説明

レーザ顕微鏡装置

【課題】同一装置により、CARS光の発生効率および空間分解能の低下を抑え、CARS光観察と微分干渉観察の同時観察に好適なレーザ顕微鏡装置を提供する。
【解決手段】波長が異なる第1および第2の光束L1,L2を発生させる光源部100と、2光束L1’,L2’を合波するレーザコンバイナー105と、2つの光路の少なくとも一方に設けられ、直線偏光の光束を作り出すポラライザー104と、二次元走査部201と、光束を2分割する複屈折プリズム202と、合波光束を集光する対物レンズ203と、標本からの2光束を合成する複屈折プリズム209と、アナライザー210と、光束分離部207と、CARS信号およびDIC信号を検出するための第1の検出部301、第2の検出部302と、第1、第2の検出部による情報と二次元走査部201による光スポットの位置情報とに基づいて、標本内の観察面の画像を形成する画像処理部401とを備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、レーザ顕微鏡装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
標本中の分子の特定の振動を利用し、分子からのコヒーレントアンチストークスラマン散乱(CARS)光(CARS信号)を発生させ、このCARS光を検出することで標本の観察を行うCARS顕微鏡が知られている(特許文献1参照)。このCARS顕微鏡は、標本の分子の特定の振動を利用しているため、蛍光顕微鏡のように、観察対象を蛍光プローブであらかじめ標識する必要がない。また、利用する振動を変更することで観察する分子を変更することができる。
【0003】
従来、このCARS顕微鏡の光源には、2つの異なる周波数を有するパルスレーザが用いられている。このような顕微鏡によれば、これら2つのパルスレーザ光(ポンプ光とストークス光)の周波数差が、標本の分子の特定の振動周波数に一致するように調節した状態で標本面に集光する。このとき、焦点面近傍に広がる光子密度が高い極めて狭い空間において、ポンプ光とストークス光の周波数差が分子の特定の振動周波数に共鳴し、強いCARS光が発生する。このCARS光は、照射したポンプ光とストークス光の周波数よりも高い周波数を有する(つまり短い波長を有する)。したがって、このCARS光だけを分光的に選択して検出することで標本の分子の観察を行うことができる。
【0004】
現在では、フェムト秒パルスレーザ光もしくはピコ秒パルスレーザ光を光源に用いて、CARS光観察、多光子励起(MPE)の蛍光観察および第2次高調波発生(SHG)光観察を切り替えて行うことができるレーザ顕微鏡が知られている(特許文献2参照)。
【0005】
一方、数十nm〜数μmに分離した二つの光束を標本に照射し、標本通過後、この二つの光束を合成干渉させて得られる光束(DIC信号)を検出することで標本の観察を行う微分干渉(DIC)顕微鏡が知られている。このDIC顕微鏡は、位相差顕微鏡と同様に透明な標本の微細構造を明暗として可視化する観察方法である。
【0006】
通常、DIC顕微鏡は、偏光した光を複屈折プリズム(ノマルスキープリズム)に入射させ、照明用コンデンサーレンズと合わせて、標本をわずかに分離させた二つの光束で照明し、対物レンズと観察光路に置かれた複屈折プリズムで光束を再び一本にし、最後に偏光子を通過させて干渉させることによって、標本の微細構造を可視化している。この手法では、二本の光束が通る光路中の標本の位相差(例えば段差や屈折率差)を明暗として観察でき、位相差顕微鏡と同様に光軸方向の10nm程度の微小段差などを検出できる。また、位相差顕微鏡と異なり照明NAに制約がないので、光軸と垂直方向の解像力を顕微鏡対物レンズの限界まで発揮することができる。さらに、位相差法と比べて輪郭が光ることがなく、解像度の高い像を得ることができる。
【0007】
DIC顕微鏡においては、直線偏光の光束を偏光成分に従って空間的に分離している二つの光束に分割して標本に照射し、標本に形成される光スポットを二次元的に走査し、標本で反射された二つの光束を合成し、合成された光束のうち観察面近傍からの光束だけを選択的に取り出し、観察面近傍からの光束から特定の直線偏光の光束を検出し、検出された情報と光スポットの位置情報とに基づいて標本の観察面の画像を形成することもできる。これによって、透明な標本の数nmの段差をリアルタイムで観察することが可能となる(特許文献3参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特表2002−520612号公報
【特許文献2】特開2010−96667号公報
【特許文献3】特開2005−309415号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
CARS顕微鏡は標本の分子の特定の振動を利用しているため、観察対象を蛍光プローブであらかじめ標識する必要がないことが特徴の1つである。一方、蛍光プローブで標識していない透明な標本(例えば、細胞)の微細構造の観察には、DIC顕微鏡が適している。しかし、CARS顕微鏡に複屈折プリズムやポラライザー、アナライザーを組み入れるだけでは、CARS光観察とDIC観察とを同時に行う際に次に示すような不具合が生じる。
【0010】
1つ目の不具合は、標本から発生するCARS光強度の低下である。CARS光観察においては通常、ポンプ光とストークス光の偏光は直線偏光とし、ポンプ光とストークス光の偏光方向が平行となるように調整し標本に集光する。こうすることで、標本中の特定の分子から最も効率よくCARS光を発生させることが出来る。一方、DIC観察においては、直線偏光の光束を、偏光方向が互いに直交した2つの光束に分割した後、2つの光束を標本に集光する。このために、直線偏光の光束を複屈折プリズムに入射させ、偏光方向が互いに直交する2つの光束に分割されるように、複屈折プリズムの向き、かつ/または入射させる直線偏光の光束の偏光方向を調整する。つまり、CARS光観察とDIC観察を同時に行うためにCARS顕微鏡に複屈折プリズムを組み合わせた場合、偏光方向が互いに平行であるポンプ光とストークス光の両方が、複屈折プリズムによりそれぞれ互いに偏光方向が直交した2つの光束に分割されてしまう。この場合、以下に説明するように標本から発生するCARS光強度が低下する。
【0011】
直線偏光のポンプ光とストークス光を用いて、ポンプ光とストークス光の偏光方向を平行に調節して標本に集光した場合に発生するCARS光の強度ICARSは、ポンプ光の強度をIP、ストークス光の強度をISとおくと以下のようになる。
【0012】

【0013】
図2(a)は、複屈折プリズムに入射した直線偏光の光束が、複屈折プリズムによって2つの光束に分割された様子を表した模式図である。複屈折プリズムによって分割された2つの光束の偏光方向は互いに直交する。ここで、複屈折プリズムによって分割された2つの光束を両方含む面をR面と定義する。また、複屈折プリズムに入射した光束の光軸に平行な軸をz軸、R面に平行でz軸に垂直な軸をx軸、R面に垂直でz軸に垂直な軸をy軸と定義する。
【0014】
図2(b)のように、例えば、複屈折プリズムに入射したポンプ光およびストークス光の偏光方向がx軸から互いに45度傾いている場合、図2(a)のように複屈折プリズムによってそれぞれ2つの光束に分割される。つまり、複屈折プリズムに入射したポンプ光は、x軸に平行な偏光方向の成分とy軸に平行な偏光方向の成分とに分割される。同様に、複屈折プリズムに入射したストークス光も、x軸に平行な偏光方向の成分とy軸に平行な偏光方向の成分とに分割される。ここで、複屈折プリズムに入射したポンプ光とストークス光の強度をそれぞれIP, IS, 複屈折プリズムによって分離された2つの光束のうち、偏光方向がx軸に平行なポンプ光およびストークス光の強度をそれぞれI’Px, I’Sx, 偏光方向がy軸に平行なポンプ光およびストークス光の強度をそれぞれI’Py, I’Syと定義すると、以下の関係が成り立つ。
【0015】
I’Px=IP/2 (式2)
【0016】
I’Sx=IS/2 (式3)
【0017】
I’Py=IP/2 (式4)
【0018】
I’Sy=IS/2 (式5)
【0019】
よって、複屈折プリズムを通過したポンプ光とストークス光を標本に集光した場合に発生するCARS光の、x軸に平行な偏光方向の成分の強度I’CARSxとy軸に平行な偏光方向の成分の強度I’CARSyは、式1〜5より以下のようになる。
【0020】

【0021】

【0022】
したがって、図2(b)のように、x軸から45度傾いたポンプ光およびストークス光を複屈折プリズムによってそれぞれ2つの光束に分割して標本に集光したときに発生するCARS光の強度I’CARSは、式7と式8より以下のようになる。
【0023】

【0024】
式1と式9より、直線偏光のポンプ光とストークス光を用いて、ポンプ光とストークス光の偏光方向を平行に調節して標本に集光した場合に発生するCARS光の強度ICARSと比較して、図2(b)のように、偏光方向がx軸から45度傾いたポンプ光およびストークス光を、複屈折プリズムによってそれぞれ2つの光束に分割して標本に集光したときに発生するCARS光の強度I’CARSは、4分の1に低下することがわかる。
【0025】
2つ目の不具合は、CARS光観察の空間分解能の低下である。CARS光観察とDIC観察を同時に行うために、CARS顕微鏡に複屈折プリズムを組み合わせた場合、上述のようにポンプ光とストークス光の両方が、互いに直交した2つの直線偏光の光束に分割される。これら2つの直線偏光を標本上に集光した場合、それぞれの光スポットは標本上のわずかにずれた位置に形成され、2つの光スポットから発生するCARS光を同時に検出することになる。2つの光スポットずれ量(シアー量)は、対物レンズの種類等により変わる量であり、シアー量が大きくなるほどCARS光観察の空間分解能が低下する。これにより、CARS光観察とDIC観察の両方を行う際には、同一の場所を同時に検出することが極めて困難であるという技術的課題を有している。
【0026】
本発明は上述した事情に鑑みてなされたものであって、光源が1台の同一装置を用いて、CARS光の発生効率の低下を抑えた状態でDIC観察およびCARS光観察を同時に行うのに好適な新しい技術を捉供し、CARS光観察による分子情報とDIC観察による微細構造情報を同時に取得することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0027】
上記目的を達成するために、本発明は以下の手段を採用する。
本発明は、DIC信号とCARS信号を同時に検出するレーザ顕微鏡装置であって、互いに波長が異なる第1の光束および第2の光束を発生させる光源部(例えば、パルス光源などの1台の光源と、光源から発生する光束を2つに分岐する手段と、該2つの光束のうち、少なくとも一方の光束の周波数を変換する周波数変換手段とから成る。)と、前記2つの光束を合波する合波部と、前記2つの光束を合波部に導光する2つの光路の少なくとも一方に設けられ、直線偏光の光束を作り出す直線偏光調整部と、標本に形成される光スポットを走査する二次元走査部と、光束を偏光成分に従って2つの光束に分割する光束分割部と、合波された光束を標本に集光する集光部と、標本から得られる光束のうち、前記光束分割部によって2つの光束に分割された光束を合成する光束合成部と、合成された光束から特定の直線偏光の光束を取り出す直線偏光抽出部と、第1の光束と第2の光束の少なくとも一方を分離する光束分離部と、CARS信号を検出するための第1の検出部と、DIC信号を検出するための第2の検出部と、該第1の検出部および第2の検出部によって検出された情報と前記二次元走査部から得られる光スポットの位置情報とに基づいて、標本内の観察面の画像を形成する画像処理部と、形成された画像を表示する表示部とを備えるレーザ顕微鏡装置を採用する。
【0028】
本発明に係るレーザ顕微鏡装置によれば、光源部(例えば、パルス光源などの1台の光源と、光源から発生する光束を2つに分岐する手段と、該2つの光束のうち、少なくとも一方の光束の周波数を変換する周波数変換手段とから成る。)から発生する互いに波長が異なる2つの光束(ポンプ光とストークス光)を合波部によって合波する。合波された光束を標本に集光し、標本に形成される光スポットを二次元走査部によって走査することで、標本から発生するCARS光を観察することができる。また、ポンプ光とストークス光の少なくともどちらか一方が、光束分割部によって2つの光束に分割されないように、光束分割部の向きを調節する。次に、ポンプ光とストークス光のどちらか一方だけが光束分割部によって2つの光束に分割されるように、直線偏光調整部を調整する。光束分割部によって2つの光束に分割されたポンプ光もしくはストークス光を標本に集光し、標本に形成される光スポットを二次元走査部によって走査する。標本から得られる光束を光束合成部によって合成し、合成された光束から特定の直線偏光の光束を検出することで、標本のDIC像を観察することができる。
【0029】
このようにすることで、ポンプ光とストークス光のいずれか一方の光はDIC観察のために互いに直交した2つの直線偏光の光束に分割され、他方は分割されないため、同時に観察するCARS光強度の低下を抑えることができる。また、ポンプ光とストークス光のいずれか一方の光が、標本上で2つの光スポットを形成し、他方は1つの光スポットを形成する。標本から発生するCARS光は(式1)の関係にあるため、ポンプ光とストークス光の光スポットが重なり合った部分からのみCARS光が発生する。つまり、上述したポンプ光とストークス光のそれぞれが互いに直交した2つの直線偏光に分割されることによるCARS光観察の空間分解能の低下を回避することができる。
【0030】
ここで、CARS光観察時には、光源部から発生する2つの光束の周波数差が標本中の分子の特定の振動周波数に略等しくなるように、周波数変換部によって少なくとも一方の光束の周波数が変換される。これにより、2つの光束のうち、周波数の高い方の光束をポンプ光、周波数の低い方の光束をストークス光として、CARS光を発生させることができる。
【0031】
上記のレーザ顕微鏡装置において、前記光束分割部と前記光束合成部の代わりに、光束を偏光成分に従って2つの光束に分割するとともに標本から戻ってくる光束を合成する光束分割合成部と、標本から戻って該光束分割合成部で合成された光束を分離する光束分離部とを備えており、前記第2の検出部が落射型に配置されていることとしてもよい。
このような構成をとることで、落射型で標本のDIC像を取得することが可能となる。落射型の場合、標本内の光路長は透過型と比較して2倍である。このため、観察面の位相変化を透過型と比較して2倍の感度で検出することができる。
【0032】
上記のレーザ顕微鏡装置において、前記光束分離部が、分離比が入射光の偏光に依存しない光束分離部であることとしてもよい。
このような光束分離部を用いることで、光束分離部に入射した光束が光束分離部の入射面に対してP偏光やS偏光以外の光束であっても、偏光に依らず一定の分離比で、透過される光束と反射される光束とに分離することができる。したがって、直線偏光調整部によって作り出された直線偏光の偏光方向を維持したまま光束分離部に導光することができる。さらに、標本から戻ってきて光束分割合成部によって合成された光束の偏光方向を維持したまま直線偏光抽出部へ導光することができる。これにより、標本の微細構造によって生じた位相差を利用してDIC像を観察することができる。
【発明の効果】
【0033】
本発明によれば、同一装置を用いてCARS光観察とDIC観察を同時に行うのに好適な新しい技術が捉供される。これにより、CARS観察におけるCARS光の発生効率の低下を抑え、空間分解能を低下させることなくCARS光観察による分子情報とDIC観察による微細構造情報を同時に取得できるという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0034】
【図1】本発明の第1の実施形態に係るレーザ顕微鏡装置の全体構成を示すブロック図である。
【図2】(a)複屈折プリズムに入射した直線偏光の光束が、複屈折プリズムによって2つの光束に分割される様子を表した模式図である。(b)x軸から45度傾いて複屈折プリズムに入射するポンプ光およびストークス光を表した模式図である。
【図3】本発明の第2の実施形態に係るレーザ顕微鏡装置の全体構成を示すブロック図である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0035】
〔第1の実施形態〕
本発明の第1の実施形態に係るレーザ顕微鏡装置1について、図1を参照して以下に説明する。
【0036】
レーザ顕微鏡装置1は、互いに波長が異なる第1の光束および第2の光束を発生させる光源部100を備えている。光源部100は、波長が900nmから1100nmの光束L1およびその第2次高調波の光束L2を射出することができる1台のパルス光源101と、光束L1, L2をそれぞれ通過させる2つの光路001, 002と、2つの光路001, 002を通過してきた2つの光束L1’, L2’を合波するレーザコンバイナー(合波部)105とを備えている。
【0037】
第1の光路001には、光束L1のパルスタイミングを調節するための遅延光路102と、光束L1から直線偏光の光束L1’を作り出すためのポラライザー(直線偏光調整部)104とが設けられている。
【0038】
遅延光路102は、例えば、ミラー(リフレクター)により構成される(図示略)。少なくとも2組以上のリフレクターを用いて光束L1の光路を折り返し、少なくとも2組以上のリフレクターの間隔を調節することで光束L1の光路長を変化させることができる。これによって、光束L1のパルスの時間的タイミングを調整することができる。
【0039】
ポラライザー104は偏光板であり、入射する光束のうち特定の偏光成分の光束だけを選択的に透過し、また、その直線偏光の方向を任意に変えることができる。このため、ポラライザー104は光束L1から所望の直線偏光の光束L1’を作り出すことができる。ポラライザー104は、DIC像の観察時のみ必要な素子であるため、DIC像観察時のみ光路001上に組み入れることができるようにしてもよい。
【0040】
第2の光路002には、光束L2を通過させる光パラメトリック発振器(OPO)103が周波数変換手段として設けられている。
【0041】
OPO103は、通過させる光束L2を励起光源として可視から近赤外で高出力かつ狭線幅の光束L2’を生成し、光路001, 002を導光される光束L1’, L2’に標本205中の分子の特定の振動数に略等しい周波数差を与えられるようになっている。
【0042】
また、レーザ顕微鏡装置1は、レーザコンバイナー105で合波された光束L3を二次元的に走査する二次元走査部201と、二次元走査部201を通過した光束L3を偏光成分に従って2つの光束に分離する複屈折プリズム(光束分割部)202と、複屈折プリズム202を通過した光束を標本205面上に集光する対物レンズ(集光部)203とを備えている。図中、符号204はステージである。
【0043】
複屈折プリズム202は、二次元走査部201を通過した光束L3のうち、光束L1’か光束L2’のどちらか一方のみを2つの光束に分割する。分割された2つの光束は空間的に分離しており、それらの偏光成分は互いに直交する。
複屈折プリズム202の向きは、光束L1’と光束L2’の少なくともどちらか一方が、2つの光束に分割されないように調節される。ポラライザー104は、光束L1’と光束L2’のどちらか一方だけが複屈折プリズム202によって2つの光束に分割されるように調整される。複屈折プリズム202を通過した光束は、それぞれ対物レンズ(集光部)203を通って標本205に集光されて光スポットを形成する。複屈折プリズム202は、ポラライザー104と同様にDIC像の観察時のみ必要な素子であるため、DIC像観察時のみ光路上に組み入れることができるようにしてもよい。
【0044】
二次元走査部201は、標本205に形成される光スポットを二次元的に走査する。二次元走査部201は、例えば、ガルバノミラーを利用したものであってもよい。二次元走査部201は、また、音響光学素子を利用したものであってもよい。
【0045】
また、レーザ顕微鏡装置1は、標本205から発生し集光レンズ206によって集光されたCARS光を検出するための第1の検出部301を備えている。図中、符号207はダイクロイックミラー(光束分離部)、符号208は標本205から発生したCARS光を選択的に通過させるためのバンドパスフィルターである。
【0046】
また、レーザ顕微鏡装置1は、複屈折プリズム202によって2つの光束に分割され、対物レンズ203を介して標本205に集光され、標本205から得られた2つの光束を合成するための複屈折プリズム(光束合成部)209と、複屈折プリズム209によって合成された光束のうち、特定の直線偏光の光束を取り出すためのアナライザー(直線偏光抽出部)210と、アナライザー210を通過した光束を検出するための第2の検出部302とを備えている。図中、符号211は、複屈折プリズム202によって互いに直交した2つの直線偏光に分割された光束の波長を選択的に通過させることができるバンドパスフィルターである。
【0047】
アナライザー210は、ポラライザー104と同様に偏光板であり、入射する光束のうち特定の偏光成分の光束だけを選択的に透過する。アナライザー210はポラライザー104に対してクロスニコルの関係に配置されている。従って、アナライザー210は、ポラライザー104を透過する直線偏光に直交する直線偏光の光束を選択的に透過する。
【0048】
第1の検出部301、第2の検出部302は例えば光電子増倍管で構成される。
【0049】
また、レーザ顕微鏡装置1は、第1の検出部301と第2の検出部302とによって検出された情報と、二次元走査部201から得られる光スポットの位置情報(走査情報)とに基づいて標本205の観察面の画像を形成する画像処理部401と、形成された画像を表示する表示部402とを備えている。
【0050】
上記のように構成されたレーザ顕微鏡装置1の作用について以下に説明する。
まず、本実施形態に係るレーザ顕微鏡装置1を使用して、CARS光による標本205の観察を行う場合について以下に説明する。
【0051】
1台のパルス光源101から発生した光束L1は、第1の光路001上に設けられた遅延光路102を通過することによってパルスの時間的タイミングを調節される。一方、1台のパルス光源101から発生した光束L1の第2次高調波である光束L2は、第2の光路002上に設けられたOPO103によって周波数が高周波数側に変換され、光束L2’となる。これにより、光路001, 002を導光される2つの光束L1,L2’に標本205中の分子の特定の振動数に略等しい周波数差を与えることができる。
【0052】
その後、2つの光束L1,L2’はレーザコンバイナー105によって合波され、光束L3となる。
【0053】
このように合波されたパルスレーザ光L3は、二次元走査部201で走査された後対物レンズ203を介して標本205面上に集光される。これにより、光束L3が集光された各位置において、標本205中の分子の特定の振動周波数からCARS光を発生させることができる。
【0054】
標本205において発生したCARS光は、標本205を挟んで対物レンズ203とは反対側に配置された集光レンズ206によって集光され、第1の検出部301により検出される。そして、第1の検出部301によって検出された情報と二次元走査部203から得られる光スポットの位置情報(走査情報)とに基づいて、標本205の観察面の画像を画像処理部401で形成し、表示部402により形成された画像を表示することができる。
【0055】
上述のように、本実施形態に係るレーザ顕微鏡装置1によれば、パルス光源101を用いて、OPO103により周波数が高周波数側に変換された光束L2’をポンプ光、周波数が変換されていない光束L1をストークス光として、CARS光を発生させることができる。
【0056】
次に、本実施形態に係るレーザ顕微鏡装置1を使用して、標本205から発生するCARS光の観察と標本205のDIC像の観察を同時に行う場合の、DIC像の観察について以下に説明する。CARS光の観察については、上述のとおりである。
【0057】
標本205から発生するCARS光の観察と同時に、標本205のDIC像を観察する場合には、レーザ顕微鏡装置1にポラライザー104と複屈折プリズム(光束分割部)202と、複屈折プリズム(光束合成部)209と、アナライザー210とが配置された状態で使用する。
【0058】
複屈折プリズム202の向きは、二次元走査部201を通過した光束L3のうち、光束L1’と光束L2’の少なくともどちらか一方が、2つの光束に分割されないように調節される。ポラライザー104は、光束L1’と光束L2’のどちらか一方だけが複屈折プリズム202によって2つの光束に分割されるように調整される。分割された2つの光束は空間的に分離しており、それらの偏光成分は互いに直交する。分割された2つの光束は対物レンズ203によって収束されて標本205面上に集光され、二次元走査部201によって走査される。
【0059】
標本205を通過した2つの光束は、集光レンズ206を通ってダイクロイックミラー207で部分的に反射され複屈折プリズム209に入射し、複屈折プリズム209によって1つの光束に結合される。複屈折プリズム209によって結合された光束は、アナライザー210に入射させられる。アナライザー210はポラライザー104を透過する直線偏光に直交する直線偏光を選択的に透過する。アナライザー210を透過した光束は、第2の検出部302により検出される。そして、第2の検出部302によって検出された情報と二次元走査部201から得られる光スポットの位置情報(走査情報)とに基づいて、標本205の観察面の画像を画像処理部401で形成し、表示部402により形成された画像を表示することができる。画像処理部401は、二次元走査部201の連続駆動により、繰り返し同じ観察領域から二次元的な画像情報を得て、時系列な動画情報を形成して表示部402に表示(上映)させることもできる。
【0060】
上述のように、本実施形態に係るレーザ顕微鏡装置1によれば、複屈折プリズム202によって分割された互いに直交する2つの直線偏光の光束を用いて、標本205のDIC像を観察することができる。
【0061】
複屈折プリズム202によって2つに分割された光束は、空間的に離れているため標本内の異なる2点に照射される。2つの光束がそれぞれ標本内を通過する部分の光路長の差に対応する位相差(リタデーション)が2つの光束の間に生じる。つまり、2つの光束が通過する部分の光学的な厚さの違いによって2つの光束の間に位相差が発生する。2つの光束の間の位相差は、ポラライザー104を透過する直線偏光に直交する直線偏光の成分を発生させる。従って、2つの光束の間の位相差はアナライザー210を通過した光束の強度として検出される。
【0062】
つまり、2つの光束が通過する標本205内の部分の光学的な厚さが等しい場合には第2の検出部302から信号が出力されないが、2つの光束が通過する標本205内の部分の光学的な厚さが異なる場合にはその光学的な厚さの違いに対応した信号が出力される。これによって、標本205内の観察対象物が光学的に透明であっても表面の段差や傾斜の情報を取得することができる。
【0063】
ここで、標本から発生するCARS光について、CARS光観察とDIC観察を同時に行った場合に起こり得るCARS光強度の低下と、本実施形態におけるCARS光強度の低下防止の作用効果について説明する。
【0064】
先に述べたとおり、CARS顕微鏡に複屈折プリズムを組み合わせただけでは、ポンプ光とストークス光の両方が互いに直交した2つの直線偏光の光束に分割されてしまい、その結果、標本から発生するCARS光の強度が低下する。例えば、図2(b)のようにx軸から45度傾いたポンプ光およびストークス光を、複屈折プリズムによってそれぞれ2つの光束に分割して標本に集光したときに発生するCARS光の強度I’CARSは、ポンプ光とストークス光の偏光方向を平行に調節して標本に集光した場合に発生するCARS光の強度ICARSと比較して、4分の1に低下する。
【0065】
これに対して、本実施形態に係るレーザ顕微鏡装置1によれば、ストークス光のみが互いに直交した2つの直線偏光の光束に分割されるように調節することが可能である。図2(b)のようにx軸から45度傾いたストークス光を、複屈折プリズムによってそれぞれ2つの光束に分割して標本に集光した場合に発生するCARS光の強度を計算すると、I’CARSの2倍になる。すなわち、ICARSと比較した時のCARS光強度の低下を2分の1に抑えることができる。
【0066】
次に、CARS光観察とDIC観察を同時に行った場合に起こり得る、CARS光観察の空間分解能の低下と、本実施形態における空間分解能の低下防止の作用効果について説明する。
【0067】
先に述べたとおり、CARS顕微鏡に複屈折プリズムを組み合わせただけでは、ポンプ光とストークス光の両方が互いに直交した2つの直線偏光の光束に分割されてしまう。その結果、標本上のわずかにずれた位置に形成された2つの光スポットから発生するCARS光を同時に検出することになり、CARS光観察の空間分解能が低下する。
【0068】
これに対して、本実施形態に係るレーザ顕微鏡装置1によれば、ストークス光のみが互いに直交した2つの直線偏光の光束に分割されるように調節することが可能である。よって、ストークス光のみが標本上で2つの光スポットを形成し、ポンプ光は1つの光スポットしか形成しない。これにより、ポンプ光とストークス光のそれぞれが互いに直交した2つの直線偏光に分割されることによるCARS光観察の空間分解能の低下を回避することができる。これにより、CARS光観察とDIC観察の両方を行う際に、同一の場所を同時に検出することが可能になるという利点を有する。同一の場所を同時に検出できるということは、とくに生体のように多様な動きを示す試料を画像化する場合や光走査の過程で走査速度が変化するような場合であっても、CARS光観察像とDIC観察像とを時間的且つ空間的に完全に一致することから、観察領域全体について鮮明な重ね表示が可能になるという格段の効果も奏する。
【0069】
以上のように、本実施形態に係るレーザ顕微鏡装置1によれば、CARS光の発生効率の低下を抑え、空間分解能を低下させることなく、同じ場所についてCARS光観察とDIC観察を同時に行うことができる。
【0070】
〔第2の実施形態〕
本発明の第2の実施形態に係るレーザ顕微鏡装置2について、図3を参照して以下に説明する。
本実施形態に係るレーザ顕微鏡装置2が第1の実施形態と異なる点は、DIC観察を落射型で行う点である。以下、本実施形態のレーザ顕微鏡装置2について、第1の実施形態と共通する点については説明を省略し、異なる点について説明する。
【0071】
レーザ顕微鏡装置2は、レーザコンバイナー(合波部)105で合波された光束L3を標本205に方向付ける光束分離部501と、光束分離部501を通過した光束L3を二次元的に走査する二次元走査部201と、二次元走査部201を通過した光束L3を偏光成分に従って2つの光束に分離する複屈折プリズム(光束分割合成部)503と、複屈折プリズム503を通過した光束を標本205面上に集光する対物レンズ(集光部)203とを備えている。図中、符号502は偏向ミラー、符号204はステージである。
【0072】
光束分離部501はレーザコンバイナー105で合波された光束L3を対物レンズ203に方向付けるとともに、対物レンズ203を通って標本205から戻ってくる光束を対物レンズ203に方向付けられた光束から分離する。光束分離部501は、例えば、光を部分的に反射し部分的に透過するミラーで構成される。光束分離部501は、例えば、入射光の反射と透過の分割比が入射光の偏光に依存しない無偏光ビームスプリッターで構成される。
【0073】
複屈折プリズム503は、二次元走査部201を通過した光束L3のうち、光束L1’か光束L2’のどちらか一方のみを偏光成分に従って2つの光束に分割する。分割された2つの光束は空間的に分離しており、それらの偏光成分は互いに直交する。
複屈折プリズム503の向きは、光束L1’と光束L2’の少なくともどちらか一方が、2つの光束に分割されないように調節される。ポラライザー(直線偏光調整部)104は、光束L1’と光束L2’のどちらか一方だけが複屈折プリズム503によって2つの光束に分割されるように調整される。複屈折プリズム503を通過した光束は、それぞれ対物レンズ(集光部)203を通って標本205に集光されて光スポットを形成する。さらに複屈折プリズム503は、対物レンズ203を通って標本205から戻ってくる、複屈折プリズム503によって分割されていた2つの光束を合成する。複屈折プリズム503は、ポラライザー104と同様にDIC像の観察時のみ必要な素子であるため、DIC像観察時のみ光路上に組み入れることができるようにしてもよい。
【0074】
また、レーザ顕微鏡装置2は、標本205から発生し集光レンズ206によって集光されたCARS光を検出するための第1の検出部301を備えている。図中、符号504は、標本205を透過してきた光束から、標本205から発生したCARS光を選択的に通過させるためのショートパスフィルター、符号505はバンドパスフィルターである。
【0075】
また、レーザ顕微鏡装置2は、光束分離部501によって分離された標本205から戻ってくる光束から特定の直線偏光の光束を取り出すためのアナライザー(直線偏光抽出部)210と、アナライザー210を通過した光束から、複屈折プリズム503によって互いに直交した2つの直線偏光に分割された光束の波長を選択的に取り出すためのバンドパスフィルター506と、バンドパスフィルター506を通過した光束を検出するための第2の検出部302とを備えている。
【0076】
また、レーザ顕微鏡装置2は、アナライザー210を通過した光束から観察面以外からの不所望な光を排除するための共焦点ピンホールを備えていてもよい。共焦点光学系を採用することで、観察面近傍を外れた部位からの反射光と散乱光や、光学系中の光学素子からの反射光など、観察面以外からの不所望な光は共焦点ピンホールで遮断される。これによってノイズを抑えて標本の微細構造を観察することができる。
【0077】
また、レーザ顕微鏡装置2は、第1の検出部301と第2の検出部302とによって検出された情報と、二次元走査部201から得られる光スポットの位置情報(走査情報)とに基づいて標本205の観察面の画像を形成する画像処理部401と、形成された画像を表示する表示部402とを備えている。
【0078】
上記のように構成されたレーザ顕微鏡装置2の作用について以下に説明する。
まず、本実施形態に係るレーザ顕微鏡装置2を使用して、CARS光による標本205の観察を行う場合については、第1の実施形態で説明した通りである。
【0079】
本実施形態に係るレーザ顕微鏡装置2を使用して、標本205から発生するCARS光の観察と標本205のDIC像の観察を同時に行う場合の、DIC像の観察について以下に説明する。CARS光の観察については、上述のとおりである。
【0080】
標本205から発生するCARS光の観察と同時に、標本205のDIC像を観察する場合には、レーザ顕微鏡装置2にポラライザー104と複屈折プリズム503とが配置された状態で使用する。
【0081】
複屈折プリズム503の向きは、二次元走査部201を通過した光束L3のうち、光束L1’と光束L2’の少なくともどちらか一方が、2つの光束に分割されないように調節される。ポラライザー104は、光束L1’と光束L2’のどちらか一方だけが複屈折プリズム503によって2つの光束に分割されるように調整される。分割された2つの光束は空間的に分離しており、それらの偏光成分は互いに直交する。分割された2つの光束は対物レンズ203によって収束されて標本205面上に集光され、二次元走査部201によって走査される。
【0082】
標本205で反射された2つの光束は対物レンズ203を通って複屈折プリズム503に戻り、複屈折プリズム503によって1つの光束に結合される。複屈折プリズム503からの光束は偏向ミラー502で反射されて二次元走査部201を通過し、光束分離部501を部分的に透過する。光束分離部501を透過した光束はアナライザー210に入射する。アナライザー210はポラライザー104を透過する直線偏光に直交する直線偏光を選択的に透過する。アナライザー210を透過した光束は、第2の検出部302により検出される。そして、第2の検出部302によって検出された情報と二次元走査部201から得られる光スポットの位置情報(走査情報)とに基づいて、標本205の観察面の画像を画像処理部401で形成し、表示部402により形成された画像を表示することができる。画像処理部401は、二次元走査部201の連続駆動により、繰り返し同じ観察領域から二次元的な画像情報を得て、時系列な動画情報を形成して表示部402に表示(上映)させることもできる。
【0083】
上述のように、本実施形態に係るレーザ顕微鏡装置2によれば、複屈折プリズム503によって分割された互いに直交する2つの直線偏光の光束を用いて、標本205のDIC像を観察することができる。
【0084】
また、アナライザー210を通過した光束から観察面以外からの不所望な光を排除するための共焦点ピンホールを備えた場合には、標本面と共役な位置に配置された共焦点ピンホールを持つ共焦点光学系であるため、観察面近傍を外れた部位からの反射光と散乱光や、光学系中の光学素子からの反射光など、観察面以外からの不所望な光が遮断される。これによって、明視野観察のような通常の顕微鏡観察ではノイズに埋もれてしまっていた標本の微細構造の情報を取得できるようになる。また、点光源としてのレーザ光を対物レンズによって絞り標本に照射し、発生した光を同じ対物レンズによって結像し、共焦点ピンホールを通して焦点面からの光だけを検出する。従って、光束を二回絞って像を得るので、通常の顕微鏡観察より平面空間分解能は約1.4倍優れている。
【0085】
ここで、標本から発生するCARS光について、CARS光観察とDIC観察を同時に行った場合に起こり得るCARS光強度の低下と、本実施形態におけるCARS光強度の低下防止の作用効果について説明する。
【0086】
第1の実施形態に係るレーザ顕微鏡装置1と同様に、本実施形態に係るレーザ顕微鏡装置2によれば、ストークス光のみが互いに直交した2つの直線偏光の光束に分割されるように調節することが可能である。図2(b)のようにx軸から45度傾いたストークス光を、複屈折プリズムによってそれぞれ2つの光束に分割して標本に集光した場合に発生するCARS光の強度を計算すると、I’CARSの2倍になる。すなわち、ICARSと比較した時のCARS光強度の低下を2分の1に抑えることができる。
【0087】
次に、CARS光観察とDIC観察を同時に行った場合に生じる、CARS光観察の空間分解能の低下について説明する。
【0088】
第1の実施形態に係るレーザ顕微鏡装置1と同様に、本実施形態に係るレーザ顕微鏡装置2によれば、ストークス光のみが互いに直交した2つの直線偏光の光束に分割されるように調節することが可能である。よって、ストークス光のみが標本上で2つの光スポットを形成し、ポンプ光は1つの光スポットしか形成しない。これにより、ポンプ光とストークス光のそれぞれが互いに直交した2つの直線偏光に分割されることによるCARS光観察の空間分解能の低下を回避することができる。これにより、CARS光観察とDIC観察の両方を行う際に、同一の場所を同時に検出することが可能になるという利点を有する。同一の場所を同時に検出できるということは、とくに生体のように多様な動きを示す試料を画像化する場合や光走査の過程で走査速度が変化するような場合であっても、CARS光観察像とDIC観察像とを時間的且つ空間的に完全に一致することから、観察領域全体について鮮明な重ね表示が可能になるという格段の効果も奏する。
【0089】
以上のように、本実施形態に係るレーザ顕微鏡装置2によれば、CARS光の発生効率の低下を抑え、空間分解能を低下させることなく、同じ場所についてCARS光観察とDIC観察を同時に行うことができる。さらに、DIC観察を落射型で行うことによって、DIC観察の空間分解能を高めることができる。
【0090】
以上、本発明の各実施形態について図面を参照して詳述してきたが、具体的な構成はこの実施形態に限られるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲の設計変更等も含まれる。
【0091】
例えば、特開2010−96667に開示されているように、パルス光源101にフェムト秒パルスレーザ光源を用い、第1の光路001にフェムト秒パルスレーザ光源から射出された光束の周波数分散量を調節する周波数分散調節手段を設け、第2の光路002に周波数変換手段と遅延光路とを設けてもよい。ここで、周波数分散調節手段は、例えば、相互の間隔を調節可能な一対のプリズムと、ミラーとを備えているのが好ましく、さらに一対のプリズムを通過した光束は、ミラーによって折り返された後に再度プリズム対を通過し同一の光路上に戻されるようになっているのが好ましい。この場合に、プリズムの間隔を調節することにより、周波数分散調節手段を通過する光束に与える周波数分散量を調節することができるようになっている。また、上記一対のプリズムの代わりに一対の回折格子を用いてもよい。
【0092】
また、周波数分散調節手段によって周波数分散量を調節する代わりに、バンドパスフィルターを用いてフェムト秒パルスレーザ光源から射出される光束の帯域を制限してもよい。この場合、周波数変換手段は、例えば、フォトニッククリスタルファイバーで構成される。フォトニッククリスタルファイバーは、通過させる光束の周波数帯域を変更または拡大し、光路001,002を導光されるパルスレーザ光L1,L2’に標本中の分子の特定の振動周波数に略等しい周波数差を与えるようになっていることが好ましい。
【0093】
また、二次元走査部は、それ自身の構成として、または別の走査部をさらに追加することにより、、試料の深さ方向の異なる位置に照射光の焦点を移動させる構成を有していてもよく、それにより三三次元の画像も得るようにしてもよい。
【符号の説明】
【0094】
L1,L2,L3,L4,L1’,L2’,L4’ 光束
100 光源部
101 パルス光源
102 遅延光路
103 光パラメトリック発振器(OPO)
104 ポラライザー(直線偏光調整部)
105 レーザコンバイナー(合波部)
201 二次元走査部
202 複屈折プリズム(光束分割部)
203 対物レンズ(集光部)
204 ステージ
205 標本
206 集光レンズ
207 ダイクロイックミラー(光束分離部)
208, 211, 505, 506 バンドパスフィルター
209 複屈折プリズム(光束合成部)
210 アナライザー(直線偏光抽出部)
301 第1の検出部
302 第2の検出部
401 画像処理部
402 表示部
501 光束分離部
502 偏向ミラー
503 複屈折プリズム(光束分割合成部)
504 ショートパスフィルター


【特許請求の範囲】
【請求項1】
CARS信号とDIC信号を同時に検出するレーザ顕微鏡装置であって、
互いに波長が異なる第1の光束および第2の光束を発生させる光源部と、
前記2つの光束を合波する合波部と、
前記2つの光束を合波部に導光する2つの光路の少なくとも一方に設けられ、直線偏光の光束を作り出す直線偏光調整部と、
標本に形成される光スポットを走査する二次元走査部と、
光束を偏光成分に従って2つの光束に分割する光束分割部と、
合波された光束を標本に集光する集光部と、
標本から得られる光束のうち、前記光束分割部によって2つの光束に分割された光束を合成する光束合成部と、
合成された光束から特定の直線偏光の光束を取り出す直線偏光抽出部と、
第1の光束と第2の光束の少なくとも一方を分離する光束分離部と、
CARS信号を検出するための第1の検出部と、
DIC信号を検出するための第2の検出部と、
該第1の検出部および第2の検出部によって検出された情報と前記二次元走査部から得られる光スポットの位置情報とに基づいて、標本内の観察面の画像を形成する画像処理部と
を備えるレーザ顕微鏡装置。
【請求項2】
請求項1であって、前記光束分割部と前記光束合成部の代わりに、光束を偏光成分に従って2つの光束に分割するとともに標本から戻ってくる光束を合成する光束分割合成部と、標本から戻って該光束分割合成部で合成された光束を分離する光束分離部とを備えており、前記第2の検出部が落射型に配置されているレーザ顕微鏡装置。
【請求項3】
請求項1〜2のいずれかひとつにおいて、前記光束分離部が、分離比が入射光の偏光に依存しない光束分離部である、レーザ顕微鏡装置。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2013−3204(P2013−3204A)
【公開日】平成25年1月7日(2013.1.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−131327(P2011−131327)
【出願日】平成23年6月13日(2011.6.13)
【出願人】(000000376)オリンパス株式会社 (11,466)
【Fターム(参考)】