説明

レーダ装置

【課題】 モノスタティックレーダ局とバイスタティック受信局の片方もしくは両方が異なる移動プラットホーム上にある場合でも精度よく目標の位置や速度を推定することができるレーダ装置を提供する。
【解決手段】 モノスタティックレーダ局50のドップラ周波数A算出手段4により算出されたアンテナ1と目標40の間におけるドップラ周波数A及び送信周波数を通信手段5及び通信手段9を介してバイスタティック受信局51にリアルタイムに送り、これとバイスタティック受信局51において受信し計測した周波数情報とからドップラ周波数B算出手段10によりアンテナ6と目標40との間におけるドップラ周波数Bを算出する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、信号送信源と信号受信源を異なる位置に配置して目標の位置や速度等を推定するバイスタティックレーダ装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
バイスタティックレーダ装置とは、信号送信源より目標に向けて信号を照射し、目標から反射した信号を、信号送信源と離隔配置した信号受信源で受信することによって目標を検出するレーダ装置である。従来のバイスタティックレーダ装置としては、例えば特許文献1に示されるものがある。
【0003】
このバイスタティックレーダ装置は、指向性アンテナから電磁波の送受信を行い、送信波と受信波の時間差及びアンテナビームの指向角度から目標の測距及び測角を行うモノスタティックレーダ局と、これに離隔して設置されてモノスタティックレーダ送信波の目標からの反射波を受信するバイスタティック受信局とを備え、バイスタティック受信局の受信波とモノスタティックレーダ局の受信波との到来時間差とバイスタティック受信局で検出した信号到来方向とから目標の位置を計測する。
【0004】
【特許文献1】特開平4−29080号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
従来のバイスタティックレーダ装置は、モノスタティックレーダ局とバイスタティック受信局でそれぞれ受信した目標からの反射信号の到来時間差と信号到来方向とに基づいて目標の位置を算出している。従って、目標の位置を正確に算出するには、モノスタティックレーダ局とバイスタティック受信局の相対位置が既知であり、且つ2つの局のアンテナの基準方位方向が高精度に一致している必要がある。
【0006】
このため、モノスタティックレーダ局とバイスタティック受信局のいずれか一方又はその両方が異なる移動プラットホーム上にある場合のように、2つの局の相対位置をリアルタイムに知ることが困難であったり、2つの局の基準の方向の整合精度が悪い場合には、位置計測が困難であったり、計測精度が著しく劣化するという課題があった。
【0007】
この発明は、上記のような課題を解決するためになされたもので、モノスタティックレーダ局とバイスタティック受信局の片方もしくは両方が異なる移動プラットホーム上にある場合でも精度よく目標の位置や速度を推定することができるレーダ装置を得ることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
この発明に係るレーダ装置は、目標に向けて送信電波を出力し、この送信電波が目標で反射した反射電波を受信する送受信手段を有するモノスタティックレーダ局と、モノスタティックレーダ局と異なる位置で反射電波を受信する受信手段を有するバイスタティック受信局と、モノスタティックレーダ局の送受信手段による受信電波の周波数を計測する第1の周波数検出手段と、バイスタティック受信局の受信手段による受信電波の周波数を計測する第2の周波数検出手段と、第1の周波数検出手段が計測した受信電波の周波数から目標とモノスタティックレーダ局における受信位置との間における第1のドップラ周波数を計測する第1のドップラ周波数算出手段と、送信電波の周波数、第2の周波数検出手段が計測した受信電波の周波数、及び第1のドップラ周波数算出手段が算出した第1のドップラ周波数を用いて、目標と前記バイスタティック受信局における受信位置との間における第2のドップラ周波数を計測する第2のドップラ周波数算出手段と、第1のドップラ周波数算出手段による第1のドップラ周波数の計測に伴い、計測結果の第1のドップラ周波数及び送信電波の周波数を第2のドップラ周波数算出手段に送信する通信手段と、第2のドップラ周波数を用いて目標の位置及び速度に関する運動諸元を推定する運動諸元推定手段とを備えるものである。
【発明の効果】
【0009】
この発明によれば、通信手段により第1のドップラ周波数算出手段による第1のドップラ周波数及び送信電波の周波数が第2のドップラ周波数算出手段に伝えられることから、モノスタティックレーダ局とバイスタティック受信局の片方、若しくは両方が異なる移動プラットホーム上にある場合でも、リアルタイムに精度よく目標の位置や速度を推定することができるという効果がある。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
実施の形態1.
図1は、この発明の実施の形態1によるバイスタティックレーダ装置の構成を示すブロック図である。図1において、モノスタティックレーダ局50は、アンテナ1、送受信手段2、周波数検出手段(第1の周波数検出手段)3、ドップラ周波数A算出手段(第1のドップラ周波数算出手段)4及び通信手段5を備える。また、バイスタティック受信局51は、アンテナ6、受信手段7、周波数検出手段(第2の周波数検出手段)8、通信手段9、ドップラ周波数B算出手段(第2のドップラ周波数算出手段)10、到来角度計測手段15、速度と角度による運動諸元推定手段52を備える。速度と角度による運動諸元推定手段52は、速度予測手段11、速度誤差変換手段12、速度ゲイン算出手段13、速度平滑手段14、角度予測手段16、角度誤差変換手段17、角度ゲイン算出手段18、角度平滑手段19、遅延回路20、及び位置速度予測手段21を備える。
【0011】
モノスタティックレーダ局50における送受信手段2は、アンテナ1を介して送信信号を送信波として目標40に向けて送出し、この送信波の目標40における反射による反射信号をアンテナ1を介して受信する。周波数検出手段3は、前述のようにして送受信手段2が受信した信号を入力し、この受信信号の周波数を計測する。ドップラ周波数A算出手段4では、周波数検出手段3により計測された信号の周波数と送受信手段2が目標40に向けて送出した信号の周波数とに基づいてアンテナ1と目標40の間における相対速度に対応するドップラ周波数A(第1のドップラ周波数)を算出する。通信手段5は、ドップラ周波数A算出手段4が算出したドップラ周波数Aと前記送信信号の周波数とを入力して無線通信でバイスタティック受信局51の通信手段9に送信する。
【0012】
バイスタティック受信局51における受信手段7は、目標40からの前記送信波による反射信号をアンテナ6を介して受信する。周波数検出手段8は、前述のようにして受信手段7が受信した信号を入力しその周波数を計測する。通信手段9は、通信手段5から送信されたドップラ周波数Aの情報と前記送信信号の周波数とを受信する。ドップラ周波数B算出手段10は、周波数検出手段8が計測した前記受信信号の周波数と、通信手段9が受信したドップラ周波数A及び前記送信信号の周波数とを入力し、これらを用いて目標40とアンテナ6の間における相対速度に対応するドップラ周波数B(第2のドップラ周波数)を算出する。
【0013】
速度と角度による運動諸元推定手段52内の速度予測手段11は、位置速度予測手段21が出力する直交座標における目標40の位置と速度の予測ベクトルに基づいて、目標40とアンテナ6の間におけるドップラ速度の予測値を算出する。速度誤差変換手段12は、位置速度予測手段21から入力した直交座標における位置と速度の予測ベクトルに基づいて、直交座標における誤差共分散行列をドップラ速度の誤差分散に変換する誤差変換行列を算出する。
【0014】
速度ゲイン算出手段13は、速度誤差変換手段12が算出した誤差変換行列と、位置速度予測手段21が算出した直交座標における予測誤差共分散行列とを入力し、これらを用いてドップラ速度で直交座標における目標40の位置と速度の平滑ベクトルを更新するためのゲイン行列を算出する。速度平滑手段14は、ドップラ周波数B算出手段10が算出したドップラ周波数Bと、速度予測手段11が算出したドップラ速度の予測値と、速度誤差変換手段12が算出した誤差変換行列と、速度ゲイン算出手段13が算出したゲイン行列とを入力し、これらを用いて直交座標における目標40の位置と速度の平滑ベクトルを更新する。
【0015】
角度予測手段16は、位置位置速度予測手段21が算出した直交座標における目標40の位置と速度の予測ベクトルを入力し、これを用いて目標40からの反射信号の到来角度の予測値を算出する。角度誤差変換手段17は、位置速度予測手段21が算出した直交座標における位置と速度の予測ベクトルを入力し、これを用いて直交座標における誤差共分散行列を角度の誤差分散に変換する誤差変換行列を算出する。角度ゲイン算出手段18は、角度誤差変換手段17が算出した誤差変換行列と、位置速度予測手段21が算出した直交座標における予測誤差共分散行列とを入力し、これらを用いて角度で直交座標における目標40の位置と速度の平滑ベクトルを更新するためのゲイン行列を算出する。
【0016】
角度平滑手段19は、ドップラ周波数B算出手段10が算出したドップラ周波数Bと、角度予測手段16が算出した角度の予測値と、角度誤差変換手段17が算出した誤差変換行列と、角度ゲイン算出手段18が算出したゲイン行列と、位置速度予測手段21が算出した直交座標における目標40の位置と速度の予測ベクトル及び予測誤差共分散行列とを入力し、これらを用いて平滑ベクトル及び平滑誤差共分散行列を更新する。
【0017】
遅延回路20は、速度平滑手段14又は角度平滑手段19が出力される直交座標における目標40の位置と速度の平滑ベクトル及び平滑誤差共分散行列を入力し、これらを用いて1サンプリングだけ時刻を遅延させる。位置速度予測手段21は、遅延回路20の出力する平滑ベクトル及び平滑誤差共分散行列に基づいて、次サンプル時刻における目標40の位置、速度の予測ベクトル及び予測誤差共分散行列を算出する。
【0018】
次にバイスタティック受信局51に入力される目標情報から目標40の運動を推定するための各種定義事項について説明する。
図2は、バイスタティック受信局51のアンテナ6を原点とする直交座標0−XYZにおける目標40の位置と速度を示す図であり、目標40の3次元運動を推定する場合を仮定する。また、説明の簡単のため、目標40の運動モデルに下記式(1)に示す等速直線運動モデルを採用した場合を仮定する。
【数1】

【0019】
上記式(1)におけるxkアンダーバー(電子出願の関係上、読みで表記する)は、サンプリング時刻tkにおける目標40の運動諸元の真値を表す状態ベクトルである。基準座標における目標40の位置ベクトルを下記式(2)のように表し、速度ベクトルを下記式(3)のように表すと、目標40の状態ベクトルは下記式(4)で表される。ここで、サンプリング時刻tk(k=1,2,・・・,n)は、アンテナ6において信号を受信するタイミングを表す離散時刻である。以降では、この離散時刻を時刻tkと呼ぶ。
【数2】

【0020】
Φk-1は時刻tk-1より時刻tkへの状態ベクトルの推移行列であり、下記式(5)で表される。また、wkアンダーバー(電子出願の関係上、読みで表記する)は、時刻tkにおける駆動雑音ベクトルであり、Γ1(k)は時刻tkにおける駆動雑音ベクトルの変換行列である。例えば、目標40の運動モデルを等速直線運動と仮定したことによる打ち切り誤差項をΓ1(k−1)wk-1アンダーバー(電子出願の関係上、読みで表記する)とみれば、wkアンダーバーは加速度ベクトル相当であり、Γ1(k−1)は下記式(6)で表される。なお、Tはサンプリング間隔、Iは3行3列の単位行列である。
【数3】

【0021】
また、平均を表す記号をEとすると、wkアンダーバーは、平均0アンダーバー(電子出願の関係上、読みで表記する)の3次元正規分布白色雑音であり、下記式(7)及び下記式(8)とする。但し、0アンダーバーは零ベクトルであり、Qkは時刻tkにおける駆動雑音共分散行列である。
【数4】

【0022】
次に目標40とアンテナ6の間における相対速度に対するドップラ周波数Bがドップラ周波数B算出手段10で算出された場合の観測モデルについて説明する。
時刻tkにおけるアンテナ1と目標40の間における相対速度によるドップラ周波数BをfdB(k)、目標40からの反射信号の周波数をfC(k)、光速をcとすると、ドップラ速度の観測値r(k)ドット(電子出願の関係上、読みで表記する)は、下記式(9)で表される。また、ドップラ速度の観測モデルを下記式(10)で表す。ここで、Rkはドップラ速度の観測値の真値、h(xkアンダーバー)(電子出願の関係上、読みで表記する)はドップラ速度の真値であり、下記式(11)で表される。νkはドップラ速度の観測雑音である。観測雑音は平均0の1次元正規分布白色雑音に従うものと仮定し、下記式(12)及び下記式(13)の性質を有するものとする。なお、Skは時刻tkにおけるドップラ速度の観測誤差分散である。
【数5】

【0023】
上記式(11)を時刻tkの基準座標における目標40の予測ベクトルxkアンダーバー(−)(電子出願の関係上、読みで表記する)のまわりでテーラー展開することで下記式(14)を得ることができる。ここで、行列H(xkハットアンダーバー(−))(電子出願の関係上、読みで表記する)を用いることにより、直交座標における誤差共分散行列をドップラ速度の誤差分散に近似変換することができる。
【数6】

【0024】
次に到来角度計測手段15によって目標40からの反射信号の到来角度が計測された場合の観測モデルについて説明する。
時刻tkにおける目標40の仰角Ekと方位角Azkの観測ベクトルθ(k)を下記式(24)で表し、仰角及び方位角の観測モデルを下記式(25)で表す。ここで、Θkは仰角及び方位角の観測ベクトルの真値であり、g(xkアンダーバー)(電子出願の関係上、読みで表記する)は仰角及び方位角の真値であって下記式(26)で表される。ωkは仰角及び方位角の観測雑音ベクトルである。観測雑音ベクトルは平均0の2次元正規分布白色雑音に従うものと仮定し、下記式(27)及び下記式(28)の性質を有するものとする。なお、Λkは時刻tkにおける仰角及び方位角の観測誤差共分散行列である。
【数7】

【0025】
上記式(26)を時刻tkの直交座標における目標40の予測ベクトルxkアンダーバー(−)のまわりでテーラー展開することにより下記式(29)を得ることができる。また、行列H(xkハットアンダーバー(−))を用いることによって、直交座標における誤差共分散行列をドップラ速度の誤差分散に近似変換することができる。
【数8】

【0026】
次に動作について説明する。
モノスタティックレーダ局50の送受信手段2は、アンテナ1を介して目標40に向かって周波数f0の信号を送信し、目標40からの反射信号を再びアンテナ1を介して受信する。周波数検出手段3は、送受信手段2が出力する受信信号を入力し、受信信号の周波数fAを計測する。ここで、受信信号の周波数fAは、アンテナ1と目標40の間における相対速度により生ずるドップラ周波数fdA(ドップラ周波数A)の影響を往路と復路に対して受けることから下記式(38)で表される。
【数9】

【0027】
ドップラ周波数A算出手段4は、周波数検出手段3が出力する信号の周波数fAを入力して、下記式(39)に従いドップラ周波数fdAを算出する。
【数10】

【0028】
通信手段5は、ドップラ周波数A算出手段4が出力するドップラ周波数fdAと送信周波数f0の情報を通信手段9に向けて送信する。
【0029】
一方、受信手段7は目標40からの反射信号をアンテナ6を介して受信する。周波数検出手段8は、受信手段7が出力する受信信号を入力してその周波数を計測する。ここで、受信信号の周波数fBは、アンテナ1と目標40との間における相対速度により生ずるドップラ周波数fdAの影響と、目標40とアンテナ6との間における相対速度により生ずるドップラ周波数fdB(ドップラ周波数B)の影響を受けることから下記式(40)で表される。
【数11】

【0030】
また、通信手段9は、通信手段5からドップラ周波数fdAと送信周波数f0の情報を受信する。ドップラ周波数B算出手段10では、周波数検出手段8が出力する受信信号の周波数fB、通信手段9から受信したドップラ周波数fdA及び送信周波数f0を入力して下記式(41)に従ってドップラ周波数fdBを算出する。ここで、下記式(41)は、上記式(40)に上記式(39)を代入することで導出される。
【数12】

【0031】
速度予測手段11は、位置速度予測手段21が出力する直交座標における目標40の位置と速度の予測ベクトルxkハットアンダーバー(−)を入力して、ドップラ速度の予測値h(xkハットアンダーバー(−))を下記式(42)に従い算出する。
【数13】

【0032】
速度誤差変換手段12は、位置速度予測手段21が出力する直交座標における予測ベクトルxkハットアンダーバー(−)を入力して、上記式(15)から上記式(23)までの関係に従い、直交座標における予測誤差共分散行列をドップラ速度の予測誤差分散に近似変換する誤差変換行列H(xkハットアンダーバー(−))を算出する。
【0033】
また、速度ゲイン算出手段13は、速度誤差変換手段12が出力する誤差変換行列H(xkハットアンダーバー(−))と、位置速度予測手段21が出力する直交座標における予測誤差共分散行列Pk(−)とを入力して、これらと予め設定されたドップラ速度の観測誤差分散Skとから、ドップラ速度で状態ベクトルxkアンダーバーを平滑するためのゲイン行列Kkを下記式(43)に従い算出する。
【数14】

【0034】
速度平滑手段14では、速度ゲイン算出手段13が出力する速度ゲイン行列Kkと、速度予測手段11が出力するドップラ速度の予測値h(xkハットアンダーバー(−))と、速度誤差変換手段12が出力する誤差変換行列H(xkハットアンダーバー(−))と、位置速度予測手段21が出力する直交座標における目標の位置と、速度の予測誤差共分散行列Pk(−)と、ドップラ周波数B算出手段10が出力するドップラ周波数fdAと、ドップラ周波数fdB及び送信周波数f0とを入力し、これらを用いて直交座標における目標40の位置、速度の平滑ベクトルとその誤差共分散行列である平滑誤差共分散行列を、それぞれ下記式(44)及び下記式(45)に従い算出する。
【数15】

【0035】
一方、到来角度計測手段15は、受信手段7から受信信号を入力してその到来角度(仰角及び方位角)を計測する。角度予測手段16は、位置速度予測手段21が出力する直交座標における目標40の位置と速度の予測ベクトルxkハットアンダーバー(−)を入力して仰角及び方位角の予測ベクトルg(xkハットアンダーバー(−))を下記式(47)に従い算出する。
【数16】

【0036】
角度誤差変換手段17では、位置速度予測手段21が出力する直交座標における予測ベクトルxkハットアンダーバー(−)を入力して、上記式(30)から上記式(37)までの関係に従い、直交座標における予測誤差共分散行列を仰角及び方位角の予測誤差共分散行列に近似変換する誤差変換行列G(xkハットアンダーバー(−))を算出する。
【0037】
角度ゲイン算出手段18は、角度誤差変換手段16が出力する誤差変換行列G(xkハットアンダーバー(−))と、位置速度予測手段21が出力する直交座標における予測誤差共分散行列Pk(−)とを入力して、これらと予め設定された仰角及び方位角の観測誤差共分散行列Λkとから、仰角及び方位角で状態ベクトルxkアンダーバーを平滑するためのゲイン行列Ψkを下記式(48)に従い算出する。
【数17】

【0038】
角度平滑手段19は、角度ゲイン算出手段18が出力する角度ゲイン行列Ψkと、角度予測手段16が出力する仰角及び方位角の予測値g(xkハットアンダーバー(−))と、角度誤差変換手段17が出力する誤差変換行列G(xkハットアンダーバー(−))と、位置速度予測手段21が出力する直交座標における目標40の位置及び速度の予測誤差共分散行列Pk(−)と、到来角度計測手段15が出力する受信信号の到来角度(仰角及び方位角)とを入力して、これらに基づいて直交座標における目標40の位置、速度の平滑ベクトルとその誤差共分散行列である平滑誤差共分散行列を、それぞれ下記式(44)及び下記式(45)に従い算出する。
【数18】

【0039】
遅延回路20では、速度平滑手段14又は角度平滑手段19が出力する目標40の位置、速度の平滑ベクトルxkハットアンダーバー(+)と平滑誤差共分散行列Pk(+)を1サンプル時間分だけ遅延させる。
【0040】
位置速度予測手段21は、遅延回路20が出力する1サンプリング前の目標40の位置及び速度の平滑ベクトルxkハットアンダーバー(+)と平滑誤差共分散行列Pk(+)を入力して、上記式(1)の運動モデルより導出される直交座標における予測ベクトルと予測誤差共分散行列を下記式(51)及び下記式(52)に従い算出する。
【数19】

【0041】
以上の処理を繰り返すことにより、目標40の位置及び速度の状態ベクトルを精度よく更新して追尾を維持することができる。ここで、ドップラ周波数B算出手段10が算出するドップラ周波数Bと到来角度計測手段15が算出する仰角及び方位角とは、同一時刻の観測情報である。このため、速度予測手段11から速度平滑手段14までによる各処理を先に実施した後、サンプリング間隔Tを0として位置速度予測手段21の処理を実施して、角度予測手段16から角度平滑手段19までによる各処理を行う。
【0042】
以上のように、この実施の形態1によれば、モノスタティックレーダ局50のドップラ周波数A算出手段4により算出されたアンテナ1と目標40の間におけるドップラ周波数A及び送信周波数を通信手段5及び通信手段9を介してバイスタティック受信局51にリアルタイムに送り、これとバイスタティック受信局51において受信し計測した周波数情報とからドップラ周波数B算出手段10によりアンテナ6と目標40との間におけるドップラ周波数Bを算出する構成としている。また、到来角度計測手段15では受信信号の到来角度を計測する構成としている。
【0043】
これにより、従来のレーダ装置のように、モノスタティックレーダ局とバイスタティック受信局の相対位置が既知、且つ2つの局のアンテナの基準の方向が高精度に一致していなければならないとの条件は不要である。すなわち、2つの局の片方若しくは両方が異なる移動プラットホーム上にある場合でも精度よく目標40の位置や速度を推定することができる。
【図面の簡単な説明】
【0044】
【図1】この発明の実施の形態1によるバイスタティックレーダ装置の構成を示すブロック図である。
【図2】バイスタティック受信局のアンテナを原点とする直交座標0−XYZにおける目標の位置と速度を示す図である。
【符号の説明】
【0045】
1 アンテナ、2 送受信手段、3 周波数検出手段(第1の周波数検出手段)、4 ドップラ周波数A算出手段(第1のドップラ周波数算出手段)、5 通信手段、6 アンテナ、7 受信手段、8 周波数検出手段(第2の周波数検出手段)、9 通信手段、10 ドップラ周波数B算出手段(第2のドップラ周波数算出手段)、11 速度予測手段、12 速度誤差変換手段、13 速度ゲイン算出手段、14 速度平滑手段、15 到来角度計測手段、16 角度予測手段、17 角度誤差変換手段、18 角度ゲイン算出手段、19 角度平滑手段、20 遅延回路、21 位置速度予測手段、40 目標、50 モノスタティックレーダ局、51 バイスタティック受信局、52 運動諸元推定手段。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
目標に向けて送信電波を出力し、この送信電波が前記目標で反射した反射電波を受信する送受信手段を有するモノスタティックレーダ局と、
前記モノスタティックレーダ局と異なる位置で前記反射電波を受信する受信手段を有するバイスタティック受信局と、
前記モノスタティックレーダ局の送受信手段による受信電波の周波数を計測する第1の周波数検出手段と、
前記バイスタティック受信局の受信手段による受信電波の周波数を計測する第2の周波数検出手段と、
前記第1の周波数検出手段が計測した前記受信電波の周波数から前記目標と前記モノスタティックレーダ局における受信位置との間における第1のドップラ周波数を計測する第1のドップラ周波数算出手段と、
前記送信電波の周波数、前記第2の周波数検出手段が計測した前記受信電波の周波数、及び前記第1のドップラ周波数算出手段が算出した第1のドップラ周波数を用いて、前記目標と前記バイスタティック受信局における受信位置との間における第2のドップラ周波数を計測する第2のドップラ周波数算出手段と、
前記第1のドップラ周波数算出手段による第1のドップラ周波数の計測に伴い、計測結果の第1のドップラ周波数及び前記送信電波の周波数を前記第2のドップラ周波数算出手段に送信する通信手段と、
前記第2のドップラ周波数を用いて前記目標の位置及び速度に関する運動諸元を推定する運動諸元推定手段とを備えたレーダ装置。
【請求項2】
バイスタティック受信局の受信手段による受信電波の到来角度を計測する到来角度計測手段を備え、
運動諸元推定手段は、前記到来角度計測手段が計測した前記受信電波の到来角度と第2のドップラ周波数算出手段が算出した第2のドップラ周波数とを用いて目標の位置及び速度に関する運動諸元を推定することを特徴とする請求項1記載のレーダ装置。
【請求項3】
運動諸元推定手段は、
基準の直交座標における目標の位置及び速度の予測ベクトルを用いてドップラ速度の予測ベクトルを算出する速度予測手段と、
前記直交座標における目標の位置及び速度の予測ベクトルを用いて、前記直交座標における予測誤差共分散行列をドップラ速度の予測誤差分散に近似変換するための誤差変換行列を算出する速度誤差変換手段と、
前記予測誤差共分散行列と前記速度誤差変換手段により算出された誤差変換行列とを用いてドップラ速度に対する速度ゲイン行列を算出する速度ゲイン算出手段と、
第2のドップラ周波数算出手段が算出した第2のドップラ周波数、前記速度予測手段が算出したドップラ速度の予測ベクトル、前記速度誤差変換手段が算出した誤差変換行列、前記速度ゲイン算出手段が算出した速度ゲイン行列、前記目標の位置及び速度の予測ベクトルと予測誤差共分散行列を用いて、前記目標の位置及び速度の平滑ベクトルと平滑誤差共分散行列を算出する速度平滑手段と、
前記直交座標における目標の位置及び速度の予測ベクトルを用いて、バイスタティック受信局の受信手段による受信電波の到来角度の予測ベクトルを算出する角度予測手段と、
前記直交座標における目標の位置及び速度の予測ベクトルを用いて、前記直交座標における予測誤差共分散行列を前記受信電波の到来角度の予測誤差分散に近似変換するための誤差変換行列を算出する角度誤差変換手段と、
前記予測誤差共分散行列と前記角度誤差変換手段により算出された誤差変換行列とを用いて前記受信電波の到来角度に対する角度ゲイン行列を算出する角度ゲイン算出手段と、
到来角度計測手段が計測した前記受信電波の到来角度、前記角度予測手段が算出した前記受信電波の到来角度の予測ベクトル、前記角度誤差変換手段が算出した誤差変換行列、前記角度ゲイン算出手段が算出した角度ゲイン行列、前記目標の位置及び速度の予測ベクトルと予測誤差共分散行列を入力し、これらを用いて前記目標の位置及び速度の平滑ベクトルと平滑誤差共分散行列を算出する角度平滑手段と、
前記速度平滑手段又は前記角度平滑手段が算出した前記目標の位置及び速度の平滑ベクトルと平滑誤差共分散行列を1サンプル時間だけ遅延させて出力する遅延回路と、
遅延回路から出力された1サンプリング前の目標の位置及び速度の平滑ベクトルと平滑誤差共分散行列とを入力し、これらを用いて前記直交座標における目標の位置及び速度の予測ベクトルと予測誤差共分散行列を算出し、前記速度予測手段及び前記角度予測手段に出力する位置速度予測手段とを備えたことを特徴とする請求項2記載のレーダ装置。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2006−329829(P2006−329829A)
【公開日】平成18年12月7日(2006.12.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−154356(P2005−154356)
【出願日】平成17年5月26日(2005.5.26)
【出願人】(000006013)三菱電機株式会社 (33,312)
【Fターム(参考)】