レーザ加工方法及びレーザ加工装置
【課題】薄膜を損傷しないように薄膜の近傍をレーザ光によって加工でき、また、ストレート形状の貫通溝を形成できる、レーザ加工方法及び加工装置を提供する。
【解決手段】表面11、12にそれぞれ薄膜31、32が形成されており、且つ、レーザ光透過可能な材料で構成されている、基板1に対して、薄膜31、32の近傍にレーザ光9を照射して貫通溝を形成する加工を行う、レーザ加工方法であって、レーザ光9の透過光92が薄膜32を照射しない角度となるように、レーザ光9を基板1に対して傾斜した状態で照射する。
【解決手段】表面11、12にそれぞれ薄膜31、32が形成されており、且つ、レーザ光透過可能な材料で構成されている、基板1に対して、薄膜31、32の近傍にレーザ光9を照射して貫通溝を形成する加工を行う、レーザ加工方法であって、レーザ光9の透過光92が薄膜32を照射しない角度となるように、レーザ光9を基板1に対して傾斜した状態で照射する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、基板に対してレーザ光を照射して加工を行う、レーザ加工方法及びレーザ加工装置に、関するものである。
【背景技術】
【0002】
(a)基板に対してレーザ光を照射して加工を行う場合においては、例えば特許文献1に示されるように、レーザ光は基板に対して垂直に照射されるのが、一般的である。
(b)基板に対してレーザ光を照射して貫通溝を形成する場合においては、基板の一方の表面にレーザ光を照射した後に基板を表裏反転させて基板の他方の表面にレーザ光を照射するのが、一般的である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2010−274328号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、例えば、多数の赤外線センサチップからなるウエハが基板である場合には、基板がタンタル酸リチウムによって構成されているのが一般的であり、また、基板の両表面にニッケルの薄膜が形成されているのが一般的である。そして、そのような基板においては、薄膜の近傍に貫通溝を形成するような加工を行うことが必要となる場合がある。そこで、本発明者は、そのような加工をレーザ光によって行うことを検討した。そして、前記(a)及び(b)の方法では、次のような不具合があることを発見した。
【0005】
タンタル酸リチウムは、レーザ光が透過可能な材料である。それ故、前記(a)の方法では、図12に示されるように、レーザ光9の入射光91を、基板1の一方の表面11の薄膜31を照射しないように設定しても、図12の部分Xに示されるように、透過光92が他方の表面12の薄膜32を照射してしまうことがあり、それにより、薄膜32が損傷することがある、という不具合がある。
【0006】
また、前記(b)の方法では、図13に示されるように、レーザ光によって両表面11、12にそれぞれ形成された溝部28、29の断面形状が、テーパ形状となり、それ故、貫通溝2としての断面形状がストレート形状にならないことがある、という不具合がある。
【0007】
本発明は、薄膜を損傷しないように薄膜の近傍をレーザ光によって加工でき、また、ストレート形状の貫通溝を形成できる、レーザ加工方法及びレーザ加工装置を、提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の第1態様は、両表面の内の少なくとも一方の表面の一部に薄膜が形成されており、且つ、レーザ光透過可能な材料で構成されている、基板に対して、前記薄膜の近傍にレーザ光を照射して加工を行う、レーザ加工方法であって、前記レーザ光を前記基板に対して傾斜した状態で照射する、ことを特徴としている。
【0009】
このレーザ加工方法は、更に、次のような具体的構成を適宜採用するのが好ましい。
(a)前記レーザ光の傾斜角度を、前記レーザ光の入射光が前記薄膜を照射しない角度に、設定する。
(b)前記レーザ光の傾斜角度を、前記レーザ光の透過光が前記薄膜を照射しない角度に、設定する。
(c)前記レーザ光の傾斜角度を、前記レーザ光の入射光が前記薄膜を照射しない角度に、及び、前記レーザ光の透過光が前記薄膜を照射しない角度に、設定する。
(d)前記レーザ光の傾斜角度を、一定に維持する。
(e)前記レーザ光の傾斜角度を、経時的に変える。
(f)前記基板を構成する材料が、タンタル酸リチウムである。
【0010】
本発明の第2態様は、基板に対してレーザ光を照射して加工を行う、レーザ加工装置において、レーザ光を出力するレーザ発振器と、前記基板を保持し、前記レーザ発振器に対する前記基板の位置を任意に設定する、加工ステージと、を備えており、前記加工ステージが、前記レーザ発振器から出力された前記レーザ光に対して前記基板を任意の角度に傾斜させる傾斜機構を、有している、ことを特徴としている。
【0011】
このレーザ加工装置は、更に、次のような具体的構成を適宜採用するのが好ましい。
(g)前記傾斜機構が、予め入力された加工情報に基づいて、前記レーザ光の入射光が前記基板に形成されている薄膜を照射しない角度になるように、及び/又は、前記レーザ光の透過光が前記基板に形成されている薄膜を照射しない角度になるように、前記基板のレーザ光に対する傾斜角度を設定する、制御部を、備えている。
(h)ガルバノミラー機構を備えており、前記制御部が、ガルバノミラーの作動と同期して前記基板のレーザ光に対する傾斜角度を設定するようになっている。
【発明の効果】
【0012】
本発明の第1態様のレーザ加工方法によれば、レーザ光の傾斜角度を、入射光が薄膜を照射しない角度に設定したり、透過光が薄膜を照射しない角度に設定したりすることによって、薄膜を損傷することなく、薄膜の近傍をレーザ光によって加工することができる。
【0013】
本発明の第2態様のレーザ加工装置によれば、傾斜機構によって、基板をレーザ光に対して傾斜させることができるので、レーザ光を基板に対して傾斜した状態で照射できる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】第1実施形態に係るレーザ加工装置を示す側面略図である。
【図2】基板の予定された加工後の状態を示す平面部分図である。
【図3】基板内のチップの予定された加工後の状態を示す平面図である。
【図4】第1実施形態に係るレーザ加工方法の一作業工程を示す断面図である。
【図5】図4の工程後の加工部分を示す断面図である。
【図6】図4に続く一作業工程を示す断面図である。
【図7】図6の工程後の加工部分を示す断面図である。
【図8】第1実施形態において形成された貫通溝を示す断面図である。
【図9】第2実施形態に係るレーザ加工方法の一作業工程を示す断面図である。
【図10】第3実施形態に係るレーザ加工方法の一作業工程を示す断面図である。
【図11】第4実施形態に係るレーザ加工装置を示す側面略図である。
【図12】従来のレーザ加工方法の一作業工程を示す断面図である。
【図13】従来のレーザ加工方法によって加工された部分を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
[第1実施形態]
図1は、本実施形態に係るレーザ加工装置を示す側面略図である。このレーザ加工装置5は、レーザ発振器51と加工ステージ52とを備えている。レーザ発振器51は、レンズ519を通して鉛直下方に向けてレーザ光9を出力するように、構成されている。加工ステージ52は、加工対象である基板1をステージ本体521上に保持するように、構成されている。
【0016】
加工ステージ52は、更に、駆動機構522を備えている。駆動機構522は、ステージ本体521を上下方向及び水平方向に移動させる移動機構と、ステージ本体521を所定の水平軸回りの回動方向に動かす傾斜機構と、を備えている。すなわち、駆動機構522は、移動機構によってステージ本体521を動かすことにより、照射されるレーザ光9に対する基板1の位置を任意に設定できるようになっており、また、傾斜機構によってステージ本体521を動かすことにより、照射されるレーザ光9に対して基板1を任意の角度に傾斜させることができる。なお、駆動機構522は、移動機構及び傾斜機構を制御する制御部(図示せず)を備えており、制御部は、予め入力された加工情報に基づいて、基板1の加工位置及び傾斜角度を設定する。加工ステージ52は、更に、反転機構523を備えるのが好ましい。反転機構523は、ステージ本体521上の基板1を、把持し、持ち上げて裏返し、ステージ本体521上に載置できるように、構成されている。
【0017】
基板1は、タンタル酸リチウムのウエハであり、多数の赤外線センサチップからなっている。タンタル酸リチウムは、レーザ光が透過可能な材料である。基板1は、平面部分図である図2に示されるように、貫通溝2Aによって赤外線センサチップ10毎に切り分けられることが予定されている。更に、赤外線センサチップ10においては、平面図である図3に示されるように、基板1の表面に赤外線受光部100が設けられており、断熱のために、赤外線受光部100の3辺に沿って貫通溝2Bが形成されることが予定されている。なお、赤外線受光部100は、ニッケル薄膜からなっており、基板1の両表面11、12に形成されている。すなわち、図4に示されるように、基板1においては、一方の表面11にニッケル薄膜31が形成されており、他方の表面12にニッケル薄膜32が形成されている。本実施形態のレーザ加工装置5によって基板1に形成する貫通溝2は、貫通溝2A及び貫通溝2Bの一方又は両方である。ここでは、貫通溝2Bを形成する場合について説明する。
【0018】
本実施形態のレーザ加工装置5を用いたレーザ加工方法による貫通溝2Bの形成は、次のように行う。
【0019】
(1)まず、駆動機構522の移動機構が、制御部によって制御されて、ステージ本体521を動かして、鉛直下方に照射されるレーザ光9に対する基板1の加工位置を設定する。
【0020】
(2)次に、駆動機構522の傾斜機構が、制御部によって制御されて、ステージ本体521を動かして、図4に示されるように、照射されるレーザ光9に対して基板1を傾斜させる。ここでは、この傾斜角度は、鉛直線Dと表面11との薄膜31側における角度αで表され、角度αを、90度より小さく、且つ、レーザ光9の入射光91が表面11の薄膜31を照射せず、且つ、レーザ光9の透過光92が表面12の薄膜32を照射しない、大きさに、設定する。角度αは、90度よりも小さいので、基板1はレーザ光9に対して傾斜していることとなる。これにより、レーザ光9は、基板1に対して傾斜した状態で照射されることとなる。
【0021】
(3)そして、図4の状態でレーザ光9の照射を継続する。これにより、図5に示されるように、テーパ形状の貫通溝21が形成される。
【0022】
(4)次に、駆動機構522の傾斜機構が、制御部によって制御されて、ステージ本体521を動かして、図6に示されるように、鉛直線Dと表面11との薄膜31とは反対側における角度β、すなわち、角度αの反対側の角度βを、角度αと同様に設定する。すなわち、角度βを、90度より小さく、且つ、レーザ光9の入射光91が表面11の薄膜31を照射せず、且つ、レーザ光9の透過光92が表面12の薄膜32を照射しない、大きさに、設定する。角度βは、90度よりも小さいので、基板1はレーザ光9に対して傾斜していることとなる。これにより、レーザ光9は、基板1に対して傾斜した状態で照射されることとなる。
【0023】
(5)そして、図6の状態でレーザ光9の照射を継続する。これにより、図7に示されるように、テーパ形状の貫通溝21に重なるように、貫通溝21とは対称的なテーパ形状の貫通溝22が形成される。これにより、図8に示されるようなストレート形状の貫通溝2が形成される。
【0024】
前記方法では、基板1の1つの加工位置に対して、レーザ光9を、角度αで照射した後に角度βで照射している。すなわち、前記方法では、レーザ光9の傾斜角度を経時的に変えている。
【0025】
前記方法によれば、入射光91が薄膜31を照射せず、且つ、透過光92が薄膜32を照射しないので、両表面11、12の薄膜31、32を損傷することなく、薄膜31、32の近傍をレーザ光9によって加工することができる。
【0026】
しかも、レーザ光9に対する基板1の傾斜角度を経時的に変えることによって、対称的なテーパ形状の、貫通溝21と貫通溝22とを、重なるように形成できるので、ストレート形状の貫通溝2を形成できる。
【0027】
[第2実施形態]
本実施形態は、図9に示されるように、第1実施形態に比して、次の点のみが異なっている。
(i)一方の表面11のみにニッケル薄膜31が形成されている。
(ii)角度βのみを設定しており、角度βを、90度より小さく、且つ、レーザ光9の入射光91が薄膜31を照射しない、大きさに、設定している。
【0028】
本実施形態では、基板1の1つの加工位置に対して、レーザ光9を角度βのみで照射している。すなわち、前記方法では、レーザ光9の傾斜角度を一定に維持している。
【0029】
本実施形態のレーザ加工方法においては、入射光91が、薄膜31を照射しないだけでなく、薄膜31から離れている。したがって、本実施形態によれば、薄膜31を損傷しないだけでなく、薄膜31への入射光91による熱影響を抑制できる。
【0030】
[第3実施形態]
本実施形態は、図10に示されるように、第1実施形態に比して、次の点のみが異なっている。
(i)他方の表面12のみにニッケル薄膜32が形成されている。
(ii)角度αのみを設定しており、角度αを、90度より小さく、且つ、レーザ光9の透過光92が薄膜32を照射しない、大きさに、設定している。
【0031】
本実施形態では、基板1の1つの加工位置に対して、レーザ光9を角度αのみで照射している。すなわち、前記方法では、レーザ光9の傾斜角度を一定に維持している。
【0032】
本実施形態のレーザ加工方法においては、透過光92が、薄膜32を照射しないだけでなく、薄膜32から離れている。したがって、本実施形態によれば、薄膜32を損傷しないだけでなく、薄膜32への透過光92による熱影響を抑制できる。
【0033】
[第4実施形態]
本実施形態は、図11に示されるように、図1のレーザ加工装置5に比して、次の点のみが異なっている。
(i)ガルバノミラー機構を採用している。
(ii)制御部が、ガルバノミラー55の作動と同期して駆動機構522(特に傾斜機構)を制御するようになっている。
【0034】
ガルバノミラー機構によれば、ガルバノミラー55の作動によってレーザ光9の照射位置を変えることができる。したがって、駆動機構522の移動機構の作動を、不要にできる。
【0035】
本実施形態によれば、駆動機構522の傾斜機構が、ガルバノミラー55の作動と同期して作動するので、各加工位置における基板1のレーザ光9に対する傾斜角度を所望の角度に設定できる。すなわち、本実施形態によれば、基板1のレーザ光9に対する傾斜角度を加工位置に対応して設定できる。
【産業上の利用可能性】
【0036】
本発明は、薄膜を損傷しないように薄膜の近傍をレーザ光によって加工でき、また、ストレート形状の貫通溝を形成できるので、産業上の利用価値が大である。
【符号の説明】
【0037】
1 基板 11、12 表面 31、32 薄膜 5 レーザ加工装置 51 レーザ発振器 52 加工ステージ 55 ガルバノミラー 9 レーザ光 91 入射光 92 透過光
【技術分野】
【0001】
本発明は、基板に対してレーザ光を照射して加工を行う、レーザ加工方法及びレーザ加工装置に、関するものである。
【背景技術】
【0002】
(a)基板に対してレーザ光を照射して加工を行う場合においては、例えば特許文献1に示されるように、レーザ光は基板に対して垂直に照射されるのが、一般的である。
(b)基板に対してレーザ光を照射して貫通溝を形成する場合においては、基板の一方の表面にレーザ光を照射した後に基板を表裏反転させて基板の他方の表面にレーザ光を照射するのが、一般的である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2010−274328号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、例えば、多数の赤外線センサチップからなるウエハが基板である場合には、基板がタンタル酸リチウムによって構成されているのが一般的であり、また、基板の両表面にニッケルの薄膜が形成されているのが一般的である。そして、そのような基板においては、薄膜の近傍に貫通溝を形成するような加工を行うことが必要となる場合がある。そこで、本発明者は、そのような加工をレーザ光によって行うことを検討した。そして、前記(a)及び(b)の方法では、次のような不具合があることを発見した。
【0005】
タンタル酸リチウムは、レーザ光が透過可能な材料である。それ故、前記(a)の方法では、図12に示されるように、レーザ光9の入射光91を、基板1の一方の表面11の薄膜31を照射しないように設定しても、図12の部分Xに示されるように、透過光92が他方の表面12の薄膜32を照射してしまうことがあり、それにより、薄膜32が損傷することがある、という不具合がある。
【0006】
また、前記(b)の方法では、図13に示されるように、レーザ光によって両表面11、12にそれぞれ形成された溝部28、29の断面形状が、テーパ形状となり、それ故、貫通溝2としての断面形状がストレート形状にならないことがある、という不具合がある。
【0007】
本発明は、薄膜を損傷しないように薄膜の近傍をレーザ光によって加工でき、また、ストレート形状の貫通溝を形成できる、レーザ加工方法及びレーザ加工装置を、提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の第1態様は、両表面の内の少なくとも一方の表面の一部に薄膜が形成されており、且つ、レーザ光透過可能な材料で構成されている、基板に対して、前記薄膜の近傍にレーザ光を照射して加工を行う、レーザ加工方法であって、前記レーザ光を前記基板に対して傾斜した状態で照射する、ことを特徴としている。
【0009】
このレーザ加工方法は、更に、次のような具体的構成を適宜採用するのが好ましい。
(a)前記レーザ光の傾斜角度を、前記レーザ光の入射光が前記薄膜を照射しない角度に、設定する。
(b)前記レーザ光の傾斜角度を、前記レーザ光の透過光が前記薄膜を照射しない角度に、設定する。
(c)前記レーザ光の傾斜角度を、前記レーザ光の入射光が前記薄膜を照射しない角度に、及び、前記レーザ光の透過光が前記薄膜を照射しない角度に、設定する。
(d)前記レーザ光の傾斜角度を、一定に維持する。
(e)前記レーザ光の傾斜角度を、経時的に変える。
(f)前記基板を構成する材料が、タンタル酸リチウムである。
【0010】
本発明の第2態様は、基板に対してレーザ光を照射して加工を行う、レーザ加工装置において、レーザ光を出力するレーザ発振器と、前記基板を保持し、前記レーザ発振器に対する前記基板の位置を任意に設定する、加工ステージと、を備えており、前記加工ステージが、前記レーザ発振器から出力された前記レーザ光に対して前記基板を任意の角度に傾斜させる傾斜機構を、有している、ことを特徴としている。
【0011】
このレーザ加工装置は、更に、次のような具体的構成を適宜採用するのが好ましい。
(g)前記傾斜機構が、予め入力された加工情報に基づいて、前記レーザ光の入射光が前記基板に形成されている薄膜を照射しない角度になるように、及び/又は、前記レーザ光の透過光が前記基板に形成されている薄膜を照射しない角度になるように、前記基板のレーザ光に対する傾斜角度を設定する、制御部を、備えている。
(h)ガルバノミラー機構を備えており、前記制御部が、ガルバノミラーの作動と同期して前記基板のレーザ光に対する傾斜角度を設定するようになっている。
【発明の効果】
【0012】
本発明の第1態様のレーザ加工方法によれば、レーザ光の傾斜角度を、入射光が薄膜を照射しない角度に設定したり、透過光が薄膜を照射しない角度に設定したりすることによって、薄膜を損傷することなく、薄膜の近傍をレーザ光によって加工することができる。
【0013】
本発明の第2態様のレーザ加工装置によれば、傾斜機構によって、基板をレーザ光に対して傾斜させることができるので、レーザ光を基板に対して傾斜した状態で照射できる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】第1実施形態に係るレーザ加工装置を示す側面略図である。
【図2】基板の予定された加工後の状態を示す平面部分図である。
【図3】基板内のチップの予定された加工後の状態を示す平面図である。
【図4】第1実施形態に係るレーザ加工方法の一作業工程を示す断面図である。
【図5】図4の工程後の加工部分を示す断面図である。
【図6】図4に続く一作業工程を示す断面図である。
【図7】図6の工程後の加工部分を示す断面図である。
【図8】第1実施形態において形成された貫通溝を示す断面図である。
【図9】第2実施形態に係るレーザ加工方法の一作業工程を示す断面図である。
【図10】第3実施形態に係るレーザ加工方法の一作業工程を示す断面図である。
【図11】第4実施形態に係るレーザ加工装置を示す側面略図である。
【図12】従来のレーザ加工方法の一作業工程を示す断面図である。
【図13】従来のレーザ加工方法によって加工された部分を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
[第1実施形態]
図1は、本実施形態に係るレーザ加工装置を示す側面略図である。このレーザ加工装置5は、レーザ発振器51と加工ステージ52とを備えている。レーザ発振器51は、レンズ519を通して鉛直下方に向けてレーザ光9を出力するように、構成されている。加工ステージ52は、加工対象である基板1をステージ本体521上に保持するように、構成されている。
【0016】
加工ステージ52は、更に、駆動機構522を備えている。駆動機構522は、ステージ本体521を上下方向及び水平方向に移動させる移動機構と、ステージ本体521を所定の水平軸回りの回動方向に動かす傾斜機構と、を備えている。すなわち、駆動機構522は、移動機構によってステージ本体521を動かすことにより、照射されるレーザ光9に対する基板1の位置を任意に設定できるようになっており、また、傾斜機構によってステージ本体521を動かすことにより、照射されるレーザ光9に対して基板1を任意の角度に傾斜させることができる。なお、駆動機構522は、移動機構及び傾斜機構を制御する制御部(図示せず)を備えており、制御部は、予め入力された加工情報に基づいて、基板1の加工位置及び傾斜角度を設定する。加工ステージ52は、更に、反転機構523を備えるのが好ましい。反転機構523は、ステージ本体521上の基板1を、把持し、持ち上げて裏返し、ステージ本体521上に載置できるように、構成されている。
【0017】
基板1は、タンタル酸リチウムのウエハであり、多数の赤外線センサチップからなっている。タンタル酸リチウムは、レーザ光が透過可能な材料である。基板1は、平面部分図である図2に示されるように、貫通溝2Aによって赤外線センサチップ10毎に切り分けられることが予定されている。更に、赤外線センサチップ10においては、平面図である図3に示されるように、基板1の表面に赤外線受光部100が設けられており、断熱のために、赤外線受光部100の3辺に沿って貫通溝2Bが形成されることが予定されている。なお、赤外線受光部100は、ニッケル薄膜からなっており、基板1の両表面11、12に形成されている。すなわち、図4に示されるように、基板1においては、一方の表面11にニッケル薄膜31が形成されており、他方の表面12にニッケル薄膜32が形成されている。本実施形態のレーザ加工装置5によって基板1に形成する貫通溝2は、貫通溝2A及び貫通溝2Bの一方又は両方である。ここでは、貫通溝2Bを形成する場合について説明する。
【0018】
本実施形態のレーザ加工装置5を用いたレーザ加工方法による貫通溝2Bの形成は、次のように行う。
【0019】
(1)まず、駆動機構522の移動機構が、制御部によって制御されて、ステージ本体521を動かして、鉛直下方に照射されるレーザ光9に対する基板1の加工位置を設定する。
【0020】
(2)次に、駆動機構522の傾斜機構が、制御部によって制御されて、ステージ本体521を動かして、図4に示されるように、照射されるレーザ光9に対して基板1を傾斜させる。ここでは、この傾斜角度は、鉛直線Dと表面11との薄膜31側における角度αで表され、角度αを、90度より小さく、且つ、レーザ光9の入射光91が表面11の薄膜31を照射せず、且つ、レーザ光9の透過光92が表面12の薄膜32を照射しない、大きさに、設定する。角度αは、90度よりも小さいので、基板1はレーザ光9に対して傾斜していることとなる。これにより、レーザ光9は、基板1に対して傾斜した状態で照射されることとなる。
【0021】
(3)そして、図4の状態でレーザ光9の照射を継続する。これにより、図5に示されるように、テーパ形状の貫通溝21が形成される。
【0022】
(4)次に、駆動機構522の傾斜機構が、制御部によって制御されて、ステージ本体521を動かして、図6に示されるように、鉛直線Dと表面11との薄膜31とは反対側における角度β、すなわち、角度αの反対側の角度βを、角度αと同様に設定する。すなわち、角度βを、90度より小さく、且つ、レーザ光9の入射光91が表面11の薄膜31を照射せず、且つ、レーザ光9の透過光92が表面12の薄膜32を照射しない、大きさに、設定する。角度βは、90度よりも小さいので、基板1はレーザ光9に対して傾斜していることとなる。これにより、レーザ光9は、基板1に対して傾斜した状態で照射されることとなる。
【0023】
(5)そして、図6の状態でレーザ光9の照射を継続する。これにより、図7に示されるように、テーパ形状の貫通溝21に重なるように、貫通溝21とは対称的なテーパ形状の貫通溝22が形成される。これにより、図8に示されるようなストレート形状の貫通溝2が形成される。
【0024】
前記方法では、基板1の1つの加工位置に対して、レーザ光9を、角度αで照射した後に角度βで照射している。すなわち、前記方法では、レーザ光9の傾斜角度を経時的に変えている。
【0025】
前記方法によれば、入射光91が薄膜31を照射せず、且つ、透過光92が薄膜32を照射しないので、両表面11、12の薄膜31、32を損傷することなく、薄膜31、32の近傍をレーザ光9によって加工することができる。
【0026】
しかも、レーザ光9に対する基板1の傾斜角度を経時的に変えることによって、対称的なテーパ形状の、貫通溝21と貫通溝22とを、重なるように形成できるので、ストレート形状の貫通溝2を形成できる。
【0027】
[第2実施形態]
本実施形態は、図9に示されるように、第1実施形態に比して、次の点のみが異なっている。
(i)一方の表面11のみにニッケル薄膜31が形成されている。
(ii)角度βのみを設定しており、角度βを、90度より小さく、且つ、レーザ光9の入射光91が薄膜31を照射しない、大きさに、設定している。
【0028】
本実施形態では、基板1の1つの加工位置に対して、レーザ光9を角度βのみで照射している。すなわち、前記方法では、レーザ光9の傾斜角度を一定に維持している。
【0029】
本実施形態のレーザ加工方法においては、入射光91が、薄膜31を照射しないだけでなく、薄膜31から離れている。したがって、本実施形態によれば、薄膜31を損傷しないだけでなく、薄膜31への入射光91による熱影響を抑制できる。
【0030】
[第3実施形態]
本実施形態は、図10に示されるように、第1実施形態に比して、次の点のみが異なっている。
(i)他方の表面12のみにニッケル薄膜32が形成されている。
(ii)角度αのみを設定しており、角度αを、90度より小さく、且つ、レーザ光9の透過光92が薄膜32を照射しない、大きさに、設定している。
【0031】
本実施形態では、基板1の1つの加工位置に対して、レーザ光9を角度αのみで照射している。すなわち、前記方法では、レーザ光9の傾斜角度を一定に維持している。
【0032】
本実施形態のレーザ加工方法においては、透過光92が、薄膜32を照射しないだけでなく、薄膜32から離れている。したがって、本実施形態によれば、薄膜32を損傷しないだけでなく、薄膜32への透過光92による熱影響を抑制できる。
【0033】
[第4実施形態]
本実施形態は、図11に示されるように、図1のレーザ加工装置5に比して、次の点のみが異なっている。
(i)ガルバノミラー機構を採用している。
(ii)制御部が、ガルバノミラー55の作動と同期して駆動機構522(特に傾斜機構)を制御するようになっている。
【0034】
ガルバノミラー機構によれば、ガルバノミラー55の作動によってレーザ光9の照射位置を変えることができる。したがって、駆動機構522の移動機構の作動を、不要にできる。
【0035】
本実施形態によれば、駆動機構522の傾斜機構が、ガルバノミラー55の作動と同期して作動するので、各加工位置における基板1のレーザ光9に対する傾斜角度を所望の角度に設定できる。すなわち、本実施形態によれば、基板1のレーザ光9に対する傾斜角度を加工位置に対応して設定できる。
【産業上の利用可能性】
【0036】
本発明は、薄膜を損傷しないように薄膜の近傍をレーザ光によって加工でき、また、ストレート形状の貫通溝を形成できるので、産業上の利用価値が大である。
【符号の説明】
【0037】
1 基板 11、12 表面 31、32 薄膜 5 レーザ加工装置 51 レーザ発振器 52 加工ステージ 55 ガルバノミラー 9 レーザ光 91 入射光 92 透過光
【特許請求の範囲】
【請求項1】
両表面の内の少なくとも一方の表面の一部に薄膜が形成されており、且つ、レーザ光透過可能な材料で構成されている、基板に対して、前記薄膜の近傍にレーザ光を照射して加工を行う、レーザ加工方法であって、
前記レーザ光を前記基板に対して傾斜した状態で照射する、
ことを特徴とするレーザ加工方法。
【請求項2】
前記レーザ光の傾斜角度を、前記レーザ光の入射光が前記薄膜を照射しない角度に、設定する、
請求項1記載のレーザ加工方法。
【請求項3】
前記レーザ光の傾斜角度を、前記レーザ光の透過光が前記薄膜を照射しない角度に、設定する、
請求項1記載のレーザ加工方法。
【請求項4】
前記レーザ光の傾斜角度を、前記レーザ光の入射光が前記薄膜を照射しない角度に、及び、前記レーザ光の透過光が前記薄膜を照射しない角度に、設定する、
請求項1記載のレーザ加工方法。
【請求項5】
前記レーザ光の傾斜角度を、一定に維持する、
請求項1〜4のいずれか一つに記載のレーザ加工方法。
【請求項6】
前記レーザ光の傾斜角度を、経時的に変える、
請求項1〜4のいずれか一つに記載のレーザ加工方法。
【請求項7】
前記基板を構成する材料が、タンタル酸リチウムである、請求項1〜6のいずれか一つに記載のレーザ加工方法。
【請求項8】
基板に対してレーザ光を照射して加工を行う、レーザ加工装置において、
レーザ光を出力するレーザ発振器と、
前記基板を保持し、前記レーザ発振器に対する前記基板の位置を任意に設定する、加工ステージと、
を備えており、
前記加工ステージが、前記レーザ発振器から出力された前記レーザ光に対して前記基板を任意の角度に傾斜させる傾斜機構を、有している、
ことを特徴とするレーザ加工装置。
【請求項9】
前記傾斜機構が、予め入力された加工情報に基づいて、前記レーザ光の入射光が前記基板に形成されている薄膜を照射しない角度になるように、及び/又は、前記レーザ光の透過光が前記基板に形成されている薄膜を照射しない角度になるように、前記基板のレーザ光に対する傾斜角度を設定する、制御部を、備えている、
請求項8記載のレーザ加工装置。
【請求項10】
ガルバノミラー機構を備えており、
前記制御部が、ガルバノミラーの作動と同期して前記基板のレーザ光に対する傾斜角度を設定するようになっている、
請求項9記載のレーザ加工装置。
【請求項1】
両表面の内の少なくとも一方の表面の一部に薄膜が形成されており、且つ、レーザ光透過可能な材料で構成されている、基板に対して、前記薄膜の近傍にレーザ光を照射して加工を行う、レーザ加工方法であって、
前記レーザ光を前記基板に対して傾斜した状態で照射する、
ことを特徴とするレーザ加工方法。
【請求項2】
前記レーザ光の傾斜角度を、前記レーザ光の入射光が前記薄膜を照射しない角度に、設定する、
請求項1記載のレーザ加工方法。
【請求項3】
前記レーザ光の傾斜角度を、前記レーザ光の透過光が前記薄膜を照射しない角度に、設定する、
請求項1記載のレーザ加工方法。
【請求項4】
前記レーザ光の傾斜角度を、前記レーザ光の入射光が前記薄膜を照射しない角度に、及び、前記レーザ光の透過光が前記薄膜を照射しない角度に、設定する、
請求項1記載のレーザ加工方法。
【請求項5】
前記レーザ光の傾斜角度を、一定に維持する、
請求項1〜4のいずれか一つに記載のレーザ加工方法。
【請求項6】
前記レーザ光の傾斜角度を、経時的に変える、
請求項1〜4のいずれか一つに記載のレーザ加工方法。
【請求項7】
前記基板を構成する材料が、タンタル酸リチウムである、請求項1〜6のいずれか一つに記載のレーザ加工方法。
【請求項8】
基板に対してレーザ光を照射して加工を行う、レーザ加工装置において、
レーザ光を出力するレーザ発振器と、
前記基板を保持し、前記レーザ発振器に対する前記基板の位置を任意に設定する、加工ステージと、
を備えており、
前記加工ステージが、前記レーザ発振器から出力された前記レーザ光に対して前記基板を任意の角度に傾斜させる傾斜機構を、有している、
ことを特徴とするレーザ加工装置。
【請求項9】
前記傾斜機構が、予め入力された加工情報に基づいて、前記レーザ光の入射光が前記基板に形成されている薄膜を照射しない角度になるように、及び/又は、前記レーザ光の透過光が前記基板に形成されている薄膜を照射しない角度になるように、前記基板のレーザ光に対する傾斜角度を設定する、制御部を、備えている、
請求項8記載のレーザ加工装置。
【請求項10】
ガルバノミラー機構を備えており、
前記制御部が、ガルバノミラーの作動と同期して前記基板のレーザ光に対する傾斜角度を設定するようになっている、
請求項9記載のレーザ加工装置。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【公開番号】特開2012−223783(P2012−223783A)
【公開日】平成24年11月15日(2012.11.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−92157(P2011−92157)
【出願日】平成23年4月18日(2011.4.18)
【出願人】(000005821)パナソニック株式会社 (73,050)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成24年11月15日(2012.11.15)
【国際特許分類】
【出願日】平成23年4月18日(2011.4.18)
【出願人】(000005821)パナソニック株式会社 (73,050)
【Fターム(参考)】
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