説明

リヤサスペンション装置

【課題】車両の旋回走向時におけるトレーリングアーム結合体のトーイン変化を増大させトーアウト変化を規制できるリヤサスペンション装置を提供する。
【解決手段】車輪Wを支持する車軸支持部9と車両前方側に延設されて車体に枢支されるトレーリングアーム12とを有したトレーリングアーム結合体TCと、車体側と車軸支持部9の前記車輪Wの車軸よりも車両後方側に形成した上下とを連結するアッパ及びロアアーム15、16と、トレーリングアームに形成されて変位を促進する弾性変位促進部c1と、車軸支持部9から延設され、弾性変位促進部よりも車両前方側においてトレーリングアームに遊嵌されるストッパレバー37とを備え、ストッパレバーは車幅方向車内側への負荷が作用した場合にトレーリングアームの変位を許容し、車幅方向車外側への負荷が作用した場合にトレーリングアームの変位を規制する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、トレーリングアームを有したリヤサスペンション装置に関するものであり、特に、車両の旋回走行時におけるトレーリングアームのトーイン、トーアウト変位特性に特徴を持たせたリヤサスペンション装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
自動車のリヤサスペンション装置では、特許文献1(実開昭56−62205号公報)に記載のように、車輪を支持する車軸支持部から車両前方側に延設されて車体フレームに連結されるトレーリングアームと、車軸支持部の上下2点と車体中央側に設けられた上下2点の枢支部材側とを連結する互いに並設された上下一対のアーム部材と、車軸支持部の上下位置を決めるとともに車輪を介して加わる路面反力の上下成分を緩衝するスプリングおよびショックアブソーバとがそれぞれ左右一対で備えられ、これら各部材により左右の各後車輪の相対変位を許容しつつ後車輪の整列状態を維持するよう構成されたものが知られている。
【0003】
一般的に、車両の旋回走行時には、旋回外側の車輪に荷重が集中するため、旋回走行時の車両の走行安定性は、旋回外側の車輪のトー特性(横力コンプライアンスステア)に大きく影響を受ける。そして、旋回外側の車輪をトーイン側に変位させることで横力コンプライアンスステアを増大させれば、旋回走行時の走行安定性が向上することが知られている。
特許文献1のような構成のリヤサスペンション装置の場合、車両の旋回走行時のトー変化特性(横力コンプライアンスステア)を前後のブッシュでコントロールする必要があり、そのブッシュの特性は様々な車両の特性に互いに影響するため、横力コンプライアンスステアをトーイン側へ大きくとる特性とするには、調整が難しかった。
【0004】
一方で、トレーリングアームの剛性が高すぎると乗り心地に悪影響を与えることもあり、特許文献2(特開昭62−29406号公報)のようにトレーリングアームを板ばね状の弾性部材で構成し、左右の撓み変形を許容できるよう構成したものが提案されている。このようなリヤサスペンション装置の場合、車両の旋回走行時に旋回外側の車輪をトーイン側に変位させることは比較的容易となるが、逆に左右剛性が低下するので、路面の凹凸等の影響を大きく受けてしまうことになる。例えば、路面の凹凸の影響により車輪に車幅方向車外側への入力が加わると、車輪がトーアウト傾向となってしまう虞がある。そのため、旋回走行時に路面の凹凸の影響により、旋回外側の車輪に車幅方向車外側への入力が加わると旋回外側の車輪がトーアウト傾向となってしまい、車両の走行安定性が損なわれるという問題があった。この問題は、特許文献1のように左右の車輪が独立して懸架されるサスペンションに採用した場合でも同じことが言える。
この問題を解消するために、車輪のトーアウト変位を規制するよう構成されたものが特許文献3(特公昭62−48602号公報)に記載されている。
【0005】
特許文献3に開示のリヤサスペンション装置では、トレーリングアーム(スイングアームに相当)を板状部材で形成して車幅方向での変位を可能とするとともに、トーコントロールアーム(第1ラテラルリンクに相当)を設けることで、路面の凹凸等の影響により車輪がトーアウト側へ変位するのを抑制する構成としている。特許文献3の構成では、トレーリングアーム、上下アーム(第2ラテラルリンク、第3ラテラルリンクに相当)に加えて、車輪がトーイン方向を向くように予め設定された状態でトーコントロールアームが上下アームよりも前方の位置に連結されている。これにより、車両の旋回走行時に路面の凹凸等により車輪に車幅方向車外側への入力があっても、トーコントロールアームにより、積極的にトレーリングアームを車幅方向内側にたわませ、その前後の弾性変形を利用し、トー変化特性をコントロールしている。これにより旋回走行時の車両の走行安定性を向上させることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】実開昭56−62205号公報
【特許文献2】特開昭62−29406号公報
【特許文献3】特公昭62−48602号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、特許文献3の構成の場合、確かに路面凹凸によるトーアウト変位を抑制することは可能となるが、トーコントロールアームに加えて、トーコントロールアームを連結するためのブッシュやブラケットなどの部品を必要とするため、重量やコストが増加する上、構造も複雑になるという問題が生じる。また、旋回走行時における旋回外側の車輪のトーアウト変位を抑制することはできるが、トーイン側への変位のみを増加させることはその構造上難しかった。
【0008】
本発明は、重量やコスト増を極力抑えて、簡単な構成で旋回走行時でのトレーリングアーム結合体のトーイン変化を増大させるとともにトーアウト変化を規制して、旋回走行時における車両の操向安定性をより一層向上させたリヤサスペンション装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
前記課題を達成するため、請求項1に係る発明は、車輪を回転可能に支持する車軸支持部と該車軸支持部から車両前方側に延設されて前端が車体に揺動可能に枢支されるトレーリングアームとを有したトレーリングアーム結合体と、車幅方向に延設され、一端が車体に連結されるとともに他端が前記車輪の車軸よりも車両後方側で前記車軸支持部の上下に連結されて前記トレーリングアーム結合体を上下に揺動可能に支持するアッパーアーム及びロアアームと、前記トレーリングアームに形成されて、前記車軸支持部に車幅方向への負荷が作用した際に前記トレーリングアームの車幅方向での変位を促進する弾性変位促進部と、前記車軸支持部から前記トレーリングアームと並んで車両前方側に延設され、前記弾性変位促進部よりも車両前方側において前記トレーリングアームに遊嵌されるストッパレバーと、を備え、前記ストッパレバーは、前記車軸支持部に車幅方向車内側への負荷が作用した場合に前記トレーリングアームの車幅方向車内側への変位を許容し、前記車軸支持部に車幅方向車外側への負荷が作用した場合に前記トレーリングアームと係合して一体化することで該トレーリングアームの車幅方向車外側への変位を規制することを特徴とする。
【0010】
請求項2に係る発明は、請求項1記載のリヤサスペンション装置において、前記トレーリングアームには、前記弾性変位促進部よりも車両前方側に係合部が形成され、前記ストッパレバーには、前記係合部に対向して突設され、前記トレーリングアームと係合される係合状態と前記トレーリングアームと係合されない非係合状態とに変位可能なストッパ部材が形成されており、前記ストッパ部材は、前記車軸支持部に車幅方向車内側への負荷が作用した場合に非係合状態となり、前記車軸支持部に車幅方向車外側への負荷が作用した場合に係合状態となることを特徴とする。
【0011】
請求項3に係る発明は、請求項1又は2に記載のリヤサスペンション装置において、前記トレーリングアームは、縦壁とその上下端縁より車幅方向車内側に屈曲して延出するフランジを有する断面略コ字状を成し、前記フランジの一部を切欠くことで前記弾性変位促進部を形成していることを特徴とする。
【0012】
請求項4に係る発明は、請求項3記載のリヤサスペンション装置において、前記係合部は、前記トレーリングアームの前記縦壁に形成された車両前後方向に長い長穴状の係止穴であり、前記ストッパ部材は、前記ストッパレバーの前端部において車幅方向車内側に突設されて前記係止穴の車両前方側の内周縁近傍に嵌入されており、前記車軸支持部に車幅方向車内側への負荷が作用した際には、前記ストッパ部材が前記係止穴の前記車両前方側の内周縁から離脱するよう変位されて非係合状態を維持し、前記車軸支持部に車幅方向車外側への負荷が作用した際には、前記係止穴の車両前方側の内周縁と前記ストッパ部材とが当接して係合状態となることで前記トレーリングアームと前記ストッパレバーとが一体化されることを特徴とする。
【0013】
請求項5に係る発明は、請求項3記載のリヤサスペンション装置において、前記結合部は、前記トレーリングアームの前記縦壁に設けられた係止穴であり、前記ストッパ部材は、前記ストッパレバーの前端部において車幅方向車内側に突設されて前記係止穴に嵌入され、かつ、その端部に前記係止穴を挿通不可に形成されたフックを有しており、前記車軸支持部に車幅方向車内側への負荷が作用した際には、前記ストッパ部材のフックが前記係止穴から離脱するよう変位されて非係合状態を維持し、前記車軸支持部に車幅方向車外側への負荷が作用した際には、前記係止穴周縁部の前記縦壁に前記ストッパ部材の前記フックが当接して係合状態となり前記トレーリングアームと前記ストッパレバーとが一体化されることを特徴とする。
【0014】
請求項6に係る発明は、請求項3記載のリヤサスペンション装置において、前記係合部は、前記トレーリングアームから車幅方向車外側に延設され、車幅方向に長い長穴状の係止穴が形成された突状部材から成り、前記ストッパ部材は、前記ストッパレバーの前端部から車両前方に突設されて前記係止穴の車幅方向車外側の内周縁近傍に嵌入されるよう形成されており、前記車軸支持部に車幅方向車内側への負荷が作用した際には、前記ストッパ部材が前記係止穴の前記車幅方向車外側の内周縁から離脱するよう変位されて非係合状態を維持し、前記車軸支持部に車幅方向車外側への負荷が作用した際には、前記係止穴の前記車幅方向車外側の内周縁と前記ストッパ部材とが当接して係合状態となることで前記トレーリングアームと前記ストッパレバーとが一体化されることを特徴とする。
【発明の効果】
【0015】
請求項1の発明によれば、車両の旋回走行時に車輪が受けた路面反力である負荷が車軸支持部に対し車幅方向車内側に向けて作用した場合に、ストッパレバーはトレーリングアームの車幅方向車内側への変位を許容する。更に、車輪が路面の凹凸等により受けた負荷が車軸支持部に対し車幅方向車外側に向けて作用した場合に、ストッパレバーはトレーリングアームと係合して一体化することで該トレーリングアームの車幅方向外側への変位を規制するので、トレーリングアームの後部の揺動端部側のトーアウト変位を阻止できる。つまり、旋回走行時に旋回外側の車輪がトーイン状態となるのを許容し、路面の凹凸等によりトーアウト状態となるのを阻止することで車両の旋回走行時における走行安定性をより向上させることができる。
【0016】
請求項2の発明によれば、ストッパ部材は車軸支持部に車幅方向車内側への負荷が作用した場合にトレーリングアームと係合されない非係合状態となって弾性変位促進部の変位を許容し、車軸支持部に車幅方向車外側への負荷が作用した場合にトレーリングアームと係合状態となって弾性変位促進部の変位を規制できる。つまり、ストッパ部材は、車両の旋回走行時に旋回外側の車輪に車幅方向車内側(旋回内側)への負荷(横力)が作用した際には、トレーリングアームと係合せずにトレーリングアームの車幅方向車内側への変位(トーイン状態となる)を許容し、路面の凹凸等により、車輪に車幅方向車内側(旋回外側)への負荷が作用した際には、トレーリングアームと係合してトーアウト状態となるのを阻止することができるので車両の旋回走行時における走行安定性を向上させることができる。
【0017】
請求項3の発明によれば、アーム本体がコ字形断面に形成されたので、上下方向及び車幅方向への揺動変位に対する剛性を比較的容易に強化でき、しかも、屈曲フランジの一部を切欠くことで弾性変位促進部を比較的容易に形成することができる。
【0018】
請求項4の発明によれば、車両の旋回走行時に受けた負荷が車軸支持部に対し車幅方向車内側に向けて作用した場合に、ストッパ部材が係止穴の車両前方側の内周縁から離脱するよう変位されてトレーリングアームの車幅方向車内側への変位を許容し、更に、車輪が受けた負荷が車軸支持部に対し車幅方向車外側に向けて作用した場合に、ストッパ部材の側壁面が係止穴の車両前方側の内周縁に圧接することで、トレーリングアームの揺動端部側のトーアウト変位を阻止できるので、コストや重量を抑制した簡単な構成で車両の旋回走行時における走行安定性を確保できる。
【0019】
請求項5の発明によれば、車両の旋回走行時に受けた負荷が車軸支持部に対し車幅方向車内側に向けて作用した場合に、ストッパ部材のフックが係止穴から離脱するよう変位されて非係合状態を維持してトレーリングアームの車幅方向車内側への変位を許容し、更に、車輪が受けた負荷が車軸支持部に対し車幅方向車外側に向けて作用した場合に、ストッパ部材のフックが係止穴周縁部の縦壁に当接して係合状態となりトレーリングアームとストッパレバーとが一体化されてトレーリングアームの揺動端部側のトーアウト変位を阻止できるので、コストや重量を抑制した簡単な構成で車両の旋回走行時における走行安定性を確保できる。
【0020】
請求項6の発明によれば、車両の旋回走行時に受けた負荷が車軸支持部に対し車幅方向車内側に向けて作用した場合に、ストッパ部材が係止穴の車幅方向車外側の内周縁近傍から離脱するよう変位されて非係合状態を維持してトレーリングアームの車幅方向車内側への変位を許容し、更に、車輪が受けた負荷が車軸支持部に対し車幅方向車外側に向けて作用した場合に、ストッパ部材が係止穴の車幅方向車外側の内周縁と当接して係合状態となりトレーリングアームとストッパレバーとが一体化されてトレーリングアームの揺動端部側のトーアウト変位を阻止できるので、コストや重量を抑制した簡単な構成で車両の旋回走行時における走行安定性を確保できる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】本発明の第1実施形態の車両のリヤサスペンション装置の要部平面図である。
【図2】図1のリヤサスペンション装置の要部側面図である。
【図3】図1のリヤサスペンション装置の要部切欠斜視図である。
【図4】図1のリヤサスペンション装置で用いるトレーリングアーム結合体の拡大図を示し、(a)は平面図、(b)は側面図である。
【図5】図4のトレーリングアーム結合体のストッパの近傍構造を示し、(a)は部分側面図、(b)は部分平断面である。
【図6】旋回走行時における旋回外側のトレーリングアーム結合体の変位説明図で、(a)は旋回走行により車幅方向Y車内側に負荷(横力)が作用している時の変位を、(b)は旋回走行時に路面の凹凸により車幅方向Y車外側に負荷が作用した時の変位を示す。
【図7】本発明の第2実施形態のリヤサスペンション装置で用いるトレーリングアーム結合体を示し、(a)は平面図、(b)は部分側面図、(C)はB−B縦断面図である。
【図8】本発明の第3実施形態のリヤサスペンション装置で用いるトレーリングアーム結合体を示し、(a)は平面図、(b)は側面図、(C)は、C−C線断面図である。
【図9】本発明の第1実施形態で用いるトレーリングアーム結合体の変位説明図で、(a)は直進走行時、(b)はトーイン変化時、(c)はトーアウト変化時である。
【図10】本発明の第2実施形態で用いるトレーリングアーム結合体の変位説明図で、(a)は直進走行時、(b)はトーイン変化時、(c)はトーアウト変化時である。
【図11】本発明の第3実施形態で用いるトレーリングアーム結合体の変位説明図で、(a)は直進走行時、(b)はトーイン変化時、(c)はトーアウト変化時である。
【図12】本発明の適用されたリヤサスペンション装置と、弾性変位促進部のみを有するリヤサスペンション装置と、基本構成のリヤサスペンション装置とのトー変化量の解析結果を比較した図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
図1〜図3にはこの発明の第1の実施形態としてのリヤサスペンション装置Sを示した。
リヤサスペンション装置Sは例えば車体後部に配備されるもので、ここでの車体後部は車体の前後方向Xに延びる左右のサイドメンバ1、2と、これら左右のサイドメンバを互いに結合するクロスメンバ3とで剛性強化した剛性枠組み体4を形成している。
なお、クロスメンバ3は中央部301側が車体後方側に湾曲きれた状態で屈曲形成され、左右の傾斜部302の先端が弾性体によって形成されたクロスメンバブッシュ5を介してサイドメンバ1、2に取付けられる。
【0023】
クロスメンバ3の中央部301にはプロペラシャフト6からの回転力を左右の車軸7側に相対回転変位を許容して分岐して伝達するデファレンシャル(以後単にデフと記す)8が取り付け支持される。デフ8の後端部は、左右のサイドメンバ1、2間に架設状態で装着されたデフサポートメンバ35によって支持きれている。更に、デフサポートメンバ35の左右端は弾性体によって形成きれたデフサポートメンバプッシュ36を介してサイドメンバ1、2に弾性的に取り付けられている。
このような車体後部の剛性枠組み体4の左右端に左右のサスペンション装置Sが装着される。
【0024】
左右のリヤサスペンション装置Sは、左右車輪Wの整列状態を維持しつつ相対変位を許容する左右のリンク系rkと、左右トレーリングアーム結合体TCと、ストラットstを成すスプリング13(図2、03参照)及びショックアブソーバ14と、左右トレーリングアーム結合体TCの相対変位に応じてねじり変位して同変位を抑制するスタビライザ(不図示)とを備え、全体は、図1に示すように左右対称に配備されている。
デフ8の左右からは、左右車軸7が延出されており、各車軸7の外側端にはハブ11が一体結合される。左右の各ハブ11はその内側部位がトレーリングアーム結合体TCの車軸支持部9にそれぞれ枢支され、各ハブ11の外側部位には車輪Wがそれぞれ締結される。
【0025】
ここで、第1の実施形態の主要部の構成について、リヤサスペンション装置Sに用いるトレーリングアーム結合体TCを中心に説明する。なお、ここでは、以下の説明の簡素化のため、左側のリヤサスペンション装置Sのトレーリングアーム結合体TCを主に説明する。
図2、3に示すように、トレーリングアーム結合体TCは車両前後方向Xに長いレバー状の部材であり、車輪Wを回転可能に支持する車軸支持部9と、車軸支持部9から車両前方側に延設されて前端が車体に揺動可能に枢支されるトレーリングアーム12とを有する。
トレーリングアーム結合体TCのトレーリングアーム12は、その前端部に前側連結部fjを有し、前側連結部fjは車体側のアーム取り付け部A1に揺動可能に枢支される。
【0026】
アーム取り付け部A1は、クロスメンバ3の左傾斜部302に突設される。左傾斜部302の側壁面にはコ字型ブラケット32(図2参照)が溶着され、これに略車幅方向Yに中心線Lcを向けて連結ピン33が支持される。連結ピン33には、トレーリングアーム12の前側連結部fjがブッシュ34を介して連結され、これにより前後方向に向けて長く配備されたトレーリングアーム結合体TCの後端側(車軸支持部9)が上下揺動可能に連結される。
【0027】
トレーリングアーム結合体TCの車軸支持部9はトレーリングアーム12の後端に連続形成される。この車軸支持部9は、図4(a)、(b)に示すように、その縦壁wr1の中央に貫通穴h1を設け、そこに車軸7が挿通される。貫通穴h1を貫通した状態で車軸7の端部には、ハブ11が連結され、ハブ11を車軸支持部9の縦壁wr1にボルトで締結している。ハブ11は、車軸7の端部が嵌入されて車軸7とともに回転する回転部11aと、車軸支持部9に締結される固定部11bとで構成され、回転部11aが固定部11bにベアリングを介して回転可能に枢支される。ハブ11の回転部11aには車輪Wが一体的に締結される。
【0028】
なお、トレーリングアーム12は、車軸支持部9から車体前後方向Xでの略中間部までを車幅方向Y車内側に湾曲した形状とされており、ハブ11に装着される車輪Wとの接触を回避している。
【0029】
図2、3に示すように、車軸支持部9は、車両後方に延出されており、その後端部の上下に上下延出部101、102が延出形成されている。
一方、トレーリングアーム結合体TCと対向する位置のクロスメンバ3は、その左傾斜部302と中央部301の結合部位において上下に所定量離れて上下ピン支持部19、20を突設している。上下延出部101、102とクロスメンバ3の上下ピン支持部19、20との間はリヤサスペンション装置Sのリンク系rkを成すアッパーアーム15及びロアアーム16によりそれぞれ互いにピン結合されている。つまり、アッパーアーム15及びロアアーム16は、上下延出部101、102と結合されており、車軸7よりも車両後方側で車軸支持部9の上下延出部101、102と連結されている。
【0030】
アッパーアーム15及びロアアーム16は互いに略並行状態を保ち、平行リンクとして、車軸7を支持する車軸支持部9を剛性枠組み体4側に上下動可能に、所定の車輪整列剛性を確保した上で支持している。なお、上下延出部101、102と上下のピン支持部19、20には不図示のブッシュがそれぞれ介装され、これにより、路面からの過度な振動、変位を吸収すると共に、対向部材相互の相対変位を許容している。
図3、図4に示すように、トレーリングアーム結合体TCは縦壁wr1とその上下端より車幅方向Y車室側に屈曲して延出する屈曲フランジwr2を有し車体前後方向Xに長く形成される。つまり、トレーリングアーム結合体TCを構成するトレーリングアーム12および車軸支持部9は、その断面が車幅方向Y車内側に開口する略コ字状をなしている。 図4に示すように、トレーリングアーム結合体TCの車幅方向Y車外側には、トレーリングアーム12に並んで車両前後方向Xに延びるストッパレバー37が設けられる。ストッパレバー37は、トレーリングアーム結合体TCの車軸支持部9の縦壁wr1に、その後基端371が重合されて溶着される。
【0031】
ストッパレバー37は、後基端371より車体前方側に延びる延出部373が縦壁wr1に隙間tを保った状態でトレーリングアーム12に略沿うように形成される。
また、ストッパレバー37の前突端372には、車幅方向Y車内側に突設されたストレートピン状のストッパ部材39が形成される。
【0032】
トレーリングアーム12の上下端の屈曲フランジwr2には、図4(a)に示すように、車体前後方向Xでの略中間部よりも車軸支持部9側において切欠部c1が形成される。この切欠部c1により、その近傍の屈曲フランジwr2及び縦壁wr1の車幅方向Yの曲げ剛性が他の部位より低減され、トレーリングアーム12の車幅方向Yでの変形が容易とされる。この切欠部c1が形成された領域が本願発明の弾性変位促進部Cを形成する。
【0033】
図4、図5に示すように、トレーリングアーム12の縦壁wr1には係合部としての係止穴38が形成される。具体的には、係止穴38は、トレーリングアーム12の車体前後方向Xでの略中間部において車体前後方向Xに長い長穴状に形成され、弾性変位促進部Cを形成する切欠部c1よりも車体前方側に位置される。
係止穴38にはストッパレバー37の前端372に車内方向に向けて突設されたストッパ部材39が係止穴38内で車体前後方向Xおよび車幅方向Yに移動可能に遊嵌される。 ストッパ部材39は、通常時(弾性変位促進部Cでの変位が無い状態)において係止穴38の車体前方側の内周縁の近傍に(もしくは内周縁に当接した状態で)嵌っている。
【0034】
そして、ストッパ部材39は、トレーリングアーム12の弾性変位促進部Cの変位に応じて移動し、係止穴38に対する係合状態を変化させるよう構成されている。具体的には、トレーリングアーム12が車幅方向Y車内側に変位(変形)するとストッパ部材39と係止穴38との係合が解除状態とされ、トレーリングアーム12が車幅方向Y車外側に変位(変形)するとストッパ部材39と係止穴38とが係合状態とされる。
上記構成によれば、車幅方向Y車内側に負荷が作用した場合、トレーリングアーム12が弾性変形促進部Cで変形することでトレーリングアーム結合体TCが車幅方向Y車内側に変位され、トーイン側への変位が促進される。これにより車輪Wが積極的にトーイン状態とされる。なお、この時、ストッパレバー37のストッパ部材39は、係止穴38との係合が解除される方向に移動するので、トレーリングアーム12の車幅方向Y車内側への変位(変形)は、阻止されない。
【0035】
一方、車幅方向Y車外側に負荷が作用した場合、トレーリングアーム12が車幅方向Y車外側へ変位(変形)しようとするが、図5(a)、(b)に示すように、トレーリングアーム12とストッパレバー37が結合されてトレーリングアーム12の弾性変形促進部Cでの変形が阻止される。これにより車輪Wがトーアウト状態となるのを抑制する。なお、この時、ストッパレバー37のストッパ部材39は、係止穴38の内周縁に当接して係合状態となっている。
つまり、車両の旋回走行時において、旋回外側のトレーリングアーム結合体TCは、トーイン側(車幅方向Y車内側)への変位は許容され、トーアウト側(車幅方向Y車外側)への変位は、ストッパレバー37により阻止される。
上述において、左側のリヤサスペンション装置Sを主に説明したが、右側も左右対称の構成を採り、ここでは重複説明を略した。
【0036】
このような構成を採る図1の第1の実施形態としてのリヤサスペンション装置Sの挙動を説明する。
車両の走行時において、第1の実施形態のリヤサスペンション装置Sは、左右の車輪Wに駆動力や制動力が加わると、その反力をトレーリングアーム結合体TCや左右のリンク系rk(アッパーアーム15、ロアアーム16)で受けて、車輪W側を整列状態を保持しつつ上下変位させ、ストラットstの働きで過度の上下動を減衰させ、車体後部の剛性枠組み体4への路面からの振動を複数のブッシュによりに減衰させて分散支持させる。
【0037】
車両の定常走行時において、車輪Wに駆動力や制動力が加わると、車輪Wを支持するトレーリングアーム結合体TCの車軸支持部9がリンク系rkの変位を伴い上下変動する。この際、路面反力の上下成分はストラットst側のスプリング13を圧縮させて吸収され、更にスプリング13の反力で車軸支持部9側が上下に振動を生じるが、これをショックアブソーバ14によって減衰でき、これらの衝撃減衰機能により乗員の居住性を確保できる。
このような車輪Wを支持する車軸支持部9を有するトレーリングアーム結合体TCは、クロスメンバの左右のアーム取り付け部A1に横向きの中央線Lcを基点とし車軸支持部9側が上下に揺動可能に連結される。これにより、車輪Wの前後方向Xの位置を規制し、しかもリンク系rkと連動して車輪Wの車幅方向Yの位置変位を規制し、左右車輪Wを適正な整列状態に保持する機能を備える。
【0038】
なお、左右のアーム取り付け部A1に連結される前側連結部fjや、車軸支持部9後端の上下延出部101、102とクロスメンバ3の上下ピン支持部19、20間に連結されるリンク系rk(アッパーアーム15、ロアアーム16)は、それぞれブッシュを介して連結されており、トレーリングアーム結合体TCの前後方向Xおよび車幅方向Yへの位置変位は、ブッシュの変形により、ある程度許容されるよう設定されている。
【0039】
次に、車両の直進走行時および旋回走行時におけるトレーリングアーム結合体TCの動き(変位の状態)を図6、図9を用いてより詳細に説明する。図6は、車両の旋回走行時における旋回外側のトレーリングアーム結合体TCの変位(変形)の状態(実線で示す)を通常の直進走行時の形状(二点鎖線で示す)と比較して示したものであり、図6(a)は車幅方向内側に負荷Fi(横力)が作用した場合、図6(b)は車幅方向外側に負荷Fo(路面凹凸による入力)が作用した場合を示している。図9は、車輪Wからの負荷の入力状況に応じたトレーリングアーム結合体TCの変位(変形)の状態を模式的に示した図である。図9(a)は、直進走行時の状態で、車軸支持部9に対して車幅方向Yでの入力(負荷)が無い場合を、図9(b)は、車軸支持部9に対して車幅方向Y車内側に負荷Fiが作用した場合(図6(a)に実線で示す状態)を、図9(c)は、車軸支持部9に対して車幅方向Y車外側に負荷Foが作用した場合(図6(b)に実線で示す状態)を示している。
【0040】
車両の直進走行時においては、車輪Wに過度の横力が加わらず、トレーリングアーム12の係止穴38にレバー部37の前突端372に突設されたストッパ(図5に示したようなストレートピン)39が嵌着される状態がそのまま維持される。なお、図9(a)に示したように車両が直進走行状態でかつ路面の凹凸による大きな入力が無い場合、トレーリングアーム結合体TCの後部の車軸支持部9に対して車輪Wより加わる車幅方向Yの負荷(路面反力)Fは比較的小さく、トレーリングアーム結合体TCの変位は抑制され、図9(a)に実線(図6(a)、(b)では二点鎖線)で示す状態を保持する。
【0041】
車両が旋回走行状態に入ると、図6(a)に二点差線で示すように、車体に働く遠心力に対して、旋回外側の車輪Wには、旋回内側(旋回中心側)への負荷Fi(横力)が作用する。
この際、旋回外側のトレーリングアーム結合体TCの車軸支持部9にも、車輪W側から負荷Fiが入力される。トレーリングアーム結合体TCの前後端は前端がアーム取り付け部A1に、後端の上下延出部101、102がリンク系rkを介してクロスメンバ3の上下ピン支持部19、20に支持されているので、車軸支持部9が車輪W側より負荷Fiを受けると、押されて車軸支持部9が車幅方向Y車内側に変位する。
【0042】
そして、トレーリングアーム結合体TCの車軸支持部9が車幅方向Y車内側に変位(実線で表示)すると、前方側のトレーリングアーム12が車軸支持部9により車幅方向Y車内側に押されて弾性変位促進部Cを中心に車幅方向Y車内側に湾曲変形する。このため、車軸支持部9の前方側がより積極的に車幅方向Y車内側に向くことでトレーリングアーム結合体TCのトーイン変位が促進されて車輪Wはトーイン状態となる。
この際、ストッパレバー37のストッパ部材39が係止穴38の車両前方側の内周縁より車両後方側に離脱しつつ、車幅方向Y車内側により深く侵入して(図5(b)の破線を参照)トレーリングアーム12に対するストッパレバー37の前突端372の接近変位を許容する方向に移動する。つまり、ストッパレバー37とトレーリングアーム12とが非係合状態(係止穴38とストッパ部材39とが係合状態に無い)とされるので、ストッパレバー37に阻止されることなく、トレーリングアーム12は、車幅方向Y車内側に比較的容易に変位でき、車輪Wを支持する車軸支持部9のトーイン変位が許容される。
【0043】
この旋回外側のトレーリングアーム結合体TCの車幅方向Yの変位状態を模式図として図9(b)に実線で示した。
一方、図6(b)に示すように、車両の旋回走行時に路面の凹凸等により、車輪Wに車幅方向Y車外側への負荷Foが作用すると、トレーリングアーム結合体TCの車軸支持部9(二点鎖線位置は定常状態の位置)が車外側に負荷Foを受けて車外側へ変位しようとする。この際、トレーリングアーム12が車軸支持部9の変位を受けて弾性変位促進部Cにより車幅方向Y車外側に変形して車軸支持部9の前方側が車幅方向Y車外側に向こうとするが、ストッパレバー37のストッパ部材39が係止穴38の車両前方側の内周縁に圧接して係合する(図5(b)参照)。これによりトレーリングアーム12とストッパレバー37が一体化され、トレーリングアーム12の変位(変形)が阻止され、車軸支持部9のトーアウト側への変位を阻止する。このため、路面の凹凸等により、旋回外側の車輪Wに車幅方向Y車外側(旋回外側)への負荷が作用しても、図6(b)の二点差線で示すほぼ実線位置と同位置に保持され、即ち、トレーリングアーム結合体TCがトーアウト変位を阻止された状態を保持する。
【0044】
なお、図9(c)に模式的にトレーリングアーム結合体TCのトーアウト阻止状態を実線で示した。
以上説明したように、第1の実施形態は、まず、トレーリングアーム12に弾性変位促進部Cを設けることで、トレーリングアーム結合体TCを車幅方向Yで変位(変形)し易い形状として、旋回走行時おける車輪Wのトーイン側およびトーアウト側への変位が促進される(変位の傾向が顕著となる)構成としている。そして、その上で、更に、トレーリングアーム12(トレーリングアーム結合体TC)の車幅方向Y車外側への変位(変形)を規制するストッパレバー37を設けることで、トレーリングアーム結合体TCの車幅方向Y車外側への変位(変形)だけを抑えて旋回外側の車輪Wがトーアウトとなるのを抑制できる機能を得ている。
【0045】
これにより、本願発明の第1の実施形態のリヤサスペンション装置Sよれば、車両の旋回走行時において、旋回外側のトレーリングアーム12(トレーリングアーム結合体TC)の車幅方向Y車内側への変位(変形)を許容して、旋回外側の車輪Wがトーイン状態となるのを促進し、トレーリングアーム12(トレーリングアーム結合体TC)の車幅方向Y車外側への変位(変形)を抑制して、路面の凹凸等により車輪Wがトーアウト状態となるのを阻止することで、車両の旋回走行時における走行安定性を向上させることができる。
また、第1の実施形態では、従来のトレーリングアーム結合体の構成を大きく変えることなく、基本的にストッパレバー37を増やしただけの簡単な構成であるので、トーコントロールアームを採用する場合と比べて部品点数も少なく、コストや重量の増加を抑制することができる。
【0046】
次に、本発明の第2の実施形態について図7および図10を用いて説明する。
【0047】
第2の実施形態は、図1に示す第1の実施形態のリヤサスペンション装置Sと基本的な構成は同じであり、ストッパレバー37のストッパ部材39の構成を改良したものである。
従って、ここでのトレーリングアーム結合体TCaは、図4(a)、(b)に示した第1の実施形態のトレーリングアーム結合体TCと対比し、トレーリングアーム12aおよび車軸支持部9a、そして係合部である係止穴38aがほぼ同一の構成であり、その動きや作用についても同等であるため、同一の部分については、できるだけ省略して説明する。
【0048】
トレーリングアーム結合体TCaの概略全体図を図7(a)に、ストッパレバー37aの要部構成を図7(b)、(c)に示す。また、車輪Wからの負荷の入力状況に応じたトレーリングアーム結合体TCaの変位(変形)状態の模式図を図10(a)〜(c)に示した。
図7(a)〜(c)に示すように、トレーリングアーム結合体TCaの車軸支持部9aの車幅方向Y車外側に設けられるストッパレバー37aは、その前突端372aよりトレーリングアーム12aに向けてストッパ部材39aを突設させている。ストッパ部材39aはトレーリングアーム12aに形成された係止穴38aに挿通された直状部391と、直状部391の突端に形成され係止穴38aの車幅方向Y車内側の周縁部に係止可能な環状フック部392とを有する。ここでストッパ部材39aは、係止穴38aの深さ方向に直状部391の長さspの範囲で相対変位可能に嵌挿される。
【0049】
車両の直進走行状態(路面の凹凸からの大きな入力が無い状態)においては、車輪Wが受ける車幅方向Yでの負荷が小さく、無視される程度であるため、図10(a)に示すように、トレーリングアーム12a(トレーリングアーム結合体TCa)は、変位(変形)されずに前側部r1の係止穴38aにストッパレバー37aの前突端372aに突設されたストッパ部材39aが遊嵌状態で嵌挿された状態で維持される。
車両の旋回走行時には、旋回方向外側となるトレーリングアーム結合体TCaでは、図10(b)の実線で示すように、車幅方向Y車内側へ作用する負荷Fiによりトレーリングアーム12aが弾性変形促進部Cで変形することで車軸支持部9aの前方側が車幅方向Y車内側に変位(実線で表示)されて、車輪Wがトーイン状態とされる。この際、係止穴38aに対しストッパ部材39aが係止穴38a内により深く侵入して、ストッパ部39aの環状フック部392が係止穴38aの周縁部から離脱してトレーリングアーム12aとストッパレバー37aの前突端372aとの接近変位を許容するよう移動する。これにより、ストッパ部材39aに阻止されることなくトレーリングアーム12aが変位(変形)されて車軸支持部9aがトーイン変位される。
【0050】
一方、図10(c)に示すように、車両の旋回走行時に路面の凹凸等により車輪Wに車幅方向Y外側への負荷Foが作用した場合、車軸支持部9aが負荷Foによって車幅方向Y車外側へ変位しようとするが、ストッパレバー37aにより車軸支持部9aのトーアウト変位が阻止される。これにより、トレーリングアーム結合体TCaは、直進走行時の破線で示す位置より大きくずれることなく、実線で示す位置に保持される。この際、ストッパレバー37aのストッパ部材39aの環状フック部392が係止穴38aの周縁に係止されるため、トレーリングアーム12aとストッパレバー37aが一体化され、トレーリングアーム12aの車幅方向Y車外側への変位が阻止されて車軸支持部9aのトーアウト変位が阻止される。
【0051】
このように、第1の実施形態同様、第2の実施形態においても、コストや重量の増加を抑えた簡単な構成で、車両の旋回走行時における旋回外側のトレーリングアーム12a(トレーリングアーム結合体TCa)の車幅方向Y車内側への変位(変形)を許容して、旋回外側の車輪Wがトーイン状態となるのを促進し、トレーリングアーム12a(トレーリングアーム結合体TCa)の車幅方向Y車外側への変位(変形)を抑制して、路面の凹凸等により車輪Wがトーアウト状態となるのを阻止することで、車両の旋回走行時における走行安定性を向上させることができる。
【0052】
次に、本発明の第3の実施形態について図8および図11を用いて説明する。
第3の実施形態は、図1に示す第1の実施形態のリヤサスペンション装置Sと基本的な構成は同じであり、トレーリングアーム結合体TCbのストッパレバー37bおよびストッパ部材39bが嵌着される係合部の構成を改良したものである。
従って、ここでのトレーリングアーム結合体TCbは図4(a)、(b)に示した第1の実施形態であるトレーリングアーム結合体TCと対比し、トレーリングアーム12bおよび車軸支持部9bの基本的な構成がほぼ同様であり、その動きや作用についても同等であるため、同一の部分については、できるだけ省略して説明する。
トレーリングアーム結合体TCbの概略全体図を図8(a)、(b)に、ストッパレバー37bの前突端372bにおける要部構成を図8(C)に示す。また車輪Wからの負荷の入力状況に応じたトレーリングアーム結合体TCbの変位(変形)状態の模式図を図11(a)〜(c)に示した。
【0053】
図8(a)、(b)に示すように、トレーリングアーム結合体TCbは図4のトレーリングアーム結合体TCと同様に、トレーリングアーム12bと車軸支持部9bを備え、車軸支持部9bの縦壁wr1にストッパレバー37bの後端部371bが溶着され、後端部371bから延出部373bが車体前方側にトレーリングアーム12bと並んで延びている。ストッパレバー37bの前突端372bには、直状のストッパ部材39bが車体前方に向かって突設される。
トレーリングアーム12bの車体前後方向Xの略中間部における縦壁wr1には、基端が溶着されて車幅方向Y車外側に向かって延びる突状部材41が設けられる。
突状部材41には、車幅方向Yに長い長穴状の係止穴411が形成され、その係止穴411にストッパ部材39bが車幅方向Yに移動可能な遊嵌状態で嵌挿される。
【0054】
突状部材41は、本発明の係合部であり、ストッパ部材39bは、定常状態(直進状態)では、係止穴411の車幅方向Y車外側の内周縁の近傍に(もしくは、内周縁に当接した状態で)嵌挿されている。
図11(a)に示すように、車両が直進状態(路面の凹凸からの大きな入力が無い状態)にあると、トレーリングアーム結合体TCbは、負荷(横力)を受けず、トレーリングアーム12bの弾性変位促進部Cでの変位がなく、トレーリングアーム結合体TCbは定常の状態を保持する。
車両の旋回走行時には、旋回方向外側に位置するトレーリングアーム結合体TCbでは、図11(b)の実線で示すように、車幅方向Y車内側へ作用する負荷Fiによりトレーリングアーム12bが弾性変形促進部Cで変形することで車軸支持部9bの前方側が車幅方向Y車内側に変位されて、車輪Wがトーイン状態とされる。
【0055】
この際、ストッパレバー37bの前突端372bのストッパ部材39bは係止穴411内で車幅方向Y車内側に移動してトレーリングアーム12b側に変位する。つまりストッパ部39bが突状部材41の係止穴411の内周縁から離脱してトレーリングアーム12bとストッパレバー37bの前突端372bとの接近変位を許容するよう移動する。これにより、ストッパ部材39bに阻止されることなくトレーリングアーム12bが変位(変形)されて車軸支持部9bがトーイン変位される。
一方、車両の旋回走行時に路面の凹凸等により車輪Wに車幅方向Y外側への負荷Foが作用した場合、図11(c)に示すように、車軸支持部9bに車幅方向Y車外側への負荷Foが作用するが、ストッパレバー37bにより車軸支持部9bのトーアウト変位を阻止され、トレーリングアーム結合体TCbは、直進走行時の破線で示す位置より大きくずれることなく、実線で示す位置に保持される。
この際、レバー部37bの前突端372bのストッパ部材39bは係止穴411の車幅方向Y車外側の内周縁に圧接し係合されるため、トレーリングアーム12bとストッパレバー37bとが一体化され、トレーリングアーム12bの車幅方向Y車外側への変位(変形)が阻止されて車軸支持部9bのトーアウト変位が阻止される。
【0056】
このように、第3の実施形態においても、コストや重量の増加を抑えた簡単な構成で、車両の旋回走行時における旋回外側のトレーリングアーム12b(トレーリングアーム結合体TCb)の車幅方向Y車内側への変位(変形)を許容して、旋回外側の車輪Wがトーイン状態となるのを促進し、トレーリングアーム12b(トレーリングアーム結合体TCb)の車幅方向Y車外側への変位(変形)を抑制して、路面の凹凸等により車輪Wがトーアウト状態となるのを阻止することで、車両の旋回走行時における走行安定性を向上させることができる。
本発明者は、本発明に適用されたリヤサスペンション装置Sの車輪Wに車幅方向車内側への負荷が作用した場合(旋回による横力を想定)と、車輪Wに車幅方向車外側への負荷が作用した場合(路面の凹凸等による入力を想定)とにおけるトーイン変化量の解析を行っており、その結果を、図12に示す。
【0057】
図12において、CASE1は、本願発明の実施形態であってトレーリングアーム結合体TCにストッパレバー37および弾性変位促進部Cが設けられた場合、CASE2は、ストッパレバー37を排除し、弾性変位促進部Cのみを形成した場合、CASE3は、ストッパレバー37および弾性変位促進部Cを排除した基本的構成の場合を意味しており、それぞれのCASEで、車内側へ負荷が作用した場合と、車外側へ負荷が作用した場合での解析結果を表示している。
図12中において、(内向き)の表示は、旋回外側においてトレーリングアーム12(車輪W)が車内側への荷重Fiを受ける場合のトー変化量データを示し、(外向き)表示は、路面の凹凸等によりトレーリングアーム12(車輪W)が車外側への負荷Foを受ける場合のトー変化量データを示す。
【0058】
トレーリングアーム12が旋回方向外側において車幅方向車内側(内向き)への負荷Fiを受ける想定の場合、CASE3の基本的構成でのトーイン変化量[0.05deg(0.87μrad/N)]に対し、CASE1、2では比較的大きなトーイン変化量[0.096deg(1、67μrad/N)]が得られ、トレーリングアーム12のトーイン変化が促進されることが確認できた。
一方、トレーリングアーム12が路面の凹凸等の影響により車幅方向車外側(外向き)への負荷Foを受ける想定の場合、CASE3の基本的構成でのトーアウト変化量[―0.051deg(―0.89μrad/N)]に対し、CASE1ではトーアウトを抑制したと判断できる比較的小さなトーアウト変化量[―0.04deg(―0、69μrad/N)]となる結果が確認できたのに対して、CASE2ではトーアウト変位量が比較的大きな値[―0.096deg(―1.67μrad/N)]となる結果が出た。この解析結果は、弾性変位促進部Cを形成しただけの場合には、旋回方向外側のトレーリングアーム結合体TCのトーアウト変化量が過度に大きくなりやすい点を明らかとしており、この場合、旋回走行時における路面凹凸乗り越し時等の走行安定性に問題を生じやすいことが明らかであり、本願発明に適用されたCASE1のトレーリングアーム結合体TCのようにストッパ部材39を設けることが有効であることが明らかとなった。
【0059】
このように、本発明に適用されたCASE1のトレーリングアーム結合体TCであれば、車両の旋回走行時において、旋回方向外側のトレーリングアーム12(車輪W)のトーイン変位を積極的に促進するとともにトーアウト変位を確実に抑制することができるので、コストや重量を抑制した簡単な構成で、車両の旋回走行時における走行安定性を確実に向上させることができる。
【符号の説明】
【0060】
1、2 サイドフレーム(車体フレーム)
3 クロスメンバ
7 車軸
9 車軸支持部
901 筒状軸受け部
101、102 上下延出部
11 ハブ
12 トレーリングアーム
15 アッパーアーム
16 ロアアーム
32 ブラケット
33 連結ピン
37 ストッパレバー
38 貫通穴(係合部)
39 ストッパ
c1 切欠部
fj 前側連結部
t 隙間
wr1 縦壁
wr2 屈曲フランジ
A1 アーム取り付け部
C 弾性変位促進部
F 負荷
Fi 車幅方向車内側への負荷
Fo 車幅方向車外側への負荷
S リヤサスペンション装置
TC トレーリングアーム結合体
W 車輪
X 車両前後方向
Y 車幅方向

【特許請求の範囲】
【請求項1】
車輪を回転可能に支持する車軸支持部と該車軸支持部から車両前方側に延設されて前端が車体に揺動可能に枢支されるトレーリングアームとを有したトレーリングアーム結合体と、
車幅方向に延設され、一端が車体に連結されるとともに他端が前記車輪の車軸よりも車両後方側で前記車軸支持部の上下に連結されて前記トレーリングアーム結合体を上下に揺動可能に支持するアッパーアーム及びロアアームと、
前記トレーリングアームに形成されて、前記車軸支持部に車幅方向への負荷が作用した際に前記トレーリングアームの車幅方向での変位を促進する弾性変位促進部と、
前記車軸支持部から前記トレーリングアームと並んで車両前方側に延設され、前記弾性変位促進部よりも車両前方側において前記トレーリングアームに遊嵌されるストッパレバーと、を備え、
前記ストッパレバーは、前記車軸支持部に車幅方向車内側への負荷が作用した場合に前記トレーリングアームの車幅方向車内側への変位を許容し、前記車軸支持部に車幅方向車外側への負荷が作用した場合に前記トレーリングアームと係合して一体化することで該トレーリングアームの車幅方向車外側への変位を規制する
ことを特徴とするリヤサスペンション装置。
【請求項2】
請求項1記載のサスペンション装置において、
前記トレーリングアームには、前記弾性変位促進部よりも車両前方側に係合部が形成され、前記ストッパレバーには、前記係合部に対向して突設され、前記トレーリングアームと係合される係合状態と前記トレーリングアームと係合されない非係合状態とに変位可能なストッパ部材が形成されており、
前記ストッパ部材は、前記車軸支持部に車幅方向車内側への負荷が作用した場合に非係合状態となり、前記車軸支持部に車幅方向車外側への負荷が作用した場合に係合状態となる
ことを特徴とするリヤサスペンション装置。
【請求項3】
請求項1又は2に記載のリヤサスペンション装置において、
前記トレーリングアームは、縦壁とその上下端縁より車幅方向車内側に屈曲して延出するフランジを有する断面略コ字状を成し、前記フランジの一部を切欠くことで前記弾性変位促進部を形成している
ことを特徴とするリヤサスペンション装置。
【請求項4】
請求項3記載のリヤサスペンション装置において、
前記係合部は、前記トレーリングアームの前記縦壁に形成された車両前後方向に長い長穴状の係止穴であり、
前記ストッパ部材は、前記ストッパレバーの前端部において車幅方向車内側に突設されて前記係止穴の車両前方側の内周縁近傍に嵌入されており、
前記車軸支持部に車幅方向車内側への負荷が作用した際には、前記ストッパ部材が前記係止穴の前記車両前方側の内周縁から離脱するよう変位されて非係合状態を維持し、前記車軸支持部に車幅方向車外側への負荷が作用した際には、前記係止穴の車両前方側の内周縁と前記ストッパ部材とが当接して係合状態となることで前記トレーリングアームと前記ストッパレバーとが一体化される
ことを特徴とするリヤサスペンション装置。
【請求項5】
請求項3記載のリヤサスペンション装置において、
前記結合部は、前記トレーリングアームの前記縦壁に設けられた係止穴であり、
前記ストッパ部材は、前記ストッパレバーの前端部において車幅方向車内側に突設されて前記係止穴に嵌入され、かつ、その端部に前記係止穴を挿通不可に形成されたフックを有しており、
前記車軸支持部に車幅方向車内側への負荷が作用した際には、前記ストッパ部材のフックが前記係止穴から離脱するよう変位されて非係合状態を維持し、前記車軸支持部に車幅方向車外側への負荷が作用した際には、前記係止穴周縁部の前記縦壁に前記ストッパ部材の前記フックが当接して係合状態となり前記トレーリングアームと前記ストッパレバーとが一体化される
ことを特徴とするリヤサスペンション装置。
【請求項6】
請求項3記載のリヤサスペンション装置において、
前記係合部は、前記トレーリングアームから車幅方向車外側に延設され、車幅方向に長い長穴状の係止穴が形成された突状部材から成り、
前記ストッパ部材は、前記ストッパレバーの前端部から車両前方に突設されて前記係止穴の車幅方向車外側の内周縁近傍に嵌入されるよう形成されており、
前記車軸支持部に車幅方向車内側への負荷が作用した際には、前記ストッパ部材が前記係止穴の前記車幅方向車外側の内周縁から離脱するよう変位されて非係合状態を維持し、前記車軸支持部に車幅方向車外側への負荷が作用した際には、前記係止穴の前記車幅方向車外側の内周縁と前記ストッパ部材とが当接して係合状態となることで前記トレーリングアームと前記ストッパレバーとが一体化される
ことを特徴とするリヤサスペンション装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【公開番号】特開2012−86642(P2012−86642A)
【公開日】平成24年5月10日(2012.5.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−233983(P2010−233983)
【出願日】平成22年10月18日(2010.10.18)
【出願人】(000006286)三菱自動車工業株式会社 (2,892)
【Fターム(参考)】