説明

レーダ装置及びターゲット検出方法

【課題】本発明は、近距離におけるターゲットの検出を高速で行うことを可能とするレーダ装置を提供することを目的とする。
【解決手段】複数のアンテナ(A1〜A6)と、複数のアンテナの切替を行うためのアンテナ切替部(30)と、アンテナ切替部によって切替られたアンテナから電波を送信する送信部(41)と、アンテナ切替部によって切替られたアンテナによって送信された電波の反射波を受信して受信信号を出力する受信部(43)と、受信信号に基づいた角度サーチ又は前記受信信号に基づいたデジタルマルチビーム形成を行う信号処理部(50)を有することを特徴とするレーダ装置(1)。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、レーダ装置及びターゲット検出方法に関し、特にデジタルマルチビーム形成(Digital Beam Forming)を用いて受信走査を行うレーダ装置及びその様なレーダ装置におけるターゲット検出方法に関する。
【背景技術】
【0002】
デジタルマルチビーム形成を用いて受信走査を行うレーダ装置は、1つの送信アンテナと複数の受信アンテナから構成され、該送信アンテナから電波を送信し、送信された電波の反射波を複数のアンテナで受信する。
【0003】
しかしながら、この構成によるレーダ装置では、受信アンテナの数に一致する数の受信部が必要であり、走査精度を向上するためには、多数の受信部を備えなければならない。そのため、受信部の数が増えるに従い、その重量及びサイズが大きくなり、しかも、多大な電力を必要とするという問題点があった。
【0004】
そこで、1つの信号処理部と、アレイアンテナと、アレイアンテナの切り替え行うスイッチを備え、アレイアンテナが受信するポートをスイッチによって制御することにより、4チャンネル分のアレイアンテナ且つ6個分のアンテナスペースによって、11チャンネルを実現し、デジタルマルチビーム形成の精度を向上させることを可能とするレーダ装置が知られている(例えば、特許文献1参照)。
【0005】
【特許文献1】特開2005−3393号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、4チャンネル分のアレイアンテナで11チャンネルを実現するためには、11チャンネル分のデータを揃えるための時間と、角度推定のための信号処理の時間とが必要となり、近距離におけるターゲットの検出を高速で行うことが困難であった。
【0007】
また、レーダ装置の検出範囲は、アンテナ1チャンネル分の能力で決まるため、4チャンネル分のアレイアンテナで11チャンネルを実現する場合には、高利得で広い検出範囲を有するように構成することは困難であった。
【0008】
そこで、本発明は、上記の問題点を解決することが可能なレーダ装置及びターゲット検出方法を提供することを目的とする。
【0009】
さらに、本発明は、近距離におけるターゲットの検出を高速で行うことを可能とするレーダ装置及びターゲット検出方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記の課題を解決するため、本発明に係るレーダ装置では、複数のアンテナと、複数のアンテナの切替を行うためのアンテナ切替部と、アンテナ切替部によって切替られたアンテナから電波を送信する送信部と、アンテナ切替部によって切替られたアンテナによって送信された電波の反射波を受信して受信信号を出力する受信部と、受信信号に基づいた角度サーチ又は受信信号に基づいたデジタルマルチビーム形成を行う信号処理部を有することを特徴とする。
【0011】
また、上記課題を解決するために、本発明に係るターゲット検出方法では、アンテナ切替部によって切り替えられた複数のアンテナから電波を送信し、アンテナ切替部によって切り替えられた複数のアンテナによって送信された反射波を受信して受信信号を出力し、受信信号に基づいた角度サーチ又は受信信号に基づいたデジタルマルチビーム形成を行うことを特徴とする。
【発明の効果】
【0012】
本発明に係るレーダ装置及びターゲット検出方法では、角度サーチとデジタルビーム形成とを切替えて実施するので、ターゲットの最適な検出を行うことが可能となった。
【0013】
また、本発明に係るレーダ装置及びターゲット検出方法では、近距離に対応して角度サーチを行う場合には、緊急に対応しなければならない、近距離に存在するターゲットを短時間で検出することが可能となった。
【0014】
さらに、本発明に係るレーダ装置及びターゲット検出方法では、デジタルビーム形成を行う場合に利用される、異なる間隔を有する4つのアンテナに空きスペースにアンテナを追加するだけで、レーダ装置のサイズを大きくする必要も、コストを大きく上げる必要もなく、角度サーチにおける検出範囲を広くすることが可能となった。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
以下図面を参照して、本発明に係るレーダ装置及びターゲット検出方法について説明する。但し、本発明の技術的範囲はそれらの実施の形態に限定されず、特許請求の範囲に記載された発明とその均等物に及ぶ点に留意されたい。
【0016】
図1は、本発明に係るレーダ装置1の概略構成を示したブロック図である。
【0017】
レーダ装置1は、送信した電波に係る反射波の受信走査をデジタルマルチビーム形成により行い障害物や先行車両等のターゲット検出を行うとともに、角度サーチによるターゲットの検出を行うために、車両2に装備されている。また、レーダ装置1は、アンテナ部10、遅延部20、アンテナ切替スイッチ30、高周波部40、信号処理部50等から構成される。また、レーダ装置1は車両2に配置されている車速センサ60と接続されている。
【0018】
アンテナ部10は、アレイ状に配置された送受信共用の複数のアンテナA1〜A6を有しており、アンテナA1〜A6は、図1に示すように、連続する6つのアンテナポジションに配置されている。アンテナA1〜A6は、例えば、指向性、利得などのアンテナ特性がいずれも同一であることが好ましく、検出領域全体に電波を照射できる指向性を有しているものを使用する。また、アンテナA1〜A6は、その送受信面が一直線上になるように一列に配置されている。
【0019】
遅延部20は、アンテナA1〜A6のそれぞれと接続された遅延回路21〜26を有している。遅延回路21〜26は、後述する角度サーチにおいて、電波のビーム角度を調整するために、所定の位相差を発生するように予め設定されている。
【0020】
アンテナ切替スイッチ30は、デジタルマルチビーム形成においては、6つのアンテナA1〜A6の内の4つのアンテナで11チャンネルを実現するように、信号処理部50によって制御される。また、アンテナ切替スイッチ30は、角度サーチにおいては、6つのアンテナA1〜A6の内の2つのアンテナを切替えて利用することによって、6つ種類のビームを出力できるように、信号処理部50によって制御される。なお、アンテナ切替スイッチ30は、例えば、1入力2切換出力(SPDT)又は1入力3切換出力(SP3T)の単位スイッチをトーナメント形式で組み合わせることによって実現することができる。また、単位スイッチとしては、MMIC(マイクロ波モノシリック集積回路)又はHIC(ハイブリッド集積回路)などの平面回路型の高周波スイッチが用いられる。
【0021】
高周波部40は、76GHz帯の高周波信号を出力するVCO42を有する送信部41と、送信部41から出力された送信信号による電波の反射波を受信した受信信号を入力する受信部43とを含んでいる。また、受信部43は、VCO42からの発振信号と同期している。
【0022】
信号処理部50は、CPU、RAM及びROM等を含んで構成され、アンテナ切替スイッチ30及び高周波部40等を制御して、受信部から伝送された受信信号に基づき、デジタルマルチビーム形成による角度推定又は角度サーチによる測角を行い、ターゲットの検出結果を出力する。なお、信号処理部50は、ターゲットの検出結果を車両のACC(車間距離制御)用のECU等へ出力するように構成しても良いし、信号処理部50自体が車両のACC(車間距離制御)用のECUと兼用されていても良く、その場合には、ターゲット検出結果に基づいて、PCS(プリクラッシュ・セーフティ)処理等を行う。
【0023】
車速センサ60は、レーダ装置1が搭載されている車両2に配置され、車両の移動速度に対応した車速パルスを信号処理部50へ出力するように構成されている。信号処理部50では、車速センサ60からの車速パルスに基づいて、車両の速度を判定し、車両の速度に応じて、デジタルマルチビーム形成による角度推定又は角度サーチによる測角の何れを実施するかの切り替えを行う。
【0024】
次に、デジタルマルチビーム形成による角度推定について説明する。
【0025】
図2及び図3は、デジタルマルチビーム形成による角度推定における、レーダ装置1のアンテナ動作原理を説明するための図である。図2及び図3に示されるように、アンテナA1とA2の配置間隔をdとしたとき、アンテナA2とA4、そして、アンテナA4とA6の配置間隔は、アンテナA1とA2の配置間隔dの2倍である2dとした。
【0026】
図2は、アンテナA1から送信信号T1によって電波が送信された場合を示している。なお、図中で網掛けされた三角形が、電波を送信するために選択された基準アンテナである。
【0027】
基準アンテナA1から送信された電波は、目標物で反射され、その反射波がアンテナ部10に戻ってくる。レーダの中心方向に対して、角度θの方向から到来する電波を、図のように配列されたアンテナ部10の4個のアンテナA1、A2、A4及びA6で受信する。アンテナA1に対する反射波R11の伝搬経路長を基準とすると、アンテナA2に係る反射波R12、アンテナA4に係る反射波R14、アンテナA6に係る反射波R16に対する各伝搬経路長は、図に示すように、夫々、p、3p、5pだけ長くなる。但し、p=dsinθである。したがって、その分だけ、アンテナA2、A4、A6に到達する各反射波R12、R14、R16は、アンテナA1に到達する反射波R11よりも遅れる。
【0028】
各反射波の到来時間が、アンテナによって異なるため、受信信号S12、S14、S16の夫々の位相は、受信信号S11の位相に対して、(2πdsinθ)/λ、(6πdsinθ)/λ、(10πdsinθ)/λの遅れ量だけ遅れたものとなる。即ち、アンテナA1を基準アンテナとした場合、アンテナA1についての位相差0、アンテナA2についての位相差(2πdsinθ)/λ、アンテナA4についての位相差(6πdsinθ)/λ、アンテナA6についての位相差(10πdsinθ)/λにとなる。
【0029】
図3は、アンテナA2から送信信号T2によって電波が送信された場合を示している。なお、図中で網掛けされた三角形が、電波を送信するために選択された基準アンテナである。
【0030】
基準アンテナA2から送信信号T2に係る電波が送信される。送信アンテナA2から送信された電波は、目標物で反射され、その反射波がアンテナ部10に戻ってくる。図2と同様に、レーダの中心方向に対して、角度θの方向から到来する反射波を、アンテナ部10の4個のアンテナA1、A2、A4及びA6で受信する。アンテナA1に対する反射波R21の伝搬経路長を基準とすると、アンテナA2に係る反射波R22、アンテナA4に係る反射波R24、アンテナA6に係る反射波R26に対する各伝搬経路長は、図に示すように、夫々、p、3p、5pだけ長くなる。但し、p=dsinθである。
【0031】
図3の場合には、図2の場合とは異なり、基準アンテナは、アンテナA1からアンテナA2にシフトされているので、ここでは、アンテナA2における反射波到来のタイミングを基準にすることになる。そのため、図2の場合に比較して、アンテナA1からアンテナA2にシフトした分だけ、反射波の各アンテナへの到来位置が横方向にずらされたことになる。
【0032】
アンテナA2に係る反射波R22による受信信号S22を基準にすると、アンテナA1に係る受信信号S22の位相は、(2πdsinθ)/λだけ進んでいることになる。また、アンテナA4、A6に到達する各反射波R24、R26による受信信号S24、S26の位相は、アンテナA2で受信された受信信号S22の位相よりも遅れていることになるので、遅れ量は、夫々、(4πdsinθ)/λ、(8πdsinθ)/λとなる。即ち、アンテナA2を基準アンテナとした場合、アンテナA1についての位相差−(2πdsinθ)/λ、アンテナA2についての位相差0、アンテナA4についての位相差(4πdsinθ)/λ、アンテナA6についての位相差(8πdsinθ)/λとなる。
【0033】
前述した図2及び図3に示す例は一例であるが、このようにアンテナ切替スイッチ30によって、基準アンテナ及び受信アンテナを切替えることによって、4つのアンテナを利用して11チャンネル分のデータを収集することが可能となる。
【0034】
図4は、レーダ装置1におけるアンテナシーケンスを説明するための図である。
【0035】
図4に示す1区間目では、信号処理部50が、基準アンテナをアンテナA1となるようにアンテナ切替スイッチ30を制御して、アンテナA2においてチャンネル7についての位相差データを取得し、アンテナ4においてチャンネル9についての位相差データを取得し、アンテナ6においてチャンネル11についての位相差データを取得する。
【0036】
次の2区画目では、信号処理部50が、基準アンテナをアンテナA2となるようにアンテナ切替スイッチ30を制御して、アンテナA1においてチャンネル5についての位相差データを取得し、アンテナ4においてチャンネル8についての位相差データを取得し、アンテナ6においてチャンネル10についての位相差データを取得する。
【0037】
次の3区画目では、信号処理部50が、基準アンテナをアンテナA4となるようにアンテナ切替スイッチ30を制御して、アンテナA1においてチャンネル3についての位相差データを取得し、アンテナ2においてチャンネル4についての位相差データを取得し、アンテナ6においてチャンネル8についての位相差データを取得する。
【0038】
最後の4区画目では、信号処理部50が、基準アンテナをアンテナA6となるようにアンテナ切替スイッチ30を制御して、アンテナA1においてチャンネル1についての位相差データを取得し、アンテナ2においてチャンネル2についての位相差データを取得し、アンテナ4においてチャンネル4についての位相差データを取得する。チャンネル6は、基準アンテナ自身であるので、位相差データは常に「0」であり、特別に測定は行わない。
【0039】
以上のような4区画によるアンテナシーケンスを行うことによって、アンテナ部10の6つのアンテナの内、4つのアンテナA1、A2、A4及びA6を利用して、11チャンネル分の位相差データを取得することができる。
【0040】
信号処理部50は、図4に示すアンテナシーケンスを行うことによって、11チャンネル分の位相差データを取得した後、デジタルマルチビーム形成(又は高分解演算処理)による反射波の渡来角度推定を行い、特に遠距離における、ターゲットの有無及びターゲットが存在する方向の角度の推定を行う。なお、アンテナA1、A2、A4及びA6の各アンテナには、それぞれ所定の位相差を発生させるための遅延回路21、22、24及び26が接続されており、各受信信号はそれぞれの遅延回路が発生する位相差の影響を受けるので、信号処理部50において各遅延回路が発生する位相差を補償するような信号処理が行われる。
【0041】
次に、レーダ装置1における角度サーチについて説明する。
【0042】
角度サーチは、アンテナ部10のアンテナA1〜A6の内の2つのアンテナを利用し、遅延回路20を利用してビーム角度を調整し、方位サーチを行うものである。
【0043】
図5(a)は検知角度方向100(最左前方)の方位サーチを行う場合を示している。図5(a)の例では、アンテナA1及びアンテナA2を用い、アンテナA1に対応した遅延回路21における遅延量をアンテナA2に対応した遅延回路22における遅延量より大きく設定することによって、等位相面101を大きく図中左側に傾けて検知角度方向100方向にビーム1を出力して、方位サーチを行う。アンテナA1及び/又はA2がビーム1の反射波を受信した場合には、検知角度方向100方向にターゲットが存在することを検知することができる。
【0044】
図5(b)は検知角度方向102(左前方)の方位サーチを行う場合を示している。図5(b)の例では、アンテナA2及びアンテナA3を用い、アンテナA2に対応した遅延回路22における遅延量をアンテナA3に対応した遅延回路23における遅延量より大きく設定することによって、等位相面103を図中左側に傾けて検知角度方向102方向にビーム2を出力して、方位サーチを行う。アンテナA2及び/又はA3がビーム2の反射波を受信した場合には、検知角度方向102方向にターゲットが存在することを検知することができる。
【0045】
図5(c)は検知角度方向104(正面)の方位サーチを行う場合を示している。図5(c)の例では、アンテナA3及びアンテナA4を用い、アンテナA3に対応した遅延回路23における遅延量とアンテナA4に対応した遅延回路24における遅延量を等しく設定することによって、等位相面105をほぼアンテナ部10の正面側となるように維持して検知角度方向104方向にビーム3を出力して、方位サーチを行う。アンテナA3及び/又はA4がビーム3の反射波を受信した場合には、検知角度方向104方向にターゲットが存在することを検知することができる。
【0046】
図5(d)は検知角度方向106(右前方)の方位サーチを行う場合を示している。図5(d)の例では、アンテナA4及びアンテナA5を用い、アンテナA5に対応した遅延回路25における遅延量をアンテナA4に対応した遅延回路24における遅延量より大きく設定することによって、等位相面107を図中右側に傾けて検知角度方向106方向にビーム4を出力して、方位サーチを行う。アンテナA4及び/又はA5がビーム4の反射波を受信した場合には、検知角度方向106方向にターゲットが存在することを検知することができる。
【0047】
図5(e)は検知角度方向108(最右前方)の方位サーチを行う場合を示している。図5(e)の例では、アンテナA5及びアンテナA6を用い、アンテナA6に対応した遅延回路26における遅延量をアンテナA5に対応した遅延回路25における遅延量より大きく設定することによって、等位相面109を大きく図中右側に傾けて検知角度方向108方向にビーム5を出力して、方位サーチを行う。アンテナA5及び/又はA6がビーム5の反射波を受信した場合には、検知角度方向108方向にターゲットが存在することを検知することができる。
【0048】
図6は、ビームの測角範囲を示す図である。
【0049】
図6は、アンテナA3とA4との中心を0度とした場合のビーム1〜ビーム5の強度の一例を示している。本実施形態では、各ビーム幅は10度、オフセット角は10度、5つのビームによる検出範囲は、アンテナA3とA4の中心を0度とした場合に±25度に設定した。図6に示すように、ビームの数を増加させることによって、検出範囲を広げることが可能となるが、従前のマルチビーム形成を行うための間隔の異なる4つのアンテナの空きスペース(図1のA3及びA5の位置)にアンテナを2つ増加するだけで6つのアンテナによって検出範囲を広くすることが可能となる。なお、アンテナ自体はプリント配線と同様に作成できるため、4つのアンテナの空きスペースに2つのアンテナを追加しても、コストが大きくさがるものではない。
【0050】
図7は、角度サーチの場合のアンテナシーケンスを示す図である。
【0051】
図7に示すように、最初にビーム1を出力するためにアンテナA1及びアンテナA2を用い(図5(a)参照)、次にビーム2を出力するためにアンテナA2及びアンテナA3を用い(図5(b)参照)、次にビーム3を出力するためにアンテナA3及びアンテナA4を用い(図5(c)参照)、次にビーム4を出力するためにアンテナA4及びアンテナA5を用い(図5(d)参照)、最後にビーム5を出力するためにアンテナA5及びアンテナA6を用いることによって(図5(e)参照)、一連の角度サーチを完了する。
【0052】
以上説明したように、信号処理部50は、アンテナ切替スイッチ30を制御して、所定の2つのアンテナを利用できるように切替えることによって、図7に示すように、図5(a)〜図5(e)に示した5つの方位サーチを順次行い、5つの検知角度方向の何れにターゲットが存在するかを把握する。
【0053】
図8は、レーダ装置1におけるターゲット検出処理フローの一例を示す図である。
【0054】
図8に示す検出処理フローは、信号処理部50が、予めROM等に記録されたプログラムに従い、レーダ装置1の各構成要素と協働して実施するものとする。なお、図8に示す検出処理フローが実施される時点で、レーダ装置1の各構成要素には電力が供給され、動作可能な状態に維持されているものとする。
【0055】
最初に、信号処理部50は、車速センタ60から取得した車速パルスに基づいて、レーダ装置1が搭載されている車両の速度を判定する(S1)。
【0056】
次に、信号処理部50は、S1で判定された車速が低速か否かの判断を行う(S2)。例えば、車速が60km/h以下の場合には、車両は一般道を走行している可能性が高く、車両から近距離に位置するターゲットを検出することが好ましい。そこで、信号処理部50は、近距離におけるターゲットを短時間で検出することが可能な角度サーチを実施する。逆に、車両が60km/hより大きい場合には、車両が高速で走行しているために、例えばクルージング走行等に合わせて車両から遠距離のターゲットを検出することが好ましい。そこで、信号処理部50は、遠距離におけるターゲットを正確に検出することが可能なデジタルビーム形成に基づく角度推定を実施する。
【0057】
S2において低速(例えば、60km/h以下)と判断された場合には、信号処理部50は、角度サーチのために、図5(a)に示すビーム1による方位サーチ(S3)〜図5(e)に示すビーム5による方位サーチ(S7)を実施する。
【0058】
次に、信号処理部50が、S3〜S7における方位サーチの検出結果に基づいて、角度サーチによる測角結果を出力し(S8)、一例の処理を終了する。
【0059】
また、信号処理部50は、S2において高速(例えば、60km/hより大)と判断された場合には、デジタルビーム形成(DBF)のために、図4に示す1区間目の測定を行い、チャンネル7、9及び11における位相差データを取得する(S9)。以下、図4に示す2区間目の測定を行ってチャンネル5、8及び10における位相差データを取得し(S10)、図4に示す3区間目の測定を行ってチャンネル3、4及び8における位相差データを取得し(S11)、図4に示す4区間目の測定を行ってチャンネル1、2及び4における位相差データを取得する(S12)。
【0060】
次に、信号処理部50は、S9〜S12によって取得した11チャンネル分の位相差データを用いたデジタルビーム形成による遠距離におけるターゲットの存在及び/又はターゲットが存在する角度推定を行い、測角結果を出力し(S13)、一連の処理を終了する。
【0061】
本発明に係るレーダ装置1では、図8に示した、車速に応じて、近距離のターゲットに対応した角度サーチによるターゲット検出と、遠距離のターゲットに対応したデジタルビームに基づいたターゲット検出とが切替えて実施される。以下、図8に示した処理フローが、車両等に搭載されたレーダ装置1の動作が開始されてから、所定のタイミングで繰り返し実施されることとなる。
【0062】
本発明に係るレーダ装置1では、上述したように、近距離と遠距離でターゲットの検出方法が切替えて実施される。遠距離に対応したデジタルビーム形成に対して、近距離に対応した角度サーチでは、測角方法が、領域判定になるため、信号処理演算量が少なく、処理時間の短縮化を図ることができる。したがって、緊急に対応しなければならない、近距離に存在するターゲットを短時間で検出することが可能となった。
【0063】
また、本発明に係るレーダ装置1では、上述したように、遠距離に対応したデジタルビーム形成を行う場合には、6つのアレイ状に配置されたアンテナの内、間隔が異なる4つのアンテナを利用しているが、短距離に対応した角度サーチを行う場合には、6つのアンテナの全てを利用している。角度サーチの場合には、検出範囲がアレーアンテナの合成で検出角度が決まるため、より広い検出範囲を得ることが可能となった。
【0064】
さらに、本発明に係るレーダ装置1では、上述したように、従前の間隔の異なる4つのアレイアンテナの空きスペースに、アンテナを2個追加するだけで、レーダ装置のサイズを大きくする必要も、コストを大きく上げる必要もなく、短距離における検出範囲を広くすることが可能となった。
【図面の簡単な説明】
【0065】
【図1】本発明に係るレーダ装置の概略構成を示す図である。
【図2】アンテナの動作原理を説明するための図(1)である。
【図3】アンテナの動作原理を説明するための図(2)である。
【図4】アンテナシーケンスを説明するための図(1)である。
【図5】角度サーチを説明するための図である。
【図6】ビームの測角範囲を示す図である。
【図7】アンテナシーケンスを説明するための図(1)である。
【図8】検出処理フローを示す図である。
【符号の説明】
【0066】
1 レーダ装置
10 アンテナ部
20 遅延部
21、22、23、24、25、26 遅延回路
30 アンテナ切替スイッチ
41 送信部
42 VCO
43 受信部
50 制御部
60 車速センサ
A1、A2、A3、A4、A5、A6 アンテナ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数のアンテナと、
前記複数のアンテナの切替を行うためのアンテナ切替部と、
前記アンテナ切替部によって切替られたアンテナから電波を送信する送信部と、
前記アンテナ切替部によって切替られたアンテナによって送信された電波の反射波を受信して受信信号を出力する受信部と、
前記受信信号に基づいた角度サーチ又は前記受信信号に基づいたデジタルマルチビーム形成を行う信号処理部と、
を有することを特徴とするレーダ装置。
【請求項2】
前記信号処理部は、ターゲットが近距離にある場合には角度サーチを行い、ターゲットが遠距離にある場合にはデジタルマルチビーム形成を行う、請求項1に記載のレーダ装置。
【請求項3】
前記信号処理部は、車両に設けられたセンサの速度検知に応じて、角度サーチ及びデジタルマルチビーム形成の何れか一方を行う、請求項1に記載のレーダ装置。
【請求項4】
前記複数のアンテナに接続され、アンテナから送信される電波のビーム角度を調整するための遅延部を、更に有する、請求項1に記載のレーダ装置。
【請求項5】
前記信号処理部は、前記遅延部により調整された電波の反射波に対応した前記受信信号に基づいて角度サーチによりターゲットの測角を行う、請求項4に記載のレーダ装置。
【請求項6】
前記アンテナ切替部が電波を送信するアンテナ及び反射波を受信するアンテナを順次切替えることによって、前記受信部は複数チャネルに対応した複数の受信信号を出力する、請求項1〜5の何れか一項に記載のレーダ装置。
【請求項7】
前記信号処理部は、前記複数チャネルに対応した全ての複数の受信信号に基づいてデジタルマルチビーム形成によりターゲットの角度推定を行う、請求項5に記載のレーダ装置。
【請求項8】
デジタルマルチビーム形成を行う場合には、前記複数のアンテナの内、異なるアンテナ間隔を有して配置されている一部のアンテナを利用する、請求項1〜7の何れか一項に記載のレーダ装置。
【請求項9】
角度サーチを行う場合には、前記複数のアンテナの全てを利用する、請求項1〜8の何れか一項に記載のレーダ装置。
【請求項10】
複数のアンテナ及び前記複数のアンテナの切替を行うためのアンテナ切替部を有するレーダ装置における、遠近両用ターゲット検出方法であって、
前記アンテナ切替部によって切り替えられた前記複数のアンテナから電波を送信し、
前記アンテナ切替部によって切り替えられた前記複数のアンテナによって送信された反射波を受信して受信信号を出力し、
前記受信信号に基づいた角度サーチ又は前記受信信号に基づいたデジタルマルチビーム形成を行う、
ことを特徴とするターゲット検出方法。
【請求項11】
デジタルマルチビーム形成を行う場合には、前記複数のアンテナの内、異なる間隔を有して配置されている一部のアンテナを利用して、電波の送信及び反射波の受信を行う、請求項10に記載のターゲット検出方法。
【請求項12】
角度サーチを行う場合には、前記複数のアンテナの全てを利用して、電波の送信及び反射波の受信を行う、請求項10又は11に記載のターゲット検出方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2009−31185(P2009−31185A)
【公開日】平成21年2月12日(2009.2.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−197073(P2007−197073)
【出願日】平成19年7月30日(2007.7.30)
【出願人】(000237592)富士通テン株式会社 (3,383)
【Fターム(参考)】