説明

レーザ加工システム及びその制御方法

【課題】 レーザスキャナの運動状態によらず加工位置にレーザを正確に照射することができるレーザ加工システムを提供する。
【解決手段】 レーザ加工システム1は、先端部2aにレーザスキャナ3が取り付けられたロボット2と、ロボット制御系10及びレーザスキャナ制御系20を有する制御装置5を備えている。ロボット制御系10は、ロボット2の動作の制御しながら同時にレーザスキャナ3の動作に関するスキャナ指令を出力し、制御遅れ時間Δt後のロボット2の動作をシミュレーションするロボット動作模擬部15と、そのシミュレーション結果に基づいてスキャナ指令を出力するスキャナ指令値演算部16とを有している。レーザスキャナ制御系20は、スキャナ指令に応じてレーザスキャナ3の動作を制御する。そして、制御遅れ時間Δtがスキャナ指令の出力から前記スキャナ制御系20が制御を開始するまで時間に設定されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ワークにレーザを照射して溶接、切断及び穿孔等の加工を行うレーザ加工システム及びその制御方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、レーザ発振器の高効率化を受けて、離れた位置からワークに向かってレーザを照射して溶接するリモートレーザ溶接の適用が進められており、このリモートレーザ溶接は、例えば抵抗スポット溶接等が用いられていた溶接箇所にも適用することができる。リモートレーザ溶接は、例えば、特許文献1のようなレーザ加工ヘッド(いわゆる、レーザスキャナ)とロボットとを備えるレーザ溶接装置によって行なわれる。
【0003】
レーザスキャナは、高速動作ができ、且つ高い精度でレーザを照射することができるようになっている。また、ロボットは、様々な動きができるように構成され、その動作範囲に柔軟性を有している。このようなレーザスキャナ及びロボットを組み合わせることで、レーザ溶接装置は、生産性の向上に期待が寄せられている。また、リモートレーザ溶接では、溶接位置で止めることなくロボットを動かしながらレーザスキャナからレーザを発振させてワークに照射する(いわゆる、オンザフライ制御)ことにより、効率的な溶接作業を実現し、溶接時間を大幅に短縮させることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2007−98416号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1の記載レーザ溶接装置は、ロボットを制御するロボット制御部と、レーザスキャナを制御するスキャナ制御部とが別々に設けられ、各々の動作が独立して制御されている。ロボット制御部及びスキャナ制御部は、互いを同期させる機能を有していない。そのため、ロボットとレーザスキャナを厳密に協調させて制御することが難しく、ロボットの動作に対してレーザスキャナの動作に制御遅れが生じる。オンザフライ制御の場合、この遅れにより、所望の溶接位置から離れた位置にレーザが照射されてしまう。
【0006】
このような問題点を解決すべく、特許文献1のレーザ溶接装置では、レーザの照射位置を補正してするようになっている。具体的には、特許文献1のレーザ溶接装置は、数値化モデルを用いてレーザスキャナの予測位置を算出し、この予測位置とレーザスキャナの実測位置とを比較してその差によりレーザの照射位置のずれを補正している。
【0007】
しかし、特許文献1には、この補正方法に関してレーザスキャナが所定速度で等速直線運動しているときに適用した場合しか記載されておらず、加減速運動のように速度が時々刻々と変化するときに適用した場合について何ら考慮されていない。というのも、この補正方法は、現時点でのズレ量に基づいて次のレーザスキャナの動作を制御するので、その時々によってズレ量が変わる加減速運動の場合に適用すると、制御前後のレーザスキャナの運動状態に応じてズレ量が大きくなってしまうことがある。それ故、特許文献1の補正方法は、レーザスキャナが等速直線運動するときにしか適用できず、ロボットの動きの自由度が低下し、作業中におけるレーザスキャナの移動経路を試行錯誤する必要がある。
【0008】
そこで本発明は、レーザスキャナの運動状態に寄らずにレーザを正確な位置に照射することができるレーザ加工システム及びその制御方法を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明のレーザ加工システムは、レーザをワークに照射してレーザ加工を行なうレーザスキャナと、前記レーザスキャナを移動させるように動作するロボットと、前記ロボットの動作の制御しながら同時に前記レーザスキャナの動作に関するスキャナ指令を出力するロボット制御系と、前記スキャナ指令に応じて前記レーザスキャナの動作を制御するスキャナ制御系とを有する制御装置とを備え、前記ロボット制御系は、前記ロボットの動作を制御する制御時点から所定時間後の前記ロボットの姿勢をシミュレーションするロボット動作模擬部と、前記ロボット動作模擬部のシミュレーション結果に基づいて前記スキャナ指令を出力するスキャナ指令部とを有し、前記所定時間は、前記スキャナ指令が出力されてから前記スキャナ制御系の制御を開始するまでの制御遅れ時間に設定されているものである。
【0010】
本発明に従えば、シミュレーションにより制御遅れ時間後のロボットの姿勢、即ちレーザスキャナの動作制御開始時におけるロボットの姿勢を予測することができる。これにより、レーザスキャナの動作制御開始時におけるロボットの予測の姿勢に基づいてレーザスキャナの動作が制御されるので、制御遅れに伴うレーザの照射位置のズレをなくすことができ、レーザを正確な位置に照射して加工することができる。また、レーザスキャナの動作制御開始時にロボットの予測の姿勢に基づいてレーザスキャナの動作が制御されるので、動作制御開始時前後のレーザスキャナの運動状態に寄らずにレーザを正確な位置に照射して加工することができる。
【0011】
このように本発明は、レーザスキャナの運動状態に関係なくレーザを正確な位置に照射して加工することができるので、レーザスキャナを加減速運動や角速度運動等をさせることができる。これにより、ロボットの動作の自由度を向上させることができ、動作中のレーザスキャナの移動経路の自由度も向上させることができる。
【0012】
上記発明において、前記レーザスキャナは、前記レーザの焦点位置及び照射方向を変更できるように構成され、前記スキャナ指令部は、前記ロボット動作模擬部のシミュレーション結果に基づいて前記レーザスキャナの姿勢、及び前記レーザスキャナと前記レーザで加工すべき加工位置との相対座標を演算し、この演算結果に基づいて前記スキャナ指令を出力し、前記スキャナ制御系は、前記スキャナ指令に基づいて前記レーザの照射方向及び焦点位置を変えるように前記レーザスキャナの動作を制御するようになっていることが好ましい。
【0013】
上記構成に従えば、シミュレーション結果に基づいてレーザスキャナの姿勢及び相対座標が演算され、これら演算結果に基づいてレーザの照射方向及び焦点位置を変えるようにレーザスキャナの動作が制御される。それ故、レーザスキャナの動作制御に対する自由度を更に向上させることができる。このように自由度が向上することで、動作中のレーザスキャナの移動経路の自由度が更に向上し、レーザ加工の加工時間を短縮することができる。
【0014】
上記発明において、前記スキャナ制御系は、前記レーザ加工において前記加工位置を取り囲むように無端状の図形を描くように前記レーザスキャナの動作を制御するようになっていることが好ましい。
【0015】
上記構成に従えば、レーザを正確な位置に照射することができるので、前記レーザスキャナの動作を制御して無端状の図形を描くようにレーザを照射したときに、レーザの照射位置のズレにより図形が無端状にならずに開いてしまうことを抑えることができる。これにより、無端状の図形を描くようにレーザを照射してワークを強固に溶接したり、任意の形状にワークを刳り貫いたりすることができる。
【0016】
上記発明において、前記スキャナ制御系は、前記ロボット制御系から出力される応答要求信号に対して応答信号を出力するようになっており、前記ロボット制御系は、前記応答要求信号を出力してから前記応答信号を受け取るまでの時間を測定し、その測定時間に応じて制御遅れ時間を設定するようになっていることが好ましい。
【0017】
上記構成に従えば、ロボット制御系により制御遅れ時間が正確に測定されて設定される。これにより、レーザが更に正確な位置に照射されるようにすることができる。
【0018】
本発明のレーザ加工システムの制御方法において、前記ロボットの動作を制御するロボット動作制御工程と、前記ロボットの姿勢をシミュレーションするロボット動作模擬工程と、前記ロボット動作模擬工程のシミュレーション結果に基づいて前記レーザスキャナの動作に関するスキャナ指令を出力するスキャナ指令出力工程と、前記スキャナ指令出力工程で出力された前記スキャナ指令に基づいて前記レーザスキャナの動作を制御するスキャナ制御工程とを有し、前記ロボット動作模擬工程では、前記ロボットの動作を制御する制御時点から設定時間後の前記ロボットの姿勢がシミュレーションされ、前記所定時間は、前記スキャナ指令が出力されてから前記スキャナ制御系の制御を開始するまでの制御遅れ時間に設定されていることが好ましい。
【0019】
上記構成に従えば、このシミュレーションにより制御遅れ時間後のロボットの姿勢、即ちレーザスキャナの動作制御開始時におけるロボットの姿勢を予測することができる。これにより、レーザスキャナの動作制御開始時にロボットが予測の姿勢に基づいてレーザスキャナの動作が制御されるので、制御遅れに伴うレーザの照射位置のズレをなくすことができ、レーザを正確な位置に照射して加工することができる。また、レーザスキャナの動作制御開始時にロボットの予測の姿勢に基づいてレーザスキャナの動作が制御されるので、動作制御開始時前後のレーザスキャナの運動状態に寄らずにレーザを正確な位置に照射して加工することができる。
【0020】
このように本発明は、レーザスキャナの運動状態に関係なくレーザを正確な位置に照射して加工することができるので、レーザスキャナを加減速運動や角速度運動等をさせることができる。これにより、ロボットの動作の自由度を向上させることができ、動作中のレーザスキャナの移動経路の自由度も向上させることができる。
【0021】
上記発明において、前記レーザスキャナは、前記レーザの焦点位置及び照射方向を変更できるように構成され、前記スキャナ指令出力工程は、前記ロボット動作模擬工程のシミュレーション結果に基づいて前記レーザスキャナの姿勢、及び前記レーザスキャナと前記レーザで加工すべき加工位置との相対座標を演算し、この演算結果に基づいて前記スキャナ指令を出力し、前記スキャナ制御工程は、前記スキャナ指令に基づいて前記レーザの照射方向及び焦点位置を変えるように前記レーザスキャナの動作を制御するようになっていることが好ましい。
【0022】
上記構成に従えば、シミュレーション結果に基づいてレーザスキャナの姿勢及び相対座標が演算され、これら演算結果に基づいて前記レーザの照射方向及び焦点位置を変えるように前記レーザスキャナの動作が制御される。それ故、レーザスキャナの動作制御に対する自由度を更に向上させることができる。このように自由度が向上することで、動作中のレーザスキャナの移動経路の自由度が更に向上し、レーザ加工の加工時間を短縮することができる。
【発明の効果】
【0023】
本発明によれば、レーザスキャナの運動状態に寄らずにレーザを正確な位置に照射することができる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】本発明の実施形態に係るレーザ加工ロボットの全体構成を示す概念図である。
【図2】図1に示すレーザ加工システムの制御系の構成を示すブロック図である。
【図3】図1に示すレーザ加工システムにおいて実行される制御方法の処理手順を示すフローチャートである。
【図4】図1に示すレーザ加工システムの動きを示す動作図であり、(a)は、図3にて手順を示した制御方法を適用した場合の動作図であり、(b)は、従来の制御方法を適用した場合の動作図である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下では、前述する図面を参照しながら、本発明の実施形態に係るレーザ加工システム1を説明する。なお、実施形態における上下の方向の概念は、説明の便宜上使用するものであって、レーザ加工システム1に関して、それらの構成の配置及び向き等をその方向に限定することを示唆するものではない。また、以下に説明するレーザ加工システム1は、本発明の一実施形態に過ぎず、本発明は実施の形態に限定されず、発明の趣旨を逸脱しない範囲で追加、削除、及び変更が可能である。
【0026】
レーザ加工システム1は、車両の車体を製造する設備等に設けられ、金属又は樹脂から成るワーク7にレーザを照射してそのワーク7を溶接、切断又は穿孔可能に構成されている。レーザ加工システム1は、図1に示すように、ロボット2、レーザスキャナ3、レーザ発振器4及び制御装置5を備える。ロボット2は、レーザスキャナ3を移動させるためのロボットであり、例えば6軸ロボットが用いられている。なお、ロボット2は、6軸ロボットに限定されず、垂直型や水平型ロボットであってもよく、レーザスキャナ3を取付けて移動可能な移動用ロボットであればよい。
【0027】
ロボット2は、複数のアーム及び複数のモータ17a〜17f(図2参照)を有しており、複数のモータ17a〜17fを駆動してアームを回動させることでロボット2の姿勢を変化させることができるようになっている。このようにロボット2の姿勢を変えることでロボット2の先端部2aを様々な位置に動かし、またその先端部2aを様々な方向に向けることができる。ロボット2の先端部2aには、レーザスキャナ3が取付けられている。
【0028】
レーザスキャナであるレーザスキャナ3は、レーザを照射口3aからワーク7に向かって照射して溶接できるようになっている。レーザスキャナ3は、大略直方体状の筐体を有しており、その筐体の中には、焦点調整機構23及び照射方向調整機構24(図2参照)が収容されている。焦点調整機構23は、例えば複数のレンズ群及びレンズ駆動用モータ(図示せず)を有しており、レンズ駆動用モータによりレンズ群を動かすことでレーザの焦点位置を調整できるようになっている。また、照射方向調整機構24は、反射ミラー及びミラー駆動用モータ(図示せず)を有しており、ミラー駆動用モータにより反射ミラーを動かすことでレーザの照射方向を調整できるようになっている。なお、ミラーの高速及び高精度の動作を可能にすべく軽量の反射ミラーを用い、更にミラー駆動用モータには、例えばガルバノモータが用いられている。
【0029】
このように構成されているレーザスキャナ3は、光ファイバケーブル8を介してレーザ発振器4に接続されている。レーザ発振器4は、高出力のレーザを発振可能なレーザ源であり、発振されたレーザは、光ファイバケーブル8を介してレーザスキャナ3に送られる。そして、レーザスキャナ3は、送られてきたレーザの焦点位置及び照射方向を焦点調整機構23及び照射方向調整機構24により調整し、レーザをワーク7に照射して溶接、切断、穿孔等の加工を行なうようになっている。このようにレーザを照射するレーザスキャナ3は、ロボット2の姿勢を変えてその先端部2aを動かすことで様々な位置に移動させることができ、先端部2aの向き(姿勢)を変えることによってレーザスキャナ3の姿勢を変えることができる。このようにロボット2及びレーザスキャナ3は、様々な動作ができるように構成されており、それらの動作は制御装置5によって制御されている。
【0030】
制御装置5は、通信ケーブル9a,9b,9cを介してロボット2、レーザスキャナ3及びレーザ発信器4に接続されており、ロボット制御系10と、レーザスキャナ制御系20と、発振器制御系30とを有している。ロボット制御系10は、ロボット2の動作を制御するようになっており、レーザスキャナ制御系20は、レーザスキャナ3の動作、即ち焦点調整機構23及び照射方向調整機構24の動きを制御するようになっており、発信器制御系30は、レーザ発信器4の動作、即ちレーザの発振を制御するようになっている。以下では、各制御系10,20,30の電気的構成について詳述する。
【0031】
ロボット制御系10は、動作プログラム記憶部11と、動作プログラム処理部12と、各軸指令値演算部13と、ロボットサーボ処理部14と、ロボット動作模擬部15と、スキャナ指令値演算部16とを有している。動作プログラム記憶部11は、動作プログラムを記憶している。動作プログラムは、ロボット2、レーザスキャナ3及びレーザ発振器4の動作に関するプログラムであり、そこに、ロボット2の先端部2aの移動先の位置、溶接位置、及びレーザスキャナ3の動作タイプ等が示されている。レーザスキャナ3の動作タイプには、連続動作及び停止動作がある。連続動作は、動作後に連続して次の指令値が送られてくること知らせるものであり、速度を保ったまま移動先の位置に到着させることを指令するものである。他方、停止動作は、動作後に次の指令値がない、即ち連続動作させた後の最後に送られてくる指令であり、移動先の位置にて停止することを指令するものである。この動作プログラムを記憶する動作プログラム記憶部11は、動作プログラム処理部12に接続されている。
【0032】
動作プログラム処理部12は、動作プログラム記憶部11に記憶される動作プログラムを処理して、動作プログラムに示された移動先の位置、溶接位置、及びレーザスキャナ3の動作タイプを実現できるようにロボット2の動きを決定するようになっている。本実施形態では、溶接位置を取り囲むようにその周りに無端状(本実施形態では、円環状の軌跡)の図形が描かれるようにレーザを連続照射させるようにレーザスキャナ3を動作させるべく、移動先の位置、溶接位置、及びレーザスキャナ3の動作タイプを組み合わせて動作プログラムが作成されている。なお、レーザスキャナ3を動作させて描く図形は、必ずしも円環状等の無端状の図形に限定されず、直線や曲線等の有端状の図形を描いてもよい。また、動作プログラム処理部12は、各軸指令値演算部13に接続されている。
【0033】
各軸指令値演算部13は、動作プログラム処理部12にて決定されたロボット2の動きに基づいてロボット2の各軸の回動量、即ち各モータ17a〜17fの駆動量を演算するようになっている。各軸指令値演算部13は、ロボットサーボ処理部14とロボット動作模擬部15とに接続され、それらに演算したモータ17a〜17fの駆動量を各軸指令値として出力するようになっている。
【0034】
ロボットサーボ処理部14は、複数のモータ17a〜17fに夫々接続されており、各軸指令値演算部13からの各軸指令値に応じて各モータ17a〜17fに流す電流を制御するようになっている。ロボットサーボ処理部14がモータ17a〜17fに電流を流すことにより前記モータ17a〜17fが駆動し、ロボット2の各アームが回動する。そうすることで、ロボット2が動いてその姿勢を変え、ロボット2の先端部2aが動作プログラムに示された移動位置に移動する。
【0035】
他方、各軸指令値演算部13に接続されているロボット動作模擬部15は、各軸指令値に基づいてロボット2の姿勢をシミュレーションして、ロボット2の先端部2aの位置及び向きを予測するように構成されている。シミュレーションは、例えば、ロボット2のサーボ系を構成しているパラメータ等を用いて線形近似した線形モデル又はロボット2のばね系等の影響を更に考慮した非線形モデル等の数値化モデルやニューラルネットワーク等が用いられる。なお、このシミュレーションによりロボット2の先端部2aの位置及び向きだけを演算するようになっていてもよく、予め計測されたロボット2の実動作データに基づいてシミュレーションを行ってもよい。このロボット動作模擬部15は、スキャナ指令値演算部16に接続されている。
【0036】
スキャナ指令値演算部16は、さらに動作プログラム記憶部11にも接続されており、動作プログラムに示された溶接位置(ロボット座標系の3次元座標)及びロボット動作模擬部15のシミュレーション結果に基づいてレーザスキャナ3と溶接位置との相対位置(即ち、スキャナ座標系における3次元座標)を演算するようになっている。また、スキャナ指令値演算部16は、演算された相対位置と動作プログラムに示された動作タイプを取得するようになっている。この取得した動作タイプと前記相対位置とに基づいて焦点調整機構23及び照射方向調整機構の制御量(即ち各調整機構23,24のモータの駆動量)を演算するようになっている。また、スキャナ指令値演算部16は、スキャナ制御系20に電気的に接続され、この焦点調整機構23及び照射方向調整機構24の制御量をスキャナ指令としてスキャナ制御系20に出力するようになっている。
【0037】
スキャナ制御系20は、ロボット制御系10と別の基板に接続されている。これら2つの制御系10,20は、互いに同期制御がされておらず、制御時期がズレることがある。レーザスキャナ制御系20は、スキャナ指令値記憶部21と、スキャナサーボ処理部22とを有している。スキャナ指令値記憶部21は、スキャナ指令値演算部16から出力されたスキャナ指令値を記憶するようになっている。スキャナ指令値記憶部21は、スキャナサーボ処理部22に接続されており、それにスキャナ指令値である調整機構23,24の制御量を出力するようになっている。
【0038】
スキャナサーボ処理部22は、レーザスキャナ3の焦点調整機構23及び照射方向調整機構24に接続されており、スキャナ指令値に応じて各調整機構23,24のモータに電流を流すようになっている。これにより、スキャナ指令値に応じた照射方向にレーザスキャナ3の照射口3aから照射されるレーザの光軸が向けられ、且つスキャナ指令値に応じた焦点位置にレーザの焦点を合わせることができる。そして、スキャナ指令値の動作タイプが連続動作の場合、その動作タイプに応じてレーザスキャナ3を連続的に動作させて溶接位置を取り囲むようにその周りに円環状にレーザを照射することができる。
【0039】
このように動作するレーザスキャナ3は、レーザ発振器4で発振されて光ファイバケーブル8を介して導かれたレーザを照射口3aから発射するようになっている。そして、レーザ発振器4におけるレーザの発振は、発振器制御系30によって制御されている。発振器制御系30は、ロボット制御系10の動作プログラム処理部12に接続されており、この動作プログラム処理部12は、動作プログラムに基づいてレーザを発振すべき旨の発振指令を発振器制御系30に出力するようになっている。
【0040】
発振器制御系30は、発振指令記憶部31と、レーザ発振処理部32とを有している。発振指令記憶部31は、動作プログラム処理部12に接続されており、そこから出力された発振指令を記憶するようになっており、レーザ発振処理部32に接続されている。レーザ発振処理部32は、レーザ発振器4に接続されており、レーザ発振器4の動作、つまりレーザの発振動作を制御するようになっている。
【0041】
このように構成されるレーザ加工システム1は、動作プログラム処理部12に記憶されている動作プログラムに基づいてレーザ加工のオンザフライ制御を行う。オンザフライ制御では、ロボット2のアームを動かしてその先端部2aを移動させながらレーザスキャナ3を動作させ、更にレーザを発振制御する。そのため、ロボット制御系10及びスキャナ制御系20間の制御遅れにより、予め定められた溶接位置から離れた位置にレーザが不所望に照射されるおそれがある。そこで、レーザ加工システム1は、予め定められた溶接位置の周りに正確にレーザを照射するようにロボット動作模擬部15を利用してロボット2、レーザスキャナ3及びレーザ発振器4の動作を制御している。以下では、レーザ加工システム1の制御方法について、図3のフローチャートを参照しながら説明する。
【0042】
レーザ加工システム1は、図示しない入力手段等によりレーザ加工を開始すべき旨の指令が与えられると、レーザ加工制御処理を開始、ステップS1に移行する。ステップS1であるプログラム処理工程では、動作プログラム記憶部11で記憶された動作プログラムを動作プログラム処理部12が処理してロボット2の動きを決定する、いわゆるプログラム処理が行なわれる。このプログラム処理では、動作プログラムに基づいてロボット2の先端部2aの移動先までの経路、及び移動先までの運動状態(例えば、等速直線運動、角速度運動、及び加速度運動等)を決定する。このプログラム処理が終了すると、ステップS2に移行する。
【0043】
ステップS2である各軸指令値演算工程では、プログラム処理工程にて決定された経路及び運動状態に基づいて各モータ17a〜17fに与える各軸指令値を各軸指令値演算部13が演算する。各軸指令値演算部13は、予め定められた制御周期毎にロボットサーボ処理部14に各軸指令値を出力するようになっており、各制御時点における各軸指令値を演算する。そして、各軸指令値演算部13は、演算した各軸指令値をロボットサーボ処理部14に出力し、ステップS3に移行する。
【0044】
ステップS3であるロボットサーボ処理工程では、各軸指令値演算部13から取得した各軸指令値に基づいてロボットサーボ処理部14が各モータ17a〜17fに流す電流を制御する。これにより、ロボット2の各アームが回動し、先端部2aが移動する。ロボットサーボ処理部14は、制御周期毎に各軸指令値演算部13から各軸指令値を取得し、その指令値に基づいて連続的にモータ17a〜17fを駆動する。これにより、先端部2aがステップS2にて決定される経路及び運動状態で運動し、動作プログラムに示された移動先に移動する(ステップS4)。
【0045】
また、ステップS2の各軸指令値演算工程において、各軸指令値演算部13は、演算した各軸指令値をロボットサーボ処理部14に出力すると共に各軸指令値をロボット動作模擬部15に出力する。これによりステップS5へと移行する。ステップS5であるシミュレーション工程では、ロボット動作模擬部15がステップS2で計算した各軸指令値に基づいて各軸指令値を受け付けた時点からの制御遅れ時間Δtと、ロボットサーボ処理部の応答遅れ時間を考慮したロボット2の姿勢をシミュレーションし、先端部2aの位置及び向きを予測する。
【0046】
ここで、制御遅れ時間Δtとは、別々の基板に形成されたロボット制御系10とスキャナ制御系20との間に生じる制御遅れの時間である。つまり、ロボット制御系10からの指令に対してスキャナ制御系20がレーザスキャナ3の動作を制御開始するまでに掛かる時間である。この制御遅れ時間Δtは、例えば制御装置5を起動した時に測定するようになっている。制御遅れ時間Δtの測定方法は、ロボット制御系10からスキャナ制御系20に応答要求信号を出力してそのコマンドに対する応答に要する応答時間を測定し、測定された応答時間Rの半分時間R/2を制御遅れ時間Δtとする方法が考えられる。ただし、この方法に限定されず、経験や統計等に基づいて予め設定しておいてもよい。ロボット動作模擬部15は、その予測結果をスキャナ指令値演算部16に出力し、ステップS6に移行する。
【0047】
ステップS6であるスキャナ指令値演算工程では、ステップS5の予測結果と動作プログラムに示された溶接位置とに基づいてレーザスキャナ3と溶接位置との相対位置をスキャナ指令値演算部16が演算する。これにより、制御時点から制御遅れ時間Δt後の予測相対位置が演算される。次に、スキャナ指令値演算部16は、動作プログラム記憶部11から動作タイプを取得する。そして、この動作タイプと演算された予測相対位置とに基づいて焦点調整機構23及び照射方向調整機構24の制御量を演算する。スキャナ指令値演算部16は、この制御量を制御周期毎に演算してスキャナ指令値としてスキャナ指令値記憶部21に出力する。つまり、スキャナ指令値演算部16は、各制御時点においてその制御遅れ時間Δt後におけるロボット2の予測位置に基づいて演算した制御量をスキャナ指令値としてスキャナ指令値記憶部21に出力する。スキャナ指令値を出力すると、ステップS7に移行する。
【0048】
ステップS7であるスキャナ指令値記憶工程では、スキャナ指令値演算部16から出力されたスキャナ指令値をスキャナ指令値記憶部21に記憶し、ステップS8に移行する。ステップS8であるスキャナサーボ処理工程では、スキャナ指令値に含まれる制御量に応じてスキャナサーボ処理部22が焦点調整機構23及び照射方向調整機構24のモータに流す電流を制御する。これにより、制御時点から制御遅れ時間Δt後のロボット2の先端部2a位置に合わせて焦点調整機構23のレンズ群の位置及び照射方向調整機構24のミラーの角度が調整される。スキャナサーボ処理部22は、ロボット制御系10の制御周期毎にスキャナ指令値記憶部21に送られてくるスキャナ指令値に応じてレンズ郡の位置及びミラーの角度を連続的に調整することで、溶接位置の周りに円環状にレーザが照射されるようにレーザスキャナ3を動作させることができる(ステップS9)。
【0049】
また、ステップS1のプログラム処理工程では、ロボット2の先端部2aの移動先までの経路、移動先までの運動状態と共に、動作プログラム処理部12がレーザの発振時期を決定する。この発振時期は、発振指令として動作プログラム処理部12から発振器制御系30の発振指令記憶部31に出力される。発振指令が出力されると、ステップS10に移行する。なお、ステップS10は、ステップS2と同時に進行するようになっている。
【0050】
ステップS10である照射指令記憶工程では、ロボット制御系10からの発振指令を記憶し、ステップS11に移行する。ステップS11であるレーザ発振工程では、記憶された発振指令に応じて連続的又は断続的にレーザ発振処理部32がレーザの発振を制御するようになっている。
【0051】
このように制御装置5は、シミュレーションにより制御遅れ時間Δt後のロボット1の姿勢、即ちレーザスキャナ3の動作制御開始時におけるロボット2の姿勢を予測することができる。これにより、レーザスキャナ3の動作制御開始時におけるロボット2の予測の姿勢に基づいてレーザスキャナ3の動作が制御されるので、制御遅れに伴うレーザの照射位置のズレをなくすことができ、レーザを正確な位置に照射して溶接することができる。また、レーザスキャナ3の動作制御開始時にロボット2の予測の姿勢に基づいてレーザスキャナの動作が制御されるので、動作制御開始時前後のレーザスキャナの運動状態に寄らずにレーザを正確な位置に照射して溶接することができる。
【0052】
このようにレーザを正確な位置に照射することができるので、図4(a)に示すように、溶接跡41が円環状になるように溶接位置の周辺に正確に溶接することができる。このように溶接跡41が無端状になるようにレーザを照射することで、ワークを強固に溶接することができる。また、ワークの切断に使用する場合、ワークの刳り貫きを行うことができる。なお、制御遅れ時間Δtを考慮せずにレーザスキャナ3の動作を制御すると、図4(b)に示すように溶接位置(2点鎖線の符号41参照)から距離L離れた位置で溶接されてしまい、正確な位置への溶接ができない。また、円環状に溶接することができずに図4(b)に示すように開いた図形の溶接跡42となり、所望の溶接強度が得られない。
【0053】
このように本実施形態のレーザ加工システム1は、その制御方法によりレーザスキャナ3の運動状態に関係なくレーザを正確な位置に照射して加工することができるので、レーザスキャナを加減速運動や角速度運動等をさせることができる。これにより、ロボット2の動作の自由度を向上させることができ、動作中のレーザスキャナ3の移動経路の自由度も向上させることができる。
【0054】
また、本実施形態のレーザ加工システム1は、シミュレーション結果に基づいてレーザスキャナ3の姿勢及び相対座標が演算され、これら演算結果に基づいて前記レーザの照射方向及び焦点位置を変えるようにレーザスキャナ3の動作が制御される。それ故、レーザスキャナ3の動作制御に対する自由度を更に向上させることができる。このように自由度が向上することで、動作中のレーザスキャナ3の移動経路の自由度が更に向上し、レーザ加工の加工時間を短縮することができる。
【0055】
更に、本実施形態のレーザ加工システム1は、起動時等において予め制御遅れ時間を測定しているので、制御遅れ時間が正確に測定されて設定される。これにより、レーザが更に正確な位置に照射されるようにすることができる。
【0056】
本実施形態のレーザ加工システム1では、焦点調整機構23及び照射方向調整機構24のモータの制御量がスキャナ指令値として出力されているが、相対位置及び動作タイプをスキャナ指令値として出力し、スキャナ制御系20で前記制御量を演算するようになっていてもよい。また、本実施形態のレーザ加工システム1は、スキャナ制御系20とロボット制御系10とが別の基板に設けられているものに適用されているが、同じ基板に設けられていてもこれらの制御系10,20が異なる制御周期を有し、又は基板が同じでも異なるチップ上に形成されている場合にも適用されることができる。
【符号の説明】
【0057】
1 レーザ加工システム
2 ロボット
3 レーザスキャナ
4 レーザ発振器
5 制御装置
7 ワーク
10 ロボット制御系
15 ロボット動作模擬部
16 スキャナ指令値演算部
20 スキャナ制御系




【特許請求の範囲】
【請求項1】
レーザをワークに照射してレーザ加工を行なうレーザスキャナと、
前記レーザスキャナを移動させるように動作するロボットと、
前記ロボットの動作を制御しながら同時に前記レーザスキャナの動作に関するスキャナ指令を出力するロボット制御系と、前記スキャナ指令に応じて前記レーザスキャナの動作を制御するスキャナ制御系とを有する制御装置とを備え、
前記ロボット制御系は、前記ロボットの動作を制御する制御時点から所定時間後の前記ロボットの姿勢をシミュレーションするロボット動作模擬部と、前記ロボット動作模擬部のシミュレーション結果に基づいて前記スキャナ指令を出力するスキャナ指令部とを有し、
前記所定時間は、前記スキャナ指令が出力されてから前記スキャナ制御系の制御を開始するまでの制御遅れ時間に設定されている、レーザ加工システム。

【請求項2】
前記レーザスキャナは、前記レーザの焦点位置及び照射方向を変更できるように構成され、
前記スキャナ指令部は、前記ロボット動作模擬部のシミュレーション結果に基づいて前記レーザスキャナの姿勢、及び前記レーザスキャナと前記レーザで加工すべき加工位置との相対座標を演算し、この演算結果に基づいて前記スキャナ指令を出力し、
前記スキャナ制御系は、前記スキャナ指令に基づいて前記レーザスキャナの動作を制御して前記レーザの照射方向及び焦点位置を変えるようになっている、請求項1に記載のレーザ加工システム。
【請求項3】
前記スキャナ制御系は、前記レーザ加工において前記加工位置を取り囲むように無端状の図形を描くように前記レーザスキャナの動作を制御するようになっている、請求項1又は2に記載のレーザ加工システム。
【請求項4】
前記スキャナ制御系は、前記ロボット制御系から出力される応答要求信号に対して応答信号を出力するようになっており、
前記ロボット制御系は、前記応答要求信号を出力してから前記応答信号を受け取るまでの時間を測定し、その測定時間に応じて前記制御遅れ時間を設定するようになっている、請求項1乃至3の何れか1つに記載のレーザ加工システム。
【請求項5】
レーザを照射してワークにレーザ加工を行なうレーザスキャナと、前記レーザスキャナを移動させるように動作するロボットとを備えるレーザ加工システムの制御方法であって、
前記ロボットの動作を制御するロボット動作制御工程と、
前記ロボットの姿勢をシミュレーションするロボット動作模擬工程と、
前記ロボット動作模擬工程のシミュレーション結果に基づいて前記レーザスキャナの動作に関するスキャナ指令を出力するスキャナ指令出力工程と、
前記スキャナ指令出力工程で出力された前記スキャナ指令に基づいて前記レーザスキャナの動作を制御するスキャナ制御工程とを有し、
前記ロボット動作模擬工程では、前記ロボットの動作を制御する制御時点から設定時間後の前記ロボットの姿勢がシミュレーションされ、
前記所定時間は、前記スキャナ指令が出力されてから前記スキャナ制御系の制御を開始するまでの制御遅れ時間に設定されている、レーザ加工システムの制御方法。
【請求項6】
前記レーザスキャナは、前記レーザの焦点位置及び照射方向を変更できるように構成され、
前記スキャナ指令出力工程は、前記ロボット動作模擬工程のシミュレーション結果に基づいて前記レーザスキャナの姿勢、及び前記レーザスキャナと前記レーザで加工すべき加工位置との相対座標を演算し、この演算結果に基づいて前記スキャナ指令を出力し、
前記スキャナ制御工程は、前記スキャナ指令に基づいて前記レーザの照射方向及び焦点位置を変えるように前記レーザスキャナの動作を制御するようになっている、請求項5に記載のレーザ加工システムの制御方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2012−139711(P2012−139711A)
【公開日】平成24年7月26日(2012.7.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−293337(P2010−293337)
【出願日】平成22年12月28日(2010.12.28)
【出願人】(000000974)川崎重工業株式会社 (1,710)
【Fターム(参考)】