説明

レーダ装置

【課題】受信特性を劣化させることなく所望の検知精度を有するレーダ装置を小型で且つ安価に実現する。
【解決手段】送信アンテナ1は周波数を三角波変調した送信信号を送信する。受信アンテナ2A〜2Nは所定方向に配列されており、反射波を受信する。各受信アンテナ2A〜2Nは、マルチプレクサ30の各帯域通過フィルタ部3A〜3Nにそれぞれ受信信号を出力する。各帯域通過フィルタ部3A〜3Nは、送信信号の周波数変調帯域の略全周波数帯域をアンテナ数で分割して順次割り当てられた互いに異なる周波数帯域がそれぞれの通過帯域として設定されている。この構成により、マルチプレクサ30から出力される合成出力信号は、帯域通過フィルタ部3A〜3Nから順次出力された受信信号が時系列に並ぶ信号となる。これにより、スイッチ回路を用いずとも、各受信アンテナ2A〜2Nの受信信号を時系列で選択して出力することと同じになる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、自動車の衝突防止用等に用いられるFM−CW方式のレーダ装置、特にアレイアンテナを用いたホログラフィックレーダ装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、ミリ波帯の高周波信号を用いて物体の方位を検出する自動車搭載型のレーダ装置として、周波数変調した連続波を用い、配列された複数の受信アンテナで連続波の反射波を受信して方位を検出するFM−CW方式のレーダ装置が各種考案されている。例えば、特許文献1のレーダ装置は、1つの送信アンテナを備えた1つの送信機と、それぞれに1つの受信アンテナを備えた複数の受信機とを備えるものである。そして、特許文献1のレーダ装置は、各受信機による受信信号の位相差から検知物体の方位を検出している。
【0003】
また、特許文献2のレーダ装置は、1つの送信アンテナを備えた1つの送信機と、複数の受信アンテナを備えた1つの受信機とを備える。そして、特許文献2のレーダ装置は、複数の受信アンテナをスイッチで高速に切り替えて、各受信アンテナより得られる受信信号の位相差から検知物体の方位を検出している。
【特許文献1】特許第3498624号公報
【特許文献2】特許第3622565号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1のレーダ装置は受信アンテナ数に応じた受信機数を必要とする。ところが、FM−CW方式のようなミリ波帯高周波信号の受信機は非常に高価なものである。このため、検知精度を向上しようと受信アンテナ数を増加させれば、比例して受信機数も増加するので、非常に高価なレーダ装置となってしまう。また、受信機数が増加することで、単にアンテナ数を増加させた場合よりもレーダ装置の構成要素数がより増加して小型化することが難しくなる。
【0005】
また、特許文献2のレーダ装置は、スイッチを利用することで受信機数を1台にすることができるが、ミリ波帯の高周波スイッチも高価なものであり、特許文献1と同様に低コスト化することが難しい。特に、1入力8出力(8入力1出力)のような分岐(結合)数の多いスイッチは特に高価であり、さらに容易に入手することができない。このため、SPDTのような1入力2出力(2入力1出力)のスイッチを多段に用いることになるが、各スイッチでの損失が大きいので、検知精度を求めて多段にするほど受信損失が大幅に増加してしまう。
【0006】
したがって、本発明の目的は、受信特性を劣化させることなく所望の検知精度を有するレーダ装置を小型で且つ安価に実現することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
この発明は、送信アンテナを備えて周波数変調された連続波を前記送信アンテナから送信する送信手段と、配列された複数の受信アンテナを備えて送信された連続波の反射波を受信して受信信号を出力する受信手段と、受信信号に基づいて検知物体の方位を検出する検出手段と、を備えたレーダ装置に関するものである。そして、受信手段は、変調周波数帯域に対応する受信周波数帯域を分割して成る複数の分割周波数帯域をそれぞれ複数の受信アンテナに設定し、複数の分割周波数帯域成分の受信信号を時分割された連続期間毎に出力することを特徴としている。
【0008】
この構成では、送信手段は、周波数が経時的に変化する連続波を送信する。受信手段の各受信アンテナは送信された連続波の反射波を受信する。そして、受信手段は、各受信アンテナが受信する反射波に対して、それぞれに異なる周波数帯域を通過させる。それぞれの受信アンテナに対応する受信信号は、互いに異なる周波数帯域成分のみで形成されており、且つ経時的に並ぶので、これらが時分割で連続的に出力されることで、受信アンテナをスイッチで切り替えて受信信号を出力する処理と等価になる。
【0009】
また、この発明のレーダ装置の受信手段は、複数の受信アンテナにそれぞれ接続し、受信アンテナ毎に異なる通過帯域を有する複数のフィルタと当該複数のフィルタの出力信号を合成する合成部とを有するマルチプレクサを備えたことを特徴としている。
【0010】
この構成では、マルチプレクサの各フィルタの通過帯域を異ならせることで、全ての受信アンテナで連続して反射波を受信しても、対応する周波数帯域の受信信号のみが出力される。すなわち、送信される連続波の周波数変化に応じて、その時点の周波数に対応したフィルタに接続された受信アンテナによる受信信号のみが出力される。これにより、複数の受信アンテナをスイッチ等で切り替えながら受信信号を出力するのと等価になる。
【0011】
また、この発明のレーダ装置の複数の受信アンテナは、それぞれに異なる受信周波数帯域を有することを特徴としている。
【0012】
この構成では、各受信アンテナが対応する周波数帯域の反射波のみを受信する。すなわち、送信される連続波の周波数変化に応じて、その時点の周波数に対応した受信アンテナによる受信信号のみが出力される。これにより、複数の受信アンテナをスイッチ等で切り替えたり、複数のフィルタで分離しながら受信信号を出力するのと等価になる。
【0013】
また、この発明のレーダ装置の検知手段は、時分割された各受信信号で検出した方位と複数の受信アンテナの間隔とに基づいて位相調整して少なくとも変調周期の一周期分に亘り受信信号の位相を一致させ、該位相を一致させた少なくとも一変調周期分の受信信号から検知物体の距離を検出することを特徴としている。
【0014】
この構成では、各受信アンテナに対応する受信信号は、変調周期を分割してなる分割周期にしか対応しないが、この分割周期毎の受信信号を一周期分連続して出力すれば、変調周期の一周期分の受信信号が得られる。この際、各受信アンテナの受信信号は、検出した方位と受信アンテナの間隔とに応じて位相差が存在するので、この位相差を補正して一致させることで、変調周期の一周期に亘って連続する受信信号が得られる。このような一周期分の連続する受信信号を用いることで、ビート信号周波数の観測期間が長くなり、距離および速度の検出精度が向上する。
【0015】
また、この発明のレーダ装置の検知手段は、時分割された各期間の受信信号強度を検出して、受信周波数帯域の端部に通過周波数が設定された受信アンテナに対応する受信信号強度が他の受信アンテナに対応する受信信号強度よりも低いことを検出すると、送信手段に周波数変調帯域の中心周波数を変更させる指示を行うことを特徴としている。
【0016】
この構成では、送信される連続波の周波数帯域がずれると、これに応じて反射波の周波数帯域がずれることを利用する。これにより、受信周波数帯域の端部が通過帯域に設定された受信アンテナの受信信号強度が他の受信アンテナの受信信号強度よりも低くなることを検出することで、周波数変調の帯域が変化したことを検出する。そして、検知手段はこの周波数のズレ量を送信手段に出力し、送信手段はこのズレ量に応じて変調周波数の中心周波数の補正を行う。
【発明の効果】
【0017】
この発明によれば、各受信アンテナの受信信号毎に周波数帯域を設定することで、スイッチを用いることなく、変調周期よりも短い分割周期毎にそれぞれに異なる周波数帯域の受信信号を切り替えながら取得することができる。これにより、各分割周期に対応する受信信号同士の位相差による方位検出が可能となる。この結果、高価な回路素子であるスイッチ回路を用いることなく、低受信損失で所望の方位検出精度を有するレーダ装置を小型で安価に構成することができる。
【0018】
また、この発明によれば、前記受信アンテナの切り替えにマルチプレクサを用いることで、入手しやすく、比較的安価で低損失な回路素子の追加のみで、低受信損失で所望の方位検出精度を有する小型のレーダ装置を安価に実現することができる。
【0019】
また、この発明によれば、各受信アンテナに帯域通過フィルタの機能を備えることで、さらにマルチプレクサをも必要としなくなり、低受信損失で所望の方位検出精度を有する小型のレーダ装置をさらに簡素な構造で実現することができる。
【0020】
また、この発明によれば、変調周期の一周期分の受信信号が得られることにより、ビート信号周波数の観測期間が長くなり、より高精度に検知物体の距離および速度を検出することができる。
【0021】
また、この発明によれば、受信周波数帯域の端に対応する受信信号強度から、常時周波数変調帯域のずれを検出して送信信号の周波数変調帯域を補正することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0022】
本発明の第1の実施形態に係るレーダ装置について図1〜図4を参照して説明する。
図1(A)は、本実施形態のレーダ装置の主要部を示すブロック図であり、図1(B)は(A)に示すマルチプレクサ30の各フィルタ部3A〜3Nの通過帯域と周波数変調帯域との関係を示す図である。
【0023】
本実施形態のレーダ装置は、送信アンテナ1、受信アンテナ2A〜2N、マルチプレクサ30、信号処理回路4、VCO5、分岐回路6、LNA7、ミキサ8、IFアンプ9を備える。
【0024】
送信アンテナ1は、マイクロストリップアンテナ等の平板状アンテナや、導波管アンテナであり、アンテナの正面方向を含む所定の検知領域に向けて送信信号である電磁波を放射する。例えば、このレーダ装置を自動車に搭載し、前方検知を行う場合であれば、自動車前方の所定幅の検知領域に対して送信信号を放射する。ここで送信信号としては、例えば、図1(B)に示すように、周波数が経時的に三角形状に変化する連続波が用いられる。
【0025】
受信アンテナ2A〜2Nは、それぞれ送信アンテナ1と同様に平板状アンテナや導波管アンテナ等からなり、検知領域からの反射波を受信する。これら受信アンテナ2A〜2Nは直線状で一列に配置された受信アンテナアレイからなり、受信アンテナ2A〜2Nは等間隔dで配置されている。
【0026】
マルチプレクサ30は、受信アンテナ2A〜2Nに一方端がそれぞれに接続する帯域通過フィルタ部3A〜3Nを備え、これら帯域通過フィルタ部3A〜3Nの他方端は合成回路に接続する。帯域通過フィルタ3A〜3Nは、図1に示すように、それぞれ異なる周波数帯域を通過帯域とするように形成されている。具体的には、周波数変調帯域全体をN分割して、それぞれに同じ周波数幅からなり、それぞれの中心周波数がf1,f2,f3,・・・,fN(f1<f2<f3<・・・<fN)の分割周波数帯域を設定する。そして、これら中心周波数f1,f2,f3,・・・,fNの分割周波数帯域がそれぞれの通過帯域となるような帯域通過フィルタ部3A〜3Nを形成する。ここで、周波数変調帯域とは、前述のように送信信号の周波数変調帯域を示すが、受信信号の取り得る周波数帯域は、検知物体の相対速度が対向して走行する自動車同士の相対速度程度であれば、送信信号の周波数変調帯域と殆ど変化しないので、前記周波数変調帯域は、受信周波数の取り得る周波数帯域を等価として取り扱うことができる。
【0027】
ここで、周波数変調帯域と分割された周波数帯域(分割周波数帯域)の具体的な一例として、76GHz−77GHz帯で動作するFM−CW方式前方監視用車載ミリ波レーダの一例で説明すると、周波数変調帯域全体を300MHzとして、受信アンテナ数をN=10とすると、各帯域通過フィルタ部3A〜3Nに対して30MHzの分割周波数帯域が設定される。そして、各帯域通過フィルタ部3A〜3Nの中心周波数のシフト量を30MHzとすることで、それぞれに異なる30MHz幅の分割周波数帯域を通過帯域とする帯域通過フィルタ部3A〜3Nが形成される。なお、帯域通過フィルタ部3A〜3Nの通過特性は、互いの通過帯域の端が重なり合うように設定しても良いし、全く重ならないようにしても良く、これらの設定は装置の仕様に応じて適宜設定すれば良い。
【0028】
合成回路はLNA7に接続し、帯域通過フィルタ部3A〜3Nの出力信号を合成してLNA7に出力する。
なお、マルチプレクサ30は、このように10個の帯域通過フィルタと1個の合成回路とで形成してもよく、3個の帯域通過フィルタと1個の合成回路とからなる3−1のマルチプレクサや、2個の帯域通過フィルタと1個の合成回路とからなる2−1のマルチプレクサを適宜組み合わせて形成しても良い。
【0029】
LNA7は、入力された合成後の受信信号を増幅してミキサ8に出力し、ミキサ8は、LNA7からの受信信号と分岐回路6からのローカル信号とをミキシングして、IFビート信号を生成する。IFアンプ9は、IFビート信号を増幅して信号処理回路4に出力する。信号処理回路4は、入力したIFビート信号と受信アンテナ2A〜2Nの間隔dから得られる位相差とに基づいて既知のホログラフィックレーダの原理を用いて検知物体の方位を検出する。また、信号処理回路4は、既知のFM−CW方式の演算を用いて検知物体の距離、速度等を算出する。
【0030】
また、VCO5は、信号処理回路4から与えられる変調電圧に応じて、例えば、76GHz帯の送信信号を発生する。この際、VCO5には、所定周期で電圧値が変動する変調電圧、例えば、所定周期で三角波状に変動する変調電圧が与えられる。VCO5は、この変調電圧に応じて、前記所定周期にて、所定周波数範囲内で周波数変調する送信信号、例えば、前述の図1(B)に示すような三角波状に周波数変調する送信信号を発生する。
【0031】
分岐回路6は、VCO5から出力された送信信号を、送信アンテナ1に与えるとともに、その一部をローカル信号としてミキサ8に与える。
【0032】
次に、本実施形態のレーダ装置による検知動作について具体的に説明する。なお、以下の説明では、図1(B)に示すような三角波状の送信信号を送信するレーダ装置について説明する。
【0033】
図2(A)は、相対速度が「0」の物体に対して、送信アンテナ1から送信される送信信号と受信アンテナ2A,2B,2C,・・・,2Nで受信されるアンテナ受信信号Sa,Sb,Sc,Snとを示した一例の図であり、(B)、(C)、(D)、(E)はそれぞれ帯域通過フィルタ3A,3B,3C,3Nから出力された帯域分割受信信号Saf,Sbf,Scf,・・・,Snfを示す図である。また、図3は送信信号とマルチプレクサ30の合成出力信号Srとを示す図である。なお、図2、図3において、太破線は送信信号波形を示し、太実線は各種受信信号を示す。
【0034】
検知動作が開始されると、信号処理回路4は、経時的に電圧が三角波状に変化する変調電圧をVCO5へ与える。この後の検知動作中においては、信号処理回路4は、連続してVCO5に同様の変調電圧を与える。VCO5は時間軸において連続的に三角波状に周波数が変化する送信信号(周波数変調送信信号)を生成する。周波数変調送信信号は、分岐回路6を介して送信アンテナ1に伝送され、送信アンテナ1から検知領域に放射される。
【0035】
受信アンテナアレイを構成する受信アンテナ2A〜2Nは、周波数変調送信信号(連続送信波)が検知領域内に存在する物体(ターゲット)で反射した反射波を受信して、アンテナ受信信号Sa〜Snをそれぞれマルチプレクサ30の各帯域通過フィルタ部3A〜3Nに出力する。ここで、アンテナ受信信号Sa〜Snは検知物体の方位と受信アンテナ間隔dとに応じて、所定の位相関係が成り立つ。具体的には、アンテナ正面方向(受信アンテナアレイの配列方向に垂直で且つ放射方向)を基準として方位角θを設定する、例えば、正面左手方向をθの正方向とし、正面右手方向をθの負方向とすると、方位角θ方向に存在する物体からの反射波は、間隔dで配置された各受信アンテナにて、順にexp((j2π・d・sinθ)/λ)の位相差で受信される。
【0036】
マルチプレクサ30の各帯域通過フィルタ部3A〜3Nは、入力されたアンテナ受信信号Sa〜Snに対してそれぞれに異なる通過帯域からなる帯域通過フィルタリング処理を行い、図2(B)〜(E)に示すような帯域分割受信信号Saf〜Snfを出力する。
【0037】
具体的には、帯域通過フィルタ部3Aは、アンテナ受信信号Saに対して中心周波数f1とする所定幅の周波数帯域のみを通過させるフィルタ処理を行い、図2(B)に示す帯域分割受信信号Safを出力する。同様に、帯域通過フィルタ部3Bは、アンテナ受信信号Sbに対して中心周波数f2とする所定幅の周波数帯域のみからなる図2(C)に示す帯域分割受信信号Sbfを出力する。帯域通過フィルタ部3Cは、アンテナ受信信号Scに対して中心周波数f3とする所定幅の周波数帯域のみからなる図2(D)に示す帯域分割受信信号Sbcを出力する。帯域通過フィルタ部3Nは、アンテナ受信信号Snに対して中心周波数fNとする所定幅の周波数帯域のみからなる図2(E)に示す帯域分割受信信号Snfを出力する。
【0038】
マルチプレクサ30は、合成回路でこれら帯域分割受信信号Saf〜Snfを合成して図3に示すような合成出力信号を出力する。この際、各帯域通過フィルタ部3A〜3Nが異なる通過帯域を備えるので、帯域分割受信信号Safが出力されているタイミングでは、帯域分割受信信号Sbf〜Snfは略0になる。同様に、帯域分割受信信号Sbfが出力されているタイミングでは、帯域分割受信信号Saf,Scf〜Snfは略0になり、帯域分割受信信号Scfが出力されているタイミングでは、帯域分割受信信号Saf,Sbf,Sdf〜Snfは略0になり、帯域分割受信信号Snfが出力されているタイミングでは、帯域分割受信信号Saf〜S(n−1)fは略0になる。したがって、合成出力信号は、実質的には、受信アンテナ2Aに対応する中心周波数f1の周波数帯域では帯域分割受信信号Safにより構成され、受信アンテナ2Bに対応する中心周波数f2の周波数帯域では帯域分割受信信号Sbfにより構成される。同様に、受信アンテナ2Cに対応する中心周波数f3の周波数帯域では帯域分割受信信号Scfにより構成され、受信アンテナ2Nに対応する中心周波数fNの周波数帯域では帯域分割受信信号Snfにより構成される。これにより、マルチプレクサ30からの合成出力信号Srは、時分割された所定のサンプリング時間長毎に帯域分割受信信号Saf〜Snfを順次出力してなる信号と同等になる。
【0039】
信号処理回路4は、合成出力信号Srすなわち所定のサンプリング時間長毎に所得した帯域分割受信信号Saf〜Snf群を用いて、既知のFM−CW方式による距離算出方法で距離を算出するとともに、各帯域分割受信信号Saf〜Snfの位相差を算出する。そして、信号処理回路4は、算出した位相差と前述のexp((j・2π・d・sinθ)/λ)とから方位θを算出する。
【0040】
また、信号処理回路4は、算出された位相差に基づいて、少なくとも1変調周期分の全ての帯域分割受信信号Saf〜Snfの位相を一致させる処理を行う。これにより、実際にはそれぞれに異なる受信アンテナ2A〜2Nで受信した1変調周期よりも短い時間長の受信信号の群が、1つの受信アンテナで1変調周期分連続して受信した受信信号と等価になる。信号処理回路4は、この1変調周期分の時間長の受信信号を用いて、既知のFM−CW方式の距離・速度算出方法で、検知物体の距離および速度を算出する。このように、1変調周期分の受信信号を用いて距離を算出することで、各帯域分割受信信号により算出される距離よりも高精度な結果を得ることができる。
【0041】
例えば、具体的に周波数変調帯域の全幅を300MHzとし、アンテナ数Nを10とする場合、各アンテナに対しては30MHzが割り当てられる。すなわち、各帯域分割受信信号に対する送信信号の周波数帯域はそれぞれ30MHzが与えられる。このように、30MHzの周波数帯域があれば或る程度の距離測定は可能である。しかしながら、全ての帯域分割受信信号に対応する300MHzの周波数帯域を用いることで、10倍の周波数帯域および観測時間による観測が可能となり、より高精度に距離を算出することができる。
【0042】
以上のような構成を用いることで、スイッチ回路を設置しなくても物体の方位検出および距離・速度検出を行うことができる。さらに、スイッチ回路を設けないことで、スイッチ損失が発生せず、受信損失を大幅に抑圧することができる。また、従来技術で説明したような複雑な構成のスイッチ回路を用いる必要がないので、より簡素な構造で且つ小型にレーダ装置を構成することができる。
【0043】
なお、本実施形態では、アレイ化された受信アンテナ2A〜2Nに対して、配列の一方端の受信アンテナから順に低い周波数の分割周波数帯域を設定した例を示したが、図4に示すように、受信アンテナの配列順と分割周波数帯域の中心周波数の推移の方向とを一致させずに設定することもできる。
【0044】
図4は、無作為に各受信アンテナ2A〜2Nの通過帯域(中心周波数)を設定した場合の通過帯域(中心周波数)の分布を示した図である。なお、図中のf1〜fNは、それぞれ帯域通過フィルタ部3A〜3Nの中心周波数を示している。
【0045】
図4では、帯域通過フィルタ部3Cの通過帯域(中心周波数f3)を、周波数変調帯域全体の内の最も低い周波数帯域に設定し、次に帯域通過フィルタ部3Nの通過帯域(中心周波数fN)を設定して、さらに帯域通過フィルタ3Aの通過帯域(中心周波数f1)を設定し、帯域通過フィルタ部3Bの通過帯域(中心周波数f2)を最も高い周波数帯域に設定している。このような設定であっても前述のような動作、処理を実行することができる。そして、このような無作為に周波数帯域の分割を行うことで、前述のように順次分割周波数帯域を設定する場合よりも、高速移動する物体の検知をより高精度に行うことができる。これは、高速に移動する物体では、分割周波数帯域を一方端の受信アンテナから他方端の受信アンテナに移行する場合に、物体の移動により低い周波数帯域の時点での物体位置と高い周波数帯域の時点での物体位置とのズレが生じるからである。一方で、無作為に分割周波数帯域を設定する場合には低周波数帯域と高周波数帯域とが時系列でランダムに現れるので、このズレの影響を受け難いからである。
【0046】
次に、第2の実施形態に係るレーダ装置について、図5を参照して説明する。
図5は、本実施形態の送信信号の周波数変調および各受信アンテナ2A〜2Nの通過帯域(中心周波数)の分布を示した図である。
本実施形態のレーダ装置の構成は、図1(A)に示した第1の実施形態のレーダ装置と同じであり、第1の実施形態のレーダ装置とは、送信信号の周波数変調方法が異なるのみである。
本実施形態のレーダ装置は、第1の実施形態と同様に周波数変調帯域をN分割して分割周波数帯域を設定する。そして、これら分割周波数帯域を各受信アンテナ2A〜2Nにそれぞれ接続する帯域通過フィルタ部3A〜3Nの通過帯域に設定する。この際、本実施形態では、図5に示すように、各分割周波数帯域にて経時的に周波数を三角波状に変化させて送信信号を出力する。
【0047】
このような構成とすることにより、各分割周波数帯域にて物体の距離および速度を検知することができる。また、周波数変調帯域全体で徐々に上り変調して下り変調する第1の実施形態に示したような三角波状の送信信号を用いる場合よりも、変調周期が短くなるので、物体の距離および速度をより高速に算出することができる。さらには、各分割周波数帯域の上り変調のみを用いても距離は算出することが可能であるので、物体の距離をさらに高速に算出することができる。
【0048】
次に、第3の実施形態に係るレーダ装置について、図6を参照して説明する。
図6(A)は本実施形態のレーダ装置の主要部を示すブロック図であり、(B)は各受信アンテナ2A〜2Nの帯域通過特性を示す図である。
本実施形態のレーダ装置は、図6(A)に示すように、マルチプレクサ30を用いず、単に合成回路31のみを用いたものであり、各受信アンテナ2A〜2Nのそれぞれが所定の受信帯域幅を有し、帯域通過フィルタの機能を兼ね備えたものである。各受信アンテナ2A〜2Nの受信帯域(通過帯域)は、各受信アンテナ2A〜2Nに割り当てられた分割周波数帯域に略一致するように設定されている。このような受信アンテナ2A〜2Nとしては、マイクロストリップアンテナや導波管スロットアンテナが元々狭帯域であることを利用し、例えば、図6(B)に示すような通過帯域を有するようにアンテナの形状を設計すれば、容易に実現することができる。
【0049】
このような構成とすることで、第1、第2の実施形態に示したようなマルチプレクサをも用いる必要がなく、より安価に且つ小型のレーダ装置を実現することができる。
【0050】
次に、第4の実施形態に係るレーダ装置について、図7を参照して説明する。
図7は信号処理回路4に出力される合成出力信号の信号強度の時間特性を示したものであり、(A)は定常状態、(B)は送信信号の中心周波数が低周波数側にシフトした状態、(C)は送信信号の中心周波数が高周波数側にシフトした状態を示すものである。
【0051】
送信信号の中心周波数が予め設定した中心周波数と変わらない初期状態等では、周波数変調帯域のどの時点の送信信号であっても信号強度は殆ど変わらない。したがって、図7(A)に示すように、合成出力信号の信号強度は一定になる。
【0052】
しかしながら、経時劣化等により送信信号の中心周波数が低周波数側にずれると、この中心周波数に応じた周波数変調幅により送信信号が形成されることから、予め設定された送信信号の高い周波数帯域が発生しなくなる。例えば、図7の例では、中心周波数fNの分割周波数帯域の送信信号が低くなり、図7(B)に示すように、受信アンテナ2Nで受信される受信信号の信号強度が低下する。一方、送信信号の中心周波数が高周波数側にずれると、この中心周波数に応じた低い周波数帯域が発生しなくなる。例えば、図7(C)に示すように、受信アンテナ2Aで受信される受信信号の信号強度が低下する。
【0053】
信号処理回路4は、このような合成出力信号の信号強度変化を検出する。そして、周波数帯域の両端部の信号強度のいずれか、すなわち、受信アンテナ2Aまたは受信アンテナ2Nに対応する周波数帯域の信号強度が、他の受信アンテナ2B〜2(N−1)の信号強度よりも約3dB以上低いことを検出すると、全ての周波数帯域での信号強度が一定になるように中心周波数のシフト設定を行う。例えば、受信アンテナ2Nに対応する高い周波数帯域の信号強度が低ければ、送信信号の中心周波数を高くするように設定して補正変調電圧をVCO5に与える。一方、受信アンテナ2Aに対応する低い周波数帯域の信号強度が低ければ、送信信号の中心周波数を低くするように設定して補正変調電圧をVCO5に与える。
【0054】
このような構成とすることで、経時劣化等により発生する送信信号の中心周波数のズレを検知して、常時一定の中心周波数に補正・維持することができる。
【図面の簡単な説明】
【0055】
【図1】第1の実施形態のレーダ装置の主要部を示すブロック図、および、マルチプレクサの各フィルタ部の通過帯域と周波数変調帯域との関係を示す図である。
【図2】相対速度が「0」の物体に対して、送信アンテナ1から送信される送信信号と各受信アンテナ2A〜2Nで受信されるアンテナ受信信号とを示した一例の図、および、それぞれ帯域通過フィルタ3A,3B,3C,3Nから出力された帯域分割受信信号を示す図である。
【図3】送信信号とマルチプレクサ30の出力信号とを示す図である。
【図4】無作為に各受信アンテナ2A〜2Nの通過帯域(中心周波数)を設定した場合の通過帯域(中心周波数)の分布を示した図である。
【図5】第2の実施形態の送信信号の周波数変化および各受信アンテナ2A〜2Nの通過帯域(中心周波数)の分布を示した図である。
【図6】第3の実施形態のレーダ装置の主要部を示すブロック図、および、各受信アンテナ2A〜2Nの帯域通過特性を示す図である。
【図7】信号処理回路4に出力される合成出力信号の信号強度の時間特性を示した図である。
【符号の説明】
【0056】
1−送信アンテナ、2A〜2N−受信アンテナ、30−マルチプレクサ、3A〜3N−帯域通過フィルタ部、31−合成回路、4−信号処理回路、5−VCO、6−分岐回路、7−LNA、8−ミキサ、9−IFアンプ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
送信アンテナを備え、周波数変調された連続波を前記送信アンテナから送信する送信手段と、
配列された複数の受信アンテナを備え、送信された連続波の反射波を各受信アンテナで受信して受信信号を出力する受信手段と、
各受信信号に基づいて検知物体の方位を検出する検出手段と、
を備えたレーダ装置において、
前記受信手段は、変調周波数帯域に対応する受信周波数帯域を分割して成る複数の分割周波数帯域をそれぞれ前記複数の受信アンテナに設定し、複数の分割周波数帯域成分の受信信号を時分割された連続期間毎に出力することを特徴とするレーダ装置。
【請求項2】
前記受信手段は、前記複数の受信アンテナにそれぞれ接続し、受信アンテナ毎に異なる通過帯域を有する複数のフィルタと当該複数のフィルタの出力信号を合成する合成部とを有するマルチプレクサを備えた請求項1に記載のレーダ装置。
【請求項3】
前記複数の受信アンテナは、それぞれに異なる受信周波数帯域を有する請求項1に記載のレーダ装置。
【請求項4】
前記検知手段は、前記時分割された各受信信号で検出した方位と前記複数の受信アンテナの間隔とに基づいて位相調整して少なくとも変調周期の一周期分に亘り受信信号の位相を一致させ、該位相を一致させた少なくとも一変調周期分の受信信号から検知物体の距離を検出する請求項1〜3のいずれかに記載のレーダ装置。
【請求項5】
前記検知手段は、時分割された各期間の受信信号強度を検出して、前記受信周波数帯域の端部に通過周波数が設定された受信アンテナに対応する受信信号強度が他の受信アンテナに対応する受信信号強度よりも低いことを検出すると、前記送信手段に周波数変調帯域の中心周波数を変更させる指示を行う請求項1〜4のいずれかに記載のレーダ装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2007−240445(P2007−240445A)
【公開日】平成19年9月20日(2007.9.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−66284(P2006−66284)
【出願日】平成18年3月10日(2006.3.10)
【出願人】(000006231)株式会社村田製作所 (3,635)
【Fターム(参考)】