レーザ走査光学装置及び画像形成装置
【課題】複数のシリンドリカルレンズを光軸方向に精度よく調整することができ、ビーム径の崩れを極力抑えて副走査方向のビームピッチを補正することのできるレーザ走査光学装置を得る。
【解決手段】複数の発光点を有する光源と、該光源から出射されたビームを平行光にする光学素子と、該光学素子から出射されたビームをポリゴンミラーの偏光面上に主走査方向Yに線状に集光させる第1及び第2シリンドリカルレンズ5,6と、レンズ5,6を保持する保持部材51と、保持部材51を光軸方向Xに摺動及び光軸周りに回動可能にかつ摺動位置及び回動位置を固定可能に支持する基台と、を備えたレーザ走査光学装置。保持部材51は、レンズ5,6の光軸に対して垂直な方向の取付け面がそれぞれ当接する同一平面として形成された基準面51bを有し、第1レンズ5を基準面51b上で位置固定するとともに、第2レンズ6を基準面51b上で光軸方向Xに摺動可能かつ位置固定可能に保持している。
【解決手段】複数の発光点を有する光源と、該光源から出射されたビームを平行光にする光学素子と、該光学素子から出射されたビームをポリゴンミラーの偏光面上に主走査方向Yに線状に集光させる第1及び第2シリンドリカルレンズ5,6と、レンズ5,6を保持する保持部材51と、保持部材51を光軸方向Xに摺動及び光軸周りに回動可能にかつ摺動位置及び回動位置を固定可能に支持する基台と、を備えたレーザ走査光学装置。保持部材51は、レンズ5,6の光軸に対して垂直な方向の取付け面がそれぞれ当接する同一平面として形成された基準面51bを有し、第1レンズ5を基準面51b上で位置固定するとともに、第2レンズ6を基準面51b上で光軸方向Xに摺動可能かつ位置固定可能に保持している。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、レーザ走査光学装置及び画像形成装置、特に、複写機やプリンタなどの電子写真法による画像形成装置に搭載されるレーザ走査光学装置及び該レーザ走査光学装置を搭載した画像形成装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、この種のレーザ走査光学装置の分野においては、画像形成の高速化、高階調化に対応するために、副走査方向に異なる位置で発光する複数の発光源(半導体レーザ)から出力されたレーザビームで感光体を走査露光するものが種々開発されている。画素密度は400dpi、600dpi、1200dpiと年々高密度化し、それに伴ってビームピッチ間隔も高精度を要求されている。
【0003】
副走査方向のビームピッチは、光学系を構成するレンズの形状誤差、半導体レーザの発光点位置誤差、及び、半導体レーザの取付け精度によってばらつきが発生することは不可避である。従来から、このような副走査方向のビームピッチの補正方法は種々提案されている。
【0004】
例えば、特許文献1には発光点を回転調整してビームピッチを補正する方法が、特許文献2には光源部に配置したシリンドリカルレンズを回転調整してビームピッチを補正する方法が記載されている。また、特許文献3,4には複数のシリンドリカルレンズの間隔を調整することでビームピッチを補正することが記載されている。また、特許文献5には複数のシリンドリカルレンズの間隔を調整することでビームピッチを補正するに際して、複数のシリンドリカルレンズがそれぞれ独立したキャリッジによって保持され、共通のスライド軸にキャリッジを移動可能に保持することが記載されている。
【0005】
しかしながら、発光点を回転調整する対策では、レンズの光軸に対して発光点の回転中心を同軸上で回転調整する必要から、調整機構が複雑になるという問題点を有しさらに、調整量が非常に微小であり、調整が困難であった。光源部に配置したシリンドリカルレンズを回転調整する対策では、シリンドリカルレンズを回転させることで本来副走査方向にパワーを与えるべきところで主走査方向にも若干のパワーが付与されることになり、ビーム径が大きくなって画像に悪影響を与えるという問題点を有していた。また、複数のシリンドリカルレンズの間隔を調整することはビームピッチの補正に効果的ではあるが、複数のシリンドリカルレンズを光軸に対して垂直な方向の位置精度を保ってかつ光軸周りに回転させることなく、光軸方向に精度よく調整可能とすることに関しては、未解決であった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開昭54−158251号公報
【特許文献2】特開平9−33834号公報
【特許文献3】特開平8−76039号公報
【特許文献4】特開平10−246860号公報
【特許文献5】特開2001−51218号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
そこで、本発明の目的は、光源部に配置した複数のシリンドリカルレンズを光軸方向に精度よく調整することができ、ビーム径の太りや変形を極力抑えて副走査方向のビームピッチを補正することのできるレーザ走査光学装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
以上の目的を達成するため、本発明の一形態であるレーザ走査光学装置は、
複数の発光点を有する光源と、
前記光源から出射された拡散ビームを略平行光にする光学素子と、
前記光学素子から出射されたビームを偏向器の偏光面上に主走査方向に線状に集光させる複数のシリンドリカルレンズと、
前記複数のシリンドリカルレンズを保持する保持部材と、
前記保持部材を光軸方向に摺動及び光軸周りに回動可能にかつ摺動位置及び回動位置を固定可能に支持する基台と、
を備え、
前記保持部材は、前記複数のシリンドリカルレンズの光軸に対して垂直な方向の取付け面がそれぞれ当接する同一平面として形成された基準面を有し、前記複数のシリンドリカルレンズのうち少なくとも一つのシリンドリカルレンズを前記基準面上で位置固定するとともに、他のシリンドリカルレンズを前記基準面上で光軸方向に摺動可能かつ位置固定可能に保持すること、
を特徴とする。
【0009】
前記レーザ走査光学装置においては、複数のシリンドリカルレンズを単一の保持部材に同一平面として形成された基準面上に取り付けて光軸に対して垂直な方向(副走査方向)に位置決めしている。そして、少なくとも一つのシリンドリカルレンズを基準面上で光軸方向に摺動させることで複数のシリンドリカルレンズの間隔を調整し、副走査方向のビームピッチを補正する。複数のシリンドリカルレンズはビームピッチの調整時に回動することはないので、ビーム径が増大することはない。また、保持部材は基台に対して光軸周りに回動可能であるため、複数のシリンドリカルレンズを一体的に光軸周りに調整可能であり、複数のシリンドリカルレンズや走査レンズの光軸回りの取付け誤差を補正し、ビーム形状の変形を抑制することが可能である。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、光源部に配置した複数のシリンドリカルレンズを光軸方向に精度よく調整することができ、ビーム径の太りや変形を極力抑えて副走査方向のビームピッチを補正することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】本発明に係るレーザ走査光学装置を搭載した画像形成装置の一例を示す概略構成図である。
【図2】前記レーザ走査光学装置を示す概略平面図である。
【図3】シリンドリカルレンズの保持構造を示す斜視図である。
【図4】前記保持構造の分解斜視図である。
【図5】前記保持構造の要部を光軸方向から見た立面図である。
【図6】前記保持構造の断面図である。
【図7】前記保持構造における調整例(第1例)を示す斜視図である。
【図8】前記保持構造における調整例(第2例)を示す斜視図である。
【図9】第2シリンドリカルレンズと支持部材との組立て工程を示し、(A)は斜視図、(B)は立面図である。
【図10】第2シリンドリカルレンズと支持部材との組立て工程の他の例を示す斜視図である。
【図11】図10に示したように組み立てたユニットを保持部材上に搭載した状態を示す斜視図である。
【図12】シリンドリカルレンズの回転角度とビームウエスト径との関係を示すグラフである。
【図13】シリンドリカルレンズの副走査方向Zの変位とビームウエスト径との関係を示すグラフである。
【図14】シリンドリカルレンズの間隔とビームピッチとの関係を示すグラフである。
【図15】光源部の回転量とビームピッチとの関係を示すグラフである。
【図16】光源での発光点の傾きを示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明に係るレーザ走査光学装置の実施例について、添付図面を参照して説明する。なお、各図において同じ部材、部分を示す符号は共通して用いている。
【0013】
(画像形成装置の概略構成)
まず、本発明に係る光ビーム走査光学装置が搭載される画像形成装置について、その概略構成を図1を参照して説明する。この画像形成装置は、電子写真方式によるカラープリンタであって、いわゆるタンデム方式で4色(Y:イエロー、M:マゼンタ、C:シアン、K:ブラック)の画像を形成するように構成したものである。画像は、各画像形成ステーション101で形成され、中間転写ベルト112上で合成される。なお、図1において、参照数字に付されているY,M,C,Kの文字はそれぞれイエロー、マゼンタ、シアン、ブラック用の部材であることを意味している。
【0014】
各画像形成ステーション101の概略を説明すると、感光体ドラム102、レーザ走査光学装置100、現像器104などを含む。各レーザ走査光学装置100から放射されたレーザビームBY,BM,BC,BKが各感光体ドラム102を照射し、各色の画像を形成する。一方、画像形成ステーション101の直下には中間転写ベルト112がローラ113,114,115にて無端状に張り渡され、矢印A方向に回転駆動され、駆動ローラ113を設置した部分であって中間転写ベルト112に対向する部分(2次転写部)には2次転写ローラ116が配置されている。また、画像形成装置の下段には、積載されている用紙を1枚ずつ給紙する自動給紙部130が設置されている。
【0015】
レーザ走査光学装置100は画像データに基づいて変調駆動され、それぞれの感光体ドラム102上にトナー画像を形成する。このような電子写真プロセスは周知であり、その説明は省略する。
【0016】
各感光体ドラム102上に形成されたトナー画像は、矢印A方向に回転駆動される中間転写ベルト112上に1次転写チャージャ103から付与される電界にて順次1次転写され、4色の画像が合成される。一方、用紙は1枚ずつ給紙部130から上方に給紙され、2次転写部で転写ローラ116から付与される電界にて中間転写ベルト112から合成画像が2次転写される。その後、用紙は図示しない定着装置に搬送されてトナーの加熱定着が施され、画像形成装置の上面部に排出される。
【0017】
(レーザ走査光学装置)
次に、レーザ走査光学装置100について説明する。図2に示すように、それぞれのレーザ走査光学装置100は、光源部と、ポリゴンミラー7を含む走査部とで構成され、各部材はハウジング12に組み付けられている。光源部は、半導体レーザ1と、コリメータレンズ2と、アパーチャ3と、第1及び第2シリンドリカルレンズ5,6とで構成されている。走査部は、走査レンズ8a,8b,8cと、防塵ガラス13と、主走査同期信号を出力するための同期信号検出センサ11と、該センサ11へレーザビームを導く二つのミラー10とで構成されている。ポリゴンミラー7は所定の速度で回転駆動される。
【0018】
半導体レーザ1は、SDH構造からなるマルチ半導体レーザであり、図16に示すように、主走査方向Y及び副走査方向Zに異なる位置で発光する四つの発光源a〜dを有するもので、各発光源a〜dから放射されたレーザビームは、コリメータレンズ2によって略平行光とされ、アパーチャ3によってビーム形状を整形された後、第1及び第2シリンドリカルレンズ5,6によって副走査方向Zに直線状に集光され、ポリゴンミラー7に導かれる。これらのレーザビームはポリゴンミラー7の各反射面にて等角速度で主走査方向Yに偏向/走査され、走査レンズ8a,8b,8cを透過し、感光体ドラム102上で結像する。このY方向の主走査と感光体ドラム102の回転による副走査とで感光体ドラム102上に2次元の静電潜像が形成されていく。
【0019】
走査レンズ8a,8b,8cはポリゴンミラー7で等角速度に偏向/走査されたレーザビームを主走査方向Yに等速度に補正するfθ特性、及び、レーザビームを感光体ドラム102上で結像させる結像特性を有している。
【0020】
(シリンドリカルレンズの保持構造)
第1及び第2シリンドリカルレンズ5,6の保持構造は、図3〜図5に示すように、レーザ走査光学装置100のハウジング12に形成されたV溝12aに円筒状の保持部材51の外周面51aが光軸方向Xに摺動可能にかつ光軸周りに回動可能に保持されている。この保持部材51は、後述するシリンドリカルレンズ5,6の調整後に、UV硬化樹脂などによってハウジング12のV溝12aに固定される。
【0021】
保持部材51は、シリンドリカルレンズ5,6を設置するための同一平面として形成された基準面51bを有している。一方、シリンドリカルレンズ5,6は、その底面を基準面として制作されており、該底面を基準面51bに載置した状態で保持部材51上に位置固定されている。即ち、シリンドリカルレンズ5,6の底面は該レンズ5,6の光軸に対して垂直な方向の取付け面として機能している。
【0022】
本実施例においては、シリンドリカルレンズ5,6の間隔を調整することで副走査方向Zの合成焦点距離を変更することが可能である。半導体レーザ1や各種光学素子の個体的なばらつきや配置誤差などによって、設計値どおりに各素子を配置したとしても感光体ドラム102上での副走査方向Zのビームピッチが所望の範囲に収まらない場合は、シリンドリカルレンズ5,6の間隔を調整してレンズ5,6の合成焦点距離を変更して感光体ドラム102上での副走査方向Zのビームピッチを補正する。
【0023】
本実施例では、保持部材51の同一平面をなす基準面51bにシリンドリカルレンズ5,6を搭載し、第1シリンドリカルレンズ5は基準面51b上に樹脂固定しておいて第2シリンドリカルレンズ6を光軸方向Xに基準面51b上で摺動させることにより、光軸周りの回転及び副走査方向Zのシフトを抑制しながらレンズ5,6の間隔を調整することが可能である。第2シリンドリカルレンズ6は調整後に基準面51b上に樹脂固定される。その結果、感光体ドラム102上でのビーム径の増大や崩れを抑制したビームピッチの補正が可能となった。なお、ビームの崩れについては後述する。
【0024】
第2シリンドリカルレンズ6は、支持部材61の一面61a(図6参照)にレンズ6の一面を当接させて樹脂で固定されている。支持部材61の底面とレンズ6の底面とは同一の平面に位置合わせされており(以下に、図9及び図10を参照して説明する)、支持部材61の底面は保持部材51の前記基準面51b上に載置されている。第1シリンドリカルレンズ5を基準面51b上に接着固定した状態で第2シリンドリカルレンズ6を光軸方向Xへ調整した後、保持部材51を光軸方向X及び光軸周りに回動させ、即ち、レンズ5,6や以下に説明する各部材を含めて保持部材51ごと光軸方向X及び光軸回りの調整を行い、副走査方向Zのピント(焦点位置)とビームの形状崩れを補正する。
【0025】
なお、シリンドリカルレンズ5,6の副走査方向Zの取付け誤差によって発生するビームの崩れ方向とシリンドリカルレンズ5,6の光軸周りの回動によって発生するビームの崩れ方向とが異なるため、互いに補完することはできない。従って、光軸に垂直な方向(副走査方向Z)と光軸周りに関するレンズ5,6の取付け姿勢の調整は、それぞれの方向で位置精度を確保し、レンズ5,6どうしの相対位置精度を保持しておく必要がある。
【0026】
図5に示すように、保持部材51には門型をなす押圧補助部材52がねじ止めされている。ハウジング12に基部を固定した板ばね53により該押圧補助部材52を副走査方向Zに弾性的に付勢することにより、保持部材51はハウジング12のV溝12aに圧接されている。保持部材51の光軸方向Xの摺動や光軸回りの回動は押圧補助部材52のつまみ部52a(図3参照)を把持することによって容易に行われる。
【0027】
図5に示すように、支持部材61の下部突出部61bは保持部材51の凹部に極めて僅かな隙間を設けて挿入されている。従って支持部材61は保持部材51に対して光軸方向Xには摺動可能であり、光軸回りへの回動は僅かな隙間分だけに規制されている。即ち、支持部材61はこの僅かな隙間分では光軸周りに回動し、それに伴って第2シリンドリカルレンズ6も回動する。しかし、このような第2シリンドリカルレンズ6の僅かな回動はビーム崩れに対する誤差感度は小さく、実用上問題にはならない。
【0028】
図6にレンズ保持構造の断面を示す。第2シリンドリカルレンズ6を接着固定した支持部材61は、押圧補助部材52に基部をねじ止めされた板ばね64によって保持部材51の基準面51bに押圧されている。一方、支持部材61の下部に光軸方向Xに形成した穴61cには調整軸62が貫通している。調整軸62の先端部は保持部材51の穴51cに回転可能に嵌合され、後端部は保持部材51のねじ部51dに螺着されている。
【0029】
また、調整軸62には圧縮コイルばね65が巻装されており、該ばね65は支持部材61を光軸方向Xのビーム進行方向に弾性的に付勢している。支持部材61は下端の角部が調整軸62の段差部(位置決め面)62aに当接して光軸方向Xに位置決めされている。この位置決め面62aは、圧縮コイルばね65による付勢方向とは同一軸上に設定されているとともに、支持部材61の底面を副走査方向Zに位置決めしている基準面51bの近傍に位置している。支持部材61は圧縮コイルばね65によるばね荷重F2により光軸方向Xと直交する軸を支点とする回転モーメントを受けるが、位置決め面62aと基準面51bとが近接していることで、支持部材61が光軸方向Xに摺動する際のがたつきやスティックスリップを極力抑制することができる。
【0030】
支持部材61(第2シリンドリカルレンズ6)の光軸方向Xへの摺動は、図7に示すように、調整軸62の先端面の穴62bにL型の冶具63aを嵌合させて調整軸62を回転させることにより行われる。また、図8に示すように、調整冶具63bを使用してもよい。
【0031】
ところで、支持部材61を保持部材51に押圧する板ばね64は、光軸に対して基準面51bとは反対側から弾性的に押圧している。図5に示すように、板ばね64が圧接する支持部材61の外周面は断面円形状とされており、支持部材61が調整によって光軸方向Xに摺動しても圧接箇所が不用意に変化することを防止している。なお、各種光学素子の部品精度や取付け精度によるばらつきを補正するためにレンズ5,6の間隔を調整する調整幅は、±5mm程度であり、支持部材61の断面円形状部分は光軸方向Xの長さが10mm程度であればよい。
【0032】
また、圧縮コイルばね65のばね荷重F2と、板ばね64のばね荷重F1と、支持部材61と保持部材51との間の動摩擦係数μとの間には、F2>μ×F1の関係にあることが好ましい。
【0033】
ここで、支持部材61への第2シリンドリカルレンズ6の組立方法を図9を参照して説明する。組立て台66には、前記保持部材51の基準面51bと同様の基準平面66bが形成されている。支持部材61の底面と第2シリンドリカルレンズ6の底面を基準平面66bに当接させて接着固定する。支持部材61の押圧荷重をF1’、支持部材61と基準平面66bとの間の静摩擦係数をμ1、第2シリンドリカルレンズ6の光軸に垂直な方向の押圧荷重をf1、第2シリンドリカルレンズ6の光軸に平行な押圧荷重をf2,f3、第2シリンドリカルレンズ6と基準平面66bとの間の静摩擦係数をμ2とすると、以下の式を満足するようにそれぞれの値を設定する。
【0034】
μ1×F1’>(f2+f3−μ2×f1)
(f2+f3)>μ2×f1
【0035】
第2シリンドリカルレンズ6を支持部材61の一面61aに確実に押圧した状態でUV硬化樹脂などによってレンズ6を支持部材61に接着固定する。これにて、レンズ6の底面と支持部材61の底面が同一平面を保って一体化されることになる。
【0036】
図10は他の組立て方法を示す。即ち、第2シリンドリカルレンズ6の幅寸法が小さくてその底面が前記保持部材51の基準面51bに当接しない場合における、該レンズ6と支持部材61とを一体化する場合である。この場合、組立て台66には広い面積の基準平面66bが形成されており、該基準平面66b上に支持部材61の底面と第2シリンドリカルレンズ6の底面を当接させて接着固定する。これにても、レンズ6の底面と支持部材61の底面が同一平面を保って一体化されることになる。
【0037】
図11は、図10に示した方法で組み立てられた支持部材61とレンズ6とを保持部材51の基準面51b上に搭載した状態を示している。レンズ6の底面は、幅寸法が小さいので基準面51bに当接していないが、基準面51b上に当接している支持部材61の底面とは同一平面をなすように組み立てられているので、副走査方向Zに関する取付け位置精度としては、レンズ6の底面が基準面51b上に当接しているのと同等とみなすことができる。
【0038】
(像面におけるビームの形状)
図12は、シリンドリカルレンズ5,6の光軸周りの回転誤差と像面(感光体ドラム102)上でのビームウエスト径の関係を示している。レンズ5,6の回転量の増加に伴ってビーム形状の崩れが発生し、ビームウエスト径が増大する。ビームの崩れは、画質の劣化に関わる問題であり、可能な限り抑制することが望ましい。図12はビームウエスト径が60μmの場合を示しており、画質劣化を考慮した許容値としては65μm以下に抑えることが望ましい。
【0039】
図13は、シリンドリカルレンズ5,6の副走査方向Zの変位とビームウエスト径の関係を示している。レンズ5,6の副走査方向Zの変位に伴ってビーム形状の崩れが発生し、ビームウエスト径が増大する。図12及び図13に示すビームの崩れは、それぞれ独立してビーム形状に影響を与え、また、その他の光学素子の取付けばらつきによっても同様にビームの崩れが発生する。特に、ビーム崩れに感度の高いレンズ5,6の取付け許容値は、回転で2分以下、副走査方向Zで0.05mm以下が目標となる。本実施例では、第1及び第2シリンドリカルレンズ5,6の取付け基準面を同一平面を形成する基準面51bとしていることから、これほどの厳しい精度も容易に達成することが可能である。
【0040】
図14は、シリンドリカルレンズ5,6の間隔を変化させて合成焦点距離を変えた場合の像面(感光体ドラム102)上での二つのビーム間隔の変化を示している。レンズ間隔を0.13mm変化させると、ビームピッチは1μm変化する。調整軸62のねじ部のピッチを0.5mmとすれば、調整軸62を0.13/0.5=0.26回転(93.6度)させると、ビームピッチは1μm変化することになる。
【0041】
図15は、光源(半導体レーザ1)を光軸周りに回転させた場合の回転角度と像面(感光体ドラム102)上での二つのビーム間隔の変化を示している。この場合、半導体レーザ1の取付け角度を0.12度回転させると、ビームピッチは1μm変化することになる。
【0042】
図14及び図15を比較すると、同様なビームピッチの変化を与えるための回転角度としては、レンズ5,6の間隔調整であれば93.6度であるのに対して、半導体レーザ1の角度調整であれば0.12度という極端に小さい回転角度で調整を行わなければならない。角度感度で約800倍であり、光源部での回転調整は極めて困難である。
【0043】
図16は、半導体レーザ1の取付け角度を示している。図16(A)に示すように、四つの発光点a〜dのピッチPが小さい場合、発光点a〜dを結ぶ直線の角度θは垂直に近づく。図16(B)に示すように、四つの発光点a〜dのピッチPが広くなると、発光点a〜dを結ぶ直線の角度θは水平に近づく。それぞれの場合に同じ回転誤差が生じたとしても、水平に近づくほど副走査方向Zのピッチ誤差(P×sinθ)は大きくなる。
【0044】
(他の実施例)
なお、本発明に係るレーザ走査光学装置は前記実施例に限定するものではなく、その要旨の範囲内で種々に変更できる。
【0045】
特に、複数の発光点は一つの半導体レーザに形成されている必要はなく、単独の発光素子を集合させて光源としてもよい。また、光源に含まれる発光点の数は4に限定されることはない。さらに、第1及び第2シリンドリカルレンズを保持する構造の細部は任意であり、3以上のシリンドリカルレンズを含んでいてもよい。
【産業上の利用可能性】
【0046】
以上のように、本発明は、レーザ走査光学装置に有用であり、特に、ビーム径の太りや変形を生じることなく副走査方向のビームピッチを補正できる点で優れている。
【符号の説明】
【0047】
100…レーザ走査光学装置
1…半導体レーザ
7…ポリゴンミラー
12…ハウジング(基台)
12a…V溝
51…保持部材
51a…外周面
51b…基準面
61…支持部材
102…感光体ドラム
X…光軸方向
Y…主走査方向
Z…副走査方向
【技術分野】
【0001】
本発明は、レーザ走査光学装置及び画像形成装置、特に、複写機やプリンタなどの電子写真法による画像形成装置に搭載されるレーザ走査光学装置及び該レーザ走査光学装置を搭載した画像形成装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、この種のレーザ走査光学装置の分野においては、画像形成の高速化、高階調化に対応するために、副走査方向に異なる位置で発光する複数の発光源(半導体レーザ)から出力されたレーザビームで感光体を走査露光するものが種々開発されている。画素密度は400dpi、600dpi、1200dpiと年々高密度化し、それに伴ってビームピッチ間隔も高精度を要求されている。
【0003】
副走査方向のビームピッチは、光学系を構成するレンズの形状誤差、半導体レーザの発光点位置誤差、及び、半導体レーザの取付け精度によってばらつきが発生することは不可避である。従来から、このような副走査方向のビームピッチの補正方法は種々提案されている。
【0004】
例えば、特許文献1には発光点を回転調整してビームピッチを補正する方法が、特許文献2には光源部に配置したシリンドリカルレンズを回転調整してビームピッチを補正する方法が記載されている。また、特許文献3,4には複数のシリンドリカルレンズの間隔を調整することでビームピッチを補正することが記載されている。また、特許文献5には複数のシリンドリカルレンズの間隔を調整することでビームピッチを補正するに際して、複数のシリンドリカルレンズがそれぞれ独立したキャリッジによって保持され、共通のスライド軸にキャリッジを移動可能に保持することが記載されている。
【0005】
しかしながら、発光点を回転調整する対策では、レンズの光軸に対して発光点の回転中心を同軸上で回転調整する必要から、調整機構が複雑になるという問題点を有しさらに、調整量が非常に微小であり、調整が困難であった。光源部に配置したシリンドリカルレンズを回転調整する対策では、シリンドリカルレンズを回転させることで本来副走査方向にパワーを与えるべきところで主走査方向にも若干のパワーが付与されることになり、ビーム径が大きくなって画像に悪影響を与えるという問題点を有していた。また、複数のシリンドリカルレンズの間隔を調整することはビームピッチの補正に効果的ではあるが、複数のシリンドリカルレンズを光軸に対して垂直な方向の位置精度を保ってかつ光軸周りに回転させることなく、光軸方向に精度よく調整可能とすることに関しては、未解決であった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開昭54−158251号公報
【特許文献2】特開平9−33834号公報
【特許文献3】特開平8−76039号公報
【特許文献4】特開平10−246860号公報
【特許文献5】特開2001−51218号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
そこで、本発明の目的は、光源部に配置した複数のシリンドリカルレンズを光軸方向に精度よく調整することができ、ビーム径の太りや変形を極力抑えて副走査方向のビームピッチを補正することのできるレーザ走査光学装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
以上の目的を達成するため、本発明の一形態であるレーザ走査光学装置は、
複数の発光点を有する光源と、
前記光源から出射された拡散ビームを略平行光にする光学素子と、
前記光学素子から出射されたビームを偏向器の偏光面上に主走査方向に線状に集光させる複数のシリンドリカルレンズと、
前記複数のシリンドリカルレンズを保持する保持部材と、
前記保持部材を光軸方向に摺動及び光軸周りに回動可能にかつ摺動位置及び回動位置を固定可能に支持する基台と、
を備え、
前記保持部材は、前記複数のシリンドリカルレンズの光軸に対して垂直な方向の取付け面がそれぞれ当接する同一平面として形成された基準面を有し、前記複数のシリンドリカルレンズのうち少なくとも一つのシリンドリカルレンズを前記基準面上で位置固定するとともに、他のシリンドリカルレンズを前記基準面上で光軸方向に摺動可能かつ位置固定可能に保持すること、
を特徴とする。
【0009】
前記レーザ走査光学装置においては、複数のシリンドリカルレンズを単一の保持部材に同一平面として形成された基準面上に取り付けて光軸に対して垂直な方向(副走査方向)に位置決めしている。そして、少なくとも一つのシリンドリカルレンズを基準面上で光軸方向に摺動させることで複数のシリンドリカルレンズの間隔を調整し、副走査方向のビームピッチを補正する。複数のシリンドリカルレンズはビームピッチの調整時に回動することはないので、ビーム径が増大することはない。また、保持部材は基台に対して光軸周りに回動可能であるため、複数のシリンドリカルレンズを一体的に光軸周りに調整可能であり、複数のシリンドリカルレンズや走査レンズの光軸回りの取付け誤差を補正し、ビーム形状の変形を抑制することが可能である。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、光源部に配置した複数のシリンドリカルレンズを光軸方向に精度よく調整することができ、ビーム径の太りや変形を極力抑えて副走査方向のビームピッチを補正することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】本発明に係るレーザ走査光学装置を搭載した画像形成装置の一例を示す概略構成図である。
【図2】前記レーザ走査光学装置を示す概略平面図である。
【図3】シリンドリカルレンズの保持構造を示す斜視図である。
【図4】前記保持構造の分解斜視図である。
【図5】前記保持構造の要部を光軸方向から見た立面図である。
【図6】前記保持構造の断面図である。
【図7】前記保持構造における調整例(第1例)を示す斜視図である。
【図8】前記保持構造における調整例(第2例)を示す斜視図である。
【図9】第2シリンドリカルレンズと支持部材との組立て工程を示し、(A)は斜視図、(B)は立面図である。
【図10】第2シリンドリカルレンズと支持部材との組立て工程の他の例を示す斜視図である。
【図11】図10に示したように組み立てたユニットを保持部材上に搭載した状態を示す斜視図である。
【図12】シリンドリカルレンズの回転角度とビームウエスト径との関係を示すグラフである。
【図13】シリンドリカルレンズの副走査方向Zの変位とビームウエスト径との関係を示すグラフである。
【図14】シリンドリカルレンズの間隔とビームピッチとの関係を示すグラフである。
【図15】光源部の回転量とビームピッチとの関係を示すグラフである。
【図16】光源での発光点の傾きを示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明に係るレーザ走査光学装置の実施例について、添付図面を参照して説明する。なお、各図において同じ部材、部分を示す符号は共通して用いている。
【0013】
(画像形成装置の概略構成)
まず、本発明に係る光ビーム走査光学装置が搭載される画像形成装置について、その概略構成を図1を参照して説明する。この画像形成装置は、電子写真方式によるカラープリンタであって、いわゆるタンデム方式で4色(Y:イエロー、M:マゼンタ、C:シアン、K:ブラック)の画像を形成するように構成したものである。画像は、各画像形成ステーション101で形成され、中間転写ベルト112上で合成される。なお、図1において、参照数字に付されているY,M,C,Kの文字はそれぞれイエロー、マゼンタ、シアン、ブラック用の部材であることを意味している。
【0014】
各画像形成ステーション101の概略を説明すると、感光体ドラム102、レーザ走査光学装置100、現像器104などを含む。各レーザ走査光学装置100から放射されたレーザビームBY,BM,BC,BKが各感光体ドラム102を照射し、各色の画像を形成する。一方、画像形成ステーション101の直下には中間転写ベルト112がローラ113,114,115にて無端状に張り渡され、矢印A方向に回転駆動され、駆動ローラ113を設置した部分であって中間転写ベルト112に対向する部分(2次転写部)には2次転写ローラ116が配置されている。また、画像形成装置の下段には、積載されている用紙を1枚ずつ給紙する自動給紙部130が設置されている。
【0015】
レーザ走査光学装置100は画像データに基づいて変調駆動され、それぞれの感光体ドラム102上にトナー画像を形成する。このような電子写真プロセスは周知であり、その説明は省略する。
【0016】
各感光体ドラム102上に形成されたトナー画像は、矢印A方向に回転駆動される中間転写ベルト112上に1次転写チャージャ103から付与される電界にて順次1次転写され、4色の画像が合成される。一方、用紙は1枚ずつ給紙部130から上方に給紙され、2次転写部で転写ローラ116から付与される電界にて中間転写ベルト112から合成画像が2次転写される。その後、用紙は図示しない定着装置に搬送されてトナーの加熱定着が施され、画像形成装置の上面部に排出される。
【0017】
(レーザ走査光学装置)
次に、レーザ走査光学装置100について説明する。図2に示すように、それぞれのレーザ走査光学装置100は、光源部と、ポリゴンミラー7を含む走査部とで構成され、各部材はハウジング12に組み付けられている。光源部は、半導体レーザ1と、コリメータレンズ2と、アパーチャ3と、第1及び第2シリンドリカルレンズ5,6とで構成されている。走査部は、走査レンズ8a,8b,8cと、防塵ガラス13と、主走査同期信号を出力するための同期信号検出センサ11と、該センサ11へレーザビームを導く二つのミラー10とで構成されている。ポリゴンミラー7は所定の速度で回転駆動される。
【0018】
半導体レーザ1は、SDH構造からなるマルチ半導体レーザであり、図16に示すように、主走査方向Y及び副走査方向Zに異なる位置で発光する四つの発光源a〜dを有するもので、各発光源a〜dから放射されたレーザビームは、コリメータレンズ2によって略平行光とされ、アパーチャ3によってビーム形状を整形された後、第1及び第2シリンドリカルレンズ5,6によって副走査方向Zに直線状に集光され、ポリゴンミラー7に導かれる。これらのレーザビームはポリゴンミラー7の各反射面にて等角速度で主走査方向Yに偏向/走査され、走査レンズ8a,8b,8cを透過し、感光体ドラム102上で結像する。このY方向の主走査と感光体ドラム102の回転による副走査とで感光体ドラム102上に2次元の静電潜像が形成されていく。
【0019】
走査レンズ8a,8b,8cはポリゴンミラー7で等角速度に偏向/走査されたレーザビームを主走査方向Yに等速度に補正するfθ特性、及び、レーザビームを感光体ドラム102上で結像させる結像特性を有している。
【0020】
(シリンドリカルレンズの保持構造)
第1及び第2シリンドリカルレンズ5,6の保持構造は、図3〜図5に示すように、レーザ走査光学装置100のハウジング12に形成されたV溝12aに円筒状の保持部材51の外周面51aが光軸方向Xに摺動可能にかつ光軸周りに回動可能に保持されている。この保持部材51は、後述するシリンドリカルレンズ5,6の調整後に、UV硬化樹脂などによってハウジング12のV溝12aに固定される。
【0021】
保持部材51は、シリンドリカルレンズ5,6を設置するための同一平面として形成された基準面51bを有している。一方、シリンドリカルレンズ5,6は、その底面を基準面として制作されており、該底面を基準面51bに載置した状態で保持部材51上に位置固定されている。即ち、シリンドリカルレンズ5,6の底面は該レンズ5,6の光軸に対して垂直な方向の取付け面として機能している。
【0022】
本実施例においては、シリンドリカルレンズ5,6の間隔を調整することで副走査方向Zの合成焦点距離を変更することが可能である。半導体レーザ1や各種光学素子の個体的なばらつきや配置誤差などによって、設計値どおりに各素子を配置したとしても感光体ドラム102上での副走査方向Zのビームピッチが所望の範囲に収まらない場合は、シリンドリカルレンズ5,6の間隔を調整してレンズ5,6の合成焦点距離を変更して感光体ドラム102上での副走査方向Zのビームピッチを補正する。
【0023】
本実施例では、保持部材51の同一平面をなす基準面51bにシリンドリカルレンズ5,6を搭載し、第1シリンドリカルレンズ5は基準面51b上に樹脂固定しておいて第2シリンドリカルレンズ6を光軸方向Xに基準面51b上で摺動させることにより、光軸周りの回転及び副走査方向Zのシフトを抑制しながらレンズ5,6の間隔を調整することが可能である。第2シリンドリカルレンズ6は調整後に基準面51b上に樹脂固定される。その結果、感光体ドラム102上でのビーム径の増大や崩れを抑制したビームピッチの補正が可能となった。なお、ビームの崩れについては後述する。
【0024】
第2シリンドリカルレンズ6は、支持部材61の一面61a(図6参照)にレンズ6の一面を当接させて樹脂で固定されている。支持部材61の底面とレンズ6の底面とは同一の平面に位置合わせされており(以下に、図9及び図10を参照して説明する)、支持部材61の底面は保持部材51の前記基準面51b上に載置されている。第1シリンドリカルレンズ5を基準面51b上に接着固定した状態で第2シリンドリカルレンズ6を光軸方向Xへ調整した後、保持部材51を光軸方向X及び光軸周りに回動させ、即ち、レンズ5,6や以下に説明する各部材を含めて保持部材51ごと光軸方向X及び光軸回りの調整を行い、副走査方向Zのピント(焦点位置)とビームの形状崩れを補正する。
【0025】
なお、シリンドリカルレンズ5,6の副走査方向Zの取付け誤差によって発生するビームの崩れ方向とシリンドリカルレンズ5,6の光軸周りの回動によって発生するビームの崩れ方向とが異なるため、互いに補完することはできない。従って、光軸に垂直な方向(副走査方向Z)と光軸周りに関するレンズ5,6の取付け姿勢の調整は、それぞれの方向で位置精度を確保し、レンズ5,6どうしの相対位置精度を保持しておく必要がある。
【0026】
図5に示すように、保持部材51には門型をなす押圧補助部材52がねじ止めされている。ハウジング12に基部を固定した板ばね53により該押圧補助部材52を副走査方向Zに弾性的に付勢することにより、保持部材51はハウジング12のV溝12aに圧接されている。保持部材51の光軸方向Xの摺動や光軸回りの回動は押圧補助部材52のつまみ部52a(図3参照)を把持することによって容易に行われる。
【0027】
図5に示すように、支持部材61の下部突出部61bは保持部材51の凹部に極めて僅かな隙間を設けて挿入されている。従って支持部材61は保持部材51に対して光軸方向Xには摺動可能であり、光軸回りへの回動は僅かな隙間分だけに規制されている。即ち、支持部材61はこの僅かな隙間分では光軸周りに回動し、それに伴って第2シリンドリカルレンズ6も回動する。しかし、このような第2シリンドリカルレンズ6の僅かな回動はビーム崩れに対する誤差感度は小さく、実用上問題にはならない。
【0028】
図6にレンズ保持構造の断面を示す。第2シリンドリカルレンズ6を接着固定した支持部材61は、押圧補助部材52に基部をねじ止めされた板ばね64によって保持部材51の基準面51bに押圧されている。一方、支持部材61の下部に光軸方向Xに形成した穴61cには調整軸62が貫通している。調整軸62の先端部は保持部材51の穴51cに回転可能に嵌合され、後端部は保持部材51のねじ部51dに螺着されている。
【0029】
また、調整軸62には圧縮コイルばね65が巻装されており、該ばね65は支持部材61を光軸方向Xのビーム進行方向に弾性的に付勢している。支持部材61は下端の角部が調整軸62の段差部(位置決め面)62aに当接して光軸方向Xに位置決めされている。この位置決め面62aは、圧縮コイルばね65による付勢方向とは同一軸上に設定されているとともに、支持部材61の底面を副走査方向Zに位置決めしている基準面51bの近傍に位置している。支持部材61は圧縮コイルばね65によるばね荷重F2により光軸方向Xと直交する軸を支点とする回転モーメントを受けるが、位置決め面62aと基準面51bとが近接していることで、支持部材61が光軸方向Xに摺動する際のがたつきやスティックスリップを極力抑制することができる。
【0030】
支持部材61(第2シリンドリカルレンズ6)の光軸方向Xへの摺動は、図7に示すように、調整軸62の先端面の穴62bにL型の冶具63aを嵌合させて調整軸62を回転させることにより行われる。また、図8に示すように、調整冶具63bを使用してもよい。
【0031】
ところで、支持部材61を保持部材51に押圧する板ばね64は、光軸に対して基準面51bとは反対側から弾性的に押圧している。図5に示すように、板ばね64が圧接する支持部材61の外周面は断面円形状とされており、支持部材61が調整によって光軸方向Xに摺動しても圧接箇所が不用意に変化することを防止している。なお、各種光学素子の部品精度や取付け精度によるばらつきを補正するためにレンズ5,6の間隔を調整する調整幅は、±5mm程度であり、支持部材61の断面円形状部分は光軸方向Xの長さが10mm程度であればよい。
【0032】
また、圧縮コイルばね65のばね荷重F2と、板ばね64のばね荷重F1と、支持部材61と保持部材51との間の動摩擦係数μとの間には、F2>μ×F1の関係にあることが好ましい。
【0033】
ここで、支持部材61への第2シリンドリカルレンズ6の組立方法を図9を参照して説明する。組立て台66には、前記保持部材51の基準面51bと同様の基準平面66bが形成されている。支持部材61の底面と第2シリンドリカルレンズ6の底面を基準平面66bに当接させて接着固定する。支持部材61の押圧荷重をF1’、支持部材61と基準平面66bとの間の静摩擦係数をμ1、第2シリンドリカルレンズ6の光軸に垂直な方向の押圧荷重をf1、第2シリンドリカルレンズ6の光軸に平行な押圧荷重をf2,f3、第2シリンドリカルレンズ6と基準平面66bとの間の静摩擦係数をμ2とすると、以下の式を満足するようにそれぞれの値を設定する。
【0034】
μ1×F1’>(f2+f3−μ2×f1)
(f2+f3)>μ2×f1
【0035】
第2シリンドリカルレンズ6を支持部材61の一面61aに確実に押圧した状態でUV硬化樹脂などによってレンズ6を支持部材61に接着固定する。これにて、レンズ6の底面と支持部材61の底面が同一平面を保って一体化されることになる。
【0036】
図10は他の組立て方法を示す。即ち、第2シリンドリカルレンズ6の幅寸法が小さくてその底面が前記保持部材51の基準面51bに当接しない場合における、該レンズ6と支持部材61とを一体化する場合である。この場合、組立て台66には広い面積の基準平面66bが形成されており、該基準平面66b上に支持部材61の底面と第2シリンドリカルレンズ6の底面を当接させて接着固定する。これにても、レンズ6の底面と支持部材61の底面が同一平面を保って一体化されることになる。
【0037】
図11は、図10に示した方法で組み立てられた支持部材61とレンズ6とを保持部材51の基準面51b上に搭載した状態を示している。レンズ6の底面は、幅寸法が小さいので基準面51bに当接していないが、基準面51b上に当接している支持部材61の底面とは同一平面をなすように組み立てられているので、副走査方向Zに関する取付け位置精度としては、レンズ6の底面が基準面51b上に当接しているのと同等とみなすことができる。
【0038】
(像面におけるビームの形状)
図12は、シリンドリカルレンズ5,6の光軸周りの回転誤差と像面(感光体ドラム102)上でのビームウエスト径の関係を示している。レンズ5,6の回転量の増加に伴ってビーム形状の崩れが発生し、ビームウエスト径が増大する。ビームの崩れは、画質の劣化に関わる問題であり、可能な限り抑制することが望ましい。図12はビームウエスト径が60μmの場合を示しており、画質劣化を考慮した許容値としては65μm以下に抑えることが望ましい。
【0039】
図13は、シリンドリカルレンズ5,6の副走査方向Zの変位とビームウエスト径の関係を示している。レンズ5,6の副走査方向Zの変位に伴ってビーム形状の崩れが発生し、ビームウエスト径が増大する。図12及び図13に示すビームの崩れは、それぞれ独立してビーム形状に影響を与え、また、その他の光学素子の取付けばらつきによっても同様にビームの崩れが発生する。特に、ビーム崩れに感度の高いレンズ5,6の取付け許容値は、回転で2分以下、副走査方向Zで0.05mm以下が目標となる。本実施例では、第1及び第2シリンドリカルレンズ5,6の取付け基準面を同一平面を形成する基準面51bとしていることから、これほどの厳しい精度も容易に達成することが可能である。
【0040】
図14は、シリンドリカルレンズ5,6の間隔を変化させて合成焦点距離を変えた場合の像面(感光体ドラム102)上での二つのビーム間隔の変化を示している。レンズ間隔を0.13mm変化させると、ビームピッチは1μm変化する。調整軸62のねじ部のピッチを0.5mmとすれば、調整軸62を0.13/0.5=0.26回転(93.6度)させると、ビームピッチは1μm変化することになる。
【0041】
図15は、光源(半導体レーザ1)を光軸周りに回転させた場合の回転角度と像面(感光体ドラム102)上での二つのビーム間隔の変化を示している。この場合、半導体レーザ1の取付け角度を0.12度回転させると、ビームピッチは1μm変化することになる。
【0042】
図14及び図15を比較すると、同様なビームピッチの変化を与えるための回転角度としては、レンズ5,6の間隔調整であれば93.6度であるのに対して、半導体レーザ1の角度調整であれば0.12度という極端に小さい回転角度で調整を行わなければならない。角度感度で約800倍であり、光源部での回転調整は極めて困難である。
【0043】
図16は、半導体レーザ1の取付け角度を示している。図16(A)に示すように、四つの発光点a〜dのピッチPが小さい場合、発光点a〜dを結ぶ直線の角度θは垂直に近づく。図16(B)に示すように、四つの発光点a〜dのピッチPが広くなると、発光点a〜dを結ぶ直線の角度θは水平に近づく。それぞれの場合に同じ回転誤差が生じたとしても、水平に近づくほど副走査方向Zのピッチ誤差(P×sinθ)は大きくなる。
【0044】
(他の実施例)
なお、本発明に係るレーザ走査光学装置は前記実施例に限定するものではなく、その要旨の範囲内で種々に変更できる。
【0045】
特に、複数の発光点は一つの半導体レーザに形成されている必要はなく、単独の発光素子を集合させて光源としてもよい。また、光源に含まれる発光点の数は4に限定されることはない。さらに、第1及び第2シリンドリカルレンズを保持する構造の細部は任意であり、3以上のシリンドリカルレンズを含んでいてもよい。
【産業上の利用可能性】
【0046】
以上のように、本発明は、レーザ走査光学装置に有用であり、特に、ビーム径の太りや変形を生じることなく副走査方向のビームピッチを補正できる点で優れている。
【符号の説明】
【0047】
100…レーザ走査光学装置
1…半導体レーザ
7…ポリゴンミラー
12…ハウジング(基台)
12a…V溝
51…保持部材
51a…外周面
51b…基準面
61…支持部材
102…感光体ドラム
X…光軸方向
Y…主走査方向
Z…副走査方向
【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の発光点を有する光源と、
前記光源から出射された拡散ビームを略平行光にする光学素子と、
前記光学素子から出射されたビームを偏向器の偏光面上に主走査方向に線状に集光させる複数のシリンドリカルレンズと、
前記複数のシリンドリカルレンズを保持する保持部材と、
前記保持部材を光軸方向に摺動及び光軸周りに回動可能にかつ摺動位置及び回動位置を固定可能に支持する基台と、
を備え、
前記保持部材は、前記複数のシリンドリカルレンズの光軸に対して垂直な方向の取付け面がそれぞれ当接する同一平面として形成された基準面を有し、前記複数のシリンドリカルレンズのうち少なくとも一つのシリンドリカルレンズを前記基準面上で位置固定するとともに、他のシリンドリカルレンズを前記基準面上で光軸方向に摺動可能かつ位置固定可能に保持すること、
を特徴とするレーザ走査光学装置。
【請求項2】
前記基台はハウジングの一部であることを特徴とする請求項1に記載のレーザ走査光学装置。
【請求項3】
さらに、前記他のシリンドリカルレンズを保持する支持部材を備え、
前記支持部材の光軸に対して垂直な方向の取付け面が当接する前記保持部材の基準面が前記複数のシリンドリカルレンズに対する基準面と同一であること、
を特徴とする請求項1又は請求項2に記載のレーザ走査光学装置。
【請求項4】
前記支持部材は、弾性部材によって光軸方向に弾性的に付勢されているとともに、位置決め面によって光軸方向に位置決めされており、
前記位置決め面は、前記弾性部材による付勢方向とは略同一軸上に設定されているとともに、前記基準面の近傍に位置していること、
を特徴とする請求項3に記載のレーザ走査光学装置。
【請求項5】
さらに、前記支持部材を光軸方向に位置決めするための軸部材を備え、
前記軸部材は、両端部が前記保持部材に回転可能に嵌合するとともに、一部が前記保持部材にねじ係合しており、ねじ係合による回転によって前記支持部材の位置決め面が光軸方向に移動可能であり、外周面には前記弾性部材が装着されていること、
を特徴とする請求項4に記載のレーザ走査光学装置。
【請求項6】
前記基台は前記保持部材の外周面が当接する互いに対向した傾斜面を有しており、
前記保持部材は前記傾斜面に当接する外周面が光軸を中心とする円形状をなしていること、
を特徴とする請求項1ないし請求項5のいずれかに記載のレーザ走査光学装置。
【請求項7】
さらに、前記支持部材を前記基準面に対して弾性的に押圧するばね部材を備えていることを特徴とする請求項3ないし請求項6のいずれかに記載のレーザ走査光学装置。
【請求項8】
前記保持部材には前記支持部材の外周部を取り囲む押圧補助部材が取り付けられており、
前記押圧補助部材は、前記支持部材を前記基準面に対して弾性的に押圧するばね部材を有するとともに、前記保持部材を前記基台に対して回動させるためのつまみ部を有し、かつ、前記基台に設けた弾性部材によって前記保持部材を介して前記基台に弾性的に押圧されていること、
を特徴とする請求項3ないし請求項6のいずれかに記載のレーザ走査光学装置。
【請求項9】
前記光源はSDH構造からなるマルチ半導体レーザであることを特徴とする請求項1ないし請求項8のいずれかに記載のレーザ走査光学装置。
【請求項10】
請求項1ないし請求項9のいずれかに記載の複数のレーザ走査光学装置を備えていることを特徴とする画像形成装置。
【請求項1】
複数の発光点を有する光源と、
前記光源から出射された拡散ビームを略平行光にする光学素子と、
前記光学素子から出射されたビームを偏向器の偏光面上に主走査方向に線状に集光させる複数のシリンドリカルレンズと、
前記複数のシリンドリカルレンズを保持する保持部材と、
前記保持部材を光軸方向に摺動及び光軸周りに回動可能にかつ摺動位置及び回動位置を固定可能に支持する基台と、
を備え、
前記保持部材は、前記複数のシリンドリカルレンズの光軸に対して垂直な方向の取付け面がそれぞれ当接する同一平面として形成された基準面を有し、前記複数のシリンドリカルレンズのうち少なくとも一つのシリンドリカルレンズを前記基準面上で位置固定するとともに、他のシリンドリカルレンズを前記基準面上で光軸方向に摺動可能かつ位置固定可能に保持すること、
を特徴とするレーザ走査光学装置。
【請求項2】
前記基台はハウジングの一部であることを特徴とする請求項1に記載のレーザ走査光学装置。
【請求項3】
さらに、前記他のシリンドリカルレンズを保持する支持部材を備え、
前記支持部材の光軸に対して垂直な方向の取付け面が当接する前記保持部材の基準面が前記複数のシリンドリカルレンズに対する基準面と同一であること、
を特徴とする請求項1又は請求項2に記載のレーザ走査光学装置。
【請求項4】
前記支持部材は、弾性部材によって光軸方向に弾性的に付勢されているとともに、位置決め面によって光軸方向に位置決めされており、
前記位置決め面は、前記弾性部材による付勢方向とは略同一軸上に設定されているとともに、前記基準面の近傍に位置していること、
を特徴とする請求項3に記載のレーザ走査光学装置。
【請求項5】
さらに、前記支持部材を光軸方向に位置決めするための軸部材を備え、
前記軸部材は、両端部が前記保持部材に回転可能に嵌合するとともに、一部が前記保持部材にねじ係合しており、ねじ係合による回転によって前記支持部材の位置決め面が光軸方向に移動可能であり、外周面には前記弾性部材が装着されていること、
を特徴とする請求項4に記載のレーザ走査光学装置。
【請求項6】
前記基台は前記保持部材の外周面が当接する互いに対向した傾斜面を有しており、
前記保持部材は前記傾斜面に当接する外周面が光軸を中心とする円形状をなしていること、
を特徴とする請求項1ないし請求項5のいずれかに記載のレーザ走査光学装置。
【請求項7】
さらに、前記支持部材を前記基準面に対して弾性的に押圧するばね部材を備えていることを特徴とする請求項3ないし請求項6のいずれかに記載のレーザ走査光学装置。
【請求項8】
前記保持部材には前記支持部材の外周部を取り囲む押圧補助部材が取り付けられており、
前記押圧補助部材は、前記支持部材を前記基準面に対して弾性的に押圧するばね部材を有するとともに、前記保持部材を前記基台に対して回動させるためのつまみ部を有し、かつ、前記基台に設けた弾性部材によって前記保持部材を介して前記基台に弾性的に押圧されていること、
を特徴とする請求項3ないし請求項6のいずれかに記載のレーザ走査光学装置。
【請求項9】
前記光源はSDH構造からなるマルチ半導体レーザであることを特徴とする請求項1ないし請求項8のいずれかに記載のレーザ走査光学装置。
【請求項10】
請求項1ないし請求項9のいずれかに記載の複数のレーザ走査光学装置を備えていることを特徴とする画像形成装置。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【公開番号】特開2011−81249(P2011−81249A)
【公開日】平成23年4月21日(2011.4.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−234300(P2009−234300)
【出願日】平成21年10月8日(2009.10.8)
【出願人】(303000372)コニカミノルタビジネステクノロジーズ株式会社 (12,802)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成23年4月21日(2011.4.21)
【国際特許分類】
【出願日】平成21年10月8日(2009.10.8)
【出願人】(303000372)コニカミノルタビジネステクノロジーズ株式会社 (12,802)
【Fターム(参考)】
[ Back to top ]