説明

レーザクラッド加工方法及びレーザクラッド装置

【課題】空孔や割れの無いクラッド層を形成することのできるレーザクラッド加工方法を提供する。
【解決手段】バルブシート部2を有したシリンダーヘッド1を形成する鋳造工程と、バルブシート部2に凹形状の溝を形成する溝加工工程と、前記溝部にレーザhvを照射し母材を溶かして溶融層21を形成する溶融層形成工程と、溶融層21上に金属粉末を供給しながら母材及びレーザを相対的に移動させつつレーザを照射し肉盛りしてクラッド層20を形成するレーザクラッド加工工程と、を備える。そして、溶融層形成工程時におけるレーザの照射エネルギーを、レーザクラッド加工工程時におけるレーザの照射エネルギーより大とする。これより、空孔及び割れの無いクラッド層20を形成することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、レーザクラッド加工方法及びレーザクラッド装置に関し、空孔及び割れのないクラッド層の形成技術に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば、自動車エンジンでは、バルブシートとして従来のシートリングを打ち込む方式に変えてバルブシート合金をシリンダーヘッドへ直接肉盛りする方式が採用され初めている。
【0003】
このように、バルブシート合金をシリンダーヘッドに直接肉盛りすれば、シートリングの打ち込み方式に比べて熱伝導性を大幅に向上させることができ、冷却性能を高めることができる。
【0004】
かかる肉盛り方式は、粉末供給装置のノズルから金属粉末をバルブシートを形成する部位(バルブシート部)に供給しながらレーザ発振器よりレーザを照射し、バルブシート部とレーザを相対的に回転させることで、リング状の肉盛り層(バルブシート)を形成するものである。
【0005】
この肉盛り方式では、レーザクラッド加工を行う前工程として鋳造によって製造した金属母材に対し、バルブシートを形成する部位に切削工具にて凹形状の溝加工を行い、該溝部にレーザを照射して母材を溶かすことで溶融層を形成後、当該溶融層上に金属粉末を供給しながらレーザを照射してバルブシートを形成することが行われている(例えば、特許文献1など参照)。
【特許文献1】特開2002−239711号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、溶融層を形成する溶融層形成工程では、溶融(時間)不足により溶融層内に鋳造ガスが残留し、クラッド加工工程時に前記鋳造ガスがクラッド層内へ移動し、仕上げ加工後にクラッド層(バルブシート表面)に空孔が発生することがある。
【0007】
また、溶融層形成工程で溶融層の幅及び深さのバラツキにより、前記溝部内の鋳造ガスが未除去となる部位が生じ、その未除去部位をクラッドした際に、鋳造ガスがクラッド層内に残留する。
【0008】
また、溶融層の厚みが0.2mm未満の場合には、前記溝部内の鋳造ガスが未除去となる部位が生じる。
【0009】
さらには、溶融層形成工程で溶融不足により溶融仕切れなかった溝(以下、未溶融溝)が生じ、クラッド加工時に未溶融溝のエッジ部が肉盛材と溶け込み易くなり、希釈による割れが発生することがある。
【0010】
そこで、本発明は、空孔や割れの無いクラッド層を形成することのできるレーザクラッド加工方法及びレーザクラッド装置を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明のレーザクラッド加工方法は、肉盛りを行う部位である被加工部を有した母材を形成する鋳造工程と、前記被加工部に凹形状の溝を形成する溝加工工程と、前記溝部にレーザを照射し母材を溶かして溶融層を形成する溶融層形成工程と、前記溶融層上に金属粉末を供給しながら母材及びレーザを相対的に移動させつつレーザを照射し肉盛りしてクラッド層を形成するレーザクラッド加工工程と、を備える。そして本発明方法では、前記溶融層形成工程時におけるレーザの照射エネルギーを、前記レーザクラッド加工工程時におけるレーザの照射エネルギーより大とする。
【0012】
本発明のレーザクラッド装置は、被加工部にレーザを照射するレーザ照射装置と、被加工部に金属粉末を供給する粉末供給装置とを有し、鋳造された母材の被加工部に形成された凹形状の溝部にレーザを照射し母材を溶かして溶融層を形成した後、前記溶融層上に金属粉末を供給しながら母材及びレーザを相対的に移動させつつレーザを照射し肉盛りしてクラッド層を形成する装置である。そして本発明装置では、溶融層形成時におけるレーザの照射エネルギーを、クラッド層形成時のレーザの照射エネルギーより大とする制御手段を備える。
【発明の効果】
【0013】
本発明のレーザクラッド加工方法によれば、溶融層内に鋳造ガスが残留することがなく、クラッド層表面の空孔及び割れを無くすことができる。
【0014】
本発明のレーザクラッド装置によれば、クラッド層表面の空孔及び割れの無いクラッド層を形成できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
以下、本発明を適用した具体的な実施の形態について図面を参照しながら詳細に説明する。
【0016】
「レーザクラッド装置の構成」
先ず、レーザクラッド装置の構成について説明する。図1はレーザクラッド装置を示す斜視図、図2は粉末供給装置のノズル先端から金属粉末を被加工部に供給している状態を示す図である。
【0017】
レーザクラッド装置は、図1に示すように、例えば自動車用エンジンなどのシリンダーヘッド1の被加工部であるバルブシート部2にレーザhvを照射するレーザ照射装置3と、バルブシート部2に金属粉末4を供給する粉末供給装置5とを備えている。
【0018】
レーザ照射装置3は、レーザ発振器6と、このレーザ発振器6により発振されるレーザの強さなどを制御する制御手段であるレーザ発振器制御部7と、NC制御装置8と、レーザを集光してバルブシート部2に照射させる集光ヘッド9とからなる。レーザ発振器6で発振されたレーザhvは、レーザ発振器制御部7で制御されて集光ヘッド9に供給され、この集光ヘッド9で絞られてバルブシート部2に照射される。
【0019】
粉末供給装置5は、バルブシート部2に金属粉末4を供給するノズル10(図1では図示を省略し図2に示す)と、金属粉末4を収容して置くホッパー11と、金属粉末4の量を計測する荷重計12と、ホッパー11からノズル10へと金属粉末4を送り込むフィーダ13と、これらを制御する粉末制御部14とからなる。ノズル10の先端からは、ホッパー11に収容された金属粉末4がフィーダ13により送られることで、前記バルブシート部2へと吹き付けられる。なお、金属粉末4としては、例えば銅合金などが使用される。
【0020】
このレーザクラッド装置では、前記レーザ発振器6とレーザ発振器制御部7とNC制御装置8と粉末供給制御部14とがそれぞれコンピュータ15によって制御されている。そして、このように構成されたレーザクラッド装置によりバルブシート部2に金属粉末4を供給しながらレーザを照射して肉盛りを行うことでクラッド層(バルブシート)16を形成するが、その際に、図2に示すように、シリンダーヘッド1を矢印Aで示すように回転させながらレーザクラッド加工を行う。
【0021】
「レーザクラッド加工方法」
次に、バルブシートを形成するレーザクラッド加工方法について説明する。図3から図9は、レーザクラッド加工工程を示す図である。
【0022】
先ず、図3(A)で示すシリンダーヘッド(母材)1を鋳造によって形成する(鋳造工程)。シリンダーヘッド1を形成するには、鋳造用金型を用意し、その鋳造用金型に溶融したアルミニウム合金を流し込む。鋳造されたシリンダーヘッド1には、図3(B)に示すように、後工程で肉盛りを行う部位であるバルブシート部(被加工部)2が形成される。
【0023】
次に、バルブシート部2に凹形状の溝を形成する(溝加工工程)。溝加工工程では、図3(C)に示すように、切削工具17を回転させながらバルブシート部2に押し当て、このバルブシート部2を切削してその表面に凹形状の溝を形成する。
【0024】
次に、図4(A)に示すように、前記溝加工工程で形成した溝部18にレーザhvを照射し母材を溶かして溶融層を形成する(溶融層形成工程)。
【0025】
次いで、図4(B)に示すように、前記溶融層上に金属粉末4を供給しながらシリンダーヘッド1及びレーザhvを相対的に回転させつつレーザhvを照射し肉盛りしてクラッド層を形成する(レーザクラッド加工工程)。
【0026】
そして最後に、図4(C)に示すように、仕上げ用切削工具19を回転させながらクラッド層20に押し当てて、当該クラッド層20の表面を研磨する(研磨加工工程)。
【0027】
前記溶融層形成工程において、溶融(時間)不足が生じると、図5に示すように、溶融層21内に鋳造ガス22が発生する。そして、次の工程であるレーザクラッド加工工程で肉盛りをした時に、図6に示すように、鋳造ガス22がクラッド層20内へ移動し、その後の研磨加工工程でクラッド層(バルブシート)20の表面に空孔が発生する。
【0028】
また、溶融層形成工程において、溶融層21の溶融幅及び溶融深さがばらつくと、或いは例えば溶融層21の厚みTが0.2mm未満であると、溝部18内の鋳造ガス22が未除去となる部位が生じ、レーザクラッド加工した時に鋳造ガス22がクラッド層20内に残る。なお、前記溶融層21の厚み0.2mm(しきい値)は、一定値ではなく材料の種類や鋳造条件などにより変化する。
【0029】
また、溶融層形成工程において溶融不足により、図7(A)に示すように溶融仕切れなかった溝(未溶融溝)23が生じ、レーザクラッド加工時に未溶融溝23のエッジ部24が、図7(B)に示すように、肉盛り材(クラッド層20)と溶け込み易くなり、希釈によるヒビ(割れ)25が発生する。
【0030】
このような不具合を回避するために、本実施の形態では、溶融層形成工程時におけるレーザhvの照射エネルギーを、レーザクラッド加工工程時におけるレーザhvの照射エネルギーより大とする。レーザhvの照射エネルギーを変えるには、前記したレーザ発振器制御部7でレーザhvの強さを制御するようにする。
【0031】
例えば、レーザクラッド加工工程時のレーザ出力を1.7kWとした場合、溶融層形成工程時のレーザ出力はそれよりも高い2.2kWとする。但し、レーザhvの波長は、共に0.8〜0.9μmとする。
【0032】
このように、溶融層形成工程時におけるレーザhvの照射エネルギーを、レーザクラッド加工工程時におけるレーザhvの照射エネルギーより大とすることで、溶融不足が解消されると共に溶融層の溶融幅及び溶融深さのバラツキが低減し、鋳造ガス22の溶融層21内における残留及びクラッド層20への移動、未溶融溝23の発生が無くなる。
【0033】
したがって、図8に示すように、冷却されてバルブシートとなるクラッド層20に空孔が存在しなくなり、また、希釈による割れが発生しないクラッド層(バルブシート)20を形成することができる。
【0034】
さらに、レーザ出力の向上により、高価な高出力レーザ発振器を使用することがなく、充分な溶融時間を得ることができる。
【0035】
この他、溶融層形成工程時におけるレーザhvの移動速度を、レーザクラッド加工工程時におけるレーザhvの移動速度より遅くするようにしても同様の効果を得ることができる。
【0036】
レーザクラッド加工時のレーザhvの移動速度を例えば1.2m/分とした場合、溶融層形成工程時のレーザhvの移動速度はそれよりも遅い0.6m/分とする。本実施の形態では、溶融層形成工程時のレーザhvの移動速度を、レーザクラッド加工時のレーザhvの移動速度の半分の速度とする。
【0037】
このように、溶融層形成工程時におけるレーザhvの移動速度を、レーザクラッド加工工程時におけるレーザhvの移動速度より遅くすることで、移動速度が遅くなる分、溶融不足が解消されると共に溶融層の溶融幅及び溶融深さのバラツキが低減され、鋳造ガス22の溶融層21内における残留及びクラッド層20への移動、未溶融溝23の発生が無くなる。したがって、クラッド層20に空孔が存在しなくなり、希釈による割れが発生しないクラッド層20を形成することが可能となる。
【0038】
またこの他、溶融層形成工程時におけるレーザhvの移動方向でのスポット長さを、レーザクラッド加工工程時におけるレーザhvの移動方向でのスポット長さより大とするようにしても同様の効果を得ることができる。
【0039】
図9に示すように、溶融層形成工程時におけるレーザhvの移動方向でのスポット長さL1を、レーザクラッド加工工程時におけるレーザhvのスポット長さL2よりも長くする。図9では、これら各工程時のレーザhvのスポット長さL1、L2を比較するために、レーザクラッド加工工程時のレーザhvを溶融層形成工程時のレーザhvに重ねて表示してある。
【0040】
このように、溶融層形成工程時におけるレーザhvの移動方向でのスポット長L1さを、レーザクラッド加工工程時におけるレーザhvの移動方向でのスポット長さL2より大とすることで、レーザhvの照射時間が多くなり、溶融不足が解消されると共に溶融層の溶融幅及び溶融深さのバラツキが低減され、鋳造ガス22の溶融層21内における残留及びクラッド層20への移動、未溶融溝23の発生が無くなる。
【0041】
またこの他、溶融層形成工程時に、溶融層21の厚みを0.2mm以上とするようにしても同様の効果を得ることができる。溶融層21の厚みを0.2mm以上とするには、レーザhvの出力を上げる、又は、レーザhvの移動速度(ワーク回転速度)を下げるようにする。
【0042】
溶融層21の厚みTが0.2mm未満であると鋳造ガスが未除去となるが、溶融層21の厚みTが0.2mm以上であれば、鋳造ガス22がクラッド層20に残留することがなく、研磨加工工程後にクラッド層20の表面に空孔や割れが生じない。したがって、信頼性の高いバルブシートを製造することができる。
【0043】
前記したその他の実施の形態は、それらのうちの何れかを最初の実施の形態に組み合わせてもよく、或いは、全ての実施の形態を組み合わせてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0044】
【図1】図1はレーザクラッド装置を示す斜視図である。
【図2】図2は粉末供給装置のノズル先端から金属粉末を被加工部に供給している状態を示す図である。
【図3】図3はレーザクラッド加工工程のうち鋳造工程と溝加工工程を示す工程図である。
【図4】図4はレーザクラッド加工工程のうち溶融層形成工程、レーザクラッド加工工程及び研磨加工工程を示す工程図である。
【図5】図5は溶融層形成工程時に鋳造ガスが溶融層に残留することを示す図である。
【図6】図6はレーザクラッド加工工程時にクラッド層内に鋳造ガスが移動することを示す図である。
【図7】図7は溶融層形成工程時に溶融不足により未溶融溝が生じ、レーザクラッド加工工程時にクラッド層に割れが生じたことを示す図である。
【図8】図8はクラッド層に空孔及び割れが生じていないことを示す図である。
【図9】図9は溶融層形成工程時におけるレーザの移動方向でのスポット長さを、レーザクラッド加工工程時におけるレーザの移動方向でのスポット長さより大としたことを示す図である。
【符号の説明】
【0045】
1…シリンダーヘッド
2…バルブシート部(被加工部)
3…レーザ照射装置
4…金属粉末
5…粉末供給装置
6…レーザ発振器
9…集光ヘッド
10…ノズル
16…噴出口
18…溝部
20…クラッド層
21…溶融層
22…鋳造ガス

【特許請求の範囲】
【請求項1】
肉盛りを行う部位である被加工部を有した母材を形成する鋳造工程と、
前記被加工部に凹形状の溝を形成する溝加工工程と、
前記溝部にレーザを照射し母材を溶かして溶融層を形成する溶融層形成工程と、
前記溶融層上に金属粉末を供給しながら母材及びレーザを相対的に移動させつつレーザを照射し肉盛りしてクラッド層を形成するレーザクラッド加工工程と、を備え、
前記溶融層形成工程時におけるレーザの照射エネルギーを、前記レーザクラッド加工工程時におけるレーザの照射エネルギーより大とする
ことを特徴とするレーザクラッド加工方法。
【請求項2】
請求項1に記載のレーザクラッド加工方法であって、
前記溶融層形成工程時におけるレーザの移動速度を、前記レーザクラッド加工工程時におけるレーザの移動速度より遅くする
ことを特徴とするレーザクラッド加工方法。
【請求項3】
請求項1または請求項2に記載のレーザクラッド加工方法であって、
前記溶融層形成工程時におけるレーザの移動方向でのスポット長さを、前記レーザクラッド加工工程時におけるレーザの移動方向でのスポット長さより大とする
ことを特徴とするレーザクラッド加工方法。
【請求項4】
請求項1から請求項3の何れか一つに記載のレーザクラッド加工方法であって、
前記溶融層形成工程時に、前記溶融層の厚みを0.2mm以上となるように加工する
ことを特徴とするレーザクラッド加工方法。
【請求項5】
請求項1から請求項4の何れか一つに記載のレーザクラッド加工方法であって、
前記母材がシリンダーヘッドであり、前記被加工部がバルブシート部である
ことを特徴とするレーザクラッド加工方法。
【請求項6】
被加工部にレーザを照射するレーザ照射装置と、被加工部に金属粉末を供給する粉末供給装置とを有し、鋳造された母材の被加工部に形成された凹形状の溝部にレーザを照射し母材を溶かして溶融層を形成した後、前記溶融層上に金属粉末を供給しながら母材及びレーザを相対的に移動させつつレーザを照射し肉盛りしてクラッド層を形成するレーザクラッド装置であって、
前記溶融層形成時におけるレーザの照射エネルギーを、クラッド層形成時のレーザの照射エネルギーより大とする制御手段を備えた
ことを特徴とするレーザクラッド装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate