説明

レーダ装置

【課題】小型の恒温装置または簡単な冷却装置を備えた送信機を用いてクラッタ抑圧度を改善できるレーダ装置を提供する。
【解決手段】送信機1と、発生された送信信号を送信波として指定方向の空間に送信し且つ該送信波の反射波を受信するアンテナ3と、アンテナで受信された反射波をデジタルビデオ信号に変換する受信機4と、送信機で発生される送信信号の送信パルス幅と送信間隔とに基づいて該送信機の温度を算出する温度算出装置9と、算出された送信機の温度に基づき受信信号の振幅および位相の補正値を算出する補正値算出装置10と、算出された補正値に基づいて、受信機からのデジタルビデオ信号に含まれるパルス内の振幅および位相を補正する振幅・位相補正装置11と、振幅・位相補正装置からの信号に含まれるクラッタを抑圧するMTI装置5を備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、送信パルス幅と送信間隔が時間的に変化する運用が行われるレーダ装置に関し、特に高いクラッタ抑圧度を得る技術に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、飛行している目標を検出するレーダ装置が知られている。このようなレーダ装置において、低高度で飛行している目標を検出する場合、移動目標からの反射波の他に、クラッタと呼ばれる不要反射波が同時に受信される。移動目標からの反射波は、ドップラ効果を利用してクラッタを抑圧することにより、抽出することができる。
【0003】
図7はこのような従来のクラッタ抑圧を行うレーダ装置の構成を示すブロック図である。このレーダ装置は、送信機1、サーキュレータ2、アンテナ3、受信機4、MTI(Moving Target Indicator;移動目標検出)装置5、周波数分析装置6、CFAR(Constant False Alarm Rate)装置7および検出装置8を有して構成されている。
【0004】
送信器1は、送信信号を生成し、サーキュレータ2を介してアンテナ3に送る。サーキュレータ2は、送信機1から送られてくる信号をアンテナ3に送るか、アンテナ3から送られてくる信号を受信機4に送るかを切り替える。
【0005】
アンテナ3は、送信機1からサーキュレータ2を介して送られてくる送信信号を電波に変換し、送信波として指定方向の空間に送信するとともに、送信波が目標で反射された反射波を受信し、受信信号としてサーキュレータ2を介して受信機4に送る。
【0006】
受信機4は、アンテナ3からサーキュレータを介して送られてくる受信信号をデジタルビデオ信号に変換する。受信機4における変換によって得られたデジタルビデオ信号は、MTI装置5に送られる。
【0007】
MTI装置5は、受信機4から送られてくるデジタルビデオ信号から、クラッタを抑圧する。MTI装置5によってクラッタが抑圧されたデジタルビデオ信号は、周波数分析装置6に送られる。周波数分析装置6は、クラッタ抑圧されたデジタルビデオ信号をコヒーレント積分することにより、信号対雑音比(SN比)を改善する。周波数分析装置6におけるコヒーレント積分の手段としては、FFT(Fast Fourier Transform;高速フーリエ変換)がよく使われる。この周波数分析装置6の出力は、CFAR装置7に送られる。
【0008】
CFAR装置7は、周波数分析装置6から出力される振幅・位相を持った信号を検波(振幅情報のみの信号に変換)し、注目レンジビンの周辺の信号振幅からリファレンス振幅を算出し、リファレンス振幅に対する注目レンジビン振幅の比を表す信号として、振幅比信号を生成する。CFAR装置7で生成された振幅比信号は、検出装置8に送られる。検出装置8は、CFAR装置7から送られてくる振幅比信号が所定のしきい値を超えた場合に、その振幅比信号を目標として検出する。この結果、従来のレーダ装置は、ドップラ効果を利用してクラッタを抑圧し、移動目標を検出することができる。
【0009】
ところで、上述した従来のレーダ装置においては、レーダ装置の機材が不安定な場合、クラッタ抑圧度が低下することが知られている。例えば、送信機1では、温度変化によって送信波の振幅・位相特性が変化する。そこで、送信波の安定性を高くするためには、送信機1の温度を安定化する必要がある。このために、小型の恒温装置または簡易な冷却装置(以下、単に「小型の恒温装置」という)や、大型の恒温装置が用いられている。
【0010】
次に、送信機1の不安定性により、クラッタ抑圧度が低下することについて説明する。まず、送信機1の温度Tの変化が、以下の式(1)で表されるとする。
【数1】

【0011】
ここで、Tは送信機1の温度、tは時間、kは時定数、Tinは発熱体の温度である。
【0012】
時間tにおける、送信機1の温度Tは、以下の差分方程式(2)で求められる。
【数2】

【0013】
ここで、Tn+1は時間tn+1における送信機1の温度、Tnは時間tnにおける送信機1の温度、Δtは時間幅、tnはΔt×nの時間である。
【0014】
また、時間tにおける、送信波の振幅・位相が、以下の式(3)で表されるとする。なお、送信波は、本来は高周波であるが、動作を理解しやすくするために、高周波成分を除去した信号として定義している。
【数3】

【0015】
ここで、Snは時間tnにおける送信波、A0は温度T0における振幅、ΔAは温度に対する振幅の変化係数、φ0は温度T0における位相、Δφは温度に対する位相の変化係数である。
【0016】
今、送信機1の発熱体の温度モデルが、図8(a)に示すように設定されるものとする。図8(a)では、大型の恒温装置の使用時は、送信時の発熱体の温度Tinは比較的小さく、小型の恒温装置の使用時は、送信時の発熱体の温度Tinは大型の恒温装置の使用時より大きくなるものと仮定している。
【0017】
大型の恒温装置では、k=2.5×104、小型の恒温装置では、k=5×104とすると、上記式(1)および式(2)より、送信機1の温度は、図8(b)に示す結果となる。図8(b)に示すように、小型の恒温装置が使用される場合は、発熱体の温度変動は大きく、一方、大型の恒温装置が使用される場合は、発熱体の温度変動は小さいことがわかる。
【0018】
送信機1の温度−振幅・位相特性は、同一であるとし、A0=1W、ΔA=−1×10-3[W/K]、φ0=0°、Δφ=1[°/K]とすると、上記式(3)より、送信波の振幅は図9(a)に示す結果になり、位相は図9(b)に示す結果となる。図9(a)に示すように、小型の恒温装置が使用される場合は、送信波の振幅は、時間の経過に連れて大きい値から小さい値に変化し、振幅変動が大きい。
【0019】
これに対して、大型の恒温装置が使用される場合は、送信波の振幅は略一定であり、変動は小さいことがわかる。また、図9(b)に示すように、小型の恒温装置が使用される場合は、送信波の位相は時間の経過に連れて小さい値から大きい値に変化し、位相変動が大きい。これに対し、大型の恒温装置が使用される場合は、送信波の位相は上記と同様に変化するが、その変動幅が小さいことがわかる。
【0020】
上述した小型の恒温装置が使用される場合の送信波の振幅・位相の変化は、機材の不安定性に起因するため、変化量が大きいと、クラッタ抑圧度が低下することになる。
【0021】
MTI装置5において、3パルスMTI処理を実施した場合、それぞれの出力信号を求めると、図3(a)に示す結果となる。すなわち、同じ温度−振幅・位相特性を持つ送信機1を用いた場合、恒温装置の性能の違いにより、クラッタ抑圧度が異なり、小型の恒温装置を用いたレーダ装置では、高いクラッタ抑圧度が得られない。
【0022】
なお、関連する技術として、特許文献1は、モノパルス信号に生じた振幅や位相の変動を迅速に補正することが可能なモノパルスレーダ装置を開示している。このモノパルスレーダ装置は、アンテナ部にて空間より目標からの反射エコーを受信し、モノパルス信号(Σ,ΔAZ,ΔEL)を生成し、それぞれ対応する受信部に入力する。受信部では、予め記憶しておいた基準モニタ信号と、観測前にモニタ信号を受信して得たモノパルス信号とを比較し、モノパルス信号に生じた位相変動や振幅変動を補正する補正ウェイトを求める。そして、補正ウェイトを観測時に得たモノパルス信号に乗算して、モノパルス信号に生じた位相変動や振幅変動の補正を行なう。
【特許文献1】特開平10−332821号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0023】
しかしながら、上述した従来のレーダ装置において、大型の恒温装置を用いると、レーダ装置の小型化が図れず、小型の恒温装置または簡易な冷却装置を用いると、上述したように、クラッタ抑圧度の高いレーダ装置を実現できないという問題がある。
【0024】
本発明は、上述した問題を解消するためになされたものであり、その課題は、送信パルス幅と送信間隔が時間的に変化する運用を行うレーダ装置において、小型の恒温装置または簡単な冷却装置を備えた送信機を用いてクラッタ抑圧度を改善できるレーダ装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0025】
上記課題を解決するために、第1の発明に係るレーダ装置は、送信信号を発生する送信機と、送信機で発生された送信信号を送信波として指定方向の空間に送信し且つ該送信波の反射波を受信するアンテナと、アンテナで受信された反射波をデジタルビデオ信号に変換する受信機と、送信機で発生される送信信号の送信パルス幅と送信間隔とに基づいて該送信機の温度を算出する温度算出装置と、温度算出装置で算出された温度に基づき受信信号の振幅および位相の補正値を算出する補正値算出装置と、補正値算出装置で算出された補正値に基づいて、受信機からのデジタルビデオ信号に含まれるパルス内の振幅および位相を補正する振幅・位相補正装置と、振幅・位相補正装置から送られてくる信号に含まれるクラッタを抑圧するMTI装置とを備えることを特徴とする。
【0026】
また、第2の発明に係るレーダ装置は、送信波を発生する送信機と、送信信号を発生する送信機と、送信機で発生された送信信号を送信波として指定方向の空間に送信し且つ該送信波の反射波を受信するアンテナと、アンテナで受信された反射波をデジタルビデオ信号に変換する受信機と、送信機で発生される送信信号の送信パルス幅と送信間隔とに基づいて該送信機の温度を算出する温度算出装置と、温度算出装置で算出された温度に基づき受信信号の振幅および位相の補正値を算出する補正値算出装置と、補正値算出装置で算出された補正値に基づいて、受信機からのデジタルビデオ信号に含まれるパルス間の振幅および位相を補正する振幅・位相補正装置と、振幅・位相補正装置から送られてくる信号に含まれるクラッタを抑圧するMTI装置とを備えることを特徴とする。
【発明の効果】
【0027】
第1の発明に係るレーダ装置によれば、送信波の送信パルス幅と送信間隔とに基づいて送信機の温度を算出し、算出された温度に基づいて受信波の振幅および位相の補正値を算出し、受信機からのデジタルビデオ信号に含まれるパルス内の振幅および位相を補正するように構成したので、送信機の温度に起因する送信波の振幅・位相の変化を補正することができる。従って、小型の恒温装置または簡易な冷却装置を用いた場合であっても高いクラッタ抑圧度を得ることができる。また、大型の恒温装置を用いる必要がないので、レーダ装置を小型化できる。
【0028】
第2の発明に係るレーダ装置によれば、送信波の送信パルス幅と送信間隔とに基づいて送信機の温度を算出し、この算出された温度に基づいて受信波の振幅および位相の補正値を算出し、受信機からのデジタルビデオ信号に含まれるパルス間の振幅および位相を補正するように構成したので、送信機の温度に起因する送信波の振幅・位相の変化を補正することができる。従って、上記第1の発明に係るレーダ装置と同様の効果が得られる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0029】
以下、本発明の実施例を図面を参照しながら詳細に説明する。なお、以下においては、従来の技術の欄で説明した構成部分に相当する部分には、従来の技術の欄で使用した符号と同じ符号を用いて説明する。
【実施例1】
【0030】
図1は本発明の実施例1に係るレーダ装置の構成を示すブロック図である。このレーダ装置は、送信機1、サーキュレータ2、アンテナ3、受信機4、MTI装置5、周波数分析装置6、CFAR装置7、検出装置8、温度算出装置9、補正値算出装置10および振幅・位相補正装置11を有して構成されている。
【0031】
送信器1は、送信信号を生成し、サーキュレータ2を介してアンテナ3に送る。サーキュレータ2は、送信機1から送られてくる送信信号をアンテナ3に送るか、アンテナ3から送られてくる信号を受信機4に送るかを切り替える。
【0032】
アンテナ3は、送信機1からサーキュレータ2を介して送られてくる送信信号を電波に変換し、送信波として指定方向の空間に送信するとともに、この送信波が目標で反射された反射波を受信し、受信信号としてサーキュレータ2を介して受信機4に送る。
【0033】
受信機4は、アンテナ3からサーキュレータを介して送られてくる受信信号をデジタルビデオ信号に変換する。受信機4における変換によって得られたデジタルビデオ信号は、振幅・位相補正装置11に送られる。
【0034】
MTI装置5は、振幅・位相補正装置11から送られてくるデジタルビデオ信号から、クラッタを抑圧する。MTI装置5によってクラッタが抑圧されたデジタルビデオ信号は、周波数分析装置6に送られる。周波数分析装置6は、クラッタ抑圧されたデジタルビデオ信号をコヒーレント積分することにより、信号対雑音比(SN比)を改善する。周波数分析装置6におけるコヒーレント積分の手段としては、FFTがよく使われる。周波数分析装置6の出力は、CFAR装置7に送られる。
【0035】
CFAR装置7は、周波数分析装置6から出力される振幅・位相を持った信号を検波(振幅情報のみの信号に変換)し、注目レンジビンの周辺の信号振幅からリファレンス振幅を算出し、リファレンス振幅に対する注目レンジビン振幅の比を表す信号として、振幅比信号を生成する。CFAR装置7で生成された振幅比信号は、検出装置8に送られる。検出装置8は、CFAR装置7から送られてくる振幅比信号が所定のしきい値を超えた場合に、その振幅比信号を目標として検出する。
【0036】
温度算出装置9は、送信機1で発生される送信信号の送信パルス幅と送信間隔とから、送信機1の温度を算出する。温度算出装置9で算出された温度は、補正値算出装置10に送られる。温度算出装置9の詳細は後述する。
【0037】
補正値算出装置10は、温度算出装置9から送られてくる送信機1の温度から受信信号の振幅・位相の補正量を算出する。補正値算出装置10で算出された振幅・位相の補正量は、補正値として振幅・位相補正装置11に送られる。補正値算出装置10の詳細は後述する。
【0038】
振幅・位相補正装置11は、受信機4から出力される信号に対して、補正値算出装置10で算出された補正値に基づき、パルス内およびパルス間の振幅・位相を補正する。ここで、パルス内の補正とは、パルス内の全てのレンジに対する補正を行うことをいう。例えば図9(b)において、1つのパルスP1の位相が8度から18度まで変化する場合に、パルスP1の最初のレンジでは−8の係数で補正し、中間のレンジでは−13の係数で補正し、最後のレンジでは−18のレンジで補正することをいう。
【0039】
一方、パルス間の補正とは、隣り合う2つのパルスの間の補正である。例えば図9(b)において、パルスP1とパルスP2との間の補正を行うことをいう。この場合、パルスP1の位相の平均値「13」とパルスP2の位相の平均値「17」とを用いて補正が行われる。パルス内およびパルス間の補正を行うことにより、全てのパルスの位相をゼロにすることができる。以上は位相について説明したが、振幅についても同様である。振幅・位相補正装置11で補正された信号はMTI装置5に送られる。振幅・位相補正装置11の詳細は後述する。
【0040】
次に、上述した温度算出装置9、補正値算出装置10および振幅・位相補正装置11の詳細を説明する。送信機1の温度の変化は上述した式(1)、送信機1の温度は式(2)、送信波の振幅・位相は式(3)でそれぞれ表されるものとする。
【0041】
温度算出装置9は、送信機1で発生される送信信号の送信パルス幅と送信間隔とから、発熱体の温度Tinを設定し、式(2)に示す差分方程式により送信機1の温度Tを算出する。この温度算出装置9で算出された温度Tは、補正値算出装置10に送られる。
【0042】
補正値算出装置10は、温度算出装置9から送られてくる送信機1の温度Tに基づき、以下の式(4)により、受信信号の振幅・位相の補正量を表す補正値Cを算出する。
【数4】

【0043】
ここで、Cl、mはlパルス、mレンジセルにおける受信信号の補正値、Tl、mはlパルス、mレンジセルにおける送信機1の温度、A0は温度T0における振幅、ΔA’は温度に対する振幅の補正係数、φ0は温度T0における位相、Δφ’は温度に対する位相の補正係数である。
【0044】
上記式(4)に基づいて算出された補正値Cは振幅・位相補正装置11に送られる。振幅・位相補正装置11は、補正値算出装置10から送られてくる補正値Cに基づき、パルス内およびパルス間の振幅・位相を、以下の式(5)に従って処理することにより補正を行う。
【数5】

【0045】
ここで、Yl、iはlパルス、iレンジセルにおける振幅・位相補正装置11の出力、Xl、iはlパルス、iレンジセルにおける受信機4の出力、Cl、mはlパルス、mレンジセルにおける受信信号の補正値、Mは補正値のレンジセル数である。
【0046】
上記式(5)に基づき計算された振幅・位相補正装置11の出力を用い、MTI装置5において、3パルスMTI処理を実施した場合、MTI装置5の出力信号は、図3(b)に示す結果となる。すなわち、パルス内およびパルス間の補正を行った場合は、小型の恒温装置であっても高いクラッタ抑圧度が得られる。
【0047】
次に、本発明の実施例1に係るレーダ装置の変形例を説明する。図2は実施例1の変形例に係るレーダ装置の構成を示すブロック図である。このレーダ装置では、振幅・位相補正装置11の代りに、振幅・位相補正付きのパルス圧縮装置12が用いられる。
【0048】
振幅・位相補正付きのパルス圧縮装置12は、パルス内およびパルス間の振幅・位相を補正する複素ウエイトとパルス圧縮のための複素ウエイトを乗算した複素ウエイトを用いて、受信信号を処理する。
【実施例2】
【0049】
本発明の実施例2に係るレーダ装置は、パルス間の振幅・位相のみを補正するようにしたものである。
【0050】
図4は本発明の実施例2に係るレーダ装置の構成を示すブロック図である。このレーダ装置は、送信機1、サーキュレータ2、アンテナ3、受信機4、MTI装置5、周波数分析装置6、CFAR装置7、検出装置8、温度算出装置9、第2補正値算出装置13および第2振幅・位相補正装置14を有して構成されている。
【0051】
実施例2に係るレーダ装置は、実施例1の補正値算出装置10が第2補正値算出装置13に置き換えられ、実施例1の振幅・位相補正装置11が第2振幅・位相補正装置14に置き換えられて構成されている。その他の構成は、実施例1のレーダ装置と同じである。以下では、実施例1と相違する部分についてのみ説明する。
【0052】
第2補正値算出装置13は、温度算出装置9から送られてくる送信機1の温度Tに基づき、以下の式(6)により、送信機1の平均温度から受信信号の振幅・位相の補正値Cを算出する。
【数6】

【0053】
ここで、Tlはlパルスの送信機1のパルス内の平均温度、Tl、mはlパルス、mレンジセルにおける送信機1の温度、Mは送信パルス幅に相当するレンジセル数、Clはlパルスにおける受信信号の補正値、A0は温度T0における振幅、ΔA’は温度に対する振幅の補正係数、φ0は温度T0における位相、Δφ’は温度に対する位相の補正係数である。
【0054】
第2振幅・位相補正装置14は、パルス間の振幅・位相補正を実施するが、パルス内の振幅・位相補正は実施しない。パルス間の振幅・位相の補正は、以下の式(7)に従った処理を実行することにより行われる。
【数7】

【0055】
ここで、Yl、iはlパルス、iレンジセルにおける第2振幅・位相補正装置14の出力、Xl、iはlパルス、iレンジセルにおける受信機4の出力、Clはlパルスにおける受信信号の補正値である。
【0056】
上記第2振幅・位相補正装置14からの出力を用い、MTI装置5において、3パルスMTI処理を実施した場合、MTI装置5の出力信号は、図3(c)に示す結果となる。すなわち、パルス間の補正のみを行った場合は、パルス内のクラッタ抑圧度は中央部分が凹んだV字状になる。従って、パルス内の振幅・位相変動によるクラッタ抑圧性能は、実施例1におけるクラッタ抑圧性能に較べて低下するが、式(5)に示す畳み込み演算(積和演算)を実施する必要がないため、第2振幅・位相補正装置14の規模を、実施例1に係る振幅・位相補正装置11に較べて小さくすることができる。
【0057】
次に、本発明の実施例2に係るレーダ装置の変形例を説明する。図5は実施例2の変形例に係るレーダ装置の構成を示すブロック図である。この変形例に係るレーダ装置では、MTI装置5の代りに、振幅・位相補正付きのMTI装置15が用いられている。
【0058】
振幅・位相補正付きのMTI装置15は、パルス間の振幅・位相を補正する複素ウエイトとMTI装置5のパルス間の複素ウエイトを乗算した複素ウエイトを用いて、受信信号を処理する。
【実施例3】
【0059】
本発明の実施例3に係るレーダ装置は、温度算出装置9で算出された送信機1の温度を、実測した温度で補正するようにしたものである。
【0060】
図6は本発明の実施例3に係るレーダ装置の構成を示すブロック図である。このレーダ装置は、実施例1に係るレーダ装置に温度センサ16が追加されて構成されている。
【0061】
温度センサ16は、送信機1の温度を測定する。この温度センサ16で測定された温度は、温度算出装置9に送られる。
【0062】
温度算出装置9は、送信機1で発生される送信信号の送信パルス幅と送信間隔とから、発熱体の温度Tinを設定し、式(2)に示す差分方程式により送信機1の温度Tを算出する。温度算出装置9で算出された温度Tは、補正値算出装置10に送られる。また、温度算出装置9は、上記処理と並行して、算出した温度の平均値を求める。そして、求められた温度の平均値と温度センサ16から送られてくる温度とを比較し、その差が所定値以上である場合に、算出した温度を温度センサ16で測定された温度を用いて補正する。より具体的には、式(2)による計算結果の温度Tn+1に算出した温度の平均値と温度センサ16から送られてくる温度の差を加えて出力する。
【0063】
以上の処理により、式(2)に示す差分方程式を繰り返し実行することに起因して発生する累積誤差が取り除かれるので、温度算出装置9は、実際の送信機1の温度に近い温度を出力することができる。その結果、レーダ装置を長時間使用した場合であっても、クラッタ抑圧性能を高く維持できる。
【0064】
なお、実施例3に係るレーダ装置は、実施例1に係るレーダ装置に温度センサ16を適用して温度算出装置9で算出される温度を補正する場合について説明したが、実施例1の変形例、実施例2およびその変形例に係るレーダ装置に適用して温度算出装置9で算出される温度を補正するように構成することもでき、これらの場合も上述した効果と同様の効果が得られる。
【産業上の利用可能性】
【0065】
本発明は、パルスレーダ装置等に適用可能である。
【図面の簡単な説明】
【0066】
【図1】本発明の実施例1に係るレーダ装置の構成を示すブロック図である。
【図2】本発明の実施例1に係るレーダ装置の変形例の構成を示すブロック図である。
【図3】本発明の実施例1および実施例2に係るレーダ装置および従来のレーダ装置のインスタビリティの計算例を示す図である。
【図4】本発明の実施例2に係るレーダ装置の構成を示すブロック図である。
【図5】本発明の実施例2に係るレーダ装置の変形例の構成を示すブロック図である。
【図6】本発明の実施例3に係るレーダ装置の構成を示すブロック図である。
【図7】従来のレーダ装置の構成を示すブロック図である。
【図8】従来のレーダ装置における発熱体の温度Tinの設定と温度Tの計算例を示す図である。
【図9】従来のレーダ装置における送信信号の振幅・位相の変化の計算例を示す図である。
【符号の説明】
【0067】
1 アンテナ
2 送信機
3 サーキュレータ
4 受信機
5 MTI装置
6 周波数分析装置
7 CFAR装置
8 検出装置
9 温度算出装置
10 補正値算出装置
11 振幅・位相補正装置
12 振幅・位相補正付きのパルス圧縮装置
13 第2補正値算出装置
14 第2振幅・位相補正装置
15 振幅・位相補正付きのMTI装置
16 温度センサ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
送信信号を発生する送信機と、
前記送信機で発生された送信信号を送信波として指定方向の空間に送信し且つ該送信波の反射波を受信するアンテナと、
前記アンテナで受信された反射波をデジタルビデオ信号に変換する受信機と、
前記送信機で発生される送信信号の送信パルス幅と送信間隔とに基づいて該送信機の温度を算出する温度算出装置と、
前記温度算出装置で算出された温度に基づき受信信号の振幅および位相の補正値を算出する補正値算出装置と、
前記補正値算出装置で算出された補正値に基づいて、前記受信機からのデジタルビデオ信号に含まれるパルス内の振幅および位相を補正する振幅・位相補正装置と、
前記振幅・位相補正装置から送られてくる信号に含まれるクラッタを抑圧するMTI装置と、
を備えることを特徴とするレーダ装置。
【請求項2】
送信信号を発生する送信機と、
前記送信機で発生された送信信号を送信波として指定方向の空間に送信し且つ該送信波の反射波を受信するアンテナと、
前記アンテナで受信された反射波をデジタルビデオ信号に変換する受信機と、
前記送信機で発生される送信信号の送信パルス幅と送信間隔とに基づいて該送信機の温度を算出する温度算出装置と、
前記温度算出装置で算出された温度に基づき受信信号の振幅および位相の補正値を算出する補正値算出装置と、
前記補正値算出装置で算出された補正値に基づいて、前記受信機からのデジタルビデオ信号に含まれるパルス間の振幅および位相を補正する振幅・位相補正装置と、
前記振幅・位相補正装置から送られてくる信号に含まれるクラッタを抑圧するMTI装置と、
を備えることを特徴とするレーダ装置。
【請求項3】
前記送信機の温度を測定する温度センサをさらに備え、
前記温度算出装置は、前記温度センサで測定された温度と算出した温度の平均値との差が所定値以上である場合に、算出した温度を前記温度センサで測定された温度を用いて補正することを特徴とする請求項1または請求項2記載のレーダ装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2006−71363(P2006−71363A)
【公開日】平成18年3月16日(2006.3.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−253021(P2004−253021)
【出願日】平成16年8月31日(2004.8.31)
【出願人】(000003078)株式会社東芝 (54,554)
【Fターム(参考)】