説明

レーザ接合方法及びレーザ加工装置

【課題】熱が周辺部へ拡散することを抑制できる、あるいは熱の影響による接合部材の損傷を低減できる接合方法及びレーザ加工装置を提供する。
【解決手段】少なくともいずれかがレーザ光に対して透過性を有する第1及び第2の接合部材の間に挟まれた吸光材に加工レーザ光を照射することにより前記吸光材を発熱させつつ、前記加工レーザ光の照射位置の周辺部に保熱レーザ光を照射することにより前記周辺部を保熱し、前記発熱と前記保熱とにより前記吸光材と前記第1の接合部材と前記第2の接合部材との少なくともいずれかを融解させ固化させて、前記第1の接合部材と、前記第2の接合部材と、を接合することを特徴とする接合方法が提供される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、レーザ接合方法及びレーザ加工装置に関し、具体的には複数の部材の接合部分にレーザ光を照射して各部材を互いに接合するレーザ接合方法及びレーザ加工装置に関する。
【背景技術】
【0002】
ふたつの部材を接合する方法として、フリット、あるいは鉛などを用いる方法がある。例えば、PDP(Plasma Display Panel)、SED(Surface-conduction Electron-emitter Display)、FED(Field Emission Display)、有機ELディスプレイ(Organic Electroluminescence Display)などの発光パネルは、枠を介して2枚のガラスが接合された構造を有する場合がある。これらの接合には、前述した方法が多く用いられている。
【0003】
しかしながら、フリット、あるいは鉛などを用いる接合方法では焼成が必要であり、例えばフリットを使用する場合には、400℃以上の高温での焼成が必要である。また、高温焼成時の熱によって接合部材にクラックや反りなどが生じないように、焼成後においては時間をかけて徐冷を行う必要がある。そのため、接合工程が長くなるという問題がある。より低温で焼成を行うためには、鉛などの融点のより低い物質を使用する方法があるが、環境問題対策として鉛を使用することは好ましくない。
【0004】
一方、ふたつの部材を接合する他の方法として、レーザ光の照射による接合方法がある。この接合方法は、照射したレーザ光のエネルギーを接合界面において吸収することによって接合部材が加熱溶融され、再度凝固することで接合を行う方法である。例えば、樹脂フィルムを接合する場合において、レーザ光の吸収性をより高めるために接合界面に光吸収物質を挟み込む方法がある(特許文献1)。またこれと同様に、吸光材を接合界面に塗布または添付または成膜し、ガラスなどの無機物質を接合する方法がある(特許文献2)。
【0005】
しかしながら、特許文献2に記載された方法において、接合部材に生ずるクラックを抑制するためには、雰囲気温度を高温(例えば400〜600℃程度)に設定する必要がある。また、レーザ融着時の熱の影響によって接合部材が融解する深さは、約0.2ミリメートル程度となり比較的深いという問題がある。
【0006】
さらに、接合時に接合部材と吸光材とを密着させる配慮が必要である。接合部材と吸光材との密着が弱い状態では、それらの界面に存在する隙間により熱伝達が低下するため、必要な接合強度を得られないおそれがある。また、レーザ光の照射によって発熱した熱がその照射位置の周辺部に拡散して、接合部材が十分に加熱溶融しないおそれがある。そのため、接合部材を十分に加熱溶融して必要な接合強度を得るためには、過大な熱入力が必要となる。その結果、熱による影響が大きくなり、接合部材に与える損傷も大きくなるおそれがある。
【特許文献1】特開2002−67164号公報
【特許文献2】特開2003−170290号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、かかる課題の認識に基づいてなされたものであり、熱が周辺部へ拡散することを抑制できる、あるいは熱の影響による接合部材の損傷を低減できる接合方法及びレーザ加工装置を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の一態様によれば、少なくともいずれかがレーザ光に対して透過性を有する第1及び第2の接合部材の間に挟まれた吸光材に加工レーザ光を照射することにより前記吸光材を発熱させつつ、前記加工レーザ光の照射位置の周辺部に保熱レーザ光を照射することにより前記周辺部を保熱し、前記発熱と前記保熱とにより前記吸光材と前記第1の接合部材と前記第2の接合部材との少なくともいずれかを融解させ固化させて、前記第1の接合部材と、前記第2の接合部材と、を接合することを特徴とする接合方法が提供される。
【0009】
また、本発明の他の一態様によれば、加工レーザ光を出力する加工レーザ発振器と、前記加工レーザ光を集光して照射する加工レーザ光学系と、保熱レーザ光を出力する保熱レーザ発振器と、前記保熱レーザ光を集光して照射する保熱レーザ光学系と、少なくともいずれかがレーザ光に対して透過性を有する第1及び第2の接合部材と前記第1及び第2の接合部材の間に挟まれた吸光材とを有する被照射体を支持する支持部と、前記支持部と、前記加工レーザ光学系と、前記保熱レーザ光学系と、の位置関係を制御する駆動部と、前記吸光材に前記加工レーザ光を照射することにより前記吸光材を発熱させつつ、前記加工レーザ光の照射位置の周辺部に保熱レーザ光を照射することにより前記周辺部を保熱するように前記加工レーザ発振器及び前記保熱レーザ発振器を制御する制御部と、を備えたことを特徴とするレーザ加工装置が提供される。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、熱が周辺部へ拡散することを抑制できる、あるいは熱の影響による接合部材の損傷を低減できる接合方法及びレーザ加工装置が提供される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下、本発明の実施の形態について図面を参照しつつ説明する。なお、各図面中、同様の構成要素には同一の符号を付して詳細な説明は適宜省略する。
図1は、本発明の実施の形態にかかるレーザ加工装置を表す模式図である。
また、図2は、本実施形態にかかるレーザ加工装置の構成を例示するブロック図である。
【0012】
図1に表したレーザ加工装置は、加工レーザ光108を発振(出力)する加工レーザ発振器102と、保熱レーザ光118を発振(出力)する保熱レーザ発振器112と、加工レーザ光108を集光し所定位置に照射するレンズなどの光学要素を有する加工レーザ光学系106と、保熱レーザ光118を集光し所定位置に照射するレンズなどの光学要素を有する保熱レーザ光学系116と、加工レーザ光学系106および保熱レーザ光学系116を保持する保持部120と、被照射体180を支持する支持部130と、保持部120の位置を3軸方向に調整駆動する駆動部140と、を備えている。
【0013】
加工レーザ発振器102から発振された加工レーザ光は、光ファイバ104によって加工レーザ光学系106へ伝送される。これと同様に、保熱レーザ発振器112から発振された保熱レーザ光は、光ファイバ114によって保熱レーザ光学系116へ伝送される。支持部130はレーザ入射窓132を有しており、加工レーザ光学系106および保熱レーザ光学系116からそれぞれ照射された加工レーザ光108および保熱レーザ光118は、レーザ入射窓132を通して被照射体180へ照射される。
【0014】
被照射体180は、支持部130の内部において適宜固定されている。また、支持部130は真空チャンバを有することもできる。つまり、支持部130は、その内部を減圧状態あるいは真空状態にすることもできる。そして、駆動部140は保持部120の位置を3軸方向に調整することにより、加工レーザ光学系106および保熱レーザ光学系116の位置を適宜調整できる。つまり、駆動部140は保持部120を介して加工レーザ光学系106および保熱レーザ光学系116の位置を3軸方向に調整することにより、所定の接合界面(加工点)に加工レーザ光108および保熱レーザ光118をそれぞれ照射させることができる。なお、支持部130を載置する図示しないステージを3軸方向に調整することによって、加工レーザ光108および保熱レーザ光118の照射位置を制御することも可能である。
【0015】
加工レーザ光108は、高出力の超短パルスレーザ光とすることができる。なお、本願明細書において、「超短パルスレーザ光」とは、パルス幅が100ナノ秒以下のレーザ光をいうものとする。このようなレーザ光としては、例えばQsw、GiantPulse、ModeLockなどが挙げられる。加工レーザ光108として超短パルスレーザ光を使用すれば被照射体180の熱の影響を抑えることができる。被照射体180の熱の影響は、照射されたレーザ光のビームプロファイルにほぼ倣っている。このビームプロファイルは一般的にガウス分布となっているため、被照射体180の熱の影響は照射範囲の中央部分において最も大きい。そのため、被照射体180の熱の影響による損傷を低減し、且つ広い面積を一様に接合処理するためには、フラットトップのビームを有するレーザ光を使用することがより好ましい。
【0016】
また、接合界面を急冷すると、接合界面近傍における被照射体180にクラックが生ずるおそれがある。そこで、本実施形態にかかるレーザ加工装置は、加工レーザ光108の照射位置およびその周辺部に保熱レーザ光118を照射して、その接合界面を保熱できる。なお、本願明細書において「保熱」とは、発生した熱を周辺部へ逃がさないこと、あるいはその熱の周辺部への拡散を抑制できることをいう。つまり、保熱レーザ光118を照射することで、加工レーザ光108の照射によって発熱した熱が、その照射位置の周辺部に拡散することを抑えることができる。これによれば、被照射体180における接合処理部と接合未処理部との温度差を緩和できるため、被照射体180にクラックが生ずることを抑えることができる。したがって、約400〜600℃程度の高温雰囲気で接合処理を行う場合に比べて徐冷時間を短縮でき、接合工程の簡略化、あるいは接合時間の短縮化を図ることができる。なお、保熱レーザ光118の照射位置は、加工レーザ光108の照射位置を含む必要はなく、その周辺部だけでもよい。
【0017】
保熱レーザ光118としては、例えば半導体レーザ光やCOレーザ光などが挙げられる。また、保熱レーザ光118の照射強度については、加工レーザ光108の照射強度よりも小さくすることができる。そして、保熱レーザ光118の照射によって発熱した被照射体180の温度は、被照射体180の融点以下であってもよい。また、保熱レーザ光118は、接合界面に配置された吸光材などの光吸収物質に吸収される波長を有していなくともよく、被照射体180に吸収される波長を有していればよい。これは、保熱レーザ光118が接合を目的とするレーザ光ではなく、被照射体の保熱を1つの目的とするレーザ光であることによる。つまり、加工レーザ光108の有する波長と、保熱レーザ光118の有する波長と、は異波長であってもよい。また、このような保熱レーザ光として、CW(Continuous Wave)レーザ光(連続発振レーザ光)を用いることができる。
【0018】
本実施形態にかかるレーザ加工装置は、図2に表したように、加工レーザ発振器102に任意の大きさの駆動電力を印加する電源152aと、保熱レーザ発振器112に任意の大きさの駆動電力を印加する電源152bと、電源152a、152bにより加工レーザ発振器102および保熱レーザ発振器112にそれぞれ印加される駆動電力を制御する制御部150と、をさらに備えている。
【0019】
制御部150は、使用者からの指示により加工レーザ光108および保熱レーザ光118のパルス形状やパルス幅などを設定変更させるよう、電源152a、152bを制御することができる。すなわち、加工レーザ発振器102および保熱レーザ発振器112からそれぞれ出射される加工レーザ光108および保熱レーザ光118のパルス形状は、電源152a、152bによりそれぞれ印加される駆動電力の波形に応じて制御される。制御部150による制御の下で、電源152a、152bにより加工レーザ発振器102および保熱レーザ発振器112にそれぞれ印加される駆動電力の波形が変更されることにより、加工レーザ発振器102および保熱レーザ発振器112から所定のピーク出力およびエネルギー密度を持つ加工レーザ光108および保熱レーザ光118が出射されるようになっている。
【0020】
また、制御部150は、保持部120を3軸方向に調整する駆動部140の動作を制御できる。つまり、制御部150は、予め設定された被照射体180の位置情報に基づいて、加工レーザ光108および保熱レーザ光118が所定位置に照射されるように駆動部140を制御できる。
【0021】
なお、図1および図2に表したレーザ加工装置は、被照射体180の画像を取得するための図示しないカメラなどの光学要素をさらに備えてもよい。これによれば、カメラにより撮影された画像データは、制御部150に出力され、画像解析される。そして、その結果に基づいて、制御部150は、加工レーザ光108および保熱レーザ光118が所定位置に照射されるように駆動部140を制御できる。このようにすることで、より短時間で、より正確に所定位置に加工レーザ光108および保熱レーザ光118を照射することができる。
【0022】
次に、本発明の実施の形態にかかるレーザ接合方法について図面を参照しつつ説明する。
ここでは、例えばPDP、SED、FED、有機ELディスプレイなどの発光パネルに例示されるように、枠を介して2枚の基板(接合部材)を接合する方法を例に挙げて説明する。
図3は、本発明の実施の形態にかかる接合方法によって接合する接合構造体(被照射体)を例示する模式図である。
また、図4は、本実施形態にかかる接合方法を例示する模式図である。なお、図4は、図3に表した矢視Aの方向から眺めた模式図である。
【0023】
図3に表した接合構造体(被照射体)は、少なくともいずれかがレーザ光に対して透過性を有する接合部材182aおよび接合部材182bと、接合部材182aと接合部材182bとの間に挟設された枠184と、を有する。ここで、レーザ光に対する透過性とは、加熱源としてのレーザ光をほとんど反射も吸収もせずに透過させるか、あるいはレーザ光を一部吸収したり反射したりしても溶融(融解)することなく残りのレーザ光を透過し、吸光材まで到達させ得る性質をいう。
【0024】
図4に表した接合方法は、接合部材182aおよび接合部材182bがともにレーザ光に対して透過性を有する場合に適用可能である。つまり、この場合には、接合部材182aおよび接合部材182bを介して両側からレーザ光を接合界面に照射できる。そこでまず、図4(a)に表したように、接合部材182a(第1の接合部材)と枠184(第2の接合部材)との間にレーザ光のエネルギーを吸収して発熱する吸光材186aを適宜配置する。これと同様にして、接合部材182b(第1の接合部材)と枠184(第2の接合部材)との間にレーザ光のエネルギーを吸収して発熱する吸光材186bを適宜配置する。
【0025】
ここで、吸光材186a、186bは、レーザ光のエネルギーを吸収して発熱する性質を有していればよいが、接合部材182a、182bの軟化点もしくは融点以上の物性値を有することがより好ましい。吸光材186a、186bの厚さや形状は、接合部材182a、182bや枠184などの接合対象物やその接合目的によって変わる。また、吸光材186a、186bの材質は、金属、セラミック、有色塗料、あるいはこれらの組み合わせなどが好ましい。さらに、吸光材186a、186bの形態は、箔、膜、あるいは粉であることが好ましい。
【0026】
例えば、レーザ光に対する吸収性が比較的小さい(反射率が比較的大きい)金属を吸光材として使用する場合には、予めその金属の表面に有色塗料を塗布し、この発熱により吸光材の温度上昇を補助する方法が挙げられる。なお、レーザ光に対する吸収性とは、加熱源としてのレーザ光を一部透過したり反射したりしても残りのレーザ光を吸収し、これにより加熱され得る性質をいう。
【0027】
そして、接合部材182bを介して吸光材186bに加工レーザ光108を照射する。加工レーザ光108は、前述したように、高出力の超短パルスレーザ光とすることができる。吸光材186bは、加工レーザ光108を吸収して発熱する。そして、この発熱により、接合部材182bと枠184と吸光材186bとの少なくともいずれかが融解する。一方、それと略同時に、あるいはそれと前後して、接合部材182bを介して吸光材186bに保熱レーザ光118を照射する。保熱レーザ光118の照射位置は、前述したように、加工レーザ光108の照射位置およびその周辺部、あるいはその周辺部のみである。
【0028】
ここで、保熱レーザ光118の照射位置および照射範囲について、図面を参照しつつ説明する。
図5は、保熱レーザ光の照射位置および照射範囲を説明するための模式図である。
なお、図5(a)は、加工レーザ光の照射位置およびその周辺部に保熱レーザ光を照射した場合を例示する模式図であり、図5(b)は、加工レーザ光の照射位置の周辺部のみに保熱レーザ光を照射した場合を例示する模式図である。図5は、レーザ光の照射方向に並行に被照射体を眺めた場合を表しており、図3に表した矢視Bの方向から眺めた場合に相当する。
また、図6は、保熱レーザ光の他の照射位置および照射範囲を説明するための模式図である。
なお、図6(a)は、帯状の保熱レーザ光を照射した場合を例示する模式図であり、図6(b)は、楕円状の保熱レーザ光を照射した場合を例示する模式図である。図6は、レーザ光の照射方向に並行に被照射体を眺めた場合を表しており、図3に表した矢視Bの方向から眺めた場合に相当する。
【0029】
本実施形態のレーザ加工装置は、図5(a)に表したように、加工レーザ光108の照射位置(斜線部)およびその周辺部に保熱レーザ光118を照射できる(ドット部)。すなわち、加工レーザ光108の照射位置に重畳的に保熱レーザ光118を照射できる。一方、本実施形態のレーザ加工装置は、図5(b)に表したように、加工レーザ光108の照射位置(斜線部)の周辺部のみに保熱レーザ光118を照射できる(ドット部)。すなわち、加工レーザ光108の照射位置を中空状態として保熱レーザ光118を照射できる。
【0030】
さらに、本実施形態のレーザ加工装置は、図6(a)に表したように、加工レーザ光108の照射位置(斜線部)およびその両側に帯状の保熱レーザ光118を照射できる(ドット部)。また、図6(b)に表したように、楕円状の保熱レーザ光118を照射することもできる(ドット部)。図6(a)および図6(b)に表したような保熱レーザ光118の照射範囲については、レーザ加工装置に設けられた図示しないマスクや光学系を適宜用いて形成することができる。さらに、保熱レーザ光118をスキャン(走査)することで、帯状や楕円状の保熱レーザ光118を照射することもできる。なお、図6(b)に表した保熱レーザ光118の照射形状(照射範囲)は、楕円状ではなく矩形状であってもよい。
【0031】
続いて、図4に戻って説明すると、加工レーザ光108の照射によって発熱した熱は、保熱レーザ光118の照射により、加工レーザ光108の照射位置の周辺部へ拡散し難くなる。すなわち、加工レーザ光108の照射位置とその周辺部との温度差を緩和できるため、加工レーザ光108の照射によって発熱した熱の拡散を抑えることができる。そのため、接合部材182bと枠184と吸光材186bとの少なくともいずれかは、より確実に融解する。そして、一旦加熱溶融した接合界面では、加工レーザ光108の反射率が低下し、加工レーザ光108のエネルギーが吸収されやすくなるため、接合部材182bと枠184と吸光材186bとの少なくともいずれかは、さらに加熱溶融しやすくなる。
【0032】
また、保熱レーザ光118を照射しているため、加工レーザ光108の照射を停止した後には、融解した部分が比較的ゆっくりと固化する。このようにして、接合部材182b(第1の接合部材)と枠184(第2の接合部材)とが接合される。
【0033】
続いて、図4(b)に表したように、接合部材182aを介して吸光材186aに加工レーザ光108を照射する。吸光材186aは、加工レーザ光108を吸収して発熱する。そして、この発熱により、接合部材182aと枠184と吸光材186aとの少なくともいずれかが融解する。一方、それと同時に、あるいはそれと前後して、接合部材182aを介して吸光材186aに保熱レーザ光118を照射する。保熱レーザ光118の照射位置は、前述したように、加工レーザ光108の照射位置およびその周辺部、あるいはその周辺部のみである。より具体的には、図5および図6に関して前述した照射位置および照射範囲と同様である。
【0034】
すると、図4(a)に関して前述した作用と同様にして、保熱レーザ光118は、加工レーザ光108の照射によって発熱した熱が周辺部へ拡散することを抑制できる。そのため、接合部材182aと枠184と吸光材186aとの少なくともいずれかは、より確実に融解する。そして、一旦加熱溶融した接合界面では、加工レーザ光108の反射率が低下し、加工レーザ光108のエネルギーが吸収されやすくなるため、接合部材182aと枠184と吸光材186aとの少なくともいずれかは、さらに加熱溶融しやすくなる。
【0035】
また、保熱レーザ光118を照射しているため、加工レーザ光108の照射を停止した後には、融解した部分が比較的ゆっくりと固化する。このようにして、接合部材182a(第1の接合部材)と枠184(第2の接合部材)とが接合される。
【0036】
このように、接合部材182a、182bを介して両側から加工レーザ光108および保熱レーザ光118を照射することにより、接合部材182a、182bと枠184とを接合できる。このとき、加工レーザ光108として高出力の超短パルスレーザ光を使用すれば、接合部材182a、182bおよび枠184の融解深さ(損傷)を抑えることができる。さらに、保熱レーザ光118を接合界面に照射することにより、接合部材182a、182bおよび枠184にクラックが生ずることを抑えることができる。
【0037】
図7は、本実施形態にかかる他の接合方法を例示する模式図である。なお、図7は、図4に表した接合方法と同様に、図3に表した矢視Aの方向から眺めた模式図である。
図7に表した接合方法は、接合部材182aのレーザ光に対する透過性が比較的小さい場合、あるいは接合構造体におけるデバイスなどの構造上の関係により接合部材182bを介して片側のみからレーザ光を照射可能な場合に適用可能である。
【0038】
そこでまず、図7(a)に表したように、接合部材182a(第1の接合部材)と枠184(第2の接合部材)との間に吸光材186aを適宜配置する。そして、枠184を介して吸光材186aに加工レーザ光108を照射する。加工レーザ光108は、前述したように、高出力の超短パルスレーザ光とすることができる。吸光材186aは、加工レーザ光108を吸収して発熱する。そして、この発熱により、接合部材182aと枠184と吸光材186aとの少なくともいずれかが融解する。一方、それと略同時に、あるいはそれと前後して、枠184を介して吸光材186aに保熱レーザ光118を照射する。保熱レーザ光118の照射位置は、前述したように、加工レーザ光108の照射位置およびその周辺部、あるいはその周辺部のみである。
【0039】
すると、図4(a)に関して前述した作用と同様にして、保熱レーザ光118は、加工レーザ光108の照射によって発熱した熱が周辺部へ拡散することを抑制できる。そのため、接合部材182aと枠184と吸光材186aとの少なくともいずれかは、より確実に融解する。そして、一旦加熱溶融した接合界面では、加工レーザ光108の反射率が低下し、加工レーザ光108のエネルギーが吸収されやすくなるため、接合部材182aと枠184と吸光材186aとの少なくともいずれかは、さらに加熱溶融しやすくなる。
【0040】
また、保熱レーザ光118を照射しているため、加工レーザ光108の照射を停止した後には、融解した部分が比較的ゆっくりと固化する。このようにして、接合部材182a(第1の接合部材)と枠184(第2の接合部材)とが接合される。なお、この場合、枠184はレーザ光に対して透過性を有する必要がある。
【0041】
続いて、図7(b)に表したように、接合部材182b(第1の接合部材)と枠184(第2の接合部材)との間に吸光材186bを適宜配置する。そして、接合部材182bを介して吸光材186bに加工レーザ光108を照射する。吸光材186bは、加工レーザ光108を吸収して発熱する。そして、この発熱により、接合部材182bと枠184と吸光材186bとの少なくともいずれかが融解する。一方、それと同時に、あるいはそれと前後して、接合部材182bを介して吸光材186bに保熱レーザ光118を照射する。保熱レーザ光118の照射位置は、前述したように、加工レーザ光108の照射位置およびその周辺部、あるいはその周辺部のみである。
【0042】
すると、図4(a)に関して前述した作用と同様にして、保熱レーザ光118は、加工レーザ光108の照射によって発熱した熱が周辺部へ拡散することを抑制できる。そのため、接合部材182bと枠184と吸光材186bとの少なくともいずれかは、より確実に融解する。そして、一旦加熱溶融した接合界面では、加工レーザ光108の反射率が低下し、加工レーザ光108のエネルギーが吸収されやすくなるため、接合部材182bと枠184と吸光材186bとの少なくともいずれかは、さらに加熱溶融しやすくなる。
【0043】
また、保熱レーザ光118を照射しているため、加工レーザ光108の照射を停止した後には、融解した部分が比較的ゆっくりと固化する。このようにして、接合部材182b(第1の接合部材)と枠184(第2の接合部材)とが接合される。
【0044】
このように、接合部材182aと枠184との接合処理と、接合部材182bと枠184との接合処理と、を片側から2回に分けて行うことにより、いずれかの接合部材のレーザ光に対する透過性が比較的小さい場合、あるいはデバイスなどの構造上の関係により両側からの照射が困難な場合であっても、レーザ融着による接合処理を行うことができる。
【0045】
また、加工レーザ光108として高出力の超短パルスレーザ光を使用した場合には、保熱レーザ光118を接合界面に照射することにより、図3と同様の効果を得ることができる。
【0046】
なお、レーザ融着によって接合処理を行う場合には、接合部材182a、182bと枠184とを互いに密着させる必要がある。これは、接合部材182a、182bと枠184との密着が弱い状態では、それらの界面に存在する隙間により熱伝達が低下し、吸光材で発熱した熱が接合部材182a、182bおよび枠184に伝わりにくいためである。これにより、必要な接合強度を得られないおそれがある。必要な接合強度を得ようとして過大な熱入力を行うと、熱による影響が大きくなり、接合部材182a、182bおよび枠184に与える損傷が大きくなるおそれがある。そこで、本実施形態にかかるレーザ加工装置は、複数の接合対象物を互いに密着させる押し付け部を有する。
【0047】
図8は、複数の接合対象物を互いに密着させる押し付け部を例示する模式図である。 レーザ融着によって複数の接合対象物を接合する場合には、前述のように、接合対象物を互いに密着させる必要がある。
【0048】
加工レーザ光108の照射位置近傍に適宜設けられた押し付け部134a、134bを被照射体180(接合部材182a、182bおよび枠184)に向かって移動させて、接合箇所近傍を局所的に押し付けることにより、より密着性を高めることができる。また、押し付け部134a、134bは発熱体136に接続されており、加熱可能とされている。そのため、押し付け部134a、134bは、加工レーザ光108の照射位置の周辺部を保熱することができる。これにより、加工レーザ光108の照射によって発熱した熱は、その照射位置の周辺部へ拡散し難くなる。すなわち、押し付け部134a、134bは、加工レーザ光108の照射位置とその周辺部との温度差を緩和できるため、保熱レーザ光118と同様に、加工レーザ光108の照射によって発熱した熱が周辺部へ拡散することを抑制できる。
【0049】
さらに、加工レーザ光108の照射と、それによる接合と、を真空チャンバ内で行うこともできる。真空チャンバ内部は減圧された状態、あるいは真空状態となっているため、その真空の断熱効果によっても、加工レーザ光108の照射によって発熱した熱は、周辺部へより拡散し難くなる。つまり、真空の断熱効果によって、接合部材182a、182bから周辺部へ熱を逃がさないようにすることができる。
【0050】
このように、押し付け部134a、134bは、接合部材182a、182bと枠184との密着性をより高める機能と、加工レーザ光108の周辺部への熱拡散を抑制する機能と、を有する。また、真空チャンバ(支持部)130は、その内部を減圧状態あるいは真空状態にすることで、真空の断熱効果によって、接合部材182a、182bから周辺部へ熱を逃がさないようにすることができる。これによれば、吸光材で発熱した熱が接合部材182a、182bおよび枠184に伝わりやすくなるため、接合部材182a、182b、枠184、およびそれらの間に配置された吸光材186a、186bの少なくともいずれかは、より確実に融解する。その結果、被照射体180は、より大きな接合強度を得ることができる。さらに、過大な熱入力を行う必要がないため、熱の影響によって接合部材182a、182bおよび枠184に与える損傷を抑えることができる。
【0051】
図9は、押し付け部(押し付け機構)の変形例を例示する模式斜視図である。
押し付け機構(押し付け部)310は、接合部材182a(第1の接合部材)および枠184(第2の接合部材)などの被照射体を載置する載置台312と、接合部材182aおよび枠184などの被照射体を固定する固定部314と、を有している。固定部314は、軸318により載置台312に対して回動自在に軸支されている。また、被照射体を固定した状態の固定部314の上面には、図9に表したように、加工レーザ光108が通過する開口部316が設けられている。これにより、被照射体を固定したままの状態で、固定部314の上方から接合界面に加工レーザ光108を照射することができる。
【0052】
このとき、載置台312と固定部314とは、発熱体136に接続されており、加熱可能とされている。そのため、載置台312および固定部314は、加工レーザ光108の照射位置の周辺部を保熱することができる。これにより、加工レーザ光108の照射によって発熱した熱は、その照射位置の周辺部へ拡散し難くなる。すなわち、載置台312と固定部314とは、加工レーザ光108の照射位置とその周辺部との温度差を緩和できるため、図8に表した押し付け部134a、134bと同様に、加工レーザ光108の照射によって発熱した熱が周辺部へ拡散することを抑制できる。
【0053】
また、固定部314は開口部316を有し、その開口部316の周囲部によって、加工レーザ光108の照射位置の周辺部全体を保熱できる。そのため、押し付け機構310は、図8に表した押し付け部134a、134bよりも、さらに加工レーザ光108の照射によって発熱した熱の拡散を抑制できる。このように、押し付け機構310は、加工レーザ光108の照射によって発熱した熱の拡散を抑え、接合部材182aと枠184との密着性を高めることができるため、図8に関して前述した効果と同様の効果を得ることができる。
【0054】
なお、発熱体136に接続されるのは、載置台312と固定部314とのいずれか一方であってもよい。但し、熱拡散の抑制を考慮すると、載置台312と固定部314との両方を発熱体に接続することが、より好ましい。また、押し付け機構310によって熱拡散を抑えつつ、図8に表したように、保熱レーザ光118を照射して熱拡散を抑えてもよい。これによれば、押し付け機構310による保熱効果と、保熱レーザ光118の照射による保熱効果と、により、熱拡散をさらに抑え、接合部材182a、182b、枠184、およびそれらの間に配置された吸光材186a、186bの少なくともいずれかをより確実に融解できる。
【0055】
以上説明したように、本実施形態によれば、加工レーザ光108の照射位置およびその周辺部、あるいはその周辺部のみに保熱レーザ光118を照射することにより、加工レーザ光108の照射によって発熱した熱が周辺部へ拡散することを抑制できる。また、加工レーザ光として高出力の超短パルスレーザ光を使用すれば、熱の影響による接合部材の損傷(融解深さ)を低減できる。また、加工レーザ光の照射を停止した後であっても、保熱レーザ光を照射することができるため、被照射体の接合界面にクラックが生ずることを抑えることができる。さらに、接合処理部と接合未処理部との温度差を緩和できるため、被照射体の徐冷時間を短縮できる。接合対象物を互いに密着させる押し付け部(押し付け機構)を備えることで、接合箇所近傍の密着性をより高めることもできる。そして、その押し付け部(押し付け機構)を発熱体と接続することにより、保熱レーザ光118と同様に、加工レーザ光108の照射による熱が周辺部へ拡散することを抑制できる。
【0056】
以上、本発明の実施の形態について説明した。しかし、本発明はこれらの記述に限定されるものではない。前述の実施の形態に関して、当業者が適宜設計変更を加えたものも、本発明の特徴を備えている限り、本発明の範囲に包含される。例えば、レーザ加工装置などが備える各要素の形状、寸法、材質、配置などや加工レーザ光学系106および保熱レーザ光学系116の設置形態などは、例示したものに限定されるわけではなく適宜変更することができる。
また例えば、支持部130の内部に載置された被照射体180を3軸方向に調整することによって、加工レーザ光108および保熱レーザ光118の照射位置を制御してもよい。
また、前述した各実施の形態が備える各要素は、技術的に可能な限りにおいて組み合わせることができ、これらを組み合わせたものも本発明の特徴を含む限り本発明の範囲に包含される。
【図面の簡単な説明】
【0057】
【図1】本発明の実施の形態にかかるレーザ加工装置を表す模式図である。
【図2】本実施形態にかかるレーザ加工装置の構成を例示するブロック図である。
【図3】本発明の実施の形態にかかる接合方法によって接合する接合構造体(被照射体)を例示する模式図である。
【図4】本実施形態にかかる接合方法を例示する模式図である。
【図5】保熱レーザ光の照射位置および照射範囲を説明するための模式図である。
【図6】保熱レーザ光の他の照射位置および照射範囲を説明するための模式図である。
【図7】本実施形態にかかる他の接合方法を例示する模式図である。
【図8】複数の接合対象物を互いに密着させる押し付け部を例示する模式図である。
【図9】押し付け部の変形例を例示する模式斜視図である。
【符号の説明】
【0058】
102 加工レーザ発振器、 104 光ファイバ、 106 加工レーザ光学系、 108 加工レーザ光、 112 保熱レーザ発振器、 114 光ファイバ、 116 保熱レーザ光学系、 118 保熱レーザ光、 120 保持部、 130 支持部(真空チャンバ)、 132 レーザ入射窓、 134a、134b 押し付け部、 136 発熱体、 140 駆動部、 150 制御部、 152a、152b、152c 電源、 180 被照射体、 182a、182b 接合部材、 184 枠、 186a、186b 吸光材、 192 レーザ発振器、 200 レーザ光学系、 202 ビームスプリッタ、 204 反射部、 206、206a、206b 高調波生成部、 208 Qスイッチ、 220、240 レーザ光学系、 310 押し付け機構、 312 載置台、 314 固定部、 316 開口部、 318 軸

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくともいずれかがレーザ光に対して透過性を有する第1及び第2の接合部材の間に挟まれた吸光材に加工レーザ光を照射することにより前記吸光材を発熱させつつ、前記加工レーザ光の照射位置の周辺部に保熱レーザ光を照射することにより前記周辺部を保熱し、前記発熱と前記保熱とにより前記吸光材と前記第1の接合部材と前記第2の接合部材との少なくともいずれかを融解させ固化させて、前記第1の接合部材と、前記第2の接合部材と、を接合することを特徴とする接合方法。
【請求項2】
押し付け部により、前記第1の接合部材と、前記第2の接合部材と、の接合箇所近傍を局所的に押し付けて密着させて、前記第1の接合部材と、前記第2の接合部材と、を接合することを特徴とする請求項1記載の接合方法。
【請求項3】
前記押し付け部を加熱可能とし、前記接合箇所近傍を保熱することを特徴とする請求項2記載の接合方法。
【請求項4】
前記吸光材を、前記加工レーザ光を吸収する金属、セラミック、有色塗料、あるいはこれらの組み合わせとし、且つ、その形態を、箔、膜、あるいは粉とすることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1つに記載の接合方法。
【請求項5】
加工レーザ光を出力する加工レーザ発振器と、
前記加工レーザ光を集光して照射する加工レーザ光学系と、
保熱レーザ光を出力する保熱レーザ発振器と、
前記保熱レーザ光を集光して照射する保熱レーザ光学系と、
少なくともいずれかがレーザ光に対して透過性を有する第1及び第2の接合部材と前記第1及び第2の接合部材の間に挟まれた吸光材とを有する被照射体を支持する支持部と、
前記支持部と、前記加工レーザ光学系と、前記保熱レーザ光学系と、の位置関係を制御する駆動部と、
前記吸光材に前記加工レーザ光を照射することにより前記吸光材を発熱させつつ、前記加工レーザ光の照射位置の周辺部に保熱レーザ光を照射することにより前記周辺部を保熱するように前記加工レーザ発振器及び前記保熱レーザ発振器を制御する制御部と、
を備えたことを特徴とするレーザ加工装置。
【請求項6】
前記加工レーザ光の有する波長と、前記保熱レーザ光の有する波長と、は異波長であることを特徴する請求項5記載のレーザ加工装置。
【請求項7】
前記保熱レーザ光は、連続発振レーザ光であることを特徴とする請求項5または6に記載のレーザ加工装置。
【請求項8】
前記第1の接合部材と、前記第2の接合部材と、の接合箇所近傍を局所的に押し付けて密着させる押し付け部をさらに備えたことを特徴とする請求項5〜7のいずれか1つに記載のレーザ加工装置。
【請求項9】
前記押し付け部は加熱可能とされ、前記接合箇所近傍を保熱可能とされてなることを特徴とする請求項8記載のレーザ加工装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2009−297759(P2009−297759A)
【公開日】平成21年12月24日(2009.12.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−156261(P2008−156261)
【出願日】平成20年6月16日(2008.6.16)
【出願人】(000002428)芝浦メカトロニクス株式会社 (907)
【Fターム(参考)】