説明

レーザー加工装置

【課題】光学部品の保護をより適切に行うことが可能なレーザー加工装置を提供することを目的の一とする。
【解決手段】本発明のレーザー加工装置1は、加工点と保護部材の間の空間において、保護部材側から加工点側に向けて気体の流れを発生させるノズルを有することを特徴としている。ノズルは、集光器で集光されるレーザービームの光路の周囲に気体を導く第一の流路部と、第一の流路部に連続して形成され、集光器で集光されるレーザービームの周囲から中心へ向けて保護部材の表面に沿うように気体を導くと共に集光器で集光されるレーザービームの光路に沿って保護部材側から加工点側に向けて前記気体を導く第二の流路部と、を含み、第二の流路部は保護部材側から加工点側へ向けて徐々に流路径が小さくなる逆円錐形状の空洞によって形成される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ウェーハ等のワークに対してレーザービームを照射し、アブレーション加工を施すレーザー加工装置に関する。
【背景技術】
【0002】
ICやLSIなどの半導体集積回路は、通常、ワーク表面のストリートと呼ばれる分割予定ラインによって区画された領域内に形成される。そして、半導体デバイスの製造工程においては、ワークを、格子状のストリートに沿って切断することで複数の半導体チップに分割している。
【0003】
ワークのストリートに沿った切断は、メカニカルダイシングによって行われることが多い。メカニカルダイシングは、ダイサーと呼ばれる切削装置を用いて行われるため、厚いウェーハを高速に分割できるというメリットがある。一方で、半導体デバイスの微細化によってlow-k膜が用いられるようになると、メカニカルダイシングでは、当該膜の剥離やクラックといった深刻な問題が生じ、十分な切断速度を確保することが難しくなる。
【0004】
上述の問題を解消する手段の一つとして、レーザー光線の照射によって部材の一部を昇華させ、切断する加工技術が実用化されている。アブレーション加工と呼ばれる当該技術においては、加工点から加工屑(デブリ)が飛散するため、加工装置の性能低下を防止するために集光レンズなどの光学部品を保護する必要が生じる。このような保護を実現するために、光学部品側から加工点側に向けて気体を吹き付けながらレーザー加工を行うレーザー加工装置が提案されている(例えば、特許文献1参照)。このレーザー加工装置は、加工ヘッドの下端側に気室を配置し、気室側面の導入孔から導入した気体を気室下面の吹き付け孔から吹き付けている。また、加工屑等から光学部品を保護するために、レーザー加工装置が保護部材を有する場合もある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】実開平2−076836号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1に記載のようなレーザー加工装置では、気室内の空間、導入孔および吹き付け孔のみで気体の流路が形成されているため、気室内の空間において気体の滞留が生じていた。このため、ひとたび加工屑が気室内に侵入すると、加工屑が光学部品や保護部材に付着し、光学部品や保護部材が汚染されてしまうという問題があった。そのために、レーザー加工装置のメンテナンス頻度が高くなり、レーザー加工装置のスループットが低下し、製造コストが増大するという問題も生じていた。
【0007】
本発明はかかる点に鑑みてなされたものであり、光学部品や保護部材の保護をより適切に行うことが可能なレーザー加工装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明のレーザー加工装置は、ワークを保持する保持手段と、前記保持手段に保持されたワークにレーザービームを照射してアブレーション加工を施す加工手段と、を有するレーザー加工装置であって、前記加工手段は、レーザービームを発振する発振器と、前記発振器から発振したレーザービームをワークへ向けて集光する集光器と、レーザービームを透過する部材で構成され、加工点と前記集光器の間に配設され、アブレーション加工によって発生する加工屑から前記集光器を保護する保護部材と、前記加工点と前記保護部材の間の空間において、前記保護部材側から前記加工点側に向けて気体の流れを発生させるノズルと、前記ノズルに前記気体を供給する気体供給部と、を有し、前記ノズルは、前記集光器で集光されるレーザービームの光路の周囲に前記気体供給部から供給された前記気体を導く第一の流路部と、前記第一の流路部に連続して形成され、前記集光器で集光されるレーザービームの周囲から中心へ向けて前記保護部材の表面に沿うように前記気体を導くと共に前記集光器で集光されるレーザービームの光路に沿って前記保護部材側から前記加工点側に向けて前記気体を導く第二の流路部と、を含み、前記第二の流路部は前記保護部材側から前記加工点側へ向けて徐々に流路径が小さくなる逆円錐形状の空洞によって形成されることを特徴とする。
【0009】
この構成によれば、レーザービームの周囲から中心へ向けて保護部材の表面に沿うように気体を導くと共に、レーザービームの光路に沿って保護部材側から加工点側に向けて気体を導くことができる。このため、気体の滞留に起因する加工屑の保護部材への付着を防ぐことができる。また、逆円錐形状の流路部を採用することで、保護部材側から加工点側に向けて気体を導くと共に、加工点側の気体の流速を高めることができるため、加工屑の保護部材への付着を効果的に防ぐことができる。また、逆円錐形状の流路部を採用することで、加工点側の開口が小さくなるため、加工屑の流路への侵入を抑制し、加工屑の保護部材への付着を効果的に防ぐことができる。また、保護部材の表面に沿うように気体が導かれるため、この気体の流れによって保護部材を洗浄することもできる。これにより、レーザー加工装置のメンテナンス頻度を低く抑えることができる。
【発明の効果】
【0010】
本発明のレーザー加工装置は、保護部材側から加工点側に向けて気体の流れを発生させるノズルを具備している。このため、気体の滞留を抑制し、加工屑による光学部品や保護部材の汚染を防ぐことができる。また、気体の流れによって光学部品や保護部材を洗浄することができるため、光学部品や保護部材を清浄な状態に保つことができる。このように、本発明のレーザー加工装置では、従来のレーザー加工装置と比較して光学部品や保護部材の保護がより適切に行われる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】レーザー加工装置の構成を示す斜視図である。
【図2】光学系の構成を示す模式図である。
【図3】ノズルユニットの構成を示す断面模式図である。
【図4】ノズルの構成を示す部分拡大図である。
【図5】ノズルユニットにおける気体の流れ示す断面模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の実施の形態について添付図面を参照して詳細に説明する。
【0013】
はじめに、図1を参照して、レーザー加工装置の概要について説明する。図1は、本発明の実施の形態に係るレーザー加工装置の斜視図である。
【0014】
図1に示すように、レーザー加工装置1は、ウェーハWにレーザービームを照射するレーザー加工ユニット(加工手段)26とウェーハWを保持する保持テーブル(保持手段)20とを相対移動させて、ウェーハWを加工するように構成されている。ウェーハWは略円板状であり、表面に格子状に配列された分割予定ライン64によって複数の領域に区画されている。この区画された領域には、電子回路が集積された態様で形成されている。ウェーハWは、貼着テープ31を介して環状フレーム32に支持され、レーザー加工装置1に搬入される。
【0015】
なお、本実施の形態では、レーザー加工装置1によって加工することができるワークとして、シリコン、ガリウムヒ素、シリコンカーバイド等のウェーハを用いる場合を例に挙げて説明するが、レーザー加工装置1によって加工することができるワークは、これに限定されない。例えば、ワークには、セラミック、ガラス、サファイア等の無機材料基板、チップ実装のためにウェーハの裏面に設けられるDAF(Die Attach Film)等の粘着部材、液晶ディスプレイドライバー等の各種電子部品、半導体製品のパッケージ、高い加工精度が要求される各種加工材料などが含まれる。
【0016】
レーザー加工装置1は、直方体状の加工台10と、加工台10の上面後方に立設した支柱部24とを有している。支柱部24の前面には、前方に突出したアーム部25が設けられ、アーム部25の先端側にはレーザー加工ユニット26の加工ヘッド27が設けられている。加工ヘッド27の下端側には、ノズルユニット100が設けられている。また、加工台10の上面には、Y軸方向に延在する一対のガイドレール11a、11bが設けられている。一対のガイドレール11a、11bには、加工送り方向となるY軸方向に移動可能に支持されたモーター駆動のY軸テーブル12が配置されている。
【0017】
Y軸テーブル12の上面には、X軸方向に延在する一対のガイドレール15a、15bが設けられている。一対のガイドレール15a、15bには、割出送り方向となるX軸方向に移動可能に支持されたモーター駆動のX軸テーブル16が配置されている。X軸テーブル16の上面には、保持テーブル20が設けられている。また、Y軸テーブル12、X軸テーブル16の背面側には、それぞれ図示しないナット部が形成され、これらナット部にそれぞれボールネジ13、17が螺合されている。ボールネジ13、17の一端部には、駆動モーター14、18が連結され、この駆動モーター14、18によりボールネジ13、17が回転駆動される。
【0018】
保持テーブル20は、X軸テーブル16の上面においてZ軸回りに回転可能なθテーブル21と、θテーブル21の上部に設けられ、ウェーハWを吸着保持するワーク保持部22とを有している。ワーク保持部22は、所定の厚みを有する円板状であり、上面中央部分にはポーラスセラミック材により吸着面が形成されている。吸着面は、負圧により貼着テープ31を介してウェーハWを吸着する面であり、θテーブル21の内部の配管を介して吸引源に接続されている。
【0019】
ワーク保持部22の周囲には、θテーブル21の四方から径方向外側に延びる一対の支持アームを介して4つのクランプ部23が設けられている。この4つのクランプ部23は、エアーアクチュエータにより駆動し、ウェーハWの周囲の環状フレーム32を四方から挟持固定する。
【0020】
レーザー加工ユニット26は、アーム部25の先端に設けられた加工ヘッド27を有している。加工ヘッド27は、ウェーハWを加工するためのレーザービームを、ウェーハWに向けて照射する。加工ヘッド27、アーム部25、支柱部24内には、レーザー加工ユニット26の光学系(図2参照)が設けられている。なお、レーザー加工ユニット26の光学系は、加工ヘッド27、アーム部25、支柱部24にまたがって形成される構成に限定されるものではなく、加工ヘッド27内にのみ形成される構成としてもよい。
【0021】
ここで、図2を参照して、レーザー加工装置の光学系について説明する。図2は、本発明の実施の形態に係るレーザー加工装置の光学系の模式図である。
【0022】
図2に示すように、レーザー加工装置1の光学系は、ウェーハWに対してレーザービーム47を発振する発振器41と、発振器41が発振したレーザービーム47をウェーハWの内部に集光する集光器44とを備えている。発振器41から発振されるレーザービーム47の光路上には、上記した集光器44の他に、ミラー43などが配置されている。
【0023】
発振器41としては、ルビーやYAGなどの結晶をレーザー媒質として用いた固体レーザー、ガリウムヒ素やインジウムガリウムヒ素リンなどの半導体をレーザー媒質として用いた半導体レーザー、ヘリウム−ネオンやアルゴンなどの気体をレーザー媒質として用いた気体レーザー、アルゴンやクリプトン、キセノンなどの希ガスと、フッ素や塩素などのハロゲンの混合気体をレーザー媒質として用いたエキシマレーザー、などの各種発振器を用いることができる。発振器41によるレーザー発振の態様は、出力特性からパルス発振であることが望ましいが、連続発振であっても構わない。
【0024】
集光器44は、主に、レーザービームを透過、集光可能な集光レンズで構成される。もちろん、集光器44は、その他の光学部品を組み合わせてもよい。集光器44に用いることができる光学部品の点数についても特に制限はなく、ワークであるウェーハWの加工点への集光を、適切に実現できる構成を採用すればよい。
【0025】
図2に示す光学系では、発振器41から出射されたレーザービーム47は、ミラー43にて集光器44に向けられ、集光器44を通じてワークであるウェーハWの加工点に集光される。レーザー加工装置1は、加工ヘッド27に対して保持テーブル20を、分割予定ライン64に沿って加工送りすることにより、ウェーハWを分割する。
【0026】
次に、図3および図4を参照して、加工ヘッド27の下端側に設けられたノズルユニットおよびノズルについて説明する。
【0027】
図3は、本発明の実施の形態に係るレーザー加工装置のノズルユニットの断面模式図である。ノズルユニット100は、中空円筒状の筒状部材101Aと、筒状部材101Aの下部に接続された、下面に気体噴出用の開口115が形成された筐体109とを有する。筐体109の内部は、仕切り113によって上部空間111Aおよび下部空間111Bに分けられている。また、筒状部材101Aの内側には、上部空間111Aに連通された筒状空間101Cが形成されている。筒状部材101Aの上部には、保護部材107が設けられ、この保護部材107によって、筒状空間101Cと光学系の収容空間とが隔てられている。
【0028】
上部空間111Aは、筒状空間101C内に気体を取り込むための供給流路111Cに連通されている。また、上部空間111Aは、仕切り113に設けられた開口116(図4参照)を介して下部空間111Bに連通されている。下部空間111Bは、加工点側から取り込まれた加工屑などを外部に排出するための排出流路111Dに連通されている。また、下部空間111Bは、開口115を介して外部に連通している。また、供給流路111Cの上流側には気体供給部103が設けられており、排出流路111Dの下流側には気体排出部105が設けられている。
【0029】
上部空間111Aおよび筒状空間101Cには、外周面にくびれを有する円柱形状のノズル101が組み込まれている。また、円柱形状のノズル101には、内側に逆円錐形状の空洞133が形成されている。ノズル101の外径は、筒状部材101Aの内径よりわずかに小さく形成されている。このため、ノズル101は、筒状部材101Aの内側に隙間を空けて配置され、この隙間によって気体の流路を形成している。
【0030】
ノズル101は、上部空間111Aおよび筒状空間101Cに配置されることで、ノズルユニット100内に流路を形成し、保護部材側から加工点側に向けて気体の流れを発生させる。この構成により、ノズルユニット100内に気体を滞留させない構造になっている。このようなノズル101を有することによって、レーザー加工装置1における光学部品の汚染を低減することができる。
【0031】
気体供給部103には、図示しない気体供給手段が接続される。気体供給手段は、例えば、エアーを圧縮して供給することができるコンプレッサーである。この場合、気体供給手段から気体供給部103に供給される気体は、空気から汚染源となる物質を除去したクリーンエアーとすることが望ましい。なお、気体供給手段から気体供給部103に供給される気体の種類はクリーンエアーに限定されない。例えば、ワークなどとの反応性が低い不活性気体を用いることができる。不活性気体としては、ヘリウムやアルゴンをはじめとする希ガス、窒素などが適用されうる。なお、この場合には、気体供給手段は、例えば、ガスボンベである。
【0032】
気体排出部105には、図示しない排気手段が接続される。排気手段は、例えば、ロータリーポンプやターボポンプなどの真空ポンプである。なお、排気手段は、ノズル101からの気体やアブレーション加工に起因する加工屑などを十分に排出できるものであればどのようなものであっても良く、いわゆる真空ポンプに限定する必要はない。また、排気手段は、加工屑を捕集するフィルタなどを備えていてもよい。
【0033】
保護部材107は、レーザービームを透過する材料で構成される。当該材料は、用いるレーザービームの波長に応じて適宜変更することができるが、例えば、紫外域の波長のレーザービームを用いる場合にはフッ化カルシウム(透過波長域:170nm〜)を、可視域の波長のレーザービームを用いる場合にはサファイア(透過波長域:210nm〜)を、赤外域の波長のレーザービームを用いる場合にはセレン化亜鉛(透過波長域:650nm〜10μm)を、それぞれ用いることができる。もちろん、保護部材107に用いることができる材料はこれに限定されない。
【0034】
次に、ノズル101について、より詳細に説明する。
【0035】
図4は、本発明の実施の形態に係るレーザー加工装置のノズルの部分拡大図である。ノズル101は、内部に逆円錐形状の空洞133を有する略中空円筒状の部材である。ノズル101は、上記したように上部空間111Aおよび筒状空間101Cに組み込まれている。ノズル101は、筒状部材101Aの内径よりわずかに小さな外形を有し、ノズル101の外周面と筒状部材101Aの内周面との間に隙間を形成する。ノズル101の外周面には、くびれが形成されており、くびれに相当する中央部分で外径が小さく形成される。このため、ノズル101の外周面と筒状部材101Aの内周面との隙間は、くびれ部分で広く形成され、くびれ部分の上方において狭く形成される。
【0036】
このようにして、ノズルユニット100内には、ノズル101の外周面のくびれ部分により環状流路121と、くびれ部分の上方にスリット状流路123とが形成される。この環状流路121およびスリット状流路123は、レーザービームの光路の周囲に、供給流路111Cから流入した気体を導く第一の流路部125を形成する。この第一の流路部125においては、環状流路121とスリット状流路123とで流路の広さが異なるため、供給流路111Cから流入した気体は、流路の狭いスリット状流路123よりも流路の広い環状流路121に流れ込みやすくなっている。
【0037】
したがって、供給流路111Cから流入した気体は、環状流路121全体を回り込むように流れた後に、スリット状流路123から流出される。このように、第一の流路部125は、環状流路121とスリット状流路123とを有する構成によって、気体供給部103から供給された気体をレーザービームの光路の周囲に均等に導く効果を奏する。
【0038】
また、ノズル101は、その上部が、保護部材107の下面から離間するように組み込まれている。このため、ノズル101の上方には、筒状部材101Aの内周面および保護部材107の下面によって囲まれた筒状の空間131が形成される。筒状の空間131は、ノズル101に設けられた逆円錐形状の空洞133に連通されている。この筒状の空間131および空洞133は、レーザービームの光路に沿って保護部材107側から加工点に向けて気体を導く第二の流路部135を形成する。
【0039】
この第二の流路部135においては、スリット状流路123から流入した気体は、筒状の空間131において保護部材107の下面に沿って流れた後に下方に向かい、逆円錐形状の空洞133内を介して加工点に向けて噴出される。このとき、筒状の空間131内を流れる気体は、保護部材107の下面に沿って流れることで、保護部材107の洗浄を行っている。
【0040】
また、第二の流路部135の空洞133は、逆円錐形状であるため、加工点側の開口が小さく形成される。このため、空洞133は、加工点側の気体の流速を高めて、加工点に向けて噴射可能となっている。また、空洞133は、レーザービームに沿うような逆円錐形状に形成されている。このため、空洞133を流れる気体は、ノズル101の上部においてレーザービームの周囲から中心へ向けて保護部材107の表面に沿うように流れ、ノズル101の内部を保護部材107側から加工点側に向けて流れることになる。このような構成により、第二の流路部135は、第一の流路部125から均等に導かれた気体を滞留させることなく噴出させ、保護部材107を洗浄すると共に、ノズル101への加工屑の侵入を抑制する効果を奏する。
【0041】
第一の流路部125と第二の流路部135との連通部分においては、スリット状流路123が筒状の空間131に連通されている。このため、第一の流路部125に導かれた気体は、スリット状流路123において流速が高められて保護部材107に強く吹き付けられる。この構成により、気体による保護部材107の強力な洗浄の効果を奏する。
【0042】
また、ノズルユニット100の下部空間111Bにおいては、加工点側から飛散した加工屑が取り込まれる。下部空間111Bに取り込まれた加工屑は、排出流路111Dを介して排出される。このとき、下部空間111Bには、ノズル101の先端が突出しているが、先端の開口が小さく形成されると共に、加工点側への気体の噴射によりノズル101内への加工屑の侵入が抑制されている。
【0043】
なお、第二の流路部135の空洞131の形状は、保護部材107側と比較して加工点側が狭まった形状であれば、逆円錐形状に限定する必要はない。具体的には、例えば、逆角錐形状、円錐台形状、角錐台形状、などの形状を採用することが可能である。少なくとも、保護部材107側と比較して加工点側が狭まった形状となっていれば、気体の流れを発生させると共に、加工点側の開口を小さくすることができるためである。ここで、「逆円錐形状」とは、底面が上部に、頂点が下部に存在する態様の円錐形状をいう。逆角錐形状、逆円錐台形状、逆角錐台形状などについても同様とする。
【0044】
次に、図5を参照して、本発明のノズルを有する構造における気体の流れと、比較例であるノズルを有しない構造における気体の流れについて説明する。図5(A)は本発明のノズルを有する本実施の形態に係る構造であり、図5(B)は本発明のノズルを有さない比較例に係る構造である。なお、比較例は、説明の便宜上、ノズル以外の構成は本実施の形態に係る構成と同じとした。
【0045】
図5(A)に示すように、本実施の形態に係るノズルユニット100では、ノズル101によりレーザービームの光路に沿って気体を流す流路が形成されている。すなわち、気体供給部103から供給された気体は、環状流路121およびスリット状流路123からなる第一の流路部125と、筒状の空間131および逆円錐状の空洞133からなる第二の流路部135とを通じて加工点に向けて噴射される。第一の流路部125では、供給された気体は、上述したように、環状流路121全体に回り込むように流れた後、スリット状流路123から保護部材107に向けて均等に流出する。
【0046】
第二の流路部135では、スリット状流路123から流出した気体は、保護部材107に吹き付けられた後、逆円錐状の空洞133を介して加工点側の気体の流速が大きくなるように流れて開口115から噴出する。すなわち、図5(A)の構造では、保護部材側から加工点側に向けた気体の流れが生じる。また、加工点側から飛散した加工屑は、ノズル101の開口を介して第二の流路部135内に侵入することなく、排出流路111Dを介して排出される。
【0047】
一方、図5(B)に示すように、比較例に係るノズルユニットでは、本発明のノズルを有しないため、レーザービームの光路に沿うような気体の流路が形成されない。すなわち、気体供給部103から供給された気体は、気室201下面の開口203および開口205から直ちに流出し、加工点に向けて噴出される。つまり、気室201内において、気体の流れが生じるのは気室201内の下部の領域のみとなり、気室201内の他の領域においては、気体は滞留する。
【0048】
このように、比較例のノズルユニットにおいても、気室201内への加工屑の侵入を抑制するために開口205から気体を噴射させると共に、排出流路111Dを介して加工屑の排出が行われている。しかし、このような構成では、気室内で気体が滞留するため、ひとたび加工屑が気室内に侵入すると、加工屑が保護部材などに付着して汚染されてしまうという問題がある。つまり、比較例のノズルユニットでは、本実施の形態に係るノズルユニット100と比較して保護部材などの保護は十分ではない。
【0049】
次に、ウェーハの分割方法の全体的な流れについて説明する。まず、保持テーブル20にウェーハWが載置されると、保持テーブル20が加工ヘッド27の加工位置に移動される。次に、加工ヘッド27の出射口がウェーハWの分割予定ライン64に位置合わせされると共に、集光器44によりレーザービームの焦点がウェーハWの加工点に調整され、アブレーション加工処理が開始される。
【0050】
この場合、保持テーブル20がウェーハWを保持した状態でY軸方向に加工送りされ、分割予定ライン64に沿ってウェーハWが分割される。続いて、保持テーブル20が数ピッチ分だけX軸方向に移動され、加工ヘッド27の出射口が隣接する分割予定ライン64に位置合わせされる。そして、保持テーブル20がウェーハWを保持した状態でY軸方向に加工送りされ、分割予定ライン64に沿ってウェーハWが分割される。この動作が繰り返されてウェーハWのY軸方向の全ての分割予定ライン64に沿ってウェーハWが分割される。次に、θテーブル21が90度回転され、同様な動作により、ウェーハWのX軸方向の全ての分割予定ライン64に沿ってウェーハWが分割される。すべてのアブレーション加工処理が完了すると、ウェーハWは保持テーブル20から取り外される。
【0051】
以上、この構成によれば、保護部材107側から加工点側に向けて気体の流れを発生させるノズル101を具備することにより、気体の滞留を抑制し、加工屑による光学部品や保護部材107の汚染を防ぐことができる。また、気体の流れによって光学部品や保護部材107を洗浄することができるため、光学部品や保護部材107を清浄な状態に保つことができる。つまり、実施の形態にかかるレーザー加工装置1によれば、アブレーション加工時に生じる加工屑の光学部品や保護部材107への付着を抑制しつつ、ウェーハWの分割を適切に行うことができる。このため、レーザー加工装置1のメンテナンス頻度を低く抑え、レーザー加工装置1のスループットを向上させることができる。また、メンテナンス頻度の増大に起因する半導体集積回路などの製造コストの増大を抑制することができる。
【0052】
以上、本発明のレーザー加工装置1の一例について説明したが、本発明は上記実施の形態に限定されず、種々変更して実施することが可能である。例えば、上記実施の形態では、光学系を、発振器41、ミラー43および集光器44によって構成しているが、光学系の構成はこれに限定されず、ビームエキスパンダーなどを適宜組み合わせることが可能である。また、上記実施の形態では、ノズル101の形状を、側面にくびれを有する円柱形状としているが、ノズル101の形状はこれに限定されず、例えば、側面にくびれを有する多角柱形状としても良い。また、第一の流路部125や第二の流路部135の形状なども、気体を滞留させないものであれば、上記実施の形態に限定されない。すなわち、ノズル101の形状は、本発明の効果を発揮する範囲内で適宜変更することが可能である。また、上気実施の形態では、気体排出部105を設けているが、気体排出部105を設けない構成としてもよい。
【0053】
また、上記実施の形態において、添付図面に図示されている大きさや形状などについては、これに限定されず、本発明の効果を発揮する範囲内で適宜変更することが可能である。例えば、上気実施の形態においては、ノズルが有する空洞の形状を逆円錐形状としているが、当該空洞の形状は本発明の効果を失わない範囲において変更可能である。その他、本発明は、本発明の目的の範囲を逸脱しない限りにおいて適宜変更して実施することが可能である。
【産業上の利用可能性】
【0054】
本発明のレーザー加工装置は、例えば、半導体集積回路の製造工程において、ワークの切断のために用いることが可能である。
【符号の説明】
【0055】
1 レーザー加工装置
20 保持テーブル(保持手段)
26 レーザー加工ユニット(加工手段)
27 加工ヘッド
41 発振器
43 ミラー
44 集光器
64 分割予定ライン
100 ノズルユニット
101 ノズル
101A 筒状部材
101C 筒状空間
103 気体供給部
105 気体排出部
107 保護部材
111A 上部空間
111B 下部空間
111C 供給流路
111D 排出流路
121 環状流路
123 スリット状流路
125 第一の流路部
131 筒状の空間
133 逆円錐状の空洞
135 第二の流路部
W ウェーハ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ワークを保持する保持手段と、前記保持手段に保持されたワークにレーザービームを照射してアブレーション加工を施す加工手段と、を有するレーザー加工装置であって、
前記加工手段は、
レーザービームを発振する発振器と、
前記発振器から発振したレーザービームをワークへ向けて集光する集光器と、
レーザービームを透過する部材で構成され、加工点と前記集光器の間に配設され、アブレーション加工によって発生する加工屑から前記集光器を保護する保護部材と、
前記加工点と前記保護部材の間の空間において、前記保護部材側から前記加工点側に向けて気体の流れを発生させるノズルと、
前記ノズルに前記気体を供給する気体供給部と、を有し、
前記ノズルは、
前記集光器で集光されるレーザービームの光路の周囲に前記気体供給部から供給された前記気体を導く第一の流路部と、
前記第一の流路部に連続して形成され、前記集光器で集光されるレーザービームの周囲から中心へ向けて前記保護部材の表面に沿うように前記気体を導くと共に前記集光器で集光されるレーザービームの光路に沿って前記保護部材側から前記加工点側に向けて前記気体を導く第二の流路部と、を含み、
前記第二の流路部は前記保護部材側から前記加工点側へ向けて徐々に流路径が小さくなる逆円錐形状の空洞によって形成されることを特徴とするレーザー加工装置。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2012−30235(P2012−30235A)
【公開日】平成24年2月16日(2012.2.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−169757(P2010−169757)
【出願日】平成22年7月28日(2010.7.28)
【出願人】(000134051)株式会社ディスコ (2,397)
【Fターム(参考)】