説明

レーザセンサ及びこれを用いた検出対象判定方法

【課題】レーザセンサを用いて検出対象を追従して検出しているときに検出対象が突然消えたりして、その後以降の走査周期にて突然現れたりしても、これらが関連する検出対象であることを確実に判定することができるレーザセンサ及びこれを用いた検出対象判定方法を提供する。
【解決手段】レーザ光出射部2と、反射レーザ光に対応した受光情報を出力する受光部3と、受光情報を走査周期ごとに記憶する記憶部5と、受光情報に基づき、前回の走査周期で検出された検出対象が今回の走査周期で検出されているか否かを判別する判別部12と、判別部12の判別結果が否の場合に、検出対象を消失した検出対象として一時的に記憶する一時消失データベース11と、受光部3から受け取った次回以降の受光情報に新たな検出対象が存在する場合に、新たな検出対象が消失した検出対象と同一であるか否かを判定条件に基づいて判定するための判定部とを備えている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、歩行者、特に横断歩道を歩行中の歩行者を突然検出した場合に、その歩行者がどのような歩行者であるかを前の検出結果から確実に判定できるレーザセンサ及びこれを用いた検出対象判定方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
横断歩行者検出方法が特許文献1に開示されている。この検出方法は、レーザレーダの1回の走査から得られる検出位置情報をつなぎ合わせて、センサの検出視野内にある物体を歩行者と判定するための基本的な仕組みについて述べている。このように、三次元レーザレーダ式のセンサが実用化されてきている。
【0003】
三次元レーザレーダ式のセンサは、保安システムや信号の制御器等と接続し、検出した物体の位置や大きさ、あるいは速度等のデータを障害物情報として送信し、安全性の向上等に役立つ情報を提供している。なかでも、道路交通分野において交差点の安全を確保するためのセンサとして実用化するには、検出対象の種類、特に車道上にいる歩行者の存在を正確に把握することが求められている。
【0004】
この三次元レーザレーダによる障害物の検出の測定原理は、検出対象のうち何点かから反射したレーザ光から位置を推定するものである。このため、画像で認識することに比べ、検出対象の形状を正確に捉えるものではない。検出対象が人の場合、センサからの距離にもよるが、数点から数十点の点群となる。
【0005】
このように、レーザ光を発してその反射光で検出対象を検出するので、レーザセンサによる検出には、「遮蔽」の問題点が掲げられる。すなわち、センサの視野において、センサに近い側の物体の陰に検出対象が隠れてしまう位置関係になったときである。具体的には、横断歩道を通行中の歩行者をレーザセンサが随時検出していて、何らかの原因で車両が横断歩道を横切り、その車両の陰に歩行者が隠れてしまった場合である。このときのレーザセンサによる走査周期では、当該歩行者は検出されない。そして、次なる走査周期で歩行者が突然検出されることになる。
【0006】
従来では、隠れてしまった歩行者と新たに検出された歩行者との関連性を検討していないので、それぞれ別の歩行者とみなされていた。しかしながら、検出対象が突然消えたり、突然現れたりする現象を容認するような検出は、上述した歩行者の存在の正確な把握を実現するものではない。また、判定基準によって、突然現れた歩行者が誤って車両と判断されることもあり、これも検出精度の悪化を招く要因となる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2002−140790号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、上記従来技術を考慮したものであって、レーザセンサを用いて検出対象を追従して検出しているときに検出対象が突然消えたりして、その後以降の走査周期にて突然現れたりしても、これらが関連する検出対象であることを確実に判定することができるレーザセンサ及びこれを用いた検出対象判定方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
前記目的を達成するため、請求項1の発明では、歩行者及び車両を含む検出対象が通行する検出対象領域の全範囲をレーザ光により周期的に走査し、前記検出対象領域に存在する検出対象にて反射された反射レーザ光に基づいて前記検出対象を検出するためのレーザセンサであって、検出対象領域に対してレーザ光を出射するレーザ光出射部と、前記検出対象からの反射レーザ光を受光し、受光した反射レーザ光に対応した受光情報を出力する受光部と、前記受光部からの前記受光情報を走査周期ごとに一時的に記憶する記憶部と、前記受光部から今回の走査周期の受光情報とともに前記記憶部から前回の走査周期の受光情報を受け取り、これらの受光情報に基づき、前回の走査周期で検出された検出対象が今回の走査周期で検出されているか否かを判別する判別部と、前記判別部の判別結果が否の場合に、前記検出対象を消失した検出対象として一時的に記憶する一時消失データベースと、前記受光部から受け取った次回以降の受光情報に新たな検出対象が存在する場合に、当該新たな検出対象が前記一時消失データベースに記憶された前記消失した検出対象と同一であるか否かを判定条件に基づいて判定するための判定部とを備えていることを特徴とするレーザセンサを提供する。
【0010】
請求項2の発明では、請求項1の発明において、前記一時消失データベースにある前記消失した検出対象を表わすデータは、前記消失した検出対象の消失位置、移動方向及び移動速度が含まれており、前記判定部は、前記走査周期に基づき検出対象が消失してから新たな検出対象が検出されるまでの時間を消失時間として算出するとともに、前記消失した検出対象の移動速度と前記消失時間とから前記消失した検出対象の移動距離を算出し、前記消失した検出対象の移動方向に前記移動距離だけ前記消失した検出対象を前記消失位置から移動させたときの推定移動位置を判定条件として求め、前期推定移動位置が前記新たな検出対象の検出された位置と一致するとき、前記新たな検出対象と前記消失した検出対象とが同一であると判定することを特徴としている。
【0011】
請求項3の発明では、請求項2の発明において、前記新たな検出対象が前記消失した検出対象と同一であるとき、当該消失した検出対象のデータを前記一時消失データベースから削除することを特徴としている。
【0012】
請求項4の発明では、請求項1の発明において、前記消失した検出対象の一時記憶時間が、前記検出対象領域を前記車両が通過するのに要する平均通過時間を超えたとき、前記一時消失データベースに記憶されたデータベースから削除することを特徴としている。
【0013】
また、請求項5の発明では、請求項1に記載のレーザセンサを用いた検出対象判定方法であって、前記走査周期に基づき、検出対象が消失してから新たな検出対象が検出されるまでの時間を消失時間として算出し、前記消失した検出対象の移動速度と前記消失時間とから前記消失した検出対象の移動距離を算出し、前記消失した検出対象の移動方向に前記移動距離だけ前記消失した検出対象をその消失位置から移動させた推定移動位置が前記新たな検出対象の検出された位置と一致するとき、前記新たな検出対象と前記消失した検出対象とが同一であると判定することを特徴とするレーザセンサを用いた検出対象判定方法を提供する。
【発明の効果】
【0014】
請求項1の発明によれば、判別部により消失した検出対象があると判別された場合に、走査周期ごとに消失した検出対象として一時消失データベースに記憶する。その後(次回以降)の走査周期において新たな検出対象が検出されたときに、この新たな検出対象が一時消失データベースに記憶された検出対象と同一であるか否か判定する判定部を備えている。このため、例えば歩行者が車両に遮蔽されてセンサにより検出されない走査周期があったとき等、一時的に検出対象が検出されない場合があったとしても、このような消失した検出対象の移動を追従して的確に把握することができ、正確な検出を実現することができる。
【0015】
請求項2の発明によれば、検出対象の消失位置、移動方向及び移動速度を予め計測しておいて、検出対象が消失したときにこれらのデータを一時消失データベースに一時的に記憶する。そして、これらのデータと新たな検出対象が検出された走査周期までの時間である消失時間を用いて、消失した検出対象の消失時から今回の走査周期までの推定移動位置を算出する。この推定移動位置が新たな検出対象の検出対象の検出された位置と一致するときに新たな検出対象と消失した検出対象とが同一であると判定部にて判定する。このため、一時消失データベースを利用して的確に消失した検出対象を追従でき、検出対象の確実な把握を実現できる。
【0016】
請求項3の発明によれば、新たな検出対象が消失した検出対象と同一であるとき、当該消失した検出対象のデータを一時消失データベースから削除する。このため、その後に当該データが使用されることを防止でき、次なる判定での誤判定を減少させることができる。また、このように逐次データを削除することで、判定に際して検索するデータ量を少なくすることができ、判定時間の短縮を図ることができる。
【0017】
請求項4の発明によれば、一時消失データベースに記憶された消失した検出対象のデータは、検出対象領域を車両が通過する時間を超えたら削除する。これは、歩行者が車両によって遮られてレーザセンサにより検出されない時間(平均通過時間)が過ぎたことを示し、当該平均通過時間が過ぎたら消失した歩行者は新たな検出対象としてレーザセンサにより検出されているはずである。この場合、一時消失データベースに記憶されたデータはこの新たな検出対象と一致するかの判別に用いられているはずである。平均通過時間を経過してもなお、いまだ判別に用いられていない消失した検出対象のデータは今後も用いる可能性も低く、用いたとしても誤判別を招く要因となる。したがって、これを削除することで、次なる判定での誤判定を減少させることができる。また、このような基準で逐次データを削除することで、判定に際して検索するデータ量を少なくすることができ、判定時間の短縮を図ることができる。
【0018】
請求項5の発明によれば、検出対象の移動方向と移動速度を予め計測しておいて、検出対象が消失したときにこれを一時消失データベースに記憶し、この消失位置、移動方向及び移動速度、さらには新たな検出対象が検出された走査周期までの時間を用いる。そして、消失した検出対象の消失時から今回の走査周期までの推定移動位置を算出する。この推定移動位置が新たな検出対象の検出対象の検出された位置と一致するときに新たな検出対象と消失した検出対象とが同一であると判定部にて判定するため、一時消失データベースを利用して的確な検出対象の把握を実現できる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】本発明に係るレーザセンサによる検出対象の検出を説明するための概略図である。
【図2】本発明に係るレーザセンサを用いた検出対象判定方法を走査周期ごとに説明するための概略図である。
【図3】本発明に係るレーザセンサを用いた検出対象判定方法を走査周期ごとに説明するための概略図である。
【図4】本発明に係るレーザセンサを用いた検出対象判定方法を走査周期ごとに説明するための概略図である。
【図5】本発明に係るレーザセンサを用いた検出対象判定方法を走査周期ごとに説明するための概略図である。
【図6】本発明に係るレーザセンサを用いた検出対象判定方法のフローチャートである。
【図7】一時消失データ作成処理のフローチャートである。
【図8】一時消失データ削除処理のフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0020】
図1は本発明に係るレーザセンサによる検出対象の検出を説明するための概略図である。
レーザセンサ1は、検出対象領域6の全範囲に対してレーザ光を走査状に照射するものである。レーザ光による走査線の一部を図において破線a〜eで示している。検出対象領域6をレーザ光で1スキャンして、走査周期が完了する。検出対象領域6内に存在する検出対象7a、7bの検出は、この走査周期を所定時間ごとに繰り返して行われる。図では、特にレーザセンサによる検出の要望が高い横断歩道での歩行者と車両を区別して検出する例を示している。したがって、図の例では、検出対象領域6が横断歩道8の周辺であって、車道9と歩道10がその対象となっている。歩道10には歩行者7aが歩行していて、車道9には車両7bが走行している。横断歩道8には、歩行者7aと車両7bが存在する可能性があるが、図では歩行者7aのみが歩行している状態を示している。
【0021】
図示したように、本発明に係るレーザセンサ1は、レーザ光出射部2と、受光部3と、判定部4と、記憶部5、さらには判別部12で構成されている。レーザ光出射部2は、上述したように、レーザ光を検出対象領域6に対して走査状に照射するものである。受光部3は、検出対象領域6に位置する検出対象7a、7bから反射するレーザ光の反射レーザ光を受光するものである。判定部4は、反射レーザ光の受光情報からなるデータが入力され、検出された検出対象を判定するものであり、例えば検出対象7a、7bが歩行者又は車両のいずれのカテゴリに属すかとか、新たな検出対象が前に消失した検出対象と同一であるか否か等を所定の判定基準により判定するものである。記憶部5は、検出対象の検出結果や判定部4で判定された検出対象7a、7bのデータを走査周期ごとに記憶するものである。判別部12は、後述するように、消失した検出対象の有無を判別するものである。すなわち、レーザセンサ1は、レーザ光出射部2にて検出対象領域6に照射したレーザ光のうち、検出対象領域6に検出対象7a、7bが存在すればこれにレーザ光が反射し、この反射光を受光部3で受光してその反射光の波長の違いから検出対象7a、7bを検出するものである。そして、判定部4及び記憶部5、さらには判別部12を用いて、検出された検出対象の属性や関連性を種々の判定手段にて判断するものである。
【0022】
レーザセンサ1は一時消失データベース11と接続され、随時このデータベースにアクセス可能である。この一時消失データベース11には、消失した検出対象の各種データが一時的に記憶される。判別部12が、受光部3から今回の走査周期の受光情報を受け取り、かつ記憶部5から前回の走査周期の受光情報を受け取り、前回の走査周期で検出された検出対象が今回の走査周期で検出されているか否かを判別する。この判別結果が否の場合に、消失した検出対象のデータが一時消失データベース11に一時的に記憶される。なお、判別部12は独立して設けてもよいし、判定部4に組み込んで形成してもよい。以上説明したレーザセンサ1を用いた詳細な判定方法は後述する。
【0023】
図2〜図5は本発明に係るレーザセンサを用いた検出対象判定方法を走査周期ごとに説明するための概略図である。
図2に示すように、横断歩道8を歩行者7aが渡ろうとしている。この様子は、レーザセンサ1にて検出される。検出された検出対象は判定部4により車両であるか、歩行者であるか等を判定される。この歩行者7aの各種データ(例えば検出位置や検出対象ごとに付与するID、検出対象が歩行者である属性等)は、記憶部5に記憶される。そして、図3に示すように、次なる走査周期にて、この歩行者7aが再び検出される。図で点線で示した検出対象7aは前回の走査周期(図2)での検出対象(歩行者7a)の位置である。このときの歩行者7aの各種データも記憶部5に記憶される。ここで検出された歩行者(実線で示す歩行者)7aは、先に検出された歩行者(点線で示す歩行者)7aと同一であると判定部4により判定される。これは、先に検出されたときに、歩行者である属性が付与されているので、歩行者の平均移動距離以内に次なる歩行者が検出された等の判定条件により、適宜定められる。
【0024】
この後、当該検出対象たる歩行者7a特有の移動方向と移動速度が算出される。図では、移動方向は矢印のベクトルとして記載している。移動速度については、各走査周期の間隔(時間)と、その間に検出対象が移動した距離をもとに算出される。これらの算出結果も記憶部5に記憶される。以降、この検出位置や移動方向、あるいは移動速度をもとに、当該歩行者7aが追従される。すなわち、次の走査周期で歩行者が検出された場合、その検出位置が、前回の検出位置から移動方向と移動速度により求まる移動距離の範囲内であれば、同じ歩行者7aとして同一のIDが付されて処理される。なお、図では、このときに車両7bも横断歩道8わきに検出された例を示している。
【0025】
次に、図4に示すように、車両7bが横断歩道8に差し掛かり、歩行者7aが検出されなかったとする。そうすると、前回の走査周期(図3)で検出されていた歩行者7aが今回の走査周期(図4)で検出されていないため、この検出対象を表すデータが一時消失データベース11に記憶される。この判別は、判別部12にて行われ、前回の走査周期(図3)の実線で示した検出対象7aの移動方向と移動速度から求まる移動距離の範囲内に同じ属性の検出対象が検出されているか否かを判別される。検出されないとき、記憶される消失した検出対象のデータは、検出対象(歩行者7a)の消失位置、移動方向及び移動速度である。この移動方向と速度情報は、既に前回の走査周期(図3)で検出したときに算出している。
【0026】
そして、図5に示すように、次なる走査周期では、車両7bは横断歩道8を通り過ぎ、前回の走査周期(図4)で検出されなかった検出対象たる歩行者7aが再び検出される。しかし、前回の走査周期(図4)でこの歩行者7aに対応する検出対象が検出されていないから、この検出対象は新たな検出対象として処理される。この新たな検出対象を、前々回の走査周期(図3)で検出された検出対象と関連付けるのが、本発明に係る検出方法である。なお、走査周期の間隔によって、どこまで遡って関連付けるかを任意に定めることができる。すなわち、どの段階の走査周期まで遡るかは適宜選択可能である。詳細は以下に説明するが、新たな検出対象7aが検出された場合、前々回(図3)の走査周期で検出されていた消失した検出対象(図の点線で示す7a)の移動方向のベクトルをその速度と時間から移動方向の分だけ伸ばす(図では図3の走査周期から図5の走査周期まで2回の周期であるからベクトルを2個つなげて並べている)。これが、消失した検出対象の当該走査周期における推定移動位置となる。そして、この推定移動位置と新たな検出対象の検出位置が一致すれば、両検出対象は同一であると判定される。
【0027】
図6は本発明に係るレーザセンサを用いた検出対象判定方法のフローチャートである。なお、符号については図1〜図5を参照するものとする。
まずは、新たな検出対象を検出したか否かを判定する(ステップS1)。この新たな検出対象とは、車道9上に検出され、それが車両か歩行者かを判定する判定基準に則って判定した場合に歩行者7aであると判定され、さらに前回の走査周期においてこの検出対象に対応する歩行者が検出されていないことを条件として認定される。「前回の走査周期においてこの検出対象に対応する歩行者が検出されていない」とは、例えば今回の走査周期で検出された検出対象の位置が、前回の走査周期で検出された検出対象の移動方向と速度から求まる想定される移動距離の範囲内にないことをいう。このような条件を満たした場合、新たな検出対象は突然車道9(実際には横断歩道8)上に現れたものとして認識され、従来であれば他の判定条件をもとに歩行者であるか、車両であるかを判定される。
【0028】
しかしながら本発明では、このような新たな検出対象が検出された場合、一時消失データベースに消失した検出対象を表すデータ(一時消失データ)があるか否かを確認する(ステップS2)。一時消失データがある場合、このデータがステップS1で検出された新たな検出対象と一致するか否かを判定する(ステップS3)。この一致判定は、一時消失データに記憶されている検出対象の移動方向と速度のパラメータを用いる。さらに、該当する消失した検出対象の消失時刻から新たな検出対象が検出された検出時刻までの時間を用いる。具体的には、走査周期をもとにして、検出対象が消失してから新たな検出対象が検出された時間を消失時間として算出し、この消失時間と消失した検出対象の速度とから消失した検出対象の移動距離を算出する。そして、その移動距離だけ消失した検出対象を移動方向に沿って移動させる。この移動後の位置を推定移動位置とする。このとき、推定移動位置が、新たな検出対象の検出された位置と一致しているか否かを判定する。このような判定条件で新たな検出対象と消失した検出対象の関連性を見出すことにより、的確な検出対象の把握を実現することができる。
【0029】
そして、両検出対象が一致した場合は、消失した検出対象と新たな検出対象は同一であると判定される。(ステップS4)。そして、同じ走査周期において他に新たな検出対象が検出されているかどうかを判定するため、ステップS1に戻る。なお、ステップS1で新たな検出対象が検出されない場合や、ステップS2で一時消失データがない場合、あるいはステップS3で新たな検出対象と消失した検出対象が一致しない場合は、レーザセンサによる通常の判定を行う。
【0030】
図7は一時消失データ作成処理のフローチャートである。
本発明に係る検出対象判定方法を実行するために必要な一時消失データを作成する場合、まず、前回の走査周期と今回の走査周期との検出結果を比較する(ステップT1)。この比較は、前回の走査周期で検出されていた検出対象が、今回の走査周期で検出されているか否かにより行う(ステップT2)。検出されない検出対象が存在する場合、すなわち前回は検出されたが今回は検出されない対象がいる場合、消失した検出対象として一時消失データベースに当該データを追加する(ステップT3)。このデータは、上述したように、検出対象の消失位置、移動方向及び移動速度である。データ追加後、他の消失した検出対象の有無を調べるため、ステップT2に戻る。これを繰り返し、消失した検出対象がなくなると、その走査周期で消失した検出対象がなくなるので、一時消失データ作成処理は終了する(ステップT4)。
【0031】
図8は一時消失データ削除処理のフローチャートである。
記憶された一時消失データは、以下のタイミングで削除される。まず、上述したステップS4にて新たな検出対象と一致した消失した検出対象のデータがある場合(ステップU1)、当該データは削除される(ステップU3)。このように、新たな検出対象が消失した検出対象と一致したとき、当該消失した検出対象のデータを一時消失データベースから削除するため、その後に当該データが使用されることを防止でき、次なる判定での誤判定を減少させることができる。また、このように逐次データを削除することで、判定に際して検索するデータ量を少なくすることができ、判定時間の短縮を図ることができる。
【0032】
次に、検出対象領域を車両が通過する時間(平均通過時間)を超えた場合(ステップU2)、このデータも削除される(ステップU3)。これはすなわち、歩行者が車両によって遮られてレーザセンサにより検出されない時間が過ぎたことを示し、当該時間が過ぎたら消失した歩行者は新たな検出対象としてレーザセンサにより検出されているはずである。この場合、一時消失データベースに記憶されたデータはこの新たな検出対象と一致するかの判定に用いられているはずであり、いまだ判定に用いられていない消失した検出対象のデータは今後も用いる可能性も低く、用いたとしても誤判定を招く要因となる。したがって、これを削除することで、次なる判定での誤判定を減少させることができる。また、このように逐次データを削除することで、判定に際して検索するデータ量を少なくすることができ、判定時間の短縮を図ることができる。いまだ車両の通過時間を超えていない場合は、当該消失データは削除せずに、ステップU1に戻る。なお、車両が通過する時間は一例であり、検出対象が遮蔽されてしまう要因がなくなる時間をそれに応じて算出し、これを基準にして消失データを削除してもよい。例えば、横断歩道周辺を検出する場合、一般的な車両の平均通過時間は最大でも4秒程度である。この平均通過時間は、横断歩道の幅と車両長さ及び車両速度をもとにして算出できる。例えば、横断歩道幅が10mで車両(例えばバス)長さが10mの場合、速度が18km/sであれば4秒である。普通車の場合、これよりも短くなるため、平均通過時間はさらに短くなる。
【産業上の利用可能性】
【0033】
本発明は、横断歩道上での車両と歩行者の識別精度の向上、特に歩行者の検出精度の向上が期待できるため、例えば右左折する車両へ横断歩行者の有無を通知し、注意を促すといった道路交通の安全性向上に寄与するアプリケーションの構築が可能となる。
【符号の説明】
【0034】
1 レーザセンサ
2 レーザ光出射部
3 受光部
4 判定部
5 記憶部
6 検出対象領域
7a 歩行者
7b 車両
7c 車両
7d 検出対象
7e 車両の大きさ
8 横断歩道
9 車道
10 歩道
11 一時消失データベース
12 判別部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
歩行者及び車両を含む検出対象が通行する検出対象領域の全範囲をレーザ光により周期的に走査し、前記検出対象領域に存在する検出対象にて反射された反射レーザ光に基づいて前記検出対象を検出するためのレーザセンサであって、
検出対象領域に対してレーザ光を出射するレーザ光出射部と、
前記検出対象からの反射レーザ光を受光し、受光した反射レーザ光に対応した受光情報を出力する受光部と、
前記受光部からの前記受光情報を走査周期ごとに一時的に記憶する記憶部と、
前記受光部から今回の走査周期の受光情報とともに前記記憶部から前回の走査周期の受光情報を受け取り、これらの受光情報に基づき、前回の走査周期で検出された検出対象が今回の走査周期で検出されているか否かを判別する判別部と、
前記判別部の判別結果が否の場合に、前記検出対象を消失した検出対象として一時的に記憶する一時消失データベースと、
前記受光部から受け取った次回以降の受光情報に新たな検出対象が存在する場合に、当該新たな検出対象が前記一時消失データベースに記憶された前記消失した検出対象と同一であるか否かを判定条件に基づいて判定するための判定部とを備えていることを特徴とするレーザセンサ。
【請求項2】
前記一時消失データベースにある前記消失した検出対象を表わすデータは、前記消失した検出対象の消失位置、移動方向及び移動速度が含まれており、
前記判定部は、前記走査周期に基づき検出対象が消失してから新たな検出対象が検出されるまでの時間を消失時間として算出するとともに、前記消失した検出対象の移動速度と前記消失時間とから前記消失した検出対象の移動距離を算出し、前記消失した検出対象の移動方向に前記移動距離だけ前記消失した検出対象を前記消失位置から移動させたときの推定移動位置を判定条件として求め、前期推定移動位置が前記新たな検出対象の検出された位置と一致するとき、前記新たな検出対象と前記消失した検出対象とが同一であると判定することを特徴とする請求項1に記載のレーザセンサ。
【請求項3】
前記新たな検出対象が前記消失した検出対象と同一であるとき、当該消失した検出対象のデータを前記一時消失データベースから削除することを特徴とする請求項2に記載のレーザセンサ。
【請求項4】
前記消失した検出対象の一時記憶時間が、前記検出対象領域を前記車両が通過するのに要する平均通過時間を超えたとき、前記一時消失データベースに記憶されたデータベースから削除することを特徴とする請求項1に記載のレーザセンサ。
【請求項5】
請求項1に記載のレーザセンサを用いた検出対象判定方法であって、
前記走査周期に基づき、検出対象が消失してから新たな検出対象が検出されるまでの時間を消失時間として算出し、
前記消失した検出対象の移動速度と前記消失時間とから前記消失した検出対象の移動距離を算出し、
前記消失した検出対象の移動方向に前記移動距離だけ前記消失した検出対象をその消失位置から移動させた推定移動位置が前記新たな検出対象の検出された位置と一致するとき、前記新たな検出対象と前記消失した検出対象とが同一であると判定することを特徴とするレーザセンサを用いた検出対象判定方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2011−145204(P2011−145204A)
【公開日】平成23年7月28日(2011.7.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−6995(P2010−6995)
【出願日】平成22年1月15日(2010.1.15)
【出願人】(000000099)株式会社IHI (5,014)
【Fターム(参考)】