説明

レーダ装置、飛翔体誘導装置及び目標検出方法

【課題】ステップ周波数合成帯域レーダのレンジ分解能、複数目標分離性能を損なわずに1パルスをチャープパルスとした合成帯域レーダを実現し、かつ目標の検出を安定して行えるようにした。
【解決手段】FFT部6、圧縮係数乗算部7及びIFFT部8−1にてパルス圧縮を施し、代表値抽出部11−1にて得られたパルス代表値を再変換部12により再度フーリエ変換し、加算部13にてこのフーリエ変換出力を圧縮係数乗算部7の出力から減算し、この減算出力をIFFT部8−2にて逆フーリエ変換して再度パルス圧縮を施して、ピーク検出部9−2及び代表値抽出部11−2によりパルス圧縮後波形のピーク毎のパルス圧縮レンジを検出するようにして、パルス圧縮・代表値抽出部14におけるパルス代表値の演算を二重に行うようにしている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、異なる複数の周波数を利用するレーダ装置、このレーダ装置を用いる飛翔体誘導装置及び目標検出方法に関する。
【背景技術】
【0002】
レーダ測距の高精度化の方法として合成帯域レーダがある(非特許文献1)。帯域合成レーダはチャープパルスレーダの周波数を離散化し、ステップ状に周波数を変化させて測距を行う方式である。一般には、非特許文献1に記載されるように、短パルスレーダで行うことが多いが、非特許文献2、特許文献1に記載されるように各パルスをチャープパルスとする方法も提案されている。各パルスをチャープパルスとすることによって、帯域幅を維持しつつ、すなわち、レンジ解像度を落とすことなく1パルスの時間を長くし、パルスのエネルギーを増大させることができる。
【0003】
短パルスの合成帯域で複数目標の分離検出を行う場合、複数パルスを同一周波数ステップ毎にフーリエ変換する段階で、移動速度、すなわちドップラ周波数毎に目標を分離し、さらに、分離されたドップラ周波数毎に合成帯域レンジ波形を計算して、レンジ波形に複数のピークが含まれる場合には、それぞれを異なる目標として検出する。
【0004】
各パルスをチャープパルスとした場合は、ドップラ周波数毎に目標を分離する段階の前のパルス圧縮後波形のピーク毎に目標を分離した後、短パルスの場合と同様にドップラ周波数による目標分離、合成帯域レンジ波形による目標分離を行う。すなわち、3段階に分かれて複数目標を分離する。
【0005】
チャープパルスのドップラ周波数検出については、例えば特許文献2に記載されるように、チャープパルスをパルス圧縮した後に、複数のパルスの圧縮結果をレンジビン毎にフーリエ変換することによってドップラ周波数が計算できることが知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2009-257884号公報
【特許文献2】特開平4-188089号公報
【非特許文献1】Donald R. Wehner, “High-Resolution Radar,” ch.5, Artech House Radar Library Series (1987, 1st edition, 1994, 2nd edition,)
【非特許文献2】D.J. Rabideau, “Nonlinear synthetic wideband waveforms”, IEEE Radar Conference 2002, pp.212 - 219
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ところで、チャープパルスを復調する際にはパルス圧縮波形が完全なインパルスではなく、やや広がりを持った波形となるため、複数の目標が近い距離で混在すると、チャープパルスの解像度と距離の関係によっては、ピークが目標の数だけ検出できないことがある。パルス圧縮後の波形のうち、後段の合成帯域に送られる成分は波形のピークに相当するレンジビン成分のみであるため、パルス圧縮波形のピークに成分が含まれない目標は、後段の合成帯域でも検出されず、合成帯域のメリットが生かせない。
【0008】
すなわち、合成帯域は本来、高レンジ解像度の実現方法であるにも拘わらず、チャープパルスの段階での解像度に制約されて、高解像度な複数目標分離が実現できないという問題がある。
【0009】
そこで、この発明の目的は、ステップ周波数合成帯域レーダのレンジ分解能、複数目標分離性能を損なわずに1パルスをチャープパルスとした合成帯域レーダを実現し、かつ目標の検出を安定して行い得るレーダ装置、このレーダ装置を用いた飛翔体誘導装置及び目標検出方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記目的を達成するために、この発明に係るレーダ装置は、目標から到来した所定数のパルス毎に中心周波数をステップ状に変化させたチャープパルスの反射波を受信し、デジタルベースバンド信号に変換する受信部と、デジタルベースバンド信号をパルス毎に、周波数軸信号にフーリエ変換して、圧縮係数を乗算して時間軸信号に逆フーリエ変換することでパルス圧縮を施すパルス圧縮部と、パルス圧縮後波形のピーク毎のパルス圧縮レンジを検出し、かつ、パルス圧縮後波形のピーク毎の各パルス代表値を抽出するパルス代表値抽出部と、このパルス代表値抽出部で抽出したパルス代表値を周波数軸信号にフーリエ変換するフーリエ変換部と、このフーリエ変換部の出力をパルス圧縮部における逆フーリエ変換前の周波数軸信号から減算する減算部と、この減算部の出力を逆フーリエ変換して再度パルス圧縮を施す再パルス圧縮部と、この再パルス圧縮部によるパルス圧縮後波形のピーク毎のパルス圧縮レンジを検出し、かつ、パルス圧縮後波形のピーク毎の各パルス代表値を抽出する再パルス代表値抽出部と、パルス代表値抽出部及び再パルス代表値抽出部によるパルス代表値から、そのパルス代表値で検出可能なドップラ周波数から1つ以上の相対速度を検出し、1測定期間内の同一周波数ステップの複数パルスから相対速度毎に各周波数ステップ代表値を抽出する周波数ステップ代表値抽出部と、周波数ステップ代表値から合成帯域レンジ波形を算出し、その各ピークから各目標のレンジを検出する合成帯域レンジ検出部とを備えるようにしたものである。
【0011】
この構成によれば、パルス圧縮を施して得られたパルス代表値を再度フーリエ変換して、このフーリエ変換出力をパルス圧縮部における逆フーリエ変換前の周波数軸信号から減算し、この減算出力を逆フーリエ変換して再度パルス圧縮を施して、パルス圧縮後波形のピーク毎のパルス圧縮レンジを検出するようにして、パルス代表値の演算を二重に行うようにしている。
【0012】
従って、合成帯域レーダの1パルスをチャープパルスとした場合に、弱い目標が、強い目標のチャープパルスの圧縮後波形の裾の広がりに埋もれていても、チャープパルス段階で弱い目標を検出することができ、これにより、チャープパルスと合成帯域とを組み合わせても、合成帯域のレンジ解像度を損なうことなく、複数目標の検出を容易かつ安定して行うことができる。
【0013】
また、この発明に係るレーダ装置において、さらに、パルス代表値抽出部で検出されるパルス圧縮後波形のピークが第1の閾値からさらに所定値高い第2の閾値を超える場合に、減算部に対し減算処理を実行させる制御部を備えるようにした。
【0014】
この構成によれば、パルス圧縮後波形のピークが第2の閾値を超える場合のみ減算部に対し減算処理を実行させるようにしているので、演算処理の簡略化を図ることができる。
【0015】
また、この発明に係るレーダ装置において、目標から到来した所定数のパルス毎に中心周波数をステップ状に変化させたチャープパルスの反射波を受信し、デジタルベースバンド信号に変換する受信部と、デジタルベースバンド信号をパルス毎に、周波数軸信号にフーリエ変換して、圧縮係数を乗算する圧縮係数乗算部と、圧縮係数乗算部の出力を初期入力とし、当該圧縮係数乗算部の出力と与えられる周波数軸信号とを選択的に切替導出するスイッチと、スイッチから出力される周波数軸信号を時間軸信号に逆フーリエ変換することでパルス圧縮を施してパルス圧縮後波形を生成し、そのピーク毎のパルス圧縮レンジを検出し、かつ、パルス圧縮後波形のピーク毎の各パルス代表値を抽出するパルス代表値抽出部と、このパルス代表値抽出部で抽出したパルス代表値を周波数軸信号にフーリエ変換するフーリエ変換部と、このフーリエ変換部の出力をスイッチから出力される周波数軸信号から減算する減算部と、パルス代表値抽出部で検出されるパルス圧縮後波形のピークが第1の閾値を超える場合に、減算部に対し減算処理を実行させ、かつ、スイッチに対し、その入力を前記減算部出力とし、パルス代表値抽出部で検出されるパルス圧縮後波形のピークが第1の閾値未満となるまで、減算部、パルス代表値抽出部の各処理を繰り返し実行させる制御部と、パルス代表値抽出部によるパルス代表値から、そのパルス代表値で検出可能なドップラ周波数から1つ以上の相対速度を検出し、1測定期間内の同一周波数ステップの複数パルスから相対速度毎に各周波数ステップ代表値を抽出する周波数ステップ代表値抽出部と、周波数ステップ代表値から合成帯域レンジ波形を算出し、その各ピークから各目標のレンジを検出する合成帯域レンジ検出部とを備えるようにしたものである。
【0016】
この構成によれば、大きいピークを減算して検出されるピークがまだ十分に第1の閾値よりも大きい場合であっても、第1の閾値未満となるまで減算部及びパルス代表値抽出部による各処理が繰り返し実行されることになるので、全てのピークを漏らすことなく検出することができる。
【0017】
また、この発明に係るレーダ装置において、入力された相対速度の概算値を用いて、複数パルスのパルス圧縮後波形のピーク位置がほぼ一致するように補正するピーク位置補正部と、補正したパルス圧縮後波形から位相を除去した波形を複数パルスについて加算した加算後波形を生成する加算部とをさらに備え、パルス代表値抽出部は、加算後波形からピークを検出し、補正した各パルス圧縮後波形のピークの情報を抽出してパルス代表値とするようにしている。
【0018】
この構成によれば、目標ピークの位置が時間によって大きく変動する場合であっても、目標との相対速度の概算値に基づいて、複数のチャープパルスのパルス圧縮後のピーク位置がほぼ揃うようにピーク位置に補正を加えることで、チャープパルスのレンジをより正確に検出することができる。
【0019】
また、この発明に係る飛翔体誘導装置は、上記レーダ装置と、レーダ装置の出力である相対速度、レンジを用いて飛翔体を誘導するための誘導信号を生成する誘導信号生成部とを備えるようにしたものである。
【0020】
この構成によれば、上記レーダ装置により得られた目標の検出結果を利用することにより、より高精度な飛翔体の誘導を行うことが可能となる。
【発明の効果】
【0021】
上記発明によれば、ステップ周波数合成帯域レーダのレンジ分解能、複数目標分離性能を損なわずに1パルスをチャープパルスとした合成帯域レーダを実現し、かつ目標の検出を安定して行い得るレーダ装置、このレーダ装置を用いた飛翔体誘導装置及び目標検出方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】本発明に係るレーダ装置の第1の実施形態を示すブロック図。
【図2】チャープパルスのパルス列の構成を示す図。
【図3】同第1の実施形態におけるパルス圧縮・代表値抽出部、速度検出・周波数ステップ代表値抽出部の制御処理手順を示すフローチャート。
【図4】同第1の実施形態における複数目標検出の流れを示す図。
【図5】同第1の実施形態において、2つの点目標で反射された受信パルスのパルス圧縮後波形の例を示す図。
【図6】同第1の実施形態において、強い目標ピークの裾に隠れた弱い目標ピークを強調させたパルス圧縮波形の例を示す図。
【図7】同第1の実施形態における加算部の出力波形の一例を示す図。
【図8】本発明の第2の実施形態に係わるレーダ装置を示すブロック図。
【図9】同第2の実施形態における制御部の制御処理手順を示すフローチャート。
【図10】本発明の第3の実施形態に係わるレーダ装置を示すブロック図。
【図11】同第3の実施形態における制御部の制御処理手順を示すフローチャート。
【図12】本発明の第4の実施形態に係わるパルス圧縮・代表値抽出部を示すブロック図。
【図13】同第4の実施形態において、時々刻々と移動する目標から反射された幾つかのチャープパルスのパルス圧縮波形の一例を示す図。
【図14】同第4の実施形態において、時々刻々と移動する目標から反射された幾つかのチャープパルスのパルス圧縮波形の他の例を示す図。
【図15】本発明の他の実施形態に係わるレーダ装置を示すブロック図。
【図16】本発明に係る飛翔体誘導装置の実施形態を示すブロック図。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、この発明の実施形態について図面を参照して詳細に説明する。なお、実施形態では、本発明の動作に直接関係する部分のみを記述し、それ以外は省略している。
【0024】
(第1の実施形態)
図1は本発明に係るレーダ装置の第1の実施形態を示す図である。本第1の実施形態のレーダ装置1は、予め目標までの距離、すなわちレンジがある程度既知であって、詳細な距離の追跡を行う追随レーダである。
【0025】
レーダ装置1は合成帯域レーダであり、アンテナ2と、サーキュレータ3と、送信部4と、受信RF(Radio Frequency)部5とを備えている。このレーダ装置1は、送信部4で生成され所定数のパルス毎に中心周波数をステップ状に変化させたチャープパルスをサーキュレータ3を介してアンテナ2から空間に向けて送出する。このチャープパルスは、図2に示すようなパルス列の構成である。
【0026】
図2において、横軸は時間であり、縦軸は周波数である。それぞれの四角はパルスを示しており、各パルスはそのパルス内で時間と共に周波数が変化するチャープパルスとなっている。このようなパルスを、同一周波数ステップで所定のPRI(Pulse Repetition Interval)でNpパルス送出する。これを所定のNf周波数ステップ分、所定の周波数ステップ間隔で周波数を変えながら繰り返す。Np×Nfパルスで1測定期間、すなわち、1CPI(Coherent Processing Interval)を構成する。
【0027】
レーダ装置1から送出されたチャープパルスは、目標に当たって反射され、アンテナ2で受信される。アンテナ2に入力された信号は、サーキュレータ3を介して、受信RF部5に供給される。受信RF部5では、受信信号は増幅され、ベースバンドにダウンコンバージョンされ、アナログ-デジタル変換されて、デジタル信号に変換される。
【0028】
受信RF部5および送信部4には同一の発振器17の出力が供給され、あるパルスをダウンコンバージョンする際に利用するローカル信号は、そのパルスを生成する際に用いたローカル信号に同期したローカル信号である。すなわち、異なる周波数ステップのパルスは、それぞれの周波数ステップに対応したローカル周波数でベースバンドに周波数変換される。
【0029】
デジタル信号に変換された受信信号は、パルス圧縮・代表値抽出部14に供給される。すると、パルス圧縮・代表値抽出部14は、図3に示す制御処理手順を実行する。
【0030】
パルス圧縮・代表値抽出部14では、まず、FFT部6にて、目標反射波が存在すると予想される期間のサンプルを一定数抽出してフーリエ変換処理を施して、時間軸信号から周波数軸信号に変換して、圧縮係数乗算部7に出力する(ステップST3a)。圧縮係数乗算部7では、レーダ装置1のチャープパルス仕様に対応した圧縮係数が予め準備されているか、必要に応じて計算し、圧縮係数を乗算する(ステップST3b)。
【0031】
圧縮係数を乗算された受信信号はまず、IFFT部8−1に出力される。IFFT部8−1は、圧縮係数を乗算された信号を逆フーリエ変換してピーク検出部9−1に出力する(ステップST3c)。時間信号をFFT部6にてフーリエ変換し、IFFT部8−1で逆フーリエ変換したので、再び時間波形となっている。ただし、圧縮係数が乗算されたため、もとのパルス長の長いチャープパルスではなく、パルス圧縮されたインパルスに近い波形となっている。
【0032】
ピーク検出部9−1は、パルス圧縮後波形から複数のピークを検出する(ステップST3d)。ここでは、予めおおよそ既知である目標のレンジの範囲内に存在するピークで、予め決定されているピーク検出閾値(第1の閾値)を超える高さのピークを検出する。
【0033】
この段階で全くピークが検出されないこともあるが、前述のように本実施形態のレーダは追随レーダであるので、少なくとも1つ以上のピークが検出されるものとする。仮に全くピークが検出されない場合には、捜索モードに切り換えたり、過去の結果からトラッキングを利用して目標のレンジを推定する必要があるが、このような処理は本実施形態の内容とは関連しないため、省略する。
【0034】
ピーク検出部9−1によるピーク位置の検出結果は、レンジ検出部10−1に供給される。レンジ検出部10−1はそのピーク位置をレンジに変換し、合成帯域レンジ検出部16に出力する(ステップST3e)。ここで推定されたレンジは、後に、合成帯域のレンジと組み合わせて、トータルのレンジを推定し、推定結果として出力される。
【0035】
ピーク検出部9−1の出力は、さらに、代表値抽出部11−1に供給される。代表値抽出部11−1は、ピーク検出部9−1で検出された1つ以上のピークについて、圧縮後パルスのそのピーク位置の複素値、すなわち、位相と振幅をパルス代表値として抽出する(ステップST3f)。パルス代表値は合成帯域に用いるため、後段の速度検出・周波数ステップ代表値抽出部15に送られる。
【0036】
抽出された代表値は、さらに、再変換部12に供給される。再変換部12は、抽出された代表値を逆フーリエ変換前の次元に変換して加算部13に出力する(ステップST3g)。
【0037】
加算部13には、圧縮係数乗算部7の出力と再変換部12の出力が入力され、圧縮係数乗算部7の出力から、再変換部12の出力が減算される(ステップST3h)。
【0038】
減算結果は、IFFT部8−2にて逆フーリエ変換され、再度パルス圧縮される(ステップST3i)。再パルス圧縮結果はピーク検出部9−2に供給され、再び第1の閾値と比較される。そして、第1の閾値を超えるピークがあれば、それは、ピーク検出部9−1で検出されたピークとは別のピーク、すなわち、異なる目標として検出される(ステップST3j)。検出されたピーク位置はレンジ検出部10−2でレンジに変換され、レンジ検出部10−1の出力と同様に、後段でのレンジ検出に利用される(ステップST3k)。
【0039】
ピーク検出部9−2の出力は、さらに、代表値抽出部11−2に送られる。代表値抽出部11−2は、検出されたピーク位置の位相と振幅をパルス代表値として抽出し、合成帯域に用いるため、後段の速度検出・周波数ステップ代表値抽出部15に出力する(ステップST3l)。
【0040】
なお、パルス圧縮・代表値抽出部14はデジタル信号処理を行うブロックであり、実装上は、DSP(Digital Signal Processor)やFPGA(Field Programmable Gate Array)、ASIC、あるいはその他のデジタル信号処理を行う部品内にプログラムとして実装される。従って、パルス圧縮・代表値抽出部14内の各詳細ブロックは動作を説明するための便宜的なものであり、必ずしもこの通りのブロック分割となっている必要は無い。
【0041】
本実施形態では、合成帯域の処理そのものには特徴がないので、合成帯域については以下に簡単に説明する。
【0042】
まず、速度検出・周波数ステップ代表値検出部15にて、パルス圧縮・代表値抽出部14から出力されたパルス代表値から目標の移動速度が検出される。同一周波数ステップの複数パルスの復調結果を、本実施形態では同一周波数ステップの複数パルスのパルス代表値を、フーリエ変換し(ステップST3m)、その変換後の周波数軸上の複数のピークを検出し(ステップST3n)、これらピーク値から目標反射波のドップラ周波数を検出し(ステップST3o)、これを移動速度に変換する。この段階で複数のピークがドップラ検出閾値を超えて検出されることがあるが、その場合は、それらを個別の目標として、個々に検出する。それぞれのピークについて、その位相と振幅を、そのピークの周波数ステップ代表値として抽出する。
【0043】
個々のピークについて、各周波数ステップ代表値が抽出されたら、これらは合成帯域レンジ検出部16に送られる(ステップST3p)。合成帯域レンジ検出部16では、まず、検出された移動速度に対応して、周波数ステップ代表値を補正する(ステップST3q)。補正の内容については、公知であるので、ここで詳細は述べない。単純には、1CPIの間の目標レンジの変化を補正する処理である。
【0044】
補正された各ステップ代表値は、周波数ステップの周波数の順に並べられて、逆フーリエ変換される(ステップST3r)。逆フーリエ変換の結果はレンジを示すインパルス状の波形となっており、そのピークから合成帯域の結果のレンジを検出する(ステップST3s)。ただし、合成帯域は、離散的な周波数情報に基づいたレンジ検出であるため、周波数ステップ間隔に相当するレンジ範囲で波形が繰り返される。例えば、10MHzの周波数ステップ間隔では、10MHzの波長である30mが測定できる往復の距離に対応する。従って、測定できるレンジ範囲は10MHzならば15mとなり、15mおきに波形が繰り返される。殆どの場合、このような距離範囲は短すぎるため、合成帯域前のパルスで測距した結果のレンジと併せて、トータルの距離を決定する。
【0045】
本実施形態では、チャープパルスの段階で、レンジ検出部10−1,10−2によってレンジが検出されている。チャープパルスの段階では、個々のパルスの帯域幅は合成帯域の全体の帯域幅より狭いため、解像度も比例して粗い。そこで、繰り返される合成帯域レンジのうち、チャープパルスで検出したレンジに最も近いレンジをその目標のトータルのレンジとして出力する。
【0046】
なお、合成帯域のレンジ検出処理でも、複数のピークがレンジ検出閾値を超えて検出されることがある。このような場合は、個々のピークを別個の目標として検出する。
【0047】
図4は複数目標検出の流れを示したものである。パルス圧縮で分離されたピークは、それぞれがドップラ周波数検出ステップST4aに送られて、ドップラ周波数検出でさらに、複数のピークに分離され、分離されたピークは個別に合成帯域でレンジ検出され、ここでもさらに複数のピークに分離される(ステップST4b)。なお、図4では、最終的にn個のピークが検出されているが、場合によっては、これらの中には同一の目標が形を変えて現れていることがある。そのような場合には、それらの融合処理を行う必要があるが、それは本実施形態の内容とは関連しないため省略する。
【0048】
次に、本実施形態の特徴となる部分の動作を説明する。
図5(a)は、受信パワーが15dB異なる10m離れた2つの点目標AとBで反射された受信パルスのパルス圧縮後波形の例である。なお、2つの点目標は移動速度が異なっている。
【0049】
点目標Bの方が15dB強いため、図5(a)では点目標Bのピークは明確に現れている。一方、点目標Aは弱いため、点目標Bのパルス圧縮後波形の裾に埋もれてしまい、ピークの形を取っていない。この状態でピーク検出を行っても、点目標Bのピークしか検出できない。
【0050】
ここで点目標Bのピークを検出し、そのピーク位置の位相と振幅をパルス代表値として抽出して、合成帯域の速度検出にかけた場合のドップラ周波数スペクトルが図5(b)である。点目標Bについては、十分な高さのピークが現れているが、速度が異なる点目標Aのピークが検出されるはずの周波数には、全くピークが現れない。
【0051】
これは、図5(a)において、点目標Bの矢印で示された点には、点目標Bの成分は含まれているが、点目標Aの成分は殆ど含まれていないため、点目標Bの矢印の位置の位相と振幅を抽出しても、点目標Aは検出されないためである。
【0052】
点目標Bのピークに対応するパルス代表値を抽出した後、それを逆フーリエ変換前の次元に戻して、圧縮係数乗算後スペクトルから減算し、減算の結果を再度逆フーリエ変換してパルス圧縮した波形を図6(a)に示す。
【0053】
点目標Bの成分は、減算の結果殆ど除去されているため、点目標Bのピークが有った位置には、何のピークも現れない。一方、点目標Aのピークは振幅値で0.035程度であり、図5(a)では、点目標Bの波形の裾に埋もれて検出できなかったが、点目標Bの成分を除去したため、明確にピークとして現れている。図6(a)の波形において、点目標Aのピークが第1の閾値を超えているならば、そのピークを別のピークとして新たに検出し、そのピーク位置を検出して、ピーク位置の振幅と位相をそのピークのパルス代表値として抽出する。
【0054】
点目標Aの矢印で示したピークに相当するパルス代表値を、同一周波数ステップの複数パルスについてフーリエ変換した結果が、図6(b)である。点目標Bの成分は除去されているため殆ど現れず、点目標Aの移動速度に対応するドップラ周波数のピークがはっきりと現れている。従って、このドップラ周波数に対応する成分を抽出することによって、次段の合成帯域レンジ検出に進むことができる。
【0055】
次に、減算の処理について、式を用いて説明する。図7は、加算部13の入出力波形の一例を示している。図7(a)の「パルススペクトル」として矢印で示したスペクトルは、チャープパルスをフーリエ変換し、パルス圧縮係数を乗算した後のスペクトルの例である。
【0056】
スペクトルは、2つの点目標の目標反射波のみが存在する理想的な場合には次式のように表される。
【数1】

【0057】
ただし、Nはサンプルレート、Tは目標レンジでのパルス往復時間であって、合成帯域後に検出されるレンジ、Tはチャープパルスをサンプリングするゲート開始時刻からチャープパルス先頭までの時間であってパルス圧縮の段階で検出されるレンジである。ωはそのパルスの送出時のパルス先頭のRF周波数、N3はフーリエ変換・逆フーリエ変換を行う際のサンプル数である。Aは各目標の振幅である。添え字のaとbは点目標AとBについての値であることを示す。mは周波数ビン番号であるが、図7(a)からも分かるように、有効なスペクトル成分はもともとのチャープパルスの周波数範囲にしか存在しない。図7(a)の「有効スペクトル範囲」で示した範囲である。従って、その範囲外のmでは、Aはおおよそ0とみなすことができる。
【0058】
図5(a)の点目標Bのピーク位置の位相と振幅をパルス代表値として抽出すると、(1)式の右辺第2項が逆フーリエ変換後にピークを取る成分となるため、次のようになる。
【数2】

【0059】
これを、逆フーリエ変換前の次元に戻すと次のようになる。
【数3】

【0060】
pは点目標Bに関してピーク検出した際のピーク位置を示す番号であり、正しくピーク位置が検出できていればNpbに等しい。また、mが図7(a)の有効スペクトル範囲外にある場合はxsubを0とする。従って、(3)式は(1)式の右辺第2項と等しい。これを(1)式から減算することによって、(1)式右辺第1項のみ、すなわち、点目標Aの成分のみが残る。
【0061】
図7(a)の「点目標B成分」で示したプロットは、(3)式をプロットしたものである。パルススペクトルは点目標AとBの加算されたスペクトルであるため、干渉によって若干波打っている。ここから、点目標Bの成分を正しい位相で減算すると、図7(b)の「減算後」で示したようなスペクトルとなり、これはおおよそ点目標Aの成分のみを含んでいる。なお、「減算前」で示したスペクトルは図7(a)の「パルススペクトル」と同じものである。「減算後」スペクトルを逆フーリエ変換により再パルス圧縮すると、図6(a)のパルス圧縮後波形となる。
【0062】
以上のように上記第1の実施形態では、FFT部6、圧縮係数乗算部7及びIFFT部8−1にてパルス圧縮を施し、代表値抽出部11−1にて得られたパルス代表値を再変換部12により再度フーリエ変換し、加算部13にてこのフーリエ変換出力を圧縮係数乗算部7の出力から減算し、この減算出力をIFFT部8−2にて逆フーリエ変換して再度パルス圧縮を施して、ピーク検出部9−2及び代表値抽出部11−2によりパルス圧縮後波形のピーク毎のパルス圧縮レンジを検出するようにして、パルス圧縮・代表値抽出部14におけるパルス代表値の抽出演算を二重に行うようにしている。
【0063】
従って、合成帯域レーダの1パルスをチャープパルスとした場合に、弱い目標Aが、強い目標Bのチャープパルスの圧縮後波形の裾の広がりに埋もれていても、チャープパルス段階で弱い目標Aを検出することができ、これにより、チャープパルスと合成帯域とを組み合わせても、合成帯域のレンジ解像度を損なうことなく、複数目標の検出を容易かつ安定して行うことができる。
【0064】
(第2の実施形態)
本発明の第2の実施形態は、上記加算部13の減算処理をオン/オフ制御するようにしたものである。
【0065】
図8は、本発明の第2の実施形態に係わるレーダ装置を示すブロック図である。図8において、上記図1と同一部分には同一符号を付して詳細な説明を省略する。
【0066】
パルス圧縮・代表値抽出部20には、制御部19が設けられる。制御部19は、ピーク検出部9−1による検出結果に基づいて、加算部13のオン/オフ制御を行うものである。
【0067】
以下に、上記加算部13のオン/オフ制御処理について説明する。図9は、上記制御部19の制御処理手順を示すフローチャートである。
【0068】
上記第1の実施形態は、第1の閾値、すなわち、パルス圧縮後波形のピーク検出閾値を、著しく超過するピークがある例であった。実際には1回目のパルス圧縮後波形で検出されるピークが閾値を若干超える程度であることもある。そのような場合、そのピーク成分を減算しても、閾値を超える他のピークが存在しないことは明らかである。従って、そのような場合は、わざわざ減算処理を行う必要は無い。
【0069】
そこで、第1の閾値より若干、例えば、2dB、3dB程度、大きい第2の閾値を設定する。すなわち、制御部19は、チャープパルスのパルス圧縮処理からピーク検出処理及び代表値抽出処理が完了すると(ステップST9a乃至ステップST9f)、検出したピークが第2の閾値より大きいか否かを判定する(ステップST9g)。
【0070】
ここで、検出されたピークの中に第2の閾値より大きいピークが存在すれば(yes)、制御部19は、そのピーク、または、他のピークも併せて、加算部13に対し減算処理を実行させてIFFT部8−2、ピーク検出部9−2及び代表値抽出部11−2による他のピークの有無の判定処理及び代表値抽出処理を実行させる(ステップST9h乃至ステップST9m)。一方、第2の閾値より大きいピークが存在しなければ(no)、制御部19は加算部13をオフ制御して減算処理を実行させず、最初のパルス圧縮で検出されたピークの代表値のみを後段の速度検出・周波数ステップ代表値抽出部15に出力させる。
【0071】
以上のように上記第2の実施形態によれば、制御部19にてパルス圧縮後波形のピークが第2の閾値を超えるか否かを判定し、超える場合のみ加算部13に対し減算処理を実行させるようにしているので、演算処理の簡略化を図ることができる。
【0072】
(第3の実施形態)
本発明の第3の実施形態は、代表値抽出部11−2で抽出されるパルス圧縮後波形のピークが第1の閾値未満となるまで、加算部13、IFFT部8−2、ピーク検出部9−2及び代表値抽出部11−2の各処理を繰り返し実行させるようにしたものである。
【0073】
図10は、本発明の第3の実施形態に係わるレーダ装置を示すブロック図である。図10において、上記図1と同一部分には同一符号を付して詳細な説明を省略する。
【0074】
パルス圧縮・代表値抽出部30において、圧縮係数乗算部7とIFFT部8−1との間には、スイッチ28が介挿接続される。このスイッチ28は、圧縮係数乗算部7の出力と加算部13の出力とをIFFT部8−1に選択的に導出するものである。また、パルス圧縮・代表値抽出部30には、制御部29が設けられる。制御部29は、ピーク検出部9−1による検出結果に基づいて、加算部13のオン/オフ制御を行うとともに、スイッチ28の切替制御を行うものである。
【0075】
図11は、上記制御部29の制御処理手順を示すフローチャートである。
【0076】
上記第1の実施形態では、減算を1回だけ行って、大きいピークに隠れた他のピークを検出した。しかし、実際には、大きいピークを減算して検出されるピークがまだ十分に第1の閾値よりも大きい場合があり、そのような場合、減算後に検出されたピークに隠れて、さらに他のピークが存在する可能性がある。
【0077】
そこで、制御部29は、チャープパルスのパルス圧縮処理からピーク検出処理が完了すると(ステップST11a乃至ステップST11d)、第1の閾値よりピークが大きいか否かを判定する(ステップST11e)。ここで検出されたピークの中に第1の閾値より大きいピークが存在すれば(yes)、制御部29は、そのピーク、または、他のピークも併せて、加算部13に対し減算処理を実行させ(ステップST11f乃至ステップST11i)、第1の閾値を超えるピークが無くなるまで、加算部13に対し減算処理を実行させてIFFT部8−1、ピーク検出部9−1及び代表値抽出部11−1による他のピークの有無の判定処理及び代表値抽出処理を繰り返し実行させる。制御部29は、スイッチ28を制御して、初回のIFFTのみ圧縮係数乗算部7とIFFT部8−1を接続し、2回目以降は加算部13の出力をIFFT部8−1に入力する。
【0078】
一方、第1の閾値を超えるピークが無くなった場合(no)、制御部29は、繰り返し制御を終了して各代表値を読み出して次段の速度検出・周波数ステップ代表値抽出部15に出力する。なお、この変形として、それぞれのピークの代表値を逐次、次段に送りながら平行してピーク検出処理を続けてもかまわない。
【0079】
以上のように上記第3の実施形態では、加算部13にて大きいピークを減算して検出されるピークがまだ十分に第1の閾値よりも大きい場合であっても、第1の閾値未満となるまでIFFT部8−1、ピーク検出部9−1、代表値抽出部11−1及び加算部13による各処理を繰り返し実行させるようにしたので、全てのピークを漏らすことなく検出することができる。
【0080】
なお、図9と図11を組合せてもよい。すなわち、ピーク検出閾値は第1の閾値であるが、減算処理の適用を判断する閾値は第2の閾値として、第2の閾値を超えるピークが無くなるまで減算処理を繰り返してもよい。
【0081】
(第4の実施形態)
本発明の第4の実施形態は、パルス圧縮波形からピーク検出する際のピーク位置の高精度検出を図るようにしたものである。
【0082】
図12は、本発明の第4の実施形態に係わるパルス圧縮・代表値抽出部を示すブロック図である。図12において、上記図1と同一部分には同一符号を付して詳細な説明を省略する。
【0083】
パルス圧縮・代表値抽出部40では、目標との相対速度の概算値に基づいて、複数のチャープパルスのパルス圧縮後のピーク位置がほぼ揃うようにピーク位置に補正を加える。複数のチャープパルスとは、例えば1周波数ステップのチャープパルスでもよいし、1CPIに含まれる全てのチャープパルスでもよい。振幅加算部39−1は、ピーク位置がほぼ揃うように補正された複数のパルス圧縮後波形から位相情報を除去し、それら複数のパルス圧縮後波形を同一レンジビン毎に加算する。なお、加算する波形は、振幅、パワー、あるいは振幅の他の累乗等々、位相が除去されていれば、累乗数は問わない。ただし、パワーによる加算で最大比合成となる。
【0084】
ピーク位置を揃える補正は、振幅加算部39−1,39−2の前のいずれの段階でも可能であるが、本発明では、逆フーリエ変換は減算後に再度、構成によっては複数回行われるため、処理量を減らすには、IFFT部8−1より前で完了させておくことが望ましい。以下、圧縮係数乗算部18で行う例を説明する。
【0085】
図13(a)は、時々刻々と移動する目標から反射された幾つかのチャープパルスのパルス圧縮波形を抜き出して重ね書きしたものである。この構成は、複数パルスを振幅加算することによって、ピークを明確に検出することを目的とするが、図13(a)のように、ピークの位置が時間によって大きく変動すると、移動の量によっては加算しても、ピークが著しく広がる、さらにはピークの形を取らない可能性がある。
【0086】
そこで本第4の実施形態では、概算速度に基づいてピーク位置を修正してから振幅加算する。
【0087】
図13(b)は、目標との真の相対速度から2%程度異なる概算速度でNp×Nf個の圧縮後パルスのピーク位置をほぼ揃うように補正したパルス圧縮波形を重ね書きしたものである。このようにピーク位置をほぼ揃えることによって、振幅加算後にピーク同士が加算され、加算結果にピークが明確に現れる。図13(c)は加算結果であるが、加算前と波形の広がりに差がなく、ピークが明確に現れていることが分かる。
【0088】
図13はSNRが非常に高い場合の波形であったが、図14は同様の処理を非常にSNRの低いパルスに施した例である。図14(a)は8パルス分のパルス圧縮後波形を重ね書きしたものであるが、雑音が多いためピークの位置はバラバラであり、個々のパルスからの正しいピーク位置の推定はほぼ不可能である。一方、この波形を同様に2%正しい値からずれた概算速度で補正してNp×Nfパルス分を振幅加算した結果の波形が図14(b)である。レンジビン番号4の辺りに明確なピークが出現しており、このピーク位置は、ほぼ正しいレンジを示している。
【0089】
このように、パルスのピーク位置をほぼ揃えて、振幅加算することによって、チャープパルスでのレンジをより正確に検出することができる。
【0090】
ピーク位置の補正は、式の上では下記のようになる。
チャープパルスのフーリエ変換後スペクトルはおおよそ、下式で表される。
【数4】

【0091】
チャープパルスの詳細形状に関する項は省略した。ただし、ηは1-2v/cである。cは光速、vは目標との相対速度である。aはチャープレートと呼ばれ、チャープパルスに変調を掛ける際の1秒あたりの角周波数変化量である。前述のように、パルス圧縮前のスペクトルは次の式のように表される。
【数5】

【0092】
従って、下式に示す項を除去する必要がある。
【数6】

【0093】
一般に、パルス圧縮係数は、下式の部分に相当する。
【数7】

【0094】
(4)式には、それ以外のチャープパルスのパルス長の間に目標が移動することによって発生する次の項が含まれている。
【数8】

【0095】
この項のηに含まれるvも概算速度でパルス圧縮係数に含めて補正する。ただし、まだこの段階では、圧縮後パルスピーク位置の補正は行われていない。パルス圧縮後波形のピーク位置の補正は、次式に示すように、圧縮係数を乗算した後のスペクトルを用いる。
【数9】

【0096】
上式のTを次式のように変形することによりピーク位置の補正を行う。
【数10】

【0097】
正しい相対速度は不明であるため、vは概算速度である。kはCPI先頭からのパルス番号であり、0から始まる整数である。T2はPRIである。前述のように、パルス圧縮後波形のピーク位置は、Nであり、Tがチャープパルスでのレンジに相当する時間の項であるが、(10)式のようにTを変形することによって、概算速度で移動する目標が時間kT2だけ経過した場合のチャープパルスの目標までの往復時間の変化量をキャンセルさせることができる。
【0098】
具体的にはパル圧縮係数にさらに、次の項を乗算して、パルスピーク位置の補正を行う。
【数11】

【0099】
なお、レーダは、通常、複数のCPIを連続的に処理するので、概算速度は前回のCPIで検出した速度を利用すればよい。初回の検出の際には、速度計などで別途測定した速度や、本発明とは全く異なる別の速度検出レーダで検出した速度を用いればよい。
【0100】
(9)式のTは本来、パルス毎に異なる値であるが、(10)式のような補正をかけることによって、複数パルスについて、全く同一のTで(9)式のようなパルス圧縮前スペクトルを得ることができ、パルス圧縮後波形のピーク位置をほぼ揃えることができる。
【0101】
このように圧縮後パルスのピーク位置を揃えて、加算した後に正確なピーク位置を検出し、代表値抽出部11−1にて検出したピーク位置に対する各パルスの成分をパルス代表値として抽出する。
【0102】
その際、ピーク位置の補正を行った後であれば、その複数のパルスについては、そのピーク位置が示す全く同じレンジビンの成分を抽出すればよく、代表値抽出の際にピーク位置の移動を考慮する必要がなくなる。
【0103】
なお、複数パルスの圧縮後波形の振幅加算は、減算後にも行うので、図12では、減算後にも振幅加算部39−2が追加されている。ピーク位置の補正は圧縮係数乗算部18で完了しているので、その後行う必要は無い。
【0104】
なお、パルス圧縮・代表値抽出部40は、図1の構成、すなわち、図3のフローチャートに対応した構成の変形として示したが、ピーク位置の補正と振幅加算は、パルス圧縮後波形のピーク検出の高感度化の方法であるので、図9や図11、あるいはその他の構成にも適用できる。
【0105】
以上のように上記第4の実施形態では、目標ピークの位置が時間によって大きく変動する場合であっても、圧縮係数乗算部18及び振幅加算部39−1により、目標との相対速度の概算値に基づいて、複数のチャープパルスのパルス圧縮後のピーク位置がほぼ揃うようにピーク位置に補正を加えることで、チャープパルスのレンジをより正確に検出することができる。
【0106】
(その他の実施形態)
なお、本発明は上記各実施形態に限定されるものではない。図15は本発明の他の実施形態を示す図である。図1と殆ど同様であるが、送信部を有さない、受信専用の形態となっている。レーダの方式としては、送信部と受信部が同一機器に搭載されているアクティブ型の他に、送信部と受信部が異なる機器に搭載され、異なる位置に配置されるバイスタティック型がある。図15はバイスタティック型レーダの受信機に本願の発明を搭載する際の形態である。送信部を有さない他に図1と異なる点は、アンテナ21は受信用アンテナであることと、送信部と同期した発振器を持たず、受信RF部22の中に図示しない発振器が備えられていることである。他は図1と同様であるので説明を省略する。
【0107】
(飛翔体誘導装置の実施形態)
図16は、本発明に係る飛翔体誘導装置25の実施形態を示すブロック図である。本発明のレーダ装置1の出力および他のN個のセンサ26−1〜26−Nの出力は、誘導信号生成部27に供給される。誘導信号生成部27は、これらレーダ装置1の出力および他のN個のセンサ26−1〜26−Nの出力に基づいて、レーダ装置1を搭載する飛翔体を誘導するための誘導信号を生成し、飛翔体の操舵装置24に出力する。本発明のレーダ装置1を飛翔体誘導装置25に搭載することによって、より高精度な飛翔体の誘導を行うことが可能となる。
【0108】
以上、説明したように、本発明では、合成帯域レーダの1パルスをチャープパルスとした場合に、パルス圧縮後波形で検出出来ない目標が合成帯域でも検出できなかった問題に対し、強い目標の検出後、その成分を除去し、再度ピーク検出を行うことによって、弱い目標を見落とさずに検出できるようにした。その結果、合成帯域レーダの高解像度性を十分に生かすことが可能になった。
【0109】
なお、このような減算処理は、上記の説明から分かるように、検出したピークをその一つ前の次元に巻き戻して減算するといった処理であるので、チャープパルスの段階のみでなく、速度検出、合成帯域レンジ検出の全ての段階で同様の処理が可能である。また、次元の巻き戻しは1段階のみである必要は無く、極端な例では、合成帯域レンジ検出で検出されたピークをチャープパルスの段階まで巻き戻して減算することも可能である。
【0110】
尚、本発明は上記実施形態そのままに限定されるものではなく、実施段階ではその要旨を逸脱しない範囲で構成要素を変形して具体化できる。また、上記実施形態に開示されている複数の構成要素の適宜な組み合わせにより、種々の発明を形成できる。例えば、実施形態に示される全構成要素から幾つかの構成要素を削除してもよい。さらに、異なる実施形態にわたる構成要素を適宜組み合わせてもよい。
【符号の説明】
【0111】
1…レーダ装置、2…アンテナ、3…サーキュレータ、4…送信部、5…受信RF部、6…FFT部、7…圧縮係数乗算部、8−1,8−2…IFFT部、9−1,9−2…ピーク検出部、10−1,10−2…レンジ検出部、11−1,11−2…代表値抽出部、12…再変換部、13…加算部、14…パルス圧縮・代表値抽出部、15…速度検出・周波数ステップ代表値抽出部、16…合成帯域レンジ検出部、17…発振器、19,29…制御部、24…操舵装置、25…飛翔体誘導装置、26−1〜26−N…センサ、27…誘導信号生成部、39−1、39−2…振幅加算部。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
目標から到来した所定数のパルス毎に中心周波数をステップ状に変化させたチャープパルスの反射波を受信し、デジタルベースバンド信号に変換する受信部と、
前記デジタルベースバンド信号をパルス毎に、周波数軸信号にフーリエ変換して、圧縮係数を乗算して時間軸信号に逆フーリエ変換することでパルス圧縮を施すパルス圧縮部と、
前記パルス圧縮後波形のピーク毎のパルス圧縮レンジを検出し、かつ、パルス圧縮後波形のピーク毎の各パルス代表値を抽出するパルス代表値抽出部と、
このパルス代表値抽出部で抽出したパルス代表値を周波数軸信号にフーリエ変換するフーリエ変換部と、
このフーリエ変換部の出力を前記パルス圧縮部における逆フーリエ変換前の周波数軸信号から減算する減算部と、
この減算部の出力を逆フーリエ変換して再度パルス圧縮を施す再パルス圧縮部と、
この再パルス圧縮部によるパルス圧縮後波形のピーク毎のパルス圧縮レンジを検出し、かつ、パルス圧縮後波形のピーク毎の各パルス代表値を抽出する再パルス代表値抽出部と、
前記パルス代表値抽出部及び前記再パルス代表値抽出部によるパルス代表値から、そのパルス代表値で検出可能なドップラ周波数から1つ以上の相対速度を検出し、1測定期間内の同一周波数ステップの複数パルスから前記相対速度毎に各周波数ステップ代表値を抽出する周波数ステップ代表値抽出部と、
前記周波数ステップ代表値から合成帯域レンジ波形を算出し、その各ピークから各目標のレンジを検出する合成帯域レンジ検出部とを具備したことを特徴とするレーダ装置。
【請求項2】
さらに、前記パルス代表値抽出部で検出される前記パルス圧縮後波形のピークが第1の閾値からさらに所定値高い第2の閾値を超える場合に、前記減算部に対し減算処理を実行させる制御部を備えたことを特徴とする請求項1記載のレーダ装置。
【請求項3】
目標から到来した所定数のパルス毎に中心周波数をステップ状に変化させたチャープパルスの反射波を受信し、デジタルベースバンド信号に変換する受信部と、
前記デジタルベースバンド信号をパルス毎に、周波数軸信号にフーリエ変換して、圧縮係数を乗算する圧縮係数乗算部と、
前記圧縮係数乗算部の出力を初期入力とし、当該圧縮係数乗算部の出力と与えられる周波数軸信号とを選択的に切替導出するスイッチと、
前記スイッチから出力される周波数軸信号を時間軸信号に逆フーリエ変換することでパルス圧縮を施してパルス圧縮後波形を生成し、そのピーク毎のパルス圧縮レンジを検出し、かつ、パルス圧縮後波形のピーク毎の各パルス代表値を抽出するパルス代表値抽出部と、
このパルス代表値抽出部で抽出したパルス代表値を周波数軸信号にフーリエ変換するフーリエ変換部と、
このフーリエ変換部の出力を前記スイッチから出力される周波数軸信号から減算する減算部と、
前記パルス代表値抽出部で検出されるパルス圧縮後波形のピークが第1の閾値を超える場合に、前記減算部に対し減算処理を実行させ、かつ、前記スイッチに対し、その入力を前記減算部出力とし、前記パルス代表値抽出部で検出されるパルス圧縮後波形のピークが第1の閾値未満となるまで、前記減算部、前記パルス代表値抽出部の各処理を繰り返し実行させる制御部と、
前記パルス代表値抽出部によるパルス代表値から、そのパルス代表値で検出可能なドップラ周波数から1つ以上の相対速度を検出し、1測定期間内の同一周波数ステップの複数パルスから前記相対速度毎に各周波数ステップ代表値を抽出する周波数ステップ代表値抽出部と、
前記周波数ステップ代表値から合成帯域レンジ波形を算出し、その各ピークから各目標のレンジを検出する合成帯域レンジ検出部とを具備したことを特徴とするレーダ装置。
【請求項4】
入力された相対速度の概算値を用いて、複数パルスのパルス圧縮後波形のピーク位置がほぼ一致するように補正するピーク位置補正部と、
補正したパルス圧縮後波形から位相を除去した波形を前記複数パルスについて加算した加算後波形を生成する加算部とをさらに備え、
前記パルス代表値抽出部は、前記加算後波形からピークを検出し、前記補正した各パルス圧縮後波形の前記ピークの情報を抽出してパルス代表値とすることを特徴とする請求項1乃至3のいずれか1つに記載のレーダ装置。
【請求項5】
さらに、所定数のパルス毎に中心周波数をステップ状に変化させてチャープパルスを送信する送信部を備えたことを特徴とする請求項1乃至4のいずれか1つに記載のレーダ装置。
【請求項6】
請求項1乃至5のいずれか1つに記載のレーダ装置と、レーダ装置の出力である相対速度、レンジを用いて飛翔体を誘導するための誘導信号を生成する誘導信号生成部とを備えたことを特徴とする飛翔体誘導装置。
【請求項7】
目標から到来した所定数のパルス毎に中心周波数をステップ状に変化させたチャープパルスの反射波を受信し、デジタルベースバンド信号に変換する受信部を有するレーダ装置で使用される目標検出方法において、
前記デジタルベースバンド信号をパルス毎に、周波数軸信号にフーリエ変換して、圧縮係数を乗算して時間軸信号に逆フーリエ変換することでパルス圧縮を施し、
前記パルス圧縮後波形のピーク毎のパルス圧縮レンジを検出し、かつ、パルス圧縮後波形のピーク毎の各パルス代表値を抽出し、
この抽出したパルス代表値を周波数軸信号にフーリエ変換し、
このフーリエ変換出力を前記逆フーリエ変換前の周波数軸信号から減算し、
この減算出力を逆フーリエ変換して再度パルス圧縮を施し、
このパルス圧縮後波形のピーク毎のパルス圧縮レンジを検出し、かつ、パルス圧縮後波形のピーク毎の各パルス代表値を抽出し、
前記パルス代表値から、そのパルス代表値で検出可能なドップラ周波数から1つ以上の相対速度を検出し、1測定期間内の同一周波数ステップの複数パルスから前記相対速度毎に各周波数ステップ代表値を抽出し、
前記周波数ステップ代表値から合成帯域レンジ波形を算出し、その各ピークから各目標のレンジを検出するようにしたことを特徴とする目標検出方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【公開番号】特開2011−149806(P2011−149806A)
【公開日】平成23年8月4日(2011.8.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−11098(P2010−11098)
【出願日】平成22年1月21日(2010.1.21)
【出願人】(000003078)株式会社東芝 (54,554)
【Fターム(参考)】