説明

レーザー溶着用ポリエステル樹脂組成物及びレーザー溶着方法

【課題】
レーザー光透過性、成形性、機械的強度、難燃性に優れ、レーザー溶着により溶着強度の大きい成形品を与えるポリエステル樹脂組成物を提供する。
【解決手段】
(A)ポリエステル樹脂100重量部に対して、(B)ハロゲン原子を有するアクリル系化合物重合体2〜50重量部及び(C)強化充填材0〜100重量部を配合する。好ましいハロゲン原子を含有するアクリル系化合物重合体はポリ(ハロゲン化ベンジル(メタ)アクリレート)である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、レーザー溶着用ポリエステル樹脂組成物に関する。詳しくは、レーザー光透過性及び難燃性に優れ、レーザー溶着により大きな溶着強度が得られるという特徴を有するポリエステル樹脂組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリブチレンテレフタレート樹脂やポリエチレンテレフタレート樹脂に代表されるポリエステル樹脂は、耐熱性、耐薬品性、電気特性、機械的性質に優れ、工業用樹脂として広く用いられている。特に、ポリブチレンテレフタレート樹脂は結晶化速度が速いため、射出成形に好適に用いられる。近年、その多様な用途は、自動車電装部品(コントロールユニット等)、各種センサー部品、コネクター部品等のように、電気回路部分を密封する製品にも展開が進んできた。これらの用途では、安全性を確保するため優れた難燃性が要求される。また、複数の部材を接合して電気回路部分を密封する方法としては、接着剤、超音波溶着、熱板溶着、レーザー溶着等いくつかの方法が行われている。
【0003】
しかしながら、接着剤による方法は、接着剤が硬化するまでの時間を要することに加え、ガスが発生して周囲を汚染する等の環境負荷の問題がある。また超音波溶着、熱板溶着等は、接合に際しての振動や熱による製品の損傷、摩耗粉やバリが発生して後処理が必要になる等の問題がある。
【0004】
これに対しレーザー溶着は、摩耗粉やバリの発生が無く、製品への悪影響も少ないという利点がある。しかし、ポリブチレンテレフタレート樹脂は、一般にレーザー光の透過率が低いため、製品の肉厚設計に制約を受けるという問題がある。肉厚の部材を溶着するためレーザー出力を上げると、レーザー入射側の表面での溶融、発煙、接合界面での異常発熱による気泡発生等の不具合が発生する恐れがある。
【0005】
ポリブチレンテレフタレート樹脂をレーザー溶着するに際してのこのような問題の解決策として、ポリブチレンテレフタレート樹脂にポリカーボネート系樹脂、ポリスチレン系樹脂等の非晶性樹脂やエラストマー等を配合して、レーザー溶着性を向上させることが提案されている(特許文献1〜4参照)。しかしながら、これらの方法では、ポリブチレンテレフタレート樹脂及びこれに配合する樹脂はいずれも難燃性に乏しいので、得られる樹脂組成物を難燃性にするには、さらに難燃剤を配合しなければならない。しかし難燃剤を配合すると、レーザー溶着性の向上が阻害される場合がある。
【0006】
【特許文献1】WO2003/085046号公報
【特許文献2】特開2003−292752号公報
【特許文献3】特開2004−315805号公報
【特許文献4】WO2005/035657号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は高い難燃性を示すと共にレーザー光透過性に優れ、従って優れたレーザー溶着特性を発揮するポリエステル樹脂組成物を提供しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記の課題を解決すべく鋭意研究を重ねた結果、驚くべきことに、ポリエステル樹脂にハロゲン原子を有するアクリル系化合物重合体を配合することにより、上記の課題を容易に解決し得ることを見出し、本発明の完成に至った。
【0009】
すなわち本発明の要旨は、
(A)ポリエステル樹脂 100重量部に対して、
(B)ハロゲン原子を有するアクリル系化合物重合体 2〜50重量部、及び
(C)強化充填材 0〜100重量部
を配合して成ることを特徴とするレーザー溶着用ポリエステル樹脂組成物
に存する。
【発明の効果】
【0010】
本発明の樹脂組成物は、レーザー光透過性等のレーザー溶着特性に優れており、同時に難燃性にも優れている。従って、本発明の樹脂組成物は、電気電子部品、自動車部品等に好適に使用することができる。さらに、二つの部材を接合して成形品を製造するに際し、その少なくとも一方に本発明の樹脂組成物から成る部材を用いてレーザー溶着することにより、強固に接着した成形品を得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下、本発明について詳細に説明する。なお、本明細書において「〜」は、その前後に記載されている数値を下限値及び上限値として含んでいる。
(A)ポリエステル樹脂:
本発明に係る樹脂組成物の主体であるポリエステル樹脂としては、熱可塑性樹脂として公知のポリエステル樹脂を広く用いることができる。ポリエステル樹脂は、1種のみでも、2種以上を併用してもよい。好ましくは、芳香族ジカルボン酸又はそのエステル形成性誘導体と、脂肪族ジオールとからなるポリエステル樹脂を用いる。
【0012】
芳香族ジカルボン酸としては、テレフタル酸、フタル酸、イソフタル酸、4,4’−ジフェニルジカルボン酸、4,4’−ジフェニルエーテルジカルボン酸、4,4’−ベンゾフェノンジカルボン酸、4,4’−ジフェノキシエタンジカルボン酸、4,4’−ジフェニルスルホンジカルボン酸及び2,6−ナフタレンジカルボン酸等が挙げられる。なかでも好ましいのはテレフタル酸である。
【0013】
芳香族ジカルボン酸のエステル形成性誘導体としては、芳香族ジカルボン酸の低級アルキル(例えば、炭素原子数1〜4)エステルあるいはグリコールエステルが挙げられ、なかでもテレフタル酸の低級アルキルエステルが好ましい。
【0014】
脂肪族ジオールとしては、エチレングリコール、1,4−ブタンジオール、ジエチレングリコール、1,2−プロパンジオール、1,3−プロパンジオール、1,5−ペンタンジオール、ネオペンチルグリコール、1,6−ヘキサンジオール、1,8−オクタンジオール等炭素原子数2〜20のものが挙げられる。なかでも好ましいのはエチレングリコール又は1,4−ブタンジオールである。
【0015】
ポリエステル樹脂としては、上記の芳香族ジカルボン酸と脂肪族ジオールから成るもののなかでも、ポリエチレンテレフタレート樹脂又はポリブチレンテレフタレート樹脂を用いるのが好ましい。ここでポリエチレンテレフタレート樹脂及びポリブチレンテレフタレート樹脂とは、カルボン酸成分の70モル%、好ましくは90モル%以上がテレフタル酸であり、ジオール成分の70モル%、好ましくは90モル%以上がエチレングリコール又は1,4−ブタンジオールであるものを意味する。カルボン酸成分の95モル%以上がテレフタル酸であり、ジオール成分の95モル%以上がエチレングリコール又は1,4−ブタンジオールであるポリエステル樹脂を用いるのが最も好ましい。
【0016】
なお、本発明では、ポリエステル樹脂としては上記のもの以外にも、種々のジカルボン酸とジオールとからなるものを用いることができる。また上記のポリエステル樹脂に、これらのジカルボン酸成分やジオール成分を含有させた、共重合ポリエステル樹脂を用いることもできる。
【0017】
このようなジカルボン酸としては、例えば、マロン酸、コハク酸、グルタル酸、アジピン酸、ピメリン酸、スベリン酸、アゼライン酸、セバシン酸等の脂肪族ジカルボン酸;1,2−シクロヘキサンジカルボン酸、1,3−シクロヘキサンジカルボン酸、1,4−シクロヘキサンジカルボン酸等の脂環式ジカルボン酸が挙げられる。
ジオールとしては、1,2−シクロヘキサンジオール、1,4−シクロヘキサンジオール、1,1−シクロヘキサンジメチロール及び1,4−シクロヘキサンジメチロール等の炭素原子数6〜20の脂環式ジオール;キシリレングリコール、4,4―ジヒドロキシビフェニル、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパン、ビス(4−ヒドロキシフェニル)スルホン等の炭素原子数6〜16の芳香族ジオールが挙げられる。
【0018】
また、ポリエステル樹脂には、乳酸、グリコール酸、m−ヒドロキシ安息香酸、p−ヒドロキシ安息香酸、6−ヒドロキシ−2−ナフタレンカルボン酸、p−β―ヒドロキシエトキシ安息香酸等のヒドロキシカルボン酸;アルコキシカルボン酸、ステアリン酸、安息香酸、tert−ブチル安息香酸、ベンゾイル安息香酸、ステアリルアルコール、ベンジルアルコール等の単官能成分;トリカルバリル酸、トリメリット酸、トリメシン酸、ピロメリット酸、没食子酸、トリメチロールエタン、トリメチロールプロパン、グリセロール、ぺンタエリスリトール等の三官能以上の多官能成分を少量共重合させることもできる。
【0019】
本発明ではポリエステル樹脂として、前述のようにポリエチレンテレフタレート樹脂やポリブチレンテレフタレート樹脂を用いるのが好ましいが、ポリブチレンテレフタレート樹脂又はこれとポリエチレンテレフタレート樹脂との混合物を用いてもよい。即ち本発明に係る樹脂組成物は、ポリブチレンテレフタレート樹脂を主体とするものであるのが好ましい。
【0020】
ポリブチレンテレフタレート樹脂としては、固有粘度(テトラクロロエタンとフェノールが1:1(重量比)の混合溶媒中、30℃で測定)が0.5〜3dl/gのものが好ましい。固有粘度が0.5dl/gよりも小さいと、機械的性質に優れた組成物を得ることが困難である。また3dl/gより大きいと、組成物の流動性が小さく、成形加工が困難となる。一般的には0.5〜1.5dl/g、特に0.6〜1.3dl/gの固有粘度のものを用いるのが好ましい。なお固有粘度の異なる複数の樹脂を併用して、上記の固有粘度となるようにしてもよい。
【0021】
ポリブチレンテレフタレート樹脂の末端カルボキシル基濃度は、耐加水分解性の点よりして、40eq/ton以下、特に30eq/ton以下であるのが好ましい。末端カルボキシル基濃度とは、ベンジルアルコール25mlにポリブチレンテレフタレート樹脂0.5gを溶解し、水酸化ナトリウムの0.01モル/lベンジルアルコール溶液を用いて滴定により求めた値である。末端カルボキシル基濃度を調整する方法としては、例えば、重合時の原料仕込み比、重合触媒の種類と量、重合温度、減圧方法等の重合条件を調整する方法や、末端封鎖剤を反応させる方法等、公知の任意の方法を適用することができるが、重合条件を調整する方法を採用することが好ましい。例えば、テレフタル酸と1,4−ブタンジオールを溶融重縮合して比較的分子量の小さいポリブチレンテレフタレート樹脂を製造し、次いで所望の分子量となるまで固相重縮合する方法を用いることができる。
【0022】
ポリブチレンテレフタレート樹脂の製造は公知の種々の方法で行うことができるが、テレフタル酸と1,4−ブタンジオールを原料として、エステル化反応及び重縮合反応を連続的に行う連続法を用いることが好ましい。原料であるテレフタル酸と1,4−ブタンジオールの仕込み比は、テレフタル酸1モルに対し1,4−ブタンジオールが1.1〜5モルの範囲であることが好ましく、1.5〜4.5モルの範囲であることがより好ましい。
【0023】
重合触媒としては、種々の公知の触媒を使用することが可能であるが、中でも、チタン化合物を主体とし、これに1族金属化合物及び/又は2族金属化合物を併用するのが好ましい。これらの重合触媒は、他の触媒に比べ、重合時の原料混合物中での分散性に優れているため、重合をより効果的に進めることができる。
【0024】
チタン化合物としては特に制限はなく、例えば、酸化チタン、四塩化チタン等の無機チタン化合物類、テトラメチルチタネート、テトライソプロピルチタネート、テトラブチルチタネート等のチタンアルコラート類、テトラフェニルチタネート等のチタンフェノラート類等が挙げられる。中でも、チタンアルコラート類が好ましく、さらにはテトラアルキルチタネート類、特にテトラブチルチタネートが好ましい。
【0025】
1族金属化合物及び2族金属化合物も特に制限はなく、例えば、1族金属化合物としてはリチウム、ナトリウム、カリウム、ルビジウム、セシウムの水酸化物類、酸化物類、アルコラート類、有機酸塩類(酢酸塩、リン酸塩、炭酸塩等)等の各種化合物が挙げられ、これらは単独で使用しても、2種以上を併用してもよい。また2族金属化合物としては、ベリリウム、マグネシウム、カルシウム、ストロンチウム、バリウムの水酸化物類、酸化物類、アルコラート類、有機酸塩類(酢酸塩、リン酸塩、炭酸塩等)等の各種化合物が挙げられ、これらは単独で使用しても、2種以上を併用してもよい。
【0026】
なかでも、取り扱いや入手の容易さ、触媒効果の点から、リチウム、ナトリウム、カリウム、マグネシウム、カルシウム等の化合物が好ましい。さらには触媒効果と色調に優れる重合物を与える点で、リチウム又はマグネシウムの化合物が好ましく、特にマグネシウム化合物が好ましい。
マグネシウム化合物としては、例えば、酢酸マグネシウム、水酸化マグネシウム、炭酸マグネシウム、酸化マグネシウム、マグネシウムアルコキサイド、燐酸水素マグネシウム等が挙げられる。中でも有機酸塩類が好ましく、特に酢酸マグネシウムが好ましい。
【0027】
なお、チタン化合物を触媒として用いた場合には、生成するポリブチレンテレフタレート樹脂中にチタン化合物が残存するが、その残存量はチタン原子換算で80ppm以下が好ましい。残存量が60ppm以下、特に40ppm以下であることがより好ましい。チタン化合物の残存量が多過ぎると、ポリブチレンテレフタレート樹脂の色調、耐加水分解性、耐ヒートショック性が低下することがある。
【0028】
また1族金属化合物及び2族金属化合物の残存量も少ない方が好ましい。1族金属化合物及び2族金属化合物は、各々の金属原子換算で、50ppm以下であることが好ましい。中でも30ppm以下、特に15ppm以下であればより好ましい。1族金属化合物や2族金属化合物の残存量が多過ぎると、樹脂組成物の成形性や、得られる樹脂成形品の耐加水分解性が低下することがある。
【0029】
チタン原子等の金属含有量は、湿式灰化等の方法でポリブチレンテレフタレート樹脂中の金属を回収した後、原子発光、原子吸光、Inductively Coupled Plasma(ICP)等の方法を用いて測定することができる。
【0030】
(B)ハロゲン原子を有するアクリル系化合物重合体:
本発明において使用されるハロゲン原子を有するアクリル系化合物重合体とは、下記一般式(1)で表される繰り返し単位を有する重合体である。このようなハロゲン原子を有するアクリル化合物は、ポリエステル樹脂、特にポリブチレンテレフタレート樹脂を主体とするポリエステル樹脂と屈折率が近いため、これを含む樹脂組成物の透過率が向上し、レーザー溶着強度が向上する傾向にある。
【0031】
【化1】

【0032】
(式中、R〜Rは、水素原子、ハロゲン原子、又は炭素原子数6以下の有機基であり、Rは水素原子又は炭素原子数12以下の有機基である。但し、R〜Rのいずれもがハロゲン原子でない場合には、R〜Rの少なくとも一つがハロゲン原子を含む有機基である。)
ハロゲンは、塩素、臭素、沃素のいずれでもよいが、熱安定性、安全性、難燃性を考慮すると臭素が好ましい。
【0033】
すなわち、ハロゲン原子を有するアクリル系化合物重合体を構成する繰り返し単位には、(メタ)アクリル酸部分にハロゲン原子を有するもの、アルコール部分にハロゲン原子を有するもの、及び両方の部分にハロゲン原子を有するものの3種類がある(なお、共重合体の場合には、繰り返し単位の中には、ハロゲン原子を有さないものも存在することがある)。
【0034】
アクリル酸部分にハロゲン原子を有するモノマーとしては、シクロヘキシル−α−ブロモアクリレート、メチル−α−ブロモアクリレート、フェニル−α−ブロモアクリレート、等のアクリル酸骨格にハロゲン原子が結合したものや、2−(β―ブロモエチル)アクリル酸のエステルのように、ハロアルキル基がアクリル骨格に結合したものが挙げられる
アルコール部分にハロゲン原子を有するモノマーとしては,β―ブロモエチルメタクリレート、2,3−ジブロモプロピルメタクリレート、p−ブロモフェニルメタクリレート等が挙げられる。
【0035】
ハロゲン原子を有するアクリル系化合物重合体の分子量は10000以上、特に20000以上が好ましく、且つ200000以下が好ましい。分子量が10000未満のものは、一般に機械的強度の大きい樹脂組成物を与えない。逆に分子量が200000より大きいものは、一般に流動性の良い樹脂組成物を与えない。なお、本明細書で分子量とは、ゲルパーミエーションクロマトグラフィーにより測定されるポリスチレン換算の重量平均分子量である。ハロゲン原子を有するアクリル系化合物重合体としては、上記の分子量範囲内で重合度が100以上のものが好ましい。
【0036】
ハロゲン原子を有するアクリル系化合物重合体を構成するモノマーとして好ましいのは、アルコール部分にハロゲン原子を有するものである。なかでも好ましいのは、ベンジル(メタ)アクリレートのベンゼン環に1〜5個のハロゲン原子、好ましくは臭素を有するものである。このモノマーから主としてなる重合体であって、分子量が20000以上、好ましくは20000〜100000のポリ(ハロベンジルアクリレート)は、本発明で用いるのに好ましいものの1つである。分子量が20000よりも小さいものを用いたのでは、機械的強度の大きい樹脂組成物を得るのが困難となることがある。また分子量が100000よりも大きいものは、得られる樹脂組成物の溶融粘度が高くなり、成形性が悪化することがある。
【0037】
ハロゲン原子を有するアクリル系化合物重合体の配合量は、ポリエステル樹脂100重量部に対して2〜50重量部であり、好ましくは4〜40重量部である。2重量部未満であるとレーザー溶着性が向上しない。逆に50重量部より多いと、レーザー溶着後の機械的強度が低下する。経済性及び樹脂組成物の物性の点からして、総合的にみて最も好ましい配合量は5〜30重量部、特に8〜18重量部である。またこの重合体の奏する効果はハロゲン原子の量にも関係するので、この重合体はハロゲン原子の量として、ポリエステル樹脂100重量部に対して1重量部以上となるように配合する。好ましくは2.5重量部以上、特に5重量部以上となるように配合するのが好ましい。
【0038】
(C)強化充填材:
本発明のポリエステル樹脂組成物には、機械的強度を高めるため強化充填材を配合するのが好ましい。強化充填材としては、樹脂組成物の機械的強度を向上させるものとして一般的に用いられているものを用いることができ、例えば、繊維状充填材(ガラス繊維、カーボン繊維、玄武岩繊維、シリカ・アルミナ繊維、ジルコニア繊維、ホウ素繊維、窒化ホウ素繊維、窒化ケイ素繊維、チタン酸カリウム繊維等)、粉粒状充填材(カオリン、タルク、ワラストナイト等のケイ酸塩等)、板状充填材(マイカ、ガラスフレーク、各種金属箔等)等が挙げられる。なかでも好ましいのは、繊維状充填材、特にガラス繊維(チョップドストランド等)であり、これを配合すると、高い強度、剛性が付与される。繊維状充填材の繊維径は2〜50μm、特に5〜20μmであるのが好ましい。またその長さは0.1mm〜20mm、特に1〜10mmであるのが好ましい。
【0039】
板状充填材を配合すると、成形品の異方性及びソリを低減することができる。粒状充填材を配合すると、一般に流動性を向上させ、成形品表面の外観等の改善効果がある。これらの充填材は、樹脂組成物に要求される特性に応じて、単独で又は2種以上併用することができる。
【0040】
強化充填材は、ポリエステル樹脂との界面密着性を向上させるため、いわゆる集束剤又は表面処理剤(以下、これらを表面処理剤という)で表面処理して使用するのが好ましい。表面処理剤としては、例えば、エポキシ系化合物、アクリル系化合物、イソシアネート系化合物、シラン系化合物、チタネート系化合物等の官能性化合物が挙げられる。これらのなかで好ましいのはシランカップリング剤及びエポキシ樹脂である。
【0041】
シランカップリング剤には、有機官能基の違いによりアミノ系、エポキシ系、アリル系、ビニル系等があるが、アミノ系シランカップリング剤が好ましい。アミノ系シランカップリング剤としては、γ−アミノプロピルトリエトキシシラン、γ−アミノプロピルトリメトキシシラン及びγ−(2−アミノエチル)アミノプロピルトリメトキシシランが好ましい例として挙げられる。
エポキシ樹脂としては、グリシジルエーテル系エポキシ樹脂、グリシジルエステル系エポキシ樹脂等の多官能エポキシ樹脂が好ましく、特にグリシジルエーテル系エポキシ樹脂が好ましい。
【0042】
表面処理剤としては、アミノ系シランカップリング剤と、グリシジルエーテル系エポキシ樹脂の組み合わせが特に好ましい。この組み合わせの表面処理剤は、アミノ系シランカップリング剤の無機官能基が強化充填材表面と、有機官能基はエポキシ樹脂のグリシジル基又はポリエステル樹脂の末端カルボキシル基と反応し、エポキシ樹脂のグリシジル基はポリエステル樹脂と反応するので、強化充填材とポリエステル樹脂との界面密着力が向上する。その結果、本発明に係る樹脂組成物の機械的性質及び耐熱老化性が向上し、さらには、界面での空隙形成による不透明化が低減するため、レーザー光透過率も向上する。
【0043】
なお、表面処理剤には、本発明の趣旨を逸脱しない範囲内で、その他の成分、例えば、ウレタン樹脂、アクリル樹脂、帯電防止剤、潤滑剤及び撥水剤等を含めることができる。表面処理剤での処理方法としては、例えば、特開2001−172055号公報、特開昭53−106749号公報等に記載の方法のように、表面処理剤により予め表面処理しておくこともできるし、本発明の樹脂組成物調製の際に、強化充填材とは別に表面処理剤を添加して表面処理することもできる。強化充填材に対する表面処理剤の付着量は、0.01〜5重量%が好ましく、0.05〜2重量%がさらに好ましい。
【0044】
強化充填材の配合量は、ポリエステル樹脂100重量部に対し0〜100重量部である。100重量部より多いと、レーザー光透過性が低下するので、所望のレーザー溶着性の向上効果が得られない。レーザー溶着性の向上効果と、良好な機械強度の点からして、強化充填材の配合量は、2.5重量部以上特に5重量部以上が好ましく、且つ75重量部以下、特に65重量部以下が好ましい。
【0045】
<その他の添加剤>
本発明に係るポリエステル樹脂組成物には、本発明の趣旨を逸脱しない範囲内において、着色剤や酸化防止剤、その他の添加剤を添加してもよい。
【0046】
着色剤:
本発明に係るポリエステル樹脂組成物に着色剤を配合する場合には、レーザー光透過性を阻害しないように、用いる染料・顔料等の着色剤の種類、配合量について十分な注意が必要である。染料としては、アンスラキノン系、ペリレン系、ペリノン系、モノアゾ系、メチン系、フタロシアニン系等の油溶性染料や分散染料を好ましく用いることができる。顔料としては、無機顔料及び有機顔料のいずれも用いることができ、無機顔料としては、酸化物、硫化物、硫酸塩、カーボンブラック等、有機顔料としては、アゾ系、フタロシアニン系、アントラキノン系、ペリレン系、ペリノン系、キナクリドン系、ジオキサジン系等を挙げることができる。着色剤の配合量は、ポリエステル樹脂100重量部に対し、好ましくは0.005〜5重量部、より好ましくは0.01〜1重量部である。
【0047】
酸化防止剤:
本発明に係るポリエステル樹脂組成物には、レーザー溶着時の高温度による樹脂の酸化劣化や変色防止のため、いわゆる酸化防止剤を配合するのが好ましい。酸化防止剤としては常用のものの中でも、フェノール系酸化防止剤、イオウ系酸化防止剤、リン系酸化防止剤等を用いるのが好ましい。酸化防止剤の配合量は、ポリエステル樹脂100重量部に対し、好ましくは0.001〜1.5重量部であり、好ましくは0.03〜1重量部である。
【0048】
さらに他の添加剤としては、耐熱安定剤、滑剤、離型剤、触媒失活剤、結晶核剤、結晶化促進剤等を挙げることができる。これらの添加剤は、ポリエステル樹脂の重合途中又は重合後に添加することができる。さらに、ポリエステル樹脂に、所望の性能を付与するため、紫外線吸収剤、耐候安定剤、帯電防止剤、発泡剤、可塑剤等を配合してもよい。
【0049】
また、ハロゲン原子を有するアクリル系化合物重合体以外の難燃剤を、本発明の効果を阻害しない範囲内において配合してもよい。例えば、有機ハロゲン化合物、アンチモン化合物、リン化合物、その他の有機難燃剤、無機難燃剤等が挙げられる。
有機ハロゲン化合物としては、例えば、臭素化ポリカーボネート、臭素化エポキシ樹脂、臭素化フェノキシ樹脂、臭素化ポリフェニレンエーテル樹脂、臭素化ポリスチレン樹脂、臭素化ビスフェノールA等が挙げられる。
アンチモン化合物としては、例えば、三酸化アンチモン、五酸化アンチモン、アンチモン酸ソーダが挙げられる。
リン化合物としては、例えば、ホスファゼン、リン酸エステル、ポリリン酸、ポリリン酸アンモニウム、赤リン等が挙げられる。
その他の有機難燃剤としては、例えば、メラミン、シアヌル酸等の窒素化合物が挙げられる。
その他の無機難燃剤としては、例えば、水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウム、ケイ素化合物、ホウ素化合物が挙げられる。
これらの難燃剤の配合量は、ポリエステル樹脂100重量部に対し、好ましくは10〜50重量部である。
【0050】
本発明に係るポリエステル樹脂組成物には、上記のほか、さらに、本発明の趣旨を逸脱しない範囲内で、ポリエチレン樹脂、ポリプロピレン樹脂、ポリアクリロニトリル樹脂、ポリメタクリル酸エステル樹脂、ポリスチレン樹脂、アクリロニトリル−スチレン樹脂(AS樹脂)、アクリロニトリル−ブタジエン−スチレン樹脂(ABS樹脂)等のスチレンを含有するポリスチレン系樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリアミド樹脂、ポリフェニレンサルファイド樹脂、液晶ポリエステル樹脂、ポリアセタール樹脂、ポリフェニレンオキサイド樹脂等の熱可塑性樹脂、フェノール樹脂、メラミン樹脂、シリコーン樹脂、エポキシ樹脂等の熱硬化性樹脂を配合してもよい。これらの熱可塑性樹脂及び熱硬化性樹脂は、2種以上を組み合わせて用いてもよい。ポリカーボネート樹脂、ポリスチレン系樹脂は、成形品の反り防止に有効であり、また耐衝撃性改良剤(スチレン系エラストマー、コアシェル系化合物)等は、耐ヒートショック性の改良に有効である。これらの樹脂の配合量は、ポリエステル樹脂100重量部に対し、好ましくは0.1〜50重量部である。
【0051】
ポリエステル樹脂組成物の製造方法:
ポリエステル樹脂、ハロゲン原子を有するアクリル系化合物重合体、強化充填材及び必要に応じて配合されるその他の添加剤を配合、混練して本発明に係るポリエステル樹脂組成物を製造する方法は特に制限されないが、ベント口から脱揮できる設備を有する1軸又は2軸の押出機を混練機として使用する方法が好ましい。各成分は混練機に一括して供給してもよいし、順次供給してもよい。また、いずれかの2種以上の成分を予め混合しておいてもよい。強化充填材は、混練機の摩耗や強化充填材の破損等の防止のため、混練機のサイドフィーダーよりベント口を通じて供給するのが好ましい。
【0052】
本発明に係るポリエステル樹脂組成物の成形加工方法は、特に制限されず、熱可塑性樹脂について一般に使用されている成形法、すなわち、射出成形、中空成形、押し出し成形、プレス成形等の成形法を適用することが出来る。特に好ましい成形方法は、流動性の良い点を生かした射出成形である。射出成形に当たっては、樹脂組成物の温度を240〜280℃に制御するのが好ましい。
【0053】
本発明に係るポリエステル樹脂組成物は、例えば、ガラス繊維をポリエステル樹脂100重量部に対して40重量部含有する、厚みが1.5mmの成形品において、波長960nmにおける光線透過率を25%以上とすることが可能であり、レーザー溶着特性に優れている。従って、この樹脂組成物から成る部材は、レーザー溶着により他の部材と一体化して種々の成形品に組み立てることができる。特に、ポリエステル樹脂を主成分とする部材同士を強固に接着させることができ、2以上のポリエステル樹脂部材をからなる一体化された成形品を製造するのに好ましく用いることができる。
レーザー溶着では、レーザー光透過性のある部材を透過したレーザー光が、レーザー光吸収性のある部材に吸収されて、樹脂を溶融し、両部材が溶着される。本発明のポリエステル樹脂組成物は、レーザー光に対する透過性が高いので、レーザー光が透過する部材として、好ましく用いることができる。ここで、該レーザーが透過する部材の厚み(レーザー光が透過する方向の厚み)は、通常は5mm以下であり、4mm以下が好ましい。
【0054】
レーザー溶着に用いるレーザー光源としては、例えば、Arレーザ(510nm)、He−Neレーザー(630nm)、COレーザー(10600nm)等の気体レーザー、色素レーザー(400〜700nm)等の液体レーザー、YAGレーザー(1064nm)等の固体レーザーや、半導体レーザー(655〜980nm)等が利用できる。ビーム品質、コストの点で、半導体レーザーが好ましく用いられる。また、溶着相手材の種類によって、レーザー種を選択することもできる。
【0055】
レーザー溶着に際しては2つの部材を密着させ、次いで本発明のポリエステル樹脂組成物からなる部材側からレーザー光を照射(好ましくは接着面に垂直に照射)する。所望ならばレンズ系を利用して両者の界面にレーザー光を集光させる。そのビームは本発明に係るポリエステル樹脂組成物からなる部材中を透過し、第2の樹脂組成物からなる部材の表面近傍で吸収されて発熱し、この部材の樹脂を溶融する。次にその熱は本発明に係るポリエステル樹脂組成物からなる部材側にも伝わってこれを溶融し、両者の界面に溶融プールが形成される。冷却するとこの溶融プールが固化して両者が接合する。このようにして部材同士を溶着させた成形品は、高い接合強度を有する。
【0056】
第2の樹脂組成物からなる部材としては、少なくとも熱可塑性樹脂を含み、かつ、本発明に係るポリエステル樹脂組成物からなる部材と溶着可能なものであれば特に制限されない。第2の樹脂組成物に含まれる樹脂としては、例えば、オレフィン系樹脂、ビニル系樹脂、スチレン系樹脂、アクリル系樹脂、ポリエステル樹脂、ポリアミド樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリアセタール樹脂等が挙げられ、親和性が良好な点から、ポリエステル樹脂、ポリカーボネート樹脂が好ましく用いられる。また、第2の樹脂組成物は、2種類以上の樹脂から構成されていてもよく、さらには発明に係るポリエステル樹脂組成物であってもよい。第2の樹脂組成物に含まれる樹脂は、照射するレーザー光波長の範囲内に吸収波長を持つものが好ましい。
【0057】
さらに、第2の樹脂組成物には、光吸収剤、例えば着色顔料等を含有させることにより、レーザー光を吸収するようにしてもよい。このような着色顔料としては、例えば、カーボンブラック(例えば、アセチレンブラック、ランプブラック、サーマルブラック、ファーネスブラック、チャンネルブラック、ケッチェンブラック等)等の黒色顔料、ベンガラ等の赤色顔料、モリブデートオレンジ等の橙色顔料、酸化チタン等の白色顔料等の無機顔料、黄色顔料、橙色顔料、赤色顔料、青色顔料、緑色顔料等の有機顔料が挙げられる。なかでも無機顔料は、一般に隠ぺい力が強く、レーザー吸収側の第2の樹脂組成物に好ましく用いることができる。これらの光吸収剤は単独でも2種以上組み合わせて使用してもよい。これらの光吸収剤の配合量は、樹脂成分100重量部に対し、0.01〜1重量部が好ましい。
【0058】
本発明に係るポリエステル樹脂組成物は、レーザー光透過性が良く、高い溶着強度を有しており、レーザー溶着工程が短縮できるので、レーザー光照射による樹脂の損傷も少なく、種々の用途、例えば、電気・電子部品、オフィスオートメート(OA)機器部品、家電機器部品、機械機構部品、自動車機構部品等に適用できる。特に、自動車電装部品(各種コントロールユニット、イグニッションコイル部品等)、モーター部品、各種センサー部品、コネクター部品、スイッチ部品、リレー部品、コイル部品、トランス部品、ランプ部品等に好適に用いることができる。
【実施例】
【0059】
以下、実施例により本発明をさらに詳細に説明するが、本発明は、その要旨を超えない限り、以下の実施例に限定されるものではない。なお、以下の実施例で用いた原料及び得られた樹脂組成物の評価項目の測定方法は次の通りである。
【0060】
[測定方法]
(1)ポリブチレンテレフタレート樹脂中のチタン濃度
原材料のポリブチレンテレフタレート樹脂について、電子工業用高純度硫酸及び硝酸で樹脂を湿式分解し、高分解能ICP(Inductively Coupled Plasma)−MS(Mass Spectrometer)(サーモクエスト社製)を使用して測定した。
【0061】
(2)ポリブチレンテレフタレート樹脂の固有粘度(IV)
原材料のポリブチレンテレフタレート樹脂について、ウベローデ型粘度計を使用し次の要領で求めた。すなわち、フェノール/テトラクロロエタン(重量比1/1)の混合溶媒を使用し、30℃において、濃度1.0g/dlのポリマー溶液及び溶媒のみの落下秒数を測定し、次式より求めた。
【0062】
[IV]=((1+4Kηsp0.5−1)/(2KC)
上記式中、ηsp=(η/η)−1であり、ηはポリマー溶液の落下秒数、ηは溶媒の落下秒数、Cはポリマー溶液濃度(g/dl)、Kはハギンズの定数である。Kは0.33を採用した。
【0063】
(3)ポリブチレンテレフタレート樹脂の末端カルボキシル基濃度
原材料のポリブチレンテレフタレート樹脂0.5gをベンジルアルコール25mlにを溶解し、水酸化ナトリウムの0.01モル/lベンジルアルコール溶液を使用して滴定した。
【0064】
(4)光線透過率
射出成形機(住友重機械(株)製:型式SE−50D)を使用し、シリンダー温度250℃、金型温度80℃の条件で、大きさ13mm×125mm、厚み1.5mmの平板を作製した。この平板について、可視・紫外分光光度計(島津製作所社製:UV-3100PC)を用い波長960nmにおける光線透過率を測定した。
【0065】
(5)レーザー溶着強度
図1に示すように、試験片を重ね合わせ、レーザー照射を行った。図1中、(a)は試験片を側面から見た図を、(b)は試験片を上方から見た図をそれぞれ示している。1は実施例又は比較例の樹脂組成物からなる試験片を、2は接合する相手材である第2の樹脂組成物からなる試験片を、3はレーザー照射箇所を、それぞれ示している。光線透過率測定で使用した試験片1(13mm×128mm、厚み1.5mmの平板)をレーザー透過側、第2の樹脂組成物からなる試験片2をレーザー吸収側として重ね合わせ、透過側からレーザーを照射した。レーザー溶着装置としては、一括照射タイプの日本エマソン社製 IRAM−300を用い、レーザー光波長は960nm、溶着スポットは3mm×6mm、圧力は4.8MPaでレーザーを照射した。レーザー照射時間は、試験片1がガラス繊維を含まない場合は、11sec、ガラス繊維を含む場合は、15secとした。
得られた溶着物につき、引張試験機(インストロン社製、5544型)を使用して、溶着部の引張剪断破壊強度を測定した。引張速度は5mm/minで行った。
【0066】
(6)引張強度試験
射出成形機(住友重機械(株)製:型式SG−75MIII)を使用し、シリンダー温度250℃、金型温度80℃の条件でISO試験片を作製した。この試験片について、ISO527規格に準拠し引張強度の測定を行った。
【0067】
(7)燃焼性試験
上記(4)で作製した厚さ1.5mmの試験片を用いて、アンダーライターズラボラトリーズ(Underwriter’s Laboratories Inc.)のUL−94規格垂直燃焼試験に定める手法で実施した。V−2はHBより難燃性が良好なことを示す。
【0068】
[原材料]
(A)ポリブチレンテレフタレート樹脂
1,4−ブタンジオールとテレフタル酸から、連続溶融重縮合及び固相重合を経て製造した。触媒としてはテトラブチルチタネートと酢酸マグネシウムを用いた。固有粘度[η]=0.85dl/g、チタン含有量=30ppm、マグネシウム含有量=15ppm、末端カルボキシル基濃度=15eq/ton。
【0069】
(B)ハロゲン原子を有するアクリル系化合物重合体
ポリペンタブロモベンジルアクリレート(以下「PBB−PA」と略す):ブロモケム・ファーイースト社製、「商品名:FR−1025」、分子量約80000
【0070】
ポリメチルメタクリレート樹脂(以下「PMMA」と略す):三菱レイヨン社製、「商品名アクリペットMD」、ハロゲン原子を含まないアクリル化合物重合体
【0071】
臭素化ポリスチレン:マナック社製、「商品名:プラセフティ1200」
縮合リン酸エステル:大八化学工業社製、「商品名:PX−200」
シアヌル酸メラミン:三菱化学(株)製、「商品名:MCA−CO」
三酸化アンチモン:鈴裕化学社製、「商品名:AT−3CN」
【0072】
(C)ガラス繊維:アミノ系シランカップリング剤とグリシジルエーテル系エポキシ樹脂を含む表面処理剤が付着したガラス繊維を、以下の方法に従って作製した。
γ−アミノプロピルトリエトキシシラン1重量%、ビスフェノールAジグリシジルエーテル4重量%、ウレタン系エマルジョン2重量%及び脱イオン水93重量%からなる表面処理剤を作製し、これを、平均繊維径13μm、屈折率(nd)1.555(23℃)のガラス繊維フィラメントに塗布し、乾燥した。このストランドを長さ3mmに切断した。得られたガラス繊維チョップドストランドに対するアミノ系シランカップリング剤(γ−アミノプロピルトリエトキシシラン)の付着量は0.1重量%、グリシジルエーテル系エポキシ樹脂(ビスフェノールAジグリシジルエーテル)の付着量は0.4重量%であった。
【0073】
着色剤:メチン系の油溶性染料を含む着色剤をポリブチレンテレフタレート樹脂に配合して製造されたマスターバッチ、オリヱント化学工業社製、「商品名:eBIND LTW−8950C」
【0074】
酸化防止剤:ペンタエリスリトールテトラキス[3−(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート]、チバ・スペシャリティ・ケミカルズ社製、「商品名:Irganox1010」
【0075】
レーザー溶着試験に供した第2の樹脂組成物から成る試験片:実施例1の樹脂組成物に、カーボンブラックをポリブチレンテレフタレート樹脂100重量部に対し0.6重量部配合したものを用いて、実施例、比較例と同様に製造した。
【0076】
[実施例1〜5、比較例1〜9]
ポリブチレンテレフタレート樹脂と種々の配合物とを、表1に示した比率となるよう配合し、タンブラーで20分混合して原料混合物を調製した。シリンダー温度を250℃に設定した2軸押出機(日本製鋼所社製:TEX30C、バレル9ブロック構成)を用い、得られた原料混合物をホッパーへ供給し溶融混練した。なお、ガラス繊維を配合する場合は、原料混合物に加えずにホッパーから数えて5番目のブロックからサイドフィード方式で供給し、溶融混練した。得られた樹脂組成物ペレットを120℃で5時間乾燥させた後、上述した評価用の試験片を成形し上記(4)〜(7)の評価を行った。評価結果を表1に示した。
【0077】
【表1】

【0078】
表1より、ハロゲン原子を有するアクリル化合物重合体を配合することにより、樹脂組成物のレーザー透過性と難燃性が共に向上し、且つ溶着強度が向上することが分かる。
【図面の簡単な説明】
【0079】
【図1】図1は、本発明の実施例におけるレーザー溶着強度試験方法を示す概略図である。
【符号の説明】
【0080】
1 試験片1
2 試験片2
3 レーザー照射箇所

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)ポリエステル樹脂 100重量部に対して、
(B)ハロゲン原子を有するアクリル系化合物重合体 2〜50重量部、及び
(C)強化充填材 0〜100重量部
を配合して成ることを特徴とするレーザー溶着用ポリエステル樹脂組成物。
【請求項2】
(B)ハロゲン原子を含有するアクリル系化合物重合体が下記式(1)で表される繰り返し単位を有するものであることを特徴とする、請求項1に記載のレーザー溶着用ポリエステル樹脂組成物。

(式中、R〜Rは水素原子、ハロゲン原子、又は炭素原子数6以下の有機基であり、Rは水素原子又は炭素原子数12以下の有機基である。但し、R〜Rがいずれもハロゲン原子でない場合には、R〜Rの少なくとも一つがハロゲン原子を含む有機基である。)
【請求項3】
(B)ハロゲン原子を含有するアクリル系化合物重合体がポリ(ハロゲン化ベンジル(メタ)アクリレート)であることを特徴とする、請求項1に記載のレーザー溶着用ポリエステル樹脂組成物。
【請求項4】
(B)ハロゲン原子を含有するアクリル系化合物重合体の配合量が、(A)ポリエステル樹脂組成物100重量部に対して4〜40重量部であることを特徴とする、請求項1ないし3のいずれかに記載のレーザー溶着用ポリエステル樹脂組成物。
【請求項5】
(B)ハロゲン原子を含有するアクリル系化合物重合体の配合量が、(A)ポリエステル樹脂100重量部に対して8〜18重量部であることを特徴とする、請求項1ないし3のいずれかに記載のレーザー用ポリエステル樹脂組成物。
【請求項6】
(B)ハロゲン原子を含有するアクリル系化合物重合体の分子量が10000〜200000であることを特徴とする、請求項1ないし5のいずれかに記載のレーザー溶着用ポリエステル樹脂組成物。
【請求項7】
(B)ハロゲン原子を含有するアクリル系化合物重合体のハロゲン原子の量が、(A)ポリエステル樹脂100重量部に対して1重量部以上であることを特徴とする、請求項1ないし6のいずれかに記載のレーザー溶着用ポリエステル樹脂組成物。
【請求項8】
(B)ハロゲン原子を含有するアクリル系化合物重合体のハロゲン原子の量が、(A)ポリエステル樹脂100重量部に対して5重量部以上であることを特徴とする、請求項1ないし6のいずれかに記載のレーザー溶着用ポリエステル樹脂組成物。
【請求項9】
(A)ポリエステル樹脂がポリブチレンテレフタレート樹脂であることを特徴とする、請求項1ないし8のいずれかに記載のレーザー溶着用ポリエステル樹脂組成物。
【請求項10】
ポリブチレンテレフタレート樹脂がチタン化合物を触媒として得られたものであり、かつチタン原子の含有量が80ppm(重量)以下、末端カルボキシル基含有量が40eq/ton以下のものであることを特徴とする、請求項9記載のレーザー溶着用ポリエステル樹脂組成物。
【請求項11】
(C)強化充填材が繊維状充填材であることを特徴とする、請求項1ないし10のいずれかに記載のレーザー溶着用ポリエステル樹脂組成物。
【請求項12】
(C)強化充填材がアミノ系シランカップリング剤とグリシジルエーテル系エポキシ樹脂で表面処理されていることを特徴とする、請求項1ないし11のいずれかに記載のレーザー溶着用ポリエステル樹脂組成物。
【請求項13】
(C)強化充填材の配合量が、(A)ポリエステル樹脂100重量部に対して5〜75重量部であることを特徴とする、請求項1ないし12のいずれかに記載のレーザー溶着用ポリエステル樹脂組成物。
【請求項14】
ポリブチレンテレフタレート樹脂 100重量部に対して、
分子量が20000〜100000であるポリ(ハロゲン化ベンジル(メタ)アクリレート) 4〜40重量部、及び
(C)ガラス繊維 5〜75重量部
を配合して成り、かつ
該ポリ(ハロゲン化ベンジル(メタ)アクリレート)中のハロゲン原子の量が、該ポリブチレンテレフタレート樹脂100重量部に対して2.5重量部以上であることを特徴とするレーザー溶着用ポリエステル樹脂組成物。
【請求項15】
請求項1ないし14のいずれかに記載のポリエステル樹脂組成物から成る第一の部材と熱可塑性樹脂から成る第二の部材とを密着させ、第一の部材を通してレーザー光を照射することを特徴とする熱可塑性樹脂製部材のレーザー溶着方法。

【図1】
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【公開番号】特開2009−298947(P2009−298947A)
【公開日】平成21年12月24日(2009.12.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−156121(P2008−156121)
【出願日】平成20年6月16日(2008.6.16)
【出願人】(594137579)三菱エンジニアリングプラスチックス株式会社 (609)
【Fターム(参考)】