説明

レーザー蒸着用酸化物超電導ターゲット

【課題】レーザ蒸着装置に用いる酸化物ターゲットにおいて、高レーザー出力および高温雰囲気によるターゲットの割れの伸展を防いで、安定した成膜を長時間行うことができるレーザー蒸着用酸化物ターゲットの提供。
【解決手段】ターゲットにレーザー光を照射してターゲット表面から酸化物の微粒子を発生させ、該微粒子を基材表面に堆積させ、基材表面に酸化物膜を成膜するレーザ蒸着装置に用いる酸化物ターゲットにおいて、希土類酸化物粉末、炭酸バリウム粉末及び酸化銅粉末を一定比率で混合し、この混合粉末を圧粉成型し、さらに部分溶融成型して得られたターゲット本体に銀網が埋設されたことを特徴とするレーザー蒸着用酸化物超電導ターゲット。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、ターゲットにレーザー光を照射してターゲット表面から酸化物の微粒子を発生させ、該微粒子を基材表面に堆積させ、基材表面に酸化物膜を成膜するレーザ蒸着装置に用いる酸化物ターゲットに関し、高レーザー出力および高温雰囲気によるターゲットの割れの伸展を防ぐことを可能にしたターゲットに関する。
【背景技術】
【0002】
レーザー蒸着用酸化物ターゲット、特にY−Ba−Cu−O系酸化物超電導体に代表される酸化物超電導体からなるターゲットを製造する場合、これまでは、酸化物を圧粉成型し、それを高温で焼成する方法が用いられていた。その一例として、特許文献1には、原料粉を所定比に混合した混合粉を900℃以上で仮焼して、結晶粒の微細なR系123相とR系211相を含有する合成粉を製造し、該合成粉で成型した成型体を920〜1000℃で焼成してR系123相を生成させた後、1050〜1200℃で焼成してR系211相を主相として生成させ、次に920〜1000℃で焼成してR系123相を成長させることを特徴とする酸化物超電導焼結体の作製方法が開示されている。
【0003】
また、特許文献2には、アモルファス粉末の成形体を部分溶融した後徐冷して得られた見掛け密度95%以上の実質的にY1±αBa2±βCu3±γ7-δ(α≦0.8 、β≦0.4 、γ≦0.4 、−2≦δ≦1)の組成を有する酸化物超電導体薄膜作製用ターゲットが開示されている。
【特許文献1】特開平4−280856号公報
【特許文献2】特開平6−305891号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1に開示された酸化物超電導焼結体の作製方法では、酸化物超電導粉末を合成して焼結するため、成型温度が高く、ターゲット内部に補強材等を導入できなかった。また、製造工程が粉末合成、粉砕、圧粉成型、焼結等の複雑な工程があり、コスト高になる問題があった。
【0005】
また、特許文献1,2に記載された従来技術における最大の問題点は、ターゲットが酸化物の焼結体からなり、何らの補強構造もなかったことから、高レーザー出力および高温雰囲気での使用により割れ易いことである。図1は、割れ目2が発生したターゲット1にレーザー光が照射された場合に生じるプルーム3の乱れを表す図である。この図1に示すのように、ターゲット1に割れ目2が発生すると、少しの隙間でレーザー光が当たる部分が平坦でなくなるため、プルーム3が傾いたり不安定になり、安定した成膜ができなくなってしまう。
【0006】
本発明は、前記事情に鑑みてなされ、レーザ蒸着装置に用いる酸化物ターゲットにおいて、高レーザー出力および高温雰囲気によるターゲットの割れの伸展を防いで、安定した成膜を長時間行うことができるレーザー蒸着用酸化物ターゲットの提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
前記目的を達成するため、本発明は、ターゲットにレーザー光を照射してターゲット表面から酸化物の微粒子を発生させ、該微粒子を基材表面に堆積させ、基材表面に酸化物膜を成膜するレーザ蒸着装置に用いる酸化物ターゲットにおいて、
希土類酸化物粉末、炭酸バリウム粉末及び酸化銅粉末を一定比率で混合し、この混合粉末を圧粉成型し、さらに部分溶融成型して得られたことを特徴とするレーザー蒸着用酸化物超電導ターゲットを提供する。
【0008】
また本発明は、ターゲットにレーザー光を照射してターゲット表面から酸化物の微粒子を発生させ、該微粒子を基材表面に堆積させ、基材表面に酸化物膜を成膜するレーザ蒸着装置に用いる酸化物ターゲットにおいて、
希土類酸化物粉末、炭酸バリウム粉末及び酸化銅粉末を一定比率で混合し、この混合粉末を圧粉成型し、さらに部分溶融成型して得られたターゲット本体に銀網が埋設されたことを特徴とするレーザー蒸着用酸化物超電導ターゲットを提供する。
【0009】
本発明のレーザー蒸着用酸化物超電導ターゲットにおいて、前記銀網は、網目隙間面積が1〜10mmの範囲、銀線径が1〜2mmの範囲であり、且つターゲットの底面からターゲット厚さの10%〜40%の範囲の位置に設置されたことが好ましい。
【発明の効果】
【0010】
本発明のレーザー蒸着用酸化物超電導ターゲットは、希土類酸化物粉末、炭酸バリウム粉末及び酸化銅粉末を一定比率で混合し、この混合粉末を圧粉成型し、さらに部分溶融成型して得られたものなので、従来技術のようにR系123相やアモルファス粉末の成形体を形成する必要がないので、ターゲット成型温度を低くすることができ、またターゲット成型工程が簡略化でき、製造時間の短縮化、低コスト化を図ることができる。
また、本発明のレーザー蒸着用酸化物超電導ターゲットは、各粉末を圧粉成型し、さらに部分溶融成型して得られたターゲット本体に銀網が埋設された構造としたので、銀網によってターゲットの割れの伸展を防止でき、ターゲット使用時間が延長でき、長時間に渡り安定した成膜を実現することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下、図面を参照して本発明の実施形態を説明する。
図2は、本発明のレーザー蒸着用酸化物超電導ターゲットの一実施形態を示す要部を透視した斜視図であり、図中、符号10はレーザー蒸着用酸化物超電導ターゲット、11はターゲット本体、12は銀網である。
【0012】
本実施形態のレーザー蒸着用酸化物超電導ターゲット10は、ターゲットにレーザー光を照射してターゲット表面から酸化物の微粒子を発生させ、該微粒子を基材表面に堆積させ、基材表面に酸化物膜を成膜するレーザ蒸着装置に用いる酸化物ターゲットであり、希土類酸化物粉末、炭酸バリウム粉末及び酸化銅粉末を一定比率で混合し、この混合粉末を圧粉成型し、さらに部分溶融成型して得られたターゲット本体11に銀網12が埋設されたことを特徴とする。
【0013】
前記ターゲット本体11は、製造目的の酸化物超電導体の材料となる希土類酸化物粉末、炭酸バリウム粉末、酸化銅粉末を部分溶融成型したものである。本発明において、製造目的の酸化物超電導体としては、Y−Ba−Cu−O系酸化物超電導体などが挙げられる。このY−Ba−Cu−O系酸化物超電導体の代表的な元素組成比は、Y:Ba:Cu=1:2:3であるが、これに限定されない。以下の記載は、酸化物超電導体がY−Ba−Cu−O系酸化物超電導体である場合を例として説明する。
【0014】
その場合、前記ターゲット本体11は、ターゲット完成時のターゲット本体11の元素組成比がほぼY:Ba:Cu=1:2:3となるように、酸化イットリウム粉末、炭酸バリウム粉末、酸化銅粉末の各材料を秤り取り、それらを混合する。各材料の量は、部分溶融成型時のロス分などによる組成比の変化を勘案し、それを補償してターゲット完成時の元素組成比がほぼY:Ba:Cu=1:2:3となるように、出発時の各材料の量を決定することが望ましい。
【0015】
前記銀網12は、そのメッシュ(以下、網目隙間面積として表す)や銀線径に関しては、特に限定されないが、後述する実施例の結果から、網目隙間面積が1〜10mmの範囲であり、且つ銀線径が1〜2mmの範囲である銀網を用いることが好ましい。
【0016】
また、この銀網12の配置位置は、ターゲット本体11の表面側にあると、成膜の進行に従いターゲット本体11の表面が削られて、銀網12が露出して成膜が不安定になることを防ぐために、ターゲット本体11厚さ方向の中央より底面側に配置することが望ましい。後述する実施例の結果から、この銀網12は、ターゲット本体11の底面からターゲット厚さの10%〜40%の範囲の位置に設置することが好ましく、20〜30%の範囲の位置に設置することがより好ましい。
【0017】
本実施形態のレーザー蒸着用酸化物超電導ターゲット10の製造方法を例示すると、平均粒径が1μm程度の酸化イットリウム粉末、炭酸バリウム粉末、酸化銅粉末の各材料及び銀網12を用意し、酸化イットリウム粉末、炭酸バリウム粉末、酸化銅粉末の各材料を、前述した通り、ターゲット完成時のターゲット本体11の元素組成比がほぼY:Ba:Cu=1:2:3となるように秤り取り、これらの材料をボールミル等の撹拌機に投入し、十分撹拌混合する。
【0018】
次に、圧粉成型装置の型内に、混合粉末の一部(底面側となる)を入れ、次いで銀網12を入れ、その上に残りの混合粉末(表面側となる)を入れ、銀網が混合粉末で覆われるようにセットし、圧粉成型を行う。この圧粉成型条件は、特に限定されないが、室温で、圧力10〜20MPa程度の条件下で1分間程度のプレスを行うことが望ましい。
【0019】
次に、型から圧粉成型体を取り出し、これを電気炉に入れ、大気中、800〜950℃の範囲、好ましくは880℃程度、50〜100時間熱処理する。これにより、図2に示すように、Y−Ba−Cu−O系酸化物超電導材料の部分溶融成型体からなるターゲット本体11に銀網12が埋設された構造のレーザー蒸着用酸化物超電導ターゲット10が得られる。
【0020】
本発明のレーザー蒸着用酸化物超電導ターゲットは、希土類酸化物粉末、炭酸バリウム粉末及び酸化銅粉末を一定比率で混合し、この混合粉末を圧粉成型し、さらに部分溶融成型して得られたものなので、従来技術のようにR系123相やアモルファス粉末の成形体を形成する必要がないので、ターゲット成型温度を低くすることができ、またターゲット成型工程が簡略化でき、製造時間の短縮化、低コスト化を図ることができる。
また、本発明のレーザー蒸着用酸化物超電導ターゲットは、各粉末を圧粉成型し、さらに部分溶融成型して得られたターゲット本体に銀網が埋設された構造としたので、銀網によってターゲットの割れの伸展を防止でき、ターゲット使用時間が延長でき、長時間に渡り安定した成膜を実現することができる。
【実施例】
【0021】
ターゲット完成時のターゲット本体11の元素組成比がほぼY:Ba:Cu=1:2:3となるように、平均粒径が1μm程度の酸化イットリウム粉末、炭酸バリウム粉末、酸化銅粉末の各材料を秤り取り、これをボールミルに投入し、十分撹拌混合して混合粉末を作製した。また、表1中に記した網目隙間面積と銀線径とを有する銀網を用意した。
圧粉成型装置の型に、前記混合粉末と銀網とを入れて圧粉成型し、得られた圧粉成型体を電気炉に入れ、大気中、880℃、50〜100時間熱処理し、本発明に係る実施例のレーザー蒸着用酸化物超電導ターゲット(表1中のターゲットNo.1〜11)を作製した。銀網の設置位置は、表1中に示す通り、底からの高さを0〜5mmまでの範囲で変更した。
本実施例のターゲットNo.1〜11は、直径100mm、厚さ10mmサイズのものを作製してテストした。このサイズのターゲットは、レーザ蒸着において100時間程度使用できれば、コスト面での改善が十分に期待できる。
本実施例のターゲットNo.1〜11は、レーザー蒸着装置にセットし、その表面にパルスレーザー光を照射し、ターゲットの使用限界時間を調ベた。その結果を表1にまとめて記す。
【0022】
また、比較例として、特許文献1に記載された作製方法に従ってY系酸化物超電導焼結体を作製し、これを比較例のターゲット(表1中のターゲットNo.12)として用い、実施例と同様にレーザー蒸着時の使用限界時間を調べ、比較した。その結果を表1にまとめて記す。
【0023】
【表1】

【0024】
表1の結果より、比較例は割れが発生し、約20時間が安定して成膜できる限界であった。
一方、本発明に係る実施例のターゲットNo.1〜11で、銀網が無いものでも、割れが発生し難く、比較例に比べ使用限界時間の改善が見られた。
【0025】
さらに銀網を入れた場合、網目隙間面積1〜10mm、銀線径1〜2mm、底からの位置2〜3mmの条件を満たすターゲットについて、使用限界時間100時間を達成できた。
【0026】
銀網の網目隙間面積と銀線径に関しては、銀網面内においてあまりにも酸化物の占める面積が多くなる場合は、銀網の強度が弱くなり、銀網の破損等により使用期限時間が短くなっている。
【0027】
また、銀網の配置位置(底からの高さ)に関しては、銀網がターゲット表面に近づくにしたがって、厚さ方向におけるターゲットの割れの伸展抑止効果が下がる。一方、銀網がターゲット中心部に近づくにしたがって厚さ方向におけるターゲットの割れの伸展抑止効果が上がるが、使用できるターゲット厚さが薄くなるため、使用期限時間が短くなってしまう結果となる。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【図1】割れ目が発生したターゲットにレーザー光が照射された場合に生じるプルームの乱れを表す図である。
【図2】本発明のレーザー蒸着用酸化物超電導ターゲットの一実施形態を示す要部を透視した斜視図である。
【符号の説明】
【0029】
10…レーザー蒸着用酸化物超電導ターゲット、11…ターゲット本体、12…銀網。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ターゲットにレーザー光を照射してターゲット表面から酸化物の微粒子を発生させ、該微粒子を基材表面に堆積させ、基材表面に酸化物膜を成膜するレーザ蒸着装置に用いる酸化物ターゲットにおいて、
希土類酸化物粉末、炭酸バリウム粉末及び酸化銅粉末を一定比率で混合し、この混合粉末を圧粉成型し、さらに部分溶融成型して得られたことを特徴とするレーザー蒸着用酸化物超電導ターゲット。
【請求項2】
ターゲットにレーザー光を照射してターゲット表面から酸化物の微粒子を発生させ、該微粒子を基材表面に堆積させ、基材表面に酸化物膜を成膜するレーザ蒸着装置に用いる酸化物ターゲットにおいて、
希土類酸化物粉末、炭酸バリウム粉末及び酸化銅粉末を一定比率で混合し、この混合粉末を圧粉成型し、さらに部分溶融成型して得られたターゲット本体に銀網が埋設されたことを特徴とするレーザー蒸着用酸化物超電導ターゲット。
【請求項3】
前記銀網は、網目隙間面積が1〜10mmの範囲、銀線径が1〜2mmの範囲であり、且つターゲットの底面からターゲット厚さの10%〜40%の範囲の位置に設置されたことを特徴とする請求項2に記載のレーザー蒸着用酸化物超電導ターゲット。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2009−203512(P2009−203512A)
【公開日】平成21年9月10日(2009.9.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−46049(P2008−46049)
【出願日】平成20年2月27日(2008.2.27)
【出願人】(000005186)株式会社フジクラ (4,463)
【Fターム(参考)】