説明

レーザマーキング方法

【課題】被印字面とされる鋼材端面の状態によらず鮮明な印字を得ることのできる、レーザマーキング方法を提供する。
【解決手段】被印字面とされた鋼材端面1に耐熱塗料を塗布後、レーザを照射して前記塗料を焼付炭化させることにより、複数字の一連からなる記号を印字するにあたり、レーザの照射回数を一記号群ごとに複数回ずつとする。レーザの焦点位置を被印字面からレーザ光軸沿いに鋼材の外側又は内側に5mm〜30mm離間させてもよい。又、耐熱塗料の塗布前に予め被印字面をワイヤブラシで研削することが好ましく、耐熱塗料の色を、白色、薄茶色、青色、黄色のいずれかとすることが好ましい。又、前記鋼材は、350℃〜室温の鋼材であることが好ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、レーザマーキング方法に関し、特に、鋼材例えば厚鋼板等の端面へ鋼材識別のための記号をレーザ照射によって印字する際に、被印字面とされる鋼材端面の状態にかかわらず鮮明な印字が得られる、レーザマーキング方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来のレーザマーキング方法には、被印字面に塗布した下地塗料にレーザを照射し、塗料を焼付けて炭化させる方法(特許文献1参照)と、塗料塗布後にレーザを照射し、塗料を除去する方法(特許文献2参照)とがある。
上記従来のレーザマーキング方法は、鋼材の平坦な面に対して実施されており、印字も1回で済まされていた。又、能率向上からも1回で印字できるように、被印字面をデスケーリングしたり、被印字面の反りを計測して反りに沿わせるように印字したりしていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2009−62086号公報
【特許文献2】特許第4519105号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、塗料を鋼材端面に塗布後、レーザで焼付けて炭化させるレーザマーキング方法においては、鋼材端面の状態が印字の鮮明さに影響を及ぼすことが分った。すなわちガス溶断やレーザ溶断による平坦な切断面では、比較的鮮明な印字が得られるが、シヤー剪断による凹凸痕を生じた切断面では、印字が著しく不鮮明となってしまうことが判明し、この点に未解決の課題があった。
【0005】
そこで、本発明は、被印字面とされる鋼材端面の状態によらず鮮明な印字を得ることのできる、レーザマーキング方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するためになされた本発明は、次のとおりである。
本発明は、(1)被印字面とされた鋼材端面に耐熱塗料を塗布後、レーザを照射して前記塗料を焼付けて炭化させることにより、複数の字の一連からなる記号を印字するにあたり、レーザの照射回数を一記号群ごとに複数回ずつとすることを特徴とするレーザマーキング方法である。
【0007】
本発明では、(2)レーザの焦点位置を被印字面からレーザ光軸沿いに鋼材の外側又は内側に5mm〜30mm離間させてもよい。又、(3)耐熱塗料の塗布前に予め被印字面をワイヤブラシで研削することが好ましく、又、(4)耐熱塗料の色を、白色、薄茶色、青色、黄色のいずれかとすることが好ましく、又、(5)前記鋼材は、350℃〜室温の鋼材であることが好ましい。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、被印字面とされた鋼材端面の状態によらず鮮明な記号をレーザマーキングすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】鋼材端面へのレーザマーキングによる印字状態の評価方法を示す説明図
【発明を実施するための形態】
【0010】
耐熱塗料は、市販のものを用いうる。鋼材端面への耐熱塗料の塗布方法は、スプレーコーティング、刷毛塗り、ロールコーティング等のいずれであってもよい。
本発明に係るレーザマーキングでは、レーザの1回照射につき、レーザビームで字型(字を型どった領域)が1回走査される。レーザビームでの走査中に字型内の塗膜を焼付けて炭化させて字を描出させようとするには、連続発振出力が大きい(10kW以上まで可能)ことで知られたCOレーザが好適である。被印字面(鋼材端面)へのレーザ照射距離(レーザ照射装置のレーザ射出口から鋼材端面までの距離)は、250〜280mmの範囲がよい。この範囲であれば、搬送ライン上の厚鋼板を対象とする場合、レーザマーキング装置が厚鋼板搬送設備と干渉したり、レーザビームが厚鋼板搬送設備周辺に既設された他設備で遮られたりする問題を回避し易い。
【0011】
耐熱塗料を塗布してなる塗膜の表面をCOレーザで焼付けて炭化させて字を描出するには、レーザのビーム径は0.05〜0.1mmがよい。ビーム径を0.05mmよりも小さく絞ると、レーザ出力が同程度であれば、塗膜への入熱が大きくなりすぎて、塗料が所望の焼付けて炭化する程度を超えて広い範囲で燃焼して字が滲んでしまい、かといってレーザ出力を小さくすると炭化しなくなる。また、ビーム径を0.1mm超まで大きくすると、焼付けて炭化させるために大きなレーザ出力が必要となり、印字するための精度良い制御が難しくなり、字が滲んでしまい、また、設備が高額となって経済的に不利となる。
【0012】
厚鋼板の板厚は最小4mm程度であり、この板厚方向の切断面に印字するには2×2mmが最小字サイズとして必要であり、印字した字が目視で良く視認できるようにするには、字線幅を0.15mm以上とする必要がある。
そこで、本発明者らは、塗膜の広い範囲に拡大する燃焼を抑えつつ焼付けて炭化させ、かつ、0.15mm以上の字線幅を確保するために、以下の方法を採った。
【0013】
すなわち、レーザの照射回数を一記号群ごとに複数回ずつとする方法である。より詳しく言うと、印字すべき複数の字の一連からなる記号中の一記号群(この一記号群内の字数は複数である)ごとについて、ビーム径0.05〜0.1mmのレーザビームを、同一字型内で1回の照射ごとに、好ましくはビーム位置を僅かずつ(例えば被印字面内走査間隔の1/10〜9/10ずつ)ずらせて、複数回繰り返し照射して印字する方法である。こうすることで、字型が複数回照射(ビーム位置を毎回僅かずつずらされたレーザビームで複数回走査)されて、最終的に0.15mm以上の字線幅を確保でき、シヤー剪断による凹凸痕のある切断面に対しても、鮮明な印字状態を得ることができる。なお、このときのレーザの焦点位置は、従来と同様、被印字面の近傍の位置、例えば被印字面から鋼材の外側又は内側へのレーザ光軸沿いの離間距離が0mm以上5mm未満である位置としておけばよい。この離間距離が0mmの場合、レーザの焦点位置は被印字面の位置と一致する。
【0014】
また、前記離間距離を従来の範囲外である5mm以上とし、レーザの焦点位置が被印字面の近傍から離れることで被印字面の受光エネルギー密度が低下して塗膜を焼付けて炭化するのに必要なレベル未満となるのを補うために、一記号群ごとに複数回ずつレーザ照射を繰り返すようにしてもよい。ただし、このとき、前記離間距離を30mm超まで大きくすると、複数回のレーザ照射によっても被印字面で塗膜を焼付けて炭化するのに必要なレベルの受光エネルギー密度を達成するのが困難なため、前記離間距離は30mm以下とするのが好ましい。これによれば、被印字面に対するレーザマーキング装置の位置合わせ精度の許容範囲が通常の−5mm超5mm未満の範囲から0±30mmの範囲に拡大し、その分だけ位置合わせ作業が容易となる。
【0015】
また、印字を更に鮮明にするために、耐熱塗料を塗布する前に予め被印字面をワイヤブラシで研削すること、及び、白色、薄茶色、青色、黄色のいずれかの色の耐熱塗料を用いること、のいずれか一方又は両方を実施することが好ましい。
また、印字対象鋼材の温度が350℃を超えていると、耐熱塗料といえども変色して印字が視認し難くなることがあるので、印字対象鋼材は350℃〜室温の鋼材であることが好ましい。
【実施例】
【0016】
印字対象鋼材として厚鋼板を用い、レーザ溶断或いはシヤー剪断により、板厚方向に切断して形成した鋼板端面を被印字面とし、被印字面にワイヤブラシによる研削を施し或いは施さずに、耐熱塗料を塗布後、一記号群ごとに複数回COレーザを照射して塗膜を焼付炭化させることにより、記号「1234567890」をその最終的な字線幅が約0.2mmになるように印字する実験を行った。レーザマーキング装置は、(株)ニレコ製の断面マーキング装置を用いた。被印字面へのレーザ照射距離(レーザ照射装置のレーザ射出口から鋼材端面までの距離)は240mmとした。印字速度は照射1回当たり約50字/秒とした。耐熱塗料は(株)ニレコ製のものを用いた。又、比較のため、従来通りレーザ照射回数を1回とした実験も加えた。
【0017】
厚鋼板の板厚及び板温度、切断方法、ワイヤブラシ研削の有無、耐熱塗料の色、被印字面に対するレーザの焦点位置の離間距離(略して焦点離間距離L)、レーザの出力及び公称ビーム径(レーザ射出口のレンズへの入射ビーム径)、一記号群ごとのレーザ照射繰り返し回数(略して照射回数N)、照射1回ごとの相対ビーム位置ずらし量(被印字面内走査間隔に対する比で表す)を、表1に示すとおり種々変更し、レーザマーキング後の印字状態の良否を調査した。印字状態の良否判定にあたっては、目視観察により、図1に示すとおりの3段階の評点(◎:優、○:良、×:不良)で評価した。尚、図1において、1は被印字面である。
【0018】
上記調査の結果を表1に示す。発明例では、シヤー剪断で形成した被印字面であっても鮮明な印字状態が得られたことが分る。
【0019】
【表1】

【符号の説明】
【0020】
1 鋼材端面(被印字面)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
被印字面とされた鋼材端面に耐熱塗料を塗布後、レーザを照射して前記塗料を焼付けて炭化させることにより、複数の字の一連からなる記号を印字するにあたり、レーザの照射回数を一記号群ごとに複数回ずつとすることを特徴とするレーザマーキング方法。
【請求項2】
レーザの焦点位置を被印字面からレーザ光軸沿いに鋼材の外側又は内側に5mm〜30mm離間させることを特徴とする請求項1に記載のレーザマーキング方法。
【請求項3】
耐熱塗料の塗布前に予め被印字面をワイヤブラシで研削することを特徴とする請求項1又は2に記載のレーザマーキング方法。
【請求項4】
耐熱塗料の色を、白色、薄茶色、青色、黄色のいずれかとすることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載のレーザマーキング方法。
【請求項5】
前記鋼材は、350℃〜室温の鋼材であることを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載のレーザマーキング方法。


【図1】
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【公開番号】特開2012−139701(P2012−139701A)
【公開日】平成24年7月26日(2012.7.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−292651(P2010−292651)
【出願日】平成22年12月28日(2010.12.28)
【出願人】(000001258)JFEスチール株式会社 (8,589)
【Fターム(参考)】