説明

レーダ装置

【課題】受信信号のパワースペクトルに現れるJEMの周期性に着目して、JEM発生の有無を検出する有効な方法を適用したレーダ装置を得ることを目的とする。
【解決手段】受信信号のパワースペクトルを算出するパワースペクトル算出部と、算出されたパワースペクトルの自己相関関数を算出する自己相関関数算出部と、算出された自己相関関数を、当該自己相関関数から算出した標準偏差に基づいて設定した閾値と比較することにより目標に回転体が存在するか否かを判定する判定部を備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、JEM(Jet Engine Modulation:以下、JEMまたはジェットエンジン変調とする)の発生の有無を検出するレーダ装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
JEMは、航空機をレーダで観測した場合に、ジェットエンジンのタービンの回転によりレーダエコーに変調がかかる現象である。このJEMに着目して、ジェットエンジンのタービンのブレード数や回転周波数などの目標類別に有用なパラメータを抽出する技術がある(例えば非特許文献1参照)。この文献では、予めJEM発生の有無の判定が行われ、かつ、その結果、JEMが発生していると判定された場合に、どのようにして目標類別に有用な特徴を抽出するかを示している。
【0003】
【非特許文献1】イナル・ケナン・ジェム、藤坂貴彦、近藤倫正、B−135 “Jet Engine Modulation(JEM) Simulation and Analysis for the purposes of Radar Target Recognition”、1993年電子情報通信学会秋季大会
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記非特許文献1の開示技術はJEMが発生している場合における目標類別を行うための特徴の抽出方法について示しているが、この従来技術を利用するためには事前にJEMの検出処理が必要である。ところが、JEMを検出する十分な技術はこれまで十分確立されておらず、したがって開示されていなかった。
【0005】
この発明は、受信信号のパワースペクトルに現れるJEMの周期性に着目して、JEM発生の有無を検出する有効な方法を適用したレーダ装置を得ることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
この発明に係るレーダ装置は、受信信号のパワースペクトルを算出するパワースペクトル算出部と、算出されたパワースペクトルの自己相関関数を算出する自己相関関数算出部と、算出された自己相関関数を、当該自己相関関数から算出した標準偏差に基づいて設定した閾値と比較することにより目標に回転体が存在するか否かを判定する判定部を備えたものである。
【発明の効果】
【0007】
この発明によれば、受信信号のパワースペクトルに現れるJEMの周期性に着目してパワースペクトルの自己相関関数を求めることにより、観測目標のJEM発生の有無の検出を可能にしたので、目標類別を行うための特徴抽出を有効にする。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
実施の形態1.
図1はこの発明の実施の形態1によるレーダ装置の機能構成を示すブロック図、図2は判定部の機能構成を示すブロック図である。
図において、レーダ装置は、アンテナ1、送受信機2および検出処理部3を備えている。検出処理部3は、パワースペクトル算出部31、自己相関関数算出部32、判定部33および判定基準ライブラリ34を有している。また、判定部33は、標準偏差算出部331および比較部332を有している。
【0009】
次に、動作について説明する。
送受信機2で生成した送信信号が、アンテナ1から目標へ照射される。送信信号の目標による反射波がアンテナ1で受信されると、その受信信号は送受信機2により分析され,目標の位置情報が取得される。以上の送受信の処理を時刻t=0(s)からt=T(s)の間に移動する目標に対して等時間間隔ΔtでN回繰り返すことにより、(2)式で示される、その回数分の受信信号x(n)(n=0,1,・・・,N−1)が収集される。なお、FN {}はN点のフーリエ変換、F-1N {}はN点の逆フーリエ変換を表す。
【数1】

この受信信号のスペクトルの一例を図3に示す。収集された受信信号x(n)は検出処理部3のパワースペクトル算出部31に送られる。
【0010】
パワースペクトル算出部31は、受信信号x(n)のパワースペクトルを算出する手段である。具体的には、与えられた受信信号x(n)を(3)式にあてはめ、パワースペクトルS(k)(0≦k≦N−1)を算出する。この受信信号のパワースペクトルは、例えば図4に示されるようになる。この算出されたパワースペクトルS(k)は自己相関関数算出部32に送られる。
【数2】

【0011】
自己相関関数算出部32は、算出されたパワースペクトルS(k)の自己相関を算出する手段である。具体的には、与えられたパワースペクトルS(k)を(4)式にあてはめ、自己相関関数a(m)(m=0,1,・・・,N−1)を求める。ただし、F*N {}はN点の離散フーリエ変換の複素共役を表す。このパワースペクトルの自己相関関数は、例えば図5に示されるようになる。この算出された自己相関関数a(m)は判定部33に送られる。
【数3】

【0012】
判定部33は、算出された自己相関関数を、当該自己相関関数から算出した標準偏差に基づいて設定した閾値と比較することにより目標に回転体が存在するか否かを判定する手段である。具体的には、送られた自己相関関数a(m)は、まず、標準偏差算出部331に与えられる。標準偏差算出部331では、自己相関関数a(m)の標準偏差σa を(5)式によって算出する。自己相関関数a(m)および算出された標準偏差σa は比較部332に送られる。
【数4】

【0013】
比較部332では、標準偏差σa と判定基準ライブラリ34から読み出した閾値係数を乗じて、図6に示すように自己相関関数a(m)に対して閾値Ta σa を設定する。そして、(6)式を満たすmが存在する場合、JEMの観測を検出する。この検出のための閾値係数Taは、目標の姿勢角、高度、速度、距離、後方散乱断面積および受信信号の信号対雑音電力比のデータに対応させて判定基準ライブラリ34に予め蓄積されている。したがって、この場合、比較部332では、位置情報およびレーダ緒元から観測目標に関する上記データを算出し,判定基準ライブラリ34からこれに対応する最適な閾値係数Taを読み出して閾値Ta σa を設定することになる。
【数5】

【0014】
以上のように、この実施の形態1によれば、パワースペクトル算出部31によって受信信号のパワースペクトルを算出し、算出されたパワースペクトルの自己相関関数を自己相関関数算出部32で算出し、判定部33により、算出された自己相関関数を、当該自己相関関数から算出した標準偏差に基づいて設定した閾値と比較することにより目標に回転体が存在するか否かを判定するようにしている。そのため特に、判定部33では、パワースペクトルの自己相関関数の標準偏差を算出し、判定基準ライブラリ34から各候補目標に対応する閾値係数を読み出して標準偏差に乗じて閾値を設定し、自己相関関数をこの設定された閾値と比較して目標に回転体が存在するか否かの判定を行うようにしている。したがって、観測目標のJEM発生の有無の検出を可能にし、目標類別を行うための特徴抽出を有効にすることができる。
【0015】
実施の形態2.
図7はこの発明の実施の形態2によるレーダ装置の機能構成を示すブロック図である。図において、図1に相当する機能部分には同一符号を付し、原則としてその説明を省略する。この実施の形態2の場合は、新たにライブラリ生成部35を設けた点で実施の形態1と異なっている。
【0016】
次に、動作について説明する。
ライブラリ生成部35は、目標の姿勢角、高度、速度、距離、後方散乱断面積および受信信号の信号対雑音電力比ごとに判定に適した閾値係数Ta を算出する手段である。具体的には、シミュレーションにより、ジェットエンジンを持つ固定翼機のようなJEMが発生する候補目標と、ミサイルのようなJEMが発生しない目標の擬似受信信号を生成し、両擬似受信信号のパワースペクトルの自己相関関数をそれぞれ生成すると共に、これら自己相関関数Paの標準偏差σa を算出する。次に、それぞれの自己相関関数の最大値Pa を求め、得られた自己相関関数の最大値Pa を、対応する自己相関関数の標準偏差値σaで除してそれぞれのPa /σa 値を求める。
【0017】
JEMが発生する目標を観測した場合とJEMが発生しない目標を観測した場合のPa /σa のヒストグラムのイメージを図8に示す。図から分かるように、JEMが発生する目標とJEMが発生しない目標のPa /σa は分離して分布している。そこで、JEMが発生する候補目標に対応する閾値係数Ta を、両者のPa /σa を分離する値に決定する。図8の例の場合は、閾値係数Ta を20〜60程度の範囲に設定することでJEM発生の有無を正しく検出できることがわかる。得られた閾値係数は、その候補目標の姿勢角、高度、速度、距離、後方散乱断面積および受信信号の信号対雑音電力比に対応させて判定基準ライブラリ34に蓄積され、上記実施の形態1で述べた動作に使用される。
【0018】
なお、実施の形態2では、予め様々な条件における最適な閾値Ta を計算し蓄積しておくようにしたが、観測時の条件における最適な閾値をリアルタイムに用意する構成にしてもよく、同様の効果を奏することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】この発明の実施の形態1によるレーダ装置の機能構成を示すブロック図である。
【図2】この発明の実施の形態1に係る判定部の機能構成を示すブロック図である。
【図3】この発明の実施の形態1に係る受信信号のスペクトルの例を示すタイムチャートである。
【図4】この発明の実施の形態1に係る受信信号のパワースペクトルの例を示すタイムチャートである。
【図5】この発明の実施の形態1に係るパワースペクトルの自己相関関数の例を示す説明図である。
【図6】この発明の実施の形態1に係る判定部の処理方法を説明する説明図である。
【図7】この発明の実施の形態2によるレーダ装置の機能構成を示すブロック図である。
【図8】この発明の実施の形態2に係る閾値の決定方法を示す説明図である。
【符号の説明】
【0020】
1 アンテナ、2 送受信機、3 検出処理部、31 パワースペクトル算出部、32 自己相関関数算出部、33 判定部、34 判定基準ライブラリ、35 ライブラリ生成部、331 標準偏差算出部、332 比較部。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
受信信号のパワースペクトルを算出するパワースペクトル算出部と、
算出されたパワースペクトルの自己相関関数を算出する自己相関関数算出部と、
算出された自己相関関数を、当該自己相関関数から算出した標準偏差に基づいて設定した閾値と比較することにより目標に回転体が存在するか否かを判定する判定部を備えたことを特徴とするレーダ装置。
【請求項2】
判定部は、
パワースペクトルの自己相関関数の標準偏差を算出する標準偏差算出部と、
各候補目標に対応する閾値係数を予め蓄積する判定基準ライブラリと、
算出された標準偏差に前記判定基準ライブラリから読み出した閾値係数を乗じて閾値を設定し、前記自己相関関数を設定された閾値と比較して目標に回転体が存在するか否かの判定を行う比較部を有したことを特徴とする請求項1記載のレーダ装置。
【請求項3】
判定基準ライブラリは、閾値係数を、各候補目標の姿勢角、高度、速度、距離、後方散乱断面積および受信信号の信号対雑音電力比のデータに対応させて蓄積していることを特徴とする請求項2記載のレーダ装置。
【請求項4】
想定されるジェットエンジン変調を発生させる候補目標の擬似受信信号とジェットエンジン変調を発生させない目標の擬似受信信号を生成し、両擬似受信信号のパワースペクトルの自己相関関数をそれぞれ生成すると共に、これら自己相関関数の標準偏差を算出し、それぞれの自己相関関数の最大値を対応する標準偏差値で除した値をそれぞれ求め、得られた両値間を分離する値を前記候補目標に対応する閾値係数に決定し判定基準ライブラリに蓄積するライブラリ生成部を備えたことを特徴とする請求項2または請求項3記載のレーダ装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate


【公開番号】特開2007−218634(P2007−218634A)
【公開日】平成19年8月30日(2007.8.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−36952(P2006−36952)
【出願日】平成18年2月14日(2006.2.14)
【出願人】(000006013)三菱電機株式会社 (33,312)
【Fターム(参考)】