説明

レゾルバの異常検出装置および電気式動力舵取装置

【課題】レゾルバに発生し得る多様な異常を検出可能なレゾルバの異常検出装置および電気式動力舵取装置を提供する。
【解決手段】レゾルバ35,37,44では、レゾルバ回転子の回転中心に対し均等に配置される各レゾルバコイル82a〜82cの他端が1つの接続点83にて電気的に接続されるとともに、この接続点83の電圧が所定の基準電圧に維持されている。そして、ECU60では、2乗和FsがF<Fs<Fを満たさないこと(2乗和Fsが所定の第1範囲内にないこと)、および、加算値Faが|Fa|<Fを満たさないこと(加算値Faが所定の第2範囲内にないこと)の少なくともいずれか1つを満たす場合に当該レゾルバの異常が検出される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、モータの回転位置を検出するレゾルバの異常検出装置およびこれを用いた電気式動力舵取装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来より、モータの回転位置を検出するレゾルバに関する技術として下記特許文献1に開示されるバリアブルリラクタンス型角度検出器が知られている。この角度検出器は、m相励磁n相出力のレゾルバであって、固定子のみに励磁巻線および出力巻線を、各スロットに対して1スロットピッチで磁束分布が正弦波状となるように巻く構成とすることにより機械巻を可能とすることで、当該角度検出器の製造コストを低下させている。
【特許文献1】特許3103487号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
図11は、第1の従来例によるレゾルバ100の構成概要を示す説明図である。図12は、第2の従来例によるレゾルバ100の構成概要を示す説明図である。
ところで、近年、レゾルバに発生し得る多様な異常を検出することが要求されている。例えば、図11に示す1相励磁2相出力型のレゾルバ100では、2相の出力信号である正弦波信号の振幅値および余弦波信号の振幅値の2乗値の和である2乗和が理論的に1に等しくなることを利用して当該レゾルバの異常を検出することが知られている。しかしながら、異常内容によっては検出対象である回転子の電気角θが変化しない場合に当該レゾルバの異常を検出することができないという問題がある。
【0004】
具体的には、図11に示すように、励磁コイル101、正弦波相コイル102aおよび余弦波相コイル102bを有するレゾルバ100において、GNDラインの抵抗が増加する異常(図11に示す一点鎖線円内)が生じたことを想定する。この異常発生のために電圧誤差eが発生すると、正弦波信号の振幅値D1sがsinθ+eに変化し、余弦波信号の振幅値D1cがcosθ+eに変化する。
【0005】
このとき、例えば、電気角θが225°、電圧誤差eが√2である場合、振幅値D1sおよび振幅値D1cは、以下のように演算される。
D1s=sinθ+e=sin(225°)+√2=√2/2
D1c=cosθ+e=cos(225°)+√2=√2/2
これにより、電気角θおよび2乗和Fsは、以下のように演算される。
θ=tan−1{D1s/D1c}
=tan−1{(sinθ+e)/(cosθ+e)}=45°
Fs=(D1s)+(D1c)
=(sinθ+e)+(cosθ+e)=1
【0006】
このように電圧誤差eが生じても2乗和Fsが1に等しくなる場合には、2乗和Fsに基づいて上記異常を検出することができない。しかも、実際の電気角θは225°であるにもかかわらず、演算値は45°となり、誤った値が演算されてしまう。
【0007】
この問題を解決するために、例えば、図12に示すように、正弦波信号および余弦波信号の出力に加えて、例えば、理論的に振幅値において余弦波信号との和が0(ゼロ)になる第3の出力信号を出力可能な1相励磁3相出力型のレゾルバ100aを採用することが考えられる。この場合、正弦波信号の振幅値および余弦波信号の振幅値の2乗和、および、余弦波信号の振幅値および第3の出力信号の振幅値の加算値に基づいて、レゾルバの異常を検出することができる。しかしながら、このような構成であっても、異常内容によっては電気角θが変化しない場合に当該レゾルバの異常を検出することができない可能性がある。
【0008】
具体的には、図12に示すように、励磁コイル101、正弦波相コイル102a、余弦波相コイル102bおよび第3相コイル102cを有するレゾルバ100aにおいて、励磁コイル101と正弦波コイル102aとが短絡する異常(図12に示す一点鎖線円内)が生じたことを想定する。この異常発生のために、正弦波信号の振幅値D2sのみがsinθ+eに変化し、余弦波信号の振幅値D2cおよび第3の出力信号の振幅値D2ccはcosθおよび−cosθのまま変化しない。
【0009】
このとき、例えば、電気角θが270°、電圧誤差eが2である場合、振幅値D2s、振幅値D2cおよび振幅値D2ccは、以下のように演算される。
D2s=sinθ+e=sin(270°)+2=1
D2c=cosθ=cos(270°)=0
D2cc=−cosθ=−cos(270°)=0
これにより、電気角θ、2乗和Fsおよび加算値Faは、以下のように演算される。
θ=tan−1{D2s/D2c}
=tan−1{(sinθ+e)/(cosθ)}=90°
Fs=(D2s)+(D2c)=(sinθ+e)+(cosθ)=1
Fa=cos(D2c)+{−cos(D2cc)}=0
【0010】
このように励磁コイル101と正弦波コイル102aとが短絡しても2乗和Fsが1に等しくなるとともに、加算値Faが0に等しくなる場合には、2乗和Fsおよび加算値Faに基づいて上記異常を検出することができない。しかも、実際の電気角θは270°であるにもかかわらず、演算値は90°となり、誤った値が演算されてしまう。
【0011】
本発明は、上述した課題を解決するためになされたものであり、その目的とするところは、レゾルバに発生し得る多様な異常を検出可能なレゾルバの異常検出装置および電気式動力舵取装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記目的を達成するため、特許請求の範囲に記載の請求項1のレゾルバの異常検出装置では、レゾルバの回転子の回転中心に対し均等に配置される3相以上のレゾルバコイル(82a〜82c)とこれら各レゾルバコイルを励磁するための励磁コイル(81)とを備え、前記励磁コイルに入力される励磁信号(So)に応じて前記回転子の電気角(θ)に対応する正弦波信号(Sa〜Sc)を前記各レゾルバコイルの一端からそれぞれ出力するレゾルバ(35,37,44)の異常検出装置(60)であって、前記各レゾルバコイルの他端を1つの接続点(83)にて電気的に接続するとともにこの接続点の電圧を所定の基準電圧に維持し、前記各正弦波信号の振幅値(Da〜Dc)の2乗値の和(Fs)が所定の第1範囲内にないこと、および、前記各正弦波信号の振幅値の加算値(Fa)が所定の第2範囲内にないことの少なくともいずれか1つを満たす場合に前記レゾルバの異常を検出することを技術的特徴とする。
【発明の効果】
【0013】
請求項1のレゾルバでは、当該レゾルバの回転子の回転中心に対し均等に配置される各レゾルバコイルの他端が1つの接続点にて電気的に接続されるとともに、この接続点の電圧が所定の基準電圧に維持されている。そして、レゾルバの異常検出装置では、各正弦波信号の振幅値の2乗値の和(以下、2乗和ともいう)が所定の第1範囲内にないこと、および、各正弦波信号の振幅値の加算値が所定の第2範囲内にないことの少なくともいずれか1つを満たす場合にレゾルバの異常が検出される。
【0014】
各レゾルバコイルから出力される正弦波信号の振幅値の2乗和は理論的には一定値になるので、この2乗和が上記一定値を中心とする所定の第1範囲内にない場合にはレゾルバの異常を検出することができる。また、均等に配置された各レゾルバコイルの接続点の電圧が所定の基準電圧に維持されることから各正弦波信号の振幅値の加算値は理論的には0(ゼロ)になるので、この加算値が0(ゼロ)を中心とする所定の第2範囲内にない場合にはレゾルバの異常を検出することができる。
【0015】
このため、例えば図12に示すようなレゾルバの異常が生じたために上記2乗和が所定の第1範囲内にある場合でも、上記加算値が所定の第2範囲内にないことに応じてレゾルバの異常を検出することができる。
したがって、レゾルバに発生し得る多様な異常を検出することができる。
【0016】
請求項2のレゾルバの異常検出装置では、上記2乗和が所定の第1範囲内にないこと、上記加算値が所定の第2範囲内にないこと、および、電気角演算手段により電気角を2つ以上求めこれら各電気角の差のいずれかが所定の第3範囲内にないことの少なくともいずれか1つを満たす場合にレゾルバの異常が検出される。
【0017】
これにより、上記2乗和が所定の第1範囲内にありかつ上記加算値が所定の第2範囲内にあるようなレゾルバの異常が生じた場合でも、各電気角の差のいずれかが所定の第3範囲内にないことに応じてレゾルバの異常を検出することができる。したがって、レゾルバに発生し得る多様な異常を確実に検出することができる。
【0018】
請求項3の電気式動力舵取装置では、請求項1または2に記載のレゾルバから出力される各正弦波信号に基づきモータにより操舵がアシストされるとともに、上記異常検出装置により検出される当該レゾルバの異常に応じてモータが制御される。
【0019】
これにより、レゾルバに発生し得る多様な異常を検出することができる等の、請求項1または2の各発明による作用・効果を享受した電気式動力舵取装置を実現することができる。したがって、レゾルバの異常検出に応じてモータによるアシスト力の発生を禁止するフェールセーフを実施することにより当該レゾルバ異常時の車両の挙動を安全にして信頼性を向上させた電気式動力舵取装置を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
[第1実施形態]
以下、本発明の第1実施形態について図を参照して説明する。まず、本第1実施形態に係る電気式動力舵取装置20の構成を図1〜図4に基づいて説明する。図1は、本発明の第1実施形態に係る電気式動力舵取装置20の構成を示す構成図である。図2は、図1に示す一点鎖線IIによる楕円内の拡大図である。図3は、図1に示す一点鎖線IIIによる楕円内の拡大図である。図4は、本第1実施形態の電気式動力舵取装置20を制御するECU60の電気的構成を示すブロック図である。
【0021】
図1および図4に示すように、本第1実施形態に係る電気式動力舵取装置20は、主に、ステアリングホイール21、ステアリング軸22、ピニオン軸23、ラック軸24、トルクセンサ30、モータ40、モータレゾルバ44、ボールねじ機構50、ECU60等から構成されており、ステアリングホイール21による操舵状態をトルクセンサ30により検出し、その操舵状態に応じたアシスト力をモータ40により発生させて運転者による操舵をアシストするものである。なお、ラック軸24の両側には、それぞれタイロッド等を介して図略の操舵輪が連結されている。
【0022】
即ち、図1および図2に示すように、ステアリングホイール21には、ステアリング軸22の一端側が連結され、このステアリング軸22の他端側には、ピニオンハウジング25内に収容されたトルクセンサ30の入力軸23aおよびトーションバー31がピン32により連結されている。またこのトーションバー31の他端側31aには、ピニオン軸23の出力軸23bがスプライン結合によって連結されている。
【0023】
このピニオン軸23の入力軸23aはベアリング33aにより、また出力軸23bもベアリング33bにより、それぞれピニオンハウジング25内を回動自在に軸受されており、さらに入力軸23aとピニオンハウジング25との間には、レゾルバ35が、また出力軸23bとピニオンハウジング25との間には、レゾルバ37が、それぞれ設けられている。トルクセンサ30を構成するレゾルバ35およびレゾルバ37は、1相励磁3相出力型のレゾルバであって、ステアリングホイール21による回転角(電気角)を検出可能に構成されている。レゾルバ35は、第1出力端子35a、第2出力端子35bおよび第3出力端子35c等を介してECU60にそれぞれ電気的に接続されている。また、レゾルバ37は、第1出力端子37a、第2出力端子37bおよび第3出力端子37c等を介してECU60にそれぞれ電気的に接続されている。
【0024】
ピニオン軸23の出力軸23bの端部には、ピニオンギヤ23cが形成されており、このピニオンギヤ23cにはラック軸24のラック溝24aが噛合可能に連結されている。これにより、ラックアンドピニオン式の操舵機構を構成している。
【0025】
図1および図3に示すように、ラック軸24は、ラックハウジング26およびモータハウジング27内に収容されており、その中間部には、螺旋状にボールねじ溝24bが形成されている。このボールねじ溝24bの周囲には、ラック軸24と同軸に回転可能にベアリング29により支持される円筒形状のモータ軸43が設けられている。このモータ軸43は、ステータ41や励磁コイル42等とともにモータ40を構成するもので、ステータ41に巻回された励磁コイル42により発生する界磁が、回転子に相当するモータ軸43の外周に設けられた永久磁石45に作用することより、モータ軸43が回転し得るように構成されている。
【0026】
モータ軸43は、その内周にボールねじナット52が取り付けられており、このボールねじナット52にも、螺旋状にボールねじ溝52aが形成されている。そのため、このボールねじナット52のボールねじ溝52aとラック軸24のボールねじ溝24bとの間に多数のボール54を転動可能に介在させることによって、モータ軸43の回転によりラック軸24を軸方向に移動可能なボールねじ機構50を構成することができる。
【0027】
即ち、両ボールねじ溝24b、52a等から構成されるボールねじ機構50により、モータ軸43の正逆回転の回転トルクをラック軸24の軸線方向における往復動に変換することができる。これにより、この往復動は、ラック軸24とともにラックアンドピニオン式の操舵機構を構成するピニオン軸23を介してステアリングホイール21の操舵力を軽減するアシスト力となる。
【0028】
モータ40のモータ軸43とモータハウジング27との間には、1相励磁3相出力型のレゾルバであって、モータ軸43の回転角(電気角)を検出し得るモータレゾルバ44が設けられている。このモータレゾルバ44は、第1出力端子44a、第2出力端子44bおよび第3出力端子44c等を介してECU60に電気的に接続されている(図4参照)。
【0029】
図4に示すように、ECU60は、CPU61、バッファ63等から構成されている。ECU60は、出力ポート60a、60b、60cからレゾルバ35、レゾルバ37、モータレゾルバ44に励磁信号を与える。
【0030】
上述したレゾルバ35の各出力端子35a〜35cからの各正弦波信号と、レゾルバ37の各出力端子37a〜37cからの各正弦波信号とが、ECU60に入力される。各正弦波信号は、ECU60のバッファ63を介して直流オフセット電圧Vrefが印加され、CPU61のA/D変換器側へ入力され、A/D変換される。CPU61は、A/D変換した各正弦波信号からレゾルバ35、レゾルバ37の回転角を検出して操舵トルクを演算し、この操舵トルクおよび後述するモータ40の回転角に応じて操舵力をアシストするためのアシスト指令をモータ駆動回路70側に出力する。この電流指令値に対応するモータ電圧をモータ駆動回路70によりモータ40に供給することで、モータ40により発生する操舵力によって運転者による操舵をアシストする。
【0031】
モータ40の回転角はモータレゾルバ44により検出され、この回転角に応じた正弦波信号が、各出力端子44a〜44cからモータ駆動回路70へフィードバックされると共にECU60に入力される。各正弦波信号は、ECU60のバッファ63を介して直流オフセット電圧Vrefが印加され、CPU61のA/D変換器側へ入力され、A/D変換される。
【0032】
次に、レゾルバ35,37およびモータレゾルバ44の構成等について図5を参照して説明する。なお、これらのレゾルバは、構成がほぼ同様であるので、モータレゾルバ44を代表して説明する。ここで、図5は、本第1実施形態に係るレゾルバの構成概要を示す説明図である。
【0033】
図5に示すように、モータレゾルバ44は、励磁コイル81と、第1レゾルバコイル82a、第2レゾルバコイル82bおよび第3レゾルバコイル82cの3相コイルとを備えている。各レゾルバコイル82a〜82cは、モータ軸43とともに回転するレゾルバ回転子(図略)の回転中心に対し均等に配置されている。各レゾルバコイル82a〜82cの一端は各出力端子44a〜44cに電気的に接続されるとともに、他端は接続点83にて電気的接続されこの接続点83が接地線84を介して接地されている。これにより、接続点83の電圧が所定の基準電圧に維持されることとなる。
【0034】
モータレゾルバ44は、励磁コイル81に入力される励磁信号Soに応じて、第1出力端子44a、第2出力端子44bおよび第3出力端子44cから第1正弦波信号Sa、第2正弦波信号Sbおよび第3正弦波信号Scを出力する。具体的には、励磁周期をω、励磁振幅をE、レゾルバ変圧比をk、電気角をθとした場合に、So=E・sin(ωt)の励磁信号を励磁コイル81に入力すると、各出力端子44a〜44cから出力される各正弦波信号Sa〜Scの理論式は、以下の式(1)〜(3)により表される。
Sa=sinθ・k・E・sin(ωt) ・・・(1)
Sb=sin(θ+120°)・k・E・sin(ωt) ・・・(2)
Sc=sin(θ+240°)・k・E・sin(ωt) ・・・(3)
【0035】
各正弦波信号Sa〜Scは、図5に示すように、バッファ63を介して直流オフセット電圧Vref(=2.5V)が印加されることにより振幅値に相当する直流成分のアナログ信号(以下、振幅値Da〜Dcともいう)に変換される。
【0036】
次に、本第1実施形態におけるレゾルバ異常の検出について、モータレゾルバ44を例に説明する。
本第1実施形態では、以下の式(4),(5)に基づいて、各振幅値Da〜Dcの2乗値の和である2乗和Fsと、各振幅値Da〜Dcの和である加算値Faとを演算し、2乗和Fsおよび加算値Faに基づいてレゾルバの異常を検出する。
Fs=(Da)+(Db)+(Dc) ・・・(4)
Fa=Da+Db+Dc ・・・(5)
【0037】
以下の式(6)から判るように、理論的には、2乗和Fsは1.5に等しくなる。また、各レゾルバコイル82a〜82cはレゾルバ回転子の回転中心に対し均等に配置され各レゾルバコイル82a〜82cが1点で接続される接続点83の電圧が所定の基準電圧に維持されているので、以下の式(7)から判るように、加算値Faは0に等しくなる。したがって、上記式(4)により演算される2乗和Fsが1.5を中心とする所定の範囲内にない場合、または、上記式(5)により演算される加算値Faが0を中心とする所定の範囲内にない場合に、当該レゾルバの異常を検出することができる。
Fs={sinθ}+{sin(θ+120°)}
+{sin(θ+240°)}=1.5 ・・・(6)
Fa=sinθ+sin(θ+120°)
+sin(θ+240°)=0 ・・・(7)
【0038】
ここで、例えば、図12に示すように励磁コイル81と第1レゾルバコイル82aとが短絡し振幅値Daのみがsinθ+eに変化した場合を想定する。このとき、2乗和Fsは、以下のように演算される。
Fs={sinθ+e}+{sin(θ+120°)}
+{sin(θ+240°)}
=1.5+2e・sinθ+e
このため、2e・sinθ+e=0となる電気角θの場合にはレゾルバの異常を検出することができない。
【0039】
一方、加算値Faは、以下のように演算される。
Fa=(sinθ+e)+sin(θ+120°)
+sin(θ+240°)
=0+e
このため、電気角θの値にかかわらず、加算値Faに基づいてレゾルバの異常を検出することができる。
【0040】
次に、レゾルバの異常検出装置としてのECU60によるレゾルバの異常を検出する処理について、図6のフローチャートを用いて説明する。図6は、本第1実施形態に係るECU60によるレゾルバの異常検出処理の流れを示すフローチャートである。
【0041】
まず、図6のステップS101において、各出力信号取得処理がなされる。この処理では、バッファ63を介して入力される各振幅値Da〜Dcが取得される。そして、ステップS103の2乗和演算処理にて各振幅値Da〜Dcを上記式(4)に代入することにより2乗和Fsが演算されるとともに、ステップS105の加算値演算処理にて、各振幅値Da〜Dcを上記式(5)に代入することにより加算値Faが演算される。
【0042】
次に、ステップS107において、2乗和FsがF<Fs<Fを満たすか否かについて判定される。なお、FおよびFは、上述したようにレゾルバの異常を判断するために、2乗和Fsが1.5を中心とする所定の範囲内にあるか否かを判定するための閾値であって、例えば、Fは1に設定されており、Fは、2に設定されている。
【0043】
ここで、2乗和FsがF<Fs<Fを満たす場合には、2乗和Fsに基づくレゾルバの異常が検出されず、ステップS107にてYesと判定される。なお、このステップS107におけるF<Fs<Fを満たす範囲は、特許請求の範囲に記載の「所定の第1範囲」に相当し得るものである。
【0044】
次に、ステップS109において、加算値Faが|Fa|<Fを満たすか否かについて判定される。なお、Fは、上述したようにレゾルバの異常を判断するために、加算値Faが0を中心とする所定の範囲内にあるか否かを判定するための閾値であって、例えば、Fは1に設定されている。
【0045】
ここで、加算値Faが|Fa|<Fを満たす場合には、加算値Faに基づくレゾルバの異常が検出されず、ステップS109にてYesと判定される。このように、2乗和Fsおよび加算値Faに基づきレゾルバの異常が検出されない場合には、上述したステップS101からの処理が繰り返される。なお、このステップS109における|Fa|<Fを満たす範囲は、特許請求の範囲に記載の「所定の第2範囲」に相当し得るものである。
【0046】
一方、レゾルバに異常が生じ2乗和FsがF<Fs<Fを満たさない場合には、ステップS107にてNoと判定される。また、例えば図12に示すようなレゾルバの異常が生じたために2乗和FsがF<Fs<Fを満たす場合でも、加算値Faが|Fa|<Fを満たさない場合には、ステップS109にてNoと判定される。
【0047】
このように、ステップS107およびステップS109のいずれか一方にてNoと判定されると、ステップS111にてレゾルバに異常が発生していることが検出される。このレゾルバの異常検出により、モータ40によるアシスト力の発生を禁止するフェールセーフが実施される。
【0048】
以上説明したように、本第1実施形態に係る電気式動力舵取装置20のレゾルバ35,37,44では、レゾルバ回転子の回転中心に対し均等に配置される各レゾルバコイル82a〜82cの他端が1つの接続点83にて電気的に接続されるとともに、この接続点83の電圧が所定の基準電圧に維持されている。そして、各レゾルバの異常検出装置であるECU60では、2乗和FsがF<Fs<Fを満たさないこと(2乗和Fsが所定の第1範囲内にないこと)、および、加算値Faが|Fa|<Fを満たさないこと(加算値Faが所定の第2範囲内にないこと)の少なくともいずれか1つを満たす場合に当該レゾルバの異常が検出される。
【0049】
これにより、2乗和FsがF<Fs<Fを満たさないことに応じてレゾルバの異常を検出することができる。さらに、例えば図12に示すようなレゾルバの異常が生じたために2乗和FsがF<Fs<Fを満たす場合でも、加算値Faが|Fa|<Fを満たさないことに応じてレゾルバの異常を検出することができる。
したがって、レゾルバに発生し得る多様な異常を検出することができる。
【0050】
また、本第1実施形態に係る電気式動力舵取装置20では、レゾルバに発生し得る多様な異常を検出することができる等の、作用・効果を享受した電気式動力舵取装置20を実現することができる。したがって、レゾルバの異常検出に応じてモータ40によるアシスト力の発生を禁止するフェールセーフを実施することにより当該レゾルバの異常時の車両の挙動を安全にして信頼性を向上させた電気式動力舵取装置20を提供することができる。
【0051】
図7は、第1実施形態の変形例に係るレゾルバの構成概要を示す説明図である。
図7に示すように、図5に示すレゾルバに対して接続点83に電気的に接続される接地線84を廃止するとともに、各出力線を使用して上記接続点83の電圧を基準電圧に維持するようにしてもよい。このようにしても、レゾルバに異常が発生している場合には、2乗和FsがF<Fs<Fを満たさないこと、および、加算値Faが|Fa|<Fを満たさないことの少なくともいずれかを満たさなくなるので、2乗和Fsおよび加算値Faに基づいてレゾルバの異常を検出することができる。
【0052】
[第2実施形態]
次に、本発明の第2実施形態について図8および図9を参照して説明する。図8は、本発明の第2実施形態に係るECU60によるレゾルバの異常検出処理の流れを示すフローチャートである。図9は、2相のレゾルバコイルが短絡したときの電気角θと2乗和Fsとの関係を例示するグラフである。
本第2実施形態に係る電気式動力舵取装置20では、上述したレゾルバの異常検出処理を図6に示すフローチャートに代えて図8に示すフローチャートに基づいて演算処理している点が、上記第1実施形態に係る電気式動力舵取装置と異なる。
【0053】
上記第1実施形態におけるレゾルバの異常を検出する処理では、例えば、第1レゾルバコイル82aと第2レゾルバコイル82bが短絡するレゾルバ異常が生じ、かつ、両レゾルバコイル82a,82bから出力される信号の振幅値が等しくなる電気角θ付近の操舵では、レゾルバの異常検出における検出感度が低下してしまう。
【0054】
このように検出感度が低下する理由について、以下に詳細に示す。第1レゾルバコイル82aと第2レゾルバコイル82bが短絡する場合の2乗和Fsと電気角θとの間には以下の式(8)の関係および図9に示す関係が成立する。
Fs=[{sinθ+sin(θ+120°)}/2]
+[{sinθ+sin(θ+120°)}/2]
+{sin(θ+240°)}
=1.5{sin(θ+60°)}≦1.5 ・・・(8)
【0055】
また、加算値Faに関しては、以下の式(9)に示すように、加算値Fa=0に等しくなることからレゾルバの異常を検出することができない。
Fa={sinθ+sin(θ+120°)}/2
+{sinθ+sin(θ+120°)}/2
+sin(θ+240°)
=0 ・・・(9)
【0056】
このため、電気角θが30°や210°に近接するほど、レゾルバの異常検出における検出感度が低下してしまう。そこで、本第2実施形態では、各振幅値Da〜Dcから3つの電気角(θ1〜θ3)をそれぞれ求め、各電気角の差のいずれかが後述する閾値Δθより大きくなる場合には、レゾルバの異常として判断する。
【0057】
以下、本第2実施形態に係る電気式動力舵取装置20のECU60によるレゾルバの異常検出処理について、図8のフローチャートを参照して説明する。
上記第1実施形態と同様に、図8のステップS109にてYesとの判定がなさると、ステップS201にて、電気角演算処理がなされる。この処理では、以下の式(10b)〜(12b)により、各振幅値Da〜Dcの3つの値のうち異なる2つの値から演算される電気角を3つ(電気角θ1,θ2,θ3)求める。
【0058】
具体的には、振幅値Da,Dbに基づいて演算される電気角をθ1とすると、以下の式(10a)の関係が成立する。
Da/Db=sinθ1/sin(θ1+120°) ・・・(10a)
この式(10a)をθ1について解くと、以下の式(10b)が求められる。
θ1=tan−1{Da・√3/(2・Db+Da)} ・・・(10b)
【0059】
また、振幅値Db,Dcに基づいて演算される電気角をθ2とすると、以下の式(11a)の関係が成立する。
Db/Dc=sin(θ2+120°)/sin(θ2+240°)・・・(11a)
この式(11a)をθ2について解くと、以下の式(11b)が求められる。
θ2=tan−1{(Db+Dc)・√3/(Dc−Db)} ・・・(11b)
【0060】
また、振幅値Dc,Daに基づいて演算される電気角をθ3とすると、以下の式(12a)の関係が成立する。
Dc/Da=sin(θ3+240°)/sinθ3 ・・・(12a)
この式(12a)をθ3について解くと、以下の式(12b)が求められる。
θ3=tan−1{−Da・√3/(2・Dc+Da)} ・・・(12b)
【0061】
このように電気角θ1〜θ3が演算されると、ステップS203において、各電気角の差が全て閾値Δθ以下であるか否かについて判定される。具体的には、以下の式(13)〜(15)の全てを満たす場合に、各電気角の差が全て閾値Δθ以下であると判定する。
|θ1−θ2|≦Δθ ・・・(13)
|θ2−θ3|≦Δθ ・・・(14)
|θ3−θ1|≦Δθ ・・・(15)
なお、閾値Δθは、当該車両の操舵状態等に応じて設定される値であって、例えば、10°に設定されている。
【0062】
ここで、上記式(13)〜(15)が全て満たされ、各電気角の差が全て閾値Δθ以下であることからステップS203においてYesと判定されると、2乗和Fs、加算値Fa、および各電気角の差に基づいてレゾルバに異常が発生していないと判断されて、上述したステップS101からの処理が繰り返される。なお、このステップS103における式(13)〜(15)を満たす範囲は、特許請求の範囲に記載の「所定の第3範囲」に相当し得るものである。
【0063】
一方、上記式(8),(9)の関係が成立するレゾルバの異常が生じている場合には、式(13)〜(15)のいずれかが条件を満たさなくなる。このため、ステップS203にてNoと判定されて、ステップS111にてレゾルバに異常が発生していることが検出される。このレゾルバの異常検出により、モータ40によるアシスト力の発生を禁止するフェールセーフが実施される。
【0064】
以上説明したように、本第2実施形態に係る電気式動力舵取装置20のECU60では、2乗和FsがF<Fs<Fを満たさないこと、加算値Faが|Fa|<Fを満たさないこと、および、各振幅値Da〜Dcの3つの値のうち異なる2つの値から演算される電気角θ1〜θ3をそれぞれ求めこれら各電気角θ1〜θ3の差のいずれかが閾値Δθより大きくなること(各電気角θ1〜θ3の差のいずれかが所定の第3範囲内にないこと)の少なくともいずれか1つを満たす場合に当該レゾルバの異常が検出される。
【0065】
これにより、上記式(8),(9)の関係が成立するレゾルバの異常が生じたために2乗和FsがF<Fs<Fを満たしかつ加算値Faが|Fa|<Fを満たす場合でも、各電気角θ1〜θ3の差のいずれかが閾値Δθより大きくなることに応じてレゾルバの異常を検出することができる。したがって、レゾルバに発生し得る多様な異常を確実に検出することができる。
【0066】
なお、本発明は上記各実施形態に限定されるものではなく、以下のように具体化してもよく、その場合でも、上記各実施形態と同等の作用・効果が得られる。
(1)上記各実施形態において、各レゾルバ35、37、44は、3相出力に限らず、4相以上の多相出力であってもよい。この場合、各レゾルバコイルは、当該レゾルバの回転子の回転中心に対し均等に配置される。また、各レゾルバコイルの一端は1つの接続点にて電気的に接続されこの接続点の電圧が所定の基準電圧に維持されるように構成される。
【0067】
このように構成されることにより、各レゾルバコイルから出力される正弦波信号の振幅値の2乗和Fsが理論的に一定値になるので、この2乗和Fsが上記一定値を中心とする所定の第1範囲内にないことに応じてレゾルバの異常を検出することができる。また、均等に配置された各レゾルバコイルの接続点の電圧が所定の基準電圧に維持されることから各正弦波信号の振幅値の加算値Faが理論的には0(ゼロ)になるので、この加算値Faが0(ゼロ)を中心とする所定の第2範囲内にないことに応じてレゾルバの異常を検出することができる。
【0068】
また、上記第2実施形態においては、各振幅値のうち異なる2つの値から演算される電気角を2つ以上求めこれら各電気角の差のいずれかが閾値Δθより大きくなること(各電気角の差のいずれかが所定の第3範囲内にないこと)に応じてレゾルバの異常を検出することができる。
【0069】
(2)図10は、各実施形態とは異なるレゾルバの構成概要を示す説明図である。
図10に示すように、均等に配置された各レゾルバコイル82a〜82cのうち1つのレゾルバコイル(図10ではレゾルバコイル82a)をGNDラインに接続し、他のレゾルバコイル(図10ではレゾルバコイル82b,82c)から出力される2つの正弦波信号の振幅(sin(θ+240°)および−sin(θ+120°))に基づいて電気角θを演算するとともに、当該レゾルバの異常を検出してもよい。
【0070】
このような構成では、接続点83の電圧が電気角θに応じて変化するため、加算値Faに基づくレゾルバの異常は検出できないが、2乗和Fsは理論的に一定値になるので、この2乗和Fsに基づいてレゾルバの異常を検出することができる。
【図面の簡単な説明】
【0071】
【図1】本発明の第1実施形態に係る電気式動力舵取装置の構成を示す構成図である。
【図2】図1に示す一点鎖線IIによる楕円内の拡大図である。
【図3】図1に示す一点鎖線IIIによる楕円内の拡大図である。
【図4】本第1実施形態の電気式動力舵取装置を制御するECUの電気的構成を示すブロック図である。
【図5】本第1実施形態に係るレゾルバの構成概要を示す説明図である。
【図6】本第1実施形態に係るECUによるモータレゾルバの異常検出処理の流れを示すフローチャートである。
【図7】第1実施形態の変形例に係るレゾルバの構成概要を示す説明図である。
【図8】本発明の第2実施形態に係るECUによるモータレゾルバの異常検出処理の流れを示すフローチャートである。
【図9】2相のレゾルバコイルが短絡したときの電気角と2乗和との関係を例示するグラフである。
【図10】各実施形態とは異なるレゾルバの構成概要を示す説明図である。
【図11】第1の従来例によるレゾルバの構成概要を示す説明図である。
【図12】第2の従来例によるレゾルバの構成概要を示す説明図である。
【符号の説明】
【0072】
20…電気式動力舵取装置
35,37…レゾルバ
40…モータ
44…モータレゾルバ(レゾルバ)
60…ECU(異常検出装置)
61…CPU
63…バッファ
81…励磁コイル
82a〜82c…レゾルバコイル
83…接続点
Da〜Dc…振幅値
Fa…2乗和
Fs…加算値
,F…閾値
…閾値
θ,θ1,θ2,θ3…電気角
Δθ…閾値

【特許請求の範囲】
【請求項1】
レゾルバの回転子の回転中心に対し均等に配置される3相以上のレゾルバコイルとこれら各レゾルバコイルを励磁するための励磁コイルとを備え、
前記励磁コイルに入力される励磁信号に応じて前記回転子の電気角に対応する正弦波信号を前記各レゾルバコイルの一端からそれぞれ出力するレゾルバの異常検出装置であって、
前記各レゾルバコイルの他端を1つの接続点にて電気的に接続するとともにこの接続点の電圧を所定の基準電圧に維持し、
前記各正弦波信号の振幅値の2乗値の和が所定の第1範囲内にないこと、および、前記各正弦波信号の振幅値の加算値が所定の第2範囲内にないことの少なくともいずれか1つを満たす場合に前記レゾルバの異常を検出することを特徴とするレゾルバの異常検出装置。
【請求項2】
前記各正弦波信号のうち異なる2つの正弦波信号から前記電気角を演算する電気角演算手段を備え、
前記各正弦波信号の振幅値の2乗値の和が所定の第1範囲内にないこと、前記各正弦波信号の振幅値の加算値が所定の第2範囲内にないこと、および、前記電気角演算手段により前記電気角を2以上求めこれら各電気角の差のいずれかが所定の第3範囲内にないことの少なくともいずれか1つを満たす場合に前記レゾルバの異常を検出することを特徴とする請求項1に記載のレゾルバの異常検出装置。
【請求項3】
請求項1または2に記載のレゾルバから出力される前記各正弦波信号に基づきモータにより操舵をアシストするとともに、前記異常検出装置により検出される前記レゾルバの異常に応じて前記モータを制御することを特徴とする電気式動力舵取装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【公開番号】特開2010−48760(P2010−48760A)
【公開日】平成22年3月4日(2010.3.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−215384(P2008−215384)
【出願日】平成20年8月25日(2008.8.25)
【出願人】(000001247)株式会社ジェイテクト (7,053)
【Fターム(参考)】