説明

レーザブレージング加工方法及び装置

【課題】自動車用鋼板、特に車体用のパネルのようにブレージング長さの長いものの加工を、熱歪みが少なくかつ適切な状態で行うことができるレーザブレージング加工方法及び装置を提供する。
【解決手段】半導体レーザによる鋼板51,53のレーザブレージング加工方法であって、ろう材接合部に300〜1000°/mmの温度勾配を与えつつブレージングを行う。また、レーザブレージング装置は、半導体レーザ発振装置と、該半導体レーザ発振装置から発振されたレーザ光を伝送する光ファイバ15と、伝送されたレーザ光を集光し照射する加工ヘッド10と、加工ヘッドを操作するロボット60と、ろう材及びこれを供給する送給装置20と、ブレージング時の発熱を吸収するヒートシンク31A、31Bと、を有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、半導体レーザを用いたレーザブレージング加工方法及び装置に係り、特にブレージング長さの長い自動車用車体鋼板のブレージングに好適なレーザブレージング加工方法及び装置に関する。
【背景技術】
【0002】
レーザブレージング加工方法は、従来のアーク式のブレージング加工方法よりも生産性を高めることができるとともに、ブレージング時の熱歪みが少なく高い品質を確保することができるということから注目されるブレージング加工方法である。例えば、以下のようなレーザブレージング加工方法又は装置が提案されている。
【0003】
特許文献1に、レーザ発振器から発振されたレーザ光を集光してワークに照射する集光レンズを、加工ヘッド内にて移動させることで、前記集光レンズと前記レーザ光によるワークにおける加工点との距離を常に一定に保持しつつ、前記加工ヘッドをワーク表面に沿って相対移動させてレーザブレージング加工を行うレーザブレージング加工方法が提案されている。
【0004】
特許文献2に、予熱器付きワイヤ供給装置から予熱されて板金のロー付部位に繰り出されたロー材のワイヤ先端部に向けてレーザ発振機からレーザ光を照射して溶融させる板金ロー付方法が提案されている。
【0005】
特許文献3には、レーザビームを照射することでろう材を溶かして被接合材を接合するレーザビームろう接法において、前記ろう材として、表面の算術平均高さRaが0.5〜4.5μmの範囲になるように粗面処理したろう材を使用するとともに、前記レーザビームは、ろう材の軸線に対して40°〜60°傾斜させて照射させるレーザビームろう接法が提案されている。そして、このレーザビームろう接法によればろう材への入熱効率が高まり低いレーザ出力でろう接を行うことができることが開示されている
【0006】
また、特許文献4には、車両のルーフパネルのように溶接長が長く熱歪みが発生しやすいもののブレージングにおいて、ルーフパネルの端縁を曲折してその内部に断熱材を発泡硬化させ断熱性の補強構造を形成したうえで少ない熱量でブレージングを行い、熱歪みの少ない製品を得るブレージング方法が提案されている。
【0007】
【特許文献1】特開2003-205382号公報
【特許文献2】特開2002-79371号公報
【特許文献3】特開2006-130534号公報
【特許文献4】特開2005-329417号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、このような従来のレーザブレージング方法又は装置は、レーザの広がり角(Beam Parameter Product)が小さく高エネルギー密度のYAGレーザを使用しているために、レーザ光の出力や焦点距離の調整・制御を厳しく管理しなければならない。このため、特許文献1に示すような複雑な制御装置を要し、また、特許文献2に示す予熱器のような特別な装置を設けなければならないという問題がある。また、特許文献3に示すような特殊仕様のろう材を要し、特許文献4に示すようにブレージング部を特別な構造にしなければならないという問題がある。
【0009】
一方、YAGレーザに比較してエネルギー密度は低いがレーザの広がり角が大きい半導体レーザを、半導体レーザの高出力化の進展に伴い、レーザブレージング加工に用いることが試みられている。しかし、その例はまだ少なく、自動車用鋼板、特に車体用のパネルのようにブレージング長さの長いものの加工を高品質で行う方法又は装置は提案されていない。
【0010】
本発明は、このような従来の問題点に鑑み、自動車用鋼板、特に車体用のパネルのようにブレージング長さの長いものの加工を、欠落、部分ふくれ、熱量不足等の欠陥がなくかつ熱歪みの少ない良好な状態で行うことができるレーザブレージング加工方法及び装置を提案することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明に係るレーザブレージング加工方法は、半導体レーザによる鋼板のレーザブレージング加工方法であって、ろう材接合部に300〜1000°/mmの温度勾配を与えつつブレージングを行う。
【0012】
上記発明においては、ろう材接合部の平均エネルギー密度を0.2〜0.5kW/mm2にしてブレージングを行うのがよく、ブレージングの始端及び終端部分においては、ろう材接合部の平均エネルギー密度を0.03〜0.15kW/mm2にしてブレージングを行うのがよい。
【0013】
本発明に係るレーザブレージング装置は、半導体レーザ発振装置と、該半導体レーザ発振装置から発振されたレーザ光を伝送する光ファイバと、その伝送されたレーザ光を集光し照射する加工ヘッドと、該加工ヘッドを操作するロボットと、ろう材及びこれを供給する送給装置と、ブレージング時の発熱を吸収するヒートシンクと、を有する。
【0014】
また、本発明に係るレーザブレージング装置は、一体にされた半導体レーザ発振装置、該半導体レーザ発振装置から発振されたレーザ光を伝送する光ファイバ及び伝送されたレーザ光を集光し照射する加工ヘッドからなる一体型溶接装置と、ろう材及びこれを供給する送給装置と、ブレージング時の発熱を吸収するヒートシンクと、を有するものとすることができる。
【0015】
上記ブレージング装置において、ヒートシンクは、銅合金製の水冷式のヒートシンクであるのがよく、半導体レーザ発振装置の周囲の温度及び湿度を調整する発振装置保護手段を設けるのがよい。そして、発振装置保護手段は、半導体レーザ発振装置の周囲にドライエアを灌流させることができるものとすることができる。
【0016】
また、ブレージング装置においては、ブレージングされる被加工物を互いに直交する二軸の回りに回転又は揺動させることができる二軸ポジショナーを設けるのがよい。
【0017】
また、ブレージング装置においては、ろう材の先端が照射スポット領域にあるとともに、ろう材の送給軸線とレーザの光軸とがなす傾き角が所定角度になるように設定するろう材セット治具を設けるのがよい。
【0018】
そのようなろう材セット治具は、ろう材の先端位置と傾き角を決定するろう材セット面と、該ろう材セット面の高さ位置を調整する調整機構と、を有するものから構成することができ、加工ヘッドのレンズ面に対して平行に移動する位置ゲージと、該位置ゲージの移動方向と直交する面内にあって傾き角方向に移動する角度ゲージと、を有してなるものがよい。
【発明の効果】
【0019】
本発明に係るブレージング加工方法は、自動車用鋼板、特に車体用のパネルのようにブレージング長さの長いものの加工を、欠落等の欠陥がなくかつ熱歪みの少ない良好な状態で行うことができる。また、本発明に係るレーザブレージング装置は、複雑で高価なレーザ発振・制御装置やろう材の予熱装置を要することがなく、また、ブレージングされるパネル等を特別な構造にする必要もなく安定して高品質のブレージング加工を行うことができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
以下本発明に係るレーザブレージング加工方法の実施の形態を図面に基づいて説明する。図1は、本発明に係るレーザブレージング加工方法において、ろう材が溶融され鋼板Aと鋼板BとがブレージングされるときのP1P2断面部の温度分布を模式的に示した説明図である。P1P2断面部の温度分布を示す温度曲線CにおいてTP1、TP2は、ろう材溶融部と鋼板A及び鋼板Bがそれぞれ接触する部分P1、P2の温度である。温度曲線Cに示されるように、P1、P2の間の温度はろう材が溶融するのに充分なほぼ一定の温度に確保され、P1又はP2から離れた鋼板の温度は急速に低下し一定の温度に収束するようになっている。これにより、欠落、部分ふくれ、熱量不足等の欠陥がなくかつ熱歪みの少ない良好な状態でブレージング加工を行うことができる。
【0021】
このように、本発明に係るレーザブレージング加工方法においては、溶融されるろう材部分とそれがブレージングされる鋼板表面部分(ろう材接合部)について充分な加熱を行うともに、ろう材接合部から離れた鋼板部分は熱歪みの生じない温度にまで急速に低下させてブレージングを行う。すなわち、本発明に係るレーザブレージング加工方法は、半導体レーザによる鋼板のレーザブレージング加工であって、ろう材接合部に300〜1000°/mmの温度勾配を与えつつブレージングを行う方法である。
【0022】
本レーザブレージング加工方法は、上記のように、ろう材接合部に強い温度勾配を与えてブレージングを行うものであるから、ろう材接合部を断熱構造にしてろう材接合部の温度低下を防止するようなレーザブレージング加工方法とは異なる。すなわち、本レーザブレージング加工方法は、ろう材接合部に300〜1000°/mmの温度勾配を与えるようにろう材接合部の周囲を強制冷却しつつブレージングを行う方法である。ろう材接合部の温度勾配が300°/mm未満であると熱歪みを生じやすく、1000°/mmを超えると欠落等を生じ適切なブレージングを行うのが困難になる。ろう材接合部の温度勾配は、生産スピード(ブレージング速度)にも依存するが、400〜800°/mmが好ましい。なお、ろう材は、一般に材質が銅系、例えばCuSi3が使用される。また、ろう材は線径が一般に0.8〜1.6mmのものが使用される。
【0023】
このように、本レーザブレージング加工方法はろう材接合部に強い温度勾配を与えてブレージングを行うものであるから、ろう材接合部を効果的に加熱することができ、またろう材を溶融させることのできる加熱源が必要である。そのような加熱源としてはレーザ光の広がり角度の大きい半導体レーザが好ましい。
【0024】
良好なブレージングを行うには、ブレージングされるろう材接合部の平均エネルギー密度が0.2〜0.5kW/mm2なるようにするのがよい。ろう材接合部の平均エネルギー密度が0.2kW/mm2未満であると、欠落や凹凸を生じやすく、一方、0.5kW/mm2を超えると部分ふくれや盛り上がりを生じやすい。
【0025】
ただし、通常のブレージングはこのような条件でよいが、ブレージングの始端及び終端部分においては、平均エネルギー密度を下げてブレージングを行うのがよい。すなわち、始端及び終端部分におけるろう材接合部の平均エネルギー密度が0.03〜0.15kW/mm2になるようにブレージングを行うのがよい。これにより、始端及び終端部分において発生しやすい欠落やろう材の鋼板への付着を防止することができる。
【0026】
また、良好なブレージングを行うにはブレージングされるろう材接合部が均等に加熱され、ろう材がろう材接合部に均等に融着されるようにするのがよい。このため、例えば、ブレージングされる被加工物が図1に示すような鋼板A及びBからなる形態の場合は、被加工物、加工ヘッド及びろう材のレイアウトを図2に示すようにするのがよい。図2(a)はブレージング方向と直交する方向から見たレイアウト図であり、図2(b)は、ブレージング方向からみたレイアウト図である。図2(a)に示す矢印はブレージング方向を示す。
【0027】
図2(a)に示すように、ろう材の先端は、加工ヘッドの端面からhの高さ位置にあるろう材セット面F上にあり、加工ヘッドから照射されるレーザ光がろう材セット面Fと交わる断面で構成される照射スポット内にある。また、ろう材はその供給される送給軸線が光軸からθほど傾くように設けられている。光軸は鉛直方向を向くように加工ヘッドが操作されるようになっている。
【0028】
図2(b)に示すように、鋼板A及びBは光軸方向(鉛直方向)からαほど傾くように回転され、ろう材の先端部はブレージングされる鋼板AとBがなす凹部の直上にあり、ろう材セット面Fはろう材接合部を横断するように設けられている。鋼板A、鋼板B及びろう材の先端部は、図の斜線部に示すようにレーザ光により加熱されるようになっている。
【0029】
このように、被加工物、加工ヘッド及びろう材のレイアウトがなされているので、図2(b)に示すように、照射スポットは鋼板A及びBに均等に当たり、ろう材接合部に直接当たる照射スポットの範囲が増える。このため、鋼板A及びBの不要な加熱部分が減り、ろう材接合部を所定の平均エネルギー密度で効果的に加熱することができるようになる。また、溶融したろう材が鋼板A及びBのろう材接合部に均等に付着されるようにすることができる。
【0030】
ろう材接合部を効果的に加熱するには、照射スポットの形状は円形であるのがよい。例えば、車体用のパネルのブレージングの場合は、照射スポットの大きさdは2〜3mmにするのがよい。このため、図2(a)に示すろう材セット面Fの高さ位置hは、被加工物の形態、加工速度等の生産仕様に応じ、所要の照射スポットの大きさd及び平均エネルギー密度になるように選ばれる。なお、照射スポットの形状が円形であるときは、曲線状あるいは直線及び曲線状の複雑な形状のブレージングであってブレージング品質の確保が容易であるという利点もある。
【0031】
上述のように、加工ヘッドは光軸が鉛直方向を向くように操作される。このようなレイアウトにすることにより、半導体レーザ発振機が加工ヘッドと別置にされた別置型レーザブレージング装置において加工ヘッドに連結された光ファイバがブレージング中に引き回されても、光ファイバが受ける損傷を少なくすることができる。また、加工ヘッドを操作するロボットのティーチングもやりやすくなる。
【0032】
また、ろう材は、ろう材の送給軸線とレーザ光の光軸とがなす傾き角θが所定の角度に調整され、ろう材の先端が照射スポット内にあるように設定される。これにより、図2(a)に示すように、レーザ光でろう材の先端部を予熱しながら溶融させることができる。しかしながら、図2(a)に示すように、傾き角θが小さいほどろう材先端部のより長い部分をレーザ光で加熱することができるので、ろう材はろう材セット面Fのより高い位置で溶融しブレージングに関係しない溶融金属のたれが生じるようになる。このような溶融金属のたれを考慮すると、傾き角θは大きいほどよい。一方、ろう材の先端部の余熱と必要なろう材の溶融長さを確保すること、また、ろう材の送給装置と被加工物との接触を防止すること等を考慮すると傾き角θを大きくしすぎると問題を生じる。したがって、傾き角θは、被加工物の形態、加工速度等の生産仕様をも考慮して所定の角度が選ばれる。
【0033】
なお、図2(b)に示すように、本例の場合は、照射スポットがろう材接合部に均等に当たるように被加工物を回転させた。この回転角αは、ブレージング部の詳細形状を含め被加工物の形態によって適切な角度が選ばれる。
【0034】
以上本発明に係るレーザブレージング加工方法について説明した。本レーザブレージング加工方法は以下に説明するレーザブレージング装置によって効果的に実施することができる。すなわち、本レーザブレージング装置は、図3に示すように、半導体レーザ発振装置40と、半導体レーザ発振装置40から発振されたレーザ光を伝送する光ファイバ15と、その伝送されたレーザ光を集光し照射する加工ヘッド10と、加工ヘッド10を操作するロボット60と、ろう材21及びこれを供給する送給装置20と、ブレージング時の発熱を吸収するヒートシンク31(31A、31B)とを有している。ブレージングされる鋼板51及び53は、図3(a)に示すように、ヒートシンク31A、31Bに挟み込まれるようにセットされる。ヒートシンク31A、31Bは、水冷式であり、冷却孔35を循環する水により強制冷却されるようになっている。図3(a)において、矢印はブレージングの方向を示す。
【0035】
半導体レーザ発振装置40は、レーザの発振出力が2〜4kWの公知の半導体レーザ発振装置を使用することができる。本例の半導体レーザ発振装置40は、図3(b)に示すように、発振装置保護手段45の中に収容されており、ドライエア供給管46から供給されるドライエアにより半導体レーザ発振装置40の周囲の湿度及び温度を調整できるようになっている。これにより、湿気や熱に弱い半導体レーザ発振装置40を保護することができ、レーザの焦点がぼけて出力が不安定になるような不具合の発生を防止することができる。なお、ドライエアは、図3(b)に示す矢印のように、半導体レーザ発振装置の周囲を灌流して外部に流れ出るようになっている。なお、発振装置保護手段45は、半導体レーザ発振装置40の周囲の湿度や温度を調整できるものであればよく、他の冷却又は除湿装置を用いることができる。
【0036】
本レーザブレージング装置は、加工ヘッド10が光ファイバ15を介して半導体レーザ発振装置40に連結された別置型半導体レーザ発振装置の例である。この場合は、半導体レーザ発振装置40からのレーザ光の断面形状が矩形であっても光ファイバ15あるいは加工ヘッド10内に設けられた光学系(レンズ)によってレーザ光の断面形状を容易に円形にできるという利点がある。
【0037】
光ファイバ15は公知のものを使用することができる。しかしながら、半導体レーザ発振装置40から発振されるレーザ光の断面形状が矩形であるような場合には、光ファイバ15は半導体レーザ発振装置40側の低部が太く、加工ヘッド10側の頂部に向かって次第に細くなるような全体として頭を切った円錐形状をし、底部の外径がレーザ光の矩形断面の対角線長さよりも大きいものであるのがよい。これにより、加工ヘッド10側に出射されるレーザ光の断面形状を矩形から円形に容易に又は短い光路で変換することができる。このような光ファイバ15は後述する一体型溶接装置に用いるとその装置全体をコンパクトにできる利点がある。
【0038】
ヒートシンク31A、31Bは、図4に示すように、ろう材溶融部25に近接するように設けられ、ろう材溶融部25に強い温度勾配を与えるようになっている。ヒートシンク31A、31Bは、ろう材溶融部25に強い温度勾配を容易に与えることができるように熱伝導率のよい銅合金製からなるものがよい。例えば、ベリリウム銅合金又はクロム銅合金製のものを使用することができる。
【0039】
上記のレーザブレージング加工方法において説明したように、照射スポットはろう材接合部に均等に当たるようにするのがよく、被加工物の形態によっては、被加工物を適当に回転させながらブレージングを行うのがよい。このため、本レーザブレージング装置には、ブレージングされる被加工物を互いに直交する二軸の回りに回転又は揺動させることができる二軸ポジショナーを設けるのがよい。例えば、被加工物を鉛直線方向のZ軸回りと、これに直交するX軸回りに回転又は揺動させることができる二軸ポジショナーを使用することができる。
【0040】
また、上述のように、ろう材は、その供給軸線とレーザ光の光軸とがなす傾き角θが所定の角度に調整され、そして、ろう材の先端が照射スポット内にあるように設定されるのがよい。このため、本ブレージング装置においては、図3に示すように、ろう材21の先端が照射スポット内にあるとともに、その送給軸線28がレーザ光軸18と所定の傾き角θを有するようにろう材21を配設するためのろう材セット治具を設けるのがよい。
【0041】
図5にろう材セット治具の例を示す。本ろう材セット治具70は、一体に構成されたベース71、X方向に自在に移動する位置ゲージ72及びX方向と直交する平面H内にあってY方向に移動する筒75を有する角度ゲージ74と、位置ゲージ72の上面がろう材セット面Fに一致するようにろう材セット治具70を加工ヘッド10に取り付けるためのポスト76とを有する。
【0042】
図5に示すように、ベース71とポスト76とはシム79を介してねじ78により固定され、シム79の枚数を調整することによって位置ゲージ72の上面をろう材セット面Fに一致させることができるようになっている。また、Y方向は光軸18から傾き角θをなすように設定されている。したがって、位置ゲージ72の上面がろう材セット面Fを構成しているから、この面を基準にろう材21の先端位置及び送給軸線の角度を設定することができる。なお、本実施例の場合のろう材セット面Fの高さ位置の調整は、シム調整機構により行っているが、他の調整機構、例えばねじ調整機構等による行うこともできる。
【0043】
なお、ポスト76はつまみ77により容易に加工ヘッド10にねじ結合され、位置ゲージ72はつまみ73によりベース71に固定することができるようになっている。また、筒75はY方向に自在に移動可能になっている。
【0044】
このようなろう材セット治具70により、ろう材21の先端の位置及び送給軸線28の傾き角θを以下のように設定することができる。まず、レーザ光の照射スポット位置を特定するために、スポット径dが2〜3mmとなるポイントが加工ヘッド10の端面からいくらの高さ位置にあるかを測定する。この高さ位置を測定するには、加工ヘッド10の設計焦点位置を中心として異なる高さ位置に置いた塗装鋼板にレーザ光を照射し、その表面の焼けた部分の直径を測定することから判定する塗装板判定方法がよい。この塗装板判定方法は簡便で測定精度が高い。
【0045】
ついで、上記により特定された加工ヘッド10の端面から照射スポット位置までの高さと加工ヘッド10の端面から位置ゲージ72の上面までの高さが一致するようにシム79の枚数を決め、ろう材セット治具70を加工ヘッド10に取り付ける。そして、位置ゲージ72をX方向に移動し、その上面にてレーザ光の位置を確認するため、可視光であるポジショニングレーザ(HeNeレーザ)を照射し、照射スポット位置を確定する。
【0046】
つぎに、確定された照射スポット内にろう材21の先端が入るようにろう材21の先端の位置を合わせる。ろう材21の先端の位置合わせ後位置ゲージ72を元の位置に戻し、角度ゲージ74の筒75をY方向に移動させ、ろう材21の先端部が筒75の穴に入り込むように送給軸線28の角度を調整する。これにより、ろう材21の先端の位置及び送給軸線28の傾き角θを所定値に設定することができる。このような設定・調整は、始業前点検時、定期点検時、送給装置のワイヤチップの交換時、ろう材交換時、溶接不良が出た場合、送給装置や加工ヘッド、半導体レーザ発振器などの交換時等種々の場合に行われる。
【0047】
上記のように、ろう材セット治具は、加工ヘッド10のレンズ面に対して平行に移動する位置ゲージ72と、位置ゲージ72の移動方向と直交する面内にあって傾き角θ方向に移動する角度ゲージ74からなるので、それぞれX又はY方向に出し入れして容易にろう材21の先端の位置と送給軸線28の方向を設定することができる。また、ろう材セット治具は容易に加工ヘッド10に取り付けることができるから、ろう材21の先端の位置と送給軸線28の方向の設定を容易に行うことができる。
【0048】
以上本発明について説明した。本発明に係るレーザブレージング装置は上記の実施例に限定されない。例えば、半導体レーザ発振装置と加工ヘッドとが一体になった半導体レーザブレージング装置であってもよい。すなわち、このレーザブレージング装置は、一体にされた半導体レーザ発振装置40、半導体レーザ発振装置40から発振されたレーザ光を伝送する光ファイバ15及び伝送されたレーザ光を集光し照射する加工ヘッド10からなる一体型溶接装置100と、ろう材21及びこれを供給する送給装置20と、ブレージング時の発熱を吸収するヒートシンク31と、を有するものとすることができる。この一体型溶接装置100の例を図6に示す。このレーザブレージング装置は、ブレージング時に光ファイバ15を引き回さないで済むので凹凸や曲面のある被加工物のブレージングを比較的容易に行うことができるという利点がある。
【図面の簡単な説明】
【0049】
【図1】本発明に係るレーザブレージング加工方法の説明図である。
【図2】実施例の説明図である。
【図3】本発明に係るレーザブレージング装置の概要を示す斜視図である。
【図4】図3のAA断面図である。
【図5】本発明に係るろう材セット治具の斜視図である。
【図6】一体型溶接装置の概要を示す模式図である。
【符号の説明】
【0050】
10 加工ヘッド
15 光ファイバ
16 レーザ光
18 光軸
20 送給装置
21 ろう材
25 ろう材溶融部
28 送給軸線
31、31A、31B ヒートシンク
35 冷却孔
40 半導体レーザ発振装置
45 発振装置保護手段
46 ドライエア供給管
51、53 鋼板
60 ロボット
70 ろう材セット治具
71 ベース
72 位置ゲージ
73 つまみ
74 角度ゲージ
75 筒
76 ポスト
77 つまみ
78 ねじ
79 シム
100 一体型溶接装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
半導体レーザを用いた鋼板のレーザブレージング加工方法であって、ろう材接合部に300〜1000°/mmの温度勾配を与えつつブレージングを行うレーザブレージング加工方法。
【請求項2】
ろう材接合部の平均エネルギー密度を0.2〜0.5kW/mm2にしてブレージングを行うことを特徴とする請求項1に記載のレーザブレージング加工方法。
【請求項3】
ブレージングの始端及び終端部分においては、ろう材接合部の平均エネルギー密度を0.03〜0.15kW/mm2にしてブレージングを行うことを特徴とする請求項1又は2に記載のレーザブレージング加工方法。
【請求項4】
半導体レーザ発振装置と、該半導体レーザ発振装置から発振されたレーザ光を伝送する光ファイバと、伝送されたレーザ光を集光し照射する加工ヘッドと、該加工ヘッドを操作するロボットと、ろう材及びこれを供給する送給装置と、ブレージング時の発熱を吸収するヒートシンクと、を有するレーザブレージング装置。
【請求項5】
一体にされた半導体レーザ発振装置、該半導体レーザ発振装置から発振されたレーザ光を伝送する光ファイバ及び伝送されたレーザ光を集光し照射する加工ヘッドからなる一体型溶接装置と、ろう材及びこれを供給する送給装置と、ブレージング時の発熱を吸収するヒートシンクと、を有するレーザブレージング装置。
【請求項6】
ヒートシンクは、銅合金製の水冷式のヒートシンクであることを特徴とする請求項4又は5に記載のレーザブレージング装置。
【請求項7】
半導体レーザ発振装置の周囲の温度及び湿度を調整する発振装置保護手段を設けたことを特徴とする請求項4〜6のいずれかに記載のレーザブレージング装置。
【請求項8】
ブレージングされる被加工物を互いに直交する二軸の回りに回転又は揺動させることができる二軸ポジショナーを設けたことを特徴とする請求項4〜7のいずれかに記載のレーザブレージング装置。
【請求項9】
ろう材の先端が照射スポット内にあるとともに、ろう材の送給軸線とレーザの光軸とがなす傾き角が所定角度になるように、ろう材の配設を行うろう材セット治具を設けたことを特徴とする請求項4〜8のいずれかに記載のレーザブレージング装置。
【請求項10】
ろう材の先端が照射スポット領域にあるとともに、傾き角が所定角度になるようにろう材の配設を行うろう材セット治具であって、ろう材の先端位置と傾き角を決定するろう材セット面と、該ろう材セット面の高さ位置を調整する調整機構と、を有するろう材セット治具。
【請求項11】
加工ヘッドのレンズ面に対して平行に移動する位置ゲージと、該位置ゲージの移動方向と直交する面内にあって傾き角方向に移動する角度ゲージと、を有することを特徴とする請求項10に記載のろう材セット治具。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2008−814(P2008−814A)
【公開日】平成20年1月10日(2008.1.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−175823(P2006−175823)
【出願日】平成18年6月26日(2006.6.26)
【出願人】(000135999)株式会社ヒロテック (62)
【Fターム(参考)】