レーザ加工装置
【課題】安価で作製可能な、曲面状の鏡面を有する反射鏡、または、曲率や形状が可変な反射鏡を備えるレーザ加工装置を提供する。
【解決手段】レーザ発振器から被加工物へのレーザビームの光路上には、反射鏡1が配置されている。反射鏡1は、鏡面を形成する板状部材からなり、板状部材に一方向の曲げモーメントを生じさせるように力を加えて該板状部材を湾曲させる荷重負荷機構15によって鏡面が湾曲させられている。
【解決手段】レーザ発振器から被加工物へのレーザビームの光路上には、反射鏡1が配置されている。反射鏡1は、鏡面を形成する板状部材からなり、板状部材に一方向の曲げモーメントを生じさせるように力を加えて該板状部材を湾曲させる荷重負荷機構15によって鏡面が湾曲させられている。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、レーザ加工装置に関し、特に、レーザ発振器で発生するレーザビームの被加工物への光路上に、曲面状の鏡面を有する反射鏡が配置されたレーザ加工装置に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、レーザ加工装置は、レーザ発振器と、レーザ発振器から出力されるレーザビームを、加工点に配置された被加工物まで導く光路を形成する部材とを有している。現在、広く実用に供されているレーザ加工装置では、その光路を形成する部材として、発振器内部から加工点までの間に数点の反射鏡を用いられるのが一般的である。これは、光路の途中に、光ファイバーを用いている場合であっても同様である。
【0003】
これらの反射鏡の鏡面は、通常、平面で構成されている。しかし、次の2点の目的で曲面状の鏡面を有する反射鏡が用いられることがある。
【0004】
曲面状の鏡面を有する反射鏡が用いられる第1の目的は、加工点でのレーザビームのサイズや形状を適切に保つことである。すなわち、最終的に集光光学系を用いて加工点にレーザビームを集光して照射する場合でも、集光光学系に入射するレーザビームのサイズと形状に応じて、集光されたレーザビームの照射されるスポットのサイズと形状が変化する。したがって、照射されるスポットを制御するためには、集光光学系に入射するレーザビームのサイズと形状を制御する必要があり、この制御に、反射鏡が利用される場合がある。
【0005】
曲面状の鏡面を有する反射鏡が用いられる第2の目的は、レーザ発振器から出力されるレーザビームの特性を目的に応じたものにすることである。すなわち、レーザ発振器内部においてレーザ発振器を構成する反射鏡の曲率を変化させることによって、出力されるレーザビームの集光特性、安定性、出力効率などの特性を変化させることができる。
【0006】
このように、曲面状の鏡面を有する反射鏡は、レーザ加工装置の特性を制御するのに有効に利用することができる。そこで、このような反射鏡の鏡面の曲率や形状を動的に変化させ、制御することによって、レーザ加工装置の特性を可変に制御する技術が特許文献1〜3に開示されている。
【0007】
特許文献1〜3に開示された技術では、反射鏡の鏡面の曲率や形状を動的に変化させるのに、ピエゾ素子などの機械的な変位を利用したアクチュエータが用いられている。一方、反射鏡に、1MPa程度の流体の圧力を作用させることによって、反射鏡の曲率を変化させる技術が特許文献4,5に開示されている。
【0008】
【特許文献1】特開2000−084689号公報
【特許文献2】特開平11−14945号公報
【特許文献3】特開平06−222300号公報
【特許文献4】特開2004−181532号公報
【特許文献5】特開平08−039281号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
従来、曲面状の鏡面は、所望の形状となるように制御された研磨加工や切削加工により形成されている。このような加工には、平面状の鏡面を形成するのに比べて手間がかかる。このため、曲面状の鏡面を有する反射鏡は、平面鏡に比較して高価である。
【0010】
曲面状の鏡面を有する反射鏡には、変形を防ぎ、また耐熱性を持たせるために、通常、ある程度の厚みを有することが求められる。特に、レーザ加工装置では、高出力のレーザを扱うため、その光路に配置される反射鏡としては、その焼損を回避するめに、通常は、比較的厚いものが用いられる。これは、反射鏡にレーザを入射させた場合、反射鏡の表面では、光の損失が生じるのを避けられず、その損失による発熱を免れないためである。
【0011】
図14は、反射鏡にレーザビームを照射した場合の温度上昇を計測した例を示している。図14(a)に示すように、反射鏡160として、銅材で外径φ50mm、厚さtのものを用い、反射鏡160の中心付近に、径φ5mmのレーザビーム165を入射させた。そして、反射鏡160の背面中心に配置した温度センサ161によって、温度上昇を計測し、温度上昇が観測されなくなった時の温度を求めた。図14(b)は、温度上昇が観測されなくなった時の温度の、レーザビームのレーザパワーを変化させた時の変化を示している。
【0012】
図14(b)から分かるように、t=1mm以下では、レーザパワーが数kwで焼損に至る高温に達してしまう。このため、高出力のレーザを必要とするレーザ加工装置に用いる反射鏡には、通常、数ミリ以上の厚さが必要であり、実用上は、3mm以上のものが用いられている。図14(b)では、レーザパワーが4kwの時までしか示していないが、t=4mmでは、レーザパワーを8kwとしても反射鏡が焼損することはなかった。
【0013】
一方、従来技術による曲率や形状を可変とした反射鏡(以下、可変曲率反射鏡と称する)は、軸対称に変形させられ、すなわち、鏡面に沿う互いに直交する2つの軸線の両方に沿った変形が同時に行われている。このような変形をさせてスムースな湾曲面を生じさせるためには、変形させられる部材は、非常に薄く構成する必要がある。
【0014】
このため、従来技術による可変曲率反射鏡は、発熱による悪影響を十分に抑えることができるほど厚く構成するのは困難であり、冷却機構を必要としている。そこで、可変曲率反射鏡では、通常、特に水を冷媒とした液冷が行われており、これによってもコストが嵩む。また、可変曲率反射鏡では、ごく薄い反射鏡に鏡面加工を施す必要があり、また変形を制御するため、その厚みが極めて高精度に制御されるように仕上げられている。これらの要因によって、可変曲率反射鏡の作製には非常に手間がかかり、このため、可変曲率反射鏡は、普通の反射鏡に対して10倍程度の価格となっている。
【0015】
本発明の目的は、安価で作製可能な、曲面状の鏡面を有する反射鏡、または、曲率や形状が可変な反射鏡を備えるレーザ加工装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0016】
上述の目的を達成するため、本発明によるレーザ加工装置は、共振反射鏡を有するレーザ発振器と、レーザ発振器から被加工物へのレーザビームの光路上に配置された光学系反射鏡と、を有し、共振反射鏡および光学系反射鏡の少なくとも一方は、鏡面を形成する板状部材からなり、板状部材に一方向の曲げモーメントを生じさせるように力を加えて該板状部材を湾曲させる荷重負荷機構をさらに有することを特徴とする。
【0017】
この構成では、板状部材を、一方向のみの曲げモーメントを生じさせるように力を加えて湾曲させるので、軸対称に湾曲させるのに比べて、比較的厚い部材を用いても、良好にスムースな湾曲を生じさせることができ、また、湾曲の制御も容易である。また、板状部材を湾曲させることによって鏡面が曲面状にされるので、鏡面を初めから曲面状に形成する必要がない。
【0018】
本発明による、荷重負荷機構によって湾曲させられた反射鏡では、湾曲面が軸対称ではない。しかし、荷重負荷機構によって湾曲させられた反射鏡を、湾曲方向が互いに異なる方向となるように複数配置することによって、非軸対称性を、複数の反射鏡によって補正し合うようにし、レーザビームを、軸対称に近い形態で変形させることができる。
【0019】
荷重負荷機構によって湾曲させられた反射鏡の鏡面は、反射鏡へのレーザビームの入射角が比較的大きい場合には、放物線に沿うように湾曲した形状とするのが好ましく、入射角が比較的小さい場合には、円弧に沿うように湾曲した形状とするのが好ましい。それによって、反射後のレーザビームの歪みを小さく抑えることができる。
【0020】
鏡面の湾曲形状は、反射鏡を構成する部材の、厚さや幅などの構造や材料を調整することにより、変形のしやすさを変化させたり、荷重負荷機構によって加える力の分布を変化させたりすることによって、種々の形状に調整することができる。さらに、反射鏡に接触し、該反射鏡と共に湾曲する保持部材を設けることによって、この保持部材の弾性を、鏡面の湾曲形状を制御するのに利用することができる。
【発明の効果】
【0021】
本発明によれば、曲面状の鏡面を有する反射鏡を、板状部材を湾曲させて形成するので、鏡面を初めから曲面状に形成する必要がなく、反射鏡の製造を容易にすることができ、低コスト化を図ることができる。また、湾曲を、一方向の曲げモーメントを生じさせるように力を加えて一方向に沿ってのみ生じさせるので、反射鏡を、比較的高出力のレーザを扱う場合でも冷却の必要のない比較的厚い構造にすることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0022】
以下、図面を参照して本発明の実施形態について説明する。図1は、本実施形態の反射鏡を示す模式図であり、図1(a)は斜視図、図1(b),(c)は側面図である。
【0023】
本実施形態の反射鏡1は、図1(a)に示すように、円板状の形態を有しており、周縁の、互いに対向する2箇所(図1での左右端部)の支点5で、不図示の機械フレームなどに支持されている。そして、図1(a),(c)に模式的に示すように、反射鏡1は、その周縁の、各支点5から90度ずれた2箇所(図1での上下端部)の荷重点10に荷重をかけられている。それによって、反射鏡1は、2箇所の荷重点10を結ぶ方向(図1での上下方向)に沿って円弧を描くように湾曲し、全体として円筒状に(円筒の一部を形成するように)湾曲している。
【0024】
なお、反射鏡1の湾曲状態は、反射鏡1の形状や、厚みや剛性の面分布などに応じて、必ずしも厳密に円筒状にはならず、一般には、鏡面が一方向に沿って湾曲し、この湾曲している方向に直交する方向には、湾曲していない形状となる。以下では、便宜上、このような湾曲形状を、円筒状と称する場合がある。
【0025】
本実施形態の反射鏡1は、図1(b)に示すように、荷重をかけていない状態では、平坦な状態となる。すなわち、反射鏡1は、元々は平面鏡であり、したがって、最初から曲面状の鏡面を形成するのに比べて、製造が容易である。
【0026】
また、本実施形態の反射鏡1は、円筒状に変形させられており、すなわち、変形を一方向に沿ってのみ生じさせている。このような変形は、従来技術における軸対称の変形に比べて、制御が容易であり、この点からも、本実施形態の反射鏡1は、製造が容易である。
【0027】
また、円筒状の変形は、軸対称の変形に比べて、比較的厚い部材に対しても容易にスムースな湾曲面が生じるように実施することができる。このため、本実施形態では、反射鏡1を、比較厚い構成にすることができる。
【0028】
金属板材のレーザ切断に用いられる0.5W〜10kWの出力のレーザ加工装置において、反射鏡1をレーザ発振器の内部(共振反射鏡)またはレーザ発振器外の光路上(光学系反射鏡)で用いる場合、反射鏡1の厚さは3mmから20mm程度とするのが好ましい。それによって、レーザ光の反射時の損失によって発生する熱による加熱を抑え、悪影響が生じるのを抑制することができる。
【0029】
反射鏡1の材質としては、シリコン結晶または銅を基板として鏡面となる表面に金または銀あるいはモリブデンをコーティングし、場合によってはさらに誘電体多層膜を形成して反射率を高めたものとすることができる。レーザ加工装置におけるレーザビームの断面は、直径φ1mmからφ50mmの円であることが多いが、楕円形や矩形の場合もあり、反射鏡1の大きさは、このようなレーザビームの大きさや形状に応じて適宜選択することができる。
【0030】
典型的な例では、レーザの出力は5kWであり、レーザ発振器の内部でのレーザビームのサイズは直径φ50mmである。この場合、加工点までの光路には、直径φ75mmの円形のシリコンを基板とする反射鏡1が用いられ、反射鏡1の厚さは5mmから8mmである。
【0031】
反射鏡1を円筒状に変形させるように力を加える荷重負荷機構15としては、例えば、図1(a)に模式的に示すように、支点5に加えて、ばね16と、ばね16の発生力を荷重点10に伝達する部材17とを有する機構を用いることができる。ばね16を用いることによって、荷重点10に加わる力を直接調整する構成とすることができ、それによって、反射鏡1の円筒状の鏡面の曲率を、トルク発生機構を用いた場合の摩擦力などの外乱を生じることなく、精密に調整することができる。
【0032】
次に、本実施形態の反射鏡1の作用について、図2を参照して説明する。図2は、反射鏡1によってレーザビーム20が反射される様子を模式的に示しており、図2(a)は斜視図、図2(b)は平面図である。
【0033】
円筒形に変形させられた反射鏡1を用いることによって、反射されるレーザビームの形状を変形させることができる。その変形は、入射角や入射方向によって変化するが、典型的には、図2に示すように、鏡面が描く円筒の軸線に垂直な面に平行にレーザビームが入射させる。それによって、レーザビームの断面において、鏡面が描く円筒の軸線の方向(Y方向)には変形が生じず、これに垂直な方向(X方向)にのみ縮められるように、レーザビームが変形させられる。すなわち、図2(b)に示すように、例えば、反射鏡1に入射するレーザビームの断面形状21が円形であれば、反射鏡1によって反射されたレーザビームの断面形状22は、長軸がY方向、短軸がX方向となった楕円形になる。
【0034】
このようにレーザビームを変形させることによって、種々の加工に適するようにレーザビームを調整することができる。すなわち、例えば、被加工物の厚さに応じて、反射鏡1の曲率を変化させて、被加工物に対する集光レンズに入射するレーザビームの幅を、種々の厚さの被加工物に適するように調整することができる。
【0035】
本実施形態の反射鏡1では、レーザビームが、一方向にのみ縮められ、扁平に変形させられるが、扁平なビーム形状は、例えば、縮められる方向に垂直な方向を、被加工物の切断線に平行に配置するといった形で利用することが考えられる。また、レーザ発振器が、その特性として、扁平な断面形状のレーザビームを出力する場合、反射鏡1によるレーザビームの断面形状の変形作用によって、その断面形状を、軸対称に近い形状に矯正することが考えられる。レーザビームの断面形状を軸対称に近い形状にすれば、エネルギの利用効率の向上を図る上で有利となる場合が多い。また、レーザビームの断面形状が矩形になる構成の場合、矩形のいずれかの辺に沿った方向にビームを縮めるといった利用の仕方も考えられる。
【0036】
あるいは、円筒形に変形させられた複数の反射鏡を、それらの反射鏡によるレーザビームの変形の非軸対称性を互いに相殺させるようにレーザ光路上に配置してもよい。図3は、このような一例のレーザ加工装置の構成を示す模式図である。
【0037】
図3に示す構成では、レーザ発振器30の出力鏡31から出射したレーザビームが、4つの反射鏡1a,1b,2,3を介して集光レンズ35に入射させられ、加工テーブル37上の被加工物に照射される構成となっている。4つの反射鏡1a,1b,2,3のうちの2つの反射鏡1a,1bとして、円筒状に変形させられたものを用いている。
【0038】
反射鏡1a,1bに対するレーザビームの入射および出射の方向は、図2と同様に、各反射鏡1a,1bの鏡面の描く円筒の軸線に垂直な面に平行な方向に設定されている。そして、反射鏡1a,1bの鏡面は、それが描く円筒の軸線が互いに垂直な方向(ねじれの位置)となるように配置されている。したがって、出力鏡31、および反射鏡1a,1bの中心点が位置する平面と、反射鏡1a,1b,2の中心点が位置する平面とが互いに直交する配置となっている。
【0039】
このような構成とすれば、レーザビームは、反射鏡1aによって一方向に縮めるように変形させられた後、反射鏡1bによって、反射鏡1aによって縮められたのとは垂直な方向に縮められるように変形される。その結果、レーザビームを、全体として、ほぼ軸対称に近い形態で縮められるように変形させることができる。すなわち、2つの反射鏡1a,1bを組み合わせることによって、軸対称に変形する従来の可変曲率反射鏡を用いたのと、ほぼ同様の作用を得ることができる。
【0040】
上記のように、ほぼ軸対称にレーザビームを変形させる場合には、反射鏡1a,1bによるレーザビームの変形量が互いに同一になるように構成する必要がある。これは、特に、反射鏡1a,1bの鏡面の曲率を同一にし、かつ、各反射鏡1a,1bへのレーザビームの入射角を同一にすることによって実現できる。反射鏡1a,1bの鏡面の曲率を同一にするには、例えば、反射鏡1a,1bを同一の仕様とし、変形のために加える荷重を同一に設定すればよい。入射角は、例えば、反射鏡1a,1bの両者とも、45°に設定することができる。
【0041】
また、鏡面の描く円筒の軸線が、例えば、反射鏡1a,1bに対して45°ずれたさらに2つの反射鏡を用いるなど、さらに多くの、円筒状に変形させられた反射鏡を用いてもよく、それによって、軸対称性の精度を高めることができる。
【0042】
このような、軸対称な変形は、特に、円形のビームを用いる場合に有効である。また、レーザ発振器から矩形のビームが出力されるような場合でも、CO2レーザのように波長の長いレーザ光を用いる場合には、回折効果によって、長い伝播距離を経た後は、レーザビームの断面形状が丸くなるため、軸対称な変形が有効な場合が多い。ただし、例えば、レーザ発振器30から出力されるレーザビームの断面が扁平な場合などには、反射鏡1a,1bによる変形は、必ずしも同一にしなくてもよく、用途に応じて、各方向の変形量を適切に調整する構成としてもよい。
【0043】
以上のように、本実施形態によれば、製造が容易であり、その結果、安価にすることができる、曲面状の鏡面を有する反射鏡を提供することができる。また、曲面状の鏡面を有する反射鏡を、レーザ光の反射時の光の損失による加熱による影響が生じない程度に厚い構成とすることができ、それによって、冷却機構を不要とすることができ、それによっても、反射鏡をさらに安価なものとすることができる。
【0044】
なお、上記の実施形態は、本発明を例示するものであり、特許請求の範囲に規定する本発明の範囲内で種々の変更が可能である。
【0045】
例えば、荷重負荷機構15としては、支点5と荷重点10との間に、反射鏡を湾曲させる力を加える機構を示したが、反射鏡が一方向に沿ってのみ湾曲するように反射鏡に力を加える、換言すれば、板材の厚さ方向以外の一方向に曲げモーメントを生じさせる力を加える任意の構成を用いることができる。例えば、上記の実施形態では、反射鏡を変形させる荷重を加える荷重負荷機構15として、ばね16を用いて、加える力を設定する構成を例示したが、力を設定可能とする代わりに、変形量を設定可能な機構を用いてもよい。また、これらは、加工用途に応じて、適宜、力や変形量の設定を変更可能な構成とすることもできる。
【0046】
また、レーザビームの伝播や発振モードを動的に制御するために、反射鏡の変形を動的に変化させることができる機構を用いてもよい。このような機構としては、作動流体の圧力制御によって押圧力を制御可能なエアシリンダのようなアクチュエータを用いるのが好ましい。あるいは、サブミクロン単位で動作を制御可能な、ギア機構などの精密な機械的動作機構も、反射鏡の変形を動的に変化させる機構として使用可能である。
【0047】
また、反射鏡の変形は、円筒状に限られることはなく、例えば、入射角が大きい場合には、放物線に沿うように変形させるほうが好ましい。反射鏡の、円弧に沿う変形は、入射角が浅い場合や曲率半径が大きい場合に好ましい。それによって、反射後のレーザビームのゆがみを小さく抑えることができる。いずれにせよ、反射鏡の、変形させた時の形状を制御することは重要なことである。
【0048】
反射鏡の、変形させた時の形状を制御する方法としては、反射鏡の幅および/または板厚を、変形させる方向に沿って変化させることで、断面2次係数を変化させる方法が考えられる。また、反射鏡に対して、変形させる方向に沿って間隔をおいた複数の位置で力を加え、各位置で加える力を調整することによって、変形を制御してもよい。
【0049】
図4は、このような例を示しており、図4(a)は正面図、図4(b)は平面図、図4(c)は変形形状を誇張して示す平面図である。図4(a)に示すように、この例では、矩形の反射鏡41を用いており、その矩形の、互いに対向する2辺の中央に支点45が設けられている。図4(b)に、矢印によって模式的に示すように、反射鏡41の背面には、2つの支点45を結ぶ線に沿って、7つのアクチュエータ47a〜47gが間隔をおいて配置されている。
【0050】
図4に示す構成では、アクチュエータ47a〜47gによって加える力の比率を調整することによって、反射鏡41の鏡面の形状を種々の形状に調整することができる。図4(c)は、特に、アクチュエータ47a〜47gによって加える力を均等にした場合を示しており、この場合、鏡面は円弧に沿う形状となる。なお、複数のアクチュエータを用いる代わりに、弾性部材などを介して、反射鏡41に加わる荷重を、反射鏡41の変形する方向に沿って様々に分散させ、それによって、反射鏡41の形状を所望の形状に調整してもよい。
【0051】
また、反射鏡に接触し、反射鏡と共に湾曲する保持部材を設けて、この保持部材の弾性を、反射鏡の形状を調整するのに利用してもよい。図5〜8は、このような構成例を示しており、各図の(a)は反射鏡を鏡面側から見た正面図、(b)は側面図である。
【0052】
図5に示す構成では、反射鏡50は、その裏面に配置された、ばね61によって荷重を発生する荷重負荷機構60によって、反射鏡50の裏面の周縁の、互いに対向する2点の荷重点63で力を加えられている。それによって、反射鏡50は、その鏡面側に配置された保持部材55に当接させられて保持されている。保持部材55は、円形の開口部56が形成された円板状の構造を有しており、反射鏡50の鏡面の周縁に当接し、鏡面が開口部56から露出するように配置されている。保持部材55は、その周縁の、荷重点63とは90°ずれた2つの支点58で、不図示の機械フレームなどに支持されている。
【0053】
図5に示す構成によれば、反射鏡50は、2つの荷重点63を結ぶ線の方向に沿って湾曲させられる。この湾曲変形には、保持部材55の弾性変形を伴い、保持部材55の弾性が、反射鏡50の湾曲形状に影響を与える。したがって、保持部材55の弾性を、反射鏡50の湾曲形状の制御に利用することができる。
【0054】
図6に示す構成は、図5に示す構成とほぼ同様であるが、保持部材70として、その開口部71が楕円形であり、また、厚みが、外周側ほど厚くなった構成のものを用いていている。このように保持部材70の寸法や形状などの構造を変化させることによって、保持部材70の各部の弾性を変化させ、それを、反射鏡50の形状の制御に利用することができる。また、保持部材55,70としては、例えば、金属製のものを用いることができ、その熱処理などによって弾性を変化させたり、あるいは、材質を部分毎に変化させて弾性を変化させたりしてもよい。
【0055】
なお、図6には、荷重負荷機構75に、アクチュエータ76、例えばエアシリンダを用いた例を示している。ばね61を用いた荷重負荷機構60と、アクチュエータ76を用いた荷重負荷機構75とは、前述のように、動的制御の必要の有無などに応じて、適宜選択して用いることができる。
【0056】
図5などのように、反射鏡の両側に対称に荷重をかけるのが、設計上では簡便であるが、図7に示す例のように、反射鏡50の周縁の一点の荷重点80でのみ荷重をかけるようにしてもよい。すなわち、図7に示す例では、保持部材55の周縁には、互いに対向する2点の支点58に加えて、荷重点80に対向する位置にも支点83が配置されている。反射鏡50の裏面側には、支点83に対向する位置に支持部材84が配置されている。荷重負荷機構85としては、1点にのみ力を加えるものが用いられ、これは、例えば、単に、ばね86のみによって構成することができる。図7に示すような構成によれば、反射鏡50の鏡面の変位が最小限に抑えられ、これは、反射鏡50の、光軸などの一部の設定の精度を高く保つ必要がある場合に有用である場合がある。
【0057】
図8に示す例では、反射鏡50の周縁の、互いに対向する2点に、反射鏡50の縁を挟み込むように保持する保持部材90が設けられている。この例では、アクチュエータ76による力が、反射鏡50に直接伝達されるのではなく、保持部材90を介して伝達される構成となっている。支点も、同様に、反射鏡50の周縁を挟み込む他の2つの保持部材95によって形成されている。
【0058】
また、基本的には、板状の反射鏡に力を加えて鏡面を一方向のみに沿って湾曲させた状態とするが、反射鏡に当接する他の部材との組み合わせることによって、主要な湾曲の生じる方向と交差する方向に沿っても湾曲を生じさせた構成の反射鏡も考えられる。このような構成例を図9,10に示す。図9(a)は、鏡面側から見た図、図9(b)は図9(a)のB−B線に沿った断面図、図9(c)は図9(a)のC−C線に沿った断面図、図9(d)は図9(b)のD−D線に沿った断面図である。図10は、反射鏡100の変形状態を示す概念図である。図10(a)〜(c)は、反射鏡100が変形していない場合を想定した図であり、図10(a)は、図9(a)のB−B線に沿った断面に相当する図、図10(b)は、図9(a)のC−C線に沿った断面に相当する図、図10(c)は、図9(b)のD−D線に沿った断面に相当する図である。図10(d),(e)は、反射鏡100が変形している状態を示す図であり、図10(d)は、図9(a)のB−B線に沿った断面に相当する図、図10(e)は、図9(a)のC−C線に沿った断面に相当する図である。
【0059】
図9,10に示す例では、円筒状の側壁106と、側壁106の一端側を閉じる端壁107を有するハウジング105の端壁107上に、端壁107を直径方向に横断するように延び、両端部が上方に向かうように湾曲した板ばね110が配置されている。板ばね110の両端部上には、押当材111がそれぞれ配置され、この押当材111が、円板状の反射鏡100の背面の周縁の、互いに対向する2箇所にそれぞれ当接している。
【0060】
ハウジング105の側壁106の、端壁107とは反対側の端部には、ホルダ115が止め具120によって固定されている。ホルダ115は、ハウジング105の側壁106に接続された円筒状の側壁116と、側壁116の、ハウジング105側とは反対側の端部から半径方向内側に延びる端壁117を有している。端壁117の中央側は、円形の開口部118となっており、端壁117の、開口部118の縁部分には、ハウジング105側に向かう突出部119が形成されている。反射鏡100は、その背面側を、押当材111を介して板ばね110によって押圧されて、鏡面側が、ホルダ115の突出部119に押し当てられ、突出部119との接触部を支点Qとして、湾曲させられる。このように、この例では、ハウジング111、ホルダ115、押当材111、および板ばね110によって、反射鏡100に、それを一方向に沿って湾曲させる力を加える荷重負荷機構が構成されている。
【0061】
ハウジング105内の周縁には、押当材111が配置されたのとは90度ずれた、互いに対向する2つの位置にマウント108がそれぞれ配置されている。マウント108は、図10(a),(b)に示すように、反射鏡100が変形していない状態であれば、反射鏡100に当接しない高さになっている。一方、上述のように、板ばね110によって反射鏡100が変形させられると、図10(d),(e)に示すように、反射鏡100の、2つの押当材111との接触点を結ぶ方向に見た中央の部分が、ハウジング105側に変位することにより、マウント108に接触する。これによって、反射鏡100は、2つのマウント108との接触点を結ぶ方向に沿っても湾曲させられる。
【0062】
このように、図9,10に示す構成によれば、反射鏡100に、互いに直交する2つの方向の両方に沿った湾曲を同時に生じさせることができる。ただし、反射鏡100の湾曲は、2つの押当材111との接触点を結ぶ方向に沿ったものが主であり、2つのマウント108との接触点を結ぶ方向に沿った湾曲は、より小さなものとなる。したがって、反射鏡100の湾曲した鏡面は、概ね楕円体面状となる。
【0063】
この楕円体面状の鏡面は極めて有用である。なぜなら、これを45度といった大きな入射角でレーザビームを反射させる部位に用いると、球面や円筒面で反射させるときとは異なり、鏡面の各方向の曲率によってレーザビームの伝播を制御して、入射方向のために生じる非軸対称性を排除した伝播を実現可能になるからである。逆に非軸対称性を強調するように反射させてもよく、このようにした場合、円筒面鏡では線分状に集光してしまうのに対して、楕円体面状の鏡面によれば、楕円形状の集光スポット形状を得ることができる。すなわち、鏡面の各方向の曲率や入射方向の調整によって、所望の楕円状の入熱領域を構成できることになる。
【0064】
また、本発明による、曲面状の鏡面を有する反射鏡は、レーザ発振器から出力されたレーザビームの光路において用いることができるだけでなく、レーザ発振器自体を構成する反射鏡のうちの少なくとも1つとしても用いることもできる。本発明による反射鏡を、レーザ発振器を構成する反射鏡として用いることによって、レーザビームの形状・集光特性・安定性および発振効率を制御することが可能になり大きな利点を生じる。このような例を図11〜13に示す。
【0065】
図11(a)は、三軸直交型CO2レーザ発振器に、本発明による、曲面状の鏡面を有する反射鏡を用いた例を示している。三軸直交型CO2レーザ発振器では、2つの電極130間に矢印132で模式的に示すようにレーザガスが流されて、レーザガスが放電励起される放電エリア131が構成される。放電エリア131の、互いに対向する端部には、出力鏡135とリア鏡136がそれぞれ配置され、また、折返し鏡137が配置されている。出力鏡135とリア鏡136および折返し鏡137間で、レーザ発振が生じ、部分反射鏡である出力鏡135から、レーザビームが出力される。
【0066】
このような三軸直交型CO2レーザ発振器では、光軸断面に対してレーザガス流と励起放電電流が軸対称でない。このため、出力鏡135とリア鏡136に球面鏡を用い、折返し鏡137に平面鏡を用いると、図11(b)に模式的に示すように、出射レーザビーム139の断面形状が、非軸対称な楕円形状となってしまう場合がある。そこで、折返し鏡137として、本発明による、円筒状の鏡面を有する反射鏡を用いることによって、出射されるレーザビームの断面形状を、円形に近い形状に補正することができる。
【0067】
このように、レーザビームの断面形状を、円形に近い形状にすることによって、アパーチャのために廃棄されるレーザビーム成分を減少させることができ、レーザの発振効率をある程度改善することが可能になる。なお、リア鏡136に、それを一方向に沿って変形させる力を加えることによって、非軸対称性を改善する構成とすることも考えられる。
【0068】
図12(a)は、スラブYAGレーザ発振器に、本発明による反射鏡を用いた例を示している。スラブYAGレーザ発振器では、図12(b)に示すように、レーザ光が、YAG140内をジグザグに通過するようにした構成が知られており、この場合には、熱レンズ効果の影響が軽減されることが知られている。しかし、図12(a)に示すように、レーザ光が、YAG140内を直進する構成とした場合には、動作時間の経過に伴って、熱レンズ効果のために、発振効率やレーザビームの集光性に変化が生じる。
【0069】
そこで、スラブYAGレーザ発振器を構成する出力鏡141とリア鏡142のうちの一方を、本発明による、動的に曲率を変化させることができる反射鏡とすることができる。図12(a)には、リア鏡を、本発明による、動的に曲率を変化させることができる反射鏡145に置き換えている。それにより、動作時間の経過に伴いYAG140の屈折率が部分的に変化することによる熱レンズ効果を相殺するように、反射鏡145の曲率を変化させることによって、発振効率やレーザビームの集光性の変化を抑えて、安定したレーザ出力を得ることができる。
【0070】
図13は、ガススラブレーザ発振器に、本発明による、曲面状の鏡面を有する反射鏡を用いた例を示している。すなわち、ガススラブレーザ発振器を構成する、互いに対向する2つの折り返し鏡151,152のうちの一方、図13に示す例では、出力鏡155に対向する側の折り返し鏡152を、アクチュエータ157を介して湾曲させられた構成としている。このように、折り返し鏡152を積極的に変形させることで、レーザビームの品質を変化させ、種々の用途に適したレーザビームを出力可能なレーザ加工装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0071】
【図1】本発明の一実施形態による反射鏡を示す模式図であり、図1(a)は斜視図、図1(b),(c)は側面図である。
【図2】図1の反射鏡によってレーザビームが反射される様子を模式的に示す図であり、図2(a)は斜視図、図2(b)は平面図である。
【図3】図1の反射鏡を、レーザビームの光路上に2つ配置したレーザ加工装置の模式図である。
【図4】反射鏡に対して、変形させる方向に沿う複数の位置で力を加える構成の反射鏡を示す模式図であり、図4(a)は正面図、図4(b)は平面図、図4(c)は変形形状を誇張して示す平面図である。
【図5】変形の調整に保持部材を用いた一例の反射鏡を示す図である。
【図6】変形の調整に保持部材を用いた他の例の反射鏡を示す図である。
【図7】変形の調整に保持部材を用いたさらに他の例の反射鏡を示す図である。
【図8】変形の調整に保持部材を用いたさらに他の例の反射鏡を示す図である。
【図9】本発明による変形例の反射鏡を示す模式図である。
【図10】図9の反射鏡の変形を説明するための模式図である。
【図11】本発明による反射鏡を用いた三軸直交CO2レーザ発振器を示す模式図である。
【図12】本発明による反射鏡を用いたスラブYAGレーザ発振器を示す模式図である。
【図13】本発明による反射鏡を用いたガススラブレーザ発振器を示す模式図である。
【図14】反射鏡にレーザビームを照射した場合の温度上昇の計測例を示す図である。
【符号の説明】
【0072】
1 反射鏡
5 支点
10 荷重点
15 荷重負荷機構
【技術分野】
【0001】
本発明は、レーザ加工装置に関し、特に、レーザ発振器で発生するレーザビームの被加工物への光路上に、曲面状の鏡面を有する反射鏡が配置されたレーザ加工装置に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、レーザ加工装置は、レーザ発振器と、レーザ発振器から出力されるレーザビームを、加工点に配置された被加工物まで導く光路を形成する部材とを有している。現在、広く実用に供されているレーザ加工装置では、その光路を形成する部材として、発振器内部から加工点までの間に数点の反射鏡を用いられるのが一般的である。これは、光路の途中に、光ファイバーを用いている場合であっても同様である。
【0003】
これらの反射鏡の鏡面は、通常、平面で構成されている。しかし、次の2点の目的で曲面状の鏡面を有する反射鏡が用いられることがある。
【0004】
曲面状の鏡面を有する反射鏡が用いられる第1の目的は、加工点でのレーザビームのサイズや形状を適切に保つことである。すなわち、最終的に集光光学系を用いて加工点にレーザビームを集光して照射する場合でも、集光光学系に入射するレーザビームのサイズと形状に応じて、集光されたレーザビームの照射されるスポットのサイズと形状が変化する。したがって、照射されるスポットを制御するためには、集光光学系に入射するレーザビームのサイズと形状を制御する必要があり、この制御に、反射鏡が利用される場合がある。
【0005】
曲面状の鏡面を有する反射鏡が用いられる第2の目的は、レーザ発振器から出力されるレーザビームの特性を目的に応じたものにすることである。すなわち、レーザ発振器内部においてレーザ発振器を構成する反射鏡の曲率を変化させることによって、出力されるレーザビームの集光特性、安定性、出力効率などの特性を変化させることができる。
【0006】
このように、曲面状の鏡面を有する反射鏡は、レーザ加工装置の特性を制御するのに有効に利用することができる。そこで、このような反射鏡の鏡面の曲率や形状を動的に変化させ、制御することによって、レーザ加工装置の特性を可変に制御する技術が特許文献1〜3に開示されている。
【0007】
特許文献1〜3に開示された技術では、反射鏡の鏡面の曲率や形状を動的に変化させるのに、ピエゾ素子などの機械的な変位を利用したアクチュエータが用いられている。一方、反射鏡に、1MPa程度の流体の圧力を作用させることによって、反射鏡の曲率を変化させる技術が特許文献4,5に開示されている。
【0008】
【特許文献1】特開2000−084689号公報
【特許文献2】特開平11−14945号公報
【特許文献3】特開平06−222300号公報
【特許文献4】特開2004−181532号公報
【特許文献5】特開平08−039281号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
従来、曲面状の鏡面は、所望の形状となるように制御された研磨加工や切削加工により形成されている。このような加工には、平面状の鏡面を形成するのに比べて手間がかかる。このため、曲面状の鏡面を有する反射鏡は、平面鏡に比較して高価である。
【0010】
曲面状の鏡面を有する反射鏡には、変形を防ぎ、また耐熱性を持たせるために、通常、ある程度の厚みを有することが求められる。特に、レーザ加工装置では、高出力のレーザを扱うため、その光路に配置される反射鏡としては、その焼損を回避するめに、通常は、比較的厚いものが用いられる。これは、反射鏡にレーザを入射させた場合、反射鏡の表面では、光の損失が生じるのを避けられず、その損失による発熱を免れないためである。
【0011】
図14は、反射鏡にレーザビームを照射した場合の温度上昇を計測した例を示している。図14(a)に示すように、反射鏡160として、銅材で外径φ50mm、厚さtのものを用い、反射鏡160の中心付近に、径φ5mmのレーザビーム165を入射させた。そして、反射鏡160の背面中心に配置した温度センサ161によって、温度上昇を計測し、温度上昇が観測されなくなった時の温度を求めた。図14(b)は、温度上昇が観測されなくなった時の温度の、レーザビームのレーザパワーを変化させた時の変化を示している。
【0012】
図14(b)から分かるように、t=1mm以下では、レーザパワーが数kwで焼損に至る高温に達してしまう。このため、高出力のレーザを必要とするレーザ加工装置に用いる反射鏡には、通常、数ミリ以上の厚さが必要であり、実用上は、3mm以上のものが用いられている。図14(b)では、レーザパワーが4kwの時までしか示していないが、t=4mmでは、レーザパワーを8kwとしても反射鏡が焼損することはなかった。
【0013】
一方、従来技術による曲率や形状を可変とした反射鏡(以下、可変曲率反射鏡と称する)は、軸対称に変形させられ、すなわち、鏡面に沿う互いに直交する2つの軸線の両方に沿った変形が同時に行われている。このような変形をさせてスムースな湾曲面を生じさせるためには、変形させられる部材は、非常に薄く構成する必要がある。
【0014】
このため、従来技術による可変曲率反射鏡は、発熱による悪影響を十分に抑えることができるほど厚く構成するのは困難であり、冷却機構を必要としている。そこで、可変曲率反射鏡では、通常、特に水を冷媒とした液冷が行われており、これによってもコストが嵩む。また、可変曲率反射鏡では、ごく薄い反射鏡に鏡面加工を施す必要があり、また変形を制御するため、その厚みが極めて高精度に制御されるように仕上げられている。これらの要因によって、可変曲率反射鏡の作製には非常に手間がかかり、このため、可変曲率反射鏡は、普通の反射鏡に対して10倍程度の価格となっている。
【0015】
本発明の目的は、安価で作製可能な、曲面状の鏡面を有する反射鏡、または、曲率や形状が可変な反射鏡を備えるレーザ加工装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0016】
上述の目的を達成するため、本発明によるレーザ加工装置は、共振反射鏡を有するレーザ発振器と、レーザ発振器から被加工物へのレーザビームの光路上に配置された光学系反射鏡と、を有し、共振反射鏡および光学系反射鏡の少なくとも一方は、鏡面を形成する板状部材からなり、板状部材に一方向の曲げモーメントを生じさせるように力を加えて該板状部材を湾曲させる荷重負荷機構をさらに有することを特徴とする。
【0017】
この構成では、板状部材を、一方向のみの曲げモーメントを生じさせるように力を加えて湾曲させるので、軸対称に湾曲させるのに比べて、比較的厚い部材を用いても、良好にスムースな湾曲を生じさせることができ、また、湾曲の制御も容易である。また、板状部材を湾曲させることによって鏡面が曲面状にされるので、鏡面を初めから曲面状に形成する必要がない。
【0018】
本発明による、荷重負荷機構によって湾曲させられた反射鏡では、湾曲面が軸対称ではない。しかし、荷重負荷機構によって湾曲させられた反射鏡を、湾曲方向が互いに異なる方向となるように複数配置することによって、非軸対称性を、複数の反射鏡によって補正し合うようにし、レーザビームを、軸対称に近い形態で変形させることができる。
【0019】
荷重負荷機構によって湾曲させられた反射鏡の鏡面は、反射鏡へのレーザビームの入射角が比較的大きい場合には、放物線に沿うように湾曲した形状とするのが好ましく、入射角が比較的小さい場合には、円弧に沿うように湾曲した形状とするのが好ましい。それによって、反射後のレーザビームの歪みを小さく抑えることができる。
【0020】
鏡面の湾曲形状は、反射鏡を構成する部材の、厚さや幅などの構造や材料を調整することにより、変形のしやすさを変化させたり、荷重負荷機構によって加える力の分布を変化させたりすることによって、種々の形状に調整することができる。さらに、反射鏡に接触し、該反射鏡と共に湾曲する保持部材を設けることによって、この保持部材の弾性を、鏡面の湾曲形状を制御するのに利用することができる。
【発明の効果】
【0021】
本発明によれば、曲面状の鏡面を有する反射鏡を、板状部材を湾曲させて形成するので、鏡面を初めから曲面状に形成する必要がなく、反射鏡の製造を容易にすることができ、低コスト化を図ることができる。また、湾曲を、一方向の曲げモーメントを生じさせるように力を加えて一方向に沿ってのみ生じさせるので、反射鏡を、比較的高出力のレーザを扱う場合でも冷却の必要のない比較的厚い構造にすることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0022】
以下、図面を参照して本発明の実施形態について説明する。図1は、本実施形態の反射鏡を示す模式図であり、図1(a)は斜視図、図1(b),(c)は側面図である。
【0023】
本実施形態の反射鏡1は、図1(a)に示すように、円板状の形態を有しており、周縁の、互いに対向する2箇所(図1での左右端部)の支点5で、不図示の機械フレームなどに支持されている。そして、図1(a),(c)に模式的に示すように、反射鏡1は、その周縁の、各支点5から90度ずれた2箇所(図1での上下端部)の荷重点10に荷重をかけられている。それによって、反射鏡1は、2箇所の荷重点10を結ぶ方向(図1での上下方向)に沿って円弧を描くように湾曲し、全体として円筒状に(円筒の一部を形成するように)湾曲している。
【0024】
なお、反射鏡1の湾曲状態は、反射鏡1の形状や、厚みや剛性の面分布などに応じて、必ずしも厳密に円筒状にはならず、一般には、鏡面が一方向に沿って湾曲し、この湾曲している方向に直交する方向には、湾曲していない形状となる。以下では、便宜上、このような湾曲形状を、円筒状と称する場合がある。
【0025】
本実施形態の反射鏡1は、図1(b)に示すように、荷重をかけていない状態では、平坦な状態となる。すなわち、反射鏡1は、元々は平面鏡であり、したがって、最初から曲面状の鏡面を形成するのに比べて、製造が容易である。
【0026】
また、本実施形態の反射鏡1は、円筒状に変形させられており、すなわち、変形を一方向に沿ってのみ生じさせている。このような変形は、従来技術における軸対称の変形に比べて、制御が容易であり、この点からも、本実施形態の反射鏡1は、製造が容易である。
【0027】
また、円筒状の変形は、軸対称の変形に比べて、比較的厚い部材に対しても容易にスムースな湾曲面が生じるように実施することができる。このため、本実施形態では、反射鏡1を、比較厚い構成にすることができる。
【0028】
金属板材のレーザ切断に用いられる0.5W〜10kWの出力のレーザ加工装置において、反射鏡1をレーザ発振器の内部(共振反射鏡)またはレーザ発振器外の光路上(光学系反射鏡)で用いる場合、反射鏡1の厚さは3mmから20mm程度とするのが好ましい。それによって、レーザ光の反射時の損失によって発生する熱による加熱を抑え、悪影響が生じるのを抑制することができる。
【0029】
反射鏡1の材質としては、シリコン結晶または銅を基板として鏡面となる表面に金または銀あるいはモリブデンをコーティングし、場合によってはさらに誘電体多層膜を形成して反射率を高めたものとすることができる。レーザ加工装置におけるレーザビームの断面は、直径φ1mmからφ50mmの円であることが多いが、楕円形や矩形の場合もあり、反射鏡1の大きさは、このようなレーザビームの大きさや形状に応じて適宜選択することができる。
【0030】
典型的な例では、レーザの出力は5kWであり、レーザ発振器の内部でのレーザビームのサイズは直径φ50mmである。この場合、加工点までの光路には、直径φ75mmの円形のシリコンを基板とする反射鏡1が用いられ、反射鏡1の厚さは5mmから8mmである。
【0031】
反射鏡1を円筒状に変形させるように力を加える荷重負荷機構15としては、例えば、図1(a)に模式的に示すように、支点5に加えて、ばね16と、ばね16の発生力を荷重点10に伝達する部材17とを有する機構を用いることができる。ばね16を用いることによって、荷重点10に加わる力を直接調整する構成とすることができ、それによって、反射鏡1の円筒状の鏡面の曲率を、トルク発生機構を用いた場合の摩擦力などの外乱を生じることなく、精密に調整することができる。
【0032】
次に、本実施形態の反射鏡1の作用について、図2を参照して説明する。図2は、反射鏡1によってレーザビーム20が反射される様子を模式的に示しており、図2(a)は斜視図、図2(b)は平面図である。
【0033】
円筒形に変形させられた反射鏡1を用いることによって、反射されるレーザビームの形状を変形させることができる。その変形は、入射角や入射方向によって変化するが、典型的には、図2に示すように、鏡面が描く円筒の軸線に垂直な面に平行にレーザビームが入射させる。それによって、レーザビームの断面において、鏡面が描く円筒の軸線の方向(Y方向)には変形が生じず、これに垂直な方向(X方向)にのみ縮められるように、レーザビームが変形させられる。すなわち、図2(b)に示すように、例えば、反射鏡1に入射するレーザビームの断面形状21が円形であれば、反射鏡1によって反射されたレーザビームの断面形状22は、長軸がY方向、短軸がX方向となった楕円形になる。
【0034】
このようにレーザビームを変形させることによって、種々の加工に適するようにレーザビームを調整することができる。すなわち、例えば、被加工物の厚さに応じて、反射鏡1の曲率を変化させて、被加工物に対する集光レンズに入射するレーザビームの幅を、種々の厚さの被加工物に適するように調整することができる。
【0035】
本実施形態の反射鏡1では、レーザビームが、一方向にのみ縮められ、扁平に変形させられるが、扁平なビーム形状は、例えば、縮められる方向に垂直な方向を、被加工物の切断線に平行に配置するといった形で利用することが考えられる。また、レーザ発振器が、その特性として、扁平な断面形状のレーザビームを出力する場合、反射鏡1によるレーザビームの断面形状の変形作用によって、その断面形状を、軸対称に近い形状に矯正することが考えられる。レーザビームの断面形状を軸対称に近い形状にすれば、エネルギの利用効率の向上を図る上で有利となる場合が多い。また、レーザビームの断面形状が矩形になる構成の場合、矩形のいずれかの辺に沿った方向にビームを縮めるといった利用の仕方も考えられる。
【0036】
あるいは、円筒形に変形させられた複数の反射鏡を、それらの反射鏡によるレーザビームの変形の非軸対称性を互いに相殺させるようにレーザ光路上に配置してもよい。図3は、このような一例のレーザ加工装置の構成を示す模式図である。
【0037】
図3に示す構成では、レーザ発振器30の出力鏡31から出射したレーザビームが、4つの反射鏡1a,1b,2,3を介して集光レンズ35に入射させられ、加工テーブル37上の被加工物に照射される構成となっている。4つの反射鏡1a,1b,2,3のうちの2つの反射鏡1a,1bとして、円筒状に変形させられたものを用いている。
【0038】
反射鏡1a,1bに対するレーザビームの入射および出射の方向は、図2と同様に、各反射鏡1a,1bの鏡面の描く円筒の軸線に垂直な面に平行な方向に設定されている。そして、反射鏡1a,1bの鏡面は、それが描く円筒の軸線が互いに垂直な方向(ねじれの位置)となるように配置されている。したがって、出力鏡31、および反射鏡1a,1bの中心点が位置する平面と、反射鏡1a,1b,2の中心点が位置する平面とが互いに直交する配置となっている。
【0039】
このような構成とすれば、レーザビームは、反射鏡1aによって一方向に縮めるように変形させられた後、反射鏡1bによって、反射鏡1aによって縮められたのとは垂直な方向に縮められるように変形される。その結果、レーザビームを、全体として、ほぼ軸対称に近い形態で縮められるように変形させることができる。すなわち、2つの反射鏡1a,1bを組み合わせることによって、軸対称に変形する従来の可変曲率反射鏡を用いたのと、ほぼ同様の作用を得ることができる。
【0040】
上記のように、ほぼ軸対称にレーザビームを変形させる場合には、反射鏡1a,1bによるレーザビームの変形量が互いに同一になるように構成する必要がある。これは、特に、反射鏡1a,1bの鏡面の曲率を同一にし、かつ、各反射鏡1a,1bへのレーザビームの入射角を同一にすることによって実現できる。反射鏡1a,1bの鏡面の曲率を同一にするには、例えば、反射鏡1a,1bを同一の仕様とし、変形のために加える荷重を同一に設定すればよい。入射角は、例えば、反射鏡1a,1bの両者とも、45°に設定することができる。
【0041】
また、鏡面の描く円筒の軸線が、例えば、反射鏡1a,1bに対して45°ずれたさらに2つの反射鏡を用いるなど、さらに多くの、円筒状に変形させられた反射鏡を用いてもよく、それによって、軸対称性の精度を高めることができる。
【0042】
このような、軸対称な変形は、特に、円形のビームを用いる場合に有効である。また、レーザ発振器から矩形のビームが出力されるような場合でも、CO2レーザのように波長の長いレーザ光を用いる場合には、回折効果によって、長い伝播距離を経た後は、レーザビームの断面形状が丸くなるため、軸対称な変形が有効な場合が多い。ただし、例えば、レーザ発振器30から出力されるレーザビームの断面が扁平な場合などには、反射鏡1a,1bによる変形は、必ずしも同一にしなくてもよく、用途に応じて、各方向の変形量を適切に調整する構成としてもよい。
【0043】
以上のように、本実施形態によれば、製造が容易であり、その結果、安価にすることができる、曲面状の鏡面を有する反射鏡を提供することができる。また、曲面状の鏡面を有する反射鏡を、レーザ光の反射時の光の損失による加熱による影響が生じない程度に厚い構成とすることができ、それによって、冷却機構を不要とすることができ、それによっても、反射鏡をさらに安価なものとすることができる。
【0044】
なお、上記の実施形態は、本発明を例示するものであり、特許請求の範囲に規定する本発明の範囲内で種々の変更が可能である。
【0045】
例えば、荷重負荷機構15としては、支点5と荷重点10との間に、反射鏡を湾曲させる力を加える機構を示したが、反射鏡が一方向に沿ってのみ湾曲するように反射鏡に力を加える、換言すれば、板材の厚さ方向以外の一方向に曲げモーメントを生じさせる力を加える任意の構成を用いることができる。例えば、上記の実施形態では、反射鏡を変形させる荷重を加える荷重負荷機構15として、ばね16を用いて、加える力を設定する構成を例示したが、力を設定可能とする代わりに、変形量を設定可能な機構を用いてもよい。また、これらは、加工用途に応じて、適宜、力や変形量の設定を変更可能な構成とすることもできる。
【0046】
また、レーザビームの伝播や発振モードを動的に制御するために、反射鏡の変形を動的に変化させることができる機構を用いてもよい。このような機構としては、作動流体の圧力制御によって押圧力を制御可能なエアシリンダのようなアクチュエータを用いるのが好ましい。あるいは、サブミクロン単位で動作を制御可能な、ギア機構などの精密な機械的動作機構も、反射鏡の変形を動的に変化させる機構として使用可能である。
【0047】
また、反射鏡の変形は、円筒状に限られることはなく、例えば、入射角が大きい場合には、放物線に沿うように変形させるほうが好ましい。反射鏡の、円弧に沿う変形は、入射角が浅い場合や曲率半径が大きい場合に好ましい。それによって、反射後のレーザビームのゆがみを小さく抑えることができる。いずれにせよ、反射鏡の、変形させた時の形状を制御することは重要なことである。
【0048】
反射鏡の、変形させた時の形状を制御する方法としては、反射鏡の幅および/または板厚を、変形させる方向に沿って変化させることで、断面2次係数を変化させる方法が考えられる。また、反射鏡に対して、変形させる方向に沿って間隔をおいた複数の位置で力を加え、各位置で加える力を調整することによって、変形を制御してもよい。
【0049】
図4は、このような例を示しており、図4(a)は正面図、図4(b)は平面図、図4(c)は変形形状を誇張して示す平面図である。図4(a)に示すように、この例では、矩形の反射鏡41を用いており、その矩形の、互いに対向する2辺の中央に支点45が設けられている。図4(b)に、矢印によって模式的に示すように、反射鏡41の背面には、2つの支点45を結ぶ線に沿って、7つのアクチュエータ47a〜47gが間隔をおいて配置されている。
【0050】
図4に示す構成では、アクチュエータ47a〜47gによって加える力の比率を調整することによって、反射鏡41の鏡面の形状を種々の形状に調整することができる。図4(c)は、特に、アクチュエータ47a〜47gによって加える力を均等にした場合を示しており、この場合、鏡面は円弧に沿う形状となる。なお、複数のアクチュエータを用いる代わりに、弾性部材などを介して、反射鏡41に加わる荷重を、反射鏡41の変形する方向に沿って様々に分散させ、それによって、反射鏡41の形状を所望の形状に調整してもよい。
【0051】
また、反射鏡に接触し、反射鏡と共に湾曲する保持部材を設けて、この保持部材の弾性を、反射鏡の形状を調整するのに利用してもよい。図5〜8は、このような構成例を示しており、各図の(a)は反射鏡を鏡面側から見た正面図、(b)は側面図である。
【0052】
図5に示す構成では、反射鏡50は、その裏面に配置された、ばね61によって荷重を発生する荷重負荷機構60によって、反射鏡50の裏面の周縁の、互いに対向する2点の荷重点63で力を加えられている。それによって、反射鏡50は、その鏡面側に配置された保持部材55に当接させられて保持されている。保持部材55は、円形の開口部56が形成された円板状の構造を有しており、反射鏡50の鏡面の周縁に当接し、鏡面が開口部56から露出するように配置されている。保持部材55は、その周縁の、荷重点63とは90°ずれた2つの支点58で、不図示の機械フレームなどに支持されている。
【0053】
図5に示す構成によれば、反射鏡50は、2つの荷重点63を結ぶ線の方向に沿って湾曲させられる。この湾曲変形には、保持部材55の弾性変形を伴い、保持部材55の弾性が、反射鏡50の湾曲形状に影響を与える。したがって、保持部材55の弾性を、反射鏡50の湾曲形状の制御に利用することができる。
【0054】
図6に示す構成は、図5に示す構成とほぼ同様であるが、保持部材70として、その開口部71が楕円形であり、また、厚みが、外周側ほど厚くなった構成のものを用いていている。このように保持部材70の寸法や形状などの構造を変化させることによって、保持部材70の各部の弾性を変化させ、それを、反射鏡50の形状の制御に利用することができる。また、保持部材55,70としては、例えば、金属製のものを用いることができ、その熱処理などによって弾性を変化させたり、あるいは、材質を部分毎に変化させて弾性を変化させたりしてもよい。
【0055】
なお、図6には、荷重負荷機構75に、アクチュエータ76、例えばエアシリンダを用いた例を示している。ばね61を用いた荷重負荷機構60と、アクチュエータ76を用いた荷重負荷機構75とは、前述のように、動的制御の必要の有無などに応じて、適宜選択して用いることができる。
【0056】
図5などのように、反射鏡の両側に対称に荷重をかけるのが、設計上では簡便であるが、図7に示す例のように、反射鏡50の周縁の一点の荷重点80でのみ荷重をかけるようにしてもよい。すなわち、図7に示す例では、保持部材55の周縁には、互いに対向する2点の支点58に加えて、荷重点80に対向する位置にも支点83が配置されている。反射鏡50の裏面側には、支点83に対向する位置に支持部材84が配置されている。荷重負荷機構85としては、1点にのみ力を加えるものが用いられ、これは、例えば、単に、ばね86のみによって構成することができる。図7に示すような構成によれば、反射鏡50の鏡面の変位が最小限に抑えられ、これは、反射鏡50の、光軸などの一部の設定の精度を高く保つ必要がある場合に有用である場合がある。
【0057】
図8に示す例では、反射鏡50の周縁の、互いに対向する2点に、反射鏡50の縁を挟み込むように保持する保持部材90が設けられている。この例では、アクチュエータ76による力が、反射鏡50に直接伝達されるのではなく、保持部材90を介して伝達される構成となっている。支点も、同様に、反射鏡50の周縁を挟み込む他の2つの保持部材95によって形成されている。
【0058】
また、基本的には、板状の反射鏡に力を加えて鏡面を一方向のみに沿って湾曲させた状態とするが、反射鏡に当接する他の部材との組み合わせることによって、主要な湾曲の生じる方向と交差する方向に沿っても湾曲を生じさせた構成の反射鏡も考えられる。このような構成例を図9,10に示す。図9(a)は、鏡面側から見た図、図9(b)は図9(a)のB−B線に沿った断面図、図9(c)は図9(a)のC−C線に沿った断面図、図9(d)は図9(b)のD−D線に沿った断面図である。図10は、反射鏡100の変形状態を示す概念図である。図10(a)〜(c)は、反射鏡100が変形していない場合を想定した図であり、図10(a)は、図9(a)のB−B線に沿った断面に相当する図、図10(b)は、図9(a)のC−C線に沿った断面に相当する図、図10(c)は、図9(b)のD−D線に沿った断面に相当する図である。図10(d),(e)は、反射鏡100が変形している状態を示す図であり、図10(d)は、図9(a)のB−B線に沿った断面に相当する図、図10(e)は、図9(a)のC−C線に沿った断面に相当する図である。
【0059】
図9,10に示す例では、円筒状の側壁106と、側壁106の一端側を閉じる端壁107を有するハウジング105の端壁107上に、端壁107を直径方向に横断するように延び、両端部が上方に向かうように湾曲した板ばね110が配置されている。板ばね110の両端部上には、押当材111がそれぞれ配置され、この押当材111が、円板状の反射鏡100の背面の周縁の、互いに対向する2箇所にそれぞれ当接している。
【0060】
ハウジング105の側壁106の、端壁107とは反対側の端部には、ホルダ115が止め具120によって固定されている。ホルダ115は、ハウジング105の側壁106に接続された円筒状の側壁116と、側壁116の、ハウジング105側とは反対側の端部から半径方向内側に延びる端壁117を有している。端壁117の中央側は、円形の開口部118となっており、端壁117の、開口部118の縁部分には、ハウジング105側に向かう突出部119が形成されている。反射鏡100は、その背面側を、押当材111を介して板ばね110によって押圧されて、鏡面側が、ホルダ115の突出部119に押し当てられ、突出部119との接触部を支点Qとして、湾曲させられる。このように、この例では、ハウジング111、ホルダ115、押当材111、および板ばね110によって、反射鏡100に、それを一方向に沿って湾曲させる力を加える荷重負荷機構が構成されている。
【0061】
ハウジング105内の周縁には、押当材111が配置されたのとは90度ずれた、互いに対向する2つの位置にマウント108がそれぞれ配置されている。マウント108は、図10(a),(b)に示すように、反射鏡100が変形していない状態であれば、反射鏡100に当接しない高さになっている。一方、上述のように、板ばね110によって反射鏡100が変形させられると、図10(d),(e)に示すように、反射鏡100の、2つの押当材111との接触点を結ぶ方向に見た中央の部分が、ハウジング105側に変位することにより、マウント108に接触する。これによって、反射鏡100は、2つのマウント108との接触点を結ぶ方向に沿っても湾曲させられる。
【0062】
このように、図9,10に示す構成によれば、反射鏡100に、互いに直交する2つの方向の両方に沿った湾曲を同時に生じさせることができる。ただし、反射鏡100の湾曲は、2つの押当材111との接触点を結ぶ方向に沿ったものが主であり、2つのマウント108との接触点を結ぶ方向に沿った湾曲は、より小さなものとなる。したがって、反射鏡100の湾曲した鏡面は、概ね楕円体面状となる。
【0063】
この楕円体面状の鏡面は極めて有用である。なぜなら、これを45度といった大きな入射角でレーザビームを反射させる部位に用いると、球面や円筒面で反射させるときとは異なり、鏡面の各方向の曲率によってレーザビームの伝播を制御して、入射方向のために生じる非軸対称性を排除した伝播を実現可能になるからである。逆に非軸対称性を強調するように反射させてもよく、このようにした場合、円筒面鏡では線分状に集光してしまうのに対して、楕円体面状の鏡面によれば、楕円形状の集光スポット形状を得ることができる。すなわち、鏡面の各方向の曲率や入射方向の調整によって、所望の楕円状の入熱領域を構成できることになる。
【0064】
また、本発明による、曲面状の鏡面を有する反射鏡は、レーザ発振器から出力されたレーザビームの光路において用いることができるだけでなく、レーザ発振器自体を構成する反射鏡のうちの少なくとも1つとしても用いることもできる。本発明による反射鏡を、レーザ発振器を構成する反射鏡として用いることによって、レーザビームの形状・集光特性・安定性および発振効率を制御することが可能になり大きな利点を生じる。このような例を図11〜13に示す。
【0065】
図11(a)は、三軸直交型CO2レーザ発振器に、本発明による、曲面状の鏡面を有する反射鏡を用いた例を示している。三軸直交型CO2レーザ発振器では、2つの電極130間に矢印132で模式的に示すようにレーザガスが流されて、レーザガスが放電励起される放電エリア131が構成される。放電エリア131の、互いに対向する端部には、出力鏡135とリア鏡136がそれぞれ配置され、また、折返し鏡137が配置されている。出力鏡135とリア鏡136および折返し鏡137間で、レーザ発振が生じ、部分反射鏡である出力鏡135から、レーザビームが出力される。
【0066】
このような三軸直交型CO2レーザ発振器では、光軸断面に対してレーザガス流と励起放電電流が軸対称でない。このため、出力鏡135とリア鏡136に球面鏡を用い、折返し鏡137に平面鏡を用いると、図11(b)に模式的に示すように、出射レーザビーム139の断面形状が、非軸対称な楕円形状となってしまう場合がある。そこで、折返し鏡137として、本発明による、円筒状の鏡面を有する反射鏡を用いることによって、出射されるレーザビームの断面形状を、円形に近い形状に補正することができる。
【0067】
このように、レーザビームの断面形状を、円形に近い形状にすることによって、アパーチャのために廃棄されるレーザビーム成分を減少させることができ、レーザの発振効率をある程度改善することが可能になる。なお、リア鏡136に、それを一方向に沿って変形させる力を加えることによって、非軸対称性を改善する構成とすることも考えられる。
【0068】
図12(a)は、スラブYAGレーザ発振器に、本発明による反射鏡を用いた例を示している。スラブYAGレーザ発振器では、図12(b)に示すように、レーザ光が、YAG140内をジグザグに通過するようにした構成が知られており、この場合には、熱レンズ効果の影響が軽減されることが知られている。しかし、図12(a)に示すように、レーザ光が、YAG140内を直進する構成とした場合には、動作時間の経過に伴って、熱レンズ効果のために、発振効率やレーザビームの集光性に変化が生じる。
【0069】
そこで、スラブYAGレーザ発振器を構成する出力鏡141とリア鏡142のうちの一方を、本発明による、動的に曲率を変化させることができる反射鏡とすることができる。図12(a)には、リア鏡を、本発明による、動的に曲率を変化させることができる反射鏡145に置き換えている。それにより、動作時間の経過に伴いYAG140の屈折率が部分的に変化することによる熱レンズ効果を相殺するように、反射鏡145の曲率を変化させることによって、発振効率やレーザビームの集光性の変化を抑えて、安定したレーザ出力を得ることができる。
【0070】
図13は、ガススラブレーザ発振器に、本発明による、曲面状の鏡面を有する反射鏡を用いた例を示している。すなわち、ガススラブレーザ発振器を構成する、互いに対向する2つの折り返し鏡151,152のうちの一方、図13に示す例では、出力鏡155に対向する側の折り返し鏡152を、アクチュエータ157を介して湾曲させられた構成としている。このように、折り返し鏡152を積極的に変形させることで、レーザビームの品質を変化させ、種々の用途に適したレーザビームを出力可能なレーザ加工装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0071】
【図1】本発明の一実施形態による反射鏡を示す模式図であり、図1(a)は斜視図、図1(b),(c)は側面図である。
【図2】図1の反射鏡によってレーザビームが反射される様子を模式的に示す図であり、図2(a)は斜視図、図2(b)は平面図である。
【図3】図1の反射鏡を、レーザビームの光路上に2つ配置したレーザ加工装置の模式図である。
【図4】反射鏡に対して、変形させる方向に沿う複数の位置で力を加える構成の反射鏡を示す模式図であり、図4(a)は正面図、図4(b)は平面図、図4(c)は変形形状を誇張して示す平面図である。
【図5】変形の調整に保持部材を用いた一例の反射鏡を示す図である。
【図6】変形の調整に保持部材を用いた他の例の反射鏡を示す図である。
【図7】変形の調整に保持部材を用いたさらに他の例の反射鏡を示す図である。
【図8】変形の調整に保持部材を用いたさらに他の例の反射鏡を示す図である。
【図9】本発明による変形例の反射鏡を示す模式図である。
【図10】図9の反射鏡の変形を説明するための模式図である。
【図11】本発明による反射鏡を用いた三軸直交CO2レーザ発振器を示す模式図である。
【図12】本発明による反射鏡を用いたスラブYAGレーザ発振器を示す模式図である。
【図13】本発明による反射鏡を用いたガススラブレーザ発振器を示す模式図である。
【図14】反射鏡にレーザビームを照射した場合の温度上昇の計測例を示す図である。
【符号の説明】
【0072】
1 反射鏡
5 支点
10 荷重点
15 荷重負荷機構
【特許請求の範囲】
【請求項1】
共振反射鏡を有するレーザ発振器と、
前記レーザ発振器から被加工物へのレーザビームの光路上に配置された光学系反射鏡と、
を有し、
前記共振反射鏡および前記光学系反射鏡の少なくとも一方は、鏡面を形成する板状部材からなり、
前記板状部材に一方向の曲げモーメントを生じさせるように力を加えて該板状部材を湾曲させる荷重負荷機構をさらに有する、
レーザ加工装置。
【請求項2】
前記荷重負荷機構によって湾曲させられた反射鏡を複数有し、当該反射鏡は、湾曲方向が互いに異なる方向となるように配置されている、請求項1に記載のレーザ加工装置。
【請求項3】
前記荷重負荷機構によって湾曲させられた反射鏡として、鏡面が放物線に沿って延びるように湾曲している反射鏡を含む、請求項1または2に記載のレーザ加工装置。
【請求項4】
前記荷重負荷機構によって湾曲させられた反射鏡として、鏡面が円弧に沿って延びるように湾曲している反射鏡を含む、請求項1から3のいずれか1項に記載のレーザ加工装置。
【請求項5】
前記荷重負荷機構によって湾曲させられた反射鏡に接触し、前記荷重負荷機構により加えられる力によって当該反射鏡と共に湾曲する保持部材をさらに有する、請求項1から4のいずれか1項に記載のレーザ加工装置。
【請求項1】
共振反射鏡を有するレーザ発振器と、
前記レーザ発振器から被加工物へのレーザビームの光路上に配置された光学系反射鏡と、
を有し、
前記共振反射鏡および前記光学系反射鏡の少なくとも一方は、鏡面を形成する板状部材からなり、
前記板状部材に一方向の曲げモーメントを生じさせるように力を加えて該板状部材を湾曲させる荷重負荷機構をさらに有する、
レーザ加工装置。
【請求項2】
前記荷重負荷機構によって湾曲させられた反射鏡を複数有し、当該反射鏡は、湾曲方向が互いに異なる方向となるように配置されている、請求項1に記載のレーザ加工装置。
【請求項3】
前記荷重負荷機構によって湾曲させられた反射鏡として、鏡面が放物線に沿って延びるように湾曲している反射鏡を含む、請求項1または2に記載のレーザ加工装置。
【請求項4】
前記荷重負荷機構によって湾曲させられた反射鏡として、鏡面が円弧に沿って延びるように湾曲している反射鏡を含む、請求項1から3のいずれか1項に記載のレーザ加工装置。
【請求項5】
前記荷重負荷機構によって湾曲させられた反射鏡に接触し、前記荷重負荷機構により加えられる力によって当該反射鏡と共に湾曲する保持部材をさらに有する、請求項1から4のいずれか1項に記載のレーザ加工装置。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【公開番号】特開2010−40784(P2010−40784A)
【公開日】平成22年2月18日(2010.2.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−202333(P2008−202333)
【出願日】平成20年8月5日(2008.8.5)
【出願人】(390008235)ファナック株式会社 (1,110)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成22年2月18日(2010.2.18)
【国際特許分類】
【出願日】平成20年8月5日(2008.8.5)
【出願人】(390008235)ファナック株式会社 (1,110)
【Fターム(参考)】
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