説明

レール支持台車

【課題】レールを安定した状態で保持することが可能であり且つレールの向きを大きく変更することが容易なレール支持台車の提供。
【解決手段】レール支持台車1は、台車ベース3と、可動ベース5と、保持ボックス7とを備える。可動ベースは、台車ベースに対して角度変更可能に設けられている。保持ボックスは、可動ベースに回転可能に設けられ、保持ボックスの回転軸線は、台車ベースに対して角度変更可能である。保持ボックスは、その回転軸線が上下方向を指向している姿勢での上部が開放された環状の囲壁を有している。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、レール支持台車に関するものである。
【背景技術】
【0002】
エレベータは、上下に延びる昇降路と、その中を移動可能に設けられたかご及び釣り合いおもりとを備えている。かご及び釣り合いおもりはそれぞれ、昇降路内に固定されたかごガイドレール及び釣り合いおもりガイドレールに沿って案内される。
【0003】
これらのかごガイドレール及び釣り合いおもりガイドレールを昇降路内へ搬入したり逆に昇降路から搬出したりする際、これまでは、普通に市販されている特定用途のない一般的な台車を使用して作業することが多かった。そのため、レール搬送時に、台車からレールが脱落してしまったり、揚重時にレールの向きが変えにくかったりする問題があった。
【0004】
また、レールの搬入・搬出作業に使用される台車としては、特許文献1に開示されたものもある。この台車は、レールを載せる部分が回動可能に取り付けられていた。しかしながら、この台車では、レールを安定した状態で保持しつつレールの向きを大きく変更することは容易ではなく、特に、レールを安定させた状態でレール長手軸回りに捩じるような方向へ回転させて向きを変えることは非常に困難であった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平7−291551号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、上記に鑑みてなされたものであり、レールを安定した状態で保持することが可能であり且つレールの向きを大きく変更することが容易なレール支持台車を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上述した目的を達成するため、本発明のレール支持台車は、台車ベースと、可動ベースと、保持ボックスとを備え、前記可動ベースは、前記台車ベースに対して角度変更可能に設けられており、前記保持ボックスは、前記可動ベースに回転可能に設けられ、該保持ボックスの回転軸線は、前記台車ベースに対して角度変更可能であり、前記保持ボックスは、その回転軸線が上下方向を指向している姿勢での上部が開放された環状の囲壁を有している。
【発明の効果】
【0008】
本発明のレール支持台車によれば、レールを安定した状態で保持することが可能であり且つレールの向きを大きく変更することが容易に行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】本発明の実施の形態に係るレール支持台車の平面を示す図である。
【図2】図1の状態から保持ボックスを180度回転させた状態を示す図である。
【図3】本実施の形態に係るレール支持台車の側面を示す図である。
【図4】図3の状態から保持ボックスを90度前方へ回転させた状態を示す図である。
【図5】レール取り込み作業の一状態を示す図である。
【図6】本実施の形態において、可動ベース固定金、可動ベース、保持ボックス、ボックス受けを台車ベースから外した状態を示す図である。
【図7】レールを昇降路内へ配置するまでの一過程としてのレールの動きを説明する平面図である。
【図8】比較例の構成を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明に係るレール支持台車の実施の形態について添付図面に基づいて説明する。なお、図中、同一符号は同一又は対応部分を示すものとする。また、以下の説明で用いる方向は、図1、図2における紙面を基準に設定しており、説明の「上」及び「下」は、紙面の「表」側及び「裏」側とし、説明の「前」及び「後」は、紙面向かって「右」側及び「左」側とし、説明の「左」及び「右」は、紙面の「上」側及び「下」側とする。
【0011】
図1は、本発明の実施の形態に係るレール支持台車の平面を示す図である。図2は、図1の状態から保持ボックスを180度回転させた状態を示す図である。また、図3は、本実施の形態に係るレール支持台車の側面を示す図であり、図4は、図3の状態から保持ボックスを90度前方へ回転させた状態を示す図である。
【0012】
レール支持台車1は、台車ベース3と、可動ベース5と、保持ボックス7とを備える。台車ベース3は、平面視ほぼ矩形のプレート状の部分である。台車ベース3の上面における後端には、ハンドル9が設けられている。ハンドル9は、台車ベース3に対して着脱可能に取付けられている。その具体的一例としては、ハンドル9は、その脚部下端が、台車ベース3上の受け筒部に差し込まれており、蝶ねじによって固定されている。よって、蝶ねじを緩めることによって、ハンドル9は、その脚部を、受け筒部に抜き差して着脱できる。
【0013】
台車ベース3の下面の隅には、前輪として、固定回転切替式キャスター11が設けられ、後輪として、自在キャスター13が設けられている。自在キャスター13は、車輪部分が360度向きが変わるように設けられたものである。固定回転切替式キャスター11は、切り替え操作によって、車輪部分が前後方向へ回転する向きに固定された状態と、自在キャスター13同様に車輪部分が360度向きが変わる状態とを選択できるものである。後述するレールの吊りこみ搬送時には、固定回転切替式キャスター11は、車輪部分が360度向きが変わる状態に切り替えておくとよい。
【0014】
可動ベース5は、台車ベース3に対して角度変更(傾斜変更)可能に設けられており、保持ボックス7は、可動ベース5に回転可能に設けられている。すなわち、保持ボックス7の回転軸線CLは、台車ベース3に対して角度変更可能である。
【0015】
可動ベース5は、その前端に、軸部15を備えている。軸部15は、左右方向に延びており、その両端が、左右一対の可動ベース固定金17に回転可能に支持されている。左右一対の可動ベース固定金17は、台車ベース3の上面に設けられている。可動ベース5は、その前後中央部分に、保持ボックス7を回転可能に支持する円筒状の支持部19を備えている。保持ボックス7の下部からは、回転軸部が延びており、その軸部が支持部19に挿入されている。支持部19を貫通した保持ボックス7の軸部の先端部には、押さえバンド21が取付けられ、保持ボックス7が可動ベース5から外れないように保持されている。また、支持部19には、保持ボックス7の回転軸部にグリスを供給するグリスニップル23が設けられている。
【0016】
保持ボックス7は、円筒状のドラムで構成されている。ドラムの内周面及び外周面はともに、平面視円形である。保持ボックス7は、上部だけが開放されており、その回転軸線CLが上下方向を指向している姿勢での上部が開放された環状の囲壁を有している。
【0017】
保持ボックス7内における囲壁の内面側及び底壁の内面側には、軟材が設けられている。さらに、保持ボックス7内には、背板25が設けられている。背板25は、図1中、一点鎖線で示されるようにレール27の下端部の背面を面接触で受けられるように構成されており、すなわち、受け面は、保持ボックス7の回転軸線CLと同じ方向に延びている。
【0018】
可動ベース5の後端には、図3の状態において下方に延びる保持脚部29が設けられている。保持脚部29は、台車ベース3に当接することで、可動ベース5ひいては保持ボックス7の姿勢を安定的に保つものである。具体的には、保持脚部29は、台車ベース3と当接した状態で、可動ベース5をほぼ水平すなわち台車ベース3と平行に保ち、その状態で、保持ボックス7の回転軸線CLが台車ベース3と垂直(鉛直)を指向するように保持する。
【0019】
保持脚部29には、レール追従用リング31が設けられている。レール追従用リング31は、レール取り込み作業の一状態を示す図5に示されるように、レール繋ぎ部材33の一端が接続される。レール繋ぎ部材33の他端には、レール27を把持するレール接続部35が設けられている。一例として、レール繋ぎ部材33は、可撓性が高く丈夫な紐やロープ等でよく、レール接続部35は、ハンドバイス等でよい。
【0020】
図1〜図4に戻り、台車ベース3の前端寄りには、ボックス受け37が設けられている。ボックス受け37は、保持ボックス7の外周面と当接して、保持ボックス7を傾けた姿勢で安定的に保持する。
【0021】
このような構成によって、まず、可動ベース5と保持ボックス7とが一体となって、台車ベース3に対して符号Tで示されるように前後方向に揺動可能であり、さらに加えて、保持ボックス7が可動ベース5に対して符号Rで示されるように回転可能となっている。一例であるが本実施の形態では、保持ボックス7は、90度前後方向に揺動可能であり、図3に示されるように回転軸線CLを台車ベース3と直交する方向(上下方向)に向けた状態と、図4に示されるように回転軸線CLを台車ベース3と平行な方向(前後方向)に向けた状態との間で揺動可能である。また、保持ボックス7は、上記揺動中の何れの位置においても360度回転することができる。
【0022】
また、ボックス受け37及び左右一対の可動ベース固定金17は、台車ベース3に対して着脱可能に設けられている。具体的一例であるが、ボックス受け37及び左右一対の可動ベース固定金17はそれぞれが、ボルト等の締結手段で、台車ベース3上に着脱可能に取付けられている。よって、これらボックス受け37及び左右一対の可動ベース固定金17をすべて(すなわち可動ベース固定金17と連結する可動ベース5及び保持ボックス7も含む)、台車ベース3から取り外せば、図6に示されるように、台車ベース3上は、ほぼ平らな状態となり、一般的な台車として使用することができる。
【0023】
次に、本実施の形態に係るレール支持台車を用いたレールの昇降路内への搬入方法について説明する。なお、搬入対象となるレールは、かごガイドレールに限定されるものではなく、釣り合いおもりガイドレール等でもよい。まず、レール27が作業場床面39に対して水平の状態で、レール27の下端を保持ボックス7に挿入する。そして、レール27における保持ボックス7の近傍の部分にレール接続部35を取付け、可動ベース5に設けたレール追従用リング31とレール接続部35とにロープ等のレール繋ぎ部材33を通し、レール27を保持ボックス7に間接的に固定した後、取り込み作業を始める。なお、保持ボックス7からのレール27の解除は、レール繋ぎ部材33の端部33aを引くことでレール接続部35がレール27から外れることで行うことができる。
【0024】
上記の準備ができたら、レール27の上端を、昇降路41の天井部に設けた電動ウインチ43のロープで吊り下げる。レール27は重量物であるため、レール27の上端側が上昇しレール27そのものが昇降路41に近づくにつれて、レール支持台車1自体も従動されるようにして昇降路41に近づいていき、レール支持台車上では台車ベース3と、可動ベース5、保持ボックス7及びレール27との成す角度が大きくなっていく。また、このとき、レール27が作業場床面39に対してどのような傾き状態にあるときであっても、レール27の傾きに追従する保持ボックス7それ自体が回転可能であるので、レール27を自由に回転させレールの向きを大きく変えることが容易に行える。特に、レールを昇降路に配置するまでには、図7に矢印Sで示すように、レールをその長手軸回りに捩じるような方向へ回転させて向きを変えつつ、矢印Mで示すようにレール自体を目的の位置まで導く動作が要求される場合がある。このとき、例えば、図8に示すような比較例の構成では、本実施の形態と同様、保持ボックス7が、360度回転(矢印R’)可能であり、且つ、前後方向に少なくとも90度揺動(矢印T’)可能であっても、レールを入れた保持ボックス7を例えば前方に45度程度傾けた状態で、その傾きを維持してレールをその長手軸回りに捩じるような方向へ回転させことはできない。これに対して、本実施の形態のレール支持台車であれば、例えば45度傾いた可動ベース5そのものに対して保持ボックス7が360度回転できる。すなわち、レール支持台車1は、保持ボックス7の動作として単純に360度回転と前後方向への揺動とを合せただけのものではなく、あくまでも揺動可能な可動ベース5に対して保持ボックス7が回転可能に取り付けられているものである。これにより、本実施の形態では、レール27を保持ボックス7内で背板25にもたれかけさせて安定的に保持したまま上記図7の矢印Sで示すようなレール長手軸回りに捩じるような方向へレールを回転させて向きを変更することも難なく行うことが可能となっている。
【0025】
続いて、レール27がほぼ昇降路41に搬入できた状態となったならば、レール繋ぎ部材33の端部を引き、レール27をレール支持台車1から取外せる状態にする。そして、レール支持台車1を昇降路41と反対側に徐々に引いていき、レール27をレール支持台車1から取外し、台車を用いた支持作業を完了させる。
【0026】
以上のように構成されたレール支持台車によれば、レールの吊り上げ搬送時、レールの下端は保持ボックス内に収納され、その保持ボックスは台車ベースに対して角度変更可能な可動ベースに回転可能に設けられているので、レールを脱落させることなく安定した状態で保持することが可能でありながらレールの向きを大きく変更することが容易に行える。
【0027】
また、保持ボックスは、外周面が平面視、円形のドラムで構成されているので、保持ボックスがボックス受けと当接または接近しいている状態でも、ボックス受けと干渉することなく保持ボックスが回転することができレールの向きを変えることができる。よって、レールを水平方向から吊り始めた直後や、水平方向へと吊り下ろす作業の完了直前にも、保持ボックスの回転を円滑に行うことができる。
【0028】
また、レール繋ぎ部材によりレールを接続しているので、レールを吊り上げレール支持台車が従動されている間、レールが誤ってレール支持台車から脱落してしまうことを防止することができる。また、レールは、台車ベースに対して傾きが変化しまたレール長手方向の回転軸周りに回転することもあるが、一端にレールに接続されたレール繋ぎ部材の他端は、可動ベースに接続されているので、レール繋ぎ部材は、搬送に伴うこのようなレールの姿勢変化を阻害することなく、脱落が生じそうな場合にのみ機能することができる。
【0029】
また、保持ボックス内には、背板が設けられているので、作業時、レールの下端部が保持ボックス内で大きく動き回ることを抑制でき、安定してレールを保持しておくことができる。さらに、保持ボックス内には、軟材が設けられているので、搬送に伴ってレールに傷等の損傷が生じることを抑制することができる。
【0030】
また、可動ベースには、保持ボックスの回転軸部にグリスを供給するグリスニップルが設けられているので、重量物であるレールを搭載した状態でも保持ボックスの回転動作を円滑に保つことができる。
【0031】
また、可動ベースは、台車ベースに対し着脱可能であるので、可動ベースを台車ベースから外すことで、レール支持台車を、一般的な台車として機能させることもできる。特に、エレベータの昇降路の設置現場では、かごガイドレール及び釣り合いおもりガイドレール以外に、ロープや非常止め等、様々な部品が取り扱われている。よって、本発明のレール支持台車を用いて、かごガイドレール及び釣り合いおもりガイドレールからロープや非常止め等のレール以外の構成部品まで幅広く扱えることは、特にエレベータの昇降路の設置現場では便利な利点である。また、台車ベースの下面には、前輪として、固定回転切替式キャスターが設けられ、後輪として、自在キャスターが設けられているので、レール搬送の台車としても、普通の台車としても、何れにも使いやすくなっている。また、ハンドルを台車ベースから取り外せるので、収容性が非常に良好となっている。
【0032】
以上、好ましい実施の形態を参照して本発明の内容を具体的に説明したが、本発明の基本的技術思想及び教示に基づいて、当業者であれば、種々の改変態様を採り得ることは自明である。
【0033】
例えば、ハンドルは、上記実施の形態のように完全に分離される態様に代え、台車ベースに対して角度変更可能に設けられており、それによって、折り畳めるようにされていてもよい。また、レール繋ぎ部材の端部は、台車ベースに代えて保持ボックスに接続されていてもよい。
【符号の説明】
【0034】
1 レール支持台車、3 台車ベース、5 可動ベース、7 保持ボックス、9 ハンドル、11 固定回転切替式キャスター、13 自在キャスター、17 可動ベース固定金、23 グリスニップル、25 背板、31 レール追従用リング、33 レール繋ぎ部材、35 レール接続部、37 ボックス受け、CL 回転軸線。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
台車ベースと、可動ベースと、保持ボックスとを備え、
前記可動ベースは、前記台車ベースに対して角度変更可能に設けられており、
前記保持ボックスは、前記可動ベースに回転可能に設けられ、該保持ボックスの回転軸線は、前記台車ベースに対して角度変更可能であり、
前記保持ボックスは、その回転軸線が上下方向を指向している姿勢での上部が開放された環状の囲壁を有している
レール支持台車。
【請求項2】
前記保持ボックスは、ドラムであり、
前記ドラムは、外周面が平面視、円形であり、
前記台車ベースには、前記ドラムの外周面と当接して、該ドラムを傾けた姿勢で保持することができるボックス受けが設けられている
請求項1のレール支持台車。
【請求項3】
前記可動ベースには、一端にレール接続部を備えたレール繋ぎ部材の他端が接続されている
請求項1又は2のレール支持台車。
【請求項4】
前記保持ボックス内には、背板が設けられている請求項1乃至3の何れか一項のレール支持台車。
【請求項5】
前記保持ボックス内には、軟材が設けられている請求項1乃至4の何れか一項のレール支持台車。
【請求項6】
前記可動ベースには、前記保持ボックスの回転軸部にグリスを供給するグリスニップルが設けられている請求項1乃至5の何れか一項のレール支持台車。
【請求項7】
前記可動ベースは、前記台車ベースに対し着脱可能である請求項1乃至6の何れか一項のレール支持台車。
【請求項8】
前記台車ベースには、ハンドルが設けられており、
前記ハンドルは、前記台車ベースに折り畳み可能または着脱可能に取付けられている
請求項7のレール支持台車。
【請求項9】
前記台車ベースの下面には、前輪として、固定回転切替式キャスターが設けられ、後輪として、自在キャスターが設けられている請求項7又は8のレール支持台車。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2013−18647(P2013−18647A)
【公開日】平成25年1月31日(2013.1.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−155728(P2011−155728)
【出願日】平成23年7月14日(2011.7.14)
【出願人】(000006013)三菱電機株式会社 (33,312)
【Fターム(参考)】