説明

レーザ加工方法及びレーザ加工装置

【課題】水晶で形成された加工対象物を寸法精度よく切断する。
【解決手段】本実施形態では、水晶で形成された加工対象物1にレーザ光Lを集光させることにより、切断予定ライン5に沿って、複数の改質スポットSを含む改質領域7を加工対象物1に形成する。このとき、加工対象物1に対しレーザ光Lを照射しながら切断予定ライン5に沿って相対移動させ、複数の改質スポットSを切断予定ライン5に沿って2μm〜9μmのピッチで形成する。これにより、形成する複数の改質スポットSのピッチを最適化し、これら複数の改質スポットSの間で亀裂を好適に繋げることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、加工対象物を切断するためのレーザ加工方法及びレーザ加工装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来のレーザ加工方法としては、加工対象物にレーザ光を集光させ、加工対象物に改質領域を切断予定ラインに沿って形成し、加工対象物を切断予定ラインに沿って切断するものが知られている(例えば、特許文献1参照)。このようなレーザ加工方法では、切断予定ラインに沿って複数の改質スポットを形成し、これら複数の改質スポットによって改質領域を形成している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2006−108459号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ここで、上述したようなレーザ加工方法においては、水晶で形成された加工対象物を切断する場合、例えば水晶が有する加工特性に起因して、複数の改質スポット間で亀裂がうまく繋がらないことがあり、その結果、切断後の加工対象物の寸法精度(加工品質)が低下してしまうおそれがある。
【0005】
そこで、本発明は、水晶で形成された加工対象物を寸法精度よく切断することができるレーザ加工方法及びレーザ加工装置を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するために、本発明者らは鋭意検討を重ねた結果、水晶の加工特性に基づく次の知見を得た。すなわち、水晶で形成された加工対象物において形成された複数の改質スポットのピッチが広いと、隣接する改質スポット間で亀裂が繋がらない場合がある一方、複数の改質スポットのピッチが狭いと、一の改質スポットから隣接する改質スポットを超えてさらに隣の改質スポットに繋がるような亀裂(以下、「亀裂のジャンプ」という)が発生してしまう場合があるという知見を得た。そこで、形成する複数の改質スポットのピッチを最適化できれば、複数の改質スポット間で亀裂を好適に繋げ、加工対象物を寸法精度よく切断できることに想到し、本発明を完成するに至った。
【0007】
本発明に係るレーザ加工方法は、水晶で形成された加工対象物を切断予定ラインに沿って切断するためのレーザ加工方法であって、加工対象物にレーザ光を集光させることにより、切断予定ラインに沿って、複数の改質スポットを含む改質領域を加工対象物に形成する改質領域形成工程を備え、改質領域形成工程は、加工対象物に対しレーザ光を照射しながら切断予定ラインに沿って相対移動させ、複数の改質スポットを切断予定ラインに沿って形成する工程を含み、複数の改質スポットは、2μm〜9μmのピッチを有することを特徴とする。
【0008】
このレーザ加工方法では、形成する複数の改質スポットのピッチを最適化し、これらの間で亀裂を好適に繋げることができる。つまり、複数の改質スポット間で亀裂を確実に繋げつつ、亀裂のジャンプの発生を抑制することができる。その結果、加工対象物を寸法精度よく切断することが可能となる。なお、複数の改質スポットのピッチが2μmよりも小さいと、複数の改質スポット間における亀裂の繋がりが強すぎ、亀裂のジャンプが生じるおそれがある。一方、複数の改質スポットのピッチが9μmよりも大きいと、隣接する改質スポット間で亀裂が繋がらないおそれがある。
【0009】
このとき、複数の改質スポットは、6μm〜9μmのピッチを有することが好ましい。この場合、亀裂のジャンプ現象の発生を一層抑制することができる。さらに、加工速度を高めることができるため、生産性を高めることが可能となる。なお、ピッチを5μm以下にすると、その内部を抉るような亀裂が発生しやすくなり、生産性が低下する。しかしながら、表面側に亀裂を発生させやすくなって分割性能が向上するため、分割し難い加工対象物の加工時には採用される場合もある。
【0010】
また、切断予定ラインに沿って外部から加工対象物に力を印加することにより、改質領域を切断の起点として加工対象物を切断する切断工程をさらに備えたことが好ましい。これにより、加工対象物を確実に切断予定ラインに沿って切断することが可能となる。
【0011】
また、本発明に係るレーザ加工装置は、水晶で形成された加工対象物を切断予定ラインに沿って切断するためのレーザ加工装置であって、レーザ光をパルス発振するレーザ光源と、レーザ光源で発振されるレーザ光を支持台上の加工対象物の内部に集光させる集光光学系と、レーザ光源を少なくとも制御する制御手段と、を備え、制御手段は、加工対象物にレーザ光を集光させることにより、切断予定ラインに沿って、複数の改質スポットを含む改質領域を加工対象物に形成させる改質領域形成処理を実行し、改質領域形成処理は、加工対象物に対しレーザ光を照射させながら切断予定ラインに沿って相対移動させ、2μm〜9μmのピッチを有する複数の改質スポットを切断予定ラインに沿って形成させる処理を含むことを特徴とする。
【0012】
このレーザ加工装置においても、形成する複数の改質スポットの間で亀裂を好適に繋げることができ、加工対象物を寸法精度よく切断することが可能となる。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、水晶で形成された加工対象物を寸法精度よく切断することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】改質領域の形成に用いられるレーザ加工装置の概略構成図である。
【図2】改質領域の形成の対象となる加工対象物の平面図である。
【図3】図2の加工対象物のIII−III線に沿っての断面図である。
【図4】レーザ加工後の加工対象物の平面図である。
【図5】図4の加工対象物のV−V線に沿っての断面図である。
【図6】図4の加工対象物のVI−VI線に沿っての断面図である。
【図7】本実施形態に係る水晶振動子の製造工程を示すフロー図である。
【図8】加工対象物を水晶チップに切断する工程を説明するための概略図である。
【図9】改質スポットのピッチ変化時における加工対象物の加工特性評価結果を示す表である。
【図10】改質スポットを加工対象物の厚さ方向から見た断面写真図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の好適な実施形態について、図面を参照して詳細に説明する。なお、以下の説明において同一又は相当要素には同一符号を付し、重複する説明を省略する。
【0016】
本実施形態に係るレーザ加工方法では、加工対象物にレーザ光を集光させ、複数の改質スポットを含む改質領域を切断予定ラインに沿って形成する。そこで、まず、改質領域の形成について、図1〜図6を参照して説明する。
【0017】
図1に示すように、レーザ加工装置100は、レーザ光Lをパルス発振するレーザ光源101と、レーザ光Lの光軸(光路)の向きを90°変えるように配置されたダイクロイックミラー103と、レーザ光Lを集光するための集光用レンズ(集光光学系)105と、を備えている。また、レーザ加工装置100は、集光用レンズ105で集光されたレーザ光Lが照射される加工対象物1を支持するための支持台107と、支持台107を移動させるためのステージ111と、レーザ光Lの出力やパルス幅、パルス波形等を調節するためにレーザ光源101を制御するレーザ光源制御部(制御手段)102と、ステージ111の移動を制御するステージ制御部115と、を備えている。
【0018】
このレーザ加工装置100においては、レーザ光源101から出射されたレーザ光Lは、ダイクロイックミラー103によってその光軸の向きを90°変えられ、支持台107上に載置された加工対象物1の内部に集光用レンズ105によって集光される。これと共に、ステージ111が移動させられ、加工対象物1がレーザ光Lに対して切断予定ライン5に沿って相対移動させられる。これにより、切断予定ライン5に沿った改質領域が加工対象物1に形成されることとなる。なお、ここでは、レーザ光Lを相対的に移動させるためにステージ111を移動させたが、集光用レンズ105を移動させてもよいし、或いはこれらの両方を移動させてもよい。
【0019】
加工対象物1は、水晶で形成されており、図2に示すように、加工対象物1には、加工対象物1を切断するための切断予定ライン5が設定されている。切断予定ライン5は、直線状に延びた仮想線である。加工対象物1の内部に改質領域を形成する場合、図3に示すように、加工対象物1の内部に集光点(集光位置)Pを合わせた状態で、レーザ光Lを切断予定ライン5に沿って(すなわち、図2の矢印A方向に)相対的に移動させる。これにより、図4〜図6に示すように、改質領域7が切断予定ライン5に沿って加工対象物1の内部に形成され、切断予定ライン5に沿って形成された改質領域7が切断起点領域8となる。
【0020】
なお、集光点Pとは、レーザ光Lが集光する箇所のことである。また、切断予定ライン5は、直線状に限らず曲線状であってもよいし、これらが組み合わされた3次元状であってもよいし、座標指定されたものであってもよい。また、切断予定ライン5は、仮想線に限らず加工対象物1の表面3に実際に引かれた線であってもよい。改質領域7は、連続的に形成される場合もあるし、断続的に形成される場合もある。また、改質領域7は列状でも点状でもよく、要は、改質領域7は少なくとも加工対象物1の内部に形成されていればよい。また、改質領域7を起点に亀裂が形成される場合があり、亀裂及び改質領域7は、加工対象物1の外表面(表面3、裏面21、若しくは外周面)に露出していてもよい。また、改質領域7を形成する際のレーザ光入射面は、加工対象物1の表面3に限定されるものではなく、加工対象物1の裏面21であってもよい。
【0021】
ちなみに、ここでのレーザ光Lは、加工対象物1を透過すると共に加工対象物1の内部の集光点近傍にて特に吸収され、これにより、加工対象物1に改質領域7が形成される(すなわち、内部吸収型レーザ加工)。よって、加工対象物1の表面3ではレーザ光Lが殆ど吸収されないので、加工対象物1の表面3が溶融することはない。一般的に、表面3から溶融され除去されて穴や溝等の除去部が形成される(表面吸収型レーザ加工)場合、加工領域は表面3側から徐々に裏面側に進行する。
【0022】
ところで、本実施形態で形成される改質領域は、密度、屈折率、機械的強度やその他の物理的特性が周囲とは異なる状態になった領域をいう。改質領域としては、例えば、溶融処理領域(一旦溶融後再固化した領域、溶融状態中の領域及び溶融から再固化する状態中の領域のうち少なくともいずれか一つを意味する)、クラック領域、絶縁破壊領域、屈折率変化領域等があり、これらが混在した領域もある。さらに、改質領域としては、加工対象物の材料において改質領域の密度が非改質領域の密度と比較して変化した領域や、格子欠陥が形成された領域がある(これらをまとめて高密転移領域ともいう)。
【0023】
また、溶融処理領域や屈折率変化領域、改質領域の密度が非改質領域の密度と比較して変化した領域、格子欠陥が形成された領域は、さらに、それら領域の内部や改質領域と非改質領域との界面に亀裂(割れ、マイクロクラック)を内包している場合がある。内包される亀裂は改質領域の全面に渡る場合や一部分のみや複数部分に形成される場合がある。加工対象物1としては、水晶(SiO)又は水晶を含む材料が用いられている。
【0024】
また、本実施形態においては、切断予定ライン5に沿って改質スポット(加工痕)を複数形成することによって、改質領域7を形成している。改質スポットとは、パルスレーザ光の1パルスのショット(つまり1パルスのレーザ照射:レーザショット)で形成される改質部分であり、改質スポットが集まることにより改質領域7となる。改質スポットとしては、クラックスポット、溶融処理スポット若しくは屈折率変化スポット、又はこれらの少なくとも1つが混在するもの等が挙げられる。
【0025】
この改質スポットについては、要求される切断精度、要求される切断面の平坦性、加工対象物の厚さ、種類、結晶方位等を考慮して、その大きさや発生する亀裂の長さを適宜制御することが好ましい。
【0026】
次に、本実施形態について詳細に説明する。
【0027】
本実施形態は、例えば水晶振動子を製造するための水晶振動子の製造方法として用いられるものであって、六方柱状の結晶である水晶で形成された加工対象物1を複数の水晶チップに切断する。そこで、まず、図7を参照しつつ水晶振動子の全体の製造工程フローを概略説明する。
【0028】
初めに、人工水晶原石を例えばダイヤモンド研削によって切り出し、所定サイズの棒状体(ランバード)に加工する(S1)。続いて、水晶振動子の温度特性要求に応じた切断角度をX線により測定し、この切断角度に基づいてランバードをワイヤーソー加工によって複数のウェハ状の加工対象物1に切断する(S2)。ここでの加工対象物1は、10mm×10mmの矩形板状を呈し、厚さ方向に対し35.15°傾斜した結晶軸を有している。
【0029】
続いて、ラッピング加工を加工対象物1の表面3及び裏面21に施し、その厚さを所定厚さとする(S3)。続いて、微小角度レベルで切断角度をX線により測定し、加工対象物1の選別及び分類を行った後、上記S3と同様なラッピング加工を加工対象物1の表面3及び裏面21に再度施し、加工対象物1の厚さを例えば100μm程度に微調整する(S4,S5)。
【0030】
そして、切断加工及び外形加工として、加工対象物1に改質領域7を形成し当該改質領域7を切断の起点として加工対象物1を切断予定ライン5に沿って切断する(S6:詳しくは、後述)。これにより、±数μm以下の寸法精度の外形寸法を有する複数の水晶チップを得る。本実施形態では、表面3視において切断予定ライン5が格子状に加工対象物1に設定されており、1mm×0.5mmの矩形板状の水晶チップとして加工対象物1を切断する。
【0031】
続いて、所定周波数となるように水晶チップに面取り加工(コンベックス加工)を施す共に、所定周波数となるようにエッチング加工により水晶チップの厚さを調整する(S7,S8)。その後、この水晶チップを水晶振動子として組み立てる(S9)。具体的には、水晶チップ上にスパッタリングにより電極を形成し、この水晶チップをマウンタ内に搭載し、真空雰囲気中で熱処理した後、イオンエッチングで水晶チップの電極を削り周波数を調整し、マウンタ内をシーム封止する。これにより、水晶振動子の製造が完了する。
【0032】
図8は、加工対象物を水晶チップに切断する工程を説明するための概略図である。図中においては、説明の便宜上、1つの切断予定ライン5に沿った切断を例示して示している。加工対象物1を水晶チップへ切断する上記S6においては、まず、加工対象物1の裏面21にエキスパンドテープ31を貼り付けて加工対象物1を支持台107(図1参照)上に載置する。
【0033】
続いて、レーザ光源制御部102によりレーザ光源101を制御すると共にステージ制御部115によりステージ111を制御し、切断予定ライン5に沿って、加工対象物1にレーザ光Lを適宜集光させて複数の改質スポットSを含む改質領域7を形成する(改質領域形成処理(改質領域形成工程))。
【0034】
具体的には、図8(a)に示すように、加工対象物1内において表面3から15μmの深さ位置に集光点を合わせ、例えば出力0.03W、繰返し周波数15kHz及びパルス幅500ピコ秒ないし640ピコ秒でレーザ光Lを表面3側から照射する。これに併せて、このレーザ光Lを加工対象物1に対し相対移動させる(スキャン)。これにより、切断予定ライン5に沿って、加工対象物1内に複数の改質スポットSを形成し、これら複数の改質スポットSによって改質領域7を形成する。そして、上記スキャンを全ての切断予定ライン5について実施する。
【0035】
このとき、レーザ光Lの相対移動速度を制御することにより、切断予定ライン5に沿う方向における隣接する改質スポットS間の距離、すなわちピッチ(パルスピッチとも称する)を制御する。ここでは、複数の改質スポットSのピッチが、好ましいとして2μm〜9μmのピッチとされており、より好ましいとして6μm〜9μmとされている。
【0036】
続いて、図8(b)に示すように、加工対象物1に対し裏面21側から、エキスパンドテープ31を介して切断予定ライン5に沿うようにナイフエッジ32を押し当て、切断予定ライン5に沿って外部から加工対象物1に力を印加する(切断工程)。これにより、改質領域7を切断の起点として、加工対象物1を複数の水晶チップに切断する。そして、図8(c)に示すように、エキスパンドテープ31を拡張させ、チップ間隔を確保する。以上により、加工対象物1が複数の水晶チップ10として切断されることとなる。
【0037】
図9はピッチ変化時における加工対象物の加工特性評価結果を示す表であり、図10は、加工対象物において形成された複数の改質スポットを加工対象物の厚さ方向から見た断面写真図である。図9において、「内部の割れ」は、内部を抉るように割る抉れの量を評価するものであり、ここでは、10μm以上の抉れが発生した場合を“×”、最大でも10μmに到達しない抉れが発生した場合を“△”、抉れが発生しない場合を“◎”、切断自体が困難であった場合を“−”として示している。また、図10(a)は10μm以上のピッチを有する複数の改質スポットを示し、図10(b)は2μm〜9μmのピッチを有する複数の改質スポットを示し、図10(c)は1μm以下のピッチを有する複数の改質スポットを示している。なお、この抉れが存在すると、例えば、その後の水晶振動子を製造するためのエッチングにおいて、エッチング量の制御性が低下して精度よい素子の製造が難しくなる。
【0038】
図9,図10(a)に示すように、改質スポットSのピッチが10μmよりも大きい場合、隣接する改質スポットSから発生する亀裂C同士が繋がっていないことが見出される。また、発生する亀裂Cが大きくなり過ぎると共に、亀裂Cの進行方向が制御不能となっていることが見出される。そのため、切断能力が低く、亀裂の繋がりが不十分となり、加工対象物1の切断が困難となっている。その結果、切断時及びエッチング時に加工品質が低下してしまう。
【0039】
一方、図9,図10(c)に示すように、改質スポットSのピッチが1μm以下の場合、切断性能や亀裂の繋がりは問題ないが、改質スポットSの繋がりが良すぎてしまい、一の改質スポットSから発生した亀裂Cが隣の改質スポットSを越えてさらに隣の改質スポットに繋がるような亀裂のジャンプが発生し、内部を抉るように割る抉れEが発生していることが見出される。そのため、この抉れEの影響で寸法精度よく切断するのが困難となり、その結果、加工品質が低下してしまう。また、この場合、加工速度も低下し、生産性(スループット)も低下してしまう。
【0040】
他方、図9,図10(b)に示すように、改質スポットSのピッチが2μm〜9μmの場合、切断性能や亀裂の繋がりに問題ないだけでなく、抉れEの発生を抑えて複数の改質スポットS間で亀裂Cが好適に繋がることが見出される。具体的には、改質スポットSから生じる各亀裂Cは、相互に打ち消し合うよう作用して大きな亀裂にならず、切断予定ライン5に沿う方向(図10(b)の左右方向:加工方法)に延びるように、互いに繋がることになる。
【0041】
そこで、本実施形態においては、上述したように、改質スポットSのピッチを制御して最適化し、当該ピッチを好ましいとして2μm〜9μmとしている。これにより、複数の改質スポットS,S間で亀裂Cを好適に繋げつつ、亀裂Cのジャンプの発生及び内部の割れ(抉れE)を抑制することができ、加工対象物1を寸法精度よく切断することが可能となる。
【0042】
なお、水晶振動子は水晶の材料そのものの特性を利用するデバイスであることから、水晶振動子用の水晶チップは寸法精度が温度特性や振動子特性に大きく影響を与える。この点において、水晶チップとして寸法精度よく加工対象物1を切断可能な本実施形態は、特に有効なものである。
【0043】
さらに、図9に示すように、改質スポットSのピッチが6μm〜9μmの場合、亀裂の繋がり及び内部の割れが特に良好なものとなり、複数の改質スポットS間で亀裂Cが一層好適に繋がることが見出される。加えてこの場合、ピッチを比較的広くできることから、複数の改質スポットSを形成する際の加工速度を高めることができ、生産性が高まることが見出される。よって、本実施形態では、上述したように、ピッチを制御して一層最適化し、当該ピッチを一層好ましいとして2μm〜9μmとしており、これにより、加工対象物1を一層寸法精度よく切断することが可能となると共に、生産性を高めることが可能となる。
【0044】
また、本実施形態では、上述したように、ナイフエッジ32を用いて加工対象物1に切断予定ライン5に沿って外部応力を印加し、改質領域7を切断の起点として加工対象物1をしている。これにより、切断し難い水晶で形成された加工対象物1であっても、加工対象物1を確実に切断予定ライン5に沿って精度切断することが可能となる。
【0045】
以上、本発明の好適な実施形態について説明したが、本発明は、上記実施形態に限られるものではなく、各請求項に記載した要旨を変更しない範囲で変形し、又は他のものに適用してもよい。
【0046】
例えば、上記実施形態では、レーザ光Lの加工対象物1に対する相対移動速度を制御して改質スポットSのピッチを制御したが、これに限定されるものではなく、要は、改質スポットSのピッチを2μm〜9μm又は6μm〜9μmに設定できればよい。また、複数の改質スポットSの全てのピッチを2μm〜9μm又は6μm〜9μmとすることに限定されず、複数のピッチの少なくとも一部を2μm〜9μm又は6μm〜9μmとすればよい。
【0047】
上記において、複数の改質スポットSが有するピッチの各数値は、加工上、製造上及び設計上等の誤差を許容するものである。なお、本発明は、上記レーザ加工方法により水晶振動子を製造する水晶振動子の製造方法又は製造装置として捉えることもできる一方、水晶振動子を製造するものに限定されず、水晶で形成された加工対象物を切断するための種々の方法又は装置に適用可能である。
【符号の説明】
【0048】
1…加工対象物、5…切断予定ライン、7…改質領域、100…レーザ加工装置、101…レーザ光源、102…レーザ光源制御部(制御手段)、105…集光用レンズ(集光光学系)、107…支持台、L…レーザ光、S…改質スポット。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
水晶で形成された加工対象物を切断予定ラインに沿って切断するためのレーザ加工方法であって、
前記加工対象物にレーザ光を集光させることにより、前記切断予定ラインに沿って、複数の改質スポットを含む改質領域を前記加工対象物に形成する改質領域形成工程を備え、
前記改質領域形成工程は、前記加工対象物に対し前記レーザ光を照射しながら前記切断予定ラインに沿って相対移動させ、複数の前記改質スポットを前記切断予定ラインに沿って形成する工程を含み、
複数の前記改質スポットは、2μm〜9μmのピッチを有することを特徴とするレーザ加工方法。
【請求項2】
複数の前記改質スポットは、6μm〜9μmのピッチを有することを特徴とする請求項1記載のレーザ加工方法。
【請求項3】
前記切断予定ラインに沿って外部から前記加工対象物に力を印加することにより、前記改質領域を切断の起点として前記加工対象物を切断する切断工程をさらに備えたことを特徴とする請求項1又は2記載のレーザ加工方法。
【請求項4】
水晶で形成された加工対象物を切断予定ラインに沿って切断するためのレーザ加工装置であって、
レーザ光をパルス発振するレーザ光源と、
前記レーザ光源で発振される前記レーザ光を支持台上の前記加工対象物の内部に集光させる集光光学系と、
前記レーザ光源を少なくとも制御する制御手段と、を備え、
前記制御手段は、前記加工対象物に前記レーザ光を集光させることにより、切断予定ラインに沿って、複数の改質スポットを含む改質領域を前記加工対象物に形成させる改質領域形成処理を実行し、
前記改質領域形成処理は、前記加工対象物に対し前記レーザ光を照射させながら前記切断予定ラインに沿って相対移動させ、2μm〜9μmのピッチを有する複数の前記改質スポットを前記切断予定ラインに沿って形成させる処理を含むことを特徴とするレーザ加工装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2013−63454(P2013−63454A)
【公開日】平成25年4月11日(2013.4.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−203396(P2011−203396)
【出願日】平成23年9月16日(2011.9.16)
【出願人】(000236436)浜松ホトニクス株式会社 (1,479)
【Fターム(参考)】