説明

リポソームの懸濁液及びその製法

【課題】血漿中でのリポソームの凝集防止の為のリポソーム表面へのPEG結合リン脂質の固定化技術において、経済的に大量製造可能であり、しかも、保存中におけるリポソーム表面に固定化されたPEG結合リン脂質量の変化を防止し、品質管理上問題の無いリポソームの懸濁液を提供する。
【解決手段】リポソーム表面に固定化され、且つ、外水相に分散して、PEG結合リン脂質が存在する、薬物又は生理活性物質を含有するリポソームの懸濁液であり、(1)懸濁液中のリポソーム形成脂質濃度(2)懸濁液中のPEG結合リン脂質濃度(3)懸濁液におけるリポソーム表面に固定化されて存在するPEG結合リン脂質量割合及び懸濁液の外水相中に分散して存在するPEG結合リン脂質量割合に関して最適の数値限定をする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は血漿中でのリポソームの凝集が抑制され、生体に投与しても安全であるばかりでなく、経済的に大量製造可能で、特に保存安定性における品質管理上の問題が無いリポソームの懸濁液及びその製法に関するものである。本発明のリポソームの懸濁液におけるリポソーム内水相には種々の生理活性物質或いは薬剤を含有するので、各種の医療分野においてドラッグデリバリーとして使用され、特にヘモグロビン水溶液を含有した人工赤血球の懸濁液として好適である。
【背景技術】
【0002】
リポソームを水溶性或いは脂溶性の薬剤の担体として利用しようとする試みは広く行われてきた(Gregoriadis et al.,Ann.N.Y.Acad.Sci.,446.319(1985))。また、リポソームの内水相に酸素運搬体であるヘモグロビンを含有させ、リポソームを人工赤血球として利用する試みも行なわれている。しかしながら、これらの試みにおけるリポソームの懸濁液については生体に投与しても安全であるばかりでなく、経済的に大量製造可能であり、特に保存安定性における品質管理上の問題が無いと言う実用的な観点からの検討は十分に行なわれていなかった。
【特許文献1】特公平7-20857号公報
【特許文献2】特許第3466516号公報
【非特許文献1】人工血液.1995 ; 3(2) : 54-59.
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
リポソームを薬剤等の運搬体として利用する場合、リポソームを生体の血管内へ投与する必要がある。しかし、脂質のみから成るリポソームは血漿中でリポソーム同士が凝集すると言う問題があった。血漿成分の蛋白質がリポソームに吸着し、吸着された蛋白質を介してリポソーム同士が凝集するものと推定される。その凝集物の大きさは数十μmにも達し、血管内で凝集が起これば、リポソームの凝集物が血管を栓塞し、血流を阻害してしまう危険性がある。この問題解決の為、本発明者らはリポソームの表面にのみポリエチレングリコール結合リン脂質(以下、PEG結合リン脂質と言う)を固定化させ、血漿中でのリポソームの凝集を防止する方法を鋭意検討してきた(特公平7-20857)。この方法では、リポソーム表面に固定化されたPEG結合リン脂質のPEG部分がリポソーム表面から外方向に伸びてなり、血漿中の蛋白質がリポソームに吸着するのを阻止する結果、血漿中のリポソーム同士の凝集を防止するものと推定される。この方法はリポソームの血漿中での凝集防止に効果的である。以上の様に、薬剤又は生理活性物質を含有させたリポソームの懸濁液において、PEG結合リン脂質をリポソーム表面に固定化する技術により、血漿中でのリポソーム凝集防止効果が有り、生体に投与しても安全である事は従来技術により達成出来ていた。しかし、リポソームの懸濁液作成後にPEG結合リン脂質を水溶液として添加して、リポソーム表面にPEG結合リン脂質を固定化する方法において、外水相中のPEG結合リン脂質の存在の有無に着目した検討は行なわれていなかった。外水相中のPEG結合リン脂質を完全に除去し、リポソーム表面にのみPEG結合リン脂質が固定化されて存在する様にするには、生理食塩水を使った遠心洗浄、又は限外濾過洗浄或いはカラム樹脂による吸着除去等による外水相置換が必要である。これは大量製造時には大掛かりな工程となり、コストアップに繋がってしまい経済的ではない。本発明の目的は、外水相中のPEG結合リン脂質を除く工程を全く省略し、PEG結合リン脂質がリポソーム表面に固定化されて存在し、且つ、リポソーム懸濁液の外水相にも分散して存在する、薬剤又は生理活性物質を含有させたリポソームの懸濁液において、コスト的に安く大量製造出来、特に保存中において、リポソーム表面に固定化されたPEG結合リン脂質量の変化を防止して、品質管理上の問題の無いリポソームの懸濁液及びその製法を提供する事にある。
【課題を解決するための手段】
【0004】
上記課題を解決する為、本発明者らが鋭意検討を重ねた結果、外水相中のPEG結合リン脂質を除く工程を全く省略し、外水相中にPEG結合リン脂質を存在させたままでも、(1)懸濁液中のリポソーム形成脂質濃度(2)懸濁液中のPEG結合リン脂質濃度(3)懸濁液におけるリポソーム表面に固定化されたPEG結合リン脂質量割合及び懸濁液の外水相中に分散するPEG結合リン脂質量割合について適切な数値限定をする事により、コスト的に安く大量製造出来、特に保存中において、リポソーム表面に固定化されたPEG結合リン脂質量の変化を防止して、品質管理上の問題の無い事を見出し、本発明を完成させた。本発明によれば下記のコスト的に安く大量製造出来、特に保存中において、リポソーム表面に固定化されたPEG結合リン脂質量の変化を防止して、品質管理上の問題の無いリポソーム懸濁液及びその製法が提供される。
【0005】
1) 薬剤又は生理活性物質を含有させたリポソームの懸濁液であって、ポリエチレングリコール結合リン脂質が、前記リポソームの表面に固定化されて存在し、且つ、前記リポソームの懸濁液の外水相に分散して存在し、前記リポソームの懸濁液中のリポソーム膜形成脂質の濃度が3.05〜5.10w/v%であり、ポリエチレングリコール結合リン脂質の濃度が0.08〜0.25w/v%である事を特徴とするリポソームの懸濁液及びその製法。
【0006】
2) 前記リポソームの懸濁液中の前記ポリエチレングリコール結合リン脂質量の85〜98%が前記リポソームの表面に固定化されて存在し、且つ、2〜15%が前記リポソームの懸濁液の外水相中に分散して存在する事を特徴とする(1)に記載のリポソームの懸濁液及びその製法。
【0007】
3) 前記生理活性物質がヘモグロビンである事を特徴とする(1)又は(2)に記載のリポソームの懸濁液及びその製法。
【0008】
4) 前記リポソームの懸濁液の外水相が前記ポリエチレングリコール結合リン脂質を分散させた生理食塩水である事を特徴とする(1)〜(3)のいずれかに記載のリポソームの懸濁液及びその製法。
【0009】
5) 前記ポリエチレングリコール結合リン脂質が存在しない前記リポソームの懸濁液に対して、前記ポリエチレングリコール結合リン脂質を前記リポソームの懸濁液中の濃度が0.08〜0.25w/v%となる様に添加し、30〜50℃、2〜30時間インキュベーションする事を特徴とする(1)〜(4)のいずれかに記載のリポソームの懸濁液の製法。
【発明の効果】
【0010】
以上、詳述した様に、本発明はリポソーム表面に固定化され、且つ、外水相中に分散して、PEG結合リン脂質が存在する、薬剤又は生理活性物質を含有するリポソームの懸濁液であり、(1)懸濁液中のリポソーム形成脂質濃度(2)懸濁液中のPEG結合リン脂質濃度(3)懸濁液におけるリポソーム表面に固定化されたPEG結合リン脂質量割合及び懸濁液の外水相に分散するPEG結合リン脂質量割合に関して最適の数値限定をする事により、外水相中にPEG結合リン脂質を存在させたままで、血漿中でのリポソーム同士の凝集防止効果及び生体に投与した時の安全性に問題が無いばかりでなく、外水相中のPEG結合リン脂質を除去する工程が省略出来る為、コスト的に安く大量製造出来、特に保存中におけるリポソーム表面に固定化されたPEG結合リン脂質量の変化を防止出来、保存安定性における品質管理上問題の無いリポソームの懸濁液及びその製法を提供出来る。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下、本発明をより具体的に説明する。
本発明におけるリポソーム膜形成脂質は天然又は合成の脂質が使用可能である。特にリン脂質が好適に使用され、これらを常法に従って水素添加したものがあげられる。更にリポソーム膜形成脂質には所望によりステロール等の膜構造強化剤や荷電物質として高級飽和脂肪酸を添加しても良い。リン脂質として水素添加大豆リン脂質、膜構造強化剤としてコレステロール、荷電物質としてステアリン酸等が好適に使用される。
【0012】
本発明のリポソーム内水相に含有される物質としては制癌剤、免疫抑制剤等の薬剤、ヘモグロビン等の生理活性物質があげられる。ヘモグロビンを内水相に含有したリポソームは人工赤血球として好適に使用される。
【0013】
本発明におけるリポソーム表面への蛋白吸着抑制剤又はリポソーム凝集抑制剤は、一端に疎水性部を有し、かつ、他端に親水性高分子鎖を有する化合物である。疎水性部の好適な例としては、前述のリポソーム膜形成脂質と同様のリン脂質が使用され、親水性高分子鎖の好適な例としてはポリエチレングリコールが使用され、ボリエチレングリコールとリン脂質が共有結合したPEG結合リン脂質が好適に使用される。
【0014】
本発明のPEG結合リン脂質が水に対して均一に溶解する場合は、通常一般に行なわれているリポソーム化の方法に従って製造された薬剤又は生理活性物質を含有させたリポソーム懸濁液に、本発明のPEG結合リン脂質の水溶液を添加する事によって、本発明のPEG結合リン脂質がリポソーム表面に固定化されて存在し、且つ、外水相中に分散して存在する、リポソームの懸濁液を製造する事が出来る。この場合、PEG結合リン脂質は水溶液中でミセル様の分子集合体を形成して分散していると思われる。ここにリポソームが共存し、一定の温度、一定の時間、インキュベーションする事により、PEG結合リン脂質分子中の疎水性部がリポソーム膜中の疎水性領域に疎水性相互作用により固定化され、親水性のPEG鎖はリポソームの外水相側表面に露出した構造となり、リポソーム表面にPEG結合リン脂質が固定化される。
【0015】
本発明のリポソームの懸濁液は用途に応じて、含有される薬剤又は生理活性物質の種類、そして、リポソーム懸濁液中のリポソーム膜形成脂質の濃度等が決定される。本発明のリポソームの懸濁液に採用される外水相媒体は生体適合性を有する液体が好ましく、生理食塩水が好適に使用され、所望により亜硫酸塩類等の抗酸化剤が添加される。なお。本発明における外水相とは、本発明のリポソームの懸濁液からリポソーム及びリポソーム表面に固定化されたPEG結合リン脂質を除いた成分を示す。
【0016】
リポソーム懸濁液中のリポソーム膜形成脂質の濃度が高すぎると、リポソーム懸濁液の粘度が高くなり、血管中に投与した場合、循環器系に負担をかける事になり、また投与される総脂質量が多くなるので安全性の面で懸念がある。リポソーム膜形成脂質の濃度が低すぎると、必然的に含有された薬剤又は生理活性物質の濃度も低くなるので、用途に対する効果が期待出来なくなる。従って、本発明において設定されたリポソーム懸濁液中のリポソーム膜形成脂質の濃度の適正値は3.05〜5.10w/v%であり、好ましくは3.25〜4.87w/v%である。
【0017】
リポソーム表面にPEG結合リン脂質を固定化する為、PEG結合リン脂質を水溶液としてリポソームの懸濁液に添加する場合、リポソームの懸濁液中のPEG結合リン脂質の濃度が低いと、リポソーム表面への固定化量が不十分となり、血漿中でのリポソーム凝集防止効果が低下し、この濃度が高すぎるとリポソームが不安定となり、内水相中に含有された薬剤又は生理活性物質の漏れ出しの懸念がある。従って、本発明におけるリポソーム懸濁液中のPEG結合リン脂質の濃度は0.08〜0.25w/v%であり、より好ましくは0.11〜0.17w/v%である。
【0018】
本発明のリポソーム懸濁液中のPEG結合リン脂質量のうち、表面固定化処理終了時に、何%がリポソーム表面に固定化されて存在し、何%が外水相中に分散して存在するかは、リポソームの懸濁液作成後にPEG結合リン脂質を水溶液として添加してリポソーム表面にPEG結合リン脂質を固定化する方法において、リポソーム懸濁液中のリポソーム膜形成脂質濃度及びPEG結合リン脂質濃度を適切に設定した後、表面固定化処理温度及び表面固定化処理時間の条件設定により調節される。
【0019】
表面固定化処理温度が高い程、或いは表面固定化処理時間が長い程、リポソーム懸濁液中のPEG結合リン脂質量のうち、リポソーム表面に固定化されて存在する割合は大きくなる。リポソーム懸濁液中のPEG結合リン脂質量のうち、リポソーム表面に固定化されて存在する割合を100%に限りなく近くにしようとすると、表面固定化処理温度が高く、或いは表面固定化処理時間が長くなり、経済的な製造工程条件設定に不利となるばかりでなく、生理活性物質が変性、失活し、或いはリポソーム崩壊の懸念がある。また、外水相中のPEG結合リン脂質を完全に除去し、リポソーム表面にのみPEG結合リン脂質が固定化されて存在する様にするには、生理食塩水を使った遠心洗浄又は限外濾過洗浄或いはカラム樹脂による吸着除去等による外水相置換が必要である。これは大量製造時には大掛かりな工程なり、コストアップに繋がってしまい経済的ではない。従って、本発明においては外水相置換は採用せず、表面固定化処理終了時に、外水相には一定量のPEG結合リン脂質が分散して存在する。
【0020】
表面固定化処理温度が低い程、或いは表面固定化処理時間が短い程、リポソーム懸濁液中のPEG結合リン脂質量のうち、リポソーム表面に存在する割合が小さくなる。リポソーム懸濁液中のPEG結合リン脂質量のうち、リポソーム表面に固定化されて存在する割合が小さ過ぎると、血漿中でのリポソーム凝集防止効果が不十分となる懸念があるばかりでなく、保存中にリポソーム表面に固定化されたPEG結合リン脂質量が徐々に増加し、保存安定性における品質管理上の問題が有った。
【0021】
従って、本発明におけるリポソームの懸濁液においては、PEG結合リン脂質量の85〜98%がリポソーム表面に固定化されて存在し、2〜15%が外水相に分散して存在する事が好ましく、このリポソームの懸濁液を製造する為の表面固定化処理温度は30〜50℃であり、表面固定化処理時間は2〜30時間である。より好ましくは、リポソーム懸濁液中のPEG結合リン脂質重量の90〜98%がリポソーム表面に固定化されて存在し、2〜10%が外水相に分散して存在する事であり、このリポソームの懸濁液を製造する為の表面固定化処理温度は35〜50℃であり、表面固定化処理時間は6〜30時間である。
【実施例1】
【0022】
次に本発明の実施例により具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。なお、以下に示す工程は無菌的環境下での操作とした。
【0023】
水素添加大豆ホスフアチジルコリン182g、コレステロール89g、ステアリン酸65gから成る均一混合脂質に水336gを加えて、85℃で30分間加温して水和膨潤均一混合脂質を調整した。期限切れ濃厚赤血球製剤からヘモグロビンを精製、濃縮し、イノシトールヘキサリン酸をヘモグロビンに対して等モル添加したヘモグロビン濃度42.6w/w%の濃厚高純度ヘモグロビン溶液を調整した。前記水和膨潤均一混合脂質672gに前記濃厚高純度ヘモグロビン溶液2,400gを添加し、45℃以下の温度で、高速攪拌法により乳化し、ヘモグロビン含有リポソーム混合乳化液を得た。前記乳化液を生理食塩水により希釈して、孔径0.45μmの膜による循環濾過により粒子径の制御を行なった。更に、分画分子量30万の限外濾過による循環濾過システムを用いて、生理食塩水による加水濃縮操作で、リポソームに含有されなかったヘモグロビン及びイノシトールヘキサリン酸を除去、濃縮し、ヘモグロビン含有リポソームの生理食塩水による懸濁液を得た。
【0024】
このヘモグロビン含有リポソームの生理食塩水による懸濁液に、PEG結合リン脂質としてDSPE-PE5000(日本油脂製)を生理食塩水に溶解させたPEG結合リン脂質水溶液を添加して、ヘモグロビン含有リポソーム及びPEG結合リン脂質を含有し、生理食塩水による懸濁液中のリポソーム膜構成脂質濃度が4.06w/v%であり、PEG結合リン脂質濃度が0.14w/v%である様に調整した。前記のPEG結合リン脂質を添加したヘモグロビン含有リポソームの生理食塩水による懸濁液を、表面固定化処理温度37℃、表面固定化処理時間24時間で処理し、PEG結合リン脂質がリポソーム表面に固定化されて存在し、且つ、外水相に分散して存在するヘモグロビン含有リポソームの生理食塩水懸濁液4,260mlを得た。
前記リポソーム懸濁液中のPEG結合リン脂質量の95%がリポソーム表面に存在し、5%が外水相に存在していた。前記リポソーム懸濁液におけるヘモグロビン収率(仕込みヘモグロビン量に対するリポソームに含有されたヘモグロビン量の割合)は25%であった。
【0025】
リポソーム懸濁液中のPEG結合リン脂質の測定法を次に示す。PEG結合リン脂質がリポソーム表面及び外水相中に存在するヘモグロビン含有リポソームの生理食塩水懸濁液(懸濁液Aとする)を10℃で超遠心分離(50,000G, 120分)した後、上清を取り除き、取り除いた上清と同量の生理食塩水を加えて懸濁し、外水相にPEG結合リン脂質が存在せず、リポソーム表面にのみPEG結合リン脂質が存在するヘモグロビン含有リポソームの生理食塩水懸濁液を得た(懸濁液Bとする)。懸濁液A, 懸濁液Bそれぞれを内部標準液を含有したクロロホルムでPEG結合リン脂質及びリポソーム膜形成脂質を抽出した。これを液体クロマトグラフ法によって、PEG結合リン脂質の標準物質のピーク面積に対して算出し、懸濁液A中のPEG結合リン脂質量及び懸濁液B中のPEG結合リン脂質量(後者はリポソーム表面に固定化されたPEG結合リン脂質量に相当する)を測定した。懸濁液Aで得たPEG結合リン脂質量(リポソーム表面に存在するPEG結合リン脂質量+外水相中に存在するPEG結合リン脂質量)から懸濁液Bで得たPEG結合リン脂質量(リポソーム表面にのみ存在するPEG結合リン脂質量)を差し引いて、外水相中に存在するPEG結合リン脂質量を算出した。リポソーム表面に固定化されたPEG結合リン脂質をリポソーム懸濁液中のPEG結合リン脂質(リポソーム表面に存在するPEG結合リン脂質量+外水相中に存在するPEG結合リン脂質量)で除した値を表面固定化率(%)とした。
【0026】
本発明のリポソーム懸濁液0.1mlとクエン酸添加ヒト血漿0.5mlとを混合し、光学顕微鏡(400倍)にて観察すると、1μmを越えるリポソーム凝集物は全く存在しなかった。
また、4℃、6ヶ月の保存において、表面固定化率(%)の変化を殆ど認めなかった(図1)。
5%牛血清アルブミン生理食塩水により、85%血液交換を行なったウサギに本発明のリポソーム懸濁液を30ml/kg投与し、酸素運搬の指標である血中乳酸値の測定を行なったところ、血液交換後2〜3時間で正常乳酸値に回復した事を確認し、更に25時間生存を確認した後、計画屠殺した。病理組織学的観察を行なった結果、リポソーム凝集塊が引き起こしたと推定される血管内凝固等は観察されず、その他の異常も見られなかった。
【実施例2】
【0027】
前記ポリエチレングリコール結合リン脂質が存在しない前記リポソームの懸濁液の作成が終了するまで実施例1と同じ方法でサンプルを作成した後、以下の様に表面固定化処理を行なった。このヘモグロビン含有リポソームの生理食塩水による懸濁液に、PEG結合リン脂質としてDSPE-PE5000(日本油脂製)を生理食塩水に溶解させたPEG結合リン脂質水溶液を添加して、ヘモグロビン含有リポソーム及びPEG結合リン脂質を含有し、生理食塩水による懸濁液中のリポソーム膜形成脂質濃度が4.50w/v%であり、PEG結合リン脂質濃度が0.16w/v%である様に調整した。前記のPEG結合リン脂質を添加したヘモグロビン含有リポソームの生理食塩水による懸濁液を表面固定化処理温度45℃、表面固定化処理時間6時間で処理し、PEG結合リン脂質がリポソーム表面に固定化されて存在し、且つ、外水相に分散して存在するヘモグロビン含有リポソームの生理食塩水による懸濁液を得た。
前記リポソーム懸濁液中のPEG結合リン脂質量の90%がリポソーム表面に固定化されて存在し、10%が外水相に分散して存在していた。
リポソーム懸濁液中のPEG結合リン脂質の測定法は実施例1と同じ測定方法によった。
【0028】
本発明のリポソーム懸濁液0.1mlとクエン酸添加ヒト血漿0.5mlとを混合し、光学顕微鏡(400倍)による観察では、実施例1と同様の結果であった。
また、4℃、6ヶ月の保存において、表面固定化率(%)の変化は、実施例1と同様、殆ど認めなかった。
5%牛血清アルブミン生理食塩水により、85%血液交換を行なったウサギに本発明のリポソーム懸濁液を30ml/kg投与した実験では、実施例1と同様の結果であった。
(比較例1)
【0029】
表面固定化処理終了まで、実施例1と同じ方法でサンプルを作製した後、以下の様に外水相中のPEG結合リン脂質を完全に除去する工程を追加した。表面固定化処理後のヘモグロビン含有リポソームの生理食塩水による懸濁液を、生理食塩水により10倍に希釈して遠心分離(17,000rpm, 30min)し、沈殿リポソームを更に前記と同量の生理食塩水を用いて遠心洗浄を2回繰り返した。洗浄後の沈殿リポソームをリポソーム膜形成脂質濃度が4.06%となる様に生理食塩水中に懸濁させ2,556mlを得た。外水相中のPEG結合リン脂質の除去終了時に、実施例1と同じ方法で分析し、リポソーム懸濁液中のPEG結合リン脂質量の100%がリポソームの表面に存在し、PEG結合リン脂質は外水相中には存在しなかった。この方法では外水相中のPEG結合リン脂質を完全に除去する工程の追加が必要なので、実施例1と比較すると、ヘモグロビン収率は15%に低下し、表面固定化処理工程費は設備、時間、人件費その他含めて40〜59%の増加となった。
【0030】
また、4℃、6ヶ月の保存において、表面固定化率(%)は10%程度の減少が認められた(図1)。
血漿中でのリポソーム凝集防止効果及びウサギを用いた85%血液交換実験の結果は実施例1と同様であった。
(比較例2)
【0031】
ヘモグロビン含有リポソームの生理食塩水による懸濁液に、PEG結合リン脂質を生理食塩水に溶解させたPEG結合リン脂質水溶液を添加する工程まで実施例1と同じ方法でサンプルを作製した。前記のPEG結合リン脂質を添加したヘモグロビン含有リポソームの生理食塩水による懸濁液を、表面固定化処理温度37℃、表面固定化処理時間20分で処理し、PEG結合リン脂質がリポソーム表面に固定化されて存在し、且つ、外水相に分散して存在するヘモグロビン含有リポソームの生理食塩水懸濁液を得た。実施例1と同じ方法で分析し、前記リポソーム懸濁液中のPEG結合リン脂質重量の51%がリポソーム表面に固定化されて存在し、49%が外水相に分散して存在していた。
【0032】
4℃の保存において、表面固定化率(%)は6ヶ月で、約40%の増加があり、保存安定性における品質管理上の問題があった(図1)。






【図面の簡単な説明】
【0033】
【図1】4℃保存における保存期間(月)経過によるリポソーム表面固定化率の変化を示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
薬剤又は生理活性物質を含有させたリポソームの懸濁液であって、ポリエチレングリコール結合リン脂質が、前記リポソームの表面に固定化されて存在し、且つ、前記リポソームの懸濁液の外水相に分散して存在し、前記リポソームの懸濁液中のリポソーム膜形成脂質の濃度が3.05〜5.10w/v%であり、ポリエチレングリコール結合リン脂質の濃度が0.08〜0.25w/v%である事を特徴とするリポソームの懸濁液及びその製法。
【請求項2】
前記リポソームの懸濁液中の前記ポリエチレングリコール結合リン脂質量の85〜98%が前記リポソームの表面に固定化されて存在し、且つ、2〜15%が前記リポソームの懸濁液の外水相中に分散して存在する事を特徴とする請求項1に記載のリポソームの懸濁液及びその製法。
【請求項3】
前記生理活性物質がヘモグロビンである事を特徴とする請求項1又は2に記載のリポソームの懸濁液及びその製法。
【請求項4】
前記リポソームの懸濁液の外水相が前記ポリエチレングリコール結合リン脂質を分散させた生理食塩水である事を特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載のリポソームの懸濁液及びその製法。
【請求項5】
前記ポリエチレングリコール結合リン脂質が存在しない前記リポソームの懸濁液に対して、前記ポリエチレングリコール結合リン脂質を前記リポソームの懸濁液中の濃度が0.08〜0.25w/v%となる様に添加し、30〜50℃、2〜30時間インキュベーションする事を特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載のリポソームの懸濁液の製法。

【図1】
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【公開番号】特開2008−24646(P2008−24646A)
【公開日】平成20年2月7日(2008.2.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−199054(P2006−199054)
【出願日】平成18年7月21日(2006.7.21)
【出願人】(000109543)テルモ株式会社 (2,232)
【Fターム(参考)】