説明

レーダ装置

【課題】 到来方向推定処理において、分解能を高めるために過去情報を用いると、演算量が莫大に増加する問題がある。
【解決手段】 アレイ状の受信手段と、前記受信手段により受信した前記反射波に基づき、前記アレイ毎のビート信号を各々生成する受信部と、複数の前記ビート信号に基づき相関行列を演算する相関行列演算手段と、複数の前記相関行列を記憶する記憶手段と、前記相関行列演算手段により演算される複数の前記相関行列と、前記記憶手段に記憶された所定時間前の複数の相関行列とを加算した加算相関行列を複数演算し加算相関行列群として出力する加算手段と、前記ビート信号を用いて所定条件を満たす周波数を検出する検出手段と、前記加算相関行列群の中から、前記周波数に最も近い加算相関行列を抽出行列として抽出する抽出手段と、前記抽出行列を用いて前記レーダ装置から前記検出対象物に対する方向を演算する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、送信波を照射し、送信波に対する反射波を複数の受信手段により受信した際に、その反射波に基づいて、検出対象物体を検出するレーダ装置に関する。
【背景技術】
【0002】
障害物との距離や方向を検出するレーダ装置がある。このレーダ装置の1つとして、連続的に周波数を変調した送信波を検出対象物体(以下、物標)に対して送信し、物標からの反射波を受信して物標との距離や相対速度を検出するFMCWレーダが知られている。
【0003】
また、物標の方向を検出する方法としては、送信波出力手段を機械的に回動して送信波を走査し物標の方向を検出するものだけではなく、送信波出力手段を固定したまま送信波を出力し、アレイ状のアンテナにより受信した受信信号をディジタル信号処理することによって物標の方向を検出するDBF(Digital Beam Forming)がある。DBFとはアレイ状のアンテナそれぞれから得た各受信信号から角度スペクトラムを生成し、その角度スペクトラムのピークを検出することで物標の方向を推定する方法である。DBFとしては、図10(a)から(b)に示すようにアレイ状のアンテナそれぞれから得た各受信信号のある時刻における振幅をつなぎ角度スペクトラムを生成するビームフォーマ法が知られている。また、MUSIC(MUltiple SIgnal Classification)法などの高分解能到来方向推定処理などがある。
【0004】
高分解能到来方向推定処理のアルゴリズムは、相関行列を演算し、各相関行列を固有値展開し、各固有ベクトルから各角度スペクトラムを演算し、各角度スペクトラムから物標の方向を演算するものである。
【0005】
特に、特開平11−133142号公報に示される技術では、FMCWレーダの受信信号に対してビームフォーマ法を行うことで、物標の方向を検出している。また、この文献に示される技術の一つは、受信波の全周波数にビームフォーマ法を行うのではなく、受信信号にFFTを施して得た距離パワースペクトルのピーク周波数のみにビームフォーマ法を実施することで物標の方向を検出するための演算量を削減している。
【特許文献1】特開平11−133142号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特開平11−133142号公報の技術に代表されるビームフォーマ法を実施する方法は、分解能がアレイ状のアンテナ数に依存する。すなわち、この方法を用いて高い分解能を得るには、装置を大型化する必要があるという問題があった。
【0007】
一方、MUSIC法などの高分解能到来方向推定処理は、アンテナの数を増やすことなく高い分解能を得ることができる。これらの到来方向推定処理において、時間方向に受信信号を積算しノイズの影響を打ち消すことは、分解能をさらに高めるために有効である。時間方向に受信信号を積算するには、所定周期でレーダの制御処理が行われ角度スペクトラムが得られたとき、次回制御処理において次回角度スペクトラムと今回角度スペクトラムとを加算すれば良い。しかし、物標が移動する場合は、今回の物標までの距離を表す周波数と、次回の物標までの距離を表す周波数とが異なる。このため、次回角度スペクトラムと今回角度スペクトラムとを加算するには、1回の制御処理毎に、各アンテナのビート信号の全周波数に対して推定処理を行い、処理結果である角度スペクトラムをメモリに保存する必要がある。角度スペクトラムを導出するためには多数回の演算を伴う固有値展開を行う必要があるため、全周波数の角度スペクトラムを演算するには、限られた周波数の角度スペクトラムのみを演算する場合に比べて、莫大な演算量が必要となる。すなわち高分解能到来方向推定処理を用いた場合、高い分解能を得るには、莫大な演算量の増加が避けられなかった。
【0008】
本発明はこれらの問題に鑑み、全周波数の角度スペクトラムを演算する場合のように演算量を莫大に増加させることなく、高い分解能をなすレーダ装置の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するために請求項1に記載の発明は、検出対象物を検出するレーダ装置に使用される、所定時間毎に実行される到来方向推定処理であって、送信手段と、アレイ状に配置され反射波を受信する複数の受信手段と、前記受信手段により受信した前記反射波に基づき、前記アレイ毎のビート信号を各々生成する受信部と、前記受信部により生成された複数の前記ビート信号に基づき周波数毎の相関行列を演算する相関行列演算手段と、前記相関行列演算手段の演算結果である複数の前記相関行列を記憶する記憶手段と、前記相関行列演算手段により演算される複数の前記相関行列と、前記記憶手段に記憶された所定時間前の複数の相関行列とを加算した加算相関行列を複数演算し、複数の前記加算相関行列を加算相関行列群として出力する加算手段と、前記受信部により生成された前記ビート信号を用いて、所定条件を満たす周波数を1つ以上検出する検出手段と、前記加算手段により出力された前記加算相関行列群の中から、前記検出手段により検出された周波数に最も近い加算相関行列を抽出行列として抽出する抽出手段と、前記抽出手段により抽出された前記抽出行列を用いて、前記レーダ装置から前記検出対象物に対する方向を演算することを特徴とする。
【0010】
到来方向推定処理は、n個のビート信号(nは2以上の自然数)からm個の相関行列(mは2以上の自然数)を算出し、各相関行列の各固有ベクトルから角度スペクトラムを得るものである。上記構成は、n個の受信信号に対して送信信号の一部をミキシングしてn個のビート信号を生成し、これらのビート信号を用いて物標の存在する位置(周波数)を推定しておき、物標の推定位置周辺の角度スペクトラムを演算する。また、前回処理における相関行列と、現在の相関行列とを加算することで、ノイズを抑制することができる。なお、演算量について述べると、例えばMUSIC法の場合には、相関行列を導出するための演算量は、固有ベクトルおよびMUSICスペクトラムの導出に必要な演算量の1/13程度である。このため、ノイズを抑制するために、全相関行列から各固有ベクトルおよび角度スペクトラムを演算し次回処理に用いる方法に対して、全相関行列のみを保存し次回処理に用いる方法は大幅に演算量の増加を防ぐことができる。
【0011】
請求項2に記載の発明は、検出対象物を検出するレーダ装置に使用される、所定時間毎に実行される到来方向推定処理であって、送信手段と、アレイ状に配置され反射波を受信する複数の受信手段と、前記受信手段により受信した前記反射波に基づき、前記アレイ毎のビート信号を各々生成する受信部と、前記受信部により生成された複数の前記ビート信号に基づき周波数毎の相関行列を演算する相関行列演算手段と、所定時間前の処理において演算された複数の加算相関行列をメモリから読み出す読み出し手段と、前記相関行列演算手段により演算される複数の前記相関行列と、前記読み出し手段に読み出された所定時間前の複数の加算相関行列とを加算した加算相関行列を複数演算し、複数の前記加算相関行列を加算相関行列群として出力する加算手段と、前記加算手段により出力された前記加算相関行列群をメモリに記憶する記憶手段と、前記受信部により生成された前記ビート信号を用いて、所定条件を満たす周波数を1つ以上検出する検出手段と、前記加算手段により出力された前記加算相関行列群の中から、前記検出手段により検出された周波数に最も近い加算相関行列を抽出行列として抽出する抽出手段と、前記抽出手段により抽出された前記抽出行列を用いて、前記レーダ装置から前記検出対象物に対する方向を演算することを特徴とする。
【0012】
加算相関行列群を演算する際に、前回処理時の加算相関行列群を用いることで、前回処理時の相関行列だけではなく、さらに過去の相関行列情報を用いることができる。これにより、請求項1の構成に比べてさらにノイズを抑制することができる。
【0013】
請求項3に記載の発明は、検出対象物を検出するレーダ装置に使用される、所定時間毎に実行される到来方向推定処理であって、送信手段と、アレイ状に配置され反射波を受信する複数の受信手段と、前記受信手段により受信した前記反射波に基づき、前記アレイ毎のビート信号を各々生成する受信部と、前記受信部により生成された複数の前記ビート信号に基づき周波数毎の相関行列を演算する相関行列演算手段と、前記受信部により生成された前記ビート信号を用いて、所定条件を満たす周波数を1つ以上検出する検出手段と、前記相関行列演算手段により演算された複数の前記相関行列の中から、前記検出手段により検出された周波数に対応する相関行列を抽出行列として抽出する抽出手段と、前記抽出手段により抽出された前記抽出行列と、前記記憶手段に記憶された前記周波数に対応する所定時間前の相関行列とを加算した加算抽出行列として出力する加算手段と、前記相関行列演算手段の演算結果である複数の前記相関行列を記憶する記憶手段と、前記加算手段により出力された前記加算抽出行列を用いて、前記レーダ装置から前記検出対象物に対する方向を演算することを特徴とする。
【0014】
このように、特定条件を満たす周波数を検出することで、物標の角度情報が存在していると推定される相関行列を抽出し、この相関行列と前回処理の相関行列とを加算することでノイズを抑制する。請求項1の構成は、物標の角度情報が存在していると推定される相関行列だけでなく全相関行列を前回処理の相関行列に加算処理し、各々加算相関行列を求め、その加算相関行列の中から特定条件を満たす周波数に対応する行列を抽出していた。しかし、本請求項3の構成では、特定条件を満たす周波数に対応する相関行列のみに、加算処理を行うため、請求項1の構成に比べて演算量を少なくすることができる。
【0015】
請求項4に記載の発明は、検出対象物を検出するレーダ装置に使用される、所定時間毎に実行される到来方向推定処理であって、アレイ状に配置され送信波を送信する複数の送信手段と、受信手段と、前記受信手段により受信した前記反射波に基づき、前記アレイ毎のビート信号を各々生成する受信部と、前記受信部により生成された複数の前記ビート信号に基づき周波数毎の相関行列を演算する相関行列演算手段と、前記相関行列演算手段の演算結果である複数の前記相関行列を記憶する記憶手段と、前記相関行列演算手段により演算される複数の前記相関行列と、前記記憶手段に記憶された所定時間前の複数の相関行列とを加算した加算相関行列を複数演算し、複数の前記加算相関行列を加算相関行列群として出力する加算手段と、前記受信部により生成された前記ビート信号を用いて、所定条件を満たす周波数を1つ以上検出する検出手段と、前記加算手段により出力された前記加算相関行列群の中から、前記検出手段により検出された周波数に最も近い加算相関行列を抽出行列として抽出する抽出手段と、前記抽出手段により抽出された前記抽出行列を用いて、前記レーダ装置から前記検出対象物に対する方向を演算することを特徴とする。
【0016】
請求項5に記載の発明は、検出対象物を検出するレーダ装置に使用される、所定時間毎に実行される到来方向推定処理であって、アレイ状に配置され送信波を送信する複数の送信手段と、受信手段と、前記受信手段により受信した前記反射波に基づき、前記アレイ毎のビート信号を各々生成する受信部と、前記受信部により生成された複数の前記ビート信号に基づき周波数毎の相関行列を演算する相関行列演算手段と、所定時間前の処理において演算された複数の加算相関行列をメモリから読み出す読み出し手段と、前記相関行列演算手段により演算される複数の前記相関行列と、前記読み出し手段に読み出された所定時間前の複数の加算相関行列とを加算した加算相関行列を複数演算し、複数の前記加算相関行列を加算相関行列群として出力する加算手段と、前記加算手段により出力された前記加算相関行列群をメモリに記憶する記憶手段と、前記受信部により生成された前記ビート信号を用いて、所定条件を満たす周波数を1つ以上検出する検出手段と、前記加算手段により出力された前記加算相関行列群の中から、前記検出手段により検出された周波数に最も近い加算相関行列を抽出行列として抽出する抽出手段と、前記抽出手段により抽出された前記抽出行列を用いて、前記レーダ装置から前記検出対象物に対する方向を演算することを特徴とする。
【0017】
請求項6に記載の発明は、検出対象物を検出するレーダ装置に使用される、所定時間毎に実行される到来方向推定処理であって、アレイ状に配置され送信波を送信する複数の送信手段と、受信手段と、前記受信手段により受信した前記反射波に基づき、前記アレイ毎のビート信号を各々生成する受信部と、前記受信部により生成された複数の前記ビート信号に基づき周波数毎の相関行列を演算する相関行列演算手段と、前記受信部により生成された前記ビート信号を用いて、所定条件を満たす周波数を1つ以上検出する検出手段と、前記相関行列演算手段により演算された複数の前記相関行列の中から、前記検出手段により検出された周波数に対応する相関行列を抽出行列として抽出する抽出手段と、前記抽出手段により抽出された前記抽出行列と、前記記憶手段に記憶された前記周波数に対応する所定時間前の相関行列とを加算した加算抽出行列として出力する加算手段と、前記相関行列演算手段の演算結果である複数の前記相関行列を記憶する記憶手段と、前記加算手段により出力された前記加算抽出行列を用いて、前記レーダ装置から前記検出対象物に対する方向を演算することを特徴とする。
【0018】
請求項4から請求項6の構成は、請求項1から請求項3の構成に対して、送信手段がアレイ状であり、受信手段がアレイ状でなくても良い点で異なる。しかし、複数の送信波を用いて、複数のビート信号を生成することができるため、実施例4は実施例1と、実施例5は実施例2と、実施例6は実施例3と同様の効果を得ることができる。
【0019】
請求項7に記載の発明は、前記加算相関行列は、前記相関行列と前記所定時間前の相関行列に重み付け係数をかけ加算したものであることを特徴とする。
【0020】
これにより、加算相関行列に占める、現在の相関行列と前回の相関行列の重みを調整することができる。例えば、前記加算相関行列の導出式が、現在の相関行列×(1.0−重み付け係数)+前回の相関行列×重み付け係数である場合、重み付け係数を0.5とした場合は、重み付け係数を0.9とした場合に比べて、現在の相関行列の値を加算相関行列に大きく反映することができる。一方、現在の相関行列に大きなノイズが含まれている場合には、ノイズが含まれていない場合に比べて重み付け係数を大きくして前回の相関行列に積算することで、このノイズの影響を少なくすることができる。
【0021】
請求項8に記載の発明は、前記加算相関行列は、前記相関行列と前記所定時間前の加算相関行列に重み付け係数をかけ加算したものであることを特徴とする。
【0022】
これにより、加算相関行列に占める、現在の相関行列と前回の加算相関行列の重みを調整することができる。例えば、重み付け係数を0.5とし前回の加算相関行列に積算した場合は、重み付け係数を0.9とし前回の加算相関行列に積算した場合に比べて、現在の相関行列の値を加算相関行列に大きく反映することができる。一方、現在の相関行列に大きなノイズが含まれている場合には、ノイズが含まれていない場合に比べて重み付け係数を大きくして前回の加算相関行列に積算することで、このノイズの影響を少なくすることができる。
【0023】
また、第一重み付け係数を0.4として前回の加算相関行列に乗算し、第二重み付け係数を0.6(=1−0.4)として今回の抽出行列に乗算し、重み付け係数を乗算した両行列を加算し加算相関行列としても良い。このように、第一重み付け係数と第二重み付け係数との合計値が1.0であるなら、加算相関行列の値を、今回の相関行列の値や前回の加算相関行列の値と、同程度のレンジにすることができる。
【0024】
請求項9に記載の発明は、前記加算抽出行列は、前記抽出行列と前記所定時間前の相関行列に重み付け係数をかけ加算したものであることを特徴とする。
【0025】
これにより、加算抽出行列に占める、現在の抽出行列と前回の相関行列の重みを調整することができる。例えば、重み付け係数を0.5とし前回の相関行列に積算した場合は、重み付け係数を0.9とし前回の相関行列に積算した場合に比べて、現在の抽出行列の値を加算抽出行列に大きく反映することができる。一方、現在の抽出行列に大きなノイズが含まれている場合には、ノイズが含まれていない場合に比べて重み付け係数を大きくして前回の相関行列に積算することで、このノイズの影響を少なくすることができる。
【0026】
また、第一重み付け係数を0.4として前回の相関行列に積算し、第二重み付け係数を0.6(=1−0.4)として今回の抽出行列に積算し、重み付け係数を積算した両行列を加算し加算抽出行列としても良い。このように、第一重み付け係数と第二重み付け係数との合計値が1.0であるなら、加算抽出行列の値を、今回の抽出行列の値や前回の相関行列の値と、同程度のレンジにすることができる。
【0027】
請求項10に記載の発明は、前記記憶手段は、前記相関行列群の一部だけを保存し、前記加算手段は、前記記憶手段に記憶されていない相関行列を、前記記憶手段に記憶されている相関行列を用いて推定することを特徴とする。
【0028】
これにより相関行列群の記憶に必要なメモリ容量を削減することができる。
【0029】
請求項11に記載の発明は、前記記憶手段は、前記加算相関行列群の一部だけを保存し、前記加算手段は、前記記憶手段に記憶されていない加算相関行列を、前記記憶手段に記憶されている加算相関行列を用いて推定することを特徴とする。
【0030】
これにより加算相関行列群の記憶に必要なメモリ容量を削減することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0031】
以下、実施例1から実施例4を用いて、本発明を実施するための最良の形態を述べる。
【0032】
〔実施例1〕
図1から図5を用いて実施例1について説明する。
【0033】
図1は、レーダ装置の機器構成を表す。レーダ装置は、送信波を出力する送信用アンテナ(11)と、物標に反射した反射波とノイズからなる受信波を受信するアレイ状に配置された複数の受信用アンテナ(12)とを備える。送信用アンテナ(11)は、発振器(15)により生成された所定周期の周波数を持つアナログ送信信号を、送信波に変換し出力する。発振器(15)が出力するアナログ送信信号は、D/A変換器(16)により変換されたマイコン(18)が出力したディジタル送信信号である。また、各受信用アンテナ(12)が受信した受信波は、受信用アンテナ(12)毎にアナログ受信信号に変換される。各アナログ受信信号は、高周波スイッチ(13)によって極めて短い時間間隔で切り替えられながらミキサ(14)に入力される。ミキサ(14)では、各受信用アンテナのアナログ受信信号とアナログ送信信号とをミキシングして、各受信用アンテナ(12)のビート信号を生成する。さらに、生成された各受信用アンテナ(12)のビート信号は、A/D変換器(17)でディジタル受信信号に変換された後、マイコン(18)に入力される。また、マイコン(18)は、スイッチ制御器(19)を通じて高周波スイッチ(13)を制御するとともに、タイマ(20)を用いてA/D変換器(17)のサンプル時間を制御する。また、マイコン(18)は、メモリ(21)を備えている。
【0034】
以下、マイコン(18)で行う物標との距離の演算と、物標の方向の演算について説明する。
【0035】
図2および図3を用いて、物標との距離を演算する処理について述べる。図2は、アレイ状に配置された複数個の受信用アンテナ(12a〜c)と、同一の送信波による反射波が受信用アンテナ(12a〜c)に入力されている様子を表す。この図2に示すように、各受信用アンテナ(12a〜c)は、互いに予め設定した距離間隔dで設置されている。一方、レーダ装置より出力される変調された送信波が物標に反射してレーダ装置に戻ってくるまでの距離に応じた時間遅れと相対速度に相当する周波数偏移が発生する。すなわち、レーダ装置と物標との距離が遠いほど受信信号は送信信号に比べて大きく位相が遅れる。この特性を用いれば、物標との距離や相対速度を検出することができる。そこで、図3に示すように、受信信号の周波数と送信信号の周波数の差分をビート信号として演算する。なお、図3の縦軸は周波数、横軸は時間とする。ここでは、送信信号の周波数が増加する区間を上昇区間とし、この時のビート信号の周波数をBuとする。同様に、送信信号の周波数が減少する区間を下降区間とし、この時のビート信号の周波数をBdとする。図2のように、受信用アンテナ1(12a)、受信用アンテナ2(12b)、受信用アンテナn(12c)などからなるn個の受信用アンテナを備えるとき、受信用アンテナh(hは1≦h≦nの自然数)の受信信号から生成される上昇区間におけるビート信号(Buh)と下降区間におけるビート信号(Bdh)からなる2種類のビート信号が、n個のアンテナ毎に生成される。すなわちビート信号の総数はn×2種類である。これらのビート信号を用いて、物標との距離はR=(C・T/(4・ΔF))・(Buh+Bdh)(式1)、相対速度はV=(C/(4・f0))・(Buh−Bdh)(式2)と表すことができる。ただし、Cは光速、Δfは周波数の変動幅、f0はΔfの中心、hは受信用アンテナ(12)のアンテナ番号とする。
【0036】
次に、物標の方向を演算する処理について述べる。この処理は、マイコン(18)により所定周期毎(t秒間隔)に実行されるものである。
【0037】
まず、図4(a)のようなn種類の受信信号に対して得たn×2種類のビート信号(Buh,Bdh)に対してFFTを実施し、図4(b)のようなFFTビート信号(Bfuh,Bfdh)を得る。なお、図4(b)には各受信用アンテナ(12a〜c)から得た、FFT後の上昇区間におけるビート信号(Bfu1,Bfu2,Bfun)のみを例示している。
【0038】
次に、各FFTビート信号を用いて相関行列を生成する。例えば、図4(b)の場合には、m個の相関行列が演算される。このとき、fiの周波数における相関行列をR(fi)とする(2≦i≦m)。以下、相関行列R(f1)からR(fm)までをまとめて相関行列群と呼ぶ。また、n個のアンテナを用いた場合、相関行列はn行n列となる。
【0039】
一方、図5のフローチャートを用いて後述するように、前回の処理すなわちt秒前に生成された各相関行列に所定の係数をかけ、今回処理において生成された各相関行列と加算することで、各々加算相関行列を演算する。これらの加算相関行列群は、過去情報である前回処理における相関行列を用いて現在の受信信号より生成した相関行列からノイズ成分をある程度抑制したものである。
【0040】
以下では、高精度のMUSICスペクトラム、すなわち高い分解能を得つつ、演算量を抑制する方法について述べる。まず、図4(b)のようなFFTが施された上昇区間における各受信用アンテナのビート信号Bfu1からBfunを合計することで、図4(c)のようなノイズを抑制した上昇区間における加算ビート信号Bfu0を得る。同様に、FFTが施された下降区間における各受信用アンテナのビート信号Bfd1からBfdnを合計することで、ノイズを抑制した下降区間における加算ビート信号Bfd0を得る。各受信信号に、物標からの反射波が含まれている場合、両加算ビート信号(Bfu0,Bfd0)には信号強度のピークが存在する。そこで、このピークが発生する周波数を特定し、前述の加算相関行列群の中から、このピーク周波数における加算相関行列を抽出し、これを抽出行列とする。図4(c)の場合には、周波数fpでピークが存在しているため、相関行列R(fp)と係数をかけた前回の相関行列R(fp)’との合計値である加算相関行列U(fp)が、抽出行列となる。
【0041】
図5のフローチャートを用いて、マイコン(18)が実行する処理について述べる。なお、以下の処理は、時間間隔t毎に割り込み処理として実行され、受信用アンテナ数はn個であるとする。
【0042】
ステップS501で、上昇区間および下降区間における計n×2種類のビート信号を取得する。ステップS501より続くステップS502では、n×2種類のビート信号それぞれにFFTを実施し、n×2種類のFFTビート信号(Bfuh,Bfdh)を生成する。ステップS502より続くステップS503では、n種類の上昇区間のFFTビート信号を合計して上昇区間加算ビート信号Bfu0と、n種類の下降区間のFFTビート信号を合計して下降区間加算ビート信号Bfd0とを生成する。ステップS503より続くステップS504では、上昇区間加算ビート信号Bfu0および下降区間加算ビート信号Bfd0のそれぞれからピーク周波数fpを検出する。ステップS504より続くステップS505では、ステップS502で生成した計n×2種類のFFTビート信号から、m個の相関行列R(fi)を演算する。ステップS505より続くステップS506では、各相関行列R(fi)に重み付け係数(1−k)を乗算したものと、前回のループ処理時(t秒前)の前回処理における各相関行列Ro(fi)に重み付け係数kを乗算したものとを加算し、加算相関行列群U(fi)として出力する。重み付け係数は0.0から1.0の間の固定値である。ステップS506より続くステップS507では、ステップS504で検出したピーク周波数fpに対応する加算相関行列U(fp)を抽出行列C(fp)として抽出する。ステップS507より続くステップS508では、抽出行列C(fp)を固有値展開する。ステップS508より続くステップS509では、前段のステップS508において演算した抽出行列C(fp)の固有ベクトルを用いて、MUSICスペクトラムを演算する。ステップS509より続くステップS510では、MUSICスペクトラムに基づき物標の方向を演算する。ステップS510より続くステップS511では、ステップS505において演算した相関行列群R(fi)を次回処理に使用するためにRo(fi)としてメモリ(21)に保存する。ステップS511より続くステップS512では、上昇区間加算ビート信号Bfu0の信号強度とこの上昇区間における物標の方向と、下降区間加算ビート信号Bfd0の信号強度とこの下降区間における物標の方向とを用いて、物標のペアマッチを行い物標までの距離と相対速度を演算する。ステップS512が終了した後、処理はステップS501へ戻る。
【0043】
本レーダ装置は、今回処理および次回処理において使用するために複数の相関行列を演算、保存し、前回処理において演算された複数の相関行列と今回処理で演算された複数の相関行列とを合計してノイズを抑制し、複数の加算相関行列とした。さらに、各受信信号から得た各ビート信号の合計値から物標の存在を示すピークが発生する周波数を特定し、この周波数に対応した加算相関行列を抽出してMUSICスペクトラムを生成した。これにより、本レーダ装置は、ピーク周波数の加算相関行列のみを固有値展開しMUSICスペクトラムを得るため、加算相関行列群に含まれる全加算相関行列のそれぞれにつき固有値展開しMUSICスペクトラムを得る場合に比べて処理する演算量が非常に少ない。
【0044】
ここで、図6を用いて、過去情報の保存形態を、相関行列とした理由とその効果について説明する。図6は、アンテナ数がnであり、ある1周波数において、過去情報の保存形態を全相関行列群、全相関行列群の固有ベクトル、全MUSICスペクトラムとした場合の実数と実数(R±R)の加減算、実数と実数の乗算(R×R)からなる必要演算量を表している。必要演算量とは、FFTビート信号から各保存形態に変換するまでに必要な演算の回数である。例えば、FFTビート信号から相関行列を算出するには500回の加減算と500回の乗算を行う必要がある。同様にFFTビート信号から相関行列の固有ベクトルを算出するには、3500回の加減算と3500回の乗算を行う必要がある。なお、相関行列の固有ベクトルを算出するには、FFTビート信号から相関行列を算出しておく必要があるため、相関行列の状態からさらに3000回の加減算と3000回の乗算を行うと固有ベクトルが算出できると言い換えることもできる。図4の環境を例に演算量回数をカウントすると、相関行列はm箇所で算出されるため、500×m回の加減算と500×m回の乗算が行われる。次に、相関行列から固有ベクトルを導出するには、FFTビート信号から相関行列を導出するための500×m回の加減算と500×m回の乗算に加え、3000×m回の加減算と3000×m回の乗算が必要である。過去情報をR(fi)’の各固有ベクトルで記憶しているとし、次回処理の際に周波数fpにビート信号のピークが存在したとすると、ノイズを抑制した抽出行列の導出に用いる過去情報はR(fp)’の固有ベクトルのみである。すなわち、3000×m回の演算によりm個の全固有ベクトルを導出したとしても、前回処理と今回処理でピーク周波数fpが異なる場合は3000×(m−2)回、前回処理と今回処理でピーク周波数fpが同じ場合は3000×(m−1)回の演算が無駄になる。
【0045】
このように各保存形態における必要演算量を比較すると、保存形態は相関行列の状態が適当であると分かる。
【0046】
このように、本レーダ装置は、過去情報の保存形態を相関行列とすることで、必要演算量を抑制しながらも、高い分解能を得ることができる。
【0047】
なお、本実施例において説明の際に、物標が1つである場合を例に説明を行ったが、物標が複数存在しても良い。例えば、物標が2つ存在し、各物標とレーダ装置との距離が異なる場合には、加算ビート信号にピークが2つ存在する。この場合は、加算相関行列群からそれぞれのピーク周波数に対応する加算相関行列を抽出し、2つの抽出行列それぞれにつきMUSICスペクトラムを生成することで2つの物標それぞれの方向を演算可能である。
【0048】
一方、物標が2つ存在し、各物標とレーダ装置との距離が等しい場合には、加算ビート信号にはピークが1つだけ存在する。この場合は、加算相関行列群からピーク周波数に対応する1つの加算相関行列を抽出し、この抽出行列からMUSICスペクトラムを生成する。このMUSICスペクトラムは、2つの物標の方向をあらわす信号を含む、すなわちMUSICスペクトラム上に2つのピークが存在するため、2つの物標それぞれの方向を演算することができる。
【0049】
このように、本レーダは、複数の物標が存在する場合であっても、各物標の方向を演算可能である。
【0050】
〔実施例2〕
図7を用いて実施例2について説明する。実施例2における前述の実施例1との構成上の相違点は、本実施例では加算相関行列を演算する際に、前回加算相関行列に所定係数を掛けて現在の相関行列に加算する点が異なる。なお、前述の実施例と同等の構成については、各実施例と同様の符号を付し、本実施例2における説明を省略する。
【0051】
図7および図5の一部を用いて、マイコン(18)で行う演算処理の流れを示す。図7のフローチャートは、図5のステップS505からステップS511に相当し、ステップS705とステップS707からステップS710は図5のフローチャートに含まれていた処理である。
【0052】
図5のステップS501からステップS504の処理を行った後、ステップS705ではn×2個のFFTビート信号からm個の相関行列R(fi)を演算する。ステップS705より続くステップS706では、各相関行列R(fi)に重み付け係数(1−k)を積算したものと、前回のループ処理時(t秒前)の前回処理における各加算相関行列Uo(fi)に重み付け係数kを積算したものとを加算し、加算相関行列群U(fi)として出力する。ステップS706より続くステップS707では、ステップS504において検出した加算ビート信号のピーク周波数(図4においてはfp)に該当する加算相関行列U(fp)を抽出し、抽出行列C(fp)として出力する。ステップS707より続くステップS708では、抽出行列C(fp)を固有値展開する。ステップS708より続くステップS709では、抽出行列の固有ベクトルに基づきMUSICスペクトラムを演算する。ステップS709より続くステップS710では、MUSICスペクトラムに基づき物標の方向を演算する。ステップS710より続くステップS711では、ステップS706において演算した加算相関行列群を次回処理に使用するためにUo(fi)として保存する。ステップS711が終了した後には、処理はステップS512へ進む。
【0053】
加算相関行列群U(fi)を演算する際に、t秒前に実行された前回処理時の加算相関行列群Uo(fi)を用いることで、1ループ前の相関行列だけではなく、さらに過去の相関行列情報を用いることができる。これにより、実施例1の構成に比べてさらにノイズを抑制することができる。
【0054】
〔実施例3〕
図8を用いて実施例3について説明する。実施例3における前述の実施例1との構成上の相違点は、本実施例ではピーク周波数に対応する相関行列のみに対して、前回処理時に記憶した相関行列を加算する点が異なる。なお、前述の実施例と同等の構成については、各実施例と同様の符号を付し、本実施例2における説明を省略する。
【0055】
図8および図5の一部を用いて、マイコン(18)で行う演算処理の流れを示す。図8のフローチャートは、図5のステップS505からステップS511に相当する。
【0056】
図5のステップS501からステップS504の処理を行った後、ステップS805ではn×2種類のFFTビート信号から相関行列R(fi)をm個演算する。ステップS805より続くステップS806では、ステップS504で検出したピーク周波数fpに対応する相関行列R(fp)を抽出行列C(fp)として抽出する。ステップS806より続くステップS807では、抽出行列C(fp)に対して、この抽出行列に対応する前回の相関行列Ro(fp)を加算し、加算抽出行列U(fp)とする。ステップS807より続くステップS808では、加算抽出行列U(fp)を固有値展開する。ステップS808より続くステップS809では、前段のステップS808で演算した加算抽出行列の固有ベクトルからMUSICスペクトラムを演算する。ステップS809より続くステップS810では、前段で演算したMUSICスペクトラムを用いて物標の方向を演算する。ステップS810より続くステップS811では、ステップS806において演算した相関行列群を次回処理に使用するためにRo(fi)としてメモリに記憶する。ステップS811が終了した後には、処理はステップS512へ進む。
【0057】
実施例1では、演算した相関行列群と前回処理の相関行列群を加算して加算相関行列群を演算していた。しかし、例えば物標が一つである場合は、ビート信号のピーク周波数は一つであるため、複数の加算相関行列を演算しても、抽出し使用されるのは一つの加算相関行列のみである。すなわち、演算した加算相関行列の大多数が使用されないため、大多数の加算相関行列の導出は無駄となる場合がある。
【0058】
しかし、本実施例3の処理では、ビート信号のピーク周波数に対応する相関行列と、そのピーク周波数に対応する前回の相関行列とを加算しているため、演算したにも関わらず使用されない加算相関行列が存在しないという効果がある。
【0059】
次に、本実施例3の処理は、メモリ使用量の点で実施例1に比べて有効である点を述べる。実施例1では、次回処理に使用するために全相関行列を記憶している。さらに、全相関行列と前回相関行列とを加算し、全相関行列と同数の加算相関行列を記憶し、その複数の加算相関行列の中から抽出行列を抽出する。このため、少なくとも全相関行列と全加算相関行列の両方を同時に記憶可能なメモリ容量が必要となる。
【0060】
一方、本実施例3の処理では、次回処理に使用するために全相関行列を記憶する必要はあるものの、ビート信号のピーク周波数に対応する相関行列のみを抽出し加算抽出行列とするため、メモリ容量は全相関行列と、物標の数に応じて変化する加算抽出行列とを記憶できるだけの容量があれば良い。これにより、実施例1の処理に比べて、メモリ使用量を抑制することができる。
【0061】
〔実施例4〕(メモ:請求項3に請求項7を実施した例)
図9を用いて実施例4について説明する。実施例4における前述の実施例3との構成上の相違点は、本実施例ではメモリに記憶する相関行列を間引く点で異なる。なお、前述の実施例と同等の構成については、各実施例と同様の符号を付し、本実施例4における説明を省略する。
【0062】
本実施例4では、実施例3と同様にm個の相関行列R(fi)を演算する点は同様である。しかし、次回処理のためにメモリに記憶する相関行列は、iが奇数であるR(f1)、R(f3)、R(f5)・・・とする。すなわち、相関行列を間引き、m/2個だけ記憶する。
【0063】
例えば、s回目の処理で相関行列R(f1)、R(f2)、R(f3)を演算し、メモリにはRo(f1)、Ro(f3)として記憶し、Ro(f2)を間引いたとする。次に、s+1回目の処理で、ピーク周波数がf2であったとする。s回目の処理ではRo(f2)は保存していないため、演算したs+1回目の相関行列R(f2)と、記憶してある中でピーク周波数に近い相関行列を用いて近似値を生成し加算抽出行列の演算に使用する。この場合には、ピーク周波数がf2であるので、f2の近似値であるf1およびf3のs回目の相関行列Ro(f1)とRo(f3)の加重平均を取り、s回目の相関行列Ro(f2)として重み付け係数kをかけ、s+1回目の相関行列R(f2)に(1−k)を積算したものと加算し、加算抽出行列として出力する。なお、ピーク周波数に対応する前回の相関行列が記憶されている場合には、そのまま重み付け係数kをかけ、s+1回目の相関行列R(f2)に(1−k)を積算したものと加算する。
【0064】
図9および図5の一部を用いて、マイコン(18)で行う演算処理の流れを示す。図9のフローチャートは、図5のステップS505からステップS511に相当する。
【0065】
図5のステップS501からステップS504の処理を行った後、ステップS905ではn×2種類のFFTビート信号から相関行列R(fi)をm個演算する。ステップS905より続くステップS906では、メモリに記憶してある前回の相関行列Ro(fi)の中に、ピーク周波数fpに対応するものがあるかどうかを判定し、対応する前回相関行列Ro(fp)があるならステップS908へ進み、対応する前回相関行列がないならステップS907へ進む。ステップS907では、メモリに記憶してある前回相関行列の中でピーク周波数fpに近い相関行列Ro(fp−1)とRo(fp+1)との加重平均を演算し、仮想的な前回相関行列Ro(fp)とする。ステップS906またはステップS907より続くステップS908では、加算抽出行列U(fp)を演算する。ステップS908より続くステップS909では、加算抽出行列を固有値展開する。ステップS909より続くステップS910では、前段のステップS908で演算した加算抽出行列の固有ベクトルからMUSICスペクトラムを演算する。ステップS910より続くステップS911では、前段で演算したMUSICスペクトラムを用いて物標の方向を演算する。ステップS911より続くステップS912では、ステップS905において演算した相関行列群を間引いたうえで、次回処理に使用するためにRo(fi)としてメモリに記憶する。ステップS912が終了した後には、処理はステップS512へ進む。
【0066】
実施例3では、全相関行列を次回処理のためにメモリに記憶していた。しかし、本実施例4では、演算した相関行列の一部を間引いた上でメモリに記憶し、間引いた相関行列が必要な場合にはこれを推定することで、メモリ容量を削減しながらも実施例3の効果を奏することができる。
【0067】
〔その他の実施例〕
前述の各実施例では、全受信用アンテナの受信信号を利用していたが、全受信アンテナの生成した全受信信号を用いなくても良い。例えば、実施例1の環境において、一部の受信用アンテナの受信信号は使わず、残りの受信信号のみを用いた場合、さらに演算量を抑制することができる。
【0068】
前述の各実施例では、次回処理に用いる過去情報として、相関行列または加算相関行列をそのまま記憶していた。しかし、過去情報の保存形態は、これに限定されない。例えば、データ圧縮に使用される圧縮アルゴリズムを用いて、相関行列あるいは加算相関行列を記憶しても良い。このように、本発明は、相関行列または加算相関行列の成分を含んだデータを過去情報として保存すれば、課題を達成することができる。
【0069】
前述の各実施例では、重み付け係数kは固定値であるとしたが、変動値であっても良い。例えば、瞬間的に受信信号に大きなノイズ成分が含まれた場合に、前回処理の相関行列にかける重み付け係数の値を通常時よりも大きくすることで、この大きなノイズ成分の影響を抑えることが可能である。
【0070】
前述の各実施例では、到来方向推定処理として、MUSIC法を例に説明をおこなったが、本発明はMUSIC法に限らず、ユニタリMUSIC法、Esprit法、ユニタリEsprit法、Capon法、Beam Former法などにも適用することができる。特に、ユニタリ法を用いた場合、相関行列の実数部のみを保存すれば良いため、演算量とメモリ容量をより削減することができる。また、この手法は空間平均をした相関行列に対しても適用可能である。
【0071】
前述の各実施例では、過去情報として、一制御周期前(t秒前)の相関行列、または、加算相関行列を用いていた。しかし、利用する過去情報は、一制御周期前に限定されない。例えば、二制御周期前(t×2秒前)の相関行列、または、加算相関行列を過去情報として利用しても良い。
【0072】
前述の各実施例では、受信用アンテナをアレイ状に配置していたが、複数のビート信号を生成可能であれば前述の各実施例と同様の効果を得ることができるため、受信用アンテナをアレイ状に配置せず、送信用アンテナをアレイ状に配置しても良い。
【図面の簡単な説明】
【0073】
【図1】実施例1において用いられるレーダ装置全体の構成を表す図である。
【図2】実施例1において用いられる複数の受信用レーダの配置を表す図である。
【図3】実施例1において用いられるビート信号の原理を表す図である。
【図4】実施例1において用いられる受信信号とFFT受信信号のノイズ抑制に関する説明に用いられる図であり、図4(a)は反射波が各受信用アンテナに受信される様子を表し、図4(b)は各受信用アンテナが出力した受信信号にFFTを掛けた結果を表し、図4(c)はFFT後の受信信号を合計した結果を表す。
【図5】実施例1において用いられるマイコン(18)の内部処理を表すフローチャートである。
【図6】実施例1において用いられる演算量を比較する図である。
【図7】実施例2において用いられるマイコン(18)の内部処理を表すフローチャートである。
【図8】実施例3において用いられるマイコン(18)の内部処理を表すフローチャートである。
【図9】実施例4において用いられるマイコン(18)の内部処理を表すフローチャートである。
【図10】ビームフォーマ法の概念図であり、図10(a)は正面からの反射波を受けた場合の角度スペクトラムを表し、図10(b)は斜め方向からの反射波を受けた場合の角度スペクトラムを表す。
【符号の説明】
【0074】
11 送信用アンテナ
12 受信用アンテナ
12a 受信用アンテナ1
12b 受信用アンテナ2
12c 受信用アンテナN
13 高周波スイッチ
14 ミキサ
15 発振器
16 D/A変換器
17 A/D変換器
18 マイコン
19 スイッチ制御器
20 タイマ
21 メモリ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
検出対象物を検出するレーダ装置に使用される、所定時間毎に実行される到来方向推定処理であって、
送信手段と、
アレイ状に配置され反射波を受信する複数の受信手段と、
前記受信手段により受信した前記反射波に基づき、前記アレイ毎のビート信号を各々生成する受信部と、
前記受信部により生成された複数の前記ビート信号に基づき周波数毎の相関行列を演算する相関行列演算手段と、
前記相関行列演算手段の演算結果である複数の前記相関行列を記憶する記憶手段と、
前記相関行列演算手段により演算される複数の前記相関行列と、前記記憶手段に記憶された所定時間前の複数の相関行列とを加算した加算相関行列を複数演算し、複数の前記加算相関行列を加算相関行列群として出力する加算手段と、
前記受信部により生成された前記ビート信号を用いて、所定条件を満たす周波数を1つ以上検出する検出手段と、
前記加算手段により出力された前記加算相関行列群の中から、前記検出手段により検出された周波数に最も近い加算相関行列を抽出行列として抽出する抽出手段と、
前記抽出手段により抽出された前記抽出行列を用いて、前記レーダ装置から前記検出対象物に対する方向を演算することを特徴とするレーダ装置。
【請求項2】
検出対象物を検出するレーダ装置に使用される、所定時間毎に実行される到来方向推定処理であって、
送信手段と、
アレイ状に配置され反射波を受信する複数の受信手段と、
前記受信手段により受信した前記反射波に基づき、前記アレイ毎のビート信号を各々生成する受信部と、
前記受信部により生成された複数の前記ビート信号に基づき周波数毎の相関行列を演算する相関行列演算手段と、
所定時間前の処理において演算された複数の加算相関行列をメモリから読み出す読み出し手段と、
前記相関行列演算手段により演算される複数の前記相関行列と、前記読み出し手段に読み出された所定時間前の複数の加算相関行列とを加算した加算相関行列を複数演算し、複数の前記加算相関行列を加算相関行列群として出力する加算手段と、
前記加算手段により出力された前記加算相関行列群をメモリに記憶する記憶手段と、
前記受信部により生成された前記ビート信号を用いて、所定条件を満たす周波数を1つ以上検出する検出手段と、
前記加算手段により出力された前記加算相関行列群の中から、前記検出手段により検出された周波数に最も近い加算相関行列を抽出行列として抽出する抽出手段と、
前記抽出手段により抽出された前記抽出行列を用いて、前記レーダ装置から前記検出対象物に対する方向を演算することを特徴とするレーダ装置。
【請求項3】
検出対象物を検出するレーダ装置に使用される、所定時間毎に実行される到来方向推定処理であって、
送信手段と、
アレイ状に配置され反射波を受信する複数の受信手段と、
前記受信手段により受信した前記反射波に基づき、前記アレイ毎のビート信号を各々生成する受信部と、
前記受信部により生成された複数の前記ビート信号に基づき周波数毎の相関行列を演算する相関行列演算手段と、
前記受信部により生成された前記ビート信号を用いて、所定条件を満たす周波数を1つ以上検出する検出手段と、
前記相関行列演算手段により演算された複数の前記相関行列の中から、前記検出手段により検出された周波数に対応する相関行列を抽出行列として抽出する抽出手段と、
前記抽出手段により抽出された前記抽出行列と、前記記憶手段に記憶された前記周波数に対応する所定時間前の相関行列とを加算した加算抽出行列として出力する加算手段と、
前記相関行列演算手段の演算結果である複数の前記相関行列を記憶する記憶手段と、
前記加算手段により出力された前記加算抽出行列を用いて、前記レーダ装置から前記検出対象物に対する方向を演算することを特徴とするレーダ装置。
【請求項4】
検出対象物を検出するレーダ装置に使用される、所定時間毎に実行される到来方向推定処理であって、
アレイ状に配置され送信波を送信する複数の送信手段と、
受信手段と、
前記受信手段により受信した前記反射波に基づき、前記アレイ毎のビート信号を各々生成する受信部と、
前記受信部により生成された複数の前記ビート信号に基づき周波数毎の相関行列を演算する相関行列演算手段と、
前記相関行列演算手段の演算結果である複数の前記相関行列を記憶する記憶手段と、
前記相関行列演算手段により演算される複数の前記相関行列と、前記記憶手段に記憶された所定時間前の複数の相関行列とを加算した加算相関行列を複数演算し、複数の前記加算相関行列を加算相関行列群として出力する加算手段と、
前記受信部により生成された前記ビート信号を用いて、所定条件を満たす周波数を1つ以上検出する検出手段と、
前記加算手段により出力された前記加算相関行列群の中から、前記検出手段により検出された周波数に最も近い加算相関行列を抽出行列として抽出する抽出手段と、
前記抽出手段により抽出された前記抽出行列を用いて、前記レーダ装置から前記検出対象物に対する方向を演算することを特徴とするレーダ装置。
【請求項5】
検出対象物を検出するレーダ装置に使用される、所定時間毎に実行される到来方向推定処理であって、
アレイ状に配置され送信波を送信する複数の送信手段と、
受信手段と、
前記受信手段により受信した前記反射波に基づき、前記アレイ毎のビート信号を各々生成する受信部と、
前記受信部により生成された複数の前記ビート信号に基づき周波数毎の相関行列を演算する相関行列演算手段と、
所定時間前の処理において演算された複数の加算相関行列をメモリから読み出す読み出し手段と、
前記相関行列演算手段により演算される複数の前記相関行列と、前記読み出し手段に読み出された所定時間前の複数の加算相関行列とを加算した加算相関行列を複数演算し、複数の前記加算相関行列を加算相関行列群として出力する加算手段と、
前記加算手段により出力された前記加算相関行列群をメモリに記憶する記憶手段と、
前記受信部により生成された前記ビート信号を用いて、所定条件を満たす周波数を1つ以上検出する検出手段と、
前記加算手段により出力された前記加算相関行列群の中から、前記検出手段により検出された周波数に最も近い加算相関行列を抽出行列として抽出する抽出手段と、
前記抽出手段により抽出された前記抽出行列を用いて、前記レーダ装置から前記検出対象物に対する方向を演算することを特徴とするレーダ装置。
【請求項6】
検出対象物を検出するレーダ装置に使用される、所定時間毎に実行される到来方向推定処理であって、
アレイ状に配置され送信波を送信する複数の送信手段と、
受信手段と、
前記受信手段により受信した前記反射波に基づき、前記アレイ毎のビート信号を各々生成する受信部と、
前記受信部により生成された複数の前記ビート信号に基づき周波数毎の相関行列を演算する相関行列演算手段と、
前記受信部により生成された前記ビート信号を用いて、所定条件を満たす周波数を1つ以上検出する検出手段と、
前記相関行列演算手段により演算された複数の前記相関行列の中から、前記検出手段により検出された周波数に対応する相関行列を抽出行列として抽出する抽出手段と、
前記抽出手段により抽出された前記抽出行列と、前記記憶手段に記憶された前記周波数に対応する所定時間前の相関行列とを加算した加算抽出行列として出力する加算手段と、
前記相関行列演算手段の演算結果である複数の前記相関行列を記憶する記憶手段と、
前記加算手段により出力された前記加算抽出行列を用いて、前記レーダ装置から前記検出対象物に対する方向を演算することを特徴とするレーダ装置。
【請求項7】
前記加算相関行列は、前記相関行列と前記所定時間前の相関行列に重み付け係数をかけ加算したものであることを特徴とする請求項1または請求項4に記載のレーダ装置。
【請求項8】
前記加算相関行列は、前記相関行列と前記所定時間前の加算相関行列に重み付け係数をかけ加算したものであることを特徴とする請求項2または請求項5に記載のレーダ装置。
【請求項9】
前記加算抽出行列は、前記抽出行列と前記所定時間前の相関行列に重み付け係数をかけ加算したものであることを特徴とする請求項3または請求項6に記載のレーダ装置。
【請求項10】
前記記憶手段は、前記相関行列群の一部だけを保存し、
前記加算手段は、前記記憶手段に記憶されていない相関行列を、前記記憶手段に記憶されている相関行列を用いて推定することを特徴とする請求項1または請求項3または請求項4または請求項6のいずれかに記載のレーダ装置。
【請求項11】
前記記憶手段は、前記加算相関行列群の一部だけを保存し、
前記加算手段は、前記記憶手段に記憶されていない加算相関行列を、前記記憶手段に記憶されている加算相関行列を用いて推定することを特徴とする請求項2または請求項5に記載のレーダ装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate

【図10】
image rotate


【公開番号】特開2007−40806(P2007−40806A)
【公開日】平成19年2月15日(2007.2.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−224636(P2005−224636)
【出願日】平成17年8月2日(2005.8.2)
【出願人】(000004260)株式会社デンソー (27,639)
【Fターム(参考)】