説明

レーザ照射装置及びそれを使用した液晶表示パネルの輝点修正方法

【課題】装置の小型化が可能で、且つ複数波長の混合レーザ光から最短波長のレーザ光を高い波長純度で取り出す。
【解決手段】波長の異なる複数のレーザ光Lからその照射目的に応じて波長を選択して照射対象物Obに照射し得るようにしたレーザ照射装置であって、上記複数波長のレーザ光Lから成る混合光の光路上に、複数波長のレーザ光Lのうち、少なくとも最短波長のレーザ光の回折限界に相当する幅のスリット2と、このスリット2を通過したレーザ光を照射対象物Ob上に集光する対物レンズ4と、を備えたものである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、波長の異なる複数のレーザ光からその照射目的に応じて波長を選択して照射対象物に照射し得るようにしたレーザ照射装置に関し、特に装置の小型化が可能で、且つ複数波長の混合レーザ光から最短波長のレーザ光を高い波長純度で取り出し得るレーザ照射装置及びそれを使用した液晶表示パネルの輝点修正方法に係るものである。
【背景技術】
【0002】
従来のこの種のレーザ照射装置は、波長の短い第1レーザ光を発生する第1レーザ発生器と、第1レーザ光よりも波長の長い第2レーザ光を発生する第2レーザ発生器とを備え、第1レーザ光を液晶表示パネルの輝点欠陥の液晶セルに照射し、該液晶セルのカラーフィルタを基板から剥離させて両者間に隙間を形成した後、第2レーザ光を上記液晶セルに照射して該液晶セルのカラーフィルタの物性を光透過性が低下するように変化させることができるようになっていた(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2008−165164号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、このような従来のレーザ照射装置においては、それぞれ波長の異なるレーザ光を発生する2台のレーザ発生器を備え、それぞれオン・オフ切り換えて特定波長のレーザ光を取り出すようになっていたので、装置を小型化することが困難であった。
【0005】
この場合、1つのレーザ発生器により、その基本波から高調波を生成させて波長の異なる複数のレーザ光を得た後、この複数波長のレーザ光を例えばダイクロイックミラーを使用して波長分離し、分離された複数波長のレーザ光をそれぞれ複数の光路に通すと共に、各光路を開閉して特定波長のレーザ光を取り出すことも考えられるが、この場合、複数の光路が横に広がって設けられるため、装置の小型化が容易でなかった。
【0006】
また、同一光路を進む複数波長の混合レーザ光からフィルタを使用して特定波長のレーザ光を取り出すこともできるが、この場合、フィルタの特性上、例えば266nmのレーザ光を波長が接近した355nmのレーザ光と分離して高い波長純度で取り出すことは困難である。したがって、例えば266nmのレーザ光を使用して、液晶表示パネルの輝点欠陥を修正するために該輝点欠陥の液晶セルのカラーフィルタを基板から剥離させようとした場合、フィルタで除去できずに残存する355nmのレーザ光により上記液晶セルの周辺部分に熱的影響が及ぶ危険性がある。
【0007】
そこで、本発明は、このような問題点に対処し、装置の小型化が可能で、且つ複数波長の混合レーザ光から最短波長のレーザ光を高い波長純度で取り出し得るレーザ照射装置及びそれを使用した液晶表示パネルの輝点修正方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するために、本発明によるレーザ照射装置は、波長の異なる複数のレーザ光からその照射目的に応じて波長を選択して照射対象物に照射し得るようにしたレーザ照射装置であって、前記複数波長のレーザ光から成る混合光の光路上に、前記複数波長のレーザ光のうち、少なくとも最短波長のレーザ光の回折限界に相当する幅のスリットと、前記スリットを通過したレーザ光を前記照射対象物上に集光する対物レンズと、を備えたものである。
【0009】
このような構成により、波長の異なる複数のレーザ光の混合光を、少なくとも最短波長のレーザ光の回折限界に相当する幅のスリットを通過させて、上記複数波長のレーザ光からその照射目的に応じて波長を選択し、該選択されたレーザ光を対物レンズにより照射対象物上に集光する。
【0010】
また、前記スリットは、前記最短波長のレーザ光の回折限界に相当する幅の第1のスリット及びそれよりも幅広の第2のスリットから成り、前記混合光の光路上に並べて形成されており、少なくとも前記第2のスリットを通過するレーザ光の通路を開閉する遮光手段をさらに設けて、前記照射対象物に照射するレーザ光の波長を選択し得るようにしたものである。これにより、混合光の光路上に並べて形成された、最短波長のレーザ光の回折限界に相当する幅の第1のスリット及びそれよりも幅広の第2のスリットのうち、少なくとも第2のスリットを通過するレーザ光の通路を遮光手段により開閉し、照射対象物に照射するレーザ光の波長を選択する。
【0011】
さらに、前記第1のスリットは前記混合光の光路中央部に形成され、前記第2のスリットは、前記第1のスリットに平行に並べてその両側に形成されている。これにより、混合光の光路中央部に形成され第1のスリットにより、混合光から最短波長のレーザ光を選択して取り出し、第1のスリットに平行に並べてその両側に形成され第2のスリットにより、該第2のスリットの回折限界に等しい波長以下のレーザ光を選択して取り出す。
【0012】
そして、少なくとも前記第1のスリットは、平行に並べて複数形成されている。これにより、平行に並べて形成された複数の第1のスリットにより、それを通過する最短波長のレーザ光の束を生成する。
【0013】
また、本発明による液晶表示パネルの輝点修正方法は、波長の異なる第1及び第2のレーザ光を用いて液晶セルの輝点欠陥を修正する液晶表示パネルの輝点修正方法であって、前記第1及び第2のレーザ光の混合光を同一の光路に出力させた状態で、波長の短い前記第1のレーザ光の回折限界に相当する幅の第1のスリットを選択的に通過した前記第1のレーザ光により、前記輝点欠陥の液晶セルのカラーフィルタを基板から剥離させて両者間に隙間を形成する段階と、前記第1のスリットよりも幅広の第2のスリットを通過した波長の長い前記第2のレーザ光により、前記輝点欠陥の液晶セル周辺のブラックマトリクスを削って黒色粉塵を発生させる段階と、前記第1のスリットを通過した前記第1のレーザ光、又は少なくとも前記第2のスリットを通過した前記第1及び第2のレーザ光により、前記黒色粉塵を移動させて前記隙間に分散させる段階と、を行うものである。
【0014】
このような構成により、波長の異なる第1及び第2のレーザ光の混合光を同一の光路に出力させた状態で、波長の短い第1のレーザ光の回折限界に相当する幅の第1のスリットを選択的に通過した第1のレーザ光により、輝点欠陥の液晶セルのカラーフィルタを基板から剥離させて両者間に隙間を形成し、第1のスリットよりも幅広の第2のスリットを通過した波長の長い第2のレーザ光により、上記輝点欠陥の液晶セル周辺のブラックマトリクスを削って黒色粉塵を発生させ、第1のスリットを通過した第1のレーザ光、又は少なくとも第2のスリットを通過した第1及び第2のレーザ光により、上記黒色粉塵を移動させて上記隙間に分散させ、液晶表示パネルの輝点欠陥を修正する。
【0015】
さらに、前記第1及び第2のスリットは、前記混合光の光路上に平行に並べて形成され、前記第2のスリットを通過するレーザ光の通路を遮光手段により開閉して、前記液晶表示パネルに照射するレーザ光の波長を選択し得るようにしたものである。これにより、混合光の光路上に並べて形成された第1及び第2のスリットのうち、第2のスリットを通過するレーザ光の通路を遮光手段により開閉し、液晶表示パネルに照射するレーザ光の波長を選択する。
【0016】
そして、少なくとも前記第1のスリットは、前記レーザ光の光路中央部に平行に並べて複数本形成され、該複数本の第1のスリットの両側に前記第2のスリットを形成したものである。これにより、混合光の光路中央部に形成され第1のスリットにより、混合光から最短波長のレーザ光の束を選択して取り出し、第1のスリットに平行に並べてその両側に形成され第2のスリットにより、該第2のスリットの回折限界に等しい波長以下のレーザ光の束を選択して取り出す。
【発明の効果】
【0017】
請求項1に係る発明によれば、同一光路を進む複数波長のレーザ光の混合光からその照射目的に応じて必要な波長のレーザ光を選択して取り出すことができ、装置の小型化を図ることができる。また、最短波長のレーザ光の回折限界に相当する幅のスリットに上記混合光を通しているので、上記混合光から最短波長のレーザ光を高い波長純度で取り出すことができる。したがって、従来技術と違って、取り出した最短波長のレーザ光中に残存する波長の長いレーザ光によるレーザ照射領域周辺部への熱的影響を排除してレーザ加工を行うことができる。さらに、最短波長のレーザ光を使用することにより、波長の長いレーザ光よりも焦点深度を浅くすることができ、レーザ照射領域周辺部の積算熱エネルギーを小さくすることができる。したがって、薄膜のレーザ加工を安定して行なうことができる。
【0018】
また、請求項2に係るレーザ照射装置の発明によれば、遮光手段を開閉操作するだけで、混合光から2種類の波長のレーザ光を照射目的に応じて取り出すことができる。この場合、第1のスリットからは、熱エネルギーの最も小さい最短波長のレーザ光を高い波長純度で取り出すことができ、第2のスリットからは、上記最短波長のレーザ光を含む第2のスリット幅を回折限界とする波長以下のレーザ光を取り出すことができる。したがって、上記第1のスリットを選択的に通過させて取り出した最短波長のレーザ光により熱的影響を制限してレーザ加工を行なわせることができ、第2のスリットを通過した複数波長のレーザ光のうち、熱エネルギーの最も大きい最長波長のレーザ光を用いてレーザ加工を行うことができる。
【0019】
さらに、請求項3に係る発明によれば、第2のスリットを通過したレーザ光の照射対象物上の照射面積を広くして、レーザ加工の効率を向上させることができる。
【0020】
そして、請求項4に係る発明によれば、第1のスリットを通過した最短波長のレーザ光の照射対象物上における照射面積を広くして、熱的影響を制限したレーザ加工の効率を向上することができる。
【0021】
また、請求項5に係る液晶表示パネルの輝点修正方法の発明によれば、最短波長の第1のレーザ光の回折限界に相当する幅の第1のスリットに混合光を通しているので、上記混合光から最短波長の第1のレーザ光を高い波長純度で取り出すことができる。したがって、従来技術と違って、取り出した第1のレーザ光中に残存する波長の長い第2のレーザ光によるレーザ照射領域周辺部への熱的影響を排除してレーザ加工を行うことができる。さらに、最短波長の第1のレーザ光により、波長の長い第2のレーザ光よりも焦点深度を浅くすることができ、レーザ照射領域周辺部の積算熱エネルギーを小さくすることができる。したがって、カラーフィルタの剥離加工を安定して行なうことができる。一方、ブラックマトリクスの切削加工は、第2のスリットを通過した第1及び第2のレーザ光のうち、熱エネルギーの大きい第2のレーザ光により行うことができる。
【0022】
さらに、請求項6に係る発明によれば、遮光手段を開閉操作するだけで、混合光から2種類の波長のレーザ光を照射目的に応じて取り出すことができる。
【0023】
そして、請求項7に係る発明によれば、液晶表示パネルに照射する第1のレーザ光及び第2のレーザ光の照射面積をそれぞれ広くすることができる。したがって、第1のレーザ光によるカラーフィルタの剥離加工、及び第2のレーザ光によるブラックマトリクスの切削加工を効率よく行なうことができる。これにより、液晶表示パネルの輝点欠陥の修正作業のタクトを短縮して、スループットを上げることができる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】本発明によるレーザ照射装置の実施形態を示す正面図である。
【図2】上記実施形態におけるスリットと遮光手段との配置関係を示す平面透視図である。
【図3】本発明による液晶表示パネルの輝点修正方法を示すフローチャートである。
【図4】上記輝点修正方法において、カラーフィルタを剥離させて隙間を形成する段階を説明する平面図である。
【図5】図4の側面図である。
【図6】上記輝点修正方法において、ブラックマトリクスを削って黒色粉塵を発生させる段階を説明する平面図である。
【図7】上記輝点修正方法において、黒色粉塵を上記隙間に分散させる段階を説明する平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下、本発明の実施形態を添付図面に基づいて詳細に説明する。図1は本発明によるレーザ照射装置の実施形態を示す正面図である。このレーザ照射装置は、波長の異なる複数のレーザ光からその照射目的に応じて波長を選択して照射対象物に照射し得るようにしたもので、レーザ発振器1と、スリット2と、遮光手段3と、対物レンズ4とを備えて構成されている。
【0026】
上記レーザ発振器1は、複数波長のレーザ光を発生するもので、例えば固体YAGレーザやエキシマレーザ等であり、1064nmの基本波からその第4高調波である266nmの第1のレーザ光、及び第3高調波の355nmの第2のレーザ光を生成して、その混合光を出力するようになっている。そして、ビーム径を後述のマスク5に設けられたスリット2の形成領域を十分にカバーし得る程度に拡大するビームエキスパンダを備えている。
【0027】
上記レーザ光Lの光路上には、スリット2が設けられている。このスリット2は、上記第1及び第2のレーザ光の混合光から少なくとも第1のレーザ光を選択的に分離して出力するもので、第1のレーザ光の回折限界に相当する幅を有する細長状の開口であり、透明基板に被着された遮光膜に形成されてマスク5形態を成している。
【0028】
詳細には、上記スリット2は、第1のレーザ光(266nm)の回折限界に相当する幅の第1のスリット2Aと、第2のレーザ光(355nm)の回折限界に相当する幅の第2のスリット2Bとから成り、レーザ光Lの光路上に並べて設けられている。この場合、当然ながら第1のスリット2Aの幅の方が第2のスリット2Bの幅よりも狭い。
【0029】
より詳細には、図2に示すように、上記マスク5上のレーザ光照射領域内にてレーザ光Lの光路中央部に、平行に並べて複数の第1のスリット2Aが形成され、該複数の第1のスリット2Aに平行に並べてその両側に複数の第2のスリット2Bが形成されている。これにより、照射対象物Ob上に照射する第1及び第2のレーザ光の照射面積を広くして、レーザ加工の効率向上を図っている。
【0030】
なお、1064nmの基本波が事前に除去される場合には、第2のスリット2Bは、第2のレーザ光(355nm)の回折限界に相当する幅よりも幅広であってもよい。
【0031】
上記マスク5のレーザ光Lの射出側には、遮光手段3が設けられている。この遮光手段3は、マスク5に設けられた第2のスリット2Bを通過するレーザ光Lの通路を開閉するものであり、図2に示すように短冊状の4枚の遮光板6A,6B,6C,6Dを中央部に開口7が形成されるように四角形の枠状に配置し、各遮光板6A〜6Dがそれぞれその短軸方向(同図に示すX軸、Y軸方向)に移動可能になっている。この場合、上記遮光板6A,6Bによって第2のスリット2Bを通過するレーザ光Lの通路が開閉され、遮光板6C,6Dによって照射対象物Ob上に照射されるレーザ光Lの長軸の長さが調整される。なお、図1においては、遮光手段3をマスク5のレーザ光Lの射出側に設けた場合について示しているが、マスク5のレーザ光Lの入射側に設けてもよい。
【0032】
上記レーザ光Lの光路上には、照射対象物Obに対向して対物レンズ4が設けられている。この対物レンズ4は、上記マスク5の第1及び第2のスリット2A,2Bを通過した第1及び第2のレーザ光を照射対象物Ob上に集光するものであり、レボルバ8に取り付けられて、レーザ光Lの照射目的に応じて複数の対物レンズ4から1つを選択して使用できるようになっている。例えば、266nmの第1のレーザ光を使用して基板から薄膜を剥離(リフトオフ)させる目的の場合には、UV20倍又は50倍の対物レンズ4を選択して使用するのがよく、355nmの第2のレーザ光を使用して例えば液晶表示パネルの有機物質から成るブラックマトリクスを削る際には、NUV20倍又は50倍の対物レンズ4を選択して使用するのがよい。このとき、対物レンズ4の結像位置と上記マスク5の位置とは、互いに共役の関係を成している。
【0033】
なお、図1において、符号9は、照射対象物Obを載置するステージであり、後述の背面照明光が通過できるように照射対象物Ob上の観察領域に対応して開口10が形成されている。また、符号11は、照射対象物Ob上のレーザ加工領域を観察したり、レーザ加工状態を観察したりするためのCCDカメラである。さらに、符号12は、照射対象物Obとしての例えば液晶表示パネルを裏面側から照明して輝点欠陥の液晶セルを検出するための背面照明光源である。また、符号13は、例えば液晶表示パネルを表面側から照明して輝点欠陥の液晶セルの修正状態を観察できるようにする落射照明光源である。さらに、符号14は、落射照明光源13の光路に挿入され、例えば上記輝点欠陥の液晶セルにおけるカラーフィルタの剥離状態の観察を容易にする偏光観察手段である。そして、符号15は、CCDカメラ11により照射対象物Ob表面を観察可能にするためにレーザ発振器1の光路上に挿入された、紫外線を透過し可視光を反射するダイクロイックミラーであり、符号16は、落射照明光源13から発した照明光を照射対象物Obに導くためにレーザ発振器1の光路上に挿入された、紫外線を透過し可視光を反射するダイクロイックミラーである。
【0034】
次に、このように構成されたレーザ照射装置の動作及びそれを使用した液晶表示パネルの輝点修正方法について、図3のフローチャートを参照して説明する。ここでは、液晶表示パネルの輝点欠陥の液晶セルが既に検出されている場合について説明する。
先ず、ステップS1においては、レーザ発振器1のパワーが後述の第1のレーザ光(266nm)によって後述の青色カラーフィルタ20Bを剥離し得る程度に設定された状態で、レーザ発振器1によって、1064nmの基本波からその第4高調波である266nmの第1のレーザ光、及び第3高調波の355nmの第2のレーザ光を生成し、それらの混合光を同一の光路上に出力する。さらに、混合光は、ビーム径がビームエキスパンダによってマスク5に設けられたスリット2の形成領域を十分にカバーし得る程度に拡大される。
【0035】
次に、ステップS2においては、レーザ発振器1から出力された混合光は、レーザ光Lの光路中央部に第1のスリット2Aを形成し、該第1のスリット2Aに平行に並べてその両側に第2のスリット2Bを形成したマスク5に照射する。このとき、遮光手段3は、その遮光板6A,6BがX軸に沿って図2に示す矢印A,B方向に移動し、第2のスリット2Bを通過するレーザ光Lの通路を遮断した状態にある。
【0036】
本実施形態においては、第1のスリット2Aは、第1のレーザ光(266nm)の回折限界に相当する幅に形成されているため、マスク5に照射する混合光の中で、第1のレーザ光(266nm)は第1のスリット2Aを透過することができるが、第1のレーザ光よりも波長の長い基本波(1064nm)のレーザ光及び第2のレーザ光(355nm)は第1のスリット2Aを透過することができない。
【0037】
一方、第2のスリット2Bは、第2のレーザ光(355nm)の回折限界に相当する幅に形成されているため、マスク5に照射する混合光の中で、第1のレーザ光(266nm)及び第2のレーザ光(355nm)は第2のスリット2Bを透過することができるが、第2のレーザ光よりも波長の長い基本波(1064nm)のレーザ光は透過することができない。
【0038】
したがって、ステップS2においては、上述したように遮光手段3によって第2のスリット2Bを通過するレーザ光Lの通路が閉じられた状態にあるため、マスク5の各スリット2を透過したレーザ光Lのうち、第2のスリット2Bを透過した第1のレーザ光及び第2のレーザ光は、遮光手段3によって遮断され、図4に示すように第1のスリット2Aを透過した第1のレーザ光Lのみが対物レンズ4を通って照射対象物Obである液晶表示パネル17の輝点欠陥の例えば青(B)に対応した液晶セル18B上に照射する。なお、同図において、符号18Rは赤(R)に対応した液晶セルであり、符号18Gは緑(G)に対応した液晶セルである。
【0039】
この場合、第1のレーザ光Lは、図5に示すように、透明な対向電極基板19を透過した後、輝点欠陥の液晶セルの例えば青色カラーフィルタ20Bと該青色カラーフィルタ20Bが被着された対向電極基板19との界面近傍に集光される。これにより、青色カラーフィルタ20Bの上記界面近傍部が熱分解して青色カラーフィルタ20Bが対向電極基板19から剥がれ、青色カラーフィルタ20Bと対向電極基板19との間に隙間21が形成される。なお、同図において、符号20Rは赤色カラーフィルタであり、符号20Gは緑色カラーフィルタである。
【0040】
さらに、ステージ9を対物レンズ4に対してXY平面に平行な面内を相対移動させて、図4に矢印で示すように、第1のレーザ光Lを輝点欠陥の液晶セル18B内を走査させる。これによって、図5に示すように、上記液晶セル18Bの青色カラーフィルタ20B全体を対向電極基板19から剥離させる。
【0041】
次に、ステップS3においては、レーザ発振器1のパワーを第2のレーザ光Lにより後述のブラックマトリクス22を削ることができる程度まで上げると共に、遮光手段3の遮光板6A,6BをX軸に沿って、図2に示す矢印C,D方向に移動して第2のスリット2Bを通過するレーザ光Lの通路を開き、図6に示すように第2のスリット2Bを透過した第2のレーザ光Lを上記輝点欠陥の液晶セル18B周辺の有機物質から成るブラックマトリクス22上に照射させる。そして、ステージ9を対物レンズ4に対してXY平面に平行な面内を相対移動させながら、ブラックマトリクス22の一部を削って黒色粉塵23を発生させる。この場合、第1及び第2のスリット2A,2Bを通過する第1のレーザ光Lもブラックマトリクス22上に照射するが、第1のレーザ光Lは第2のレーザ光Lに比べて熱エネルギーが小さいため、第1のレーザ光Lはブラックマトリクス22を削ることに寄与しない。
【0042】
続いて、ステップS4においては、レーザ発振器1のパワーを第2のレーザ光Lによってブラックマトリクス22が削られない程度まで下げた状態で、ステージ9を対物レンズ4に対してXY平面に平行な面内を相対移動させて、第1のスリット2Aを透過した第1のレーザ光L及び第2のスリット2Bを透過した第1及び第2のレーザ光L,Lを走査し、図7に示すように上記黒色粉塵23をブラックマトリクス22上から上記液晶セル20B側に移動させて上記隙間21内に略均等に分散させる。これにより、輝点欠陥の液晶セル20Bの光透過率を低下させて、輝点を目立たなくする。
【0043】
なお、上記実施形態においては、第1及び第2のレーザ光L,Lにより黒色粉塵23を移動させる場合について説明したが、本発明はこれに限られず、ステップS4においては、遮光手段3により第2のスリット2Bを通過するレーザ光Lの通路を閉じた状態で、第1のスリット2Aを透過する第1のレーザ光Lのみを使用して黒色粉塵23を移動させてもよい。
【0044】
また、上記実施形態においては、第1及び第2のスリット2A,2Bがそれぞれ複数本のスリット2で形成されている場合について説明したが、本発明はこれに限られず、第1及び第2のスリット2A,2Bは、それぞれ1本であってもよい。
【0045】
さらに、上記実施形態においては、第1のスリット2A及び第2のスリット2Bをレーザ光Lの光路上に並べて形成し、遮光手段3により第2のスリット2Bを通過するレーザ光Lの光路を開閉する場合について説明したが、本発明はこれに限られず、遮光手段3を設けず、十分に離して形成した第1のスリット2Aと第2のスリット2Bとを相互に移動して切り換えるようにしてもよい。
【0046】
また、上記実施形態においては、第1及び第2のスリット2A,2Bがマスク5に形成された開口である場合について説明したが、本発明はこれに限られず、金属板に形成した横断面細長状の貫通孔であってもよい。
【0047】
さらに、上記実施形態においては、第1のスリット2Aの回折限界光を使用して液晶表示パネル17の青色カラーフィルタ20Bを剥離する場合について説明したが、本発明はこれに限られず、半導体基板等の製造プロセスにおける薄膜のリフトオフにも使用することができる。
【0048】
そして、以上の説明においては、本発明のレーザ照射装置を使用して液晶表示パネルの輝点欠陥修正方法について述べたが、本発明はこれに限られず、レーザ照射装置は、波長の異なる複数のレーザ光からその照射目的に応じて波長を選択して照射対象物に照射しようとするものであれば、如何なるものであってもよい。
【符号の説明】
【0049】
1…レーザ発振器
2…スリット
2A…第1のスリット
2B…第2のスリット
3…遮光手段
4…対物レンズ
17…液晶表示パネル
18A,18B,18G…液晶セル
19…対向電極基板(基板)
20A,20B,20G…カラーフィルタ
21…隙間
22…ブラックマトリクス
23…黒色粉塵
Ob…照射対象物
L…レーザ光
…第1のレーザ光
…第2のレーザ光

【特許請求の範囲】
【請求項1】
波長の異なる複数のレーザ光からその照射目的に応じて波長を選択して照射対象物に照射し得るようにしたレーザ照射装置であって、
前記複数波長のレーザ光から成る混合光の光路上に、
前記複数波長のレーザ光のうち、少なくとも最短波長のレーザ光の回折限界に相当する幅のスリットと、
前記スリットを通過したレーザ光を前記照射対象物上に集光する対物レンズと、
を備えたことを特徴とするレーザ照射装置。
【請求項2】
前記スリットは、前記最短波長のレーザ光の回折限界に相当する幅の第1のスリット及びそれよりも幅広の第2のスリットから成り、前記混合光の光路上に並べて形成されており、
少なくとも前記第2のスリットを通過するレーザ光の通路を開閉する遮光手段をさらに設けて、前記照射対象物に照射するレーザ光の波長を選択し得るようにしたことを特徴とする請求項1記載のレーザ照射装置。
【請求項3】
前記第1のスリットは前記混合光の光路中央部に形成され、
前記第2のスリットは、前記第1のスリットに平行に並べてその両側に形成されていることを特徴とする請求項2記載のレーザ照射装置。
【請求項4】
少なくとも前記第1のスリットは、平行に並べて複数形成されていることを特徴とする請求項2又は3記載のレーザ照射装置。
【請求項5】
波長の異なる第1及び第2のレーザ光を用いて液晶セルの輝点欠陥を修正する液晶表示パネルの輝点修正方法であって、
前記第1及び第2のレーザ光の混合光を同一の光路に出力させた状態で、
波長の短い前記第1のレーザ光の回折限界に相当する幅の第1のスリットを選択的に通過した前記第1のレーザ光により、前記輝点欠陥の液晶セルのカラーフィルタを基板から剥離させて両者間に隙間を形成する段階と、
前記第1のスリットよりも幅広の第2のスリットを通過した波長の長い前記第2のレーザ光により、前記輝点欠陥の液晶セル周辺のブラックマトリクスを削って黒色粉塵を発生させる段階と、
前記第1のスリットを通過した前記第1のレーザ光、又は少なくとも前記第2のスリットを通過した前記第1及び第2のレーザ光により、前記黒色粉塵を移動させて前記隙間に分散させる段階と、
を行うことを特徴とする液晶表示パネルの輝点修正方法。
【請求項6】
前記第1及び第2のスリットは、前記混合光の光路上に平行に並べて形成され、
前記第2のスリットを通過するレーザ光の通路を遮光手段により開閉して、前記液晶表示パネルに照射するレーザ光の波長を選択し得るようにしたことを特徴とする請求項5記載の液晶表示パネルの輝点修正方法。
【請求項7】
少なくとも前記第1のスリットは、前記レーザ光の光路中央部に平行に並べて複数本形成され、該複数本の第1のスリットの両側に前記第2のスリットを形成したことを特徴とする請求項6記載の液晶表示パネルの輝点修正方法。

【図3】
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【図1】
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【図2】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2012−187610(P2012−187610A)
【公開日】平成24年10月4日(2012.10.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−53721(P2011−53721)
【出願日】平成23年3月11日(2011.3.11)
【出願人】(500171707)株式会社ブイ・テクノロジー (283)
【Fターム(参考)】