説明

レンズ製造方法、眼鏡用レンズ製造方法及び蒸着装置

【課題】レンズに蒸着処理を施す前処理工程の時間を短縮して、レンズの生産性を向上させる。
【解決手段】イオンビームを発生するイオン源部と、蒸着原料を気化させる加熱部とを制御する制御部を備えた蒸着装置で、蒸着によりレンズの表面に膜を形成するレンズ製造方法であって、制御部が加熱部を起動させて蒸着原料を加熱し、不要なガスを気化させて排出するガス出し処理と、イオン化ガス供給部にイオン化ガスを発生させてレンズへ供給させるイオン化ガス前処理と、を含み、前記制御部は、ガス出し処理とイオン化ガス前処理を並列的に実行し、かつ、イオン化ガス前処理の完了する時点を、ガス出し処理の完了時点またはガス出し処理の完了時点以降に設定する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、計算機により加工装置を制御するレンズの製造システムに関し、特に、レンズに薄膜を蒸着する製造システムに関する。
【背景技術】
【0002】
眼鏡用レンズの製造においては、レンズに複数の薄膜を形成し、反射防止などの光学特性の改善や撥水性などの機能を付与する多層コート技術が適用されるものがある。特に、プラスチック製レンズ等の光学部材への反射防止膜の形成は、反射防止膜が無機酸化物からなる多層蒸着膜である場合、真空蒸着装置を用いて行われる。この反射防止膜の上に撥水膜を蒸着により形成する場合では、反射防止膜と撥水膜の形成を連続して行う真空蒸着装置が知られている(例えば、特許文献1)。
【0003】
上記蒸着装置では、反射防止膜等の蒸着処理を開始する前に、真空ポンプを作動させて蒸着室の減圧を開始し、所定の真空度になると蒸着室内に設置されている蒸着原料を加熱して不純物などの余分な成分を気化させて除去するガス出し処理を行った後に、蒸着室内に設置されているイオン銃にイオン化ガス(不活性ガス、酸素など)を供給しながらイオン銃を起動(通電開始)し、発生したイオンビームをレンズに供給する照射するイオン銃前処理(以下、イオンビーム前処理ともいう)を行っている。これらガス出し処理とイオン銃前処理が完了した後に、蒸着原料を気化させ、イオンビームを照射しながら蒸着を行っていた。
【特許文献1】特開2006−70291号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上記従来例では、蒸着原料の不要な成分を排出するガス出し処理と、レンズに形成される膜の耐久性(膜の密着性等)を向上させるためにレンズ表面にイオンビームを照射するイオン銃前処理(イオンビーム前処理)を順次行っていたため、レンズを加工装置へ投入してから次の投入までのサイクルタイムは長くなるという問題があった。
【0005】
すなわち、上記従来例のガス出し処理では、蒸着装置内の真空度を監視しながら処理を実行し、真空度(蒸着室内の気圧)が所定値以下になって向上したら、蒸着原料の加熱を開始する。そして、加熱された蒸着原料の気化の開始を、真空度が低下したことに基づいて判定し、所定時間を超えて加熱しても真空度が低下しない場合には、蒸着原料がセットされていない等の不具合があると判定して処理を中断していた。なお、蒸着室内の真空度の低下とは、蒸着室内の気圧の上昇であり、蒸着室内の真空度の向上(上昇)とは、蒸着室内の気圧の低下(減少)である。(以下、蒸着室の真空度のことを単に「気圧」とも記す。)
また、上記従来例のイオン銃前処理でも、蒸着装置内の気圧を監視しながら処理を実行しており、イオン銃へのイオン化ガスの供給は気圧が所定値よりも低下してから開始し、イオン化ガスの流量が所定値になった後、イオン銃シャッタを開いてイオン銃を起動(通電開始)している。イオン銃の起動後は、気圧が所定値よりも上昇すると、イオン銃などが損傷する恐れがあるため気圧を監視して、イオン銃の通電制御を行っていた。
【0006】
上記従来例のガス出し処理とイオン銃前処理を、単に並列的に実行してサイクルタイムを短縮しようとすると、2つの処理の時間が異なる場合には、ガス出し処理が完了する前にイオン銃前処理が完了する場合があり、レンズに形成される膜の耐久性が低下する、という問題があった。
【0007】
さらに、上記従来例のガス出し処理とイオン銃前処理を並列的に行って蒸着処理の前工程に要するサイクルタイムを短縮しようとすると、蒸着原料の気化による気圧の上昇と、イオン銃からガスの放出による気圧の上昇が重畳し、気圧の上昇の原因を特定するのが難しい、という問題があった。
【0008】
さらに、ガス出し処理中の蒸着原料の気化による気圧の上昇は、蒸着原料が正常に加熱されているかどうか判断する上で重量な情報であり、上記のように蒸着原料の気化による気圧の上昇と、イオン銃からガスの放出による気圧の上昇が重畳すると、蒸着原料の気化による気圧の上昇の時期や上昇の程度を把握することが難しい、という問題があった。
【0009】
そこで本発明は、上記問題点に鑑みてなされたもので、レンズに蒸着処理を施す前処理工程の時間を短縮して、レンズの生産性を向上させることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、蒸着室内に保持されたレンズの表面に蒸着原料を気化させて蒸着させることにより膜を生成するレンズ成膜方法であって、前記蒸着室には、蒸着原料を加熱する加熱部と、イオンビームを発生させてレンズに照射するイオン源部が設けられており、前記蒸着を開始する前に、前記蒸着原料を前記加熱部によって加熱して不要な成分を気化させて排出するガス出し工程と、前記イオン源部にイオン化ガスを供給し、この供給されたイオン化ガスからイオンビームを発生させて前記レンズ表面に照射するイオンビーム前処理工程と、を行ない、前記ガス出し工程と前記イオンビーム前処理工程を並列的に実行し、かつ、前記イオンビーム前処理工程の完了する時点を、前記ガス出し工程の完了する時点以降に設定する。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、蒸着原料のガス出し処理とイオンビーム前処理とを同時に実行し、イオンビーム前処理の完了時点をガス出し処理の完了時点以降に設定するので、ガス出し処理中の不要ガスによるレンズの汚れをイオンビームの照射によって防止することができる。これにより、生産性を向上させながらもレンズに形成する膜の耐久性を確保することが可能となる。
【0012】
さらに、イオン化ガス導入処理(以下、単にガス導入処理ともいう)による気圧上昇後にガス出し処理による気圧上昇が生じるように設定することで、ガス導入処理による気圧上昇と、ガス出し処理における蒸着原料からの不要ガスの発生による気圧上昇とを区別することができ、ガス出し処理とイオンビーム前処理とを同時に実行する場合であっても気圧の低下の原因を容易に特定することができ、制御の精度を確保することができる。
【0013】
さらに、ガス導入処理による気圧上昇後にガス出し処理による気圧上昇が生じるように設定するか、または、ガス出し処理による気圧上昇後にガス導入処理による気圧上昇が生じるように設定することで、蒸着原料の気化の時期や程度を把握することができ、ガス出し処理とイオンビーム前処理とを同時に実行する場合であっても蒸着原料の加熱が正常に行なわれているかどうかを確認することができ、また、これにより制御の精度を確保することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下、本発明の一実施形態を添付図面に基づいて説明する。
【0015】
図1は、眼鏡用プラスチックレンズに反射防止膜や撥水コート等の薄膜を連続的に形成する連続型真空蒸着装置1に、本発明を適用した一例を示す。この連続型真空蒸着装置1は、成型された眼鏡用レンズ(以下、単にレンズとする)を、真空蒸着室内で蒸着物質を蒸着させて反射防止膜や撥水膜等を連続的に形成するものである。
【0016】
図1は、連続型真空蒸着装置1の概要を示す概略図である。この連続型真空蒸着装置1には、レンズ20を加熱する予熱室100と、反射防止膜をレンズ20に形成する第1蒸着室200と、反射防止膜を形成したレンズ20に撥水膜等を形成する第2蒸着室300を備えている。また、予熱室100、第1蒸着室200、第2蒸着室300は、所定の気圧の真空になるようにそれぞれに図示しない真空装置が配設される。
【0017】
連続型真空蒸着装置1におけるレンズ20の加工の概略について説明する。
【0018】
まず、複数のレンズ20を円盤状のコートドーム2に配置し、1ロットを構成する。そして、コートドーム2は予熱室100の開閉台103上に支持された支持台101に乗せられる。支持台101を上昇させて予熱室100の底部からコートドーム2を予熱室100に移動する。支持台101の上昇が完了すると、支持台101の下部を支持する開閉台103で予熱室100の底部が封止される。また、コートドーム2の上部は連続型真空蒸着装置1の支持台101に設けられた図示しない搬送手段500に支持されて、予熱室100から第1蒸着室200を経て第2蒸着室300まで移動可能となっている。また、搬送手段500に支持された状態のコートドーム2は、図示しないアクチュエータにより回転可能となっている。
【0019】
予熱室100には、制御装置12によって駆動されるヒータ(ハロゲンヒータなど)102によりコートドーム2のレンズ20を予熱する。予熱が完了すると、制御装置12は搬送手段500を駆動してコートドーム2を第1蒸着室200へ移動する。
【0020】
第1蒸着室200では、複数の蒸着原料41、42を加熱源としての電子銃30、31で加熱し、蒸着原料41、42を蒸発(気化)させてレンズ20に反射防止膜等の所定の膜を形成する。さらに、第1蒸着室200には、レンズ20に形成する膜の強度や密着性を向上させるため、イオンビームをレンズに照射するするイオン源としてのイオン銃14を備える。なお、電子銃30、31の駆動や蒸着原料41、42の選択は、制御装置12によって制御される。また、第1蒸着室200には、薄膜の形成状況を監視するための光学式膜厚計10が備えられ、監視結果は制御装置12へ送られて電子銃30、31の制御などを行う。なお、蒸着原料が一つの場合には、電子銃30または31のいずれか一方を作動させればよい。また、イオン銃14は、イオン銃前処理でレンズ20にイオンビームを照射することで、レンズ20に形成される膜のはく離強度(または膜の密着性)を向上させて、膜の耐久性を向上させる。
【0021】
反射防止膜の形成が完了すると、制御装置12は搬送手段500を駆動してコートドーム2を第2蒸着室300へ移動する。
【0022】
第2蒸着室300には、昇降可能な開閉台303上にコートドーム2を支持する支持台301が移動可能に配置される。第1蒸着室200から移動してきたコートドーム2は、搬送手段500により第2蒸着室300に移動する。
【0023】
開閉台303上には、制御装置12によって制御されるヒータ(ハロゲンヒータなど)302と、ヒータ302により加熱される蒸着原料340が配置され、コートドーム2に配置されたレンズ20に撥水膜を形成する。
【0024】
レンズ20に撥水膜の形成が完了すると、コートドーム2が支持台301に支持された状態で支持台301の下部を支持する開閉台303が下降して全工程の加工が完了する。この後、コートドーム2は支持台301から移動し、コートドーム2上のレンズ20は次工程へ運ばれる。
【0025】
なお、上記では第1蒸着室200で反射防止膜を、第2蒸着室300で撥水膜を形成したが、蒸着原料41、42、340を変更することにより、任意の薄膜を蒸着することができる。また、第1蒸着室200では、同時に2つの蒸着原料41、42を蒸発させるだけでなく、電子銃30、31の一方のみを作動させて、一つの蒸着原料による蒸着を行っても良い。また、この例では第2蒸着室にコートドーム2を取り出すための開閉機構を設けているが、第2蒸着室に開閉機構を設けずに、開閉機構を備えた真空室をさらに設けて、第2蒸着室からその真空室にコートドーム2を移動させた後、その真空室からコートドーム2を取り出すようにしてもよい。また、この例は連続して配置された蒸着室が二つの場合であるが、三つ以上であっても良い。
【0026】
次に、図2は第1の成膜室となる第1蒸着室200と制御装置12を示す。
【0027】
第1蒸着室200内では、予熱室100から移動してきたコートドーム2が支持台に設けられた搬送手段500により所定の位置である第1蒸着室200内の上部に位置決めされる。
【0028】
第1蒸着室200の上部には、所定の位置に薄膜の形成状況を検出する光学式膜厚計10が設置され、光学式膜厚計10を構成するモニターガラス51は、第1蒸着室200内の所定の位置に配置されて、蒸着原料41、42の蒸気を受けることが可能となっている。
【0029】
第1蒸着室200の下部には、蒸着原料(成膜材料)41、42を収装するルツボやハースで構成される容器40を有するハース部400と、容器の蒸着原料41、42に電子ビームを当てて気化させる電子銃30、31と、蒸着原料41、42の蒸気を選択的に遮断するシャッタ5と、蒸着した薄膜の強度や膜質(緻密性など)を改善するため、供給されたイオン化ガス(不活性ガス、酸素など)からイオンビームを発生させ放出するイオン銃14と、イオン銃14にイオン化ガスを供給するガス供給装置(ガスユニット)15、ガス供給装置15からイオン銃14に供給されるイオン化ガスの流量を計測する流量計150等が設けられている。なお、イオン銃14には、イオン銃14本体を保護するためのシャッタ(イオン銃シャッタ)141が設けられており、シャッタ141を開いたときにイオンビームを照射することができる。
【0030】
なお、シャッタ5及びシャッタ141にはアクチュエータ(図示省略)が設けられ、後述の制御装置12によって制御される。また、蒸着原料41、42は異なる種類の物質で、例えば、蒸着原料41が低屈折率物質で、蒸着原料42が高屈折率物質である。
【0031】
上部のコートドーム2の近傍には、コートドーム2に保持された被成膜体としてのレンズ20の温度を計測するための基板温度計6が設けられ、さらに、第1蒸着室200内の気圧(真空度)を計測するための真空計7及び第1蒸着室200内を減圧するための真空装置8が設けられている。また、コートドーム2に保持されたレンズ20を加熱するためのヒータ9が設けられている。なお、ヒータ9はハロゲンヒータなどで構成される。
【0032】
さらに、第1蒸着室200の外部上方には、コートドーム2の所定の位置に設定されたモニターガラス51の反射率を測定する光学式膜厚計10が設けられている。光学式膜厚計10は膜厚モニター11を介して制御装置12に接続され、光学式膜厚計10からは光量データ(光量値)として、照射光の光量に対する反射光の光量の比が出力される。なお、光学式膜厚計10及び膜厚モニター11の構成は、特開2001−115260号公報や特開2003−202404号公報の構成と同様である。
【0033】
制御装置12は、シーケンサユニットと、このシーケンサユニットに指令を送るCPU(プロセッサ)、メモリ、ディスク装置などから構成されるコンピュータを含み、後述するように、制御装置12は、予熱室100、第1蒸着室200、第2蒸着室300の各機器の制御を後述するように行う。
【0034】
制御装置12には各機器へ指令を送るためのキーボードやマウスなどを含む入力部12aが接続されるとともに、上述の電子銃30、31、シャッター5、真空装置8、ヒータ9、イオン銃14、シャッタ141、ガス供給装置15等の制御対象と、基板温度計6、真空計7、光学式膜厚計10(膜厚モニタ11)、流量計150等のセンサが接続されており、制御装置12は、各センサからの入力情報等に基づいて上記制御対象を制御する。さらに制御装置12には、予熱室100のヒータ102、第2蒸着室300のヒータ302、予熱室100から第1蒸着室200を経て第2蒸着室300までを結ぶ搬送手段500、予熱室100及び第2蒸着室300の開閉台103、303の昇降装置(図示省略)がそれぞれ接続される。また、制御装置12には、各蒸着装置の動作状態などを表示するための表示装置(図示省略)を備える。
【0035】
制御装置12は、真空計7の情報に基づいて真空装置8や電子銃30、31及びイオン銃14を制御し、第1蒸着室200内を所定の気圧の真空にする。また、制御装置12は、基板温度計6の情報に基づいてヒータ9を制御して被成膜体であるレンズ20を所定の温度にする。そして、制御装置12は、上記光学式膜厚計10のモニターガラス51に形成された薄膜の時々刻々の光学膜厚に依存する時々刻々の光量値が、基準光量値データ格納手段に格納されている値と等しくなるように、電子銃30、31に印加する電力(電流及び/又は電圧)を制御する場合もある。また、形成する薄膜の種類や気化させる蒸着原料41、42の種類に応じて、イオン銃14へのイオン化ガスの供給とイオンビームの照射を行う。
【0036】
ここで、コートドーム2は、レンズ20に反射防止膜等が蒸着されるように、レンズ20を保持する保持手段である。そして、複数のレンズ20が同時に蒸着できるよう、円形をしており、コートドーム2は所定の曲率を有している。また、コートドーム2は、図示しないアクチュエータにより回転可能となっており、主には、蒸着室で加熱されて飛散する蒸発物の分布のばらつきを低減させるために回転する。
【0037】
電子銃30、31は、容器に収納された蒸着原料(物質)41、42を蒸着原料41、42の溶融温度まで加熱することにより、蒸発させて、レンズ20及びモニターガラス51に蒸着原料(物質)を蒸着・堆積させて薄膜を形成する。
【0038】
容器40は、蒸着物質41、42を保持するために用いられる水冷式のルツボやハースライナである。
【0039】
シャッター5は、蒸着を開始するとき開き、または終了するときに閉じるように制御されるもので、薄膜の制御を行いやすくするものである。ヒータ9は、レンズ20に蒸着される薄膜の密着性などの物性を出すため、レンズ20を適切な温度に加熱する加熱手段である。
【0040】
光学式膜厚計10は、表面に透明薄膜を形成した透明基体に光を照射すると、薄膜表面からの反射光と透明基体表面からの反射光とが両者の位相差によって干渉をおこす現象を利用したものである。すなわち、上記位相差が薄膜の屈折率及び光学膜厚によって変化し、干渉の状態が変化して反射光の光量が薄膜の屈折率及び光学膜厚に依存して変化する。なお、反射光が変化すれば必然的に透過光も変化するので、透過光の光量を計測することによっても同様のことができるが、以下では反射光を用いた場合を説明する。
【0041】
光学式膜厚計10は、上記コートドーム2のほぼ中心部に保持されたモニターガラス51に所定の波長の光を照射し、その反射光を測定する。モニターガラス51に形成される薄膜は、各レンズ20に形成される薄膜に従属しているとみることができるので、各レンズ20に形成される薄膜を推測できる(再現できる)情報を得ることができる。モニタガラス51に形成される膜厚の測定については、特開2003−202404号公報などと同様であり、受光センサが検出した光量のピークの数に基づいて、膜厚の増大(成膜の進行)を検出することができる。
【0042】
次に、蒸着原料41、42を選択するハース部400について、図3を参照しながら説明する。
【0043】
第1蒸着室200では、仕様の異なる薄膜を形成可能とするため、蒸着原料を電子銃30、31の照射位置に設定するハース部400では、複数種の蒸着原料を選択可能にしている。
【0044】
すなわち、蒸着原料41、42を収容する容器40は、円盤状のホルダ411に複数配置される。ホルダ411は回転可能に構成されており、モータなどのハースアクチュエータ410によって駆動される。ハースアクチュエータ410は制御装置12によって駆動され、各容器40には予め設定した蒸着原料41、42が収容されており、制御装置12はロットに応じた蒸着原料41、42を収容した容器40が電子銃30、31の照射位置となるようハースアクチュエータ410を駆動する。こうして、形成する薄膜の仕様(種類)に応じて任意の蒸着原料41、42を自動的に選択することができる。
【0045】
次に、制御装置12で実行されるソフトウェアの構成について図4を参照しながら説明する。
【0046】
制御装置12には、コンピュータが含まれており、このコンピュータでは、マルチタスクOS121が実行されており、このOS121上で予熱室100、第1蒸着室200、第2蒸着室300の制御を行う連続蒸着処理600を行なうプログラムが実行される。なお、ここではOS121をプリエンプティブなマルチタスクOSとする。
【0047】
連続蒸着処理600では、予熱室100のヒータ102の制御を行う予熱室処理610と、第1蒸着室200の各機器の制御を行う第1蒸着室処理620と、第2蒸着室300のヒータ302を制御する第2蒸着室処理630及び搬送手段500を制御する処理(図示省略)が含まれる。ここでは搬送手段500を制御する搬送処理が、バックグラウンドで実行されるものとし、常時各処理を監視してコートドーム2の移動を制御する。
【0048】
予熱室処理610と、第2蒸着室処理630及び搬送手段500については、上記従来例と同様であるので、以下の説明では第1蒸着室処理620を中心に説明する。
【0049】
図5は、連続蒸着処理600の全体の処理を示し、コートドーム2の移動に応じた処理の流れを示している。
【0050】
まず、予熱室100にコートドーム2がセットされると、ヒータ102でコートドーム2上のレンズ20を所定時間予熱する予熱処理611が実行される。
【0051】
予熱処理後、コートドーム2は第1蒸着室200に移動し、第1蒸着室処理620のガス出し処理621とイオン銃前処理622からなる蒸着前処理が並列的に実行される。
【0052】
ガス出し処理621は、予め蒸着原料41、42を気化させて不要な成分を除去するものである。また、イオン銃前処理(イオンビーム前処理)622は、イオン銃(イオン源部)14へイオン化ガスを供給し、ガスの流量が所定値になると、イオン銃14のシャッタ141を開いてイオン銃14を起動(通電開始)させ、第1蒸着室200のレンズ20の表面に、発生したイオンビームを照射して、形成される膜の耐久性を確保する前処理を行うものである。
【0053】
なお、ガス出し処理621とイオン銃前処理622からなる蒸着前処理を開始する直前には、コートドーム2のレンズ20に施す蒸着の仕様やレンズ20の種類などに応じて、所定の蒸着原料41、42を収容した容器40が、電子銃30、31の照射位置へ来るようにハースアクチュエータ400を駆動し、蒸着の仕様やレンズ20の種類などに応じた電子銃30、31の出力設定や、形成する薄膜に応じた光学式膜厚計10の設定など、加工条件の設定と各機器の設定状態の確認を行う準備処理が行われる。
【0054】
ガス出し処理621とイオン銃前処理622からなる蒸着前処理工程が完了すると、成膜処理623を起動して、レンズ20に所定の薄膜(反射防止膜)が形成されていく。
【0055】
レンズ20に第1の薄膜の形成が完了すると、成膜処理623は完了して終了処理624が起動する。終了処理624は、第1蒸着室200の各機器を停止あるいはリセット、第1蒸着室での処理結果の登録・保存などを行うものである。終了処理624が完了すると、搬送処理によりコートドーム2は第1蒸着室200から第2蒸着室300へ移動される。なお、上記621〜624の処理が第1蒸着室処理620を構成する。また、蒸着完了後、次の蒸着対象となるレンズが取り付けられたコートドーム2が予熱室より第1蒸着室に搬送されてくる。
【0056】
第2蒸着室300においても、上記第1蒸着室処理620と同様に、前処理631、成膜処理632、終了処理633からなる第2蒸着室処理630が実行される。
【0057】
この第2蒸着室処理630では、制御対象がヒータ302である点が第1蒸着室処理620と異なり、その他は第1蒸着室処理620と同様にして行われる。この第2蒸着室処理630は、ヒータ302の起動・停止が主体であり、特開2003−14904号と同様であるので、詳細については省略する。
【0058】
上記連続蒸着処理600では、各処理610〜633が1ドーム毎に順次行われ、レンズ20の薄膜形成が行われる。本実施形態の場合は3つの処理室があるので、それぞれの処理室で異なるドームの処理が並列的に進行している。
【0059】
次に、第1蒸着室処理620で行われる蒸着前処理の詳細について、図6を参照しながら以下に説明する。なお、上述の各種設定などの準備処理については、前記従来例と同様であるので、ここでは詳述しないが、以下の蒸着前処理は、上記準備処理が完了した後に開始される。
【0060】
蒸着前処理は、ガス出し処理621とイオン銃前処理622を同時に開始して、並列的に処理が行われる。すなわち、制御装置12のOS121は、ガス出し処理621のスレッドと、イオン銃前処理622のスレッドを発行し、CPUは複数のスレッドを並列的に実行する。
【0061】
まず、ガス出し処理621の詳細について説明し、次に、イオン銃前処理622の詳細について説明する。
【0062】
ガス出し処理621では、ハース部400のシャッタ5を閉鎖した状態で実行する。まず、制御装置12は、真空計7から気圧を取得し、第1蒸着装置200内の気圧が所定値A以下であるか否かを判定し、所定値Aを超える場合には気圧が所定値A以下となるまで待機する(S1)。また、真空装置8は、予め作動を開始しており、所定の気圧の真空となるように制御装置12によって制御される。
【0063】
第1蒸着装置200内の気圧が所定値A以下であれば、ステップS2へ進み、蒸着原料41、42の予備加熱を行うガス出し工程1(予備ガス出し工程または予備加熱工程ともいう)を開始する。ガス出し工程1では、制御装置12が電子銃30、31を起動して蒸着原料41、42の予備加熱を所定時間xまで実施する。このガス出し工程1では電子銃30、31のスキャンする範囲を広く設定して、蒸着原料41、42全体を暖めるように加熱する。また、電子銃30、31の出力は、予め設定された値であり、制御装置12は、蒸着原料毎に予め設定された所定時間xまで蒸着原料41、42の予備加熱を行う。予備加熱を行う時間は、蒸着原料41、42の種類毎に予め設定されたものであり、例えば、40秒〜60秒に設定される。制御装置12は、時間をカウントして所定時間xが経過すると予備加熱を終了し、電子銃の照射条件設定(スキャン範囲、パワーなど)を後術するステップS4のガス出し工程2(本ガス出し工程)と同じ条件に変更してステップS3へ進む。
【0064】
ステップS3では、制御装置12が真空計7から気圧を取得して、気圧が上昇しているか否かを確認する気圧上昇確認工程を行なう。すなわち、電子銃30、31による予備加熱によって蒸着原料41、42の溶融が開始し、本ガス出し工程と同じ加熱条件での加熱による蒸着原料41、42の気化によって気圧が上昇したかを判定する。なお、気圧確認工程における加熱を単にガス出し確認加熱と言う。ガス出し確認加熱によって蒸着原料41、42から不要ガスが発生していない場合には、ハース部400の所定の位置に蒸着原料41、42がセットされていないことや、電子銃30、31が正しく照射されていないことが推測されるので、予備加熱終了後(ガス出し確認加熱開始後)所定時間内(例えば1分間)に気圧が所定値B以上にならなければ、制御装置12のエラーの発生を表示して、処理を中断することができる。
【0065】
一方、予備加熱終了後(ガス出し確認加熱開始後)所定時間内に気圧が所定値Bを超えて、蒸着原料41、42からの不要ガスの発生が確認された場合には、その確認された時点でステップS4の処理へ進む。
【0066】
ステップS4では、蒸着原料41、42を加熱し、不要な成分を気化させて真空装置8から第1蒸着装置200外部へ排出するガス出し工程2(本ガス出し工程)を所定時間yまで実行する。すなわち、ステップS3で蒸着原料41、42の気化を確認(気圧上昇を確認)した時点から所定時間yをカウントする。このガス出し工程2では、蒸着原料41、42の不要な成分の気化を促進させるため、電子銃30、31が蒸着原料41、42を加熱する条件設定を予備加熱の時の加熱条件設定から変更して加熱する(以下このステップ4における加熱を本ガス出し加熱と記し、気圧上昇確認工程から本ガス出し工程までの加熱を本加熱と言う)。すなわち、制御装置12は、電子銃30、31のスキャンの範囲を狭く設定して、蒸着原料41、42を集中的に加熱することで不要な成分を確実に気化させる。この加熱条件変更は、電子銃30、31のパワーアップによって行なっても良く、好ましくは、電子銃30,31のスキャン範囲を狭くすることとパワーアップすることの併用である。このガス出し工程2は、蒸着原料41、42の種類に応じた所定時間yまで実行する。この所定時間yは、制御装置12に予め設定されたもので、蒸着原料41、42の種類に応じた値であり、例えば、40秒〜60秒などの値である。なお、この本ガス出し加熱の加熱条件は、前記したとおり、既にステップS2の終了時点で同じ加熱条件に変更され、ステップS3のガス出し確認加熱の条件と同じであり、ステップS3から継続して行なわれる。制御装置12は、時間をカウントして所定時間yが経過するとステップS5へ進む。
【0067】
ステップS5では、所定時間yが経過して蒸着原料41、42の不要な成分をガス出し処理によって除去したので、制御装置12は電子銃30、31の出力を低下(または停止)させて蒸着原料41、42の加熱を終了する。
【0068】
次に、ステップS6では、制御装置12が真空計7から気圧を取得し、電子銃30、31による加熱の終了により、気圧が所定値C以下に低下したことを確認する。すなわち、蒸着原料41、42からの不要ガスの発生が停止し、真空装置8の継続的な運転によって、気圧が所定値C以下に向上するまで待機する。気圧が所定値C以下になると、ガス出し処理621を終了する。
【0069】
次に、ガス出し処理621と並列的に実行されるイオン銃前処理622について説明する。
【0070】
制御装置12は、ガス出し処理621のステップS1と同期して、真空計7から気圧を取得し、第1蒸着装置200内の気圧が所定値A以下であるか否かを判定し、所定値Aを超える場合には気圧が所定値A以下となるまで待機する(S11)。このステップS11は、ガス出し処理621のステップS1と同期して実行され、ステップS1と同様に、気圧が所定値A以下であることを確認する。ここで、気圧の所定値Aは、蒸着原料41、42の気化が可能で、イオン銃14の起動が可能な値であり、予め設定した値である。気圧が所定値Aを超える場合には、上記ステップS1と同様に、気圧が所定値A以下となるまで待機する。なお、このステップS11は、直接気圧を確認する代わり、ステップS1の気圧確認工程が完了していることを確認することで同期させても良い。
【0071】
第1蒸着装置200内の気圧が所定値A以下であれば、ステップS12へ進み、イオン銃14の起動を行う準備として、イオン銃14にイオン化ガス(例えば、不活性ガス、酸素)の供給を開始する。
【0072】
ステップS12では、制御装置12がガス供給装置15からイオン銃14へのイオン化ガスの供給を開始させる。この時点でイオン銃14は起動させない。制御装置12は、ガス供給装置15に予め設定した流量を指令し、イオン銃14へイオン化ガスの供給を開始させる。制御装置12は、流量計150でイオン化ガスの流量が所定値で安定したことを確認すると、その流量でのイオン化ガスの供給を継続し、ステップS3の気圧上昇確認工程と同期してステップ13に進む。イオン化ガスの供給によって、イオン銃14を通ってイオン化ガスが第1蒸着装置200内に流出するため、気圧は上昇するが、ハース部400の蒸着原料41、42は予備加熱の段階であるため、気圧の上昇の原因は、イオン銃14へのイオン化ガスの供給であることが特定できる。
【0073】
次に、ステップS13では、ガス出し処理621のステップS2で設定した所定時間xが経過するまで待機してから、制御装置12は第1蒸着装置200内の気圧が上昇しているか否かを確認する。このステップS13の処理はガス出し処理621のステップS3と同期して行われる。あるいは、イオン銃前処理622が、ガス出し処理621のステップS3から割り込みを受けてステップS13を実行するようにしてもよい。所定時間xの初期段階では、イオン銃14へのイオン化ガスの供給によって第1蒸着装置200内の気圧が上昇し、所定時間xの終盤では蒸着原料41、42の予備加熱による気化の開始によって気圧が少し上昇し、ステップ3のガス出し確認加熱によって気圧はさらに上昇する。予備加熱終了後(ガス出し確認加熱開始後)所定時間内に気圧が所定値B以上にならなければ、ステップS3に示した蒸着原料41、42のセットミスか、電子銃30,31が正しく照射されていないこと等が推定されるため、制御装置12は表示装置にエラーを出力し、処理を中断する。なお、このステップS13は、直接気圧を確認する代わり、ステップS3の気圧上昇確認工程が完了していることを確認することで同期させても良い。
【0074】
ステップS13で、気圧が所定値Bを超えて悪化していれば、ステップS14へ進む。ステップS14では、イオン銃14へ電力を供給して起動するとともに起動確認を行なう。
このステップS14の工程(イオンビーム銃起動・確認工程)は、イオン銃をパワーオンするイオン銃起動工程と、所定の電流及び電圧にするとともに電流及び電圧が所定値になったことを確認するイオン銃加速工程とからなる。イオン銃加速工程で電流及び電圧が所定値になったことを確認すると起動が完了したものとしてステップ15に進む。

次に、ステップS15では、イオン銃14の起動が完了した時点から所定時間Q3の期間でイオン銃14からイオンビームをレンズ20に照射してレンズの前処理を実施する前処理工程を行なう。このイオン銃14による前処理の期間Q3では、イオン銃14の動作状態を監視し、動作状態(電圧や電流値)に異常があれば、表示装置にエラーを表示してイオン銃前処理622を再起動する。ステップS15中に再起動が生じた場合は、再起動前の照射時間と再起動完了後の照射時間の合計の時間を所定時間Q3とする。なお、イオン銃起動工程から前処理工程終了までの工程をイオンビーム照射工程という。
【0075】
所定時間Q3が経過すると、ステップS16へ進み、制御装置12はイオン銃前処理622の終了処理を行う。この終了処理では、イオン銃14をパワーオフ(供給電圧〇V)し、シャッタ141を閉じ、ガス供給装置15からのイオン化ガスの供給停止を行う。ただし、成膜処理623において、イオン銃14による成膜のアシストを行う場合には、ガス供給装置15からのイオン化ガスの供給を継続し、イオン銃14への電力をアシスト条件値へ変更する。
【0076】
以上のように、ガス出し処理621とイオン銃前処理622が並列的に実行され、これらの2つの処理が完了した時点で蒸着前処理が完了し、図5に示した成膜処理623を開始することができる。
【0077】
次に、ガス出し処理621とイオン銃前処理622からなる蒸着前処理のタイミングについて、図7を参照しながら詳述する。
【0078】
時刻T0で蒸着前処理を開始すると、ガス出し処理621では気圧の確認処理(例えば数秒間)が行われた後に、ステップS2の予備加熱(ガス出し工程1、図中予備ガス出し工程)が開始される。イオン銃前処理622でも同様に、気圧の確認処理(同期処理。例えば数秒間)が行われた後に、ステップS12のイオン銃14へのイオン化ガスの供給が開始される。
【0079】
ガス出し処理621のガス出し工程1は、気圧のチェック完了(時刻T1)から所定時間xが経過する時刻T4まで行われる。一方、イオン銃前処理622では、気圧のチェック完了(時刻T1)から時刻T3までの時間pでイオン化ガスのガス供給開始・確認工程が行われる。制御装置12がガス供給装置15へ所定の流量でイオン化ガスの供給を指令してからイオン銃14へ実際に供給される不活性ガスの流量が安定するまでには時間を要し、上記ステップS12で所定の流量を確認(第1次確認処理)するまでの時間をP1(完了時刻T2)とし、第1次確認処理後、流量が指定した値で安定したかどうかを確認(第2次確認処理)するまでの時間をP2(完了時刻T3)とする。この時刻T3でイオン銃前処理622のステップS12が完了し、その流量でのイオン銃14へのイオン化ガスの供給が前記前処理工程が終了するまで継続される。なお、前記第2次確認処理の工程終了後からイオン銃起動・確認工程開始までの間(時刻T3からT5)をガス供給待機工程と言い、前記ガス供給開始確認工程の開始から前記ガス供給待機工程の終了までの間(時刻T1からT5)をガス導入工程という。ステップS12のイオン化ガスの供給開始確認工程は、時間P1とP2を加算した時間pを要する。したがって、気圧確認工程から第2次確認処理工程までの時間は、時間pに気圧チェックを行う時間(数秒)を加えた時間Pの期間で実行される。また、ガス出し処理621の前半(気圧上昇確認工程開始前)は、ガス出し工程1(予備ガス出し工程)の所定時間xに気圧のチェックを行う時間(数秒)を加えた時間Xの期間で実行される。ガス供給開始・確認工程における第1次確認処理に要する時間P1は、例えば8秒であり、第2次確認処理に要する時間P2は、例えば5秒であり、ステップS12で要する時間Pは、例えば、13秒となり、ガス出し工程1の所定時間xの40〜60秒よりも短い時間の場合を示す。
【0080】
ガス出し工程1が完了する時刻T4では、蒸着前処理の後半の処理が開始される。ガス出し処理621のガス出し工程2(本ガス出し工程)は、気圧上昇確認工程において気圧上昇のチェック完了(時刻T5)から所定時間yが経過する時刻T8まで行われる。
【0081】
一方、イオン銃前処理622では、時刻T5の気圧上昇確認工程における気圧上昇のチェック完了から時刻T6までの時間Q1でイオン銃14の起動工程が行われる。そして、イオン銃14の起動工程が完了すると、時刻T6〜T7の時間Q2でイオン銃14の加速工程が実施されて、ステップS14の工程が完了する(時刻T7)。加速工程が完了すると時刻T7から所定時間Q3が経過する時刻T8までの期間で、イオンビームをレンズ20へ照射する前処理工程を実行する。ここで、イオン銃前処理622の後半の処理の各時間は、気圧上昇確認工程の時間は、例えば2〜3秒、イオン銃14の起動工程の時間Q1は、例えば8秒、イオン銃14の加速工程の時間Q2は、例えば、8秒で、前処理の時間Q3は、例えば45秒とする。したがって、イオン銃前処理622の後半の全体に要する時間Qは、気圧チェックの時間+Q1+Q2+Q3の63〜64秒となる。
【0082】
一方、ガス出し処理621の後半の全体の処理に要する時間Yは、気圧のチェックに要する数秒と、ガス出し工程2の所定時間yの和であり、気圧チェックの時間が2〜3秒、所定時間yが60秒であれば、全体の処理時間Yは62〜63秒となり、イオン銃前処理622の後半の処理時間Qとほぼ等しくなる。
【0083】
以上のようなタイミングで、ガス出し処理621とイオン銃前処理622を並列的に実行すると、第1蒸着装置200内の気圧の変化は、図8で示すようになる。図8は、蒸着前処理の期間の気圧と、イオン銃14への供給電圧と、電子銃30、31への供給電流と、時刻の関係を示す。
【0084】
時刻T0で気圧のチェックを開始し時刻T1で気圧のチェックが完了すると、イオン銃前処理622のイオン化ガスの供給が開始され、イオン銃14から流出するイオン化ガスによって気圧は上昇する。このとき、ガス出し処理621も並行して行われるが、電子銃30、31のスキャン範囲が広く、予備加熱の初期段階であるので蒸着原料41、42から不要ガスはほとんど発生していない。
【0085】
したがって、時刻T0〜T4の蒸着前処理の前半(気圧上昇確認工程開始前)では、蒸着原料41、42の予備加熱とイオン銃14へのイオン化ガスの供給を組み合わせることで、気圧の上昇の原因がイオン銃14への不活性ガスの供給であることを特定でき、それぞれ気圧を監視するガス出し処理621とイオン銃前処理622を並列して処理を実行することができる。
【0086】
蒸着前処理の後半(気圧上昇確認工程開始後)となる時刻T4からは、気圧上昇のチェックが完了した後に、ガス出し処理621では蒸着原料41、42から不要ガスを発生させるガス出し工程2(本ガス出し工程)と、イオン銃前処理622では、イオン銃14の起動処理と前処理が並列的に実行される。
【0087】
ガス出し処理621では、ガス出し工程1終了時(時刻T4)に電子銃30、31のスキャン範囲を狭めているので、時刻T4からT5の気圧チェック工程中および時刻T5からT8のガス出し工程2中に蒸着原料41、42が集中的に加熱され不要ガスを発生する。蒸着原料41、42は、ガス出し工程1の予備加熱によって溶融しているので、気圧チェック工程の開始直後から不要ガスを発生させることができる。
【0088】
一方、イオン銃前処理622では、気圧上昇のチェックを行った後に、時刻T5からイオン銃をパワーオンするイオン銃起動開始工程を実行し、次に時刻T6からイオン銃を所定の電流及び電圧にするイオン銃加速工程を実行する。イオン銃の電流電圧が所定値になったことを確認したらイオン銃起動・確認工程を終了し、時刻T7からはその所定値を維持して、イオン銃14に供給されているイオン化ガスからイオンビームを発生させてレンズ20に照射する前処理を処理時間Q3が経過するまで行う。このイオン銃14の起動開始からイオン銃前処理終了までの間のイオン銃の電圧変動は図中一点鎖線で示されている。
【0089】
ステップS12のイオン化ガス供給開始・確認工程の終了(時刻T3)からステップS15のイオン銃前処理工程終了(時刻T8)までの間は、イオン銃14へのイオン化ガスの流量は一定である。したがって、蒸着前処理の後半では、気圧が変動する要因は、ガス出し処理621の気圧上昇確認工程及びガス出し工程2による不要ガスの発生であることが特定できる。また、不要ガスの発生開始時期及びその程度も把握できる。
【0090】
このように、時刻T4〜T8の蒸着前処理の後半では、蒸着原料41、42の不要ガスの発生とイオン銃14の起動及び前処理を組み合わせることで、気圧の上昇の原因が蒸着原料41、42から発生する不要ガスであることを特定でき、また、不要ガスの発生時期や程度も把握できるので、気圧を監視する必要があるガス出し処理621とイオン銃前処理622を並列して処理を実行することができる。また、イオンビーム照射工程の完了時期を本ガス出し工程の完了時期と同じかあるいは後に設定することによりガス出し処理中の不要ガスによるレンズの汚れをイオンビームによって防止することができ、膜の耐久性を確保することができる。
【0091】
以上のように、気圧を監視する必要がある複数の処理を並列的に実行するにあたって、イオン銃14へのイオン化ガスの供給開始と蒸着原料41、42の予備加熱を並列的に実行し、イオン化ガス供給が安定し、気圧の変動がおさまった後に、蒸着原料41、42からの不要ガスを発生させて気圧の上昇を確認し、その後、ガス出し工程2とイオン銃14の起動及び前処理を並列的に実行することで、処理の実行中に気圧が変動した要因を的確に把握することが可能となる。つまり、イオン銃14へのイオン化ガスの供給開始からガス出し工程2を開始するまで時間を空け、この間にイオン化ガスの流量を一定にするとともに、このイオン化ガス供給と並列的に蒸着原料41、42の予備加熱を行うことで、イオン化ガス供給による気圧の変動を特定可能とし、また、蒸着原料41,42から不要ガスが発生することによる気圧の変動を特定可能としている。特に、2つの蒸着前処理を同時に実行している場合であっても蒸着原料41,42からの不要ガス発生の時期や程度を把握できるため、蒸着原料の加熱が正常に行なわれているかどうかを確認でき、不要ガス発生の時期や程度の情報を用いての制御も可能になる。
【0092】
そして、これら2つの蒸着前処理を同時に実行することで、成膜処理623を開始するまでの時間を大幅に短縮することが可能となって、レンズ20に膜を形成する蒸着装置の生産性を大幅に向上させることができる。
【0093】
<並列処理のスケジューリング>
次に、ガス出し処理621の前半の気圧確認工程とガス出し工程1を合わせた処理時間X、後半の気圧上昇確認工程とガス出し工程2を合わせた処理時間Y、
イオン銃前処理622の前半の気圧確認工程とガス供給・確認工程を合わせた処理時間P、後半の気圧上昇確認工程とイオン銃起動・確認工程と前処理工程を合わせた処理時間Qは、レンズ20に形成する膜の種類などに応じて変化する。つまり、ガス出し処理621の処理時間X、Y、イオン銃前処理622の処理時間P、Qの時間の長さによって、ガス出し処理621とイオン銃前処理622を並列で処理する際に、各工程のタイミングを調整しなければ前記課題で述べたように製造上の問題が生じる。そこで、本発明では、ガス出し処理621の前半工程及び後半工程、並びに、イオン銃前処理622の前半工程と後半工程の実行タイミングを最適化する。
【0094】
このため、上記図7に示したタイミングの他の例を図9(A)〜(D)にて検討する。
【0095】
なお、以下では、上述の処理時間X、Y、P、Qを、予備ガス出し処理時間X、本ガス出し処理時間Y、イオン銃ガス導入処理時間P、イオン銃起動前処理時間Qとし、処理時間X中の処理をガス出し前半処理、処理時間Y中の処理をガス出し後半処理、処理時間P中の処理をイオン銃前半処理、処理時間Q中の処理をイオン銃後半処理とする。
【0096】
図9(A)は、イオン銃起動前処理時間Qが本ガス出し処理時間Y以上の場合である。この場合は、
時刻T4からガス出し後半処理とイオン銃後半処理を同時に開始する。すなわち、時刻T4から気圧上昇確認工程を開始し、気圧上昇確認工程完了時点(時刻T5)に、ガス出し工程2とイオン銃起動開始工程を同時に開始する。イオン銃起動前処理時間Q≧本ガス出し処理時間Yであるので、本ガス出し処理が完了した時点まで、または、本ガス出し処理が完了した後も、イオン銃後半処理(前処理工程)によるイオンビームの照射が行われるので、気化した蒸着原料41、42の不純物によってレンズ20が汚れるのをイオンビームによって防止して、レンズ20に形成される膜を安定させることができる。すなわち、イオンビームを照射する前処理工程を、少なくとも本ガス出し工程が完了する時点まで行うことで、レンズ20が不要ガスによって汚れるのを防ぎ、レンズ20に形成される膜を安定させて、眼鏡用のレンズ20の反射防止膜などの薄膜の耐久性を向上させることができる。
【0097】
なお、イオン銃起動前処理時間Q=本ガス出し処理時間Yの場合は、上記図7と同様のタイミングとなる。
【0098】
図9(B)は、イオン銃起動前処理時間Qが本ガス出し処理時間Y未満で、かつ、本ガス出し処理時間Yがイオン銃ガス導入処理時間Pとイオン銃起動前処理時間Qの和以下の場合である。
【0099】
この場合も、上記図9(A)と同様に、本ガス出し工程が完了する時点まで、イオン銃による前処理工程を行ってレンズ20が不要ガスで汚れるのを防ぎ、形成される膜を安定させる。このため、時刻T4から気圧上昇確認工程を開始し、気圧上昇確認工程完了時点(時刻T5)に、本ガス出し工程を開始し、時刻T4から、処理時間Yから処理時間Qを差し引いた差分Wが経過した時点からイオン銃後半処理を開始すればよい。なお、この場合のステップS13の気圧上昇確認工程は、ステップS3の処理が完了していることを確認して気圧上昇を確認しても良いし、ステップS4のガス出し工程が実行中であること確認してもよい。なお、上記図9(A)と同様に、本ガス出し工程が完了する時点で、イオンビームを照射する前処理工程が継続していても良いため、イオン銃起動前処理を開始する差分Wは、処理時間Yと処理時間Qの差分よりも大きければよく、その場合はガス出し後半処理が完了した後、イオン銃後半処理が完了することになる。
【0100】
図9(C)は、イオン銃ガス導入処理時間Pとイオン銃起動前処理時間Qの和が本ガス出し処理時間Y未満の場合である。この場合の制御の一例を図10のフローチャートに示す。
【0101】
この場合は、ガス出し後半処理の期間内にイオン銃前半処理とイオン銃後半処理を実施することができる。イオン銃後半処理を開始する時刻は、処理時間Yと処理時間Qの差分W以上の値を時刻T4に加えた値とする。これにより、本ガス出し工程が完了する時点で、イオン銃による前処理工程完了または継続するので、レンズ20が不要ガスで汚れるのを防止して、レンズ20に形成される膜を安定させることが可能となる。この場合のフローチャートを図10に示す。この場合は、ステップS21の気圧確認はステップS1の処理が完了していることを確認して気圧確認をしており、ステップS23の気圧上昇確認は、ステップS3の処理が完了していることを確認して気圧上昇を確認しても良いし、ステップS4のガス出し工程が実行中であること確認してもよい。なお、イオン銃前半処理を時刻T0から初めても良い。
【0102】
図9(D)は、イオン銃ガス導入処理時間Pとイオン銃起動前処理時間Qの和が本ガス出し処理時間Y未満で、かつ、イオン銃ガス導入処理時間Pが予備ガス出し処理時間Xよりも大きい場合である。
【0103】
予備ガス出し工程と本ガス出し工程は気圧上昇確認工程を挟んで連続して行う必要がある。すなわち、予備ガス出し工程で蒸着原料41、42を全体的に暖めてから、本ガス出し処理で電子銃30、31のスキャン範囲を狭めることでエネルギ密度を上げて加熱し、不要ガスを発生させるため、蒸着原料41、42の冷却を防ぐ必要がある。このため、予備ガス出し工程の開始をガス供給開始確認工程よりも遅らせて、予備ガス出し工程と本ガス出し工程が気圧上昇確認工程を挟んで連続するように設定する。このため、ガス供給開始確認工程の開始時刻T0から予備ガス出し工程の開始を遅延させる時間W1は、イオン銃ガス導入処理時間Pから予備ガス出し処理時間Xを差し引いた値以上とする。これにより、予備ガス出し工程の完了は、ガス供給開始確認工程の完了以降となり、予備ガス出し処理と本ガス出し処理を連続して実施できる。
【0104】
一方、イオン銃による前処理工程は、上述のように少なくとも本ガス出し工程の完了時点まで実施する。このため、ガス出し後半処理の開始時刻T4からイオン銃後半処理を遅延させる時間W2は、本ガス出し処理時間Yからイオン銃起動前処理時間Qを差し引いた値以上とする。これにより、イオン銃による前処理工程の完了は、本ガス出し工程の完了以降となり、レンズ20が不要ガスで汚れるのを防止しして、レンズ20に形成する膜を安定させることが可能となる。
【0105】
以上のように、異なる2つの処理(ガス出し処理621とイオン銃前処理622)を並列的に実行し、生産性を向上させながらも製品の品質も確保するには、制御装置12はイオン銃起動前処理の完了時刻をガス出し処理の完了時刻と同時またはそれ以降に設定すると本ガス出し処理中の不要ガスによるレンズ20の汚れをイオンビームの照射によって防止することができる。さらに、予備加熱と本加熱が連続するように設定しているので、これにより、生産性を向上させながらも眼鏡用のレンズ20に形成する膜の耐久性を確保することが可能となる。
【0106】
さらに、図7、図8で示したように、前記ガス導入工程において、イオン化ガスの供給開始後に所定の流量で安定したことを確認した後に、蒸着原料を本加熱するようにスケジュールすることで、気圧の上昇の要因が予備ガス出し処理とイオン銃ガス導入処理の何れにあるかを容易に特定することが可能となる。
【0107】
なお、上記実施形態では、連続型真空蒸着装置1に本発明を適用した一例を示したが、一つの蒸着室を備える蒸着装置に適用することができる。
【0108】
また、上記実施形態では、レンズ20の蒸着前処理として、イオン銃14によりイオンビームを供給する例を示したが、プラズマ銃を用いるようにしても良い。
【産業上の利用可能性】
【0109】
以上のように、本発明によれば、基本的な成膜条件手法を変えることなくレンズの蒸着工程にサイクルタイムの短縮を実現できるので、生産性に優れた眼鏡用レンズの製造システムに、しかも直ちに適用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0110】
【図1】本発明の一実施形態を示し、連続型真空蒸着装置の概略図。
【図2】第1蒸着室の概略図。
【図3】ハース部の概略図。
【図4】制御装置のソフトウェア構成を示すブロック図。
【図5】連続蒸着処理における制御の流れを示すフローチャート。
【図6】制御装置で行われる第1蒸着室処理に含まれる蒸着前処理の一例を示すフローチャートで、ガス出し処理とイオン銃前処理の関係を示す。
【図7】ガス出し処理とイオン銃前処理の処理のタイミングを示すタイムチャート。
【図8】蒸着前処理の期間の気圧と、イオン銃への供給電圧と、電子銃への供給電流と、時刻の関係を示すグラフ。
【図9】ガス出し処理とイオン銃前処理の処理のタイミングを示すタイムチャートで、(A)は本ガス出し処理時間Y≦イオン銃起動前処理時間Qの場合を示し、(B)はイオン銃起動前処理時間Q<本ガス出し処理時間Y≦(イオン銃ガス導入処理時間P+イオン銃起動前処理時間Q)の場合を示し、(C)は(イオン銃ガス導入処理時間P+イオン銃起動前処理時間Q)<本ガス出し処理時間Yの場合を示し、(D)は(イオン銃ガス導入処理時間P+イオン銃起動前処理時間Q)<本ガス出し処理時間Yで、かつ、イオン銃ガス導入処理時間P>予備ガス出し処理時間Xの場合を示す。
【図10】図9(C)の例の場合の制御装置で行われる第1蒸着室処理に含まれる蒸着前処理の一例を示すフローチャートである。
【符号の説明】
【0111】
1 連続型真空蒸着装置
8 真空装置
12 制御装置
14 イオン銃
15 ガス供給装置
20 レンズ
30、31 電子銃
41、42 蒸着原料

【特許請求の範囲】
【請求項1】
蒸着室内に保持されたレンズの表面に蒸着原料を気化させて蒸着させることにより膜を生成するレンズ成膜方法であって、
前記蒸着室には、蒸着原料を加熱する加熱部と、
イオンビームを発生させてレンズに照射するイオン源部が設けられており、
前記蒸着を開始する前に、
前記蒸着原料を前記加熱部によって加熱して不要な成分を気化させて排出するガス出し工程と、
前記イオン源部にイオン化ガスを供給し、この供給されたイオン化ガスからイオンビームを発生させて前記レンズ表面に照射するイオンビーム前処理工程と、を行ない、
前記ガス出し工程と前記イオンビーム前処理工程を並列的に実行し、かつ、
前記イオンビーム前処理工程の完了する時点を、前記ガス出し工程の完了する時点以降に設定することを特徴とするレンズ成膜方法。
【請求項2】
前記ガス出し工程は、
前記蒸着原料を加熱して溶融させる予備加熱工程と、
この予備加熱工程により溶融した蒸着原料を予備加熱と異なる加熱条件で加熱して気化させる本加熱工程とからなり、
前記イオンビーム前処理工程は、
前記イオン源部へイオン化ガスの供給を開始し、所定の流量で供給を継続するガス導入工程と、
所定の流量で供給されるイオン化ガスからイオンビームを発生させてレンズ表面に照射するイオンビーム照射工程とからなり、
前記本加熱工程と前記イオンビーム照射工程は同時に行なわれる期間を有し、かつ、
前記イオンビーム照射工程の完了する時点を、前記本加熱工程の完了する時点以降に設定することを特徴とする請求項1に記載のレンズ成膜方法。
【請求項3】
前記本加熱工程は、
前記予備加熱と異なる加熱条件での加熱を開始するとともに蒸着室内の気圧上昇を確認する気圧上昇確認工程を有し、
この気圧上昇確認工程により気圧上昇を確認した時点を基に、本加熱処理の完了時点が定められることを特徴とする請求項2に記載のレンズ成膜方法。
【請求項4】
前記ガス導入工程は、
イオン化ガスの供給開始後に所定の流量で安定したことを確認する流量確認工程を有し、
この流量確認工程完了後に前記気圧上昇確認工程を開始し、
前記気圧上昇確認工程完了後に前記イオンビーム照射工程を開始することを特徴とする
請求項3に記載のレンズ成膜方法。
【請求項5】
前記ガス導入工程は、
前記気圧上昇確認工程完了後に開始することを特徴とする請求項3に記載のレンズ成膜方法。
【請求項6】
前記イオンビーム照射工程の処理時間が前記本ガス出し工程の処理時間以上の場合には、
前記流量確認工程完了後に、前記イオンビーム照射工程と前記本ガス出し工程を同時に開始することを特徴とする請求項4に記載のレンズ成膜方法。
【請求項7】
前記本ガス出し工程の処理時間が前記イオンビーム照射工程の処理時間よりも大で、かつ、前記ガス導入工程開始から前記流量確認工程完了までの処理時間と前記イオンビーム照射工程の処理時間の和が前記本ガス出し処理の処理時間以上の場合には、前記本ガス出し工程を開始した後に前記イオンビーム照射工程を開始することとを特徴とする請求項4に記載のレンズ成膜方法。
【請求項8】
前記ガス導入工程開始から前記流量確認工程完了までの処理時間が前記予備加熱工程の処理時間よりも大の場合には、前記ガス導入工程を開始した後に前記予備加熱工程を開始することを特徴とする請求項4に記載のレンズ成膜方法。
【請求項9】
前記ガス導入工程開始から前記流量確認工程完了までの処理時間と前記イオンビーム照射工程の処理時間の和が前記本ガス出し処理の処理時間未満の場合には、
前記気圧上昇確認工程完了後に前記ガス導入工程を開始することを特徴とする請求項5に記載のレンズ成膜方法。
【請求項10】
蒸着室内に保持されたレンズの表面に蒸着原料を気化させて蒸着させることにより膜を生成する蒸着装置であって、
前記蒸着原料を加熱する加熱部と、
イオンビームを発生させてレンズに照射するイオン源部と、
前記イオン源部にイオン化ガスを供給するイオン化ガス供給部と
前記蒸着室内の気圧を測定する真空計部と、
前記真空計部から測定された気圧に関する情報を取得するとともに
前記加熱部、イオン源部、及び、イオン化ガス供給部の動作を制御する制御部と、を備え、
前記制御部は、
前記蒸着前に、前記加熱部を制御して前記蒸着原料を加熱して不要な成分を気化させて排出させるガス出し処理と、
前記イオン化ガス供給部を制御して前記イオン源部にイオン化ガスを供給するとともに、前記イオン源部を制御してイオン化ガスからイオンビームを発生させて前記レンズ表面に照射するイオンビーム前処理と、を行ない、
前記制御部は、前記ガス出し処理と前記イオンビーム前処理を並列的に実行し、かつ、
前記イオンビーム前処理の完了する時点を、前記ガス出し工程の完了する時点以降に設定することを特徴とする蒸着装置。
【請求項11】
前記ガス出し処理は、
前記蒸着原料を加熱して溶融させる予備加熱処理と、
この予備加熱処理により溶融した蒸着原料を予備加熱と異なる加熱条件で加熱して気化させる本加熱処理とからなり、
前記イオンビーム前処理は、
前記イオン化ガス供給部を制御して前記イオン源部へのイオン化ガスの供給を開始し、所定の流量で供給を継続するガス導入処理と、
前記イオン源部を制御して所定の流量で供給されるイオン化ガスからイオンビームを発生させてレンズ表面に照射するイオンビーム処理とからなり、
前記本加熱処理と前記イオンビーム照射処理は同時に行なわれる期間を有し、かつ、
前記イオンビーム照射処理の完了する時点を、前記本加熱処理の完了する時点以降に設定することを特徴とする請求項10に記載の蒸着装置。
【請求項12】
前記本加熱処理は、
前記加熱部を制御して前記予備加熱と異なる加熱条件での加熱を開始するとともに、真空計からの測定データを取得し、蒸着室内の気圧上昇を確認する気圧上昇確認処理を有し、
この気圧上昇確認処理により気圧上昇を確認した時点を基に、本加熱処理の完了時点を定めることを特徴とする請求項11に記載の蒸着装置。
【請求項13】
前記ガス導入処理は、
イオン化ガスの供給開始後に所定の流量で安定したことを確認する流量確認処理を有し、
この流量確認処理完了後に前記気圧上昇確認処理を開始し、
前記気圧上昇確認処理完了後に前記イオンビーム照射処理を開始することを特徴とする請求項12に記載の蒸着装置。
【請求項14】
前記ガス導入処理は、
前記気圧上昇確認処理完了後に開始することを特徴とする請求項12に記載の蒸着装置。
【請求項15】
請求項1から9のいずれかに記載のレンズ成膜方法を用いてレンズの表面に膜を形成する工程を有することを特徴とするレンズの製造方法。

【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図1】
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【公開番号】特開2009−242892(P2009−242892A)
【公開日】平成21年10月22日(2009.10.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−92429(P2008−92429)
【出願日】平成20年3月31日(2008.3.31)
【出願人】(000113263)HOYA株式会社 (3,820)
【Fターム(参考)】