レーダー装置
【課題】レーザーレーダ装置は、観測対象領域に対しビーム方向を走査し計測を行うが、高いSNRが取れず誤検出等による画像劣化補償に画像の平滑化を行うメディアン手法を用いるので、目標物の細かい形状復元が難しい。
【解決手段】アレー状に配置された放出・検出素子からのレーザービームをビーム走査部でビームの向きを往復走査して空間へ放射し、目標物で反射されたレーザービームを放出・検出素子で検出して目標物までの距離を計測するレーダー装置であって、異なるビーム走査によって得られる複数の画像データを画像格納部に格納し、目標物までの距離の基準値を基準値設定部で設定し、同じ領域を異なるビーム走査により観測して得られる複数のデータと上記基準値をデータ比較部で比較して、その比較結果からデータ決定部で決定・出力した画像データを出力格納部に格納する。
【解決手段】アレー状に配置された放出・検出素子からのレーザービームをビーム走査部でビームの向きを往復走査して空間へ放射し、目標物で反射されたレーザービームを放出・検出素子で検出して目標物までの距離を計測するレーダー装置であって、異なるビーム走査によって得られる複数の画像データを画像格納部に格納し、目標物までの距離の基準値を基準値設定部で設定し、同じ領域を異なるビーム走査により観測して得られる複数のデータと上記基準値をデータ比較部で比較して、その比較結果からデータ決定部で決定・出力した画像データを出力格納部に格納する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、ビーム状電磁波を用いて物体までの距離を測定するレーダー装置に関し、特に距離情報等の画像の劣化を補償する技術に関するものである。
【背景技術】
【0002】
遠隔点に存在する物体の位置を計測するものとして、レーダー装置が知られている。レーダー装置は電磁波や音波などの波動を空間に放射し、対象となる物体で反射された波動を受信し、その信号を解析することにより、レーダー装置から物体までの距離や角度を計測する。物体の距離は、例えば放射する電磁波にパルス変調を施し、放射した送信パルスと物体からの反射波である受信パルスが受信されるまでの時間差により計測することができる。
【0003】
また、放射する電磁波をビーム状とし、この送信ビームの角度を走査しながら計測すれば、異なる角度方向の観測が可能となる。特に電磁波として光を用いるレーザーレーダーは、放射するビームの広がりが極めて小さいペンシルビームであり、高い角度分解能で物体を観測することが可能である。そのため、例えば、多次元距離画像の計測に利用されている。そのようなペンシルビームを用いた距離の測定として「レーザーハンドブック」(非特許文献1)に記載のようなものがある。しかし、ペンシルビームを用いた距離の測定としてのレーザーレーダーはビーム幅が狭いことによる、観測周期(フレーム周期)が長い、視野が狭いといった問題点がある。
【0004】
このようなビーム幅が狭いことによる、観測周期(フレーム周期)が長い、視野が狭いといった問題点に対しては、例えば、アレー状に配置した複数の検知素子を用いることで改善が図られている。このような技術には、例えば特開2005−331273号公報(特許文献1)に記載のものがある。
以上のように、ビーム走査を行うレーダー装置では、通常、ビームの向きを、観測対象領域に対して往復走査、もしくは、往路のみまたは復路のみの一方向走査を繰り返すことにより、所定の領域の計測が行われている。
【0005】
上記のような観測をした場合、目標物、アンテナ間の距離はレーザーレーダー処理装置では、大気減衰等によって高いSNR(Signal to Noise Ratio)が取れない場合が多く、その際には誤検出等による画像劣化が発生する。誤検出とは、目標物からの反射波の電力ピークよりも雑音レベルの方が高くなった場合に発生し、正しい距離の測定ができない場合を示す。
【0006】
【特許文献1】特開2005−331273号公報
【非特許文献1】レーザー学会/編,「レーザーハンドブック」,オーム社2005年4月、p559−561
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
高いSNRが取れないための誤検出等による画像劣化の発生に対する補償方式としてメディアンといった手法が用いられてきた。しかし、この手法では画像の平滑化を行っているため、目標物体の細かい形状を復元することは難しい。
【0008】
この発明は、上記のような問題を解決するためになされたもので、距離情報等の画像の劣化を補償することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
この発明に係るレーダー装置は、
ビーム状の波動を空間へ放射し、空間の目標物に反射されたビーム状波動を検出する複数の放出・検出素子がアレー状に配置されたビーム放射部と、ビーム放射部が放射するビームの向きを往復走査するビーム走査部を備え、上記目標物までの距離を計測するレーダー装置であって、異なるビーム走査によって得られる複数の画像データを格納する画像格納部と、目標物までの距離の基準値を設定する基準値設定部と、同じ領域を異なるビーム走査により観測して得られる複数のデータと基準値設定部の設定する基準値を比較するデータ比較部と、データ比較部の比較結果から画像データを決定し出力するデータ決定部と、データ決定部の結果を格納する出力格納部を備える。
【発明の効果】
【0010】
この発明に係るレーダー装置によれば、同じ観測領域を異なるビーム走査により観測して複数のデータを得、別途設定した目標物までの距離の基準値と比較して基準値との差が最も小さいデータを観測データと用いるので、距離情報等の画像の劣化を補償し、最終的に得られる画像の精度が向上する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
実施の形態1.
この発明の実施の形態1によるビーム走査は、ビーム方向を所定観測範囲に対して往復走査させることで、観測範囲の計測を行う。その際、各走査における観測領域には重複観測する画素が存在することを前提とし、その模擬図を図1に示す。図1は、本実施の形態1によるアレー素子が1列にn個配列されたレーダー装置が搭載されたプラットフォームが矢印V方向にアレー画素の1画素幅の半分づつ移動する毎に画素数と同じ数n個の1列にされたビームを放射する。この動作をm/2回繰り返すと、レーダー装置が搭載されたプラットフォームは、元の方向(矢印Vと反対方向)に1画素幅の半分づつ移動し、この移動毎に1列にされた画素nと同じ数のnビームを放射しながら移動する。
【0012】
ビーム走査の方法はこれに限ったものではなく、地表または目標物を観測することができ、各走査間に重複部が存在する方法であればよい。また、レーダー装置がを搭載されたプラットフォームの高度をL(m)とし、距離分解能をdh(m)とする。プラットフォームの進行方向をアレー素子方向、このアレー素子方向と垂直な方向をスキャン方向とする。その際、アレー状に配置した複数の検知素子を用いて地表または目標物を複数点観測する。各パルスアレー送受信によって観測される領域全体をアレー画素列とする。その簡易図を図2に示す。アレー素子はn個あるとし、それに伴う観測点(アレー画素)はn点観測できるとする。さらに、各アレー画素への照射伏角はθ(n)で表され、θ(n)は既知であるとすると、平地への視線方向の距離D(n)は式1で表される。
【0013】
【数1】
【0014】
また、アレー画素間隔Pは式2で表される。
【0015】
【数2】
【0016】
しかし走査方法、使用環境等は図1、図2と限ったものではない。本実施の形態では説明の簡易化のためこのような状況を仮定したが、目標または地表等を観測できる環境ならばよく、また、式1、2に関してもプラットフォームと観測地点またはアレー画素間隔を表す式ならばこれ等の式を用いる必要はない。図2で表されるアレー素子がn個幅のビームを放射し、図1のように往復走査し、観測データを用いてレーダー画像を得る。
以下、本実施の形態においては、観測されるデータを画像データとし、画像データには距離の情報が入っているものとする。画素の値として距離の情報以外のものが入っている場合においても有効である。また、この同観測領域を持つN枚のレーダー画像においてそれぞれの画素の位置合わせは完了しているものとし、画像合成処理が行われているものとする。
【0017】
図3は各方向の名称と、得られる画像の簡易図で、アレー素子方向はn画素、スキャン方向はm画素のn×m画素のレーダー画像が作成されるとする。また、各画素に格納されている画素値は距離D(n,m)とする。
【0018】
図4はこの発明の実施の形態1による画像処理部分の構成を示すブロック図である。画像格納部1は異なる走査よって観測されたN枚の画像を合成したものを格納し、出力格納部3は制御部2の出力を格納する。本実施の形態では説明の簡易化のためにN=2として説明する。制御部2では各画素に入る値に対して判定を行い、正しい値を出力格納部3に格納する。制御部2の機能として、まず、重複画素において2つの距離データのうちどちらを選択するかを制御する。その際、基準となる距離値(基準値)を用いて判別を行う。基準値設定部21がその基準値を設定する。次に、基準値設定部21で設定された、その基準値を用いてどちらの画素データが有効かをデータ比較部22にて比較する。その比較結果を踏まえて対象画素にどのようなデータを格納するかをデータ決定部23にて決める。
【0019】
基準値設定部21における基準値の設定方法ついて説明する。
ユーザが基準値設定部21を用いて所定の基準値に定め、この基準値を用いてデータ比較部22にて比較する。
また、他の方法として、図5に示す処理を行うようなものがある。ステップST200では、観測されたレーダー画像内のターゲット(目標)の画像データと自らが予め保持しているデータベースの画像データとを読込、その比較を行い(ST200)、そのデータベースの画像データを参照することによって基準値を設定し、読み込む(ST210)。
【0020】
また、基準値設定部21おける基準値の設定方法についてデータベースを用いるものの他に、スキャン方向上から下へ向かって基準値を設定していく方法もある。その模擬図を図6に示す。アレー画素列(m)の基準値を設定する際にアレー画素列(m-1)にある各画素の値の平均値を用いる。アレー画素列(m-1)にある各画素の値の平均値を求めるには、アレー画素列(m-1)にある各画素全ての値を用いるだけでなく、アレー画素列(m-1)にある画素1つおきの値、あるいは2つおきの値の平均値であってもよい。この平均値はアレー画素列(m)の中心の画素の基準値に相当し、アレー画素列(m)の各画素はこの基準値を基に設定する方法もある。これをデータ比較部22に渡す。ちなみに、アレー画素列(m-1)の各画素の値は補償を行った後、すなわちデータ決定部23で決定された後の値を用いるか補償前、すなわちデータ決定部23で決定される前の値を用いるかは自由に決定することが可能である。
【0021】
また、基準値設定部21における基準値の設定で、アレー画素列(m)の基準値を求める際にアレー画素列(m-1)のみではなく、アレー画素列(m-1)〜アレー画素列(1)の中の複数のアレー画素列の画素値を用いることも可能である。
【0022】
さらに、基準値設定部21おける基準値の設定方法について説明する。まず、各画素の基準値をB(n,m)とする。上記の手法においてアレー画素列の中心画素の基準値B(n/2,m)を設定した後、既知である伏角θと式(2)を用い、さらに式(3)を用いて基準距離を算出する。各アレー画素の隣接画素の距離は式(3)で決まっているため、アレー中心画素の基準値さえわかれば同アレー列上の他のアレー画素の基準値を設定することが可能となる。例として、B(n/2,m)の1画素プラットフォーム側の画素の基準値を求めたい場合、
【0023】
【数3】
【0024】
で求められる。ただし、算出に式(3)を用いたがこれを用いる必要はなく、各アレー画素の理論的な視線方向の距離を算出することのできる式ならば他の式を用いてもよい。
【0025】
基準値設定部21における基準値の設定方法について、上記手法のほかにも各画素に基準値が設定されている場合、B(1,m)とB(n,m)の値をH/W信号検出部4(アレー状に配置されたビーム放射部)へフィードバックさせる方法もある。その構成図を図7に示す。本手法の理想とする実施の形態では、アナログピーク検出を想定している。次に観測されるアレー画素の距離または時間のおおよその値が既知となることにより、その周辺のピーク検出をさせることができる。その効果として、誤検出発生確率を下げる効果が想定される。ただし、基準値ではなく、アレー画素に格納されている値D(1,m),D(n,m)の値も可能であり、H/W信号検出部4(アレー状に配置されたビーム放射部)において参照できる値のフィードバックならばどのような値でもよい。
【0026】
また、基準値設定部21における基準値の方法について、図8に表すように基準値を設定したい画素3000を囲むウィンドウ5100内の画素値を用いて設定することもできる。その設定方法として、ウィンドウ5100内の画素値の平均値をとる等といった手法がある。このウィンドウ5100の大きさは可変である。
【0027】
データ比較部22の処理について説明する。
基準値設定部21で基準値を設定した後、データ比較部22でデータ重複部領域において、基準値設定部21で設定された基準値を用いてデータの選別を行う。その処理フローを図9に示す。上述したように、この発明は同一領域を観測した画素についての補償方式である。そのため、まず、同一領域を観測した画像データ1と画像データ2があるとする。基準値設定部21にて設定された基準値を読込む(ST500)。次に画像データ1と画像データ2を読込む(ST510)。基準値設定部21にて設定された基準値と、画像データ1および画像データ2の差をとる(ST520)。その2つの差分データを比較し、差分が小さい方の画像データをその画素の値として採用し、画像出力部に一時格納する (ST530)。
【0028】
データ決定部23の処理について説明する。
データ決定部23の処理フロー図を図10に示す。データ決定部23ではまず、有効範囲閾値を設定する(ST600)。次にデータ比較部22の比較結果を読み込み(ST610)、その比較結果が有効範囲閾値内か否かを判定(ST620)する。比較結果が有効範囲閾値内であった場合はそのままステップST640へ移行し出力格納部3に格納するが、そうでない場合は画像データ作成処理(ST630)へと処理が遷る。この処理は、画像データが悪性のものでないかどうかを判別する効果があり、悪性のデータが与える画像劣化の影響を軽減するためのものである。
有効範囲閾値の値についてはユーザによる設定やデータベースの使用、その他の画素の値を用いる等、適切な値を得られるものならばよい。
【0029】
データ作成処理について下記に述べる。図11のように悪性データ画素4000が存在した場合、悪性データ画素4000の周囲にウィンドウ5200を設定し、その周囲画素の値の平均を悪性データ画素4000に代入する。その他にもメディアン処理といった手法や、悪性データ画素4000の値を0にするといった方法もある。他にも悪性データ画素4000に対して違うデータを代入し、画像劣化を抑える効果があるものならばよい。
【0030】
以上のように、重複画素において存在する有効なデータを自動で選択し、また、両者共に悪性であった場合の処理を行うことによって、最終的に得られる画像の精度が向上する可能性がある。また、処理中のデータをH/Wへフィードバックすることによって、H/Wの処理速度を向上させることも可能となる。
【産業上の利用可能性】
【0031】
この発明によるレーダー装置は、例えば航空機等に搭載され、地表の気象状況を観測するレーダー等に利用される可能性がある。
【図面の簡単な説明】
【0032】
【図1】重複観測画素が存在するよう所定観測範囲に対しビーム方向を往復走査させて計測を行うときの模擬図である。
【図2】パルスアレー送受信により観測領域全体をアレー画素列とする説明用簡易図である。
【図3】観測方向の名称と得られる画像の簡易図である。
【図4】この発明の実施の形態1による画像処理部分の構成を示すブロック図である。
【図5】基準値設定部の処理フロー図である。
【図6】基準値設定部において基準値をスキャン方向上から下へ向って設定ときの模擬図である。
【図7】画像処理装置の他の構成を示すブロック図である。
【図8】基準値設定部における基準値設定例の説明図である。
【図9】データ比較部における処理フロー図である。
【図10】データ決定部の処理フロー図である。
【図11】データ作成処理の動作説明図である。
【符号の説明】
【0033】
1;画像格納部、2;制御部、3;出力格納部、21;基準値設定部、22;データ比較部、23;データ決定部、4;H/W信号検出部。
【技術分野】
【0001】
この発明は、ビーム状電磁波を用いて物体までの距離を測定するレーダー装置に関し、特に距離情報等の画像の劣化を補償する技術に関するものである。
【背景技術】
【0002】
遠隔点に存在する物体の位置を計測するものとして、レーダー装置が知られている。レーダー装置は電磁波や音波などの波動を空間に放射し、対象となる物体で反射された波動を受信し、その信号を解析することにより、レーダー装置から物体までの距離や角度を計測する。物体の距離は、例えば放射する電磁波にパルス変調を施し、放射した送信パルスと物体からの反射波である受信パルスが受信されるまでの時間差により計測することができる。
【0003】
また、放射する電磁波をビーム状とし、この送信ビームの角度を走査しながら計測すれば、異なる角度方向の観測が可能となる。特に電磁波として光を用いるレーザーレーダーは、放射するビームの広がりが極めて小さいペンシルビームであり、高い角度分解能で物体を観測することが可能である。そのため、例えば、多次元距離画像の計測に利用されている。そのようなペンシルビームを用いた距離の測定として「レーザーハンドブック」(非特許文献1)に記載のようなものがある。しかし、ペンシルビームを用いた距離の測定としてのレーザーレーダーはビーム幅が狭いことによる、観測周期(フレーム周期)が長い、視野が狭いといった問題点がある。
【0004】
このようなビーム幅が狭いことによる、観測周期(フレーム周期)が長い、視野が狭いといった問題点に対しては、例えば、アレー状に配置した複数の検知素子を用いることで改善が図られている。このような技術には、例えば特開2005−331273号公報(特許文献1)に記載のものがある。
以上のように、ビーム走査を行うレーダー装置では、通常、ビームの向きを、観測対象領域に対して往復走査、もしくは、往路のみまたは復路のみの一方向走査を繰り返すことにより、所定の領域の計測が行われている。
【0005】
上記のような観測をした場合、目標物、アンテナ間の距離はレーザーレーダー処理装置では、大気減衰等によって高いSNR(Signal to Noise Ratio)が取れない場合が多く、その際には誤検出等による画像劣化が発生する。誤検出とは、目標物からの反射波の電力ピークよりも雑音レベルの方が高くなった場合に発生し、正しい距離の測定ができない場合を示す。
【0006】
【特許文献1】特開2005−331273号公報
【非特許文献1】レーザー学会/編,「レーザーハンドブック」,オーム社2005年4月、p559−561
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
高いSNRが取れないための誤検出等による画像劣化の発生に対する補償方式としてメディアンといった手法が用いられてきた。しかし、この手法では画像の平滑化を行っているため、目標物体の細かい形状を復元することは難しい。
【0008】
この発明は、上記のような問題を解決するためになされたもので、距離情報等の画像の劣化を補償することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
この発明に係るレーダー装置は、
ビーム状の波動を空間へ放射し、空間の目標物に反射されたビーム状波動を検出する複数の放出・検出素子がアレー状に配置されたビーム放射部と、ビーム放射部が放射するビームの向きを往復走査するビーム走査部を備え、上記目標物までの距離を計測するレーダー装置であって、異なるビーム走査によって得られる複数の画像データを格納する画像格納部と、目標物までの距離の基準値を設定する基準値設定部と、同じ領域を異なるビーム走査により観測して得られる複数のデータと基準値設定部の設定する基準値を比較するデータ比較部と、データ比較部の比較結果から画像データを決定し出力するデータ決定部と、データ決定部の結果を格納する出力格納部を備える。
【発明の効果】
【0010】
この発明に係るレーダー装置によれば、同じ観測領域を異なるビーム走査により観測して複数のデータを得、別途設定した目標物までの距離の基準値と比較して基準値との差が最も小さいデータを観測データと用いるので、距離情報等の画像の劣化を補償し、最終的に得られる画像の精度が向上する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
実施の形態1.
この発明の実施の形態1によるビーム走査は、ビーム方向を所定観測範囲に対して往復走査させることで、観測範囲の計測を行う。その際、各走査における観測領域には重複観測する画素が存在することを前提とし、その模擬図を図1に示す。図1は、本実施の形態1によるアレー素子が1列にn個配列されたレーダー装置が搭載されたプラットフォームが矢印V方向にアレー画素の1画素幅の半分づつ移動する毎に画素数と同じ数n個の1列にされたビームを放射する。この動作をm/2回繰り返すと、レーダー装置が搭載されたプラットフォームは、元の方向(矢印Vと反対方向)に1画素幅の半分づつ移動し、この移動毎に1列にされた画素nと同じ数のnビームを放射しながら移動する。
【0012】
ビーム走査の方法はこれに限ったものではなく、地表または目標物を観測することができ、各走査間に重複部が存在する方法であればよい。また、レーダー装置がを搭載されたプラットフォームの高度をL(m)とし、距離分解能をdh(m)とする。プラットフォームの進行方向をアレー素子方向、このアレー素子方向と垂直な方向をスキャン方向とする。その際、アレー状に配置した複数の検知素子を用いて地表または目標物を複数点観測する。各パルスアレー送受信によって観測される領域全体をアレー画素列とする。その簡易図を図2に示す。アレー素子はn個あるとし、それに伴う観測点(アレー画素)はn点観測できるとする。さらに、各アレー画素への照射伏角はθ(n)で表され、θ(n)は既知であるとすると、平地への視線方向の距離D(n)は式1で表される。
【0013】
【数1】
【0014】
また、アレー画素間隔Pは式2で表される。
【0015】
【数2】
【0016】
しかし走査方法、使用環境等は図1、図2と限ったものではない。本実施の形態では説明の簡易化のためこのような状況を仮定したが、目標または地表等を観測できる環境ならばよく、また、式1、2に関してもプラットフォームと観測地点またはアレー画素間隔を表す式ならばこれ等の式を用いる必要はない。図2で表されるアレー素子がn個幅のビームを放射し、図1のように往復走査し、観測データを用いてレーダー画像を得る。
以下、本実施の形態においては、観測されるデータを画像データとし、画像データには距離の情報が入っているものとする。画素の値として距離の情報以外のものが入っている場合においても有効である。また、この同観測領域を持つN枚のレーダー画像においてそれぞれの画素の位置合わせは完了しているものとし、画像合成処理が行われているものとする。
【0017】
図3は各方向の名称と、得られる画像の簡易図で、アレー素子方向はn画素、スキャン方向はm画素のn×m画素のレーダー画像が作成されるとする。また、各画素に格納されている画素値は距離D(n,m)とする。
【0018】
図4はこの発明の実施の形態1による画像処理部分の構成を示すブロック図である。画像格納部1は異なる走査よって観測されたN枚の画像を合成したものを格納し、出力格納部3は制御部2の出力を格納する。本実施の形態では説明の簡易化のためにN=2として説明する。制御部2では各画素に入る値に対して判定を行い、正しい値を出力格納部3に格納する。制御部2の機能として、まず、重複画素において2つの距離データのうちどちらを選択するかを制御する。その際、基準となる距離値(基準値)を用いて判別を行う。基準値設定部21がその基準値を設定する。次に、基準値設定部21で設定された、その基準値を用いてどちらの画素データが有効かをデータ比較部22にて比較する。その比較結果を踏まえて対象画素にどのようなデータを格納するかをデータ決定部23にて決める。
【0019】
基準値設定部21における基準値の設定方法ついて説明する。
ユーザが基準値設定部21を用いて所定の基準値に定め、この基準値を用いてデータ比較部22にて比較する。
また、他の方法として、図5に示す処理を行うようなものがある。ステップST200では、観測されたレーダー画像内のターゲット(目標)の画像データと自らが予め保持しているデータベースの画像データとを読込、その比較を行い(ST200)、そのデータベースの画像データを参照することによって基準値を設定し、読み込む(ST210)。
【0020】
また、基準値設定部21おける基準値の設定方法についてデータベースを用いるものの他に、スキャン方向上から下へ向かって基準値を設定していく方法もある。その模擬図を図6に示す。アレー画素列(m)の基準値を設定する際にアレー画素列(m-1)にある各画素の値の平均値を用いる。アレー画素列(m-1)にある各画素の値の平均値を求めるには、アレー画素列(m-1)にある各画素全ての値を用いるだけでなく、アレー画素列(m-1)にある画素1つおきの値、あるいは2つおきの値の平均値であってもよい。この平均値はアレー画素列(m)の中心の画素の基準値に相当し、アレー画素列(m)の各画素はこの基準値を基に設定する方法もある。これをデータ比較部22に渡す。ちなみに、アレー画素列(m-1)の各画素の値は補償を行った後、すなわちデータ決定部23で決定された後の値を用いるか補償前、すなわちデータ決定部23で決定される前の値を用いるかは自由に決定することが可能である。
【0021】
また、基準値設定部21における基準値の設定で、アレー画素列(m)の基準値を求める際にアレー画素列(m-1)のみではなく、アレー画素列(m-1)〜アレー画素列(1)の中の複数のアレー画素列の画素値を用いることも可能である。
【0022】
さらに、基準値設定部21おける基準値の設定方法について説明する。まず、各画素の基準値をB(n,m)とする。上記の手法においてアレー画素列の中心画素の基準値B(n/2,m)を設定した後、既知である伏角θと式(2)を用い、さらに式(3)を用いて基準距離を算出する。各アレー画素の隣接画素の距離は式(3)で決まっているため、アレー中心画素の基準値さえわかれば同アレー列上の他のアレー画素の基準値を設定することが可能となる。例として、B(n/2,m)の1画素プラットフォーム側の画素の基準値を求めたい場合、
【0023】
【数3】
【0024】
で求められる。ただし、算出に式(3)を用いたがこれを用いる必要はなく、各アレー画素の理論的な視線方向の距離を算出することのできる式ならば他の式を用いてもよい。
【0025】
基準値設定部21における基準値の設定方法について、上記手法のほかにも各画素に基準値が設定されている場合、B(1,m)とB(n,m)の値をH/W信号検出部4(アレー状に配置されたビーム放射部)へフィードバックさせる方法もある。その構成図を図7に示す。本手法の理想とする実施の形態では、アナログピーク検出を想定している。次に観測されるアレー画素の距離または時間のおおよその値が既知となることにより、その周辺のピーク検出をさせることができる。その効果として、誤検出発生確率を下げる効果が想定される。ただし、基準値ではなく、アレー画素に格納されている値D(1,m),D(n,m)の値も可能であり、H/W信号検出部4(アレー状に配置されたビーム放射部)において参照できる値のフィードバックならばどのような値でもよい。
【0026】
また、基準値設定部21における基準値の方法について、図8に表すように基準値を設定したい画素3000を囲むウィンドウ5100内の画素値を用いて設定することもできる。その設定方法として、ウィンドウ5100内の画素値の平均値をとる等といった手法がある。このウィンドウ5100の大きさは可変である。
【0027】
データ比較部22の処理について説明する。
基準値設定部21で基準値を設定した後、データ比較部22でデータ重複部領域において、基準値設定部21で設定された基準値を用いてデータの選別を行う。その処理フローを図9に示す。上述したように、この発明は同一領域を観測した画素についての補償方式である。そのため、まず、同一領域を観測した画像データ1と画像データ2があるとする。基準値設定部21にて設定された基準値を読込む(ST500)。次に画像データ1と画像データ2を読込む(ST510)。基準値設定部21にて設定された基準値と、画像データ1および画像データ2の差をとる(ST520)。その2つの差分データを比較し、差分が小さい方の画像データをその画素の値として採用し、画像出力部に一時格納する (ST530)。
【0028】
データ決定部23の処理について説明する。
データ決定部23の処理フロー図を図10に示す。データ決定部23ではまず、有効範囲閾値を設定する(ST600)。次にデータ比較部22の比較結果を読み込み(ST610)、その比較結果が有効範囲閾値内か否かを判定(ST620)する。比較結果が有効範囲閾値内であった場合はそのままステップST640へ移行し出力格納部3に格納するが、そうでない場合は画像データ作成処理(ST630)へと処理が遷る。この処理は、画像データが悪性のものでないかどうかを判別する効果があり、悪性のデータが与える画像劣化の影響を軽減するためのものである。
有効範囲閾値の値についてはユーザによる設定やデータベースの使用、その他の画素の値を用いる等、適切な値を得られるものならばよい。
【0029】
データ作成処理について下記に述べる。図11のように悪性データ画素4000が存在した場合、悪性データ画素4000の周囲にウィンドウ5200を設定し、その周囲画素の値の平均を悪性データ画素4000に代入する。その他にもメディアン処理といった手法や、悪性データ画素4000の値を0にするといった方法もある。他にも悪性データ画素4000に対して違うデータを代入し、画像劣化を抑える効果があるものならばよい。
【0030】
以上のように、重複画素において存在する有効なデータを自動で選択し、また、両者共に悪性であった場合の処理を行うことによって、最終的に得られる画像の精度が向上する可能性がある。また、処理中のデータをH/Wへフィードバックすることによって、H/Wの処理速度を向上させることも可能となる。
【産業上の利用可能性】
【0031】
この発明によるレーダー装置は、例えば航空機等に搭載され、地表の気象状況を観測するレーダー等に利用される可能性がある。
【図面の簡単な説明】
【0032】
【図1】重複観測画素が存在するよう所定観測範囲に対しビーム方向を往復走査させて計測を行うときの模擬図である。
【図2】パルスアレー送受信により観測領域全体をアレー画素列とする説明用簡易図である。
【図3】観測方向の名称と得られる画像の簡易図である。
【図4】この発明の実施の形態1による画像処理部分の構成を示すブロック図である。
【図5】基準値設定部の処理フロー図である。
【図6】基準値設定部において基準値をスキャン方向上から下へ向って設定ときの模擬図である。
【図7】画像処理装置の他の構成を示すブロック図である。
【図8】基準値設定部における基準値設定例の説明図である。
【図9】データ比較部における処理フロー図である。
【図10】データ決定部の処理フロー図である。
【図11】データ作成処理の動作説明図である。
【符号の説明】
【0033】
1;画像格納部、2;制御部、3;出力格納部、21;基準値設定部、22;データ比較部、23;データ決定部、4;H/W信号検出部。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ビーム状の波動を空間へ放射し、空間の目標物に反射されたビーム状波動を検出する複数の放出・検出素子がアレー状に配置されたビーム放射部と、ビーム放射部が放射するビームの向きを往復走査するビーム走査部を備え、上記目標物までの距離を計測するレーダー装置であって、異なるビーム走査によって得られる複数の画像データを格納する画像格納部と、目標物までの距離の基準値を設定する基準値設定部と、同じ領域を異なるビーム走査により観測して得られる複数の画像データと基準値設定部の設定する基準値を比較するデータ比較部と、データ比較部の比較結果から画像データを決定し出力するデータ決定部と、データ決定部の結果を格納する出力格納部を備えたことを特徴とするレーダー装置。
【請求項2】
基準値設定部は、基準値を求める対象とする画素の基準値を予め用意されたデータベースより取り出して設定することを特徴とする請求項1記載のレーダー装置。
【請求項3】
基準値設定部は、基準値を求める対象とする画素の基準値をユーザの指定により設定することを特徴とする請求項1記載のレーダー装置。
【請求項4】
基準値設定部は、基準値を求める対象とする画素の周囲画素の基準値の平均を用いて算出し設定することを特徴とする請求項1記載のレーダー装置。
【請求項5】
基準値設定部は、ビーム走査するスキャン方向の時系列順にスキャン方向と垂直方向であるアレー素子方向の全ての素子に対し基準値を設定し、設定する基準値は、画像データが決定済みの1列前のアレー素子列の複数画素の画素値の平均値とすることを特徴とする請求項1記載のレーダー装置。
【請求項6】
基準値設定部は、ビーム走査するスキャン方向の時系列順にスキャン方向と垂直方向であるアレー素子方向の全ての素子に対し基準値を設定し、基準値の設定方法は、画像データが決定済みの1列前のアレー素子列の複数画素の画素値の平均値を、当該アレー素子列中心画素の基準値とし、この基準値を基に当該アレー素子列の各アレー素子に対して基準値を設定することを特徴とする請求項1記載のレーダー装置。
【請求項7】
データ比較部は、基準値設定部により設定された基準値とその画素を観測した複数の画素値との差をとり、その差が最も小さい画素値を選出する処理を行うことを特徴とする請求項2乃至6の何れか1項に記載のレーダー装置。
【請求項8】
データ決定部は、データ比較部の選出した基準値との差が一番少ない画像データを画素の値として、出力格納部に送出処理することを特徴とする請求項7に記載のレーダー装置。
【請求項9】
データ決定部は、当該画像データ画素値の有効範囲閾値をユーザにより設定し、データ比較部の選出した画像データの画素値が有効範囲閾値内のときは画像データを出力格納部に送り、有効範囲閾値外のときは代替画素値を算出し、算出した代替画素値を出力格納部に送ることを特徴とする請求項8記載のレーダー装置。
【請求項10】
データ決定部は、予め用意されたデータベースを用いて当該画像データ画素値の有効範囲閾値を設定し、データ比較部の選出した画像データの画素値が有効範囲閾値内のときは画像データを出力格納部に送り、有効範囲閾値外のときは代替画素値を算出し、算出した代替画素値を出力格納部に送ることを特徴とする請求項8記載のレーダー装置。
【請求項1】
ビーム状の波動を空間へ放射し、空間の目標物に反射されたビーム状波動を検出する複数の放出・検出素子がアレー状に配置されたビーム放射部と、ビーム放射部が放射するビームの向きを往復走査するビーム走査部を備え、上記目標物までの距離を計測するレーダー装置であって、異なるビーム走査によって得られる複数の画像データを格納する画像格納部と、目標物までの距離の基準値を設定する基準値設定部と、同じ領域を異なるビーム走査により観測して得られる複数の画像データと基準値設定部の設定する基準値を比較するデータ比較部と、データ比較部の比較結果から画像データを決定し出力するデータ決定部と、データ決定部の結果を格納する出力格納部を備えたことを特徴とするレーダー装置。
【請求項2】
基準値設定部は、基準値を求める対象とする画素の基準値を予め用意されたデータベースより取り出して設定することを特徴とする請求項1記載のレーダー装置。
【請求項3】
基準値設定部は、基準値を求める対象とする画素の基準値をユーザの指定により設定することを特徴とする請求項1記載のレーダー装置。
【請求項4】
基準値設定部は、基準値を求める対象とする画素の周囲画素の基準値の平均を用いて算出し設定することを特徴とする請求項1記載のレーダー装置。
【請求項5】
基準値設定部は、ビーム走査するスキャン方向の時系列順にスキャン方向と垂直方向であるアレー素子方向の全ての素子に対し基準値を設定し、設定する基準値は、画像データが決定済みの1列前のアレー素子列の複数画素の画素値の平均値とすることを特徴とする請求項1記載のレーダー装置。
【請求項6】
基準値設定部は、ビーム走査するスキャン方向の時系列順にスキャン方向と垂直方向であるアレー素子方向の全ての素子に対し基準値を設定し、基準値の設定方法は、画像データが決定済みの1列前のアレー素子列の複数画素の画素値の平均値を、当該アレー素子列中心画素の基準値とし、この基準値を基に当該アレー素子列の各アレー素子に対して基準値を設定することを特徴とする請求項1記載のレーダー装置。
【請求項7】
データ比較部は、基準値設定部により設定された基準値とその画素を観測した複数の画素値との差をとり、その差が最も小さい画素値を選出する処理を行うことを特徴とする請求項2乃至6の何れか1項に記載のレーダー装置。
【請求項8】
データ決定部は、データ比較部の選出した基準値との差が一番少ない画像データを画素の値として、出力格納部に送出処理することを特徴とする請求項7に記載のレーダー装置。
【請求項9】
データ決定部は、当該画像データ画素値の有効範囲閾値をユーザにより設定し、データ比較部の選出した画像データの画素値が有効範囲閾値内のときは画像データを出力格納部に送り、有効範囲閾値外のときは代替画素値を算出し、算出した代替画素値を出力格納部に送ることを特徴とする請求項8記載のレーダー装置。
【請求項10】
データ決定部は、予め用意されたデータベースを用いて当該画像データ画素値の有効範囲閾値を設定し、データ比較部の選出した画像データの画素値が有効範囲閾値内のときは画像データを出力格納部に送り、有効範囲閾値外のときは代替画素値を算出し、算出した代替画素値を出力格納部に送ることを特徴とする請求項8記載のレーダー装置。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【公開番号】特開2009−288128(P2009−288128A)
【公開日】平成21年12月10日(2009.12.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−142159(P2008−142159)
【出願日】平成20年5月30日(2008.5.30)
【出願人】(000006013)三菱電機株式会社 (33,312)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成21年12月10日(2009.12.10)
【国際特許分類】
【出願日】平成20年5月30日(2008.5.30)
【出願人】(000006013)三菱電機株式会社 (33,312)
【Fターム(参考)】
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