説明

レーザ加工装置、及び、レーザ加工方法

【課題】 良質な加工を行う。
【解決手段】 レーザビームを加工対象物上に、複数の光強度分布のピークをもつビームプロファイルを形成させて入射させる。光強度分布のピークの値をP、光強度分布のピーク間の極小値をA、加工対象物の加工が可能な光強度の閾値をSとするとき、
S<A≦(P+S)/2
の関係を満たすように、レーザビームを前記加工対象物に入射させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、加工対象物にレーザビームを照射して加工を行うレーザ加工装置、及び、レーザ加工方法に関する。
【背景技術】
【0002】
図3(A)〜(D)を参照して、レーザビームを照射して行う従来のパターニング加工の問題点を説明する。
【0003】
図3(A)は、パターニング加工の加工対象物、たとえばフラットパネルディスプレイ(Flat Panel Display; FPD)または太陽電池製造の一工程に現れるパネル30の断面図である。パネル30は、図示するように、厚さ0.5mm〜0.7mmのガラス基板31上に透明導電膜、たとえば厚さ0.1μm〜0.2μmのITO(Indium Tin Oxide)膜32を含んで構成される。なお、パネル30は、平面視において、たとえば縦1000mm、横1400mmの矩形状を呈する。
【0004】
FPDまたは太陽電池製造のため、レーザビーム40をITO膜32上からパネル30に照射し、照射位置のITO膜32を除去してパターニング加工を行う。レーザビーム40がITO膜32上を走査することにより、たとえばY軸方向に延びる加工溝32aが形成される。
【0005】
なお、太陽電池に関しては、パネルの代わりに、たとえば厚さ0.1mmのポリイミド上に厚さ0.1μm〜0.2μmのITO膜を含んで構成されるフィルムが加工対象物となる場合がある。
【0006】
図3(B)を参照する。図3(B)中に、レーザビーム40の光強度分布(ビームプロファイル)を点線で示した。ITO膜32に照射されるレーザビーム40の光強度分布は、たとえば図示するようにガウシアン型である。この場合、ITO膜32に入射するレーザビーム40は、ビーム中央部の光強度が強く、周辺部、殊にエッジの光強度が弱い。このため、ビームエッジ部入射位置のITO膜32は完全には溶融されず、レーザビーム40非入射位置から分離されないことがある。この結果、レーザビーム40入射位置のITO膜32は飛散せず、残渣32bとしてビーム入射位置付近に残留する。この際、残渣32bは、ビーム中央部入射位置を境に、加工幅方向(X軸方向)に2分割されやすく、大きなサイズとなりやすい。
【0007】
また、ビームエッジ部入射位置のITO膜32がレーザビーム40非入射位置から分離され、レーザビーム40入射位置のITO膜32が加工飛散物となった場合であっても同様に、その加工飛散物は加工幅方向(X軸方向)に2分割されやすく、サイズが大きくなりやすい。
【0008】
図3(C)を参照する。サイズの大きい残渣32bが加工位置に滞留すると、加工溝32aの両側のITO膜32間の絶縁性を悪化させたり、ITO膜32間を電気的に接続し、絶縁不良を生じさせることがある。サイズの大きい加工飛散物が加工位置に付着した場合も同様である。
【0009】
図3(D)を参照する。サイズの大きい残渣32bが加工位置に滞留した場合、ITO膜32のパターニング工程の次工程である、たとえば厚さ1μmのアモルファスシリコン膜33成膜工程において、残渣32bの滞留位置にアモルファスシリコン膜33が形成されないことがある。サイズの大きい加工飛散物の付着によっても、同様のことが起こりうる。
【0010】
図4に、ITO膜32に形成された加工溝32a、及び加工溝32aの縁に付着した残渣32bを撮影した顕微鏡写真を示す。
【0011】
パッケージ、プリント基板などに多数の細い穴を一挙に穿孔することを目的として、レーザビームを高精度回折光学素子(Diffractive Optical Elements; DOE)によって回折させて多数のビームを発生させ、fsinθレンズによって像面に等間隔のスポットとして結像させるレーザ穴開け加工装置の発明が開示されている(たとえば、特許文献1参照)。
【0012】
また、複数のレーザビームの減衰領域を含む領域を互いに合成し、光強度分布を均一に近づけてビーム照射を行うレーザ照射方法の発明の開示がある(たとえば、特許文献2参照)。
【0013】
【特許文献1】特開2001−62578号公報
【特許文献2】特開2004−179389号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
本発明の目的は、良質な加工を実現することのできるレーザ加工装置を提供することである。
【0015】
また、良質な加工を実現することのできるレーザ加工方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0016】
本発明の一観点によれば、レーザビームを出射するレーザ光源と、加工対象物を第1の方向に沿って移動可能に保持するステージと、前記レーザ光源を出射したレーザビームを、前記ステージに保持された加工対象物に入射させる光学系であって、前記レーザ光源を出射したレーザビームが、前記ステージに保持された加工対象物に入射するときの入射領域中に、複数の光強度分布のピークが前記第1の方向と交差する第2の方向に沿って配列されるビームプロファイルを形成するビームプロファイル整形器を含む光学系とを有し、前記ビームプロファイル整形器は、前記ステージに保持された加工対象物に干渉縞を生じさせながら入射させる、または、前記レーザ光源を出射したレーザビームを回折した後に集光して、前記ステージに保持された加工対象物に入射させるレーザ加工装置が提供される。
【0017】
また、本発明の他の観点によれば、(a)レーザビームを出射する工程と、(b)前記工程(a)で出射したレーザビームを加工対象物上に、複数の光強度分布のピークをもつビームプロファイルを形成させて入射させる工程とを有し、前記工程(b)において、前記光強度分布のピークの値をP、前記光強度分布のピーク間の極小値をA、前記加工対象物の加工が可能な光強度の閾値をSとするとき、 S<A≦(P+S)/2 の関係を満たすように、レーザビームを前記加工対象物に入射させるレーザ加工方法が提供される。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、良質な加工の実現が可能なレーザ加工装置を提供することができる。
【0019】
また、良質な加工の実現が可能なレーザ加工方法を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
図1(A)は、第1の実施例によるレーザ加工装置を示す概略図である。第1の実施例によるレーザ加工装置は、レーザ光源20、DOE21、フォーカスレンズ22、マスク23、イメージングレンズ24、ステージ28、及び制御装置29を含んで構成される。
【0021】
ステージ28上には、パネル30が保持されている。パネル30は、たとえば図3(A)を参照して説明したFPD製造の一工程に現れるパネルである。パネル30は、厚さ0.5mm〜0.7mmのガラス基板上に、たとえば厚さ0.1μm〜0.2μmのITO膜を含んで構成される。
【0022】
レーザ光源20が、制御装置29から送られるトリガ信号を受けて、パルスレーザビーム40を出射する。レーザ光源20は、たとえばNd:YAGレーザ発振器、及び非線形光学結晶を含む。パルスレーザビーム40は、たとえばNd:YAGレーザの2倍高調波で、パルス幅はたとえば10nsec〜30nsecである。レーザ光源20を出射するパルスレーザビーム40の光強度分布はガウシアン型である。
【0023】
パルスレーザビーム40は、DOE21に入射する。パルスレーザビーム40は、DOE21で回折される。DOE21で回折されたパルスレーザビーム40は、フォーカスレンズ22で集光され、マスク23に入射する。DOE21とフォーカスレンズ22とを経ることで、マスク23に入射するパルスレーザビーム40の光強度分布がガウシアン型から剣山型に変化するようにDOE21は設計されている。剣山型の光強度分布については、図1(B)を参照して後述する。
【0024】
マスク23は透光領域と遮光領域とを有し、パルスレーザビーム40の断面形状を整形する。マスク23は透光領域として、たとえばX軸方向に沿う辺が500μmの矩形状の貫通孔を備える。マスク23の貫通孔を透過することにより矩形状の断面に整形されたパルスレーザビーム40は、イメージングレンズ24を経てパネル30のITO膜に入射する。
【0025】
イメージングレンズ24は、マスク23の位置におけるパルスレーザビーム40をパネル30のITO膜上に結像する。結像倍率は、たとえば1/10である。このため、剣山型の光強度分布をもつパルスレーザビーム40が、X軸方向に沿う辺が50μmの略矩形状領域を入射領域として、パネル30のITO膜に入射する。パルスレーザビーム40が入射した位置のITO膜は除去される。
【0026】
ステージ28は、たとえばXYステージであり、パネル30をX軸方向及びY軸方向に移動させることができる。ステージ28によるパネル30の移動は、制御装置29から送信される制御信号に基づいて行われる。
【0027】
たとえばパルスレーザビーム40のパネル30への照射と、ステージ28によるパネル30のY軸方向への移動を交互に繰り返すことで、パネル30のITO膜に、Y軸方向に延びる幅50μmの加工溝を形成することができる。
【0028】
図1(B)に、パネル30に入射するパルスレーザビーム40の剣山型光強度分布の概略を示す。
【0029】
図示するように、パルスレーザビーム40の光強度分布は、X軸方向(加工溝の幅方向)に沿って複数の光強度の極大値をもつ。本図にはX軸方向に沿う光強度分布を示したが、Y軸方向に沿う光強度分布も同様である。たとえば、パルスレーザビーム40の光強度分布は、X軸方向に沿って5つの光強度の極大値をもち、Y軸方向に沿って4つの光強度の極大値をもつ。剣山型の光強度分布においては、加工対象物へのビーム入射領域中に、X軸方向及びY軸方向に沿って複数の光強度のピークが形成される。
【0030】
本図においては、「P」で光強度の極大値であるピーク値(ピーク強度)を示し、「A」で光強度極大値間の極小値を示し、「S」でITO膜の除去加工を行うことのできる光強度の閾値を示した。閾値Sは、たとえば55MW/cm2である。
【0031】
極小値「A」は、
S<A≦(P+S)/2 ・・(1)
を満たす値である。
【0032】
なお、図示するように、パネル30へのパルスレーザビーム40の入射領域のうち、S以上の光強度を有する部分のX軸方向に沿う長さは50μmである。
【0033】
パネル30に照射するパルスレーザビーム40の光強度分布を剣山型に整形することによって、加工飛散物を小さくすることができる。また、加工エッジに残渣32bが残った場合であっても、そのサイズを小さくすることができる。このため絶縁性の悪化を防止することができる。また、基板の洗浄作業が容易となる。
【0034】
図2は、第2の実施例によるレーザ加工装置を示す概略図である。第2の実施例によるレーザ加工装置は、第1の実施例によるそれとは異なり、シリンドリカルアレイレンズ25a〜25d、及び集光レンズ26を含む。シリンドリカルアレイレンズ25a〜25d、及び集光レンズ26はホモジナイザを構成する。
【0035】
シリンドリカルアレイレンズ25a、25cは、母線がY軸方向に平行となるように配置された複数のシリンドリカルレンズで構成されるアレイレンズであり、シリンドリカルアレイレンズ25b、25dは、母線がX軸方向に平行となるように配置された複数のシリンドリカルレンズで構成されるアレイレンズである。
【0036】
レーザ光源20を出射したパルスレーザビーム40は、シリンドリカルアレイレンズ25a〜25dをこの順に透過し、集光レンズ26で集光されて、ステージ28上に載置されたパネル30のITO膜に入射する。シリンドリカルアレイレンズ25a〜25d、及び集光レンズ26で構成されるホモジナイザのホモジナイズ面にパネル30のITO膜が位置するように、ステージ28がパネル30を保持する。
【0037】
第2の実施例によるレーザ加工装置においては、シリンドリカルアレイレンズ25a〜25d、及び集光レンズ26は、ホモジナイズ面においてスペックル(干渉縞)が生じるように配置されている。このため、ホモジナイズ面におけるパルスレーザビーム40の光強度分布は剣山型となり、パネル30のパターニング加工において、第1の実施例によるレーザ加工装置と同様の効果を奏することができる。
【0038】
以上、実施例に沿って本発明を説明したが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0039】
たとえば第2の実施例によるレーザ加工装置においては、シリンドリカルアレイレンズ25a〜25dを用いて剣山型の光強度分布を形成したが、シリンドリカルアレイレンズ25a、25bに代えて1枚のフライアイレンズを用い、シリンドリカルアレイレンズ25c、25dに代えて他の1枚のフライアイレンズを用いて剣山型の光強度分布を形成してもよい。
【0040】
その他、種々の変更、改良、組み合わせ等が可能なことは当業者には自明であろう。
【産業上の利用可能性】
【0041】
レーザ加工一般、たとえばレーザビームを照射して行うパターニング加工に好適に利用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0042】
【図1】(A)は、第1の実施例によるレーザ加工装置を示す概略図であり、(B) は、パネル30に入射するパルスレーザビーム40の剣山型光強度分布を示す概略図 である。
【図2】第2の実施例によるレーザ加工装置を示す概略図である。
【図3】(A)〜(D)は、レーザビームを照射して行う従来のパターニング加工の 問題点を説明するための図である。
【図4】ITO膜32に形成された加工溝32a、及び加工溝32aの縁に付着した 残渣32bを撮影した顕微鏡写真である。
【符号の説明】
【0043】
20 レーザ光源
21 DOE
22 フォーカスレンズ
23 マスク
24 イメージングレンズ
25a〜25d シリンドリカルアレイレンズ
26 集光レンズ
28 ステージ
29 制御装置
30 パネル
31 ガラス基板
32 ITO膜
32a 加工溝
32b 残渣
33 アモルファスシリコン膜
40 レーザビーム

【特許請求の範囲】
【請求項1】
レーザビームを出射するレーザ光源と、
加工対象物を第1の方向に沿って移動可能に保持するステージと、
前記レーザ光源を出射したレーザビームを、前記ステージに保持された加工対象物に入射させる光学系であって、前記レーザ光源を出射したレーザビームが、前記ステージに保持された加工対象物に入射するときの入射領域中に、複数の光強度分布のピークが前記第1の方向と交差する第2の方向に沿って配列されるビームプロファイルを形成するビームプロファイル整形器を含む光学系と
を有し、
前記ビームプロファイル整形器は、前記ステージに保持された加工対象物に干渉縞を生じさせながら入射させる、または、前記レーザ光源を出射したレーザビームを回折した後に集光して、前記ステージに保持された加工対象物に入射させるレーザ加工装置。
【請求項2】
前記ビームプロファイル整形器が、前記レーザ光源を出射したレーザビームを回折するDOE、及び、前記DOEで回折されたレーザビームを集光する集光レンズを含んで構成される請求項1に記載のレーザ加工装置。
【請求項3】
前記ビームプロファイル整形器が、前記レーザ光源を出射したレーザビームを、前記ステージに保持された加工対象物に干渉縞を生じさせながら入射させるシリンドリカルアレイレンズ、またはフライアイレンズを含んで構成される請求項1に記載のレーザ加工装置。
【請求項4】
前記第1の方向と前記第2の方向とが相互に直交する方向である請求項1〜3のいずれか1項に記載のレーザ加工装置。
【請求項5】
(a)レーザビームを出射する工程と、
(b)前記工程(a)で出射したレーザビームを加工対象物上に、複数の光強度分布のピークをもつビームプロファイルを形成させて入射させる工程と
を有し、
前記工程(b)において、
前記光強度分布のピークの値をP、前記光強度分布のピーク間の極小値をA、前記加工対象物の加工が可能な光強度の閾値をSとするとき、
S<A≦(P+S)/2
の関係を満たすように、レーザビームを前記加工対象物に入射させるレーザ加工方法。
【請求項6】
前記工程(b)において、前記複数の光強度分布のピークを、前記加工対象物上において第1の方向に沿って配列させ、
更に、
(c)前記加工対象物を前記第1の方向と交差する第2の方向に移動させる工程
とを有し、
前記工程(a)〜(c)を繰り返す請求項5に記載のレーザ加工方法。










【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2012−96293(P2012−96293A)
【公開日】平成24年5月24日(2012.5.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−23155(P2012−23155)
【出願日】平成24年2月6日(2012.2.6)
【分割の表示】特願2008−22360(P2008−22360)の分割
【原出願日】平成20年2月1日(2008.2.1)
【出願人】(000002107)住友重機械工業株式会社 (2,241)
【Fターム(参考)】