エチレングリコール類に含まれる構成脂肪酸の好ましい例としては、リン脂質の説明において上記した好ましい構成脂肪酸を挙げることができる。
(1−4)膜構成比
上記したリポソームの膜構成成分の配合比率としては、内部に水溶液を内包するリポソームが形成されるのであれば特に限定されないが、通常、リン脂質に対して、ステロール類が40〜60モル%、好ましくは、45〜55モル%、リガンド結合部位を有する物質が12〜75モル%、好ましくは12〜25モル%である。従って、好ましい態様である、リン脂質がホスファチジルコリン類、ステロール類がコレステロール類、リガンド結合部位を有する物質がホスファチジルエタノールアミン類である場合の構成比率は、通常、ホスファチジルコリン類に対して、コレステロール類が40〜60モル%、ホスファチジルエタノールアミン類が12〜75モル%であり、さらに好ましくは、ホスファチジルコリン類に対して、コレステロール類が45〜55モル%、ホスファチジルエタノールアミン類が12〜25モル%である。
リポソーム膜は、リポソームの形成を阻害しない範囲であれば、上記以外の他の成分を含んでいてもよく、例えば、トコフェロール又はその誘導体のような酸化防止剤を任意的に含んでいてもよい。このような任意成分の含有量は、リン脂質に対して、通常0〜10モル%程度、好ましくは0〜5モル%程度である。
(2)リガンド
リガンドは、生体内に存在するレセプターと結合する性質を有するものであり、抗体、抗原、糖蛋白質、リポ蛋白質等を含む蛋白質類、ペプチド類、ハプテン、糖鎖、核酸、多糖類、脂質等が例示される。
リガンドがペプチド類である場合には、フィブリノゲンCγ由来ドデカペプチド(配列番号1)、またはフィブリノゲンCγ由来トリデカペプチド(配列番号2または配列番号3)、細胞接着性蛋白質に共通な最小活性単位(Arg−Gly−Asp)を含むペプチド、ウロキナーゼタイプ・プラスミノゲンアクティベータ・レセプター結合ペプチド(配列番号4または配列番号5)、インテグリン結合ペプチド、カドヘリン結合ペプチド、EGF結合ペプチド、トロンボスポンジン由来ペプチド、ラミニン由来ペプチド、コラーゲン由来ペプチド、フィブロネクチン由来ペプチド等のアミノ酸5個〜50個からなるペプチドを挙げることができる。より好ましいリガンドとしては、アミノ酸7個〜30個からなるペプチドである。
その他のリガンドとしては、葉酸誘導体、トランスフェリン、シアル酸含有糖鎖(シアリルルイスX、シアリルルイスA等)、ヒアルロン酸、マンノース誘導体、グルコース誘導体、細胞特異的レクチン、ラクトシルセラミド、ステロイド誘導体、アルブミン誘導体を挙げることができる。
これらのリガンドは、内皮細胞、血管細胞、血小板膜、白血球膜、癌細胞上などに存在する、イムノグロブリン(N−CAM,PECAM−1,VCAM−1,ICAM−1,ICAM−2)、カドヘリン(N−カドヘリン、E−カドヘリン、P−カドヘリン)、インテグリン、細胞外マトリックス、セレクチン(E−セレクチン、P−セレクチン、L−セレクチン)などのレセプターをターゲットとしており、これらに関わる疾患の治療・診断に用いることができる。
(3)リンカー
リンカーは、上記リガンド結合部位を有する物質のリガンド結合部位とリガンドとを連結する構造であり、単にスペーサーとして機能するだけであるから、上記リガンド結合部位を有する物質のリガンド結合部位と結合可能な官能基及び上記リガンドと結合可能な官能基を有していればその構造は何ら限定されるものではない。リンカーに用いる物質としては、官能基を有する化合物であれば、各種ペプチド(例えば、−Ser−Pro−Cys−)、プロピオン酸、カプリル酸、コハク酸等を挙げることができる。なお、リガンドがペプチドであり、リンカーもペプチドである場合、リガンドとリンカーとが融合した単一のペプチドが膜表面に結合されることになるが、この場合、融合ペプチド中の、レセプターと結合させたい領域がリガンドであり、リガンド結合部位を有する物質とリガンドとを結合させるために用いられる領域がリンカーである。例えば、下記実施例で用いられる15aaペプチド(配列番号6)は、配列番号1で示される12アミノ酸残基から成るフィブリノゲンCγ由来ドデカペプチドがリガンドであり、そのC末端に融合しているSer Pro Cys領域がリンカーである。同様に配列番号7で示されるRGDペプチドにおいても、C末端のSer Pro Cys領域がリンカーであり、それよりも上流がリガンドである。
(4)搬送目的物
搬送目的物は、その目的に応じ、薬物学的に許容しえる薬理的活性物質、生理活性物質及び/または診断用物質を用いることができる。薬物の種類としては、
リポソームの形成を損なうものでなければ特に限定されない。
具体的には、止血剤、血管収縮剤、抗炎症剤、血栓溶解剤、抗血液凝固剤、抗血小板剤、血管拡張剤、血小板凝集阻害剤、血管内被細胞の増殖促進または抑制剤、抗がん剤、抗生物質、酵素剤、脂質取り込み阻害剤、ホルモン剤、ステロイド剤、アンジオテンシン変換酵素阻害剤、アンジオテンシン受容体拮抗剤、平滑筋細胞の増殖・遊走阻害剤、ケミカルメディエーターの遊離阻害剤、アルドース還元酵素阻害剤、メサンギウム細胞増殖阻害剤、リポキシゲナーゼ阻害剤、免疫抑制剤、免疫賦活剤、抗ウイルス剤、メイラード反応抑制剤、アミロイドーシス阻害剤、一酸化窒素合成阻害剤、Advanced glycation endproducts阻害剤、ラジカルスカベンジャー、インスリン、ヘパリン、低分子量ヘパリン、ヒルゲン、ヒルロス、ヒルジン、インターフェロン、インターロイキン、サイトカイン、モノクローナル抗体、ポリクローナル抗体、化学療法剤、ワクチン、糖蛋白、ホルモン、細菌性トキソイド、成長ホルモン、カルシトニン、インスリン様成長因子(IGF)、グルカゴン様ペプチド(GLP−1またはGLP−2)、ステロイド、レチノイド、オキシトシン、バソプレッシン、FSH、TSH、LH、腫瘍壊死因子、成長因子、血小板促進因子、ストレプトキナーゼ、ウロキナーゼ、インシュリン、カルシトニン、シクロスポリンA、インターロイキン等のリンホカイン、インターフェロン等のサイトカイン類、蛋白質、ペプチド、核酸、ポリヌクレオチド、遺伝子治療剤、RNA、アンチセンスオリゴヌクレオチドなどが挙げられる。
また、診断のための標識物質としては、酵素(好ましい例:グルコースオキシダーゼ、パーオキシダーゼ)、蛍光物質(好ましい例:ウンベリフェリルリン酸、フルオレセイン、カルボキシフルオレセイン、カルセイン、アミノナフタレン3硫酸とキシレンビスピリミジンブロミドの複合体、インドシアニングリーン)、X線造影剤、放射性同位元素(好ましい例:ヨウ素化合物であるdiatrizoate,metrizamide)、標識核医学診断薬(好ましい例:テクネシウム、インジウム)、核磁気共鳴診断用診断薬等(好ましい例:鉄、ガドリニウム、マンガン、フッ素などを含む物質)が挙げられる。特に、近赤外蛍光物質を用いると、近赤外蛍光を用いた蛍光分子トモグラフィー(Fluorescence Molecular Tomography(FMT)が可能になる。
(5)リポソームの調製方法(搬送目的物の内包化)
本発明のリポソームは、上記した膜構成成分及び内包する搬送目的物の水溶液を用いて、常法(例えば、野島庄七 外2名編「リポソーム」1988年9月15日発行 南江堂)によって容易に得ることができる。例えば、逆相蒸留法、超音波法、界面活性剤除去法、水和法、凍結融解法、エタノール注入法、押出し法(extrusion法)、高圧乳化法等を挙げることができるが、搬送目的物をリポソームの内水相へ内包させる方法として、特に逆相蒸留法が好ましく利用される。具体的には、上記膜構成成分の有機溶媒溶液に搬送目的物の水溶液を加えて超音波処理し、減圧下で有機溶媒を除いて得られたエマルジョンにさらに搬送目的物の水溶液を加え、減圧下で有機溶媒を完全に除去する方法をとる。この際用いられる有機溶媒の好ましい例としては、クロロホルム、エーテル及びそれらの混合溶媒を挙げることができる。下記実施例にその具体例が詳細に記載されている。なお、リポソームの粒子径は、約25〜1000nm、好ましくは150〜250nmである。
(6)リガンドの調製方法
リガンドが、蛋白質の場合は、天然の抽出物、精製物、組換体、その他周知の方法で得られるものであればよい。ペプチド合成は、通常の液相または固相合成法を用いればよく、自動ペプチド合成装置を用いても合成してもよい。また、リガンドが、ハプテン・核酸等の場合も、天然の抽出物、精製物、合成品、その他周知の方法で得られるものであればよく、特に限定されない。
(7)リポソームとリガンドとの結合
リポソーム中のリガンドの結合部位を有する物質とリガンド(あるいはスペーサーを有するリガンド)との具体的な結合方法としては、−SH基と−SH基とをジスルフィド結合させる方法、アミノ基とカルボキシル基とをアミド結合させる方法、アルデヒド基とアミノ基とをシッフベースで結合させ還元する方法等を挙げることができる。アミド結合は、公知の技術(DCC法、アジド法、混合酸無水物法等)により行われる。また、静電相互作用でリポソームにリガンドを結合させることも可能である。これらは、常法により実施することができる。下記実施例の1つでは、リガンド結合部位を有する物質として上記ジチオピリジルプロピオニル−ホスファチジルエタノールアミンを用い、リガンド+リンカーとして、システイン含有ペプチドを用い、両者を室温で混合するだけでリガンド+リンカーをリポソームに結合している。
なお、リポソームとリガンドの結合は、先にリポソームを形成した後にリガンドを直接又はリンカーを介して結合してもよいし、リガンド結合部位を有する物質とリガンドを直接又はリンカーを介して結合したものを用いてリポソームを形成してもよい。また、リンカーを用いる場合には、予めリガンドとリンカーを結合したものをリガンド結合部位を有する物質と結合してもよいし、リガンド結合部位を有する物質にリンカーを結合し、その後、リンカーにリガンドを結合してもよい。
さらに、得られたリポソームは、親水性高分子の脂質誘導体で被覆してもよい。これは、リポソームのターゲッティング機能を損なうものでなければ特に限定されず、例えば、ポリエチレングリコール、デキストラン、プルラン、フィコール、ポリビニルアルコール、合成ポリアミノ酸、アミロース、アミロペクチン、マンナン、ペクチン、カラギーナン、及びこれらの誘導体が挙げられる。中でもポリエチレングリコール及びポリエチレングリコール誘導体が望ましい。
(8)搬送目的物の放出
リポソームに内包された搬送目的物は、膜表面上のリガンドが、該リガンドに対応するレセプターと相互作用することにより、放出される。この場合、相互作用するとは、リガンドが、対応するレセプターと特異的に結合することをいい、該レセプターは、ある一定の大きさを有するマトリックス上(例えば、細胞膜、固相等)に複数存在している。
(9)搬送目的物の放出速度の調節
リポソームに内包される搬送目的物の放出速度は、リポソームに結合されたリガンドの密度に依存して変化し、所定の範囲内では、リガンドの密度が高いほど放出速度が大きくなる。なお、放出速度は、リガンドとレセプターの親和性によって異なり、親和性が大きいほど放出速度が大きくなるので、所望の放出速度を達成するリガンドの密度は、それぞれのリガンドにより異なる。各リガンドについての放出速度は、下記実施例に詳述する方法により測定することができるので、それに基づいて所望のリガンド密度を決定することができる。
リガンドの密度に依存して搬送目的物の放出速度を変化させるのに適した、該リガンドの密度の好ましい範囲は、リポソームの表面積を1.26×10−13とした場合、3.7×1016個/m〜2.4×1018個/m、さらに好ましくは、4.0×1016個/m〜1.6×1018個/mである。これは、リポソーム粒子1個当たりのリガンド数に換算すると、4.6×10個〜3.0×10個、さらに好ましくは5.0×10個〜2.0×10個であり、モル比へ換算すると0.16モル%〜10モル%、さらに好ましくは0.17モル%〜6.9モル%、さらに重量比に換算すると、好ましくは0.59w/w%〜39w/w%、さらに好ましくは0.64w/w%〜26w/w%となる。
下記実施例において測定された、リガンド+リンカーが15aaペプチド(配列番号6)又はRGDペプチド(配列番号7)(上記の通り、各配列番号のC末端のSer Pro Cysがリンカー)である場合のリガンドの密度を下記表1に示す。

ここで、搬送目的物の放出速度の測定は、一般に、カルセイン等の蛍光物質をリポソームに内包させ、放出された蛍光強度を測定する方法が用いられる。また、カルセインのように高濃度で自己消光する蛍光物質や、実験条件により放出された際に外部の物質と反応してその物性(UV/VISや蛍光等)が変化する物質を用いて測定することも可能である。
リガンド密度の測定方法としては、リガンド特有のUV/VIS、蛍光、円偏向スペクトルの測定、ELISAによるリガンド濃度の測定、リガンドと脂質の反応の際に放出される物質のスペクトルの測定等がある。
(10)リポソーム膜におけるlipid mixing(膜融合または脂質移動)の測定
リポソーム膜における膜融合または脂質移動をリアルタイムで測定するには一般に、蛍光ラベルした2種類の脂質を組み込んだリポソームを用いるFRET(Forster Resonance Energy Transfer)法、または蛍光ラベルした1種類の脂質を組み込んだリポソームを用いるFluorescence Self−Quenching法が用いられる。例えば、N−(lissamine rhodamine B sulfonyl)phosphatidylethanolamine(N−Rh−PE)とN−(7−nitrobenz−2−oxa−1,3−diazo−4−yl)phosphatidylethanolamine(N−NBD−PE)を組み込んだリポソームを用いた場合、膜融合や脂質移動が起こらないときにはN−NBD−PEからN−Rh−PEへの間のエネルギー移動により465nm励起による530nmの蛍光は低い値に抑えられている。膜融合または脂質移動によりリポソーム内の脂質拡散が起こると、N−NBD−PEからN−Rh−PEへのエネルギー移動の効率が著しく減少し、530nmに於ける蛍光が増加する。N−Rh−PEのみを組み込んだリポソームでは、膜融合または脂質移動が起こらないときには、N−Rh−PEの蛍光は自己消光により低い値を示すが、膜融合または脂質移動によりリポソーム内の脂質拡散がおこると、N−Rh−PEの蛍光は増加する。本発明のリポソームでは、lipid mixingのレベルは低かった(実施例2(3))。
(11)リポソームが細胞内に取り込まれる、または細胞と膜融合した後のaqueous content mixingによるリポソーム内のpH変化測定
リポソームが細胞内に取り込まれたり膜融合すると、細胞内のpHは6.0付近で生理的pH7.4より低いため、リポソーム内のpHも変化する。このpH変化をリアルタイムで追跡するには、一般にpH変化に敏感な蛍光試薬が用いられる。例えば、ピラニンは、pHが低いときには403nm付近に、pHが高いときには450nm付近に蛍光ピークを示すので、リポソームに内包されたピラニンの403nmと450nmのピーク比から、リポソーム内のpH変化を測定することができる。本発明のリポソームでは、aqueous content mixingによるリポソーム内のpH変化はほとんど起きなかった(実施例2(4))。以上より、本発明のリポソームからの搬送目的物の放出は、細胞によるリポソームの貪食や膜融合ではなく、細胞表面でリポソーム膜が崩壊して、内包物の放出が起きていることを示している。
(12)医薬品組成物/診断薬/センサー
本発明のリポソームを含む医薬組成物としては、血小板代替物、血管障害、血管損傷、血栓形成部位の検査、及び血栓症等の予防・治療・診断等の医薬品、あるいは癌等に対する診断・治療用試薬等がある。また、診断薬として用いる場合には、診断対象物に対するリガンドをリポソーム膜上に結合させ、該リポソームに、酵素、蛍光物質、X線造影剤等を内包させることにより、診断対象物の測定診断試薬として用いることができる。さらに、該リポソームが速放性を有する場合には、センサーとしての利用も可能である。
本発明のリポソームを医薬組成物として利用するにあたっては、各種疾患に対応して、血管内投与法、腹腔内投与法、局所投与法などにより投与することができる。また、その投与量は、目的とする薬理作用、薬剤の種類等により、適宜調節することができる。
以下、本発明をより詳細に説明するために実施例を挙げるが、本発明はこれらにより何ら限定されるものではない。
【実施例1】
フィブリノゲンCγ由来のアミノ酸配列を含むペプチドを表面に固定化し、カルセインを内包したリポソーム(以下、15aa−C−リポソームという)の、脂質部分にローダミンとNBDを含むリポソーム(以下、15aa−R−NBD−リポソームという)、ピラニンを内包したリポソーム(以下、15aa−Py−リポソームという)、及びRGDを含むペプチドを表面に固定化し、カルセインを内包したリポソーム(以下、RGD−C−リポソームという)、脂質部分にローダミンとNBDを含むリポソーム(以下、RGD−R−NBD−リポソームという)、及びピラニンを内包したリポソーム(以下、RGD−Py−リポソームという)の作製
(1)カルセインを内包したリポソームの作製
ジミリストイルホスファチジルコリン(Avanti,Birmingham,AL,USA)7mg、コレステロール(Sigma Chemical,St.Louis,MO,USA)2mg、N−3−(2−ジチオピリジル)プロピオニルホスファチジルエタノールアミン(Avanti)1.3mgをクロロホルム1mlとエーテル2mlに溶解させ、ついで100mMカルセイン(Molecular Probe,Eugene,OR,USA)溶液1mlを加え、N下、浴槽型ソニケーター(Branson,Danbury,CT,USA)を用いて20℃,5分間超音波処理した。生成するエマルジョンを減圧下(350−400mmHg)でロータリーエバポレーターを用いて有機溶媒を除去すると試料はゲル状になり、ここに、さらに1mlの100mMカルセインを加え、再び680−700mmHgの減圧下で残っている有機溶媒を除去した。得られたリポソームはポアサイズ200nmのミリポアフィルター(Watman,Kent,UK)を用いてサイズを一定(直径約200nm)にし、封入されなかったカルセインをセファデックスG−25カラム(Pharmacia Biotech,Uppsala,Sweden)で除いた。
(2)脂質部分にローダミンとNBDを含むリポソームの作成
ジミリストイルホスファチジルコリン7mg,コレステロール2mg,N−3−(2−ジチオピリジル)プロピオニルホスファチジルエタノールアミン1.3mg,N−(7−ニトロベンゾ−2−オキサ1,3−ジアゾ−4−イル)ホスファチジルエタノールアミン(Avanti,Birmingham,AL,USA)0.13mg,N−(リサミン ローダミンBスルフォニル)ホスファチジルエタノールアミン(Avanti,Birmingham,AL,USA)0.19mgをクロロホルム1mlとエーテル2mlに溶解させ、ついで5mM HEPES/アセテートバッファー(pH7.4)1mlを加え、N下、浴槽型ソニケータを用いて20℃,5分間超音波処理した。生成するエマルジョンを減圧下(350−400mmHg)でロータリーエバポレーターを用いて有機溶媒を除去すると資料はゲル状になり、ここに、さらに1mlのHEPES/アセテートバッファーを加え、再び680−700mmHgの減圧下で残っている有機溶媒を除去した。得られたリポソームはポアサイズ200nmのミリポアフィルターを用いてサイズを一定(直径200nm)にした。
(3)ピラニンを内包したリポソームの作成
ジミリストイルホスファチジルコリン7mg,コレステロール2mg,N−3−(2−ジチオピリジル)プロピオニルホスファチジルエタノールアミン1.3mgをクロロホルム1mlとエーテル2mlに溶解させ、ついで2.5mM HEPES/75mM NaClバッファーpH7.4に溶解させた35mMピラニン(Molecular Probe,Eugene,OR,USA)溶液1mlを加え、N下、浴槽型ソニケータを用いて20℃,5分間超音波処理した。生成するエマルジョンを減圧下(350〜400mmHg)でロータリーエバポレーターを用いて有機溶媒を除去すると試料はゲル状になり、ここに、さらに1mlの35mMピラニンを加え、再び680−700mmHgの減圧下で残っている有機溶媒を除去した。得られたリポソームはポアサイズ200nmのミリポアフィルターを用いてサイズを一定(直径200nm)にし、封入されなかったピラニンをセファデックスG−25カラムで除いた。
(4)フィブリノゲンCγ由来のアミノ酸配列を含むペプチド、及びRGDを含むペプチドの固定化
得られたリポソームに必要量の15aaペプチド(配列番号6)又はRGDペプチド(配列番号7)を加え、室温でインキベートした後、反応しなかったペプチドをセファデックスG−25カラムで除いた。リポソームに結合したペプチドの数は、反応の際に出てくるピリジン−2−チオン(343nmにおいてe=8.08×10−1cm−1)の定量、リポソームの濃度は、リポソームサイズ及びリピド濃度から求めた。
【実施例2】
血小板との相互作用における、リガンドの表面密度に依存した15aa−C−リポソームからのカルセイン放出速度
96穴のマイクロプレートを30μg/mlタイプIコラーゲン(新田ゼラチン、大阪、日本)でコーティングし、この上にPlatelet Rich Plasma(以下、PRPという)200μLを加え室温で1時間放置した。コラーゲンに粘着しなかった血小板を除き、ここへ実施例1で作製した15aa−C−リポソームを4.5×1010particles/mlの濃度で入れ、リポソームから放出されるカルセインの量を蛍光で測定した。測定はSafire(Tecan,Mannedorf,Switzerland)を用いて、Exc/Emi:490nm/520nmで行った。放出されるカルセインの量は、0.1%(w/v)Triton X−100(Sigma Chemical,St Louis,MO,USA)によって放出したカルセインの蛍光強度に対する割合として示した。ペプチドが表面に固定化されていないコントロールリポソームではカルセインの放出は起こらなかった(図4)。同様の実験を抗15aaペプチド抗体、フリーの15aaペプチド、又は、抗インテグリンα11bβ抗体存在下でおこなうと、15aa−C−リポソームからのカルセインの放出は著しく減少した。コラーゲン表面と15aa−C−リポソームとの相互作用では、カルセインの放出は見られなかった。カルセイン放出の半減期は、15aa−C−リポソーム(27000;リポソーム1個の表面に固定化されたペプチド数)では約3.5分,15aa−C−リポソーム(19000)では約1時間、15aa−C−リポソーム(7500)では約5時間、15aa−C−リポソーム(5900)では約18時間、15aa−C−リポソーム(4600)では約20時間であった(図1及び図3)。
(2)血小板との相互作用における、リガンドの種類に依存したリポソームからのカルセイン放出速度
リポソーム1個の表面に固定化するペプチドの数を20000とし、血小板表面との相互作用における15aa−C−リポソーム及びRGD−C−リポソームからのカルセイン放出速度を測定した。(1)と同様の方法でコラーゲン上に活性化血小板表面を作製し、ここへ実施例1で作製した15aa−C−リポソーム、またはRGD−C−リポソームを4.5×1010particles/mlの濃度で加え、(1)と同様の方法でリポソームから放出されるカルセインの量を測定した。血小板表面に存在するインテグリンα11bβに対して高い親和性を持つ15aaペプチドを固定化した15aa−C−リポソームでは、速やかなカルセインの放出が起こるが、インテグリンα11bβに対する親和性が低いRGDを含むペプチドを固定化したRGD−C−リポソームでは、カルセイン放出のレベルは低かった(図5)。
(3)リガンドの種類に依存したリポソームと血小板とのlipid mixing(脂質交換または脂質移動)
リポソーム1個の表面に固定化するリガンドの数を20000とし、リポソームと血小板との間のlipid mixingを測定した。(1)と同様の方法で作製した活性化血小板表面上に、実施例1で作製した15aa−R−NBD−リポソーム、またはRGD−R−NBD−リポソームを4.5×1010particles/mlの濃度で加え、NBDの蛍光強度変化測定をSafireを用いてExc/Emi:465nm/530nmで行った。Lipid mixingのレベルは、0.1%(w/v)Triton X−100によるNBDの蛍光強度の増加に対する割合として示した。15aa−R−NBD−リポソームとRGD−R−NBD−リポソームに対するlipid mixingのレベルは低く、一時間のインキュベーション後、夫々18%と10%であった(図6)。
(4)リガンドの種類に依存したリポソームと血小板とのaqueous content mixing
リポソーム1個の表面に固定化するリガンドの数を20000とし、リポソームと血小板との間のaqueous content mixingを測定した。(1)と同様の方法で作製した活性化血小板表面上に実施例1で作製した15aa−Py−リポソーム、またはRGD−Py−リポソームを4.5×1010particles/mlの濃度で加え、451nmと403nmに於けるピラニンの蛍光強度比の変化に基づき、以下の式からaqueous content mixingの割合を求めた。

15aa−Py−リポソームにおいてもRGD−Py−リポソームにおいても45分間のインキュベーションによる451nm/403nmの蛍光強度比の変化は1%以下で、リポソームと血小板とのaqueous content mixingはほとんど起こらなかった。
【実施例3】
フィブリノゲンCγ由来のアミノ酸配列を含むペプチドを表面に固定化し、ローダミンで蛍光ラベルしたリポソーム(15aa−R−リポソーム)の作製
実施例1と同様のリポソームの脂質構成成分にN−(リサミン−ローダミンBスルホニル)ホスファチジルエタノールアミン(Avanti)0.16mgを加え、カルセインを含まない溶液を用いて実施例1と同様の方法でリポソームを作製した。
【実施例4】
流動状態下における活性化血小板へのリポソームの粘着
直径2.5cm、厚さ0.5mmのガラス板を30μg/mlのタイプIコラーゲン(新田ゼラチン)でコーティングし、この上に全血を3分間、ずり速度1100s−1で還流し、コラーゲンに粘着しなかった血液成分を除去した。コラーゲン表面で活性化し粘着した血小板上に、15aa−R−リポソーム(4600及び42000)を3.8×10particles/mlの濃度、ずり速度1100s−1(最小動脈における平均ずり速度)で3分間還流すると、コラーゲン表面にリポソームの粘着によるローダミンの強い蛍光が観察された。蛍光の観察はEG−Labo(ニコン,東京,日本)を用い、Exc/Emi:550/590nmで行った。表面にペプチドを固定化していないコントロールリポソームを用いて同様の実験を行なった場合、コントロールリポソームはコラーゲン表面には粘着せず、コラーゲン表面でのローダミンの蛍光はほとんど見られなかった。
【実施例5】
(1)ヒト臍帯静脈内皮細胞(HUVEC)との相互作用における、リガンドの表面密度に依存したRGD−リポソームからのカルセイン放出速度
96穴のマイクロプレートを10μg/mlビトロネクチン(旭テクノグラス、東京)でコーティングし、この上にHUVEC(1×10/well)を粘着させ、ここへ実施例1で作製したRGD−C−リポソームを4.5×1010particles/mlの濃度で入れ、リポソームから放出されるカルセインの量を、実施例2と同様の方法で測定した。コントロールリポソームを用いて同様の実験を行った場合、コントロールリポソームからのカルセインの放出はほとんど見られなかった(図7)。抗αβ抗体存在下で同様の実験を行うと、RGD−C−リポソームからのカルセインの放出は著しく減少した。カルセイン放出の半減期は、RGD−C−(160000)では25分、RGD−C−リポソーム(120000)では35分、RGD−C−リポソーム(93000)では約8時間、RGD−C−リポソーム(70000)では約8.5時間であった(図2及び図3)。
(2)HUVECとRGD−リポソームとのlipid mixing
リポソーム1個の表面に固定化するリガンドの数を120000とし、HUVECとRGD−R−NBD−リポソームとのlipid mixingを測定した。実施例5(1)と同様の方法でHUVECを粘着させ、ここへ実施例1で作製したRGD−R−NBD−リポソームを加え、実施例2(3)と同様の方法でlipid mixingを測定したが、lipid mixingの割合は、1%以下であった。
(3)HUVECとRGD−リポソームとのaqueous content mixing
リポソーム1個の表面に固定化するリガンドの数を120000とし、HUVECとRGD−Py−リポソームとのaqueous content mixingを測定した。実施例5(1)と同様の方法でHUVECを粘着させ、ここへ実施例1で作製したRGD−Py−リポソームを加え、実施例2(4)と同様の方法でaqueous content mixingを測定したが、451nm/403nmの蛍光強度比は変化せず、リポソームとHUVECとのaqueous content mixingはほとんど起こらなかった。
【産業上の利用可能性】
本発明によれば、搬送目的物を特異的に標的組織あるいは細胞に輸送することができ、かつ、その標的組織あるいは細胞の近傍に搬送目的物を放出することが可能となるため、安定性の低い薬物であっても効率よく搬送され、かつ、安全性の高いドラック・デリバリー・システムを提供できる。また、本発明によれば、リポソーム膜上のリガンドの種類やリガンドの密度を変化させることにより、搬送目的物の放出速度を外部からの刺激無しにコントロールできるので、即効性を要する薬物への利用から、徐放製剤まで、幅広く活用することができる。また、このようなリポソームをセンサーとして用いるならば、検出すべき物質の濃度に依存した搬送目的物の放出を見ることができる。さらに、最も新しいイメージング技術であるFluorescence Molecular Tomography(FMT)においてもリガンド固定化リポソームの応用が可能である。例えば、近赤外蛍光を用いたFMTにより体表面から7−14cmまでの可視化が理論的には可能であることから、近赤外蛍光を内包したリガンド固定化リポソームを用いることにより、深部静脈中の血小板血栓をFMTにより発見することが可能である。
【配列表】



【図1】

【図2】

【図3】

【図4】

【図5】

【図6】

【図7】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
リポソームの膜構成成分が、リガンド結合部位を有する物質を含み、リガンドが前記リガンド結合部位に直接又はリンカーを介して結合されることによりリポソームの膜表面に直接または前記リンカーを介して結合されており、前記リガンドと該リガンドのレセプターとの相互作用によりリポソームから前記搬送目的物が放出される、前記搬送目的物を内包するリポソームからの搬送目的物の放出速度調節方法であって、該放出速度が、前記リガンドの密度を調節することにより調節される、リポソームからの搬送目的物の放出速度調節方法。
【請求項2】
前記リポソームの膜構成成分が、少なくとも、リン脂質、ステロイド、及びリガンド結合部位を有する物質を含む請求項1記載の方法。
【請求項3】
前記リガンドは、前記膜表面に共有結合により結合される請求項1又は2記載の方法。
【請求項4】
前記リガンド結合部位を有する物質がホスファチジルエタノールアミン類、ホスファチジルチオエタノールアミン類及びホスファチジル−エチレングリコール類から選ばれる少なくとも1種である請求項1ないし3のいずれか1項に記載の方法。
【請求項5】
前記リガンド結合部位を有する物質がホスファチジルエタノールアミン類である請求項4記載の方法。
【請求項6】
前記リガンドが、抗体、抗原、糖蛋白質、若しくはリポ蛋白質を含む蛋白質類、ペプチド類、ハプテン、糖鎖、核酸、多糖類、または、脂質である請求項1ないし5のいずれか1項に記載の方法。
【請求項7】
前記リガンドが、5個〜50個のアミノ酸からなるペプチドである請求項6記載の方法。
【請求項8】
前記リガンドが、フィブリノゲンCγ由来のアミノ酸配列を有するペプチドである請求項8記載の方法。
【請求項9】
前記リガンドが、Arg−Gly−Asp配列を含むペプチドである請求項8記載の方法。
【請求項10】
請求項1ないし9のいずれか1項に記載の方法によりリポソームからの搬送目的物の放出速度が調節されたリポソーム。
【請求項11】
請求項10記載のリポソームであって、搬送目的物として医薬を内包するリポソームを含有する医薬組成物。
【請求項12】
請求項11記載のリポソームであって、搬送目的物として診断のための標識物質を内包するリポソームを含有する診断薬。

【国際公開番号】WO2004/087106
【国際公開日】平成16年10月14日(2004.10.14)
【発行日】平成18年6月29日(2006.6.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−504165(P2005−504165)
【国際出願番号】PCT/JP2004/003765
【国際出願日】平成16年3月19日(2004.3.19)
【出願人】(000237204)みらかホールディングス株式会社 (11)
【Fターム(参考)】