説明

レーダ信号処理装置

【課題】レーダ信号処理装置がクラッタを抑圧し目標検出するときに、誤警報率を低く一定に抑えつつ、信号処理負荷を低減し規模を抑制する。
【解決手段】受信信号は、コヒーレント積分を行なうCINT処理系31と、MTI(移動目標指示)処理を行なうMTI処理系32に分配される。受信ビデオ選択部17にて、例えば操作員が目標、クラッタ、信号処理負荷などの状況を考慮していずれかの処理系信号を選択する。CFAR処理を用いずに作成したクラッタマップデータ10を参照して目標検出するときに、対象がクラッタ領域のときはCFAR処理に、クラッタフリー領域のときは固定スレッショルド検定に切替える処理切替部11、12を備える。この結果、処理負荷が高く規模の増大に繋がるCFAR処理を、クラッタ領域のときに限定して実施することにより、信号処理負荷を低減し、誤警報率を低く抑えつつ装置規模を抑制できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、目標である航空機等の移動体を探知・追尾あるいは標定し、車、船舶等の移動局に搭載されたレーダの信号処理装置に関する。特に、パルスレーダにおいてS/N比を改善すると共にクラッタを抑圧するため、一定誤警報率(Constant False−Alarm Rate、CFAR)処理(以降、「CFAR処理」という。)を利用するレーダ信号処理装置に関する。
【背景技術】
【0002】
レーダ装置は、空間へ電波を放射し、放射した電波が目標に反射して戻ってくる反射電力を受信して目標の探知・追尾、あるいは標定を行なう。しかし、レーダ装置においては、目標の位置やレーダ装置周辺の地形、および気象状況によっては探知・追尾あるいは標定を行いたい航空機等の目標からの反射電力以外に、クラッタと呼ばれる不必要な反射物からの反射電力が受信される。クラッタには、雨、雪、雲などから反射されるウェザークラッタ、海面から反射されるシークラッタ、山・建物など陸上の固定物から反射される固定クラッタなどがある。
【0003】
クラッタの反射電力は、場合によっては本来の目標である航空機等からの受信電力に比べて非常に大きい場合があり、反射電力の大きさから目標とクラッタを識別することは困難であり、レーダ信号処理装置はクラッタまでも目標として処理し探知・追尾あるいは標定することとなる。このような状況を回避する為に、従来のレーダ信号処理装置は覆域内にクラッタが多く存在するときにはドップラ効果を利用して移動目標のみを抽出する移動目標指示(Moving Target Indicator、MTI)処理(以降、「MTI処理」という。)を実施するよう構成されている。しかし、MTI処理は理論上パルスヒット数の減少、即ち受信電力の低下を招き、また目標の速度に対するブラインドを発生する為、クラッタの影響が小さいクラッタフリー領域ではMTI処理を実施せずに、コヒーレント積分(Coherent Integration、CINT)処理(以降、「CINT処理」という。)により受信信号処理している。
【0004】
また、レーダ装置はそれ自体が熱雑音に起因する受信機雑音を発生する。この受信機雑音に関してもその電力が一定のスレッショルドを越える大きさの場合には、レーダ信号処理装置は雑音を航空機同様の目標と誤って処理してしまう。これらクラッタあるいは受信機雑音による誤目標の発生確率を誤警報率(False−Alarm Rate、FAR)という。従来のレーダ信号処理装置において、この誤警報率を低く、かつ一定におさえる処理として、CFAR処理がある。CFAR処理には、注目するレンジセルの受信信号の前後のレンジセルの平均を算出し、この平均値に係数を乗じた値を注目するレンジセルの受信信号から減算して誤警報率を一定に保つセル平均一定誤警報率(Cell−Averaging Constant False−Alarm Rate、CA−CFAR)処理等がある。従来の信号処理装置では、このようなCFAR処理を備えるることで、誤警報率を低くかつ一定に保つことが可能である。
【0005】
例えば、特許文献1には、受信信号を、クラッタの影響が小さいクラッタフリー領域用の処理を行うノーマル系回路と、クラッタ領域用の処理を行うMTI系回路とに分配して信号処理し、クラッタ領域ではMTI系信号をクラッタフリー領域ではノーマル系信号を選択するビデオ選択回路を備える。パルス形状検定回路群、CFAR係数算出回路等を設け、捜索方位・仰角・捜索距離毎の信号振幅テーブル(以降、「クラッタマップ」という)の精度を向上させ、様々なドップラ周波数をもつクラッタの性質を目標と分離して認識することにより、クラッタのみを抑圧し検出確率および誤警報率を改善している信号処理装置が記載されている。
【0006】
また、特許文献2の場合は、受信信号を距離方向に2つに分配し信号処理している。クラッタマップを保持するときに、クラッタ領域についてデータを整数型で扱い小数点以下を切り捨てクラッタマップを圧縮する。この結果、クラッタマップの容量を削減し、装置内のクラッタマップ転送時間を短縮し、信号処理の規模を抑制している信号処理装置が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2000−230972号広報(第1−14頁、第1図)
【特許文献2】特開2008−070258号広報(第1−5頁、第1図)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
特許文献1に開示されたレーダ信号処理装置によれば、様々なドップラ周波数をもつクラッタの性質を目標と分離して認識することにより、クラッタのみを抑圧し検出確率および誤警報率を改善できるものの、装置規模については、計算規模の大きいCFAR処理をノーマル系回路およびMTI系回路共に備えているため、高い信号処理能力を要する大規模な信号処理装置となってしまうという問題点があった。また、特許文献2に開示されたレーダ信号処理装置によれば、クラッタマップを圧縮することにより、クラッタマップの容量を削減し、装置内のクラッタマップ転送時間を短縮し、信号処理の規模を抑制できるものの、誤警報率については、CFAR処理を採用せずにクラッタマップ情報に係数を乗算して検出スレッショルドを算出しているため、誤警報率が一定とはならないという問題点があった。
【0009】
本発明は、上述の問題点を解決する為になされたものであり、信号処理の負荷を低減し、装置規模を抑制しつつ、誤警報率を低くかつ一定に抑えるレーダ信号処理装置を得ることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明に係わるレーダ信号処理装置は、コヒーレント積分を行なうコヒーレント積分処理系(以降「CINT処理系」という。)と、MTI処理を行なうMTI処理系とに受信信号を分配する。受信ビデオ選択部は、例えば操作員により入力された選択入力信号に基づいて、いずれかの処理系の受信信号を選択する。また、CFAR処理を実施せずに算出した振幅情報に基づき、クラッタマップを作成する。保持されたクラッタマップデータを参照して目標検出するときは、対象領域がクラッタ領域のときのみにCFAR処理に切替える処理切替部を備える。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、処理負荷増大、装置規模増大に繋がるCFAR処理部を削減し、誤警報率が高くなりCFAR処理が必要となったときのみ、切換えてCFAR処理を実施することにより、誤警報率を低くかつ一定に保ちつつ、信号処理負荷を低減できる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本発明の実施の形態1に係るレーダ信号処理装置のブロック図。
【図2】本発明の実施の形態1におけるクラッタマップデータ作成部のフローチャート。
【図3】本発明の実施の形態1における処理切替部のフローチャート。
【図4】本発明の実施の形態1におけるCA−CFAR処理の説明図。
【図5】本発明の実施の形態2に係るレーダ信号処理装置のブロック図。
【図6】本発明の実施の形態3に係るレーダ信号処理装置のブロック図。
【図7】本発明の実施の形態4に係るレーダ信号処理装置のブロック図。
【発明を実施するための形態】
【0013】
実施の形態1.
図1は、本発明の実施の形態1に係り、例えば車載レーダ装置などに搭載されるレーダ信号処理装置を示すブロック図である。図において、まず、全体の概略構成を説明する。受信信号1はCINT処理系31とMTI処理系32に分配される。CINT処理系31は、簡易的にコヒーレント積分処理を行なう振幅算出処理部(1)33と目標検出処理部(1)36を有しており、MTI処理系32は、MTI処理を行なう振幅算出処理部(2)34と目標検出処理部(2)37を有している。
【0014】
振幅算出処理部(1)33は、FFT(1)処理部2と振幅算出(1)部3を有しており、ヒット間コヒーレント積分を行ない、ドップラバンク毎の受信信号に変換して、振幅情報を算出する。振幅算出処理部(2)34は、MTI処理部4、FFT(2)処理部5、ドップラフィルタ6、振幅算出(2)部7を有しており、受信信号からドップラ周波数帯の信号を除去するMTI処理を行ない、ドップラバンク毎の受信信号に対してフィルタ処理を実施して、振幅情報を算出する。クラッタマップデータ作成部35は、クラッタ検定部8、クラッタマップ作成部9、クラッタマップデータ10を有しており、振幅算出処理部(1)33から出力された振幅情報に基づきクラッタの有無を検定して、クラッタマップを作成し、当該データを保持する。
【0015】
目標検出処理部(1)36は、処理切替(1)部11、ドップラバンク毎のCFAR処理(1)部13、固定スレッショルド検定(1)処理部14を有しており、クラッタマップデータ10を参照して目標を検出する。目標検出処理部(2)37は、処理切替(2)部12、ドップラバンク毎のCFAR処理(2)部15、固定スレッショルド検定(2)処理部16を有しており、クラッタマップデータ10を参照して目標を検出する。受信ビデオ選択部17において、CINT処理系31またはMTI処理系32のいずれかの出力信号を、例えば操作員が手動選択する。
【0016】
本実施の形態1は、以上のように概略構成されている。更に図1を参照しながら、詳細を説明する。目標からの反射電波に対して周波数変換、A/D変換、I/Q検波処理等を実施された受信信号1は、簡易的にコヒーレント積分を行なうCINT処理系31とMTI処理を行なうMTI処理系32に分配される。CINT処理系31に分配された受信信号1は、FFT(1)処理部2によりヒット間コヒーレント積分が行われ、FFT処理されドップラバンク毎の受信信号に変換される。FFT(1)処理部2によりドップラバンク毎に変換された受信信号1に対し、振幅算出(1)部3は、各ドップラバンクにおけるレンジセル毎の振幅情報を算出する。
【0017】
MTI処理系32に分配された受信信号1は、MTI処理部4において、受信信号1からゼロドップラ信号が除去されて、ノンゼロドップラ信号が取り出される。これには、ウェザークラッタ、シークラッタ、固定クラッタの消え残り、及び目標からの反射信号が含まれている。取り出されたノンゼロドップラ信号は、FFT(2)処理部5により、ヒット間コヒーレント積分が行われ、FFT処理されドップラバンク毎の信号に変換される。変換された信号は、ドップラフィルタ6に送られドップラバンク毎にS/N比が向上される。振幅算出(2)部7は、S/N比が向上された信号に対して、各ドップラバンクにおけるレンジセル毎の振幅情報を算出する。
【0018】
次に、図2に示すフローチャートを参照しながら、クラッタマップデータ作成部35におけるクラッタマップ作成の手順を説明する。クラッタ検定部8は、振幅算出(1)部3により算出された受信信号の振幅情報を元に、一定距離間隔(一定レンジセル数)における入力振幅値の平均値と、あらかじめ設定されたスレッショルド値とを比較し、スレッショルド値を超える振幅値の時間軸方向(距離方向)への連続性等により、クラッタの有無を検定する(ステップS21)。クラッタマップ作成部9は、クラッタ有無の検定結果がクラッタ有り(Yes)のときは、クラッタ領域と設定する(ステップS22)。クラッタ有無検定結果がクラッタ無し(No)のときはクラッタフリー領域と設定して(ステップS23)、ステップS22、S23の設定結果からクラッタマップを作成する。クラッタマップ保持において、クラッタマップ作成部9にて作成されたクラッタマップは、クラッタマップデータ10としてメモリ等に記憶される(ステップS24)。
【0019】
次に、図3に示すフローチャートを参照しながら、目標検出処理部36および37における処理切替え手順を説明する。処理切替部11および12は、各ビームポジション、レンジセル毎にクラッタマップデータ10を参照し、対象領域がクラッタ領域に該当するか否かを判定する(ステップS31)。判定した結果、クラッタ領域に該当する(Yes)ときは、受信信号をそれぞれドップラバンク毎のCFAR処理部13および15に出力する。クラッタ領域に該当しない(No)ときは、それぞれ固定スレッショルド検定処理部14および16へ、送り先を自動的に切替え出力する。
ドップラバンク毎のCFAR処理部13および15へ送られた受信信号は、ドップラバンク毎に図4により後述するCFAR処理が実施される(ステップS32)。また、固定スレッショルド検定処理部14および16へ送られた受信信号は、固定スレッショルド検定が行われ、固定スレッショルドレベルよりも信号振幅値が大きい場合のみ受信信号を出力する。
【0020】
図4にはドップラバンク毎のCFAR処理部13および15に使用されているCFAR処理の一実施例であるCA−CFAR処理の説明図を示す。図中、20は注目するレンジセル、21は注目するレンジセルの直前に受信された信号のレンジセル群、22は注目するレンジセルよりの直後に受信された信号のレンジセル群、23、24および25は信号加算器、26は加算したN個のレンジセルの信号を1/Nにする信号除算器、27は係数乗算器、28は信号減算器である。受信信号の注目するレンジセルに対して、その前後のレンジセル群(N個)の受信信号に関して信号加算器23、24、25および信号除算器26により平均値を求め、係数乗算器27にて係数を乗じた後、注目するレンジセルの信号から信号減算器28により減算する。以上のようにCA−CFAR処理を採用することにより、誤警報率を低くかつ一定に保つことが可能となるが、処理負荷が増大し装置規模増大にも繋がるという欠点がある。
【0021】
次に、図1に戻り説明する。受信ビデオ選択部17において、CINT処理系31またはMTI処理系32のいずれの信号を以降のプロット作成部18に出力するのかを、例えば操作員が目標、クラッタ、信号処理負荷などの状況を考慮して手動選択する。受信ビデオ選択部17は、CFAR処理あるいは固定スレッショルド検定処理が行なわれたCINT処理系31およびMTI処理系32の受信信号のうち、操作員により入力された選択入力信号に基づいて選択された処理系の信号のみを出力する。受信ビデオ選択部17からの出力信号に基づき、プロット作成部18はプロット作成し、以後の信号処理である目標追尾処理に出力する。
【0022】
上述のような実施の形態1においては、CINT処理系31の振幅算出(1)部3から出力される振幅情報に基づき、CFAR処理を実施せずに、クラッタマップデータ10を作成する。また、CINT処理系、MTI処理系それぞれの目標検出処理部に処理切替部11および12を設ける。クラッタマップデータ10を参照して目標検出する際に、対象領域が誤警報率が高くなりCFAR処理を必要とするクラッタ領域のときだけは、切替えてCFAR処理を実施する。対象領域が、CFAR処理しなくとも誤警報率を低く抑えることが可能なクラッタフリー領域であるときは、固定スレッショルドによる検定に切替え簡易的に処理する。この結果、誤警報率を低くかつ一定に抑えつつ、処理負荷増大、装置規模増大に繋がるCFAR処理を削減でき、レーダ信号処理装置の規模も抑制する。従って、小型・軽量化され、車載レーダ装置などに容易に搭載できる。
【0023】
なお、本実施の形態では、クラッタマップデータ10を作成するために、CINT処理系31の振幅算出(1)部3から出力された振幅情報を使用した。しかし、クラッタマップを作成するために、図1に2点鎖線で示すように、MTI処理系32の振幅算出(2)部7から出力された振幅情報を使用しても、同様の効果を奏する。
【0024】
実施の形態2.
図5は、実施の形態2に係るレーダ信号処理装置を示すブロック図である。図において、41は受信ビデオ選択部、42はクラッタ選択部、43はプロット作成部である。実施の形態1と比較して本実施の形態は、受信ビデオ選択部41をCINT処理系31とMTI処理系32の前段に設けて、CINT処理系31又はMTI処理系32いずれの処理系を選択するかを、例えば操作員が目標、クラッタ、信号処理負荷などの状況を考慮して手動選択する。CINT処理系31における振幅算出処理部(1)33、MTI処理系32における振幅算出処理部(2)34は実施の形態1と同様であり、振幅算出(1)部3および振幅算出(2)部7は、各ドップラバンク毎におけるレンジセル毎の振幅情報を出力する。
【0025】
クラッタ選択部42は、受信ビデオ選択部41が選択した処理系に連動して、操作員により入力された選択信号入力に基づいて、振幅算出(1)部3または振幅算出(2)部7のいずれの振幅情報を次のクラッタ検定部8に出力するのか選択する。つまり、CINT処理系31が選択された場合は、振幅算出(1)部3からの振幅情報をクラッタマップデータ作成部35のクラッタ検定部8に送り、MTI処理系32が選択された場合には、振幅算出(2)部7からの振幅情報をクラッタ検定部8に出力する。クラッタマップデータ作成部35は、実施の形態1と同様であり、クラッタの有無を検定して、クラッタマップを作成し、クラッタマップデータ10を保持する。
【0026】
受信ビデオ選択部41にてCINT処理系31が選択された場合は、目標検出処理部(1)36は、クラッタマップデータ10の情報を元に、実施の形態1と同様の目標検出処理を行ない、信号を出力する。受信ビデオ選択部41にてMTI処理系32が選択された場合は、目標検出処理部(2)37は、クラッタマップデータ10の情報を元に、実施の形態1と同様の目標検出処理を行ない、信号を出力する。プロット作成部43は、受信ビデオ選択41にて選択された処理系において目標検出処理された受信信号に基づき、実施の形態1と同様にプロットを作成し、以後の信号処理である目標追尾処理に出力する。
【0027】
本実施の形態においては、受信ビデオ信号の選択をCINT処理系及びMTI処理系の前段で行ない、選択した処理系において振幅算出処理された信号を出力するクラッタ選択部42を設けることが特徴である。従って、選択されなかった処理系は動作することなく、クラッタマップデータ10が作成され、目標を検出できる。この結果、実施の形態1より更に信号処理装置全体の処理負荷を低減でき、小型・軽量化が可能となる。
【0028】
実施の形態3.
図6は、実施の形態3に係るレーダ信号処理装置を示すブロック図である。図において、61はCINT処理系31における目標検出処理部(1)、62は固定スレッショルド検定(1)処理部、63は受信ビデオ選択部である。本実施の形態は、実施の形態1を示す図1から、CINT処理系31の目標検出処理部(1)36において処理切替(1)部11と、ドップラバンク毎のCFAR処理(1)部13を削除したものである。従って、CINT処理系31における目標検出処理部(1)は、対象領域がクラッタ領域であるときも、常に固定スレッショルド検定のみを実施する。受信ビデオ選択部63において、例えば操作員はCINT処理系31またはMTI処理系32のいずれの信号を出力するのか手動選択する。受信ビデオ選択部63は、操作員により入力された選択入力信号に基づいて選択された処理系の信号をプロット作成部18へ出力する。
【0029】
本実施の形態は実施の形態1と比較して、CINT処理系31の目標検出処理部(1)36が、固定スレッショルド検定のみを実施することが特徴である。この結果、誤警報率を低くかつ一定に抑えつつ、実施の形態1より更に、高負荷であるCFAR処理部を削減し、規模を抑え小型・軽量化できる効果を奏する。
【0030】
なお、本実施の形態では、クラッタマップデータ10を作成するための振幅情報として、CINT処理系31の振幅算出(1)部3から出力された振幅情報を使用した。
しかし、クラッタマップを作成するための振幅情報として、図に2点鎖線で示すように、MTI処理系32の振幅算出(2)部7から出力された振幅データを使用しても、同様の効果を奏する。
【0031】
実施の形態4.
図7は、実施の形態4に係るレーダ信号処理装置を示すブロック図である。図において、71はクラッタ選択部、72は固定スレッショルド検定処理部、73はドップラバンク毎のCFAR処理部、74は目標検出処理部(1)、75は目標検出処理部(2)、76は受信ビデオ選択部である。本実施の形態は、実施の形態1に、クラッタ選択部71を追加する。振幅算出処理部(1)33および振幅算出処理部(2)34は、実施の形態1と同様である。クラッタ選択部71は、振幅算出(1)部3または振幅算出(2)部7のいずれの振幅情報を、クラッタ検定部8に出力するのかを、例えば操作員が目標、クラッタ、信号処理負荷などの状況を考慮して手動選択する。クラッタマップデータ作成部35は、選択信号入力に基づいて送られた振幅情報を受けて、クラッタの有無を検定して、クラッタマップを作成し当該データを保持する。
【0032】
更に、目標検出処理部(1)74において、処理切替(1)部11、ドップラバンク毎のCFAR処理(1)部13を削除することにより、CINT処理系31を固定スレッショルド検定のみ実施するクラッタフリー領域用の処理系とする。同様に、目標検出処理部(2)75において、処理切替(2)部12、固定スレッショルド検定(2)処理部16を削除することにより、MTI処理系32をドップラバンク毎のCFAR処理のみを実施するクラッタ領域用の処理系とする。受信ビデオ選択部76は、クラッタマップデータ10を参照し、対象領域がクラッタフリー領域のときはCINT処理系31の固定スレッショルド検定処理部72を選択し、対象領域がクラッタ領域のときはMTI処理系32のドップラバンク毎のCFAR処理部73を自動的に選択する。受信ビデオ選択部76にて選択された信号を受けて、プロット作成部18はプロット作成し、以後の信号処理である目標追尾処理に出力する。
【0033】
以上のように本実施の形態は、クラッタ選択部71にて振幅算出(1)部3または振幅算出(2)部7のいづれかの振幅情報を選択して、クラッタマップを作成する。更に、受信ビデオ選択部76にてクラッタマップデータ10を参照し、対象領域がクラッタフリー領域のときはCINT処理系31を、クラッタ領域のときはMTI処理系32の信号を自動選択することが特徴である。この結果、誤警報率を低くかつ一定に抑えつつ、実施の形態1より更に、高負荷であるCFAR処理部を削減し、規模を抑え小型・軽量化できる効果を奏する。
【符号の説明】
【0034】
1 受信信号、2 FFT(1)処理部、3 振幅算出(1)部、
4 MTI処理部、5 FFT(2)処理部、6 ドップラフィルタ、
7 振幅算出(2)部、8 クラッタ検定部、9 クラッタマップ作成部、
10 クラッタマップデータ、11 処理切替(1)部、12 処理切替(2)部、
13 ドップラバンク毎のCFAR処理(1)部、
14 固定スレッショルド検定(1)処理部、
15 ドップラバンク毎のCFAR処理(2)部、
16 固定スレッショルド検定(2)処理部、
17 受信ビデオ選択部、18 プロット作成部、19 プロットデータ、
20 注目レンジセル、21 直前に受信したレンジセル郡、
22 直後に受信したレンジセル郡、23 信号加算器、24 信号加算器、
25 信号加算器、26 信号除算器、27 係数乗算器、28 信号減算器、
31 CINT処理系、32 MTI処理系、33 振幅算出処理部(1)、
34 振幅算出処理部(2)、35 クラッタマップデータ作成部、
36 目標検出処理部(1)、37 目標検出処理部(2)、
41 ビデオ選択部、 42 クラッタ選択部、43 プロット作成部、

【特許請求の範囲】
【請求項1】
受信信号をCINT処理系とMTI処理系とに分配して処理するレーダ信号処理装置であって、
ヒット間コヒーレント積分を行ない、ドップラバンク毎の受信信号に変換して、振幅情報を算出する第1振幅算出処理部、クラッタマップデータを参照して目標を検出する第1目標検出処理部を有する前記CINT処理系と、
受信信号からドップラ周波数帯の信号を除去するMTI処理を行ない、ドップラバンク毎の受信信号に対してフィルタ処理を実施して、振幅情報を算出する第2振幅算出処理部、前記クラッタマップデータを参照して、誤警報率が高いときにCFAR処理を行ない、目標を検出する第2目標検出処理部を有する前記MTI処理系と、
前記振幅情報に基づきクラッタマップを作成するクラッタマップデータ作成部と、
前記CINT処理系または前記MTI処理系のいずれかの出力信号を選択する受信ビデオ選択部とを
備えたことを特徴とするレーダ信号処理装置。
【請求項2】
前記第2目標検出処理部は、前記クラッタマップデータを参照し、
対象領域がクラッタ領域であるときはCFAR処理を実施し、
対象領域がクラッタフリー領域であるときに、信号振幅値が予め設定されたスレッショルド値よりも大きいときに信号を出力する固定スレッショルド検定処理を実施するように切替える第2処理切替部を
備えたことを特徴とする請求項1に記載のレーダ信号処理装置。
【請求項3】
前記第1及び第2目標検出処理部は、前記クラッタマップデータを参照し、
対象領域がクラッタ領域であるときはCFAR処理を実施し、
対象領域がクラッタフリー領域であるときに、信号振幅値が予め設定されたスレッショルド値よりも大きいときに信号を出力する固定スレッショルド検定処理を実施するように切替える処理切替部を
備えたことを特徴とする請求項2に記載のレーダ信号処理装置。
【請求項4】
前記クラッタマップデータ作成部は、
前記第1振幅算出処理部または、前記第2振幅算出処理部から出力された振幅情報に基づきクラッタの有無を検定して、クラッタマップを作成し、当該データを保持する
ことを特徴とする請求項1ないし請求項3のいずれかに記載のレーダ信号処理装置。
【請求項5】
受信信号をCINT処理系とMTI処理系とに分配して処理するレーダ信号処理装置であって、
前記受信信号を処理する処理系として前記CINT処理系または前記MTI処理系のいずれか選択した後に、当該処理系へ信号を出力する受信ビデオ選択部と、
ヒット間コヒーレント積分を行ない、ドップラバンク毎の受信信号に変換し、振幅情報を算出する第1振幅算出処理部、クラッタマップデータを参照して、目標を検出する第1目標検出処理部を有する前記CINT処理系と、
前記受信信号から所定のドップラ周波数帯の信号を除去するMTI処理を行ない、ドップラバンク毎の受信信号に対してフィルタ処理を実施し、振幅情報を算出する第2振幅算出処理部、前記クラッタマップデータを参照して、目標を検出する第2目標検出処理部を有する前記MTI処理系と、
前記受信ビデオ選択部が選択した当該処理系における振幅算出処理部からの信号を選択するクラッタ選択部と、
前記クラッタ選択部が選択した信号に基づきクラッタの有無を検定して、クラッタマップを作成し、当該データを保持するクラッタマップデータ作成部とを
備えたことを特徴とするレーダ信号処理装置。
【請求項6】
前記第1及び第2目標検出処理部は、
対象領域がクラッタ領域であるときCFAR処理を実施し、
対象領域がクラッタフリー領域であるときに信号振幅値が予め設定されたスレッショルド値よりも大きいときに信号を出力する固定スレッショルド検定処理を実施するように切替える処理切替部を
備えたことを特徴とする請求項5に記載のレーダ信号処理装置。
【請求項7】
前記受信ビデオ選択部は、
前記CINT処理系または前記MTI処理系の出力信号のいずれかを、選択入力信号に基づき選択する
ことを特徴とする請求項1ないし請求項6のいずれかに記載のレーダ信号処理装置。
【請求項8】
受信信号をCINT処理系とMTI処理系とに分配して処理するレーダ信号処理装置であって、
ヒット間コヒーレント積分を行ない、ドップラバンク毎の受信信号に変換して、振幅情報を算出する第1振幅算出処理部、クラッタマップデータを参照して目標を検出する固定スレッショルド検定処理部を有する前記CINT処理系と、
受信信号からドップラ周波数帯の信号を除去するMTI処理を行ない、ドップラバンク毎の受信信号に対してフィルタ処理を実施して、振幅情報を算出する第2振幅算出処理部、前記クラッタマップデータを参照して、CFAR処理を実施し目標を検出するCFAR処理部を有する前記MTI処理系と、
前記第1振幅算出処理部または前記第2振幅算出処理部のいずれかの振幅情報を選択するクラッタ選択部と、
前記クラッタ選択部が選択した振幅情報によりクラッタの有無を検定して、クラッタマップを作成し当該データを保持するクラッタマップデータ作成部と、
前記クラッタマップデータを参照し、対象領域がクラッタ領域であるときは前記CINT処理系の信号を、クラッタフリー領域であるときは前記MTI処理系の信号を選択する
受信ビデオ選択部と
を備えたことを特徴とするレーダ信号処理装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2011−174872(P2011−174872A)
【公開日】平成23年9月8日(2011.9.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−40439(P2010−40439)
【出願日】平成22年2月25日(2010.2.25)
【出願人】(000006013)三菱電機株式会社 (33,312)
【Fターム(参考)】