説明

リラクタンス型レゾルバ

【課題】生産性が高く、製造コストが安い上に、外来ノイズに対して角度検出誤差の少ないレゾルバを実現する。
【解決手段】二個の磁極歯を一体化したステータコア2をプリント基板5に設けられた孔に貫通させるとともに、プリント基板5のうち孔の周囲に巻き方向が互いに逆になったコイルパターン3を設ける。そして、ステータコア2およびプリント基板5を、この磁極歯が、回転軸4が偏心して取り付けられたロータ1に近接するように配置し、ロータ1の回転角度に応じて変化するコイル3のインダクタンス変化を用いて回転角度を検出する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、サーボモータ等の回転角度の検出に利用されるレゾルバに関するものであり、低コスト、かつ、外来ノイズに対して誤差が少なくできる構造に関する。
【背景技術】
【0002】
本発明の背景となる従来技術としては、図8に示すようなリラクタンス型レゾルバがある。図中のロータ1は、珪素鋼板等の磁性材料で形成された円板であって、回転中心に対して偏心して取り付けられている。磁性材料によって形成されたステータ2には、ロータ1に対向して4つの磁極歯が設けられており、この磁極歯にはそれぞれ、4つのコイル3a,3b,3c,3d(以下、4つのコイルを区別しない場合は単に「コイル3」と呼び、添え字アルファベットは省略する)が巻回されている。
【0003】
ロータ1が回転すると磁極歯とロータとの間のエアギャップが変化するため、コイル3のインダクタンスが変化する。すなわち、ロータ1の回転角度をθとするとコイル3aのインダクタンスLa(θ)は、
La(θ)=Lm・cos(θ)+Ln ・・・ 式1
と表わされる。なお、Lm,Lnは、ロータ1が最も磁極歯に近づいた時のインダクタンスをLp、最も遠ざかった時のインダクタンスをLvとして以下のように表わされる。
Lm=(Lp−Lv)/2・・・ 式2
Ln=(Lp+Lv)/2・・・ 式3
【0004】
同様にコイル3b、コイル3c、コイル3dのインダクタンスは次のように表わされる。
Lb(θ)=Lm・sin(θ)+Ln・・・ 式4
Lc(θ)=−Lm・cos(θ)+Ln・・・ 式5
Ld(θ)=−Lm・sin(θ)+Ln・・・ 式6
【0005】
これらコイルに、周波数がωt、振幅がIの正弦波電流i(t)を通電した時、それぞれのコイルに発生する電圧ea(t),eb(t),ec(t),ed(t)は以下のように表わされる。
i(t)=I・sin(ωt)・・・ 式7
ea(t)=ωI(Lm・cos(θ)+Ln)cos(ωt)・・・ 式8
eb(t)=ωI(Lm・sin(θ)+Ln)cos(ωt)・・・ 式9
ec(t)=ωI(−Lm・cos(θ)+Ln)cos(ωt)・・・ 式10
ed(t)=ωI(−Lm・sin(θ)+Ln)cos(ωt)・・・ 式11
【0006】
これらの電圧を、演算回路を用いて下式のように演算すると、次の正弦波信号ex(t),ey(t)が得られる。
ex(t)=ea(t)−ec(t)
=2ωI・Lm・cos(θ)・cos(ωt)・・・ 式12
ey(t)=eb(t)−ed(t)
=2ωI・Lm・sin(θ)・cos(ωt)・・・ 式13
【0007】
サンプルホールド回路等を用いてcos(ωt)=1となるタイミングでex(t),ey(t)をサンプリングし、これらに次式の演算を施すことにより、ロータの回転角度θが算出される。
θ=tan−1(ey(t)/ex(t))・・・ 式14
【0008】
本発明の背景となる他の技術として、特許文献1に示されるようなリラクタンス型レゾルバがある。このレゾルバは、図8のコイル3をプリント基板に置き換えたものであり、巻線作業が簡単化されるため製造コストが安い。また、レゾルバの形状を薄型化できるメリットもある。
【0009】
さらに、本発明の背景となる他の技術として、特許文献2に示されるようなリラクタンス型レゾルバがある。この事例でもコイルをプリント基板によって構成しており、製造コストの安いレゾルバを実現している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開2007−232507号公報
【特許文献2】特開2007−285774号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
図8における従来のリラクタンス型レゾルバにおいては、以下のような二つの課題がある。その第一はコイルを巻線によって製造するため、生産性が低く、製造コストが高いという課題である。また、第二の課題は、外来のノイズ磁束に対して角度検出値に誤差を生じやすいという課題である。その理由を図9を用いて説明する。
【0012】
図9は従来のリラクタンス型レゾルバに対して、外部からノイズ磁束φdが与えられた場合の磁束の流れを示す図である。なお、ノイズ磁束の発生原因としては、近郊に設置された電力線の影響や、モータの漏れ磁束等が考えられる。図9において、コイル3aとコイル3bを比較すると、ロータ1の偏心によってコイル3aのエアギャップが小さいため、多くのノイズ磁束が通過する。同様にコイル3cとコイル3dの比較においてもコイル3dに多くのノイズ磁束が通過する。コイル3aとコイル3cの出力電圧に均等に含まれるノイズ成分は、式12で示したように引き算されるため、検出信号ex(t)には現われないが、上述のように不均等なノイズ磁束が流れるため、結果として角度検出値に誤差が発生する。
【0013】
特許文献1に示されたレゾルバは、コイルをプリント基板によって形成しており、生産性に関する課題は改善されている。しかしながら、ステータコアを複数の磁性体を組み立てることで構成しており、組立作業性による製造コストの課題は残る。さらに、上述した外来ノイズ磁束に関する課題は、図8のレゾルバと同様であり、角度検出値に誤差が発生するという課題がある。
【0014】
特許文献2に示されたレゾルバについても、コイルをプリント基板によって形成しているので生産性の課題が改善されているが、ステータコアの構造が複雑であり、組立作業性による製造コストの課題がある。また、外来磁束ノイズによって角度検出誤差が発生するという課題も同様である。
【課題を解決するための手段】
【0015】
上述した課題は、コイルのインダクタンスの変化を検出することによって、ロータの回転角度を検出するリラクタンス型レゾルバであって、磁性材料により形成された円板であって、回転軸が当該円板の中心に対して偏心して取り付けられたロータと、磁性材料からなり、前記ロータに近接配置される2つの磁極歯が一体形成されたステータコアと、前記ステータコアの2つの磁極歯を貫通する2つの孔と、当該孔の周囲に銅箔パターンによって形成されるとともに巻き方向が互いに逆になるよう接続された2つのコイルと、を有するプリント基板と、を備えることを特徴とするリラクタンス型レゾルバによって解決される。
【0016】
さらに詳細な手段としては、前記ステータコアの2つの磁極歯が、前記ロータの表面に近接して対向配置され、前記ロータの回転角度に応じて、前記磁極歯と前記ロータ表面との対向面積が変化することによってインダクタンスが変化するレゾルバとすることができる。
【0017】
さらにまた、別の詳細手段としては、前記ステータコアの2つの磁極歯が、前記ロータの側面に近接して対向配置され、前記ロータの回転角度に応じて、前記磁極歯と前記ロータ側面との間のエアギャップが変化することによってインダクタンスが変化することを利用したレゾルバとすることができる。
【発明の効果】
【0018】
本発明によるリラクタンス型レゾルバによれば、コイルとして巻線を用いず、プリント基板による印刷パターンで構成しているので、生産性が高く、製造コストが安いという効果がある。また、コイルは巻き方向が逆の2つのコイルを近接して配置しているので、外来のノイズ磁束によって発生する誤差電圧をキャンセルする働きがあり、角度検出値の誤差が少ないという効果がある。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】本発明の一実施例によるリラクタンス型レゾルバの構造図である。
【図2】本発明の一実施例によるリラクタンス型レゾルバに使用しているプリント基板、ステータコア、コイルの実装形態を示す図である。
【図3】本発明の一実施例によるリラクタンス型レゾルバの動作を説明するための正面図である。
【図4】本発明の一実施例によるリラクタンス型レゾルバの側面図である。
【図5】本発明の別の実施例によるリラクタンス型レゾルバの動作を説明するための正面図である。
【図6】本発明の別の実施例によるリラクタンス型レゾルバの側面図である。
【図7】本発明によるリラクタンス型レゾルバを応用して多回転絶対位置検出器を構成した構造図である。
【図8】従来技術によるリラクタンス型レゾルバの構造図である。
【図9】従来技術によるリラクタンス型レゾルバにおいて、外来ノイズ磁束に対する動作を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
図1に本発明の一実施例によるリラクタンス型レゾルバの構造図を示す。ロータ1は珪素鋼板等の磁性材料によって形成された円板であって、回転軸4に対して偏心して取り付けられている。そしてロータ1に対して近接してプリント基板5が配置されている。
【0021】
プリント基板5の詳細構造について図2を用いて説明する。プリント基板5にはステータコア6の磁極歯が貫通する孔が設けられており、磁性材料によって形成されたステータコア6を図2の下面から接着等によって固定している。ステータコア6は2個の磁極歯を一体として形成されている。プリント基板上のステータコア6が貫通する孔の周囲には、銅箔の印刷パターンによってコイル3a、コイル3b、コイル3c、コイル3dが設けられている。各々のコイルは2個の磁極歯のそれぞれに巻き回された2つのコイルを直列接続した構成となっており、2つのコイルは互いに巻方向が逆になっている。
【0022】
次に本発明によるレゾルバの動作原理を説明する。図3は本発明による一実施例の正面方向から見た模式図である。ロータ1は回転中心に対して偏心して取り付けられていて、ロータ1の外周部は図中の点線の軌跡を描いて回転する。今、ロータ1の位置が図3の状態にあるとすると、ステータコア6bはロータ1と向かい合う面積が最大となっている。この時、ステータコア6bに巻回されたコイル3bのインダクタンスは最大値(=Lp)となっている。一方、ステータコア6dはロータ1と向かい合う面積が最小となり、この時、コイル3dのインダクタンスは最小となる。これらコイルのインダクタンスはロータ1の回転角度θによって変化し、その関係式は式1、式4、式5、式6に示した通りである。
【0023】
図4は、図3の実施形態例を側面から見た図であり、ステータコア6とロータ1は極小さなエアギャップを介して近接して対向するよう配置されている。また、ステータコア6は磁極歯がプリント基板5を貫通するよう配置されている。
【0024】
図5および図6は、本発明のもう1つの実施形態であるレゾルバの、正面から見た模式図および側面から見た図である。この実施例においては、ロータ1はステータコア6の内側に配置されており、図6に示すように、ステータコア6はロータ1の側面にエアギャップを介して近接するよう配置されている。この実施例においては、ロータ1の回転角度θに応じてステータコア6とロータ1の間のエアギャップが変化するため、コイルのインダクタンスが変化する。このインダクタンス変化と回転角度θの関係式は式1、式4、式5、式6に示した通りである。
【0025】
本発明によるレゾルバの外来ノイズ磁束に対する挙動を説明する。図2に示したように2個の磁極歯に巻回された2つのコイルは互いに近接して配置されている。従って、外来ノイズ磁束が与えられた時、2つのコイルを通過するノイズ磁束はほぼ等しい量となる。しかも、2つのコイルは互いに逆方向になるよう直列接続されているため、ノイズ磁束によって発生したコイルの誘起電圧は、2つのコイル間で互いに相殺し、出力信号には現われない。この結果、外来ノイズ磁束の影響を受けない精度のよいレゾルバを実現することができる。
【0026】
次に本発明によるリラクタンス型レゾルバを用いた応用例として、多回転絶対位置を検出する回転検出器の実施例を説明する。図7は、本発明によるレゾルバを3つ組み合わせて、それぞれのロータを、互いに減速比が異なるギアで結合したものである。例えば、ギア7とギア8の減速比を10:10、ギア7とギア9の減速比を10:9、ギア7とギア10の減速比を10:7とすることによって、入力回転軸4が63回転するまでの多回転において、ロータ1a,1b,1cの位置関係は同位置にならない。よって3つのロータの検出位置データから63回転中の絶対位置が検出できる。
【0027】
本発明の実施例では、ロータ1を円板とし、ステータコア6が4つの例、すなわち2極レゾルバを示したが、ロータ形状によって多極のレゾルバを実現することも可能である。例えばロータ1は楕円形状とし、8つのステータコア6を配置することにより、1回転を2周期として検出する4極レゾルバを構成することができる。
【0028】
図2に示した実施例では、ステータコア6は4つの独立した部品で示したが、製造コストの削減、組立作業性の改善のため、4つを一体とすることも可能である。この場合、4つのステータコアは互いの相対位置が精度よく実装されるため、結果として検出位置精度が向上する効果もある。
【符号の説明】
【0029】
1 ロータ、2 ステータ、3 コイル、4 回転軸、5 プリント基板、6 ステータコア、7,8,9,10 ギア。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
コイルのインダクタンスの変化を検出することによって、ロータの回転角度を検出するリラクタンス型レゾルバであって、
磁性材料により形成された円板であって、回転軸が当該円板の中心に対して偏心して取り付けられたロータと、
磁性材料からなり、前記ロータに近接配置される2つの磁極歯が一体形成されたステータコアと、
前記ステータコアの2つの磁極歯を貫通する2つの孔と、当該孔の周囲に銅箔パターンによって形成されるとともに巻き方向が互いに逆になるよう接続された二つのコイルと、を有するプリント基板と、
を備えることを特徴とするリラクタンス型レゾルバ。
【請求項2】
請求項1に記載のリラクタンス型レゾルバであって、
前記ステータコアの2つの磁極歯は、前記ロータの表面に近接して対向配置され、前記ロータの回転角度に応じて、前記磁極歯と前記ロータ表面との対向面積が変化することによってインダクタンスが変化する、ことを特徴とするリラクタンス型レゾルバ。
【請求項3】
請求項1に記載のリラクタンス型レゾルバであって、
前記ステータコアの2つの磁極歯は、前記ロータの側面に近接して対向配置され、前記ロータの回転角度に応じて、前記磁極歯と前記ロータ側面との間のエアギャップが変化することによってインダクタンスが変化する、ことを特徴とするリラクタンス型レゾルバ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2012−78238(P2012−78238A)
【公開日】平成24年4月19日(2012.4.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−224655(P2010−224655)
【出願日】平成22年10月4日(2010.10.4)
【出願人】(000149066)オークマ株式会社 (476)
【Fターム(参考)】