説明

リン化合物の製造方法及びアリル化合物誘導体の製造方法

【課題】 本発明の課題は、リン化合物の一種であるホスホロアミダイト化合物を、より簡便に且つ安全に製造でき、且つ工業的に有利なホスホロアミダイト化合物の合成法を提供することである。
【解決手段】 有機溶媒中で、ハロゲン化リン化合物、フェノール類、及び塩基を混合した後、得られた混合溶液に、アミン類を添加して、一般式(I)で表されるリン化合物を生成し、一般式(I)で表されるリン化合物を含有する反応液から、貧溶媒を用いて、一般式(I)で表されるリン化合物を取り出すリン化合物の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、リン化合物の製造方法に関し、より詳細には、ホスホロアミダイト化合物を簡便に製造する方法に関する。また、リン化合物を有する遷移金属錯体の存在下でアリル化合物誘導体を製造する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
リン化合物の一種であるホスホロアミダイト化合物は、特徴有る骨格を有することから様々な生理活性を示す物質であるだけでなく、最近では均一系触媒の配位子として種々の触媒反応に適用されている。代表的な触媒反応として、例えば、アリルカーボネートを用いてアリルアミン類を製造する反応などがある。
このようなホスホロアミダイト化合物を得る方法として、例えば、3塩化リンとトリエチルアミンを含むトルエン溶液にビナフトールを添加して反応させ、得られた反応液を濾過した後、カラムクロマトグラフィーで精製して、目的生成物を得る方法(非特許文献1)、あるいは、バイナフトールとトリスジメチルアミノホスフィンと塩化アンモニウムを反応させ、その反応液にジエチルエーテルを加えて、再結晶により精製し、目的生成物を得る方法(非特許文献2)などがある。
【0003】
しかしながら、これらの方法は、目的のホスホロアミダイト化合物を合成するための操作が煩雑となるため、工業的規模で大量に製造するのには適用しにくいという問題があった。
また、特許文献1には、リン原子を2つ以上含む2座、あるいは3座以上のホスホロアミダイト化合物の合成並びに精製する方法が記載されているが、再結晶する際に用いる溶媒として、ジクロロメタンのようなハロゲン性で且つ毒性の高い溶媒を使用するため、工業的に有利な方法とは言えなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2006−257081号公報
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】Tetrahedron 56 (2000), 2865-2878
【非特許文献2】Tetrahedron Asymmetry, 5(1994),699-708,
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記課題に鑑み、本発明は、リン化合物の一種であるホスホロアミダイト化合物を、より簡便に且つ安全に製造でき、且つ工業的に有利なホスホロアミダイト化合物の合成法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは上記の課題を解決すべく鋭意検討を行った結果、有機溶媒中で、ハロゲン化リン化合物、フェノール類、及び塩基を混合した後、得られた混合溶液に、アミン類を添加して、一般式(I)で表されるリン化合物を生成し、一般式(I)で表されるリン化合物を含有する反応液から、貧溶媒を用いて、一般式(I)で表されるリン化合物を取り出すことで、カラムクロマトグラフィーや再結晶などの煩雑な操作を必要とせず、容易に目的生成物を純度高く合成する方法を見出した。更に、本法により合成したホスホロアミダイト化合物が、アリル化合物の異性化反応に有用な触媒成分となることを見出し、本発
明を完成するに至った。
【0008】
即ち、本発明の要旨は下記[1]〜[10]に存する。
[1] 下記一般式(I)で表されるリン化合物を製造する方法において、下記の工程(a)〜(c)を含むことを特徴とするリン化合物の製造方法。
(a)有機溶媒中で、ハロゲン化リン化合物、フェノール類、及び塩基を反応させ、ハロゲン化ホスホリル化合物を生成し、生成したハロゲン化ホスホリル化合物を含有する溶液を得る工程、
(b)工程(a)で得られるハロゲン化ホスホリル化合物を含有する溶液を、アミン類と混合して、下記一般式(I)で表されるリン化合物を生成し、生成した一般式(I)で表されるリン化合物を含有する反応液を得る工程、
(c)工程(b)から得られる反応液から、貧溶媒を用いて、下記一般式(I)で表されるリン化合物を回収する工程。
【0009】
【化1】

【0010】
(一般式(I)中、R,Rは、それぞれ独立して水素原子、アルキル基、アリール基、アルコキシ基、アリーロキシ基、アシル基、アシロキシ基、ヒドロキシ基、アミノ基、アルキルチオ基、及びアリールチオ基からなる群から選ばれる基であり、これらの基は更に置換基を有していてもよい。Ar〜Arは、それぞれ独立して置換基を有していてもよいアリール基であり、ArとAr、及びArとArは互いに連結してそれらの結合炭素を含む芳香環を形成しても良く、形成された芳香環は更に置換基を有していてもよい。また、Qは置換基を有していてもよい2価の有機基である。ただし、nは1以上の整数である。)
[2]前記ハロゲン化リン化合物が、3臭化リンであることを特徴とする[1]に記載の製造方法。
[3]前記貧溶媒がアルコール類及び/又はニトリル類であることを特徴とする[1]又は[2]に記載の製造方法。
[4]前記アミン類が、下記一般式(II)で表される化合物であることを特徴とする[1]又は[2]に記載の製造方法。
【0011】
【化2】

【0012】
(一般式(II)中、R、Rは、それぞれ独立して水素原子、アルキル基、アリール基、アルコキシ基、アリーロキシ基、アシル基、アシロキシ基、ヒドロキシ基、アミノ基、アルキルチオ基、及びアリールチオ基からなる群から選ばれる基であり、これらの基は更に置換基を有していてもよい。また、Qは置換基を有していてもよい2価の有機基である。ただし、nは1以上の整数である。)
[5]前記フェノール類が、下記一般式(III)で表される化合物であることを特徴とす
る[1]〜[4]のいずれかに記載の製造方法。
【0013】
【化3】

【0014】
(一般式(III)中、R〜Rは、それぞれ独立して水素原子、アルキル基、アリール
基、アルコキシ基、アリーロキシ基、アシル基、アシロキシ基、ヒドロキシ基、アミノ基、アルキルチオ基、及びアリールチオ基からなる群から選ばれる基であり、これらの基は更に置換基を有していてもよい。また、R〜Rは連結して環を形成してもよく、形成された環は更に置換基を有していてもよい。)
[6]前記塩基がトリアルキルアミン類であることを特徴とする[1]〜[5]のいずれかに記載の製造方法。
[7]前記有機溶媒が、芳香族炭化水素類及び/又はエーテル類であることを特徴とする[1]〜[6]のいずれかに記載の製造方法。
[8] 前記工程(c)における反応液中の一般式(I)で表されるリン化合物の濃度が1〜50重量%であることを特徴とする[1]〜[7]のいずれかに記載の製造方法。
[9] 前記工程(a)において、前記有機溶媒中で、予めハロゲン化リン化合物と塩基とを混合した後、前記フェノール類を、前記有機溶媒量に対して20%以下の量を1分あたり添加することを特徴とする[1]〜[8]のいずれかに記載のリン化合物の製造方法。
[10] [1]〜[9]のいずれかの製造方法によって得られるリン化合物、及び周期表第8族〜第10族遷移金属を含む触媒の存在下、下記一般式(1)で示されるアリル化合物誘導体を異性化反応させ下記一般式(2)で示される異性化化合物を製造する方法。
【0015】
【化4】

【0016】
(一般式(1)中、RA〜REは、それぞれ独立して水素原子、アルキル基、アリール基、アルコキシ基、アリーロキシ基、アシル基、アシロキシ基、ヒドロキシ基、アミノ基、ア
ルキルチオ基、及びアリールチオ基からなる群から選ばれる基であり、これらの基は更に置換基を有していてもよい。Xは電子求引基を表し、上記一般式(2)中、RA〜RE及びXは、上記一般式(1)におけるRA〜RE及びXと同義である。但し、上記一般式(1)で表されるアリル化合物誘導体と上記一般式(2)で表される異性化化合物とは、同一の化合物を表さない。)
【発明の効果】
【0017】
本発明により、ホスホロアミダイト化合物の合成をより簡便に実施することを可能とする工業的に有利なホスホロアミダイト化合物の合成法を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下に記載する構成要件の説明は、本発明の実施態様の一例(代表例)であり、本発明はこれらの内容に限定されない。以下、その詳細について説明する。
本発明のリン化合物を製造する方法において、一般式(I)で表されるリン化合物を製造するにあたり、(a)有機溶媒中で、ハロゲン化リン化合物、フェノール類、及び塩基を反応させ、ハロゲン化ホスホリル化合物を生成し、生成したハロゲン化ホスホリル化合物を含有する溶液を得る工程、(b)工程(a)で得られたハロゲン化ホスホリル化合物を含有する溶液に、アミン類を添加して、下記一般式(I)で表されるリン化合物を生成し、生成した一般式(I)で表されるリン化合物を含有する反応液を得る工程、(c)工程(b)から得られる反応液から、貧溶媒を用いて、ホスホロアミダイト化合物を得る工程の3工程を経由することで、必ずしもカラムクロマトグラフィーや再結晶を実施する必要はなく、容易にホスホロアミダイト化合物を沈殿物として得ることを特徴とする。 本発明のリン化合物を製造する方法において、工程(a)で使用されるフェノール類は、モノフェノール類、又はビフェノール類のいずれであってもよく、それぞれ置換基を有していてもよい。フェノール類が有していてもよい置換基としては、本発明の効果を阻害しないものであればよく、特に限定されないが、例えば、アルキル基、アルコキシ基、アリール基、アリーロキシ基、アミノ基、シアノ基、エステル基等を挙げることができる。また、アルキル基には分岐したアルキル基やシクロアルキル基も包含され、アリール基には炭素の他に窒素、酸素、硫黄等の他の元素を含んで環を形成した複素環式のアリール基も包含される。置換基は通常、分子量が200程度以下のものを用いる。これらの中でも、ビフェノール類が好ましく、ビフェノール類の中でも芳香族環同士が間に置換基を介さずに、直接結合しているビフェノール類が好ましい。具体的に、好ましくは、下記一般式(III)の構造で表されるフェノール類である。
【0019】
【化5】

【0020】
(一般式(III)中、R〜Rは、それぞれ独立して水素原子、アルキル基、アリール
基、アルコキシ基、アリーロキシ基、アシル基、アシロキシ基、ヒドロキシ基、アミノ基、アルキルチオ基、及びアリールチオ基からなる群から選ばれる基であり、これらの基は更に置換基を有していてもよい。また、R〜Rは連結して環を形成してもよく、形成された環は更に置換基を有していてもよい。)
また、一般式(III)の中でも、特に、式中のR〜Rが、それぞれ独立して水素原
子、アルキル基、アルコキシ基のいずれかの基である、フェノール類が好ましい。このとき、アルキル基は直鎖状でも分岐状であってもよい。アルキル基の炭素数は特に限定されないが、通常は、炭素数が1〜20であり、好ましくは、炭素数が1〜10、特に好ましくは炭素数1〜4である。具体的にはメチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、イソブチル基、ターシャルブチル基であり、アルコキシ基はメトキシ基、エトキシ基、プロピオキシ基、イソプロピオキシ基、ブトキシ基、イソブトキシ基、ターシャルブトキシ基である。
【0021】
また、このときのアルコキシ基として、アルコキシ基中のアルキル構造の部分の直鎖状でも分岐状でもよい。また、炭素数は特に限定されないが、通常は、炭素数が1〜20であり、好ましくは炭素数が1〜10であり、特に好ましくは炭素数1〜4である。更に、一般式(I)において、R、Rが水素原子であり、R、Rがメチル基あるいは水素原子であり、R、Rがメトキシ基あるいはターシャルブチル基であることが最も好ましい。
【0022】
本発明のリン化合物を製造する方法において、工程(a)で使用されるハロゲン化リン化合物は、リン原子の3つの結合手にハロゲン原子が1つ以上結合しているものであればよく、特に、リン原子の3つの結合手すべてにハロゲン原子が結合しているものが好ましい。この場合、ハロゲン原子は同一であっても異なっていても良いが、反応のしやすさからハロゲン原子が全て同一であることが好ましい。具体的には、3塩化リン、3フッ化リン、3臭化リンが好ましく、反応性が高く、取り扱いのしやすさから、3臭化リンが特にこのましい。
【0023】
本発明のリン化合物を製造する方法において、工程(a)で使用される塩基は、無機塩基、又は有機塩基のどちらでもよく、特に限定されるものではないが、具体的には水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化リチウム、リン酸カリウム、炭酸水素ナトリウムなどの無機塩基;トリメチルアミン、トリエチルアミン、トリプロピルアミン、トリブチルアミン、トリヘキシルアミン、トリオクチルアミン、トリデシルアミン、トリドデシルアミンなどのトリアルキルアミン類;メチルアミン、エチルアミン、ブチルアミン、オクチルアミンなどのモノアルキルアミン類;ジメチルアミン、ジエチルアミン、ジブチルアミン、ジオクチルアミン、ジアザビシクロウンデセンなどのジアルキルアミン類などの有機塩基が挙げられる。これらの塩基の中でも、有機塩基が好ましく、更にトリアルキルアミン類が好ましい。具体的には、トリメチルアミン、トリエチルアミン、トリプロピルアミン、トリブチルアミン、トリヘキシルアミン、トリオクチルアミンであり、中でも好ましくはトリメチルアミン、トリエチルアミン、トリプロピルアミン、トリブチルアミンである。
【0024】
有機溶媒は特に限定されるものではなく、炭化水素類、エステル類、エーテル類、芳香族炭化水素類などの種々の溶媒を使用することが可能である。これらの中から、1種類用いても、2種類以上を組み合わせて使用してもよい。好ましくはエーテル類、芳香族炭化水素類である。具体的には、トルエン、ベンゼン、キシレン、テトラヒドロフラン、ジエチルエーテル、ジブチルエーテル、ジオキサン、トリグライム、テトラグライムなどが好ましい。特に好ましくは、トルエン、キシレン、テトラヒドロフラン、ジオキサンである。
【0025】
本発明のリン化合物を製造する方法において、工程(a)の温度は−100℃から300℃の範囲が好ましく、より好ましくは−20℃以上、150℃以下の温度である。更に好ましくは、0℃以上、100℃以下である。温度が高くなるほど、リン化合物が分解する傾向があり、温度が低くなるほど、反応に長時間必要となる傾向がある。また、反応時間は1分以上、200時間以下の範囲であり、好ましくは10分以上、48時間以下である。更に好ましくは30分以上、24時間以下の範囲である。反応時間が長くなるほど、リン化合物の分解由来の不純物が増加する傾向があり、反応時間が短くなるほど、原料残分が増加する傾向がある。
【0026】
本発明のリン化合物を製造する方法において、工程(a)の有機溶媒中のフェノール類の濃度は、0.1重量%〜90重量%であり、好ましくは、1重量%〜50重量%であり、更に好ましくは2重量%〜30重量%である。この濃度が高くなるほど、固形成分が析出して攪拌が困難となる傾向があり、濃度が低くなるほど、反応の進行が遅くなる傾向がある。
【0027】
また、有機溶媒中での、フェノール類に対するハロゲン化リン化合物の量としては、0.01〜100モル等量であり、好ましくは0.1〜10モル等量であり、更に好ましくは0.5〜3モル等量である。この量が大きくなるほど、ハロゲン化リン化合物が残存して後処理が困難となる傾向があり、小さくなるほど、フェノール類が残存して後処理が困難且つ原料フェノール類のコスト増加となる傾向がある。また、有機溶媒中での、フェノール類に対する塩基の量としては、0.01〜100モル等量であり、好ましくは0.1〜10モル等量であり、更に好ましくは、0.5〜3モル等量である。この量が大きくなるほど、塩基使用量増加によるコスト増ならびにハロゲン化リン化合物の分解が顕著となる傾向があり、小さくなるほど、反応速度とハロゲン化リン化合物の転化率が低下する傾向がある。
【0028】
本発明の工程(a)において、有機溶媒中で、ハロゲン化リン化合物、フェノール類、及び塩基を反応させるにあたり、有機溶媒中で、予めハロゲン化リン化合物と塩基とを混合させておき、その混合物にフェノール類を添加することが好ましい。更に、フェノール類を添加する際は、有機溶媒量に対して1分あたり20%以下の量の滴下速度で添加することが好ましく、更に好ましくは1分あたり10%以下の量の滴下速度であり、最も好ましくは1分あたり5%以下の量の滴下速度である。このように、フェノール類をゆっくりと滴下して反応させることで、有機溶媒の液温を保持することができ、有機溶媒中でのフェノール類の拡散促進を向上することができる。フェノール類の滴下速度を制御する方法は特に限定されないが、滴下ロート、ポンプなどを用いて制御することができる。
【0029】
本発明のリン化合物を製造する方法において、工程(a)で生成するハロゲン化ホスホリル化合物は、一般式(I)で表されるリン化合物の製造中間体である。生成されるハロゲン化ホスホリル化合物は、工程(a)で用いるハロゲン化リン化合物、フェノール類、及び塩基の種類によって決定される。溶液中のハロゲン化ホスホリル化合物の量としては、特に限定されないが、通常、0.01〜50重量%であり、好ましくは、0.1〜20重量%であり、更に好ましくは、0.5〜10重量%である。この量が大きくなるほど、ハロゲン化ホスホリル化合物が析出して次反応が進行しない傾向があり、小さくなるほど、反応の生産性が低下する傾向がある。
【0030】
本発明のリン化合物を製造する方法において、工程(a)におけるハロゲン化ホスホリル化合物を含有する溶液中は、生成したハロゲン化ホスホリル化合物以外の化合物を含んでいても良い。例えば、未反応のハロゲン化リン化合物や、未反応のフェノール類、及び未反応の塩基などが挙げられる。また、これらの化合物が分解され発生した分解物や、副生物なども含んでいても良い。副生物としては、主にハロゲン化アンモニウム塩などの水溶性の副生物も存在する。これらの分解物や副生物は、該溶液を工程(b)へ移す際に、必要に応じて分離除去しても良い。また、該溶液を工程(b)へ移す前に、溶液中の有機
溶媒や未反応のハロゲン化リン化合物、未反応のフェノール類、未反応の塩基、及び生成したハロゲン化ホスホリル化合物の量を調整してもよい。
【0031】
本発明のリン化合物を製造する方法において、工程(b)で用いられるアミン類としては、二座または多座(三座以上を言う。以下、同じ)のアミンのいずれであってもよく、それぞれ置換基を有していてもよい。
アミン類が有していてもよい置換基としては、本発明の効果を阻害しないものであればよく、特に限定されないが、例えば、アルキル基、アルコキシ基、アリール基、アリーロキシ基、アミノ基、シアノ基、エステル基、ヒドロキシ基及びハロゲン原子等を挙げることができる。置換基は通常、分子量が200程度以下のものを用いる。
【0032】
これらのアミン類の中で、二座のアミンが好ましい。その理由としては、2座のリン化合物を合成できるからである。更に2座のアミン類のなかでも、一般式(II)で表されるアミン類が好ましい。
【0033】
【化6】

【0034】
(一般式(II)中、R、Rは、それぞれ独立して水素原子、アルキル基、アリール基、アルコキシ基、アリーロキシ基、アシル基、アシロキシ基、ヒドロキシ基、アミノ基、アルキルチオ基、及びアリールチオ基からなる群から選ばれる基であり、これらの基は更に置換基を有していてもよい。また、Qは置換基を有していてもよい2価の有機基である。ただし、nは1以上の整数である。)
具体的には、ジアミノメタン、ジアミノエタン、ジアミノプロパン、ジアミノブタン、ジアミノペンタン、ジアミノヘキサン、N−メチル−ジアミノメタン、N−メチル−ジアミノエタン、N−メチル−ジアミノプロパン、N−メチル−ジアミノブタン、N−メチル−ジアミノペンタン、N−メチル−ジアミノヘキサン、N、N‘−ジメチルアミノメタン、N、N‘−ジメチルアミノエタン、N、N‘−ジメチルアミノプロパン、N、N‘−ジメチルアミノブタン、N、N‘−ジメチルアミノペンタン、N−エチル−ジアミノメタン、N−エチル−ジアミノエタン、N−エチル−ジアミノプロパン、N−エチル−ジアミノブタン、N−エチル−ジアミノペンタン、N−エチル−ジアミノヘキサン、N、N‘−ジエチルアミノメタン、N、N‘−ジエチルアミノエタン、N、N‘−ジエチルアミノプロパン、N、N‘−ジエチルアミノブタン、N、N‘−ジエチルアミノペンタン、ピペリジンなどであり、中でも好ましくは、ジアミノエタン、ジアミノプロパン、ジアミノブタン、ジアミノペンタン、N−メチル−ジアミノエタン、N−メチル−ジアミノプロパン、N−メチル−ジアミノブタン、N、N‘−ジメチルアミノエタン、N、N‘−ジメチルアミノプロパン、N、N‘−ジメチルアミノブタンである。
【0035】
本発明のリン化合物を製造する方法において、工程(b)の温度は、−100℃から300℃の範囲が好ましく、より好ましくは−20℃以上、150℃以下の温度である。更に好ましくは、0℃以上、100℃以下である。温度が高くなるほど、リン化合物が分解する傾向があり、温度が低くなるほど、反応に長時間必要となる傾向がある。反応時間は1分以上、200時間以下の範囲であり、好ましくは10分以上、48時間以下である。更に好ましくは30分以上、24時間以下の範囲である。反応時間が長くなるほど、リン化合物の分解由来の不純物が増加する傾向があり、反応時間が短くなるほど、原料残分が増加する傾向がある。
【0036】
本発明のリン化合物を製造する方法において、工程(b)で得られる反応液を工程(c)へ送る前に、工程(b)で得られる反応液から、溶媒を用いて、その反応液に含まれるハロゲン化アンモニウム塩などの水溶性の副生物を抽出除去する工程を経由することが好ましい。抽出する際に用いる溶媒は特に限定されないが、通常は、水に不溶な有機溶媒である芳香族炭化水素、エーテル類、エステル類などを用いる。この中でも、水に不溶で且つ安価という理由から、トルエン、キシレン、ベンゼン、酢酸エチル、ジエチルエーテルが好ましい。抽出する工程を経由することで、水に溶解する副生物を簡単に除去でき、また、腐食懸念が存在するハロゲン化物も除去できるメリットがある。
【0037】
また、本発明のリン化合物を製造する方法において、工程(b)で得られる反応液を工程(c)へ送る前に、工程(b)で得られる反応液を、ろ過して不純物や副生物を分離する工程を経ることが好ましい。ろ過する方法としては、特に限定されないが、通常、コストと簡便性の観点から、濾紙、濾布、フィルターなどを用いてろ過する。ろ過する工程を経由することで、有機溶媒に不溶な固形分の不純物、副生物を容易に除去できるというメリットがある。
【0038】
本発明のリン化合物を製造する方法において、工程(c)で用いられる貧溶媒は、リン化合物との溶解度が低いものであれば、特に限定されずに種々の溶媒を使用することができるが、好ましくは、アルコール類、炭化水素類、ニトリル類であり、特に炭素数が1〜8のアルコール類、炭化水素類、ニトリル類である。具体的に好ましくは、メタノール、エタノール、プロパノール、イソプロパノール、ブタノール、イソブタノール、ターシャルブタノール、ペンタノール、ヘキサノール、オクタノール、ペンタン、ヘキサン、ヘプタン、オクタン、アセトニトリルなどであり、特にメタノール、エタノール、プロパノール、イソプロパノール、アセトニトリルが好ましい。工程(b)で得られる反応液に、貧溶媒を混合する際に、攪拌を行いながら、あるいは攪拌無しでも差し支えない。これにより、ホスホロアミダイト化合物を固体分として析出させることができる。析出したホスホロアミダイト化合物はろ過などにより濾液と分離し、乾燥後に純度の高いホスホロアミダイト化合物として回収することができる。
【0039】
本工程を実施する際の温度は、−100℃から100℃の範囲が好ましく、より好ましくは−20℃以上、80℃以下の温度である。更に好ましくは、0℃以上、60℃以下である。温度が高くなるほど、目的とするホスホロアミダイト化合物が濾液中に溶解して、ホスホロアミダイト化合物の収率が低下する傾向があり、温度が低くなるほど、分離したい不純物が濾液中に溶解せずに分離困難、純度の高いホスホロアミダイト化合物が得られにくい傾向がある。工程(c)での貧溶媒混合後にホスホロアミダイト化合物を得るまでの静置時間は通常1分以上、200時間以下の範囲であり、好ましくは10分以上、48時間以下である。更に好ましくは30分以上、24時間以下の範囲である。静置時間が長くなるほど、時間あたりの生産性が低下する傾向があり、静置時間が短くなるほど、ホスホロアミダイト化合物の収率(回収率)が低下する傾向がある。
【0040】
また、貧溶媒を添加する前に反応液中の一般式(I)で表されるリン化合物の濃度は、固形物が析出しない程度に高い濃度としておいたほうが、貧溶媒を添加した際に、該リン化合物(ホスホロアミダイト化合物)の固体析出を迅速に行うことができる。具体的には0.001モル/L以上、10モル/L以下が好ましく、更に0.01モル/L以上、2モル/L以下が好ましい。特に0.1モル/L以上、1モル/L以下が好ましい。
【0041】
本発明で合成できるホスホロアミダイト化合物は一般式(I)に示す構造である。
【0042】
【化7】

【0043】
(一般式(I)中、R,Rは、それぞれ独立して水素、アルキル基、アリール基、アルコキシ基、アリーロキシ基、アシル基、アシロキシ基、ヒドロキシ基、アミノ基、アルキルチオ基、及びアリールチオ基からなる群から選ばれる基であり、これらの基は更に置換基を有していてもよい。Ar〜Arは、それぞれ独立して置換基を有していてもよいアリール基であり、ArとAr、及びArとArは互いに連結してそれらの結合炭素を含む芳香環を形成しても良く、形成された芳香環は更に置換基を有していてもよい。また、Qは置換基を有していてもよい2価の有機基である。ただし、nは1以上の整数である。)。この一般式(I)の構造は、それぞれ前述したフェノール類、アミン類の構造から決定され、前述した好ましいフェノール類、アミン類それぞれの構造から誘導されるホスホロアミダイト化合物が好ましい。具体的には、Ar〜Arとしてフェニル基、2−メチルフェニル基、3−メチルフェニル基、4−メチルフェニル基、2,3‐ジメチルフェニル基、2,4‐ジメチルフェニル基、2,5−ジメチルフェニル基、2,6−ジメチルフェニル基、2−エチルフェニル基、2−イソプロピルフェニル基、2‐t‐ブチルフェニル基、2,4−ジ−t−ブチルフェニル基、2−クロロフェニル基、3−クロロフェニル基、4−クロロフェニル基、2,3−ジクロロフェニル基、2,4−ジクロロフェニル基、2,5−ジクロロフェニル基、3,4−ジクロロフェニル基、3,5−ジクロロフェニル基、4−トリフルオロメチルフェニル基、2−メトキシフェニル基、3−メトキシフェニル基、4−メトキシフェニル基、3,5−ジメトキシフェニル基、4−シアノフェニル基、4−ニトロフェニル基、トリフルオロメチル基、ペンタフルオロエチル基、ペンタフルオロフェニル基、及び下記の(C−1)〜(C−8)が挙げられる。
【0044】
【化8】

【0045】
Qは置換基を有していてもよい2価の有機基であれば差し支えないが、好ましくは直鎖状の炭化水素基、又は環状の飽和炭化水素基であり、更に好ましくは、直鎖状飽和炭化水素基である。具体的な好ましい例としては、−(CH −、−(CH−、−(
CH−、−(CH−、−(CH−、−(CH−、−CH
CH(CH)−、−CH(CH)−CH(CH)−、−CH(CH)CHCH−、−CHCH(CH)CH−、−CH(CH)CHCH(CH)−、−C(CH−C(CH−、−C(CH−CH−C(CH−、が挙げられる。なお、Qの置換基としては、分子量が200以下のものが通常用いられる。
【0046】
,Rの具体例として、水素、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、イソブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、シクロヘキシル基、フェニル基などが挙げられる。
具体的なホスホロアミダイト化合物として、下記の(L−1)〜(L−22)を例示することができ、特に好ましい具体例として、(L−1)〜(L−15)を例示することができる。
【0047】
【化9】

【0048】
【化10】

【0049】
本発明により合成したホスホロアミダイト類は均一系錯体触媒の配位子として使用することが可能であり、遷移金属と組み合わせて、特に水素化、ヒドロホルミル化、オレフィン異性化、π−アリル置換反応などに使用することができる。例えば、下記一般式(1)で示されるアリル化合物誘導体を異性化反応させ下記一般式(2)で示される異性化化合物を製造する方法に使用することができる。
【0050】
【化11】

【0051】
(一般式(1)中、RA−REは、それぞれ独立して水素原子、アルキル基、アリール基、アルコキシ基、アリーロキシ基、アシル基、アシロキシ基、ヒドロキシ基、アミノ基、アルキルチオ基、及びアリールチオ基からなる群から選ばれる基であり、これらの基は更に置換基を有していてもよい。Xは電子求引基を表し、上記一般式(2)中、RA−RE及びXは、上記一般式(1)におけるRA−RE及びXと同義である。但し、上記一般式(1)で表されるアリル化合物誘導体と上記一般式(2)で表される異性化化合物とは、同一の化合物を表さない。)
本発明のアリル化合物誘導体の製造方法に原料として使用されるアリル化合物誘導体は上記一般式(1)で示され、異性化反応により製造される異性化化合物は、上記一般式(2)で示される。一般式(1)及び一般式(2)において、RA〜REは、それぞれ独立して水素原子、アルキル基、アリール基、アルコキシ基、アリーロキシ基、アシル基、アシロキシ基、ヒドロキシ基、アミノ基、アルキルチオ基、及びアリールチオ基からなる群から選ばれる基であり、これらの基及び環は更に置換基を有していてもよい。但し、一般式(1)と一般式(2)で表される化合物は、同一の化合物を表さない。
【0052】
A〜REにおけるアルキル基及びアルキル骨格を有する置換基(アルコキシ基、アシル基、アシロキシ基、アルキルチオ基)のアルキル骨格部分は、その炭素数が通常1〜20であり、好ましくは1〜14である。アルキル基(以下、アルキル骨格部分を含む)として具体的には、例えばメチル基、エチル基、n−プロピル基、i−プロピル基、n−ブチル基、i−ブチル基、sec−ブチル基、t−ブチル基、ペンチル基、へキシル基、オクチル基、デシル基等が挙げられる。また、アルキル基が有し得る置換基としては、メトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基等の炭素数1〜10のアルコキシ基;フェニル基、ナフチル基等の炭素数6〜10のアリール基;アセトキシ基、プロピオニルオキシ基、ブチリルオキシ基等の炭素数1〜10のアシロキシ基、アミノ基、シアノ基、炭素数2〜10のエステル基、ヒドロキシ基及びハロゲン原子が挙げられる。
【0053】
また、RA〜REにおけるアリール基及びアリール骨格を有する置換基(アリーロキシ基、アリールチオ基)のアリール骨格部分は、その炭素数が通常6〜20であり、好ましくは6〜14である。アリール基(以下、アリール骨格部分を含む)の具体例としては、フェニル基及びナフチル基が挙げられる。アリール基が有し得る置換基としては、水素原子、炭素数1〜14のアルキル基、炭素数1〜10のアルコキシ基、炭素数3〜20のシクロアルキル基、炭素数6〜20のアリール基、炭素数6〜20のアリーロキシ基、炭素数6〜20のアルキルアリール基、炭素数6〜20のアルキルアリーロキシ基、炭素数6〜20のアリールアルキル基、炭素数6〜20のアリールアルコキシ基、シアノ基、エステル基、ヒドロキシ基およびハロゲン原子等が挙げられ、具体例は上記アルキル基の置換基と同じである。
【0054】
Xは電子吸引基を表し、具体例としてはアセトキシ基、プロピオニルオキシ基等のアシロキシ基、ヒドロキシ基、塩素原子、臭素原子等のハロゲン原子が挙げられ、アシロキシ基が好ましい。より好ましくは、アセトキシ基である。
本発明のアリル化合物誘導体の製造方法で、原料として使用される一般式(1)で示されるアリル化合物誘導体の具体例としては、例えば、酢酸クロチル、クロチルフェニルエーテル、クロチルアルコール、クロチルジメチルアミン、塩化クロチル、ブタジエンモノオキシド、2−アセトキシ−5−ヒドロキシ−2,5−ジメチル−3−へキセン、酢酸−1−フェニル−1−ブテン−3−イル、酢酸−1−シクロへキシル−2−ブテン、1,3−ジフェニル−3−ジベンジルアミノ−1−プロペン、1−(4−ブロモフェニル)−3−ブロモ−1−プロペン、酢酸−2−へキセニル、2−ドデセニルアルコール、蟻酸ゲラニル、酢酸ゲラニル、酢酸−3−フェニル−2−プロペン、9−フェノキシ−7−ノネン−3−オン酸メチル、酢酸−3−ブテン−2−イル、イソブチル酸−2,4−ヘキサジエニル、酢酸プレニル、1,4−ジアセトキシ−2−ブテン、1−アセトキシ−4−ヒドロキシ−2−ブテン、1,4−ジヒドロキシ−2−ブテン、3,4−ジアセトキシ−1−ブテン、3−アセトキシ−4−ヒドロキシ−1−ブテン、4−アセトキシ−3−ヒドロキシ−1−ブテン、3,4−ジヒドロキシ−1−ブテン、3,4−ジアセトキシ−2−メチル−1−ブテン、3−アセトキシ−4−ヒドロキシ−2−メチル−1−ブテン、4−アセトキシ−3−ヒドロキシ−2−メチル−1−ブテン、3,4−ジアセトキシ−3−メチル−1−ブテン、3−アセトキシ−4−ヒドロキシ−3−メチル−1−ブテン、4−アセトキシ−3−ヒドロキシ−3−メチル−1−ブテン、3,4−ジアセトキシ−2,3−ジメチル−1−ブテン、3,4−ジアセトキシ−1−シクロへキセン、3,4−ジアセトキシ−1−シクロペンテン、3,4−ジアセトキシ−1−シクロへプテン、3,4−ジアセトキシ−1−シクロオクテン、マロン酸ジアリルエステル、テレフタル酸ジアリルエステル、フタル酸ジアリルエステルなどを挙げることができる。
【0055】
上記アリル化合物誘導体を異性化反応させ、対応する一般式(2)で表される異性化化合物を生成する。
上記のアリル化合物誘導体のうち、好ましい化合物は上記一般式(1)におけるRA
Eが、水素原子、炭素数1〜30のアルキル基、及び炭素数6〜30のアリール基から
選ばれ、Xがアセトキシ基及びヒドロキシ基から選ばれる基であるアリル化合物誘導体である。より好ましい原料アリル化合物誘導体の具体例としては、例えば、3,4−ジアセトキシ−1−ブテン、3−アセトキシ−4−ヒドロキシ−1−ブテン、4−アセトキシ−
3−ヒドロキシ−1−ブテン、3,4−ジヒドロキシ−1−ブテン、3,4−ジアセトキシ−2−メチル−1−ブテン、3−アセトキシ−4−ヒドロキシ−2−メチル−1−ブテン、4−アセトキシ−3−ヒドロキシ−2−メチル−1−ブテン、3,4−ジアセトキシ−3−メチル−1−ブテン、3−アセトキシ−4−ヒドロキシ−3−メチル−1−ブテン、4−アセトキシ−3−ヒドロキシ−3−メチル−1−ブテン等が挙げられる。
【0056】
上記の好適な原料アリル化合物誘導体の異性化反応により生成する上記一般式(2)で表される異性化化合物としては、例えば、1,4−ジアセトキシ−2−ブテン、1−アセトキシ−4−ヒドロキシ−2−ブテン、1,4−ジヒドロキシ−2−ブテン、1,4−ジアセトキシ−2−メチル−2−ブテン、1−アセトキシ−4−ヒドロキシ−2−メチル−2−ブテン、1,4−ジアセトキシ−3−メチル−2−ブテン、1−アセトキシ−4−ヒドロキシ−3−メチル−2−ブテン等が挙げられる。特に好ましい一般式(1)で表される原料アリル化合物誘導体としては、3,4−ジアセトキシ−1−ブテン、3−アセトキ
シ−4−ヒドロキシ−1−ブテン、4−アセトキシ−3−ヒドロキシ−1−ブテンが挙げられ、これに対応する一般式(2)で表される異性化化合物としては、1,4−ジアセトキシ−2−ブテン、1−アセトキシ−4−ヒドロキシ−2−ブテンが挙げられる。
【0057】
本発明のアリル化合物誘導体の製造方法において、使用される特に好ましい原料アリル化合物誘導体である3,4−ジアセトキシ−1−ブテン類は共役ジエン類の酸化ジアセトキシ化反応などにより1,4−ジアセトキシ−2−ブテンとともに得られる化合物である。
共役ジエン類の酸化ジアセトキシ反応により3,4−ジアセトキシ−1−ブテン類及び/又は1,4−ジアセトキシ−2−ブテン類を製造する方法は公知であり、最も一般的には、パラジウム系触媒の存在下、ブタジエン、酢酸及び酸素を反応させて1,4−ジアセトキシ−2−ブテン及び3,4−ジアセトキシ−1−ブテンを製造するが、その際これらのジアセトキシブテン類の加水分解物である1−アセトキシ−4−ヒドロキシ−2−ブテン、3−ヒドロキシ−4−アセトキシ−1−ブテン、4−ヒドロキシ−3−アセトキシ−1−ブテンなども併せて生成される。
【0058】
該ジアセトキシ化反応で使用される好適な共役ジエン類としては、例えば、ブタジエン、イソプレン、1,3−シクロヘキサジエン、1,3−ジクロペンタジエンが挙げられ、特に好ましくはブタジエン、イソプレンである。共役ジエン類のジアセトキシ化反応に用いる触媒としては、通常、周期表第8〜10族遷移金属を含有する固体触媒であり、特に好ましくはパラジウム固体触媒である。
【0059】
パラジウム固体触媒は、パラジウム金属またはその塩と助触媒としてのビスマス、セレン、アンチモン、テルル、及び銅、好ましくはテルルの金属またはその塩から調製されるパラジウム及びテルルを活性成分として担持する固体触媒であることが好ましい。該パラジウム固体触媒の担体としては、シリカ、アルミナ、チタニア、ジルコニア、活性炭、グラファイト、好ましくはシリカが使用される。
【0060】
ジアセトキシ化反応は酸素雰囲気下で行われ、気相、液相のいずれでも行なうことができる。反応温度は0〜300℃、好ましくは10〜200℃、反応圧力は大気圧〜50MPa、好ましくは大気圧〜30MP a、特に好ましくは1〜20MP aである。ジアセトキシ化反応を液相にて行なう場合には、反応に使用する溶媒は反応原料を溶解するものであれば特に制限は無いが、水、または酢酸等のカルボン酸、あるいはブタジエンなど反応原料となる共役ジエン類そのもの、あるいは1,4−ジアセトキ−2−ブテン等のアセトキシ化生成物、更にはn−ヘキサン、n−へブタン、n−オクタンなどの炭化水素類、テトラヒドロフラン、ジエチルエーテル、トリグライムなどのエーテル類、酢酸エチル、酪酸n
一ブチルなどのエステル類、アセトン、メチルイソブチルケトンなどのケトン類、1,4−ブタンジオールなどのアルコール類なども使用可能である。
【0061】
1,4−ジアセトキシ−2−ブテンを上記の如き酸化アセトキシ化反応により製造した場合、3,4−ジアセトキシ−1−ブテンの副生が避けられないが、アセトキシ化反応生成物から副生3,4−ジアセトキシ−1−ブテンを主成分として含有する留分を取得し、該留分を本発明方法により異性化反応を行えば、効果的に1,4−ジアセトキシ−2−ブテンに変換することが出来る。従って、本発明方法は、ブタジエン類の酸化的ジアセトキシ化反応から1,4−ブタンジオールを一貫して製造するプロセスにおいて、1,4−ジアセトキシ−2−ブテンの選択率を改善し、1,4−ブタンジオールの一貫収率を向上させるための有効な方法である。
【0062】
本発明において原料として用いる「3,4−ジアセトキシ−1−ブテンを主成分とする含有液」とは、上記ブタジエンのジアセトキシ化反応後の反応液そのもの、あるいは酢酸、水などの3,4−ジアセトキシ−1−ブテンよりも軽沸点の副生物の少なくとも一部を蒸留などにより除去したもの、あるいは3,4−ジアセトキシ−1−ブテンよりも高沸点の副生物の一部あるいは全量を蒸留などにより除去したもの、更には軽沸点の副生物及び高沸点副生物の双方を一部あるいは全量を除去したもの等が含まれる。通常、この「主成分としての3,4−ジアセトキシ−1−ブテン含有液」は、対応する1,4−ジアセトキシ−2−ブテンも含有するが、その他に、3,4−ジアセトキシ−1−ブテンの加水分解物である3−ヒドロキシ−4−アセトキシ−1−ブテン、4−ヒドロキシ−3−アセトキシ−1−ブテン及び/又は3,4−ジヒドロキシ−1−ブテン、更に1,4−ジアセトキシ−2−ブテンの加水分解物である1−アセトキシ−4−ヒドロキシ−2−ブテン、及び/又は1,4−ジヒドロキシ−2−ブテンを含んでいても差し支えない。
【0063】
本発明で使用する「3,4−ジアセトキシ−1−ブテンを主成分とする含有液」は通常、3,4−ジアセトキシ−1−ブテン、1,4−ジアセトキシ−2−ブテン、並びにそれらよりも軽沸点の成分及び高沸点の成分を含有する液を蒸留塔に導入し、塔底より高沸点の成分を含む1,4−ジアセトキシ−2−ブテン含有液を抜き出し、塔上部より3,4−ジアセトキシ−1−ブテン含有液を留出させて得ることができる。この際、3,4−ジアセトキシ−1−ブテン含有液は塔頂から軽沸点成分とともに抜き出すことも可能であり、また3,4−ジアセトキシ−1−ブテン含有液を側流から抜き出して、塔頂から軽沸点成分を留出させても差し支えない。なお、本発明における「塔上部」とは、蒸留塔の中段より上を意味し、塔頂抜き出しであっても、上部側流抜きであっても構わない。また、軽沸点成分を第2塔で更に分離しても差し支えない。
【0064】
3,4−ジアセトキシ−1−ブテン含有液を得るための蒸留塔における蒸留条件は任意に設定することができるが、通常、塔頂圧力は5〜200mmHg、好ましくは10〜100mmHgの範囲であり、塔頂温度は通常0〜200℃、好ましくは20〜160℃、より好ましくは40〜140℃である。また、還流比は、通常1〜100で差し支えなく、好ましくは1〜10である。
【0065】
蒸留塔としては充填塔、棚段塔のいずれもが使用できるが、多段蒸留が好ましい。
本発明のアリル化合物誘導体の製造方法において、異性化反応に使用する触媒は、第8〜10族の遷移金属化合物(IUPAC無機化学命名法改訂版(1998)による)並びに本発明で合成したリン化合物を配位子とする遷移金属錯体触媒である。第8〜10族の遷移金属化合物としては、好ましくはルテニウム、ロジウム、ニッケル、パラジウム、白金であり、特に好ましくはパラジウムである。該遷移金属化合物の供給形態としては、酢酸塩、硫酸塩、硝酸塩、ハライド塩、有機塩、無機塩、アセチルアセトナト化合物、アルケン配位化合物、アミン配位化合物、ピリジン配位化合物、一酸化炭素配位化合物、ホスフィン配位化合物、ホスファイト配位化合物等が挙げられ、具体的なパラジウム化合物としては、パラジウム金属、酢酸パラジウム、トリフルオロ酢酸パラジウム、硫酸パラジウム、硝酸パラジウム、塩化パラジウム、臭化パラジウム、ヨウ化パラジウム、ビス(アセチルアセトナト)パラジウム、ジクロロシクロオクダジエンパラジウム、ジクロロビス(トリフェニルホスフィン)パラジウム、テトラキス(トリフェニルホスフィン)パラジウム、ビス(ジベンジリアセトン)パラジウム、カリウムテトラクロロパラダト、ナトリウムテトラクロロパラダト、ジクロロビス(ベンゾニトリル)パラジウム、ジクロロビス(アセトニトリル)パラジウム、その他、カルボキシレート化合物、オレフィン含有化合物、有機ホスフィン含有化合物、アリルパラジウムクロリド二量体等が挙げられ、特に、価格及び取り扱いにおいて酢酸パラジウム、トリフルオロ酢酸パラジウム、ビス(アセチルアセトナト)パラジウム、テトラキス(トリフェニルホスフィン)パラジウムが特に好ましい。
【0066】
本発明のアリル化合物誘導体の製造方法において、上述の遷移金属化合物の形態は特に制限されず、単量体、二量体及び/又は多量体であってもかまわない。これらの金属化合物の使用量は、反応原料であるアリル化合物に対して0.001〜1000wtppmであり、好ましくは0.001〜100wtppm、特に好ましくは0.01〜100wtppmの範囲である。金属濃度が高すぎると、触媒コストが増大してしまい、金属濃度が
低すぎると反応速度が低く長大な反応器が必要となってしまう。
【0067】
本発明のアリル化合物誘導体の製造方法において、リン化合物を含む配位子の添加量は配位子中のリン原子のモル比が錯体触媒中の遷移金属に対して0.1〜1000が好ましく、より好ましくは1〜100であり、特に好ましくは1〜10である。本発明における異性化反応を実施する温度は、通常40〜200℃であり、好ましくは80〜180℃、特に好ましくは100〜160℃である。反応温度が高すぎると、錯体触媒のメタル化による劣化が進行し、活性の消失が起こり、また反応温度が低すぎた場合には、反応速度が低下し、長大な反応器が必要となってしまう。
【0068】
本発明において異性化反応を実施する圧力は、通常1気圧であるが、減圧下又は加圧下であっても構わない。反応圧力が低すぎると反応温度の低下に伴い触媒活性が低下し、反応圧力が高すぎると反応器コストが増大してしまう。
本発明のアリル化合物誘導体の製造方法において、アリル化合物の異性化反応は、通常液相中で行う。該反応は溶媒の存在下、又は非存在下のいずれでも実施可能であるが、特に、溶媒非存在下においても高い異性化活性を発現することを特徴とする。溶媒を使用する場合、好ましい溶媒として、触媒及び原料化合物を溶解するものであれば使用可能であり特に限定はされない。具体例としては、ジグライム、ジフェニルエーテル、ジベンジルエーテル、ジアリルエーテル、テトラヒドロフラン(THF)、ジオキサン等のエーテル類、N−メチル−2−ピロリドン、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド等のアミド類、シクロヘキサノン等のケトン類、酢酸n−ブチル、γ−ブチロラクトン、ジ(n−オクチル)フタレイト等のエステル類、トルエン、キシレン、ドデシルベンゼン等の芳香族炭化水素類、n−ペンタン、n−ヘキサン、n−ヘプタン、n−オクタン等の脂肪族炭化水素類、異性化反応で生成する副生物そのもの、または原料であるアリル化合物誘導体そのもの、生成物であるアリル化合物そのもの、原料アリル化合物誘導体の脱離基に由来する化合物等が挙げられる。特に好ましい溶媒として、原料であるアリル化合物そのもの、生成物であるアリル化合物誘導体そのもの等が挙げられる。溶媒の使用量は特に限定されないが、本発明は主に分子内反応で進行するため、従来と比較してより少ない溶媒量で行うことが望ましい。通常、原料であるアリル化合物の合計重量に対して0〜10重量倍以下、好ましくは0〜5重量倍以下、最も好ましくは0〜1重量倍以下である。溶媒量が多すぎる場合には反応速度が低下する。
【0069】
本発明のアリル化合物誘導体の製造方法においては、異性化反応の際に、異性化するアリル化合物誘導体に対してブレンステッド酸を触媒とともに共存させることが好ましい。ブレンステッド酸の量は、好ましくは異性化するアリル化合物の0.005重量倍以上であり、好ましくは異性化するアリル化合物の0.2重量倍以下である。特に好ましくは異性化するアリル化合物の0.01重量倍以上であり、特に好ましくは異性化するアリル化合物の0.1重量倍以下である。ブレンステッド酸の量が少なすぎると分子間反応が起こらず、反応速度が低下し、多すぎると配位子が分解してしまう。
【0070】
本発明のアリル化合物誘導体の製造方法において、ブレンステッド酸は、具体的には蟻酸、酢酸、プロピオン酸、酪酸等のカルボン酸類、メタノール、n−ブタノール、2−エチルヘキサノール等のアルコール類、p−トルエンスルホン酸等のスルホン酸が挙げられ、好ましくは蟻酸、酢酸、プロピオン酸、酪酸等のカルボン酸類、より好ましくは酢酸である。
【0071】
本発明のアリル化合物誘導体の製造方法において、異性化反応を実施する際の反応方式として、攪拌型の完全混合反応器やプラグフロー型の反応器を用いて、連続方式、半連続方式または回分方式のいずれでも行うことができる。反応器内の気相部は、溶媒、原料化合物、反応生成物、反応副生物、触媒分解物等に由来する蒸気以外は、アルゴンや窒素等
の不活性ガスで形成されていることが望ましい。特に空気の漏れ込み等による酸素の混入が触媒劣化、即ちリン化合物の酸化消失の原因となるため、その量を極力低減させることが望ましい。
【実施例】
【0072】
以下、実施例により本発明を更に詳細に説明するが、本発明の要旨を越えない限り以下の実施例に限定されるものではない。なお、以下の実施例において、3,4−ジアセトキシ−1−ブテン、1,4−ジアセトキシ−2−ブテンの分析は内部標準法によるガスクロマトグラフィーにより行った。内部標準としてドデカンを使用した。
<実施例1>
[ホスホロアミダイト化合物の合成]
まず、200ccのガラス製フラスコに、テトラヒドロフラン90cc、3臭化リン3.79g(14mmol)を混合溶解した。次にトリエチルアミン4.3cc(30mmol)を滴下し、氷水で0℃に冷却した。この3臭化リンとトリエチルアミンの混合物に、別途調製した3,3‘−ジ−ターシャル−ブチル−5,5’−ジメトキシ−2,2‘−ビフェノール5.01g(14mmol)のテトラヒドロフラン溶液(50cc)を0℃で滴下した。このときの3,3‘−ジ−ターシャル−ブチル−5,5’−ジメトキシ−2,2‘−ビフェノールの滴下速度は45cc/minであった(1分あたりの滴下量がテトラヒドロフランの量(90cc)の50vol%)。30分後に室温に昇温し、3時間攪拌を継続した。尚、本反応液の一部を抜き取り、31P−NMR分析で3臭化リンが完全に消失していることを確認した。
【0073】
そして、得られた反応液に、トリエチルアミン2.6cc(18mmol)を室温で添加した。その後、別途調製したN,N‘−ジメチル−1,3−アミノプロパン0.85g(8.4mmol)のテトラヒドロフラン溶液(10cc)を添加した。オイルバスで60℃に加熱し、3時間攪拌を継続した。
その後、得られた反応液を室温に冷却し、液中に析出した固形分を濾紙によりろ過除去した。得られた濾液に脱塩水20cc、トルエン120ccを加えて、分液ロートで抽出分離を行った。静置後、得られた2層のうち、上層のトルエン層を回収し、これに5重量%水酸化ナトリウム水溶液20ccを加えて、同様に抽出分離を行った。回収された上層のトルエン層に再度脱塩水20ccを加えて同操作を行い、トルエン層110ccを再回収した。次にメタノール1Lを攪拌しながら、回収したトルエン層110ccを室温で滴下した。その結果、白色固体が析出開始した。トルエン層全量を加えてから、攪拌を停止し6時間後に析出した白色固体を濾紙を用いてろ過回収した。白色固体を室温で減圧乾燥し、重量を測定した結果、収率56%で目的生成物(上記(L−7)で示されるホスホロアミダイト化合物)を得た。尚、生成物の同定は31P−NMR分析にて行った。
【0074】
<参考例1>
[アリル化合物誘導体の異性化用触媒の調製]
窒素ガス雰囲気下、ガラス製シュレンク内で酢酸パラジウム5.1mg、実施例1で製造したホスホロアミダイト化合物(L−7)40mg、トリフェニルホスフィン25mgをトルエン8.8cc中に添加した。この混合液を120℃で5分間加熱し、完全に溶解させた。本液を触媒液として3,4−ジアセトキシ−1−ブテンの異性化反応を以下に実施した。
【0075】
<実施例2>
[アリル化合物誘導体の異性化]
窒素雰囲気下、3,4−ジアセトキシ−1−ブテン3.0ccと酢酸0.06ccをシュレンク内で混合し、オイルバスで155℃に昇温した。そこに参考例1で調製した触媒液を5.5μL添加し、155℃で加熱攪拌を3時間行なった(反応液中のパラジウム濃度1.0wtppm)。反応後の液をガスクロマトグラフィーにより分析した結果、1,4−ジアセトキシ−2−ブテン(シス体、トランス体合計)と3,4−ジアセトキシ−2−ブテンの重量比率は58:42(1,4−体:3,4−体)であった。尚、ドデカンを内部標準として使用した。
【0076】
<実施例3>
[ホスホロアミダイト化合物の合成]
まず、200ccのガラス製フラスコに、トルエン90cc、3臭化リン3.79g(14mmol)を混合溶解した。次にトリエチルアミン4.3cc(30mmol)を滴下し、氷水で0℃に冷却した。この3臭化リンとトリエチルアミンの混合物に、別途調製した3,3‘−ジ−ターシャル−ブチル−5,5’−ジメトキシ−2,2‘−ビフェノール5.01g(14mmol)のトルエン溶液(50cc)を0℃で滴下した。このときの3,3‘−ジ−ターシャル−ブチル−5,5’−ジメトキシ−2,2‘−ビフェノールの滴下速度は45cc/minであった(1分あたりの滴下量がトルエンの量(90cc)の50vol%)。30分後に室温に昇温し、3時間攪拌を継続した。尚、本反応液の一部を抜き取り、31P−NMR分析で3臭化リンが完全に消失していることを確認した。
【0077】
そして、得られた反応液に、トリエチルアミン2.6cc(18mmol)を室温で添加した。その後、別途調製したN,N‘−ジメチル−1,3−アミノプロパン0.85g(8.4mmol)のトルエン溶液(10cc)を添加した。オイルバスで60℃に加熱し、3時間攪拌を継続した。
その後、得られた反応液を室温に冷却し、液中に析出した固形分を濾紙によりろ過除去した。得られた濾液に脱塩水20cc、トルエン120ccを加えて、分液ロートで抽出分離を行った。静置後、得られた2層のうち、上層のトルエン層を回収し、これに5重量%水酸化ナトリウム水溶液20ccを加えて、同様に抽出分離を行った。回収された上層のトルエン層に再度脱塩水20ccを加えて同操作を行い、トルエン層110ccを再回収した。次にメタノール1Lを攪拌しながら、回収したトルエン層110ccを室温で滴下した。その結果、白色固体が析出開始した。トルエン層全量を加えてから、攪拌を停止し6時間後に析出した白色固体を濾紙を用いてろ過回収した。白色固体を室温で減圧乾燥し、重量を測定した結果、収率79%で目的生成物(上記(L−7)で示されるホスホロアミダイト化合物)を得た。尚、生成物の同定は31P−NMR分析にて行った。
【0078】
<実施例4>
[ホスホロアミダイト化合物の合成]
実施例3において、3臭化リンの代わりに3塩化リンを用いた以外は、同様の条件でホスホロアミダイト化合物の合成を行った。目的生成物(上記(L-7))で示されるホスホロアミダイト化合物)の収率は22%であった。
【0079】
<実施例5>
[ホスホロアミダイト化合物の合成]
実施例3において、3臭化リンの代わりに3塩化リンを用い、N,N‘−ジメチル−1,3−アミノプロパン0.85g(8.4mmol)のトルエン溶液(10cc)を添加した後の加熱条件を100℃、10時間とした以外は、同様の条件でホスホロアミダイト化合物の合成を行った。目的生成物(上記(L-7))で示されるホスホロアミダイト化合物)の収率は64%であった。
【0080】
<実施例6>
[ホスホロアミダイト化合物の合成]
実施例3において、3,3‘−ジ−ターシャル−ブチル−5,5’−ジメトキシ−2,
2‘−ビフェノール5.01g(14mmol)のトルエン溶液(50cc)を0℃で滴下する際に、滴下ロートを用いて、滴下速度を1cc/分(1分あたりの滴下量がトルエンの量(90cc)の1.1vol%)に制御したこと以外は、同様の条件でホスホロアミダイト化合物の合成を行った。目的生成物(上記(L-7))で示されるホスホロアミダイト化合物)の収率は96%であった。
【0081】
<実施例7>
[ホスホロアミダイト化合物の合成]
実施例1において、3,3‘−ジ−ターシャル−ブチル−5,5’−ジメトキシ−2,2‘−ビフェノール5.01g(14mmol)のテトラヒドロフラン溶液(50cc)を0℃で滴下する際に、滴下ロートを用いて、滴下速度を1cc/分(1分あたりの滴下量がトルエンの量(90cc)の1.1vol%)に制御した以外は、同様の条件でホスホロアミダイト化合物の合成を行った。目的生成物(上記(L-7))で示されるホスホロアミダイト化合物)の収率は87%であった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式(I)で表されるリン化合物を製造する方法において、下記の工程(a)〜(c)を含むことを特徴とするリン化合物の製造方法。
(a)有機溶媒中で、ハロゲン化リン化合物、フェノール類、及び塩基を反応させ、ハロゲン化ホスホリル化合物を生成し、生成したハロゲン化ホスホリル化合物を含有する溶液を得る工程、
(b)工程(a)で得られるハロゲン化ホスホリル化合物を含有する溶液を、アミン類と混合して、下記一般式(I)で表されるリン化合物を生成し、生成した一般式(I)で表されるリン化合物を含有する反応液を得る工程、
(c)工程(b)から得られる反応液から、貧溶媒を用いて、下記一般式(I)で表されるリン化合物を回収する工程。
【化1】

(一般式(I)中、R,Rは、それぞれ独立して水素原子、アルキル基、アリール基、アルコキシ基、アリーロキシ基、アシル基、アシロキシ基、ヒドロキシ基、アミノ基、アルキルチオ基、及びアリールチオ基からなる群から選ばれる基であり、これらの基は更に置換基を有していてもよい。Ar〜Arは、それぞれ独立して置換基を有していてもよいアリール基であり、ArとAr、及びArとArは互いに連結してそれらの結合炭素を含む芳香環を形成しても良く、形成された芳香環は更に置換基を有していてもよい。また、Qは置換基を有していてもよい2価の有機基である。ただし、nは1以上の整数である。)
【請求項2】
前記ハロゲン化リン化合物が、3臭化リンであることを特徴とする請求項1に記載の製造方法。
【請求項3】
前記貧溶媒がアルコール類及び/又はニトリル類であることを特徴とする請求項1又は2に記載の製造方法。
【請求項4】
前記アミン類が、下記一般式(II)で表される化合物であることを特徴とする請求項1又は2に記載の製造方法。
【化2】

(一般式(II)中、R、Rは、それぞれ独立して水素原子、アルキル基、アリール基、アルコキシ基、アリーロキシ基、アシル基、アシロキシ基、ヒドロキシ基、アミノ基、アルキルチオ基、及びアリールチオ基からなる群から選ばれる基であり、これらの基は更に置換基を有していてもよい。また、Qは置換基を有していてもよい2価の有機基である。ただし、nは1以上の整数である。)
【請求項5】
前記フェノール類が、下記一般式(III)で表される化合物であることを特徴とする請 求項1〜4のいずれかに記載の製造方法。
【化3】

(一般式(III)中、R〜Rは、それぞれ独立して水素原子、アルキル基、アリール
基、アルコキシ基、アリーロキシ基、アシル基、アシロキシ基、ヒドロキシ基、アミノ基、アルキルチオ基、及びアリールチオ基からなる群から選ばれる基であり、これらの基は更に置換基を有していてもよい。また、R〜Rは連結して環を形成してもよく、形成された環は更に置換基を有していてもよい。)
【請求項6】
前記塩基がトリアルキルアミン類であることを特徴とする請求項1〜5のいずれかに記載の製造方法。
【請求項7】
前記有機溶媒が、芳香族炭化水素類及び/又はエーテル類であることを特徴とする請求項1〜6のいずれかに記載の製造方法。
【請求項8】
前記工程(c)における反応液中の一般式(I)で表されるリン化合物の濃度が1〜50重量%であることを特徴とする請求項1〜7のいずれかに記載の製造方法。
【請求項9】
前記工程(a)において、前記有機溶媒中で、予めハロゲン化リン化合物と塩基とを混合した後、前記フェノール類を、前記有機溶媒量に対して20%以下の量を1分あたり添加することを特徴とする請求項1〜9のいずれかに記載のリン化合物の製造方法。
【請求項10】
請求項1〜9のいずれかの製造方法によって得られるリン化合物、及び周期表第8族〜第10族遷移金属を含む触媒の存在下、下記一般式(1)で示されるアリル化合物誘導体を異性化反応させ下記一般式(2)で示される異性化化合物を製造する方法。
【化4】

(一般式(1)中、RA〜REは、それぞれ独立して水素原子、アルキル基、アリール基、アルコキシ基、アリーロキシ基、アシル基、アシロキシ基、ヒドロキシ基、アミノ基、アルキルチオ基、及びアリールチオ基からなる群から選ばれる基であり、これらの基は更に
置換基を有していてもよい。Xは電子求引基を表し、上記一般式(2)中、RA〜RE及びXは、上記一般式(1)におけるRA〜RE及びXと同義である。但し、上記一般式(1)で表されるアリル化合物誘導体と上記一般式(2)で表される異性化化合物とは、同一の化合物を表さない。)

【公開番号】特開2010−24228(P2010−24228A)
【公開日】平成22年2月4日(2010.2.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−144674(P2009−144674)
【出願日】平成21年6月17日(2009.6.17)
【出願人】(000005968)三菱化学株式会社 (4,356)
【Fターム(参考)】