説明

レーザーマーキング用樹脂組成物及びレーザーマーキング方法

【課題】地色が黒色のときに白文字、白色記号、白色図柄等がコントラスト良好にマーキングされ、特にQRコード等を解像度よくマーキングするのに適したレーザーマーキング用樹脂組成物とそれに対するレーザーマーキング方法を提供する。
【解決手段】(A)熱可塑性樹脂100質量部に対して、(B)カーボンブラック、低次酸化チタン、及び珪素含有化合物を合計で0.0005〜10質量部を含有してなる、レーザーマーキング用樹脂組成物、その樹脂組成物を成形した成形体、および上記成形体表面に、ビーム径が40μm以下、レーザー媒質がイットリウム−四酸化バナジウムであるレーザー光線を照射して印字するレーザーマーキング方法である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、レーザー光線照射により成形体表面にマーキングされ、黒色の生地色とマーキング部のコントラストが高く、鮮明な文字、記号、図柄等が得られ、特にQRコード等を解像度よくマーキングするのに適したレーザーマーキング用樹脂組成物と該樹脂組成物を成形した成形体に対するレーザーマーキング方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、電気製品、電子部品などの樹脂成形品の表面に文字、記号等をマーキングする方法として、インクを用いたタンポ印刷、シルク印刷などが用いられている。しかしながら、これらのインクを用いるマーキング方法では、インクが飛散するという問題のほか、マーキングに時間がかかり、インクの密着性不足による耐久性が劣るといった問題があった。そこで、これらの問題を解決するため、レーザー光線を照射してプラスチック成形品表面に印刷するレーザーマーキング法やそれに用いるための樹脂組成物が提案されている(例えば、特許文献1、特許文献2及び特許文献3を参照)。
【0003】
このような従来のレーザーマーキング法は、プラスチック成形品表面に印字するもので、これは熱可塑性樹脂にカーボンブラックや低次酸化チタンなどの添加剤を混練りして成形したプラスチック成形品にレーザー光線を照射し、地色が黒色のプラスチック成形品表面に白文字、白色記号及び白色図柄等を発現するものである。
【0004】
しかし、このような従来のレーザーマーキング法や樹脂組成物によっても、いまだ視認性が高く、鮮明でコントラストが十分なものが得られておらず、より鮮明でコントラストが十分なレーザーマーキング用樹脂組成物とレーザーマーキング方法が要請されている。
【特許文献1】特開平8−120133号公報
【特許文献2】特開平8−127175号公報
【特許文献3】特開平8−127670号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
したがって、本発明は、上記した従来のレーザーマーキング法における問題に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、地色が黒色のときに白文字、白色記号、白色図柄等がコントラスト良好にマーキングされ、特にQRコード等を解像度よくマーキングするのに適したレーザーマーキング用樹脂組成物とそれに対するレーザーマーキング方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明によれば、(A)熱可塑性樹脂100質量部に対して、(B)カーボンブラック、低次酸化チタン、及び珪素含有化合物を合計で0.0005〜10質量部を含有してなる、レーザーマーキング用樹脂組成物が提供される。
【0007】
本発明の樹脂組成物においては、上記(B)成分以外の着色剤0.001〜10質量部を含有してもよい。
【0008】
また、本発明の樹脂組成物において用いる(A)熱可塑性樹脂としては、ABS樹脂、ASA樹脂、ゴム強化ポリスチレン樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリエチレンテレフタレート樹脂、ポリブチレンテレフタレート樹脂、ポリフェニレンエーテル樹脂、ポリフェニレンサルファイド樹脂、ポリプロピレン樹脂、ポリエチレン樹脂、ABS/ポリカーボネートアロイ樹脂、ABS/ポリブチレンフタレートアロイ樹脂、ポリオレフィン系エラストマー、及びポリエステル系エラストマーからなる群より選ばれた少なくとも1種であることが好ましい。
【0009】
さらに、本発明によれば、上記樹脂組成物を成形してなる成形体が提供される。
【0010】
また、本発明によれば、上記成形体表面に、ビーム径が40μm以下、レーザー媒質がイットリウム−四酸化バナジウムであるレーザー光線を照射して印字するレーザーマーキング方法が提供される。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、地色が黒色の成形体表面に白文字、白色記号、白色図柄等がコントラスト良好に鮮明にマーキングされ、特にQRコード等の情報コードを解像度よくマーキングするのに適したレーザーマーキング用樹脂組成物とそれを成形してなる成形体、及び該成形体へのレーザーマーキング方法を提供することができるという優れた効果を奏する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下、本発明の実施形態について詳細に説明するが、本発明はこれらの実施形態に限定されるものではない。
本発明の樹脂組成物は、(A)熱可塑性樹脂と、(B)カーボンブラック、低次酸化チタン、及び珪素含有化合物を含有してなるものである。
以下、各成分について説明する。
【0013】
(A)熱可塑性樹脂:
本発明において用いる熱可塑性樹脂としては特に限定されるものではなく、例えば、ABS樹脂、ASA樹脂、ゴム強化ポリスチレン樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリエチレンテレフタレート樹脂、ポリブチレンテレフタレート樹脂、ポリフェニレンエーテル樹脂、ポリフェニレンサルファイド樹脂、ポリプロピレン樹脂、ポリエチレン樹脂、ABS/ポリカーボネートアロイ樹脂、ABS/ポリブチレンフタレートアロイ樹脂、ポリオレフィン系エラストマー、及びポリエステル系エラストマーからなる群より選ばれた少なくとも1種であることが好ましい。これらの中で、特に好ましくは、ABS樹脂、ASA樹脂、ゴム強化ポリスチレン樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリエチレンテレフタレート樹脂、ポリブチレンテレフタレート樹脂である。これらの熱可塑性樹脂は、1種単独で使用することも、また2種以上を併用することもできる。すなわち、熱可塑性樹脂は、2種以上の樹脂からなるポリマーアロイであってもよい。
【0014】
(B)成分:
次に、本発明の樹脂組成物に用いられる(B)成分は、カーボンブラック、低次酸化チタン、及び珪素含有化合物を含むものである。
上記した熱可塑性樹脂に対して、黒色を下地色として白文字、白色記号、白色図柄等をレーザーマーキングにて鮮明に発色させることは、これらの熱可塑性樹脂では分子側鎖の乖離、発泡が生じないため、困難である。
【0015】
そこで、本発明者がいろいろな角度から検討した結果、上記のごとき熱可塑性樹脂に、カーボンブラック、低次酸化チタン、及び珪素含有化合物を含む特定の添加剤を含有させた樹脂組成物を構成し、この樹脂組成物を成形した成形体にレーザー光線を照射すると、黒下地に白文字、白色記号、白色図柄等が鮮明に発色することを見出し、本発明に至ったものである。
【0016】
すなわち、本発明において、カーボンブラック、低次酸化チタン、及び珪素含有化合物を含む特定の添加剤の作用機構を推測するに、カーボンブラックにより成形体の地色を黒色に着色する作用を奏するとともに、レーザー光線を照射した際には、カーボンブラックの脱色と低次酸化チタンの酸化反応により、白の色材であるTiO2の形成が起こり、より白く発色するものであると考えられる。そして、本発明では、さらに珪素含有化合物を含有することにより、上記白発色をより促進させる作用を有するものである。
【0017】
カーボンブラックとしては、その製法によりファーネスブラック、チャネルブラック、サーマルブラック等に、また原料の違いによりアセチレンブラック、ケッチェンブラック、オイルブラック、」ガスブラック等に分類されるが、本発明では、これらのいずれも使用することができる。
【0018】
低次酸化チタンとしては、一酸化チタン、二・三酸化チタン、三・五酸化チタンなどの、一般にTin2n-1(n=1,2,3)で表されるものや、一般にTiOm(m=1〜1.99)で表されるものが挙げられる。なお、チタンブラックと称されるものは、TiOn(n=0.1〜1.9)である。
【0019】
また、珪素含有化合物としては、ジメチルポリシロキサン、テトラメトキシシラン、珪素エーテル、珪素エステルなどの有機系の珪素含有化合物や、二酸化珪素、群青、炭化珪素、窒化珪素などの無機系の珪素含有化合物を用いることができ、また、ジメチルポリシロキサンと二酸化珪素の混合物など、2種以上の珪素含有化合物を混合した混合物を用いることもできる。
【0020】
本発明に用いられる(B)成分の全添加量は、上記(A)熱可塑性樹脂100質量部に対し、0.0005〜5質量部、好ましくは0.01〜3質量部、さらに好ましくは0.05〜1質量部である。0.0005質量部未満では充分なコントラストが得られず、一方、5質量部を超えるとエネルギー吸収機能が過剰となり同様にコントラストが低下する。
また、上記(B)成分の全添加量のうち、カーボンブラックの添加量は、(A)熱可塑性樹脂100質量部に対し、0.0001〜2質量部、好ましくは0.005〜1質量部、さらに好ましくは0.02〜0.5質量部である。また低次酸化チタンの添加量は、(A)熱可塑性樹脂100質量部に対し、0.0001〜2質量部、好ましくは0.005〜1質量部、さらに好ましくは0.02〜0.5質量部である。さらに、珪素含有化合物の添加量は、(A)熱可塑性樹脂100質量部に対し、0.001〜6質量部、好ましくは0.005〜5質量部、さらに好ましくは0.02〜4質量部である。
【0021】
本発明の樹脂組成物には、上記の(A)成分及び(B)成分のほかに、着色剤を添加することもできる。着色剤の添加により、白色に対して所望の色合を出すことができる。なお、この着色剤は、上記した(B)成分以外のものである。
着色剤としては、無機顔料、有機顔料、染料などが挙げられる。このうち、無機顔料としては、白色顔料として酸化チタン、硫酸バリウム、硫化亜鉛、酸化亜鉛、黄色顔料として酸化鉄、チタンイエロー、赤色顔料として酸化鉄、青色顔料としてコバルトブルー、群青などが挙げられる。また、有機顔料としては、黄色はモノアゾ、縮合アゾ、アンスラキノン、ジスアゾ、複素環、赤色はキナクリドン、アンスラキノン、ペリレン、モノアゾ、青色はフタロシアニン、緑色はフタロシアニンなどが挙げられる。さらに、染料としては、黄色はモノアゾ、アンスラキノン、ジスアゾ、複素環、赤色はアンスラキノン、ペリノン、チオインヂゴ、ジスアゾ、青色はアンスラキノンなどが挙げられる。
【0022】
上記着色剤の使用量は、(A)熱可塑性樹脂100質量部に対し、0.001〜10質量部、好ましくは0.01〜8質量部、さらに好ましくは0.05〜5質量部である。着色剤が10質量部を超えると、成形体としての物性低下が起こる可能性があり、好ましくない。
【0023】
本発明において、(A)、(B)の2成分又は着色剤を加えた3成分からなる樹脂組成物を調製するには、例えば、これらの各成分を、ヘンシェルミキサーなどで混合し、一般の押出機などで溶融混合してペレット化するなどの手段により得られるが、これに限定されるものではない。
【0024】
なお、上記樹脂組成物には、必要に応じて、その特性を損なわない範囲で、他の添加剤、例えば離型剤、安定剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、強化剤などを添加することができる。
【0025】
本発明の樹脂組成物を成形してなる成形体に対してレーザーマーキングするには、例えば、これらの成形体に、ビーム径が40μm以下、レーザー媒質がイットリウム−四酸化バナジウム(YVO4)であるレーザー光線を照射して印字する、レーザーマーキング方法を採用することが好ましい。
【0026】
本発明のレーザーマーキング方法において、レーザー光線としては、レーザービームはシングルモードでもマルチモードでもよく、またビーム径が20〜40μmのように絞ったもののほか、ビーム径が80〜100μmのごとく広いものについても用いることができるが、シングルモードで、ビーム径が20〜40μmの方が、印字発色部と下地部のコントラストを3以上とし、コントラストが良好で鮮明な印字品質を得る点で好ましい。
【0027】
本発明のレーザーマーキング用樹脂組成物を用いて成形してなる成形体は、レーザーマーク性に優れ、その表面にレーザー光線で黒下地に白文字、白色記号及び白色図柄などを、容易かつ鮮明に描くことができる。従って、本発明のレーザーマーキング用樹脂組成物からなる成形体は、電気部品、電子部品、自動車部品、各種記録媒体のケース、各種表示板などの印字に効果的に使用することができる。
【実施例】
【0028】
以下、本発明を実施例によりさらに具体的に説明するが、本発明は、これらの実施例により何ら限定されるものではない。なお、以下の実施例および比較例における「部」および「%」は特に断りのない限り質量部および質量%を意味する。また、実施例における各種の評価、測定は、下記方法により実施した。
【0029】
レーザー照射条件1:
レーザー機器:ロフィン−バーゼル社 RSM30D(Nd:YAG)
アパーチャー:2.0mmφ
走査速度:400mm/s
波長:1064nm
周波数:15,000Hz
電流値:34A
【0030】
レーザー照射条件2:
レーザー機器:ロフィン−バーゼル社 RSM10E(YVO4
シングルモードビーム径:20〜40μmφ
走査速度:400mm/s
波長:1064nm
周波数:17000Hz
電流値:20A
【0031】
発色性評価:
測色計(グレタグマクベス社製 7000A)を用いて、WI:白色度、YI:黄味度、を測定した。
コントラスト評価:
コニカミノルタ社製の輝度計(LS100)を用いて測定した。数値の大きいほどコントラストが高く、視認性が高い。本発明では、コントラストが3以上のときに○、コントラストが2以上、3未満のときに△、コントラストが2未満のときに×とした。○と△は合格、×は不合格とした。
【0032】
(実施例1)
ポリカーボネート樹脂(出光興産社製、商品名:タフロンA1700)100質量部に対し、カーボンブラック(三菱化学社製、商品グレード:#20)0.05質量部、低次酸化チタンであるチタンブラック(赤穂化成社製、商品名:ティラックD)0.03質量部、ジメチルポリシロキサン/二酸化珪素混合物(東レダウコーニングシリコーン社製、商品グレード:125M)2.0質量部を添加し、高速ミキサーで均一混合し、押出機、ペレタイザーにて造粒して支持体用のコンパウンドを調製した。
そして、まず射出成形機にて厚み3.0mmの平板プレートを作製し、Nd:YAGレーザーを使用してマーキングされた箇所の発色性及びコントラストを測定した。その結果を表1に示す。
【0033】
(実施例2)
ポリカーボネート樹脂の代わりに、ポリブチレンテレフタレート樹脂を用い、チタンブラックの使用量を0.02質量部としたこと以外は、実施例1と同様にして、平板プレートの発色性及びコントラストを測定した。結果を表1に示す。
【0034】
(比較例1)
チタンブラックとジメチルポリシロキサン/二酸化珪素混合物を用いないこと以外は、実施例1と同様にして、平板プレートの発色性及びコントラストを測定した。結果を表1に示す。
【0035】
(比較例2)
カーボンブラックとジメチルポリシロキサン/二酸化珪素混合物を用いず、チタンブラックの使用量を0.1質量部としたこと以外は、実施例1と同様にして、平板プレートの発色性及びコントラストを測定した。結果を表1に示す。
【0036】
(比較例3)
カーボンブラックとチタンブラックを用いないこと以外は、実施例1と同様にして、平板プレートの発色性及びコントラストを測定した。結果を表1に示す。
【0037】
(比較例4)
チタンブラックとジメチルポリシロキサン/二酸化珪素混合物を用いないこと以外は、実施例2と同様にして、平板プレートの発色性及びコントラストを測定した。結果を表1に示す。
【0038】
【表1】

【0039】
表1の結果から、実施例1〜2のように、カーボンブラック、チタンブラック及びジメチルポリシロキサン/二酸化珪素混合物のすべてを用いる場合には、レーザー光線照射によって白文字等が明瞭に発現しているが、比較例1〜4のように、カーボンブラック、チタンブラック及びジメチルポリシロキサン/二酸化珪素混合物のうちのいずれかのみを用いている場合には、白文字等の発色性が極めて低いことがわかる。
【産業上の利用可能性】
【0040】
本発明に係るレーザーマーキング用樹脂組成物は、地色が黒色のときに白文字、白色記号、白色図柄等がコントラスト良好にマーキングされ、特にQRコード等の情報コードを解像度よくマーキングするのに適しているので、電気部品、電子部品、自動車部品、各種記録媒体のケース、各種表示板などの印字に効果的に使用することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)熱可塑性樹脂100質量部に対して、(B)カーボンブラック、低次酸化チタン、及び珪素含有化合物を合計で0.0005〜10質量部を含有してなる、レーザーマーキング用樹脂組成物。
【請求項2】
さらに、上記(B)成分以外の着色剤0.001〜10質量部を含有する請求項1記載のレーザーマーキング用樹脂組成物。
【請求項3】
前記(A)熱可塑性樹脂が、ABS樹脂、ASA樹脂、ゴム強化ポリスチレン樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリエチレンテレフタレート樹脂、ポリブチレンテレフタレート樹脂、ポリフェニレンエーテル樹脂、ポリフェニレンサルファイド樹脂、ポリプロピレン樹脂、ポリエチレン樹脂、ABS/ポリカーボネートアロイ樹脂、ABS/ポリブチレンフタレートアロイ樹脂、ポリオレフィン系エラストマー、及びポリエステル系エラストマーからなる群より選ばれた少なくとも1種である請求項1又は2に記載のレーザーマーキング用樹脂組成物。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか1項に記載の樹脂組成物を成形してなる成形体。
【請求項5】
請求項4に記載の成形体表面に、ビーム径が40μm以下、レーザー媒質がイットリウム−四酸化バナジウムであるレーザー光線を照射して印字する、レーザーマーキング方法。

【公開番号】特開2006−305926(P2006−305926A)
【公開日】平成18年11月9日(2006.11.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−132769(P2005−132769)
【出願日】平成17年4月28日(2005.4.28)
【出願人】(591258587)日本カラリング株式会社 (36)
【Fターム(参考)】