説明

リポソーム組成物

本発明は、医薬グレードの柑橘系(アウランティオイデアエ)精油0.5から5.0重量部;医薬グレードのラベンダー油0.5から5.0重量部;ビタミンE0.1から1.5重量部;ビタミンA0.1から1.5重量部;エトキシ化ヒマシ油1.0から6.0重量部;リン脂質0.1から1.0重量部;蒸留水15から30重量部;エタノール96%65から75重量部を含有するリポソーム組成物に関する。本組成物は、創傷性、熱傷性、凍傷性、感染性の皮膚表面の治療に使用することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、精油およびビタミンを含有するリポソーム組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
天然由来の、または合成により調製された医薬品および治療用組成物の使用が19世紀から討議されていることは公知である。この討議にかかわらず、先進国の薬局方が植物由来の活性成分を有する幾つかの登録された組成物を含有することは事実である。現在まで、この討議は、天然の、第一に植物由来の組成物が重要性の増大とともに上市されるというような事実を医師に受け入れさせた。
【0003】
天然由来の材料から製造された組成物の使用は、人類の歴史と同じ年数を重ねている。
【0004】
植物の部分に見出すことができる材料の多くは、これらの材料が濃縮状態で使用される場合にのみ活性成分として考慮することができる。この意味において、植物中に存在するタンパク質、炭水化物、植物性油脂、ビタミン自体は活性成分とみなすことができない。
【0005】
有効物質の選択の本質的態様は、有効物質が均一化合物か、幾つかの類似の化合物の組合せか、多くの異なる薬物(化合物)の抽出物の混合物かどうかである。
【0006】
この選択の態様の重要性の順序は、治療的価値、技術的可能性および経済的考慮により決定される。
【0007】
有効植物物質の抽出技術は、物理的作業に基づく。幾つかの特定の場合においては、有益な材料は、物理的プロセスにより得られた濃縮物からの化学的プロセスに続くさらなる物理的分離操作により抽出される。薬用植物の収穫および治療用物質を含有しない植物の部分の除去の後、乾燥、切断、粉砕または圧搾プロセスが適用される。
【0008】
圧搾プロセスは、好適な植物部分からの油(親油)相の抽出のために提唱されている。
【0009】
水、アルコールまたは稀に油により実施される抽出により、親水特性の物質および疎水(親油)特性の物質とが分離される。
【0010】
抽出作業により得られた物質(抽出物)は、さらなる物理的方法またはこれらの組合せにより濃縮および/または精製される。ほとんどの場合、物理的方法は、蒸発、蒸留または水蒸気蒸留を含む。
【0011】
水抽出物へのアルコールの添加により、アルコールに不溶性の物質を沈澱させることができる。
【0012】
アルコール抽出物のチンキの蒸発により、油を得ることができる。この油は、蒸留してさらなる精製または分離(分留)を達成することができる。
【0013】
水蒸気蒸留は、植物油の最も有益な成分、即ち油溶性化合物を分離することができる特定のプロセスである。このプロセスにより、有効物質を30から50%まで抽出することができる。
【0014】
精油または精油濃縮物は、化学的、薬学的、技術的に最良の植物由来の公知活性物質である。
【0015】
精油または精油濃縮物は、これらがいかなる残留物をも残さずに蒸発するというこれらの特性にちなんだ集合的名称を得た。精油または精油濃縮物は、強力な芳香性を有する、激しく蒸発する材料である。
【0016】
精油または精油濃縮物は、ほとんど全てが互いに自由に混合することができる。精油または精油濃縮物は、ほぼ全てが油脂、植物油により自由に希釈することができる。
【0017】
精油は、好適に選択された植物部分から、水蒸気蒸留、低温圧搾、アルコール抽出により単離することができる(約75%が水蒸気蒸留によるものであり、20%がアルコール抽出物であり、5%が低温圧搾油である。)。
【0018】
市場には精油の約100のタイプが存在し、このうち約50のタイプはアロマテラピー、即ち香気療法に適用される。油の10から20のタイプは、ヒト医療のために国の薬局方に登録されている製品である。(幾つかの極東の薬局方においては、20種超の活性物質が登録されている。)精油は、精油の生理学的効果を2から50mgの単回用量で、10から500mgの1日用量で及ぼす。地理的条件および文化に応じて、精油は個人衛生のために、および美容調製物において頻繁に使用される。
【0019】
14種の精油のヒト皮膚に対する治療効果を比較した(8種の適応症:炎症、再生、湿疹、脱毛、足真菌症、妊娠線(ストレッチマーク)、蜂巣炎、疱疹の症例)。結果を表1にまとめる。
【0020】
【表1】

表1に使用されている表現の意味
「単独での皮膚に対する効果」は、所与の精油がこれ自体効果を有する、8種の適応症の中の適応症の数を意味する。
「混合物での皮膚に対する効果」は、所与の精油が他の精油とあいまって効果を有する、8種の適応症の中のさらなる適応症の数を意味する。
「一般炎症軽減効果」
+:所与の精油が軽減効果を有する。
−:所与の精油が有効でない。
「皮膚炎阻害効果」
+:所与の精油が阻害効果を有する。
−:所与の精油が有効でない。
「皮膚再生効果」
+:有効である。
−:有効でない。
【0021】
表1は、レモン油およびラベンダー油が皮膚に対して最も万能な治療効果を有することを示している。
【0022】
ラベンダー油は、ラバンジュラ・アングスティフォリア(Lavandula angustifolia)の新鮮な開花時の先端部分から、水蒸気蒸留に続く好適な純化により得ることができる。この植物の精油含有率は、1%である。
【0023】
薬局方品質:ラバンジュラエ・アエテロレウム(Lavandulae Aetheroleum)
Ph.Eu.4.1による既知成分
酢酸リナリル25から46%;リナロール20から45%;テルピネン−4−オール最大6%;ならびにリモネン、シネオール、カンファー、酢酸ラバンジュリル、ラバンジュロール、α−テルピネオール、3−オクタノンの成分数千分の1から最大2.5%まで。
【0024】
Ph.Hg.VIIによれば、ラベンダー油はリナロールおよびリナロールの酢酸エステルを35から60%含有すべきである。
【0025】
この薬局方においては、使用することができる油についての幾つかの物理的パラメータ(密度、屈折率、旋光度など)が挙げられている。
【0026】
アロマテラピーにおいて、ラベンダー油は、適応症の最も広範な分野において使用され、最も初期から適用されている一般的な精油である。
【0027】
ラベンダー油は、
任意の創傷、特に治癒が遅い創傷、炎症性創傷、化膿性創傷、
熱傷性、潰瘍性、湿疹性の皮膚表面および
日焼けした皮膚
の治療に使用される。
【0028】
特定の薬局方においては、許容される1日治療用量は70から300mgである。
【0029】
レモン油は、キトルス・メディカ・サブスピーシーズ・リモノン(Citrus medica L.ssp.limonon)の新鮮な果実の皮から低温で搾取される。
【0030】
この植物のこの部分は、1.5%の精油を含有する。
【0031】
Ph.Eu.4.1.による既知成分
リモネン56から78%、β−ピレン7から17%、γ−テルピネン6から12%、ネラール、酢酸ネラール、(シトラールB)0.3から1.5%、ゲラナール(geranal)、酢酸ゲラナール(geranal acetate)1から2.3%(シトラールA)、サビネン、β−カリオフェイル(β−cariofeil)最大:3%。
【0032】
Ph.Hg.VIIによれば、シトラール含有率は3から6%であるべきである。
【0033】
ラベンダー油の場合と同様に、この薬局方はレモン油の使用を物理的パラメータに委ねている。アロマテラピーにおけるレモン油の使用は、2つの特定の特性を有する。レモン油は、6種の柑橘類[レモン(キトルス・リモヌム(Citrus limonum))、オレンジ(キトルス・アウランティウム・エウルキア(Citrus aurantium eulcia))、マンダリン(キトルス・マディウレンシス(Citrus madiurensis))、グレープフルーツまたはパンペルムーゼ(キトルス・マキシマ(Citrus maxima))、リメット(キトルス・アウランティフォリア(Citrus aurantifolia Swingle))、ベルガモット(キトルス・アウランティウム(Citrus aurantium))]から低温搾取により(熱を用いず)得られる、世界中で使用される油の中で唯一の油のタイプである。この植物類に属する果実の新鮮な皮から搾取された精油においては、同一の化学材料をほぼ同一の比で見出すことができる。アロマテラピーにおいて、レモン油の使用は多くの適応症のために提唱された。皮膚についての卓越した活性が、細菌、真菌およびウイルスに関して明らかにされている。これらの特性は、この精油の蒸気についても記載された。
【0034】
ある記載によれば、12種のカビ真菌を含む210種の細菌培養物およびスタフィロコッカス(staphylococcus)培養物をこの精油の蒸気に供すると、15分後には14種のみ、30分後には4種のみの細菌培養物が生存していた。カビ真菌およびスタフィロコッカス培養物は全て破壊された。
【0035】
別の記載によれば、この精油蒸気により、メニンゴコッカス(meningococcus)は15分間で、チフス病原菌は1時間で、ニューモコッカス(pneumococcus)は2から3時間で、ステプトコッカス・ネムリティカス(steptococcus nemlyticus)は3から12時間で破壊された。
【0036】
この精油により、直接的接触を介し、スタフィロコッカスおよびチフス病原菌は5分間で、ジフテリア病原菌は20分間で破壊された。仏国出典(Griffoln、RochixおよびMorel)
【0037】
ラベンダー油の場合と同様に、創傷治癒効果、抗炎症効果、止血効果、化膿性創傷治癒効果および凍傷の治療への用途が記載された。薬局方においては、60から120mgの1日治療用量が許容されている。
【0038】
ビタミンの生物学的活性は公知である。ビタミンは主として小用量で、病理学的プロセスの防止、ならびに健康復帰およびリハビリテーションの促進における生理学的役割を有する。
【0039】
即ちビタミンAは、
皮膚および粘膜の抵抗性を増大させ、
潰瘍性創傷の治癒を促進し、
皮脂腺の機能を調節し、
上皮を保護し、感染に対する上皮の抵抗性を増大させる。
【0040】
ビタミンEは、
ビタミン「A」の効果を増大させ、
粗い瘢痕化を阻害し、
熱傷の治癒を促進し、
血管拡張、抗凝固効果を有し、および
抗酸化剤である。
【0041】
レシチン(ホスファチジルコリン、コリンホスホグリセリド)は、生物界の有機ビルディングブロックの重要な成分である。
【0042】
レシチンの基礎的要素は、グリセロール、リン酸および脂肪酸分子である。
【0043】
脂肪酸基の可変性のため、化合物を多数合成することができる。
【0044】
生物界において、ダイズおよび卵はレシチンを最も大量に含有する。
【0045】
レシチン分子は、リン酸基(遊離酸または塩の形態)の構造に基づく親水特性を有し、脂肪酸(脂質)の存在に起因する親油特性を有する。この二重の特徴は、重大な物理的効果、化学的効果および生物学的効果を確保する。レシチン分子は規則配列構造(ミセル)を、レシチン分子自体で(界面張力の低減)、互いを連結させることにより作出する。この規則配列構造の形成において、レシチンを包囲する媒体の親水−親油特性は重要な役割を有する。これらの規則配列構造の形状およびサイズは、レシチンの化学的構造および規則配列構造が形成する媒体に依存する。最も巧妙な類比によれば、「レシチンは生物界の界面活性物質である」。
【0046】
ミセルから、閉鎖構造の形成によりリポソームを作出することができる。合成界面活性物質と同様に、この規則配列構造は外部材料を封入することができる。このことは、物理的配列だけでなく、レシチンと外部材料との結合の確立をも意味することが多く、結合の程度およびタイプは外部材料の化学的特性、表面特性、物理化学的特性に関連している。平面におけるレシチンの配列は層状であるが、さらなる空間的配列においてレシチンは多くの幾何学的形態を作出することができる。
【0047】
最も単純な構造は、層構造である。これらの構造は、層がいかに規則配列するかに応じて1つ以上の層を作出することができる。
【0048】
いわゆる
小さな単層ベシクル(SUV)
大きな単層ベシクル(LUV)
多重膜多重層(MLV)のリポソーム
が存在する。
【0049】
このようなリポソームの調製において、好適な条件(構造、pH、温度および媒体の極性に依存する。)下で脂質が過渡液晶状態になることを利用することができる。この過渡状態を達成することにより、リポソームを作出することができる。調製方法の目的は、この過渡状態を達成することでもある。従って、「外部材料」をレシチンリポソーム中に含めるプロセスは複雑であり、多くのパラメータに依存する。
【0050】
リポソームを調製する典型的な方法は、
溶媒中への成分の溶解、溶媒の蒸発に続く水和によるリポソームの形成、
溶媒の極性の変化、
超音波(半機械的)による処理、
媒体の極性の変化を伴うエマルション技術、
透析
である。
【0051】
リポソームに封入される外部材料の特定の生物学的活性は、生物体およびリポソームの構成要素が類似の構造のものであるという事実に基づく。この類似の構造により選択的「ターゲティング」、即ち標的へ向けた送達が可能になる。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0052】
【非特許文献1】Ph.Eu.4.1
【非特許文献2】Ph.Hg.VII
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0053】
リポソームに封入される外部材料は、外部材料の効果を選択的に、または活性のより高いレベルで及ぼすことができる。このことを活用することにより、自体公知の材料のリポソームの用途のための新たな前途を開くことができる。
【課題を解決するための手段】
【0054】
本発明の対象は、リポソーム中で「外部材料」として定義される2種の材料(精油、ビタミン)を特定のリポソーム構造中へ含めることである。
【0055】
本発明の対象は、特に、以下の成分、
医薬グレードの柑橘系(アウランティオイデアエ(Aurantioideae))精油0.5から5.0重量部
医薬グレードのラベンダー油0.5から5.0重量部
ビタミンE0.1から1.5重量部
ビタミンA0.1から1.5重量部
エトキシ化ヒマシ油1.0から6.0重量部
リン脂質0.1から1.0重量部
蒸留水15から30重量部
エタノール96%65から75重量部
を含有することを特徴とするリポソーム組成物である。
【0056】
本発明による組成物は、好ましくは独立して
1.5重量部の柑橘系精油
2.0重量部のラベンダー油
0.5重量部のビタミンE
0.5重量部のビタミンA
0.5重量部のリン脂質
3.5重量部のエトキシ化ヒマシ油
23重量部の蒸留水
68重量部のエタノール96%
を含有する。
【0057】
本発明による組成物は、好ましくは独立して、柑橘系精油としてレモン油を、リン脂質としてレシチンを含有する。
【0058】
本発明による組成物において、エトキシ化ヒマシ油は、エチレンオキシドを好ましくは30から40モル、より好ましくは35モル含有する。
【0059】
本発明による組成物は、以下の通り調製することができる。柑橘系精油0.5から5.0重量部およびラベンダー油0.5から5.0重量部の混合物に、ビタミンE0.1から1.0重量部およびビタミンA0.1から1.5重量部の混合物を添加し、次いでエトキシ化ヒマシ油1.0から6.0重量部を添加し、得られた油相中でリン脂質0.1から1.0重量部を溶解させ、ならびに
45℃の蒸留水15から30重量部を添加することによりリポソーム親水相を形成し、96%エタノール65から75重量部の添加により誘発される転相によりリポソーム親油性組成物に変換し、または
96%エタノール65から75重量部を添加することによりリポソーム親油相を形成し、45℃の蒸留水15から30重量部の添加により誘発される転相によりリポソーム親水性組成物に変換する。
【0060】
本発明による組成物は、好ましくは親水性−親油性の転相により調製される。
【発明の効果】
【0061】
本発明による組成物は、創傷性、熱傷性、凍傷性、感染性の皮膚表面などの皮膚傷害の治療に、市販の組成物より有効に使用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0062】
【図1】図1は、化学的に誘導させた創傷の回復を示す。
【図2】図2は、熱傷創の回復を示す。
【図3】図3は、プロカルシトニンレベル変化を示す。
【図4】図4は、C反応性タンパク質レベル変化を示す。
【図5】図5は、糖尿病性潰瘍の回復の典型的な図を示す。
【図6】図6は、糖尿病性創傷の治癒の経過を示す。
【発明を実施するための形態】
【0063】
実施例6(リポソーム配合物)および実施例13(非リポソーム配合物)の組成物およびAgNO(参照群として)を、以下のモデル、
1.化学的に惹起させた創傷(潰瘍、酢酸)
2.熱傷創
3.糖尿病性創傷
のラットの開放創治癒の症例において試験した。
【0064】
方法
全ての作業(動物飼育、実験、安楽死、廃棄)を、EU Council(Directive 86/609/EEC)により規定されたInternational Guiding Principles for Biochemical Research Involving Animalsに実質的に従って実施した。
【0065】
化学的に惹起させた創傷
実験用皮膚潰瘍を酢酸の皮内注射により惹起させた。ラットの左後肢の甲の皮膚に氷酢酸を注射することにより皮膚の壊死をもたらし、皮膚潰瘍が3日後に発症した。潰瘍領域は5日目にピーク(約15mm)に達し、この壊死部切除を行った。潰瘍領域は、6週間以内に潰瘍領域の対照レベルに回復した。
【0066】
30匹のラットを3つの群に分けた。各群は10匹の動物を有した。上述の手順によりラットの潰瘍を化学的に惹起させた後、各ラットを個々にケージに入れた。
【0067】
第1群
10匹のラットを、実施例6の組成物3.5mgにより1日2回処置した。
【0068】
第2群
10匹のラットを、実施例13の組成物3.5mgにより1日2回処置した。
【0069】
第3群
10匹のラットを、1.5%AgNO溶液(対照)の同一量により処置した。
【0070】
動物を、5cmの距離からの4回の曝露による噴霧により処置した。用量は、損傷表面に運搬される活性成分に基づき算出した。
【0071】
7日目、14日目および21日目の各群から、1匹のラットを病理組織学的実験のために屠殺した。
【0072】
50日目に、各群からのラットの残りを屠殺した。ラットの屠殺は、ナトリウムペントバルビタールの過剰用量を使用して行った。
【0073】
50日の間、全ての動物を以下の治癒パラメータ、瘡蓋形成、炎症、肉芽組織の形成および再上皮化について評価した。
【0074】
図1は、創傷を化学的に惹起させた後の回復を示す。
【0075】
結果
処置動物群は、両方とも、対照と比較して顕著に早い再生を生じさせた。リポソーム配合物が同一の濃度範囲内でより有効である。
【0076】
熱傷創
各動物に、ナトリウムペントバルビタールを腹腔内投与して麻酔を施した(5mg/25g)。背部上の毛を動物用バリカンにより刈り取った。動物を熱傷装置内で仰向けに配置した。10秒間曝露すれば、全層熱傷を生じさせるのに十分であった。水から取り出してから、背部をタオルに包むことにより素早く乾燥させ、動物を開放し、個々にケージに入れた。この手順により、明瞭な辺縁を有する約40mmの均一な熱傷が生じた。
【0077】
30匹のラットを3つの群に分けた。各群は10匹の動物を有した。上述の手順によりラットを熱傷させた後、各ラットを個々にケージに入れた。
【0078】
第1群
10匹のラットを、実施例6の組成物3.5mgにより1日2回処置した。
【0079】
第2群
10匹のラットを、実施例13の組成物3.5mgにより1日2回処置した。
【0080】
第3群
10匹のラットを、1.5%AgNO溶液(対照)の同一量により処置した。
【0081】
動物を、5cmの距離からの4回の曝露による噴霧により処置した。用量は、損傷表面に運搬される活性成分に基づき算出した。
【0082】
熱傷を負わせて7日後、14日後、25日後および50日後に、動物をナトリウムペントバルビタールの過剰用量により屠殺し、皮膚標本を病理組織学検査のために、血液をプロカルシトニン(PCT)およびC−反応性タンパク質の定量のために採取した。
【0083】
PCTレベルは、Brahms PCT免疫アッセイを使用するLIAISON自動化学発光装置により定量した。
【0084】
C−反応性タンパク質は、Hutchinson et al.Clin.Chem.2000;46:934−8により計測した。
【0085】
顕微鏡および肉眼による観察の間、4つの創傷治癒パラメータ、瘡蓋形成、再上皮化、肉芽組織の形成および炎症を評価した。
【0086】
結果
群間の瘡蓋形成の顕著な差異は見られなかった。しかし、創傷治癒の間の抗炎症効果は第1群および第2群においてより明白であった。
【0087】
肉芽組織は、第1群および第2群において著しく発達した。
【0088】
熱傷創の中央部の再上皮化は、第1群および第2群の全てのラットについてAgNO対照と比べて早かった。
【0089】
創傷回復の時間枠を図2にまとめる。
【0090】
病理組織学的実験の日のプロカルシトニンおよびC反応性タンパク質レベルも計測した。
【0091】
これらの実験の結果を図3および図4にまとめる。
【0092】
炎症および腐敗のパラメータ標識は、両方とも、処置群においてより良好であり、このことは治療の正の効果およびリポソーム配合物の優位性を示すものであった。
【0093】
糖尿病性創傷
最初に、糖尿病動物モデルをストレプトゾトシン注射により確立した。次いで、標準的な創傷を糖尿病ラットの肢上に作出した。(Eur Surg Res.2008 Apr2;41(1):15−23)。
【0094】
使用対象は、5週齢から6週齢の雄Sprague−Dawleyラットであった。
【0095】
平均潰瘍領域は、全ての群において、最初の処置から10日後に約20mmに発達した。この期間(図中では0時間)後、動物を合計3.5mgの活性成分の実施例6および実施例13の組成物により(5cmの距離からの4回の曝露による噴霧により)処置した。回復時間を比較した。創傷表面を、対照群において10日毎に、処置群において5日毎に計測した。
【0096】
図5は、糖尿病性潰瘍の回復の典型的な図を示す。
【0097】
図6は、糖尿病性創傷の治癒の時間枠を示す。
【0098】
結果
処置群における再生は顕著により早い。リポソーム配合物は、活性成分がより良好に浸透するため、付加的な正の効果を生じさせる。
【0099】
本発明のさらなる詳細を実施例において挙げるが、本発明を実施例の内容に限定するものではない。
【実施例】
【0100】
一般
成分A(精油)
レモン油(t=20℃)1.5gを、ラベンダー油2gと混合する。均一溶液を得る。
【0101】
成分B
ビタミンA(t=20℃)0.5gを、ビタミンE0.5gと混合する。均一溶液を得る。
【0102】
成分C(共溶媒)
エトキシ化ヒマシ油3.5gを秤量する。
【0103】
成分D(リン脂質)
ダイズレシチン0.5gを秤量する。
【0104】
成分E(水)
蒸留水(t=45℃)23gを秤量する。
【0105】
成分F(アルコール)
96%エタノール(t=20℃)68.5gを秤量する。
【0106】
成分G(アルコール)
96%エタノール(t=20℃)68.5gを秤量する。
【0107】
成分H(水)
蒸留水(t=45℃)23gを秤量する。
【0108】
8種の成分から、所与の成分を表2の実施例1から12に示されている通り混合する。成分の混合は、アルファベット順に実施する。実施例13の組成および調製手段は実施例6の組成および調製手段と同一であり、但し成分Eとして使用される水の温度はt=20℃である。
【0109】
実施例1から6においては、成分(A、B、C、D)の混合物を成分Eの混合物と接触させることにより種々混合した後、親水相(水相)を得、次いで親水相を成分Gと接触させることにより、転相に起因して親油相を得る。
【0110】
第1の評価系列は、顕微鏡によりなされる主観的評価である。ナノレーザ粒度分析器を使用することにより、重量によるサイズ分布を計測する。
【0111】
実施例7から12においては、A、B、C、Dの成分の混合手段は実施例1から6の混合手段と同一であり、但し、「成分F」とのさらなる接触を実施し、こうして脂質(アルコール性)相を形成する。これらの脂質相を(水性)成分Hと接触させて転相を起こし、こうして親水相を形成する。第2の評価系列も、顕微鏡および粒度分析器により実施する。
【0112】
評価
評価の重要な計測パラメータを表3および表4にまとめる。
【0113】
機器
1.Malvern Mastersizer 2000タイプのレーザ粒度分析器。
【0114】
計測範囲:0.02から2000[μm]。
【0115】
この機器は、粒度の関数における本分散系の重量分布を計測する。
【0116】
2.Carl Zeiss偏光顕微鏡。
【0117】
表中で使用される記号の意味
UN=超音波処理に供されていない分散系試料の記号
UN1=超音波処理に1分間供された試料の記号
UN2=超音波処理に2分間供された試料の記号
d=重量の関数において計測された粒度の平均サイズ([μm])
dmax(d1、d2、d3、...dn)=d1、d2、d3、...dn成分に対応する異なる分布の最大値のサイズ([μm])
V%(V1、V2、...Vn)=dmax(d1、d2、d3、...dn)に関する体積%
VNd(10、50、90)%=超音波処理に供されていない試料の10体積%、50体積%および90体積%に対応する粒度([μm])。
【0118】
(実施例1)
精油および共溶媒を含有する試料は、水(成分E)中で不均一相の不安定なエマルションを形成する。この粗分散液において、4つの異なるサイズ分布の成分が存在し、アルコール(成分G)の添加後に溶解する。
【0119】
(実施例2)
精油成分中では、リン脂質(成分D)は共溶媒の存在下であっても溶解しない。
【0120】
(実施例3)
ビタミンおよび共溶媒を含有する溶液は、水(成分E)とともに、精油より微細なヘテロ分散性の自己乳化型エマルションを形成し、このエマルションは超音波処理下でよりいっそう微細になる。エマルションの平均液滴サイズは、アルコール(成分G)の添加後に低下する(27.6[μm]から11.2[μm])。超音波処理により、分散度はさらに増大する(液滴サイズは、11.2[μm]から6.5[μm]に低下する。)。
【0121】
(実施例4)
ビタミンおよび共溶媒を含有する相は、リン脂質(D)成分を溶解させることができない。
【0122】
(実施例5)
ビタミン、精油および共溶媒の溶液は、微細なエマルションを形成し、このエマルションは超音波処理下でより粗くなる。アルコールによる転相により、エマルションの液滴サイズはさらに低下する(3.6[μm]から1.3[μm])。超音波処理に供されていない試料は、安定なマイクロエマルションを形成する。
【0123】
(実施例6)
リン脂質を精油、ビタミンおよび共溶媒を含有する親水相に添加すると、溶液が形成する。
【0124】
この溶液を水と接触させた後、不均一相の粗い多重層リポソームが形成される。この粗分散液は、超音波処理によってより微細なホモ分散性の大きな多重層リポソームに変換することができる(サイズは、478[μm]から50.1[μm]に低下する。)。アルコールによる転相により、微細な分布の多重層リポソームが得られる(平均サイズ3.6[μm])。超音波処理は、粒度の成長をもたらす凝固プロセスを誘発する(粒度は3.6[μm]から7.7[μm]に成長する。)。
【0125】
(実施例7)
精油および共溶媒は、アルコール中で溶解する。水により誘発される転相の後、溶液は澄明のままである。
【0126】
(実施例8)
リン脂質は、精油および共溶媒の混合物中では、アルコールを添加しても溶解しない。
【0127】
(実施例9)
ビタミンおよび共溶媒の混合物は、アルコール中で溶解する。水により誘発される転相の後、細かいホモ分散性のマイクロエマルション(0.6{μm})が形成し、このマイクロエマルションは超音波処理下でいくぶん粗くなる(0.6[μm]から2.9[μm])
(実施例10)
リン脂質は、ビタミンおよび共溶媒の混合物中では、アルコールを添加しても溶解しない。
【0128】
(実施例11)
ビタミン、精油および共溶媒の混合物は、アルコール中で溶解する。溶液は、水による転相の後、微細な分布(平均粒度は1,2[μm]である。)のエマルションを形成し、このエマルションは超音波処理下でいくぶん粗くなる(粒度は、1,2[μm]から7[μm]に増大する。)。
【0129】
(実施例12)
精油、ビタミン、共溶媒およびリン脂質のアルコール性分散液はゲル構造を有し、幾つかの粗い多重層リポソームを含有する(平均粒度は141.5[μm]である。)。超音波処理下では、分散液はより微細な混合相を形成する(平均粒度は41.1[μm]に低下する。)。
【0130】
水による転相の後、混合相の油エマルションリポソームゲル分散相を含有する混合物が形成する(平均粒度は4.7[μm]である。)。超音波処理により、分散相の凝集が生じる(平均サイズ約5,8[μm]から6[μm])。
【0131】
(実施例13(参照))
成分および成分の混合手段は実施例6に挙げた成分および成分の混合手段と同一であり、但し精油、ビタミン、共溶媒およびリン脂質を含有する溶液を水(t=20℃)(成分E)と混合する。こうして非晶質ゲル構造の粗いヘテロ分散相が形成し、この相においてはリポソームを顕微鏡により認識することができない。超音波処理後、粗い部分は顕著に小さくなる(平均サイズ409.8[μm]から28.4[μm])が、リポソームは形成しない。アルコールにより誘発される転相の後、分散液の平均粒度はより小さくなる(409.8[μm]から112.3[μm])が、分散相は依然としてリポソーム構造を示さない。類似の結果が超音波処理後に得られる(平均粒度は112.3[μm]から13.5[μm]に低下する。)が、リポソームは超音波処理後でも形成せず、分散液が分解するにすぎない。
【0132】
【表2】

【0133】
【表3】

【0134】
【表4】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
医薬グレードの柑橘系(アウランティオイデアエ)精油0.5から5.0重量部
医薬グレードのラベンダー油0.5から5.0重量部
ビタミンE0.1から1.5重量部
ビタミンA0.1から1.5重量部
エトキシ化ヒマシ油1.0から6.0重量部
リン脂質0.1から1.0重量部
蒸留水15から30重量部
エタノール96%65から75重量部
を含有することを特徴とするリポソーム組成物。
【請求項2】
柑橘系精油1.5重量部を含有することを特徴とする、請求項1に記載の組成物。
【請求項3】
ラベンダー油2.0重量部を含有することを特徴とする、請求項1に記載の組成物。
【請求項4】
ビタミンE0.5重量部を含有することを特徴とする、請求項1に記載の組成物。
【請求項5】
ビタミンA3.5重量部を含有することを特徴とする、請求項1に記載の組成物。
【請求項6】
リン脂質0.5重量部を含有することを特徴とする、請求項1に記載の組成物。
【請求項7】
エトキシ化ヒマシ油3.5重量部を含有することを特徴とする、請求項1に記載の組成物。
【請求項8】
蒸留水23重量部を含有することを特徴とする、請求項1に記載の組成物。
【請求項9】
エチルアルコール68重量部を含有することを特徴とする、請求項1に記載の組成物。
【請求項10】
柑橘系精油としてレモン油を含有することを特徴とする、請求項1に記載の組成物。
【請求項11】
リン脂質としてダイズレシチンを含有することを特徴とする、請求項1に記載の組成物。
【請求項12】
エトキシ化ヒマシ油が、エチレンオキシドを30から40モル、好ましくは35モル含有することを特徴とする、請求項1に記載の組成物。
【請求項13】
柑橘系精油0.5から5.0重量部およびラベンダー油0.5から5.0重量部の混合物に、ビタミンE0.1から1.0重量部およびビタミンA0.1から1.5重量部の混合物を添加し、次いでエトキシ化ヒマシ油1.0から6.0重量部を添加し、得られた油相中でリン脂質0.1から1.0重量部を溶解させ、ならびに
a)45℃の蒸留水15から30重量部を添加することによりリポソーム親水相を形成し、96%エタノール65から75重量部の添加により誘発される転相によりリポソーム親油性組成物に変換し、または
b)96%エタノール65から75重量部を添加することによりリポソーム親油相を形成し、45℃の蒸留水15から30重量部の添加により誘発される転相によりリポソーム親水性組成物に変換する
ことを特徴とする、請求項1に記載の組成物を調製する方法。
【請求項14】
組成物を、親水性−親油性の転相により調製することを特徴とする、請求項13に記載の方法。
【請求項15】
皮膚損傷の治療のための、請求項1に記載の組成物の使用。
【請求項16】
創傷性、熱傷性、凍傷性、感染性の皮膚表面の治療のための、請求項15に記載の使用。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公表番号】特表2010−530409(P2010−530409A)
【公表日】平成22年9月9日(2010.9.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−512784(P2010−512784)
【出願日】平成20年6月19日(2008.6.19)
【国際出願番号】PCT/HU2008/000072
【国際公開番号】WO2008/155592
【国際公開日】平成20年12月24日(2008.12.24)
【出願人】(509348971)
【Fターム(参考)】