説明

レジスト膜の成膜方法

【解決手段】 レジスト液を孔径が0.02μm以下の高分子材料製フィルターにて9,500Pa以下の濾過圧で濾過してから基板上に塗布してレジスト膜を成膜する。
【効果】 従来は問題とならなかった微細な欠陥の原因となるレジスト液中の微小異物を確実かつ効率的に除去すると共に、微小気泡の発生を防止して、要求される欠陥量までレジスト膜の欠陥を低減し、レジスト膜を成膜したフォトマスクブランク等のレジスト膜被覆物、更には、レジスト膜を用いて微細加工されたフォトマスク等の被加工物の歩留まりを向上させることができる。また、レジスト膜の欠陥低減の要求を満足しつつレジスト膜の成膜の生産性を最大限に維持して効率よくレジスト膜を成膜することができる

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、フォトマスク、半導体集積回路、CCD(電荷結合素子)等の加工に使用されるレジスト膜の成膜方法、特に、レジスト液中の微小異物を確実かつ効率的に除去すると共に、微小気泡の発生を防止して、欠陥の少ないレジスト膜を成膜する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、半導体加工、特に、大規模集積回路の高集積化により、回路パターンの微細化が進められており、その結果、回路を構成する配線パターンの細線化や、セルを構成する層間の配線のためのコンタクトホールパターンの微細化技術の要求はますます高まってきている。また、この配線パターンやコンタクトホールパターンを形成する光リソグラフィーで用いられるマスクパターンが書き込まれたフォトマスクの製造においても、上記微細化に伴い、より微細かつ正確なマスクパターンを書き込むことができる技術が求められている。
【0003】
そのため、例えば、光リソグラフィーを行う際の原板となるフォトマスクの加工においては、より精度の高いマスクパターンをフォトマスク上に形成しなければならず、それにはフォトマスクブランク上に高精度のレジストパターンを形成することが必要になる。
【0004】
実際の半導体基板を加工する際の光リソグラフィーは縮小投影を行うため、マスクパターンは実際に必要な被転写パターンサイズの4倍程度の大きさであるが、それだけ精度が緩くなるというわけではなく、原板であるフォトマスクには、露光後の被転写パターン精度に求められるものよりも高い精度が求められる。更に、すでに現在行われているリソグラフィーでは、描画しようとしている回路パターン(被転写パターン)は、使用する光の波長をかなり下回るサイズになっており、回路の形状をそのまま4倍にしたマスクパターンを使用すると、光リソグラフィーを行う際に生じる光の干渉等の影響で、マスクパターンどおりの形状が回路パターンとして転写されない。
【0005】
そこでこれらの影響を減じるため、マスクパターンをOPC(Optical Proximity Correction)等の手法により実際の回路パターンより複雑な形状に加工する技術が用いられており、フォトマスクブランク加工の際に必要なレジストパターンにも、より微細かつ高精度なリソグラフィー技術が求められている。また、使用されるレジスト材料も、高感度、高解像度を与える化学増幅型が使用されるようになっている。
【0006】
一方、描画される回路パターンが微細化し、回路パターンの微細化に伴ってレジスト膜の膜厚が低下するに従い、レジストパターンの欠陥についても、より微細な欠陥、例えば0.2〜0.3μm程度又はそれ以下のサイズの欠陥が問題になってきている。従来に比べて微細な回路パターンを転写するフォトマスクの製造において、このような微細な欠陥の問題は、レジストパターンを用いてマスクパターンを形成する際のみならず、フォトマスクを用いて転写した回路パターンの精度に影響を与えるものであるから、レジストパターンに問題となる欠陥が発生してしまった場合は何らかの方法で補修することになるが、レジストパターンが微細になるほどその補修には多大の労力とコストが必要となる。
【0007】
レジストパターンの欠陥の問題は多くの原因が考えられ、その1つはレジスト液塗布時に発生する欠陥である。これはレジスト液中に存在する異物によるものである。そのため、レジスト液を塗布する際にフィルターを通して異物を濾過することが行われており、最近、この異物を除去するためのフィルターとして、孔径が小さいものでは0.02μmのフィルターが使われるようになっている。
【0008】
ところが、孔径の小さいフィルターを使用すれば、そのフィルターの孔径に対応するサイズの異物が完全に除去できるわけではなく、このような孔径の小さいフィルターを用いても0.2μm程度又はそれ以上のサイズの欠陥を引き起こす異物を十分には除去しきれないことが問題となっている。更に、このようなフィルターを用いてレジスト液を濾過したときに、微小な気泡が発生してそれに由来する欠陥が生じることも懸念されている。
【0009】
なお、この発明に関連する先行技術文献情報としては以下のものがある。
【0010】
【特許文献1】特開平10−305256号公報
【特許文献2】特開平9−171955号公報
【特許文献3】特開2004−212975号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明は、上記問題を解決するためになされたもので、従来は問題とならなかった微細な欠陥の原因となるレジスト液中の微小異物を確実かつ効率的に除去すると共に、微小気泡の発生を防止して、欠陥の少ないレジスト膜を成膜することができる方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者は、レジスト膜の微細な欠陥を防ぐため、レジスト液中の微小異物をフィルターにより濾過することにより除去する方法を検討したが、孔径0.02μmのフィルターを使用し、一般的に適用されている条件でレジスト液を濾過しても、微細な欠陥、特に、フォトマスクブランク上に塗布したレジスト膜の0.2μmサイズの欠陥を優位に減少させることができなかった。
【0013】
そこで、本発明者は、上記事情に鑑み鋭意検討を重ねた結果、レジスト液を孔径が0.02μm以下、例えば、孔径が0.02μmの高分子材料製フィルター、特にポリオレフィン製フィルターにて9,500Pa以下、好ましくは7,000〜9,500Paの濾過圧で濾過し、この濾過されたレジスト液を基板上に塗布してレジスト膜を成膜すると、上記濾過圧より高い濾過圧で濾過したときと比べて単位時間当たりのレジスト液の濾過量を大きく低下させずに、欠陥量が格段に低減し、例えば0.2μmサイズの欠陥が問題となる100nm以下のマスクパターンが形成されるフォトマスクブランク等の基板上に欠陥の極めて少ないレジスト膜を成膜できることを見出し、本発明をなすに至った。
【0014】
即ち、本発明は、以下のレジスト膜の成膜方法を提供する。
請求項1:
基板上にレジスト液を塗布してレジスト膜を成膜する方法であって、レジスト液を孔径が0.02μm以下の高分子材料製フィルターにて9,500Pa以下の濾過圧で濾過して塗布することを特徴とするレジスト膜の成膜方法。
請求項2:
上記高分子材料がポリオレフィンであることを特徴とする請求項1記載の成膜方法。
請求項3:
上記基板が200nm以下のマスクパターンが形成されるフォトマスクブランクであることを特徴とする請求項1又は2記載の成膜方法。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、従来は問題とならなかった微細な欠陥の原因となるレジスト液中の微小異物を確実かつ効率的に除去すると共に、微小気泡の発生を防止して、要求される欠陥量までレジスト膜の欠陥を低減し、レジスト膜を成膜したフォトマスクブランク等のレジスト膜被覆物、更には、レジスト膜を用いて微細加工されたフォトマスク等の被加工物の歩留まりを向上させることができる。また、レジスト膜の欠陥低減の要求を満足しつつレジスト膜の成膜の生産性を最大限に維持して効率よくレジスト膜を成膜することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
以下、本発明について更に詳しく説明する。
本発明においてレジスト膜は、レジスト液を孔径が0.02μm以下の高分子材料製フィルターにて9,500Pa以下の濾過圧で濾過して基板上に塗布することにより成膜する。
【0017】
本発明においては、微小異物、特に0.2μmサイズの異物をより確実に除去するため、レジスト液の濾過に孔径が0.02μm以下の高分子材料製フィルターを用いる。異物の除去率と濾過効率(生産性)とを勘案すると、特に孔径0.02μmのフィルターを用いることが好ましい。フィルターの材質としては、超高分子量ポリエチレン、ポリエチレン−ポリプロピレン等のポリオレフィンが好ましい。上記材質で形成された上記孔径のフィルターとしては、市販品を使用し得る。
【0018】
また、本発明においては、レジスト液の濾過の濾過圧(差圧)を9,500Pa以下、好ましくは7,500〜9,500Paの濾過圧で濾過するが、濾過圧の設定及び調整は、例えば特開平9−171955号公報(特許文献2)などに記載されている従来公知の装置が使用でき、レジスト液供給用のポンプを有し、濾過圧、即ちフィルター前後の差圧を計測して、自動で又は手動でポンプの吐出圧力を調節することができる濾過機構により、レジスト液の濾過圧を上記範囲に設定することにより実施可能である。
【0019】
そして、上述したように濾過したレジスト液をノズルから吐出させて、基板上に塗布する。塗布、成膜の方式はスピンコート、ロールコート、フローコート等多くの方法が知られており、本発明の塗布においては、特にこれら特定の方式に限られるものではないが、スピンコートは膜厚が小さく、かつ均一な膜を得る上で好ましい方法である。
【0020】
本発明は、レジスト液を従来適用されていた濾過圧よりも大幅に低い濾過圧で濾過するものであり、この濾過されたレジスト液を基板上に塗布してレジスト膜を成膜すると、欠陥量が格段に減少し、特に0.2μmサイズのより微細な欠陥が問題となる200nm以下のレジストパターンを形成するためのレジスト膜、例えば100nm以下の回路パターンを形成するために用いるフォトマスクの加工を行うためにフォトマスクブランク上に塗布されるレジスト膜の形成に有用であり、欠陥の極めて少ないレジスト膜を成膜することができる。
【0021】
フォトマスクの加工の場合、レジスト液が塗布される基板として、透明基板上にクロム化合物に代表される金属性の遮光膜が形成されたフォトマスクブランクが使用される。この場合、フォトマスクブランク上に形成されたレジスト膜をパターン露光、現像してレジストパターンが形成され、このレジストパターンをマスクとしてフォトマスクブランクの遮光膜がパターンニングされてマスクパターンが形成される。なお、このようなパターン形成に用いられるレジスト膜の欠陥の有無は、例えば、日立ハイテクノロジーズ社製GM−1000等の市販の欠陥検査機を用いて検査することができる。
【0022】
本発明が対象とするレジスト液としては、公知のものがいずれも適用可能であるが、例えば100nm以下の回路パターンを形成するため、又は200nm以下のマスクパターンを有するフォトマスクの加工を行うためのレジスト材料としては、解像性が高い化学増幅型レジスト液が好ましく、必要に応じてポジ型もネガ型も選択し得る。
【0023】
また、フォトマスクの加工を行うためのレジスト液としては、クロム等を含有する金属性の膜に対するエッチング選択性を要求されることから、レジスト材料樹脂に芳香属骨格を有するものが選択されることが多く、これらについては多数の公知例があるが、これらのいずれも適用可能であり、また、エキシマレーザー光用レジスト液や電子線照射用レジスト液も適用可能である。
【0024】
更に、本発明は、膜厚250nm以下のレジスト膜を成膜する際に特に有効である。レジスト液の粘度は、使用する樹脂等の固形分及び溶剤の種類並びにこれらの配合比、特に固形分濃度により異なるが、膜厚250nm以下のレジスト膜を成膜する場合に用いるレジスト液は、一般に固形分濃度が低く、比較的低粘度であることから、本発明の効果が特に発揮されるため好ましい。なお、濾過するレジスト液の固形分濃度及び粘度は、特に限定されるものではないが、例えば、固形分濃度が4〜10質量%、粘度が1〜200Pa・sが好適である。
【実施例】
【0025】
以下、実施例及び比較例を挙げて本発明を具体的に説明するが、本発明は下記実施例に限定されるものではない。
【0026】
[実施例1,2、比較例1〜3]
152mm×152mm×6.35mmの石英ガラス基板を用い,石英ガラス基板上にスパッタリングによりクロム化合物(CrON)の遮光膜を70.0nmの膜厚で成膜した。
【0027】
次に、孔径0.02μmのフィルター(日本マイクロリース社製 CWAX061S2)を、濾過圧が計測できる濾過機構を備えたスピンコーターに装着し、下記の電子線描画露光用ネガ型レジスト液をフィルターで、濾過圧を各々7,000Pa、9,500Pa、13,000Pa、20,000Pa、27,500Paに調整して濾過し、濾過後のレジスト液を上記基板上のクロム遮光膜上に各々4ml塗布した。
【0028】
電子線描画用ネガ型レジスト液
ヒドロキシスチレン−インデン(85:15)コポリマー(Mw=3,000) 80質量部
トリ(4−エチルフェニル)スルホニウムトリフルオロメタンスルホネート 10質量部
テトラメトキシメチルグリコールウリル 10質量部
トリ−n−ブチルアミン 0.6質量部
フッ素系界面活性剤 0.2質量部
プロピレングリコールジメチルエーテルアセテート 900質量部
乳酸エチル 400質量部
【0029】
次に、レジスト液を塗布した基板を、常法によりプリベークし、冷却して、欠陥検査機(日立ハイテクノロジ−ズ社製GM−1000)でレジスト膜の欠陥数を測定した。結果を表1に示す。
【0030】
【表1】

【0031】
上記結果より、濾過圧を7,000〜9,500Paとしたとき、これより高い濾過圧、例えば13,000Paで濾過したときと比べて単位時間当たりのレジスト液の濾過量は1/2〜3/4に低減するが、欠陥総数は1/5〜2/5、特に0.2μmを超えて0.3μm以下のサイズの微細欠陥にあっては1/6〜1/3に減少する。従って、濾過圧を9,500Pa以下とすれば、レジスト膜の欠陥数が格段に低減、即ち、図1に示されるように、単位濾過流速当たりの欠陥率が低減し、特に、濾過圧を7,000〜9,500Paとすれば、欠陥数をレジスト液塗布の生産性を大きく落とすことなく、レジスト膜の欠陥数を格段に低減できることがわかる。
【図面の簡単な説明】
【0032】
【図1】実施例及び比較例のレジスト液の濾過圧に対するレジスト膜の欠陥数をプロットしたグラフである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板上にレジスト液を塗布してレジスト膜を成膜する方法であって、レジスト液を孔径が0.02μm以下の高分子材料製フィルターにて9,500Pa以下の濾過圧で濾過して塗布することを特徴とするレジスト膜の成膜方法。
【請求項2】
上記高分子材料がポリオレフィンであることを特徴とする請求項1記載の成膜方法。
【請求項3】
上記基板が200nm以下のマスクパターンが形成されるフォトマスクブランクであることを特徴とする請求項1又は2記載の成膜方法。

【図1】
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【公開番号】特開2007−12974(P2007−12974A)
【公開日】平成19年1月18日(2007.1.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−193565(P2005−193565)
【出願日】平成17年7月1日(2005.7.1)
【出願人】(000002060)信越化学工業株式会社 (3,361)
【Fターム(参考)】