説明

リングシール構造及び燃料ポンプのシール構造

【課題】リングシール構造及び燃料ポンプのシール構造を提供する。
【解決手段】本発明に係るリングシール構造10Aは、リングを用いたシール構造であって、リング取付け筒状部材11の外周壁12に形成されるリング配置溝13と、該リング配置溝13内に設けられ、リング11の変形を吸収する変形吸収充填部材14と、該変形吸収充填部材14が設けられたリング配置溝13内に配設されるOリング15Aとを有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば内燃機関の燃料ポンプ等に適用するリングシール構造及び燃料ポンプのシール構造に関する。
【背景技術】
【0002】
例えばディーゼルエンジンの潤滑油の品質および純度が維持されることは、エンジンの耐久性を維持させるために極めて重要である。ディーゼルエンジンなど内燃機関の燃料ポンプの燃料油と潤滑油との混合を防ぐためのシール部材として、Oリングなどが用いられているが、Oリングの材料としては、例えばフッ素ゴム系シール用組成物が用いられている(例えば、特許文献1〜3参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2000−44931号公報
【特許文献2】特開2004−262968号公報
【特許文献3】特開2004−217892号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、シール部材の使用環境は、例えば180℃〜230℃であり、Oリングが潤滑油、燃料油と接する上、Oリングがシールとしての機能を果たすためには、外筒やケーシングなどにより強い圧力が加えられ、激しい変形が繰り返される。これにより、Oリングは繰り返しの圧力と温度のために疲労して表面にシワが形成され、Oリングの伸縮が繰り返されることでOリング自体にワレが生じ、更には破断を生じる。このように、Oリングが劣化することで、Oリングはシール部材として機能が果たせなくなり、潤滑油に燃料油が混入して潤滑油の燃料油による希釈(ダイリューション)を生じ、ディーゼルエンジンなど内燃機関の下部にあるエンジンオイルの機能の低下に伴い、内燃機関の焼付けの不具合などを発生させる、という問題がある。
【0005】
例えば内燃機関が焼き付いた場合には、修理等のために多額の費用を要することになる。また、ピストンの摺動面の潤滑性を維持し、スカッフィングを抑制する観点から、正常な潤滑性を維持するためには、潤滑油の燃料油による希釈(ダイリューション)の割合は極力低くする必要があるが、潤滑油中への異物の混入割合は5%以下に抑制する必要がある。そのためにエンジンオイルの潤滑油中に燃料油が所定量(例えば、5%程度)の混合比率を超えた場合には新しい潤滑油に入れ替える必要が生じる。
【0006】
本発明は、前記問題に鑑み、Oリングの劣化を抑制し、潤滑油の燃料油によるダイリューションを抑制することができるリングシール構造及び燃料ポンプのシール構造を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上述した課題を解決するための本発明の第1の発明は、リングを用いたシール構造であって、リング取付け筒状部材の外周壁に形成されるリング配置溝と、該リング配置溝内に設けられ、リングの変形を吸収する変形吸収充填部材と、該変形吸収充填部材が設けられたリング配置溝内に配設されるリングとを有することを特徴とするリングシール構造にある。
【0008】
第2の発明は、第1の発明において、前記変形吸収充填部材が、ポリイミド樹脂充填物であることを特徴とするリングシール構造にある。
【0009】
第3の発明は、第1の発明において、前記変形吸収充填部材が、リングの嵌合部を有するポリイミド樹脂中空体と、該ポリイミド樹脂中空体に充填されるポリイミド粉末、ポリイミド樹脂、酸化モリブデン、ペースト状カーボンのいずれか一つの充填物とからなることを特徴とするリングシール構造にある。
【0010】
第4の発明は、リングを用いたシール構造であって、リング取付け部材に形成されるリング配置溝と、内層と外層の2層構造からなり、前記内層がリングの変形を吸収する変形吸収材からなることを特徴とするリングシール構造にある。
【0011】
第5の発明は、第4の発明において、前記外層は、リング配置溝から露出するリング外周側が肉厚であることを特徴とするリングシール構造にある。
【0012】
第6の発明は、リングを用いたシール構造であって、リング取付け部材に形成されるリング配置溝と、リングが少なくとも2以上に分割自在とされ、分割部が先細りの芯部と、該芯部を挿入可能な鞘部とからなることを特徴とするリングシール構造にある。
【0013】
第7の発明は、第1乃至6のいずれか一つの発明において、前記リングがOリングであることを特徴とするリングシール構造にある。
【0014】
第8の発明は、内周壁に囲まれた作動空間を有するシリンダと、前記シリンダ内に摺動可能に嵌合され、前記作動空間内を往復運動するプランジャとを有し、前記プランジャの往復運動により、加圧室内に吸入した燃料を加圧供給すると共に、前記シリンダの外周面を摺接することにより、加圧室側である燃料領域と反加圧室側である潤滑油領域とを隔離する燃料ポンプのシール構造であり、前記シリンダ外周壁に請求項1乃至7のいずれか一つのリングシール構造を有すことを特徴とする燃料ポンプのシール構造にある。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、リングの劣化を抑制し、長期間に亙って流体の密封を行うことができる。また、例えば潤滑油の燃料ポンプ等に用いた場合にはリングの劣化を抑制することができるため、潤滑油の燃料油によるダイリューションを抑制することができ、エンジンの焼き付け現象の防止や早期の潤滑油の交換を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】図1は、実施例1に係るリングシール構造の概略図である。
【図2】図2は、シール構造を燃料ポンプに適用した一例を示す概略図である。
【図3−1】図3−1は、試験結果を示す図である。
【図3−2】図3−2は、比較試験結果を示す図である。
【図4】図4は、リング配置溝13内に配置される耐熱樹脂中空体の斜視図である。
【図5】図5は、実施例2に係るリングシール構造の概略図である。
【図6】図6は、実施例3に係るリングシール構造の概略図である。
【図7】図7は、本実施例に係るOリングの概略図である。
【図8】図8は、その分割部の概略図である。
【図9】図9は2分割のOリングの概略図である。
【図10】図10は4分割のOリングの概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、この発明につき図面を参照しつつ詳細に説明する。なお、この実施例によりこの発明が限定されるものではない。また、下記実施例における構成要素には、当業者が容易に想定できるもの、あるいは実質的に同一のものが含まれる。
【実施例1】
【0018】
本発明による実施例に係るリングシール構造について、図面を参照して説明する。図1は、本実施例に係るリングシール構造の概略図である。
図1に示すように、本実施例に係るリングシール構造10Aは、リングを用いたシール構造であって、リング取付け筒状部材(以下「筒状部材」という)11の外周壁12に形成されるリング配置溝13と、該リング配置溝13内に設けられ、リング11の変形を吸収する変形吸収充填部材14と、該変形吸収充填部材14が設けられたリング配置溝13内に配設されるOリング15Aとを有するものである。
【0019】
前記リングとしては、押しつぶされることにより発生する応力によって、密封機能を発揮する環状部材であればいずれでもよいが、代表的にはOリングである。このOリング以外には、例えばDリング、角リング、Xリング等密封する用途に応じて適宜選定される。
以下、本発明においては、Oリングを用いて説明する。
【0020】
このOリング15Aは押しつぶされるので、その塑性変形により疲労劣化が生じるが、本実施例においては、変形吸収充填部材14として、例えばポリイミド樹脂を充填している。
このポリイミド樹脂は、繰り返し単位にイミド結合を含む高分子の総称であり、通常は芳香族化合物が直接イミド結合で連結された芳香族ポリイミドをいう。
このポリイミド樹脂は耐熱性であると共に、Oリング15Aの変形を吸収することで、Oリング15Aの疲労を防止するようにしている。
【0021】
この結果、Oリング15Aの表面に生じるシワ、ワレ等の発生を防止することができ、Oリング15Aの劣化・損傷を抑制し、長期間に亙って流体の密封を行うことができる。
【0022】
図2は、シール構造を燃料ポンプに適用した一例を示す概略図である。
内周壁21に囲まれた作動空間を有するシリンダ22と、前記シリンダ22内に摺動可能に嵌合され、前記作動空間内を往復運動する筒状部材11のプランジャとを有し、前記プランジャの往復運動により、加圧室内に吸入した燃料を加圧供給すると共に、前記シリンダ22の外周面を摺接することにより、加圧室側である燃料領域と反加圧室側である潤滑油領域とを隔離する燃料ポンプのシール構造23に適用することができる。
これにより、Oリング15Aの劣化を抑制することができる。
これにより、劣化による潤滑油への燃料油によるダイリューションを抑制することができ、潤滑油の機能を低下させることを抑制すると共に、エンジンの焼き付け現象の防止や早期の潤滑油の交換を抑制することができる。
【0023】
図3−1は、試験結果を示す図であり、図3−2は、比較試験結果を示す図である。試験品は変形吸収充填部材14としてポリイミド樹脂を充填したものであり、比較品は従来の充填しないものである。
図3−1、図3−2に示すように、試験品は、比較品に比べて、長期間に亙ってのヒビやワレが見られなかった。
【0024】
図4は、リング配置溝13内に配置される耐熱樹脂中空体の斜視図である。
図4に示すように、充填物を充填する代わりに、Oリング15Aの嵌合部31を有する耐熱樹脂中空体30と、該耐熱樹脂中空体30に充填されるポリイミド粉末、ポリイミド樹脂、酸化モリブデン粉末、ペースト状カーボンのいずれか一つの充填物32とから構成されている。
耐熱樹脂中空体30の内部に充填された充填物32がOリング15Aの圧力、熱による変形を吸収し、この結果、Oリング15Aの表面に生じるシワ、ワレ等の発生を防止することができ、Oリング15Aの劣化・損傷を抑制し、長期間に亙って流体の密封を行うことができる。
【実施例2】
【0025】
本発明による実施例に係るリングシール構造について、図面を参照して説明する。図5は、本実施例に係るリングシール構造の概略図である。図6は、実施例3に係る他のリングシール構造の概略図である。
図5に示すように、本実施例に係るリングシール構造10Bは、Oリング15Bの構成を、内層15aと外層15bの2層構造からなり、前記内層15aがリングの変形を吸収する変形吸収材からなる。
【0026】
前記変形吸収材としては、例えばポリイミド粉末、ポリイミド樹脂、酸化モリブデン粉末、ペースト状カーボンのいずれか一つを挙げることができる。
【0027】
2層構造とするには、先ず外層15bを構成する中空チューブ状のOリングを形成し、これに内層15aを構成する樹脂、粉末等を充填する。
また、ポリイミド樹脂からなる内層15aと外層15bとを2層押し出し成形して、2層一体化したOリング15Bを形成するようにしてもよい。
【0028】
これにより、2層構造の内層15aがOリング15Bの圧力、熱による変形を吸収し、この結果、Oリング15Bの表面に生じるシワ、ワレ等の発生を防止することができ、Oリング15Bの劣化・損傷を抑制し、長期間に亙って流体の密封を行うことができる。
【0029】
2層構造は同心円としてもよいが、さらには図6に示すように、リング配置溝13から露出するリング外周側が肉厚としている。すなわち、内周側の厚さd1と外周側の厚さd2とを外周側が厚くなるようにしている。
この結果、磨耗による劣化や変形を抑制することができる。
【実施例3】
【0030】
本発明による実施例に係るリングシール構造について、図面を参照して説明する。図7は、本実施例に係るOリングの概略図である。図8は、その分割部の概略図、図9は2分割のOリングの概略図、図10は4分割のOリングの概略図である。
図7に示すように、本実施例に係るリングシール構造のOリング15Cは、リングが少なくとも2以上に分割自在とされている。そして図8に示すように、その分割部が先細りの芯部15cと、該芯部15cを挿入可能な鞘部15dとからなるようにしている。
【0031】
Oリング15Cがピストンの摺動により圧力を受け、燃料油の熱を受けて膨張する際に、芯部15cが鞘部15d内で伸長移動することで、Oリング15Cの表面のシワの形成が抑制される。これにより伸縮に伴うOリング15Cのワレを防止することが可能となる。
【0032】
図9は2分割のOリング15Cであり、図10は4分割のOリング15Cの構造を示す。これらの図面に示すように、複数の分割部を設けることにより、伸長移動を許容する箇所が増えるので好ましい。
【符号の説明】
【0033】
10A〜10B リングシール構造
11 リング取付け筒状部材(筒状部材)
12 外周壁
13 リング配置溝
14 変形吸収充填部材
15A〜15C Oリング



【特許請求の範囲】
【請求項1】
リングを用いたシール構造であって、
リング取付け筒状部材の外周壁に形成されるリング配置溝と、
該リング配置溝内に設けられ、リングの変形を吸収する変形吸収充填部材と、
該変形吸収充填部材が設けられたリング配置溝内に配設されるリングとを有することを特徴とするリングシール構造。
【請求項2】
請求項1において、
前記変形吸収充填部材が、ポリイミド樹脂充填物であることを特徴とするリングシール構造。
【請求項3】
請求項1において、
前記変形吸収充填部材が、リングの嵌合部を有する耐熱樹脂中空体と、
該耐熱樹脂中空体に充填されるポリイミド粉末、ポリイミド樹脂、酸化モリブデン粉末、ペースト状カーボンのいずれか一つの充填物とからなることを特徴とするリングシール構造。
【請求項4】
リングを用いたシール構造であって、
リング取付け部材に形成されるリング配置溝と、
内層と外層の2層構造からなり、前記内層がリングの変形を吸収する変形吸収材からなることを特徴とするリングシール構造。
【請求項5】
請求項4において、
前記外層は、リング配置溝から露出するリング外周側が肉厚であることを特徴とするリングシール構造。
【請求項6】
リングを用いたシール構造であって、
リング取付け部材に形成されるリング配置溝と、
リングが少なくとも1以上に分割自在とされ、分割部が先細りの芯部と、該芯部を挿入可能な鞘部とからなることを特徴とするリングシール構造。
【請求項7】
請求項1乃至6のいずれか一つにおいて、
前記リングがOリングであることを特徴とするリングシール構造。
【請求項8】
内周壁に囲まれた作動空間を有するシリンダと、
前記シリンダ内に摺動可能に嵌合され、前記作動空間内を往復運動するプランジャとを有し、
前記プランジャの往復運動により、加圧室内に吸入した燃料を加圧供給すると共に、前記シリンダの外周面を摺接することにより、加圧室側である燃料領域と反加圧室側である潤滑油領域とを隔離する燃料ポンプのシール構造であり、
前記シリンダ外周壁に請求項1乃至7のいずれか一つのリングシール構造を有すことを特徴とする燃料ポンプのシール構造。


【図1】
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【図2】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図3−1】
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【図3−2】
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【公開番号】特開2012−137164(P2012−137164A)
【公開日】平成24年7月19日(2012.7.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−291355(P2010−291355)
【出願日】平成22年12月27日(2010.12.27)
【出願人】(000006208)三菱重工業株式会社 (10,378)
【Fターム(参考)】