説明

レーザ発振装置

【課題】レーザ光からの散乱光を効率よく吸収してレーザ発振器を有効に保護するレーザ発振装置を提供することにある。
【解決手段】レーザ発振器A201等と、これらのレーザ発振器から照射されるレーザ光を所定の光路に導光する導光部と、レーザ光からの散乱光を吸収する防護壁A601等と、を有する構成とし、特に、防護壁A601等を表面が黒アルマイト処理されたアルミニウムまたはアルミニウム合金で形成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、レーザ発振装置に関し、特に防護壁を備えたレーザ発振装置に関する。
【背景技術】
【0002】
レーザ加工の分野等においては、高出力のレーザ発振装置が使用され種々の加工、例えば、切断、熱処理、溶接等が行なわれている。このような分野で使用されるレーザ発振装置は高出力である必要があり、レーザ発振器側の光学系を保護する構成を備えたレーザ加工機の反射吸収装置がある(例えば、特許文献1)。
【0003】
特許文献1によるレーザ発振装置は、レーザ光の反射光を吸収する反射光吸収筒と中空導波路と加工ヘッドの基本的な要素で構成し、それぞれの要素が光学的に連結されると共に各要素内に反射光の吸収手段が配設されている。この構成によれば、反射光吸収筒には冷却水による冷却通路を設け、反射光は、この反射光吸収筒と、経路中に配設される遮光板や遮光部と、中空導波路とによりその大部分を吸収され、レーザ発振器側の光学系を保護することができるとされている。
【0004】
しかし、特許文献1に示されたレーザ発振装置では、レーザ光のレーザ波長と反射光吸収部材の材質との吸収効率が考慮されていない。また、複数のレーザ発振器を組み合せて複数のレーザ光を合成することによりさらなる高出力のレーザ発振装置を構成する場合には、反射光と共に散乱光が発生し、これらからレーザ発振器を有効に保護する必要がある。
【特許文献1】特開平2−284785号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
従って、本発明の目的は、レーザ光からの散乱光を効率よく吸収してレーザ発振器を有効に保護するレーザ発振装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
[1]本発明は、上記目的を達成するために、レーザ発振器と、前記レーザ発振器から照射されるレーザ光を所定の光路に導光する導光部と、前記レーザ光からの散乱光を吸収する防護壁と、を有することを特徴とするレーザ発振装置を提供する。
【0007】
[2]前記防護壁は、表面が黒アルマイト処理されたアルミニウムまたはアルミニウム合金で形成されていることを特徴とする上記[1]に記載のレーザ発振装置であってもよい。
【0008】
[3]また、前記レーザ発振器は、冷却パスを設けたベース上に載置され、前記防護壁は、前記ベース上に載置されて前記冷却パスに排熱されることを特徴とする上記[1]に記載のレーザ発振装置であってもよい。
【0009】
[4]また、前記レーザ発振器は複数配置され、前記導光部において光学素子により前記レーザ光が合成されることを特徴とする上記[1]に記載のレーザ発振装置であってもよい。
【0010】
[5]また、前記レーザ発振器は、半導体レーザであることを特徴とする上記[1]に記載のレーザ発振装置であってもよい。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、レーザ光からの散乱光を効率よく吸収してレーザ発振器を有効に保護するレーザ発振装置を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
(レーザ発振装置の構成)
図1は、本発明の実施の形態に係るレーザ発振装置の平面図である。図2は、図1におけるD−D断面図である。図3は、発振波長とアルミニウムの吸収率との関係を示す図である。
【0013】
本発明の実施の形態に係るレーザ発振装置1は、ベース100を備え、このベース100上の所定の位置には、レーザ発振器A201、レーザ発振器B202、レーザ発振器C203、ダイクロイックミラーA301、ダイクロイックミラーB302、シリンドリカルレンズ401、コンデンサーレンズ402、ガイド光源403、シャッタ404、防護壁A601、防護壁B602、防護壁C603、等が載置されている。また、ベース100の内部には、冷却水を流すための冷却水水路501が設けられ、ベース100の側面部には、冷却水配管502,503が設けられていると共に、レーザ発振器電源701、および、ガイド光源用電源702が配設されている。
【0014】
レーザ発振装置1で発振したレーザ光は、光ファイバ801でレーザヘッド802まで導光される。この光ファイバ801、レーザヘッド802はレーザ発振装置1と一体に構成されていてもよく、また、光コネクタ等により適宜必要に応じて光学的に接続される構成であってもよい。
【0015】
ベース100は、板状であって、内部に冷却水水路501が設けられている。冷却水水路501は、図1に破線で示すように側面部からドリル等により深孔が形成され、必要な領域に冷却パスが通過するよう配置される。図1に示した冷却水水路501の経路パターン(冷却パス)は一例であり、後述するレーザ発振器の下部や排熱効率を考慮して形成される。冷却水水路501の入出力部として、ベース100の側面部には、冷却水配管502(IN)、冷却水配管(OUT)503が設けられ、所定の流量で冷却水を冷却水水路501中に還流させる。
【0016】
レーザ発振器A201、レーザ発振器B202、レーザ発振器C203は、高出力のスタック型半導体レーザ発振器である。レーザ発振器A201の発振波長は980nm、レーザ発振器B202の発振波長は940nm、レーザ発振器C203の発振波長は808nmである。本発明の実施の形態では、3つの発振波長の異なるレーザ発振器を使用しているが、この構成には限られず任意の個数のレーザ発振器を使用することができ、また、同一波長のレーザ発振器を使用してもビーム合成を工夫することで使用可能である。レーザ発振器A201、レーザ発振器B202、レーザ発振器C203は、いずれも定格出力960Wとしたが、目標出力に応じてそれぞれの発振器の出力を任意に選択可能である。尚、レーザ発振器A201等は半導体レーザであるが、炭酸ガスレーザやYAGレーザでも適用可能である。
【0017】
レーザ発振器A201、レーザ発振器B202、レーザ発振器C203から出射されるレーザ光は、ダイクロイックミラーA301、ダイクロイックミラーB302、シリンドリカルレンズ401、コンデンサーレンズ402等の光学素子により構成される導光部により後述する光ファイバ801に導光される。ダイクロイックミラーは特定の波長の光を反射し、その他の波長の光を透過するもので、ダイクロイックミラーA301は980nmのレーザ光を透過させ940nmのレーザ光を反射する。また、ダイクロイックミラーB302は940nm以上のレーザ光を透過させ808nmのレーザ光を反射する。
【0018】
レーザ発振器A201から出射されたレーザ光は、ダイクロイックミラーA301およびダイクロイックミラーB302を透過する。また、レーザ発振器B202から出射されたレーザ光は、ダイクロイックミラーA301で反射され、この反射されたレーザ光はダイクロイックミラーB302を透過する。また、レーザ発振器C203から出射されたレーザ光は、ダイクロイックミラーB302で反射される。これら3本のレーザ光は、ダイクロイックミラーB302の後で1本に合成されている。合成されたレーザ光は、シリンドリカルレンズ401によりビーム整形されてコンデンサーレンズ402によりコリメートされて光ファイバ801に導光される。尚、図1においてはレーザ光の主光線のみを図示している。
【0019】
光ファイバ801は、レーザ発振装置1から加工対象までレーザ光を導光できる長さに設定され、パワー伝送用のガラス製光ファイバを使用する。また、光ファイバ801からのレーザ光はレーザヘッド802により所定の集光スポット径に集光されて加工対象物に照射される。
【0020】
シリンドリカルレンズ401とコンデンサーレンズ402の間には、ガイド光源403およびシャッタ404が設けられている。レーザ発振器A201等から出射されるレーザ光は可視光ではないので、ガイド光源403は640nmの可視光レーザを使用し、必要に応じて光路中に挿入して加工ポイントの確認等を行なうために使用される。また、光路中に挿入可能なシャッタ404が設けられて、必要に応じてレーザ光を遮光することができる構成とされている。
【0021】
上記のような構成で、レーザ発振器A201、レーザ発振器B202、レーザ発振器C203を発振させると、所定の光路以外の領域に反射光の一部が散乱光として到達する。本発明の実施の形態で使用するレーザ発振器は高出力であるので、上記のような散乱光が光学部品やレーザ発振器に集光されて破損する原因となり、また、レーザ発振器全体の過熱により安全性が低下する。
【0022】
上記のような問題を抑制するため、散乱光が集光される部位に、防護壁が設けられている。本発明の実施の形態では、防護壁A601、防護壁B602、防護壁C603が3箇所に設けられているが、これに限られず、必要な箇所に必要な数だけ防護壁を設けることができる。
【0023】
防護壁A601は、図2に示すように、例えばL字形状に形成されてベース100上の必要部位に載置されて固定される。材質は、熱伝導性に優れるアルミニウム(Al)またはアルミニウム合金が好ましい。ここで、図3は、発振波長とアルミニウムの光吸収率との関係を示すものである。アルミニウムは、近赤外の半導体レーザの波長付近で吸収率のピークを示し、YAGレーザやCOレーザに比較して吸収効率に優れる。防護壁B602、防護壁C603も同様にアルミニウムまたはアルミニウム合金で形成されている。
【0024】
また、防護壁(A601、B602、C603)は、レーザ光の吸収性を向上させるために表面をアルマイト処理して黒塗りし、黒アルマイト層601aが形成される。アルマイト処理は、硫酸・蓚酸等を電解液として電気分解し、アルミニウムの表面にAlの皮膜を生成させ、この皮膜の表面に無機、有機の染料(黒色)を吸着させることにより行なわれる。
【0025】
また、防護壁(A601、B602、C603)は、ベース100上に載置されるが、特に、冷却水水路501上に載置されるのが好ましい。図2に示したように、防護壁A601の黒アルマイト層601aで散乱光を吸収し、この散乱光による熱が防護壁A601内を伝熱して、ベース100に排熱される。さらに、ベース100中の冷却水水路501を流れる冷却水504に排熱されることにより排熱効率が向上する。
【0026】
本発明の実施の形態によれば、以下の効果を有する。
(1)本発明の実施の形態に係るレーザ発振装置1は、レーザ発振器から出射されたレーザ光の一部が散乱光となって集光される部位に防護壁を設けている。このため、光学部品やレーザ発振器の破損、レーザ発振器全体の過熱等を抑制して、安全性を向上させることができる。
(2)防護壁は、アルミニウム(Al)またはその合金材で形成されているので熱伝導性に優れ、また、アルミニウムは本発明の実施の形態で使用する近赤外の半導体レーザの波長付近で吸収率のピークを示すので、光および熱の吸収効率に優れる。
(3)防護壁は、表面が黒アルマイト処理されているので、レーザ光の吸収性を向上させることができる。
(4)防護壁は、冷却水水路501上に載置されているので、ベース100中の冷却水水路501を流れる冷却水504に排熱されることにより排熱効率が向上する。
(5)本発明の実施の形態に係るレーザ発振装置は、特に高出力とするために光学素子によりレーザ光を合成する構成であり、光学素子での透過・反射時にレーザ光の一部が散乱光となりやすい。しかし、散乱光となって集光される部位に防護壁を設ける構成としているので、高出力のレーザ発振装置に特に有利である。
(6)防護壁をアルミニウム(Al)またはその合金材で形成し、表面を黒アルマイト処理しているので、熱の吸収効率および熱伝導性に優れ、防護壁自体を冷却水で冷却する必要がなく、ベース100上に冷却水を持ち込む必要がない。
(7)防護壁の熱吸収効率および熱伝導性が優れているので、防護壁を小さくでき、また、ベース100上に冷却配管を必要とせず、レーザ発振装置の小型化に繋がる。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【図1】図1は、本発明の実施の形態に係るレーザ発振装置の平面図である。
【図2】図2は、図1におけるD−D断面図である。
【図3】図3は、発振波長とアルミニウムの吸収率との関係を示す図である。
【符号の説明】
【0028】
1…レーザ発振装置、100…ベース、201…レーザ発振器A、202…レーザ発振器B、203…レーザ発振器C、301…ダイクロイックミラーA、302…ダイクロイックミラーB、401…シリンドリカルレンズ、402…コンデンサーレンズ、403…ガイド光源、404…シャッタ、501…冷却水水路、502,503…冷却水配管、504…冷却水、601…防護壁A、601a…黒アルマイト層、602…防護壁B、701…レーザ発振器電源、702…ガイド光源用電源、801…光ファイバ、802…レーザヘッド

【特許請求の範囲】
【請求項1】
レーザ発振器と、
前記レーザ発振器から照射されるレーザ光を所定の光路に導光する導光部と、
前記レーザ光からの散乱光を吸収する防護壁と、
を有することを特徴とするレーザ発振装置。
【請求項2】
前記防護壁は、表面が黒アルマイト処理されたアルミニウムまたはアルミニウム合金で形成されていることを特徴とする請求項1に記載のレーザ発振装置。
【請求項3】
前記レーザ発振器は、冷却パスを設けたベース上に載置され、前記防護壁は、前記ベース上に載置されて前記冷却パスに排熱されることを特徴とする請求項1に記載のレーザ発振装置。
【請求項4】
前記レーザ発振器は複数配置され、前記導光部において光学素子により前記レーザ光が合成されることを特徴とする請求項1に記載のレーザ発振装置。
【請求項5】
前記レーザ発振器は、半導体レーザであることを特徴とする請求項1に記載のレーザ発振装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2009−295690(P2009−295690A)
【公開日】平成21年12月17日(2009.12.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−146148(P2008−146148)
【出願日】平成20年6月3日(2008.6.3)
【出願人】(000001247)株式会社ジェイテクト (7,053)
【Fターム(参考)】