説明

レーザ装置

【課題】 励起ユニットと増幅ユニットとを有し、励起ユニットの交換後に励起光を増幅ユニットに連結する場合に生じる光軸調整を容易に行うことができ、小型・軽量化にも寄与することを可能とするレーザ装置を提供する。
【解決手段】 光共振器で生成された励起光の出射角度を調整する光軸調整手段を収納する励起ユニットと、励起ユニットに連結され、光軸調整手段で光軸調整された励起光を通過させるジョイントと、ジョイントを通過した励起光とレーザ種光源で生成された励起光とは異なる波長の種光とを結合させる光結合手段と、光結合手段で結合した光パルスを受光する折返しミラーと、折返しミラーからの光パルスを増幅する増幅器と、光結合手段で透過した一部の励起光の伝播光スポットを撮像する第1のカメラと、折返しミラーで透過した励起光の伝播光スポットを撮像する第2のカメラとを備えるようにした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、励起光発生部と増幅部とを各々ユニット化して交換するレーザ装置に係わり、特に交換の際に必要な光軸調整を容易にするものである。
【背景技術】
【0002】
レーザ増幅器を有するレーザ装置としては、励起レーザ光の出力を増大させるために増幅器を使用するものの他、増幅器に非線形光学結晶を用い、SHG(第二高調波)やOPA(光パラメトリック増幅)といった非線形光学効果を利用した波長変換を伴う光増幅を行うものなどがある。用途としては、溶接や切断などのレーザ加工用、大気中の風速分布を測定するライダー用などがある。
【0003】
例えば特開平10ー268369号公報図1(特許文献1参照)には、所定の持続時間で励起光パルスを生成する励起源100と、信号光パルスを生成する信号源130と、両光パルスを結合して結合光パルスを生成する光学的結合手段160と、結合光パルスを受光し励起光パルスのエネルギーで信号光パルスを増幅する準位相整合(QPM)結晶をもつパラメトリック増幅器170、波長板105及び、合焦点光学装置106などで構成した光パルス増幅器が開示されている。
【0004】
また、特開2000−349380号公報段落13(特許文献2参照)には、開閉制御装置が、各色素レーザ増幅器から出射される色素レーザビームの光軸調整時に、光軸調整中の色素レーザ増幅器よりも前段の色素レーザ増幅器に対しては遮閉手段を開いて励起用レーザビームを入射し、かつ光軸調整中の色素レーザ増幅器を含む後段の色素レーザ増幅器の遮閉手段を閉じるように制御する色素レーザ装置が開示されている。
【0005】
また、特開平11−68218号公報図1(参考文献3参照)には、発振光軸のずれを自動的に防ぐため、全反射平面鏡を傾斜可能に保持する全反射鏡保持装置21と、レーザ発振器の出射側でレーザビームLBの形状を維持した状態でレーザビームLBの一部を発振光軸からそらすビームスプリッタ41と、発振光軸からそらされたレーザビームSBを検出するレーザ光検出器51と、検出ビームに基づいて発振光軸位置を求め、発振光軸をあらかじめ設定した許容範囲内に位置させる制御信号を求め、制御信号を前記全反射鏡保持装置21に出力する制御装置61とを備えたレーザ装置が開示されている。
【0006】
【特許文献1】特開平10−268369号公報(第1図)
【0007】
【特許文献2】特開2000−349380号公報(段落13)
【0008】
【特許文献3】特開平11−68218号公報(第1図)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかし、特許文献1に記載のものでは、パラメトリック増幅器170によってパラメトリック・チャープパルス増幅が行われるので高エネルギーの超短光パルスが出力されるものの励起光パルス、信号光パルス、結合光パルスなどの光路や光路に介在する光学的結合手段160などの光軸ずれに対する発振光軸のずれの補正については言及されていない。
【0010】
また、特許文献2に記載のものでは、光軸調整は、色素レーザ発信器3と色素レーザ増幅器4との間のミラー等の光学系を調整して、光軸が流路8aの所定の箇所に入射されているかどうかを肉眼で観察する作業があり、複雑な人為的作業を必要とする課題があった。
【0011】
また、特許文献3に記載のものでは、制御用コンピュータを用いて発振光軸のずれを自動的に防ぐことが可能であるものの、全反射保持装置には、全反射平面鏡14、傾斜ステージ23、サーボモータ28及び精密傾斜ねじ25が必要であり、構造が複雑になるという課題があった。
【0012】
ところで、レーザ装置は長期間使用するうちに、光学素子の寿命劣化や、設置環境での温湿度変化や振動等により光軸調整状態が最適な状態からずれることなどによって、励起レーザ光の出力がしだいに低下する。そのため、増幅光の出力も低下して、レーザ装置としての所定の出力が得られなくなくなり、励起レーザ光源をメンテナンスする必要がでてくる。
【0013】
レーザ装置内部の光学系においては、肉眼では目視できない数μm〜数十μm程度の非常に小さい浮遊異物であっても、レーザ媒質やミラーなどの光学エレメントの表面に付着すると、焼付きを起こしてレーザ出力が低下し、場合によっては光学エレメント表面が破壊するという不具合が発生する。
【0014】
このため、レーザ共振器などの光学系の組立調整は、クリーンルームあるいはクリーンベンチ内の環境で行うのが一般的である。一方、レーザ加工用途では雰囲気中に油分や金属紛が混じる工場内の製造ラインに設置されたり、風速分布測定用途では雨風の影響を受け易い建物の屋上に設置されるため、メンテナンスを設置場所で実施することが困難な場合が多い。また、レーザ装置に対しては加工能力の向上や観測距離の延長といった性能向上の要求に応えるべくますます高出力化される傾向にあり、装置自体も大きく重たいものとなっている。
【0015】
また、メンテナンス性を向上させる目的で、光学系を複数のユニットに分割した構成にしたレーザ装置の場合は、メンテナンスが必要なユニットのみを取外して交換できるので、重量面での作業性は改善するが、交換後にユニット間を光学的に結合させるための光軸調整作業を設置場所で行う必要がある。
【0016】
この発明は、上述のような課題を解決するためになされたものであり、励起ユニットと増幅ユニットとを有し、励起ユニットの交換後に励起光を増幅ユニットに連結する場合に生じる光軸調整を容易に行うことができ、小型・軽量化にも寄与することを可能とするレーザ装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0017】
請求項1に係る発明のレーザ装置は、内部に光共振器で生成された励起光の出射角度を調整する光軸調整手段を収納する密閉空間を有する励起ユニットと、この励起ユニットに連結され、前記光軸調整手段で光軸調整された励起光を通過させる光連結手段と、この光連結手段を通過した励起光とレーザ種光源で生成された励起光とは異なる光学波長の信号種光とを結合させ、結合した光パルスとする光結合手段と、この光結合手段で結合した光パルスを受光する折返しミラーと、この折返しミラーからの光パルスを入射面で受光し、光パルスを増幅する増幅器と、前記光結合手段で透過した一部の励起光の伝播光スポットを撮像する第1の撮像手段と、前記折返しミラーで透過した一部の励起光の伝播位置の伝播光スポットを撮像する第2の撮像手段と、少なくとも前記光結合手段、前記折返しミラー、前記増幅器、前記第1の撮像手段及び前記第2の撮像手段とを収納する増幅ユニットとを備え、前記光軸調整手段を前記励起ユニットの外側から操作することにより前記増幅器の入射面を基準として、前記第1の撮像手段の伝播光スポットと前記第2の撮像手段の伝播光スポットとから励起光の光軸調整を行うものである。
【0018】
請求項2に係る発明のレーザ装置は、前記第1の撮像手段と第2の撮像手段の少なくとも一方はCCD型もしくはCMOS型の2次元イメージセンサを搭載していることを特徴とする請求項1に記載のものである。
【0019】
請求項3に係る発明のレーザ装置は、前記増幅器は、光パラメトリック増幅をする非線形光学材料からなることを特徴とする請求項1に記載のものである。
【0020】
請求項4に係る発明のレーザ装置は、前記折返しミラーから反射された励起光の前記増幅器の入射面までの距離と前記折返しミラーで透過した励起光の前記第2の撮像手段との距離が略等しい光学距離であることを特徴とする請求項1に記載のものである。
【0021】
請求項5に係る発明のレーザ装置は、前記光結合手段を透過した励起光の前記第1の撮像手段までの距離は短く、前記光結合手段で反射された励起光の前記第2の撮像手段との距離は長く設定され、その差分距離は100mm以上であることを特徴とする請求項1に記載のものである。
【0022】
請求項6に係る発明のレーザ装置は、前記光軸調整手段は、励起光の出射角度を上下方向及び左右方向に傾ける第1のミラーと、前記第1のミラーで反射された励起光の出射角度を上下方向及び左右方向に傾ける第2のミラーとを有していることを特徴とする請求項1に記載のものである。
【発明の効果】
【0023】
請求項1に係るレーザ装置によれば、連結された光連結手段で励起ユニットと増幅ユニットとを分離できる構成としたので、励起源の交換時においてはレーザ装置の光共振器が収納されている励起ユニットのみを交換すれば良く、大型装置の運搬に係る作業を必要最小限とすることが可能であり、励起源の光軸調整時においても元の設置場所で増幅ユニットに光連結手段を接続して励起ユニットに収納された光軸調整手段で調整するので作業効率の大幅な改善ができるという利点がある。
【0024】
また、光軸調整においてレーザビームの位置や角度を計測するための特殊なレーザビーム測定器が不要であるのでこれらの計測器を保有する必要がなくなり、これらの計測器をレーザ装置の周辺に配置するためのスペースも不要となり、レーザ装置の設置に必要な空間を小さくすることができるという効果もある。
【0025】
請求項2に係るレーザ装置によれば、撮像手段に、デジタルカメラや、カメラ付携帯電話、カメラ付パソコン、カメラ付PDA等で多量に普及しているCCD型あるいはCMOS型のエリアイメージセンサを使用するので、小型で安価な撮像手段を得ることができる。
【0026】
請求項3に係るレーザ装置によれば、増幅器に光パラメトリック増幅を行う非線形光学材料を使用するので励起エネルギーが非線形光学材料に蓄積されず効率の良いレーザ装置を得ることが可能である。
【0027】
請求項4に係るレーザ装置によれば、撮像手段を、光パラメトリック増幅をするための非線形光学材料の光入射面位置と略同一光学距離に配置したので、光軸調整のターゲットである非線形光学材料の光入射面上での光スポットの位置をダイレクトに測定することができ、光軸の位置調整をイメージセンサの数μmの画素ピッチに相当する精度で実施することができる。
【0028】
請求項5に係るレーザ装置によれば、第1の撮像手段と前記第2の撮像手段との間の光学距離を、励起光の伝播距離の差に換算して100mm以上離したので、光軸の角度調整を数百μrad以下の精度で実施することができる。
【0029】
請求項6に係るレーザ装置によれば、光軸調整手段を励起光の出射角度を上下方向および左右方向に傾けることができる第1のミラーと、第1のミラーで反射された励起光の出射角度を上下方向および左右方向に傾けることができる第2のミラーで構成したので、簡単な構成でもって増幅ユニットに入射する励起光の位置と角度の両方を調整することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0030】
実施の形態1.
以下、この発明の実施の形態1に係るレーザ装置について図を用いて説明する。図1は実施の形態1に係るレーザ装置の模式構成図である。図1において、1は内部に光共振器で生成された励起光の出射角度を調整する光軸調整機能を収納する密閉空間を有する励起ユニット、2は励起光を生成し放射する励起源(YAGレーザ共振器)、3は励起源2から出射された励起光のビーム伝播サイズを整えるためのビーム整形装置であり、2枚のレンズで構成される。
【0031】
4はミラーであり、4aは励起光の出射角度を調整するための第1のミラー、4bは第1のミラー4aで反射された励起光を所定の方向に反射させる第2のミラー、5は上下方向及び左右方向にミラー4を傾けることができるキネマティックマウントであり、ミラー4を固定すると共に第1のミラー及び第2のミラーと連動して励起光の出射角度を調整する。また、キネマティックマウント5は、励起ユニット1の光学系を収容する気密空間の外側に可動精度が10μm未満のマイクロメータつまみを有しており、気密空間を開放することなく角度調整が可能なようになっている。
【0032】
なお、ミラー4とキネマティックマウント5を合わせて光軸調整手段と呼ぶ。6は励起ユニット1の外側へ励起光を導く折返しミラー、7は励起ユニット1に開口部を設け、折り返しミラー6で反射した励起光を外部へ伝播させる出射口である。
【0033】
8は内部にレーザ種光源で生成された励起光とは異なる光学波長の信号種光を励起光と結合させ、増幅機能などを収容する増幅ユニット、9は増幅ユニット8に開口部を設け、励起ユニット1の折返しミラー6から入射する励起光を内部へ伝播させる入射口である。10は光軸調整された励起光を通過させる取外し可能なジョイントなどで構成した光連結手段であり、ジョイントは励起ユニット1の出射口7及び増幅ユニット入射口9と連結され、例えばゴム製ジョイントなどによって隙間を無くすとともに外部への光の漏れを遮断する。
【0034】
11は信号増幅する光学波長1.5μmのレーザパルス光を発生させるレーザ種光源であり、エルビウムを添加した光ファイバーレーザで構成されている。12はレーザ種光源11から出射された種光のビーム伝播サイズを整えるビーム整形装置であり、2枚のレンズで構成される。13は励起光の光軸と種光の光軸とを一致させるビーム結合ミラー(光結合手段)であり、ガラス基板に所定の誘電体多層膜を施すことで、励起光の波長を反射させるとともに種光の波長を透過させるようにするものである。
【0035】
14は光結合手段で結合した励起光および種光である光パルスを受光する折返しミラー、15は光パラメトリック増幅をするための非線形光学結晶体で構成され、MgO添加周期的分極反転ニオブ酸リチウム(PPLN)からなる増幅器である。15aは増幅器15の入射光学面、16は増幅器15で増幅された増幅光のビーム伝播サイズを整えるためのビーム整形装置であり、2枚のレンズで構成される。17は増幅器15で増幅された増幅光を次段光学システムに伝播させる出射口である。
【0036】
励起ユニット1と増幅ユニット8とは架台上に設置され、光連結手段10で励起光を増幅ユニット側に入射させることにより光学的に結合されたレーザ装置となる。
【0037】
18はビーム結合ミラー13を透過する微弱な励起光を撮像して、ビームスポットの位置を計測するための第1の小型ボードカメラ(第1の撮像手段)であり、第1の撮像手段18は可視光領域から波長1μm超までの感度領域を持つCCD型の汎用エリアイメージセンサ又はCMOS型イメージセンサを搭載している。19は折返しミラー14を透過する微弱な励起光を撮像して、ビームスポットの位置を計測するための第2の小型ボードカメラ(第2の撮像手段)であり、第1の撮像手段18と同様、可視光領域から赤外光までの感度領域を持つCCD型の汎用エリアイメージセンサ又はCMOS型イメージセンサを搭載している。なお、図1ではレーザ電源、冷却機、パルス制御装置などのレーザ発振に必要な装置や部材を省略している。図中、同一符号は同一又は相当部分を示す。
【0038】
次に動作について説明する。励起源1は、LD(半導体レーザ)励起の固体YAGレーザ共振器で構成され、例えば、波長1μm、パルス幅が300〜400nsec、パルスエネルギーが2〜3mJ、ビーム直径が0.5〜1mm程度のシングルモード光パルスを励起光として発振する。励起光はモードロックQスイッチ発振により、単一縦モードの短パルス光である。励起源1から出射した励起光は、ビーム整形装置3によって増幅器15の入射光学面15a上で直径0.3〜0.5mm程度のビームサイズになるよう調整されている。ビーム整形装置3を透過した励起光は、上下方向および左右方向に角度調整ができるキネマティックマウント5に固定された第1のミラー4aおよび第2のミラー4bを通過した後、折返しミラー6で反射され、出射口7を通過して、ジョイント10を介して励起ユニット1から増幅ユニット8の入射口9に入射する。
【0039】
入射口9を通過して増幅ユニット8に入射した励起光は、ビーム結合ミラー13で反射される。ビーム結合ミラー13はガラス基板上に波長1μmの光が全反射するように誘電体多層膜が施されているが、入射する励起光の1〜0.1%程度は透過して、後段に配置した第1の小型ボードカメラ18で受光される。
【0040】
第1の小型ボードカメラ18は、携帯電話やPDAなどに内蔵され多量に普及している安価なカメラで、小型のガラスエポキシ基板上に可視光領域から1μm超まで感度領域を持つCCD型エリアイメージセンサ又はCMOS型イメージセンサを実装したものである。第1の小型ボードカメラ18の前には、入射する励起光の強度を低減するための減衰フィルターが設けてあり、撮像するビームスポットが飽和しないよう調整されている。また第1の小型ボードカメラ18は、入射する励起光の光軸に対して垂直な面内で上下左右に設置調整をすることで、撮像する励起光スポットの中心が画像の中心に一致するよう、レーザ装置本体の生産又は出荷時点にあらかじめ調整される。
【0041】
ビーム結合ミラー13で反射された励起光は、折返しミラー14で反射され、増幅器15に入射する。折返しミラー14においても入射する励起光の1〜0.1%程度が透過して、後段に配置した第2の小型ボードカメラ19で受光される。第2の小型ボードカメラ19は第1の小型ボードカメラ18と同様のものであり、入射する励起光の強度は減衰フィルターで調整されている。また、入射する励起光の光軸に対して垂直な面内で上下左右に設置位置調整をすることで、撮像する励起光スポットの中心が画像の中心に一致するよう、レーザ装置本体の生産又は出荷時点にあらかじめ調整される。
【0042】
CCD型又はCMOS型のイメージセンサの撮像領域は例えば3〜5mm角程度あり、直径1mm程度以下の励起光スポットが例えば1mm程度の範囲で位置ずれを生じていた場合でも十分に測定可能である。また、イメージセンサの画素ピッチは例えば2〜5μm程度なので分解能は大きく、10μm未満の精度で位置ずれを観測することができる。なお、第1の小型ボードカメラ18及び第2の小型ボードカメラ19で撮像した励起光のビームスポット画像は、ビデオ信号として電気的に取り出し、増幅ユニット15の側面に設けた各々のビデオ出力端子に導かれている。励起ユニット1の交換に伴う光軸調整においては、レーザ装置とは別に持参した画像表示用モニターとビデオ信号ケーブルを用い、ビデオ出力端子から出力される励起光のビームスポット画像をモニターに表示させて、その位置を確認する。
【0043】
一方、増幅ユニット8に収納されたレーザ種光源11からは、例えば、波長1.5μm、パルス幅が500〜600nsec、パルスエネルギーが10〜20μJ、ビーム直径が0.5〜1mm程度のシングルモード光パルスが発振される。レーザ種光源11から出射した種光は、ビーム整形装置12によって増幅器15の入射光学面15a上で直径0.3〜0.5mm程度のビームサイズになるよう調整されている。
【0044】
ビーム整形装置12を透過した種光は、ビーム結合ミラー13を透過した後、折返しミラー14で反射され、増幅器15に入射する。ビーム結合ミラー13は波長1μmの光に対しては全反射する一方、波長1.5μmの光は無反射で透過する誘電体多層膜が施されているので、励起光の光軸と種光の光軸とを結合することができる。なお折返しミラー14は、波長1μmの光と波長1.5μmの光の両方を全反射させるコーティングが施されているので、励起光と種光の両方を反射させることができる。
【0045】
増幅器15は、波長変換効率が最大になる温度に制御された非線形光学結晶のPPLN(MgO添加周期的分極反転ニオブ酸リチウム)であり、波長1.5μmの種光に波長1μmの励起光を重畳して入射させることで、波長1μm光のエネルギーの一部を波長1.5μm光に変換する光パラメトリック増幅を可能にする。増幅器15により例えば0.2〜0.5mJ程度の光パルスに増幅された増幅光は、ビーム整形装置16によって本レーザ装置と光学的に結合される次の光学システムに必要なビームサイズに調整される。
【0046】
なお、増幅器15から出射するレーザ光には、波長1.5μmの増幅光の他に、光パラメトリック増幅で余分に発生する波長3.1μmのアイドラ光や、波長変換に寄与しなかった波長1μmの励起光の残り、励起光よりも波長の短い高調波などの光も発生するので、必要に応じて、波長1.5μm光だけを取出せるバンドパスフィルターや波長選択コートを施したミラー等を増幅器15の後段に配置することで、これら不要光を取り除くことが可能である。
【0047】
本レーザ装置と光学的に結合される光学システムとしては、例えば大気中の風速分布観測用ライダー装置の場合、ビーム径を数十cmに拡大するためのビームエキスパンダーや、増幅光を送信光として上空に向けて照射スキャンするための大型のミラースキャナーといったものが挙げられる。ライダー装置は、上空に向けて照射した送信光が大気中の風に含まれるエアロゾルと呼ばれる微粒子に当り、ドップラー効果を受けて反射される光を受信光として観測することで風速を観測する装置である。
【0048】
このようなレーザ装置を長期間使用した場合、励起源1に使用されているLDの寿命による出力低下や、設置環境における継続的な振動や温湿度変化による固体YAGレーザ共振器のアライメントずれの発生等により励起光の出力が低下する。従って増幅光の出力低下により所定の出力が得られなくなる場合が発生し、励起源1をメンテナンスする必要がある。
【0049】
図1に示すレーザ装置の励起源2のメンテナンスは、励起ユニット1のみを取外して、メンテナンス済みの励起ユニットに交換する場合、新たに設置する励起ユニットから出射する励起光の光軸は、あらかじめ励起ユニット1単体で所定の位置と角度を合わせる調整をしておいた場合でも、交換前の励起光の光軸に対してずれを生ずる場合がある。このため増幅器15の入射光学面15a上の中心に垂直に励起光を入射させるため励起ユニット交換後に光軸調整をする必要がある。励起光の光軸ずれは位置ずれにして1mm以下程度、角度ずれにして1mrad以下程度発生する。
【0050】
一方、波長変換効率に悪影響を与えない入射光学面15a上への入射条件の許容範囲は、例えば位置ずれが50μm以下、角度ずれが200μrad以下と小さい。なお入射光学面15a上でのビームサイズについては、あらかじめ励起ユニット1単体で所定の伝播サイズに調整されており、かつ数mm程度のずれは問題にならないため調整する必要はない。
【0051】
次に励起光の光軸調整について説明する。励起光の光軸調整を行うには、その位置と角度とを測定する必要がある。
【0052】
図2はこの発明の実施の形態1のレーザ装置の構成と対比して、増幅ユニットの光学系にビーム切換機構を有する場合のレーザ装置の模式構成図である。図2において、20はビーム切換機構であり、20aはビーム切換ミラー、20b(矢印で表記)はリニア可動ステージを備えた位置切換機構であり、ビーム切換ミラー20aは位置切替機構20bに固定されているものとする。20cは折返しミラー、21は励起光取出し口、22はレーザ装置の外側に設置した計測用ミラー、23はレーザ装置の外側に設置したパワーメータ、24は計測用ミラー22の後方に配置したビームの位置と角度を計測するビーム計測器である。図中、図1と同一符号は同一又は相当部分を示す。
【0053】
次に増幅ユニット内の光路にビーム切換機構20を設けて、励起光を増幅ユニットの外に取出して測定する構成の動作について説明する。図2において、ビーム切換ミラー20aは通常は励起光の光軸から外れたAの位置にあるが、光軸調整を行う際には励起光の光軸内にミラー面がくるBの位置に外部からレバーを操作することで移動する。Bの位置に移動したビーム切換ミラー20aで反射した励起光は、折返しミラー20cで再び反射され、励起光を透過するウインドがはめ込まれた励起光取出し口21へと導かれる。ビーム切換ミラー20aは、励起光の波長と種光の波長の両方を反射するようにコーティングが施されている。
【0054】
励起光取出し口21を透過してレーザ装置の外に出射した励起光は、レーザ装置の外側に設置した計測用ミラー22により反射されてパワーメータ23に入射する。計測用ミラー22は励起光の波長を反射して、種光の波長を透過させるコーティングが施されている。励起光の1〜0.1%程度は計測用ミラー22を透過するので、計測用ミラー22の後方に配置したビーム計測器24によってビームの位置と角度を計測する。ここで位置と角度を合わせる基準は、励起ユニットの交換に影響しない種光の光軸であり、励起光の光軸が種光の光軸に一致するよう光軸調整する。
【0055】
従って、図2に示すビーム切換機構を有するレーザ装置の光軸調整では、増幅ユニット内にビーム切換機構20を設けなければならず、増幅ユニットの金属筐体が大きくなるとともに重量の増加も伴う。
【0056】
また、特殊なビーム計測器やレーザパワーメータが必要であるとともに、レーザ装置の周辺にこれらを配置するスペースを確保する必要があるという欠点も生じる。
【0057】
対して図1に示すように、この発明の実施の形態1に係るレーザ装置では、第1の小型ボードカメラ18と第2の小型ボードカメラ19を増幅ユニット8内に常時組込んでおく構成にしており、これら2台のカメラで撮像した2つの励起光スポット画像を液晶モニター上で観察するだけで位置と角度とを確認することができる。
【0058】
図3は、この発明の実施の形態1に係るレーザ装置の増幅ユニット8内の撮像手段の配置を説明する図である。図3において、L1は第1の小型ボードカメラ18とビーム結合ミラー13との間の励起光伝播距離、L2はビーム結合ミラー13と、第2の小型ボードカメラ19との間の励起光伝播距離、d1は折返しミラー14と増幅器15の入射光学面15aとの間の励起光伝播距離、d2は第2の小型ボードカメラ19と折返しミラー14との間の励起光伝播距離であり、d1=d2になるように設置されている。
【0059】
図4は、この発明の実施の形態1に係るレーザ装置の撮像手段で測定する光スポットを説明する図であり、図4(a)は第1のカメラのモニター画像を示し、図4(b)は第2のカメラのモニター画像を示す。図4(b)に示すように第2の小型ボードカメラ19の画像における励起光スポットのずれδ2は、入射光学面15a上での位置ずれに等しくなる。
【0060】
また、入射光学面15aに入射する励起光の角度ずれは、図4(a)に示すように第1の小型ボードカメラ18の画像における励起光スポットのずれをδ1とすると、(δ2−δ1)/(L2−L1)ラジアンとなる。
【0061】
従って、励起ユニット1内の光軸調整手段を用いてモニター上の励起光スポットを移動させ、ずれδ1およびδ2を許容範囲以下にする作業で励起ユニット交換後の光軸調整を容易に実施することができる。
【0062】
なお、(L2−L1)は100mm以上になるように小型ボードカメラが配置されるので、10μm未満の精度で励起光スポットの位置調整をすることにより、ずれδ1およびずれδ2をそれぞれ10μm以下にすることができ角度ずれを200μrad以下にすることができる。
【0063】
図5は、光軸調整時の調整方法を説明する図である。図5において、励起光スポットの位置調整をして、ずれδ1及びずれδ2を小さくすることは、励起ユニット交換直後の励起光軸Fを、レーザ装置出荷時などに行われた励起光軸Eに近づけて一致させ調整することに相当する。
【0064】
まず、励起光軸Fのように第2のミラー4bの角度を調整して励起光軸Eとほぼ平行になるように励起光の角度調整をするが、これは(L2−L1)が100mmの場合に、角度ずれ許容範囲200μrad以下になるδ1とδ2のずれ量の差20μm以下程度にすることに相当する。次に、第1のミラー4aおよび第2のミラー4bの角度を破線で示す角度にそれぞれ調整することで、励起光軸Fを励起光軸Eに近づけ、許容範囲内の励起光軸Gにもっていくことができる。これはδ2のずれ量を位置ずれ許容範囲50μm以下にすることに相当する。
【0065】
以上から実施の形態1に係るレーザ装置によれば、レーザ装置の重量が重くても励起ユニット1のみを交換することでメンテナンスを行うことが可能なので交換作業の時間が短縮でき、労力と搬出コストを低減することができる効果がある。
【0066】
また、増幅ユニット8内にビーム切換機構などが不要となり、レーザ装置を小型軽量化できるという効果がある。
【0067】
また、励起光スポットの測定に、カメラ付携帯電話などの汎用のCCD型などのエリアイメージセンサを搭載したボードカメラを使用するので、小型で安価な撮像手段を得ることができる。
【0068】
また、カメラ撮像位置を、非線形光学材料の入射光学面15aと略同じ光学距離に配置したので、入射光学面15a上での励起光スポット位置のずれを直接的に観察できるとともに、イメージセンサの画素ピッチは2〜5μm程度と小さく10μm未満の精度で測定することができ精度よく調整することができる。
【0069】
また、2台のボードカメラを励起光の伝播距離の差に換算して100mm以上離れて配置したので、励起光軸の角度ずれを数百μrad以下の高い精度で測定することができる。
【0070】
また、光軸調整手段を角度調整機構のついた2枚のミラーのみで構成したので、簡単な構成で励起光の位置と角度との両方を調整することができる。さらに2台のカメラ画像の中心からずれた励起スポットを画像中心に合わせるだけで調整ができるという効果もある。
【図面の簡単な説明】
【0071】
【図1】この発明の実施の形態1に係るレーザ装置の模式構成図である。
【図2】この発明の実施の形態1のレーザ装置の構成と対比して、増幅ユニット内の光学系にビーム切換機構を有する場合のレーザ装置の模式構成図である。
【図3】この発明の実施の形態1に係るレーザ装置の増幅ユニット内の撮像手段の配置を説明する図である。
【図4】この発明の実施の形態1に係るレーザ装置の撮像手段で測定する光スポットを説明する図である。
【図5】この発明の実施の形態1に係るレーザ装置の光軸調整時の調整方法を説明する図である。
【符号の説明】
【0072】
1・・励起ユニット 2・・励起源(光共振器) 3・・ビーム整形装置 4・・ミラー
4a・・第1のミラー 4b・・第2のミラー 5・・キネマティックマウント
6・・折返しミラー 7・・出射口 8・・増幅ユニット 9・・入射口
10・・光連結手段(ジョイント) 11・・レーザ種光源(信号種光源)
12・・ビーム整形装置 13・・光結合手段(ビーム結合ミラー)
14・・折返しミラー 15・・増幅器 15a・・入射光学面
16・・ビーム整形装置 17・・出射口
18・・第1の撮像手段(第1の小型ボードカメラ)
19・・第2の撮像手段(第2の小型ボードカメラ)
20・・ビーム切替機構 20a・・ビーム切換ミラー 20b・・位置切換機構
20c・・折返しミラー 21・・励起光取出し口 22・・計測用ミラー
23・・パワーメータ 24・・ビーム計測器

【特許請求の範囲】
【請求項1】
内部に光共振器で生成された励起光の出射角度を調整する光軸調整手段を収納する密閉空間を有する励起ユニットと、この励起ユニットに連結され、前記光軸調整手段で光軸調整された励起光を通過させる光連結手段と、この光連結手段を通過した励起光とレーザ種光源で生成された励起光とは異なる光学波長の信号種光とを結合させ、結合した光パルスとする光結合手段と、この光結合手段で結合した光パルスを受光する折返しミラーと、この折返しミラーからの光パルスを入射面で受光し、光パルスを増幅する増幅器と、前記光結合手段で透過した一部の励起光の伝播光スポットを撮像する第1の撮像手段と、前記折返しミラーで透過した一部の励起光の伝播位置の伝播光スポットを撮像する第2の撮像手段と、少なくとも前記光結合手段、前記折返しミラー、前記増幅器、前記第1の撮像手段及び前記第2の撮像手段とを収納する増幅ユニットとを備え、前記光軸調整手段を前記励起ユニットの外側から操作することにより前記増幅器の入射面を基準として、前記第1の撮像手段の伝播光スポットと前記第2の撮像手段の伝播光スポットとから励起光の光軸調整を行うレーザ装置。
【請求項2】
前記第1の撮像手段と第2の撮像手段の少なくとも一方はCCD型もしくはCMOS型の2次元イメージセンサを搭載していることを特徴とする請求項1に記載のレーザ装置。
【請求項3】
前記増幅器は、光パラメトリック増幅をする非線形光学材料からなることを特徴とする請求項1に記載のレーザ装置。
【請求項4】
前記折返しミラーから反射された励起光の前記増幅器の入射面までの距離と前記折返しミラーで透過した励起光の前記第2の撮像手段との距離が略等しい光学距離であることを特徴とする請求項1に記載のレーザ装置。
【請求項5】
前記光結合手段を透過した励起光の前記第1の撮像手段までの距離は短く、前記光結合手段で反射された励起光の前記第2の撮像手段との距離は長く設定され、その差分距離は100mm以上であることを特徴とする請求項1に記載のレーザ装置。
【請求項6】
前記光軸調整手段は、励起光の出射角度を上下方向及び左右方向に傾ける第1のミラーと、前記第1のミラーで反射された励起光の出射角度を上下方向及び左右方向に傾ける第2のミラーとを有していることを特徴とする請求項1に記載のレーザ装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2009−158683(P2009−158683A)
【公開日】平成21年7月16日(2009.7.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−334138(P2007−334138)
【出願日】平成19年12月26日(2007.12.26)
【出願人】(000006013)三菱電機株式会社 (33,312)
【Fターム(参考)】